特許異議申立
2015-700360
レトルト包装用透明ガスバリア性フィルムおよびその製造方法
- 審判番号
- 2015-700360
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2011-004272外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2015年12月28日
- 審決日
- 2017年06月14日
- 公報発行日
- 2017年09月29日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 分類
- P1651.113-YAA(B32B) / P1651.121-YAA(B32B) / P1651.537-YAA(B32B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第2号、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第5740990号発明「レトルト包装用透明ガスバリア性フィルムおよびその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第5740990号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-3〕、〔4-7〕について、訂正することを認める。
特許第5740990号の請求項1、3、4~7に係る特許を維持する。
特許第5740990号の請求項2に係る特許についての特許異議の申立てを却下をする。
理由
【理 由】
1.手続の経緯
特許第5740990号の請求項1~7に係る特許についての出願は、平成23年1月12日に特許出願され、平成27年5月15日にその特許権の設定登録がされ、その後、その請求項1~7に係る特許について、特許異議申立人池田豊輝(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがなされ、平成28年3月30日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成28年5月31日に意見書の提出及び訂正の請求がなされ、平成28年7月13日に申立人から意見書が提出され、平成28年8月29日付けで訂正拒絶理由が通知され、その指定期間内である平成28年9月30日に意見書及び手続補正書が提出された。
その後、平成28年12月14日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成29年2月13日に意見書の提出及び訂正の請求(以下、「本件訂正請求」」という。)がなされ、本件訂正請求に対して平成29年4月10日に申立人から意見書が提出されたものである。
2.訂正の適否についての判断
(1)訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は、以下のア.~キ.のとおりである。
ア.訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に
「レトルト処理後の30℃・80%相対湿度雰囲気下での酸素透過係数が50×10-4cm3(STP)/(m2・s・MPa)以下であることを特徴とする、レトルト包装用透明ガスバリア性フィルム。」とあるのを
「熱水レトルト処理後の30℃・80%相対湿度雰囲気下での酸素透過係数が50×10-4cm3(STP)/(m2・s・MPa)以下の透明ガスバリア性フィルムであって、前記イオン架橋重合体膜が、前記α,β-不飽和カルボン酸の多価金属による部分中和塩の水湿潤塗膜の電子線照射による硬化膜であることを特徴とする、レトルト包装用透明ガスバリア性フィルム。」に訂正する。(下線部が訂正箇所を示す。以下同じ)
イ.訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を削除する。
ウ.訂正事項3
特許請求の範囲の請求項4に
「請求項1に記載のレトルト包装用透明ガスバリア性フィルムの製造方法。」とあるのを
「α,β-不飽和カルボン酸とその91~95%を中和する量の多価金属との塩のイオン架橋重合体膜を、透明フィルム基材上に形成してなり、ヘイズ値が5%以下、且つ120℃、30分の熱水レトルト処理後の30℃・80%相対湿度雰囲気下での酸素透過係数が50×10-4cm3(STP)/(m2・s・MPa)以下であるレトルト包装用透明ガスバリア性フィルムの製造方法。」に訂正する。
エ.訂正事項4
明細書の段落【0007】に
「α,β-不飽和カルボン酸とその91~95%を中和する量の多価金属との塩のイオン架橋重合体膜を、透明フィルム基材上に形成してなり、ヘイズ値が5%以下、且つ120℃、30分のレトルト処理後の30℃、80%相対湿度雰囲気下での酸素透過係数が50×10-4cm3(STP)/(m2・s・MPa)以下であることを特徴とする」とあるのを
「α,β-不飽和カルボン酸とその91~95%を中和する量の多価金属との塩のイオン架橋重合体膜を、透明フィルム基材上に形成してなり、ヘイズ値が5%以下、且つ120℃、30分の熱水レトルト処理後の30℃、80%相対湿度雰囲気下での酸素透過係数が50×10-4cm3(STP)/(m2・s・MPa)以下の透明ガスバリア性フィルムであって、前記イオン架橋重合体膜が、前記α,β-不飽和カルボン酸の多価金属による部分中和塩の水湿潤塗膜の電子線照射による硬化膜であることを特徴とする」に訂正する。
オ.訂正事項5
明細書の段落【0001】、【0004】、【0006】、【0034】、【0036】及び【0040】において「レトルト」とあるのを、それぞれ「熱水レトルト」に訂正する。
カ.訂正事項6
明細書の段落【0030】の全体を
「【0030】
本発明に従い、上記のようにして透明フィルム基材上に形成された水系重合性単量体組成物の湿潤状態の塗膜に、特に乾燥等の前処理を行なうことなく、電子線を照射して、イオン架橋重合体膜に転換する。」に訂正する。
キ.訂正事項7
明細書の段落【0046】、【0056】の【表1】及び【0057】の「実施例2」を「参考例2」に訂正し、段落【0045】の「下記実施例、比較例」を「下記実施例、参考例、比較例」に訂正する。
(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
ア.訂正事項1について
訂正事項1は、本件特許明細書の段落【0040】の「・・・ガスバリア性フィルム試料を、貯塔式(予め温度、圧力を上げた熱水を貯めてからレトルト釜に移し変える方式)のレトルト釜を用い、120℃、30分間の条件でレトルト処理し、レトルト処理後に測定した酸素透過度(30℃・80%RH)を、上記1.と同様に測定した。」の記載に基づき、請求項1の「レトルト処理」を「熱水レトルト処理」に限定し、訂正前の請求項2の記載に基づき、レトルト包装用透明ガスバリア性フィルムについて「前記α,β-不飽和カルボン酸の多価金属による部分中和塩の水湿潤塗膜の電子線照射による硬化膜である」と限定するもので、特許請求の範囲の減縮を目的とし、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
イ.訂正事項2について
訂正事項2は、請求項2を削除するもので、特許請求の範囲の減縮を目的とし、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
ウ.訂正事項3について
訂正事項3は、請求項4を請求項1を引用する記載から、請求項間の引用関係を解消して独立形式の請求項に改めるもので、「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とし、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
エ.訂正事項4について
訂正事項4は、明細書の段落【0007】の記載を、訂正事項1の請求項1の訂正に伴い、整合させるためのもので、明瞭でない記載の釈明を目的とし、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
オ.訂正事項5について
訂正事項5は、明細書の段落【0001】、【0004】、【0006】、【0034】、【0036】及び【0040】の「レトルト」を「熱水レトルト」とするもので、訂正事項1の請求項1の訂正に伴い、記載を整合させるためのもので、明瞭でない記載の釈明を目的とし、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
カ.訂正事項6について
訂正事項6は、明細書の段落【0030】の記載を、訂正事項1の請求項1の訂正に伴い、整合させるためのもので、明瞭でない記載の釈明を目的とし、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
キ.訂正事項7について
訂正事項7は、訂正事項1の請求項1の訂正に伴い、発明の実施例でなくなった実施例2を、参考例とするもので、明瞭でない記載の釈明を目的とし、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(3)一群の請求項について
本件訂正請求は、訂正前の請求項1と、請求項1を直接あるいは間接に引用する請求項2~7とを対象とするものであるから、請求項1~7について、一群の請求項ごとに請求されたものである。
(4)小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第3号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び同条第9項において準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合し、かつ、申立人は請求項4及び請求項4を引用する請求項5~7については請求項1との引用関係の解消を求め、請求項1とは別途訂正することを求めているから、訂正後の請求項〔1~3〕、〔4~7〕について訂正を認める。
3.本件発明
本件訂正請求により訂正された訂正請求項1~7に係る発明(以下、「本件訂正発明1~7」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1~7に記載された次の事項により特定されるとおりのものであると認める。
「【請求項1】
α,β-不飽和カルボン酸とその91~95%を中和する量の多価金属との塩のイオン架橋重合体膜を、透明フィルム基材上に形成してなり、ヘイズ値が5%以下、且つ120℃、30分の熱水レトルト処理後の30℃・80%相対湿度雰囲気下での酸素透過係数が50×10-4cm3(STP)/(m2・s・MPa)以下の透明ガスバリア性フィルムであって、前記イオン架橋重合体膜が、前記α,β-不飽和カルボン酸の多価金属による部分中和塩の水湿潤塗膜の電子線照射による硬化膜であることを特徴とする、レトルト包装用透明ガスバリア性フィルム。
【請求項2】 (削除)
【請求項3】
前記イオン架橋重合体膜が、一対の透明フィルム基材間に挟持されている請求項1または2に記載の透明ガスバリア性フィルム。
【請求項4】
透明フィルム基材上に、α,β-不飽和カルボン酸とその91~95%を中和する量の多価金属との塩を、組成物全量基準で35~85重量%の水に溶解してなる重合性単量体組成物を塗布して、湿潤状態の塗膜を形成し、該塗膜に電子線を照射して、α,β-不飽和カルボン酸を重合するとともに生成重合体をイオン架橋して、イオン架橋重合体膜を形成することを特徴とする、α,β-不飽和カルボン酸とその91~95%を中和する量の多価金属との塩のイオン架橋重合体膜を、透明フィルム基材上に形成してなり、ヘイズ値が5%以下、且つ120℃、30分の熱水レトルト処理後の30℃・80%相対湿度雰囲気下での酸素透過係数が50×10-4cm3(STP)/(m2・s・MPa)以下であるレトルト包装用透明ガスバリア性フィルムの製造方法。
【請求項5】
前記重合性単量体組成物が重合開始剤を含まない組成物である請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記重合性単量体組成物が、α,β-不飽和カルボン酸とその91~95%を中和する量の多価金属化合物とを水媒体中で反応させてなる請求項4または5に記載の方法。
【請求項7】
前記重合性単量体組成物が、α,β-不飽和カルボン酸の水溶液に、α,β-不飽和カルボン酸の多価金属塩を添加してなる、同α,β-不飽和カルボン酸の多価金属による部分中和塩の水溶液である請求項4~6のいずれかに記載の方法。」
4.取消理由の概要
訂正前の請求項1~7に係る特許に対して、平成28年3月30日付けで特許権者に通知した取消理由及び平成28年12月14日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。なお、特許異議申立書に記載された特許異議申立理由は、すべて通知した。
1)本件特許の下記の請求項に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
2)本件特許の下記の請求項に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
3)本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
記
甲第1号証:特開2007-31459号公報
甲第2号証:国際公開第2006/059773号
甲第3号証:特開2007-8148号公報
甲第4号証:国際公開第2006/104257号
甲第5号証:国際公開第03/091317号
(1)(理由1)及び(理由2)
ア.甲第1号証に基づく理由
・本件発明1~4、6について
本件発明1~4、6は、甲第1号証に記載された発明(以下、「甲1発明」という。)であるか、甲1発明及び周知技術(甲第2号証~甲第5号証)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
・本件発明5について
本件発明5は、甲1発明及び甲第2号証記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
・本件発明7について
本件発明7は、甲1発明及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
イ.甲第2号証に基づく理由
・本件発明1、3に係る発明について
本件発明1、3は、甲第2号証に記載された発明(以下、「甲2発明」という。)であるか、甲2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
・本件発明2、4~6について
本件発明2、4~6は、甲2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
・本件発明7について
本件発明7は、甲2発明及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
ウ.甲第3号証に基づく理由
・本件発明1、3について
本件発明1、3は、甲第3号証に記載された発明(以下、「甲3発明」という。)であるか、甲3発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
・本件発明2について
本件発明2は、甲3発明及び甲第3号証記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(2)(理由3)
請求項2は、「透明ガスバリア性フィルム」という物の発明であるが、請求項2の「水湿潤塗膜の電子線照射による硬化膜」の記載は、製造に関して経時的な要素の記載がある場合又は製造に関して技術的な特徴や条件が付与された記載がある場合に該当するため、当該請求項にはその物の製造方法が記載されているといえる。
ここで、物の発明に係る特許請求の範囲にその物を製造方法が記載されている場合において、当該特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号にいう「発明が明確であること」という要件に適合するといえるのは、出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情(以下「不可能・非実際的事情」という)が存在するときに限られると解するのが相当である(最高裁第二小法廷平成27年6月5日 平成24年(受)第1204号、平成24年(受)第2658号)。
しかしながら、本願明細書等には不可能・非実際的事情について何ら記載がなく、当業者にとって不可能・非実際的事情が明らかであるとも言えない。
したがって、請求項2に係る発明、請求項2を引用する請求項3に係る発明は明確でない。
5.刊行物の記載
(1)甲第1号証(以下、「甲1」という。)(特開2007-31459号公報)
甲1には、甲1の記載事項、特に、段落【0026】、【0027】及び【0028】の表1の実施例4、実施例5によれば、以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「(a)基材上に形成したアクリル酸Zn溶液の塗布膜に、溶媒の存在下で電子線照射してなる重合体膜であって、赤外線吸収スペクトルにおける1700cm-1付近のカルボン酸基のνC=Oに基づく吸光度A0と1520cm-1付近のカルボキシレートイオンのνC=Oに基づく吸光度Aとの比(A0/A)が0.007、又は0.09であり、
(b)基材は二軸延伸ポリプロピレンフィルム、又は二軸延伸ポリアミドフィルムであり、
(c)ヘイズ値が1.5%、又は4.0%であり、
(d)酸素透過度が1.0ml/(m2・day・MPa)、又は1.2ml/(m2・day・MPa)であり、
(e)食品包装材料を始め、医療用途、工業用途等さまざまな包装材料としてとしても好適に使用し得るガスバリア性積層フィルム。」
(2)甲第2号証(以下、「甲2」という。)(国際公開第2006/059773号)
甲2には、甲2の記載事項、特に、表5の実施例39、表9の実施例77、表10の実施例86によれば、甲第2号証には、以下の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されている。
「(a)イタコン酸と、ジアクリル酸亜鉛(金属イオンの化学当量0.92)との塩を含む含水量66%の組成物の塗装膜を湿潤状態でUV照射してなるイオン架橋ポリカルボン酸重合体膜を、
(b)未延伸ポリプロピレンフィルム(CPP#60)上に形成してなり、
(d)30℃・80%相対湿度雰囲気下での酸素透過係数が11×10-4cm3(STP)/(m2・s・MPa)であり、
(e)加熱殺菌用包装材料として利用することができる積層フィルム。」
(3)甲第3号証(以下、「甲3」という。)(特開2007-8148号公報)
甲3には、甲3の記載事項、特に、段落【0112】~【0114】の実施例3によれば、以下の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されていると認められる。
「(a)ポリアクリル酸と、ポリアクリル酸のカルボキシル基の95モル%を中和するカルシウムイオンを含むガスバリア層を
(b)延伸PETフィルム上に形成してなり、
(c)透明で内容物の状態を確認することができ、
(d)130℃、30分間のレトルト処理後、85%RH/100%RH、20℃での酸素透過度3.3cm3/m2・day・atm(=3.82×10-5cm3/m2・s・atm)である
(e)レトルト処理後もガスバリア性に優れたガスバリア性積層体。」
(4)甲第4号証(以下、「甲4」という。)(国際公開第2006/104257号)
甲4には、以下の事項が記載されている。
「要約:本発明のガスバリア材は、酸価580mgKOH/g以上の量に相当するカルボキシル基を有する樹脂の少なくとも酸価330mgKOH/gの量に相当するカルボキシル基がイオン架橋されて成るものであり、高湿度条件下におけるガスバリア性、耐レトルト性、可撓性に優れ、塗膜を低温短時間で硬化することができ、生産性にも優れたガスバリア材を提供することが可能となる。」
(5)甲第5号証(以下、「甲5」という。)(国際公開第03/091317号)
甲5には、以下の事項が記載されている。
「要約:本発明は、ポリカルボン酸系重合体と多価金属化合物とからなり、酸素等のガスバリア性に優れ、中性の水、及び高温水蒸気や熱水の影響で外観、形状、及び ガスバリア性が損なわれることがない耐性を有する、フィルム、積層体、その工業的に簡便で安価な製造方法に関する。本発明のフィルム、及びその積層体によれば、 酸素等の影響により、劣化を受けやすい、食品、飲料、薬品、医薬品、電子部品等の精密金属部品の包装体、包装容器や真空断熱材料として適し、さらに長期にわたり安定したガスバリア性能が必要で、かつボイル、レトルト殺菌等の高温熱水条件下での処理を必要とする物品の包装材料に好適な包装材料を提供することができる。」
6.判断
(1)理由3(第36条第6項第2号)について
事案に鑑み、平成28年3月30日付けの取消理由通知の理由3をまず検討する。
ここで、取消理由で通知した、訂正前の請求項2の「水湿潤塗膜の電子線照射による硬化膜」の記載は、訂正後の請求項1に同様の記載があるので、訂正後の請求項1の「水湿潤塗膜の電子線照射による硬化膜」の記載について、改めて検討する。
特許権者は、平成28年5月31日付け意見書で、「電離放射線として代表的に用いられる紫外線に対する、電子線の優位性が本件特許発明の基礎であり、その特性を示すのに、レトルト処理後の酸素透過度とヘイズ値との組み合わせのみでは、適切に規定されない点、また、透明フィルム基材上に形成した、水湿潤塗膜の電子線照射による硬化膜であるから、フィルム基材との必要な密着性が確保されるものであり、再現性良く測定値として記載することが極めて困難であり、水湿潤塗膜の電子線照射による硬化膜以外の表現で規定することは非実際的である」旨主張している。
その点を検討するに、本件特許明細書の段落【0056】の【表1】によれば、「水湿潤塗膜の紫外線照射による硬化膜」を有する参考例2との比較で、「水湿潤塗膜の線照射による硬化膜」を有する実施例は有利な効果を奏するものであり、それを「水湿潤塗膜の線照射による硬化膜」の表現に代えて、種々の測定値で表現するには、非実際的であると認める。
よって、特許権者の非実際的である旨の主張は理由があるので、訂正後の請求項1の「水湿潤塗膜の電子線照射による硬化膜」の記載は明確でないとはいえない。
請求項1を引用する、請求項3についても同様である。
(2)理由1(第29条第1項第3号)について
ア.本件訂正発明1の「α,β-不飽和カルボン酸とその91~95%を中和する量の多価金属との塩」の「中和する量」について
「中和度」あるいは「中和する量」について、争いがあるので、本件訂正発明1において確認しておく。
本件訂正発明1の「α,β-不飽和カルボン酸とその91~95%を中和する量の多価金属との塩」の「多価金属」の「α,β-不飽和カルボン酸を中和する量」については、「水系重合性単量体組成物を形成するための原料である、α,β-不飽和カルボン酸の多価金属との塩を構成する、α,β-不飽和カルボン酸と多価金属との化学当量比」を意味するものと解するのが妥当である。この解釈によれば、100%を超える場合があるが、これは、本件特許明細書の段落【0056】の【表1】に比較例4の中和度が105%、比較例5の中和度が100%と記載されてことからも、裏付けられている。また、甲2の第32頁の表3の「金属イオンの化学当量」と同じ意味であることは、甲2を従来技術として挙げ、その問題点を解決している本件特許明細書の記載(例えば、段落【0009】)から、当業者は理解できる。
イ.甲1に基づく理由1
(ア)本件訂正発明1
本件訂正発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明の「アクリル酸」、「Zn」は、本件訂正発明1の「α,β-不飽和カルボン酸」、「多価金属」にそれぞれ相当する。
両者は、少なくとも以下の相違点1及び相違点2で相違する。
〈相違点1〉本件訂正発明1では、イオン架橋重合体膜の多価金属が、α,β-不飽和カルボン酸の91~95%を中和する量であるのに対して、甲1発明では、赤外線吸収スペクトルにおける1700cm-1付近のカルボン酸基のνC=Oに基づく吸光度A0と1520cm-1付近のカルボキシレートイオンのνC=Oに基づく吸光度Aとの比(A0/A)が0.007、又は0.09である点。
〈相違点2〉本件訂正発明1では、透明ガスバリア性フィルムの、120℃、30分の熱水レトルト処理後の30℃・80%相対湿度雰囲気下での酸素透過係数が50×10-4cm3(STP)/(m2・s・MPa)以下であるのに対して、甲1発明では、ガスバリア性積層フィルムの酸素透過度が1.0ml/(m2・day・MPa)、又は1.2ml/(m2・day・MPa)であるが、レトルト処理後の酸化透過度は不明である点。
相違点1を検討する。
甲1には、段落【0012】に「ガスバリア性膜の製造方法
本発明のガスバリア性膜の製造方法は、基材層に重合度が20未満の不飽和カルボン酸化合物の多価金属塩溶液を塗工した後、不飽和カルボン酸化合物の多価金属塩に溶媒の存在下で電子線を照射することを特徴とするガスバリア性膜の製造方法である。・・・
本発明のガスバリア性膜の製造方法として、直接溶媒に前記不飽和カルボン酸化合物と前記多価金属化合物を溶かす場合、即ち、前記不飽和カルボン酸化合物と前記多価金属化合物とを含む溶液を用いる場合は、前記不飽和カルボン酸化合物に対して、0.3化学当量を越える量の前記多価金属化合物を添加することが好ましい。・・・また、多価金属化合物の添加量の上限はとくに限定はされないが、多価金属化合物の添加量が1化学当量を越えると未反応の多価金属化合物が多くなるので、通常、5化学当量以下、好ましくは2化学当量以下で十分である。・・・」と、「多価金属化合物の添加量の化学当量」に関する記載がある。
この甲1の「多価金属化合物の添加量の化学当量」は、本件訂正発明1の「多価金属」の「α,β-不飽和カルボン酸を中和する量」、すなわち上記「(2)ア.」で確認した「水系重合性単量体組成物を形成するための原料である、α,β-不飽和カルボン酸の多価金属との塩を構成する、α,β-不飽和カルボン酸と多価金属との化学当量比」に相当するものである。しかし、甲1の実施例4、5の「多価金属化合物の添加量の化学当量」は不明であり、「赤外線吸収スペクトルにおける1700cm-1付近のカルボン酸基のνC=Oに基づく吸光度A0と1520cm-1付近のカルボキシレートイオンのνC=Oに基づく吸光度Aとの比(A0/A)が0.007、又は0.09である」から、「イオン架橋重合体膜の多価金属が、α,β-不飽和カルボン酸の91~95%を中和する量である」を導くことはできない。
よって、相違点1は実質的な相違点であるので、相違点2を検討するまでもなく、本件訂正発明1は、甲1発明ではない。
(イ)本件訂正発明3
本件訂正発明3は、本件訂正発明1の発明特定事項をすべてを含むものであるから、本件訂正発明1と同様の理由により、本件訂正発明3は、甲1発明ではない。
(ウ)本件訂正発明4
本件訂正発明4と甲1発明とを対比すると、少なくとも上記相違点1及び相違点2(上記(2)イ.(ア))で相違する。
上記(2)イ.(ア)で述べたように、相違点1は実質的相違点であるので、相違点2を検討するまでもなく、本件訂正発明4は、甲1発明ではない。
(エ)本件訂正発明6
本件訂正発明6は、本件訂正発明4の発明特定事項をすべてを含むものであるから、本件訂正発明4と同様の理由により、本件訂正発明6は、甲1発明ではない。
ウ.甲2に基づく理由1
(ア)本件訂正発明1
本件訂正発明1と甲2発明とを対比すると、甲2発明の「イタコン酸」、「ジアクリル酸亜鉛」は、本件訂正発明1の「α,β-不飽和カルボン酸」、「多価金属」にそれぞれ相当する。
両者は、少なくとも以下の相違点3~5で相違する。
〈相違点3〉本件訂正発明1では、水湿潤塗膜の電子線照射による硬化膜であるのに対して、甲2発明では、塗装膜を湿潤状態でUV照射してなるイオン架橋ポリカルボン酸重合体膜である点。
〈相違点4〉本件発明1では、透明ガスバリア性フィルムのヘイズ値が5%以下であるのに対して、甲2発明では、積層フィルムのヘイズ値は不明である点。
〈相違点5〉本件訂正発明1では、透明ガスバリア性フィルムの、120℃、30分の熱水レトルト処理後の30℃・80%相対湿度雰囲気下での酸素透過係数が50×10-4cm3(STP)/(m2・s・MPa)以下であるのに対して、甲2発明では、積層フィルムの酸素透過度が30℃・80%相対湿度雰囲気下での酸素透過係数が11×10-4cm3(STP)/(m2・s・MPa)であるが、レトルト処理後の酸化透過度は不明である点。
相違点3を検討する。
甲2の実施例86は、中和度(化学当量)が92%であるが、紫外線照射(UV照射)により重合処理されたものである。ここで、甲2には、「電離放射線としては、紫外線、電子線 (ベータ線)、ガンマ線、アルファ線が好ましく、紫外線及び電子線がより好ましい。・・・」(17頁17行~18行)と、紫外線と電子線とを区別して記載されているように、紫外線照射による処理と、電子線照射による処理は、必ずしも同じではない。この点、本件特許明細書の段落【0030】においても、紫外線照射と電子線照射とは区別して記載されている。
すると、紫外線照射による硬化膜と、電子線照射による硬化膜は、必ずしも同じとはいえない。
よって、相違点3は実質的な相違点であるので、相違点4、5を検討するまでもなく、本件訂正発明1は、甲2発明ではない。
(イ)本件訂正発明3
本件訂正発明3は、本件訂正発明1の発明特定事項をすべてを含むものであるから、本件訂正発明1と同様の理由により、本件訂正発明3は、甲2発明ではない。
エ.甲3に基づく理由1
(ア)本件訂正発明1
本件訂正発明1と甲3発明とを対比すると、甲3発明の「ポリアクリル酸」、「カルシウム」は、本件訂正発明1の「α,β-不飽和カルボン酸」、「多価金属」にそれぞれ相当する。
両者は、少なくとも以下の相違点6及び相違点7で相違する。
〈相違点6〉本件訂正発明1では、イオン架橋重合体膜の多価金属が、α,β-不飽和カルボン酸の91~95%を中和する量であるのに対して、甲3発明では、ガスバリア層のカルシウムイオンがポリアクリル酸のカルボキシル基の95モル%を中和する点。
〈相違点7〉本件訂正発明1では、透明ガスバリア性フィルムのヘイズ値が5%以下であるのに対して、甲3発明では、ガスバリア性積層体のヘイズ値は不明である点。
相違点6を検討する。
甲3の段落【0102】に「(2)イオンによるカルボキシル基の中和度(イオン化度)
実施例1~2で得られた積層体(B-1)について、フーリエ変換赤外分光光度計(株式会社島津製作所製、8200PC)を用いて、ATR(全反射測定)のモードで、ガスバリア層に含まれるC=O伸縮振動のピークを観察した。イオン化前のカルボン酸含有重合体のカルボキシル基のC=O伸縮振動に帰属されるピークは1600cm-1~1850cm-1の範囲に観察され、イオン化された後のカルボキシル基のC=O伸縮振動は1500cm-1~1600cm-1の範囲に観察された。そして、それぞれの範囲における最大の吸光度からその比を算出し、その比と予め下記の方法で作成した検量線とを用いてイオン化度を求めた。」と記載されているように、甲3の中和度は、イオン化前のカルボン酸含有重合体のカルボキシル基のC=O伸縮振動に帰属されるピークとイオン化された後のカルボキシル基のC=O伸縮振動の吸光度の比によって求られた、ガスバリア性積層体のポリアクリル酸のカルボキシル基とカルシウム(多価金属)との結合割合の指標を示すものであり、本件訂正発明1の「多価金属」の「α,β-不飽和カルボン酸を中和する量」とは、上記「(2)ア.」で確認したように「水系重合性単量体組成物を形成するための原料である、α,β-不飽和カルボン酸の多価金属との塩を構成する、α,β-不飽和カルボン酸と多価金属との化学当量比」であり、両者は同じものとはいえない。
よって、相違点6は実質的な相違点であるので、相違点7を検討するまでもなく、本件訂正発明1は、甲3発明ではない。
(イ)本件訂正発明3
本件訂正発明3は、本件訂正発明1の発明特定事項をすべてを含むものであるから、本件訂正発明1と同様の理由により、本件訂正発明3は、甲3発明ではない。
(3)理由2(第29条第2項)について
ア.甲1に基づく理由2
(ア)本件訂正発明1
本件訂正発明1と甲1発明とを対比すると、少なくとも上記相違点1及び相違点2(上記(2)イ.(ア))で相違する。
相違点1については、上記「(2)イ.(ア)」で述べたとおり、甲1発明の「赤外線吸収スペクトルにおける1700cm-1付近のカルボン酸基のνC=Oに基づく吸光度A0と1520cm-1付近のカルボキシレートイオンのνC=Oに基づく吸光度Aとの比(A0/A)が0.007、又は0.09である」から、「イオン架橋重合体膜の多価金属が、α,β-不飽和カルボン酸の91~95%を中和する量である」を導くことはできない。
そして、このことは、甲2~甲5の技術常識からも導けない。
また、相違点2についても、甲2~甲5の技術常識から導けない。
本件訂正発明1は、相違点1及び相違点2に係る発明特定事項を有することにより、「透明性が良好に維持され、且つレトルト処理後もきわめて良好なガスバリア性を維持する、イオン架橋重合体膜が形成可能である」(本件特許明細書段落【0009】)との作用効果を奏するものである。
よって、本件訂正発明1は、甲1発明及び技術常識(甲2~甲5)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(イ)本件訂正発明3
本件訂正発明3は、本件訂正発明1の発明特定事項をすべてを含むものであるから、本件訂正発明1と同様の理由により、本件訂正発明3は、甲1発明及び技術常識(甲2~甲5)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(ウ)本件訂正発明4
本件訂正発明4と甲1発明とを対比すると、少なくとも上記相違点3~5(上記(2)イ.(ア))で相違する。
よって、本件訂正発明4は、本件訂正発明1と同様の理由により、甲1発明及び技術常識(甲2~甲5)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(エ)本件訂正発明5
本件訂正発明5は、本件訂正発明4の発明特定事項をすべてを含むものであり、甲2には、少なくとも相違点2について記載も示唆もないから、本件訂正発明4と同様の理由により、本件訂正発明5は、甲1発明及び甲2記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(オ)本件訂正発明6、7
本件訂正発明6、7は、本件訂正発明4の発明特定事項をすべてを含むものでり、本件訂正発明4と同様の理由により、本件訂正発明7は、甲1発明及び技術常識(甲2~甲5)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
イ.甲2に基づく理由2
(ア)本件訂正発明1
本件訂正発明1と甲2発明とを対比すると、少なくとも上記相違点3~5((2)ウ.(ア))で相違する。
相違点3については、上記「(2)ウ.(ア)」で述べたように、甲2及び本件特許明細書において、紫外線照射と電子線照射とは区別して記載されている。本件訂正発明1の中和度(化学当量)の91~95%を満たす、甲2発明の唯一の実施例である、甲2の実施例86は、中和度(化学当量)が92%であるが、紫外線照射(UV照射)により重合処理されるものである。
そして、「水湿潤塗膜の電子線照射による硬化膜である」こと(相違点3)、かつ「透明ガスバリア性フィルムのヘイズ値が5%以下である」(相違点4)こと、「透明ガスバリア性フィルムの、120℃、30分の熱水レトルト処理後の30℃・80%相対湿度雰囲気下での酸素透過係数が50×10-4cm3(STP)/(m2・s・MPa)以下である」(相違点5)ことをすべて満たすものは、甲1~甲5には、記載されていない。
そして、本件訂正発明1は、相違点3~5に係る発明特定事項を有することにより、「透明性が良好に維持され、且つレトルト処理後もきわめて良好なガスバリア性を維持する、イオン架橋重合体膜が形成可能である」(本件特許明細書段落【0009】)との作用効果を奏するものである。
よって、本件訂正発明1は、甲2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(イ)本件訂正発明3
本件訂正発明3は、本件訂正発明1の発明特定事項をすべてを含むものであるから、本件訂正発明1と同様の理由により、本件訂正発明3は、甲2発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(ウ)本件訂正発明4
本件訂正発明4と甲2発明とを対比すると、少なくとも上記相違点3~5(上記(2)ウ.(ア))で相違する。
よって、本件訂正発明4は、本件訂正発明1と同様の理由により、甲2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(エ)本件訂正発明6
本件訂正発明6は、本件訂正発明4の発明特定事項をすべてを含むものであるから、本件訂正発明4と同様の理由により、本件訂正発明6は、甲2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(エ)本件訂正発明7
本件訂正発明7は、本件訂正発明4の発明特定事項をすべてを含むものでり、技術常識を示す甲4及び甲5にも、相違点3~5についての記載も示唆もないから、本件訂正発明4と同様の理由により、本件訂正発明7は、甲2発明及び技術常識(甲4、甲5)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ.甲3に基づく理由2
(ア)本件訂正発明1
本件訂正発明1と甲3発明とを対比すると、少なくとも上記相違点6及び相違点7((2)エ.(ア))で相違する。
上記「(2)エ.(ア)」で述べたように、甲3発明の「ガスバリア層のカルシウムイオンがポリアクリル酸のカルボキシル基の95モル%を中和する」と、本件訂正発明1の「イオン架橋重合体膜の多価金属が、α,β-不飽和カルボン酸の91~95%を中和する量である」とのは、同じものではない。
そして、「イオン架橋重合体膜の多価金属が、α,β-不飽和カルボン酸の91~95%を中和する量である」こと(相違点6)、かつ「透明ガスバリア性フィルムのヘイズ値が5%以下である」(相違点7)ことを両方とも満たすものは、甲1~甲5には、記載されていない。
そして、本件訂正発明1は、相違点6及び相違点7に係る発明特定事項を有することにより、「透明性が良好に維持され、且つレトルト処理後もきわめて良好なガスバリア性を維持する、イオン架橋重合体膜が形成可能である」(本件特許明細書段落【0009】)との作用効果を奏するものである。
よって、本件訂正発明1は、甲3発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(イ)本件訂正発明3
本件訂正発明3は、本件訂正発明1の発明特定事項をすべてを含むものであるから、本件訂正発明1と同様の理由により、本件訂正発明3は、甲3発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
7.申立人の意見について
平成29年4月10日付け申立人の意見書3(2-2)「甲3号証に基づく理由」において、申立人は甲3の段落【0103】を根拠に、甲3では検量線を用いてカルボキシル基の中和度を中和度を決定しており、検量線を用いずに中和度を求めた甲1における中和度とは測定方法が異なると主張している。
この点を検討するに、甲3の段落【0102】に「(2)イオンによるカルボキシル基の中和度(イオン化度)
実施例1~2で得られた積層体(B-1)について、フーリエ変換赤外分光光度計(株式会社島津製作所製、8200PC)を用いて、ATR(全反射測定)のモードで、ガスバリア層に含まれるC=O伸縮振動のピークを観察した。イオン化前のカルボン酸含有重合体のカルボキシル基のC=O伸縮振動に帰属されるピークは1600cm-1~1850cm-1の範囲に観察され、イオン化された後のカルボキシル基のC=O伸縮振動は1500cm-1~1600cm-1の範囲に観察された。そして、それぞれの範囲における最大の吸光度からその比を算出し、その比と予め下記の方法で作成した検量線とを用いてイオン化度を求めた。」と記載されているように、中和度を求める原理は、甲1と同様に、イオン化前のカルボン酸含有重合体のカルボキシル基のC=O伸縮振動に帰属されるピークとイオン化された後のカルボキシル基のC=O伸縮振動の吸光度の比によって求めるものであるから、申立人の主張は採用できない。
8.むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立書に記載された取消理由をすべて含む、上記取消理由によっては、本件訂正発明1、3~7に係る特許を取り消すことはできず、他に取り消すべき理由も発見しない。
また、請求項2は、本件訂正請求により削除された。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2015-700360