特許異議申立
2015-700345
二酸化炭素分離装置および二酸化炭素分離方法
- 審判番号
- 2015-700345
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2011-163383外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2015年12月24日
- 審決日
- 2017年03月21日
- 公報発行日
- 2017年06月30日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】富士フイルム株式会社
- 【権利者代理人】中島 淳
- 【権利者代理人】加藤 和詳
- 【権利者代理人】福田 浩志
- 【異議申立人】株式会社 ルネッサンス・エナジー・リサーチ
- 【異議申立人代理人】特許業務法人深見特許事務所
- 分類
- P1651.113-YAA(B01D) / P1651.121-YAA(B01D) / P1651.536-YAA(B01D) / P1651.537-YAA(B01D)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第113条第2項、特許法第113条第4項、特許法第36条第4項第1号、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第4項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第5738704号発明「二酸化炭素分離装置および二酸化炭素分離方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第5738704号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-11〕、〔12-22〕について訂正することを認める。
特許第5738704号の請求項1、9ないし12、20ないし22に係る特許を維持する。
特許第5738704号の請求項2~8、13~19に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
【理 由】
1.手続の経緯
特許第5738704号の請求項1~22に係る特許についての出願は、平成27年5月1日付けで、その特許権の設定登録がされ、その後、特許異議申立人株式会社ルネッサンス・エナジー・リサーチ(以下、「申立人」という。)より請求項1~22に対して特許異議の申立てがされ、平成28年3月2日付けで取消理由が通知され、平成28年5月2日に特許権者から意見書の提出及び訂正請求がされ、平成28年5月19日付けで訂正請求があった旨の通知がされ、平成28年6月21日に申立人から意見書の提出がされ、平成28年9月1日付けで取消理由通知(決定の予告)がされ、平成28年11月4日に特許権者から意見書の提出及び訂正請求がされ、平成28年12月13日付けで訂正請求があった旨の通知がされ、平成29年1月13日に申立人から意見書が提出されたものである。
2.訂正の適否についての判断
(1)訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は、以下の訂正事項1~25のとおりである(なお、平成28年5月2日の訂正請求は、同年11月4日の訂正請求がなされたため、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。)。
ア.訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「前記透過膜の透過面側の水分を維持する水分維持手段」とあるのを、「前記透過膜の透過面側が飽和水蒸気圧以上であり、かつ、前記供給面側に供給される原料ガスの温度が130℃~180℃であって前記透過膜の透過面側が300kPa~1000kPaで加圧されるように背圧を調整することで、前記透過膜の透過面側の水の蒸発を抑制する蒸発抑制手段、及び前記透過膜の透過面側に20%RH~90%RHに加湿されたスイープガスを供給することで、前記透過膜の透過面側に水分を供給する水分供給手段を有することで、前記透過膜の透過面側の水分を維持する水分維持手段」と訂正する。
イ.訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に「・・を備える二酸化炭素分離装置。」とあるのを、「・・を備え、前記透過膜の厚さが50μm~190μmである二酸化炭素分離装置。」と訂正する。
ウ.訂正事項3
特許請求の範囲の請求項9に「請求項1~8のいずれか1項に記載」とあるのを、「請求項1に記載」と訂正する。
エ.訂正事項4
特許請求の範囲の請求項10に「請求項1~9のいずれか1項に記載」とあるのを、「請求項1又は9に記載」と訂正する。
オ.訂正事項5
特許請求の範囲の請求項11に「請求項1~10のいずれか1項に記載」とあるのを、「請求項1、9又は10に記載」と訂正する。
カ.訂正事項6~12
特許請求範囲の請求項2~8を削除する訂正を行う。
キ.訂正事項13
願書に添付した明細書の段落【0078】を、「図4~図6に二酸化炭素分離性についての実験結果を表として示す。但し、実施例1~10、15、16、20~22は参考例である。表中の「温度」は、サンプル透過膜に供給されるテストガスの温度を示す。「供給側全圧」は、サンプル透過膜の供給面側に供給されるテストガスの圧力を示す。「供給側加湿」は、サンプル透過膜の供給面側に供給されるテストガスの相対湿度を示す。「透過側全圧」は、サンプル透過膜の透過面側に供給されるアルゴンガスの圧力を示す。「透過側加湿」は、サンプル透過膜の透過面側に供給されるアルゴンガスの相対湿度を示す。「乾燥厚み」は、二酸化炭素促進輸送膜の乾燥時の厚みを示し、サンプル透過膜の厚みから支持体の厚みを差し引いた厚さである。「二酸化炭素透過度」および「ガス選択性」は、その数値が高いほど二酸化炭素分離性が良好であることを示す。「結果評価」は、二酸化炭素透過度およびガス選択性の両者の総合で決められ、◎は優、○は良、△は可、×は不良であることを示す。なお、◎、○、△、×の結果評価は、表ごとにおいて相対的に決定したものである。」と訂正する。
ク.訂正事項14
特許請求の範囲の請求項12に「・・透過面側へ透過させる透過膜を用いて」とあるのを、「・・透過面側へ透過させる、厚さ50μm~190μmの透過膜を用いて」と訂正する。
ケ.訂正事項15
特許請求の範囲の請求項12に「・・、前記透過膜の透過面側の水分を維持しつつ・・」とあるのを、「・・、前記透過膜の透過面側が飽和水蒸気圧以上で加圧され、さらに前記供給面側に供給される原料ガスの温度が130℃~180℃であって前記透過膜の透過面側が300kPa~1000kPaで加圧されるように背圧を調整することで、前記透過膜の透過面側の水の蒸発を抑制し、かつ、前記透過膜の透過面側に20%RH~90%RHに加湿されたスイープガスを供給することで、前記透過膜の透過面側に水分を供給することで、前記透過膜の透過面側の水分を維持しつつ・・」と訂正する。
コ.訂正事項16
特許請求の範囲の請求項20に「請求項12~19のいずれか1項に記載」とあるのを、「請求項12に記載」と訂正する。
サ.訂正事項17
特許請求の範囲の請求項21に「請求項12~20のいずれか1項に記載」とあるのを、「請求項12又は20に記載」と訂正する。
シ.訂正事項18
特許請求の範囲の請求項22に「請求項12~21のいずれか1項に記載」とあるのを、「請求項12、20又は21に記載」と訂正する。
ス.訂正事項19~25
特許請求範囲の請求項13~19を削除する訂正を行う。
(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無、実質上特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
ア.訂正事項1について
訂正事項1は、訂正前の請求項1の「水分維持手段」を、特定の「蒸発抑制手段」と、特定の「水分供給手段」と、を有する「水分維持手段」に限定するものであって、特許請求の範囲の減縮を目的とする。
そして、訂正事項1は、訂正前の請求項2~7、明細書の段落【0045】、【0079】、【0081】等の記載から導き出される事項であって新規事項の追加に該当せず、実質上、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでない。
よって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、及び、同条第9項で準用する第126条第5、6項に適合する。
イ.訂正事項2について
訂正事項2は、訂正前の請求項1の「透過膜」を特定の「厚さ」の「透過膜」に限定するものであって、特許請求の範囲の減縮を目的とする。
そして、訂正事項2は、訂正前の請求項8、明細書の段落【0083】等の記載から導き出される事項であって新規事項の追加に該当せず、実質上、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでない。
よって、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、及び、同条第9項で準用する第126条第5、6項に適合する。
ウ.訂正事項3~5について
訂正事項3~5はいずれも、訂正前の請求項9~11が引用する請求項を減らすものであって、特許請求の範囲の減縮を目的とし、新規事項の追加に該当せず、実質上、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでない。
よって、訂正事項3~5は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、及び、同条第9項で準用する第126条第5、6項に適合する。
エ.訂正事項6~12について
訂正事項6~12は、訂正前の請求項2~8を削除するものであって、特許請求の範囲の減縮を目的とし、新規事項の追加に該当せず、実質上、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでない。
よって、訂正事項6~12は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、及び、同条第9項で準用する第126条第5、6項に適合する。
オ.訂正事項13について
訂正事項13は、明細書の記載を、訂正事項1~12、14~25による特許請求の範囲の訂正の内容に整合するように訂正するものであって、明瞭でない記載の釈明を目的とし、新規事項の追加に該当せず、実質上、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでない。
よって、訂正事項13は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号、及び、同条第9項で準用する第126条第5、6項に適合する。
カ.訂正事項14について
訂正事項14は、訂正前の請求項12の「透過膜」を特定の「厚さ」の「透過膜」に限定するものであって、特許請求の範囲の減縮を目的とする。
そして、訂正事項14は、訂正前の請求項19、明細書の段落【0083】等の記載から導き出される事項であって新規事項の追加に該当せず、実質上、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでない。
よって、訂正事項14は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、及び、同条第9項で準用する第126条第5、6項に適合する。
キ.訂正事項15について
訂正事項15は、訂正前の請求項12の「水分を維持」することを、特定の条件で「背圧を調整すること」と、特定の条件で「水分を供給すること」と、によって「水分を維持」することに限定するものであって、特許請求の範囲の減縮を目的とする。
そして、訂正事項15は、訂正前の請求項13~18、明細書の段落【0045】、【0079】、【0081】等の記載から導き出される事項であって新規事項の追加に該当せず、実質上、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでない。
よって、訂正事項15は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、及び、同条第9項で準用する第126条第5、6項に適合する。
ク.訂正事項16~18について
訂正事項16~18はいずれも、訂正前の請求項20~22が引用する請求項を減らすものであって、特許請求の範囲の減縮を目的とし、新規事項の追加に該当せず、実質上、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでない。
よって、訂正事項16~18は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、及び、同条第9項で準用する第126条第5、6項に適合する。
ケ.訂正事項19~25について
訂正事項19~25は、訂正前の請求項13~19を削除するものであって、特許請求の範囲の減縮を目的とし、新規事項の追加に該当せず、実質上、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでない。
よって、訂正事項19~25は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、及び、同条第9項で準用する第126条第5、6項に適合する。
(3)一群の請求項について
訂正前の請求項1~11は、請求項1の記載を他の請求項が引用して記載した関係にあるから一群の請求項であり、訂正事項1~12はこれら一群の請求項についての訂正である。訂正前の請求項12~22は、請求項12の記載を他の請求項が引用して記載した関係にあるから一群の請求項であり、訂正事項14~25はこれら一群の請求項についての訂正である。訂正事項13は、一群の請求項である請求項1~11、12~22の全てに係る明細書の記載の訂正である。
よって、本件訂正は、特許法第120条の5第4項及び同条第9項で準用する第126条第4項に適合する。
(4)平成29年1月13日付け意見書における申立人の主張について
申立人は、本件明細書に添付された図面の【図4】においては、原料ガスの温度が130~180℃である場合の実施例1~9(訂正後の参考例)が開示されているものの、これらの実施例は、透過側全圧が300kPa~1000kPaであっても、透過側の加湿は行われておらず、透過面側に20%RH~90%RHに加湿されたスイープガスを供給する水分供給手段を有するものとなっていないため、水分維持手段が、蒸発抑制手段と、水分供給手段とをともに有することを限定した訂正事項1、15の根拠を本件明細書から見出すことはできないことを主張している(同意見書第10~11頁「(4-2)補足」参照。)。
しかしながら、本件明細書に添付された図面の【図5】等を参照すると、透過側全圧が300kPa~1000kPaの条件を満たし、加湿されたスイープガスを供給して20%RH~90%RHの条件を満たす透過側加湿とする例(実施例11~14)等も開示されていることを考慮すると、本件明細書に添付された図面の【図4】には透過面側に20%RH~90%RHに加湿されたスイープガスを供給する水分供給手段を有するものが開示されていないとしても、透過側全圧が300kPa~1000kPaであり透過面側に20%RH~90%RHに加湿されたスイープガスを供給する水分供給手段を有するものも、本件明細書に記載された事項の範囲内のものといえるから、申立人の主張は採用できない。
(5)むすび
したがって、上記訂正事項はいずれも、特許法第120条の5第2項、及び、同条第9項で準用する第126条第4~6項に適合するので、訂正後の明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-11〕、〔12-22〕について訂正することを認める。
3.特許異議の申立てについて
(1)本件特許発明
本件訂正請求により訂正された請求項に係る発明は、その特許請求の範囲の請求項1、9~12、20~22に記載された次の事項により特定されるとおりのものである(以下、「本件特許発明1、9~12、20~22」という。)
「【請求項1】
ゲル膜、水および二酸化炭素キャリアを有し、100℃以上の原料ガスが供給面側に供給され、前記供給面側に供給される原料ガスに含まれる二酸化炭素を選択的に透過面側へ透過させる透過膜と、
前記透過膜の透過面側が飽和水蒸気圧以上であり、かつ、前記供給面側に供給される原料ガスの温度が130℃~180℃であって前記透過膜の透過面側が300kPa~1000kPaで加圧されるように背圧を調整することで、前記透過膜の透過面側の水の蒸発を抑制する蒸発抑制手段、及び前記透過膜の透過面側に20%RH~90%RHに加湿されたスイープガスを供給することで、前記透過膜の透過面側に水分を供給する水分供給手段を有することで、前記透過膜の透過面側の水分を維持する水分維持手段と、
を備え、前記透過膜の厚さが50μm~190μmである二酸化炭素分離装置。
【請求項2】~【請求項8】削除
【請求項9】
前記透過膜は、前記二酸化炭素キャリアとして、アルカリ金属炭酸塩あるいはアルカリ金属重炭酸塩あるいはアルカリ金属水酸化物を有する請求項1に記載の二酸化炭素分離装置。
【請求項10】
前記透過膜は、さらに添加剤として、窒素含有化合物あるいは硫黄含有化合物を有する請求項1又は9に記載の二酸化炭素分離装置。
【請求項11】
前記原料ガスには、水蒸気が含まれている請求項1、9又は10に記載の二酸化炭素分離装置。
【請求項12】
ゲル膜、水および二酸化炭素キャリアを有し、100℃以上の原料ガスが供給面側に供給され、前記供給面側に供給される原料ガスに含まれる二酸化炭素を選択的に透過面側へ透過させる、厚さ50μm~190μmの透過膜を用いて、前記透過膜の透過面側が飽和水蒸気圧以上で加圧され、さらに前記供給面側に供給される原料ガスの温度が130℃~180℃であって前記透過膜の透過面側が300kPa~1000kPaで加圧されるように背圧を調整することで、前記透過膜の透過面側の水の蒸発を抑制し、かつ、前記透過膜の透過面側に20%RH~90%RHに加湿されたスイープガスを供給することで、前記透過膜の透過面側に水分を供給することで、前記透過膜の透過面側の水分を維持しつつ二酸化炭素を分離する二酸化炭素分離方法。
【請求項13】~【請求項19】削除
【請求項20】
前記透過膜は、前記二酸化炭素キャリアとして、アルカリ金属炭酸塩あるいはアルカリ金属重炭酸塩あるいはアルカリ金属水酸化物を有する請求項12に記載の二酸化炭素分離方法。
【請求項21】
前記透過膜は、さらに添加剤として、窒素含有化合物あるいは硫黄含有化合物を有する請求項12又は20に記載の二酸化炭素分離方法。
【請求項22】
前記原料ガスには、水蒸気が含まれている請求項12、20又は21に記載の二酸化炭素分離方法。」
(2)特許異議申立の理由及び証拠
本件特許異議の申立ての理由及び証拠は次のとおりである。
[理由1]訂正前の請求項1、2、6、8~13、17、19~22に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であって特許法第29条第1項第3号に該当し、また、訂正前の請求項1~22に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2~4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、訂正前の請求項1~22に係る発明の特許は、特許法第113条第2項に該当し、取り消すべきものである。
[理由2]訂正前の請求項1~3、8~14、19~22に係る発明は、甲第2号証に記載された発明であって特許法第29条第1項第3号に該当し、また、訂正前の請求項1~22に係る発明は、甲第2号証に記載された発明及び甲第1、3~4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、訂正前の請求項1~22に係る発明の特許は、特許法第113条第2項に該当し、取り消すべきものである。
[理由3]訂正前の請求項1、4、5、7~12、15、16、18~22係る発明は、甲第3号証に記載された発明であって特許法第29条第1項第3号に該当し、また、訂正前の請求項1~22に係る発明は、甲第3号証に記載された発明及び甲第1~2、4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、訂正前の請求項1~22に係る発明の特許は、特許法第113条第2項に該当し、取り消すべきものである。
[理由4]訂正前の請求項1~22に係る発明は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された発明ではなく特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、訂正前の請求項1~22に係る発明の特許は、特許法第113条第4項に該当し、取り消すべきものである。
[理由5]本件特許明細書の発明の詳細な説明には不備があり、訂正前の請求項1~22に係る発明は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、訂正前の請求項1~22に係る発明の特許は、特許法第113条第4項に該当し、取り消すべきものである。
[証拠]
甲第1号証:特開2009-195900号公報
甲第2号証:SCEJ 42nd Autumn Meeting(Kyoto,2010)第1064頁
甲第3号証:Journal of Membrane Science 286(2006)第310-321頁
甲第4号証:化学便覧 基礎編 改訂5版 II-182
(3)甲第1~4号証の記載事項
ア.甲第1号証
(摘示1-1)「【請求項1】
所定の主成分ガスに少なくとも二酸化炭素と水蒸気が含まれる原料ガスをCO2促進輸送膜の原料側面に100℃以上の供給温度で供給して、前記CO2促進輸送膜を透過した二酸化炭素を透過側面から取り出す二酸化炭素分離装置であって、
前記CO2促進輸送膜が、ポリビニルアルコール-ポリアクリル酸共重合体ゲル膜に炭酸セシウム若しくは重炭酸セシウム若しくは水酸化セシウムからなる添加剤を添加したゲル層を親水性の多孔膜に担持させて形成されることを特徴とする二酸化炭素分離装置。」
(摘示1-2)「【0086】
図5に示すように、各サンプル10は、ステンレス製の流通式ガス透過セル11(膜面積:2.88cm2)の原料側室12と透過側室13の間に、2枚のフッ素ゴム製ガスケットをシール材として用いて固定されている。原料ガス(CO2、H2、H2Oからなる混合ガス)FGを、2.24×10-2mol/minの流量で原料側室12に供給し、スイープガス(Arガス)SGを、8.18×10-4mol/minの流量で透過側室13に供給する。原料側室12の圧力は、排気ガスの排出路の途中の冷却トラップ14の下流側に設けられた背圧調整器15で調整される。透過側室13の圧力は大気圧である。透過側室13から排出するスイープガスSG’中の水蒸気を冷却トラップ16で除去した後のガス組成をガスクロマトグラフ17で定量し、これとスイープガスSG中のArの流量よりCO2及びH2のパーミアンス[mol/(m2・s・kPa)]を計算し、その比より、CO2/H2選択性を算出する。なお、冷却トラップ16とガスクロマトグラフ17の間にも背圧調整器19が設けられており、これによって透過側室13の圧力が調整される。」
(摘示1-3)「【0119】
[本発明膜の第2実施形態]
本発明膜の第2実施形態(以下、適宜「本実施形態」と称する)につき、図14~図17の各図を参照して説明する。なお、本実施形態は、本発明膜の第1実施形態と比較して本発明膜及び本発明方法の一部構成が異なるのみであるため、同一の構成要素についてはその旨を記載して説明を割愛する。
・・・
【0121】
(実施例1)
まず、PVA/PAA共重合体(例えば、住友精化製の仮称SSゲル)を1gに水20gを加えた後、室温で攪拌してゲルを溶解させる。次に、これにグルタルアルデヒドを0.008~0.0343g程度加えた後、95℃の温度条件下で15時間攪拌する。そして、これにCs2CO3を2.33g加えて更に室温で攪拌することでキャスト溶液を得る。即ち、実施例1では、ゲル溶解工程、グルタルアルデヒド添加工程、高温下での攪拌工程、Cs2CO3添加工程、室温下での攪拌工程、の順に処理を行うことでキャスト溶
液を作製する。
・・・
【0126】
図14は、実施例1の方法で作製されたキャスト溶液を用いて作製された本発明膜による(a)CO2パーミアンスRCO2、(b)H2パーミアンスRH2、及び(c)CO2/H2選択性を、原料側圧力を200kPa~600kPaの範囲の加圧状態で測定した結果を示す。なお、図13では、キャスト溶液作製の際に添加されるグルタルアルデヒドの添加量を異ならせて各データの測定を行った。即ち、グルタルアルデヒドの添加量として、(1)0.008g、(2)0.0153g、(3)0g(不添加)の3パターンで実験を行った。なお、グラフ上では、グルタルアルデヒドを「GA」と略記している(以下のグラフも同様)。
【0127】
また、実験条件としては、温度条件を160℃、原料ガスFGをCO2:5.0%、H2:45%、H2O:50%の混合比率(モル%)、原料ガスFGの流量を25℃・1atm下で360cm3/min、透過側の圧力を原料側の圧力から20kPa減、スイープガスSGの流量を25℃・1atm下で40cm3/minとした。なお、この実験条件は、各実施例とも共通である。」(図14の掲載は省略する。)
イ.甲第2号証
(摘示2-1)
「2.実験
促進輸送膜はキャスト法により作製した。水溶性高分子,CO2キャリア,種々の添加剤の混合水溶液を、ガラス板上にキャストし、乾燥させることで促進輸送膜を得た。作製した膜は支持膜である疎水性PTFE多孔膜で挟み、ガス透過実験を行った。
ガス透過実験は以下の手法で行った。透過セルのフィード側にCO2、N2混合ガス(CO2:10%、N2:90%)と水蒸気を供給し、透過側にはスイープガス(He)を供給した。膜を透過したガスを含むスイープガスを、ガスクロマトグラフで分析し、その組成から透過性能(CO2透過速度、N2透過速度、CO2/N2選択性)を算出した。温度は110~130℃、フィード側圧力は200kPa、透過側圧力は180kPaで実験を行った。」(第1064頁左欄、Fig.1の掲載は省略する。)
ウ.甲第3号証
(摘示3-1)「架橋されたポリ(ビニルアルコール)にアミンを含有しているCO2選択的ポリマー膜」(第310頁の表題)
(摘示3-2)「活性層は高密度であり、熱処理後の厚さは約20~80μmであった。」(第312頁右欄第30~31行)
(摘示3-3)「2.3.気体透過測定
・・・気体透過試験は、温度の正確な制御について、オーブン(・・)も内部で透過セルを用いることにより行われた。透過装置の概略図が図1に示される。・・適正量の水を、2つのVarian Proster210ポンプ(・・)を用いて2つの容器に圧送することにより、フィードガスおよびスイープガスが透過セルに入る前に、それぞれ、フィードガスおよびスイープガスの含水量を制御した。」(第312頁右欄第33~53行)
(摘示3-4)「図1 気体透過装置の概略図
(以下は、図1における用語)
・N2 purge:N2パージ
・water reservoir:貯水槽
・water pump:水ポンプ
・feed gas:フィードガス
・mass flow meter:質量流量計
・sweep gas:スイープガス
・oven:オーブン
・humidifier:加湿器
・permeation cell:透過セル
・back pressure regulator:背圧調整器
・water knockout:脱水」
(第313頁.図1の掲載は省略する。)
(摘示3-5)「特段の断りがなければ、この研究において用いられる膜は、50重量%のPVA、18.3重量%のKOH、20.7重量%のAIBA-K及び11.0重量%のポリ(アリルアミン)を含有した。・・図4は、膜におけるCO2輸送機構の概略図を示す。合成された膜は、輸送のために、AIBA-K及びKHCO3-K2CO3(KOHから変換された)の両方を移動性の担体として、並びにポリ(アリルアミン)をCO2固定された担体として含有した。」(第314頁左欄第4~14行)
(摘示3-6)「3.4 水含量の分離性能に対する影響
この作業では、フィードガスおよびスイープガスの両方が、制御された量の水を供給された後、透過セルに入った。120℃及び150℃での膜分離性能に対する水含量の影響が、BHA微多孔テフロン支持体上で厚み~80μmの膜を用いて調査された。供給圧は2.0気圧であり、その一方で透過圧は約1.0気圧であった。 フィードガスは、20%のCO2、40%のH2及び40%のN2からなった。図9は120℃及び150℃においてスイープ側での水含量の関数としてCO2透過度を示す。スイープ側の水含量が増大するにつれ、CO2透過度はほとんど線形に増大した。水含量が58%(mol)から93%(mol)に増大したとき、120℃でのCO2透過度は3700バーラーから8200バーラーと同じくらい高くまで増大し、一方、150℃での透過度は920バーラーから2700バーラーまで増大した。」(第316頁左欄第15行~右欄第2行)
(摘示3-7)「図9 CO2透過度対スイープ側の水含量
(以下は、図9における用語)
(□)T=120℃;(Δ)T=150℃;フィード水含量=41mol%;供給圧=2.0気圧
・CO2 permeability(Barrers):CO2透過度(バーラー)
・sweep side water content(mol%):スイープ側水含量(mol%)」
(第316頁.図9の掲載は省略する。)
(摘示3-8)「図10は、120℃及び150℃においてスイープ側における水濃度の関数としてCO2/H2選択性を示す。CO2/H2選択性は、両温度において、スイープ側水含量が増大するにつれ、増大した。スイープ側水含量が93mol%であったとき、120℃及び150℃でのCO2/H2選択性はそれぞれ450及び270に到達した。この増大は、H2の輸送が水含量の増大によっては有意に影響されなかった一方でCO2透過度が上昇したことによって説明され得る。」(第316頁右欄第12~20行)
(摘示3-9)「図10 CO2/H2選択性対スイープ側の水含量
(□)T=120℃;(Δ)T=150℃;フィード水含量=41mol%;供給圧=2.0気圧」(第316頁.図10の掲載は省略する。)
(摘示3-10)「フィード側の含水量も、CO2透過度及びCO2/H2選択性に有意な影響があった。表1は120℃における影響を示す。フィード流における水含量が増大するにつれ、CO2透過度及びCO2/H2選択性の両方が増大した。」(第316頁右欄第21~24行)
エ.甲第4号証
(摘示4-1)水の蒸気圧が110℃、115℃で、1074.6Torr、1268.0Torrであることを示す表。
(4)取消理由通知(決定の予告)について
平成28年9月1日付けで特許権者に通知した取消理由は、上記2.の訂正前の請求項1~22に係る特許に対して、甲第3号証を主引用例とする特許法第29条第1項第3号及び同条第2項の理由に基づくものである。
ア.甲第3号証に記載された発明
上記(3)ウ.に摘示した事項(摘示3-1、3、4、5~10等参照。)からみて、甲第3号証には、次の発明が記載されていると認められる(以下、「引用発明」という。)。
「架橋されたポリビニルアルコールにアミンを含有する透過膜であって、CO2輸送のために、移動性の担体として、KHCO3-K2CO3(KOHから変換された)及びポリ(アリルアミン)をCO2固定された担体、を含有させた、膜厚が80μm以下であり、 二酸化炭素と水が含まれる供給ガスが供給面側に120℃の供給温度で供給され、 供給ガスに含まれる二酸化炭素を選択的に透過面側へ透過させる二酸化炭素選択的ポリマー膜と、
透過面側に供給されるスイープガスの水分量を、58-93mol%とする加湿器と、
を備え、
20%のCO2、40%のH2及び40%のN2からなるフィードガスが、制御された量の水を供給された後導入される、
二酸化炭素分離装置。」
イ.本件特許発明1について
本件特許発明1と引用発明とを対比する。
引用発明の「架橋されたポリビニルアルコールにアミンを含有する透過膜であって、CO2輸送のために、移動性の担体として、KHCO3-K2CO3(KOHから変換された)及びポリ(アリルアミン)をCO2固定された担体、を含有させた」「二酸化炭素選択的ポリマー膜」は、本件特許発明1の「ゲル膜・・供給面側に供給される原料ガスに含まれる二酸化炭素を選択的に透過面側へ透過させる透過膜」に相当する。
また、引用発明の「膜厚が80μm以下」は、本件特許発明1の「厚さが50μm~190μm」と「厚さが50μm~80μm」において重複する(なお、甲第3号証には、膜層の厚さを約「20~80μm」の範囲とすることも記載されている(摘示3-2)参照。)。
また、引用発明の「二酸化炭素と水が含まれる供給ガスが供給面側に120℃の供給温度で供給され」は、本件特許発明1の「水および二酸化炭素キャリアを有し、100℃以上の原料ガスが供給面側に供給され」に相当する。
また、引用発明の「透過面側に供給されるスイープガスの水分量を、58-93mol%とする加湿器」は、「水分量を58-93mol%とする」ことは「%RH」にすれば「20%RH~90%RHに加湿」することに包含される乃至重複するものと認められるから、本件特許発明1の「透過膜の透過面側に20%RH~90%RHに加湿されたスイープガスを供給することで、前記透過膜の透過面側に水分を供給する水分供給手段」に相当する。
また、引用発明は、そのような水分供給手段を有することによって、透過膜の透過面側の水分が維持されることは明らかであるから、「透過膜の透過面側の水分を維持する水分維持手段」を有するといえる。
そして、本件特許発明1は、フィードガスの水分について特定するものではないから、引用発明の「20%のCO2、40%のH2及び40%のN2からなるフィードガスが、制御された量の水を供給された後導入される」は、本件特許発明1との相違点とはならないものである。
そうすると、両者は、
「ゲル膜、水および二酸化炭素キャリアを有し、100℃以上の原料ガスが供給面側に供給され、前記供給面側に供給される原料ガスに含まれる二酸化炭素を選択的に透過面側へ透過させる透過膜と、
前記透過膜の透過面側に20%RH~90%RHに加湿されたスイープガスを供給することで、前記透過膜の透過面側に水分を供給する水分供給手段を有することで、前記透過膜の透過面側の水分を維持する水分維持手段と、
を備え、前記透過膜の厚さが50μm~80μmである二酸化炭素分離装置。」の点で一致し、次の点で相違するといえる。
相違点1:本件特許発明1は、「前記透過膜の透過面側が飽和水蒸気圧以上であり、かつ、前記供給面側に供給される原料ガスの温度が130℃~180℃であって前記透過膜の透過面側が300kPa~1000kPaで加圧されるように背圧を調整することで、前記透過膜の透過面側の水の蒸発を抑制する蒸発抑制手段」を有するのに対して、引用発明は、「水が含まれる供給ガスが供給面側に120℃の供給温度で供給され」るものであって「供給面側に供給される原料ガスの温度が130℃~180℃で」ないから、原料ガスの温度が130℃~180℃である条件において「透過膜の透過面側が300kPa~1000kPaで加圧されるように背圧を調整することで、前記透過膜の透過面側の水の蒸発を抑制する蒸発抑制手段」を有するものでもない点。
そこで、相違点1について検討する。
(相違点1について)
二酸化炭素分離装置において、透過膜の透過面側に、実質的に水分の蒸発抑制の働きをする背圧調整器を設けることは、例えば、甲第1号証(摘示1-2等参照。【図5】の番号19の部材。)に記載されるように周知と認められるが、斯かる周知技術を考慮しても、甲第1号証の記載から、引用発明において、原料ガスの温度を130℃~180℃としたうえで「透過膜の透過面側が300kPa~1000kPaで加圧されるように背圧を調整すること」が、当業者が容易になし得たこととまではいえない。
また、甲第2、4号証に記載された発明を考慮しても、斯かる点を当業者が容易になし得たこととはいえない。
よって、相違点1は実質的な相違点であり、本件特許発明1は甲第3号証に記載された発明であるとはいえないし、甲第1~2、4号証に記載された発明を考慮しても、甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
ウ.本件特許発明9~11について
本件特許発明9~11は、本件特許発明1を引用して記載されたものであり、本件特許発明1と同様の発明特定事項を有するものであるから、本件特許発明9~11と引用発明とを対比すると、上記イ.に記載した相違点1と同様の点において相違するといえる。
そして、その相違点については、上記イ.において、相違点1について記載した理由と同様の理由によって実質的な相違点と認められるから、その余の点について検討するまでもなく、本件特許発明9~11は甲第3号証に記載された発明であるとはいえないし、甲第1~2、4号証に記載された発明を考慮しても、甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
エ.本件特許発明12
本件特許発明12に係る「二酸化炭素分離方法」の発明は、本件特許発明1に係る「二酸化炭素分離装置」を用いた方法に相当する。
これに対し、甲第3号証には、上記ア.で認定した引用発明に係る二酸化炭素分離装置によって二酸化炭素を分離する二酸化炭素分離方法の発明も開示されるものと認められ、そのような二酸化炭素分離方法の発明と、本件特許発明12とを対比すると、上記イ.に記載した相違点1と同様の相違点が工程上あるものといえる。
そして、その相違点については、上記イ.において、相違点1について記載した理由と同様の理由によって実質的な相違点といえるから、その余の点について検討するまでもなく、本件特許発明12は甲第3号証に記載された発明であるとはいえないし、甲第1~2、4号証に記載された発明を考慮しても、甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
オ.本件特許発明20~22について
本件特許発明20~22は、本件特許発明12を引用して記載されたものであり、本件特許発明12と同様の発明特定事項を有するものであるから、本件特許発明20~22と引用発明とを対比すると、上記イ.に記載した相違点1と同様の点において相違するといえ、その相違点については、上記イ.において、相違点1について記載した理由と同様の理由によって実質的な相違点といえるから、その余の点について検討するまでもなく、本件特許発明20~22は甲第3号証に記載された発明であるとはいえないし、甲第1~2、4号証に記載された発明を考慮しても、甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
カ.申立人の意見について
申立人は、平成29年1月13日付け意見書において、引用発明(甲第3号証に記載された発明)において、供給面側に供給される原料ガスの温度が130℃~180℃であって前記透過膜の透過面側が300kPa~1000kPaで加圧されるように背圧を調整することは、甲第1号証に記載されるように当業者の設計事項であり、また、透過膜の透過面側を飽和水蒸気圧以上とすることは、例えば、甲第2号証に記載されているように本件出願時に当業者が適宜行っていることであるから、本件特許発明1、9~11、12、20から22は、甲第3号証と甲第1号証に記載される発明に基づいて当業者が容易になし得たこと等を主張していると認められる(同意見書第4~8頁「(3-1)訂正後の本件特許発明1」~「(3-4)訂正後の本件特許発明20~22」参照。)。
しかしながら、引用発明は、供給面側に供給される原料ガスの温度が120℃のものであるところ、甲第1号証に記載された発明に基づいて、当該温度を130℃~180℃としたうえで、「透過膜の透過面側が300kPa~1000kPaで加圧されるように背圧を調整することで、前記透過膜の透過面側の水の蒸発を抑制する蒸発抑制手段」を有するものとし、さらに、甲第2、4号証の技術事項を参照して、「透過膜の透過面側を飽和水蒸気圧以上」とする、という推考の過程を経て、引用発明を本件特許発明1の構成とすることは、本件特許発明1を知らずして当業者が容易になし得たもの、とすることはできない。
よって、申立人の主張は採用できない。
キ.まとめ
以上のとおり、本件特許発明1、9~12、20~22は、甲第3号証に記載された発明ではなく、また、甲第3号証に記載された発明及び甲第1~2、4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(5)取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
取消理由通知(決定の予告)において採用した特許異議申立理由は、[理由3](上記(4)参照。)であるので、[理由1]、[理由2]、[理由4]、[理由5]について検討する。
ア.[理由1]について
(ア)甲第1号証に記載された発明
甲第1号証には、上記(3)ア.に摘示したとおりの事項が記載されており、その特許請求の範囲の【請求項1】(摘示1-1)、【0126】~【0127】(摘示1-3)等の記載事項からみて、甲第1号証には、次の発明が記載されていると認められる(以下、「甲1発明」という。)。
「ポリビニルアルコール-ポリアクリル酸共重合体ゲル膜に炭酸セシウム若しくは重炭酸セシウム若しくは水酸化セシウムからなる添加剤を添加したゲル層、及び水を有し、
所定の主成分ガスに少なくとも二酸化炭素と水蒸気が含まれる原料ガスをCO2促進輸送膜の原料側面に100℃以上の供給温度で供給して、
CO2促進輸送膜を透過した二酸化炭素を透過側面から取り出す、
原料ガスの温度が160℃である場合に、CO2促進輸送膜の透過側面が180kPa~580kPaで加圧されるように背圧を調整する、
二酸化炭素分離装置。」
(注.「180kPa~580kPa」は、【0126】の「原料側圧力を200kPa~600kPa」及び【0127】の「透過側の圧力を原料側の圧力から20kPa減」との記載に基づいて換算したもの。)
(イ)検討
本件特許発明1と甲1発明とを対比すると、本件特許発明が「透過膜の透過面側に20%RH~90%RHに加湿されたスイープガスを供給することで、透過膜の透過面側に水分を供給する水分供給手段を有する」、「透過膜の透過面側を飽和水蒸気圧以上とする」ものであるのに対して、甲1発明はそのような水分供給手段を有さず、透過膜の透過面側が飽和水蒸気圧以上であるか不明である点で、両者は少なくとも、相違する。
そして、甲第3号証に、加湿されたスイープガスを供給することで、透過膜の透過面側に水分を供給する水分供給手段」が記載され、甲第4号証を参酌すると、甲第2号証に「透過膜の透過面側を飽和水蒸気圧以上とする」例が記載されているとしても、斯かる水分供給手段や、透過膜の透過面側を飽和水蒸気圧以上とする構成を、甲1発明で採用する動機付けがあったものとは認められないし、甲第4号証を考慮してもそれらの点を当業者が容易になし得たものであるとはいえない。
そして、本件特許発明9~12、20~22は、本件特許発明1と同様の発明特定事項を有するから、本件特許発明1と同様の点で相違し、斯かる相違点については、本件特許発明1についての理由と同様の理由により、甲第2~4号証に記載された発明を考慮しても、甲1発明に基づいて当業者が容易になし得たものともいえない。
(ウ)まとめ
以上のとおり、本件特許発明1、9~12、20~22は、甲第1号証に記載された発明ではなく、また、甲第1号証及び甲第2~4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
イ.[理由2]について
(ア)甲第2号証に記載された発明
甲第2号証には、上記(3)イ.に摘示したとおりの事項が記載されており、その摘示事項(摘示2-1)等からみて、甲第2号証には、次の発明が記載されていると認められる(以下、「甲2発明」という。)
「水溶性高分子、水、二酸化炭素キャリア及び種々の添加剤を有し、
110~130℃の二酸化炭素、窒素混合ガスと水蒸気がフィード側に供給され、
フィード側に供給される二酸化炭素、窒素混合ガスに含まれる二酸化炭素を選択的に透過側へ透過させる促進輸送膜と、
二酸化炭素、窒素混合ガスの温度が110~130℃の場合、透過側の圧力を180kPaに調整する手段と、を備える
二酸化炭素分離装置。」
(当審注:180kPaは甲第4号証に掲載されたデータによって換算すると130℃での飽和水蒸気圧未満である。)
(イ)検討
本件特許発明1と甲2発明とを対比すると、本件特許発明が「透過膜の透過面側に20%RH~90%RHに加湿されたスイープガスを供給することで、透過膜の透過面側に水分を供給する水分供給手段を有する」ものであるのに対して、甲2発明はそのような水分供給手段を有さない点で、両者は少なくとも、相違する。
そして、甲第3号証に、加湿されたスイープガスを供給することで、透過膜の透過面側に水分を供給する水分供給手段」が記載されているとしても、斯かる水分供給手段を、甲2発明で採用する動機付けがあったものとは認められないし、甲第1、4号証を考慮してもそれらの点を当業者が容易になし得たものであるとはいえない。
そして、本件特許発明9~12、20~22は、本件特許発明1と同様の発明特定事項を有するから、本件特許発明1と同様の点で相違し、斯かる相違点については、本件特許発明1についての理由と同様の理由により、甲第2~4号証に記載された発明を考慮しても、甲1発明に基づいて当業者が容易になし得たものともいえない。
(ウ)まとめ
以上のとおり、本件特許発明1、9~12、20~22は、甲第2号証に記載された発明ではなく、また、甲第2号証及び甲第1、3~4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
ウ.[理由4、5]について
(ア)理由4、5について
申立人は、特許異議申立書において、本件明細書の第5~6図には、二酸化炭素透過度及びガス選択性の両者の総合で決められる結果評価について、比較例と同じく「×」である例が、実施例15、16、22として含まれているから、訂正前の請求項1~22に係る発明は、その課題を解決できない例を含むので特許法第36条第6項第1号の要件を満たさないこと(理由4)、及び、訂正前の請求項1~22に係る発明の一部(例えば、実施例15、16、22)は、発明の詳細な説明において、その課題を解決することができるように記載されていないので特許法第36条第4項第1号の要件を満たさないこと(理由5)を申立理由として主張している(特許異議申立書第51頁「(4-6)理由4,5」参照。)。
しかしながら、本件訂正請求によって、特許請求の範囲が減縮され(訂正事項1、2、14、15等参照)、実施例15、16、22等の実施例は、参考例であって本件特許発明の実施例ではないものとなった(訂正事項13参照)から、特許異議申立書における特許法第36条第6項第1号、及び、同条第4項第1号による申立理由は、理由のないものとなった。
(イ)平成29年1月13日付け意見書における申立人の主張について
申立人は、本件明細書に添付された図面の【図4】の実施例1~9(訂正後の参考例)は、透過側全圧が300kPa~1000kPaであっても、透過側の加湿は行われておらず、透過面側に20%RH~90%RHに加湿されたスイープガスを供給する水分供給手段を有するものとなっていないため、水分維持手段が、蒸発抑制手段と、水分供給手段とをともに有することを限定した本件特許発明1~22は、特許法第36条第6項第1号の要件を満たさないことを主張している(同意見書第10~11頁「(4-2)補足」参照。)。
しかしながら、上記「2.(4)」に記載したとおり、蒸発抑制手段と、水分供給手段とをともに有する水分維持手段は、本件明細書に記載された事項の範囲内のものであって、それによって、本件特許発明の課題を解決できるものと当業者が認識できないとはいえないから、申立人の主張は採用できない。
(ウ)まとめ
以上のとおり、本件特許発明1、9~12、20~22についての特許は、特許法第36条第6項第1号、及び、同条第4項第1号に規定する要件を満たす特許出願に対してされたものである。
4.むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された理由によっては、本件請求項1、9~12、20~22に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1、9~12、20~22に係る特許を取り消すべき理由を発見しない
そして、本件訂正により、本件請求項2~8、13~19に係る発明の特許は存在しなくなった。
よって、結論のとおり決定する。
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2015-700345