特許拒絶査定不服審判
2022-017391
哺乳動物種における胚-胎仔移行を検出およびモジュレートするための改良された方法
- 審判番号
- 2022-017391
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2018-563796
- 請求日
- 2022年10月28日
- 審決日
- 2025年10月06日
- 公報発行日
- 2026年03月27日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】エージェックス セラピューティクス,インコーポレーテッド
- 【請求人代理人】弁理士法人平木国際特許事務所
- 審判長/審判官
- 審判長 松波 由美子
- 審判官 冨永 みどり
- 審判官 吉田 佳代子
- 分類
- P18 .562-WZ (A61K) / P18 .572-WZ (A61K) / P18 .575-WZ (A61K) / P18 .55 -WZ (A61K) / P18 .536-WZ (A61K) / P18 .537-WZ (A61K)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法36条4項1号特許法36条6項1号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第17条の2第3項、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号、特許法第17条の2第6項、特許法第17条の2第5項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2018-563796「哺乳動物種における胚-胎仔移行を検出およびモジュレートするための改良された方法」拒絶査定不服審判事件〔平成29年12月14日国際公開、WO2017/214342、令和 1年 6月24日国内公表、特表2019-517538〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
この出願(以下「本願」という。)は、2017年(平成29年)6月7日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2016年6月7日(US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、その主な手続の経緯は、次のとおりである。
平成31年 2月 5日 翻訳文の提出
令和 2年 6月 8日 手続補正書及び上申書の提出
令和 3年 1月 8日 手続補正書及び上申書の提出
同年 3月22日 手続補正書の提出
同年 4月21日付け 拒絶理由通知書
同年 5月10日 手続補正書及び上申書の提出
同年 5月14日 意見書の提出
同年 7月27日付け 拒絶理由通知書
令和 4年 2月 2日 意見書及び手続補正書の提出
同年 6月23日付け 拒絶査定
同年10月28日 手続補正書及び審判請求書の提出
令和 6年 6月10日付け 補正却下の決定及び拒絶理由通知書
同年12月11日 意見書及び手続補正書の提出
令和 7年 1月22日付け 拒絶理由通知書(最後)
同年 7月28日 意見書及び誤訳訂正書の提出
第2 令和7年7月28日提出の誤訳訂正書による手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和7年7月28日提出の誤訳訂正書による手続補正(以下「本件第2補正」という。)を却下する。
[理由]
1 本件第2補正について
本件第2補正により、下記(1)に示す本件第2補正前の特許請求の範囲の記載が、下記(2)に示す本件第2補正後の特許の請求の範囲の記載に補正された。なお、下線は補正箇所を示す。
(1) 本件第2補正前(令和6年12月11日提出の手続補正書)の特許請求の範囲の記載
「【請求項1】
ヒト対象における1以上の病変皮膚細胞が多能性幹細胞に戻ることなく前記病変皮膚細胞を再生させるための組成物であって、
前記組成物は(a) LIN28Aをコードする核酸、(b) LIN28A及びTERTをコードする1以上の核酸、(c) OCT4、KLF4及びLIN28Aをコードする1以上の核酸、若しくは(d) OCT4、LIN28A、KLF4及びTERTをコードする1以上の核酸、又はその任意の組み合わせ、を含む1以上の誘導組織再生(iTR)因子を含み、前記組成物は該ヒト対象における前記病変皮膚細胞の1以上の細胞とin vivoにて4日以上、7日以下にわたり接触させるためのものであり、該1以上の病変皮膚細胞が多能性幹細胞に戻らないものであり、かつ、該1以上の病変皮膚細胞が多能性幹細胞ではない、前記組成物。
【請求項2】
該1以上のiTR因子が、RNAを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
該1以上のiTR因子が、in vivoにおいて一過性に発現される、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
該1以上のiTR因子を、ヒドロゲルと組み合わせる、請求項1~3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
前記組成物が、対照と比較したときに、前記対象における該1以上の病変皮膚細胞中の、GFERタンパク質レベルを増大させ、COX7A1タンパク質レベルを低減させるためのものである、請求項1~4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
前記組成物が、対照と比較したときに、前記対象における該1以上の病変皮膚細胞中のLIN28Aの発現をさらに増大させるためのものである、請求項1~5のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
前記組成物が、対照と比較したときに、前記対象における該1以上の病変皮膚細胞中のLIN28A及びテロメラーゼの発現をさらに増大させるためのものである、請求項1~6のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】
前記組成物が、対照と比較したときに、前記対象における該1以上の病変皮膚細胞中のPLPP7の発現を低減させるためのものである、請求項1~7のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項9】
RNAがmRNAである、請求項2に記載の組成物。
【請求項10】
該1以上の病変皮膚細胞が、加齢又は加齢に関連する疾患若しくは状態により影響を受けた病変皮膚細胞である、請求項1~9のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項11】
該1以上の病変皮膚細胞が、創傷、熱傷、又は移植皮膚からの病変皮膚細胞である、請求項1に記載の組成物。
【請求項12】
該1以上の病変皮膚細胞が瘢痕化なしで、又は過剰な瘢痕化なしで再生される、請求項1~11のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項13】
該1以上のiTR因子が、制御放出用に製剤化されている、請求項1~12のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項14】
該1以上のiTR因子がウイルスベクターによりコードされている、請求項1~13のいずれかに記載の組成物。
【請求項15】
ウイルスベクターがアデノ随伴ウイルスベクターである、請求項14に記載の組成物。
【請求項16】
前記組成物がさらに対照と比較してHELLS及び/又はDMNT3Bの発現を測定するためのものであり、前記病変皮膚細胞の該1以上の病変皮膚細胞が多能性幹細胞に戻らないことが、対照と比較してHELLS及び/又はDMNT3Bの検出可能な発現が存在しないことにより決定される、請求項1~8のいずれかに記載の組成物。」
(2) 本件第2補正後のの特許請求の範囲の記載
「【請求項1】
1以上の病変皮膚細胞が多能性幹細胞に戻ることなく前記病変皮膚細胞を再生させるための組成物であって、
前記組成物は(a) LIN28Aをコードする核酸、(b) LIN28A及びTERTをコードする1以上の核酸、(c) OCT4、KLF4及びLIN28Aをコードする1以上の核酸、若しくは(d) OCT4、LIN28A、KLF4及びTERTをコードする1以上の核酸、又はその任意の組み合わせ、を含む1以上の誘導組織再生(iTR)因子を含み、前記核酸からの前記1以上の誘導組織再生(iTR)因子の発現が4日以上、7日以下であり、該1以上の病変皮膚細胞が多能性幹細胞に戻らないものであり、かつ、該1以上の病変皮膚細胞が多能性幹細胞ではない、前記組成物。
【請求項2】
該1以上のiTR因子が、RNAを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
該1以上のiTR因子が、in vivoにおいて一過性に発現される、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
該1以上のiTR因子を、ヒドロゲルと組み合わせる、請求項1~3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
前記組成物が、対照と比較したときに、前記対象における該1以上の病変皮膚細胞中の、GFERタンパク質レベルを増大させ、COX7A1タンパク質レベルを低減させるためのものである、請求項1~4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
前記組成物が、対照と比較したときに、前記対象における該1以上の病変皮膚細胞中のLIN28Aの発現をさらに増大させるためのものである、請求項1~5のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
前記組成物が、対照と比較したときに、前記対象における該1以上の病変皮膚細胞中のLIN28A及びテロメラーゼの発現をさらに増大させるためのものである、請求項1~6のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】
前記組成物が、対照と比較したときに、前記対象における該1以上の病変皮膚細胞中のPLPP7の発現を低減させるためのものである、請求項1~7のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項9】
RNAがmRNAである、請求項2に記載の組成物。
【請求項10】
該1以上の病変皮膚細胞が、加齢又は加齢に関連する疾患若しくは状態により影響を受けた病変皮膚細胞である、請求項1~9のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項11】
該1以上の病変皮膚細胞が、創傷、熱傷、又は移植皮膚からの病変皮膚細胞である、請求項1に記載の組成物。
【請求項12】
該1以上の病変皮膚細胞が瘢痕化なしで、又は過剰な瘢痕化なしで再生される、請求項1~11のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項13】
該1以上のiTR因子が、制御放出用に製剤化されている、請求項1~12のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項14】
該1以上のiTR因子がウイルスベクターによりコードされている、請求項1~13のいずれかに記載の組成物。
【請求項15】
ウイルスベクターがアデノ随伴ウイルスベクターである、請求項14に記載の組成物。
【請求項16】
前記組成物がさらに対照と比較してHELLS及び/又はDMNT3Bの発現を測定するためのものであり、前記病変皮膚細胞の該1以上の病変皮膚細胞が多能性幹細胞に戻らないことが、対照と比較してHELLS及び/又はDMNT3Bの検出可能な発現が存在しないことにより決定される、請求項1~8のいずれかに記載の組成物。」
(3) 補正の内容
本件第2補正は、以下の補正事項を含むものである。
ア 補正事項1
補正前の請求項1における「ヒト対象における1以上の病変皮膚細胞」との記載において、「ヒト対象における」との記載を削除する補正。
イ 補正事項2
補正前の請求項1における「前記組成物は該ヒト対象における前記病変皮膚細胞の1以上の細胞とin vivoにて4日以上、7日以下にわたり接触させるためのものであり」との記載を削除し、新たに補正後の「前記核酸からの前記1以上の誘導組織再生(iTR)因子の発現が4日以上、7日以下であり」との記載を付加する補正。
2 新規事項について
上記補正事項2によって新たに付加された「核酸からの前記1以上の誘導組織再生(iTR)因子の発現が4日以上、7日以下であ」るという事項について、本願の国際出願日における国際特許出願の明細書、特許請求の範囲若しくは図面(図面の中の説明に限る。)の翻訳文(以下「翻訳文等」という。)に記載された全ての事項を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものであるか否かについて、以下に検討する。
(1) 翻訳文等における記載
補正事項2に係る「前記核酸からの前記1以上の誘導組織再生(iTR)因子の発現が4日以上、7日以下であり」という発明特定事項は、本件第2補正後の請求項1に係る発明(以下「補正発明1」という)の組成物の「1以上の病変皮膚細胞が多能性幹細胞に戻ることなく前記病変皮膚細胞を再生させるため」という用途において、「前記核酸からの前記1以上の誘導組織再生(iTR)因子の発現が4日以上、7日以下であ」るように用いられることを特定する記載であるところ、補正発明1の用途に関し、翻訳文等には以下の記載がある。なお、下線は合議体が付したものであり「・・・」は記載の省略を示すし、以下同様である。
「【0002】
本開示は、哺乳動物種における胚-胎仔移行を検出およびモジュレートするための改良された方法に関する。
【背景技術】
【0003】
幹細胞技術、例えばヒト多能性幹(hPS)細胞のin vitroでの単離および増殖における進歩は、医学研究の重要な新規領域を構成している。hPS細胞は、未分化状態で増殖し、その後続いて複合組織を含むヒト体内のあらゆる全ての細胞型に分化するよう誘導される、実証された能力を有する。これにより、例えば、細胞の機能障害に起因する多くの疾患は様々な分化型に由来するヒト胚性幹細胞の投与による治療に適している場合があること(Thomsonら、Science 282:1145-1147 (1998))が予想される。
【0004】
hPS細胞の所望の細胞型への分化に関しては、ヒト胚性前駆細胞の株をクローンとして単離する可能性は、瘢痕を残さない方法での皮膚などの組織の再生に有用な出生前パターンの遺伝子発現を示す新規の高度に精製された細胞系譜を増やすための手段を提供する。・・・
【0005】
より最近になって、多能性幹細胞および誘導された胚様体の、3次元オルガノイドへのin vitro自己集合の能力が、移植用の組織の取得(Singhら、・・・)ならびにヒト胚発生のモデル化の両方のための潜在的経路として関心を集めている。胚細胞とは対照的に、胎仔および成体由来の細胞は、in vitroでの器官形成とin vivoでの付加再生の能力の低下が示されることが多い。付加再生は、「付加再生」と称されることもあり、比較的未分化な間充織の芽体が傷害の部位で増殖し、その後この細胞が分化することで元の組織の組織構造を回復させる組織再生の一種を指す。付加再生能力を喪失する発生上のタイミングを正確に決定することはできず、また恐らくは組織型によって異なるが、それでもやはり、胚-胎仔移行(EFT)、またはヒト発生の8週(カーネギー発生段階23・・・)は、有胎盤哺乳類における皮膚再生の喪失に時間的に対応していると考えられる(Walmsley, G.G.ら・・・)。種間の相関関係は、胚または幼生の状態における再生能力の増大を示し(Morgan, T.H.・・・)、またSanchez Alvarado, A., およびTsonis, P.A. (・・・)は、組織再生が、瘢痕化とは対照的に、胎仔または成体の表現型ではなく胚の表現型の存在を反映することを示唆している。一部の種の場合、発生上のタイミングにおける変化(異時性)は、幼生発生における発生停止(異時性)およびメキシコサラマンダー・アホロートル(A. mexicanum)で観察される四肢再生(Voss, S.R.ら、・・・)の場合のような著しい再生能力と関連がある。対照的に、アフリカトゲマウス(カイロトゲマウス(Acomys cahirinus))などの一部の動物は、明らかな異時性の非存在下で皮膚再生の著しい能力を示し、これは恐らく、特徴付けられていない分子の変更を反映している(Gawriluk, T.R., ・・・)。
【0006】
これらの観察結果にもかかわらず、付加再生において特定の分子の役割を試験するためのEFTのマーカーは限られている。本発明者らは、哺乳動物種におけるEFTのマーカーに関連する組成物および方法、ならびに組織再生をモジュレートする際のそれらの使用について以前に開示した(例えば2013年6月5日に出願された米国仮特許出願第61/831,421号、2014年6月3日に出願されたPCT特許出願PCT/US2014/040601および2015年12月7日に出願された米国特許出願第14/896,664号(これらの文献の開示内容は、参照によりその全てが本明細書中に組み込まれるものとする)を参照されたい)。それでもなお、EFTをモジュレートするためのさらなる分子調節因子および方法が、再生医療および癌における研究および治療のために必要とされている。
・・・
【発明の概要】
【0009】
異時性の調節因子の初期候補物質は線虫(C. elegans)で同定された。これらにはlin-28/let-7が含まれていた(Ambros, V. ・・・)。より最近になって、マウスにおけるパラログLin28aの遺伝子組換え発現は、創傷作成後の皮膚再生および切断指再生を増大させること、ならびに酸化的リン酸化のマーカーを増加させることが報告された(Shyh-Chang, N.ら ・・・)。しかし、該マウスにおける再生能力は、カイロトゲマウスで観察される著しい付加再生に匹敵するものではない。lin-28/let-7系は、多数の癌細胞型で活性化されることも観察されている(Jiang, S. ・・・)。癌におけるLIN28の異常発現は、恐らくは、EFT時の再生能力の抑制という自然選択の理由が、大抵の脊椎動物において、この形質の選択は、傷害後の生存が制限される可能性があるものの、腫瘍抑制機構として機能しうる点にあることを示唆している。多くの癌がワールブルク効果などの胚の復帰突然変異を示すという周知の観察結果もまたこの仮説と一致する。かかる分子機構の完全な同定は、組織再生の基礎研究を促進するだけでなく、加齢変性疾患を含むがこれらに限定されない外傷または変性疾患に罹患した該組織の修復を促進するために「誘導組織再生」(iTR)を引き起こし、胎仔または成体の表現型のもののような比較的より成熟した表現型を示す細胞の作製のため、ならびに診断および治療を目的として前記の胚の表現型に戻った悪性または前悪性の細胞を同定および標的化しかつそれらの細胞をより成熟した胎仔または成体の表現型へと成熟させてそれらの増殖を停止させる、および/またはアポトーシスをモジュレートすることにより該悪性細胞を抗癌剤で処置する時期を管理するために、胚(すなわち、胎仔前または出生前の)細胞に「誘導組織成熟」(iTM)を引き起こすことができる薬剤のスクリーニングを可能にするための、in vivoで細胞および組織において該分子機構をモジュレートするための本発明の新規方法を促進する。かかる診断は、癌腫、腺癌、または肉腫が胚の表現型(胚-腫瘍(embryo-onco)表現型)に戻っているその程度の判定と、その後患者の癌をその表現型に適した薬剤、すなわちその特定の表現型の癌細胞の複製またはアポトーシスを阻害するのに有効である薬剤で処置することを含む。さらに、本発明は「誘導癌細胞成熟」(iCM)を引き起こすことができる方法および組成物を提供し、かかる薬剤は単一の薬剤としても、一般的に使用される化学療法剤などの他の治療薬と組み合わせとしても、非常に広範囲の悪性腫瘍の治療に役立つ可能性を有する。
【0010】
概要
本開示は、細胞が胚または胎仔または成体の表現型を示すかどうか、かかる胎仔または成体の細胞の相対成熟度、胚-胎仔移行(EFT)に関与する調節性非コードRNAおよびmRNA、組織再生の能力、ならびに癌を同定する際、完全には前記の瘢痕を残さない再生を生じ得ない細胞および組織においてiTRを引き起こすことを目標とした、哺乳動物細胞においてEFTを調節する分子経路をモジュレートすることができる薬剤をスクリーニングする際ならびに該薬剤を利用する際に有用な人工知能ソフトウェア(ディープラーニング)を作成するための有用な化合物、組成物、および方法を提供することにより、以前は胚または胎仔前パターンの遺伝子発現であった細胞から成体表現型を示す細胞を産生させるためにiTMを引き起こすことができる薬剤をスクリーニングおよび利用し、さらに癌を診断および処置するために胚の表現型に戻っている悪性細胞を検出および標的化し、さらにiCMを引き起こすことができる薬剤をスクリーニングする。
・・・
【0020】
別の態様では、本開示はiTR因子の投与の方法を提供し、ここで該因子は他の条件では(つまり、iPS細胞を作成する際は)体細胞型に多能性を誘導することができる因子を含むものとし、該因子は、in vitroで胎仔もしくは成体由来の細胞をその胚性対応物に戻すかまたはin vivoで病変組織において該組織中の細胞を多能性幹細胞に戻すことなく組織再生を誘導するための、遺伝子:OCT4、SOX2、KLF4、NANOG、ESRRB、NR5A2、CEBPA、MYC、TERT、LIN28AおよびLIN28B、それらがコードするRNA、またはタンパク質の組み合わせを含む。
・・・
【0024】
本開示の別の態様では、ヒト遺伝子TERTを含むがこれに限定されないテロメラーゼ触媒成分を、TRを誘導すべき標的細胞または組織において本開示のiTR遺伝子と組み合わせて一過性に発現させることにより、体細胞の増殖能を伸ばし、それによってTRを促進する。このテロメラーゼ活性とiTR遺伝子(例えば、LIN28A、LIN28B、またはPCDHA4、PCDHB10、PCDHB2、PCDHB9などの胚の状態で比較的高いレベルで発現されるクラスター型プロトカドヘリン遺伝子のαもしくはβクラスター)との同時発現は、短いテロメアを有し、ヒト種の場合がそうであるように、その生物の寿命の間に細胞の複製老化が起きる種において、特に有用である。本開示の別の態様では、ヒト遺伝子TERTを含むテロメラーゼ触媒成分を標的細胞または組織において(構成的に発現させるのではなく)一過性に発現させることにより、体細胞の増殖能を、該細胞を不死化させることなく伸ばす。
・・・
【0030】
iTR療法を利用して対処しうる加齢および加齢関連疾患の多数の態様が、本開示中に提示される。これらの加齢の兆候としては、加齢関連血管機能不全、・・・;皮膚症状、例えば皮膚熱傷、裂傷、外科的切開、脱毛症、毛髪の灰色化、および皮膚老化;肺障害、例えば気腫および肺の間質性線維症;聴力障害、例えば聴力損失;ならびに血液障害、例えば再生不良性貧血および失敗した造血幹細胞移植が挙げられる。
【0031】
別の態様では、本開示は、in vivoで細胞におけるiTR遺伝子の発現を改変することにより、それらがiTRに関与できる状態にそれらを戻す方法を提供する。
【0032】
本開示の別の態様では、骨関節炎を含むがこれに限定されない変性疾患に罹患した組織においてiTRを引き起こす方法を提供し、ここで、その病変組織にiTRを生じさせる手段は、遺伝子発現ベクターまたはLIN28AもしくはLIN28BなどのLINファミリーのメンバーを含むがこれらに限定されない本明細書中に開示したiTR遺伝子の外因性発現をもたらすベクターを、ヒトTERTなどのテロメラーゼ触媒成分と共に利用するものとする。
・・・
【図面の簡単な説明】
【0043】
・・・
【図7A】図7A~図7Dは、ヒトES細胞(ES)におけるCOX7A1(a)、NAALADL1(b)、PLPP7(c)、およびLIN28B(d)に関してIllumina遺伝子発現ビーズアレイにより測定したRNA発現、クローン胚性前駆細胞株(EP)、発生の異なる時点の胎児の上腕に由来するin vitroで培養した初期継代線維芽細胞、および出生後の異なる年齢のヒトの上腕に由来するin vitroで培養した初期継代線維芽細胞、および多能性への転写リプログラミングの前または後(iPS細胞)の成体由来皮膚線維芽細胞における平均値を示す図である。
・・・
【図24A】図24A~図24Dは、図に示す遺伝子を発現する多様なレンチウイルス構築物で処理した成体由来の皮膚線維芽細胞(MDW)のRNAシークエンシングを示す図である。細胞内で外因的に発現されるLIN28Aの転写産物の値と、iTRマーカーであるCOX7A1およびCAT(これらの遺伝子は、iPS細胞に完全にリプログラムされた細胞と同様の様式でダウンレギュレートされていたが、ただしより低い程度であった)の値とを示す。GFER遺伝子は、LIN28A発現に比例する様式でアップレギュレートされた。
・・・
【発明を実施するための形態】
【0044】
詳細な説明
略語
・・・
hiPS細胞- ヒト人工多能性幹細胞は、hES特異的転写因子、例えばSOX2、KLF4、OCT4、MYC、またはNANOG、LIN28、OCT4、およびSOX2への曝露後に体細胞から取得されるhES細胞と類似した性質を持つ細胞である。
・・・
iPS細胞 - 人工多能性幹細胞は、ES特異的転写因子、例えばSOX2、KLF4、OCT4、MYC、またはNANOG、LIN28、OCT4、およびSOX2、SOX2、KLF4、OCT4、MYC、および(LIN28AもしくはLIN28B)、またはOCT4、SOX2、KLF4、NANOG、ESRRB、NR5A2、CEBPA、MYC、LIN28AおよびLIN28Bの他の組み合わせへの曝露後に体細胞から取得されるhES細胞に類似した性質を持つ細胞である。
・・・
【0060】
用語「ヒト人工多能性幹細胞」とは、免疫不全マウスに移植した場合に3つ全ての胚葉を形成する能力を含む、hES細胞と類似した性質を持つ細胞を指し、ここで、かかるiPS細胞は、脱分化因子、例えばhES細胞特異的転写因子の組み合わせ:KLF4、SOX2、MYC;OCT4もしくはSOX2、OCT4、NANOG、およびLIN28;またはOCT4、SOX2、KLF4、NANOG、ESRRB、NR5A2、CEBPA、MYC、LIN28AおよびLIN28Bのうちの種々の組み合わせへの曝露後あるいはhES細胞と類似した性質を持つ多能性幹細胞状態を得るために体細胞を誘導する他の方法の後に、変化した体細胞系列の細胞から誘導される。しかし、体細胞核移植(SCNT)による体細胞のリプログラミングは、典型的には、iPS細胞ではなくNT-ES細胞と称される。
・・・
【0070】
用語「多能性幹細胞」とは、2つ以上の分化した細胞型に分化することができる動物細胞を指す。かかる細胞としては、hES細胞、割球/桑実胚細胞およびその誘導されたhED細胞、hiPS細胞、hEG細胞、hEC細胞、ならびに成体由来の細胞、例えば間葉系幹細胞、神経幹細胞、および骨髄由来幹細胞が挙げられる。多能性幹細胞は、遺伝的に改変されていても、または遺伝的に改変されていなくてもよい。遺伝的に改変された遺伝的に改変された細胞は、卵内でのその同定を容易にするための蛍光タンパク質などのマーカーを含んでいてもよい。
・・・
【0126】
本出願人らは、アホロートルにおける切断四肢の再生、MRLもしくはアフリカトゲマウスにおける皮膚の再生、またはプラナリアにおける全身体部分の再生といった著しいTRの能力を示す原始的な動物が、単に各組織の正常な胚発生を繰り返すことによりそうしていると教示する。さらに、本出願人らは、TR抵抗性の哺乳動物、例えば殆どのマウス種およびヒトにおける、損傷組織を再生できない原因は、ある特定の胚性遺伝子転写がこれらのTR抵抗性動物におけるEFT時に変更されていることにあると教示する。さらに、本出願らは、TR抵抗性動物におけるEFT時に変更されるこれらの遺伝子発現の胚特異的パターンの、特定のものの回復は、形成中心因子に対する応答を含む、任意の組織における再生の能力を誘導し、複雑な組織再生およびそれに伴う瘢痕形成の減少をもらしうると教示する。最後に、本出願人らは、哺乳動物種においてTRを誘導する新規の薬剤およびそれに関連する方法を教示する。該方法はin vivoで哺乳動物種における、特にホモサピエンス種におけるTRを促進する。
・・・
【0139】
他の実施形態では、iTR因子は、RNAを細胞に、直接、または細胞と十分な期間反応させることができれば多能性を誘導することができるがより少ない時間でiTRを引き起こしうる遺伝子発現構築物により、導入することができる構築物である。好ましくは、RNAは多能性へのリプログラミングに必要とされるRNAの全ては含まず、代わりにLIN28AまたはLIN28Bのみを、場合によってはテロメラーゼの触媒成分(TERT)のRNAなどのテロメア長を増加させる薬剤と共に含む。最も好ましくは、iTRを誘導するための薬剤は、場合によってはTERTをコードするRNAもしくは遺伝子などのテロメア長を増加させる薬剤と組み合わせた、ならびに/または本明細書中に開示した、iTRにとって重要な因子、例えば0.05~5mMのバルプロ酸、好ましくは0.5 mMのバルプロ酸、1~100 ng/mLのAMH、好ましくは10 ng/mLのAMH、および2~200 ng/mLのGFER、好ましくは20 ng/mLと組み合わせた、GFERなどのLIN28AまたはLIN28Bコード化タンパク質により誘導される遺伝子/因子である。in vivoで投与する場合、かかる因子を、好ましくは徐放性ヒドロゲルマトリックス、例えば、HyStemマトリックスなどの化学的に修飾されかつ架橋されたヒアルロン酸およびコラーゲンからなるものとして投与する。
・・・
【0150】
試験化合物
広範囲の試験化合物を、iTR因子及びiTRのグローバルモジュレーターを同定するための本発明の方法において使用することができる。例えば、試験化合物は、遺伝子OCT4、SOX2、KLF4、NANOG、ESRRB、NR5A2、CEBPA、MYC、LIN28A及びLIN28B単独のmRNA並びに種々の組合せを含めた、本明細書に記載のものを含むがこれらに限定されない、小分子、ポリペプチド、ペプチド、核酸、オリゴヌクレオチド、脂質、炭水化物、抗体又はハイブリッド分子であってもよく、また小分子化合物との種々の組合せ、例えば、以下の化合物の組合せであってもよい:CHIR99021を含むがこれらに限定されないグリコーゲンシンターゼ3(GSK3);SB431542、A-83-01、及びE616452を含むがこれらに限定されないTGF-βシグナル伝達のインヒビター;バルプロ酸、フェニル酪酸塩、及びn-酪酸塩を含むがこれらに限定されない、脂肪酸化合物を含むがこれらに限定されないHDACインヒビター;トラポキシンB及びデプシペプチドを含む環状テトラペプチド;ヒドロキサム酸、例えばトリコスタチンA、ボリノスタット(SAHA)、ベリノスタット(PXD101)、LAQ824、パノビノスタット(LBH589)、ベンザミド系エンジノスタット(MS-275)、CI994、モチェノスタット(MGCD0103);サーチュイン阻害剤ニコチンアミド、NADの種々の誘導体、ジヒドロクマリン、ナフトピラノン、及び2-ヒドロキシナフタレンアルデヒド、若しくはIV(HDAC11)脱アセチル化酵素を含む、クラスI(HDAC1、HDAC2、HDAC3及びHDAC8)、クラスIIA(HDAC4、HDAC5、HDAC7及びHDAC9)、クラスIIB(HDAC6及びHDAC10)、クラスIII(SIRT1、SIRT2、SIRT3、SIRT4、SIRT5、SIRT6若しくはSIRT7)を特異的に標的とするもの;パルネートを含むがこれに限定されないH3K4/9ヒストンデメチラーゼLSD1のインヒビター;EPZ004777を含むがこれに限定されないDot1Lのインヒビター;Bix01294を含むがこれに限定されないG9aのインヒビター;DZNepを含むがこれに限定されないEZH2のインヒビター、RG108を含むがこれに限定されないDNAメチルトランスフェラーゼのインヒビター;5-アザ-2'-デオキシシチジン(商品名Vidaza及びAzadine);DNAメチル化を抑制し、脱メチル化の第一段階である5hmCを増加させるTet1を増加させ得るビタミンC;PS48を含むがこれに限定されない3'ホスホイノシチド依存性キナーゼ1のアクチベーター;ケルセチン及びフルクトース2,6-ビスホスフェート(ホスホフルクトキナーゼ1のアクチベーター)を含むがこれらに限定されない解糖の促進剤;ケルセチンを含むがこれに限定されないHIF1転写複合体の活性を促進する薬剤;AM580、CD437、及びTTNPBを含むがこれらに限定されないRARアゴニスト;レスベラトロールを含むがこれに限定されない低酸素症を模倣する薬剤;テロメラーゼの触媒成分(TERT)の外因性発現を含むがこれに限定されないテロメラーゼ活性を増加させる薬剤、LSD1のダウンレギュレーションを介したエピジェネティック修飾を促進する薬剤、リチウムを含むがこれに限定されないH3K4特異的ヒストンデメチラーゼ;又はPD032590を含むがこれに限定されないMAPK/ERK経路のインヒビター。このような化合物は、例えば、COX7A1若しくはNAALADL1又は本明細書に記載のiTRの他のインヒビターの低下した発現をアッセイすることにより、及び/又はPCDHB2若しくはAMH又は本明細書に記載のiTRの他のアクチベーターの増大した発現をアッセイすることにより、グローバルiTRのマーカーを使用して、in vitroで培養した細胞に対して、或いはin vivoでの損傷組織若しくは病変組織において、或いはin vivoでの動物の寿命のモジュレートにおいて、iTRの効果を最適化するために様々な組合せ、濃度で、また異なる期間、投与することができる。
【0151】
COX7A1、PLPP7、及びNAALADL1遺伝子の発現、並びにDNMT3B、及びHELLS又はTra-1-60、Tra-1-81、及びSSEA4をそれぞれ含む多能性の遺伝子発現又は遺伝子マーカーのiTRパターンに関するin vitroアッセイを実施し、標的細胞を多能性に戻すことなく、iTR遺伝子発現のグローバルパターンを最適化する。スクリーニングされる個々の薬剤及び薬剤の組合せの例は、OCT4、SOX2、KLF4、MYC及びLIN28A;OCT4;KLF4;OCT4、KLF4;OCT4、KLF4、LIN28A;OCT4、KLF4、LIN28B;SOX2;MYC;NANOG;ESRRB;NT5A2;OCT4、SOX2、KLF4、及びLIN28A;OCT4、SOX2、KLF4、及びLIN28B;OCT4、KLF4、MYC及びLIN28Aであり;最初の4週間、それぞれの前述の薬剤の組合せを0.25mMのNaB、5μMのPS48、及び0.5μMのA-83-01と一緒にし、続いて0.25mMの酪酸ナトリウム、5μMのPS48、0.5μMのA-83-01、及び0.5μMのPD0325901で処理し、それらの各々を、iTR遺伝子発現のグローバルモジュレーションのマーカーについて0、1、2、4、7、10及び14日目にアッセイする。
・・・
【0164】
iTR、iTM、及びICM因子の使用
医薬組成物
iTR、iTM、及びiCM因子は、様々な使用を有する。そのような使用の非限定的な例は、本明細書において論じられている。いくつかの実施形態において、iTR因子を使用して、器官又は組織の再生を増強する。いくつかの実施形態において、iTR因子を使用して、四肢、指、軟骨、心臓、血管、硬骨、食道、胃、肝臓、胆嚢、膵臓、腸、直腸、肛門、内分泌腺(例えば甲状腺、副甲状腺、副腎、膵臓の内分泌部分)、皮膚、毛包、胸腺、脾臓、骨格筋、局所損傷心筋、平滑筋、脳、脊髄、末梢神経、卵巣、卵管、子宮、膣、乳腺、精巣、輸精管、精嚢、前立腺、陰茎、咽頭、喉頭、気管、気管支、肺、腎臓、尿管、膀胱、尿道、眼(例えば網膜、角膜)、又は耳(例えばコルチ器官)の再生を増強する。いくつかの実施形態において、iTR因子を使用して、間質層、例えば、組織の実質組織を支持する結合組織の再生を増強する。いくつかの実施形態において、iTR因子を使用して、外科手術、例えば、罹患した又は損傷した組織、器官、又は他の構造、例えば四肢、指などの少なくとも一部の切除を伴う外科手術後の再生を増強する。例えば、このような外科手術は、肝臓、肺、腎臓、胃、膵臓、腸、乳腺、卵巣、精巣、硬骨、四肢、指、筋肉、皮膚などの少なくとも一部を切除するものであってよい。いくつかの実施形態において、手術は腫瘍を切除することである。いくつかの実施形態において、iTR因子を使用して、外傷、外科手術、疾患及び火傷の後の皮膚の傷跡を残さない再生を促進する。
・・・
【0208】
本発明の医薬組成物は、治療目的で対象に投与される場合、好ましくは、それらが投与される疾患又は状態を治療するのに十分な時間及び量で投与される。活性剤の治療有効性及び毒性は、細胞培養又は実験動物における標準的な薬学的手順によって評価することができる。細胞培養アッセイ及び動物試験から得られたデータは、ヒト対象又は他の対象における使用に適した投薬量の範囲を定める際に使用することができる。ヒト投与に関する異なる投与量は、当分野で公知のヒトにおける臨床試験においてさらに試験することができる。使用される投与量は、最大許容投与量又はより少ない投与量であってもよい。医薬組成物中の活性剤の治療有効量は、約0.001mg/kg~約100mg/kg体重、約0.01~約25mg/kg体重、約0.1~約20mg/kg体重、約1~約10mg/kg体重の範囲内であり得る。他の例示的な投与量としては、例えば、約1μg/kg~約500mg/kg、約100μg/kg~約5mg/kgが挙げられる。いくつかの実施形態において、単一投与量が投与され、他の実施形態において複数投与量が投与される。当業者には、任意の特定の状況における適切な投与量が利用される薬剤(複数可)の効力に依存し、任意選択で特定のレシピエントに調整され得ることが理解されよう。対象に関する特定の投与量レベルは、使用される特定の薬剤(複数可)の活性、対象の特定の疾患又は状態及びその重症度、年齢、体重、一般的な健康状態などを含む様々な因子に依存し得る。投与を容易にし、投与量を均一にするために、医薬組成物、特に経口組成物又は非経口組成物用のものを単位投与剤形に製剤化することが望ましい場合がある。単位投与剤形は、その用語が本明細書で使用される場合、治療しようとする対象に関する単位投与量として適した物理的に個別の単位を意味する。各単位は、適切な薬学的に許容される担体とともに所望の治療効果を生じるように計算された活性剤(複数可)の所定量を含有する。治療レジメンが、数日、数週間、数ヶ月又は数年にわたって延長することが可能な期間の複数回投与量、例えば単位剤形の投与を含み得ることは理解されよう。対象は、1日に1回以上の投与を受けることができ、又は治療期間内に1日おき、若しくはそれより少ない頻度で投与を受けることができる。例えば、投与は、隔週、毎週などである。投与は、例えば、組織若しくは器官の適切な構造及び/若しくは機能が少なくとも部分的に回復するまで、並びに/又は化合物の継続的投与がさらなる再生若しくは改善を促進するように見えなくなるまで続けることができる。いくつかの実施形態において、対象は、本発明の組成物の1投与量以上を対象自身に投与する。
・・・
【0215】
(実施例)
[実施例1]
オンラインマイクロアレイデータ及び培養したクローン胚性前駆細胞株からのデータを用いたDNNトレーニング。
・・・
【0224】
EFTのマーカーとしての13種の遺伝子をさらに検証するため、マウスEFTにまたがる胚の時点でマウス全体において発現レベルを測定した(カーネギー段階23/セイラー段階(Theiler Stage)24又はE16にほぼ対応すると推定される)。図6に示したとおり、遺伝子COX7A1、NAALADL1、及びPLPP7は、マウスEFTに近い時点で顕著なアップレギュレーションを示したが、遺伝子LIN28Bの発現は、同じ期間で低下した。
【0225】
ヒトの発達におけるマーカーを検証するため、本発明者らは、同一条件ですべて培養された胎児発達の開始(妊娠8週)から上腕の初期継代皮膚線維芽細胞を利用した。図7に示したIllumina遺伝子発現ビーズアレイに基づくデータは、COX7A1、NAALADL1、及びPLPP7遺伝子が発達の8週から再び誘導されたことを示し、おそらく最も顕著なマーカーはCOX7A1であり、これは胎児及び出生後の発達を通して発現において徐々に増加し、成体期には横ばいになるようであった。LIN28BはES細胞において最も高いレベルで発現され、胚性前駆細胞及び初期胎児発生からの線維芽細胞においては低いが検出可能なレベルで発現されたが、成体由来細胞においては発現されなかった。本発明に記載されているEFT遺伝子発現のすべてのパターンは、老化線維芽細胞由来iPS細胞において遺伝子発現の成体パターンから胚性パターンに効果的にリプログラミングされた。例えば、図7で明らかなように、60歳、61歳及び62歳のドナー由来の正常皮膚線維芽細胞は、比較的高いレベルのCOX7A1、NAALADL1及びPLPP7 mRNAを発現したが、多能性に転写的にリプログラミングされたもの(図7において「iPS細胞-60 Yr」、「iPS細胞-61 Yr」、「iPS細胞-62 Yr」と表記したもの)は、胚性(胎児前又は出生前)のパターンを発現した。・・・
・・・
【0227】
胚移行のマーカーとしての遺伝子COX7A1、NAALADL1及びPLPP7、並びに胚状態のマーカーとしての遺伝子LIN28Bの検証のさらなる証拠として、3つの遺伝子対(すなわち、LIN28B対COX7A1、NAALADL1又はPLPP7)が、様々な肉腫細胞株において、強いインバース一致(inverse agreement)をもって同定された。すなわち、一方の遺伝子が発現された場合は他方の遺伝子は発現されなかったか、又は両遺伝子が発現されなかった。発現は、100XYZより大きいXYZとして定義された。対の遺伝子を図9に示しているが、陰影領域は遺伝子の強いインバース一致を強調している。LIN28BとCOX7A1の間のインバース一致の割合は83.3%(95%CI: 66.4~92.7)、LIN28B及びNAALAD1は100%(95%CI: 88.6~100)であり、LIN28B及びPLPP7は73.3%(95%CI: 55.6~85.8)である。
・・・
【0234】
[実施例7]
細胞を多能性に復帰させないiPS細胞因子を使用する分化した胎児又は成体由来細胞におけるiTRの最適条件のスクリーニング。
上記の実施例1で示すように、遺伝子OCT4、SOX2、KLF4、MYC及びLIN28AのmRNAの使用によるなどの成体由来分化細胞の多能性への転写リプログラミングは、本発明に記載されているiTRに関連する複数の遺伝子発現変化のパターンを生じる。したがって、カクテルそれ自体は、変性疾患の面において組織再生を増加させるiTR剤として、実施例1に示したようなin vitroにおいてだけでなく、本明細書に記載されているようにin vivoにおいても使用することができる。しかし、そのようなリプログラミング因子のカクテルをin vivoで長期間投与することにより、in vivoでの細胞の多能性への復帰、それに続く奇形腫、異常な異所性組織、又は悪性腫瘍の出現の本質的なリスクを有する可能性があるため、細胞を完全に多能性にリプログラミングすることなく、in vitro及びin vivoで胎児由来細胞及び成体由来細胞において遺伝子発現のiTRパターンを安全に生じさせる方法を同定することが必要とされている。そのようなプロトコルは、EFTをトラバースした細胞のマーカーを発現する、例えばCOX7A1、CAT及びNAALADL1を発現する前記胎児由来分化細胞又は成体由来分化細胞の後成的なリプログラミングの方法を提供し、その結果、前述の遺伝子のプロモーターが比較的高い程度までメチル化され、それにより、細胞が多能性に復帰することなく、又は外因性薬剤投与前の一次胚葉(すなわち中胚葉、外胚葉、内胚葉、神経堤)からそれらの最終結果を変化させることなく、細胞が遺伝子発現の胎児前(すなわちiTR)パターンに戻される。理想的には、そのようなスクリーニングは、標的組織における悪性腫瘍のリスクをさらに低減するために、iPS細胞生成因子を使用することなくiTRを生成することができる下流の調節因子をさらに同定する。
【0235】
そのような条件を同定するこの最適化プロトコルは、以下のように同定される。成体由来の正常皮膚線維芽細胞、及び個別に、テロメラーゼの触媒成分を発現するレンチウイルス(TERT)を用いて不死化されネオマイシン(G418)耐性を使用することにより選択された同一線維芽細胞に、それぞれ、OCT4、SOX2、KLF4、NANOG、ESRRB、NR5A2、CEBPA、MYC、LIN28A及びLIN28B遺伝子を単独で及び多様な組合せで発現するレンチウイルスベクターを、また以下の化合物の組合せのような小分子化合物:CHIR99021を含むがこれに限定されないグリコーゲンシンターゼ3(GSK3)インヒビター;SB431542、A-83-01、及びE616452を含むがこれに限定されないTGF-βシグナル伝達のインヒビター;バルプロ酸、フェニル酪酸塩、及び酪酸塩を含むがこれらに限定されない脂肪酸化合物を含むがこれに限定されないHDACインヒビター;トラポキシンB及びデプシペプチドを含む環状テトラペプチド;ヒドロキサム酸、例えば、トリコスタチンA、ボリノスタット(SAHA)、ベリノスタット(PXD101)、LAQ824、パノビノスタット(LBH589)、ベンザミド系エンジノスタット(MS-275)、CI994、モチェノスタット(MGCD0103);サーチュインインヒビターニコチノマイド、NADの多様な誘導体、ジヒドロクマリン、ナフトピラノン、及び2-ヒドロキシナフタレンアルデヒド、若しくはIV(HDAC11)脱アセチル化酵素を含む、クラスI(HDAC1、HDAC2、HDAC3、及びHDAC8)、クラスIIA(HDAC4、HDAC5、HDAC7、及びHDAC9)、クラスIIB(HDAC6及びHDACIO)、クラスIII(SIRT1、SIRT2、SIRT3、SIRT4、SIRT5、SIRT6若しくはSIRT7)を特異的に標的とするもの;パルネートを含むがこれに限定されないH3K4/9ヒストンデメチラーゼLSD1のインヒビター;EPZ004777を含むがこれに限定されないDot1Lのインヒビター;Bix01294を含むがこれに限定されないG9aのインヒビター;RG108を含むがこれに限定されないDNAメチルトランスフェラーゼのインヒビター、DZNepを含むがこれに限定されないEZH2のインヒビター;5-アザ-2'-デオキシシチジン(商品名Vidaza及びAzadine);DNAメチル化を抑制し、脱メチル化の第一段階である5hmCを増加させるTet1を増加させることができるビタミンC;PS48を含むがこれに限定されない3'ホスホイノシチド依存性キナーゼ1のアクチベーター;ケルセチン及びフルクトース2,6-ビスホスフェート(ホスホフルクトキナーゼ1のアクチベーター)を含むがこれらに限定されない解糖の促進剤;ケルセチンを含むがこれに限定されないHIF1転写複合体の活性を促進する薬剤;AM580、CD437、及びTTNPBを含むがこれらに限定されないRARアゴニスト;レスベラトロールを含むがこれに限定されない低酸素症を模倣する薬剤;LSD1のダウンレギュレーションを介してエピジェネティックな修飾を促進する薬剤、リチウムを含むがこれに限定されないH3K4特異的ヒストンデメチラーゼ;又はPD032590を含むがこれに限定されないMAPK/ERK経路のインヒビターとの多様な組合せをさらに感染させる。このような化合物は、例えば、COX7A1若しくはCAT又は本明細書に記載のiTRの他のインヒビターの低下した発現をアッセイすることにより、及び/又はPCDHB2若しくはAMH又は本明細書に記載のiTRの他のアクチベーターの増大した発現をアッセイすることにより、グローバルiTRのマーカーを使用して、in vitroで培養した細胞に対して、或いはin vivoでの損傷組織若しくは病変組織において、或いはin vivoでの動物の寿命のモジュレートにおいて、iTRの効果を最適化するために様々な組合せ、濃度で、また異なる期間、投与することができる。
【0236】
MDW細胞(正常及びTERT-不死化)は、10%FBSを含有するDMEM培地を入れた12ウェルプレートにおいて、1×105細胞/ウェルで播種した培養物にin vitroでプレーティングした。ポリブレンを培地に添加した(8ug/mLの最終濃度となるよう1mLのウイルス/培地に対して0.8ul/mLのポリブレン(10ug/ulのストックで))。ウイルスをウェルあたり1mlで添加した。対照タイプ1(「エンプティウイルス」=GFPのみを発現するウイルス);対照タイプ2(非感染)については1つのウェルを使用した。2つの異なるタイプの細胞があったので(TERTの有無)、2セットの対照が存在した。培地を静かにかき混ぜて混合し、細胞を被覆した。ウイルスを入れた細胞のプレートは、一晩37℃及び5%CO2のインキュベーターに戻した。形質導入後の1日目に、ウイルス培地を除去し、10%FBSを補充した通常のDMEM培地と交換し、1日おきに供給し、次いでRNAをRNAシーケンシング用に回収した。
【0237】
遺伝子COX7A1、CAT、及びNAALADL1の発現、並びにDNMT3B、及びHELLS又はTra-1-60、Tra-1-81及びSSEA4を含む多能性の遺伝子発現又はタンパク質マーカーのiTRパターンに関するin vitroアッセイは、それぞれ、標的細胞を多能性に復帰させることなく、iTR遺伝子発現のグローバルパターンを最適化するために実施される。スクリーニングされる個々の薬剤及び薬剤の組合せの例は、OCT4、SOX2、KLF4、MYC及びLIN28A;OCT4;KLF4;OCT4、KLF4;OCT4、KLF4、LIN28A;OCT4、KLF4、LIN28B;SOX2;MYC;NANOG;ESRRB;NT5A2;OCT4、SOX2、KLF4及びLIN28A;OCT4、SOX2、KLF4及びLIN28B;OCT4、KLF4、MYC及びLIN28Aである。最初の4週間、0.25mMのNaB、5μMのPS48及び0.5μMのA-83-01と一緒に、前述の薬剤のそれぞれの組合せで、続いて0.25mMの酪酸ナトリウム、5μMのPS48、0.5μMのA-83-01及び0.5μMのPD0325901で処理し、それらの各々について、iTR遺伝子発現のグローバルモジュレーションのマーカーを0、1、2、4、7、10、及び14日目にアッセイする。
【0238】
テロメア長が制限されている場合の遺伝子TERTの一過性発現などのテロメラーゼの触媒成分の発現の増加と組み合わせた場合に得られる最適化条件は、組織再生を誘導するin vitro又はin vivoでの胎児細胞又は成体細胞における、COX7A1、PLPP7、及びNAALADL1遺伝子発現の低下を含むがこれに限定されないiTRパターンの遺伝子発現を誘導する手段を提供する。
【0239】
図24に示すように、2つの製造業者、Genecopia(G)及び他の業者(O)からのLIN28Aを、Genecopoeiaベクターとともに使用し、最高発現レベルのLIN28Aを得た(「*」の印を記載)。より高いレベルのLIN28A発現との相関は、COX7A1が低レベル、GFERが高レベル、及びCATが低レベルであり、iTRへのシフトを示した。検出可能な多能性マーカー、例えばHELLS又はDNMT3Bは、これらの条件において存在しなかった。したがって、LIN28A単独、又はTERTと組み合わせたLIN28A、又はOCT4、KLF4、LIN28A、又はOCT4、KLF4、LIN28A及びTERTは、iTRを誘導することができた。」
「【図7A】
[図:0001432290000001.jpg]
【図7B】
[図:0001432290000002.jpg]
【図7C】
[図:0001432290000003.jpg]
【図7D】
[図:0001432290000004.jpg]
【図24A】
[図:0001432290000005.jpg]
【図24B】
[図:0001432290000006.jpg]
【図24C】
[図:0001432290000007.jpg]
【図24D】
[図:0001432290000008.jpg]
」
(2) 判断
ア 上記(1)記載事項に基づけば、補正発明1は、胚細胞で見られる付加再生能力は、胚-胎仔移行(EFT)により失われるが、EFTをモジュレートする調節分子Lin28aの遺伝子組換え発現により、創傷作成後の皮膚再生および切断指再生を増大させることが報告される一方で、lin-28/let-7は、多数の癌細胞型で活性化されることが観察されているという技術的背景(【0005】~【0006】、【0009】)の下でなされた発明であり、標的組織における悪性腫瘍等の出現のリスクを回避しつつ、組織再生能力を高め、瘢痕を残さずに皮膚組織を再生させること(【0126】、【0234】)を技術課題とするものである。
ここで、補正発明1の「誘導組織再生(iTR)因子」は、成体由来分化細胞を多能性幹細胞へリプログラミングする因子として知られるものであり(【0044】、【0060】)、【0234】において、「完全に多能性にリプログラミングすることなく、in vitro及びin vivoで胎児由来細胞及び成体由来細胞において遺伝子発現のiTRパターンを安全に生じさせる方法を同定することが必要とされている」と説明されているように、補正発明1において特定する「1以上の誘導組織再生(iTR)因子」を含む「組成物」を「1以上の病変皮膚細胞が多能性幹細胞に戻ることなく前記病変皮膚細胞を再生させるため」に使用するためには、「細胞が多能性に復帰することなく、又は外因性薬剤投与前の一次胚葉(すなわち中胚葉、外胚葉、内胚葉、神経堤)からそれらの最終結果を変化させることなく、細胞が遺伝子発現の胎児前(すなわちiTR)パターンに戻される」ように使用されることが必要なものである。
イ そのような「1以上の誘導組織再生(iTR)因子」の実施形態として、翻訳文等には、「細胞に、直接、または細胞と十分な期間反応させることができれば多能性を誘導することができるがより少ない時間でiTRを引き起こしうる遺伝子発現構築物により、導入する」(【0139】)ことや、「疾患又は状態を治療するのに十分な時間及び量で投与される」、「治療レジメンが、数日、数週間、数ヶ月又は数年にわたって延長することが可能な期間の複数回投与量、例えば単位剤形の投与を含み得る」(【0208】)といった一般的な説明が記載されている。
そして、実施例1(【0215】~【0227】、【0043】、【図7A】~【図7D】)には、EFTマーカーを同定したことが記載され、実施例7(【0234】~【0239】)には、「細胞を多能性に復帰させないiPS細胞因子を使用する分化した胎児又は成体由来細胞におけるiTRの最適条件のスクリーニング」について、「遺伝子COX7A1、CAT、及びNAALADL1の発現、並びにDNMT3B、及びHELLS又はTra-1-60、Tra-1-81及びSSEA4を含む多能性の遺伝子発現又はタンパク質マーカーのiTRパターンに関するin vitroアッセイは、それぞれ、標的細胞を多能性に復帰させることなく、iTR遺伝子発現のグローバルパターンを最適化するために実施される。・・・iTR遺伝子発現のグローバルモジュレーションのマーカーを0、1、2、4、7、10、及び14日目にアッセイする。」(【0237】)との一般的な説明の記載があるが、実際に行われたin vitro試験としては、「成体由来の正常な皮膚線維芽細胞」及び「TERTを用いて不死化した同一線維芽細胞」という特定の細胞について、「1×105細胞/ウェルで播種した培養物」に対して補正発明1において特定される「1以上の誘導組織再生(iTR)因子」を含む「組成物」を「8ug/mLの最終濃度となるよう」に「ウイルスをウェルあたり1mlで添加し」、「形質導入後の1日目に、ウイルス培地を除去」するというものであり、その結果については、Illumina遺伝子発現ビーズアレイによりRNA発現を測定した結果(【0043】、【図24A】~【図24D】)が示されるにとどまるものである。
しかしながら、上記結果について、ウイルス添加後何日目の遺伝子発現を測定したものかについては何ら説明がなく、また、経時的な遺伝子発現パターンの変化も不明であって、そうである以上、in vitro試験で使用した皮膚繊維芽細胞が、上記測定の前後の全期間にわたって、多能性にリプログラミングされることは完全になかったのかは不明であるといわざるを得ないし、仮に、iTRパターンを生じていたとしても、これが、悪性腫瘍等を出現させることなく皮膚組織を再生したか否かも不明である。
ウ さらに、補正発明1は、補正後の請求項3に特定されるとおり、「in vivo」で使用される態様を包含するところ、特定の細胞と培養液のみが存在するin vitro試験とは異なり、多種多様な細胞や生体内の分子等が存在するin vivoの病変組織の環境において、補正発明1の組成物を用いて「細胞が多能性に復帰することなく、又は外因性薬剤投与前の一次胚葉(すなわち中胚葉、外胚葉、内胚葉、神経堤)からそれらの最終結果を変化させることなく、細胞が遺伝子発現の胎児前(すなわちiTR)パターンに戻される」条件については、【0235】にその条件を同定するためのプロトコルが説明されるにとどまり、補正発明1において特定する「1以上の誘導組織再生(iTR)因子」をin vivoにおいて「4日以上、7日以下」の期間発現させるように用いられることについては、実際に、病変細胞が多能性幹細胞に戻ることなく再生されることを確認した実施例がないばかりか、形式的な記載もない。
エ そうすると、翻訳文等には、補正事項2に係る「前記核酸からの1以上の誘導組織再生(iTR)因子の発現が4日以上、7日以下であ」るように用いられることが、本来、多能性幹細胞へリプログラミングする因子として知られるLin28a等を「1以上の病変皮膚細胞が多能性幹細胞に戻ることなく前記病変皮膚細胞を再生させるため」の用途への適用において記載されていたものとは認められず、またそのようなことが本願出願時の技術常識から自明であったものとも認められない。
オ 審判請求人は、令和7年7月28日提出の意見書(以下「第2意見書」という。)において、明細書段落【0151】の「iTR遺伝子発現のグローバルモジュレーションのマーカーについて0、1、2、4、7、10及び14日目にアッセイする。」という記載から、必然的に、前記核酸からの前記1以上の誘導組織再生(iTR)因子の発現が4日以上、7日以下であることが導かれる旨主張している(p.6、「審判請求人の説明」)。
しかしながら、審判請求人も認めているとおり、明細書段落【0151】は、広範囲の試験化合物を用いて「in vitroアッセイ」を実施した際のマーカーの検出時期を記載するものであって、補正発明1において特定する「病変皮膚細胞」において、特定の「誘導組織再生(iTR)因子」を発現させる期間の上限及び下限を記載するものではない。
したがって、審判請求人の主張を採用することはできない。
カ 以上のとおりであるから、本件第2補正は出願当初の明細書、特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項が導入するものであり、特許法第17条の2第3項に規定する要件に違反するものである。
3 補正の目的要件について
補正事項1及び2によって、補正前の請求項1における「ヒト対象における1以上の病変皮膚細胞」との記載における「ヒト対象における」という記載、及び「in vivoにて4日以上、7日以下にわたり接触させる」という記載における「in vivoにて」という記載が削除されたため、補正後の請求項1には、「ヒト対象」以外の「1以上の病変皮膚細胞」が包含され、また、in vitroで使用される組成物も包含されるものとなった。
したがって、補正事項1及び2は、特許請求の範囲を拡張するものであり、発明特定事項を限定するものではないから、特許請求の範囲の限定的減縮を目的とするものではない。
また、請求項の削除、誤記の訂正及び明りょうでない記載の釈明をするものでもない。
そして、審判請求人は第2意見書において、「ヒト対象における」及び「in vivoにて」という記載の削除について、補正の目的要件を充足することについて何ら具体的根拠をもって説明していない。
以上のとおりであるから、本件第2補正は、特許法第17条の2第5項各号に規定するいずれの事項を目的とするものとも認められない。
4 独立特許要件について
審判請求人は、第2意見書において、本件第2補正が「総じて発明の限定的減縮に該当する」と主張していることを勘案し、仮に、本件第2補正が限定的減縮を目的とするものであると仮定して、補正後の補正発明1が、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するかについて、以下に検討する。
(1) 実施可能要件(特許法第36条第4項第1号)について
ア 補正発明1は、当審における令和6年6月10日付け拒絶理由通知で引用した文献(国際公開第2014/197421号)等にも記載されるように、従来公知の「1以上の誘導組織再生(iTR)因子」を含む「組成物」について、「1以上の病変皮膚細胞が多能性幹細胞に戻ることなく前記病変皮膚細胞を再生させるため」に、「前記1以上の誘導組織再生(iTR)因子」を「4日以上、7日以下」「発現」させるように用いることに技術的特徴を有する医薬用途発明であるところ、本願が実施可能要件を満たすといえるためには、本願明細書の発明の詳細な説明(以下「発明の詳細な説明」という。)の記載並びに本願出願時の技術常識を参照した当業者が、補正発明1において特定する「1以上の誘導組織再生(iTR)因子」を「4日以上、7日以下」「発現」させるように用いることにより、実際に「1以上の病変皮膚細胞が多能性幹細胞に戻ることなく、前記病変皮膚細胞を再生させるため」に使用できることを理解できる程度に、発明の詳細な説明が明確かつ十分に記載されている必要がある。
イ 発明の詳細な説明の記載
そこで、発明の詳細な説明を参照すると、補正発明1において特定する「誘導組織再生(iTR)因子」を含む組成物及びその使用条件については、前記2(2)ア~ウで説示したとおりの記載がある。
ウ 判断
しかしながら、前記2(2)ア~エにおいて指摘したとおり、発明の詳細な説明には、in vivo のみならずin vitroの試験においても、本来、多能性幹細胞へリプログラミングする因子として知られるLin28a等を「4日以上、7日以下」発現させるように用いることにより、「1以上の病変皮膚細胞が多能性幹細胞に戻ることなく前記病変皮膚細胞を再生させる」ことができたことは確認されておらず、またそのようなことが本願出願日当時、当業者に技術常識として認識されていたものとも認められない。
そうすると、補正発明1において特定する「1以上の誘導組織再生(iTR)因子」を「4日以上、7日以下」「発現」させることによって、「1以上の病変皮膚細胞が多能性幹細胞に戻ることなく前記病変皮膚細胞を再生させるため」に使用できることを、当業者が理解できる程度に、発明の詳細な説明が明確かつ十分に記載されているものとは認められない。
したがって、本願の発明の詳細な説明は、補正発明1を当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものではない。
(2) サポート要件(特許法第36条第6項第1号)について
補正発明1は、従来公知の「1以上の誘導組織再生(iTR)因子」を含む「組成物」について、「1以上の病変皮膚細胞が多能性幹細胞に戻ることなく前記病変皮膚細胞を再生させるため」に、「前記1以上の誘導組織再生(iTR)因子」を「4日以上、7日以下」「発現」させるように用いることに技術的特徴を有する医薬用途発明であるところ、上記(1)において説示したとおり、発明の詳細な説明には、補正発明1において特定する「1以上の誘導組織再生(iTR)因子」を「4日以上、7日以下」「発現」させるように用いることによって、「1以上の病変皮膚細胞が多能性幹細胞に戻ることなく前記病変皮膚細胞を再生させるため」に使用できること、すなわち、補正発明1の医薬用途が裏付けられていない。
したがって、補正発明1は、発明の詳細な説明に記載されたものではない。
(3) 小括
以上のとおりであるから、本願は、補正発明1について、発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、また、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、補正発明1は特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
したがって、本件第2補正が仮に限定的減縮を目的とするものであるとしても、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものである。
5 まとめ
以上のとおりであるから、本件第2補正は、特許法第17条の2第3項及び第5項に規定する要件に違反し、また、仮に限定的減縮を目的とするものであるとしても特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。
よって、上記補正の却下の結論のとおり決定する。
第3 本願発明について
1 本願発明1
上記第2のとおり、本件第2補正は却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明1」という。)は、令和6年12月11日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された以下のとおりのものである。
「【請求項1】
ヒト対象における1以上の病変皮膚細胞が多能性幹細胞に戻ることなく前記病変皮膚細胞を再生させるための組成物であって、
前記組成物は(a) LIN28Aをコードする核酸、(b) LIN28A及びTERTをコードする1以上の核酸、(c) OCT4、KLF4及びLIN28Aをコードする1以上の核酸、若しくは(d) OCT4、LIN28A、KLF4及びTERTをコードする1以上の核酸、又はその任意の組み合わせ、を含む1以上の誘導組織再生(iTR)因子を含み、前記組成物は該ヒト対象における前記病変皮膚細胞の1以上の細胞とin vivoにて4日以上、7日以下にわたり接触させるためのものであり、該1以上の病変皮膚細胞が多能性幹細胞に戻らないものであり、かつ、該1以上の病変皮膚細胞が多能性幹細胞ではない、前記組成物。」
2 拒絶理由
当審において令和7年1月22日付けで通知した最後の拒絶理由の概要は、以下のとおりである。
理由1:(新規事項)令和6年12月11日付け手続補正書でした補正(以下「本件第1補正」という。)は、外国語書面の翻訳文(又は誤訳訂正書による補正後の明細書若しくは図面)に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。
理由2:(実施可能要件)この出願は、発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
理由3:(サポート要件)この出願は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
3 当審における判断
(1) 新規事項(特許法第17条の2第3項)について
ア 令和6年12月11日提出の手続補正書による補正
本件第1補正は、以下(ア)に示す補正前の特許請求の範囲の記載を、以下(イ)に示す特許請求の範囲に補正するものである。なお、下線は補正箇所を示す。
(ア)本件第1補正前(令和4年2月2日提出の手続補正書)の特許請求の範囲
「【請求項1】
ヒト対象における病変組織を再生させる組成物であって、前記組成物は(a)LIN28Aをコードする核酸、(b)LIN38A及びTERTをコードする1以上の核酸、(c)OCT4、KLF4及びLIN28Aをコードする1以上の核酸、若しくは(d)OCT4、LIN28A、KLF4及びTERTをコードする1以上の核酸、又はその任意の組み合わせ、を含む1以上の誘導組織再生(iTR)因子を含み、前記組成物は該ヒト対象における前記病変組織の1以上の細胞とin vivoにて接触させるためのものであり、
前記病変組織の該1以上の細胞が多能性幹細胞に戻らない、前記組成物。
【請求項2】
該1以上のiTR因子が、RNAを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
該1以上のiTR因子が、in vivoにおいて一過性に発現される、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
該1以上のiTR因子を、ヒドロゲルと組み合わせる、請求項1~3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
該1以上のiTR因子が、対照と比較したときに、前記対象における該1以上の細胞中の、GFERタンパク質レベルを増大させ、COX7A1タンパク質レベルを低減させる、請求項1~4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
対照と比較したときに、前記対象における該1以上の細胞中のLIN28Aの発現をさらに増大させる、請求項1~5のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
対照と比較したときに、前記対象における該1以上の細胞中のLIN28A及びテロメラーゼの発現をさらに増大させる、請求項1~6のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】
該1以上のiTR因子が、対照と比較したときに、前記対象における該1以上の細胞中のPLPP7の発現を低減させる、請求項1~7のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項9】
RNAがmRNAである、請求項2に記載の組成物。
【請求項10】
病変組織が、損傷組織、或いは、加齢又は加齢に関連する疾患若しくは状態により影響を受けた組織である、請求項1~9のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項11】
加齢に関連する疾患若しくは症状が、心不全、肺疾患、眼障害、又は神経障害である、請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
眼障害が黄斑変性症又は神経網膜変性障害である、請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
神経障害が卒中である、請求項11に記載の組成物。
【請求項14】
損傷組織、或いは、加齢又は加齢に関連する疾患若しくは状態により影響を受けた組織が皮膚である、請求項10に記載の組成物。
【請求項15】
皮膚が、創傷、熱傷、又は移植皮膚を含む、請求項13に記載の組成物。
【請求項16】
加齢関連疾患又は障害が、抜け毛、毛髪の薄毛化、又は脱毛症である、請求項10に記載の組成物。
【請求項17】
組織が瘢痕化なしで、又は過剰な瘢痕化なしで再生される、請求項1~16のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項18】
該1以上のiTR因子が、制御放出用に製剤化されている、請求項1~17のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項19】
該1以上のiTR因子がウイルスベクターによりコードされている、請求項1~18のいずれかに記載の組成物。
【請求項20】
ウイルスベクターがアデノ随伴ウイルスベクターである、請求項19に記載の組成物。
【請求項21】
前記病変組織の該1以上の細胞が多能性幹細胞に戻らないことが、対照と比較してHELLS及び/又はDMNT3Bの検出可能な発現が存在しないことにより決定される、請求項1~8のいずれかに記載の組成物。」
(イ)本件第1補正後の特許請求の範囲
「【請求項1】
ヒト対象における1以上の病変皮膚細胞が多能性幹細胞に戻ることなく前記病変皮膚細胞を再生させるための組成物であって、
前記組成物は(a)LIN28Aをコードする核酸、(b)LIN28A及びTERTをコードする1以上の核酸、(c)OCT4、KLF4及びLIN28Aをコードする1以上の核酸、若しくは(d)OCT4、LIN28A、KLF4及びTERTをコードする1以上の核酸、又はその任意の組み合わせ、を含む1以上の誘導組織再生(iTR)因子を含み、前記組成物は該ヒト対象における前記病変皮膚細胞の1以上の細胞とin vivoにて4日以上、7日以下にわたり接触させるためのものであり、該1以上の病変皮膚細胞が多能性幹細胞に戻らないものであり、かつ、該1以上の病変皮膚細胞が多能性幹細胞ではない、前記組成物。
【請求項2】
該1以上のiTR因子が、RNAを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
該1以上のiTR因子が、in vivoにおいて一過性に発現される、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
該1以上のiTR因子を、ヒドロゲルと組み合わせる、請求項1~3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
前記組成物が、対照と比較したときに、前記対象における該1以上の病変皮膚細胞中の、GFERタンパク質レベルを増大させ、COX7A1タンパク質レベルを低減させるためのものである、請求項1~4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
前記組成物が、対照と比較したときに、前記対象における該1以上の病変皮膚細胞中のLIN28Aの発現をさらに増大させるためのものである、請求項1~5のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
前記組成物が、対照と比較したときに、前記対象における該1以上の病変皮膚細胞中のLIN28A及びテロメラーゼの発現をさらに増大させるためのものである、請求項1~6のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】
前記組成物が、対照と比較したときに、前記対象における該1以上の病変皮膚細胞中のPLPP7の発現を低減させるためのものである、請求項1~7のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項9】
RNAがmRNAである、請求項2に記載の組成物。
【請求項10】
該1以上の病変皮膚細胞が、加齢又は加齢に関連する疾患若しくは状態により影響を受けた病変皮膚細胞である、請求項1~9のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項11】
該1以上の病変皮膚細胞が、創傷、熱傷、又は移植皮膚からの病変皮膚細胞である、請求項1に記載の組成物。
【請求項12】
該1以上の病変皮膚細胞が瘢痕化なしで、又は過剰な瘢痕化なしで再生される、請求項1~11のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項13】
該1以上のiTR因子が、制御放出用に製剤化されている、請求項1~12のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項14】
該1以上のiTR因子がウイルスベクターによりコードされている、請求項1~13のいずれかに記載の組成物。
【請求項15】
ウイルスベクターがアデノ随伴ウイルスベクターである、請求項14に記載の組成物。
【請求項16】
前記組成物がさらに対照と比較してHELLS及び/又はDMNT3Bの発現を測定するためのものであり、前記病変皮膚細胞の該1以上の病変皮膚細胞が多能性幹細胞に戻らないことが、対照と比較してHELLS及び/又はDMNT3Bの検出可能な発現が存在しないことにより決定される、請求項1~8のいずれかに記載の組成物。」
イ 補正の内容
本件第1補正は、本件第1補正前の請求項1に「1以上の病変皮膚細胞が多能性幹細胞に戻ることなく前記病変皮膚細胞を再生させるため」及び「(前記病変皮膚細胞の1以上の細胞とin vivoにて)4日以上、7日以下にわたり(接触させる)」という事項を付加する補正事項を含むものである。
ウ 翻訳文等における記載
上記イ記載の補正事項に係る本願発明1における「病変皮膚細胞の1以上の細胞とin vivoにて4日以上、7日以下にわたり接触させる」という特定事項は、本願発明1の組成物の「1以上の病変皮膚細胞が多能性幹細胞に戻ることなく前記病変皮膚細胞を再生させるため」という用途における具体的な使用条件を特定する記載であるところ、本願発明1の用途に関し、翻訳文等には前記第2の2(1)に摘記した記載がある。
ただし、【0043】及び【0151】の記載は、本件第2補正による誤訳訂正前の以下のとおりのものである。
「【0043】
・・・
【図7A】図7A~図7Dは、ヒトES細胞(ES)におけるCOX7A1(a)、NAALADL1(b)、PLPP7(c)、およびLIN28B(d)に関してIllumina遺伝子発現ビーズアレイにより測定したRNA発現、クローン胚性前駆細胞株(EP)、発生の異なる時点の胎児の上腕に由来するin vitroで培養した初期継代線維芽細胞、および出生後の異なる年齢のヒトの上腕に由来するin vitroで培養した初期継代線維芽細胞、および多能性への転写リプログラミングの前または後(iPS細胞)の成体由来皮膚線維芽細胞における平均値を示す図である。
・・・
【図24A】図24A~図24Dは、図に示す遺伝子を発現する多様なレンチウイルス構築物で処理した成体由来の皮膚線維芽細胞(MDW)のRNAシークエンシングを示す図である。iTRマーカーCOX7A1およびCATと共に該細胞において外因的に発現されるLIN28Aの転写産物について示す値は、iPS細胞に完全にリプログラミングされた細胞と同様の様式で、ただしより低い程度までダウンレギュレートされた。遺伝子GFERはLIN28A発現に比例する様式でアップレギュレートされた。
・・・」
「【0151】
COX7A1、PLPP7、及びNAALADL1遺伝子の発現、並びにDNMT3B、及びHELLS又はTra-1-60、Tra-1-81、及びSSEA4をそれぞれ含む多能性の遺伝子発現又は遺伝子マーカーのTRパターンに関するin vitroアッセイを実施し、標的細胞を多能性に戻すことなく、iTR遺伝子発現のグローバルパターンを最適化する。スクリーニングされる個々の薬剤及び薬剤の組合せの例は、OCT4、SOX2、KLF4、MYC及びLIN28A;OCT4;KLF4;OCT4、KLF4;OCT4、KLF4、LIN28A;OCT4、KLF4、LIN28B;SOX2;MYC;NANOG;ESRRB;NT5A2;OCT4、SOX2、KLF4、及びLIN28A;OCT4、SOX2、KLF4、及びLIN28B;OCT4、KLF4、MYC及びLIN28Aであり;最初の4週間、それぞれの前述の薬剤の組合せを0.25mMのNaB、5μMのPS48、及び0.5μMのA-83-01と一緒にし、続いて0.25mMの酪酸ナトリウム、5μMのPS48、0.5μMのA-83-01、及び0.5μMのPD0325901で処理し、それらの各々を、iTR遺伝子発現のグローバルモジュレーションのマーカーについて0、1、2、4、7、10及び14日目にアッセイする。」
エ 判断
(ア) 上記ウの翻訳文等の記載事項に基づく判断については、前記第2の2(2)ア~エと同様であり、翻訳文等には、本願発明1において特定する「1以上の誘導組織再生(iTR)因子」を含む「組成物」を、「病変皮膚細胞の1以上の細胞とin vivoにて4日以上、7日以下にわたり接触させる」ことにより、病変細胞が多能性幹細胞に戻ることなく再生されることについて、全く記載がない。
そうすると、翻訳文等には、「病変皮膚細胞の1以上の細胞とin vivoにて4日以上、7日以下にわたり接触させる」という条件が、本来、多能性幹細胞へリプログラミングする因子として知られるLin28a等を「1以上の病変皮膚細胞が多能性幹細胞に戻ることなく前記病変皮膚細胞を再生させるため」の使用条件として記載されていたものとは認められず、またそのようなことが本願出願日当時、当業者に技術常識として認識されていたものとも認められない。
(イ) 審判請求人は、令和6年12月11日提出の意見書において、上記イ記載の補正事項に関し、本願明細書の段落【0151】及び【0237】にiTR遺伝子発現のグローバルモジュレーションのマーカーについて0、1、2、4、7、10及び14日目にアッセイするとの記載があることから、新たな技術的事項を導入するものではない旨を説明している(2.補正の説明)。
しかしながら、審判請求人も認めているとおり、明細書段落【0151】の記載は、広範囲の試験化合物を用いて「in vitroアッセイ」を実施した際のマーカーの検出時期を記載するものであって、「誘導組織再生(iTR)因子」を「in vivoにて」「接触させる」期間を記載したものではない。
(ウ) したがって、本件第1補正は出願当初の明細書、特許請求の範囲及び図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項が導入するものである。
よって、本件第1補正は、特許法17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。
(2) 実施可能要件(特許法第36条第4項第1号)について
ア 本願発明1は、従来公知の「1以上の誘導組織再生(iTR)因子」を含む「組成物」について、「1以上の病変皮膚細胞が多能性幹細胞に戻ることなく前記病変皮膚細胞を再生させるため」に、「病変皮膚細胞の1以上の細胞とin vivoにて4日以上、7日以下にわたり接触させる」ことに技術的特徴を有する医薬用途発明であるところ、本願が実施可能要件を満たすといえるためには、本願明細書の発明の詳細な説明(以下「発明の詳細な説明」という。)の記載並びに本願出願時の技術常識を参照した当業者が、本願発明1において特定する「病変皮膚細胞の1以上の細胞とin vivoにて4日以上、7日以下にわたり接触させる」ことにより、実際に「1以上の病変皮膚細胞が多能性幹細胞に戻ることなく、前記病変皮膚細胞を再生させるため」に使用できることを理解できる程度に、発明の詳細な説明が明確かつ十分に記載されている必要がある。
イ 発明の詳細な説明の記載
そこで、発明の詳細な説明を参照すると、本願発明1において特定する「1以上の誘導組織再生(iTR)因子」を含む「組成物」及びその使用条件については、前記(1)ア~ウで説示したとおりの記載がある。
ウ 判断
しかしながら、前記(1)エ(ア)において指摘したとおり、発明の詳細な説明には、in vivo のみならずin vitroの試験においても、本来、多能性幹細胞へリプログラミングする因子として知られるLin28a等の「1以上の誘導組織再生(iTR)因子」を含む「組成物」を「病変皮膚細胞の1以上の細胞とin vivoにて4日以上、7日以下にわたり接触させる」ことにより、「1以上の病変皮膚細胞が多能性幹細胞に戻ることなく前記病変皮膚細胞を再生させる」ことができたことは確認されておらず、またそのようなことが本願出願日当時、当業者に技術常識として認識されていたものとも認められない。
さらに、in vitro試験では培地交換によって投与した薬剤を培地から除去することができるが、in vivoは、一度投与した薬剤を特定の時間だけ接触させて、その後体内から完全に除去することが簡単にできる環境とはいえないところ、本願発明1において特定する「1以上の誘導組織再生(iTR)因子」を含む「組成物」を「in vivoにて」「4日以上、7日以下」という特定の時間だけ病変皮膚細胞と接触させることを実現する手段についても、発明の詳細な説明には全く説明されておらず、そのような手段が技術常識として知られていたものとも認められない。
そうすると、本願発明1において特定する「1以上の誘導組織再生(iTR)因子」を含む「組成物」を「病変皮膚細胞の1以上の細胞とin vivoにて4日以上、7日以下にわたり接触させる」ことによって、「1以上の病変皮膚細胞が多能性幹細胞に戻ることなく前記病変皮膚細胞を再生させるため」に使用できることを、当業者が理解できる程度に、発明の詳細な説明が明確かつ十分に記載されているものとは認められない。
エ 小括
したがって、本願の発明の詳細な説明は、本願発明1を当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものではない。
よって、本願は、発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
(3) サポート要件(特許法第36条第6項第1号)について
ア 本願発明1は、従来公知の「1以上の誘導組織再生(iTR)因子」を含む「組成物」について、「1以上の病変皮膚細胞が多能性幹細胞に戻ることなく前記病変皮膚細胞を再生させるため」に、「病変皮膚細胞の1以上の細胞とin vivoにて4日以上、7日以下にわたり接触させる」ことに技術的特徴を有する医薬用途発明であるところ、上記(2)において説示したとおり、発明の詳細な説明には、本願発明1において特定する「1以上の誘導組織再生(iTR)因子」を含む「組成物」を「病変皮膚細胞の1以上の細胞とin vivoにて4日以上、7日以下にわたり接触させる」ことによって、「1以上の病変皮膚細胞が多能性幹細胞に戻ることなく前記病変皮膚細胞を再生させるため」に使用できること、すなわち、本願発明1の医薬用途が裏付けられていない。
イ 小括
したがって、本願発明1は、発明の詳細な説明に記載されたものではなく、本願発明1について、本願は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
第4 むすび
以上のとおり、本件第1補正は、特許法17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。また、本願は、特許法第36条第4項第1号及び同条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2022-017391