特許拒絶査定不服審判
2015-000028
動物における学習および/または記憶の衰退を抑制するための方法
- 審判番号
- 2015-000028
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2012-153356外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2015年01月05日
- 審決日
- 2016年10月19日
- 公報発行日
- 2017年04月28日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】ヒルズ・ペット・ニュートリシャン・インコーポレーテッド
- 【請求人代理人】村井 康司
- 分類
- P18 .121-WZ (A61K)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特願2012-153356「動物における学習および/または記憶の衰退を抑制するための方法」拒絶査定不服審判事件〔平成24年12月13日出願公開、特開2012-246292〕について、次のとおり審決する。
結論
【結 論】
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
【理 由】
1.手続の経緯
本願は、平成17年12月29日(パリ条約による優先権主張 2004年12月29日 米国(US)、2005年4月7日 米国(US))を国際出願日とする特願2007-549573号の一部を平成24年7月9日に新たな特許出願としたものであって、平成25年10月8日付け拒絶理由通知に応答して平成26年1月31日付けで手続補正書及び意見書が提出されたが、平成26年8月29日付けで拒絶査定がなされた。
これに対し、平成27年1月5日に拒絶査定不服審判が請求され、平成27年1月27日付けで審判請求の理由を補充する手続補正書(方式)が提出された。
そして、当審による平成28年3月11日付け拒絶理由通知に応答して、平成28年6月10日付けで手続補正書及び意見書が提出された。
2.本願発明
本願請求項1~13に係る発明は、平成28年6月10日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1~13に記載された事項により特定されたとおりのものと認められ、そのうち請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりである。
「1~6歳のイヌ科動物又はネコ科動物における、簡単な形の識別能を含む学習試験により測定された学習および/または記憶衰退を抑制するための方法であって、
前記イヌ科動物又はネコ科動物を少なくとも3年間にわたり酸化防止剤強化飼料で維持することを含み、
酸化防止剤強化飼料はその飼料の重量に基づき、
少なくとも100~5000ppmのビタミンE、
少なくとも10ppmのビタミンCおよび
少なくとも25ppmのα-リポ酸を含む上記方法。」
3.刊行物に記載された事項
(1)当審による平成28年3月11日付け拒絶理由通知で引用された、本願優先権主張日(2004年12月29日)前に頒布された刊行物である特表2004-512053号公報(以下、「刊行物A」という。)には、以下の技術的事項が記載されている。
(A1)「【請求項26】
成体コンパニオンペットの精神能力の向上方法であって、該ペットに、前記ペットの精神能力を向上させるのに足る量の酸化防止剤またはその混合物を与えることを含んでなる方法。」(【請求項26】)
(A2)「【0001】
発明の背景
犬および猫などのコンパニオンアニマルは、高齢化により不具合を生じると考えられる。これら不具合のいくつかは、一般的な格言に示されている。これらの一つは、“老犬に新しい芸は教えられない”である。この格言は、犬は、高齢化するにつれ、精神能力および体力が低下すると考えられる、という観察に起因する。思考、学習および記憶に関連づけられる精神活動が減退すると考えられる・・・これに加えて、高齢動物では、精神能力の変化により行動変化が現れることがある。多くの原因として、この能力減退が特定されてきた。
【0002】
これらの能力損失は、高齢のイヌおよびネコで一般に観察されている。7歳以上の犬および7歳以上のネコは高齢とみなされ、この不具合に直面している可能性がある。」(段落【0001】~【0002】)
(A3)「【0003】
著しいレベルの少なくとも1種の酸化防止剤を、成体コンパニオンペットの食餌中に存在させるか、または食餌の他にペットに与えると、高齢コンパニオンペットの精神能力の衰退開始を阻害し、および/または成体コンパニオンペットの精神能力を高齢期までさらに維持することができる。」(段落【0003】)
(A4)「【0007】
本発明の他の観点は、成体コンパニオンペットの精神能力の向上方法であって、該ペットに、前記ペットの精神能力を向上させるのに足る量の酸化防止剤またはその混合物を与えることを含んでなる方法である。
【0008】
これらの方法のすべてにおいて、酸化防止剤またはその混合物を、動物の食餌中に投与することが望ましい。」(段落【0007】~【0008】)
(A5)「コンパニオン成体ペットの食餌に著しい量の酸化防止剤またはその混合物を加えると、高齢ペットにおいて、行動の明確な変化の開始、詳細には、問題解決能力によって具体的に示される精神能力の衰退の開始を遅らせることができる。成体という用語は、一般に少なくとも1~6歳のイヌおよび少なくとも1~6歳のネコを意味するものとする。高齢の犬または猫は、7歳以上である。」(段落【0009】)
(A6)「イヌおよびネコに関する精神能力の損失は、何年もの間観察されてきた。この精神能力の損失は、非常に多くの様式で発現する。例えばイヌの場合、見当識障害、屋内での粗相(house soiling)、変容した睡眠-覚醒パターン、ヒトおよび他のペットとの低下または変容した相互関係、ならびに学習および集中不能として発現することができる。これらの状態は、ネコでも同様に発現することができる。」(段落【0010】)
(A7)「本発明者らは、この衰退開始の遅延を達成することに成功している。本発明者らの発明の食餌を成体コンパニオンペットに用いることにより、高齢ペットの精神能力をより長期間維持できることを示すことができる。実質的に、精神能力の衰退は、停止または遅延させることができる。記憶および学習能を改善することができる。全体的な精神的敏捷性を高めることができる。年齢に関連する認知的衰弱を遅らせうる。」(段落【0012】)
(A8)「これを達成する食餌中成分は、酸化防止剤またはその混合物である。酸化防止剤は、フリーラジカルを失活させる材料である。そのような材料の例には、イチョウ、シトラスパルプ、ブドウの搾りかす、トマトの搾りかす、ニンジンおよびホウレンソウなどの食物(好ましくはすべて乾燥させたもの)、ならびに、・・・ビタミンE、ビタミンC、α-リポ酸、L-カルニチンなどのようなさまざまな他の材料が含まれる。ビタミンEは、トコフェロールまたはトコフェロールの混合物およびそのさまざまな誘導体、例えばビタミンEの酢酸エステル、コハク酸エステル、パルミチン酸エステルなどのようなエステルとして、投与することができる。α体が好ましいが、β、γおよびδ体が含まれてもよい。d体が好ましいが、ラセミ混合物は許容しうる。それらの形および誘導体は、ペットによって摂取された後、ビタミンE様の活動において作用することになる。ビタミンCは、この食餌中に、アスコルビン酸およびそのさまざまな誘導体として投与することができる、その誘導体は、例えばカルシウムリン酸塩、コレステリル(cholesteryl)塩、2-モノホスフェートなどであり、ペットによって摂取された後、ビタミンC様の活動において作用することになる。それらは、液体、半固体、固体および熱安定形のような任意の形であることができる。α-リポ酸は、食餌中に、αリポ酸またはそのリポエート(lipoate)誘導体(米国特許第5621117号にあるようなもの)、ラセミ混合物、塩、エステルもしくはアミドとして、投与することができる。L-カルニチンは、食餌中に投与することができ、カルニチンのさまざまな誘導体、例えば塩酸塩、フマル酸塩およびコハク酸塩のような塩ならびにアセチル化カルニチンなどを用いることができる。」(段落【0013】)
(A9)「食餌中に投与する量を、すべて食餌の重量%(乾燥物質基準)で、遊離材料として測定される活性材料自体として算出する。使用する最大量により、毒性がもたらされるべきでない。少なくとも約100ppmまたは少なくとも約150ppmのビタミンEを用いることができる。約500~約1000ppmの好ましい範囲を使用することができる。・・・ビタミンCについては、少なくとも約50ppm、望ましくは少なくとも約75ppmおよびより望ましくは少なくとも約100ppmを用いる。非毒性の最大値を使用することができる。α-リポ酸の量は、少なくとも約25、望ましくは少なくとも約50ppm、より望ましくは約100ppmから変動させることができる。最大量は、約100ppm~600ppmから、ペットに対する非毒性が維持される量まで、変動させることができる。好ましい範囲は、約100ppm~約200ppmである。」(段落【0014】)
(A10)「実施例1
2~4歳の成体ビーグル犬17匹(対照n=8、酸化防止剤強化n=9)を、無作為に対照群または強化食餌群においた。対照食餌は、59ppmのビタミンEおよび<32ppmのビタミンCを含有していた。試験食餌は、900ppmのビタミンEおよび121ppmのビタミンC、260ppmのL-カルニチンおよび135ppmのαリポ酸を有していた。その食餌を開始して約1カ月後、犬に与えた最初の問題解決課題はランドマーク識別学習課題(landmark discrimination learning task)であり、これは空間的注意の試験であった(Milgram et al.,1999 Milgram,N.W.,Adams,B.,Callahan,H.,Head,E.,Mackay,B.,Thirlwell,C., & Cotman(1999),C.W. Landmark Discrimination Learning in the Dog.Learning & Memory,6:54-61)。
【0019】
ランドマーク識別学習では、被験体が、ある目的物への接近度に基づき特定の目的物を選択することが求められる。しかしながら、初期学習は、犬の目的物識別課題の学習能に基づいている。われわれはこれまでに、識別学習に対する年齢の影響は、課題の難易度に依存することを見いだしている。
【0020】
ランドマーク0試験を学習させたとき、強化食餌の成犬は、対照食物の成犬より誤りが少なかった(対照群の平均=31.1、強化群の平均=15.1)。それらの成犬を、ランドマークがポジティブウェル(positive well)からさらに離れているランドマーク1および2の試験に進ませた。強化食餌の成犬は、対照の成犬に比べて、少ない誤りでランドマーク0~2を学習した(対照でのランドマーク0+1+2の平均誤り数=132.9;強化食餌の犬でのランドマーク0+1+2の平均誤り数=87.1)。」(段落【0018】~【0020】)
(A11)「食餌中のαリポ酸の長期給餌は、安全かつ有効である。還元型グルタチオン(GSH)対酸化型グルタチオン(GSSG)の比が向上する。食餌中のαリポ酸の長期投与は、最低1、2、3、4、5または6カ月間から、1、2、3、4、5年間または動物の一生涯を含むさらに長期間までであることができる。αリポ酸は、食餌中でカプセル化など特別な保護をしなくても機能し、医薬に用いられるような単位剤形、例えば錠剤、丸剤、カプセル剤などの状態で食餌中に存在する必要はない。リポ酸は、食餌中に、食餌の最低約25、50、75または100ppmで提供される。最高範囲はその毒性レベルをほんの少し下回り、食餌の約400、300または200ppmと幅広い。一般に、1日あたり約6または7mg/動物の体重1kgを超えることはなく、より一般には約5mg/kgを超えない。」(段落【0039】)
(A12)「αリポ酸は、酸化的傷害に対する動物の抵抗能を改善するほか、酸化防止剤の防御能力を改善する。このすべては、適量存在する他の酸化防止剤、例えばビタミンEおよびビタミンCと共にもたらされる。このことは、αリポ酸の作用が、ビタミンCおよび/またはビタミンEの作用を超えることを実証している。」(段落【0039】)
刊行物Aには、成体コンパニオンペットの精神能力の向上方法であって、該ペットに、前記ペットの精神能力を向上させるのに足る量の酸化防止剤またはその混合物を、前記ペットの食餌中に存在させて与える方法が記載されており(摘記(A1)、(A3)、(A4))、上記成体コンパニオンペットとして、具体的に1~6歳のイヌ又はネコが記載されている(摘記(A5))。
そして、刊行物Aには、上記酸化防止剤またはその混合物として、具体的にビタミンE、ビタミンC、及びα-リポ酸を組み合わせて含む混合物が記載され(摘記(A8)、(A11)、(A12))、食餌の重量%(乾燥物質基準)でビタミンEが少なくとも約100~1000ppm、ビタミンCが少なくとも約50ppm、α-リポ酸が少なくとも約25ppmの量で食餌中に存在することが記載されている(摘記(A9))。
以上の記載から、刊行物Aには、「1~6歳のイヌ又はネコの精神能力の向上方法であって、前記イヌ又はネコに、酸化防止剤の混合物を含む食餌を与えることを含み、上記食餌は、その食餌の重量%(乾燥物質基準)でビタミンEを少なくとも約100~1000ppm、ビタミンCを少なくとも約50ppm、α-リポ酸が少なくとも約25ppmの量で含む食餌である、上記方法。」の発明(以下、「刊行物A発明」という。)が記載されている。
(2)当審による平成28年3月11日付け拒絶理由通知で引用された、本願優先権主張日(2004年12月29日)前に頒布された刊行物である「Head, E. et al.,A LONGITUDINAL DIETARY ANTIOXIDANT INTERVENTION IN AGED CANINES IMPROVES LEARNING AND REDUCES PERIPHERAL MEASURES OF OXIDATIVE DAMAGE.,Society for Neuroscience Abstract,2002年,[online],Presentation No.889.1,Retrieved from the internet:<URL:http://www.sfn.org/absarchive/abstract.aspx>」(以下、「刊行物B」という。)には、以下の技術的事項が記載されている(英文であるため、日本語訳を付記する)。
(B1)「Oxidative damage to proteins, lipids and nucleotides progressively increases with age in canine and human brain. We administered 48 old and 17 young beagle dogs a diet rich in antioxidants that included a nutritionally complete senior canine food enriched with vitamins E and C, alpha-lipoic acid, L-carnitine, and fruits and vegetables. 」(本文第1~3行)
「タンパク質、脂質及び核酸に対する酸化的損傷は、イヌ及びヒトの脳中で年齢と共に次第に増加する。我々は48匹の高齢のイヌ及び17匹の若いイヌに、ビタミンE及びC、α-リポ酸、L-カルニチン及び果物及び野菜が豊富で栄養的には完全な上級のイヌ用食品を含み、酸化防止剤を多く有する食餌を与えた。」
(B2)「(1)Control - CTL; (2)Antioxidant diet - AOX. Dogs were treated for 2.5 years. At regular intervals animals have been retested on measures of complex learning tasks. 」(本文第6~8行)
「(1)対照-CTL;(2)酸化防止剤食餌-AOX。イヌ(前記(1)及び(2)の群に分けられたイヌ)は、2.5年間処置された。一定の間隔で、動物は複雑な学習作業手段により再試験された。」
(B3)「Improvements in landmark and oddity discrimination were observed in AOX treated dogs relative to CTL animals. 」(本文第10~11行)
「対照の動物(CTL)と比較して、酸化防止剤食餌(酸化防止剤を多く含む食餌)を与えた動物(AOL)では、目標弁別及び特異性弁別能力の改善が観察された。」
4.対比
本願発明と、上記「3.(1)」の刊行物A発明とを対比する。
刊行物A発明の「1~6歳のイヌ又はネコ」、「前記イヌ又はネコに、酸化防止剤の混合物を含む食餌を与えること」、及び「その食餌の重量%(乾燥物質基準)で」は、それぞれ本願発明の「1~6歳のイヌ科動物又はネコ科動物」、「前記イヌ科動物又はネコ科動物を」「酸化防止剤強化飼料で維持すること」、及び「その飼料の重量に基づき」に相当する。
そして、両発明で食餌(飼料)中に存在する酸化防止剤の量は、ビタミンEが少なくとも100~1000ppm、ビタミンCが少なくとも50ppm、及びα-リポ酸が少なくとも25ppmの範囲含まれる点で、一致している。
そうすると、両発明は「1~6歳のイヌ科動物又はネコ科動物を酸化防止剤強化飼料で維持することを含む方法であって、
酸化防止剤強化飼料はその飼料の重量に基づき、
少なくとも100~1000ppmのビタミンE、
少なくとも50ppmのビタミンCおよび
少なくとも25ppmのα-リポ酸を含む上記方法。」の発明である点で一致し、以下の点で相違している。
〈相違点1〉
本願発明は「1~6歳のイヌ科動物又はネコ科動物における、簡単な形の識別能を含む学習試験により測定された学習および/または記憶衰退を抑制するための方法」であるのに対し、刊行物A発明は「1~6歳のイヌ及びネコの精神能力の向上方法」である点。
〈相違点2〉
本願発明では、1~6歳のイヌ科動物又はネコ科動物を「少なくとも3年間にわたり」酸化防止剤強化飼料で維持するのに対し、刊行物A発明では、酸化防止剤強化飼料で維持する期間が特定されていない点。
5.判断
(a)相違点1について
刊行物Aには、イヌ又はネコの成体期(1~6歳)から高齢期(7歳以上)にかけての精神能力の変化について、以下の事項が記載されている。
(a1)犬は、高齢化するにつれ、精神能力および体力が低下すると考えられ、思考、学習および記憶に関連づけられる精神活動が減退すると考えられる。高齢動物では、精神能力の変化により行動変化が現れることがあり、多くの原因として、この能力減退が特定されてきた(摘記(A2))。
(a2)著しいレベルの少なくとも1種の酸化防止剤を、成体コンパニオンペットの食餌中に存在させて与えると、成体コンパニオンペットの精神能力を高齢期までさらに維持することができる(摘記(A3))。
(a3)成体ペットの食餌に著しい量の酸化防止剤またはその混合物を加えると、高齢ペットにおいて、行動の明確な変化の開始、詳細には、問題解決能力によって具体的に示される精神能力の衰退の開始を遅らせることができる(摘記(A5))。
(a4)イヌおよびネコに関する精神能力の損失は、非常に多くの様式で発現し、例えば見当識障害、・・・ならびに学習および集中不能として発現する(摘記(A6))。
(a5)本発明者らの発明の食餌を成体ペットに用いることにより、高齢ペットの精神能力をより長期間維持できる。実質的に、精神能力の衰退は、停止または遅延させることができる。記憶および学習能を改善することができる(摘記(A7))。
刊行物Aに「高齢化するにつれ」と記載されているように(上記(a1))、イヌまたはネコの「精神能力の低下」は高齢期(7歳以上)になってから突然開始する変化ではなく、既に成体期(1~6歳)から連続して生じている変化である。
そして、高齢期に観察される「行動の明確な変化」すなわち問題解決能力によって具体的に示される「精神能力の衰退の開始」とは、高齢期に、上記「精神能力の低下」が「行動の明確な変化」として発現したことによって、精神能力が衰退している状態が客観的に観察される時期が開始したことを意味すると解される(上記(a1)、(a3)、(a4))。
そうすると、刊行物A発明の食餌を成体期ペットに与えることによって、成体期の精神能力が高齢期まで維持されること(上記(a2))、高齢期で「行動の明確な変化」として発現する「精神能力の衰退」が停止または遅延され、記憶及び学習能が改善されること(上記(a3)、(a5))は、いずれも上記食餌によって成体期から連続して生じている「精神能力の低下」が抑制されて、上記食餌を与えない場合と比較して精神能力が向上した結果を示すものであるから、刊行物A発明で1~6歳のイヌ及びネコの精神能力を向上することは、1~6歳のイヌ及びネコの精神能力の低下を抑制することと同義であるといえる。
また、刊行物Aで、上記食餌により成体期から連続して生じている「精神能力の低下」が抑制されて、上記食餌を与えない場合と比較して精神能力が向上したことを具体的に裏付ける実施例1(摘記(A10))には、2~4歳のビーグル犬に酸化防止剤強化飼料を与えて約1カ月後に、ランドマーク識別学習課題を学習させて、対照動物(酸化防止剤強化されていない飼料を与えた2~4歳のビーグル犬)と比較したところ、酸化防止剤強化飼料を与えた犬の方が、対照動物よりも優れたランドマーク識別能力を有したという実験結果が示されている。
ここで、ランドマーク識別学習による試験は、簡単な形であるランドマーク(目印)を認識させ、そのランドマークの位置を記憶する学習を行った後、ランドマークの位置を識別する能力を試験するものであるところ(要すれば、本願明細書の段落【0019】で引用された文献である「Landmark Discrimination Learning in the Dog.Learning & Memory,6:54-61」を参照。)、ランドマークの位置を識別するためには、その前提としてランドマークが特定の場所に設置された状態の形状を識別することが必須であるから、ランドマーク識別能力に優れている犬が、簡単な形の識別能を含む学習および/または記憶に優れていることは自明である。
そうすると、上記実施例1で示された実験結果は、酸化防止剤強化飼料を与えた犬が、対照動物と比較して、簡単な形の識別能を含む学習および/または記憶衰退が抑制されて、対照動物と比較して上記学習および/または記憶能力が向上したことを示しているといえる。
以上を総合すると、刊行物A発明の「1~6歳のイヌ又はネコの精神能力の向上方法」は、「1~6歳のイヌ又はネコの精神能力の低下を抑制するための方法」と同義であり、刊行物Aの実施例1の記載から、「精神能力の低下を抑制」したことを示す具体的な指標として「簡単な形の識別能を含む学習試験により測定された学習および/または記憶衰退」の抑制を用いることに、格別の困難性は認められない。
(b)相違点2について
刊行物Aには、酸化防止剤強化飼料に存在するα-リポ酸について、「食餌中のαリポ酸の長期投与は、最低1、2、3、4、5または6カ月間から、1、2、3、4、5年間または動物の一生涯を含むさらに長期間までであることができる。」(摘記(A11))、「αリポ酸は、酸化的傷害に対する動物の抵抗能を改善するほか、酸化防止剤の防御能力を改善する。このすべては、適量存在する他の酸化防止剤、例えばビタミンEおよびビタミンCと共にもたらされる。」(摘記(A12))と記載されている。
すなわち、刊行物Aには、α-リポ酸は動物の一生涯を含む長期間投与しても安全な成分であり、その作用は適量存在するビタミンEおよびビタミンCと共にもたらされることが記載されているのであるから、刊行物Aに接した当業者は、α-リポ酸、ビタミンE及びビタミンCを含む酸化防止剤強化飼料は、動物の一生涯を含む長期間投与できる安全な飼料であると理解できる。
また、刊行物Bには、ビタミンE及びC、α-リポ酸等を含み、酸化防止剤を多く含む食餌を高齢のイヌ及び若いイヌに2.5年間与えたところ、対照動物(CTL)と比較して、酸化防止剤を多く含む食餌を与えた動物(AOL)では、目標弁別及び特異性弁別能力の改善が観察されたことが記載されている(摘記(B1)~(B3))。そして、刊行物Bには、酸化防止剤を多く含む食餌を2.5年間という長期間与えた場合に特段の副作用が生じたという記載はないのであるから、刊行物Bに接した当業者は、イヌにビタミンE及びC、α-リポ酸等を多く含む食餌を長期間与えても上記のような効果が得られ、しかも安全であることを理解できる。
そして、当業者は、特段の副作用がない方法であれば、ペットの精神能力の低下を可能な限り長期間にわたって抑制することを当然に想起すると考えられるのであるから、刊行物Aに「動物の一生涯を含むさらに長期間まで」投与できるという記載があること、実際に「2.5年間」与えた刊行物Bに特段の副作用が記載されていないことを考慮して、刊行物A発明で1~6歳のイヌ又はネコを酸化防止剤強化飼料で維持する期間を「少なくとも3年間」にわたる期間にすることは、当業者が適宜調整しえた事項にすぎない。
(c)本願発明による効果について
本願明細書の実施例(段落【0052】~【0054】)には、2~5歳のイヌに対して「対照フード」または「酸化防止剤強化フード」(【表1】)を割り当てて3年間維持した後に、簡単な形の識別を包含する学習試験及び記憶試験を行ったところ、「酸化防止剤強化フード」を割り当てたイヌの方が「対照フード」を割り当てたイヌよりも優れた結果を示したことが記載されている。
しかし、上記(a)で指摘したように、刊行物Aの実施例1で、酸化防止剤強化飼料を約1カ月間与えた犬は、対照動物と比較して、簡単な形の識別能を含む学習および/または記憶衰退が抑制されたことが示されている。また、上記(b)で指摘したように、刊行物Aには「動物の一生涯を含むさらに長期間まで」という記載があり、刊行物Bには、犬を酸化防止剤強化飼料で2.5年間維持した場合に特段の副作用が生じたという記載はなく、3年間維持した場合に特段の副作用が生じるとは考え難いのであるから、本願明細書の実施例で、「酸化防止剤強化フード」を割り当てたイヌの方が優れた結果を示したことは、刊行物A及びBの記載からみて当業者が予測し得た程度の効果であり、格別顕著な効果であるとはいえない。
6.むすび
以上のとおりであるから、本願請求項1に係る発明は、本願優先日前に頒布された刊行物Aに記載された発明及び刊行物Bに記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから、特許法第29条第2項のの規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、その余の請求項について論及するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2015-000028