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特許拒絶査定不服審判

2023-000207

炎症によって誘起されるDNA損傷の阻止及び回復

審判番号
2023-000207
法域
特許
審判種別
拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
出願番号
特願2019-556183
請求日
2023年01月06日
審決日
2025年06月12日
公報発行日
2025年11月28日
結論
請求不成立
当事者
  • 【請求人】インディアナ ユニバーシティー リサーチ アンド テクノロジー コーポレーション
  • 【請求人代理人】正林 真之
  • 【請求人代理人】林 一好
審判長/審判官
  • 審判長 前田 佳与子
  • 審判官 田中 耕一郎
  • 審判官 井上 千弥子
分類
P18 .536-WZ (A61K) / P18 .537-WZ (A61K)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法36条4項1号特許法36条6項1号
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号、特許法第2条第3項第1号
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特願2019-556183「炎症によって誘起されるDNA損傷の阻止及び回復」拒絶査定不服審判事件〔平成30年10月25日国際公開、WO2018/194976、令和2年6月11日国内公表、特表2020-516663〕について、次のとおり審決する。

結論

結 論 本件審判の請求は、成り立たない。

理由

理 由 第1 手続の経緯 本願は、2018年(平成30年)4月16日(パリ条約に基づく優先権主張:2017年4月17日、(US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする特許出願であり、その主な手続の経緯は、次のとおりである。 令和元年12月17日 手続補正書の提出 令和3年 3月18日 手続補正書の提出 令和4年 3月 7日付け 拒絶理由通知書 同年 6月14日 意見書及び手続補正書の提出 同年 6月17日受付 手続補足書 同年 8月25日付け 拒絶査定 令和5年 1月 6日 審判請求書及び手続補正書の提出 同年 1月10日受付 手続補足書 同年 2月14日付け 前置報告書 同年 4月28日 上申書の提出 同年 5月 2日受付 手続補足書 令和6年 6月13日付け 拒絶理由通知書 同年10月 2日 意見書及び手続補正書の提出 同年10月 3日 手続補足書の提出 第2 本願発明 本願の請求項1~11に係る発明は、令和6年10月2日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1~11に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項9に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりである。 「【請求項9】 被験体における炎症及び慢性疼痛を治療するための、APE1のアミノ末端部分を選択的に阻害する脱プリン/脱ピリミジン部位エンドヌクレアーゼ1酸化還元因子1(APE1/Ref-1)阻害剤であって、[(2E)-2-[(3-メトキシ-1,4-ジオキソ-1,4-ジヒドロナフタレン-2-イル)メチリデン]-N,N-ジエチルペンタンアミド](APX2009)、(2E)-2-[(3-メトキシ-1,4-ジオキソ-1,4-ジヒドロナフタレン-2-イル)メチリデン]-N,N-ジメチルペンタンアミド](APX2007)、(2E)-2-[(3-メトキシ-1,4-ジオキソ-1,4-ジヒドロナフタレン-2-イル)メチリデン]-N-メトキシペンタンアミド](APX2014)、(2E)-2-(3-メトキシ-1,4-ジオキソ-1,4-ジヒドロナフタレン-2-イル)-N,N,2-トリメチルプロパ-2-エンアミド(APX2032)、これらの薬学的に許容し得る塩、及び薬学的に許容し得る溶媒和物、並びにこれらの組み合わせからなる群から選択される化合物を含み、前記被験体が糖尿病を罹患している、前記剤。」 第3 当審において通知した拒絶の理由 令和6年6月13日付けで当審において通知した拒絶の理由のうち、上記第2の「本願発明」に対応する、令和5年1月6日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項7に係る発明(下記[理由3]及び[理由4]の「本願発明7」)についての、実施可能要件とサポート要件に関する理由の要旨は、次のとおりである。 [理由3](実施可能要件) 本願発明7のうち、APX2007、APX2014、APX2032を含む剤については、発明の詳細な説明に、その実施をすることができる程度に明確かつ十分な記載がされているとはいえない。 したがって、本願は、発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。 [理由4](サポート要件) 本願発明7のうち、APX2007、APX2014、APX2032を含む剤については、発明の詳細な説明に記載されたものとはいえない。 したがって、本願は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。 第4 当審の判断 1 発明の詳細な説明の記載 本願の発明の詳細な説明には、以下の記載がある。原文にない下線は、強調するために当審において付したものである。 (摘記a)「【0004】 本開示は、一般に、ニューロンの感受性を低減し、それによって、炎症及び慢性疼痛を低減する方法に関する。具体的には、APX3330の投与を通じてDNA塩基除去修復(BER)経路を強化することによって、炎症メディエーターに対するニューロンの感受性が低減され、それによって、炎症又は慢性疼痛が軽減されることが本明細書において見出された。」 (摘記b)「【発明が解決しようとする課題】 【0009】 現在の治療法は限られた有効性しか有さず、重大な副作用が生じる場合があるので、末梢感作を維持するための機序を決定し、炎症及び慢性疼痛を治療するための新規治療法を設計するためにその情報を使用することが、臨床的に重要である。」 (摘記c)「【課題を解決するための手段】 【0010】 したがって、本開示は、炎症メディエーターがニューロンの感受性の変化を維持する経路に洞察を加え、かつ炎症及び/又は慢性疼痛を軽減するための薬理学的ターゲットとしてニューロンDNA修復の強化にスポットを当てる。更に、本開示は、DNA修復を強化し、ニューロンの感受性を低減するための化合物APX3330を提供する。 【0011】 本開示は、一般に、ニューロンの感受性を低減し、それによって、炎症性及び慢性の疼痛を低減する方法に関する。具体的には、APX3330(及び/又はそのアナログ)の投与を通じてDNA塩基除去修復(BER)経路を強化することによって、炎症メディエーターに対するニューロンの感受性が低減され、それによって、炎症又は慢性疼痛が軽減されることが本明細書において見出された。」 (摘記d)「【0012】 上記に基づいて、一態様では、本開示は、それを必要としている被験体におけるニューロンの感受性を低減する方法を目的とする。該方法は、APE1のアミノ末端部分を選択的に阻害する、脱プリン/脱ピリミジン部位エンドヌクレアーゼ1酸化還元因子1(APE1/Ref-1)阻害剤、その薬学的に許容し得る塩又は薬学的に許容し得る溶媒和物の有効量を該被験体に投与する工程を含む。 【0013】 別の態様では、本開示は、それを必要としている被験体における炎症及び慢性疼痛を治療する方法を目的とする。該方法は、APE1のアミノ末端部分を選択的に阻害する、脱プリン/脱ピリミジン部位エンドヌクレアーゼ1酸化還元因子1(APE1/Ref-1)阻害剤、その薬学的に許容し得る塩又は薬学的に許容し得る溶媒和物の有効量を該被験体に投与する工程を含む。 【0014】 更に別の態様では、本開示は、それを必要としている被験体におけるニューロンDNA修復機能を強化する方法を目的とする。該方法は、APE1のアミノ末端部分を選択的に阻害する、脱プリン/脱ピリミジン部位エンドヌクレアーゼ1酸化還元因子1(APE1/Ref-1)阻害剤、その薬学的に許容し得る塩又は薬学的に許容し得る溶媒和物の有効量を該被験体に投与する工程を含む。 ・・・ 【0019】 好適な実施形態では、本開示は、有効量のAPE1阻害剤、その薬学的に許容し得る塩又は薬学的に許容し得る溶媒和物を、それを必要としている被験体に投与することを含み、該APE1阻害剤は、APE1タンパク質と相互作用してAPE1タンパク質のアンフォールディングを引き起こすことができ、ニューロンにおいて他のタンパク質と相互作用するか又はその酸化還元シグナル伝達機能を実行するAPE1の能力を阻害することができる。特に好適な実施形態では、該APE1阻害剤は、3-[5-(2,3-ジメトキシ -6-メチル1,4-ベンゾキノイル)]-2-ノニル-2-プロペン酸(以後、「E3330」又は「3330」又は「APX3330」)、及び/又はそのアナログ(例えば、[(2E)-2-[(3-メトキシ-1,4-ジオキソ-1,4-ジヒドロナフタレン -2-イル)メチリデン]-N,N-ジエチルペンタンアミド](以後「APX2009」)、(2E)-2-[(3-メトキシ-1,4-ジオキソ-1,4-ジヒドロナフタレン-2-イル)メチリデン]-N,N-ジメチルペンタンアミド](以後、「APX2007」)、(2E)-2-[(3-メトキシ-1,4-ジオキソ-1,4-ジヒドロナフタレン-2-イル)メチリデン]-N-メトキシペンタンアミド](以後、「APX2014」)、(2E)-2-(3-メトキシ-1,4-ジオキソ-1,4-ジヒドロナフタレン-2-イル)-N,N,2-トリメチルプロパ-2-エンアミド(以後、「APX2032」))である。更なる好適なアナログを以下に示す。APX3330についての更なる情報は、Abeら、米国特許第5,210,239号に見出すことができ、APX2009についての情報は、Kelleyら、J Pharmacol Exp Ther.2016年11月,359(2):300-309に見出すことができ、これらはそれぞれ、本明細書と一致する範囲で参照により本明細書に組み込まれる。 【0020】 【化1】 [図:0001428406000001.jpg] 」 (摘記e)「【0027】 APE1阻害剤及び/又は本開示の方法で使用される医薬担体を含む医薬組成物は、必要としている個体の小集団に投与してもよい。本明細書で使用するとき、「必要としている個体」とは、炎症及び/若しくは慢性疼痛のリスクがあるか若しくは有している個体、又は炎症及び/若しくは慢性疼痛に関連する疾患若しくは障害(例えば、肥満、糖尿病、喘息、関節炎(変形性関節炎、関節リウマチ、乾癬性関節炎)、慢性歯周炎、潰瘍性大腸炎、クローン病、慢性静脈洞炎、慢性活動性肝炎、慢性消化性潰瘍、憩室炎、線維筋痛、過敏性腸症候群、アルツハイマー病、パーキンソン病、アテローム性動脈硬化症、及び結核)のリスクがあるか若しくは有している個体を指す。・・・」 (摘記f)「【0029】 実施例1 この実施例では、炎症メディエーターへの曝露に続発する感覚ニューロンの感受性における持続的変化のDNA損傷に対する依存性について分析した。更に、DNA損傷及びニューロンの感受性に対するDNA BER経路の強化の効果についても分析した。 ・・・ 【0044】 ・・・BER経路は、塩基に対する酸化的損傷、塩基のアルキル化、又は脱アミノ化によって引き起こされる核及びミトコンドリアにおけるDNA損傷を修復し、ニューロンを保護するための最も重要な修復経路である可能性がある(Fishelら,2007bを参照)。次に、BER経路における重要な酵素であるAPE1の活性の強化又は低下が、LPS及びMCP-1処理によって誘起されるDNA損傷及びニューロン感受性の変化を変化させるかどうかについて調べた。 ・・・ 【0047】 考察 この実施例では、ニューロン培養物の炎症メディエーターへの曝露がDNA損傷及び感覚ニューロンの感受性の変化を惹起するかどうかについて調べた。次に、DNA塩基除去修復(BER)経路を強化することによってDNA損傷及び感覚ニューロンの感受性の変化が回復するかどうかを判定することを目指した。・・・APE1発現を遺伝子操作するか、又は塩基除去修復経路を介してDNA修復を強化するAPE1活性の低分子調節因子で処理すると、LPS又はMCP-1によって惹起されるDNA損傷が減弱する。DNA損傷の修復に加えて、APE1のDNA修復活性を強化すると、炎症メディエーターによって誘起されるニューロンの感受性の変化が回復する。 ・・・ 【0053】 まとめると、本開示は、炎症又は炎症メディエーターへの曝露が感覚ニューロンにおいてDNA損傷を惹起することを証明する。塩基除去修復を強化することによって、このDNA損傷は、炎症メディエーターによって誘起されるニューロンの過敏性の維持を媒介することが証明される。」 (摘記g)「【0054】 実施例2 この実施例では、DNA修復活性に対する効果についてAPX3330を分析した。 ・・・ 【0056】 単離された感覚ニューロンをAPX3330に曝露したとき、Ref-1/APE1エンドヌクレアーゼ活性が濃度依存的に増大したが、これは腫瘍細胞では観察されない。APX3330はRef-1/APE1の酸化還元機能を標的とする阻害剤であるが、感覚ニューロンの状況では、タンパク質のDNA修復(APエンドヌクレアーゼ)活性を強化することもできると思われる(図7A~7E)。APX3330は、経時的にタンパク質をアンフォールドさせる。このアンフォールディングによって、主に、Ref-1/APE1のアミノ末端が変化して、タンパク質のフォールド/アンフォールド状態の平衡を乱し、修復活性を促進することによって、下流の転写因子標的との相互作用に影響を及ぼす。このようにRef-1/APE1をそのRef-1/APE1酸化還元活性から切り離すことによって、Ref-1/APE1修復エンドヌクレアーゼ活性を強化することができた。」 (摘記h)「【0058】 実施例3 この実施例では、白金の抗腫瘍効果を減弱しないと同時に、シスプラチン又はオキサリプラチンによって誘導される神経毒性から保護する能力について、APX3330アナログを分析した。また、神経芽細胞腫細胞株及び3Dスフェロイド膵臓腫瘍モデルにおける抗腫瘍効果について、アナログAPX2009を評価した。 ・・・ 【0061】 新規化学物質の合成 APX3330の新規第二世代アナログ化合物の合成についての完全な詳細は、Sardar Pasha Sheik Pran Babuら,Ref-1/APE1 inhibition with novel small molecules blocks ocular neovascularization,オンラインで入手可能、2018年4月6日;doi:10.1101/296590に提供されており、これは、本明細書と一致する範囲で参照により組み込まれる。該化合物は、Cascade Custom Chemistry,Eugene,OR 97401 USAによって合成された。まとめると、2-ヨード-3-ヒドロキシ-1,4-ナフトキノンの一般的な中間体であるiodolawsoneは、Cascade Custom Chemistryから入手可能である。記載されている通り、後続反応において、iodolawsoneをメタクリル酸又は2-プロピルアクリル酸、塩化オキサリル及び対応するアミン、並びにメタノール中ナトリウムメトキシドで処理して、(2E)-2-[(3-メトキシ-1,4-ジオキソ-1,4-ジヒドロナフタレン-2-イル)メチリデン]-N,N-ジメチルペンタンアミド(APX2007)、(2E)-2-[(3-メトキシ-1,4-ジオキソ-1,4-ジヒドロナフタレン-2-イル)メチリデン]-N,N-ジエチルペンタンアミド(APX2009)、及び(2E)-2-(3-メトキシ-1,4-ジオキソ-1,4-ジヒドロナフタレン-2-イル)-N,N,2-トリメチルプロパ-2-エンアミド(APX2032)を生成する。更なる情報は、発行されている特許「Quinone Compounds for Treating Ape1 Mediated Diseases」(Mark R.Kelley及びJames H.Wikel)、米国特許第9,193,700号、2015年11月24日公開に見出すことができ、これは、本明細書と一致する範囲で参照により本明細書に組み込まれる。 ・・・ 【0075】 結果 E3330アナログの化学合成、酸化還元阻害の検証、及び薬物動態 活性を調節するために、コアジメトキシベンゾキノン(A)をナフトキノン環で置換し、環構造におけるメチル基(B)を様々なハロゲン又は水素で置換し、二重結合における炭素鎖(C)を短くすることによって、E3330の多数のアナログを合成した(図8A)。継続的な努力において、二重結合における炭素鎖(C)を短くすることに合わせて、カルボン酸部分(D)を修飾した。これら変化によって、構造の2つの物性が改変された。E3330は、生理学的pHにおいて荷電分子として存在する。荷電している支持化学的特徴(supporting chemical feature)ではない、カルボン酸(D)のアミド誘導体が調製された。更に、E3330は、非常に親油性の高い炭素鎖を有し、これは、改変可能な特徴であると考えられる。新規構造は、二重結合において著しく短い炭素鎖(C)を有するので、親油性がより低い。詳細な合成データは、米国特許第9,089,605号に見出すことができ、これは、本明細書に一致する範囲で参照により本明細書に組み込まれる。作製された化合物のうちの3つの新規構造(図8B)を、酸化還元APE1電気泳動移動度シフトアッセイ(EMSA)試験において分析して、どの化合物がAPE1の酸化還元機能に影響を与えるかを判定した。該化合物は、APX2007 2μM、APX2009 1μM、及びAPX2032 1μMの酸化還元阻害IC50を有していた(図9A)。E3330は既に提示されており、同様のアッセイで25μMのIC50を有する。 【0076】 レポータートランス活性化アッセイを実施して、新規化合物が細胞において有効であり、このアッセイにおいてNFκkB機能を制御するその標的APE1にヒットすることを確認した。これらアッセイでは、3つの化合物APX2007、APX2009、及びAPX2032の全てが、7μMのIC50でレポーターコンストラクトに対するNFκBの結合を同様に阻害することが証明され、一方E3330は45μMの活性を有する(図9B)。更に、2つの神経芽細胞腫細胞株IMR32(p53wt、MYCN増幅)及びSK-N-SH(p53wt、MYCN非増幅)において、腫瘍細胞死滅についてのED50を決定した(図9C及び9D)。3つの化合物全てがE3330に比べて低いED50を有していた;IMR32細胞では7~10倍大きく、SK-N-SH細胞では4~6倍大きい(図9C及び9D)。強化された腫瘍細胞死滅データは、図10のEMSA及びトランス活性化データによって証明される通り、APE1機能に対する化合物の有効性の増大と一致している。APX2009の薬物動態プロファイルについても評価した。図11A及び11Bに示す通り、APX2009の半減期は、E3330の3.6時間に比べて25.8時間であり、すなわち、約7倍半減期が増加する。更に、P450代謝分析においてヒトミクロソームを使用して、APX2009は、20分間に対して173分間の半減期を有し、すなわち、8.7倍増加した(図11A及び11B)。 【0077】 感覚ニューロン培養物を10、20、又は40μMのE3330に24時間曝露した場合、トリパンブルー排除によって測定して、有意な細胞死は存在しなかった(図12A)。同様に、培養物を様々な濃度のAPX2009に曝露しても、細胞生存率は有意には低下しなかった(図12A)。対照的に、40μMのAPX2007で24時間、又は20μM若しくは40μMのAPX2032で24時間細胞を処理した結果、細胞生存率が有意に低下した(図12A)。同様に、培養物を20又は40μMのAPX 2007又はAPX2032に72時間曝露すると、細胞死が有意に増加した(データ不図示)。 【0078】 既に記載されている通り(Bapatら,2010)、DNA修復活性アッセイを実施した。図13A~13Dに示す通り、APX2009のみがこのアッセイにおいてAPE1修復活性の刺激を示し、ナノモル範囲において、E3330と比べて活性の著しい増加を示した(図11A及び11B)。APX2007及びAPX2032は、APE1エンドヌクレアーゼ活性の刺激についても阻害についても効果を有していなかった。」 2 実施可能要件について (1)判断の前提 特許法第36条第4項第1号は、明細書の発明の詳細な説明の記載は、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が、その実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでなければならないと定めるところ(いわゆる「実施可能要件」)、この規定にいう「実施」とは、物の発明においては、その物を作り、使用をする行為をいうものであるから(特許法第2条第3項第1号)、物の発明について実施可能要件を満たすためには、発明の詳細な説明の記載は、当業者が、その記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、当該発明に係る物を作り、使用をすることができる程度のものでなければならない。 そして、医薬の用途発明においては、一般に、物質名、化学構造等が示されることのみによっては、その有用性を予測することは困難であり、発明の詳細な説明に、有効量、投与方法等がある程度記載されていても、それだけでは、当業者は当該医薬が実際にその用途において使用をすることができるかどうかを予測することは困難であるから、医薬の用途発明において実施可能要件を満たすためには、発明の詳細な説明において、薬理データ又はこれと同視することができる程度の事項を記載し、出願時の技術常識に照らして、当該医薬が当該用途の医薬として使用できることを当業者が理解できるようにする必要がある。 以上を前提として、発明の詳細な説明の記載が、本願発明について実施可能要件を満たすものであるか検討する。 (2)判断 ア 本願発明の用途について 本願発明は、「糖尿病を罹患している」「被験体における炎症及び慢性疼痛を治療するための、APE1のアミノ末端部分を選択的に阻害する脱プリン/脱ピリミジン部位エンドヌクレアーゼ1酸化還元因子1(APE1/Ref-1)阻害剤」に関する発明であるから、医薬の用途発明であることが明らかである。(当審注:以下、「糖尿病を罹患している」「被験体」を、「被験体」と略して記載する。) したがって、本願発明が、実施可能要件を満たしているというためには、発明の詳細な説明において、薬理データ又はこれと同視することができる程度の事項を記載し、出願時の技術常識に照らして、本願発明が、「被験体における炎症及び慢性疼痛を治療するための、APE1のアミノ末端部分を選択的に阻害する脱プリン/脱ピリミジン部位エンドヌクレアーゼ1酸化還元因子1(APE1/Ref-1)阻害剤」という医薬用途に使用できることを当業者が理解できるようにする必要がある。 イ 本願発明の有効成分について 本願発明は、「[(2E)-2-[(3-メトキシ-1,4-ジオキソ-1,4-ジヒドロナフタレン-2-イル)メチリデン]-N,N-ジエチルペンタンアミド](APX2009)、(2E)-2-[(3-メトキシ-1,4-ジオキソ-1,4-ジヒドロナフタレン-2-イル)メチリデン]-N,N-ジメチルペンタンアミド](APX2007)、(2E)-2-[(3-メトキシ-1,4-ジオキソ-1,4-ジヒドロナフタレン-2-イル)メチリデン]-N-メトキシペンタンアミド](APX2014)、(2E)-2-(3-メトキシ-1,4-ジオキソ-1,4-ジヒドロナフタレン-2-イル)-N,N,2-トリメチルプロパ-2-エンアミド(APX2032)、これらの薬学的に許容し得る塩、及び薬学的に許容し得る溶媒和物、並びにこれらの組み合わせからなる群から選択される化合物」(下線は合議体による)を有効成分とするものである。 そして、発明の詳細な説明の【0013】には、「それを必要としている被験体における炎症及び慢性疼痛を治療する方法」は「APE1のアミノ末端部分を選択的に阻害する、脱プリン/脱ピリミジン部位エンドヌクレアーゼ1酸化還元因子1(APE1/Ref-1)阻害剤、その薬学的に許容し得る塩又は薬学的に許容し得る溶媒和物の有効量を該被験体に投与する工程を含む」ことが記載されている(摘記d)のに対し、上記有効成分である、APX2009、APX2007、APX2014、APX2032について、「被験体における炎症及び慢性疼痛を治療するための、APE1のアミノ末端部分を選択的に阻害する脱プリン/脱ピリミジン部位エンドヌクレアーゼ1酸化還元因子1(APE1/Ref-1)阻害剤」という医薬用途に使用できることを確認した薬理データ又はこれと同視することができる程度の事項は、発明の詳細な説明に記載されていない。 ウ 「DNA塩基除去修復(BER)経路の強化」と「炎症及び慢性疼痛の治療」について 発明の詳細な説明の【0011】には、APX3330(及び/又はそのアナログ)の投与を通じてDNA塩基除去修復(BER)経路を強化することによって、炎症又は慢性疼痛が軽減されることが本明細書において見出されたことが記載されているところ(摘記c)、【0044】~【0047】には、BER経路における重要な酵素である「APE1」について、APE1発現を遺伝子操作するか、又は塩基除去修復経路を介してDNA修復を強化するAPE1活性の低分子調節因子で処理すると、LPS又はMCP-1によって惹起されるDNA損傷が減弱し、DNA損傷の修復に加えて、APE1のDNA修復活性を強化すると、炎症メディエーターによって誘起されるニューロンの感受性の変化が回復することが記載されており(摘記f)、さらに【0056】には、APX3330は、Ref-1/APE1の酸化還元機能を標的とする阻害剤であるが、感覚ニューロンの状況では、タンパク質のDNA修復(APエンドヌクレアーゼ)活性を強化することもできると思われることが記載されている(摘記g)。 ここで、請求人が、令和5年5月2日受付の手続補足書に添付して提出した、本願出願時の技術水準を示す参考資料1「ANTIOXIDANTS & REDOX SIGNALING, 2011, Vol.14, No.8, p.1387-1401」における、1387頁左欄の「APE1 is a dual-function protein: (a)the major apurinic-apyrimidinic endonuclease in base excision repair (BER) pathways of DNA lesions, and (b)a redox factor regulating eukaryotic gene expression.」という記載、及び1401頁の「Abbreviations Used」の項目の「AP=apurinic/apyrimidinic」、「APE1=AP endonuclease 1」、「Ref-1=redox effector factor 1」という記載から、上記「APE1」及び「Ref-1」は、それぞれ「アプリン酸・アピリミジン酸エンドヌクレアーゼ1」及び「酸化還元エフェクター因子1」の略語であって、上記「APE1」が(a)DNA損傷の塩基除去修復(BER)経路における主要なアプリン酸・アピリミジン酸エンドヌクレアーゼ、及び(b)真核生物の遺伝子発現を制御する酸化還元因子、という二重の機能を持つタンパク質であることは、本願出願時に知られていた事項であるといえる。 そして、【0019】には、APX3330のアナログとして、APX2009、APX2007、APX2014、APX2032が記載されており(摘記d)、【0075】には、APE1の酸化還元機能に影響を与えるかを判定する「酸化還元APE1電気泳動移動度シフトアッセイ(EMSA)試験」において、E3330(当審注:APX3330の別名である。)は25μM、APX2007は2μM、APX2009は1μM、及びAPX2032は1μMのAPE1に対する酸化還元阻害IC50を有することが記載されている(摘記h)。 一方、【0077】には、感覚ニューロン細胞に曝露した場合、E3330(当審注:APX3330の別名である。)では有意な細胞死は存在せず、APX2009では細胞生存率が有意には低下しなかったが、これらとは対照的に、APX2007、APX2032では、細胞生存率が有意に低下したと記載され、そのうえ、【0078】には、DNA修復アッセイを実施したところ、APX2009のみがAPE1修復活性の刺激を示し、APX2007及びAPX2032は、APE1エンドヌクレアーゼ活性の刺激についても阻害についても効果を有していなかったと記載されている(摘記h)。(当審注:「APE1修復活性」は、APE1エンドヌクレアーゼ活性の刺激によってDNA塩基除去修復(BER)経路を強化することによりDNAを修復する活性、を意味する。) すなわち、APX2007及びAPX2032は、APX3330やAPX2009とは異なり、感覚ニューロンについて細胞生存率を有意に低下させ、APE1エンドヌクレアーゼ活性の刺激についても阻害についても効果を有さないのであるから、DNA塩基除去修復(BER)経路を強化すると理解することも、炎症及び慢性疼痛が軽減されると理解することもできない。 また、発明の詳細な説明には、APX2014について、APE1に対する酸化還元阻害IC50値も、感覚ニューロンについての細胞生存率やAPE1エンドヌクレアーゼ活性に対する効果も記載されていないところ、APX2007、APX2009及びAPX2032は、いずれもAPX3330のアナログであり、APE1に対して同程度の酸化還元阻害IC50値を有するにもかかわらず、APX2009のみが感覚ニューロンについて細胞死が存在せず、APE1修復活性の刺激を示し、APX2007及びAPX2032は、感覚ニューロンについて細胞生存率が低下し、APE1エンドヌクレアーゼ活性の刺激についても阻害についても効果を有していなかったのであるから、APX2014についても、同じくAPX3330のアナログであるからといって、実際に確認しなければ、APE1に対する酸化還元阻害IC50値も、感覚ニューロンについての細胞生存率やAPE1エンドヌクレアーゼ活性に対する効果も不明であり、DNA塩基除去修復(BER)経路を強化すると理解することも、炎症及び慢性疼痛が軽減されると理解することもできない。 以上によれば、発明の詳細な説明の記載から、本願発明のうち、APX2007、APX2014、APX2032を有効成分として含む剤については、「被験体における炎症及び慢性疼痛を治療するための、APE1のアミノ末端部分を選択的に阻害する脱プリン/脱ピリミジン部位エンドヌクレアーゼ1酸化還元因子1(APE1/Ref-1)阻害剤」という医薬用途に使用できることを、当業者が理解することはできない。 さらに、請求人が提出した参考資料に記載された事項、及び本願出願時の技術常識を参酌しても、APX2007、APX2014、APX2032を有効成分として含む剤については、「被験体における炎症及び慢性疼痛を治療するための、APE1のアミノ末端部分を選択的に阻害する脱プリン/脱ピリミジン部位エンドヌクレアーゼ1酸化還元因子1(APE1/Ref-1)阻害剤」という医薬用途に使用できることを、当業者が理解することはできない。 エ 小括 上記イのとおり、発明の詳細な説明には、本願発明の有効成分が「被験体における炎症及び慢性疼痛を治療するための、APE1のアミノ末端部分を選択的に阻害する脱プリン/脱ピリミジン部位エンドヌクレアーゼ1酸化還元因子1(APE1/Ref-1)阻害剤」という医薬用途に使用できることを示す薬理データ又はこれと同視することができる程度の事項は記載されていない。 そして、上記ウのとおり、請求人が提出した参考資料に記載された事項、及び本願出願時の技術常識を参酌しても、発明の詳細な説明の記載から、本願発明のうち、APX2007、APX2014、APX2032を有効成分として含む剤については、「被験体における炎症及び慢性疼痛を治療するための、APE1のアミノ末端部分を選択的に阻害する脱プリン/脱ピリミジン部位エンドヌクレアーゼ1酸化還元因子1(APE1/Ref-1)阻害剤」という医薬用途に使用できることを、当業者が理解することはできない。 したがって、本願発明のうち、APX2007、APX2014、APX2032を含む剤については、発明の詳細な説明に、当業者が実施をすることができる程度に明確かつ十分な記載がされているとはいえない。 (3)請求人の主張について ア 請求人の主張 請求人は、令和4年6月14日提出の意見書第5頁下から3行~第7頁第13行、審判請求書第15頁下から4行~第18頁第13行、令和5年4月28日提出の上申書第7頁第21行~第9頁第5行、令和6年10月2日提出の意見書第10頁下から12行~第12頁第2行において、以下の点を挙げて、発明の詳細な説明には、当業者が本願発明を実施することができる程度に明確かつ十分な記載がされていると主張している。 (主張1)本願明細書【0019】及び【0020】には、APX2007、APX2014及びAPX2032が、APX3330及びAPX2009と同様のベンゾキノン構造を有することが記載され、【0061】では、APX2007及びAPX2032が、APX3330及びAPX2009と同様に合成されることが記載され、【0075】では、APX2007及びAPX2032が、APX3330及びAPX2009と同等の酸化還元阻害IC50を有することが実証されているから、APX2007、APX2014及びAPX2032であれば、APX3330及びAPX2009と同様に、BER経路の強化が可能で、炎症及び慢性疼痛を治療できることは、本願明細書の上記各記載から、当業者が理解できる。 (主張2)意見書、審判請求書及び上申書に添付した参考資料によれば、APX2007、APX2009、APX2014及びAPX3330の間で、類似した酸化還元阻害性を示し、APE1が、APX2007、APX2009、APX2014及びAPX3330の類似の位置にあるプロトンの水へのアクセス性に影響を与えることを示唆している結果が示され、APE1阻害剤IIIでは、APX2007、APX2009、APX2014及びAPX3330とは異なる、プロトンのAPE1への結合性パターンが確認されているから、APX2007、APX2014及びAPX2032であれば、APX3330及びAPX2009と同様に、BER経路の強化が可能で、炎症及び慢性疼痛を治療できることが明らかである。 イ 請求人の主張に対する判断 上記主張1、2について検討する。 (ア)発明の詳細な説明には、APX2007、APX2009及びAPX2032は、APE1に対して同程度の酸化還元阻害IC50値を有しているにもかかわらず、APX2009のみがAPE1修復活性の刺激を示し、APX2007及びAPX2032は、APE1エンドヌクレアーゼ活性の刺激についても阻害についても効果を有していなかったことが記載されており、請求人が提出した参考資料に記載された事項、及び本願出願時の技術常識を参酌しても、発明の詳細な説明の記載から、APX2007、APX2014、APX2032を有効成分として含む剤については、「被験体における炎症及び慢性疼痛を治療するための、APE1のアミノ末端部分を選択的に阻害する脱プリン/脱ピリミジン部位エンドヌクレアーゼ1酸化還元因子1(APE1/Ref-1)阻害剤」という医薬用途に使用できることを、当業者は理解することができないことは、上記(2)ウで説示したとおりである。 (イ)また、令和4年8月25日付け拒絶査定の理由で引用した、本願出願時の技術水準を示す引用文献1(The Journal of Pharmacology And Experimental Therapeutics,2016年11月,Vol.359,pp.300-309,DOI:10.1124/jpet.116.235283)には、次の記載がある。 「したがって、APX2009は、in vitroで顕著なエンドヌクレアーゼ活性を有し神経保護作用を示すが、APX2007やAPX2032は修復刺激を増強せずシスプラチン誘発神経毒性を減弱しない。3つの分子すべてが同様のIC50値を有するため、これらの活性の相違は、これらの化合物のAPE1レドックス活性を阻害する能力によって生じるわけではない(補足図2及び3)。」(第308頁左欄第46~53行) (ウ)そうすると、APX2007、APX2014及びAPX2032が、APX3330及びAPX2009と同様のベンゾキノン構造を有し、同様に合成されることができ、類似した酸化還元阻害IC50を有するものであり、類似した位置にあるプロトンがAPE1への結合性に影響を与えるとしても、発明の詳細な説明の【0078】に、DNA修復アッセイを実施したところ、APX2009のみがAPE1修復活性の刺激を示し、APX2007及びAPX2032は、APE1エンドヌクレアーゼ活性の刺激についても阻害についても効果を有していなかったことが記載され(摘記h)、引用文献1には、同様のIC50値を有していても、APX2007やAPX2032は修復刺激を増強せずシスプラチン誘発神経毒性を減弱しないことが記載されている以上、APX2007、APX2014及びAPX2032がDNA塩基除去修復(BER)経路を強化することができ、炎症及び慢性疼痛を治療できることを、当業者が認識することはできない。 (エ)したがって、上記主張1、2は、いずれも採用することができない。 (4)小括 以上のとおりであるから、発明の詳細な説明には、当業者が本願発明を実施することができる程度に明確かつ十分な記載がされているとはいえない。 3 サポート要件について (1)判断の前提 特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件(いわゆるサポート要件)に適合するか否かは、特許請求の範囲と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるかを検討して判断すべきものである。 以上を前提として、本願発明がサポート要件を満たすものであるか検討する。 (2)本願発明の解決しようとする課題 本願明細書の【0009】には、【発明が解決しようとする課題】として、「現在の治療法は限られた有効性しか有さず、重大な副作用が生じる場合があるので、末梢感作を維持するための機序を決定し、炎症及び慢性疼痛を治療するための新規治療法を設計するためにその情報を使用することが、臨床的に重要である」と記載されているが(摘記b)、本願発明は、特許請求の範囲に「被験体における炎症及び慢性疼痛を治療するための、APE1のアミノ末端部分を選択的に阻害する脱プリン/脱ピリミジン部位エンドヌクレアーゼ1酸化還元因子1(APE1/Ref-1)阻害剤」と記載されていることからみて、本願発明の解決しようとする課題は、「被験体における炎症及び慢性疼痛を治療するための、APE1のアミノ末端部分を選択的に阻害する脱プリン/脱ピリミジン部位エンドヌクレアーゼ1酸化還元因子1(APE1/Ref-1)阻害剤」の提供と認められる。 そして、本願発明がサポート要件を満たすというためには、本願発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載から、当業者が本願発明の解決しようとする課題を解決できると認識できることが必要である。 (3)判断 上記2(2)ウのとおり、本願発明のうち、APX2007、APX2014、APX2032を含む剤について、請求人が提出した参考資料に記載された事項、及び本願出願時の技術常識を参酌しても、発明の詳細な説明の記載からは、「被験体における炎症及び慢性疼痛を治療するための、APE1のアミノ末端部分を選択的に阻害する脱プリン/脱ピリミジン部位エンドヌクレアーゼ1酸化還元因子1(APE1/Ref-1)阻害剤」という医薬用途に使用できると理解することはできないから、「被験体における炎症及び慢性疼痛を治療するための、APE1のアミノ末端部分を選択的に阻害する脱プリン/脱ピリミジン部位エンドヌクレアーゼ1酸化還元因子1(APE1/Ref-1)阻害剤」の提供という本願発明の解決しようとする課題を解決できることを、当業者が認識することもできない。 したがって、本願発明のうち、APX2007、APX2014、APX2032を含む剤については、発明の詳細な説明に記載されたものとはいえない。 (4)請求人の主張について 請求人は、上記2(3)アと同様の理由を挙げて、本願発明は、発明の詳細な説明に記載された発明であると主張している。 しかしながら、上記2(3)イのとおり、APX2007、APX2014及びAPX2032が、APX3330及びAPX2009と同様のベンゾキノン構造を有し、同様に合成されることができ、類似した酸化還元阻害IC50を有するものであり、類似した位置にあるプロトンがAPE1への結合性に影響を与えるとしても、発明の詳細な説明の【0078】に、DNA修復アッセイを実施したところ、APX2009のみがAPE1修復活性の刺激を示し、APX2007及びAPX2032は、APE1エンドヌクレアーゼ活性の刺激についても阻害についても効果を有していなかったことが記載され(摘記h)、本願出願時の技術水準を示す引用文献1には、同様のIC50値を有していても、APX2007やAPX2032は修復刺激を増強せずシスプラチン誘発神経毒性を減弱しないことが記載されている以上、APX2007、APX2014及びAPX2032を含む剤が、「被験体における炎症及び慢性疼痛を治療するための、APE1のアミノ末端部分を選択的に阻害する脱プリン/脱ピリミジン部位エンドヌクレアーゼ1酸化還元因子1(APE1/Ref-1)阻害剤」を提供できることを、当業者が認識することはできない。 したがって、請求人の主張は、採用することができない。 (5)小括 以上のとおりであるから、本願発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではない。 第5 むすび 以上のとおり、本願発明について、発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、また、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。

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2023-000207

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