特許拒絶査定不服審判
2015-006625
重症の集中治療患者への人工栄養のための脂肪乳剤
- 審判番号
- 2015-006625
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2011-536823外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2015年04月08日
- 審決日
- 2016年10月03日
- 公報発行日
- 2017年04月28日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】ベー・ブラウン・メルズンゲン・アクチエンゲゼルシャフト
- 【請求人代理人】特許業務法人 津国
- 分類
- P18 .536-Z (A61K) / P18 .537-Z (A61K)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法36条4項1号特許法36条6項1号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号、特許法第17条の2第5項、特許法第17条の2第5項第1号
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特願2011-536823「重症の集中治療患者への人工栄養のための脂肪乳剤」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 5月27日国際公開、WO2010/057804、平成24年 4月19日国内公表、特表2012-509292〕について、次のとおり審決する。
結論
【結 論】
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
【理 由】
1 手続の経緯
本願は、平成21年11月 9日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2008年11月18日 (DE)ドイツ連邦共和国)を国際出願日とする出願であって、平成24年11月 7日付け手続補正書が提出され、平成26年 1月15日付け拒絶理由通知に対して平成26年 4月21日付けで意見書及び手続補正書が提出された後、平成26年12月 4日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成27年 4月8日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出されたものである。
2 平成27年 4月8日提出の手続補正書による手続補正(以下「本件補正」という。)の適否
(1)本件補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲を
補正前(平成26年 4月21日付け手続補正書を参照)の
「 【請求項1】
式(I):
【化4】
[式中、基R1、R2またはR3のうち少なくとも1個は、独立して、5~15個の奇数の炭素原子を有するアルカノイル基である]
で示される少なくとも1個のトリグリセリド(A)を含有する脂肪乳剤を含む、CIP(重症多発神経障害)および/またはCIM(重症ミオパシー)の予防または治療のための医薬製剤。
【請求項2】
脂肪乳剤が、(A)とは異なる、そして、カプリル酸、カプリン酸またはラウリン酸を包含する中鎖脂肪酸、ミリスチン酸、パルミチン酸またはステアリン酸を包含する長鎖飽和脂肪酸、パルミトレイン酸またはオレイン酸を包含するモノ不飽和脂肪酸、ならびに、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸、リノール酸およびγ-リノレン酸を包含するオメガ-3およびオメガ-6型多価不飽和脂肪酸より成る群から選ばれる少なくとも1個の脂肪酸残基を有する少なくとも1個のさらなるトリグリセリド(B)を含むことを特徴とする、請求項1に記載の医薬製剤。
【請求項3】
トリグリセリド(A)が、ランダム化されたまたは化学的に定義された構造トリグリセリドの形態であることを特徴とする、請求項1または2に記載の医薬製剤。
【請求項4】
トリグリセリド(A)中の基R1、R2またはR3のうち少なくとも1個が、独立して、5~9個の炭素原子の鎖長を有することを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載の医薬製剤。
【請求項5】
トリグリセリド(A)中の基R1、R2またはR3のうち少なくとも1個が、独立してn-ヘプタノイルであることを特徴とする、請求項1~4のいずれか1項に記載の医薬製剤。
【請求項6】
トリグリセリド(A)がトリヘプタノインであることを特徴とする、請求項1~5のいずれか1項に記載の医薬製剤。
【請求項7】
トリグリセリドの量が医薬製剤総量を基準として5~30%(重量)であることを特徴とする、請求項1~6のいずれか1項に記載の医薬製剤。
【請求項8】
トリグリセリドの量が医薬製剤総量を基準として10~20%(重量)であることを特徴とする、請求項7に記載の医薬製剤。
【請求項9】
トリグリセリド(A)の量が乳剤中の全トリグリセリド総重量を基準として50~80%(重量)であることを特徴とする、請求項1~8のいずれか1項に記載の医薬製剤。
【請求項10】
トリグリセリド(A)の量が乳剤中の全トリグリセリド総重量を基準として60~70%(重量)であることを特徴とする、請求項1~9のいずれか1項に記載の医薬製剤。」から、
補正後の
「 【請求項1】
少なくとも1個のトリグリセリド(A)を含有する脂肪乳剤を含む、CIP(重症多発神経障害)および/またはCIM(重症ミオパシー)の予防または治療のための医薬製剤であって、トリグリセリド(A)が、トリヘプタノインであり、そして、脂肪乳剤が、(A)とは異なり、そして、カプリル酸、カプリン酸またはラウリン酸を包含する中鎖脂肪酸、ミリスチン酸、パルミチン酸またはステアリン酸を包含する長鎖飽和脂肪酸、パルミトレイン酸またはオレイン酸を包含するモノ不飽和脂肪酸、ならびに、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸、リノール酸およびγ-リノレン酸を包含するオメガ-3およびオメガ-6型多価不飽和脂肪酸より成る群から選ばれる少なくとも1個の脂肪酸残基を有する少なくとも1個のさらなるトリグリセリド(B)を含む、医薬製剤。
【請求項2】
トリグリセリドの量が医薬製剤総量を基準として5~30%(重量)であることを特徴とする、請求項1に記載の医薬製剤。
【請求項3】
トリグリセリドの量が医薬製剤総量を基準として10~20%(重量)であることを特徴とする、請求項2に記載の医薬製剤。
【請求項4】
トリグリセリド(A)の量が乳剤中の全トリグリセリド総重量を基準として50~80%(重量)であることを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載の医薬製剤。
【請求項5】
トリグリセリド(A)の量が乳剤中の全トリグリセリド総重量を基準として60~70%(重量)であることを特徴とする、請求項1~4のいずれか1項に記載の医薬製剤。」に変更するものである。
(2)補正の目的
本件補正は、拒絶査定不服審判の請求と同時になされたものであるところ、特許法第17条の2第5項において、同条第1項第4号に掲げる場合において特許請求の範囲についてする補正は、同条第5項第1号乃至第4号に掲げる事項(請求項の削除、特許請求の範囲の減縮、誤記の訂正、明瞭でない記載の釈明)を目的とするものに限るとされているので、その規定を満たすか検討する。
本件補正前後の発明特定事項を対比すると、本件補正は、
(i)補正前の請求項1を引用する請求項2を引用する請求項6を、請求項1及び請求項2を引用しない形式とした上で、補正後の請求項1とし、
(ii)補正前の請求項1を引用する請求項2を引用する請求項6を引用する請求項7を、補正後の請求項1を引用する形式とした上で、補正後の請求項2とし、
(iii)補正前の請求項1を引用する請求項2を引用する請求項6を引用する請求項7を引用する請求項8を、補正後の請求項2を引用する形式とした上で、補正後の請求項3とし、
(iv)補正前の請求項1を引用する請求項2を引用する請求項6を引用する請求項7を引用する請求項8を引用する請求項9を、補正後の請求項3を引用する形式とした上で、補正後の請求項4とし、
(v)補正前の請求項1を引用する請求項2を引用する請求項6を引用する請求項7を引用する請求項8を引用する請求項9を引用する請求項10を、補正後の請求項4を引用する形式とした上で、補正後の請求項5とし、
(vi)補正前の請求項1~5を削除したものである。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第5項第1号に掲げる請求項の削除を目的とするものに該当し、適法にされたものである。
3 本願発明
本願の請求項1~5に係る発明は、平成27年 4月8日提出の手続補正書による手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1~5に記載された事項により特定されるとおりのものであり、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」ともいう。)は以下のとおりのものである。
「 【請求項1】
少なくとも1個のトリグリセリド(A)を含有する脂肪乳剤を含む、CIP(重症多発神経障害)および/またはCIM(重症ミオパシー)の予防または治療のための医薬製剤であって、トリグリセリド(A)が、トリヘプタノインであり、そして、脂肪乳剤が、(A)とは異なり、そして、カプリル酸、カプリン酸またはラウリン酸を包含する中鎖脂肪酸、ミリスチン酸、パルミチン酸またはステアリン酸を包含する長鎖飽和脂肪酸、パルミトレイン酸またはオレイン酸を包含するモノ不飽和脂肪酸、ならびに、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸、リノール酸およびγ-リノレン酸を包含するオメガ-3およびオメガ-6型多価不飽和脂肪酸より成る群から選ばれる少なくとも1個の脂肪酸残基を有する少なくとも1個のさらなるトリグリセリド(B)を含む、医薬製剤。」
4 原査定の拒絶の理由
本願発明に対する原査定の拒絶の理由は、平成26年 1月15日付け拒絶理由通知に示した
「(前略)
4.この出願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
5.この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
(中略)
<理由4、5>
(1)請求項1-10、16、17には、重症多発神経障害や重症ミオパシー、敗血症の改善、及び、非経口栄養剤について記載されている。
一方、発明の詳細な説明で具体的に記載されたことは、表1に記載の種々のトリグリセリドを含有する組成物についてのみである。重症多発神経障害や重症ミオパシー、敗血症の改善、及び、非経口栄養剤としての有用性について何ら記載されていないし、上記効果についての薬理データも一切示されていない。
したがって、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものではないから、発明の詳細な説明に記載されたものとはいえないし、そのことが自明であるともいえず、また、その裏返しとして、上記請求項に係る発明は、発明の詳細な説明において裏付けられた範囲を超える発明を含むものであるから、発明の詳細な説明に記載された発明を記載したものとはいえない。
なお、後から提出された証拠等は、明細書等に記載されていなかった事項についての記載不備を補うものでないことに留意されたい。
(後略)」というものを含むものであり、これらの理由について平成26年12月 4日付け拒絶査定の備考欄には
「<理由4、5について>
・請求項:1-10
出願人は、意見書において、指摘のされた請求項を削除したので、当該拒絶理由は解消したと主張する。
上記指摘を検討するに、補正後の請求項に係る発明には、当該拒絶理由を通知した補正前の請求項1-10が含まれている。
また、本願出願当初明細書には、本願発明の有用性を具体的に示す薬理データが開示されていないし、出願人が、上記意見書にて提示した追加の薬理データ(Annex A、Annex B)を参酌するための根拠についても一切記載がない。
よって、出願人の上記主張は採用することができず、本願明細書は依然としてサポート要件及び実施可能要件を満たしていない。」と記されている。
5 発明の詳細な説明の記載事項
発明の詳細な説明には、以下の(ア)~(コ)の記載がある。
(ア)
「【0001】
本発明は、重症多発神経障害(CIP)および重症ミオパシー(CIM)の予防および治療のための医薬製剤に関するものである。」(段落0001)
(イ)
「集中治療患者は敗血症発症リスクが特に高く、それはその後の経過において重大な合併症を引き起こし得る。これらの中で、集中治療患者における神経学的なおよび筋肉の問題に関する系統的研究において重症多発神経障害(CIP)および重症ミオパシー(CIM)が確定された。両症例は後天的な筋力低下、即ちCIP(これは主として軸索型である)およびCIM(これは主として筋肉型である)を含む。どちらの症例においても全身麻痺、筋無力症および呼吸器離脱困難が最も重要且つ一般的な症状であり、さらに、両疾患は同時に起こり得ることから、CIPとCIMの臨床的境界設定は極めて困難である(O. Friedrich, E. Hund, Anaesthesist 2006, 55, 1271-1280)。CIP/CIMの有病率については、重度の敗血症および多臓器不全の患者に対して70~80%という数値が現在提示されている。CIP/CIM単独に起因する死亡率は恐らく高くないものの、CIP/CIMの発症は集中治療を延長させ、リハビリテーションを遅延させ、それにより、治療およびマクロ経済コストの膨大な増加を導く。さらに、例えば重度のARDSに罹患している患者の筋力低下および急速疲労は、集中治療終了の12ヶ月後においてさえも、制限された生活の質の最も重要な原因であると考えられる(M.S. Herridge, A.M. Cheung, C.M. Tansey, N. Engl. J. Med. 2003, 348, 683-693)。CIP/CIMの正確な原因は現在なお不明であり、集中治療医学において研究中である。炎症仲介物質、異化、インスリン抵抗性、コルチコステロイドの適用、グルカゴン感受性増大、エネルギー供給障害、筋弛緩剤の適用、酸化ストレスならびに全身微小循環および/または炎症反応が、特に危険因子であると論じられている。そのような訳で、CIP/CIMの特異的治療法は今なお知られていない。文献によれば、多くの著者が、CIP/CIM治療の最重要因子としてSIRSおよび敗血症の積極的治療(「早期決着を目指す治療」)を考えていることが見て取れる。さらに、強化インスリン療法が罹患率を44%低下させ、また、もう一つの治療選択肢が免疫グロブリンの静脈内投与に認められる(M. Alb, S. Hirner, T. Luecke, Anasthesiol. Intensivmed. Notfallmed. Schmerzther. 2007, 4, 250-258)。」(段落0002)
(ウ)
「【0010】
CIPおよびCIMの有効な治療法は殆ど知られていない。さらに、敗血症および集中治療法の二次的合併症、例えばCIPおよび/またはCIMを治療するための有効な栄養法もまた今のところ殆どわかっていない。」(段落0010)
(エ)
「【0011】
このように、集中治療患者の人工栄養および付随する栄養学的処置のための物質および製剤に対する必要性が存在し、また、CIPおよび/またはCIMの予防および治療のための製剤および方法に対する緊急の必要性が存在する。
【0012】
この背景を前にして、本発明の目的は、重症の、例えば敗血症の集中治療患者の付随的栄養学的処置のための、ならびに、集中治療法の二次的合併症、例えばCIPおよび/またはCIMの予防および治療のための、医薬製剤を提供することである。」(段落0011~段落0012)
(オ)
「【0013】
驚くべきことに、奇数の炭素原子を有する脂肪酸残基を伴うトリグリセリドを含有する脂肪乳剤を供給することにより、前記合併症の発現頻度が低下し、または疾患の重篤度が軽減し、またはその経過が短縮され得ることが見出された。」(段落0013)
(カ)
「【0014】
したがって本発明は、式(I):
【化1】
[式中、基R1、R2またはR3のうち少なくとも1個は、独立して、5~15個の奇数の炭素原子を有するアルカノイル基である]
で示される少なくとも1個のトリグリセリド(A)を含有する脂肪乳剤を含む、CIPおよび/またはCIMの予防または治療のための医薬製剤に関するものである。」(段落0014)
(キ)
「【0019】
特に、トリグリセリド(A)はトリヘプタノイン、即ち、3個のヒドロキシ基がn-ヘプタン酸でエステル化されているグリセロールである。
【0020】
トリグリセリド(A)の合成は当業者によく知られている。必要な奇数脂肪酸(ペンタン酸、ヘプタン酸、ノナン酸、ウンデカン酸、トリデカン酸およびペンタデカン酸)は例えばSigma Chemicals Co. から商業的に入手できる。さらに、トリグリセリド(A)自身の様々な変形物の商業的供給源が多数存在する。例えば、トリヘプタノインはSpecial Oil 107としてCondea Chemie GmbH(Witten, Germany)から購入できる。トリノナノイン、トリウンデカノインまたはトリペンタデカノインは例えばChemos GmbH(Regenstauf, Germany)により提供され得る。」(段落0019~段落0020)
(ク)
「【0025】
本発明のさらに好ましい態様では、本発明の医薬製剤は、(A)とは異なる少なくとも1個のさらなるトリグリセリド(B)を含む脂肪乳剤を含む。
【0026】
好ましくは、トリグリセリド(B)は海産物または植物起源のトリグリセリドを包含する。魚油または植物油からの純粋なオメガ-3もしくはオメガ-6脂肪酸の回収またはこれらの脂肪酸の化学合成は冗長で費用がかかる一方で、上記の海産物または植物起源の油は対応する脂肪酸の含有量が高いことから、本発明によれば、これらの油からオメガ-3もしくはオメガ-6脂肪酸またはオメガ-3もしくはオメガ-6脂肪酸を含有するトリグリセリドを単離する必要はなく、本発明に従って使用される脂肪乳剤の製造に当該油をそのまま使用することができる。
【0027】
魚油および特にダイズまたはベニバナ油の使用は同様に、自動的に長鎖飽和脂肪酸、例えば代表である上述のミリスチン酸、パルミチン酸およびステアリン酸、ならびにモノ不飽和であり海産油およびオリーブ油(特に高濃度である)の両方に含まれているオレイン酸をも提供する。
【0028】
中鎖脂肪酸またはトリグリセリドは、半合成MCT油(ミグリオール油)に含まれており、即ち、90%以上(全脂肪酸含有量を基準として)がカプリル酸およびカプリン酸として含まれている。この形態においてこれらは本発明に従って使用される脂肪乳剤中のトリグリセリド(B)として使用するのに特に好適である。
【0029】
好ましい態様では、本発明による医薬製剤は、トリグリセリド(A)に加えて、中鎖脂肪酸(例えば、カプリル酸C8:0、カプリン酸C10:0、ラウリン酸C12:0)、長鎖飽和脂肪酸(例えば、ミリスチン酸C14:0、パルミチン酸C16:0、ステアリン酸C18:0)、モノ不飽和脂肪酸(パルミトレイン酸C16:1、オレイン酸C18:1)、オメガ-3およびオメガ-6型多価不飽和脂肪酸、例えばエイコサペンタエン酸(EPA、C20:5 オメガ-3)、ドコサヘキサエン酸(DHA、C22:6 オメガ-3)、リノール酸(LA、C18:2 オメガ-6)またはγ-リノレン酸(GLA、C18:3 オメガ-6)より成る群から選ばれる少なくとも1個の脂肪酸残基を含む少なくとも1個の別のトリグリセリド(B)を含む乳剤を含んでいる。
」(段落0025~段落0029)
(ケ)
「【0039】
本発明の医薬は薬学的に有効な量で投与される。好ましくは、薬学的有効量、即ち、重大な、例えば敗血症のような疾患およびその集中治療の合併症を回避し、その強度を軽減し期間を短縮するために本発明の医薬製剤と共に提供されるトリグリセリド(A)の量は、1日あたり体重1kgにつき1~2gである。この提供は好ましくは24時間/日にわたり連続して実施するが、幾つかの部分に分けてもよく、ここで、1時間あたり体重1kgにつき脂質0.25gの点滴速度を超えてはならない。本発明の効果を達成するためには一般に数日間の中期ないし長期投与が必要である。
【0040】
本発明の医薬製剤は、完全非経口栄養または併用非経口/経腸栄養の構成成分として、疾患もしくは徴候の複雑な経過または切迫性神経障害を示す、重症の、例えば敗血症の集中治療患者を適応として適用される。非経口または併用経腸/非経口栄養による総カロリー供給量の中の、本発明の乳剤の高いエネルギー含有量を考慮しなければならない。適用される本発明の脂肪乳剤の態様(即ち、必須脂肪酸(オメガ-3またはオメガ-6)の均衡が取れている、または取れていない)にもよるが、必須脂肪酸を追加的に補う必要はない。とりわけ、乳剤中にオメガ-3脂肪酸残基が特に好ましく存在することにより、そしてそれらの抗炎症性により、相乗効果が達成され治癒プロセスがさらに促進される。」(段落0039~段落0040)
(コ)
「【発明を実施するための形態】
【0048】
実施例
【表1】
1)中鎖トリグリセリド(カプリル酸/カプリン酸トリグリセリド)の比率については市販の混合物(ミグリオール812。Sasol Germany GmbH, Witten, Germany)を使用した。
2)構造脂質として、トリグリセリドのsn-1およびsn-3位がヘプタン酸で、そしてsn-2位がエイコサペンタエン酸(EPA;C20:5 オメガ-3)でエステル化されたグリセロールより成るトリグリセリド(A)を使用した。」(段落0048)
6 当審の判断
(1)特許法第36条第6項第1号に規定する要件(いわゆるサポート要件)の検討
特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきといえる。
これを本件について検討すると、平成27年 4月8日提出の手続補正書による手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項ならびに発明の詳細な説明における記載事項(ア)、記載事項(エ)及び記載事項(カ)~記載事項(ク)から、本願発明の課題は、
「重症多発神経障害(CIP)および重症ミオパシー(CIM)の予防および治療のための医薬製剤」を提供することであると認められる。
そして、発明の詳細な説明には、奇数の炭素原子を有する脂肪酸残基を伴うトリグリセリドを含有する脂肪乳剤を供給することにより、前記合併症の発現頻度が低下し、または疾患の重篤度が軽減し、またはその経過が短縮され得ることが見出されたことが記載される(記載事項(オ))とともに、本願発明の医薬製剤が、完全非経口栄養または併用非経口/経腸栄養の構成成分として、疾患もしくは徴候の複雑な経過または切迫性神経障害を示す、重症の、例えば敗血症の集中治療患者を適応として適用されるものであること、及び、乳剤中にオメガ-3脂肪酸残基が特に好ましく存在することにより、それらの抗炎症性により、相乗効果が達成され治癒プロセスがさらに促進されることが記載される(記載事項(ケ))。
しかし、発明の詳細な説明には、重症多発神経障害(CIP)及び重症ミオパシー(CIM)の正確な原因は不明であり、有効な治療法もほとんど知られていないことが記載される(記載事項(イ)、記載事項(ウ))一方、「少なくとも1個のトリグリセリド(A)を含有する脂肪乳剤を含む、医薬製剤であって、トリグリセリド(A)が、トリヘプタノインであり、そして、脂肪乳剤が、(A)とは異なり、そして、カプリル酸、カプリン酸またはラウリン酸を包含する中鎖脂肪酸、ミリスチン酸、パルミチン酸またはステアリン酸を包含する長鎖飽和脂肪酸、パルミトレイン酸またはオレイン酸を包含するモノ不飽和脂肪酸、ならびに、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸、リノール酸およびγ-リノレン酸を包含するオメガ-3およびオメガ-6型多価不飽和脂肪酸より成る群から選ばれる少なくとも1個の脂肪酸残基を有する少なくとも1個のさらなるトリグリセリド(B)を含む、医薬製剤。」(以下「本願医薬製剤」ともいう。)が、「CIP(重症多発神経障害)および/またはCIM(重症ミオパシー)の予防または治療」をすることができるものであることを示す理論的な説明は記載されておらず、「CIP(重症多発神経障害)および/またはCIM(重症ミオパシー)の予防または治療」をすることのできるものであることを確認できる実施例も記載されていない(記載事項(コ))。
また、発明の詳細な説明の記載を検討しても、本願医薬製剤が、「CIP(重症多発神経障害)および/またはCIM(重症ミオパシー)の予防または治療」をする効果を奏するものであることを当業者が認識できるとする根拠となる記載は見いだせない。
さらに、本願医薬製剤が、「CIP(重症多発神経障害)および/またはCIM(重症ミオパシー)の予防または治療」をする効果を奏するものであることは出願時の技術常識から明らかであるとする根拠も見出せない。
ここで、平成26年 4月21日付け意見書「3.上記拒絶理由について」及び審判請求書の請求の理由「3.本願発明が特許されるべき理由」における審判請求人の主張について検討する。
平成26年 4月21日付け意見書「3.上記拒絶理由について」の「3-3.上記拒絶理由4及び5について」において審判請求人は「上記補正によって、指摘された事項はすべて削除された。よって、この拒絶理由は解消した。」と述べる。
しかし、本願発明は、平成26年 1月15日付け拒絶理由通知の対象となった、平成24年11月 7日付け手続補正書による手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1を引用する請求項2を引用する請求項6に係る発明に対応するものであり、平成26年 1月15日付け拒絶理由通知の後に提出された手続補正書により削除されたものではないので、審判請求人のこの主張は受け入れられない。
また、平成26年 4月21日付け意見書「3.上記拒絶理由について」の「3-2.上記拒絶理由2及び3について」において審判請求人は
「CIP及びCIMは、集中治療が必要な重症患者に発症する疾患である。CIP及びCIMに関連する症候の一つは、患者の全身不随をもたらす筋無力症、重度の筋力低下である。横隔膜も影響を受け、拡張人工呼吸が必要となることから、きわめて重要である。筋力低下は、最長で数年続き、日常生活への復帰を極めて困難にし、クオリティ・オブ・ライフの相当の低下をもたらす。
CIP及びCIMの発症機序は、未だに明らかにされていないが、ミトコンドリア機能不全に関連する炭水化物代謝における細胞突然変異によって生じ得ると信じられている。主な焦点は、骨格筋におけるグルコース代謝及びグルコース取り込みに向けられている。グルコースは、最も重要なエネルギー供給源の一つである。酵素の助けによってATPに変換される人体のエネルギー源である。解糖の残存物は、より多くのATPを産生するクエン酸サイクルに付され、生体にエネルギーを供給する。クエン酸サイクルの中間体の一つが、ATPの生成をサポートするオキサロ酢酸である。
今日において、CIP及びCIMを直接処置するための治療法は、知られていない。したがって、懸案事項は、症状の緩和、より具体的には、筋力低下の緩和である。一つの可能性は、人体、特に骨格筋への十分なエネルギー供給を確実にするためのクエン酸サイクルの人工的な維持である。グルコースの取り込みが不完全であれば、通常は解糖によって供給される産生物の不足の埋め合わせが必要になる。これは、オキサロ酢酸産生の刺激によって達成することができる。オキサロ酢酸の量は、エネルギーレベルの直接的尺度である。オキサロ酢酸の量が多いほど、より多くのエネルギーを用いることができる。
」と述べた上で、意見書とともに提出したAnnex A及びAnnex Bに言及する。
さらに、審判請求書の請求の理由「3.本願発明が特許されるべき理由」において審判請求人は
「本願出願人は、平成26年4月21日付で提出された意見書における主張に加えて、本発明は、トリヘプタノインとは異なる別のトリグリセリドの追加が、重症患者によって経験されるCIP/CIMの症状を緩和するためにさらに有用であることを、驚くべきことに、見出したものであることを指摘する。この追加のトリグリセリド(B)は、海産物起源又は植物起源のトリグリセリド、たとえば、オメガ-3又はオメガ-6脂肪酸を含むことができる。さらなる利点として、オメガ-3又はオメガ-6脂肪酸を単離することは必ずしも必要ではなく、該脂肪酸を含む油を、本発明による医薬製剤の調製において用いることができ、貴重な資源や時間を節約することができることが見出された。
本願明細書の段落0010に記載のとおり、『CIPおよびCIMの有効な治療法は殆ど知られていない。さらに、敗血症および集中治療法の二次的合併症、例えばCIPおよび/またはCIMを治療するための有効な栄養法もまた今のところ殆どわかっていない。』のである。引用文献のいずれも、重症患者の処置におけるトリヘプタノインの効果をトリペプタノインとは異なる別のトリグリセリドの追加によって増加させることができることは、記載も示唆もしていない。したがって、本発明の進歩性は、認められるべきである。」と述べる。
しかし、Annex A及びAnnex Bは、作成者及び作成時期が不明であり、頒布されたものであるか否かも不明であり、頒布されたものとしても頒布時期が不明であるので、その記載内容を、本願出願時における当業界の技術水準を示すものとして参酌することはできない。
また、仮にAnnex A及びAnnex Bの記載内容を、本願出願時における当業界の技術水準を示すものとして参酌したとしても、その記載内容は、特定の細胞をトリヘプタノインにより処理することでオキサロ酢酸の産生が増加すること及びトリヘプタノインの細胞毒性が少ないことを示すにとどまる。そして、オキサロ酢酸の産生が増加することにより「CIP(重症多発神経障害)および/またはCIM(重症ミオパシー)の予防または治療」が可能になることが技術常識であることを示す記載は見出せない。したがって、発明の詳細な説明の記載事項(イ)にも記されるように、正確な原因のわかっていないCIP(重症多発神経障害)および/またはCIM(重症ミオパシー)に関して、本願医薬製剤が、「CIP(重症多発神経障害)および/またはCIM(重症ミオパシー)の予防または治療」(特に予防)をする効果を奏するものであることを当業者が認識できるとする根拠となるとは認められない。
したがって、審判請求人のこの主張も、特許法第36条第6項第1号に規定する要件(いわゆるサポート要件)についての拒絶理由を解消するものとはならない。
したがって、本願発明は、発明の詳細な説明の記載により当業者が本願発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとはいえず、当業者が出願時の技術常識に照らして本願発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるともいえない。
よって、本願発明は発明の詳細な説明に記載したものではないので、特許請求の範囲の記載は特許法第36項第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
(2)特許法第36条第4項第1号に規定する要件(いわゆる実施可能要件)の検討
特許法第36条第4項第1号は、明細書の発明の詳細な説明の記載は、「その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したもの」でなければならないと定めるところ、この規定にいう「実施」とは、物の発明においては、当該発明に係る物の生産、使用等をいうものであるから、実施可能要件を満たすためには、明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が当該発明に係る物を生産し、使用することができる程度のものでなければならない。
そして、医薬の用途発明においては、一般に、物質名、化学構造等が示されることのみによっては、当該用途の有用性及びそのための当該医薬の有効量を予測することは困難であり、当該医薬を用途に使用することができないから、医薬用途発明においては実施可能要件を満たすためには、明細書の発明の詳細な説明は、その医薬を製造することができるだけでなく、出願時の技術常識に照らして、医薬としての有用性を当業者が理解できるように記載される必要がある。
これを本件について検討すると、本願発明の発明特定事項から、本願発明は「CIP(重症多発神経障害)および/またはCIM(重症ミオパシー)の予防または治療」をすることをその用途とする、医薬用途発明であるといえる。
そして、発明の詳細な説明には、本願発明が、CIP(重症多発神経障害)および/またはCIM(重症ミオパシー)の予防または治療のための医薬製剤であることが記載される(記載事項(ア)、記載事項(エ)及び記載事項(カ)~記載事項(ク))とともに、奇数の炭素原子を有する脂肪酸残基を伴うトリグリセリドを含有する脂肪乳剤を供給することにより、前記合併症の発現頻度が低下し、または疾患の重篤度が軽減し、またはその経過が短縮され得ることが見出されたことが記載される(記載事項(オ))とともに、本願発明の医薬製剤が、完全非経口栄養または併用非経口/経腸栄養の構成成分として、疾患もしくは徴候の複雑な経過または切迫性神経障害を示す、重症の、例えば敗血症の集中治療患者を適応として適用されるものであること、及び、乳剤中にオメガ-3脂肪酸残基が特に好ましく存在することにより、それらの抗炎症性により、相乗効果が達成され治癒プロセスがさらに促進されることが記載される(記載事項(ケ))。
また、発明の詳細な説明には、トリヘプタノインの取得方法について記載され(記載事項(キ)、「カプリル酸、カプリン酸またはラウリン酸を包含する中鎖脂肪酸、ミリスチン酸、パルミチン酸またはステアリン酸を包含する長鎖飽和脂肪酸、パルミトレイン酸またはオレイン酸を包含するモノ不飽和脂肪酸、ならびに、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸、リノール酸およびγ-リノレン酸を包含するオメガ-3およびオメガ-6型多価不飽和脂肪酸より成る群から選ばれる少なくとも1個の脂肪酸残基を有する少なくとも1個のさらなるトリグリセリド(B)」の取得方法についても記載されている(記載事項ク)。
しかし、発明の詳細な説明には、重症多発神経障害(CIP)及び重症ミオパシー(CIM)の正確な原因は不明であり、有効な治療法もほとんど知られていないことが記載される(記載事項(イ)、記載事項(ウ))一方、本願医薬製剤が、「CIP(重症多発神経障害)および/またはCIM(重症ミオパシー)の予防または治療」をすることができるものであることを示す理論的な説明は記載されておらず、「CIP(重症多発神経障害)および/またはCIM(重症ミオパシー)の予防または治療」をすることができるものであることを確認できる実施例も記載されていない(記載事項(コ))。
また、発明の詳細な説明の記載を検討しても、本願医薬製剤が、「CIP(重症多発神経障害)および/またはCIM(重症ミオパシー)の予防または治療」をすることに本願発明が有用であると当業者が理解できるとする根拠となる記載は見いだせない。
さらに、本願医薬製剤が、「CIP(重症多発神経障害)および/またはCIM(重症ミオパシー)の予防または治療」をすることに本願発明が有用であることは出願時の技術常識から明らかであるとする根拠も見出せない。
ここで、平成26年 4月21日付け意見書「3.上記拒絶理由について」及び審判請求書の請求の理由「3.本願発明が特許されるべき理由」における審判請求人の主張について検討する。
平成26年 4月21日付け意見書「3..上記拒絶理由について」の「3-3.上記拒絶理由4及び5について」における審判請求人の主張については、前記(1)で述べたとおり、受け入れられない。
平成26年 4月21日付け意見書「3.上記拒絶理由について」の「3-2.上記拒絶理由2及び3について」における審判請求人の主張については、前記(1)で述べたとおり、Annex A及びAnnex Bの記載内容を、本願出願時における当業界の技術水準を示すものとして参酌することはできない。
また、仮にAnnex A及びAnnex Bの記載内容を、本願出願時における当業界の技術水準を示すものとして参酌したとしても、その記載内容は、特定の細胞をトリヘプタノインにより処理することでオキサロ酢酸の産生が増加すること及びトリヘプタノインの細胞毒性が少ないことを示すにとどまる。そして、オキサロ酢酸の産生が増加することにより「CIP(重症多発神経障害)および/またはCIM(重症ミオパシー)の予防または治療」が可能になることが技術常識であることを示す記載は見出せない。したがって、発明の詳細な説明の記載事項(イ)にも記されるように、正確な原因のわかっていないCIP(重症多発神経障害)および/またはCIM(重症ミオパシー)に関して、本願医薬製剤が、「CIP(重症多発神経障害)および/またはCIM(重症ミオパシー)の予防または治療」(特に予防)することに有用であると当業者が理解できるとする根拠となるとは認められない。
したがって、審判請求人のこの主張も、特許法第36条第4項第1号に規定する要件(いわゆる実施可能要件)についての拒絶理由を解消するものとはならない。
7 むすび
以上のとおり、本願は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、また、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないから、特許を受けることができないものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2015-006625