特許拒絶査定不服審判
2023-019874
ガンワクチン及びそれを用いた治療方法
- 審判番号
- 2023-019874
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2021-038385
- 請求日
- 2023年11月24日
- 審決日
- 2025年11月17日
- 公報発行日
- 2026年05月29日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】ザ トラスティーズ オブ ザ ユニバーシティ オブ ペンシルバニア
- 【請求人代理人】青木 篤
- 【請求人代理人】三橋 真二
- 【請求人代理人】鶴田 準一
- 【請求人代理人】南山 知広
- 【請求人代理人】渡辺 陽一
- 【請求人代理人】中村 和広
- 審判長/審判官
- 審判長 冨永 みどり
- 審判官 伊藤 幸司
- 審判官 小堀 麻子
- 分類
- P18 .536-Z (A61K) / P18 .537-Z (A61K)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法36条4項1号特許法36条6項1号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項、特許法第36条第4項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2021- 38385「ガンワクチン及びそれを用いた治療方法」拒絶査定不服審判事件〔令和 3年 7月 8日出願公開、特開2021-100944〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、平成26年3月14日(パリ条約による優先権主張外国庁受理、2013年3月15日(US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする特願2016-503109号(以下「原出願」という。)の一部を令和元年2月18日に新たな特許出願である特願2019-026468号とし、さらにその一部を新たな特許出願としたものであって、その主な手続きの経緯は、次のとおりである。
令和3年 5月17日 手続補正書の提出
令和4年11月10日付け 拒絶理由の通知
令和5年 5月11日 意見書、手続補正書の提出
同年 7月21日付け 拒絶査定、補正の却下の決定
同年11月24日 審判請求書、手続補正書の提出
第2 本願発明1について
本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明1」という。)は、令和5年11月24日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された以下のとおりのものである。
「(a)成長ホルモン放出ホルモン(GHRH)のアミノ酸配列(配列番号10)、
(b)成長ホルモン放出ホルモン(GHRH)のアミノ酸配列(配列番号10)と95%以上同一であるアミノ酸配列、又は
(c)(a)及び(b)の組み合わせ、
をコードする核酸を含むワクチン。」
第3 原査定の拒絶の理由
令和5年7月21日付けの拒絶査定における本願発明1に対する拒絶の理由は、次の理由を含むものである。
理由2(実施可能要件)
この出願は、発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
理由3(サポート要件)
この出願は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
第4 当審の判断
1 理由3(特許法第36条第6項1号:サポート要件)について
(1)本願明細書の発明の詳細な説明の記載
本願明細書の発明の詳細な説明(以下「発明の詳細な説明」という。)には、次のように記載されている。なお、下線は当審合議体で付した(以下同様。)。また、「・・・」は摘記の省略を表す。
ア (【0001】、【0004】~【0006】、【0007】、【0009】、【0010】、【0020】、【0043】~【0045】)
「【0001】
技術分野
本明細書においては、ガン治療用組成物及びガンの治療方法、特には、腫瘍の増殖に対する保護を治療及び提供するワクチンが開示される。」
「【0004】
ガンの予防、診断及び治療は多くの異なる形態をとり得る。予防としては、(例えば、特定の遺伝子変異体などの)素因の検査、(例えば、喫煙、食生活、及び運動量などの)習慣の改変、並びに(例えば、ヒト乳頭腫ウィルス、B型肝炎ウィルスなどの)ウィルスに対するワクチン接種を挙げることができる。治療としては、化学療法、放射線療法、並びに腫瘍又はガン性組織の外科的除去を挙げることができる。多数の予防及び治療方法が利用可能であるにも拘わらず、かかる方法は多くの場合、身近なガンの効果的な予防及び/又は治療において、限定的な成功を収めるのみである。
【0005】
従って、疾患の進行に対する保護の臨床上の管理を容易にするための、ガンの予防及び/又は治療用組成物及びガンの予防及び/又は治療方法の特定及び開発に対するニーズが存在する。更に、ガンに罹患した対象において、疾患の進行を遅延させる及び/又は死亡率を減少させるために、より有効な治療が求められている。
【0006】
発明の概要
本発明は、もはや自己抗原ではなくなった、特定のガン又は特定のガンに関連する腫瘍に対する免疫応答を刺激する、1種又は複数種のガン抗原の核酸又はアミノ酸配列を含むワクチンに関する。上記ワクチンは、MHCクラスによる提示、T細胞による提示及び/若しくはその分化、B細胞による提示及び/若しくはその分化、任意のサイトカイン、ケモカイン又は免疫細胞の増殖及び/又は分化のための信号伝達などの、免疫系における任意の構成要素の抑制を防止する抗PD-1抗体及び抗PDL-1抗体などの免疫チェックポイント阻害剤を更に含むことができる。上記ワクチンの1種又は複数種のガン抗原は、1種又は複数種のアミノ酸配列、又はチロシナーゼ(Tyr)のアミノ酸配列と95%以上同一であるアミノ酸配列、チロシナーゼ関連タンパク質1(TYRP1)のアミノ酸配列、チロシナーゼ関連タンパク質2(TYRP2)のアミノ酸配列と95%以上同一であるアミノ酸配列、メラノーマ関連抗原4タンパク質(MAGEA4)のアミノ酸配列と95%以上同一であるアミノ酸配列、成長ホルモン放出ホルモン(Growth Hormone Release Hormone)(GHRH)のアミノ酸配列と95%以上同一であるアミノ酸配列、MART-1/メラン-A抗原(MART-1/Melan-A)のアミノ酸配列と95%以上同一であるアミノ酸配列、ガン・精巣抗原(NY-ESO-1)のアミノ酸配列と95%以上同一であるアミノ酸配列、ガン・精巣抗原II(NY-ESO-2)のアミノ酸配列と95%以上同一であるアミノ酸配列、PRAMEのアミノ酸配列と95%以上同一であるアミノ酸配列、WT1のアミノ酸配列と95%以上同一であるアミノ酸配列、hTERTのアミノ酸配列と95%以上同一であるアミノ酸配列、若しくはそれらの組み合わせからなる群より選択されるアミノ酸配列をコードする核酸とすることができる。上記ワクチンは、PSA、PSMA、STEAP、PSCA、MAGE A1、gp100、ウィルス抗原、及びそれらの組み合わせからなる群より選択される1種又は複数種の抗原をコードする核酸を更に含むことができる。」
「【0007】
本発明は更に、それを必要とする対象におけるガンの予防又は治療方法であって、上記方法を必要とする対象に対して、特定のガンを治療又は予防するための、特定の数のガン抗原を含むワクチンを投与することを含む上記方法に関する。上記方法は、上記予防又は治療方法を必要とする対象に対して、膠芽腫を治療若しくは予防するために、CMVガン抗原を含むワクチンを投与すること、又は上記予防又は治療方法を必要とする対象に対して、膠芽腫を治療若しくは予防するために、CMVガン抗原を、ガン抗原hTERT、NY-ESO-1、MAGE-A1若しくはWT1のいずれかの1種又は複数種との組み合わせで含むワクチンを投与すること、上記予防又は治療方法を必要とする対象に対して、前立腺ガンを治療若しくは予防するために、ガン抗原PSA、PSMA、若しくはSTEAPの1種又は複数種を含むワクチンを投与すること、又は上記予防又は治療方法を必要とする対象に対して、前立腺ガンを治療若しくは予防するために、PSA、PSMA、若しくはSTEAPを、ガン抗原hTERT、NY-ESO-1、MAGE-A1若しくはWT1のいずれかの1種又は複数種との組み合わせで含むワクチンを投与すること、上記予防又は治療方法を必要とする対象に対して、メラノーマを治療若しくは予防するために、ガン抗原チロシナーゼ、PRAME、若しくはGP-100の1種又は複数種を含むワクチンを投与すること、又は、上記予防又は治療方法を必要とする対象に対して、メラノーマを治療若しくは予防するために、チロシナーゼ、PRAME、若しくはGP-100を、ガン抗原hTERT、NY-ESO-1、MAGE-A1若しくはWT1のいずれかの1種又は複数種との組み合わせで含むワクチンを投与すること、上記予防又は治療方法を必要とする対象に対して、頭頚部ガンを治療若しくは予防するために、ガン抗原HPV 16 E6若しくはHPV 16 E7の1種又は複数種を含むワクチンを投与すること、又は、上記予防又は治療方法を必要とする対象に対して、頭頚部ガンを治療若しくは予防するために、HPV 16 E6若しくはHPV 16 E7を、ガン抗原hTERT、NY-ESO-1、MAGE-A1若しくはWT1のいずれかの1種又は複数種との組み合わせで含むワクチンを投与すること、上記予防又は治療方法を必要とする対象に対して、メラノーマを治療若しくは予防するために、ガン抗原チロシナーゼ、PRAME、若しくはGP-100の1種又は複数種を含むワクチンを投与すること、又は、上記予防又は治療方法を必要とする対象に対して、メラノーマを治療若しくは予防するために、チロシナーゼ、PRAME、若しくはGP-100を、ガン抗原hTERT、NY-ESO-1、MAGE-A1若しくはWT1のいずれかの1種又は複数種との組み合わせで含むワクチンを投与すること、上記予防又は治療方法を必要とする対象に対して、肛門ガンを治療若しくは予防するために、ガン抗原HPV 6、HPV 11、若しくはHPV 16の1種又は複数種を含むワクチンを投与すること、又は、上記予防又は治療方法を必要とする対象に対して、肛門ガンを治療若しくは予防するために、HPV 6、HPV 11、若しくはHPV 16を、ガン抗原hTERT、NY-ESO-1、MAGE-A1若しくはWT1のいずれかの1種又は複数種との組み合わせで含むワクチンを投与すること、上記予防又は治療方法を必要とする対象に対して、肝臓を治療若しくは予防するために、ガン抗原HBVコア抗原、HBV表面抗原、HCV NS34A、HCV NS5A、HCV NS5B、若しくはHCV NS4Bの1種又は複数種を含むワクチンを投与すること、又は、上記予防又は治療方法を必要とする対象に対して、肝臓を治療若しくは予防するために、HBVコア抗原、HBV表面抗原、HCV NS34A、HCV NS5A、HCV NS5B、若しくはHCV NS4Bを、ガン抗原hTERT、NY-ESO-1、MAGE-A1若しくはWT1のいずれかの1種又は複数種との組み合わせで含むワクチンを投与すること、上記予防又は治療方法を必要とする対象に対して、子宮頸ガンを治療若しくは予防するために、ガン抗原HPV 16 E6/E7若しくはHPV 18 E6/E7の1種又は複数種を含むワクチンを投与すること、又は、上記予防又は治療方法を必要とする対象に対して、子宮頸ガンを治療若しくは予防するために、HPV 16 E6/E7若しくはHPV 18 E6/E7を、ガン抗原hTERT、NY-ESO-1、MAGE-A1若しくはWT1のいずれかの1種又は複数種との組み合わせで含むワクチンを投与すること、あるいは、上記予防又は治療方法を必要とする対象に対して、血液ガンを治療若しくは予防するために、ガン抗原PRAME、WT-1、若しくはhTERTの1種又は複数種を含むワクチンを投与すること、又は、上記予防又は治療方法を必要とする対象に対して、血液ガンを治療若しくは予防するために、PRAME、WT-1、若しくはhTERTを、ガン抗原NY-ESO-1若しくはMAGE-A1のいずれかの1種又は複数種との組み合わせで含むワクチンを投与することを含むことができ、投与ステップ(a)~(i)を、抗PD-1抗体、抗PD-L1抗体、及びそれらの組み合わせからなる群より選択される免疫チェックポイント阻害剤と組み合わせることを更に含んでいてもよい。」
「【発明を実施するための形態】
【0009】
詳細な説明
本発明は、特定のガン及び腫瘍に対してカスタマイズすることができるワクチンに関する。ワクチンに用いるために、チロシナーゼ(Tyr)、メラノーマにおいて優先的に発現される抗原(PRAME)、チロシナーゼ関連タンパク質1(Tyrp1)、ガン・精巣抗原(NY-ESO-1)、B型肝炎ウィルス抗原、ウィルムス腫瘍1抗原(WT-1)などの特定のガン関連抗原に対して抗原コンセンサス配列が設計され、カスタマイズされたワクチンに対して、特定のガンの予防及び治療を可能にした。例えば、チロシナーゼ抗原は、メラノーマの予防又は治療用のワクチンに用いることができる。本発明のワクチンは、治療を必要とする対象のガンの特定の予防又は治療のための特定のガン抗原の任意の組み合わせを提供することができる。
【0010】
上記核酸及びそれによってコードされる組換えガン抗原のアミノ酸配列の一つの設計方法は、未変異のガン抗原の全体のアミノ酸配列中の、特定のアミノ酸を変更する変異を導入することによる。変異の導入は、当該ガン抗原が哺乳類の対象間で普遍的に適用することができない程に当該ガン抗原を大きく改変することはなく、好ましくはヒト又は犬の対象に適用することができるが、該変異の導入は、得られるアミノ酸配列が許容範囲を超える、すなわち、免疫応答を生起させるために外来抗原と見なされるのに十分な程度にガン抗原を変化させる。別な方法は、その相当する未変異のガン抗原に対する、少なくとも85%であり99%までのアミノ酸配列同一性、好ましくは少なくとも90%であり98%までの配列同一性、より好ましくは少なくとも93%であり98%までの配列同一性、又は、一層より好ましくは少なくとも95%であり98%までの配列同一性を有する組換えガン抗原を作成することとし得る。いくつかの例において、上記組換えガン抗原は、その相当する未変異のガン抗原に対する、95%、96%、97%、98%又は99%のアミノ酸配列同一性を有する。上記未変異のガン抗原は、特定のガン又はガン腫瘍に通常に関与する抗原である。ガン抗原によっては、該ガン抗原のコンセンサス配列は哺乳類全体にわたる、又は類の亜型内であり、又はウィルス株若しくは血清型全体にわたることができる。いくつかのガン抗原は、当該ガン抗原のアミノ酸配列の野生型から大幅には変わらない。いくつかのガン抗原は、種間で大きく異なる核酸/アミノ酸配列を有するため、コンセンサス配列を生起させることができない。これらの例においては、許容範囲を超えて免疫応答を生起させることとなる組換えガン抗原は、該組換えガン抗原が、その相当する未変異のガン抗原に対する、少なくとも85%であり99%までのアミノ酸配列同一性、好ましくは少なくとも90%であり98%までの配列同一性、より好ましくは少なくとも93%であり98%までの配列同一性、一層より好ましくは少なくとも95%であり98%までの配列同一性を有する場合に生起される。いくつかの例において、上記組換えガン抗原は、その相当する未変異のガン抗原に対する、95%、96%、97%、98%又は99%のアミノ酸配列同一性を有する。上述の取り組みは、最終的な組換えガン抗原が、上記で議論したような未変異ガン抗原のアミノ酸配列に対するパーセントで表した類似性を有するように、組み合わせることができる。」
「【0020】
本明細書で用いられる「コンセンサス」又は「コンセンサス配列」は、異なる生物由来の同一の遺伝子に関する、複数の配列のアライメント分析に基づくポリペプチド配列を意味する。コンセンサスポリペプチド配列をコードする核酸配列を調製することができる。コンセンサス配列を含むタンパク質及び/又はかかるタンパク質をコードする核酸分子を含むワクチンを用いて、抗原に対する幅広い免疫を誘導することができる。」
「【0043】
2.ワクチン
本発明は抗ガンワクチンに関する。該ワクチンは1種又は複数種のガン抗原を含むことができる。該ワクチンは腫瘍の増殖を防止することができる。該ワクチンは腫瘍の増殖を低減することができる。該ワクチンは腫瘍細胞の転移を防止することができる。上記ガン抗原に応じて、該ワクチンは、肝ガン、前立腺ガン、メラノーマ、血液ガン、頭頚部ガン、膠芽腫、再発性呼吸器乳頭腫症、肛門ガン、子宮頸ガン及び脳ガンを治療することを対象とすることができる。
【0044】
上記ワクチンの開発における第一歩は、免疫系によって認識されず、自己抗原であるガン抗原を特定することである。特定されたガン抗原を、免疫系によって認識されるようにするために、自己抗原から外来抗原へと変化させる。組換えガン抗原の核酸及びアミノ酸配列の、自己抗原から外来抗原への再設計は、免疫系による抗原の許容範囲を超える。許容範囲を超えるために、下記に記載するようないくつかの再設計手段をガン抗原に対して適用することができる。
【0045】
上記ワクチンの組換えガン抗原は自己抗原とは認識されず、従って許容範囲を超える。許容範囲の逸脱は、抗原特異性T細胞及び/又は高力価抗体の応答を誘導し、それによって上記抗原を発現するガン又は腫瘍に向かう又はこれに反応性を有する免疫応答を誘導する又は誘発することができる。いくつかの実施形態において、誘導される又は誘発される免疫応答は、細胞性免疫応答、体液性免疫応答、又は細胞性及び体液性免疫応答の両方であることができる。いくつかの実施形態において、誘導される又は誘発される細胞性免疫応答としては、インターフェロン-ガンマ(IFN-γ)及び/又は腫瘍壊死因子アルファ(TNF-α)の誘導又は分泌を挙げることができる。その他の実施形態において、誘導される又は誘発される免疫応答は、それらに限定されないが、例えば、MHCによる提示を下方制御する因子、抗原特異性の調節性T細胞(Tregs)、PD-L1、FasL、IL-10及びTFG-βなどのサイトカイン、腫瘍関連マクロファージ、腫瘍関連繊維芽細胞、免疫抑制細胞によって生成される可溶性因子、CTLA-4、PD-1、MDSC、MCP-1、及び免疫チェックポイント分子を上方制御する因子などの、上記抗原を発現する腫瘍又はガンの増殖を促進する1種又は複数種の免疫抑制因子を低減又は阻害することができる。」
イ (【0141】~【0146】)
「【0141】
(5)成長ホルモン放出ホルモン(GHRH)
本発明のワクチンは、ガン抗原成長ホルモン放出ホルモン(GHRH、成長ホルモン放出因子(growth-hormone-releasing factor)(GRF又はGHRF)又はソマトクリニンとしても知られる)、その断片、又はその変異体を含むことができる。GHRHは、視床下部の弓状核で生成される44アミノ酸ペプチドホルモンである。GHRHは視床下部により分泌され、脳下垂体からの成長ホルモンの放出、成長、代謝、及び体の構造の調節剤の放出を刺激する。GHRHはまた成長ホルモンの生成物も刺激する。GHRHの拮抗物質は、例えば、骨肉腫、膠芽腫、前立腺ガン、腎臓ガン、膵臓ガン、結腸直腸ガン、及び乳ガンなどの種々のガンの増殖を阻害する。従って、GHRHは種々の腫瘍に関連する抗原であり得る。
【0142】
GHRH抗原は抗原特異性T細胞及び/又は高力価抗体応答を誘導し、それによって上記抗原を発現するガン又は腫瘍に向かう又はこれに反応性を有する免疫応答を誘導する又は誘発することができる。いくつかの実施形態において、誘導される又は誘発される免疫応答は、細胞性免疫応答、体液性免疫応答、又は細胞性及び体液性免疫応答の両方であることができる。いくつかの実施形態において、誘導される又は誘発される細胞性免疫応答としては、インターフェロン-ガンマ(IFN-γ)及び/又は腫瘍壊死因子アルファ(TNF-α)の誘導又は分泌を挙げることができる。その他の実施形態において、誘導される又は誘発される免疫応答は、それらに限定されないが、例えば、MHCによる提示を下方制御する因子、抗原特異性の調節性T細胞(Tregs)、PD-L1、FasL、IL-10及びTFG-βなどのサイトカイン、腫瘍関連マクロファージ、腫瘍関連繊維芽細胞、免疫抑制細胞によって生成される可溶性因子、CTLA-4、PD-1、MDSC、MCP-1、及び免疫チェックポイント分子を上方制御する因子などの、上記抗原を発現する腫瘍又はガンの増殖を促進する1種又は複数種の免疫抑制因子を低減又は阻害することができ、上記免疫チェックポイント分子はより詳細に後述する。
【0143】
GHRH抗原は、該抗原を、対抗する抗GHRH免疫応答を誘導することができる免疫原として特に有効にするタンパク質エピトープを含むことができる。GHRH抗原は全長翻訳産物、その変異体、その断片又はそれらの組み合わせを含むことができる。GHRH抗原はコンセンサスタンパク質を含むことができる。
【0144】
コンセンサスGHRH抗原をコードする核酸配列は、コドン使用頻度及び相当するRNA転写物に関して最適化することができる。コンセンサスGHRH抗原をコードする核酸は、発現に関して最適化されたコドン及びRNAとすることができる。いくつかの実施形態において、コンセンサスGHRH抗原をコードする核酸配列は、翻訳の効率を向上させるために、コザック配列(例えば、GCC ACC)を含むことができる。コンセンサスGHRH抗原をコードする核酸は、翻訳終了の効率を向上させるために、複数の終止コドン(例えば、TGA TGA)を含むことができる。
【0145】
コンセンサスGHRH抗原をコードする核酸はまた、免疫グロブリンE(IgE)リーダー配列もコードすることができる。コンセンサスGHRH抗原をコードする核酸は、IgEリーダー配列のアミノ酸配列がペプチド結合によりコンセンサスGHRH抗原のアミノ酸配列に連結するように、IgEリーダー配列を更にコードすることができる。コンセンサスGHRH抗原をコードする核酸はまた、IgEリーダー配列をコードするヌクレオチド配列も含むことができる。いくつかの実施形態において、コンセンサスGHRH抗原をコードする核酸は、IgEリーダー配列をコードするヌクレオチド配列を有さない、すなわち該ヌクレオチド配列を含まない。
【0146】
コンセンサスGHRH抗原は核酸配列 配列番号9とすることができ、配列番号9はアミノ酸配列 配列番号10をコードする。配列番号9はIgEリーダー配列に連結するコンセンサスGHRHタンパク質をコードする。コンセンサスGHRHタンパク質はIgEリーダー配列及びHAタグに連結することができる。その他の実施形態において、コンセンサスGHRHタンパク質は、IgEリーダー配列及び/又はHAタグを有さなくともよい、すなわち該配列及び/又は該タグに連結しなくてもよい。」
ウ (【0440】、【0441】、【0451】、【0452】、【0458】、【0461】~【0463】、【0466】~【0470】)
「【0440】
本発明は、以下の非限定的な実施例によって示される多くの態様を有する。
10.実施例
【実施例1】
【0441】
pTyrの構築
図1A及び図9に示すように、チロシナーゼ(Tyr)は多くの異なる生物中に存在し得る。従って、図1Aに示される生物由来のTyrに相当する配列を整列させ、コンセンサスTyrに関して最も共通性のあるアミノ酸及び/又はヌクレオチドを選択することによりコンセンサスTyrを生成させた。各生物に関する相当するTyr配列はGenBank(NCBI)より入手した。このように、上記コンセンサスTyrは、種を跨いでTyr配列の保存要素を反映していた。」
「【実施例5】
【0451】
pTryをワクチン接種したマウスは腫瘍負荷に対して生存率が増加する
pTyrを更に分析し、pTyrワクチン接種が腫瘍からの保護を提供し得るかを決定した。詳細には、C57BI/6マウス(群当たり10頭)をpTyr又はpVax1のいずれかによって、2週の間隔で免疫化した。各免疫化は20μg/筋内注射及びこれに続くMID-EPを用いた電気穿孔により構成した。3回目の免疫化の1週後(すなわち、35日目)に、免疫化マウスに、腫瘍の径が200mm2を超えるまで皮内にB16メラノーマを負荷した。
【0452】
続いて、免疫化マウスの群における無腫瘍生存率及び腫瘍容積を評価した。図5A(カプラン-マイヤー生存率曲線)に示すように、pTyrによって免疫化したマウスは、pVax1をワクチン接種したマウスに比較して、無腫瘍生存率が向上し(すなわち、腫瘍負荷後40日目以降40%)(p=0.05)、pVax1をワクチン接種したマウスは、腫瘍負荷後20日目までに全て死亡した。pTyrによって免疫化したマウスはまた、pVax1によって免疫化したマウスに比較して腫瘍容積も低下した(すなわち、約50%)(図5B)。なお、図5A及び5Bの両方に関して、pVax1によって免疫化したマウスは塗り潰した四角で表し、pTyrによって免疫化したマウスは塗り潰した丸で表す。従って、これらのデータは、pTyrワクチン接種がメラノーマに対する保護、すなわち無腫瘍生存率の増加及び腫瘍容積の低下を提供することを示した。」
「【実施例8】
【0458】
pPRAMEの構築
PRAMEに関してコンセンサス配列を生起させ、コンセンサスPRAME抗原をコードするヌクレオチド配列を、発現ベクター又はプラスミドpVAX(本明細書においてpVAX1としても知られる)のBamHI及びXhoI制限酵素部位に挿入し、pGX1411(本明細書においてpPRAMEとしても知られる)を得た(図10Aを参照のこと)。」
「【実施例9】
【0461】
pPRAMEのワクチン接種に対するインターフェロン-ガンマ応答
上述のpPRAMEを用いてマウスにワクチン接種し、pPRAMEによって細胞性免疫応答が誘導されるかを評価した。C57BL/6マウスを群に分けた。第1の群はナイーブであり、pPRAMEを接種されなかった。第2、第3、第4、第5、及び第6の群のマウスは、それぞれ5μg、10μg、15μg、25μg、及び50μgのpPRAMEの接種を受けた。
【0462】
免疫化後に、上記C57BL/6マウスより脾細胞を単離し、IFN-γ ELISpot分析によりインターフェロン-ガンマ(IFN-γ)の誘導について評価した。図11A及び11Bに示すように、各pPRAMEの投与によって、負の対照であるナイーブ・マウスとは異なり、IFN-γの生成又は分泌が誘導された。特に、非ワクチン接種マウスに比較して、ワクチン接種したマウスにおいて約3000倍~約4500倍IFN-γ濃度が増加した。従って、これらのデータは、コンセンサスPRAME抗原をコードするpPRAMEのワクチン接種が、非ワクチン接種と比較して増加したIFN-γ濃度によって証明されるように、細胞性免疫応答を誘導することを実証した。」
「【実施例10】
【0463】
pNY-ESO-1の構築
NY-ESO-1に関してコンセンサス配列を生起させ、コンセンサスNY-ESO-1抗原をコードするヌクレオチド配列を、発現ベクター又はプラスミドpVAX(本明細書においてpVAX1としても知られる)のBamHI及びXhoI制限酵素部位に挿入し、pGX1409(本明細書においてpNY-ESO-1としても知られる)を得た(図12Aを参照のこと)。」
「【実施例11】
【0466】
pNY-ESO-1のワクチン接種に対するインターフェロン-ガンマ応答
上述のpNY-ESO-1を用いてマウスにワクチン接種し、pNY-ESO-1によって細胞性免疫応答が誘導されるかを評価した。C57BL/6マウスを群に分けた。第1の群はナイーブであり、pNY-ESO-1を接種されなかった。第2及び第3の群のマウスは、それぞれ25μg及び50μgのpNY-ESO-1の接種を受けた。
【0467】
免疫化後に、上記C57BL/6マウスより脾細胞を単離し、IFN-γ ELISpot分析によりインターフェロン-ガンマ(IFN-γ)の誘導について評価した。図13に示すように、各pPRAMEの投与によって、負の対照であるナイーブ・マウスとは異なり、IFN-γの生成又は分泌が誘導された。特に、非ワクチン接種マウスに比較して、ワクチン接種したマウスにおいて約700倍~約1100倍IFN-γ濃度が増加した。従って、これらのデータは、コンセンサスNY-ESO-1抗原をコードするpNY-ESO-1のワクチン接種が、非ワクチン接種と比較して増加したIFN-γ濃度によって証明されるように、細胞性免疫応答を誘導することを実証した。」
「【実施例12】
【0468】
pNY-ESO-2のワクチン接種に対するインターフェロン-ガンマ応答
NY-ESO-2に関してコンセンサス配列を生起させ、コンセンサスNY-ESO-2抗原をコードするヌクレオチド配列を、発現ベクター又はプラスミドpVAX(本明細書においてpVAX1としても知られる)のマルチクローニング部位に挿入し、pNY-ESO-2を得た。
【0469】
このpNY-ESO-2を用いてマウスにワクチン接種し、pNY-ESO-2により細胞性免疫応答が誘導されるかを評価した。C57BL/6マウスを群に分けた。第1の群はナイーブであり、pNY-ESO-2を接種されなかった。第2及び第3の群のマウスは、それぞれ25μg及び50μgのpNY-ESO-2の接種を受けた。
【0470】
免疫化後に、上記C57BL/6マウスより脾細胞を単離し、IFN-γ ELISpot分析によりインターフェロン-ガンマ(IFN-γ)の誘導について評価した。図14に示すように、各pNY-ESO-2の投与によって、負の対照であるナイーブ・マウスとは異なり、IFN-γの生成又は分泌が誘導された。特に、非ワクチン接種マウスに比較して、ワクチン接種したマウスにおいて約400倍~約500倍IFN-γ濃度が増加した。従って、これらのデータは、コンセンサスNY-ESO-2抗原をコードするpNY-ESO-2のワクチン接種が、非ワクチン接種と比較して増加したIFN-γ濃度によって証明されるように、細胞性免疫応答を誘導することを実証した。」
エ (配列表)
「
[図:0001434507000001.jpg]
」
(2)原出願の出願時の技術常識
ア 原出願の出願時における技術常識を示すために、原出願の出願日前に発行された参考文献1(Arch Immunol Ther Exp, 2011, Vol.59, No.4, p.249-59)を引用する。参考文献1は英文であるため、日本語訳は当審合議体による。
参考文献1は「がんワクチン。将来性はあるか?」と題する総説であって、次の事項が記載されている。
「がん抗原
効果的な免疫療法には、がん細胞の表面に以下の条件を満たす抗原が存在することが必要である:(i)正常細胞とは明確に異なる独自のものであること、(ii)細胞周期の間、構成的に発現していること、及び(iii)その構成的発現が細胞の生存に不可欠であること。残念ながら、上記三つの基準すべてを満たすがん特有の細胞膜成分が、がん細胞に実際に存在するという証拠はない(Darzynkiewicz 2006)。
腫瘍細胞の排除を媒介し得る関連する腫瘍特異的抗原(TSA)及び腫瘍関連抗原(TAA)の同定は、免疫療法戦略の開発における中心的課題である。自己の抗原提示細胞(APC)にTAAを感作させたワクチン接種に基づく免疫療法プロトコルは、転移性ヒト悪性黒色腫の治療において、ほぼ10年間使用されてきた(Nestle et al. 1998)。多くの患者が検出可能な免疫応答を示したものの、臨床試験では腫瘍退縮の証拠は限定的であった。」(250頁左欄5、6段落)
イ 上記アのように、参考文献1には、「腫瘍細胞の排除を媒介し得る関連する腫瘍特異的抗原(TSA)及び腫瘍関連抗原(TAA)の同定は、免疫療法戦略の開発における中心的課題」であり、「腫瘍関連抗原を感作させたワクチン接種に基づく免疫療法プロトコルは、転移性ヒト悪性黒色腫の治療において、ほぼ10年間使用されてきた」が、「多くの患者が検出可能な免疫応答を示したものの、臨床試験では腫瘍退縮の証拠は限定的である」ことが記載されていることを踏まえると、ガンワクチンの分野において、ガンワクチンの有効性は、抗原の選択に依存し、その有効性は実際に臨床的に確認してみるまではわからないことは原出願の出願時における技術常識であった。
(3)特許法第36条第6項第1号の判断の前提
特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載を対比し、特許請求の範囲で特定された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
(4)判断
ア 本願発明1が解決しようとする課題
本願発明1は、「ガンの予防、診断及び治療は多くの異なる形態をとり得る」ことができ、「多数の予防及び治療方法が利用可能であるにも拘わらず、かかる方法は多くの場合、身近なガンの効果的な予防及び/又は治療において、限定的な成功を収めるのみである」から、「疾患の進行に対する保護の臨床上の管理を容易にするための、ガンの予防及び/又は治療用組成物及びガンの予防及び/又は治療方法の特定及び開発に対するニーズが存在する」という技術的背景のもとなされたものであって(【0004】、【0005】)、本願発明1の解決しようとする課題は、「1種又は複数種のガン抗原の核酸又はアミノ酸配列を含む」、「特定のガン」「に対する免疫応答を刺激」し、「治療を必要とする対象のガンの予防又は治療のための」「ワクチン」を提供することであると認められる(【0001】、【0006】、【0007】、【0009】)。
イ 判断
(ア)本願発明1がサポート要件に適合するためには、本願発明1において特定される
「(a)成長ホルモン放出ホルモン(GHRH)のアミノ酸配列(配列番号10)、
(b)成長ホルモン放出ホルモン(GHRH)のアミノ酸配列(配列番号10)と95%以上同一であるアミノ酸配列、又は
(c)(a)及び(b)の組み合わせ、
をコードする核酸」
が、発明の詳細な説明により、当業者が、1種又は複数種のガン抗原の核酸配列を含む、特定のガンに対する免疫応答を刺激し、治療を必要とする対象のガンの予防又は治療のためのワクチンを提供するという課題を解決できると認識できる範囲のものであるか、また、その記載や示唆がなくても当業者が出願時の技術常識に照らし上記課題を解決できると認識できる範囲のものである必要がある。
(イ)発明の詳細な説明には、本願発明1で特定する
「a)成長ホルモン放出ホルモン(GHRH)のアミノ酸配列(配列番号10)、
(b)成長ホルモン放出ホルモン(GHRH)のアミノ酸配列(配列番号10)と95%以上同一であるアミノ酸配列、又は
(c)(a)及び(b)の組み合わせ、
をコードする核酸」
について、ガンに対する免疫応答を刺激する作用等の確認を含め、具体的な薬理試験結果は一切開示されていない。
(ウ)発明の詳細な説明には、「コンセンサスGHRH抗原は核酸配列 配列番号9とすることができ、配列番号9はアミノ酸配列 配列番号10をコードする。配列番号9はIgEリーダー配列に連結するコンセンサスGHRHタンパク質をコードする」と記載されていることから(上記(1)イ【0146】)、本願発明1で特定する「(a)成長ホルモン放出ホルモン(GHRH)のアミノ酸配列(配列番号10)」「をコードする核酸」は、IgEリーダー配列に連結するコンセンサスGHRHタンパク質のアミノ酸配をコードする核酸配列であり、これが生体に投与され発現すると、IgEリーダー配列は切断され、配列番号10のうち、コンセンサスGHRHタンパク質の部分に相当するタンパク質(以下、単に「コンセンサスGHRHタンパク質」という。)が分泌することは理解できる。
この「コンセンサスGHRHタンパク質」について発明の詳細な説明をみると、「特定のガン関連抗原に対して抗原コンセンサス配列が設計され、カスタマイズされたワクチンに対して、特定のガンの予防及び治療を可能にした」こと、「組換えガン抗原のアミノ酸配列の一つの設計方法は、未変異のガン抗原の全体のアミノ酸配列中の、特定のアミノ酸を変更する変異を導入すること、変異の導入は、当該ガン抗原が哺乳類の対象間で普遍的に適用することができない程に当該ガン抗原を大きく改変することはなく、好ましくはヒト又は犬の対象に適用することができるが、該変異の導入は、得られるアミノ酸配列が許容範囲を超える、すなわち、免疫応答を生起させるために外来抗原と見なされるのに十分な程度にガン抗原を変化させる」こと、「ガン抗原によっては、該ガン抗原のコンセンサス配列は哺乳類全体にわたる、又は類の亜型内であり、又はウィルス株若しくは血清型全体にわたることができる」ことが形式的に記載されている。さらに、発明の詳細な説明には、「ワクチンの組換えガン抗原は自己抗原とは認識されず、従って許容範囲を超える」から、「抗原特異性T細胞及び/又は高力価抗体の応答を誘導し、それによって上記抗原を発現するガン又は腫瘍に向かう又はこれに反応性を有する免疫応答を誘導する又は誘発することができる」ことが形式的に記載されている(上記(1)ア)。
しかしながら、ガンワクチンの分野において、ガンワクチンの有効性は、抗原の選択に依存し、その有効性は実際に臨床的に確認してみるまではわからないことが技術常識であることを踏まえると(上記(2)イ)、発明の詳細な説明には、「コンセンサスGHRHタンパク質」がどのような生物間のコンセンサス配列であり、ヒト又はイヌの野生型GHRHからどのくらい変異しているのか何ら記載されておらず、さらには、「コンセンサスGHRHタンパク質」がヒト又はイヌにおいて実際に外来抗原とみなされるほどの抗原性を有すること、くわえて、仮に抗原性を有するとしても、抗原特異性T細胞及び/又は高力価抗体の応答を誘導し、抗原を発現するガン又は腫瘍に向かう又はこれに反応性を有する免疫応答を誘導する又は誘発し、ひいては、ガンを予防又は治療できることが何ら具体的に確認されていない以上、「コンセンサスGHRHタンパク質」を発現する「(a)成長ホルモン放出ホルモン(GHRH)のアミノ酸配列(配列番号10)」「をコードする核酸」は、特定のガンに対する免疫応答を刺激し、治療を必要とする対象のガンの予防又は治療のためのワクチンを提供するという課題を解決することができるとは認識できない。
また、本願発明1で特定する「(b)成長ホルモン放出ホルモン(GHRH)のアミノ酸配列(配列番号10)と95%以上同一であるアミノ酸配列、又は(c)(a)及び(b)の組み合わせ」「をコードする核酸」についても、同様の理由により、発明の詳細な説明により、上記課題を解決することができるとは認識できない。
(エ)以上のとおりであるから、本願発明1は、発明の詳細な説明により、当業者が、1種又は複数種のガン抗原の核酸配列を含む、特定のガンに対する免疫応答を刺激し、治療を必要とする対象のガンの予防又は治療のためのワクチンを提供するという課題を解決できると認識できる範囲のものではなく、また、その記載や示唆がなくても当業者が原出願の出願時の技術常識に照らし上記課題を解決できると認識できる範囲のものではない。
(5)審判請求人の主張について
ア 審判請求人の主張
審判請求人は、令和5年11月24日付けの審判請求書において、サポート要件違反の拒絶理由に関して、おおむね次のように主張する。
(ア)確かに発明の詳細な説明には、配列番号10がコードするGHRHに対して免疫が誘導され、ワクチンとして使用されたことが具体的には記載されていないが、発明の詳細な説明には、成長ホルモン放出ホルモン(GHRH)はガン抗原のうちの1つであり、GHRHの拮抗物質は、例えば、骨肉腫、膠芽腫、前立腺ガン、腎臓ガン、膵臓ガン、結腸直腸ガン、及び乳ガンなどの種々のガンの増殖を阻害すること、また、GHRH抗原は抗原特異性T細胞及び/又は高力価抗体応答を誘導し、それによって上記抗原を発現するガン又は腫瘍に向かう又はこれに反応性を有する免疫応答を誘導する又は誘発することができること、特に、コンセンサスタンパク質を含むGHRH抗原は幅広い免疫を誘導できることが記載されている。
(イ)配列番号10がコードするGHRHに対して免疫が誘導され、ワクチンとして使用されたことが具体的には記載されていなくても、ガン抗原pTyr、pPRAME、pNY-ESO-1の構築例が(実施例1、8、10)、腫瘍負荷を減少させ、腫瘍なしの生存率を増加させ、特異的免疫応答を誘導するというワクチンを製造・投与できる実施例(実施例2~7、9、11、12)に基づいて、GHRHに対しても免疫が誘導され、ワクチンとして使用され得る蓋然性が高いことが理解できる。
イ 審判請求人の主張に対する当審の判断
(ア)主張(ア)について
発明の詳細な説明に「コンセンサスGHRHタンパク質」が免疫応答を誘導する旨の一応の記載があったとしても、ガンワクチンの分野において、ガンワクチンの有効性は、抗原の選択に依存し、その有効性は実際に臨床的に確認してみるまではわからないことが技術常識であることを踏まえると(上記(2)イ)、「コンセンサスGHRHタンパク質」の投与により、ガンを予防又は治療できることが何ら具体的に確認されていない以上は、上記課題を解決できるとは認められない。
(イ)主張(イ)について
発明の詳細な説明の実施例において、pTyrについては、生存率向上と腫瘍容積の低下を確認し、pPRAME、pNY-ESO-1及びpNY-ESO-2については、IFN-γの分泌が誘導されたことが確認されているとしても、これらのタンパク質は、GHRHタンパク質とは異なる別のタンパク質であって、ガンワクチンの有効性は、抗原の選択に依存し、その有効性は実際に臨床的に確認してみるまではわからないという技術常識を踏まえると(上記(2)イ)、別のタンパク質についての実施例の結果は、「コンセンサスGHRHタンパク質」が上記課題を解決できる根拠にはならない。
(ウ)以上のとおりであるから、審判請求人の主張はいずれも採用できない。
(6)小括
したがって、本願は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
2 理由2(特許法第36条第4項1号:実施可能要件)について
(1)判断の前提
本願発明1は「ワクチン」という物の発明であるが、物の発明について実施可能要件を充足するためには、当業者が、明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を製造し、使用することができる程度の記載があることが必要である。
(2)発明の詳細な説明の記載
上記1(1)に記載したとおりである。
(3)原出願時の技術常識
上記1(2)イに記載したとおりである。
(4)判断
ア ワクチンのうち、ガンの予防又は治療を目的としたものについて
上記1(4)イで説示したように、発明の詳細な説明には、「コンセンサスGHRHタンパク質」がガンを予防又は治療できることが何ら具体的に確認されていない。そして、ガンワクチンの分野において、ガンワクチンの有効性は、抗原の選択に依存し、その有効性は実際に臨床的に確認してみるまではわからないことが技術常識であることを踏まえると(上記(2)イ)、発明の詳細な説明は、「コンセンサスGHRHタンパク質」を発現する「(a)成長ホルモン放出ホルモン(GHRH)のアミノ酸配列(配列番号10)」「をコードする核酸」及び「(b)成長ホルモン放出ホルモン(GHRH)のアミノ酸配列(配列番号10)と95%以上同一であるアミノ酸配列、又は(c)(a)及び(b)の組み合わせ」「をコードする核酸」が、ガンの予防又は治療のためのワクチンとして使用できることを当業者が理解できるように記載されていない。
イ ガンの予防又は治療を目的としたワクチン以外のワクチンについて
本願発明1は、「ワクチン」に係る発明であるところ、一般に、「ワクチン」とは、「感染症予防の目的で、ヒトや動物を能動免疫するための抗原の総称。」を意味するものである(参考文献3(最新 医学大辞典 第3版、1962頁、「ワクチン」、2005年4月1日、医歯薬出版株式会社))。
一方、発明の詳細な説明には、本願発明1の「コンセンサスGHRHタンパク質」等をコードする核酸を、ガンの予防又は治療以外の、感染症予防、又は他の疾患の治療のために使用できることについては何ら記載がされていない。
そして、発明の詳細な説明に記載されるように、「GHRHは視床下部の弓状核で生成される44アミノ酸ペプチドホルモン」であり「視床下部により分泌され、脳下垂体からの成長ホルモンの放出、成長、代謝、及び体の構造の調節剤の放出を刺激する」ものであるが、GHRHの化学構造や機能と、感染症や他の疾患との関係について、発明の詳細な説明には何ら記載されておらず、また、そのことが原出願の技術常識であるともいえないから、本願発明1の「コンセンサスGHRHタンパク質」等をコードする核酸により、何らかの感染症予防や他の疾患の治療に有効であることを理解できない。
したがって、発明の詳細な説明は、本願発明1が、ガンの予防又は治療を目的としたワクチン以外のワクチンとして使用できることを当業者が理解できるように記載されていない。
ウ 以上のとおり、当業者が、明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、本願発明1に係るワクチンを使用することができる程度の記載があるとはいえない。
(5)小括
したがって、本願は、発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
第5 むすび
以上のとおり、本願は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、発明の詳細な説明の記載が同条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
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2023-019874