特許拒絶査定不服審判
2016-001457
マグネトロン
- 審判番号
- 2016-001457
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2011-091550外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2016年02月01日
- 審決日
- 2016年12月16日
- 公報発行日
- 2017年07月28日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 分類
- P18 .121-Z (H01J)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第17条の2第5項第1号
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特願2011- 91550「マグネトロン」拒絶査定不服審判事件〔平成23年10月27日出願公開、特開2011-216488〕について、次のとおり審決する。
結論
【結 論】
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
【理 由】
1 手続の経緯
本件は、平成23年(2011年)3月30日(パリ条約による優先権主張 2010年3月31日 英国)を出願日とする出願であって、平成26年11月7日付けで拒絶理由が通知され、平成27年5月12日付けで意見書が提出されるとともに手続補正がなされたが、同年9月25日付け(送達 同年同月30日)で拒絶査定(以下、「原査定」という。)がなされ、これに対して、平成28年2月1日に拒絶査定不服審判請求(平成28年3月16日付け手続補正により理由補充)がなされるとともに同時に誤訳訂正がなされ、同年4月28日に前置報告がなされ、同年8月15日に上申書が提出されたものである。
2 平成28年2月1日になされた誤訳訂正(以下、「本件訂正」という。)について
(1)訂正の内容
本件訂正は、訂正前(平成27年5月12日付け手続補正書によるもの)の、
「【請求項1】
相互作用領域を通過する磁界を発生する磁気回路を形成するための、アノードの各側に設けられた一対の永久磁石と、
前記磁気回路の近くに位置する透磁性材料から成り、前記アノードのケーシング上をスライド可能な質量部材と、
前記相互作用領域を通る前記磁界の強度を設定するよう、前記質量部材を固定するためのロッキング手段と、
を備えたマグネトロン。
【請求項2】
前記質量部材は、前記アノードのケーシングに対して接線方向に移動自在なスライダーとなっている、請求項1に記載のマグネトロン。
【請求項3】
前記スライダーを所定の位置にロックできるようにボルトが設けられている、請求項1または2に記載のマグネトロン。
【請求項4】
スライダーのクランプを補助するようにセレーションが設けられている、請求項1乃至3の何れか1項に記載のマグネトロン。
【請求項5】
前記スライダーは、出力導波管に取り付けられたガイド上で、前記マグネトロンからスライド可能となっている、請求項1乃至4の何れか1項に記載のマグネトロン。
【請求項6】
前記スライダーは、その長さの一部にわたって前記ガイドと係合するチャンネル形状の領域を含む、請求項5に記載のマグネトロン。
【請求項7】
前記質量部材は、回転部材である、請求項1に記載のマグネトロン。
【請求項8】
前記回転部材の透磁性は、円周方向に不均一となっている、請求項7に記載のマグネトロン。
【請求項9】
前記永久磁石は、サマリウム、ネオジミウムまたは他の希土類金属の合金である、請求項1乃至8の何れか1項に記載のマグネトロン。
【請求項10】
前記永久磁石は、サマリウム-コバルトまたはネオジミウム-鉄-ホウ素から構成されている、請求項9に記載のマグネトロン。」
とあったものを、訂正後の、
「【請求項1】
相互作用領域を通過する磁界を発生する磁気回路を形成するための、アノードの各側に設けられた一対の永久磁石と、
前記磁気回路の近くに位置する透磁性材料から成り、前記アノードのケーシングの上方をスライド可能な質量部材と、
前記相互作用領域を通る前記磁界の強度を設定するよう、前記質量部材を固定するためのロッキング手段と、を備え、
前記永久磁石は、サマリウム、ネオジミウムまたは他の希土類金属の合金である、マグネトロン。
【請求項2】
前記質量部材は、前記アノードのケーシングに対して接線方向に移動自在なスライダーとなっている、請求項1に記載のマグネトロン。
【請求項3】
前記スライダーを所定の位置にロックできるようにボルトが設けられている、請求項1または2に記載のマグネトロン。
【請求項4】
スライダーのクランプを補助するようにセレーションが設けられている、請求項1乃至3の何れか1項に記載のマグネトロン。
【請求項5】
前記スライダーは、出力導波管に取り付けられたガイド上で、前記マグネトロンからスライド可能となっている、請求項1乃至4の何れか1項に記載のマグネトロン。
【請求項6】
前記スライダーは、その長さの一部にわたって前記ガイドと係合するチャンネル形状の領域を含む、請求項5に記載のマグネトロン。
【請求項7】
前記質量部材は、回転部材である、請求項1に記載のマグネトロン。
【請求項8】
前記回転部材の透磁性は、円周方向に不均一となっている、請求項7に記載のマグネトロン。
【請求項9】
前記永久磁石は、サマリウム-コバルトまたはネオジミウム-鉄-ホウ素から構成されている、請求項1乃至8の何れか1項に記載のマグネトロン。」
に訂正するものであって、訂正前の請求項1において、「アノードのケーシング上をスライド可能」とあったものを「アノードのケーシングの上方をスライド可能」に誤訳訂正し(以下、「訂正事項1」という。)、あわせて、訂正前の請求項1を引用する請求項9を、新たに請求項1とするとともに、当該訂正に伴い、請求項9が引用する請求項を「請求項1乃至8の何れか1項」と訂正する(以下、「訂正事項2」という。)ものである(下線は請求人が付したとおりである。)。
(2)訂正の目的
ア 訂正事項1について
本件外国語特許出願において、出願当初の外国語明細書の請求項1の“mass is slidable over the anode casing”は、「アノードのケーシングの上方をスライド可能な質量部材」と訳すのが適切であるため、今回これを原文に基づいて誤訳訂正するものであると認められる。
イ 訂正事項2について
誤訳訂正書中に、拒絶理由通知に対処するための一般補正事項も含めたものであって、特許法第17条の2第5項第1号に掲げる請求項の削除を目的とするものに該当する。
ウ したがって、本件訂正は適法なものであると認められる。
3 本願発明
上記2のとおり、本件訂正は適法なものであると認められるから、本願の請求項に係る発明は、本件訂正により訂正された特許請求の範囲の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし9に記載された事項により特定されるものと認められるところ、請求項1に係る発明は、上記2(1)において本件訂正後のものとして記載したとおりのものと認める(以下、「本願発明」という。)。
4 刊行物の記載
(1)原査定の拒絶の理由に引用された、本件出願の優先日前に日本国内において頒布された刊行物である、特開平9-120781号公報(以下、「引用文献」という。)には、以下の記載がある(下線は当審が付した。以下同じ。)。
ア 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明はマグネトロンに係り、特に作用磁界を調整してマイクロ波出力を高精度に設定できるようにした構造を備えたマグネトロンに関する。」
イ 「【0003】図7は従来のマグネトロンの構造例を説明する断面図であって、1はフィラメント、2は陽極ベイン、3は陽極円筒(陽極シリンダー)、4,4’は永久磁石、5,5’は磁極、6,6’はヨーク、7はアンテナリード、8はアンテナ、9は排気管、10はアンテナカバー、11は絶縁体、12は排気管サポート、13は作用空間、14は冷却フィン、21は上側エンドシールド、22は下側エンドシールド、23,24は陰極リード(23はセンターリード、24はサイドリード)、25は入力側セラミック、26は外部導出リード、33はフィルタケース、34は蓋体、41は金属ガスケット、43は封止金属である。
【0004】同図において、管軸に沿って配置された螺旋状の陰極フィラメント1の回りには複数の陽極ベイン2が陽極シリンダー3とロー付け等で固着されるか、もしくは陽極シリンダーと共に押出し成形により一体形成されている。
【0005】陽極シリンダー3の上下には軟鉄などの強磁性体からなる磁極5,5’および円筒状の永久磁石4,4’が配置されている。
【0006】永久磁石4,4’から発生した磁束は磁極5,5’を通って陰極フィラメント1と陽極ベイン2との間に形成される作用空間13に入り、軸芯方向に必要な直流磁界を与える。
【0007】ヨーク6,6’は永久磁石4,4’の磁束が通る磁気回路を構成するものであり、この磁気回路はヨーク6,6’、永久磁石4,4’、および磁極5,5’により構成される。
【0008】負の高電圧となっている陰極フィラメント1から放出された電子は電界および磁界の作用を受けて円運動しながら各陽極ベイン2に高周波電界を形成する。
【0009】形成された高周波電界はアンテナリード7を通してアンテナ8に到り、アンテナカバー10から外部機器に出力される。」
ウ 「【0031】図1は本発明のマグネトロンの1実施例の構成を説明する断面図であって、15は矩形鉄板をL字状に成形した調整用の板体、16はねじ、17はスペーサ、18はスリット、19は貫通コンデンサ、20は電源端子、図7と同一符合は同一部分に対応する。
【0032】同図において、マグネトロンを構成するヨーク6の一側面にスリット18が形成されており、このスリット18に断面がL字状の板体15が挿入されている。ヨーク6の内部に挿入された板体15の一端部は一対の永久磁石の一方4’の上面に接しており、他端部はスペーサ17を介してねじ16により当該ヨークに固定されている。
【0033】スペーサ17は上記板体15の一端部と永久磁石4’の上面との接触面積の調整後に、当該調整状態を固定するためにその厚さまたは個数を変えて使用されるものである。
【0034】この板体15を設置することで、後述するように、ヨーク6の側壁の一部と板体15および永久磁石とで閉ループのバイパス磁路を構成する。このバイパス磁路を流れる磁束量は板体15と永久磁石4’との接触面積量で可変とされる。
【0035】図2は図1の矢印B方向から見た本発明によるマグネトロンの側面図であって、板体15はL字状の立上り部分をねじ16によりヨーク6の側壁に固定されている。
【0040】図5は本発明の1実施例における作用空間を通る磁路とバイパス磁路の形成を説明するための磁束経路図であって、図1と同一部分には同一符合を付し、4’aは永久磁石4’の上面、15aは板体15の先端部、26は作用空間13を通る磁束経路、27はバイパス磁路を通る磁束経路を示す。
【0041】同図において、マグネトロンの作用空間13に磁界を形成するための磁路26は陽極シリンダー3の上下に配置された一対の永久磁石4,4’からヨーク6,6’を通るループを形成する。なお、永久磁石4,4’は陽極シリンダー3の上下に環状に設置されている磁極5,5’に磁気結合して作用空間13に磁界を集中するように構成されているので、磁路26は当該磁極5,5’の円周全面を通って作用空間13に通過する。
【0042】マグネトロンの組み立て製作後の出力調整工程では、マグネトロンの出力を特定の範囲内に収めるために、従来と同様に減磁コイルを用いた出力調整を実行した後、さらにそれを微調整する際に、板体15をヨーク6の側面に形成した開口18(図1,2)に挿入し、その先端部15aを永久磁石4’の上面に接触させ、当該永久磁石4’の上面に摺動させて両者の接触面積を変化させて出力の微調整を行う。所望の出力値になった状態で板体15の他端部を当該他端とヨーク6’の側面との隙間に相当したスペーサ(間隔片)17を介して前記ヨー6’にねじ止めする。
【0043】この出力の微調整では、上記板体15の先端部15aを永久磁石4’に接触させることで当該永久磁石4’とヨーク6および板体15を通るバイパス磁路27を形成し、板体15の先端部15aと永久磁石4’の接触面積を変えることで上記バイパス磁路27を通る磁束の量を変化させる。
【0044】すなわち、上記バイパス磁路27に流れる磁束の量を大きくすれば、マグネトロンの作用空間13に流れる磁束の量が小さくなり、逆にバイパス磁路27に流れる磁束の量を小さくすれば、マグネトロンの作用空間13に流れる磁束の量が大きくなる。
【0045】こうして作用空間13に流れる磁界の強さを制御することで、マグネトロンの発信出力を調整する。この調整は、板体15と永久磁石4’との接触面積(重なり面積)をヨーク6内への当該板体15の挿入量を細かく変化させることで可能なことから極めて精密に実行できる。」
エ 図1、2、5及び7は次のものである。
オ 上記イ及びウを踏まえて、上記エの図1、2、5及び7を見ると、一対の永久磁石4,4’は陽極ベイン2の各側に設けられていること、陽極ベイン2が陽極シリンダー3の内側にロー付け等で固着されていること、及び、板体15は陽極シリンダー3の周方向に摺動するものであることが見てとれる。
また、上記アないしエを踏まえると、上記ウの段落【0042】の「ヨー6’」は、「ヨーク6,6’」の誤記であると認められる。
(2)引用発明
上記(1)によれば、引用文献には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。
「管軸に沿って配置された螺旋状の陰極フィラメント1の回りには複数の陽極ベイン2が陽極シリンダー3とロー付け等で固着され、
前記陽極シリンダー3の上下には軟鉄などの強磁性体からなる磁極5,5’および円筒状の永久磁石4,4’が配置され、
前記永久磁石4,4’から発生した磁束は磁極5,5’を通って陰極フィラメント1と陽極ベイン2との間に形成される作用空間13に入り、軸芯方向に必要な直流磁界を与え、
前記ヨーク6,6’は永久磁石4,4’の磁束が通る磁気回路を構成するものであり、この磁気回路はヨーク6,6’、永久磁石4,4’、および磁極5,5’により構成され、
負の高電圧となっている陰極フィラメント1から放出された電子は電界および磁界の作用を受けて円運動しながら各陽極ベイン2に高周波電界を形成し、
形成された前記高周波電界はアンテナリード7を通してアンテナ8に到り、アンテナカバー10から外部機器に出力されるマグネトロンであって、
前記マグネトロンを構成するヨーク6の一側面にスリット18が形成されており、このスリット18に、矩形鉄板をL字状に成形した、断面がL字状の板体15が挿入され、前記ヨーク6の内部に挿入された板体15の一端部は一対の永久磁石の一方4’の上面に接しており、他端部はスペーサ17を介してねじ16により当該ヨークに固定され、
前記板体15を設置することで、後述するように、ヨーク6の側壁の一部と板体15および永久磁石とで閉ループのバイパス磁路を構成し、前記バイパス磁路を流れる磁束量は板体15と永久磁石4’との接触面積量で可変とされ、
前記マグネトロンの作用空間13に磁界を形成するための磁路26は陽極シリンダー3の上下に配置された一対の永久磁石4,4’からヨーク6,6’を通るループを形成し、前記磁路26は当該磁極5,5’の円周全面を通って作用空間13に通過し、
前記マグネトロンの組み立て製作後の出力調整工程では、マグネトロンの出力を特定の範囲内に収めるために、従来と同様に減磁コイルを用いた出力調整を実行した後、さらにそれを微調整する際に、板体15をヨーク6の側面に形成した開口18に挿入し、その先端部15aを永久磁石4’の上面に接触させ、当該永久磁石4’の上面に摺動させて両者の接触面積を変化させて出力の微調整を行い、所望の出力値になった状態で板体15の他端部を当該他端とヨーク6’の側面との隙間に相当したスペーサ17を介して前記ヨーク6、6’にねじ止めし、
前記作用空間13に流れる磁界の強さを制御することで、マグネトロンの発信出力を調整し、
前記一対の永久磁石4,4’は陽極ベイン2の各側に設けられ、
前記陽極ベイン2が陽極シリンダー3の内側にロー付け等で固着され、
前記板体15は陽極シリンダー3の周方向に摺動するものである、
作用磁界を調整してマイクロ波出力を高精度に設定できるようにした構造を備えたマグネトロン。」
5 対比・判断
(1)本願発明と引用発明とを対比する。
ア 引用発明の「陽極ベイン2」、「陽極シリンダー3」、「一対の永久磁石4,4’」、「作用空間13」、「磁気回路」及び「マグネトロン」は、本願発明の「アノード」、「アノードのケーシング」、「一対の永久磁石」、「相互作用領域」、「磁気回路」及び「マグネトロン」にそれぞれ相当する。
イ 引用発明の「一対の永久磁石4,4’」は、「永久磁石4,4’から発生した磁束は磁極5,5’を通って陰極フィラメント1と陽極ベイン2との間に形成される作用空間13に入り、軸芯方向に必要な直流磁界を与え、前記ヨーク6,6’は永久磁石4,4’の磁束が通る磁気回路を構成するものであり、この磁気回路はヨーク6,6’、永久磁石4,4’、および磁極5,5’により構成され、負の高電圧となっている陰極フィラメント1から放出された電子は電界および磁界の作用を受けて円運動しながら各陽極ベイン2に高周波電界を形成」するものであって、「前記一対の永久磁石4,4’は陽極ベイン2の各側に設けられ」るから、作用空間13を通る磁界を発生する磁気回路を構成するための陽極ベイン2の各側に設けられたものであるといえる。
したがって、引用発明の、「永久磁石4,4’から発生した磁束は磁極5,5’を通って陰極フィラメント1と陽極ベイン2との間に形成される作用空間13に入り、軸芯方向に必要な直流磁界を与え、前記ヨーク6,6’は永久磁石4,4’の磁束が通る磁気回路を構成するものであり、この磁気回路はヨーク6,6’、永久磁石4,4’、および磁極5,5’により構成され、負の高電圧となっている陰極フィラメント1から放出された電子は電界および磁界の作用を受けて円運動しながら各陽極ベイン2に高周波電界を形成」するものであって、「陽極ベイン2の各側に設けられ」る「一対の永久磁石4,4’」は、本願発明の、「相互作用領域を通過する磁界を発生する磁気回路を形成するための、アノードの各側に設けられた」、「一対の永久磁石」に相当する。
ウ 引用発明の「板体15」は、「矩形鉄板をL字状に成形した」ものであって、「一端部は一対の永久磁石の一方4’の上面に接しており」、「ヨーク6の側面に形成した開口18に挿入し、その先端部15aを永久磁石4’の上面に接触させ、当該永久磁石4’の上面に摺動させて両者の接触面積を変化させて出力の微調整を行」うものであって、「磁気回路はヨーク6,6’、永久磁石4,4’、および磁極5,5’により構成され」、さらに「板体15は陽極シリンダー3の周方向に摺動するものである」から、磁気回路の近くに位置する鉄板から成り、陽極シリンダー3の周方向に摺動可能な板体15といえる。
したがって、引用発明の、「矩形鉄板をL字状に成形した」ものであって、「一端部は一対の永久磁石の一方4’の上面に接しており」、「ヨーク6の側面に形成した開口18に挿入し、その先端部15aを永久磁石4’の上面に接触させ、当該永久磁石4’の上面に摺動させて両者の接触面積を変化させて出力の微調整を行」うものであって、「磁気回路はヨーク6,6’、永久磁石4,4’、および磁極5,5’により構成され」、さらに「板体15は陽極シリンダー3の周方向に摺動するものである」「板体15」は、本願発明の、「磁気回路の近くに位置する透磁性材料から成り、前記アノードのケーシングの上方をスライド可能な」「質量部材」と、「磁気回路の近くに位置する透磁性材料から成り、前記アノードのケーシングの周方向をスライド可能な」「質量部材」の点で一致する。
エ 引用発明の「ねじ16」は、「板体15の」「他端部」を「ヨークに固定」し、「マグネトロンの組み立て製作後の出力調整工程」で、「板体15をヨーク6の側面に形成した開口18に挿入し、その先端部15aを永久磁石4’の上面に接触させ、当該永久磁石4’の上面に摺動させて両者の接触面積を変化させて出力の微調整を行い、所望の出力値になった状態で板体15の他端部を当該他端とヨーク6’の側面との隙間に相当したスペーサ17を介して前記ヨーク6,6’にねじ止め」して「作用空間13に流れる磁界の強さを制御する」ものであるから、作用空間13に流れる磁界の強さを制御するよう、板体15のを固定するためのねじ止め手段といえる。
したがって、引用発明の、「板体15の」「他端部」を「ヨークに固定」し、「マグネトロンの組み立て製作後の出力調整工程」で、「板体15をヨーク6の側面に形成した開口18に挿入し、その先端部15aを永久磁石4’の上面に接触させ、当該永久磁石4’の上面に摺動させて両者の接触面積を変化させて出力の微調整を行い、所望の出力値になった状態で板体15の他端部を当該他端とヨーク6’の側面との隙間に相当したスペーサ17を介して前記ヨーク6,6’にねじ止め」して「作用空間13に流れる磁界の強さを制御する」「ねじ16」は、本願発明の、「前記相互作用領域を通る前記磁界の強度を設定するよう、前記質量部材を固定するための」「ロッキング手段」に相当する。
オ 上記アないしエによれば、両者は
「相互作用領域を通過する磁界を発生する磁気回路を形成するための、アノードの各側に設けられた一対の永久磁石と、
前記磁気回路の近くに位置する透磁性材料から成り、アノードのケーシングの周方向をスライド可能な質量部材と、
前記相互作用領域を通る前記磁界の強度を設定するよう、前記質量部材を固定するためのロッキング手段と、を備える、マグネトロン。」
である点で一致し、下記各点で相違する。
(ア)本願発明の「質量部材」が「スライド可能な」「アノードのケーシングの周方向」が「上方」であるのに対して、引用発明の「板体15」が「摺動」可能な「陽極シリンダー3の周方向」は「上方」と特定されない点(以下、「相違点1」という。)。
(イ)本願発明の「永久磁石」は、「サマリウム、ネオジミウムまたは他の希土類金属の合金である」のに対して、引用発明の「永久磁石4,4’」は素材が特定されない点(以下、「相違点2」という。)。
(2)判断
ア 上記相違点1について検討する。
上記相違点1は、アノードのケーシング(陽極シリンダ3)と永久磁石の配列方向(以下、「軸方向」という。)が(図面視)水平方向である(本願発明)か、あるいは、(図面視)垂直方向である(引用発明)かの違いに起因して生じる相違である。
そして、引用発明は、軸方向が垂直方向であることから、「板体15」は永久磁石4’の上面を摺動するものとなっている。
しかしながら、軸方向が垂直方向であるか、あるいは、水平方向であるかは、マグネトロンの使用状況に応じて適宜選択され得る事項にすぎないから、引用発明において、陽極シリンダ3(アノードのケーシング)の軸方向を水平方向として使用することに格別の技術的困難性は認められない。
そうすると、上記「4」「(1)」「エ」の図1、2、5における、陽極シリンダ3(アノードのケーシング)の軸方向を水平方向として使用すると、永久磁石4’が陽極シリンダー3の左右に配置されることとなり、また、陽極ベイン2が陽極シリンダー3の内側にロー付け等で固着されていることに照らして、板体15が陽極ベイン2の陽極シリンダー3の周方向の上方を摺動するものと認められる。
したがって、引用発明において、陽極シリンダ3(アノードのケーシング)の軸方向を水平方向となるようにマグネトロンを配置し、板体15(質量部材)が陽極ベイン2(アノード)の陽極シリンダー3(アノードのケーシング)の周方向の上方を摺動(スライド)可能となし、本願発明に係る上記相違点1の構成となすことは、当業者が容易になし得ることである。
イ 上記相違点2について検討する。
引用発明は「永久磁石」の具体的な材料を特定しないが、永久磁石の材料としてサマリウム、ネオジミウムまたは他の希土類金属の合金は本願優先日当時において周知であり、マグネトロンの永久磁石にサマリウム、ネオジミウムまたは他の希土類金属の合金からなる永久磁石を用いることも本願優先日当時において周知技術であるといえるから、引用発明において、「永久磁石4,4’」の具体的な素材としてサマリウム、ネオジミウムまたは他の希土類金属の合金からなるものを用いて、本願発明に係る上記相違点2の構成となすことは、当業者が容易になし得ることである。
ウ 請求人の主張
(ア)請求人は、審判請求書(及び同手続補正)において、概略下記aないしcのとおり主張する。
a 本願発明のマグネトロンが、「相互作用領域を通る磁界の強度を設定し」、「磁気回路の近くに位置し」、及び「アノードのケーシングの上方をスライド可能な」質量部材を有していることは、単なる設計事項ではない。引用例1に開示されているような位置及び配置の板体を、本願発明の請求項1の質量部材に適用する場合には、異なる技術的な効果をもたらすことになる。実際、引用例1は、本願発明の明細書及び図1等に示されている従来技術と類似している技術及び配置を開示するものである。この引用例1における課題を解決するアプローチは、相互作用領域よりもむしろ磁石自身(磁力)を変更させることに基づいている。
これに対し、本願発明においては、引用例1の磁石自身(磁力)を変更させることに代わり、相互作用領域を通る磁界の強度を変化させている。・・・
bこれに対し、本願発明においては、一対の永久磁石の間のアノードの上方のアノードのケーシングの上方をスライド可能な質量部材を有することによって、異なる作用効果が奏されている。本願発明においては、段落〔0024〕に示すように、極部品とヨークとの間を循環する磁束の一部がスライダの先端を通して発散され、その結果、極シューの間の相互作用領域において、磁界強度が弱くなる。この強度減少量は、スライダを前方及び後方に移動することにより変えることができる。本願発明の相互作用領域におけるこのような有利な作用効果は、引用例1において開示されておらず、また示唆もされていないことは明らかである。・・・
c 当業者は、引用例1の永久磁石を希土類金属の合金によるように変更して、希土類金属の合金を使用することにより生じるより小さいサイズの永久磁石による実施とすることを、引用例1及び引用例2の構造において実施しないはずである。このように、質量部材がアノードのケーシングの上方をスライドでき、且つ相互作用領域を通る磁界を設定するように磁気回路の近傍において位置決めされ、永久磁石が磁気材料として希土類金属の合金を使用することまで、引用例1の永久磁石の構成を改変させるように当業者は示唆されないであろう。
(イ)しかしながら、引用発明は「前記永久磁石4,4’から発生した磁束は磁極5,5’を通って陰極フィラメント1と陽極ベイン2との間に形成される作用空間13に入り、軸芯方向に必要な直流磁界を与え」、「板体15をヨーク6の側面に形成した開口18に挿入し、その先端部15aを永久磁石4’の上面に接触させ、当該永久磁石4’の上面に摺動させて両者の接触面積を変化させて出力の微調整を行い、所望の出力値になった状態で板体15の他端部を当該他端とヨーク6’の側面との隙間に相当したスペーサ17を介して前記ヨーク6、6’にねじ止めし、前記作用空間13に流れる磁界の強さを制御することで、マグネトロンの発信出力を調整」するものである。
すなわち、引用発明は、「発生した磁束は磁極5,5’を通って陰極フィラメント1と陽極ベイン2との間に形成される作用空間13に入り、軸芯方向に必要な直流磁界を与え」る「永久磁石4,4’」と、「前記作用空間13に流れる磁界の強さを制御することで、マグネトロンの発信出力を調整」する「当該永久磁石4’の上面に摺動させて両者の接触面積を変化させて出力の微調整を行」う「板体15」とを用いて、「所望の出力値になった状態で板体15の他端部を当該他端とヨーク6’の側面との隙間に相当したスペーサ17を介して前記ヨーク6、6’にねじ止め」することにより「前記作用空間13に流れる磁界の強さを制御することで、マグネトロンの発信出力を調整」するものであり、また、本願発明も「相互作用領域を通過する磁界を発生する磁気回路を形成するための、アノードの各側に設けられた一対の永久磁石」と、「前記磁気回路の近くに位置する透磁性材料から成り、前記アノードのケーシングの上方をスライド可能な質量部材」とを用いて、「前記相互作用領域を通る前記磁界の強度を設定するよう、前記質量部材を固定するためのロッキング手段」とをそれぞれ備えるものである。
したがって、両者は磁界の強さを制御(設定)するものであることにおいて共通するものといえる。
よって、両者の間で技術的な効果(作用効果)に差異は認められないから、請求人の上記(ア)a及びbの主張は採用できない。
また、マグネトロンの永久磁石にサマリウム、ネオジミウムまたは他の希土類金属の合金からなる永久磁石を用いることは、上記「イ」で述べたように本願優先日当時において周知技術であり、また、引用発明において、サマリウム、ネオジミウムまたは他の希土類金属の合金からなる永久磁石を用いることを妨げる格別の阻害要因は見当たらないから、請求人の上記(ア)cの主張は採用できない
(3)小括
以上の検討によれば、本願発明は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。
6 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2016-001457