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特許無効審判

2014-800120

ホモロガス薄膜を活性層として用いる透明薄膜電界効果型トランジスタ

審判番号
2014-800120
法域
特許
審判種別
無効審判(無効の審決)
出願番号
特願2002-266012
登録番号
特許第4164562号(P4164562)
請求日
2014年07月14日
審決日
2017年03月28日
公報発行日
2018年03月30日
結論
請求不成立
当事者
  • 【請求人】株式会社 半導体エネルギー研究所
  • 【請求人代理人】伊藤 真
  • 【請求人代理人】平井 佑希
  • 【請求人代理人】丸田 憲和
  • 【被請求人】国立研究開発法人科学技術振興機構
  • 【被請求人代理人】高橋 雄一郎
  • 【被請求人代理人】望月 尚子
  • 【被請求人】HOYA 株式会社
  • 【被請求人代理人】高橋 雄一郎
  • 【被請求人代理人】望月 尚子
審判長/審判官
  • 審判長 飯田 清司
  • 審判官 深沢 正志
  • 審判官 河口 雅英
分類
P1113.121-YAA(H01L) / P1113.161-YAA(H01L) / P1113.536-YAA(H01L) / P1113.537-YAA(H01L) / P1113.841-YAA(H01L)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第2項、特許法第123条第1項第2号、特許法第29条の2、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号、特許法第134条の2第1項、特許法第2条、特許法第2条第1項、特許法第37条、特許法第36条、特許法第123条第1項第4号、特許法第169条第2項
データ出所
審決公報(SGML)

事件の表示

上記当事者間の特許第4164562号「ホモロガス薄膜を活性層として用いる透明薄膜電界効果型トランジスタ」の特許無効審判事件についてされた平成27年 7月28日付け審決に対し、知的財産高等裁判所において請求項1、2、4に係る発明に対する部分の審決取消しの判決(平成27年(行ケ)第10176号、平成28年10月12日)があったので、審決が取り消された部分の請求項に係る発明についてさらに審理のうえ、次のとおり審決する。

結論

【結 論】 特許第4164562号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-4〕について訂正することを認める。 本件審判の請求のうち、請求項1、2及び4に係る部分は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。

理由

【理 由】 第1 手続の経緯 特許第4164562号(以下,「本件特許」という。)についての手続の経緯の概要は,以下のとおりである。 平成14年 9月11日 特許出願(特願2002-266012号)(以下,左の日を「本件出願日」という。) 平成20年 8月 8日 特許権の設定登録 平成26年 7月14日 無効審判請求 平成26年10月 3日 被請求人答弁書 平成26年12月 8日 請求人口頭審理陳述要領書 平成26年12月 8日 被請求人口頭審理陳述要領書 平成26年12月22日 被請求人口頭審理陳述要領書(2) 平成26年12月22日 口頭審理 平成26年12月24日 請求人上申書 平成26年12月24日 被請求人上申書 平成27年 1月19日 請求人上申書(2) 平成27年 1月26日 被請求人上申書(2) 平成27年 2月 4日 請求人上申書(3) 平成27年 7月13日 結審通知 平成27年 7月28日 審決(以下,「1次審決」という。) 平成27年 9月 7日 審決取消訴訟提起(平成27年(行ケ)第10176号) 平成28年10月12日 判決(以下,「本件判決」という。) 平成28年12月 8日 被請求人意見書・訂正請求書 平成29年 1月20日 請求人弁駁書 平成29年 2月 1日 審尋 平成29年 2月17日 被請求人回答書・手続補正書・営業秘密に関する申出書 本件判決により,「本件審判の請求は,成り立たない。」とした1次審決のうち,請求項1,2及び4に係る部分は取り消されたが,請求項3に係る部分は確定した。 第2 訂正の適否について 1 訂正内容 平成28年12月8日付け訂正請求による訂正(以下,「本件訂正」という。)の訂正事項は,以下のとおりである。なお,訂正箇所に下線を付した。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に, 「【請求項1】 ホモロガス化合物InMO3(ZnO)m(M=In, Fe, Ga ,又はAl, m=1以上50未満の整数)薄膜を活性層として用いることを特徴とする透明薄膜電界効果型トランジスタ。」 とあるのを, 「【請求項1】 ホモロガス化合物InMO3(ZnO)m(M=In, Fe, Ga ,又はAl, m=1以上50未満の整数)薄膜を活性層として用いることを特徴とする透明薄膜電界効果型トランジスタ(ただし,該薄膜がアモルファスホモロガス化合物である場合はm=1以上5未満の整数である)。」 と訂正し,その結果として請求項1を引用する請求項2及び4も訂正する。 (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項1を訂正事項1のとおりに訂正し,その結果として請求項1を引用する請求項3を, 「【請求項3】 ホモロガス化合物が耐熱性,透明酸化物単結晶基板上に形成された単結晶薄膜であることを特徴とする請求項1記載の透明薄膜電界効果型トランジスタ。」 と訂正する。 2 訂正の適否についての判断 (1)訂正事項1について ア 訂正事項1は特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 イ 後記甲第3,4,6,7号証によれば,本件出願日当時,当業者は,InGaO3(ZnO)mのmが5以上のアモルファス薄膜の作成は極めて困難と認識していたものと認められる。すると,訂正事項1は,特許請求の範囲に実施可能なものでない薄膜が含まれることのないように,特許請求の範囲から一部の薄膜を除くものである。そして,上記のように一部の薄膜を除いたことにより,技術的意義を追加し又は変更するものではなく,また,新たな効果を奏するものでもないから,訂正事項1により,本件特許の明細書又は図面に記載した事項との関係において,新たな技術的事項が導入されるものでないと認められる。 よって,本件訂正事項1は,新規事項を追加するものではない。 ウ 訂正事項1は,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。 (2)訂正事項2について 訂正事項2についても,前記(1)のとおりである。 そして,訂正事項2により,請求項1に薄膜がアモルファスホモロガス化合物である場合の限定が付加されたが,請求項1を引用する請求項3における薄膜は単結晶薄膜でありアモルファスホモロガス化合物ではないから,請求項3は実質的には訂正されておらず,してみると,訂正前の請求項3に係る発明は,確定した1次審決のとおり,無効理由がないから,訂正後の請求項3に係る発明も独立特許要件を満たすものである。 (3)一群の請求項 訂正事項1及び2は,一群の請求項ごとにされたものである。 3 まとめ 以上のとおり,本件訂正は,特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり,同条第9項において準用する同法第126条第4項ないし第7項の規定に適合するので,訂正後の請求項〔1-4〕について訂正することを認める。 第3 本件特許発明 本件特許の請求項1ないし4に係る発明(以下,それぞれ「本件特許発明1ないし4」という。)は,本件訂正による訂正後の特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された次のとおりのものと認める。 「【請求項1】 ホモロガス化合物InMO3(ZnO)m(M=In, Fe, Ga ,又はAl, m=1以上50未満の整数)薄膜を活性層として用いることを特徴とする透明薄膜電界効果型トランジスタ(ただし,該薄膜がアモルファスホモロガス化合物である場合はm=1以上5未満の整数である)。 【請求項2】 表面が原子レベルで平坦である単結晶又はアモルファスホモロガス化合物薄膜を用いることを特徴とする請求項1記載の透明薄膜電界効果型トランジスタ。 【請求項3】 ホモロガス化合物が耐熱性,透明酸化物単結晶基板上に形成された単結晶薄膜であることを特徴とする請求項1記載の透明薄膜電界効果型トランジスタ。 【請求項4】 ホモロガス化合物がガラス基板上に形成されたアモルファス薄膜であることを特徴とする請求項1記載の透明薄膜電界効果型トランジスタ。」 第4 請求人の主張 1 これに対して,請求人は,本件特許発明1,2及び4の特許を無効にする,審判費用は,被請求人の負担とする,との審決を求め,証拠方法として,審判請求書とともに甲第1号証ないし甲第34号証を提出し,さらに弁駁書とともに甲第35号証ないし甲第40号証を提出している。なお,本件特許の請求項3に係る発明についての主張は,1次審決の同請求項に係る部分が確定していることに鑑み,省略する。 また,請求人は,口頭審理陳述要領書を参考資料1-12とともに提出し,その後,上申書を提出し,上申書(2)を参考資料13とともに提出し,上申書(3)を参考資料14とともに提出している。 ・甲第1号証:特表平11-505377号公報 ・甲第2号証:特開平5-251705号公報 ・甲第3号証:M.ORITA et.al.,”Amorphous transparent conductive oxide InGaO3(ZnO)m(m≦4):a Zn4s conductor”,PHILOSOPHICAL MAGAZINE B,2001,VOL.81, No.5,pp.501-515 ・甲第4号証:特開2000-44236号公報 ・甲第5号証:透明導電膜の技術 日本学術振興会 透明酸化物光・電子材料第166委員会,平成12年4月25日第1版第2刷発行,p.78-81,p.148-155 ・甲第6号証:2000年春季第47回応用物理学関係連合講演会 講演予稿集,第2分冊,577頁,28a-ZB-1 ・甲第7号証:2001年春季第48回応用物理学関係連合講演会 講演予稿集,第2分冊,946頁,29p-ZL-10 ・甲第8号証:特開昭63-239117号公報 ・甲第9号証:特開昭63-210022号公報 ・甲第10号証:特開昭63-210023号公報 ・甲第11号証:特開昭63-210024号公報 ・甲第12号証:特開昭63-215519号公報 ・甲第13号証:特開昭63-265818号公報 ・甲第14号証:中村真佐樹・君塚 昇・毛利尚彦・磯部光正,「ホモロガス相,InFeO3(ZnO)m(m:自然数)とその同型化合物の合成および結晶構造」,固体物理,アグネ技術センター,1993年5月15日発行,第28巻,第5号,p.317-327 ・甲第15号証:特表2007-529119号公報(特願2007-502848号の公表特許公報) ・甲第16号証:特願2007-502848号,平成22年6月2日付け拒絶理由通知書 ・甲第17号証:特願2007-502848号,平成22年12月8日付け手続補正書 ・甲第18号証:特願2007-502848号,平成23年9月12日付け拒絶査定 ・甲第19号証:特願2007-502848号,平成24年1月20日付け審判請求書 ・甲第20号証:特願2007-502848号,平成24年1月20日付け手続補正書 ・甲第21号証:不服2012-1120号(特願2007-502848号),平成25年1月28日付け拒絶理由通知書 ・甲第22号証:不服2012-1120号(特願2007-502848号),平成25年7月29日付け手続補正書 ・甲第23号証:不服2012-1120号(特願2007-502848号),平成25年9月20日付け審決 ・甲第24号証:2002年春季第49回応用物理学関係連合講演会講演予稿集,第2分冊,628頁,30a-YA-1 30a-YA-2 ・甲第25号証:特開昭64-45113号公報 ・甲第26号証:特開平8-109099号公報 ・甲第27号証:岩波 理化学辞典 第5版 pp.840-841 ・甲第28号証:N.Kimizuka, M.Isobe, M.Nakamura, Syntheses and Single-Crystal Date of Homologous Compounds,In2O3(ZnO)m(m=3,4,and5),InGaO3(ZnO)3,and Ga2O3(ZnO)m(m=7,8,9,and16) in the In2O3-ZnGa2O4-ZnO System, JOURNAL OF SOLID STATE CHEMISTRY vol.116,pp.170-178(1995) ・甲第29号証:特開平8-245220号公報 ・甲第30号証:特開2000-281495号公報 ・甲第31号証:特願2001-340066号の特許願,明細書,図面 ・甲第32号証:特開2003-137692号公報 ・甲第33号証:小長井誠著,「半導体超格子入門」,初版第5刷,培風館,1993年9月30日,p.58-61 ・甲第34号証:江崎玲於奈監修,榊裕之編著,「超格子ヘテロ構造デバイス」,初版,工業調査会,1988年9月10日,p.208 ・甲第35号証の1 「J-STORE」のトップページ ・甲第35号証の2 「J-STORE」での本件特許の検索結果 ・甲第36号証 被請求人のウェブサイト「「IGZO径酸化物半導体TFT」の研究・開発・事業化を検討されている企業の皆様,ならびに「IGZO商標」に関心のある皆様へ」 ・甲第37号証 被請求人のウェブサイト「高性能の薄膜トランジスターに関する特許のライセンス契約をサムスン電子と締結」 ・甲第38号証 被請求人のウェブサイト「JSTとシャープが酸化物半導体に関するライセンス契約を締結」 ・甲第39号証 日経テクノロジーonline「キーワードで読み解く最新トピック IGZO」 ・甲第40号証 「LGの有機ELテレビの優位性」 なお,被請求人は,甲第1号証ないし甲第34号証の成立を認めている。 2 そして,請求人が,審判請求書,口頭審理及び弁駁書において主張したことを整理すると,無効理由1-6について,概ね次のように主張している。 (1)無効理由1:無効理由1(特許法第29条第2項)の概要 下記(ア)~(ウ)のとおり,本件特許発明1,2及び4は,その出願前に日本国内又は外国において頒布された甲第1号証,甲第3号証~甲第14号証,及び甲第24号証~甲第26号証,及び甲第28号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。よって,本件特許発明1,2及び4は,特許法第123条第1項第2号に該当し,無効とすべきものである。 (ア)本件特許発明1は,甲第1号証,甲第3号証~甲第14号証,甲第24号証,及び甲第28号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 (イ)本件特許発明2は,甲第1号証,甲第3号証~甲第14号証,甲第24号証~甲第26号証,及び甲第28号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 (ウ)本件特許発明4は,甲第1号証,及び甲第3号証~甲第14号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 (2)無効理由2:無効理由2(特許法第29条第2項)の概要 下記(ア)~(ウ)のとおり,本件特許発明1,2及び4は,その出願前に日本国内又は外国において頒布された甲第1号証,甲第3号証~甲第5号証,甲第8号証,甲第14号証,及び甲第24号証~甲第26号証,及び甲28号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 よって,本件特許発明1,2及び4は,特許法第123条第1項第2号に該当し,無効とすべきものである。 (ア)本件特許発明1は,甲第1号証,甲第3号証~甲第5号証,甲第8号証,甲第14号証,甲第24号証,及び甲第28号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 (イ)本件特許発明2は,甲第1号証,甲第3号証~甲第8号証,甲第14号証,甲第24号証~甲第26号証,及び甲第28号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 (ウ)本件特許発明4は,甲第1号証,甲第3号証~甲第8号証,及び甲第14号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 (3)無効理由3:無効理由3(特許法第29条第2項)の概要 下記(ア)~(ウ)のとおり,本件特許発明1,2及び4は,その出願前に日本国内又は外国において頒布された甲第2号証~甲第7号証,甲第14号証,甲第24号証~甲第26号証,甲第28号証及び甲第29号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 よって,本件特許発明1,2及び4は,特許法第123条第1項第2号に該当し,無効とすべきものである。 (ア)本件特許発明1は,甲第2号証~甲第5号証,甲第14号証,甲第28号証,及び甲第29号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 (イ)本件特許発明2は,甲第2号証~甲第7号証,甲第14号証,甲第24号証~甲第26号証,甲第28号証,及び甲第29号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 (ウ)本件発明発明4は,甲第2号証~甲第7号証,甲第14号証,甲第28号証,及び甲第29号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 (4)無効理由4:無効理由4(特許法第29条の2)の概要 下記(ア)及び(イ)のとおり,本件特許発明1及び2は,その出願日前の他の特許出願であって,本件特許の出願後に公開された甲第31号証に記載の発明と同一であるから,特許法第29条の2の規定により特許を受けることができない。よって,本件特許発明1及び2は,特許法第123条第1項第2号に該当し,無効とすべきものである。 (ア)本件特許発明1は,甲第31号証に記載の発明と同一である。 (イ)本件特許発明2は,甲第31号証に記載の発明と同一である。 (5)無効理由5:無効理由5(特許法第36条第4項第1号)の概要 本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載が本件特許の請求項1,2及び4に係る発明についての実施可能要件を満たしていないから,本件特許の請求項1,2及び4に係る発明についての特許は,特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり,特許法第123号第1項第4号の規定に該当し,無効とすべきものである。 (6)無効理由6:無効理由6(特許法第36条第6項第1号)の概要 本件特許発明1,2及び4は,発明の詳細な説明に記載したものではないから,特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。 よって,本件特許発明1,2及び4は,特許法第123号第1項第4号の規定に該当し,無効とすべきものである。 また,本件訂正後の本件特許発明1,2及び4についても,無効理由5及び6により無効とすべきものである。 第5 被請求人の主張 被請求人は,平成26年10月3日付けの答弁書によれば,本件審判の請求は成り立たない,審判費用は請求人の負担とする,との審決を求め,無効理由1-6に理由はないと主張している。 また,被請求人は,口頭審理陳述要領書に添付して,以下の乙第1号証-乙第2号証を提出し,その後,口頭審理陳述要領書(2),上申書,上申書(2)を提出している。さらに,被請求人は,訂正請求書とともに意見書を提出し,訂正請求書を手続補正書により補正している。 ・乙第1号証:特許庁>ホーム>資料・統計>刊行物・報告書>標準技術集>半導体製造装置関連真空・クリーン化技術>1-4-4固相エピタキシャル成長装置(http://www.jpo.go.jp/shiryou/s_sonota/hyoujun_gijutsu/semicon_vacuum_tech/1_4_4.htm) ・乙第2号証:特許第4136531号公報 なお,請求人は,乙第1号証及び乙第2号証の成立を認めている。 第6 無効理由5について 事案に鑑み,まず,無効理由5について判断する。 1 審判請求書の47ページ7行-48ページ20行及び弁駁書の8-11ページの記載によれば,無効理由5の具体的理由は,略以下のとおりのものと認められる。 (1)アモルファスについて 本件特許の請求項1の活性層として用いることができるホモロガス化合物薄膜は,請求項1を引用する請求項2,請求項4の記載を鑑みれば,「アモルファス薄膜」の概念を含むものであり,また,請求項2,請求項4は,ホモロガス化合物が「アモルファス薄膜」であることを規定している。 (2)しかしながら,本件特許明細書の発明の詳細な説明は,活性層として用いることができるホモロガス化合物のアモルファス薄膜の作製法については実施例の記載はなく,具体的に説明されていない。 (3)本件特許明細書の【0014】には「ZnOを含むホモロガス化合物を反応性固相エピタキシヤル法により室温で成膜したアモルファス状態は1000℃程度の高温まで安定であり」との記載があるが,成膜方法についての記載はない。また,【0027】には「また,アモルファス薄膜の場合は,エピタキシャル成長させる必要はないので・・・」との記載はあるが,アモルファス薄膜の成膜方法についての記載はない。 さらに,実施例においては,【0028】に「PLD法により,厚み150nmの多結晶InGaO3(ZnO)5薄膜を堆積させた。」と記載されており,アモルファス薄膜の成膜方法についての記載はない。 そして,【0025】には「また,反応性固相エピタキシャル成長法で得られたZnOを含むホモロガス単結晶膜は,化学量論組成に近く,室温では,108W・cm以上の高い絶縁性を示し,ノーマリーオフ電界効果型トランジスタに適している。」と記載され,【0031】には「3.MISFET素子の特性評価 図4に,室温下で測定したMISFET素子の電流-電圧特性を示す。・・・これはゲートバイアスにより絶縁体のInGaO3(ZnO)5単結晶薄膜内にキャリアを誘起できたことに対応する。」と記載されているが,アモルファス薄膜については,どのように製造され,どのような電気特性の膜が得られるのか,またMISFET素子に適用した場合にどのような電気的特性が得られるのかについては全く記載されていない。 (4)本件特許明細書の他に,甲第3,4,6及び7号証の開示内容をも参酌したとしても,当業者はせいぜいのところ導電膜に用いる「アモルファスのInGaO3(ZnO)m(m=1~4)」を形成可能であったにとどまり,透明薄膜電界効果型トランジスタの活性層に用いる「アモルファスのInGaO3(ZnO)m(m=1~4)」を形成し,本件発明を実施することが可能であったとはいえない。 (5)甲第2号証にはITO以外の酸化物の透明導電膜について,膜中の酸素量(酸素欠損)を制御することにより,薄膜トランジスタの動作に必要な1018cm-3以下のキャリア濃度を達成することが可能であるのかについては何ら記載されていないのであり,酸化物の透明導電膜一般に関する技術常識は存在しない以上,本件明細書の記載に基づいて,当業者が透明薄膜電界効果型トランジスタの活性層として用いることができるアモルファスのInGaO3(ZnO)m(m=1~4)を形成できたとはいえず,訂正後の本件発明も実施可能要件を欠く。 (6)したがって,本件特許明細書の発明の詳細な説明は,当業者が本件特許発明1,2及び4を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものではない。 2 当審の判断 (1)本件特許発明1について 本件特許発明1の活性層として用いることができるホモロガス化合物薄膜は,請求項1を引用する請求項2,請求項4の記載を鑑みれば,「アモルファス薄膜」の概念を含むものである。 そして,無効理由5は,ホモロガス化合物が「アモルファス薄膜」である場合に,本件特許明細書の発明の詳細な説明は,当業者が本件特許発明1,2,4を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものではない旨を主張するものである。 そこで,最初に,本件特許発明1において,ホモロガス化合物が,「アモルファス薄膜」である場合の,本件特許明細書の発明の詳細な説明が,当業者が本件特許発明1を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものであるかについて検討する。 (2)本件特許発明1は,「第3 本件特許発明」で認めたとおりであり,再掲すると,以下のとおりである。 「【請求項1】 ホモロガス化合物InMO3(ZnO)m(M=In,Fe,Ga,又はAl,m=1以上50未満の整数)薄膜を活性層として用いることを特徴とする透明薄膜電界効果型トランジスタ(ただし,該薄膜がアモルファスホモロガス化合物である場合はm=1以上5未満の整数である)。」 (3)一方,本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌すると,単結晶のホモロガス化合物InMO3(ZnO)m(M=In,Fe,Ga,又はAl,m=1以上50未満の整数)を形成する方法としては,「YSZ(イットリア安定化ジルコニア)基板上に育成したZnO単結晶極薄膜上に,アモルファスのホモロガス薄膜を堆積し,得られた多層膜を高温で加熱拡散処理する「反応性固相エピタキシャル法」により,ホモロガス単結晶薄膜を育成する」(【0007】),「上記のホモロガス単結晶薄膜の製造方法と同様に,ZnO薄膜上にエピタキシャル成長した複合酸化物薄膜を加熱拡散する手段を用いる」(【0008】)と記載されている。また,ZnO薄膜上に形成するホモロガス化合物InMO3(ZnO)m(M=In,Fe,Ga,又はAl,m=1以上50未満の整数)薄膜全般については,「MBE法,パルスレーザー蒸着法(PLD法)等により・・・成長させる。」(【0019】),「得られた薄膜は,単結晶膜である必要はなく,多結晶膜でも,アモルファス膜でも良い。」(【0020】),「基板温度を室温まで冷却し,該ZnOエピタキシャル薄膜上にPLD法により,厚み150nmの多結晶InGaO3(ZnO)5薄膜を堆積させた。」(【0028】)とあるように,多結晶やアモルファスの薄膜を,室温で,MBE法,パルスレーザー蒸着法(PLD法)等を用いて形成することが記載されている。さらに,アモルファスのホモロガス化合物InMO3(ZnO)m(M=In,Fe,Ga,又はAl,m=1以上50未満の整数)薄膜を形成する方法については,「ZnOを含むホモロガス化合物アモルファス薄膜を用いる場合には,基板は耐熱性を有する必要がなく,安価なガラス基板を用いることができる。」(【0016】),「アモルファス薄膜の場合は,エピタキシャル成長させる必要はないので,ZnOエピタキシャル成長及び高温アニールプロセスを除くことができる。」(【0027】)と記載されている。 これらの記載から,当業者であれば,アモルファスのホモロガス化合物InMO3(ZnO)m(M=In,Fe,Ga,又はAl,m=1以上50未満の整数)薄膜を形成するためには,上記単結晶の薄膜の形成方法から,ZnO単結晶薄膜の成長と高温アニールの工程を省略すればよいこと,すなわち,ガラス基板等を用いて,室温で,MBE法,パルスレーザー蒸着法(PLD法)等を用いて形成すればよいことを理解する。 (4)もっとも,本件出願日当時,当業者は,InGaO3(ZnO)mのmが5以上のアモルファス薄膜の作成は極めて困難と認識していたものと認められる(甲第3,4,6,7号証)が,本件特許発明1はmが5以上のアモルファス薄膜を含んでいないので,上記(3)の認定は,本件特許発明1について妥当するものである。 (5)さらに,本件特許明細書の発明の詳細な説明を参酌すると,「得られたZnOを主たる構成成分として含有するホモロガス単結晶薄膜を活性層とした,トップゲート型MIS電界効果型トランジスタを作製することができる。図3に示すように,まず,基板1上にエピタキシャル成長したZnOを主たる構成成分として含有するホモロガス単結晶薄膜2上にゲート絶縁膜3及びゲート電極4用の金属膜を形成する。ゲート絶縁膜3には,Al2O3が最も適している。ゲート電極4用金属膜は,Au,Ag,Al,又はCu等を用いることができる。光リゾグラフィー法及びドライエッチング,又はリフトオフ法により,ゲート電極4を作製し,最後に,ソース電極5及びドレイン電極6を作成する。本発明の電界効果型トランジスタの形状は,トップゲート型MIS電界効果型トランジスタ(MIS-FET)に限られるものではなく,J-FET等も含まれる。」(【0026】),「ZnOを主たる構成成分として含有するホモロガスアモルファス薄膜を用いても,同様に,トップゲート型MIS電界効果型トランジスタを作成することができる。また,アモルファス薄膜の場合は,・・・ゲート電極を基板と膜の間に作りつけることが可能で,ボトムゲート型MIS電界効果型トランジスタも作製することができる。」(【0027】)と記載されている。 これらの記載から,当業者であれば,上記(3)の方法により形成されたアモルファスの薄膜を活性層として用い絶縁膜や電極を形成することにより,トップゲート型MIS電界効果型トランジスタやボトムゲート型MIS電界効果型トランジスタを作製することができると認められる。 (6)また,上記(5)のようにして作製されたMIS電界効果型トランジスタの使用については,発明の詳細な説明に明記がなくても,当業者であれば,トランジスタとして使用することはできると認められる。 (7)以上のとおり,本件特許明細書の発明の詳細な説明は,「ホモロガス化合物InMO3(ZnO)m(M=In, Fe, Ga ,又はAl, m=1以上50未満の整数)薄膜(ただし,該薄膜がアモルファスホモロガス化合物である場合はm=1以上5未満の整数である)」が,「アモルファス薄膜」である「透明薄膜電界効果型トランジスタ」を生産し使用することができる程度に,明確かつ十分な記載を有するものと認められる。 (8)なお,「実施をすることができる程度」の記載とは,物の発明については,その物の生産及び使用ができる程度の記載をいい(特許法2条3項1号参照),それ以上にその物の性能や特性を明らかにしなくてはならないというものではない。本件明細書の段落【0028】ないし【0031】記載された「実施例」は単結晶InGaO3(ZnO)5薄膜を用いたMISFETに関するものであり,アモルファス薄膜を用いたMISFETの場合に同じ特性が得られるかは,本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載からは不明というほかなく,例えば,「ノーマリーOFF特性」が得られるかは不明であるが,たとえ「ノーマリーOFF特性」が得られなくても「トランジスタ」には変わりなく,また「可視光に対して透明で大面積に適したアモルファストランジスタを作製すること」(後記第11の3(1)ア)が本件特許発明1の課題の一つであるので,課題を解決できる技術的思想としての発明が「実施をすることができる程度」に記載されているという上記(7)の認定を左右するものではない。 (9)請求人の主張について検討する。 ア 請求人は,本件明細書の他に,甲3,4,6及び7号証の開示内容をも参酌したとしても,導電膜に用いる「アモルファスのInGaO3(ZnO)m(m=1~4)」を形成可能であったにとどまると主張するが,上記(1)ないし(8)のとおり,甲3,4,6及び7号証の開示内容を参酌するまでもなく,本件特許明細書の発明の詳細な説明には,アモルファスの薄膜を活性層に用いた透明薄膜電界効果型トランジスタを生産し使用することができる程度に記載されていると認められるから,請求人の主張は採用することができない。 イ 請求人は,甲第2号証にはITO以外の酸化物については記載されておらず,酸化物の透明導電膜一般に関する技術常識は存在しないと主張するが,上記(1)ないし(8)のとおり,上記技術常識の存否に関係なく,本件特許明細書の発明の詳細な説明には,アモルファスの薄膜を活性層に用いた透明薄膜電界効果型トランジスタを生産し使用することができる程度に記載されていると認められるから,請求人の主張は採用することができない。 (10)よって,本件特許発明1について,無効理由5は,理由がない。 (11)本件特許発明2及び4について 本件特許発明2及び4は,「第3 本件特許発明」で認めたとおりであり,再掲すると,以下のとおりである。 「【請求項2】 表面が原子レベルで平坦である単結晶又はアモルファスホモロガス化合物薄膜を用いることを特徴とする請求項1記載の透明薄膜電界効果型トランジスタ。」 「【請求項4】 ホモロガス化合物がガラス基板上に形成されたアモルファス薄膜であることを特徴とする請求項1記載の透明薄膜電界効果型トランジスタ。」 (12)本件特許発明2及び4は,いずれも,請求項1を引用する発明であるところ,本件特許の明細書は,当業者が本件特許発明1を実施できる程度に,明確かつ十分に記載されたものといえることは,上記(1)ないし(10)で検討したとおりである。 そして,本件特許発明2及び4において,本件特許発明1に対して附加的に限定した発明特定事項は,本件特許明細書の段落【0010】,【0016】,【0019】,【0020】の記載から当業者が読み取れるものであると認められる。 したがって,本件特許発明2及び4が,いずれも,請求項1を引用する発明であり,しかも,本件特許発明2及び4において,附加的に限定した発明特定事項は,いずれも本件特許明細書に記載されていると認められるから,本件特許発明1と同様の理由により,本件特許明細書の発明の詳細な説明は,当業者が本件特許発明2及び4を実施できる程度に,明確かつ十分に記載したものであると認められる。 よって,本件特許発明2及び4について,無効理由5は,理由がない。 3 無効理由5のまとめ 本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は,本件特許の請求項1,2及び4に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものであるから,本件特許の請求項1,2及び4に係る発明についての特許が,特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものとは認められない。 したがって,本件特許発明1,2及び4について,無効理由5は,理由がない。 第7 無効理由1について 1 最初に,本件特許発明1についての特許が,無効とすべきものであるかについて検討する。 2 本件特許発明1について 本件特許発明1は,「第3 本件特許発明」で認めたとおりであり,再掲すると,以下のとおりである。 「【請求項1】 ホモロガス化合物InMO3(ZnO)m(M=In,Fe,Ga,又はAl,m=1以上50未満の整数)薄膜を活性層として用いることを特徴とする透明薄膜電界効果型トランジスタ(ただし,該薄膜がアモルファスホモロガス化合物である場合はm=1以上5未満の整数である)。」 3 甲第1号証に記載された発明 甲第1号証には,「半導体装置」(発明の名称)に関して,図1~14とともに,以下の事項が記載されている。(下線は,当審で付与した。以下同じ。) (甲1a)「【特許請求の範囲】 1.透明材料の2つの接続電極と,透明絶縁層によりチャネル領域から分離された導電材料の透明ゲート電極が設けられた半導体材料の介在透明チャネル領域とを有する透明スイッチング素子が設けられた半導体装置において,前記半導体材料は,伝導帯と2.5 eV以上の電子の価電子帯との間にバンドギャップを有し,塩基性材料の価電子帯または伝導帯に,あるいはこれに隣接する固定不純物エネルギー準位を形成するドーパント原子が設けられた10cm2/Vs以上の電荷キャリアの移動度を有する塩基性材料が設けられた縮退半導体材料を具えることを特徴とする半導体装置。 2.前記塩基性材料は非遷移金属の共有結合酸化物を具えることを特徴とする請求項1に記載の半導体装置。 3.前記塩基性材料はSn,ZnおよびInより成る群から選択された共有結合酸化物を具えることを特徴とする請求項1に記載の半導体装置。 4.前記接続電極,ゲート電極およびチャネル領域は同一の型のドーパント原子を設けた同一の塩基性材料を具え,前記半導体材料は導電材料のドーズ量よりも少量のドーパント原子を含むようにしたことを特徴とする請求項1~3の何れかの項に記載の半導体装置。 5.導電材料は0.5%以上のドーパント原子を含み,半導体材料は0.3%以下のドーパント原子を含むことを特徴とする請求項4に記載の半導体装置。 6.前記塩基性材料はSnO2を(審決注「SnO2」の誤り。以下同じ。)含み,前記ドーパント原子はSbを含むことを特徴とする請求項5に記載の半導体装置。」(2ページ1-21行) (甲1b)「発明の技術分野 本発明は透明材料の2つの接続電極と,透明絶縁層によりチャネル領域から分離された導電材料の透明ゲート電極が設けられた半導体材料の介在透明チャネル領域とを有する透明スイッチング素子が設けられた半導体装置に関するものである。」(4ページ3-7行) (甲1c)「発明の背景 特許願60-198861 には透明接続電極およびゲート電極を錫ドープ酸化インジウムで構成し,絶縁層を酸化シリコンで構成するようにした上述した種類の半導体装置が記載されている。チャネル領域の透明半導体材料としてはWO3が用いられている。 既知の半導体装置はいわゆる“電子-クロミック装置”(ECD)である。かかる装置の接続上には電解液が存在する。従ってこの電解液からWO3内にH+イオンが拡散される。従って,WO3は可視光を吸収することができる。即ち,スイッチング素子はカラーと見なすことができる。このH+イオンの拡散は緩慢に進行する。スイッチング素子はH+イオンのこの緩慢な拡散のためにあるメモリ効果を有する。即ち,スイッチング素子はある時間に亘って所定の状態に保持される。この既知の半導体装置は極めて限定された度合で,即ち,WO3内にH+イオンが存在しない場合にのみ透明となる。それ自体絶縁体であるWO3の導電度はWO3内の酸素の量が減少することによって決まる(“酸素空乏WO3”)。 上述した既知の半導体装置では,これが比較的緩慢に状態切換を行うと云う実際的な欠点があることを確かめた。その理由はスイッチング素子のスイッチングが部分的にはH+イオンの固体拡散によっても決まるからである。また,既知の半導体材料においては,既に酸素が比較的僅かだけ除去されているため可視光の吸収が強く増大し,従って半導体材料の導電度がある所望の値となった場合には材料はもはや透明とはならない。これは,既知のスイッチング素子を全ての状況の下で透明となるスイッチング素子として用いることができないことを意味する。 本発明の目的は上述した欠点に対処し得るようにした半導体装置を提供せんとするにある。」(4ページ10行-5ページ5行) (甲1d)「発明の概要 この目的のため,本発明は透明材料の2つの接続電極と,透明絶縁層によりチャネル領域から分離された導電材料の透明ゲート電極が設けられた半導体材料の介在透明チャネル領域とを有する透明スイッチング素子が設けられた半導体装置において,前記半導体材料は,伝導帯と2.5 eV以上の電子の価電子帯との間にバンドギャップを有し,塩基性材料の価電子帯または伝導帯に,あるいはこれに隣接する固定不純物エネルギー準位を形成するドーパント原子が設けられた10cm2/Vs以上の電荷キャリアの移動度を有する塩基性材料が設けられた縮退半導体材料を具えることを特徴とする。 従って塩基性材料はそのバンドギャップを2.5 eV以上とし,移動度を10cm2/Vs以上とするように選択し,その後導電度をドーパント原子の性質および濃度を好適に選択することによって決定する。ドーパント原子の濃度は0.001 %乃至0.3 %の範囲に選択すると充分な導電度が得られるようになる。不純物エネルギー準位はこれがバンドギャップからほぼ0.1 eV以下の距離にある場合には,価電子帯または伝導帯に隣接する。電子は室温で不純物エネルギー準位から価電子帯または伝導帯に容易に変換され得るようになる。 可視光のエネルギーはほぼ2.5 eV以上のバンドギャップを有する半導体材料に電子-正孔対を形成するには不充分であるため,この可視光は半導体材料によっては吸収されない。本発明による縮退半導体材料は透明となる。その理由は可視光の吸収が大きなバンドギャップのために不可能であり,これと同時に不純物エネルギー準位のため可視光の吸収が生じないからである。加うるに,本発明半導体材料を設けたスイッチング素子は電荷キャリアの高移動度のため比較的迅速に作動する。 前記塩基性材料は非遷移金属の共有結合酸化物を具えるようにするのが好適である。かかる金属の酸化物およびかかる金属,例えば,Ga,Sn,Zn,Sb,Pb,GeおよびInの酸化物の化合物は,その移動度が10cm2/Vs以上であり,バンドギャップが2.5 eV以上である(例えば,J.Phys.Chem.Ref.Data,Vol.2,No.1,1973,P.163 ff.参照)。非遷移金属の一層イオン的な酸化物は塩基性材料としては好適ではない。その理由は電荷キャリアと結晶格子のイオンとの間に強い相互作用が働くからである。 前記塩基性材料はSn,ZnおよびInより成る群から選択された共有酸化物を具えるようにするのが好適である。これら共有結合酸化物はその移動度が比較的高く,ドーパント原子を設けた場合でも30cm2/Vs以上である。ドーパント原子は使用する共有結合酸化物に対し減衰する。従って,Sb,FまたはClのようなドーパント原子はSnO3が共有結合酸化物である際に用いることができ,Snドーパント原子はIn2O3が共有結合酸化物である際に用いることができ,Gaドーパント原子はZnOが共有結合酸化物である際に用いることができる。 好適な例では,前記接続電極,ゲート電極およびチャネル領域は同一の型のドーパント原子を設けた同一の塩基性材料を具え,前記半導体材料は導電材料のドーズ量よりも少量のドーパント原子を含むようにする。かかる半導体装置は比較的容易に製造することができる。その理由はドーパント原子の量がことなるだけで同一の材料を用いるからである。好適には,導電材料は0.5%以上のドーパント原子を含み,半導体材料は0.3%以下のドーパント原子を含むようにする。前記塩基性材料はSnO2を含み,前記ドーパント原子はSbを含むようにするのが有利である。」(5ページ6行-6ページ23行) (甲1e)「図1および2は透明材料の2つの接続電極2,3を有するスイッチング素子1と,半導体材料の介在透明チャネル領域4とを設けた透明半導体装置を示す。本例では,接続電極およびチャネル領域は同一半導体材料から造る。接続電極2,3の抵抗値はその幅のみにに起因して比較的低い。チャネル領域4には透明な導電性ゲート電極5を設け,これを透明絶縁層6によってチャネル領域4から分離する。本発明によればチャネル領域4の半導体材料は塩基性材料およびドーパント原子を有する縮退半導体材料を具える。図3は縮退半導体の電子のエネルギー準位13を示す。塩基性材料は2.5 eV以上の電子の伝導帯11および価電子帯12間のバンドギャップ10を有し,塩基性材料の電荷キャリアの移動度は10cm2/Vsである。塩基性材料にはドーパント原子を設け,このドーパント原子は塩基性材料の,適用可能なように,価電子帯または伝導帯12,11 に,またはこれに隣接する固定不純物エネルギー準位13を形成する。この不純物エネルギー準位13は伝導帯または価電子帯の縁部からほぼ0.1 eV以下の距離14の箇所において価電子帯または伝導帯12,11 に隣接して位置する。不純物エネルギー準位13は全価電子帯または伝導帯12,11 内に存在する。導電度はドーパント原子を好適に選定することによって決めることができる。ドーパント原子濃度は0.001 %乃至0.3 %の範囲にすると充分に高い導電度を得ることができる。電子は室温で不純物エネルギー充分に13から価電子帯または伝導帯12,11 と容易に交換することができる。 図1および2の半導体装置は次のように製造することができる。厚さ50nmの導電性SrRuO3層5は絶縁単結晶SrTiO3基板7上にエピタキシヤル堆積により設ける。SrRuO3はそれ自体透明ではないが,ほぼ60nm以下のSrRuO3の極めて薄い層は透明である。このSrRuO3層5上に厚さ0.7 μmのモリブデン層を蒸着する。このモリブデン層はフォトレジストおよびCF4/O2によるAr補助反応性エッチング(RIE)によって既知のようにパターン化する。次いで,パターン化されたモリブデンはCHF3によるRIEによってSrRuO3層をパターン化するためのマスクとして用いてゲート電極5を形成する。次いで残存するモリブデンはヘキサシアノ鉄酸カリウムによるいわゆる酸化還元エッチング処理によって除去する。次に,ゲート電極5上および基板7の表面上に透明絶縁層6および半導体材料4を設ける。本例では,BaZrO2の厚さ0.2 μmの絶縁層6は650 ℃の温度で,且つ0.2mbar の酸素圧でパルスレーザ堆積によって設ける。次いで,0.03%のSnがドープされたIn2O3の厚さ0.1 μmの層4を,0.2mbar の酸素圧および505 ℃の温度でパルスレーザ堆積によって絶縁層6上および基板7の表面上に既知のように設ける。層4および6は,ゲート電極5に対する導電層の場合と同様に,フォトレジストおよびモリブデン層を用いて再びパターン化する。ゲート電極5に損傷を与えないように限定期間のみエッチングを行う。チャネル領域4および接続電極2は斯様にして形成する。 接続電極2に対するゲート電極5の-4V以下の電圧で,この第1例により製造されたスイッチング素子のチャネル領域は電荷キャリアを完全に空乏化する。従って接続電極2および3間には200 kΩ以上の抵抗が得られる。ゲート電極5における零V以上の電圧で,スイッチング素子が導通状態となり,接続電極2および3間の抵抗値はほぼ10kΩとなる。第1例によるスイッチング素子は種々に変更することができる。これがため,スイッチング素子の電気特性は例えばチャネル領域の寸法または絶縁層の厚さのような幾何学的形状を変更することによって変化させることができる。また,チャネル領域4の半導体材料に対し,ドーパント原子を設けた非遷移金属の他の共有結合酸化物を用いることもできる。これら金属の酸化物およびその混合物は10cm2/Vs以上の移動度および2.5 eV以上のバンドギャップを有する。例えば,Ga2O3,Bi2O3,SnO2,ZnO,Sb2O3,PbO,GeO2またはIn2O3,これら酸化物の混合物,またはGaInO3,ZnGa2O4,またはCdGa2O4のようなこれら酸化物から形成された化合物を用いることができる。これら共有結合酸化物はレーザ堆積,ガス相からの分解後の堆積(CVD)または蒸着によって得ることができる。ドーパント原子は蒸着源または使用ガスによって塩基性材料内に導入することができる。ドーパント原子の濃度は0.001 %乃至0.3 %の範囲とすることによってスイッチング素子の半導体材料として用いるに充分な高さの導電度を得ることができる。 好適には,半導体材料はSn,Zn,Inより成る群から選択された金属の共有結合酸化物を具える。これら共有結合酸化物はドーパント原子を設けた場合でも30cm2/Vs以上の移動度を有する。従って,これらドーパント原子は使用する共有結合酸化物まで減衰する。これがため,SnO2を共有結合酸化物とする場合にはSb,FまたはClのようなドーパント原子を用いることができ,In2O3を共有結合酸化物とする場合にはSnのようなドーパント原子を用いることができ,且つZnOを共有結合酸化物とする場合にはGaのようなドーパント原子を用いることができる。特にATOとしても既知のSbドープSnO2,またはITOとしても既知のSnドープIn2O3は著しく好適な材料である。」(9ページ5行-11ページ11行) (甲1f)「 図4は本発明スイッチング素子1の第2実施例を示す。ガラス基板7,本例では,0.2mbar のO2圧且つ505 ℃の温度でパルスレーザ堆積により既知のように堆積されたSb1.5 %ドープの厚さ0.2 μmのSnO2層上に透明導電材料を設ける。この透明導電材料の上に蒸着により厚さ0.7 μmのモリブデン層を設ける。このモリブデン層はフォトレジストおよびCF4/O2を用いるRIEによって既知のようにパターン化する。次に,パターン化されたモリブデン層をマスクとして用いてCFH3によるRIEによってドープされたSnO2層をパターン化してゲート電極5を形成する。次いで,モリブデン層をヘキサシアノ鉄酸カリウムによる酸化還元エッチング処理によって除去する。次に,強誘電材料の厚さ0.25μmの透明絶縁層6をゲート電極5上および基板7の表面上に設ける。使用し得る強誘電材料は例えば,ニオブ酸リチウム(LiNbO3),タンタル酸リチウム(LiTaO3)またはチタン酸鉛-ジルコニウム(PbZrxTi1-xO3)がある。本例では,チタン酸鉛-ジルコニウムPbZr0.2Ti0.8O3を用いる。その理由はこの材料は他の使用材料との両立性を考慮する事なく比較的容易に提供できるからである。さらにこの材料はその偏光性が比較的高く(ほぼ60μC/cm2),且つスイッチング電界が低い(ほぼ50kV/cm)。チタン酸鉛-ジルコニウムは0.2mbar の酸素圧および587 ℃の温度でパルスレーザ堆積することによって既知のように得られる。 次いで,0.2mbar のO2圧且つ505 ℃の温度でパルスレーザ堆積により既知のように強誘電層6上および基板7の表面上に0.03%のSbがドープされたSnO2の厚さ0.1 μmの層4を設ける。ゲート電極5に対する導電層の場合と同様に,これら層4および6はフォトレジストおよびモリブデン層を用いて再びパターン化する。ゲート電極5に損傷を与えないように限定された期間のみエッチングを行う。次いで,モリブデン損傷を再び除去する。斯くしてチャネル領域4を形成する。次に,その表面にSbが1.5 %ドープされたSnO2の厚さ0.5 μmの導電層を設ける。この層をフォトレジストおよびモリブデン層によりパターン化してゲート電極に対する導電層の場合と同様に導電性接続電極2および3を形成する。 本例では,接続電極2,3,ゲート電極5およびチャネル領域4は同一の方のドーパント原子を設けた同一の塩基性材料,接続電極2.3の半導体材料およびゲート電極5の導電材料よりも少量のドーパント原子を有するチャネル領域4の半導体材料を具える。かかる半導体装置は比較的簡単に製造することができる。その理由はこれら材料に1種類の製造処理のみが必要となるだけであるからである。」(11ページ12行-12ページ16行) (甲1g)「第5実施例では,トランジスタを第2実施例にならって形成するが,チャネル領域には別の層4,即ち0.1%のSb(「Sb」の誤り。)をドープした10nmの厚さのSnO2層を用いる。トランジスタには10nmの厚さのBaZrO3製のキャッピング層をかぶせる。」(16ページ2-5行) (甲1h)「本発明は上述した実施例に限定されるものではない。従って,上記実施例では非遷移金属の所定の共有結合酸化物を透明半導体及び導電材料として選定したが,本発明による半導体装置は非遷移金属の別の共有結合酸化物でも極めて良好に製造することができる。接続電極間の抵抗値及びオン/オフ比,即ちスイッチング素子のスイッチング中又はそうでない期間中の接続電極間の抵抗値の差は,例えば半導体の種類や,絶縁材料や,強誘電材料を適合させるか,又はチャネル構造,即ちチャネル領域の幅,長さ及び厚さを適合させることにより特殊な諸要求に適合させることができる。従って,各用途に対し,チャネル抵抗や,オン/オフ比や,強誘電材料のスイッチングの面で,最適な材料及び最適な構造のものを選定することができる。強誘電材料として別のものを選定するか,又は強誘電材料層の厚さを異なる厚さとして,強誘電材料によりスイッチング素子のスイッチング電圧を相違させることもできる。さらに,半導体装置の材料は,撮像素子又は表示素子以外は透明とする必要はない。スイッチング素子は,これらのスイッチング素子1を撮像及び表示素子30とオーバラップさせる場合にだけは透明とする必要がある。従って,例えばバスライン22及び25並びに接続電極2及びゲート電極5の部分には第3及び第4実施例における金属層,例えば導電性を促進するためにモリブデン又はアルミニウム層を設けるのが極めて好適である。 材料を堆積したり,パターン化する方法としてレーザ堆積法,CVD法及びホトリソグラフィ法の如き所定の技法のみを提案したが,これは本発明をこのような技法でしか実施できないと云うことを意味するのではない。エピタキシャル成長(MBE)や,印刷技法により材料をマスクしたりするような他の技法も極めて良好に用い得ることは明らかである。」(16ページ19行-17ページ12行) 4 当審の判断 (1)引用発明1 上記摘記(甲1a)-(甲1h)の記載を総合すると,甲第1号証には,甲第1号証の特許請求の範囲に記載された発明の実施例として開示された,次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。 「透明材料の2つの接続電極と,透明絶縁層によりチャネル領域から分離された導電材料の透明ゲート電極が設けられた半導体材料の介在透明チャネル領域とを有する透明スイッチング素子が設けられた半導体装置において,前記半導体材料が,伝導帯と2.5 eV以上の電子の価電子帯との間にバンドギャップを有し,塩基性材料の価電子帯または伝導帯に,あるいはこれに隣接する固定不純物エネルギー準位を形成するドーパント原子が設けられた10cm2/Vs以上の電荷キャリアの移動度を有する塩基性材料が設けられた縮退半導体材料を具えることを特徴とする半導体装置の一実施例として開示された, 導電性SrRuO3層5を絶縁単結晶SrTiO3基板7上にエピタキシヤル堆積により設け,このSrRuO3層5をパターン化してゲート電極5を形成し,次に,前記ゲート電極5上および前記基板7の表面上に透明絶縁層6であるBaZrO2を設け,次いで,0.03%のSnがドープされた厚さ0.1 μmのIn2O3の層4を,0.2mbar の酸素圧および505 ℃の温度でパルスレーザ堆積によって前記透明絶縁層6上および前記基板7の表面上に既知のように設け,その後,前記層4および前記透明絶縁層6をパターン化し,チャネル領域4および接続電極2を形成することによって製造された,透明材料の2つの接続電極2,3と,半導体材料の介在透明チャネル領域4とを有する半導体装置において, 前記チャネル領域4の半導体材料である,0.03%のSnがドープされたIn2O3に対し,ドーパント原子を設けた非遷移金属の他の共有結合酸化物である,10cm2/Vs以上の移動度および2.5 eV以上のバンドギャップを有する,例えば,Ga2O3,Bi2O3,SnO2,ZnO,Sb2O3,PbO,GeO2またはIn2O3,これら酸化物の混合物,またはGaInO3,ZnGa2O4,またはCdGa2O4のようなこれら酸化物から形成された化合物を用いた半導体装置。」 (2)対比 ア 本件特許発明1と,引用発明1とを対比すると,引用発明1の「層4」と,本件特許発明1の「ホモロガス化合物InMO3(ZnO)m(M=In,Fe,Ga,又はAl,m=1以上50未満の整数)薄膜(ただし,該薄膜がアモルファスホモロガス化合物である場合はm=1以上5未満の整数である)」とは,いずれも「活性層」として用いられる「薄膜」である点で一致する。 また,引用発明1の「半導体装置」は,「ゲート電極5」,「透明絶縁層6」,「半導体材料の介在透明チャネル領域4」及び「透明材料の2つの接続電極2,3」から構成されるから,本件特許発明1の「透明薄膜電界効果型トランジスタ」に相当する。 イ そうすると,本件特許発明1と,引用発明1との一致点と相違点は次のとおりである。 <一致点> 薄膜を活性層として用いる透明薄膜電界効果型トランジスタ。 <相違点> ・相違点1:透明薄膜電界効果型トランジスタの活性層として用いられる薄膜が,本件特許発明1では,「ホモロガス化合物InMO3(ZnO)m(M=In,Fe,Ga,又はAl,m=1以上50未満の整数)薄膜(ただし,該薄膜がアモルファスホモロガス化合物である場合はm=1以上5未満の整数である)」であるのに対して,引用発明1では,「『伝導帯と2.5 eV以上の電子の価電子帯との間にバンドギャップを有し,塩基性材料の価電子帯または伝導帯に,あるいはこれに隣接する固定不純物エネルギー準位を形成するドーパント原子が設けられた10cm2/Vs以上の電荷キャリアの移動度を有する塩基性材料が設けられた縮退半導体材料』であり,かつ,『前記半導体材料である,0.03%のSnがドープされたIn2O3に対し,ドーパント原子を設けた非遷移金属の他の共有結合酸化物である,10cm2/Vs以上の移動度および2.5 eV以上のバンドギャップを有する,例えば,Ga2O3,Bi2O3,SnO2,ZnO,Sb2O3,PbO,GeO2またはIn2O3,これら酸化物の混合物,またはGaInO3,ZnGa2O4,またはCdGa2O4のようなこれら酸化物から形成された化合物を用いた』もの」である点。 ウ なお,請求人は,審判請求書において,甲第1号証には,「厚さ10nm又は0.1μmの透明チャネル領域となる層4を備えたスイッチング素子であって,前記透明チャネル領域となる層4として,Ga2O3,Bi2O3,SnO2,ZnO,Sb2O3,PbO,GeO2,またはIn2O3,これら酸化物の混合物,またはGaInO3,ZnGa2O4,またはCdGa2O4のようなこれら酸化物から形成された化合物を用いた透明スイッチング素子。」という発明が記載されているものと認められると主張するが,以下の理由により,当該主張は採用することができない。 エ すなわち,発明とは,「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの」(特許法第2条第1項)であるところ,請求人が主張する引用発明1を特定する事項の1つである「Ga2O3,Bi2O3,SnO2,ZnO,Sb2O3,PbO,GeO2またはIn2O3,これら酸化物の混合物,またはGaInO3,ZnGa2O4,またはCdGa2O4のようなこれら酸化物から形成された化合物を用いた」という事項が記載されている,甲第1号証の上記摘記(甲1e)の記載は,その前後の記載を併せて摘記すると,「また,チャネル領域4の半導体材料に対し,ドーパント原子を設けた非遷移金属の他の共有結合酸化物を用いることもできる。これら金属の酸化物およびその混合物は10cm2/Vs以上の移動度および2.5 eV以上のバンドギャップを有する。例えば,Ga2O3,Bi2O3,SnO2,ZnO,Sb2O3,PbO,GeO2またはIn2O3,これら酸化物の混合物,またはGaInO3,ZnGa2O4,またはCdGa2O4のようなこれら酸化物から形成された化合物を用いることができる。これら共有結合酸化物はレーザ堆積,ガス相からの分解後の堆積(CVD)または蒸着によって得ることができる。ドーパント原子は蒸着源または使用ガスによって塩基性材料内に導入することができる。ドーパント原子の濃度は0.001 %乃至0.3 %の範囲とすることによってスイッチング素子の半導体材料として用いるに充分な高さの導電度を得ることができる。 好適には,半導体材料はSn,Zn,Inより成る群から選択された金属の共有結合酸化物を具える。これら共有結合酸化物はドーパント原子を設けた場合でも30cm2/Vs以上の移動度を有する。従って,これらドーパント原子は使用する共有結合酸化物まで減衰する。これがため,SnO2を共有結合酸化物とする場合にはSb,FまたはClのようなドーパント原子を用いることができ,In2O3を共有結合酸化物とする場合にはSnのようなドーパント原子を用いることができ,且つZnOを共有結合酸化物とする場合にはGaのようなドーパント原子を用いることができる。特にATOとしても既知のSbドープSnO2,またはITOとしても既知のSnドープIn2O3は著しく好適な材料である。」というものであり,甲第1号証の当該箇所には,ドーパント原子を設けた酸化物が記載されているだけであって,チャネル領域4の半導体材料に対し,ドーパント原子を設けることを前提としない発明は記載されていない。 したがって,ドーパント原子を設けないことを前提とする発明,すなわち,「パルスレーザ堆積により成膜され,厚さ10nm又は0.1μmの透明半導体を用いた層4であって,前記透明半導体として,Ga2O3,Bi2O3,SnO2,ZnO,Sb2O3,PbO,GeO2またはIn2O3,これら酸化物の混合物,またはGaInO3,ZnGa2O4,またはCdGa2O4のようなこれら酸化物から形成された化合物を用い,移動度が10cm2/Vs 以上であることを特徴とする透明半導体を用いた層4」という発明が,甲第1号証に記載されているとする請求人の主張は認められない。 さらに,甲第1号証の上記摘記(甲1a)の「【特許請求の範囲】」には,「・・・前記半導体材料は,伝導帯と2.5 eV以上の電子の価電子帯との間にバンドギャップを有し,塩基性材料の価電子帯または伝導帯に,あるいはこれに隣接する固定不純物エネルギー準位を形成するドーパント原子が設けられた10cm2/Vs以上の電荷キャリアの移動度を有する塩基性材料が設けられた縮退半導体材料を具えることを特徴とする半導体装置。」ことを発明特定事項として含む請求項1に係る発明と,前記請求項1に係る発明を引用する発明が記載されているだけであって,いずれも,ドーパント原子が設けられた発明が記載されているだけであり,さらに,上記摘記(甲1e)の前記「ドーパント原子の濃度は0.001 %乃至0.3 %の範囲とすることによってスイッチング素子の半導体材料として用いるに充分な高さの導電度を得ることができる。」との記載から,ドーパント原子を設けることは,引用発明1の半導体材料が,「スイッチング素子」に用いられる充分な高さの導電度を得るために必要なことであると理解できるから,この観点からも,甲第1号証に,ドーパント原子を設けないことを前提とする発明が記載されているとする,請求人の主張は認められない。 請求人は,平成26年12月8日付けの口頭審理陳述要領書において,本件特許発明1が,ドーパント原子の有無を限定しておらず,この点が相違点となることはないのであるから,引用発明1を,ドーパント原子を設けた半導体装置として認定すべきではない旨の主張をするが,引用発明1の認定は,本件特許発明1の特定事項の如何によらず,甲第1号証に記載された事項に基づいて,技術的思想として特定すべきものであるから,甲第1号証に記載された発明特定事項の内の一部のみを,甲第1号証に開示された技術的思想から離れて切り出して,引用発明1として認定することは適切とは認められない。 したがって,請求人の前記主張は採用することはできない。 また,請求人は,前記口頭審理陳述要領書において,甲1号証の4ページ11行-14行には,チャネル領域にドーピング原子を設けない透明半導体材料を用いることも記載されている旨主張するが,前記甲1号証の4ページ11行-14行の記載は,チャネル領域の透明半導体材料が,「WO3」である従来技術について記載されているだけであって,引用発明1についての上記認定を左右するものではない。 オ さらに,請求人は,審判請求書において,本件特許発明1と引用発明1とは,「Ga2O3,ZnO及びIn2O3から形成された化合物を活性層として用いることを特徴とする透明薄膜電界効果型トランジスタ。」の点で一致すると主張するが,以下の理由により,当該主張は採用することができない。 カ すなわち,甲第1号証の「Ga2O3,Bi2O3,SnO2,ZnO,Sb2O3,PbO,GeO2またはIn2O3,これら酸化物の混合物,またはGaInO3,ZnGa2O4,またはCdGa2O4のようなこれら酸化物から形成された化合物を用いる」との記載事項には,「Ga2O3,ZnO及びIn2O3から形成された化合物」は,その特定の組合せを有する化合物としては明記されていない。 なるほど,「Ga2O3」,「ZnO」,及び「In2O3」は,いずれも,前記記載事項に「Ga2O3,Bi2O3,SnO2,ZnO,Sb2O3,PbO,GeO2またはIn2O3,」として列記された酸化物内に含まれてはいる。しかしながら,前記記載事項において,酸化物から形成された化合物として例示されているのは,二つの酸化物から形成された化合物である「GaInO3」,「ZnGa2O4」及び「CdGa2O4」だけである。 すなわち,「Ga2O3,Bi2O3,SnO2,ZnO,Sb2O3,PbO,GeO2またはIn2O3,これら酸化物の混合物,またはGaInO3,ZnGa2O4,またはCdGa2O4のようなこれら酸化物から形成された化合物を用いる」との記載事項から,「Ga2O3」,「ZnO」及び「In2O3」という特定の酸化物を3つ選択し,これら酸化物から形成された化合物を活性層として用いることは,想定し得る多数の組合せの中から,わずか一つの化合物を選択することであり,この選択そのものが技術的思想の創作,すなわち,いわゆる「選択発明」と成り得る場合もありえるものである。 したがって,「Ga2O3,ZnO及びIn2O3から形成された化合物」が,組合せの上で,「Ga2O3,Bi2O3,SnO2,ZnO,Sb2O3,PbO,GeO2またはIn2O3,これら酸化物の混合物,またはGaInO3,ZnGa2O4,またはCdGa2O4のようなこれら酸化物から形成された化合物」に含まれるとしても,前記「Ga2O3,Bi2O3,SnO2,ZnO,Sb2O3,PbO,GeO2またはIn2O3,これら酸化物の混合物,またはGaInO3,ZnGa2O4,またはCdGa2O4のようなこれら酸化物から形成された化合物」との記載から,「Ga2O3,ZnO及びIn2O3から形成された化合物」を選択することに技術的な思想を要する場合があり得るのであるから,甲第1号証に,「Ga2O3,ZnO及びIn2O3から形成された化合物を活性層として用いる透明薄膜電界効果型トランジスタ。」という技術的思想が開示されていると認めることはできない。 そうすると,本件特許発明1と,引用発明1とが,「Ga2O3,ZnO及びIn2O3から形成された化合物を活性層として用いることを特徴とする透明薄膜電界効果型トランジスタ」の点で一致すると認めることはできない。 キ 以上のとおりであるから,無効理由1における,請求人の主張する,一致点の認定,及び,相違点の認定は,採用することはできない。 (3)相違点についての判断 上記で検討したように,無効理由1における,審判請求人の主張する,一致点の認定,及び,相違点の認定は,採用することができないから,審判請求書に記載された,審判請求人の主張する,一致点の認定,及び,相違点の認定を前提とした理由によっては,無効理由1を,理由があるものとすることはできない。 しかしながら,引用発明1において,上記相違点1について,無効理由1において証拠として示された甲第3号証~甲第14号証,甲第24号証,及び甲第28号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到し得た場合には,本件特許発明1には,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものとなるから,一応,この点について以下で検討する。 ・相違点1について ア 請求人は,審判請求書の9ページにおいて,「引用発明1において,『Ga2O3,ZnO及びIn2O3から形成された化合物』として,In,Ga及びZnの3つの金属を含む酸化物を用いることは,当業者であれば容易になし得るものであると認められる。なお,化合物の組成比を所望のものとすることは,Ga2O3,ZnO,及びIn2O3の混合比から適宜設定できる程度の事項である。 してみれば,引用発明1において,『Ga2O3,ZnO及びIn2O3から形成された化合物』として,『ホモロガス化合物InGaO3(ZnO)m(m=1以上50未満の整数)』を用いることは,当業者であれば容易に想到できたものであると認められる。」と主張する。 しかしながら,甲第1号証に記載された,「Ga2O3,Bi2O3,SnO2,ZnO,Sb2O3,PbO,GeO2またはIn2O3,これら酸化物の混合物,またはGaInO3,ZnGa2O4,またはCdGa2O4のようなこれら酸化物から形成された化合物」から,「In,Ga,Zn,の3つの金属を含む酸化物」を選択する動機を見いだすことはできないし,しかも,化合物の組成比を「ホモロガス化合物InGaO3(ZnO)m(m=1以上50未満の整数)」とすることが,適宜設定できるとする理由を見いだすこともできない。 したがって,相違点1は,引用発明1に基づいて容易に想到できたものではない。 イ すなわち,甲第1号証には,上記相違点1について,本件特許発明1の構成を採用することは開示されておらず,また,当該構成を採用することの動機付けを見いだすこともできない。 続いて,当業者が他の公知文献に基づいてこれを採用することが容易であるか否かを,以下で検討する。 ウ 甲第3号証には,次の記載がある。 (ア)記載事項 (甲3a)「要約 ZnO系のアモルファス透明導電体を作り出すことを目的として,さまざまなアモルファス膜InGaO3(ZnO)m(m≦4)をパルスレーザー蒸着法を用いて作製した。・・・キャリア密度は1019~1020cm-3であった。・・・。本系はZn4s軌道が広がった伝導帯を形成する初めてのアモルファス酸化物半導体である。」(訳文の1頁10行-26行) (甲3b)「InGaO3(ZnO)m膜では,mが5未満のときにアモルファス相が得られた。これらの膜は良好な透明性および導電性を示した。」(訳文の3ページ21-22行) (甲3c)「薄膜試料は,パルスレーザー蒸着法(PLD法)により作製した。In2O3,Ga2O3,およびZnOの粉末を用いて,従来のセラミックプロセスとその後のダイヤモンド研磨機を用いた研磨により,化学量論的組成を有する,高密度に焼成したInGaO3(ZnO)mの円板を,ターゲットとして用意した。」(訳文の4頁10行-13行) (甲3d)「表1は室温におけるアモルファスInGaO3(ZnO)m膜の電気輸送パラメータを示している。ドーピングは意図的に行わなかったが,移動度12~20cm2V-1s-1,キャリア密度1019~1020cm-3で170~400Scm-1の伝導率が得られた。おそらくO欠損の影響であると考えられる。」(訳文の10頁10行-13行) (イ)検討 上記(甲3a)-(甲3d)の記載によれば,甲第3号証には,アモルファスInGaO3(ZnO)m膜が記載されているとはいえるものの,前記アモルファスInGaO3(ZnO)m膜を,透明薄膜電界効果型トランジスタの活性層として用いることは,甲第3号証には記載も示唆もされていない。 エ 甲第4号証:特開2000-44236号公報には,次の記載がある。 (ア)記載事項 (甲4a)「本発明の製造方法においては,例えば,ターゲットとしてIn:Ga:Zn=1:1:1の焼結体を用いた場合,6.2×10-3[Ωcm]の薄膜を容易に得ることができる。この場合,高導電性の主因は非晶質物質にも関わらず移動度が10以上と高い値を示すことによる。また,ターゲットとしてZn成分を増加させたホモロガスIGZO InGaO3(ZnO)m(m:2以上の整数)の焼結体を用いた場合,4. 3×10-3[Ωcm]の抵抗率を有する薄膜を容易に得ることができる。この理由はキャリア濃度が指数関数的増大傾向を示すのに対し,移動度がほとんど変化しないことに起因する。」(【0034】) (甲4b)「ホモロガスInGaO3(ZnO)mの場合は,In2O3,Ga2O3,ZnOの各粉末を,含有金属の比率が1:1:m(mは2以上の整数)となるように秤量した。」(【0041】) (甲4c)「2.成膜 以下に実施例としてレーザーアブレーション法を用いる成膜法を示す。 実施例1 上で作成した焼結体のうち,In:Ga:Zn=1:1:1の焼結体の表面を研磨し,金属Inでインコネル製のホルダーに固定した。・・・ターゲットから30mm直上に10mm角で厚さ0.5mmの石英ガラス基板を設置し,膜厚が均等となるように自転させながら30分プルーム中に曝すことにより,約300nmの薄膜を得た。組成比は蛍光X線法により得た。膜が均一な非晶質であることはXRDより確認した(図1)。吸収端は試料の透過及び反射スペクトルから光学定数を計算することから求めた。電気特性はファンデアパウ法によるHall効果測定により求めた。」(【0042】) (甲4d)【0043】の表1には, 流量:15CCM(全圧0.6Pa)であるときに,抵抗率:6.5×10-3Ω・cm,キャリア密度:8.3×1019/cm3, 流量:20CCM(全圧0.8Pa)であるときに,抵抗率:6.2×10-3Ω・cm,キャリア密度:8.5×1019/cm3, 流量:25CCM(全圧1.0Pa)であるときに,抵抗率:8.8×10-3Ω・cm,キャリア密度:4.8×1019/cm3, であることが示されている。 (甲4e)「【図1】InGaZnO4で表される酸化物が生成していることを確認するXRDの結果。」(【図面の簡単な説明】) (イ)検討 上記(甲4a)-(甲4e)の記載によれば,甲第4号証には,非晶質のInGaZnO4膜が記載されているとはいえるものの,薄膜を,透明薄膜電界効果型トランジスタの活性層として用いることは,甲第4号証には記載も示唆もされていない。 オ 甲第5号証には,次の記載がある。 (ア)記載事項 (甲5a)「また,同様の観点から,YbFe2O4構造とそのホモロガス構造を持つ酸化物群が検討されている(表4・5)。YbFe2O4構造を持つInGaZnO4の場合には,Inを中心に持つ酸素八面体が互いに稜共有して平面上に広がったInO2層が伝導路となると考えられる(図4・55)・・・(中略)・・・InGaZnO4259),In2O3(ZnO)m(mは3以上の自然数)262)が良好な透明導電性を有することが確認されている。」(149ページ6行-150ページ6行) (イ)検討 上記(甲5a)の記載によれば,甲第5号証には,ホモロガス構造を持つInGaZnO4が記載されているとはいえるものの,前記ホモロガス構造を持つInGaZnO4を,透明薄膜電界効果型トランジスタの活性層として用いることは,甲第5号証には記載も示唆もされていない。 カ 甲第6号証:第47回応用物理学関係連合講演会講演予稿集,第2分冊,557ページ,28a-ZB-1に,「新しい型のアモルファス透明導電膜InGaO3(ZnO)m」(表題)との記載が, 甲第7号証:第48回応用物理学関連連合講演会講演予稿集,第2分冊,946ページ,29p-ZL-10に,「アモルファス透明導電性InGaO3(ZnO)m:Zn4s導電体」(表題)との記載があるが,いずれの膜も,導電膜であり,当該膜を,透明薄膜電界効果型トランジスタの活性層として用いることは記載も示唆もされていない。 キ 甲第8号証には,次の記載がある。 (ア)記載事項 (甲8a)「産業上の利用分野 本発明は光機能材料,半導体材料および触媒材料などとして有用な新規化合物であるInGaZn2O5で示される六方晶系の層状構造を有する化合物およびその製造法に関する。」(1ページ右下欄2行-6行) (甲8b)「この化合物は光機能材料,半導体材料及び触媒材料などとして有用なものである。例えば,蛍光体,半導体用の素子,等としての利用が挙げられる。 この化合物は次の方法によって製造し得られる。 金属インジウムあるいは酸化インジウムもしくは加熱により酸化インジウムに分解される化合物と,金属ガリウムあるいは酸化ガリウムもしくは加熱により酸化ガリウムに分解される化合物と,金属亜鉛あるいは酸化亜鉛もしくは加熱により酸化亜鉛に分解される化合物とを,In,Ga,Znの割合が原子比で1対1対2の割合で混合し,該混合物を600℃以上で,大気中,酸化性雰囲気中あるいはInおよびGaが各々3価状態,Znが2価状態より還元されない還元雰囲気中で加熱することによって製造することができる。・・・(中略)・・・得られたInGaZnMgO4化合物の粉末は無色で,X線回折法によって結晶構造を有することが分かった。・・・(中略)・・・得られた試料はInGaZn2O5単一相であった。粉末X線回折法によって・・・測定した。」(3ページ左欄1行-4ページ左上欄14行) (イ)検討 上記(甲8a)-(甲8b)の記載によれば,甲第8号証には,InGaZn2O5で示される六方晶系の層状構造を有する化合物の粉末が記載されているとはいえるものの,そもそも,前記化合物を薄膜として形成することは甲第8号証には記載されていない。 また,ホモロガス構造を持つInGaZnO4を,半導体用の素子に利用することは記載されているものの,これを特に透明薄膜電界効果型トランジスタの活性層として用いることは,甲第8号証には記載も示唆もされていない。 ク 甲第9号証(特開昭63-210022号公報), 甲第10号証(特開昭63-210023号公報), 甲第11号証(特開昭63-210024号公報), 甲第12号証(特開昭63-215519号公報),及び, 甲第13号証(特開昭63-265818号公報)においても,甲第8号証と同様に,六方晶系の層状構造を有する化合物の粉末が記載されているとはいえるものの,そもそも,前記化合物を薄膜として形成することはそれぞれの文献には記載されていない。 また,ホモロガス構造を持つInGaZnO4を,透明薄膜電界効果型トランジスタの活性層として用いることは,甲第9-13号証には記載も示唆もされていない。 ケ 甲第14号証:「ホモロガス相,InFeO3(ZnO)m(m:自然数)とその同型化合物の合成及び結晶構造」,固体物理,第28巻,第5号,p.317-327には,「2-2 実験方法 試料は,出発物質In2O3,M2O3およびZnO粉末を所定の混合比で混合したのち白金管内に封入し所定時間加熱後,急冷して得た。」(317ページ右欄11-14行),及び,「InGaO3(ZnO)m型のホモロガス相の固溶体が存在する」(319ページ左欄22行-23行)との記載があるが,甲第14号証には,前記固溶体を,透明薄膜電界効果型トランジスタの活性層として用いることは記載されておらず,そもそも,前記固溶体は粉体であるものが記載されているだけであって,前記固溶体を単結晶薄膜として作製する方法は記載されていない。 また,ホモロガス構造を持つInGaZnO4を,透明薄膜電界効果型トランジスタの活性層として用いることは,甲第14号証には記載も示唆もされていない。 コ 甲第24号証:第49回応用物理学関係連合講演会講演予稿集,第2分冊,628頁)には,「自然超格子InMO3(ZnO)m(M=In,Ga,m=自然数)単結晶薄膜の作製(I)」(30a-YA-1の表題),「超格子構造を有するInMO3(ZnO)m(M=In,Ga,m=自然数)は,ITOに代わる透明電極材料として提案されている。自然超格子を利用した変調ドーピングにより,一種のHEMT構造を作り込むことによって,電子移動度を低減することなく,電子濃度を増加させられれば,ITOを凌ぐ高い導電性が発現すると考えられてきた。」(1-6行)及び,「自然超格子InMO3(ZnO)m(M=In,Ga,m=自然数)単結晶薄膜の作製(II)」(30a-YA-2の表題)の記載がある。 しかしながら,甲第24号証には,自然超格子InMO3(ZnO)m(M=In,Ga,m=自然数)単結晶薄膜が記載されているとはいえるものの,甲第24号証では,前記自然超格子InMO3(ZnO)m(M=In,Ga,m=自然数)単結晶薄膜は,ITOに代わる透明電極材料として,ITOを凌ぐ高い導電性が発現する材料として提案されており,前記自然超格子InMO3(ZnO)m(M=In,Ga,m=自然数)単結晶薄膜を,透明薄膜電界効果型トランジスタの活性層として用いることは,甲第24号証には記載も示唆もされていない。 サ 甲第28号証には,次の記載がある。 (ア)記載事項 (甲28a)「In2O3-ZnGa2O4-ZnO系ホモロガス化合物,In2O3(ZnO)m(m=3,4,5),InGaO3(ZnO)3,及びGa2O3(ZnO)m(m=7,8,9,16)の合成と単結晶のデータ」(訳文の表題) (甲28b)「In2O3-ZnGa2O4-ZnO系ホモロガス化合物,In2O3(ZnO)m(m≧3),(InGaO3)2(ZnO),InGaO3(ZnO)m(m≧1)及びGa2O3(ZnO)m(m≧7)の相(m=自然数)を,In2O3,Ga2O3,及びZnOの粉末から1150~1550℃で合成した。温度を上昇させるとmの値がより小さいホモロガス化合物が合成される。In2O3(ZnO)m(m=3,4,5),InGaO3(ZnO)3,及びGa2O3(ZnO)m(m≧7,8,9,16)の単結晶は,粉末状出発材料の混合物中の固相反応によって成長した。出発材料の混合比はモル比でIn2O3:ZnO=1:m(1550℃),In2O3:Ga2O3:ZnO=1:1:6(1550℃),及びGa2O3:ZnO=1:m(1450~1550℃)とした。」(訳文の1ページ本文1行-8行) (甲28c)「序論 三酸化二インジウム(In2O3)は,透明導電性電極の作製に有用な化合物であり,酸化亜鉛(ZnO)はバリスターに用いられる。」(訳文の2ページ7-9行) (イ)検討 上記(甲28a)-(甲28c)の記載によれば,甲第28号証には,粉末状出発材料の混合物中の固相反応によって成長した,InGaO3(ZnO)3の単結晶が記載されているとはいえるものの,前記単結晶を薄膜として形成することは甲第28号証には記載されていない。 また,甲第28号証には,透明導電性電極の作製に有用な化合物との記載はあるが,前記単結晶を,透明薄膜電界効果型トランジスタの活性層として用いることは,甲第28号証には記載も示唆もされていない。 シ 小括 (ア)以上ア-サから,「ホモロガス化合物InMO3(ZnO)m(M=In,Fe,Ga,又はAl,m=1以上50未満の整数)」が,本件出願日前に知られていたことは認められる。 (イ)一方,上記摘記(甲1d)には,次の記載がある。 「可視光のエネルギーはほぼ2.5 eV以上のバンドギャップを有する半導体材料に電子-正孔対を形成するには不充分であるため,この可視光は半導体材料によっては吸収されない。本発明による縮退半導体材料は透明となる。その理由は可視光の吸収が大きなバンドギャップのために不可能であり,これと同時に不純物エネルギー準位のため可視光の吸収が生じないからである。加うるに,本発明半導体材料を設けたスイッチング素子は電荷キャリアの高移動度のため比較的迅速に作動する。 前記塩基性材料は非遷移金属の共有結合酸化物を具えるようにするのが好適である。かかる金属の酸化物およびかかる金属,例えば,Ga,Sn,Zn,Sb,Pb,GeおよびInの酸化物の化合物は,その移動度が10cm2/Vs以上であり,バンドギャップが2.5 eV以上である(例えば,J.Phys.Chem.Ref.Data,Vol.2,No.1,1973,P.163 ff.参照)。非遷移金属の一層イオン的な酸化物は塩基性材料としては好適ではない。その理由は電荷キャリアと結晶格子のイオンとの間に強い相互作用が働くからである。」 (ウ)そうすると,上記記載から,引用発明1において,透明薄膜電界効果型トランジスタの活性層として用いる薄膜を,「『伝導帯と2.5 eV以上の電子の価電子帯との間にバンドギャップを有し,塩基性材料の価電子帯または伝導帯に,あるいはこれに隣接する固定不純物エネルギー準位を形成するドーパント原子が設けられた10cm2/Vs以上の電荷キャリアの移動度を有する塩基性材料が設けられた縮退半導体材料』であり,かつ,『前記半導体材料である,0.03%のSnがドープされたIn2O3に対し,ドーパント原子を設けた非遷移金属の他の共有結合酸化物である,10cm2/Vs以上の移動度および2.5 eV以上のバンドギャップを有する,例えば,Ga2O3,Bi2O3,SnO2,ZnO,Sb2O3,PbO,GeO2またはIn2O3,これら酸化物の混合物,またはGaInO3,ZnGa2O4,またはCdGa2O4のようなこれら酸化物から形成された化合物を用いた』もの」としたことの技術的意義は,可視光のエネルギーがほぼ2.5 eV以上のバンドギャップを有する半導体材料に電子-正孔対を形成するには不充分であるため,この可視光は半導体材料によっては吸収されず,また,Ga,Sn,Zn,Sb,Pb,GeおよびInの酸化物の化合物の移動度が10cm2/Vs以上であり,電荷キャリアの高移動度のため比較的迅速に作動することにあると理解できる。 (エ)してみれば,引用発明1において,例示されている「Ga2O3,Bi2O3,SnO2,ZnO,Sb2O3,PbO,GeO2またはIn2O3,これら酸化物の混合物,またはGaInO3,ZnGa2O4,またはCdGa2O4のようなこれら酸化物から形成された化合物」のなかから,「0.03%のSnがドープされたIn2O3」の「In2O3」に替えて用いる化合物を選択する場合には,当該選択した化合物が,前記「可視光のエネルギーがほぼ2.5 eV以上のバンドギャップを有する半導体材料に電子-正孔対を形成するには不充分であるため,この可視光は半導体材料によっては吸収されず,また,Ga,Sn,Zn,Sb,Pb,GeおよびInの酸化物の化合物の移動度が10cm2/Vs以上であり,電荷キャリアの高移動度のため比較的迅速に作動すること」という性質において,優れていることを要するものと解される。 (オ)また,前記「(1)引用発明1」で検討したように,引用発明1は,「塩基性材料の価電子帯または伝導帯に,あるいはこれに隣接する固定不純物エネルギー準位を形成するドーパント原子が設けられた」ことを,発明特定事項として含むから,前記「0.03%のSnがドープされたIn2O3」の「In2O3」に替えて用いる化合物には,当該化合物にドープすることで,スイッチング素子の半導体材料として用いるに充分な高さの導電度を得ることができる「ドーパント原子」が知られていることを要するものと認められる。 (カ)そこで検討すると,「Ga2O3,Bi2O3,SnO2,ZnO,Sb2O3,PbO,GeO2またはIn2O3,これら酸化物の混合物,またはGaInO3,ZnGa2O4,またはCdGa2O4のようなこれら酸化物から形成された化合物」のなかから選択し得る,数多くの種類の化合物において,「ホモロガス化合物InMO3(ZnO)m(M=In,Fe,Ga,又はAl,m=1以上50未満の整数)(ただし,該薄膜がアモルファスホモロガス化合物である場合はm=1以上5未満の整数である)」が,「可視光のエネルギーがほぼ2.5 eV以上のバンドギャップを有する半導体材料に電子-正孔対を形成するには不充分であるため,この可視光は半導体材料によっては吸収されず,また,Ga,Sn,Zn,Sb,Pb,GeおよびInの酸化物の化合物の移動度が10cm2/Vs以上であり,電荷キャリアの高移動度のため比較的迅速に作動すること」という性質において,特に優れているとは,上記各甲号証のいずれの記載からも理解することはできない。 また,上記ア-サで検討したように,「ホモロガス化合物InMO3(ZnO)m(M=In,Fe,Ga,又はAl,m=1以上50未満の整数)(ただし,該薄膜がアモルファスホモロガス化合物である場合はm=1以上5未満の整数である)」を,透明薄膜電界効果型トランジスタの活性層として用いることは,上記各甲号証のいずれにも,記載も示唆もされていない。 さらに,「ホモロガス化合物InMO3(ZnO)m(M=In,Fe,Ga,又はAl,m=1以上50未満の整数)(ただし,該薄膜がアモルファスホモロガス化合物である場合はm=1以上5未満の整数である)」にドープすることで,スイッチング素子の半導体材料として用いるに充分な高さの導電度を得ることができる「ドーパント原子」が知られていたことも,上記各甲号証のいずれの記載からも理解することはできないし,技術常識であったとも認められない。 (キ)すなわち,引用発明1において,「Ga2O3,Bi2O3,SnO2,ZnO,Sb2O3,PbO,GeO2またはIn2O3,これら酸化物の混合物,またはGaInO3,ZnGa2O4,またはCdGa2O4のようなこれら酸化物から形成された化合物」から,「ホモロガス化合物InMO3(ZnO)m(M=In,Fe,Ga,又はAl,m=1以上50未満の整数)(ただし,該薄膜がアモルファスホモロガス化合物である場合はm=1以上5未満の整数である)」を,選択する動機を見いだすことはできないから,引用発明1の「0.03%のSnがドープされたIn2O3」の「In2O3」に替える化合物として,「ホモロガス化合物InMO3(ZnO)m(M=In,Fe,Ga,又はAl,m=1以上50未満の整数)(ただし,該薄膜がアモルファスホモロガス化合物である場合はm=1以上5未満の整数である)」を選択することが当業者にとって容易に想到し得たことであったとは認められない。しかも,「ホモロガス化合物InMO3(ZnO)m(M=In,Fe,Ga,又はAl,m=1以上50未満の整数)(ただし,該薄膜がアモルファスホモロガス化合物である場合はm=1以上5未満の整数である)」にドープすることで,スイッチング素子の半導体材料として用いるに充分な高さの導電度を得ることができる「ドーパント原子」が知られていたとは認められないから,引用発明1の「0.03%のSnがドープされたIn2O3」の「In2O3」に替える化合物として,「ホモロガス化合物InMO3(ZnO)m(M=In,Fe,Ga,又はAl,m=1以上50未満の整数)(ただし,該薄膜がアモルファスホモロガス化合物である場合はm=1以上5未満の整数である)」を選択することには阻害事由があるといえる。 (ク)また,甲第1号証には,スイッチング素子のチャネル領域が空乏化した際には接続電極間に200kΩ以上の抵抗が得られ,スイッチング素子が導通状態となると接続電極間の抵抗値はほぼ10kΩとなること(前記3(甲1e)),「オン/オフ比,即ちスイッチング素子のスイッチング中又はそうでない期間中の接続電極間の抵抗値の差」は,例えば半導体の種類を適合させることにより特殊な諸要求に適合させるべきこと(前記3(甲1h))が,記載されており,透明薄膜電界効果型トランジスタの活性層がスイッチング機能を果たすために適合したオン/オフ比を実現する半導体を選択することが記載されている。 すると,透明薄膜電界効果型トランジスタの活性層の半導体としては,単に導電性が高いだけでなく,適合したオン/オフ比を実現するものでなくてはならない一方で,「ホモロガス化合物InMO3(ZnO)m(M=In,Fe,Ga,又はAl,m=1以上50未満の整数)(ただし,該薄膜がアモルファスホモロガス化合物である場合はm=1以上5未満の整数である)」が適合したオン/オフ比を実現することを記載ないし示唆する証拠はない。 (ケ)したがって,上記(ア)で判断したように,「ホモロガス化合物InMO3(ZnO)m(M=In,Fe,Ga,又はAl,m=1以上50未満の整数)(ただし,該薄膜がアモルファスホモロガス化合物である場合はm=1以上5未満の整数である)」が,本件出願日前に知られていたことが認められるとしても,引用発明1において,「ホモロガス化合物InMO3(ZnO)m(M=In,Fe,Ga,又はAl,m=1以上50未満の整数)(ただし,該薄膜がアモルファスホモロガス化合物である場合はm=1以上5未満の整数である)」を用いる動機がなく,しかも,引用発明1において,「ホモロガス化合物InMO3(ZnO)m(M=In,Fe,Ga,又はAl,m=1以上50未満の整数)(ただし,該薄膜がアモルファスホモロガス化合物である場合はm=1以上5未満の整数である)」を用いることには阻害事由があると認められる。 そして,本件特許発明1は,透明薄膜電界効果型トランジスタの活性層として用いる薄膜を,「ホモロガス化合物InMO3(ZnO)m(M=In,Fe,Ga,又はAl,m=1以上50未満の整数)薄膜(ただし,該薄膜がアモルファスホモロガス化合物である場合はm=1以上5未満の整数である)」としたことにより,「波長400nm以上の可視光・赤外光に対して透明である」透明薄膜電界効果型トランジスタが得られるという効果を奏するといえる。 (コ)したがって,引用発明1において,本件特許発明1の相違点1に係る構成とすることは,当業者にとって容易に想到し得たものとはいえない。 ス さらに,「ホモロガス化合物InMO3(ZnO)m(M=In,Fe,Ga,又はAl,m=1以上50未満の整数)薄膜(ただし,該薄膜がアモルファスホモロガス化合物である場合はm=1以上5未満の整数である)」において,M=Inの場合について検討する。 (ア)甲第5号証には,「第4章 透明導電膜の材料にはどんなものがあるか 4・1 透明導電膜材料の特質 透明導電膜とは,・・・(中略)・・・電気伝導度が高い(比抵抗が約1×10-3Ω・cm以下)の二つの性質を併せ持つ薄膜のことである。・・・(中略)・・・ある程度十分な導電性を持つ代表的な電気伝導性酸化物薄膜としては・・・(中略)・・・In2O3-ZnO系12)などが報告されている。」(79頁1-20行),「In2O3-ZnO系」(80頁の表4・1),「In2O3(ZnO)5(バルク) 3.7×10-3Ω・cm」(149頁の表4・5),及び「焼結体試料を用いた実験により,In2O3(ZnO)m」のmの値を大きくするにつれて,ギャップ幅が広がり,抵抗率が増大することが示された。・・・(中略)・・・スパッタ膜で1.3×10-3Ω・cm・・・(中略)・・・という値が得られている。」(150頁6行-151頁4行)と記載されている。 (イ)甲第14号証には,「In2O3(ZnO)3,・・・(中略)・・・(格子定数は,粉末X線回折法により決定された値である。)」(321頁の第1表)と記載されている。 (ウ)甲第28号証には,「In2O3(ZnO)3」(表題の一部)と記載されている。 (エ)上記(ア)-(ウ)から,甲第5号証,甲第14号証及び甲第28号証には,In2O3(ZnO)mが記載されているとはいえる。 しかしながら,上記「シ 小括」で検討した理由は,「ホモロガス化合物InMO3(ZnO)m(M=In,Fe,Ga,又はAl,m=1以上50未満の整数)薄膜(ただし,該薄膜がアモルファスホモロガス化合物である場合はm=1以上5未満の整数である)」において,M=Inの場合においても妥当するから,引用発明1において,本件特許発明1の相違点1に係る構成とすることは,当業者にとって容易に想到し得たものとはいえない。 (オ)したがって,甲第5号証,甲第14号証及び甲第28号証に記載によっても,引用発明1において,本件特許発明1の相違点1に係る構成とすることは,当業者にとって容易に想到し得たものとはいえない。 セ また,審判請求人は,特願2007-502848号の審査経過を,甲第15号証-甲第23号証として示し,本件特許発明1等には,甲第15号証-甲第23号証に記載された上記出願の判断が同様に適用されるべきものである旨を主張するが,当該特願2007-502848号と,本件とは,発明を異にする別の出願であり,当合議体が,特願2007-502848号の審査経過における判断に拘束される理由はないから,本件特許発明1等には,甲第15号証-甲第23号証に記載された上記出願の判断が同様に適用されるべきものであるとする請求人の主張は採用し得ない。 5 本件特許発明2及び4について (ア)本件特許発明2及び4は,「第3 本件特許発明」で認めたとおりであり,再掲すると,以下のとおりである。 「【請求項2】 表面が原子レベルで平坦である単結晶又はアモルファスホモロガス化合物薄膜を用いることを特徴とする請求項1記載の透明薄膜電界効果型トランジスタ。」 「【請求項4】 ホモロガス化合物がガラス基板上に形成されたアモルファス薄膜であることを特徴とする請求項1記載の透明薄膜電界効果型トランジスタ。」 (イ)当審の判断 本件特許発明2及び4は,いずれも本件特許発明1に発明特定事項を追加して,より限定した発明である。 そして,上記「4 当審の判断」で検討したように,引用発明1において,本件特許発明1の相違点1に係る構成とすることは,当業者にとって容易に想到し得たものとはいえない。 そうすると,本件特許発明1に発明特定事項を追加して,より限定した発明である本件特許発明2及び4もまた同様に,当業者にとって容易に想到し得たものとはいえないものといえる。 6 無効理由1のまとめ 以上のとおりであるから,本件特許発明1,2及び4が,引用発明1に公知技術を適用して当業者が容易に想到することができたとはいえない。 よって,本件特許発明1,2及び4について,無効理由1は,理由がない。 第8 無効理由2について 1 最初に,本件特許発明1についての特許が,無効とすべきものであるかについて検討する。 2 本件特許発明1について 本件特許発明1は,上記「第3 本件特許発明」で認めたとおりである。 3 甲第1号証に記載された発明 甲第1号証に記載された発明は,上記「第7 無効理由1について 3 甲第1号証に記載された発明」で認めたとおりである。 4 当審の判断 (1)引用発明1 引用発明1は,上記「第7 無効理由1について 4 当審の判断 (1)引用発明1」で認めたとおりである。 (2)対比 本件特許発明1と,引用発明1との一致点,及び,相違点は,上記「第7 無効理由1について 4 当審の判断 (2)対比」で認めたとおりであり,再掲すると次のとおりである。 <一致点> 薄膜を活性層として用いる透明薄膜電界効果型トランジスタ。 <相違点> ・相違点1:透明薄膜電界効果型トランジスタの活性層として用いられる薄膜が,本件特許発明1では,「ホモロガス化合物InMO3(ZnO)m(M=In,Fe,Ga,又はAl,m=1以上50未満の整数)薄膜(ただし,該薄膜がアモルファスホモロガス化合物である場合はm=1以上5未満の整数である)」であるのに対して,引用発明1では,「『伝導帯と2.5 eV以上の電子の価電子帯との間にバンドギャップを有し,塩基性材料の価電子帯または伝導帯に,あるいはこれに隣接する固定不純物エネルギー準位を形成するドーパント原子が設けられた10cm2/Vs以上の電荷キャリアの移動度を有する塩基性材料が設けられた縮退半導体材料』であり,かつ,『前記半導体材料である,0.03%のSnがドープされたIn2O3に対し,ドーパント原子を設けた非遷移金属の他の共有結合酸化物である,10cm2/Vs以上の移動度および2.5 eV以上のバンドギャップを有する,例えば,Ga2O3,Bi2O3,SnO2,ZnO,Sb2O3,PbO,GeO2またはIn2O3,これら酸化物の混合物,またはGaInO3,ZnGa2O4,またはCdGa2O4のようなこれら酸化物から形成された化合物を用いた』もの」である点。 (3)相違点についての判断 上記「第7 無効理由1について 4 当審の判断 (2)対比」での検討と同様の理由により,無効理由2における,請求人の主張する,一致点の認定,及び,相違点の認定は,適切なものとは認められないが,引用発明1において,上記相違点1について,無効理由2において証拠として示された甲第3号証-甲第5号証,甲第8号証,甲第14号証,甲第24号証,及び甲第28号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到し得た場合には,本件特許発明1には,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものとなる。 そして,「第7 無効理由1について 4 当審の判断 (3)相違点についての判断」での検討と同様の理由により,上記相違点1に係る構成とすることは,甲第3号証-甲第5号証,甲第14号証,甲第24号証,及び甲第28号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到し得たものとはいえない。 そこで,相違点1に係る構成とすることが,甲第8号証に基づいて当業者が容易に想到し得たものであるかについて,以下,検討する。 ・相違点1について ア 甲第8号証には,上記「第7 無効理由1について 4 当審の判断 (3)相違点についての判断 相違点1について キ (ア)」に摘記した事項が記載されており,再掲すると次のとおりである。 (ア)記載事項 (再掲)(甲8a)「産業上の利用分野 本発明は光機能材料,半導体材料および触媒材料などとして有用な新規化合物であるInGaZn2O5で示される六方晶系の層状構造を有する化合物およびその製造法に関する」(1ページ右下2行-6行) (再掲)(甲8b)「この化合物は光機能材料,半導体材料及び触媒材料などとして有用なものである。例えば,蛍光体,半導体用の素子,等としての利用が挙げられる。 この化合物は次の方法によって製造し得られる。金属インジウムあるいは酸化インジウムもしくは加熱により酸化インジウムに分解される化合物と,金属ガリウムあるいは酸化ガリウムもしくは加熱により酸化ガリウムに分解される化合物と,金属亜鉛あるいは酸化亜鉛もしくは加熱により酸化亜鉛に分解される化合物とを,In,Ga,Znの割合が原子比で1対1対2の割合で混合し,該混合物を600℃以上で,大気中,酸化性雰囲気中あるいはInおよびGaが各々3価状態,Znが2価伏態より還元されない還元雰囲気中で加熱することによって製造することができる。・・・(中略)・・・得られたInGaZnMgO4化合物の粉末は無色で,X線回折法によって結晶構造を有することが分かった。・・・(中略)・・・得られた試料はInGaZn2O5単一相であった。粉末X線回折法によって・・・測定した。」(3ページ左欄1行-4ページ左上欄14行) (イ)検討 上記「第7 無効理由1について」において摘記した,甲第4号証,甲第5号証,甲第14号証及び甲第28号証の記載事項から,上記甲第8号証の「InGaZn2O5」が,ホモロガス化合物であると解され,また,上記(甲8a)-(甲8b)の記載によれば,甲第8号証には,酸化亜鉛(ZnO),酸化ガリウム(Ga2O3)及び酸化インジウム(In2O3)から形成された化合物InGaZn2O5が記載され,加えて,当該化合物が半導体材料として有用であること,及び半導体用の素子として利用することが記載されているとはいえるものの,そもそも,甲第8号証においては,当該InGaZn2O5化合物は粉末として得られているだけであって,前記化合物を単結晶薄膜として形成することは甲第8号証には記載されていない。 したがって,引用発明1において,「『伝導帯と2.5 eV以上の電子の価電子帯との間にバンドギャップを有し,塩基性材料の価電子帯または伝導帯に,あるいはこれに隣接する固定不純物エネルギー準位を形成するドーパント原子が設けられた10cm2/Vs以上の電荷キャリアの移動度を有する塩基性材料が設けられた縮退半導体材料』であり,かつ,『前記半導体材料である,0.03%のSnがドープされたIn2O3に対し,ドーパント原子を設けた非遷移金属の他の共有結合酸化物である,10cm2/Vs以上の移動度および2.5 eV以上のバンドギャップを有する,例えば,Ga2O3,Bi2O3,SnO2,ZnO,Sb2O3,PbO,GeO2またはIn2O3,これら酸化物の混合物,またはGaInO3,ZnGa2O4,またはCdGa2O4のようなこれら酸化物から形成された化合物を用いた』もの」に替えて,甲第8号証に記載された「InGaZn2O5」とすることは,当業者が容易に想到し得たことであるとは認められない。 請求人は,審判請求書27ページ10-20行において,「なお,本件特許発明1は物の発明ではあるが,作製方法に関する検討についても以下に補足する。甲第1号証には,化合物材料をレーザ堆積法又はMBE法などにより「チャネル領域となる層4」として堆積させることが記載されている(10頁23行-27行,17頁8行-12行)。また,InGaO3(ZnO)m膜を,本件特許明細書中に記載されたパルスレーザー蒸着法(PLD法)などで堆積させることは,甲第3号証(訳文の4頁2行-5行)又は甲第24号証(30a-YA-1,30a-YA-2)に記載のように,周知技術である。したがって,作製方法を鑑みても,本件特許発明1は当業者が容易に想到できたものと認められる。」と主張する。 しかしながら,甲第3号証,及び,甲第24号証において作製されているInGaO3(ZnO)m膜は,いずれも,透明電極材料として用いることが想定されているものといえる。 そうすると,仮に,甲第8号証に記載されたInGaZn2O5化合物を,粉末でなく薄膜とすることができたとしても,前記薄膜を,半導体用の素子として利用する場合には,せいぜい,半導体用の素子の透明電極材料として用いることが想定されるだけであって,前記薄膜を,透明薄膜電界効果型トランジスタの活性層として用いることにまで思い至るとはいうことはできない。 しかも,甲第8号証に記載された,「金属インジウムあるいは酸化インジウムもしくは加熱により酸化インジウムに分解される化合物と,金属ガリウムあるいは酸化ガリウムもしくは加熱により酸化ガリウムに分解される化合物と,金属亜鉛あるいは酸化亜鉛もしくは加熱により酸化亜鉛に分解される化合物とを,In,Ga,Znの割合が原子比で1対1対2の割合で混合し,該混合物を600℃以上で,大気中,酸化性雰囲気中あるいはInおよびGaが各々3価状態,Znが2価状態より還元されない還元雰囲気中で加熱することによって製造」した化合物を,仮に薄膜とすることができたとしても,当該化合物の電気的な特性は,甲第8号証の記載からは明らかではないから,当該化合物を,引用発明1の,「『伝導帯と2.5 eV以上の電子の価電子帯との間にバンドギャップを有し,塩基性材料の価電子帯または伝導帯に,あるいはこれに隣接する固定不純物エネルギー準位を形成するドーパント原子が設けられた10cm2/Vs以上の電荷キャリアの移動度を有する塩基性材料が設けられた縮退半導体材料』であり,かつ,『前記半導体材料である,0.03%のSnがドープされたIn2O3に対し,ドーパント原子を設けた非遷移金属の他の共有結合酸化物である,10cm2/Vs以上の移動度および2.5 eV以上のバンドギャップを有する,例えば,Ga2O3,Bi2O3,SnO2,ZnO,Sb2O3,PbO,GeO2またはIn2O3,これら酸化物の混合物,またはGaInO3,ZnGa2O4,またはCdGa2O4のようなこれら酸化物から形成された化合物を用いた』もの」として用いて,電荷キャリアの高移動度のため比較的迅速に作動する透明薄膜電界効果型トランジスタとなすことには,動機付けを見いだすことができない。 さらに,上記「無効理由1について」で検討したように,引用発明1において,透明薄膜電界効果型トランジスタの活性層として用いる薄膜を,「『伝導帯と2.5 eV以上の電子の価電子帯との間にバンドギャップを有し,塩基性材料の価電子帯または伝導帯に,あるいはこれに隣接する固定不純物エネルギー準位を形成するドーパント原子が設けられた10cm2/Vs以上の電荷キャリアの移動度を有する塩基性材料が設けられた縮退半導体材料』であり,かつ,『前記半導体材料である,0.03%のSnがドープされたIn2O3に対し,ドーパント原子を設けた非遷移金属の他の共有結合酸化物である,10cm2/Vs以上の移動度および2.5 eV以上のバンドギャップを有する,例えば,Ga2O3,Bi2O3,SnO2,ZnO,Sb2O3,PbO,GeO2またはIn2O3,これら酸化物の混合物,またはGaInO3,ZnGa2O4,またはCdGa2O4のようなこれら酸化物から形成された化合物を用いた』もの」としたことの技術的意義は,可視光のエネルギーがほぼ2.5 eV以上のバンドギャップを有する半導体材料に電子-正孔対を形成するには不充分であるため,この可視光は半導体材料によっては吸収されず,また,Ga,Sn,Zn,Sb,Pb,GeおよびInの酸化物の化合物の移動度が10cm2/Vs以上であり,電荷キャリアの高移動度のため比較的迅速に作動することにあると理解できるから,引用発明1において,例示されている「Ga2O3,Bi2O3,SnO2,ZnO,Sb2O3,PbO,GeO2またはIn2O3,これら酸化物の混合物,またはGaInO3,ZnGa2O4,またはCdGa2O4のようなこれら酸化物から形成された化合物」のなかから,「0.03%のSnがドープされたIn2O3」の「In2O3」に替えて用いる化合物を選択する場合には,当該選択した化合物が,前記「可視光のエネルギーがほぼ2.5 eV以上のバンドギャップを有する半導体材料に電子-正孔対を形成するには不充分であるため,この可視光は半導体材料によっては吸収されず,また,Ga,Sn,Zn,Sb,Pb,GeおよびInの酸化物の化合物の移動度が10cm2/Vs以上であり,電荷キャリアの高移動度のため比較的迅速に作動すること」という性質において,優れていることを要するとともに,さらに適合するオン/オフ比を実現するものであり,かつ,前記「0.03%のSnがドープされたIn2O3」の「In2O3」に替えて用いる化合物にドープすることで,スイッチング素子の半導体材料として用いるに充分な高さの導電度を得ることができる「ドーパント原子」が知られていることを要するものと認められる。 しかし,引用発明1において,「Ga2O3,Bi2O3,SnO2,ZnO,Sb2O3,PbO,GeO2またはIn2O3,これら酸化物の混合物,またはGaInO3,ZnGa2O4,またはCdGa2O4のようなこれら酸化物から形成された化合物」から,甲第8号証の「InGaZn2O5」を,特に選択する動機を見いだすことはできず,さらに,前記「InGaZn2O5」にドープすることで,スイッチング素子の半導体材料として用いるに充分な高さの導電度を得ることができる「ドーパント原子」が知られていたとは認められないから,「0.03%のSnがドープされたIn2O3」の「In2O3」に替える化合物として,甲第8号証の「InGaZn2O5」を選択することは,容易に想到し得たことではなく,しかも,阻害事由があるといえる。 そして,本件特許発明1は,透明薄膜電界効果型トランジスタの活性層として用いる薄膜を,「ホモロガス化合物InMO3(ZnO)m(M=In,Fe,Ga,又はAl,m=1以上50未満の整数)薄膜」としたことにより,「波長400nm以上の可視光・赤外光に対して透明である」透明薄膜電界効果型トランジスタが得られるという効果を奏するといえる。 したがって,引用発明1において,本件特許発明1の相違点1に係る構成とすることは,当業者にとって容易に想到し得たものとはいえない。 5 本件特許発明2及び4について (ア)本件特許発明2及び4は,上記「第3 本件特許発明」で認めたとおりである。 (イ)当審の判断 本件特許発明2及び4は,いずれも本件特許発明1に発明特定事項を追加して,より限定した発明である。 そして,上記「4 当審の判断」で検討したように,引用発明1において,本件特許発明1の相違点1に係る構成とすることは,当業者にとって容易に想到し得たものとはいえない。 そうすると,本件特許発明1に発明特定事項を追加して,より限定した発明である本件特許発明2及び4もまた同様に,当業者にとって容易に想到し得たものとはいえないものといえる。 6 無効理由2についてのまとめ 以上のとおりであるから,本件特許発明1,2及び4が,引用発明1に公知技術を適用して当業者が容易に想到することができたとはいえない。 よって,本件特許発明1,2及び4について,無効理由2は,理由がない。 第9 無効理由3について 1 最初に,本件特許発明1についての特許が,無効とすべきものであるかについて検討する。 2 本件特許発明1 本件特許発明1は,上記「第3 本件特許発明」で認めたとおりである。 3 甲第2号証に記載された発明 甲第2号証には,「薄膜トランジスタ」(発明の名称)に関して,図1-6とともに,以下の事項が記載されている。 (甲2a)「【発明が解決しようとする課題】しかしながら,上記従来の薄膜トランジスタにおいては,半導体活性層にアモルファスシリコンを用いていることから,半導体活性層に光が当たると導電性を持ってスイッチング素子の特性が劣化するという問題点があった。」(【0004】) (甲2b)「本発明は上記実情に鑑みて為されたもので,半導体層としてアモルファスシリコンよりバンドギャップの大きい透明材質の半導体を使うことで光に影響されず,更に開口率を増大させることができる薄膜トランジスタを提供することを目的とする。」(【0007】) (甲2c)「【課題を解決するための手段】上記従来例の問題点を解決するための請求項1記載の発明は,ゲート電極とゲート絶縁膜とソース電極とドレイン電極と半導体層とを有する薄膜トランジスタにおいて,前記半導体層の伝導帯と価電子帯とのエネルギバンドギャップが3eV以上で,前記半導体層を透光性膜としたことを特徴としている。」(【0008】) (甲2d)「【作用】請求項1記載の発明によれば,半導体層の伝導帯と価電子帯とのエネルギバンドギャップが3eV以上で,半導体層を透光性膜とした薄膜トランジスタとしているので,光が透過した場合でも導電性が変化しにくくなる。」(【0010】) (甲2e)「(中略)膜中の酸素濃度を調整し,半導体活性層8となるITO膜をスパッタリングにより500オングストローム程度着膜する。具体的には,着膜時の酸素ガス濃度を1%以上にしてスパッタリングを行うことで実現することができる。このとき,ITO膜のキャリア濃度が1018個・cm-3以下となれば,縮退が解け半導体としてのITO膜(半導体活性層8)が実現される。」(【0015】及び【0016】) (甲2f)「一般にITOなどの酸化物の透明導電膜は,膜中の酸素量を変化させることにより膜の導電率を変化させることができるものである。これは,化学量論的組成からのずれ(酸素欠損)によりキャリアが発生していることによる。」(【0019】) (甲2g)「ITO(Indium Tin Oxide)膜の電気抵抗率のスパッタ時での酸素濃度依存性は,図2に示すような特性をもっているので,Arガスと酸素ガスとを用いた反応性スパッタリングにおいて,酸素ガスの割合(O2/Ar+O2)を1%以上にすれば,ITO膜における電気抵抗率(ρ[Ω・cm])を増加させることができ,ITO膜の導電性を低下するように制御できるものである。」(【0020】) (甲2h)「実施例1の薄膜トランジスタによれば,従来透明電極として用いられていたITO膜の膜中の酸素量を増加させることにより,膜中のキャリア濃度を1018個・cm-3以下に制御して導電性を低下させ,半導体活性層8にITO膜を使用することで,光に影響されず,素子特性を向上できる効果がある。」(【0022】) 4 当審の判断 (1)引用発明2 上記摘記(甲2a)-(甲2h)の記載を総合すると,甲第2号証には,次の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。 「ゲ-ト電極とゲート絶縁膜とソ-ス電極とドレイン電極と半導体層とを有する薄膜トランジスタにおいて,前記半導体層のキャリア濃度が1018個・cm-3以下で,かつ前記半導体層を透光性膜としたことを特徴とする薄膜トランジスタにおいて, Arガスと酸素ガスとを用いた反応性スパッタリングにおいて,着膜時の酸素ガスの割合(O2/Ar+O2)を1%以上として,従来透明電極として用いられていた,酸化物の透明導電膜である,ITO(Indium Tin Oxide)膜の膜中の酸素量を増加させることで,着膜した前記ITO膜の化学量論的組成からのずれ(酸素欠損)により発生しているキャリアを減らして,前記ITO膜のキャリア濃度を1018個・cm-3以下に制御し,縮退を解いて導電性を低下させ,半導体としてのITO膜(半導体活性層)を実現した薄膜トランジスタ。」 なお,甲第2号証において,キャリア濃度を1018個・cm-3以下に制御し,縮退を解いて導電性を低下させ,半導体としての透光性膜が実現できたことを確認したのは,ITO膜に限られており,同号証に記載されていると認められる引用発明2はITO膜を用いたものに限られる。 (2)対比 本件特許発明1と引用発明2とを対比する。 ア 引用発明2における「ITO膜」が,「薄膜」であることは当業者にとって明らかである。 イ また,引用発明2における「薄膜トランジスタ」は,上記摘記(甲2c)を勘案すると,「電界効果型トランジスタ」であることは当業者にとって明らかである。さらに,引用発明2における「薄膜トランジスタ」は,上記摘記(甲2c),(甲2f),及び,(甲2h)を勘案すると,「ITO膜」を半導体活性層8に使用した薄膜トランジスタであるから,「透明薄膜トランジスタ」であることは当業者にとって明らかである。 すなわち,引用発明2における「薄膜トランジスタ」は,本件特許発明1における「透明薄膜電界効果型トランジスタ」に相当する。 したがって,上記ア,イを考慮すると,本件特許発明1と引用発明2との一致点及び相違点は次のとおりである。 <一致点> 「酸化物の透明薄膜を活性層として用いる透明薄膜電界効果型トランジスタ。」 <相違点> ・相違点2:透明薄膜電界効果型トランジスタの活性層として用いられる薄膜が,本件特許発明1では,「ホモロガス化合物InMO3(ZnO)m(M=In,Fe,Ga,又はAl,m=1以上50未満の整数)薄膜(ただし,該薄膜がアモルファスホモロガス化合物である場合はm=1以上5未満の整数である)」であるのに対して,引用発明2では,「「Arガスと酸素ガスとを用いた反応性スパッタリングにおいて,着膜時の酸素ガスの割合(O2/Ar+O2)を1%以上として,従来透明電極として用いられていた,酸化物の透明導電膜である,ITO(Indium Tin Oxide)膜の膜中の酸素量を増加させることで,着膜した前記ITO膜の化学量論的組成からのずれ(酸素欠損)により発生しているキャリアを減らして,前記ITO膜のキャリア濃度を1018個・cm-3以下に制御し,縮退を解いて導電性を低下させ」た半導体としてのITO膜(半導体活性層)」である点。 (3)相違点についての判断 ・相違点2について ア 記載事項 (ア)甲第3号証には,以下の事項が記載されている。 (甲3e)「アモルファス透明導電性酸化物 InGaO3(ZnO)m(m≦4):Zn4s導電体」(甲第3号証の訳文の表題) (再掲)(甲3d)「表1は室温におけるアモルファスInGaO3(ZnO)m膜の電気輸送パラメータを示している。ドーピングは意図的に行わなかったが,移動度12~20cm2V-1s-1,キャリア密度1019~1020cm-3で170~400Scm-1の伝導率が得られた。おそらくO欠損の影響であると考えられる。」(訳文の10頁10行-13行) (甲3f)「表1 アモルファスInGaO3(ZnO)m膜の光学的および電気的特性」(訳文の11頁の表1の表題) (甲3g)訳文の11ページの表1から,組成が,InGaO3(ZnO)であるアモルファス薄膜の電気的特性が,バンドギャップ:3.00eV,キャリア密度:0.77×1020cm-3,導電率:260Scm-1であることを読み取ることができる。 (イ)甲第5号証には,以下の事項が記載されている。 (再掲)(甲5a)「また,同様の観点から,YbFe2O4構造とそのホモロガス構造を持つ酸化物群が検討されている(表4・5)。YbFe2O4構造を持つInGaZnO4の場合には,Inを中心に持つ酸素八面体が互いに稜共有して平面上に広がったInO2層が伝導路となると考えられる(図4・55)・・・(中略)・・・InGaZnO4259),In2O3(ZnO)m(mは3以上の自然数)262)が良好な透明導電性を有することが確認されている。」(149ページ6行-150ページ6行) (甲5b)「ある程度十分な導電性を持つ代表的な電気伝導性酸化物薄膜としてはIn2O31),2),SnO23),4),ZnO5),6),CdO7),8),CdIn2O49),Cd2SnO410),11),Zn2SnO4,In2O3-ZnO系12)などが報告されている。これらの酸化物半導体は,3eV以上のバンドギャップを持つため,電子のバンド間遷移による光吸収は350~400nm以上のエネルギーである紫外領域で生じ可視光領域では生じない。可視域の光のエネルギーでは,価電子帯の電子をバンドギャップを超えて伝導帯まで励起するのに不十分だからである。そのため可視域で透明となる。」(79ページ下6行-80ページ1行) (甲5c)149ページの表4・5は,「透明導電性金属酸化物の結晶構造と電気的・光学的性質」を表題とする表であって,同表には,透明導電性金属酸化物の結晶構造と物質名について,結晶構造が「スピネル」の物質名として「CdIn2O4,MgIn2O4(バルク),MgIn2O4,MgIn2O4:H,MgIn2O4:Li,ZnGa2O4(バルク),CdGa2O4(バルク),Zn2SnO4」が,結晶構造が「YbFe2O4」の物質名として「InGaMgO4(バルク),InGaZnO4(バルク),InGaZnO4,In2O3(ZnO)3(バルク),In2O3(ZnO)5」が,結晶構造が「β-Ga2O3」の物質名として「Ga2O3(単結晶),GaInO3:Sn」が,結晶構造が「パイロクロア」の物質名として「AgSbO3,Cd2(1-x)Y2xSb2O7」が,結晶構造が「オリヴィン」の物質名として「Cd2GeO4,Cd2GeO4:In」が,結晶構造が「デラフォサイト」の物質名として「AgInO2」が,結晶構造が「Sr2PbO4」の物質名として「Cd2SnO4」が,結晶構造が「イルメナイト」の物質名として「CdSnO3」が,結晶構造が「Na2SiF6」の物質名として「In2TeO6」が,結晶構造が「ペロブスカイト」の物質名として「ZnSnO3」が,結晶構造が「その他」の物質名として「Zn2In2O5,Zn0.66In2O3.66,Zn1.2In1.9Sn0.1O4.25」が,それぞれ開示されるとともに,InGaZnO4(バルク)の電気的特性が,バンドギャップ:3.5eV,キャリヤ濃度:5.2×1019cm-3,抵抗率:7.3×10-3Ω・mであること,InGaZnO4の電気的特性が,バンドギャップ:3.5eV,キャリア密度:1.2×1020cm-3,抵抗率:2×10-3Ω・mであること,及び,In2O3(ZnO)5の電気的特性が,バンドギャップ:3.1eV,キャリア密度:1.9×1020cm-3,抵抗率:1.3×10-3Ω・mであることを読み取ることができる。 (ウ)甲第4号証には,以下の事項が記載されている。 (再掲)(甲4a)「本発明の製造方法においては,例えば,ターゲットとしてIn:Ga:Zn=1:1:1の焼結体を用いた場合,6.2×10-3[Ωcm]の薄膜を容易に得ることができる。この場合,高導電性の主因は非晶質物質にも関わらず移動度が10以上と高い値を示すことによる。また,ターゲットとしてZn成分を増加させたホモロガスIGZO InGaO3(ZnO)m(m:2以上の整数)の焼結体を用いた場合,4. 3×10-3[Ωcm]の抵抗率を有する薄膜を容易に得ることができる。この理由はキャリア濃度が指数関数的増大傾向を示すのに対し,移動度がほとんど変化しないことに起因する。」(【0034】) (再掲)(甲4b)「ホモロガスInGaO3(ZnO)mの場合は,In2O3,Ga2O3,ZnOの各粉末を,含有金属の比率が1:1:m(mは2以上の整数)となるように秤量した。」(【0041】) (再掲)(甲4c)「2.成膜 以下に実施例としてレーザーアブレーション法を用いる成膜法を示す。 実施例1 上で作成した焼結体のうち,In:Ga:Zn=1:1:1の焼結体の表面を研磨し,金属Inでインコネル製のホルダーに固定した。・・・ターゲットから30mm直上に10mm角で厚さ0.5mmの石英ガラス基板を設置し,膜厚が均等となるように自転させながら30分プルーム中に曝すことにより,約300nmの薄膜を得た。組成比は蛍光X線法により得た。膜が均一な非晶質であることはXRDより確認した(図1)。吸収端は試料の透過及び反射スペクトルから光学定数を計算することから求めた。電気特性はファンデアパウ法によるHall効果測定により求めた。」(【0042】) (再掲)(甲4d)【0043】の表1には, 流量:15CCM(全圧0.6Pa)であるときに,抵抗率:6.5×10-3Ω・cm,キャリア密度:8.3×1019/cm3, 流量:20CCM(全圧0.8Pa)であるときに,抵抗率:6.2×10-3Ω・cm,キャリア密度:8.5×1019/cm3, 流量:25CCM(全圧1.0Pa)であるときに,抵抗率:8.8×10-3Ω・cm,キャリア密度:4.8×1019/cm3, であることが示されている。 (再掲)(甲4e)「【図1】InGaZnO4で表される酸化物が生成していることを確認するXRDの結果。」(【図面の簡単な説明】) (エ)甲第14号証には,以下の事項が記載されている。 (甲14a)「InGaO3(ZnO)m型のホモロガス相の固溶体が存在する。」(319ページ左欄22行-23行) (オ)甲第28号証には,以下の事項が記載されている。 (再掲)(甲28a)「In2O3-ZnGa2O4-ZnO系ホモロガス化合物,In2O3(ZnO)m(m=3,4,5),InGaO3(ZnO)3,及びGa2O3(ZnO)m(m=7,8,9,16)の合成と単結晶のデータ」(訳文の表題) (再掲)(甲28b)「In2O3-ZnGa2O4-ZnO系ホモロガス化合物,In2O3(ZnO)m(m≧3),(InGaO3)2(ZnO),InGaO3(ZnO)m(m≧1)及びGa2O3(ZnO)m(m≧7)の相(m=自然数)を,In2O3,Ga2O3,及びZnOの粉末から1150~1550℃で合成した。温度を上昇させるとmの値がより小さいホモロガス化合物が合成される。In2O3(ZnO)m(m=3,4,5),InGaO3(ZnO)3,及びGa2O3(ZnO)m(m≧7,8,9,16)の単結晶は,粉末状出発材料の混合物中の固相反応によって成長した。出発材料の混合比はモル比でIn2O3:ZnO=1:m(1550℃),In2O3:Ga2O3:ZnO=1:1:6(1550℃),及びGa2O3:ZnO=1:m(1450~1550℃)とした。」(訳文の1ページ本文1行-8行) (カ)さらに,ITO膜以外の酸化物薄膜においても,酸素欠損量が導電率に寄与することは,以下に記載されている。 ・甲第2号証の(甲2f)(再掲)「一般にITOなどの酸化物の透明導電膜は,膜中の酸素量を変化させることにより膜の導電率を変化させることができるものである。これは,化学量論的組成からのずれ(酸素欠損)によりキャリアが発生していることによる。」(【0019】), ・甲第3号証の上記摘記(甲3c)(再掲)「表1は室温におけるアモルファスInGaO3(ZnO)m膜の電気輸送パラメータを示している。ドーピングは意図的に行わなかったが,移動度12~20cm2V-1s-1,キャリア密度1019~1020cm-3で170~400Scm-1の伝導率が得られた。おそらくO欠損の影響であると考えられる。」(訳文の10頁2行-5行), ・甲第29号証の「第1の態様の酸化物の具体例として,一般式In2 Ga2 ZnO7-d で表され,かつ酸素欠損量dが2.1×10-4~0.7の範囲である導電性酸化物を挙げることができる。酸素欠損量dが1×10-4未満では電気伝導率が低くなり過ぎて,実用的な導電性を得ることはできない。一方,酸素欠損量dが1を超えると可視光を吸収するようになることから,好ましくない。酸素欠損量dの範囲は,好ましくは7×10-3~0.7の範囲であり,より好ましくは7×10-2~0.7の範囲である。」(【0019】), 「一般式M(1)M(2)InO4 で表わされる本発明の導電性酸化物は,一般式Mga Zn1-a A1b Ga1-b InO4 で表すこともでき,式中aは0~1の範囲であり,bは0~1の範囲である。 Mga Zn1-a A1b Ga1-b InO4 で表わされる本発明の導電性酸化物の具体例としては,例えばMgA1InO4 ,ZnA1InO4 ,MgGaInO4 ,ZnGaInO4 ,Mga Zn1-a A1InO4 ,Mga Zn1-a GaInO4 ,MgA1b Ga1-b InO4 ,ZnA1b Ga1-b InO4 を挙げることができる。式中のa及びbは,導電性酸化物に要求される光学的特性及び導電性を考慮して,組成により適宜決定することができる。 上記の導電性酸化物は,酸素欠損量dが1.2×10-4~0.4の範囲である。この範囲の酸素欠損量であることで,電極等として良好に用いることができる材料を提供することができる。酸素欠損量dは,電気伝導性と透明性のバランスという観点からは,好ましくは4×10-3~0.4の範囲であり,より好ましくは4×10-2~0.4の範囲である。」(【0028】,【0029】), 「本発明の第2の態様の導電性酸化物 本発明の第2の態様の導電性酸化物において,一般式M(1)x M(2)y Inz O(x+3y/2+3z/2)-d の式中,M(1),M(2),比率(x:y)及び比率(z:y)については,前記本発明の第1の態様の導電性酸化物と同様である。さらに,本発明の第2の態様の導電性酸化物においては,M(1),M(2)及びInのうちの少なくとも1種の元素の一部が,他の元素で置換されており,M(1)と置換される元素は原子価が2価以上であり,M(2)及びInと置換される元素は原子価が3価以上である。M(1),M(2)及びInの少なくとも一つの元素の一部を他の元素と置換することにより,酸化物に電子を注入することができる。本発明の第2の態様の導電性酸化物では,酸素欠損を導入すること以外に,金属イオンの一部を別の金属イオンで置換することによりキャリア電子が伝導帯に注入されて,導電性を発現させることができる。 M(1)で表されるMg及びZnは,2価の元素であり,これらと置換可能な元素は,原子価が2価以上の元素である。原子価が高い元素程少量の置換で,より大きいキャリア注入量を与えることが可能である。置換可能な元素の原子価は通常2価,3価,4価,5価又は6価である。原子価が2価以上の元素としては,例えば,Be,Mg,Ca,Sr,Ba,Cd,Al,Si,Sc,Ti,V,Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Zn,Ga,Ge,Y,Zr,Nb,Mo,Tc,Ru,Rh,Pd,In,Sn,Sb,La,Ce,Pr,Nd,Pm,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Lu,Hf,Ta,W,Re,Os,Ir,Pt,Tl,Pb,Bi,Poを挙げることができる。 M(2)で表されるA1,Ga及びInは3価の元素であり,これらと置換可能な元素は,原子価が3価以上の元素である。原子価が高い元素程少量の置換で,より大きいキャリア注入量を与えることが可能である。置換可能な元素はの原子価は通常3価,4価,5価又は6価である。原子価が3価以上の元素としては,例えば,Al,Si,Sc,Ti,V,Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Ga,Ge,Y,Zr,Nb,Mo,Tc,Ru,Rh,Pd,In,Sn,Sb,La,Ce,Pr,Nd,Pm,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Lu,Hf,Ta,W,Re,Os,Ir,Pt,Tl,Pb,Bi,Poを挙げることができる。」(【0030】-【0032】) イ 検討 上記相違点2について検討する。 (ア)上記各甲号証の記載から,「ホモロガス化合物InMO3(ZnO)m(M=In,Fe,Ga,又はAl,m=1以上50未満の整数)」が,本件出願日前において,知られていたこと,及び,InGaO3(ZnO)mが高いキャリア密度を有することが認められる。 (イ)審判請求人は,審判請求書の36ページにおいて,「してみると,ITO膜と同様に,本件特許の出願時に酸化物の透明導電膜として知られていたホモロガス化合物InGaO3(ZnO)m(m≦4),ホモロガス化合物InGaZnO4やホモロガス化合物In2O3(ZnO)5においても,ITO膜と同様に,膜中の酸素量を増加させることにより膜中のキャリア濃度を1018個・cm-3以下に制御して導電性を低下させ,活性層に使用することは,当業者であれば容易に想到し得たものである。」と主張する。 (ウ)そこで,検討すると,上記摘記(甲5b)の「ある程度十分な導電性を持つ代表的な電気伝導性酸化物薄膜としてはIn2O31),2),SnO23),4),ZnO5),6),CdO7),8),CdIn2O49),Cd2SnO410),11),Zn2SnO4,In2O3-ZnO系12)などが報告されている。」との記載,及び,上記摘記(甲5c)の「透明導電性金属酸化物の結晶構造と電気的・光学的性質」を表題とする表に,結晶構造が「スピネル」の物質名として「CdIn2O4,MgIn2O4(バルク),MgIn2O4,MgIn2O4:H,MgIn2O4:Li,ZnGa2O4(バルク),CdGa2O4(バルク),Zn2SnO4」が,結晶構造が「YbFe2O4」の物質名として「InGaMgO4(バルク),InGaZnO4(バルク),InGaZnO4,In2O3(ZnO)3(バルク),In2O3(ZnO)5」が,結晶構造が「β-Ga2O3」の物質名として「Ga2O3(単結晶),GaInO3:Sn」が,結晶構造が「パイロクロア」の物質名として「AgSbO3,Cd2(1-x)Y2xSb2O7」が,結晶構造が「オリヴィン」の物質名として「Cd2GeO4,Cd2GeO4:In」が,結晶構造が「デラフォサイト」の物質名として「AgInO2」が,結晶構造が「Sr2PbO4」の物質名として「Cd2SnO4」が,結晶構造が「イルメナイト」の物質名として「CdSnO3」が,結晶構造が「Na2SiF6」の物質名として「In2TeO6」が,結晶構造が「ペロブスカイト」の物質名として「ZnSnO3」が,結晶構造が「その他」の物質名として「Zn2In2O5,Zn0.66In2O3.66,Zn1.2In1.9Sn0.1O4.25」が記載されていることからも明らかなように,本件出願日前において,透明導電性金属酸化物として,数多くの材料が知られていたといえる。 (エ)そうすると,ITO膜において,膜中の酸素量を増加させることで,化学量論的組成からのずれ(酸素欠損)により発生しているキャリアを減らして,キャリア濃度を1018個・cm-3以下に制御し,縮退を解いて導電性を低下させ,半導体を実現するという技術的思想が示されている引用発明2において,引用発明2で用いられている「ITO膜」に替えて使用しうる酸化物の透明導電膜としては,少なくとも,上記(ウ)に示された数多くの材料が選択肢として考えられる。すると,上記数多くの材料の中から,「ホモロガス化合物InMO3(ZnO)m(M=In,Fe,Ga,又はAl,m=1以上50未満の整数)薄膜(ただし,該薄膜がアモルファスホモロガス化合物である場合はm=1以上5未満の整数である)」を選択することは,前記ホモロガス化合物について,酸素量を相当程度増加させられること,そのことによりキャリア濃度を1018個・cm-3以下に制御できること及びそのキャリア濃度で縮退が解けることが当業者に明らかでないから,容易であるとはいえない。 したがって,引用発明2の「ITO膜」に替える材料として,「ホモロガス化合物InMO3(ZnO)m(M=In,Fe,Ga,又はAl,m=1以上50未満の整数)薄膜(ただし,該薄膜がアモルファスホモロガス化合物である場合はm=1以上5未満の整数である)」を用いることが容易であったとは認めることはできない。 (オ)したがって,引用発明2において,相違点2について,本件特許発明1の特定事項とすることは,当業者が容易になし得たこととはいえない。 5 本件特許発明2及び4について (ア)本件特許発明2及び4は,上記「第3 本件特許発明」で認めたとおりである。 (イ)当審の判断 本件特許発明2及び4は,いずれも本件特許発明1に発明特定事項を追加して,より限定した発明である。 そして,上記「4 当審の判断」で検討したように,引用発明2において,本件特許発明1の相違点2に係る構成とすることは,当業者にとって容易に想到し得たものとはいえない。 そうすると,本件特許発明1に発明特定事項を追加して,より限定した発明である本件特許発明2及び4もまた同様に,当業者にとって容易に想到し得たものとはいえないものといえる。 6 無効理由3のまとめ 以上のとおりであるから,本件特許発明1,2及び4が,引用発明2に公知技術を適用して当業者が容易に想到することができたとはいえない。 よって,本件特許発明1,2及び4について,無効理由3は,理由がない。 第10 無効理由4について 1 最初に,本件特許発明1についての特許が,無効とすべきものであるかについて検討する。 2 本件特許発明1について 本件特許発明1は,上記「第3 本件特許発明」で認めたとおりである。 3 甲第31号証に記載された発明 甲第31号証には,「自然超格子ホモロガス単結晶薄膜とその製造方法」(発明の名称)に関して,図1~4とともに,以下の事項が記載されている。 (甲31a)「【請求項1】 ZnOエピタキシャル薄膜上にエピタキシャル成長した式M1M2O3(ZnO)m(ただし,M1は,Ga,Fe,Sc,In,Lu,Yb,Tm,Er,Ho及びYのうち少なくとも1種類,M2は,Mn,Fe,Ga,In,Alのうち少なくとも1種類とし,mは,1を含む1以上の自然数)で表される複合酸化物からなることを特徴とする自然超格子ホモロガス単結晶薄膜。」(【特許請求の範囲】) (甲31b)「【請求項10】 請求項1ないし6のいずれかに記載のZnO複合酸化物単結晶薄膜を用いた光デバイス,X線光学デバイス,または電子デバイス。」【特許請求の範囲】 (甲31c)「【発明の属する技術分野】本発明は,自然超格子構造を有するZnO複合酸化物エピタキシャル単結晶薄膜,その製法および該単結晶薄膜を用いた光デバイス(発光ダイオード,レーザーダイオード),電子デバイス(共鳴トンネル効果による微分負性抵抗を利用した単安定-双安定転移論理素子デバイス,HEMT,FET),X線光学デバイス(軟X線反射ミラー)に関する。」(【0001】) (甲31d)「【発明が解決しようとする課題】上述のように,通信用および光デスク用半導体レーザー,HEMTなど高速電子デバイスには,化合物半導体超格子構造が用いられてバイスの波長は短波長化しており,GaN/InGaN/GaNの超格子やZnMgO/ZnO/ZnMgO超格子が提案され,一部実用化に至っている。」(【0014】) (甲31e)「従来,ホモロガス相M1M2O3(ZnO)m薄膜は,スパッタリングやPLD法により,高温に加熱した基板上に堆積させて製造されていた(H.Hiramatsu,W-S.Seo,and K.Koumoto,“Electrical and Optical Properties of Radio-Frequency-Sputtered Thin Films of (ZnO)5In2O3”,Chem.Mater.10,3033-3039 (1998).)。 しかし,こうした薄膜成長法でホモロガス相M1M2O3(ZnO)mを成長させると,蒸気圧の高いZnOの蒸発が顕著に起こり,組成が制御できないことに加え,均質な超格子が形成できない。配向膜の作製は可能であるが,超格子構造が乱れてしまうため,超格子構造から期待される量子サイズ効果は発現しないという問題があった。 【課題を解決するための手段】本発明では,こうした問題を解決するために,基体材料となるZnO単結晶あるいはZnOのエピタキシャル薄膜にLuやGaなどの元素を拡散させてホモロガスM1M2O3(ZnO)m薄膜相を作製し,更に,該薄膜相から単結晶膜を育成することを特徴とする。 すなわち,本発明は,ZnOエピタキシャル薄膜上にエピタキシャル成長した式M1M2O3(ZnO)m(ただし,M1は,Ga,Fe,Sc,In,Lu,Yb,Tm,Er,Ho及びYのうち少なくとも1種類,M2は,Mn,Fe,Ga,In,Alのうち少なくとも1種類とし,mは,1を含む1以上の自然数)で表される複合酸化物からなることを特徴とする自然超格子ホモロガス単結晶薄膜である。」(【0023】-【0026】) (甲31f)「また,本発明は,mの値の膜厚方向でのばらつきが,m±1以内である事を特徴とする上記のホモロガス単結晶薄膜である。また,本発明は,mの値が,膜厚方向に連続的に変化する事を特徴とする上記のホモロガス単結晶薄膜である。また,本発明は,原子レベルの表面平坦性を有し,該平坦面領域が,0.5μm×0.5μm以上であることを特徴とする上記のホモロガス単結晶薄膜である。」(【0029】) (甲31g)「得られたホモロガス相単結晶薄膜の表面は,多段テラス状のモルフォルジーを有している。その段差は,超格子の一層厚に対応している。また,テラスの表面は,一原子レベルの平坦性,いわゆる原子平坦面を有している。ホモロガス化合物では層厚が厚いので,テラスの幅を,基板結晶のテラス幅より大きくする事ができ,0.5ミクロンメートルより長くする事ができる。mの値が大きいホモロガス化合物薄膜では,原子平坦面の面積を更に大きくする事ができる。大面積の原子平坦面は,例えば,トンネル電子顕微鏡ないし光近接場顕微鏡で,DNAなどのバイオ化合物を観測する際の試料台として使用することができる。特に,ホモロガス化合物は,電気抵抗が小さいので,この目的に適している。」(【0035】) (甲31h)「【発明の実施の形態】原子平坦面を持つYSZ,Al2O3等の単結晶基板上に,MBE法,パルスレーザー蒸着法(PLD法)などにより,原子平坦面を有するZnO単結晶薄膜をエピタキシャル成長させる。 ZnO単結晶を用いる場合には該操作は必要ではない。次に,該ZnO薄膜またはZnO単結晶上に,M1M2O3(ZnO)nと記述される薄膜を,MBE法,パルスレーザー蒸着法(PLD法)などにより成長させる。」(【0036】) (甲31i)「得られた単結晶薄膜は,M2O1.5・ZnO層をM1O1.5層で挟んだ自然超格子構造とみなす事ができるので,M2O1.5・ZnO層に存在する電子に,量子サイズ効果が生じる。このため,得られた単結晶薄膜は,人工超格子構造と同様に,発光ダイオード,半導体レーザーなど光デバイス用材料,MOBILE,HEMT,FETなどの電子デバイス材料として使用する事ができる。また,得られたM1M2O3(ZnO)nでのM2O1.5・ZnO層の厚さは,0.5nm以上であれば0.27nm毎に制御できるので,X線を反射するミラー材料として使用する事ができる。」(【0043】) (甲31j)「【実施例】 以下に実施例を挙げて本発明を詳細に説明する。 実施例1 1. ZnO薄膜の作製 YSZ (111)単結晶基板(10mm□×0.5 mmt)上に,基板温度800℃でZnO薄膜を成長させた。PLD法により,酸素圧力3×10-3Paに設定した真空チャンバー中で,ZnO焼結体ターゲットにKrF(248nm)エキシマレーザーを照射してZnOを蒸発させ,800℃に加熱したYSZ (111)単結晶基板上に堆積速度2nm/minの条件で1時間薄膜成長を行った。X線反射率測定から求めたZnO薄膜の厚みは120nmであった。作製したZnO薄膜の結晶性をHRXRDにより評価したところ,YSZ(111)基板上にZnOは(0001)配向しており,そのチルト角は0.02~0.1度であった。In-plane測定によりエピタキシャル成長であることを確認した。エピタキシャル関係はZnO(11-20) // YSZ (1-10)であった。 2. LuGaO3(ZnO)9/ZnO積層薄膜の作製 作製したYSZ (111)上のZnO薄膜を基板として,基板温度600℃でLuGaO3(ZnO)9を成長させた。PLD法により,酸素圧力3×10-3Paに設定した真空チャンバー中で,LuGaO3(ZnO)9焼結体ターゲットにKrF(248nm)エキシマレーザーを照射してLuGaO3(ZnO)9を蒸発させ,600℃に加熱したYSZ (111)単結晶基板上に堆積速度2nm/minの条件で30分薄膜成長を行った。X線反射率測定からLuGaO3(ZnO)9薄膜の膜厚は60nmであることが分かった。作製したLuGaO3(ZnO)9薄膜はナノサイズの微結晶から成っており,XRD測定では結晶性を評価することができなかった。 3. LuGaO3(ZnO)17単結晶薄膜の作製 上記2で作製したLuGaO3(ZnO)9 / ZnO / YSZ積層薄膜上に,YSZ単結晶(10mm× 10mm×0.5mmt)を積層薄膜全体をカバーできるように被せた。さらに,蒸気圧の高いZnOの蒸発を抑制するため,カバーしたYSZ基板上にZnO粉末(平均粒径1mm)約2gをコーティングした。これをアルミナ製るつぼ(SSA-S)に入れて,ふたをして,大気中,1450℃で30分間加熱拡散処理を施した。加熱拡散処理終了後は室温まで炉内で冷却した。 4. LuGaO3(ZnO)17単結晶薄膜の結晶性 作製した単結晶薄膜の結晶性は高分解能X線回折(HRXRD,Rigaku製ATX-G,CuKa1)を用いて調べた。図1に,Out-of-plane XRDパターンを示す。LuGaO3(ZnO)17の(000l)面の強い回折ピークがYSZ(111)ピークとともに観測された。LuGaO3(ZnO)17 (0001) が YSZ (111)上に強く配向していることを示し,ロッキングカーブ測定からLuGaO3(ZnO)17 (0001)面のチルト角は0.1度であった。In-plane測定から作製したLuGaO3(ZnO)17薄膜はエピタキシャル成長していることが明らかになった。エピタキシャル関係は次の通りである。 LuGaO3(ZnO)17 (0001) // YSZ (111) LuGaO3(ZnO)17 (11-20) // YSZ (1-10)」(【0044】-【0047】) (甲31k)「【図3】図3は,実施例1で製造したホモロガス単結晶薄膜の10Kおよび300Kにおける光吸収スペクトルを示すグラフである。」(【図面の簡単な説明】)。 4 当審の判断 (1)先願発明 以上から,甲第31号証には,次の発明(以下「先願発明」という。)が記載されていると認められる。 「ZnOエピタキシャル薄膜上にエピタキシャル成長した式M1M2O3(ZnO)m(ただし,M1は,Ga,Fe,Sc,In,Lu,Yb,Tm,Er,Ho及びYのうち少なくとも1種類,M2は,Mn,Fe,Ga,In,Alのうち少なくとも1種類とし,mは,1を含む1以上の自然数)で表される複合酸化物からなることを特徴とする自然超格子ホモロガス単結晶薄膜を用いたHEMT,FETなどの電子デバイス。」 (2)対比 本件特許発明1と先願発明とを対比する。 ア 先願発明の「ZnOエピタキシャル薄膜上にエピタキシャル成長した式M1M2O3(ZnO)m(ただし,M1は,Ga,Fe,Sc,In,Lu,Yb,Tm,Er,Ho及びYのうち少なくとも1種類,M2は,Mn,Fe,Ga,In,Alのうち少なくとも1種類とし,mは,1を含む1以上の自然数)で表される複合酸化物からなることを特徴とする自然超格子ホモロガス単結晶薄膜」と,本件特許発明1の「ホモロガス化合物InMO3(ZnO)m(M=In,Fe,Ga,又はAl,m=1以上50未満の整数)薄膜(ただし,該薄膜がアモルファスホモロガス化合物である場合はm=1以上5未満の整数である)」とは,「ホモロガス化合物薄膜」である点で一致する。 イ 「HEMT」とは,「高電子移動度トランジスタ」の英字略語であり,「高電子移動度トランジスタ」とは,「化合物半導体ヘテロ接合で形成される2次元電子ガス層を電流チャネルして用いた高速電界効果トランジスタ。」(半導体用語大辞典,日刊工業新聞社)のことである。また,FETとは,「電界効果トランジスタ」英字略語である。 そうすると,先願発明の「HEMT,FETなどの電子デバイス」と,本件特許発明3の「透明薄膜電界効果型トランジスタ」とは,「電界効果型トランジスタ」である点で一致する したがって,上記ア-イを考慮すると,本件特許発明1と先願発明との一致点,及び,相違点は次のとおりである。 <一致点> ホモロガス化合物薄膜を用いた電界効果型トランジスタ。 <相違点> ・相違点3:本件特許発明1が,ホモロガス化合物薄膜を「活性層」として用いた電界効果型トランジスタであるのに対して,先願発明のHEMT,FETなどの電子デバイスは,ホモロガス化合物薄膜を,当該電子デバイスの,どの部材に用いているのか,明らかでない点。 ・相違点4:本件特許発明1が,「InMO3(ZnO)m(M=In,Fe,Ga,又はAl,m=1以上50未満の整数)薄膜(ただし,該薄膜がアモルファスホモロガス化合物である場合はm=1以上5未満の整数である)」を用いた「薄膜」電界効果型トランジスタであるのに対して,先願発明は,「ZnOエピタキシャル薄膜上にエピタキシャル成長した式M1M2O3(ZnO)m(ただし,M1は,Ga,Fe,Sc,In,Lu,Yb,Tm,Er,Ho及びYのうち少なくとも1種類,M2は,Mn,Fe,Ga,In,Alのうち少なくとも1種類とし,mは,1を含む1以上の自然数)で表される複合酸化物」を用いたHEMT,FETなどの電子デバイスである点。 ・相違点5:本件特許発明1が,「透明」薄膜電界効果型トランジスタであるのに対して,先願発明の,HEMT,FETなどの電子デバイスが,「透明」であるか明らかでない点。 (3)検討 ・相違点3について ア ホモロガス化合物薄膜を活性層として用いたHEMT,あるいは,ホモロガス化合物薄膜を活性層として用いたFETが,甲第31号証に記載されている,若しくは,甲第31号証に記載されているに等しい事項である,とは認めることができない。その理由は,以下のとおりである。 イ すなわち,特許法29条の2は,「当該特許出願の日の他の特許出願・・・の願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲・・・又は図面に記載された発明」と同一であるときは,特許を受けることができないと規定するものであるところ,上記「明細書,特許請求の範囲・・・又は図面」(以下「先願明細書等」という)に「物の発明」が記載されているというためには,同先願明細書等に当該物の発明の構成が開示されていることを要することはいうまでもなく,さらに,発明が技術的思想の創作であること(同法2条1項参照)にかんがみれば,当該「物の発明」の構成が開示されていることに止まらず,当該先願明細書等に接した当業者が,特別の思考を経ることなく,容易にその技術的思想を実施し得る程度に,当該発明の技術的思想が開示されていることを要するものというべきである。 そして,その技術的思想を容易に実施し得る程度に開示されているというためには,当該「物の発明」の「実施」にあたる,その物の「生産」,「使用」をする行為を容易になし得る程度の記載が,先願明細書等にあることを要するものと解される。 ウ 一方,甲第31号証には,上記摘記(甲31b)に「請求項1ないし6のいずれかに記載のZnO複合酸化物単結晶薄膜を用いた光デバイス,X線光学デバイス,または電子デバイス。」,上記摘記(甲31c)に「本発明は,自然超格子構造を有するZnO複合酸化物エピタキシャル単結晶薄膜,その製法および該単結晶薄膜を用いた光デバイス(発光ダイオード,レーザーダイオード),電子デバイス(共鳴トンネル効果による微分負性抵抗を利用した単安定-双安定転移論理素子デバイス,HEMT,FET),X線光学デバイス(軟X線反射ミラー)に関する。」,及び,上記摘記(甲31i)に「得られた単結晶薄膜は,M2O1.5・ZnO層をM1O1.5層で挟んだ自然超格子構造とみなす事ができるので,M2O1.5・ZnO層に存在する電子に,量子サイズ効果が生じる。このため,得られた単結晶薄膜は,人工超格子構造と同様に,発光ダイオード,半導体レーザーなど光デバイス用材料,MOBILE,HEMT,FETなどの電子デバイス材料として使用する事ができる。」ことが記載されている。 エ しかしながら,甲第31号証には,「ZnOエピタキシャル薄膜上にエピタキシャル成長した式M1M2O3(ZnO)m(ただし,M1は,Ga,Fe,Sc,In,Lu,Yb,Tm,Er,Ho及びYのうち少なくとも1種類,M2は,Mn,Fe,Ga,In,Alのうち少なくとも1種類とし,mは,1を含む1以上の自然数)で表される複合酸化物からなることを特徴とする自然超格子ホモロガス単結晶薄膜」を,電子デバイスであるHEMT,あるいは,FETの,どの箇所に,どのようにして用いるかについての,何らの具体的な記載を見いだすことはできない。 すなわち,甲第31号証には,ホモロガス化合物薄膜を活性層として用いた電界効果型トランジスタは,記載されていない。 オ 続いて,甲第31号証に,ホモロガス化合物薄膜を活性層として用いた電界効果型トランジスタが,記載されているに等しい事項であるといえるかについて検討する。 請求人が提出した,甲第33号証(半導体超格子入門)には,以下の事項が記載されている。 (甲33a)「まずGaAs/GaAlAsで代表されるタイプIの超格子では,電子および正孔ともにバンドギャップの小さい半導体内に閉じ込められる構造となっている。・・・図3.2(b)では,n型不純物が一様にドーピングされている。・・・一方,GaAsにはドーピングせずに,GaAlAsのみにドーピングを施した場合のポテンシャル分布を図3.2(c)に示す。この場合にはGaAlAsにドープされた不純物より励起された電子がGaAsに閉じ込められ空間電荷を形成する。このように,超格子系ではGaAlAsのみにドーピングを行っても,GaAs層に伝導電子を発生させることが可能で有る。特に空間電荷のためにGaAs内の電子は接合面付近に強く引き付けられており,接合に垂直な方向に量子化されている。このような電子を2次元電子ガス(2DEG)とよぶ。また,この場合,イオン化した不純物と電子が分離されるため,電子移動度に及ぼす不純物散乱の影響が小さくなる。特にGaAs層が厚くなったものは,HEMT(High Electron Mobility Transistor)などに用いられている。」(59ページ18行-61ページ7行) そうすると,上記摘記(甲33a)から,GaAs/GaAlAsの超格子では,GaAlAsのみにドーピングを行うと,GaAs層に2次元電子ガスとよばれる伝導電子を発生させることが可能で有り,この場合,イオン化した不純物と電子が分離されるため,電子移動度に及ぼす不純物散乱の影響が小さくなるので,特にGaAs層が厚くなったものは,HEMTなどに用いられていることが,本件特許の出願時に周知の事項であったと解する余地はあるといえる。 しかしながら,先願発明の「ZnOエピタキシャル薄膜上にエピタキシャル成長した式M1M2O3(ZnO)m(ただし,M1は,Ga,Fe,Sc,In,Lu,Yb,Tm,Er,Ho及びYのうち少なくとも1種類,M2は,Mn,Fe,Ga,In,Alのうち少なくとも1種類とし,mは,1を含む1以上の自然数)で表される複合酸化物からなることを特徴とする自然超格子ホモロガス単結晶薄膜」について,前記自然超格子のいずれかの層にドーピングをして,他の層に2次元電子ガスとよばれる伝導電子を発生させることが可能である不純物は,先願明細書等には開示されておらず,また,本件特許の出願時において,周知で有ったとも認められない。 そうすると,仮に,甲33号証から,GaAs/GaAlAsの超格子では,GaAlAsのみにドーピングを行うと,GaAs層に2次元電子ガスとよばれる伝導電子を発生させることが可能で有り,この場合,イオン化した不純物と電子が分離されるため,電子移動度に及ぼす不純物散乱の影響が小さくなるので,特にGaAs層が厚くなったものは,HEMTなどに用いられていることが,本件特許の出願時に周知の事項であったと解することができたとしても,「ZnOエピタキシャル薄膜上にエピタキシャル成長した式M1M2O3(ZnO)m(ただし,M1は,Ga,Fe,Sc,In,Lu,Yb,Tm,Er,Ho及びYのうち少なくとも1種類,M2は,Mn,Fe,Ga,In,Alのうち少なくとも1種類とし,mは,1を含む1以上の自然数)で表される複合酸化物からなることを特徴とする自然超格子ホモロガス単結晶薄膜」にドープすることで,2次元電子ガスとよばれる伝導電子を発生させて,イオン化した不純物と電子を分離し,電子移動度に及ぼす不純物散乱の影響を小さくすることができる不純物が明らかでないのであるから,甲第31号証に接した当業者が,特別の思考を経ることなく,容易に,「ZnOエピタキシャル薄膜上にエピタキシャル成長した式M1M2O3(ZnO)m(ただし,M1は,Ga,Fe,Sc,In,Lu,Yb,Tm,Er,Ho及びYのうち少なくとも1種類,M2は,Mn,Fe,Ga,In,Alのうち少なくとも1種類とし,mは,1を含む1以上の自然数)で表される複合酸化物からなることを特徴とする自然超格子ホモロガス単結晶薄膜」を活性層として用いたHEMTを生産し,使用することができるとは認めることはできない。 カ また,請求人が提出した,甲第34号証(超格子ヘテロ構造デバイス)には,以下の事項が記載されている。 (甲34a)「残留不純物の低減は,・・・変調ドーピングによる高移動度化の実現(1978年)13)を可能にし,さらにこの概念はn-AlGaAs/GaAs単一ヘテロ構造へ拡張され14),高電子移動度トランジスタ(HEMT)15)の実現に応用されている。」(208頁11行-14行) しかしながら,前記(甲34a)に記載されているのは,「n-AlGaAs/GaAs単一ヘテロ構造」であり,先願発明の「ZnOエピタキシャル薄膜上にエピタキシャル成長した式M1M2O3(ZnO)m(ただし,M1は,Ga,Fe,Sc,In,Lu,Yb,Tm,Er,Ho及びYのうち少なくとも1種類,M2は,Mn,Fe,Ga,In,Alのうち少なくとも1種類とし,mは,1を含む1以上の自然数)で表される複合酸化物からなることを特徴とする自然超格子」とは,構造も組成も異なり,さらに,(甲34a)の記載は,「残留不純物の低減」が,「高電子移動度トランジスタ(HEMT)15)の実現」の前提となっているところ,先願発明において,当該必要とされている「残留不純物の低減」がなされていることが明らかであるということもできない。 そうすると,甲第34号証の記載に照らしても,甲第31号証に接した当業者が,特別の思考を経ることなく,容易に,「ZnOエピタキシャル薄膜上にエピタキシャル成長した式M1M2O3(ZnO)m(ただし,M1は,Ga,Fe,Sc,In,Lu,Yb,Tm,Er,Ho及びYのうち少なくとも1種類,M2は,Mn,Fe,Ga,In,Alのうち少なくとも1種類とし,mは,1を含む1以上の自然数)で表される複合酸化物からなることを特徴とする自然超格子ホモロガス単結晶薄膜」を活性層として用いたHEMTを生産し,使用することができるとは認めることはできない。 キ さらに,審判請求人は,審判請求書において,甲第31号証に,「ZnOエピタキシャル薄膜上にエピタキシャル成長した式M1M2O3(ZnO)m(ただし,M1は,Ga,Fe,Sc,In,Lu,Yb,Tm,Er,Ho及びYのうち少なくとも1種類,M2は,Mn,Fe,Ga,In,Alのうち少なくとも1種類とし,mは,1を含む1以上の自然数)で表される複合酸化物からなることを特徴とする自然超格子ホモロガス単結晶薄膜を用いたFET」という発明が記載されていることについては,具体的な主張をしていない。 そして,FETに,「ZnOエピタキシャル薄膜上にエピタキシャル成長した式M1M2O3(ZnO)m(ただし,M1は,Ga,Fe,Sc,In,Lu,Yb,Tm,Er,Ho及びYのうち少なくとも1種類,M2は,Mn,Fe,Ga,In,Alのうち少なくとも1種類とし,mは,1を含む1以上の自然数)で表される複合酸化物からなることを特徴とする自然超格子ホモロガス単結晶薄膜」を用いることが,本件特許の出願時において周知であったとは認められない。 しかも,FETとは,「電界効果トランジスタ」の英字略語(半導体用語大辞典,日刊工業新聞社)であるところ,当該「電界効果トランジスタ」は,「薄膜電界効果型トランジスタ」を含む上位概念であり,薄膜を活性層として用いる「薄膜電界効果型トランジスタ」以外のトランジスタを含む概念であるから,「ZnOエピタキシャル薄膜上にエピタキシャル成長した式M1M2O3(ZnO)m(ただし,M1は,Ga,Fe,Sc,In,Lu,Yb,Tm,Er,Ho及びYのうち少なくとも1種類,M2は,Mn,Fe,Ga,In,Alのうち少なくとも1種類とし,mは,1を含む1以上の自然数)で表される複合酸化物からなることを特徴とする自然超格子ホモロガス単結晶薄膜を用いたFET」の発明が周知なものであることが,直ちに,「ZnOエピタキシャル薄膜上にエピタキシャル成長した式M1M2O3(ZnO)m(ただし,M1は,Ga,Fe,Sc,In,Lu,Yb,Tm,Er,Ho及びYのうち少なくとも1種類,M2は,Mn,Fe,Ga,In,Alのうち少なくとも1種類とし,mは,1を含む1以上の自然数)で表される複合酸化物からなることを特徴とする自然超格子ホモロガス単結晶薄膜を,活性層として用いる薄膜電界効果型トランジスタ」が周知であることを意味するものでないことは明らかである。 むしろ,甲第24号証の「超格子構造を有するInMO3(ZnO)m(M=In,Ga,m=自然数)は,ITOに代わる透明電極材料として提案されている。自然超格子を利用した変調ドーピングにより,一種のHEMT構造を作り込むことによって,電子移動度を低減することなく,電子濃度を増加させられれば,ITOを凌ぐ高い導電性が発現すると考えられてきた。」(1-6行)等の記載から認めることができる,本件の出願前における周知事項を前提として判断をすると,甲第31号証の上記摘記(甲31g)の「特に,ホモロガス化合物は,電気抵抗が小さいので,この目的に適している。」との記載を有する先願明細書等に記載された,甲第31号証の上記摘記(甲31i)の「FETなどの電子デバイス材料として使用する事ができる。」との記載は,前記「ZnOエピタキシャル薄膜上にエピタキシャル成長した式M1M2O3(ZnO)m(ただし,M1は,Ga,Fe,Sc,In,Lu,Yb,Tm,Er,Ho及びYのうち少なくとも1種類,M2は,Mn,Fe,Ga,In,Alのうち少なくとも1種類とし,mは,1を含む1以上の自然数)で表される複合酸化物からなることを特徴とする自然超格子ホモロガス単結晶薄膜」を,ITOを凌ぐ高い導電性が発現する透明電極材料として,FETなどの電子デバイス材料として使用することができることを開示しているものと理解することが自然であるとも解されるものである。 ク 以上,ウ-キのとおりであるから,ホモロガス化合物薄膜を活性層として用いたHEMT,あるいは,ホモロガス化合物薄膜を活性層として用いたFETが,甲第31号証に記載されている,あるいは,記載されているに等しい事項であるとはいえない。 すなわち,ホモロガス単結晶薄膜を活性層として用いた電界効果型トランジスタは,甲第31号証に記載,若しくは,記載されているに等しい事項であるとは認めることができない。 したがって,相違点3は,実質的なものである。 ・相違点4について ア 特許法29条の2における,他の出願の当初明細書等に記載された発明とは,他の出願の当初明細書等に記載されている事項,及び,他の出願の当初明細書等に記載されているに等しい事項から当業者が把握できる発明をいうところ,他の出願の当初明細書等にマーカッシュ形式で記載された選択肢の一部のみを発明特定事項として有する発明が,他の出願の当初明細書等に記載された発明であるといえるためには,当該マーカッシュ形式で記載された選択肢の一部のみを発明特定事項として有する発明が,他の出願の当初明細書等に記載されている事項,及び,他の出願の当初明細書等に記載されているに等しい事項から当業者が把握できることを要するものというべきである。 イ そして,本件特許発明1において,電界効果型トランジスタの活性層として,InMO3(ZnO)m(M=In,Fe,Ga,又はAl,m=1以上50未満の整数)薄膜(ただし,該薄膜がアモルファスホモロガス化合物である場合はm=1以上5未満の整数である)を用いたことの技術的意義が,「波長400nm以上の可視光・赤外光に対して透明である」透明薄膜電界効果型トランジスタが得られるということにあることは,前記「第7 無効理由1について 4 当審の判断 (3)相違点についての判断・相違点1について シ(ク)」において検討したとおりである。 ウ 一方,甲第31号証には,上記摘記(甲31g)に「特に,ホモロガス化合物は,電気抵抗が小さいので,この目的に適している。」と記載されているだけであって,「波長400nm以上の可視光・赤外光に対して透明である」ことは,記載も示唆もされていない。 エ すなわち,InMO3(ZnO)m(M=In,Fe,Ga,又はAl,m=1以上50未満の整数)(ただし,該薄膜がアモルファスホモロガス化合物である場合はm=1以上5未満の整数である)は,式M1M2O3(ZnO)m(ただし,M1は,Ga,Fe,Sc,In,Lu,Yb,Tm,Er,Ho及びYのうち少なくとも1種類,M2は,Mn,Fe,Ga,In,Alのうち少なくとも1種類とし,mは,1を含む1以上の自然数)で表される複合酸化物の一部であると認められるものの,当該選択肢の一部である,InMO3(ZnO)m(M=In,Fe,Ga,又はAl,m=1以上50未満の整数)(ただし,該薄膜がアモルファスホモロガス化合物である場合はm=1以上5未満の整数である)を発明特定事項とする発明を,甲第31号証の記載から把握することはできない。 したがって,上記相違点4は,実質的なものである。 ・相違点5について 甲第31号証に,「透明」薄膜電界効果型トランジスタに係る発明が記載されているとは認められない。 すなわち,「ZnOエピタキシャル薄膜上にエピタキシャル成長した式M1M2O3(ZnO)m(ただし,M1は,Ga,Fe,Sc,In,Lu,Yb,Tm,Er,Ho及びYのうち少なくとも1種類,M2は,Mn,Fe,Ga,In,Alのうち少なくとも1種類とし,mは,1を含む1以上の自然数)で表される複合酸化物」に含まれる一部の複合酸化物が「透明」であるとしても,当該複合酸化物に含まれる全ての組合せにおいて「透明」であることは示されていない。 したがって,甲第31号証の記載から,「透明」薄膜電界効果型トランジスタという発明を把握することもできない。 さらに,先願発明のHEMT,あるいは,FETが,「透明」薄膜電界効果型トランジスタであるとする特段の事情を認めることもできないから,甲第31号証に,「透明」薄膜電界効果型トランジスタが記載,若しくは,記載されているに等しい事項であるとは認めることはできない。 したがって,相違点5は,実質的なものである。 (4)むすび そうすると,上記相違点3-5は,いずれも実質的なものであるから,本件特許発明1が,甲第31号証に記載されているとは認めることはできない。 5 本件特許発明2について (ア)本件特許発明2は,上記「第3 本件特許発明」で認めたとおりである。 (イ)当審の判断 本件特許発明2は,いずれも本件特許発明1に発明特定事項を追加して,より限定した発明である。 そして,上記「4 当審の判断」で検討したように,本件特許発明1が,甲第31号証に記載されているとは認めることはできない。 そうすると,本件特許発明1に発明特定事項を追加して,より限定した発明である本件特許発明2もまた同様に,甲第31号証に記載されているとは認めることはできない。 6 無効理由4のまとめ 本件特許発明1及び2は,甲第31号証に記載の発明と同一であるとはいえない。 よって,本件特許発明1及び2について,無効理由4は,理由がない。 第11 無効理由6について 1 最初に,本件特許の請求項1に係る発明についての特許が,無効とすべきものであるかについて検討する。 2 審判請求書及び弁駁書の記載によれば,無効理由6のうち,本件特許発明1についての具体的理由は,略以下のとおりのものと認められる。 (1)本件特許明細書の【0002】,【0003】の記載をみると,現在実用化されているシリコンを用いた電界効果型トランジスタでは,可視光に対して透明回路を構成することができないという問題があった。 本件特許明細書の【0004】をみると,当該問題は,シリコンよりもエネルギーバンド幅の大きな半導体材料を用いることで,原理的に解決することができることがわかっていた。そして透明酸化物半導体であるZnOを用いて,電界効果型トランジスタを作製する試みがなされていた。 しかしZnOは,電気伝導度を小さくすることが難しく,ノーマリーオフの電界効果型トランジスタを構成できないという課題があった。またZnOはアモルファス状態を作り難く,大面積に適した実用的なアモルファストランジスタを作製することができないという課題があった。 以上の記載より,本件発明の課題は, 課題1 ZnOに代わる透明酸化物半導体を用いて,ノーマリーオフの電界効果型トランジスタを提供すること, 課題2 ZnOに代わる透明酸化物半導体を用いて,大面積に適した実用的なアモルファストランジスタを提供すること, であるといえる。 (2)そして,上記課題1について,発明の詳細な説明の記載をみると,YSZなどの酸化物単結晶基板上のZnOエピタキシャル薄膜上に,高温である800℃以上,1600℃以下で反応性固相エピタキシャル成長させて形成したホモロガス化合物InMO3(ZnO)m(M=In,Fe,Ga,又はAl,m=1以上50未満の整数)単結晶薄膜を,活性層に用いると,ノーマリーオフの透明薄膜電界効果型トランジスタを得ることができると認識できる(以下,YSZなどの酸化物単結晶基板上のZnOエピタキシャル薄膜上に,高温である800℃以上,1600℃以下で反応性固相工ピタキシャル成長させることを,「高温で反応性固相エピタキシャル成長させる」という)。 しかし発明の詳細な説明には,高温で反応性固相エピタキシャル成長させていないホモロガス化合物単結晶薄膜を,活性層に用いた場合,ノーマリーオフになるという記載はない。 してみると,当業者が課題1を解決できると認識できる範囲は,高温で反応性固相エピタキシャル成長させたホモロガス化合物単結晶薄膜を,活性層に用いた場合のみである。 (3)すなわち,本件特許明細書の発明の詳細な説明及び図面の記載に接した当業者は,高温で反応性固相エピタキシャル成長させて形成したホモロガス化合物InMO3(ZnO)m(M=In,Fe,Ga,又はAl,m=l以上50未満の整数)単結晶薄膜を,活性層に用いると,ノーマリーオフの透明薄膜電界効果型トランジスタを得ることができると認識する。 一方,本件特許発明1には,高温で反応性固相エピタキシャル成長させて形成したホモロガス化合物InMO3(ZnO)m(M=In,Fe,Ga,又はAl,m=l以上50未満の整数)単結晶薄膜,すなわち「YSZなどの酸化物単結晶基板上のZnOエピタキシャル薄膜上に,高温である800℃以上,1600℃以下で反応性固相エピタキシャル成長させて形成したホモロガス化合物InMO3(ZnO)m(M=In,Fe,Ga,又はAl,m=l以上50未満の整数)単結晶薄膜」について規定されていない。 そうすると,本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載に接した当業者は,本件特許発明1がノーマリーオフになると認識できないというべきである。 (4)さらに,上記課題2について,本件特許明細書の【0014】,【0027】には,「ZnOを含むホモロガス化合物を反応性固相エピタキシャル法により室温で成膜したアモルファス状態」を「活性層として用いた電界効果型トランジスタ」,及び「ZnOを主たる構成成分として含有するホモロガスアモルファス薄膜」を用いた「電界効果型トランジスタ」が文言上記載されている。 しかし活性層として用いることができるホモロガス化合物のアモルファス薄膜の作製法については実施例の記載はなく,具体的に説明されていない。また当該アモルファス薄膜がどのような電気特性を有するのか,当該アモルファス薄膜をMISFET素子に適用した場合にどのような電気特性が得られるのかについても何ら記載がない。 してみると当業者は,発明の詳細な説明をみても課題2を解決できないと認識する。 (5)すなわち,本件特許明細書の発明の詳細な説明及び図面の記載に接した当業者は,「ZnOを含むホモロガス化合物を反応性固相エピタキシャル法により室温で成膜したアモルファス状態」を「活性層として用いた電界効果型トランジスタ」,及び「ZnOを主たる構成成分として含有するホモロガスアモルファス薄膜」を用いた「電界効果型トランジスタ」が文言上記載されていると認識する。 しかしながら,活性層として用いることができるホモロガス化合物のアモルファス薄膜の作製法については実施例の記載はなく,具体的に説明されていない。また当該アモルファス薄膜がどのような電気特性を有するのか,当該アモルファス薄膜をMISFET素子に適用した場合にどのような電気特性が得られるのかについても何ら記載がない。したがって当業者は,発明の詳細な説明をみても課題2を解決できないと認識する。 そうすると,本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載に接した当業者は,本件特許発明1が大面積に適した実用的なアモルファストランジスタを提供することが認識できないというべきである。 (6)甲第2号証には,1次審決が認定したような技術常識は記載されておらず,実施可能要件と同様,本件特許発明はもはやサポート要件も満たすとはいえない。 3 当審の判断 (1)発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲について ア 課題 本件特許の明細書には課題に関して次の記載がある。 「【0002】 【従来の技術及びその課題】 電界効果型トランジスタは,半導体メモリ集積回路の単位電子素子,高周波信号増幅素子,液晶駆動用素子等として用いられており,現在,最も多く実用化されている電子デバイスである。材料としては,シリコン半導体化合物が最も広く使われている。高速動作が必要な高周波増幅素子,集積回路用素子等には,シリコン単結晶が用いられ,また,低速動作で充分な液晶駆動用には,大面積化の要求から,アモルファスシリコンが使われている。 【0003】 シリコンを用いた電界効果型トランジスタは,多くの用途に対して,充分な性能を有している。しかし,該トランジスタは,シリコンの光学的特性に基づいて,可視光に対して不透明で,透明回路を構成することができない。また,可視光照射により,伝導キャリアを生じるために,高光照射下ではトランジスタ特性が劣化してしまう。例えば,該トランジスタを液晶ディスプレイの液晶駆動用スイッチング素子として応用した場合,該デバイスは,可視光に対して不透明なため,ディスプレイ画素の開口比が小さくなる。また,バックライト照射により光誘起電流が発生し,スイッチング特性が劣化してしまう。こうした劣化を防ぐため,バックライト光をカットするための遮光膜を設ける必要がある。 【0004】 シリコン電界効果型トランジスタのこうした問題点は,シリコンに替わって,エネルギーバンド幅の大きな半導体材料を用いることにより,原理的に,解決することができる。実際に,透明酸化物半導体であるZnOを用いて,電界効果型トランジスタを作製する試みがなされている(例えば,非特許文献1)。しかし,ZnOは,電気伝導度を小さくすることが難しく,ノーマリーオフの電界効果型トランジスタを構成できない等の欠点がある。また,アモルファス状態を作り難いので,大面積に適したアモルファストランジスタを作製することができない。」 してみると,発明の詳細な説明には下記の課題が記載されていると認められる。 (ア)課題1 可視光に対して透明でノーマリーオフの電界効果型トランジスタを提供すること。(以下,「課題1」という。) (イ)課題2 可視光に対して透明で大面積に適したアモルファストランジスタを作製すること。(以下,「課題2」という。) イ 課題解決手段について 本件特許の明細書には,課題解決手段に関して,次の記載がある。 「【0006】 【課題を解決するための手段】 本発明者らは,先に,パルスレーザー薄膜堆積法を用い,室温での成膜により,アモルファス状態で,n-型電気伝導を示す,ZnOを主たる構成成分として含有するInGaO3(ZnO)m(mは自然数) 等のホモロガス化合物透明薄膜を育成した(特開2000-44236号公報,細野他 Philosophical Magazine B.81.501-515(2001))。 【0007】 さらに,本発明者らは,YSZ(イットリア安定化ジルコニア)基板上に育成したZnO単結晶極薄膜上に,アモルファスのホモロガス薄膜を堆積し,得られた多層膜を高温で加熱拡散処理する「反応性固相エピタキシャル法」により,ホモロガス単結晶薄膜を育成する方法を開発し,「自然超格子ホモロガス単結晶薄膜とその製造方法」と名付け,特許出願した(特願2001-340066)。 【0008】 本発明者は,上記のホモロガス単結晶薄膜の製造方法と同様に,ZnO薄膜上にエピタキシャル成長した複合酸化物薄膜を加熱拡散する手段を用いることにより従来のシリコンを用いた電界効果型トランジスタに代わる新たな優れた電界効果型トランジスタを提供できることを見出した。 【0009】 本発明は,反応性固相エピタキシャル法により育成した,ZnOを主たる構成成分として含有するホモロガス化合物単結晶薄膜又はZnOを主たる構成成分として含有するホモロガスアモルファス薄膜を活性層とした電界効果型トランジスタを提供する。 【0010】 すなわち,本発明は,(1)ホモロガス化合物InMO3(ZnO)m(M=In, Fe, Ga ,又はAl, m=1以上50未満の整数)薄膜を活性層として用いることを特徴とする透明薄膜電界効果型トランジスタである。また,(2)表面が原子レベルで平坦である単結晶又はアモルファスホモロガス化合物薄膜を用いることを特徴とする上記(1)の透明薄膜電界効果型トランジスタである。また,(3)ホモロガス化合物が耐熱性,透明酸化物単結晶基板上に形成された単結晶薄膜であることを特徴とする上記(1)の透明薄膜電界効果型トランジスタである。また,(4)ホモロガス化合物がガラス基板上に形成されたアモルファス薄膜であることを特徴とする上記(1)の透明薄膜電界効果型トランジスタである。 【0011】 1. 反応性固相エピタキシャル法により製造したホモロガス化合物単結晶InMO3(ZnO)m(M=In, Fe, Ga, Al, m=1以上50未満の整数)薄膜は,InO1.5層が原子レベルで平坦な薄膜表面を形成することから,ゲートと活性層の界面に欠陥が介在しにくく,ゲートリーク電流の少ない薄膜電界効果型トランジスタを作製できる。InMO3(ZnO)mのmの値は1以上50未満の整数が好ましい。原理的には,mの値は,無限大まで可能であるが,実用上,mの値が大きくなりすぎると,膜内でのmのばらつきが大きくなることと,酸素欠陥が生じやすくなり,その結果,膜の電気伝導度が大きくなり,ノーマリオフ型のFETが作り難くなる。 【0012】 2. ZnOを主たる構成成分として含有するホモロガス化合物InMO3(ZnO)m(M=In, Fe, Ga,又はAl,m=1以上50未満の整数)のバンドギャップエネルギーは,3.3eVより大きので,波長が400nm以上の可視光に対して透明である。したがって,ホモロガス化合物単結晶InMO3(ZnO)m(M=In, Fe, Ga, 又はAl, m=1以上50未満の整数)薄膜を活性層として用いることにより,可視光透過率が高く,可視光による光誘起電流の発生がない,薄膜電界効果型トランジスタを作製できる。 【0013】 3. さらに,反応性固相エピタキシャル法により製造したホモロガス化合物InMO3(ZnO)m(M=In, Fe, Ga, 又はAl, m=1以上50未満の整数)単結晶薄膜は化学量論組成からのずれが極めて小さく,室温付近では良質な絶縁体であることから,ホモロガス化合物単結晶InMO3(ZnO)m(M=In, Fe, Ga, 又はAl, m=1以上50未満の整数)薄膜を活性層として用いることにより,ノーマリーオフ作動で,スイッチング特性の良い透明薄膜電界効果型トランジスタを作製できる。 【0014】 ZnOを含むホモロガス化合物を反応性固相エピタキシャル法により室温で成膜したアモルファス状態は,1000℃程度の高温まで安定であり,その状態での電子キャリア移動度は,アモルファスシリコンに比較して,10倍以上大きい。したがって,ホモロガスアモルファス薄膜を活性層として用いた電界効果型トランジスタは,シリコンアモルファス電界効果型トランジスタに比較して,可視光透過率が高く,光照射に対して安定に動作し,さらに,高速動作することが期待できる。」 そうすると,上記各記載によれば,本件特許明細書の発明の詳細な説明には,ホモロガス化合物単結晶InMO3(ZnO)m(M=In, Fe, Ga, 又はAl, m=1以上50未満の整数)薄膜又はホモロガスアモルファスInMO3(ZnO)m(M=In, Fe, Ga,又はAl,m=1以上50未満の整数)薄膜を電界効果型トランジスタの活性層として用いることにより,課題1又は課題2の少なくとも一つを解決することができることが記載されていると認められる。よって,これが発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を画するものである。 (2)発明の詳細な説明に記載された発明と特許請求の範囲に記載された発明との対比 特許請求の範囲の請求項1に記載された発明は,上記(1)の発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲内のものである。 なお,特許請求の範囲には複数の発明を記載することが許容されている(特許法37条参照)から,請求項に係る発明が別々の課題を解決するものを含んでいても差し支えないし,請求項に係る発明が少なくとも一つの課題を解決できることを認識できる範囲内のものであれば,公開されていない発明について権利が発生することを防止するという特許法36条6項1号の趣旨から見て,同号に規定する要件を満たすというべきである。 そうすると,本件特許の請求項1に係る発明は,本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されたものと認められる。 (3)請求人の主張について 請求人の上記2(1)~(5)の主張は,上記(1)及び(2)の理由により,採用できない。また,請求人の上記2(6)の主張は,実施可能要件とサポート要件を混同するもので採用できない。 なお,本件特許発明1,2及び4が実施可能要件を満たすことは,上記第6の3のとおりである。 4 本件特許発明2及び4について (1)本件特許発明2及び4は,上記「第3 本件特許発明」で認めたとおりである。 (2)当審の判断 本件特許発明2及び4は,いずれも本件特許発明1に発明特定事項を追加して,より限定した発明である。 そして,上記「本件特許発明1について」で検討したように,特許請求の範囲の請求項1に記載された発明は,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであると認められる。 そうすると,本件特許発明1に発明特定事項を追加して,より限定した発明である本件特許発明2-4もまた同様に,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲内のものであると認められる。 5 無効理由6のまとめ 以上のとおり,本件特許の請求項1,2及び4に係る発明は,特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしている。 よって,本件特許発明1,2及び4について,無効理由6は,理由がない。 第12 むすび 以上のとおりであるから,特許4164562号の請求項1,2及び4に係る発明についての特許は,特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではないから,特許法第123条第1項第2号に該当しない。 本件特許の請求項1及び2に係る発明についての特許は,特許法第29条の2の規定に違反してされたものではないから,特許法第123条第1項第2号に該当しない。 本件特許の請求項1,2及び4に係る発明についての特許は,特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものではないから,同法第123条第1項第4号に該当しない。 本件の請求項1,2及び4に係る発明についての特許は,特許法第36条第6項第1号の規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものではないから,特許法第123条第1項第4号に該当しない。 したがって,本件の請求項1,2及び4に係る発明についての審判請求は,成り立たない。 審判に関する費用については,特許法第169条第2項で準用する民事訴訟法第61条の規定により,請求人の負担とする。 よって,結論のとおり審決する。

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2014-800120

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