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特許無効審判

2014-800118

酸味のマスキング方法

審判番号
2014-800118
法域
特許
審判種別
無効審判(無効の審決)
出願番号
特願平9-27626
登録番号
特許第3916281号(P3916281)
請求日
2014年07月09日
審決日
2020年03月31日
公報発行日
2020年08月28日
結論
請求成立(無効)
当事者
  • 【請求人】ジェイケー スクラロース インコーポレイテッド
  • 【請求人代理人】稲葉 良幸
  • 【請求人代理人】赤堀 龍吾
  • 【請求人代理人】北谷 賢次
  • 【請求人代理人】小笠原 耕司
  • 【請求人代理人】片倉 秀次
  • 【請求人代理人】田村 有加吏
  • 【請求人代理人】山崎 臨在
  • 【被請求人】三栄源エフ・エフ・アイ 株式会社
  • 【被請求人代理人】特許業務法人三枝国際特許事務所
  • 【被請求人代理人】田中 千博
  • 【被請求人代理人】溝内 伸治郎
  • 【被請求人代理人】小林 幸夫
審判長/審判官
  • 審判長 佐々木 秀次
  • 審判官 村上 騎見高
  • 審判官 天野 宏樹
分類
P1113.121-ZDA(A23L) / P1113.537-ZDA(A23L) / P1113.536-ZDA(A23L) / P1113.55 -ZDA(A23L) / P1113.841-ZDA(A23L)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法169条2項民事訴訟法61条
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第134条の2第1項、特許法第134条の2第9項、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第4項、特許法第36条第6項第2号、特許法第17条の2第3項、特許法第134条の2第6項、特許法第123条第1項第2号、特許法第169条第2項
データ出所
審決公報(SGML)

事件の表示

上記当事者間の特許第3916281号「酸味のマスキング方法」の特許無効審判事件についてされた平成30年 7月11日付け審決に対し、知的財産高等裁判所において請求項1に係る発明に対する部分の審決取消しの判決(平成30年(行ケ)第10164号、令和 1年 8月28日)があったので、審決が取り消された部分の請求項に係る発明についてさらに審理のうえ、次のとおり審決する。

結論

【結 論】 特許第3916281号の明細書を、平成30年1月23日付け訂正請求書に添付された訂正明細書のとおり、訂正後の請求項1について訂正することを認める。 特許第3916281号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。

理由

【理 由】 1.手続の経緯 (1)本件特許出願 本件特許第3916281号(以下、「本件特許」という。)に係る出願(特願平9-27626号、以下、「本件特許出願」という。)は、平成9年2月12日に出願され、平成19年2月16日に特許権の設定登録がなされたものである。 (2)本件無効審判の請求 審判請求人(ジェイケー スクラロース インコーポレイテッド。以下、「請求人」という。)は、平成26年7月9日に、特許3916281号の特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、本件無効審判を請求した。 (3)一次審決までの主な手続 平成28年6月10日付け審決(以下、「一次審決」という。)までの主な手続の経緯は次のとおりである。 平成26年 7月 9日  :無効審判請求書(請求項1及び2に対し) 甲第1~20号証及び 甲第33号証(本件特許公報)の提出 同年 同月30日付け:答弁指令、請求書副本の送達通知 同年 8月 4日  :請求書副本の送達 同年 9月30日  :訂正請求書、答弁書及び乙第1、2号証 の提出 同年10月17日付け:訂正請求書副本及び答弁書副本の送付 同年12月10日  :弁駁書及び甲第21~30号証の提出 平成27年 2月13日付け:補正許否の決定(許可する)、 答弁指令及び弁駁書副本の送達通知 同年 2月18日  :補正諾否の決定及び弁駁書副本の送達 同年 3月19日  :訂正請求書、答弁書及び乙第3~8号証 の提出 同年 5月15日付け:訂正請求書副本及び答弁書副本の送付 同年 5月25日付け:審理事項通知(両当事者あて) 同年 7月 1日  :口頭審理陳述要領書(請求人)、 甲第31及び32号証の提出 同年 同月 6日付け:口頭審理陳述要領書(請求人)副本の送付 同年 7月22日  :口頭審理陳述要領書(被請求人)、 及び乙第9~15号証の提出 同年 同月27日付け:口頭審理陳述要領書(被請求人)副本 の送付 同年 8月 5日  :第1回口頭審理 同年 9月17日付け:審決の予告 同年10月 1日  :審決の予告謄本の送達 同年11月30日  :訂正請求書及び上申書(被請求人)の提出 同年12月11日付け:手続補正指令(方式) 平成28年 1月14日  :訂正請求書の手続補正書 (請求項の数及び請求の趣旨)の提出 同年 同月20日付け:訂正請求書副本及び 上申書(被請求人)副本の送付 同年 3月14日  :弁駁書の提出 同年 同月16日付け:答弁指令、弁駁書副本の送付 同年 4月21日  :答弁書及び乙第16~18号証の提出 同年 5月24日付け:答弁書副本の送付 同年 同月25日付け:審理終結通知 同年 6月10日付け:一次審決 同年 同月20日  :審決謄本の送達 (4)一次審決の結論及びこれに対する審決取消訴訟 ア 一次審決の結論 一次審決では、「特許第3916281号の請求項1ないし2に係る発明についての特許を無効とする。審判費用は、被請求人の負担とする。」との結論の審決がなされた。 イ 一次審決取消訴訟の経緯 被請求人は、平成28年7月14日に、同人を原告とし請求人を被告とする、一次審決の取消訴訟を知的財産高等裁判所に提起した。 同裁判所において、この訴訟は、平成28年(行ケ)第10157号事件として審理され、平成29年7月19日に、一次審決を取り消す旨の判決(以下、「一次判決」という。)が言い渡され、その後同判決は確定した。 そして、本件については、再度審理をすべく差し戻された(以下、この差戻しを「一次差戻し」という。)。 (5)一次差戻しから二次審決までの主な手続 一次差戻し以降、平成30年7月11日付け審決(以下、「二次審決」という。)までの主な手続の経緯は次のとおりである。 平成29年11月15日付け:審決の予告 同年 同月24日  :審決の予告謄本の送達 平成30年 1月23日  :訂正請求書及び上申書(被請求人)の提出 同年 3月15日付け:訂正請求書副本及び 上申書(被請求人)副本の送付 同年 5月 8日  :弁駁書の提出 同年 6月27日付け:審理終結通知及び弁駁書副本の送付 同年 7月11日付け:二次審決 同年 同月20日  :審決謄本の送達 (6)二次審決の結論及びこれに対する審決取消訴訟 ア 二次審決の結論 二次審決では、「特許第3916281号の明細書を、平成30年1月23日付け訂正請求書に添付された訂正明細書のとおり、訂正後の請求項1及び2について訂正することを認める。請求項1についての本件審判の請求は、成り立たない。請求項2についての本件審判の請求を却下する。審判費用は、請求人の負担とする。」との結論の審決がなされ、二次審決のうち、「平成30年1月23日付け訂正請求において明細書についてする訂正のうち、請求項2を削除する訂正を認める。請求項2についての本件審判の請求を却下する。」との部分は、確定した。 イ 二次審決取消訴訟の経緯 請求人は、平成30年11月15日に、同人を原告とし被請求人を被告とする、二次審決の取消訴訟を知的財産高等裁判所に提起した。 同裁判所において、この訴訟は、平成30年(行ケ)第10164号事件として審理され、令和元年8月28日に、二次審決中、請求項1に係る部分を取り消す旨の判決(以下、「二次判決」という。)が言い渡され、その後同判決は確定した。 そして、本件については、再度審理をすべく差し戻された(以下、この差戻しを「二次差戻し」という。)。 (7)二次差戻し以降の主な手続 二次差戻し以降の主な手続の経緯は次のとおりである。 令和元年11月29日付け:審決の予告 同年12月10日  :審決の予告謄本の送達 令和2年 2月10日  :上申書(被請求人)の提出 2.訂正請求について (1)一次判決の拘束力について 審決を取り消す旨の判決の拘束力は、判決主文が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断にわたる(最三小平成4年4月28日判決、民集46巻4号245頁)。 したがって、当審の審理は、一次判決の判断、特に、以下の判示事項に拘束されるものである(なお、二次判決の判示事項については、後述する。)。 ア スクラロースの下限値の訂正に関する判示事項 「実施例2においては、醸造酢(酸度10%)15部、スクラロース0.0028部等を含有する調味液と塩抜きしたきゅうりを4対6の割合で合わせて瓶詰めをしてピクルスを得た結果、・・・ピクルスに対するマスキング効果が確認されたことが認められる。そうすると、醸造酢を含有する製品として、酸味のマスキング効果を確認した対象は、調味液ではなくピクルスであるから、当該効果を奏するものと確認されたスクラロース濃度は、上記調味液におけるスクラロース濃度ではなく、これに水分等を含むきゅうりを4対6の割合で合わせた後のピクルスのスクラロース濃度であると認めるのが相当である。」 「0.0028重量%よりも低いスクラロース濃度においてピクルスに対する酸味のマスキング効果が確認されたのであれば、ピクルスにおけるスクラロース濃度が0.0028重量%であったとしても酸味のマスキング効果を奏することは、本件明細書の記載及び本件出願時の技術常識から当業者に明らかである。」 「そうすると、製品に添加するスクラロースの下限値を「製品の0.000013重量%」から「0.0028重量%」にする訂正は、特許請求の範囲を減縮するものである上、本件訂正後の「0.0028重量%」という下限値も、本件明細書において酸味のマスキング効果を奏することが開示されていたのであるから、本件明細書に記載した事項の範囲内においてしたものというべきである。」(一次判決第23~24頁) (2)本件訂正請求 上記1.「手続の経緯」のとおり、被請求人から平成30年1月23日に訂正請求書(以下、「本件訂正請求書」という。)が提出されて、本件特許明細書の訂正の請求(以下、本件訂正請求書による訂正の請求を「本件訂正請求」という。)がされたので、特許法第134条の2第6項の規定により、平成26年9月30日、平成27年3月19日及び平成27年11月30日に提出された訂正請求書による訂正の請求は、いずれも取り下げられたものとみなす。 また、上記1.(6)ア「二次審決の結論」に記載したとおり、本件訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)のうち、請求項2を削除する訂正(二次審決における訂正事項2)は確定した。 よって、本件訂正のうち、請求項2を削除する訂正以外の訂正の適否について検討する。 (3)請求の趣旨 本件訂正請求の趣旨は、「特許第3916281号の明細書、特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1、2について訂正することを求める。」というものである。 (4)訂正の内容 本件訂正の内容は、以下のとおりである。 なお、請求項2を削除する訂正に対応する訂正事項2は欠番とした。 また、以下において、隅付き括弧は「[ ]」と表記した。 ア 訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に「醸造酢及び/又はリンゴ酢を含有する製品、又はコーヒーエキスを含有する製品に」とあるのを「醸造酢を含有するドレッシング、ソース、漬物、及び調味料からなる群より選択される少なくとも1種の製品に」と訂正し、また「スクラロースを該製品の0.000013~0.0042重量%の量で添加する」とあるのを「スクラロースを該製品の0.0028~0.0042重量%の量で添加する」に訂正し、さらに「酸味のマスキング方法」を「該製品の酸味のマスキング方法」に訂正する。 イ 訂正事項3 段落[0004]の「高甘味度甘味剤」を、「スクラロース」に訂正する。 ウ 訂正事項4 段落[0007]の「高甘味度甘味剤は、微量で甘味を呈する天然又は合成の甘味剤を意味する。具体的には、天然のものとしてソーマチンやステビア又は甘草等の植物からの抽出物、合成の高甘味度甘味剤としてスクラロース、アスパルテーム、サッカリン又はアセスルファームK等が挙げられる。本発明においては、これらのうちステビア抽出物、スクラロース又はアスパルテームの単独又は2種以上の混合物の使用が好ましい。」を、「スクラロースは、微量で甘味を呈する合成の高甘味度甘味剤である。」に訂正する。 エ 訂正事項5 段落[0008]4行目の「同一の高甘味度甘味剤でも」の記載を削除する。 オ 訂正事項6 段落[0008]8行目の「高甘味度甘味剤の種類に拘わらず、」の記載を削除する。 カ 訂正事項7 段落[0009]1行目に記載の「1又は2種以上の高甘味度甘味剤」、並びに段落[0009]2、4及び5-6行目、段落[0010]1行目、及び段落[0012]1-2行目にそれぞれ記載する「高甘味度甘味剤」の記載を、全て「スクラロース」に訂正する。 キ 訂正事項8 段落[0015]5-6行目の「又はSKスイートZ-3(酵素処理ステビア 日本製紙株式会社製)0.005部」の記載を削除する。 ク 訂正事項9 段落[0016]3-4行目の「、又はハイステビア500(ステビア抽出物 池田糖化工業株式会社製)0.013部」の記載、並びに同段落6行目の「又はステビア抽出物」の記載を削除する。 ケ 訂正事項10 段落[0017]5行目の「、又はアスパルテーム0.005部」の記載を削除する。 (5)訂正の適否 ア 請求項1に係る訂正について(訂正事項1、3~10) (ア)訂正の目的について 訂正事項1のうち、訂正前の請求項1に「醸造酢及び/又はリンゴ酢を含有する製品、又はコーヒーエキスを含有する製品」とあるのを「醸造酢を含有するドレッシング、ソース、漬物、及び調味料からなる群より選択される少なくとも1種の製品」とする訂正は、訂正前の請求項1に記載されていた選択肢の一部を削除し、また、「製品」を具体的な製品名で特定することにより、特許請求の範囲を減縮するものであるから、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 訂正事項1のうち、訂正前の請求項1に「スクラロースを該製品の0.000013~0.0042重量%の量で添加する」とあるのを「スクラロースを該製品の0.0028~0.0042重量%の量で添加する」とする訂正は、スクラロースの添加量を限定することにより特許請求の範囲を減縮しようとするものであるから、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 また、訂正事項1のうち、訂正前の請求項1に「酸味のマスキング方法」とあるのを「該製品の酸味のマスキング方法」とする訂正は、酸味のマスキングを行う対象を明確にするものであるから、特許法第134条の2第1項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 (イ)新規事項の追加の有無について 本件特許の願書に添付した明細書には、酸味を呈する製品としてドレッシング、ソース、漬物及び調味料が例示されており([0006])、また、醸造酢を含有する製品の実施例として、ピクルス(漬物)と当該ピクルスの調味液(調味料)([0016])、おろしポン酢ソース(ソース)([0017])、及び青じそタイプノンオイルドレッシング(ドレッシング)([0018])が記載されているから、訂正事項1のうち、訂正前の請求項1に「醸造酢及び/又はリンゴ酢を含有する製品、又はコーヒーエキスを含有する製品」とあるのを「醸造酢を含有するドレッシング、ソース、漬物、及び調味料からなる群より選択される少なくとも1種の製品」とする訂正は、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内での訂正にあたる。 また、上記の製品についての記載を参酌すると、訂正後の請求項1の「該製品の酸味のマスキング方法」における「該製品」が、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内のものであることも明らかであるから、訂正事項1のうち、訂正前の請求項1に「酸味のマスキング方法」とあるのを「該製品の酸味のマスキング方法」とする訂正は、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内での訂正にあたる。 さらに、本件特許の願書に添付した明細書の[0016]の実施例2には、スクラロースの添加量を0.0028重量%としたピクルスの調味液(調味料)、及び当該調味液と塩抜きしたきゅうりを4対6の割合で合わせ、瓶詰めしたことが記載され、得られたピクルスについては、「スクラロース・・・を添加していないピクルスに比べて、酸味がマイルドで嗜好性の高いピクルスに仕上がった」ことが記載されているから、酸味のマスキング効果が確認されているといえる。ここで、実施例2で得られたピクルスにおけるスクラロースの濃度が、調味液におけるスクラロースの濃度である0.0028重量%よりも低い濃度となることは明らかであり、そして、当該ピクルスについて酸味のマスキング効果が確認されているのであるから、スクラロースの濃度が0.0028重量%であったとしても、酸味のマスキング効果が得られることは明らかである。そうすると、本件特許の願書に添付した明細書には、訂正後のスクラロースの添加量の下限値である0.0028重量%において酸味のマスキング効果が得られることが開示されていたといえるから、訂正事項1のうち、スクラロースの添加量を「0.000013~0.0042重量%」から「0.0028~0.0042重量%」とする訂正は、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内での訂正にあたる(上記2.(1)「一次判決の拘束力について」を参照。)。 よって、訂正事項1は、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。 そして、訂正事項1に係る訂正は、上記のとおり訂正前の請求項1に記載する製品を限定すると共に、スクラロースの添加量を限定するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではなく、特許法134条の2第9項で準用する同法126条第6項の規定に適合する。 (ウ)訂正事項3~10について 訂正事項3~10は、請求項1の訂正に基づいて明細書中の特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るための訂正であるから、特許法第134条の2第1項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正である。 そして、訂正事項3~10は、願書に添付した明細書の発明の詳細な説明に記載された構成の一部を削除及び限定するものであるから、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内での訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。 したがって、訂正事項3~10は、特許法第134条の2第9項で準用する同第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 イ 訂正の適否についてのまとめ 以上のとおり、本件訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、また同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定にも適合するから、訂正後の請求項1についての訂正を認める。 3.本件発明 上記のとおり本件訂正は認められるから、本件特許の請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、訂正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。 「醸造酢を含有するドレッシング、ソース、漬物、及び調味料からなる群より選択される少なくとも1種の製品に、スクラロースを該製品の0.0028~0.0042重量%の量で添加することを特徴とする該製品の酸味のマスキング方法。」 4.請求人の主張及び証拠方法 請求人は、「特許3916281号の特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求める。」ことを請求の趣旨とし、以下の無効理由を主張し、証拠方法として下記甲第1号証ないし甲第33号証を提出している。 本件訂正を踏まえると、具体的な無効理由は以下のとおり整理することができる。 (1)無効理由1(甲第1号証を主引例とした進歩性) 本件特許の請求項1に係る発明は、本件特許出願前に頒布された刊行物である甲第1号証に記載された発明及び甲第2、第3、第7、第8号証に記載された事項に基いて、本件特許出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。 (2)無効理由2(甲第9号証を主引例とした進歩性) 本件特許の請求項1に係る発明は、本件特許出願前に頒布された刊行物である甲第9号証に記載された発明及び、甲第1~3、第7、第8号証に記載された事項に基いて、本件特許出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。 (3)無効理由3(サポート要件)及び無効理由4(実施可能要件) 本件特許の請求項1に係る発明は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえないことから特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、また、発明の詳細な説明の記載は、当業者がこれらの特許発明を実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではないから、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしておらず、その特許は同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものである。 (4)無効理由5(明確性) 本件特許の請求項1に係る発明は、特許を受けようとする発明が明確ではないから、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、同法第123条第1項4号に該当し、無効とすべきものである。 (5)無効理由6(新規事項) 平成18年12月15日付け手続補正書における補正は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしておらず、その特許は同法第123条第1項第1号に該当し、無効とすべきものである。 [証拠方法] <審判請求書に添付> 甲第1号証:特開昭59-21369号公報 甲第2号証:田口和子, 外2名, 「実用調味濃度レベルでの基本味質の混合効果」, 名古屋文理短期大学紀要, 1988年,第13号, 第1~15頁 甲第3号証:浜島教子, 「基本的四味の相互関係について」, 調理科学, 1975年, vol.8, No.3, 第132~136頁 甲第4号証:特開平8-205814号公報 甲第5号証:特開平6-165633号公報 甲第6号証:Simon S. Jackel, "High-Density Sweeteners and Fat Substitutes Are on the Horizon", Cereal Foods World, 1989年10月, vol.34, NO.10, 第887~888頁、及び抄訳 甲第7号証:特開昭61-177980号公報 甲第8号証:小川敏男, 「漬物製造学」, 株式会社光琳, 平成元年3月20日発行, 第124頁 甲第9号証:小磯博昭, 外5名, 「スクラロースの味覚特性と他の高甘味度甘味料との比較」, 日本食品化学学会誌, 1995年, vol.2, No.2, 第110~114頁 甲第10号証:本件特許出願(平成9年特許願第27626号)についての平成18年12月15日付け意見書 甲第11号証:特開平6-30721号公報 甲第12号証:特開平7-313063号公報 甲第13号証:特開平5-260938号公報 甲第14号証:特開平5-111437号公報 甲第15号証:平成24年(行ケ)第10057号 審決取消請求事件判決 甲第16号証:特開平5-23163号公報 甲第17号証:特開平7-50993号公報 甲第18号証:特開平7-313062号公報 甲第19号証:友田五郎, 「序説 珈琲学」, 株式会社光琳, 1987年4月30日, 第82~83頁 甲第20号証:特開平8-140641号公報 甲第33号証:特許第3916281号公報(本件特許公報) <平成26年12月10日に提出した弁駁書に添付> 甲第21号証:本件特許出願についての平成17年9月15日付け意見書 甲第22号証:特開平7-50993号公報 甲第23号証:特開平8-196240号公報 甲第24号証:特開平8-205814号公報 甲第25号証:平成25年(行ケ)10172号 審決取消請求事件判決 甲第26号証:日科技連官能検査委員会編, 「新版 官能検査ハンドブック」, 第1刷, 株式会社日科技連出版社, 1973年3月10日, 第395~423頁 甲第27号証:小林紀子, 外2名, 「新甘味料アスパルテームについて」, 精糖技術研究会誌, 精糖技術研究会, 1976年, 第26号, 第7~17頁 甲第28号証:日科技連官能検査委員会編著, 「工業における官能検査ハンドブック」, 日本科学技術連盟, 昭和37年2月19日, 第333~343頁 甲第29号証:大場俊輝, 外2名, 「甘味,酸味,塩から味,苦味刺激閾値の測定」, J. Brew. Soc. Japan, Vol.79, No.9, 第656~658頁 甲第30号証:T. H. GRENBY, "PROGRESS IN SWEETENERS", ELSEVIER APPLIED SCIENCE, 1989年, 第131~132頁、及び抄訳 <平成27年7月1日に提出した口頭審理陳述要領書に添付> 甲第31号証:特開平10-215793号公報(本件特許出願の公開公報) 甲第32号証:本件特許出願についての平成18年12月15日付け手続補正書 以下、「甲第1号証」~「甲第33号証」を、それぞれ「甲1」~「甲33」という。まとめて「甲号証」ということもある。 なお、当事者間において、甲1ないし甲33の成立についての争いはない。 5.被請求人の主張及び証拠方法 被請求人は、「本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求める。」ことを答弁の趣旨とし、無効理由がいずれも成り立たないと主張し、証拠方法として下記乙第1号証ないし乙第18号証を提出している。 [証拠方法] <平成26年9月30日に提出した答弁書に添付> 乙第1号証:社団法人全国清涼飲料工業会, 外1名 監修,「飲料用語事典」, 株式会社ビバリッジジャパン社, 平成11年6月25日, 第11頁 乙第2号証:社団法人全国清涼飲料工業会, 外1名 監修,「飲料用語事典」, 株式会社ビバリッジジャパン社, 平成11年6月25日, 第86頁 <平成27年3月19日に提出した答弁書に添付> 乙第3号証:日本コーヒー文化学会編, 「コーヒーの事典」, 初版, 株式会社柴田書店, 2001年12月15日, 第102~103頁 乙第4号証:被請求人従業員である芳仲幸治が作成した2015年3月17日付け作成の「実験報告書」 乙第5号証:日科技連官能検査委員会編, 「新版 官能検査ハンドブック」, 第3刷, 株式会社日科技連出版社, 1995年3月7日, 第249~252、829頁 乙第6号証:二宮恒彦, 「総説 食品の官能検査」, 日本食品工業学会誌, 1969年8月, 第16巻, 第8号, 第372~380頁 乙第7号証:「官能検査用語 JIS Z 8144」, 第8刷, 財団法人日本規格協会, 平成13年11月10日, 第1~2頁 乙第8号証:「官能評価分析-方法 JIS Z 9080」, 第1刷, 財団法人日本規格協会, 平成16年3月20日, 第6, 15~16, 23, 33~34頁 <平成27年7月22日に提出した口頭審理陳述要領書に添付> 乙第9号証:五十嵐脩, 外2名編, 「丸善食品総合辞典」, 丸善株式会社, 平成10年3月25日,第603頁 乙第10号証:日科技連官能検査委員会編, 「新版 官能検査ハンドブック」, 第13刷, 株式会社日科技連出版社,1995年3月7日, 第249~253頁 乙第11号証:伊藤汎, 外2名編著, 「光琳選書7 食品と甘味料」, 株式会社光琳, 平成20年10月1日,第85~93頁 乙第12号証:伊藤汎, 外2名編著, 「光琳選書7 食品と甘味料」, 株式会社光琳, 平成20年10月1日,第196~200頁 乙第13号証:白川真由美, 「ネオテーム製剤『ミラスィー○R(当審注:丸で囲まれた上付きのRで、登録商標であることを示す記号である。)』の3つのバリュー(2) ―おいしくノンシュガー・ノンカロリー ―」, 月刊フードケミカル, 平成21年8月1日, 2009年8月号, Vol.25, No.8, 第39~41頁 乙第14号証:俣野和夫,外3名, 「アセスルファムカリウムと他の甘味との併用効果」, 月刊フードケミカル, 平成12年5月1日, 2000年5月号, Vol.16, No.5, 第23~29頁 乙第15号証:濱田正一, 「1997年注目食品素材の動向」, 月刊フードケミカル, 平成9年1月1日, 1997年1月号, Vol.13, No.1, 第57-62頁 <平成28年4月21日に提出した答弁書に添付> 乙第16号証:五十嵐脩, 外2名編, 「丸善食品総合辞典」, 丸善株式会社, 平成10年3月25日, 第72頁, 第297頁 乙第17号証:國枝里美, 「官能評価の基本、感覚を測る 官能評価が社会に役立つ技術であるために」, おいしさの科学シリーズ, Vol.4 だしと日本人 生きていくための基本食, 初版第1刷, 株式会社エヌ・ティー・エス, 2012年7月2日, 第109~110頁 乙第18号証:日科技連官能検査委員会編, 「新版 官能検査ハンドブック」, 第13刷, 株式会社日科技連出版社, 1995年3月7日, 第395~402頁 以下、「乙第1号証」~「乙第18号証」を、それぞれ「乙1」~「乙18」という。まとめて「乙号証」ということもある。 なお、当事者間において、乙1ないし乙18の成立についての争いはない。 6.二次判決の拘束力について 審決を取り消す旨の判決の拘束力は、判決主文が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断にわたる(最三小平成4年4月28日判決、民集46巻4号245頁)。 したがって、当審の審理は、二次判決の判断、特に、以下の判示事項(進歩性に関する判断)に拘束されるものである。 (1)引用発明、並びに本件発明と引用発明との一致点及び相違点について 「本件審決は、引用発明等を以下のとおり認定した。 ア 引用発明 食酢を含む食品に、アスパルテームを該食品に対し1~200mg%の濃度となるように添加する、酸味の緩和方法。 イ 本件発明と引用発明との対比 (ア)一致点 食酢を含有するドレッシング、ソース、漬物、及び調味料からなる群より選択される少なくとも1種の製品に、酸味のマスキング剤を添加する、該製品の酸味のマスキング方法である点。 (イ)相違点1 製品が含有している食酢が、本件発明では、醸造酢であるのに対し、引用発明では、そのような特定はない点。 (ウ)相違点2 酸味のマスキング剤が、本件発明では、スクラロースであり、その添加量が製品の0.0028~0.0042重量%であるのに対し、引用発明では、アスパルテームであって、その添加量が製品濃度で1~200mg%である点。」(二次判決第3~4頁) 「引用発明、本件発明との一致点及び相違点が、本件審決の認定したとおりであることは、当事者間に争いがない。」(二次判決16頁) (2)相違点1について 「相違点1については、引用発明には対象となる酸味の強い食品、調味料の例として『醸造酢、ビネガー、合成酢等の食酢、すし酢、合せ酢等の加工酢』が挙げられている・・・ので、当業者において、引用発明の食酢として醸造酢を用いることは容易に想到することができたものであり、被告も明らかに争わない。」(二次判決16~17頁) (3)相違点2について ア 出願時における当業者の認識について (ア)高甘味度甘味料が酸味のマスキング剤としての機能を備えるとの認識について 「引用例(甲1)の記載に加え、後掲の各証拠の記載によれば、・・・本件特許出願の出願日の当時、当業者には、アスパルテーム、ステビア、サッカリン等の慣用された高甘味度甘味料が、酸味食物の酸味を消す効果、すなわち、酸味のマスキング剤としての機能を備えるとの認識があったものと認められる。」(二次判決17頁) (イ)スクラロースについて 「以下の・・・各文献・・・によれば、スクラロースがショ糖の約650倍の甘味を有する非代謝性ノンカロリー高甘味度甘味料であり、アスパルテーム、ステビア、サッカリンナトリウム等の他の高甘味度甘味料と比較し、甘味の質においてショ糖に似ていることは、当業者の技術常識であったものと認められる。」(二次判決17~22頁) イ 相違点2の容易想到性について (ア)酸味のマスキング剤としてスクラロースを用いることについて 「各文献には、ショ糖の約650倍の甘味を有する非代謝性ノンカロリー高甘味度甘味料であるスクラロースが、アスパルテーム、ステビア、サッカリンナトリウム等の他の高甘味度甘味料と比較して、甘味の質においてショ糖に似ているという特徴があることから、多くの種類の食品において嗜好性の高い甘味を付与することが見込まれているとの記載があり、加えて、・・・本件出願前に、ショ糖や、アスパルテーム、ステビア、サッカリンといった慣用の甲甘味度甘味料が酸味のマスキング剤としての機能を備えることが、当業者に周知であったことからすると、引用発明のアスパルテームに代えてスクラロースを採用してみることは、当業者が容易に想到することができたというべきである。」(二次判決22頁) (イ)スクラロースの添加量について 「各文献には、スクラロースをその甘さが感じられる閾値より低い濃度で用いた場合でも、塩なれ効果、卵風味の向上効果を奏すること・・・の記載がある。 以上の記載によれば、スクラロースの添加については、向上させようとする風味や製品によって使用量は上下するものの、・・・スクラロースの甘味を感じさせない量であっても製品の風味の向上が可能であることを当業者は認識していたものと認められる。」(二次判決22~23頁) (ウ)アスパルテームの添加量について 「引用例には、アスパルテームによる酸味緩和効果を得るための下限値として1mg(0.001重量%)、1.5mg%(0.0015重量%)、5mg%(0.005重量%)が挙げられ、上記のスクラロースと同等のレベルの使用量で酸味のマスキングが行えることが記載され、更に、アスパルテームの甘味により、食品・調味料の呈味バランスが崩れないようアスパルテームの添加量は食品・調味料の種類に応じ、適宜設定すべきであるとされている。」(二次判決23頁) (エ)酸味のマスキング剤の添加量について 「酸味のマスキングは、甘味の付与を目的とするものではなく、所望の酸味のマスキング効果を得ようとする場合には、甘味がつきすぎて味のバランスが崩れることがないように、甘味料の添加量を減らすことは考えても、増量することは考えないから、スクラロースを酸味のマスキング剤に使用する場合であっても、当業者は、酸味のマスキングが実現可能な低い濃度でスクラロースを使用することを指向する。」(二次判決23頁) (オ)スクラロースの添加量についてのまとめ 「そうすると、スクラロースを、引用発明の食酢を含む食品(ドレッシング、ソース、漬物、及び調味料などの製品)における、酸味のマスキング剤として使用するにあたり、酸味緩和効果が得られるものの、スクラロースの甘味により前記製品の旨みバランスを崩さない濃度範囲のうちの低い濃度を、製品ごとに選択して、スクラロースの従来の使用濃度・・・に重複する0.0028~0.0042重量%という濃度範囲に至ることは、当業者に容易であったということができる。」(二次判決23頁) (カ)本件発明の効果について 「そして、本件明細書の実施例2~4を参照しても、0.0028~0.0042重量%の濃度範囲を境にして、当業者の期待、予測を超える格別顕著な効果を奏しているとは評価できない。」(二次判決24頁) (キ)相違点2についての判断のまとめ 「以上によれば、アスパルテームを製品濃度1~200mg%(=0.001~0.2重量%)で添加する引用発明から、スクラロースを製品の0.0028~0.0042重量%で添加することは、容易に想到することができたものである。」(二次判決24頁) ウ 二次審決の判断の誤りについて 「本件審決は、トレハロースのように醸造酢の酸味を増強する甘味料も存在することを根拠の1つに挙げて、引用発明並びに甲2文献、甲3文献、甲7文献及び甲8文献の記載から、甲甘味度甘味料一般が酸味を緩和させる効果を有することまで導き出すことはできないと判断しているが、上記説示したところに照らし、誤りというべきである。」(二次判決24~25頁) 「以上のとおりであるから、本件審決の進歩性に関する判断には誤りがあるので、原告の取消事由1は理由がある。 ・・・ 以上によれば、原告主張の取消事由1は理由があるから、本件審決中、請求項1に係る部分は取消しを免れない。」(二次判決26頁) 7.当審の判断 当審は、上記2.(1)「一次判決の拘束力について」及び6.「二次判決の拘束力について」に記載した判示事項を前提として、本件特許は、請求人が主張する無効理由1(甲第1号証を主引例とした進歩性)によって無効にすべきものと判断する。また、本件特許は、無効理由2(甲第9号証を主引例とした進歩性)~無効理由6(新規事項)の理由によっては無効にすることはできないと判断する。その理由は以下のとおりである。 (1)無効理由1(甲第1号証を主引例とした進歩性)について ア 甲号証及び乙号証の記載事項 甲1ないし甲10、甲23及び乙15には、以下の各事項が記載されている。 [甲1に記載された事項] (1a)「1.酸味の強い調味料又は食品の製造において、最終製品濃度で1~200mg%のα-L-アスパルチル-L-フェニルアラニンメチルエステルを添加することを特徴とする酸性調味料又は食品の製造法。」(特許請求の範囲1.) (1b)「本発明は、α-L-アスパルチル-L-フェニルアラニンメチルエステル(以下アスパルテームと記載する)の添加により、酸味がマイルドで嗜好性の高い酸性調味料又は食品の製造法に関する。」(第1頁左欄最終行~右下欄3行) (1c)「従来、酸味を緩和するとして知られている呈味成分には、糖類、アミノ酸等がある。しかし、これらの呈味成分を用いることによる酸味緩和効果は必ずしも十分なものではない。例えば、砂糖の場合、比較的多量に添加しないと満足な効果が得られず、その際、甘味がつきすぎて味のバランスが崩れてしまうし、褐変が促進されることにもなり、更にはベタツキ食感となり物性的にも影響を与える。 呈味性、物性等に影響を与えずに酸味を緩和するための試みとしては、例えばpH低下剤の選択など種々行われてきているが、必ずしも満足な結果を得ていないのが実情である。 本発明者らは、上記現状に鑑み、酸味の強い調味料又は食品の酸味を味全体のバランスを崩すことなく緩和し、嗜好性、保存性を高める方法を開発すべく鋭意検討を重ねた結果、アスパルテームの添加により、従来の酸味緩和剤に比べて顕著な効果、即ち、いわゆる“酢カド”がとれて、非常にマイルドな酸味になり、しかも、味全体の調和が図られることを見い出し、本発明を完成したものである。」(第2頁左上欄最終行~左下欄1行) (1d)「本発明の対象となる酸味の強い食品、調味料としては、例えば、以下のものが挙げられる。 (1)醸造酢、ビネガー、合成酢等の食酢、すし酢、合せ酢等の加工酢 (2)マヨネーズ、ドレッシング類、ソース類 (3)酢豚の素、冷麺のたれ等の中華料理用たれ・調味料類 (4)酢漬、マリネ類、酢煮等の漬物・加工食品 (5)梅ぼし、梅酢、梅肉合え、梅びしお等の梅加工食品 (6)サワークリーム、ヨーグルト、酸乳等の乳製品 (7)有機酸その他のpH低下剤の添加により、本来のpHを低下して保存性を高めた食品・調味料類。例えば、 (イ)カレー、シチュー、ハンバーグその他の密封保存食品 (ロ)包装麺類 (ハ)蒲鉾、魚肉ソーセージ (ニ)佃煮、惣菜 アスパルテームをこれらの酸味の強い食品・調味料類に対し、1~200mg%濃度となるように添加する。この場合の濃度は最終製品濃度であるが、例えば濃縮タイプのもの等で飲食時、水等で稀釈する場合には、稀釈品中の濃度とする。アスパルテーム濃度が1mg%以下の場合、酸味緩和効果が得られず、逆に200mg%以上になるとアスパルテームの甘味により、本来の味のバランスが崩れ易い。また、この呈味バランスは、対象とする食品・調味料に含まれる他の成分、例えば糖その他の甘味物質、食塩、有機酸、アミノ酸等により影響を受けるため、上記アスパルテーム濃度の範囲内で至適のアスパルテーム添加量を食品・調味料の種類に応じ、適宜設定するようにする。 具体的には、例えば、マヨネーズの場合、一般にpHは3.5~4程度であるが、他の保存料を併用せず、保存性を高める目的で有機酸使用量を増加してpHを更に低下した場合、明かに酸味が強まるが、他の甘味料に代えて(又は併用して)アスパルテームを添加する場合、アスパルテーム濃度が1.5~20mg程度で、呈味バランスが良好で、強い酸味、甘味による嗜好性の低下はみられない。」(第2頁左下欄2行~第3頁左上欄4行) (1e)「本発明方法によれば、アスパルテームを、甘味を付与しないか或は甘味により食品全体の呈味バランスを損わない程度の少量を添加することにより、酢カドのないマイルドな酸味が得られ、例えば砂糖等の酸味緩和剤に比べて、著しい酸味緩和効果が達成できるため、食品・調味料類の嗜好性の向上と共に保存性の改善にも大きく寄与するものである。」(第3頁左下欄1~8行) (1f)「実験例1 食酢(酢酸として酸度4.5%)にアスパルテームを0.5mg%~50mg%を添加溶解したものを調製し、無添加品を対照として、よく訓練された味覚パネル20名により2点比較法で酸味の強さについて官能評価を実施した。結果を第1表に示す。 」(第3頁右下欄) (1g)「実験例2 食酢(酢酸として、酸度4.5%)にアスパルテームを1mg%~100mg%添加し、対照として蔗糖を200mg%~20g%添加したものを用い、よく訓練された味覚パネル20名により官能評価を実施した。結果を第2表に示す。 人数は、酸味が強い、味全体が好ましいとした人数」(第4頁左上欄) (1h)「実施例1 加工酢の配合 アスパルテーム 添  加  区   砂糖添加区 食       酢 1000  ml  1000ml 「 味 の 素 」   10  g     10g 「アミリッチCR」    3  g      3g 食       塩  100  g    100g 水      310  ml     - アスパルテーム      2.5g      0 砂       糖    0       310g」(第4頁右上欄1~11行) (1i)「実施例2 市販の乳化型ドレッシング(砂糖6%含有、酸度3.5%)1000mlに更に酢50ml及びアスパルテームを各20、36、50mgを添加混合したドレッシングを調製した。」(第4頁左下欄1~5行) (1j)「実施例3 キュウリ1kgを6%食塩水11に3日間浮かし漬した下漬けキュウリに、食酢380ml、砂糖120gと水300mlを一且煮立て50℃にまで降温させたものにアスパルテーム0.35gを混合溶解した甘酢液を加えて2日間本漬けを行ってキュウリ甘酢漬ピクルスを得た。」(第5頁左上欄2~8行) (1k)「実施例4 常法に従ってポタージュスープ(pH6.2)を調製し、これにクエン酸35%、グルタミン酸50%、アスパラギン酸10%及びリンゴ酸5%から成る有機酸組成物をポタージュスープに対し0.13%並びにアスパルテームを0.005%添加し、密封フィルム包装して湯浴中95℃、30分間加熱殺菌して本発明のポタージュスープ(pH5.2)を調製した。」(第5頁右上欄1~9行) (1l)「実施例5 常法に従って調製したポテトサラダ(pH5.5)原料に0.25%のクエン酸及び0.01%のアスパルテームを添加し、pH4.5のポテトサラダを調製した。 対照として、アスパルテーム無添加のポテトサラダ(pH4.5)を用い、味覚パネル20名による官能評価を実施した。結果を第7表に示す。 以上の結果より明らかなように、本発明方法により、酸味がマイルドで、嗜好性、保存性に優れた酸性調味料及び食品が容易に製造できる。」(第5頁左下欄第1行~右下欄3行) (1m)「因に、アスパルテームを添加せず、砂糖を使用する場合、10%(甘味度でアスパルテーム50mg%層等)添加しても、酢カドがあり、刺激的な酸味が感ぜられると共に、甘みがつきすぎて、呈味のバランスが崩れ、明らかに嗜好性が低下する。 また、本来中性で緩衝能の高い食品、例えばハンバーグ等の肉製品の場合、殺菌、静菌効果を高める目的で有機酸等のpH低下剤を使用すると、比較的多量の酸成分が必要となる。酸味を緩和するため、砂糖等の甘味料を用いると、甘味により、本来の呈味バランスが著しく崩れ、しかも尚、酢カドが残ってしまうが、アスパルテームを5~15mg%程度使用すれば、甘味により、本来の呈味バランスが損なわれず、嗜好性の低下を伴わずに酢カドをとり、マイルドで好ましい酸味となる。 一方、このようにpHを更に低下するような場合でなくても、1~20mg%程度の微量のアスパルテームの添加で、酢カドのないマイルドな酸味が得られるため、上品な味で、風味的にもより好ましい食品・調味料となり、高級感が付与されると共に、いわゆる“酢酔い”の飲食者にも好まれるものとなる。尚、この程度のアスパルテーム濃度であれば、アスパルテームによる甘味の発現は殆どみられない。」(第3頁左上欄5行~右上欄8行) [甲2に記載された事項] (2a)「食物は生命維持のためだけでなく,その味を楽しむものであるが故に,食物もしくは料理の味には誰しも深い関心を抱いている.調理された食物の味は,基本的4原味(sweetness, saltiness, sourness, bitterness)の他,旨味,辛味,渋味,えぐ味が加わりさらに香りやその食物の持つ独特の味が加わって風味として賞味されるもので,極めて複雑なものである.単純化した2種類の基本味についてだけでも,混合することにより味を強める効果(対比効果〉や味を弱める効果(抑制効果)の働くことが知られている.さらに2種類の味(例えば甘味と塩から味)から中間の“甘から味”になることを“味の中和”といい,一般的には美味と感じられるようになる.」(第1頁左欄1~15行) (2b)「これらの報告の中で最も代表的なものとして教科書にも記載されているKamen ら1)の結果も他の報告との間にかなりの相違がみられる.混合効果の判定で一致しているのは,酸味にショ糖を加えると酸味が弱められる抑制効果があること,および苦味にショ糖を加えると苦味が弱められる抑制効果があることの二点だけであり(表-4参照),他の混合系での効果は区々である.当然のことながら,混合する2種の呈味物質の濃度レベルについても,閾下,閾値付近,閾上濃度で効果の現れ方も異なるようである.」(第1頁右欄8~19行) (2c)「なお,ショ糖のかわりに最近(1983年8月),厚生省から食品添加物として使用することが認可になった新しいアミノ酸系人工甘味料であるaspartyl phenylalanine methyl ester(以下、アスパルテームと略す)を甘味成分(sweetness component)としてとり上げ,これと他の基本味質(basic taste qualities)を混合したときの効果についても調べた.」(第2頁左欄1~8行) (2d)「基本的4原味の混合効果 基本味のうちの2種類ずつを混合したときの効果について,順位法による官能検査で調べた.実験は味の組み合わせが8セット,主味(一次刺激)溶液の濃度が2シリーズ,添加した味成分(二次刺激)の濃度が5段階で総計80検体について実施した.主味溶液と検査溶液の濃度は表-1に示した.官能検査のパネル数はクラス別の1グループ(31~52人)で各実験毎に異なっている.判定結果を集計し,順位合計とKramerの検定による有意性およびKendallの一致性係数WおよびF分布による有意性の検定を行った結果を表-3に要約した. 一般的に,主味(一次刺激)に対して添加された他の味成分(二次刺激)は主味の強さを弱める効果(抑制効果)を現す.例外として次の2点が認められた.(1)塩から味にショ糖を添加する場合に,主味がうすい(1%食塩溶液)とき,これに添加されたショ糖は塩から味を強める効果(対比効果)を示した.(2)酸味溶液に添加されたカフェインは酸味を強める効果(対比効果)を示した. 表-3 順位法による味の混合効果の判定 ・・・ 」(第4頁右欄1行~第5頁表-3 b)及びb’)) (2e)「 」(第7頁) (2f)「アスパルテームの調味効果 アスパルテームと他の呈味質を混合したときの調味効果について,順位法による官能検査で調べた.実験は味の組み合わせが5セット,主味溶液の濃度が2シリーズ,添加した味成分の濃度が5段階で総計50検体について実施した.主味溶液と検査溶液の濃度は表-1に示した.官能検査のパネル数はクラス別の1グループ(31~52人)で各実験毎に異なっている.判定結果を集計し,順位合計とKramerの検定による有意性およびKendallの一致性係数WとF分布による順位付けの有用性を検定した結果を表-5に要約した.」(第9頁右欄下から9行~第11頁左欄4行) (2g)「 」(第10頁上部) (2h)「アスパルテームの添加効果 a)酸味に対して: 添加されたアスパルテーム(終濃度,0,0.005,0.025,0.05,0.01%)は0.01%及び0.1%酢酸溶液の酸味を弱める効果を示した(評価の有意性P<0.05,一致性係数W=0.104および0.113,F分布P<0.01). この結果を甘味質とてショ糖を添加したときの結果と比較すると,ショ糖添加による酸味の減少は添加量に比例して著明に現れるが,アスパルテームはショ糖と等甘味度になる量(ショ糖の1/200量)の添加にも拘らず酸味を弱める効果が明白でない.これは,アスパルテームの味刺激に時間的な遅れがある為と思われる.アスパルテームの味の現れ方はサッカリンに類似しており,口に入れた瞬間は微苦味に近く,数秒後に甘味を感ずるようになる. そして味覚検査を終わってからも甘い後味が暫く続く.このように味覚刺激に遅れの時間差があるために官能検査の判定が微妙に変動したのであろう. b)塩から味に対して: 添加されたアスパルテーム(終濃度,0,0.01,0.025,0.035,0.050%)は,1%および2%食塩液の塩から味を弱める効果を示した.(有意性P<0.05,一致性係数W=0.508および0.771,F分布P<0.01). ショ糖は,1%食塩溶液に添加されたとき,塩から味を強めると言う特異な効果を示したが,アスパルテームにはその様な効果はなかった.しかし,添加量0.010~0.035%の範囲ではパネルの判定が複雑に変動した.その理由は,アスパルテームの味の知覚に時間的な遅れがあるからであろう.」(第11頁左欄5行~右欄15行) [甲3に記載された事項] (3a)「食物の味は単独で味わわれることもあるが,種々の味の混合味として味わわれることが多く,各種の味は互に関連し合っている。甘味食物に少量の食塩を添加すると甘味が強くなるとか,酸味食物に砂糖を加えると酸味が減少するとか,食べ方の順序により味が変化するなどは経験的によく知られた味の相互作用を示す例である。」(第132頁左欄4~9行) (3b)「IV 甘味と酸味の関係 甘味試料としては煮物,ジュース,ゼリー,羊かん等に相当するように5,10,25,50%ショ糖溶液を調製し,それらに対し,5段階の量の酢酸を添加し,甘味と酸味の関係を検討した。一方,酸味試料としては閾値,酢のもの料理,調味酢,酸味の強い食物に相当する0.01,0.1,0.3,0.5%酢酸溶液を調製し,それらに対し各々5段階の量のショ糖を添加し,酸味と甘味の関係を検討した。 味覚テストの方法は前述と同様に行なった。 実験結果の要約は次のようであった。 1.甘味は閾値程度の少量の酢酸添加によっても減少し,添加量を増すに従って更に減少することがわかった。 2.酸味はショ糖添加により減少する。その添加量は多くなるに従って更に減少するが,量的に比例するのではなく,pHに関係するので0.3%以上の酢酸溶液になると非常に多量のショ糖を添加しても酸味はなかなか消えないという結果であった。 3.0.1%酢酸溶液にショ糖5~10%添加の味は酸味と甘味のつり合いがよく,被験者の多くに好まれたが,これらは,調味酢や中国料理のくずあんの濃度にほぼ同じである。」(第135頁右欄2~22行) [甲4に記載された事項] (4a)「[0003]従来から、上記のような食塩を含有する食品においては、塩かどを取り、こくを付け、風味を向上させるため、グリチルリチン塩、サッカリン、アスパルテーム、甘草抽出物、ステビア、ネオヘスペリジンデヒドロカルコン、サイクラメート等の砂糖の20倍以上の甘味を有する高甘味度甘味料、グリシン、アラニン、グルタミン酸ナトリウム等のアミノ酸又は5’-リボヌクレオチドナトリウム、5’-イノシン酸等の核酸の旨味成分、コハク酸ナトリウムなどの有機酸を使用している。しかし、塩味は、後に続く味があるために、後続する塩味を十分丸くし、塩かどをとることが困難であった。例えば、目的とする効果が得られるまで高甘味度甘味料を添加すると、それぞれの甘味料が持つ独特の苦みを感じるようになる。また、アミノ酸では、アミノ酸特有のアミノ酸臭を生じる。さらに、核酸は後味に残り、充分な効果が得られるまで添加することができないという課題があった。」 (4b)「[0007]本発明のシュクラロースは、4,1’,6’-トリクロロ-4,1’,6’-トリデオキシ-ガラクトスクロースまたは1’,6’-ジクロロ-1’,6’-ジデオキシ-(β)-D-フラクトフラノシル4-クロロ-4-デオキシ-(α)-D-ガラクトピラノシドとして知られており、しょ糖の約650倍の甘味を有する高甘味度甘味料である。一般に、シュクラロースの甘味の閾値は、平均0.00038%である。しょ糖の甘味の閾値0.31%での甘味倍率は、約800倍となり、閾値付近では甘味倍率が高くなることが知られている(Progressin sweeteners, page131-132, ELSEVIER APPLIED SCIENCE)。 [0008]本発明において、食塩含有食品に、シュクラロースを添加する方法は、食品の種類等により特に限定されるものではない。例えば、食塩含有食品となる食品素材にシュクラロースを添加してもよいし、食品素材の加工中に食塩、その他の添加物等とともにシュクラロースを添加してもよいし、食塩の加工が終了した後に添加してもよい。シュクラロースの食塩含有食品への添加量は、食品の風味を改善する量であれば特に限定されるものではなく、例えば、食品に含有されている食塩の量によっても異なるが、一般に食塩100重量部に対して、0.0001~2.5重量部が好ましい。このシュクラロースの添加量は、シュクラロースの甘味の閾値以下でも、すなわち甘味のない範囲でも塩なれ効果があることを意味する。なかでも、シュクラロースの添加量は、0.001~2.5重量部がより好ましく、さらに0.001~1重量部が好ましい。 [0009]上記のように食塩含有食品にシュクラロースを添加することにより、食塩を含有する食品の風味を改善することができるが、ソーマチン、アセスルファームカリウム、アリテーム、、ステビア、ネオヘスペリジンデヒドロカルコン、甘草などの高倍率甘味料を併用してもよい。また、グリシン、アラニン、グルタミン酸等のアミノ酸、コハク酸塩、クエン酸三ナトリウム等の有機酸、ホエイソルト、リン酸三カリウム等の無機酸、イノシン酸ナトリウム、グアニル酸ナトリウム等の核酸等の食品添加物の調味料を併用してもよい。」 (4c)「[0014] [表2] 」 (4d)「[0015]表2から明らかなように、シュクロースは、食塩2~20g/100gの範囲にわたり、0.001~2.5gの添加量の範囲にわたり良好な結果が得られた。なかでも、食塩2、5、8g/100gの範囲においては、ショクラロースの甘味の閾値以下の量においても塩なれ効果があることが分かった。一方、甘草抽出物製剤は、適度の範囲での塩なれ効果はあるが、添加量を多くすると苦みを伴った不快な味になり、評価されなかった。」 (4e)「[0026]実施例6 果糖ぶどう糖液糖85部、50%乳酸8.7部、食塩28部、動物蛋白加水分解物14部、グリシン2部、ウコン色素1部に対して、シュクラロース0.01部(食塩100部に対して0.036部)を添加し、水に溶解して全量300部とし、たくあん漬け用調味液を得た。 [0027]このたくあん漬け用調味液は、シュクラロース無添加区に比べ塩かどがとれ、味にこく味が増し、嗜好性の高いたくあん漬け用調味液であった。このたくあん漬け用調味液30部に塩ぬきしたたくあん70部をつけ込み、たくあん漬けを得た。このたくあん漬けは、シュクラロース無添加区に比べ塩かどがとれ、味にこく味が増し嗜好性の高いたくあん漬けであった。」 (4f)「[0010] [実施例]以下に本発明の食品の風味向上法を説明する。 実験例1 イオン交換水100重量部に食塩8重量部を添加し、各種高甘味度甘味料を甘味度に応じた濃度で併用して、塩なれ効果をパネル10名で官能により評価した。その結果を表1に示す。なお、ここで用いられている甘草抽出混合製剤とは、グルチルリチン酸を60%以上含有する甘草抽出物50%とクエン酸三ナトリウム50%とを混合した製剤である。 [0011] [表1] [0012]表1から明らかなように、シュクラロースと甘草抽出混合製剤において、良好な結果が得られた。」 [甲5に記載された事項] (5a)「[0023]使用可能な高甘味度甘味料の例を挙げれば、アスパルテーム、グリチルリチン、サッカリン、ステビオシド、レバウシドA、ズルチン、アリテーム、トリクロロシュクロース(スクラロース)などがある。」 [甲6に記載された事項] (6a)「 Sucralose is the joint product of Johnson and Johnson's subsidiary McNeil Specialty Products and Tate & Lyle PLC. It is derived from sucrose but is non-caloric and 600 times sweeter than sucrose. Sucralose is sufficiently heat-stable for use in baked foods. FDA is currently reviewing a petition for its approval in food products.」(第887頁右欄7~12行)」 (6b)「スクラロースはJohnson and Johnsonの子会社であるMcNeil Specialty ProductsとTate & Lyle PLCとの共同開発品である。これはスクラロースに由来するものであるが、ノンカロリーで且つショ糖の600倍甘い。スクラロースは焼かれる食品での使用において十分に熱安定性がある。FDAは現在、食品中でのその承認についての上申書を検討中である。」(甲第6号証抄訳) [甲7に記載された事項] (7a)「酢酸3~5重量%を含有する醸造酢100重量部に対し,ステビア甘味料が,総ステビオサイドとして0.1~1.5重量部の範囲にあることを特徴とする甘味料配合の低カロリー醸造酢。」(特許請求の範囲) (7b)「ところで,酢は,特有の酸味をもつとともに殺菌性があること,野菜類中のビタミンC破壊酵素の働きを防止する作用があること,食物の消化,吸収に有効であることなどから,調味料として,食品加工原材料として,あるいはまた,健康食品そのものとして,重要な位置にあるにもかかわらず,高カロリーの砂糖の併用を余儀なくされるという欠点をもつ。 これは,酢を利用するときは,その食品に良好な味質を付与させるため,あるいは,酢特有の強い酸味や刺激臭を可及的に緩和させるなどのためには,相当量の砂糖の存在が必要不可欠となっているからである。 問題点を解決するための手段 本発明者は,甘味倍数の高い各種の甘味料と種々の酢との配合について検討を重ね,その結果,食品としての安全性の確保についてはもちろんのこと,良好な味質の付与,酸味の緩和,刺激臭の低減,化学的安定性の維持などを実現し,その上砂糖の併用を皆無とし得るか,あるいは砂糖使用量を大幅に減じ得るのは,いわゆる酢酸発酵によって得られる醸造酢と天然のステビア甘味料との組合せだけに限られることを見出し,本発明に到達したものである。」(第1頁右下欄14行~第2頁左上欄17行) (7c)「実施例 1 次の組成からなる本発明の醸造酢を製造した。 米酢(酢酸含有量4.0重量%) ・・・・・・・・・・100重量部 ステビア甘味料(ステビアフィンH) ・・・・・・・・・・0.3重量部」(第2頁右上欄18行~左下欄第3行) (7d)「実施例 2 次の組成からなる本発明の醸造酢を製造した。 かす酢(酢酸含有量4.0重量%) ・・・・・・・・・・100重量部 ステビア甘味料(SKスィート) ・・・・・・・・・・0.5重量部」(第2頁左下欄10~15行) [甲8に記載された事項] (8a)「表4-10は酸の添加とサッカリンの苦味を試験した結果であるが,クエン酸を0.5%添加した区はいずれもまったく苦みが感じられない。・・・ また同表によれば,酸の添加量が多くてもサッカリンの甘味によって味覚的に刺激的な酸味をあまり感じさせないという酸味の面からの効果もみられる。」(第124頁5~10行) (8b)「 」(第124頁表4-10) [甲9に記載された事項] (9a)「スクラロースの味覚特性と他の高甘味度甘味料との比較 ・・・ II研究方法 (1)試薬 スクラロース:・・・ アスパルテーム:・・・ ステビア:・・・ サッカリンナトリウム:・・・ (2)試料 日本固有の食品として缶コーヒー、揚げ蒲鉾、麺つゆ、缶入りしるこ、炭酸飲料、無果汁ゼリーを選び、その配合を表1に示した。 」(第110頁論文タイトル~右欄表1「缶コーヒー」の配合表) (9b)「III結果 (1)水溶液での甘味 1)可知の閾値 ・・・ スクラロースの閾値0.0006%に対し、ショ糖0.61%であることより、閾値でのスクラロースの甘味倍率は約1000倍であることが判明した。 ・・・ 3)甘味質の特徴 図1にスクラロース、アスパルテーム、ステビア、サッカリンナトリウムの結果をレーダーグラフとして示した。スクラロースは全ての評価項目において、正9角形に近い形を描き、ショ糖の甘味質に良く似た甘味質であることが判明した。」(第111頁右欄16行~下から2行) (9c)「(2)食品中の甘味 1)食品中の甘味倍率 ・・・ 甘味倍率は食品の種類及び食品中のショ糖濃度により変化することが明らかとなった。・・・ 表2 各食品における添加量と甘味倍率 ・・・ 2)食品への最大添加量 缶コーヒーにおける、最大添加量測定結果は図4に示したように、0.036%であった。同様にして他の食品における最大添加量を求め、その結果を表3に示した。 」(第112頁左欄~第113頁左欄「(2)食品中の甘味」の1)及び2)の項) 当審注:上記図4では、スクラロースの添加量が0.005%毎にプロットされており、缶コーヒーに対して、0.005%~0.04%の濃度になる添加量でスクラロースを添加したことが看取できる。 (9d)「3)食品中での甘味質の特徴 スクラロース、アスパルテーム、ステビア、サッカリンナトリウムを用い、缶コーヒー、麺つゆについてその食品の風味に重大な影響を及ぼすと思われる項目を設定し、評価した。その結果を図5に示した。いずれの食品においても、スクラロースはショ糖添加の食品に近い風味を示していることが明らかとなった。 缶コーヒーでは、「まろやかさ」、「ミルク感」が他の甘味料より有意に優れ、「オフフレーバー」、「渋味」の好ましくない風味は少ないと評価された。 麺つゆでは、「こく」が他の甘味料よりも有意に優れており、「塩慣れ」、「風味(フレーバー)」が良いと評価された。 甘味の付与を目的とする食品として缶コーヒー、隠し味として使用する食品として麺つゆ、揚げ蒲鉾を選び、各甘味料を使用した時の美味しさについて評価し、食品毎の各甘味料間の順位を表4に示した。なお、アスパルテームは缶コーヒーと揚げ蒲鉾において、甘味が完全に消失したため評価より除外した。 ・・・ 」(第113頁左欄~右欄「3)食品中での甘味質の特徴」の項) (9e)「(1)可知の閾値 Jenner R.M.は、スクラロースの可知の閾値は0.00038%、ショ糖は0.31%であると報告している。本研究での結果は、この報告の約2倍であった。しかし、ショ糖に対する甘味倍率に換算した場合では、1.2倍であった。すなわち、官能検査でのパネラーの甘味に対する感受性に差はあるものの、同様の結果が得られたと考えられる。」(第113頁右欄「(1)可知の閾値」の項) (9f)「(2)甘味倍率 水溶液でのショ糖等価濃度と比較したときの、食品中でのスクラロースのショ糖等価濃度は、食品の種類により異なる結果が得られた。 炭酸飲料、無果汁ゼリーは他の食品のpHがほぼ7に近いのに対し、これらは3及び4付近であり、低い。又、麺つゆは食塩7%に醤油から由来する食塩4%、合計11%という多量の食塩を含み、揚げ蒲鉾1.5%の7.3倍の量を含有しており、食塩含量の高い食品である。このように、pHや食塩濃度の影響も一要因と考えられるが、食品のどの成分が影響しているかについては、今後食品成分のそれぞれの濃度を変化させた一連の実験が必要である。」(第113頁右欄「(2)甘味倍率」の項) (9g)「(3)嗜好性 食品の嗜好性については、過去の食経験が嗜好に影響する事が知られており、この事実より考えると、従来より大部分の食品に甘味を付与してきたショ糖の甘味が最も受け入れやすい甘味であると考えられる。 スクラロースは水溶液中では、いずれの評価項目においても他の甘味料よりもショ糖に近いという評価が得られ、さらに甘味付与を目的とした食品、隠し味として使用した食品、いずれの場合においても、スクラロースはショ糖の次か或いは最も好ましいと評価されている。 これは、甘味倍率が食品中の成分により変化するのとは異なり、甘味質は水溶液中でも、食品中でも他の成分に影響されることがない。すなわち、スクラロースは多くの種類の食品で噌好性の高い甘味を付与できることを示している。」(第113頁右欄「(3)嗜好性」の項) (9h)「Vまとめ (1)スクラロースは可知の閾値0.0006%の甘味料であり、その甘味倍率はpHなどの一部の食品成分の影響を受け変化することが明らかとなった。 (2)スクラロースは水溶液中においても、食品に応用した場合においても嗜好性が高いと評価され、食品産業に大きく貢献できる甘味料であることが示唆された。」(第114頁左欄「Vまとめ」の項) [甲10に記載された事項] (10a)「(2)補正について これに対して、出願人は、同時提出の手続補正書により、本願の特許請求の範囲を以下のように補正致しました。 『[請求項1] 醸造酢及び/又はリンゴ酢を含有する製品、又はコーヒーエキスを含有する製品に、スクラロースを該製品の0.000013~0.0042重量%の量で添加することを特徴とする酸味のマスキング方法。 [請求項2] クエン酸を水溶液濃度で0.1~0.3%含有する製品に、スクラロースを0.0000075~0.003重量%の量で添加することを特徴とするクエン酸含有製品の酸味のマスキング方法。』 この請求項1では、補正前の『酸味を呈する製品』を『醸造酢及び/又はリンゴ酢を含有する製品、又はコーヒーエキスを含有する製品』と補正し(補正1)、 補正前の『甘味の閾値以下の量で用いる』を『該製品の0.000013~0.0042重量%の量で添加する』と補正しました(補正2)。 上記の補正1について、本願明細書の実施例1~4では、醸造酢及び/又はリンゴ酢を含有する製品、又はコーヒーエキスを含有する製品に、スクラロースを添加することにより、これらの製品の酸味がマスキングできたことが記載されていますので、この補正1は、本願明細書に記載された事項に基づくものであり、何ら新規事項を追加するものではありません。 上記の補正2について、本願明細書の実施例1~4では、上記の製品にスクラロースを該製品の0.0013~0.0042重量%の量で添加することにより、該製品の酸味をマスキングできたことが記載されています。また、本願明細書[0008]段落には、酸味のマスキングのためには、高甘味度甘味剤の種類にかかわらず、甘味の閾値の1/100以上の量を最少量として用いることが好ましいことが記載されています。ここで、上記の実施例1~4で用いたスクラロースの量は、いずれも甘味の閾値以下の量でありますので、その1/100の量である0.000013重量%を下限としてスクラロースを用いて酸味をマスキングすることは、本願明細書に記載された事項に基づいています。 したがいまして、補正2も、何ら新規事項を追加するものではありません。」(第1頁下から22行~第2頁5行) (10b)「また、上記の請求項2を追加しました。請求項2の酸味のマスキング方法は、『クエン酸を水溶液濃度で0.1~0.3%含有する製品』に、スクラロースを該製品の『0.0000075~0.003重量%添加する』ものであります。 この請求項2について、本願明細書[0013]段落には、クエン酸の0.1%水溶液及び0.3%水溶液に、スクラロースをそれぞれ0.00075%及び0.003%添加することが記載されています。ここで、上述のように、本願明細書[0008]段落には、酸味のマスキングのためには、高甘味度甘味剤の種類にかかわらず、甘味の閾値の1/100以上の量を最少量として用いることが好ましいことが記載されています。[0013]段落に記載されるクエン酸水溶液に加えたスクラロースの量は、いずれも甘味の閾値の量でありますので、これらのスクラロースの量の1/100の量である0.0000075重量%を下限として、上記の量でクエン酸を含有する製品にスクラロースを加えて酸味をマスキングすることは、本願明細書に記載された事項に基づいています。 したがいまして、上記の請求項2の補正は、何ら新規事項を追加するものではありません。」(第2頁6~19行) (10c)「しかし、本発明1及び2の酸味のマスキング方法は、スクラロースを上記の量で上記の製品に添加して用いることにより、引用文献1に記載された発明からは想像できない、顕著な効果を奏するものであります。すなわち、スクラロースは、アスパルテームに比べて、酸味のマスキングにおいてより優れた効果を示します。このことは、以下の試験の結果からも明らかになります。 <試験1> 本願明細書実施例2に基づいて、醸造酢(酸度10%)6%を含有する酢液を作製し、これに対してスクラロース又はアスパルテームを加えて、これらの甘味剤の酸味のマスキング効果について試験しました。 スクラロースの添加量は、該酢液の0.0028重量%(実施例2で用いた量)、0.00028重量%及び0.000028重量%とし、アスパルテームについては、アスパルテームの甘味度がスクラロースの甘味度の1/3であるとされていることから(同じ量を用いるとアスパルテームの甘味度がスクラロースの甘味度の1/3)、上記のスクラロースの量のそれぞれ3倍量としました。」(第3頁8~21行) [甲23に記載された事項] (23a)「[0007]また、シュクラロースを、卵を含有すべき食品に卵風味向上有効量添加する卵風味向上法が提供される。本発明においてシュクラロースとは、4,1’,6’-トリクロロ-4,1’,6’-トリデオキシ-ガラクト-シユクロースまたは1’,6’-ジクロロ-1’,6’-ジデオキシ-β-D-フラクトフラノシル4-クロロ-4-デオキシ-α-D-ガラクトピラノシドとして知られており、しょ糖より約650倍甘く、非代謝性のノンカロリー高甘味度甘味料である。」 (23b)「[0012] [実施例]次に本発明の食品の卵風味向上剤及び卵風味向上法の実験例及び実施例を示し、本発明をさらに説明する。 実験例1 全卵50重量部に対して、シュクラロース又は表1に示した甘味料を各濃度となるように添加し、混合した系を、85℃にて15分間加熱した。その際の全卵溶液に対する風味増強効果を、パネル10名で官能評価した。なお、シュクラロース0.01重量部及びこの甘味に対応した各種甘味料の濃度をそれぞれ添加して評価した。その結果を表1に示す。 [0013] [表1] [0014]表1から明らかなように、いずれの甘味料を使用しても卵の風味向上効果は認められなかったが、シュクラロースを添加した場合には、明らかに卵の風味を向上させる効果が得られた。 実験例2 全卵50重量部に対してシュクラロースを、表2の各濃度で添加し、混合した系を、85℃にて15分間加熱した。その際の全卵溶液に対する風味増強効果を、パネル10名で官能評価した。その結果を表2に示す。 [0015] [表2] [0016]表2から明らかなように、シュクラロースの添加量が0.00001重量部の場合には、卵風味の向上効果は認められなかったが、0.0001重量部では、明らかにその効果が認められた。この濃度は、一般にシュクラロースの甘さが感じられる閾値である約0.00038%(Progress in sweeteners, page131-132, ELSEVIER APPLIED SCIENCE)よりも低い濃度である。このことから、シュクラロースが卵の風味を向上させる効果は、シュクラロースが示す甘味とは異なる作用であることが分かる。また、シュクラロースの添加量が20.0重量部では、シュクラロースの甘味が影響する添加量であるが、この場合においても、甘味度とは異なって、卵の風味の向上効果があることが分かる。」 [乙15に記載された事項] (乙15a)「3. トレハロースの特長的効果 トレハロースは非還元性,保湿性,良甘味,澱粉の老化抑制,たん白質の変性防止など大変重要でかつ興味ある効果を発揮する。これらの作用を利用した食品用途について表2に示す。 」(第58頁左欄7行~右欄3行) (乙15b)「3.7 矯味・矯臭作用 2種類以上の呈味物質を同時に味わうとき,それらの味は互いに関連しあっている。たとえば,甘味食物に少量の食塩を添加すると甘味が強くなるとか,酸味食物に砂糖を加えると酸味が減少するなどは日常誰でも経験することである。 溶解状態のトレハロースは水分子がいくつも重なった構造であると言われている。このことは水のクラスターを変化させたり,味蕾細胞との相互作用に何らかの影響を与えている可能性がある。実際に,いろいろな食品や素材に少量のトレハロースを加えて官能試験を実施した結果を,表4にまとめた。その中でもトレハロースに特長的なのは塩から味と酸っぱ味である。砂糖などの糖質は塩かどを取るののが普通であるが,しょう油(当審注:「しょう」の漢字をひらがなで表示した。)に2~5%のトレハロースを添加すると,逆に塩かどが立つのである。また,酸味料の種類や他の呈味物質の存在により酸味が強調されたり,マスキングされたりする不可解な現象を確認している。 」(第61頁右欄1行~第62頁左欄4行) (乙15c)「米粉や餅粉を使った団子・大福にトレハロースを応用した場合,柔らかさが持続し,低甘味であっさりしたものに仕上がる。」(第59頁左欄図3下1~3行) イ 引用発明について 上記6.(1)「引用発明、並びに本件発明と引用発明との一致点及び相違点について」に記載した判示事項のとおり、甲1には、下記の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。 「食酢を含む食品に、アスパルテームを該食品に対し1~200mg%の濃度となるように添加する、酸味の緩和方法。」 ウ 本件発明と引用発明との対比 上記6.(1)「引用発明、並びに本件発明と引用発明との一致点及び相違点について」に記載した判示事項のとおり、本件発明と引用発明との一致点及び相違点は、下記のとおりであると認められる。 一致点:食酢を含有するドレッシング、ソース、漬物、及び調味料からなる群より選択される少なくとも1種の製品に、酸味のマスキング剤を添加する該製品の酸味のマスキング方法である点 相違点1:製品の含有する食酢が、本件発明では醸造酢であるのに対し、引用発明ではそのような特定はない点 相違点2:酸味のマスキング剤が、本件発明ではスクラロースであり、その添加量が製品の0.0028~0.0042重量%であるのに対し、引用発明ではアスパルテームであり、その添加量が製品濃度で1~200mg%である点 そこで、上記各相違点について検討する。 エ 相違点1について 上記6.(2)「相違点1について」に記載した判示事項のとおり、甲1の摘記(1d)には、酸味の緩和の「対象となる酸味の強い食品、調味料の例として、『醸造酢、ビネガー、合成酢等の食酢、すし酢、合せ酢等の加工酢』が挙げられている」から、「引用発明の食酢として醸造酢を用いることは容易に想到することができたもの」である。 オ 相違点2について オ-1.出願時における当業者の技術常識について (ア)高甘味度甘味料が酸味のマスキング剤としての機能を備えるとの認識について 甲1の記載に加え、後掲の各証拠の記載によれば、本件特許出願の出願日において、当業者に次の事項が知られていたことが認められる。 (ア-1)基本味の混合効果について 甲2の摘記(2a)には、調理された食物の味は、基本的4原味(甘み、塩から味、酸味、苦み)の他、味、辛味、渋味、えぐ味が加わりさらに香りやその食物の持つ独特の味が加わって風味として賞味されるもので、極めて複雑なものであり、単純化した2種類の基本味についてだけでも、混合することにより味を強める効果(対比効果〉や味を弱める効果(抑制効果)が働くことが記載されている。 (ア-2)酸味食物にショ糖を加えた場合の抑制効果について 甲1の摘記(1m)には、酸味を緩和するため、砂糖等の甘味料を用いることが従来技術の一つとして記載されている。 甲2の摘記(2b)及び(2e)の表-4には、酸味にショ糖を加えると酸味が弱められる抑制効果があることが記載されており、摘記(2d)の表-3のb)及びb’)の官能検査結果からは、酸味がショ糖の添加量が多くなるに従って減少することが読み取れる。 甲3の摘記(3a)には、酸味食物に砂糖を加えると酸味が減少することが記載されており、摘記(3b)には酢酸溶液とショ糖溶液とを用いた味覚テストの結果について、酸味はショ糖添加により減少し、その添加量が多くなるに従って更に減少することが記載されている。 甲7の摘記(7b)には、酢を利用するとき、その食品に良好な味質を付与させるため、あるいは、酢特有の強い酸味や刺激臭を可及的に緩和させるなどのために、相当量の砂糖の存在が必要不可欠となっていることが記載されている。 (ア-3)ショ糖の添加量について 甲1の摘記(1m)には、酸味の緩和に砂糖を使用する場合、10%の添加でも酸味が感ぜられると共に、甘みがつきすぎて、呈味のバランスが崩れ、嗜好性が低下することが記載されている。 甲3の摘記(3b)には、酸味はショ糖の添加量が多くなるに従って減少するが、量的に比例するのではなく、pHに関係するので、0.3%以上の酢酸溶液になると非常に多量のショ糖を添加しても酸味はなかなか消えないことが記載されている。 (ア-4)ショ糖以外の甘味料の酸味抑制効果について 甲1の摘記(1e)には、酸味の強い食品・調味料にアスパルテームを、甘味を付与しないか或は甘味により食品全体の呈味バランスを損わない程度の少量を添加することにより、酢カドのないマイルドな酸味が得られ、例えば砂糖等の酸味緩和剤に比べて、著しい酸味緩和効果が達成できることが記載されている。 甲2の摘記(2f)~(2h)には、アスパルテームと他の呈味質を混合したときの調味効果を官能検査で調べた結果が記載されており、添加されたアスパルテームは酢酸溶液の酸味を弱める効果を示したこと、及びアスパルテームはショ糖と等甘味度になる量(ショ糖の1/200量)を添加したことが記載されている。 甲7の摘記(7b)には、甘味倍数の高い各種の甘味料と種々の酢との配合について検討したところ、醸造酢と天然のステビア甘味料との組合せにおいて、食品としての安全性の確保についてはもちろんのこと、良好な味質の付与、酸味の緩和、刺激臭の低減、化学的安定性の維持などを実現することができることを見出したことが記載されている。 甲8の摘記(8a)及び(8b)には、酸とサッカリンの味について試験した結果が記載されており、クエン酸の添加量が多くてもサッカリンの甘味によって味覚的に刺激的な酸味をあまり感じさせない効果がみられることが記載されている。 (ア-5)高甘味度甘味料について 甲4の摘記(4a)には、砂糖の20倍以上の甘味を有する高甘味度甘味料の例として、グリチルリチン塩、サッカリン、アスパルテーム、甘草抽出物、ステビア、ネオヘスペリジンデヒドロカルコン及びサイクラメートが記載されており、また、摘記(4b)には、シュクラロースがしょ糖の約650倍の甘味を有する高甘味度甘味料であることが記載されている。 甲5の摘記(5a)には、高甘味度甘味料の例として、アスパルテーム、グリチルリチン、サッカリン、ステビオシド、レバウシドA、ズルチン、アリテーム及びトリクロロシュクロース(スクラロース)が記載されている。 甲9の摘記(9a)~(9h)には、スクラロースの味覚特性と、他の高甘味度甘味料であるアスパルテーム、ステビア及びサッカリンナトリウムとの比較を行った研究結果が記載されており、摘記(9b)には、閾値でのスクラロースの甘味倍率はショ糖の約1000倍であること、及び摘記(9c)の表2には、食品中でのスクラロースのショ糖に対する甘味倍率が250~930倍であったことが記載されている。 (ア-6)高甘味度甘味料が酸味のマスキング剤としての機能を備えるとの認識についてのまとめ 以上によれば、上記6.(3)ア(ア)「高甘味度甘味料が酸味のマスキング剤としての機能を備えるとの認識について」に記載した判示事項のとおり、「本件特許出願の出願日の当時、当業者には、アスパルテーム、ステビア、サッカリン等の慣用された高甘味度甘味料が、酸味食物の酸味を消す効果、すなわち、酸味のマスキング剤としての機能を備えるとの認識があった」ものと認められる。 (イ)スクラロースについて 後掲の各証拠の記載によれば、スクラロースに関し、本件特許出願の出願日において、当業者に次の事項が知られていたことが認められる。なお、甲4及び甲23に記載されている「シュクラロース」は「スクラロース」と同義である。 (イ-1)甲4について a.スクラロースの甘味倍率及び甘味閾値について 甲4の摘記(4b)の[0007]には、シュクラロースが、しょ糖の約650倍の甘味を有する高甘味度甘味料であること、及び、一般に、シュクラロースの甘味の閾値は、平均0.00038%である。しょ糖の甘味の閾値0.31%での甘味倍率は、約800倍となり、閾値付近では甘味倍率が高くなることが記載されている。 b.スクラロースの添加量と甘味閾値について 甲4の摘記(4b)の[0008]には、食塩含有食品にシュクラロースを添加する場合、その添加量は、食品の風味を改善する量であれば特に限定されるものではなく、例えば、食品に含有されている食塩の量によっても異なるが、一般に食塩100重量部に対して、0.0001~2.5重量部が好ましいこと、及びこのシュクラロースの添加量は、シュクラロースの甘味の閾値以下でも、すなわち甘味のない範囲でも塩なれ効果があることを意味することが記載されている。 c.他の高甘味度甘味料について 甲4の摘記(4b)の[0009]には、食塩含有食品にシュクラロースを添加することにより、食塩を含有する食品の風味を改善することができるが、ソーマチン、アセスルファームカリウム、アリテーム、ステビア、ネオヘスペリジンデヒドロカルコン、甘草などの高倍率甘味料を併用してもよいことが記載されている。 甲4の摘記(4a)には、従来から、食塩を含有する食品において、塩かどを取り、こくを付け、風味を向上させるため、グリチルリチン塩、サッカリン、アスパルテーム、甘草抽出物、ステビア、ネオヘスペリジンデヒドロカルコン、サイクラメート等の砂糖の20倍以上の甘味を有する高甘味度甘味料を使用していたことが記載されている。 d.実施例について 甲4の摘記(4f)には、各種高甘味度甘味料を甘味度に応じた濃度で併用して、塩なれ効果をパネル10名で官能により評価した実施例1の実験データが記載されており、シュクラロースと甘草抽出混合製剤において良好な結果が得られたことが記載されている。 (イ-2)甲9について a.甘味質の特徴について 甲9の摘記(9b)には、スクラロース、アスパルテーム、ステビア及びサッカリンナトリウムの水溶液での甘味の官能検査結果がレーダーグラフとして示されており、スクラロースは全ての評価項目において、正9角形に近い形を描き、ショ糖の甘味質に良く似た甘味質であることが記載されている。 b.嗜好性について 甲9の摘記(9g)には、食品の嗜好性については、過去の食経験が嗜好に影響する事が知られており、この事実より考えると、従来より大部分の食品に甘味を付与してきたショ糖の甘味が最も受け入れやすい甘味であると考えられることが記載されている。 また、甲9の摘記(9g)には、スクラロースは水溶液中では、いずれの評価項目においても他の甘味料よりもショ糖に近いという評価が得られ、さらに甘味付与を目的とした食品、隠し味として使用した食品、いずれの場合においても、スクラロースはショ糖の次か或いは最も好ましいと評価されたこと、及び、スクラロースは多くの種類の食品で噌好性の高い甘味を付与できることが記載されている。 (イ-3)甲23について a.スクラロースについて 甲23の摘記(23a)には、シュクラロースが、しょ糖より約650倍甘く、非代謝性のノンカロリー高甘味度甘味料であることが記載されている。 b.実施例について 甲23の摘記(23b)の実験例1には、全卵50重量部に対して、シュクラロース又は表1に記載された甘味料(砂糖、ソルビトール、還元乳糖、サッカリンナトリウム、アスパルテーム、ステビア又はソーマチン)を添加し、混合した系を、85℃にて15分間加熱した際の全卵溶液に対する風味増強効果を官能評価したことが記載されており、添加量については、シュクラロース0.01重量部及びこの甘味に対応した各種甘味料の濃度をそれぞれ添加して評価したこと、及びシュクラロースを添加した場合には、明らかに卵の風味を向上させる効果が得られたが、他の甘味料では効果が得られなかったことが記載されている。 甲23の摘記(23b)の実験例2には、全卵50重量部に対してシュクラロースを、表2の各濃度(0.00001~20.0重量部)で添加し、混合した系を、85℃にて15分間加熱した際の全卵溶液に対する風味増強効果を官能評価したことが記載されている。 そして、その結果、シュクラロースの添加量が0.00001重量部の場合には、卵風味の向上効果は認められなかったが、0.0001重量部では、明らかにその効果が認められたこと、この濃度は、一般にシュクラロースの甘さが感じられる閾値である約0.00038%よりも低い濃度であること、及びこのことから、シュクラロースが卵の風味を向上させる効果は、シュクラロースが示す甘味とは異なる作用であることが分かることが記載されている。 (イ-4)スクラロースについてのまとめ 以上によれば、上記6.(3)ア(イ)「スクラロースについて」に記載した判示事項のとおり、「スクラロースがショ糖の約650倍の甘味を有する非代謝性ノンカロリー高甘味度甘味料であり、アスパルテーム、ステビア、サッカリンナトリウム等の他の高甘味度甘味料と比較し、甘味の質においてショ糖に似ていることは、当業者の技術常識であった」ものと認められる。また、甘味の質がショ糖に似ていることから、スクラロースは多くの種類の食品で噌好性の高い甘味を付与できることも知られていたといえる。 オ-2.相違点2についての判断 (ア)酸味のマスキング剤としてスクラロースを用いることについて 上記7.(1)オ オ-1.(イ)「スクラロースについて」における検討を踏まえると、甲4、甲9及び甲23には、上記6.(3)イ(ア)「酸味のマスキング剤としてスクラロースを用いることについて」に記載した判示事項のとおり、「ショ糖の約650倍の甘味を有する非代謝性ノンカロリー高甘味度甘味料であるスクラロースが、アスパルテーム、ステビア、サッカリンナトリウム等の他の高甘味度甘味料と比較して、甘味の質においてショ糖に似ているという特徴があることから、多くの種類の食品において嗜好性の高い甘味を付与することが見込まれている」ことの記載があり、また、甘味の質がショ糖に似ていることから、スクラロースが多くの種類の食品で嗜好性の高い甘味を付与できることも、当業者には認識されていたといえる。 加えて、上記7.(1)オ オ-1.(ア)「高甘味度甘味料が酸味のマスキング剤としての機能を備えるとの認識について」における検討を踏まえると、上記6.(3)イ(ア)「酸味のマスキング剤としてスクラロースを用いることについて」に記載した判示事項のとおり、「本件出願前に、ショ糖や、アスパルテーム、ステビア、サッカリンといった慣用の甲甘味度甘味料が酸味のマスキング剤としての機能を備えることが、当業者に周知であった」といえるから、「引用発明のアスパルテームに代えてスクラロースを採用してみることは、当業者が容易に想到することができた」ものと認められる。 (イ)スクラロースの添加量について 上記7.(1)オ オ-1.(イ)「スクラロースについて」における検討を踏まえると、甲4及び甲23には、上記6.(3)イ(イ)「スクラロースの添加量について」に記載した判示事項のとおり、「スクラロースをその甘さが感じられる閾値より低い濃度で用いた場合でも、塩なれ効果、卵風味の向上効果を奏すること」が記載されており、スクラロースの添加量については、甲4には一般に食塩100重量部に対して0.0001~2.5重量部が好ましい範囲として記載され、甲23には全卵50重量部に対して0.00001重量部(0.00002重量%)では風味の向上効果が認められなかったが、0.0001重量部以上(0.0002重量%以上)では明らかに効果が認められたことが記載されているから、上記6.(3)イ(イ)「スクラロースの添加量について」に記載した判示事項のとおり、「向上させようとする風味や製品によって使用量は上下する」ものの、0.0002重量%以下という「スクラロースの甘味を感じさせない量であっても製品の風味の向上が可能であることを当業者は認識していた」ものと認められる。 (ウ)アスパルテームの添加量について 甲1の摘記(1d)には、アスパルテームを酸味の強い食品・調味料類に対し、1~200mg%濃度となるように添加すること、濃度が1mg%以下の場合、酸味緩和効果が得られないこと、及び呈味バランスは対象とする食品・調味料に含まれる他の成分により影響を受けるため、上記アスパルテーム濃度の範囲内で至適のアスパルテーム添加量を食品・調味料の種類に応じ、適宜設定するようにすることが記載されている。 また、一つの具体例として、マヨネーズにおいて保存性を高める目的で有機酸使用量を増加してpHを低下した場合は、アスパルテーム濃度が1.5~20mg%程度で、呈味バランスが良好で、強い酸味、甘味による嗜好性の低下がみられないことが記載されている。 さらに、甲1の摘記(1m)には、他の具体例として、本来中性で緩衝能の高い食品、例えばハンバーグ等の肉製品において殺菌、静菌効果を高める目的で有機酸等のpH低下剤を使した場合は、アスパルテーム濃度が5~15mg%程度で、本来の呈味バランスが損なわれず、嗜好性の低下を伴わずに酢カドをとり、マイルドで好ましい酸味となること、及びこのようにpHを更に低下するような場合でなくても、1~20mg%程度の微量のアルパルテームの添加で、酢カドのないマイルドな酸味が得られることが記載されている。 これらの記載から、甲1には、上記6.(3)イ(ウ)「アスパルテームの添加量について」に記載した判示事項のとおり、「アスパルテームによる酸味緩和効果を得るための下限値として1mg%(0.001重量%)、1.5mg%(0.0015重量%)及び5mg%(0.005重量%)が挙げられ」ているから、当業者は「上記のスクラロースと同様のレベルの使用量で酸味のマスキングが行えること」を理解することができ、「更に、アスパルテームの甘味により、食品・調味料の呈味バランスが崩れないようアスパルテームの添加量は食品・調味料の種類に応じ、適宜設定すべきである」ことを理解することができる。 (エ)酸味のマスキング剤の添加量について 上記6.(3)イ(エ)「酸味のマスキング剤の添加量について」に記載した判示事項のとおり、「酸味のマスキングは、甘味の付与を目的とするものではなく、所望の酸味のマスキング効果を得ようとする場合には」、甲1等に記載されているように、「甘味がつきすぎて味のバランスが崩れることがないように」設定されるから、当業者は「甘味料の添加量を減らすことは考えても、増量することは考えない」。そうすると、「スクラロースを酸味のマスキング剤に使用する場合であっても、当業者は、酸味のマスキングが実現可能な低い濃度でスクラロースを使用することを指向する」といえる。 (オ)スクラロースの添加量についてのまとめ そうすると、上記6.(3)イ(オ)「スクラロースの添加量についてのまとめ」に記載した判示事項のとおり、「スクラロースを、引用発明の食酢を含む食品(ドレッシング、ソース、漬物、及び調味料などの製品)における、酸味のマスキング剤として使用するにあたり、酸味緩和効果が得られるものの、スクラロースの甘味により前記製品の旨み(当審注:「呈味」の誤記とも解される。)バランスを崩さない濃度範囲のうちの低い濃度を、製品ごとに選択」すること、具体的には、「スクラロースの従来の使用濃度」の下方の目安である0.0002重量%未満の濃度から始めて添加量を最適化することにより、相違点2に係る「0.0028~0.0042重量%という濃度範囲に至ることは、当業者に容易であった」といえる。 (カ)本件発明の効果について そして、上記6.(3)イ(カ)「本件発明の効果について」に記載した判示事項のとおり、「本件明細書の実施例2~4を参照しても、0.0028~0.0042重量%の濃度範囲を境にして、当業者の期待、予測を超える格別顕著な効果を奏しているとは評価できない。」 (キ)相違点2についての判断のまとめ 以上によれば、上記6.(3)イ(キ)「相違点2についての判断のまとめ」に記載した判示事項のとおり、「アスパルテームを製品濃度1~200mg%(0.001~0.2重量%)で添加する引用発明から、スクラロースを製品の0.0028~0.0042重量%で添加することは、当業者が容易に想到することができたものである。」 カ 被請求人の主張について 被請求人は、アスパルテームに代えてスクラロースを用いることについて、平成27年7月22日に提出した口頭審理陳述要領書において、 (ア)甘味料、高甘味度甘味料と一括りに総称されるものであっても、酸味をマスキングするものもあれば、逆に酸味を増強するものもあり、「トレハロース」のように醸造酢の酸味は増強する一方、梅干やレモン汁の酸味は減少させるものもあるように、甘味料であれば「醸造酢及び/又はリンゴ酢を含有する製品の酸味をマスキングする」という一定の関係はないこと、 (イ)「トレハロース」のようにショ糖と類似した化学構造の化合物であるにもかかわらず上記のような複雑な挙動をするものがあることから、2つの化合物間の関係は、化学構造から予測することは困難であること、 (ウ)スクラロースが甘味を呈さない甘味の閾値以下の量で酸味をマスキングすることから、酸味マスキングの効果を奏するのは甘味ではないといえ、スクラロースの酸味マスキング効果は、スクラロースという化合物そのものの効果であり、同様にアスパルテームが甘味の閾値以下で酸味をマスキングするなら、その効果はアスパルテームという化合物そのものの効果であり、スクラロースとアスパルテームは化学構造も似ていない化合物であることから、甲1発明のアスパルテームに代えてスクラロースを用いることで、同様の効果が得られるとは、当業者において容易に想到し得ないこと、 を主張している(被請求人口頭審理陳述要領書第16~17頁)。 また、被請求人は、令和2年2月10日に提出した上申書において、上記と同様の主張に加えて、 (エ)甘味料全般について酸味のマスキング効果が技術常識であったとしても、それは甘味の閾値を超えた量によって酸味を覆い隠すことによる酸味マスキング効果が技術常識になっていたにすぎず、本件出願以前に甘味の閾値以下で酸味のマスキング効果が確認されていたのはアスパルテームだけであり、甘味の閾値以下での酸味マスキング作用の機序はアスパルテームですら知られていなかったこと、 を主張している(上記上申書第2~3頁)。 しかし、上記(ア)及び(イ)の主張の「トレハロース」については、乙15の摘記(乙15c)によれば、トレハロースは食品の低甘味化に使用されるものであるから、アスパルテーム、ステビア、サッカリン等の高甘味度甘味料と同様に論じることはできない。また、乙15の摘記(乙15b)においては、トレハロースを添加した際に、酸味料の種類や他の呈味物質の存在により酸味が強調されたり、マスキングされたりすることを不可解な現象であると説明されているから、高甘味度甘味料一般が酸味を緩和させる効果を有すると認定する上での支障となるとまではいえない。さらに、上記7.(1)オ オ-1.(ア)「高甘味度甘味料が酸味のマスキング剤としての機能を備えるとの認識について」に記載したとおり、本件特許出願の出願日の当時、ショ糖やアスパルテームを含めた複数の慣用の高甘味度甘味料が酸味のマスキング剤としての機能を備えることが当業者に広く知られていたと認められることからすると、トレハロース等の酸味強調作用に基づいて、高甘味度甘味料一般の酸味緩和効果を否定する判断にはならない。 また、上記(ウ)の主張については、上記7.(1)オ オ-1.(ア)「高甘味度甘味料が酸味のマスキング剤としての機能を備えるとの認識について」に記載したとおり、本件特許出願の出願日の当時、当業者には、アスパルテーム、ステビア、サッカリン等の慣用された高甘味度甘味料が酸味のマスキング剤としての機能を備えること、すなわち、化学構造において別のカテゴリーに分類され、甘味の大きく異なる複数の甘味料が、いずれも酸味のマスキング剤として用い得るものであることが認識されていたのであるから、アスパルテーム等と比べて各種の風味改善効果に優れているスクラロースを添加することによっても酸味のマスキングが可能であると予測し、スクラロースを、添加する製品毎の呈味のバランスが崩れにくい濃度範囲で添加して、その酸味マスキング効果を確認しようとすることは、当業者が容易に想到し得たことである。 また、上記(エ)の主張については、上記7.(1)オ オ-2.(イ)「スクラロースの添加量について」に記載したとおり、スクラロースが甘味閾値以下でも所望の風味改善効果を奏することを当業者は認識していたものと認められるから、甘味料一般に関して甘味の閾値以下で酸味のマスキング効果を奏することが技術常識であったか否かにかかわらず、スクラロースをアスパルテームと同様に甘味の閾値以下で用いることは当業者に格別の創意工夫を要するものではなかったと認められる。 よって、被請求人の主張はいずれも採用することができない。 キ 無効理由1(甲第1号証を主引例とした進歩性)についてのまとめ 以上のとおり、本件発明は、甲1発明及び甲2、3、7、8に記載された事項に基づいて、本件特許出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 よって、本件発明についての特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効理由1(甲第1号証を主引例とした進歩性)により無効とすべきものである。 (2)無効理由2(甲第9号証を主引例とした進歩性)について 請求人は、進歩性についての無効理由として、上記無効理由1に加え、別の文献(甲9)を主引例とする無効理由2を主張している。具体的には、「コーヒーエキスを含有する製品に、スクラロースを添加することを特徴とする苦味のマスキング方法」の発明が記載されていることを前提に(審判請求書第41頁第31行~第42頁第2行)、本件発明は甲9に記載された発明及び甲1~3、7、8に記載された事項に基づいて、本件特許出願前に当業者が容易に発明をすることができたものである旨を主張している。 しかしながら、本件訂正により、本件発明から「コーヒーエキスを含有する製品」は削除された。 また、甲9には、酸味をスクラロースを添加してマスキングすることは記載されていない。 そうすると、本件発明は、甲9に記載された発明及び甲1~3、7、8に記載された事項に基づいて、本件特許出願前に当業者が容易に発明をすることができたものではない。 よって、進歩性についての無効理由のうち、無効理由2は採用することができない。 (3)無効理由3(サポート要件)及び無効理由4(実施可能要件)について 本件訂正により、本件発明において、スクラロースを添加して酸味のマスキングを行う対象は「醸造酢を含有するドレッシング、ソース、漬物、及び調味料からなる群より選択される少なくとも1種の製品」に限定され、当該製品に対するスクラロースの添加量は、「0.0028~0.0042重量%」の範囲であることが特定された。 一方、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、スクラロースを添加して酸味をマスキングする製品として、実施例2にスクラロースが0.0028部添加された調味液及び当該調味液と合わせられたピクルスが、実施例3にスクラロースが0.0035部添加されたおろしポン酢ソースが、並びに、実施例4にスクラロースが0.0042部添加された青じそタイプノンオイルドレッシングが記載されている。 そして、これら実施例2~4に係る記載によれば、スクラロースが0.0028重量%含まれる調味液及び当該調味液と合わせられることによりスクラロースが0.0028重量%よりも低い濃度で添加されたピクルス、スクラロースを0.0035重量%添加されたおろしポン酢ソース並びにスクラロースを0.0042重量%添加された青じそタイプノンオイルドレッシングが、酸味をマスキングする製品として発明の詳細な説明に開示されていたといえる。 よって、本件発明は発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲内のものといえる。 請求人は「実施例2~4では特定の製品についての酸味マスキング効果しか検討されていない。」こと、及び「あらゆる強さの酸味がマスキングされることが具体的に確認されていないこと」を指摘して、「訂正後の本件特許発明の範囲が、明細書の実施例で開示された内容と比較して不当に広いこと」を主張している(平成30年5月8日付け審判事件弁駁書第8頁第24行~第9頁第8行)。 しかし、本件特許明細書には上記したように、ピクルスの調味液(調味料)、ピクルス(漬物)、おろしポン酢ソース(ソース)及び青じそタイプノンオイルドレッシング(ドレッシング)からなる製品について、スクラロースを0.0028~0.0042重量%の範囲で添加した実施例が記載されており、当該実施例の記載からすれば、当該範囲のスクラロースの添加でドレッシング、ソース、漬物、及び調味料の酸味のマスキングが行えることは明らかである。 そして、酸味の強さは、技術常識に照らせば、製品の種類に応じて自ずと定まるものであり、本件発明においては、スクラロースが添加される製品が特定されていることからして、訂正後の本件発明の範囲が、明細書の実施例で開示された内容と比較して不当に広いとはいえない。 よって、本件発明は本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されたものであり、また、本件特許明細書の発明の詳細な説明には当業者がその実施をすることができる程度の記載がなされていたといえる。 なお、一次判決においても、訂正要件についての判断に関してであるが、「スクラロースを0.0028重量%で『醸造酢及び/又はリンゴ酢を含有する製品』に添加すれば、酸味のマスキング効果が生じることは当業者にとって自明であり(括弧内省略)、このことは本件明細書において開示されていたものと認められる。」(一次判決第24頁第9~16行)との判断がなされている。 以上のとおりであるから、本件発明は、発明の詳細な説明に記載したものであり、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしている。 また、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものであり、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしている。 よって、本件発明についての特許は、同法第123条第1項第4号に該当しないから、無効理由3(サポート要件)及び無効理由4(実施可能要件)により無効とすべきものではない。 (4)無効理由5(明確性)について ア 「コーヒーエキス」について 請求人は、「コーヒーエキス」は、本件特許明細書で定義されておらず、コーヒーエキスを構成する味質、特に酸味は、コーヒー豆の品種や焙煎条件等、そして含有する酸の種類等によって変動することから、本件特許明細書の記載内容及び出願時の技術常識を考慮しても、スクラロースを「0.000013~0.0042重量%量で添加すること」によりマスキングすることが可能な酸味を有する「コーヒーエキスを含有する製品」の範囲を明確に理解することはできない旨、「コーヒーエキス」との用語が酸味の程度に影響を与えるコーヒー豆の品種や焙煎条件の違いを問わないのであれば、酸味とは無関係の用語であり、酸味マスキングという課題を解決する発明を明確に把握するための適切な学術用語や技術用語とはいえない旨、主張している(審判請求書第48頁第20~30行、平成26年12月10日付け審判事件弁駁書第28頁第14~24行)。 しかしながら、請求項1の「コーヒーエキス」に係る記載は、本件訂正により削除されたので、上記主張は理由がない。 イ 「醸造酢」について 請求人は、「醸造酢」について本件特許明細書において定義がなされておらず、醸造酢は製品毎に酸度が異なるものであり、酸味も酸度に応じて変化するため、当業者は、本件特許明細書の記載内容及び出願時の技術常識を考慮しても、「醸造酢及び/又はリンゴ酢を含有する製品」の範囲を明確に理解することができない旨主張している(審判請求書第48頁第31行~第49頁第1行、平成26年12月10日付け審判事件弁駁書第27頁第13~20行)。 しかしながら、「醸造酢」との用語は、その種類により酸味等に違いがあるとしても、当業者において一般的に用いられている用語であり、不明確な用語とはいえない。 そして、本件訂正により、請求項1の「醸造酢及び/又はリンゴ酢を含有する製品」の記載は、「醸造酢を含有するドレッシング、ソース、漬物、及び調味料からなる群より選択される少なくとも1種の製品」と訂正されたが、当該「醸造酢を含有するドレッシング、ソース、漬物、及び調味料からなる群より選択される少なくとも1種の製品」とは、「醸造酢を含有するドレッシング、ソース、漬物、及び調味料からなる群より選択される少なくとも1種の」あらゆる「製品」として理解できることから、「醸造酢」が本件特許明細書で定義されていないからといって、本件発明が明確でないとはいえない。 ウ 「リンゴ酢」について 請求人は、醸造酢が当業界で知られている通常の意味を有すると解した場合でも、「醸造酢」の下位概念には果実酢が含まれ、果実酢の下位概念には「リンゴ酢」が含まれることから、「醸造酢及び/又はリンゴ酢を含有する製品」なる記載は本件発明の範囲を不明確にするものであると主張している(審判請求書第第49頁第2~6行)。 しかしながら、請求項1の「リンゴ酢」に係る記載は、本件訂正により削除されたので、上記主張は理由がない。 エ 「マスキング」について 請求人は、本件発明について、本件特許明細書には、酸味がマスキングされたといえる程度、及び、判断手法が記載されていないため、本件発明における「酸味のマスキング方法」の範囲が不明であると主張している(審判請求書第49頁第10~13行、平成26年12月10日付け審判事件弁駁書第27頁第21行~第28頁第1行、請求人口頭審理陳述要領書第19頁第17~27行)。 しかしながら、本件特許明細書の段落[0004]の「スクラロースが、甘味の閾値以下の量で意外にも過剰な酸味を減少又は緩和させることを見い出し、」の記載、及び段落[0010]の「本発明は簡便に過剰な酸味を減少又は緩和し、さらに酸による様々な効果を保持しながら酸味の減少又は緩和に伴う味覚の改善を図ることができる。また、製品中の酸味剤の種類によっては、その刺激的臭気などを減少又は緩和することができる。」の記載から、本件発明における、酸味がマスキングされたといえる程度は、酸味が「減少又は緩和」することを意味することは明確である。 また、酸味がマスキングされたか否かの判断手法は、本件特許明細書の段落[0016]記載の実施例2に「スクラロースを添加していないピクルスに比べて」とあるように、スクラロースを添加しない同製品の酸味と比較すればよく、比較する手法については2点比較法など周知の試験法が利用可能であり、酸味がマスキングされたといえる程度、及び、判断基準が記載されていないことをもって本件発明が明確でないとはいえない。 オ 無効理由5(明確性)についてのまとめ 以上のとおりであるから、本件発明は、特許を受けようとする発明が明確でないとはいえず、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしている。 よって、本件発明についての特許は、同法第123条第1項第4号に該当しないから、無効理由5(明確性)により無効とすべきものではない。 (5)無効理由6(新規事項)について 平成18年12月15日付け手続補正書における特許請求の範囲の請求項1に係る補正は、「酸味を呈する製品」を「醸造酢及び/又はリンゴ酢を含有する製品、又はコーヒーエキスを含有する製品」とし、「甘味の閾値以下の量で用いる」を「該製品の0.000013~0.0042重量%の量で添加する」とするものである。 ここで、スクラロースの添加量の範囲の上限値を「0.0042重量%」とする点については、本件特許の願書に最初に添付した明細書(以下「本件当初明細書」という。)の段落[0018]に、実施例4の青じそタイプノンオイルドレッシング中のスクラロースの添加量として「0.0042部」含むものが記載されている。 一方、スクラロースの添加量の範囲の下限値を「0.000013重量%」とする点については、本件当初明細書に記載されていない。 しかし、本件訂正により、スクラロースの添加量の範囲の下限値は「0.0028重量%」となり、下限値を「0.0028重量%」とする点については、本件当初明細書の段落[0016]に、実施例2のピクルスの調味液のスクラロースの添加量として「0.0028部」含むものが記載されている。 そして、本件訂正により、スクラロースが添加される対象が「醸造酢及び/又はリンゴ酢を含有する製品、又はコーヒーエキスを含有する製品」から、「醸造酢を含有するドレッシング、ソース、漬物、及び調味料からなる群より選択される少なくとも1種の製品」へと減縮され、上記青じそタイプノンオイルドレッシング及びピクルスの調味液は、それぞれドレッシング及び調味料に相当する。 そうすると、本件訂正後の本件発明は、本件当初明細書に記載した事項の範囲内のものであるから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしている。 よって、本件発明についての特許は、同法第123条第1項第1号に該当しないから、無効理由6(新規事項)により無効とすべきものではない。 8.むすび 以上のとおりであるから、本件特許の請求項1に係る発明についての特許は、請求人が主張する無効理由1により、無効とすべきものである。 そして、審判に関する費用については、特許法第169条第2項において準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。 よって、結論のとおり審決する。

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2014-800118

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