特許異議申立
2025-700698
酸味が抑制された非アルコールビールテイスト飲料
- 審判番号
- 2025-700698
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2023-148422
- 登録番号
- 7608546
- 請求日
- 2025年07月07日
- 審決日
- 2025年09月24日
- 公報発行日
- 2025年10月31日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】キリンホールディングス株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人フィールズ国際特許事務所
- 【異議申立人】清水 将博
- 審判長/審判官
- 審判長 天野 宏樹
- 審判官 加藤 友也
- 審判官 松本 陶子
- 分類
- P1651.113-Y (A23L) / P1651.121-Y (A23L) / P1651.536-Y (A23L) / P1651.537-Y (A23L) / P1651.4 -Y (A23L) / P1651.55 -Y (A23L)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法17条の2第3項特許法113条1号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第36条第6項第2号、特許法第17条の2第3項、特許法第39条第2項、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7608546号発明「酸味が抑制された非アルコールビールテイスト飲料」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7608546号の請求項1~6に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7608546号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~6に係る特許についての出願は、
2023年(令和5年)7月31日(優先権主張 令和4年12月23日)を国際出願日とする特願2023-547399号の一部を令和5年 9月13日に新たな特許出願としたものであって、
令和6年12月20日にその特許権の設定登録(請求項の数6)がされ、
令和7年 1月 6日に特許掲載公報が発行され、
その後、その特許に対し、
令和7年 7月 7日に特許異議申立人 清水 将博(以下、「特許異議申立人」という。)から特許異議の申立て(対象請求項:請求項1~6)がされたものである。
第2 本件特許発明
本件特許の請求項1~6に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」のようにいい、総称して「本件特許発明」という。)は、それぞれ、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1~6に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
5-メチル-2-フルフラールの含有量が10ppb以上500ppb以下である、非アルコールビールテイスト飲料であって、カプリル酸の含有量が0.3ppm以上10ppm以下であり、カプリン酸の含有量が0.03ppm以上10ppm以下であり、かつ、脱アルコール麦汁発酵液を原料とする、非アルコールビールテイスト飲料(但し、高甘味度甘味料を含有する非アルコールビールテイスト飲料を除く)。
【請求項2】
アルコール(エタノール)濃度が0.005v/v%未満である、請求項1に記載の非アルコールビールテイスト飲料。
【請求項3】
非アルコールビールテイスト飲料を製造する方法であって、前記非アルコールビールテイスト飲料における5-メチル-2-フルフラールの含有量を10ppb以上500ppb以下に調整し、カプリル酸の含有量を0.3ppm以上10ppm以下に調整し、かつ、カプリン酸の含有量を0.03ppm以上10ppm以下に調整する工程を含んでなり、前記非アルコールビールテイスト飲料が脱アルコール麦汁発酵液を原料とするものである、方法(但し、高甘味度甘味料を含有する非アルコールビールテイスト飲料の製造方法を除く)。
【請求項4】
前記非アルコールビールテイスト飲料のアルコール(エタノール)濃度が0.005v/v%未満である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
非アルコールビールテイスト飲料における酸味を低減する方法であって、前記非アルコールビールテイスト飲料における5-メチル-2-フルフラールの含有量を10ppb以上500ppb以下に調整し、カプリル酸の含有量を0.3ppm以上10ppm以下に調整し、かつ、カプリン酸の含有量を0.03ppm以上10ppm以下に調整する工程を含んでなり、前記非アルコールビールテイスト飲料が脱アルコール麦汁発酵液を原料とするものである、方法(但し、高甘味度甘味料を含有する非アルコールビールテイスト飲料における酸味を低減する方法を除く)。
【請求項6】
前記非アルコールビールテイスト飲料のアルコール(エタノール)濃度が0.005v/v%未満である、請求項5に記載の方法。」
第3 特許異議申立書に記載した特許異議申立ての理由の概要等
令和7年7月7日に特許異議申立人が提出した特許異議申立書(以下「特許異議申立書」という。)に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。
1 申立理由1(甲第1号証に基づく新規性・進歩性)
本件特許発明1~6は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、甲第1号証に記載された発明に基づいて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1~6に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
2 申立理由2(甲第2号証に基づく新規性・進歩性)
本件特許発明1~6は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第2号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、甲第2号証に記載された発明に基づいて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1~6に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
3 申立理由3(同日出願)
本件特許発明1~6は、本件特許に係る出願と同日に出願された下記の特許出願(甲第12号証)に係る発明と同一であり、かつ、同日出願に係る発明は特許されており協議することができないものであり、特許法第39条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1~6に係る特許は、同法同条同項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
4 申立理由4(実施可能要件)
本件特許の請求項1~6に係る特許は、以下のとおり、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
本件特許明細書(【0005】、【0022】)の記載によれば、本件特許発明が解決しようとする課題は、酸味が低減された非アルコールビールテイスト飲料、その製造方法、非アルコールビールテイスト飲料における酸味を低減する方法を提供することであると認められる。
しかしながら、本件特許明細書の表3に示された試験1~4(試験区1~25)において、本件特許発明1~6の要件を満たす試験区は試験区25のみである。試験区1~24は、5-メチル-2-フルフラール、カプリル酸、カプリン酸を含み、かつ、脱アルコール麦汁発酵液を原料とするものではなく、表3に示された試験区25以外に本件特許発明1~6の効果を裏付ける結果はない。
また、本件特許明細書(【0014】)には、「5-メチル-2-フルフラールが用量依存的に酸味低減の効果を奏することが実証されている」と記載されているものの、試験2の試験区9~11と試験3の試験区13~15とを比較すると、5-メチル-2-フルフラールの含有量が10ppbから100ppbに増加しているが酸味の強さは増加しており、本件特許明細書(【0014】)の記載と矛盾しており、試験2及び試験3の結果を踏まえると、試験4の試験区25における5-メチル-2-フルフラールの含有量が増加した場合は酸味が強くなる予想され、試験区25と同様の官能評価結果が得られると当業者は認識できない。
さらに、本件特許明細書(【0035】)には、「5-メチル-2-フルフラール、カプリル酸およびカプリン酸の組み合わせの浪度調整により、優れた酸味低減効果が得られる」と記載され、ビールの香気成分であるカプリル酸及びカプリン酸は、オフフレーバーの原因物質として知られているため(甲5の第239頁)、上記課題を解決するには、5-メチル-2-フルフラール、カプリル酸およびカプリン酸の含有量を調整することは不可欠である。よって、試験区25の非アルコールビールテイスト飲料以外の本件発明1~6の要件を満たす非アルコールビールテイスト飲料が試験区25と同様の官能評価結果得られると当業者は認識できない。
したがって、本件特許発明1に該当する飲料すべてについて、どうして上記課題を解決できるのか、技術常識を参酌しても当業者は理解することができないから、発明の詳細な説明は、当業者が本件特許発明1~6を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。
5 申立理由5(サポート要件)
本件特許の請求項1~6に係る特許は、以下のとおり、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
本件特許明細書(【0005】、【0022】)の記載によれば、本件特許発明が解決しようとする課題は、酸味が低減された非アルコールビールテイスト飲料、その製造方法、非アルコールビールテイスト飲料における酸味を低減する方法を提供することであると認められる。
しかしながら、本件特許明細書の表3に示された試験1~4(試験区1~25)において、本件特許発明1~6の要件を満たす試験区は試験区25のみであり、表3に示された試験区25以外に本件発明1~6の効果を裏付ける結果はなく、技術常識を参酌しても、本件特許発明1に該当する飲料すべてについて、上記課題を解決できるものではないから、本件特許発明1~6は、発明の詳細な説明に記載されたものではない。
6 申立理由6(明確性要件)
本件特許の請求項1~6に係る特許は、以下のとおり、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
(1)本件特許発明1は、「脱アルコール麦汁発酵液を原料とする」ことを規定するものであり、「物の発明に係る請求項にその物の製造方法が記載されている場合」に該当する。
ここで、物の発明に係る請求項にその物の製造方法が記載されている場合において、当該請求項の記載が特許法第36条第6項第2号にいう「発明が明確であること」という要件に適合するといえるのは、出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情(「不可能・非実際的事情」)が存在するときに限られると解するのが相当である(最二小判平成27年6月5日平成24年(受)1204号、同2658号)。
しかしながら、不可能・非実際的事情が存在することについて、本件特許明細書等に記載がなく、また、出願人から主張立証がされていないため、その存在を認める理由は見いだせない。
また、本件特許明細書の記載を考慮しても、「脱アルコール麦汁発酵液を原料とする」という記載だけでは物(生産物)としての「非アルコールビールテイスト飲料」のどのような構造又は特性を表しているのか一義的に明らかではなく、それが明らかであるという技術常識もないため、結果的に物(生産物)の特徴を当業者は理解できない。
したがって、本件特許発明1及び2は明確でない。
(2)本件特許発明1は、「但し、高甘味度甘味料を含有する非アルコールビールテイスト飲料を除く」ことを規定するものの、「高甘味度甘味料」という用語について、一般的に確立した定義は存在しない。甲13~15に記載されているように、甘味度の範囲が異なる複数の定義が存在しており、単に「高甘味度甘味料」と記載しただけでは、どのような甘味料が「高甘味度甘味料」に該当するのかが明らかではない。
また、「但し、高甘味度甘味料を含有する非アルコールビールテイスト飲料を除く」との記載は、本件特許の特許出願に対する拒絶理由通知書(起案日:令和6年6月19日)で引用された特開2017-023017号公報(甲16)に記載の発明との重なりを除くために補正によって追加されたものであると考えられ、甲16には、「高甘味度甘味料とはショ糖の数百倍から数千倍の高い甘味を有する甘味料であり」(【0015】)という記載がある。しかしながら、本件特許発明1には、単に「高甘味度甘味料」という記載があるだけで、それが、甲16で定義される高甘味度甘味料と同じ意味を有するのかは不明である。仮に本件特許発明1における「高甘味度甘味料」が甲16で定義される「ショ糖の数百倍から数千倍の高い甘味を有する甘味料」と同じ意味を有する場合であっても、「数百倍」や「数千倍」との記載は依然として不明確である。
したがって、「但し、高甘味度甘味料を含有する非アルコールビールテイスト飲料を除く」との記載によって除かれる範囲が不明確であるから、本件特許発明1は明確でない。本件特許発明2~6についても同様である。
7 申立理由7(新規事項)
令和6年10月16日にした手続補正は、願書に最初に添付した明細書又は特許請求の範囲(以下、「当初明細書等」という。)に記載した事項の範囲内においてしたものでなく、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしているとはいえないから、かかる手続補正をした特許出願に対してなされた本件特許は、同法第113条第1号に該当し、取り消されるべきものである。
「但し、高甘味度甘味料を含有する非アルコールビールテイスト飲料を除く」という補正は、当初明細書等に記載した事項との関係において新たな技術的事項を導入するものである。
8 証拠方法
・甲第1号証:国際公開第2021/105521号
・甲第1-1号証:特表2023-503319号公報
・甲第2号証:特開2018-11587号証
・甲第3号証:Eur Food Res Technol (2002)、215:235-239、2002年6月12日、Springer- Verlag
・甲第4号証:香料、No.233、p.145-153、平成16年(2004年)9月、日本香料協会
・甲第5号証:酸造物の成分、p.236-241、平成11年12月10日、財団法人日本醸造協会
・甲第6号証:卑(当審注:原文は「口」偏に「卑」)酒科技、2001年2期、26-27、2001年、中国醸(当審注:原文は「酉」偏に「良」)酒工業(当審注:原文は「並」から冠部分の部首を除いたもの)協会
・甲第7号証:国際公開第2021/131924号
・甲第8号証:特開2021-180688号公報
・甲第9号証:香料、No.293、p.53-66、令和4年(2022年)3月、日本香料協会
・甲第10号証:酸造物の成分、p.214-221、平成11年12月10日、財団法人日本醸造協会
・甲第11号証:GEAホームページ、https://www.gea.com/en/stories/alcohol-free-beer/、2019年10月24日
・甲第12号証:特許第7608626号公報
・甲第13号証:最新香料の事典 普及版、普及版第2刷、2013年5月25日、株式会社朝倉書店、p.533-537
・甲第14号証:近年の甘味料の動向、https://www.kenko-kenbi.or.jp/columns/food/1879/、2015年10月30日、一般財団法人東京顕微鏡院
・甲第15号証:最近の合成甘味料事情、JFRLニュース、Vol.5、No.20、https://www.jfrl.or.jp/storage/file/news_vol5_no20.pdf、2016年4月、Japan Food Research Laboratories
・甲第16号証:特開2017-23017号公報
・甲第17号証:意見書(特許出願2013-148422)
証拠の表記は、特許異議申立書及び証拠説明書の記載に従った。
以下、順に「甲1」のようにいう。
第4 特許異議申立書に記載した特許異議申立ての理由について
1 申立理由1(甲1に基づく新規性・進歩性)について
(1)甲1に記載された事項等
ア 甲1に記載された事項
甲1には、「エタノールを減少させた飲料およびエタノール不含の飲料の製造の間のアロマ喪失を減少させるための方法」(当審注:甲1のファミリー文献である甲1-1の発明の名称を示した。)に関しておおむね次のとおり記載されている。なお、甲1は外国語文献のため、訳文として甲1のファミリー文献である甲1-1の記載を摘記する。また、下線部は、文献に元から付与されていたものと、当審が付与したものである。
・「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、本発明の発明者等は、エタノール含有飲料の熱による脱アルコール化(thermal dealcolization)のための現在確立されている方法を改善し、脱アルコール化飲料製品中の芳香化合物(aromatic compounds)の著しく増加した最終含有量を達成するための方法を開発することに自らの課題を設定した。
【0006】
この課題は、以下のステップを含む、エタノールを減少させた飲料およびエタノール不含の飲料の製造の間のアロマ喪失を減少するための方法により解決された:
(a)1~60体積%のエタノールを含有する飲料を、熱によるまたは膜をベースとする脱アルコール化プロセスにより脱アルコール化するステップ;
(b)脱アルコール化された飲料から、エタノール含有プロセス流を分離するステップ;(c)(i)分離されたエタノール含有プロセス流を、凝縮器、少なくとも1つのストリッピングカラム、および引き続いて少なくとも1つの吸着体カラムに搬送するステップ、または
(ii)分離されたエタノール含有プロセス流を少なくとも1つの吸着体カラムに直接搬送するステップ;
ここで、エタノール含有プロセス流のエタノール含有画分は、前記の少なくとも1つの吸着体カラムに吸着される;
(d)残留プロセス流を前記の脱アルコール化された飲料へリサイクルするステップ。
【0007】
本発明の方法は、優れた芳香フレーバープロファイルを有する脱アルコール化飲料を製造し、それによって、既存の熱によるまたは膜脱アルコール化プロセスの数十年間にわたって存在する問題を克服するだけでなく、エネルギー消費が低く、当該方法は連続的な様式で実施することができるので、費用効率が高く、工業的規模の製造に適している。さらに、本発明による方法は、既存の技術を変更する必要なしに、任意の既存の熱によるまたは膜脱アルコール化プロセスおよびプラントに組み入れることができる。さらに、分離されたエタノールは脱着させることができ、独立して使用/販売することができるので、顕著な体積損失は生じない。脱アルコール化飲料に追加的な水を添加する必要はなく、ガス流が連続的にリサイクルされ、再使用される。」(第1ページ20行~第2ページ18行)
・「【0040】
本発明の特定の実施態様
以下の特定の実施態様は、本発明の方法について特に有利な実施態様を明確にする。これらの実施態様は、いかなる点においても本出願の範囲を限定することを意味するものではない。
【0041】
特定の実施態様A
以下のステップを含む、エタノールを減少させた飲料およびエタノール不含の飲料の製造の間のアロマ喪失を減少するための方法:
(a)1~20体積%のエタノールを含有するビールおよびワインから選択される飲料を、熱によるまたは膜をベースとする脱アルコール化プロセスにより脱アルコール化するステップ;
(b)脱アルコール化された飲料から、2~25体積%のエタノール含有量を有するエタノール含有プロセス流を分離するステップ、この際、前記エタノール含有プロセス流は、2~40体積%のエタノール、60~98体積%のH20(当審注:「H20」は「H2O」の誤記と認められる。以下、同様。)および50~200mg/lの芳香化合物を含み、前記芳香化合物は、n-プロパノール、3-メチルブチルアセテート、2-メチル-1-プロパノール、イソブチル、イソアミルアセテート、アセトアルデヒド、エチルアセテート、i-ブタノール、2-メチルブタノール、3-メチルブタノール、フェニルエタノール、エチルホルメート(ethylformiate)、フェニルエチルアセテートおよびイソアミルアルコールからなる群から選択される;
(c)(i)分離されたエタノール含有プロセス流を、凝縮器、少なくとも1つのストリッピングカラム、および引き続いて少なくとも1つの吸着体カラムに搬送するステップ、この際、エタノール含有プロセス流のエタノール含有画分は、前記の少なくとも1つの吸着体カラムに吸着される;
(d)残留プロセス流を、予凝縮なしで、前記の脱アルコール化された飲料へリサイクルするステップ。
【0042】
特定の実施態様B
以下のステップを含む、エタノールを減少させた飲料およびエタノール不含の飲料の製造の間のアロマ喪失を減少するための方法:
(a)1~20体積%のエタノールを含有するビールおよびワインから選択される飲料を、熱によるまたは膜をベースとする脱アルコール化プロセスにより脱アルコール化するステップ;
(b)脱アルコール化された飲料から、2~25体積%のエタノール含有量を有するエタノール含有プロセス流を分離するステップ、この際、前記エタノール含有プロセス流は、2~40体積%のエタノール、60~98体積%のH20および50~200mg/lの芳香化合物を含み、前記芳香化合物は、n-プロパノール、3-メチルブチルアセテート、2-メチル-1-プロパノール、イソブチル、イソアミルアセテート、アセトアルデヒド、エチルアセテート、i-ブタノール、2-メチルブタノール、3-メチルブタノール、フェニルエタノール、エチルホルメート(ethylformiate)、フェニルエチルアセテートおよびイソアミルアルコールからなる群から選択される;
(c)(ii)分離されたエタノール含有プロセス流を少なくとも1つの吸着体カラムに直接搬送するステップ;
この際、エタノール含有プロセス流のエタノール含有画分は、前記の少なくとも1つの吸着体カラムに吸着される;
(d)残留プロセス流を、予凝縮なしで、前記の脱アルコール化された飲料へリサイクルするステップ。」(第11ページ1行~第12ページ17行)
・「【0058】
例3:芳香物質プロファイルの分析
図1に示すように、熱をベースとする脱アルコール化を行うと、脱アルコール化飲料およびエタノール含有プロセス流1が生成する。
【0059】
飲料に元々含まれていた芳香化合物は、熱をベースとする脱アルコールプロセス中にエタノール含有プロセス流に移る。この移動は、図6に視覚化されている。そこには、飲料、ならびにそれに由来する脱アルコール化飲料およびエタノール含有プロセス流の、芳香化合物分布が示されている。以下の芳香化合物を、ガスクロマトグラフィー法(Gas Chromatography Headspace with FID Sampler)によって測定した。
アセトアルデヒド
n-プロパノール
i-ブタノール
2-メチルブタノール
3-メチルブタノール
酢酸エチル
フェニルエタノール
3-メチルブタン酸
ヘキサン酸
カプリル酸
【0060】
図1に示すように、エタノール含有プロセス流はステップ(c)(i)に付される。ここで、芳香化合物を含有するエタノール含有プロセス流は、エタノール含有画分と、芳香化合物が蓄積される残留プロセス流とに分離される。芳香化合物の分布を図7に示す。芳香化合物「アセトアルデヒド」(これはオフフレーバーと考えられる)は、吸着体に吸着され、従ってエタノール含有画分中に蓄積する(図8)。
【0061】
実験は以下の方法で行った:
1Lのエタノール含有プロセス流を、強化(15℃)容器に入れ、蠕動ポンプ(Watson Marlow,520DU)を用いることによって、ストリッピングカラム(直径60mm、高さ1400mm)中に、カラムの塔頂で2L/hの体積流量で搬送した。ストリッピングカラムを、充填材料(Teflonラシヒリング、直径6mm、高さ6mm、Sigma-Aldrich,Z243477)で充填した。向流で流れる不活性ガス流(N2、12L/分)を、ストリッピングカラムの塔底から塔頂へと搬送した。当該ストリッピングカラムを、1.013barの圧力および22℃の温度で使用した。不活性ガス流を吸着体カラムと接触させ、ストリッピングカラム中にリサイクルした。吸着のために、吸着体材料(Clariant,TZP9028;MFIゼオライト,SiO2/Al2O3モル比1000)で充填した3つの吸着体カラムを使用した。同時に2つのカラムを吸着のために使用し、1つのカラムを脱着のために使用した。吸着体カラムからのエタノールの脱着のために、不活性ガス流(N2、0.6L/分)を使用した。真空ポンプによって、吸着体カラム内の圧力を100mbarに低下させた。20分のサイクル時間の後、カラムはそれらの役割を変えた。72サイクルを実施した。
【0062】
例3は、本発明の方法が、エタノール含有プロセス流からエタノールを選択的に分離するが、残留プロセス流内に芳香化合物を保持することを示す。図6および7は、技術水準の脱アルコール化プロセスによって飲料から分離される芳香化合物の大部分を、最終製品にリサイクルできることを示す。さらに、オフフレーバーであるアセトアルデヒドを著しく減少させることができる(図8)。」(第18ページ6行~第19ページ26行)
・「
[図:0001428032000001.jpg]
[図:0001428032000002.jpg]
」(Figure6及び7)
イ 甲1に記載された発明
甲1に記載された事項を、特に実施態様B(第11~12ページ等)に関して整理すると、甲1には次の発明(以下、順に「甲1発明」、「甲1製法発明」、「甲1方法発明」という。)が記載されていると認められる。
<甲1発明>
「以下のステップを含む、製造の間のアロマ喪失を減少するための方法により製造されたエタノール不含のビール:
(a)1~20体積%のエタノールを含有するビールを、熱によるまたは膜をベースとする脱アルコール化プロセスにより脱アルコール化するステップ;
(b)脱アルコール化されたビールから、2~25体積%のエタノール含有量を有するエタノール含有プロセス流を分離するステップ、この際、前記エタノール含有プロセス流は、2~40体積%のエタノール、60~98体積%のH2Oおよび50~200mg/lの芳香化合物を含み、前記芳香化合物は、n-プロパノール、3-メチルブチルアセテート、2-メチル-1-プロパノール、イソブチル、イソアミルアセテート、アセトアルデヒド、エチルアセテート、i-ブタノール、2-メチルブタノール、3-メチルブタノール、フェニルエタノール、エチルホルメート(ethylformiate)、フェニルエチルアセテートおよびイソアミルアルコールからなる群から選択される;
(c)(ii)分離されたエタノール含有プロセス流を少なくとも1つの吸着体カラムに直接搬送するステップ;
この際、エタノール含有プロセス流のエタノール含有画分は、前記の少なくとも1つの吸着体カラムに吸着される;
(d)残留プロセス流を、予凝縮なしで、前記の脱アルコール化されたビールへリサイクルするステップ。」
<甲1製法発明>
「以下のステップを含む、製造の間のアロマ喪失を減少するための方法によりエタノール不含のビールの製造方法:
(a)1~20体積%のエタノールを含有するビールを、熱によるまたは膜をベースとする脱アルコール化プロセスにより脱アルコール化するステップ;
(b)脱アルコール化されたビールから、2~25体積%のエタノール含有量を有するエタノール含有プロセス流を分離するステップ、この際、前記エタノール含有プロセス流は、2~40体積%のエタノール、60~98体積%のH2Oおよび50~200mg/lの芳香化合物を含み、前記芳香化合物は、n-プロパノール、3-メチルブチルアセテート、2-メチル-1-プロパノール、イソブチル、イソアミルアセテート、アセトアルデヒド、エチルアセテート、i-ブタノール、2-メチルブタノール、3-メチルブタノール、フェニルエタノール、エチルホルメート(ethylformiate)、フェニルエチルアセテートおよびイソアミルアルコールからなる群から選択される;
(c)(ii)分離されたエタノール含有プロセス流を少なくとも1つの吸着体カラムに直接搬送するステップ;
この際、エタノール含有プロセス流のエタノール含有画分は、前記の少なくとも1つの吸着体カラムに吸着される;
(d)残留プロセス流を、予凝縮なしで、前記の脱アルコール化されたビールへリサイクルするステップ。」
<甲1方法発明>
「以下のステップを含む、エタノール不含のビールの製造の間のアロマ喪失を減少させ、優れた芳香フレーバープロファイルを有するようにする方法:
(a)1~20体積%のエタノールを含有するビールを、熱によるまたは膜をベースとする脱アルコール化プロセスにより脱アルコール化するステップ;
(b)脱アルコール化されたビールから、2~25体積%のエタノール含有量を有するエタノール含有プロセス流を分離するステップ、この際、前記エタノール含有プロセス流は、2~40体積%のエタノール、60~98体積%のH2Oおよび50~200mg/lの芳香化合物を含み、前記芳香化合物は、n-プロパノール、3-メチルブチルアセテート、2-メチル-1-プロパノール、イソブチル、イソアミルアセテート、アセトアルデヒド、エチルアセテート、i-ブタノール、2-メチルブタノール、3-メチルブタノール、フェニルエタノール、エチルホルメート(ethylformiate)、フェニルエチルアセテートおよびイソアミルアルコールからなる群から選択される;
(c)(ii)分離されたエタノール含有プロセス流を少なくとも1つの吸着体カラムに直接搬送するステップ;
この際、エタノール含有プロセス流のエタノール含有画分は、前記の少なくとも1つの吸着体カラムに吸着される;
(d)残留プロセス流を、予凝縮なしで、前記の脱アルコール化されたビールへリサイクルするステップ。」
(2)対比・判断
ア 本件特許発明1について
本件特許発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「エタノール不含のビール」は、本件特許発明1の「非アルコールビールテイスト飲料」に相当する。
また、甲1発明の「ビール」には高甘味度甘味料を添加することは記載されていないから、本件特許発明1において「除く」ものとされている「高甘味度甘味料を含有するアルコールビールテイスト飲料」には該当しない。
そうすると、両者の一致点は以下のとおりである。
<一致点>
「非アルコールビールテイスト飲料(但し、高甘味度甘味料を含有する非アルコールビールテイスト飲料を除く)。」
そして、両者は次の点で相違する。
<相違点1-1a>
本件特許発明1においては「5-メチル-2-フルフラールの含有量が10ppb以上500ppb以下である」及び「カプリル酸の含有量が0.3ppm以上10ppm以下であり、カプリン酸の含有量が0.03ppm以上10pp以下であり」と特定されているのに対し、甲1発明においてはそのようには特定されていない点。
<相違点1-1b>
本件特許発明1においては「脱アルコール麦汁発酵液を原料とする」と特定されているのに対し、甲1発明においてはそのようには特定されていない点。
相違点1-1aについて検討する。
甲1発明における「5-メチル-2-フルフラール」、「カプリル酸」及び「カプリン酸」の含有量は不明であるから、相違点1-1aは実質的な相違点である。
また、甲1及びその他の証拠には、甲1発明において、「5-メチル-2-フルフラール」、「カプリル酸」及び「カプリン酸」の3つの成分に着目し、それらの含有量を調整することは、記載も示唆もされていない。
そうすると、甲1及び他の証拠に記載された事項を考慮しても、甲1発明において、「5-メチル-2-フルフラール」、「カプリル酸」及び「カプリン酸」の3つの成分の含有量を調整して、相違点1-1aに係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
そして、本件特許発明1は「非アルコールビールテイスト飲料における酸味を低減することが可能となる」(【0007】)という、本件特許発明1の構成から当業者が予測することのできた範囲を超える顕著な効果を奏するものである。
<特許異議申立人の主張について>
相違点1-1aに関して、特許異議申立人は、特許異議申立書の第61~63ページにおいて、以下のとおり主張している。
・「相違点1-1について検討する。5-メチル-2-フルフラール(別称:5-メチルフルフラール)は、ビールに11~55ppb程度の量で含まれていることが知られている(甲3のTable 1およびTable 2)。甲1発明における脱アルコール化ビールは、ストロングビール、ラガー、エール、ペールビール、小麦ビール、スタウト、ライスビール(rice beer)などのビールから得られており(【0009】)、通常のビールの製法と同様に、糖化、煮沸、発酵を経て製造されていると考えられる。また、アロマ喪失を減少するために、甲1発明においては、ビールを脱アルコール化プロセスにより脱アルコール化し、芳香化合物を脱アルコール化されたビールヘリサイクルすることによって、脱アルコール化ビールを製造している。脱アルコール化プロセスによってビールに含まれる5-メチル-2-フルフラールの少なくとも一部が除去されたとしても、5-メチル-2-フルフラールは脱アルコール化されたビールヘリサイクルされる。そうすると、甲3に記載されたビールと同様に、甲1発明におけるビールテイスト飲料も5-メチル-2-フルフラールを含んでおり、その含有量は、本件発明1で特定される数値範囲内(例えば11~55ppb程度)である蓋然性が高い。したがって、相違点1-1は実質的な相違点ではなく、仮にそうでなくても当業者が容易に想到できるものである。
相違点1-2について検討する。カプリル酸は、ビール中1.46~6.3ppm程度含まれることが知られている(甲4表1および甲5第1表)。既述のとおり、甲1発明は、アロマ喪失を減少するために、ビールを脱アルコール化プロセスにより脱アルコール化し、芳香化合物を脱アルコール化されたビールヘリサイクルすることが記載されており、甲1の実施例3並びに図6および図7においては、脱アルコールでカプリル酸が減少するがカプリル酸をリサイクルできることも記載している。よって、甲1発明におけるカプリル酸の含有量は、本件発明1で特定される数値範囲内(例えば1.46~6.3ppm程度)である蓋然性が高い。したがって、相違点1-2は実質的な相違点ではなく、仮にそうでなくても当業者が容易に想到できるものである。例えば、甲6には、蒸留法の脱アルコールによるノンアルコールビールの製造方法が記載され、本製造方法は、脱アルコールビールを製造し、脱アルコールエ程で揮発した香気成分を脱アルコールビールに戻す方法が記載されている。そして、ビール(対象品)にはカプリン酸が5.56ppm含有しており、回収香気を戻したノンアルコールビールには元のビールと同程度の5.67~5.93ppmのカプリル酸を含有している(甲6)。このように、当業者は、相違点1-2に係る構成を容易に想到できる。よって、甲1に記載された発明と、他の証拠(甲4~甲6)とを組み合わせることで当業者は相進点1-2に係る構成を容易になし得たものであり、甲1に記載された発明と、他の証拠(甲4~6)とを組み合わせることについて、妨げる事情も見当たらない。
相違点1-3について検討する。カプリン酸は、ビール中に0.1~3.0ppm程度の星で含まれることが知られている(甲4表1および甲5第1表)。既述のとおり、甲1発明における、脱アルコール化前のビールは、通常のビールの製法と同様に、糖化、煮沸、発酵を経て製造されていると考えられるので、甲4および5に記載されたビールと同様に、甲1発明における脱アルコール化ビールもカプリン酸を含んでおり、その含有量は、本件発明1で特定される数値範囲内(例えば0.1~3.0ppm程度)である蓋然性が高い。したがって、相違点1-3は実質的な相違点ではなく、仮にそうでなくても当業者が容易に想到できるものである。例えば、甲6には、蒸留法の脱アルコールによるノンアルコールビールの製造方法が記載され、本製造方法は、脱アルコールビールを製造し、脱アルコールエ程で揮発した香気成分を脱アルコールビールに戻す方法が記載されている。そして、ビール(対象品)にはカプリン酸が1.93ppm含有しており、回収香気を戻したノンアルコールビールには元のビールと同程度の1.51~1.63ppmのカプリン酸を含有している(甲6)。また、甲2にも、蒸留法でアルコールを除いたノンアルコールビールには、アルコールと一緒に失われた芳香成分をリサイクルすることが記載されている。このように、当業者は、相違点1-3に係る構成を容易に想到でき、また、本件特許明細書(【0002】~【0007】)に記載された効果(具体的に、非アルコールビールテイスト飲料における酸味を低減するという効果)は、既述の通り、当業者が予測できない顕著な効果ではない。よって、甲1に記載された発明と、他の証拠(甲4~6)とを組み合わせることで当業者は相違点1-3に係る構成を容易になし得たものであり、甲1に記載された発明と、他の証拠(甲4~6)とを組み合わせることについて、妨げる事情も見当たらない。
したがって、本件発明1は、甲1に記載された発明または甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、仮にそうでなくても、本件発明1は、甲1に記載された発明及び他の証拠(甲3~6)の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。」
上記主張について検討する。
甲1発明における「1~20体積%のエタノールを含有するビール」の「5-メチル-2-フルフラール」、「カプリル酸」及び「カプリン酸」の含有量が、それぞれ、甲3に記載されたビールの「5-メチル-2-フルフラール」の含有量、甲4又は5に記載されたビールの「カプリル酸」の含有量並びに甲4又は5に記載されたビールの「カプリン酸」の含有量と同程度であることを示す証拠はない。
また、甲1発明において、芳香化合物を脱アルコール化されたビールへリサイクルする際に、「5-メチル-2-フルフラール」、「カプリル酸」及び「カプリン酸」がそれぞれどの程度リサイクルされるのかも不明である(甲1発明と甲6に記載された製造方法の芳香化合物のリサイクルの程度が同程度であることを示す証拠はないし、甲6には「5-メチル-2-フルフラール」に関する記載はない。)。
したがって、甲1発明における「5-メチル-2-フルフラール」、「カプリル酸」及び「カプリン酸」の含有量が、本件特許発明1で特定される数値範囲内である蓋然性が高いとはいえないし、「5-メチル-2-フルフラール」、「カプリル酸」及び「カプリン酸」の3つの成分に着目しそれらの含有量を調整することが、甲1及びその他の証拠に記載も示唆もされていない以上、甲1及びその他の証拠に記載された事項を考慮しても、甲1発明において、「5-メチル-2-フルフラール」、「カプリル酸」及び「カプリン酸」の含有量を本件特許発明1で特定される数値範囲内とすることが当業者が容易に想到できたことであるともいえない。
さらに、本件特許発明1の効果が当業者が予測できない顕著な効果ではないということにもならない。
したがって、「本件発明1は、甲1に記載された発明または甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、仮にそうでなくても、本件発明1は、甲1に記載された発明及び他の証拠(甲3~6)の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。」とはいえず、特許異議申立人の上記主張は採用できない。
以上のことから、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲1発明であるとはいえないし、甲1発明並びに甲1及びその他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
イ 本件特許発明2について
本件特許発明2は、請求項1を引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲1発明であるとはいえないし、甲1発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
ウ 本件特許発明3について
本件特許発明3と甲1製法発明とを対比する。
両者の間には、本件特許発明1と甲1発明の間と同様の相当関係が成り立つ。
そうすると、両者は少なくとも次の点で相違する。
<相違点1―3a>
本件特許発明3においては「5-メチル-2-フルフラールの含有量を10ppb以上500ppb以下に調整し、カプリル酸の含有量を0.3ppm以上10ppm以下に調整し、かつ、カプリン酸の含有量を0.03ppm以上10ppm以下に調整する工程を含んでな」ることが特定されているのに対し、甲1製法発明においてはそのようには特定されていない点。
相違点1-3aについて検討する。
相違点1-3aは相違点1-1aと実質的に同じであるから、その判断も同じである。すなわち、相違点1-3aは実質的な相違点であるし、甲1及びその他の証拠に記載された事項を考慮しても、甲1製法発明において、相違点1-3aに係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
そして、本件特許発明3は「非アルコールビールテイスト飲料における酸味を低減することが可能となる」という本件特許発明3の構成から当業者が予測することのできた範囲を超える顕著な効果を奏するものである。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明3は甲1製法発明であるとはいえないし、甲1製法発明並びに甲1及びその他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
エ 本件特許発明4について
本件特許発明4は、請求項3を引用して特定するものであり、本件特許発明3の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明3と同様に、甲1製法発明であるとはいえないし、甲1製法発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
オ 本件特許発明5について
本件特許発明5と甲1方法発明とを対比する。
甲1方法発明における「エタノール不含のビールの製造の間のアロマ喪失を減少させ、優れた芳香フレーバープロファイルを有するようにする方法」は、本件特許発明5の「酸味を低減する方法」と、「優れた芳香フレーバープロファイルを有するようにする方法」であるという限りにおいて一致する。
その余の点については、本件特許発明1と甲1発明の間と同様の相当関係が成り立つ。
そうすると、両者は少なくとも次の点で相違する。
<相違点1―5a>
本件特許発明5においては「5-メチル-2-フルフラールの含有量を10ppb以上500ppb以下に調整し、カプリル酸の含有量を0.3ppm以上10ppm以下に調整し、かつ、カプリン酸の含有量を0.03ppm以上10ppm以下に調整する工程を含んでな」ることが特定されているのに対し、甲1方法発明においてはそのようには特定されていない点。
相違点1-5aについて検討する。
相違点1-5aは相違点1-1aと実質的に同じであるから、その判断も同じである。すなわち、相違点1-5aは実質的な相違点であるし、甲1及びその他の証拠に記載された事項を考慮しても、甲1方法発明において、相違点1-5aに係る本件特許発明5の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
そして、本件特許発明5は「非アルコールビールテイスト飲料における酸味を低減することが可能となる」という本件特許発明5の構成から当業者が予測することのできた範囲を超える顕著な効果を奏するものである。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明5は甲1方法発明であるとはいえないし、甲1方法発明並びに甲1及びその他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
カ 本件特許発明6について
本件特許発明6は、請求項5を引用して特定するものであり、本件特許発明5の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明5と同様に、甲1方法発明であるとはいえないし、甲1方法発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(3)申立理由1のまとめ
したがって、本件特許発明1~6は、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえないし、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるともいえないから、本件特許の請求項1~6に係る特許は、同法同条の規定に違反してされたものであるとはいえず、同法第113条第2号に該当しないから申立理由1によっては取り消すことはできない。
2 申立理由2(甲2に基づく新規性・進歩性)について
(1)甲2に記載された事項等
ア 甲2に記載された事項
甲2には、「ビール様発泡性飲料及びその製造方法」に関しておおむね次のとおり記載されている。
・「【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、ビールに含まれている各種成分を網羅的に解析し、キレに寄与する成分を調べた結果、オクタン酸、デカン酸、及びβ-ミルセンがキレと負の強い相関があり、イソアミルアルコールがキレと正の相関があること、よって、オクタン酸、デカン酸、及びβ-ミルセンの含有量を低く抑え、かつイソアミルアルコールの含有量を高めることによって、ビール様発泡性飲料のキレを改善できることを見出し、本発明を完成させた。」
・「【0053】
[実施例1]
本発明者らは、日本で市販されている主要14種類のビール様発泡性飲料について、定量的な記述分析法による官能評価と機器分析による網羅的な成分分析を行い、その関連性について解析することにより、キレに影響する成分の解明を試みた。機器分析により取得した成分データを説明変数、官能評価により取得したコク/キレ評点を目的変数としてPLS回帰分析した結果、コクは呈味成分データのみで良好な予測モデルが構築できたのに対し、キレは呈味成分データと香気成分データの両方を用いた場合において良好な予測モデルが構築できた。この解析によって、キレに対し重要度が高いとされたオクタン酸、デカン酸、β-ミルセン、及びイソアミルアルコールについて、その含有量とキレとの関係を調べた結果を以下に示す。
【0054】
<サンプルの調製>
麦芽30kg、副原料10kg、及び160Lの水を混合し、得られた混合物を50℃、30分間保持してタンパク質分解処理を行った後、当該混合物を65℃、70分間保持することにより、麦芽由来成分を糖化させた。得られた麦汁を濾過し、得られた濾過液にホップ(アメリカナゲット種)を添加して90分間煮沸した。煮沸処理後、濃度調整湯を添加し、ホップ粕などを分離し、5℃に冷却することにより、麦汁(180L)を得た。この麦汁に、下面発酵酵母が、添加後の酵母数30MIOとなるように添加し、10日間、12℃で発酵させた。発酵終了後の発酵液をさらに10℃で7日間熟成させた後、0℃に冷却し、珪藻土濾過を実施することによって、ビール(サンプル1)を得た。
【0055】
得られたサンプル1と市販のビールについて、オクタン酸、デカン酸、β-ミルセン、及びイソアミルアルコール濃度を測定した。結果を表1に示す。
【0056】
【表1】
[図:0001428032000003.jpg]
」
・「【0063】
[実施例2]
<サンプルの調製>
麦芽30kg、副原料10kg、及び160Lの水を混合し、得られた混合物を50℃、30分間保持してタンパク質分解処理を行った後、当該混合物を65℃、70分間保持することにより、麦芽由来成分を糖化させた。得られた麦汁を濾過し、得られた濾過液にホップ(ボベック種)を添加して90分間煮沸した。煮沸処理後、濃度調整湯を添加し、ホップ粕などを分離し、5℃に冷却することにより、麦汁(180L)を得た。この麦汁に、エアレーション(2.0NL/min、30分間)を実施した後、下面発酵酵母を添加後の酵母数が20×106個/mLとなるように添加し、10日間、12℃で発酵させた。発酵終了後の発酵液の一部を、分析用サンプル(サンプル1)として分取し、残りをさらに10℃で7日間熟成させた後、0℃に冷却し、珪藻土濾過を実施することによって、ビールを得た。
【0064】
また、前記と同様にして麦汁を調製し、エアレーション(2.0NL/min、30分間)を実施した後、下面発酵酵母を添加後の酵母数が30×106個/mLとなるように添加した。酵母添加後の麦汁に、さらにエアレーション(1.0NL/min、60分間)を実施した後、10日間、12℃で発酵させた。発酵終了後の発酵液の一部を、分析用サンプル(サンプル2)として分取し、残りをさらに10℃で7日間熟成させた後、0℃に冷却し、珪藻土濾過を実施することによって、ビールを得た。
【0065】
分取した分析用サンプル(サンプル1及び2)について、実施例1と同様にして、オクタン酸、デカン酸、β-ミルセン、及びイソアミルアルコール濃度を測定した。結果を表5に示す。エアレーションを1回のみ行ったサンプル1に比べて、エアレーションを2回行ったサンプル2では、発酵が旺盛になり、結果としてオクタン酸、デカン酸濃度が低下し、かつβ-ミルセン濃度も低下した。
【0066】
【表5】
[図:0001428032000004.jpg]
」
イ 甲2に記載された発明
甲2に記載された事項を、特に実施例1のサンプル1及び実施例2のサンプル2に関して整理すると、甲2には次の発明(以下、順に「甲2発明」、「甲2製法発明」、「甲2方法発明」という。)が記載されていると認められる。
<甲2発明>
「麦汁に、下面発酵酵母を添加し、発酵させて得たビールであって、オクタン酸の含有量が2.1~2.2ppmであり、デカン酸の含有量が0.1~0.2ppmであるビール。」
<甲2製法発明>
「麦汁に、下面発酵酵母を添加し、発酵させて、オクタン酸の含有量を2.1~2.2ppmに調整し、デカン酸の含有量を0.1~0.2ppmに調整する工程を含むビールの製造方法。」
<甲2方法発明>
「麦汁に、下面発酵酵母を添加し、発酵させて、オクタン酸の含有量を2.1~2.2ppmに調整し、デカン酸の含有量を0.1~0.2ppmに調整する工程を含むビールのキレを改善させる方法。」
(2)対比・判断
ア 本件特許発明1について
本件特許発明1と甲2発明とを対比する。
甲2発明における「ビール」は、本件特許発明1の「非アルコールビールテイスト飲料」のうち「非アルコール」を除いた部分を満たす。
また、甲2発明における「オクタン酸の含有量が2.1~2.2ppmであり、デカン酸の含有量が0.1~0.2ppmである」点は、本件特許発明1の「カプリル酸の含有量が0.3ppm以上10ppm以下であり、カプリン酸の含有量が0.03ppm以上10ppm以下であ」る点に相当する。
さらに、甲2発明では高甘味度甘味料を添加することは記載されていないから、本件特許発明1において「除く」ものとされている「高甘味度甘味料を含有するアルコールビールテイスト飲料」には該当しない。
そうすると、両者の一致点は以下のとおりである。
<一致点>
「ビールテイスト飲料であって、カプリル酸の含有量が0.3ppm以上10ppm以下である、カプリン酸の含有量が0.03ppm以上10ppm以下であり、ビールテイスト飲料(但し、高甘味度甘味料を含有するビールテイスト飲料を除く)。」
また、両者の相違点は以下のとおりである。
<相違点2-1a>
本件特許発明1では「5-メチル-2-フルフラールの含有量が10ppb以上500ppb以下であ」り、「かつ、脱アルコール麦汁発酵液を原料とする」ことが特定されているのに対し、甲2発明ではそのようには特定されていない点。
<相違点2-1b>
本件特許発明1では「非アルコールビールテイスト飲料」であることが特定されているのに対し、甲2発明では「ビール」と特定されている点。
相違点2-1aについて検討する。
甲2発明及び甲2には、相違点2-1aを満たすような記載も示唆もないから、相違点2-1aは実質的な相違点である。
そして、甲2及びその他の証拠には、甲2発明において「5-メチル-2-フルフラール」に着目し、その含有量を調整する動機付けとなる記載はない。
さらに、甲2及びその他の証拠に記載された事項からは、甲2発明において、「脱アルコール麦汁発酵液を原料」とした場合に、「オクタン酸」及び「デカン酸」の含有量がどのように変化するか不明であるから、甲2及びその他の証拠に、「オクタン酸」及び「デカン酸」の含有量が本件特許発明1で特定される条件を満たしている甲2発明において、「脱アルコール麦汁発酵液を原料とする」動機付けがあるとはいえない。
そうすると、甲2及びその他の証拠に記載された事項を考慮しても、甲2発明において、相違点2-1aに係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
そして、本件特許発明1は「非アルコールビールテイスト飲料における酸味を低減することが可能となる」という本件特許発明1の構成から当業者が予測することのできた範囲を超える顕著な効果を奏するものである。
<特許異議申立人の主張について>
相違点2-1aに関して、特許異議申立人は、特許異議申立書の第69~70ページにおいて、以下のとおり主張している。
・「相違点2-1について検討する。相違点1-1で既述のとおり、5-メチル-2-フルフラール(別称: 5-メチルフルフラール)は、ビールに11~55ppb程度の量で含まれていることが知られ(甲3)、甲2発明におけるビール様発泡性飲料は、通常のビールの製法と同様に、糖化、煮沸、発酵を経て製造されている(甲2の明細書【0054】)。そうすると、甲3に記載されたビールと同様に、甲2発明におけるビール様発泡性飲料も5-メチル-2-フルフラールを含んでおり、その含有量は、本件発明1で特定される数値範囲内(例えば11~55ppb程度)である蓋然性が高い。したがって、相違点2-1は実質的な相違点ではなく、仮にそうでなくても当業者が容易に想到できるものである。
相違点2-2及び2-3について検討する。「脱アルコール麦汁発酵液を原料とする」という記載は、後述のとおり、発明を不明確にするものであるが、発明が明確であったとしても、下記のとおり、当業者は相違点2-3に係る構成に容易に想到できる。
甲2は、ビール様発泡性飲料として、アルコール含量が1容量%未満であるいわゆるノンアルコール飲料を開示している(【0010】)。また、甲2は、麦汁の発酵を経て発酵液(麦汁発酵液に相当)を得ている(【0054】)。さらに、既述のとおり、アルコールを除去することにより非アルコールビールテイスト飲料を製造できることは技術常識である(甲4および9)。また、本件特許の拒絶理由通知(2024年6月19日起案、2024年6月25日付け)において審査官に指摘されたとおり、脱アルコール処理はノンアルコールビールテイスト飲料の製造方法として当業者によりよく知られた方法である。したがって、甲2発明において、原料に脱アルコール麦汁発酵液を使用し、非アルコールビールテイスト飲料を採用することに格別の困難性はなく、当業者は相違点2-2および3―3(当審注:「3-3」は「2-3」の誤記と認められる。)に係る構成に容易に想到できる。
したがって、本件発明1は、甲2に記載された発明または甲2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、仮にそうでなくても、本件発明1は、甲2に記載された発明及び他の証拠(甲3、甲4および甲9)の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。」
上記主張について検討する。
甲2発明における「麦汁に、下面発酵酵母を添加し、発酵させて得たビール」の「5-メチル-2-フルフラール」の含有量が、甲3に記載されたビールの「5-メチル-2-フルフラール」の含有量と同程度であることを示す証拠はない。
したがって、甲2発明における「5-メチル-2-フルフラール」の含有量が本件特許発明1で特定される数値範囲内である蓋然性が高いとはいえないし、「5-メチル-2-フルフラール」に着目しその含有量を調整することが、甲2及びその他の証拠に記載も示唆もされていない以上、甲2発明において、「5-メチル-2-フルフラール」の含有量を本件特許発明1で特定される数値範囲内とすることが当業者が容易に想到できたことであるともいえない。
さらに、「脱アルコール麦汁発酵液を原料とする」という記載は、下記6で述べるとおり、発明を不明確にするものであるとはいえない。
そして、上記のとおり、甲2及びその他の証拠に記載された事項からは、甲2発明において、「脱アルコール麦汁発酵液を原料」とした場合に、「オクタン酸」及び「デカン酸」の含有量がどのように変化するか不明である以上、甲2及びその他の証拠に記載された事項を考慮しても、甲2発明において、「脱アルコール麦汁発酵液を原料とする」動機付けがあるとはいえない。
したがって、「本件発明1は、甲2に記載された発明または甲2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、仮にそうでなくても、本件発明1は、甲2に記載された発明及び他の証拠(甲3、甲4および甲9)の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。」とはいえず、特許異議申立人の上記主張は採用できない。
以上のことから、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲2発明であるとはいえないし、甲2発明並びに甲2及びその他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
イ 本件特許発明2について
本件特許発明2は、請求項1を引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲2発明であるとはいえないし、甲2発明並びに甲2及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
ウ 本件特許発明3について
本件特許発明3と甲2製法発明とを対比する。
両者の間には、本件特許発明1と甲2発明の間と同様の相当関係が成り立つ。
そうすると、両者は少なくとも次の点で相違する。
<相違点2-3a>
本件特許発明3では「5-メチル-2-フルフラールの含有量が10ppb以上500ppb以下に調整」「する工程を含んでなり」及び「脱アルコール麦汁発酵液を原料とする」ことが特定されているのに対し、甲2製法発明ではそのようには特定されていない点。
相違点2-3aについて検討する。
相違点2-3aは相違点2-1aと実質的に同じであるから、その判断も同じである。すなわち、相違点2-3aは実質的な相違点であるし、甲2及びその他の証拠に記載された事項を考慮しても、甲2製法発明において、相違点2-3aに係る本件特許発明3の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
そして、本件特許発明3は「非アルコールビールテイスト飲料における酸味を低減することが可能となる」という本件特許発明3の構成から当業者が予測することのできた範囲を超える顕著な効果を奏するものである。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明3は甲2製法発明であるとはいえないし、甲2製法発明並びに甲2及びその他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
エ 本件特許発明4について
本件特許発明4は、請求項3を引用して特定するものであり、本件特許発明3の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明3と同様に、甲2製法発明であるとはいえないし、甲2製法発明並びに甲2及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
オ 本件特許発明5について
本件特許発明5と甲2方法発明とを対比する。
甲2方法発明における「キレを向上させる方法」は、本件特許発明5の「酸味を低減する方法」と、「おいしくする方法」であるという限りにおいて一致する。
その余の点については、本件特許発明1と甲2発明の間と同様の相当関係が成り立つ。
そうすると、両者は少なくとも次の点で相違する。
<相違点2―5a>
本件特許発明5においては「5-メチル-2-フルフラールの含有量を10ppb以上500ppb以下に調整し、カプリル酸の含有量を0.3ppm以上10ppm以下に調整し、かつ、カプリン酸の含有量を0.03ppm以上10ppm以下に調整する工程を含んでな」ることが特定されているのに対し、甲2方法発明においてはそのようには特定されていない点。
相違点2-5aについて検討する。
相違点2-5aは相違点2-1aと実質的に同じであるから、その判断も同じである。すなわち、相違点2-5aは実質的な相違点であるし、甲2及びその他の証拠に記載された事項を考慮しても、甲2方法発明において、相違点2-5aに係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
そして、本件特許発明5は「非アルコールビールテイスト飲料における酸味を低減することが可能となる」という本件特許発明5の構成から当業者が予測することのできた範囲を超える顕著な効果を奏するものである。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明5は甲2方法発明であるとはいえないし、甲2方法発明並びに甲2及びその他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
カ 本件特許発明6について
本件特許発明6は、請求項5を引用して特定するものであり、本件特許発明5の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明5と同様に、甲2方法発明であるとはいえないし、甲2方法発明並びに甲2及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(3)申立理由2のまとめ
したがって、本件特許発明1~6は、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえないし、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるともいえないから、本件特許の請求項1~6に係る特許は、同法同条の規定に違反してされたものであるとはいえず、同法第113条第2号に該当しないから、申立理由2によっては取り消すことはできない。
3 申立理由3(同日出願)について
(1)本件特許に係る出願と同日に出願された特願2023-547399号(特許第7608626号、本件特許の親出願、甲12)に係る発明
本件特許に係る出願と同日に出願された特願2023-547399号(特許第7608626号、本件特許の親出願、甲12)に係る発明(以下、順に「同日出願発明1」等という。)は、特許第7608626号の請求項1~6に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
5-メチル-2-フルフラールの含有量が10ppb以上500ppb以下である、非アルコールビールテイスト飲料であって、カプリル酸の含有量が0.3ppm以上10ppm以下であり、カプリン酸の含有量が0.03ppm以上10ppm以下であり、かつ、脱アルコール麦汁発酵液を原料とする、非アルコールビールテイスト飲料。
【請求項2】
アルコール(エタノール)濃度が0.005v/v%未満である、請求項1に記載の非アルコールビールテイスト飲料。
【請求項3】
非アルコールビールテイスト飲料を製造する方法であって、前記非アルコールビールテイスト飲料における5-メチル-2-フルフラールの含有量を10ppb以上500ppb以下に調整し、カプリル酸の含有量を0.3ppm以上10ppm以下に調整し、かつ、カプリン酸の含有量を0.03ppm以上10ppm以下に調整する工程を含んでなり、前記非アルコールビールテイスト飲料が脱アルコール麦汁発酵液を原料とするものである、方法。
【請求項4】
前記非アルコールビールテイスト飲料のアルコール(エタノール)濃度が0.005v/v%未満である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
非アルコールビールテイスト飲料における酸味を低減する方法であって、前記非アルコールビールテイスト飲料における5-メチル-2-フルフラールの含有量を10ppb以上500ppb以下に調整し、カプリル酸の含有量を0.3ppm以上10ppm以下に調整し、かつ、カプリン酸の含有量を0.03ppm以上10ppm以下に調整する工程を含んでなり、前記非アルコールビールテイスト飲料が脱アルコール麦汁発酵液を原料とするものである、方法。
【請求項6】
前記非アルコールビールテイスト飲料のアルコール(エタノール)濃度が0.005v/v%未満である、請求項5に記載の方法。」
(2)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と同日出願発明1とを対比するに、両者は次の点で相違し、その余の点で一致する。
<相違点12-1>
本件特許発明1においては「(但し、高甘味度甘味料を含有する非アルコールビールテイスト飲料を除く)」という発明特定事項を有しているのに対し、同日出願発明1においては「(但し、高甘味度甘味料を含有する非アルコールビールテイスト飲料を除く)」という発明特定事項を有していない点。
イ 判断
相違点12-1について検討する。
非アルコールビールテイスト飲料において「高甘味度甘味料を含有する非アルコールビールテイスト飲料を除く」という事項は周知技術又は慣用技術であるとはいえないから、相違点12-1は、課題解決のための具体化手段における微差(周知技術、慣用技術の付加、削除、転換等であって、新たな効果を奏するものではないもの)であるとはいえない。
また、相違点12-1は同日出願発明1の発明特定事項を本件特許発明1において上位概念又は下位概念として表現したことによる差異であるともいえない。
さらに、相違点12-1は単なるカテゴリー表現上の差異であるともいえない。
ウ まとめ
したがって、本件特許発明1と同日出願発明1との間に相違点12-1があり、また、両者は実質同一であるともいえないから、本件特許発明1は同日出願発明1と同一であるとはいえない。
本件特許発明1と同日出願発明2との間にも、少なくとも相違点12-1と同じ相違点があり、同様に判断される。すなわち、本件特許発明1は同日出願発明2と同一であるとはいえない。
本件特許発明1と同日出願発明3~6のいずれかとの間には、少なくとも相違点12-1とは表現は多少異なるものの実質的に同じ相違点があり、同様に判断される。すなわち、本件特許発明1は同日出願発明3~6のいずれとも同一であるとはいえない。
(3)本件特許発明2について
ア 対比
本件特許発明2と同日出願発明2とを対比するに、両者は次の点で相違し、その余の点で一致する。
<相違点12-2>
本件特許発明2においては「(但し、高甘味度甘味料を含有する非アルコールビールテイスト飲料を除く)」という発明特定事項を有しているのに対し、同日出願発明2においては「(但し、高甘味度甘味料を含有する非アルコールビールテイスト飲料を除く)」という発明特定事項を有していない点。
イ 判断
相違点12-2について検討する。
非アルコールビールテイスト飲料において「高甘味度甘味料を含有する非アルコールビールテイスト飲料を除く」という事項は周知技術又は慣用技術であるとはいえないから、相違点12-2は、課題解決のための具体化手段における微差(周知技術、慣用技術の付加、削除、転換等であって、新たな効果を奏するものではないもの)であるとはいえない。
また、相違点12-2は同日出願発明2の発明特定事項を本件特許発明2において上位概念又は下位概念として表現したことによる差異であるともいえない。
さらに、相違点12-2は単なるカテゴリー表現上の差異であるともいえない。
ウ まとめ
したがって、本件特許発明2と同日出願発明2との間に相違点12-2があり、また、両者は実質同一であるともいえないから、本件特許発明2は同日出願発明2と同一であるとはいえない。
本件特許発明2と同日出願発明1との間にも、少なくとも相違点12-2と同じ相違点があり、同様に判断される。すなわち、本件特許発明2は同日出願発明1と同一であるとはいえない。
本件特許発明2と同日出願発明3~6のいずれかとの間には、少なくとも相違点12-2とは表現は多少異なるものの実質的に同じ相違点があり、同様に判断される。すなわち、本件特許発明2は同日出願発明3~6のいずれとも同一であるとはいえない。
(4)本件特許発明3について
ア 対比
本件特許発明3と同日出願発明3とを対比するに、両者は次の点で相違し、その余の点で一致する。
<相違点12-3>
本件特許発明3においては「(但し、高甘味度甘味料を含有する非アルコールビールテイスト飲料を除く)」という発明特定事項を有しているのに対し、同日出願発明3においては「(但し、高甘味度甘味料を含有する非アルコールビールテイスト飲料を除く)」という発明特定事項を有していない点。
イ 判断
相違点12-3について検討する。
非アルコールビールテイスト飲料において「高甘味度甘味料を含有する非アルコールビールテイスト飲料を除く」という事項は周知技術又は慣用技術であるとはいえないから、相違点12-3は、課題解決のための具体化手段における微差(周知技術、慣用技術の付加、削除、転換等であって、新たな効果を奏するものではないもの)であるとはいえない。
また、相違点12-3は同日出願発明3の発明特定事項を本件特許発明3において上位概念又は下位概念として表現したことによる差異であるともいえない。
さらに、相違点12-3は単なるカテゴリー表現上の差異であるともいえない。
ウ まとめ
したがって、本件特許発明3と同日出願発明3との間に相違点12-3があり、また、両者は実質同一であるともいえないから、本件特許発明3は同日出願発明3と同一であるとはいえない。
本件特許発明3と同日出願発明4との間にも、少なくとも相違点12-3と同じ相違点があり、同様に判断される。すなわち、本件特許発明3は同日出願発明4と同一であるとはいえない。
本件特許発明3と同日出願発明1、2、5及び6のいずれかとの間には、少なくとも相違点12-3とは表現は多少異なるものの実質的に同じ相違点があり、同様に判断される。すなわち、本件特許発明3は同日出願発明1、2、5及び6のいずれとも同一であるとはいえない。
(5)本件特許発明4について
ア 対比
本件特許発明4と同日出願発明4とを対比するに、両者は次の点で相違し、その余の点で一致する。
<相違点12-4>
本件特許発明4においては「(但し、高甘味度甘味料を含有する非アルコールビールテイスト飲料を除く)」という発明特定事項を有しているのに対し、同日出願発明4においては「(但し、高甘味度甘味料を含有する非アルコールビールテイスト飲料を除く)」という発明特定事項を有していない点。
イ 判断
相違点12-4について検討する。
非アルコールビールテイスト飲料において「高甘味度甘味料を含有する非アルコールビールテイスト飲料を除く」という事項は周知技術又は慣用技術であるとはいえないから、相違点12-4は、課題解決のための具体化手段における微差(周知技術、慣用技術の付加、削除、転換等であって、新たな効果を奏するものではないもの)であるとはいえない。
また、相違点12-4は同日出願発明4の発明特定事項を本件特許発明4において上位概念又は下位概念として表現したことによる差異であるともいえない。
さらに、相違点12-4は単なるカテゴリー表現上の差異であるともいえない。
ウ まとめ
したがって、本件特許発明4と同日出願発明4との間に相違点12-4があり、また、両者は実質同一であるともいえないから、本件特許発明4は同日出願発明4と同一であるとはいえない。
本件特許発明4と同日出願発明3との間にも、少なくとも相違点12-4と同じ相違点があり、同様に判断される。すなわち、本件特許発明4は同日出願発明3と同一であるとはいえない。
本件特許発明4と同日出願発明1、2、5及び6のいずれかとの間には、少なくとも相違点12-4とは表現は多少異なるものの実質的に同じ相違点があり、同様に判断される。すなわち、本件特許発明4は同日出願発明1、2、5及び6のいずれとも同一であるとはいえない。
(6)本件特許発明5について
ア 対比
本件特許発明5と同日出願発明5とを対比するに、両者は次の点で相違し、その余の点で一致する。
<相違点12-5>
本件特許発明5においては「(但し、高甘味度甘味料を含有する非アルコールビールテイスト飲料を除く)」という発明特定事項を有しているのに対し、同日出願発明5においては「(但し、高甘味度甘味料を含有する非アルコールビールテイスト飲料を除く)」という発明特定事項を有していない点。
イ 判断
相違点12-5について検討する。
非アルコールビールテイスト飲料において「高甘味度甘味料を含有する非アルコールビールテイスト飲料を除く」という事項は周知技術又は慣用技術であるとはいえないから、相違点12-5は、課題解決のための具体化手段における微差(周知技術、慣用技術の付加、削除、転換等であって、新たな効果を奏するものではないもの)であるとはいえない。
また、相違点12-5は同日出願発明5の発明特定事項を本件特許発明5において上位概念又は下位概念として表現したことによる差異であるともいえない。
さらに、相違点12-5は単なるカテゴリー表現上の差異であるともいえない。
ウ まとめ
したがって、本件特許発明5と同日出願発明5との間に相違点12-5があり、また、両者は実質同一であるともいえないから、本件特許発明5は同日出願発明5と同一であるとはいえない。
本件特許発明5と同日出願発明6との間にも、少なくとも相違点12-5と同じ相違点があり、同様に判断される。すなわち、本件特許発明5は同日出願発明6と同一であるとはいえない。
本件特許発明5と同日出願発明1~4のいずれかとの間には、少なくとも相違点12-5とは表現は多少異なるものの実質的に同じ相違点があり、同様に判断される。すなわち、本件特許発明5は同日出願発明1~4のいずれとも同一であるとはいえない。
(7)本件特許発明6について
ア 対比
本件特許発明6と同日出願発明6とを対比するに、両者は次の点で相違し、その余の点で一致する。
<相違点12-6>
本件特許発明6においては「(但し、高甘味度甘味料を含有する非アルコールビールテイスト飲料を除く)」という発明特定事項を有しているのに対し、同日出願発明4においては「(但し、高甘味度甘味料を含有する非アルコールビールテイスト飲料を除く)」という発明特定事項を有していない点。
イ 判断
相違点12-6について検討する。
非アルコールビールテイスト飲料において「高甘味度甘味料を含有する非アルコールビールテイスト飲料を除く」という事項は周知技術又は慣用技術であるとはいえないから、相違点12-6は、課題解決のための具体化手段における微差(周知技術、慣用技術の付加、削除、転換等であって、新たな効果を奏するものではないもの)であるとはいえない。
また、相違点12-6は同日出願発明6の発明特定事項を本件特許発明6において上位概念又は下位概念として表現したことによる差異であるともいえない。
さらに、相違点12-6は単なるカテゴリー表現上の差異であるともいえない。
ウ まとめ
したがって、本件特許発明6と同日出願発明6との間に相違点12-6があり、また、両者は実質同一であるともいえないから、本件特許発明6は同日出願発明6と同一であるとはいえない。
本件特許発明6と同日出願発明5との間にも、少なくとも相違点12-6と同じ相違点があり、同様に判断される。すなわち、本件特許発明6は同日出願発明5と同一であるとはいえない。
本件特許発明6と同日出願発明1~4のいずれかとの間には、少なくとも相違点12-6とは表現は多少異なるものの実質的に同じ相違点があり、同様に判断される。すなわち、本件特許発明6は同日出願発明1~4のいずれとも同一であるとはいえない。
(8)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、特許異議申立書第76~77ページにおいて、次のとおり主張している。
・「本件特許発明1、2を同日出願発明1、2とそれぞれ比較すると、両者の違いは、「高甘味度甘味料を含有する非アルコールビールテイスト飲料を除く」という限定の有無である。同日出願発明1、2は、「高甘味度甘味料を含有する非アルコールビールテイスト飲料」に限定されているわけではないため、本件特許発明1、2によって除外されていない。明細書の記載を考慮しても、「高甘味度甘味料を含有する非アルコールビールテイス卜飲料」の除外の有無が新たな効果を示すことは認められない(なお、「高甘味度甘味料を含有する非アルコールビールテイスト飲料を除く」という補正が新たな技術的事項を導人しないものである場合には、「高甘味度甘味料を含有する非アルコールビールテイスト飲料」の除外の有無が新たな効果を示さないことは明らかである。)。
本件特許発明3、4を同日出願発明3、4とそれぞれ比較すると、両者の違いは、「高甘味度甘味料を含有する非アルコールビールテイスト飲料の製造方法を除く」という限定の有無である。同日出願発明3、4は、「高甘味度甘味料を含有する非アルコールビールテイスト飲料の製造方法」に限定されているわけではないため、本件特許発明3、4によって除外されていない。明細書の記載を考慮しても、「高甘味度甘味料を含有する非アルコールビールテイスト飲料の製造方法」の除外の有無が新たな効果を示すことは認められない(なお、「高甘味度甘味料を含有する非アルコールビールテイスト飲料の製造方法を除く」という補正が新たな技術的事項を導人しないものである場合には、「高甘味度甘味料を含有する非アルコールビールテイスト飲料の製造方法」の除外の有無が新たな効果を示さないことは明らかである。)。
本件特許発明5、6を同日出願発明5、6とそれぞれ比較すると、両者の違いは、「高甘味度甘味料を含有する非アルコールビールテイスト飲料における酸味を低減する方法を除く」という限定の有無である。同日出願発明5、6は、「高甘味度甘味料を含有する非アルコールビールテイスト飲料における酸味を低減する方法」に限定されているわけではないため、本件特許発明5、6によって除外されていない。明細雷の記載を考慮しても、「高甘味度甘味料を含有する非アルコールビールテイスト飲料における酸味を低減する方法」の除外の有無が新たな効果を示すことは認められない(なお、「高甘味度甘味料を含有する非アルコールビールテイスト飲料における酸味を低減する方法を除く」という補正が新たな技術的事項を導入しないものである場合には、「高甘味度甘味料を含有する非アルコールビールテイスト飲料における酸味を低減する方法」の除外の有無が新たな効果を示さないことは明らかである。)。
したがって、本件特許発明1~6及び同日出願発明1~6は同一(実質同一)である。」
そこで、検討する。
上記(2)及び(3)のとおり、本件特許発明1及び2は同日出願発明1及び2と同一であるとはいえない。
また、「高甘味度甘味料を含有する非アルコールビールテイスト飲料を除く」ことが、上記(2)及び(3)のとおり、周知技術又は慣用技術であるとはいえない以上、「高甘味度甘味料を含有する非アルコールビールテイスト飲料」の除外の有無が新たな効果を示すかどうかは、発明が同一であるかどうかの判断を左右するものではない。
本件特許発明3~6についても同様である。
したがって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。
(9)申立理由3についてのまとめ
上記(2)~(8)のとおりであるから、本件特許発明1~6は、同日出願発明1~6のいずれか、すなわち、本件特許に係る出願と同日に出願された特願2023-547399号(特許第7608626号、本件特許の親出願、甲12)に係る発明と同一であるとはいえず、特許法第39条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、申立理由3の理由では、本件特許の請求項1~6に係る特許を取り消すことはできない。
4 申立理由4(実施可能要件)について
(1)実施可能要件の判断基準
本件特許発明1及び2は物の発明であるところ、物の発明について実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を生産し、使用することができる程度の記載があることを要する。
本件特許発明3及び4は物を生産する方法の発明であるところ、物を生産する方法の発明について実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を生産する方法を使用し、その物を生産する方法により生産した物の使用をすることができる程度の記載があることを要する。
本件特許発明5及び6は方法の発明であるところ、方法の発明について実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その方法を使用することができる程度の記載があることを要する。
そこで、検討する。
(2)本件特許明細書の記載事項
本件特許明細書の【0005】には、「本発明は、酸味が低減された非アルコールビールテイスト飲料およびその製造方法を提供する」ことを課題とすることが記載されており、具体的には、本件特許発明1及び2の解決しようとする課題は酸味が低減された非アルコールビールテイスト飲料を提供することであり、本件特許発明3及び4の解決しようとする課題は酸味が低減された非アルコールビールテイスト飲料の製造方法を提供することであり、本件特許発明5及び6の解決しようとする課題は非アルコールビールテイスト飲料の酸味を低減する方法を提供することであると認められ(以下、総称して「発明の課題」という。)、同【0004】には「発明者らは、上記の問題について検討したところ、5-メチル-2-フルフラール(CAS:67-47-0)の濃度を調整することにより、非アルコールビールテイスト飲料における酸味を低減できることを見出した。」と記載されている。
そして、本件特許明細書の【0006】には、本件特許発明1~6に対応する記載があり、同【0007】には「本発明によれば、非アルコールビールテイスト飲料における酸味を低減することが可能となる。」と記載されている。
また、本件特許明細書の【0009】には非アルコールビールテイスト飲料について記載され、同【0013】には5-メチル-2-フルフラール、カプリル酸及びカプリン酸の含有量の調整方法について記載され、同【0014】~【0015】には5-メチル-2-フルフラールの含有量及び測定方法について記載され、同【0016】~【0017】にはカプリル酸及びカプリン酸の含有量及び測定方法について記載され、同【0021】には5-メチル-2-フルフラールの含有量の調整方法について記載され、同【0024】~【0035】には本件特許発明1~6の具体的な実施例が示されており、5-メチル-2-フルフラールを10ppb以上とした試験区3~25が、5-メチル-2-フルフラールが10ppbよりも小さい試験区1及び2よりも酸味の強さが低減されることが確認されている。
(3)実施可能要件についての判断
そうすると、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、本件特許発明1及び2を生産し、使用することができる程度の記載があるといえるし、本件特許発明3及び4の使用をし、それにより生産した物の使用をすることができる程度の記載があるといえるし、本件特許発明5及び6の使用をすることができる程度の記載があるといえる。
よって、本件特許発明1~6に関して、発明の詳細な説明の機作は実施可能要件を充足する。
(4)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人の上記第3 4の主張について検討する。
実施可能要件の判断は、上記(1)の判断基準にしたがって行うものであり、本件特許発明1に該当する全てについて、発明の課題を解決できるかどうかによって実施可能要件の判断が変わることはない。
したがって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。
(5)申立理由4についてのまとめ
上記(3)及び(4)のとおりであるから、本件特許の請求項1~6に係る特許は、いずれも特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしている特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当せず、申立理由4の理由では、本件特許の請求項1~6に係る特許を取り消すことはできない。
5 申立理由5(サポート要件)について
(1)サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
そこで、検討する。
(2)特許請求の範囲の記載
本件特許の特許請求の範囲の記載は上記第2のとおりである。
(3)サポート要件についての判断
本件特許明細書には、上記4(2)で述べたとおりの事項が記載されており、当該記載より、当業者は「5-メチル-2-フルフラールの含有量が10ppb以上である、非アルコールビールテイスト飲料」、「5-メチル-2-フルフラールの含有量を10ppb以上に調整する工程を含む、非アルコールビールテイスト飲料の製造方法」及び「非アルコールビールテイスト飲料における5-メチル-2-フルフラールの含有量を10ppb以上に調整する工程を含む、方法」であれば、発明の課題を解決できると認識できる。
そして、本件特許発明1及び2は、当業者が発明の課題を解決できると認識できる上記「5-メチル-2-フルフラールの含有量が10ppb以上である、非アルコールビールテイスト飲料」をさらに限定したものである。同様に、本件特許発明3及び4も上記「5-メチル-2-フルフラールの含有量を10ppb以上に調整する工程を含む、非アルコールビールテイスト飲料の製造方法」をさらに限定したものであり、また、本件特許発明5及び6も「非アルコールビールテイスト飲料における5-メチル-2-フルフラールの含有量を10ppb以上に調整する工程を含む、方法」をさらに限定したものである。
したがって、本件特許発明1~6は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるから、本件特許発明1~6に関して、特許請求の範囲の記載はサポート要件に適合する。
(4)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人の上記第3 5の主張について検討する。
本件特許発明1~6の要件を満たす試験区が試験区25のみであるとしても、試験1により5-メチル-2-フルフラールが容量依存的に酸味低減の効果を奏することが示され、試験2及び3並びに試験4の試験区24により5-メチル-2-フルフラールとカプリル酸及び/又はカプリン酸を併用することにより5-メチル-2-フルフラールを単独で用いる場合より大きな酸味の低減効果を奏することが示され、試験4によりベース飲料サンプルの違いによらず、5-メチル-2-フルフラール、カプリル酸及びカプリン酸が、同様に酸味の低減効果を奏することが示されているから、当業者は試験区25(ベース飲料サンプルBを使用)において5-メチル-2-フルフラールの含有量を増やした場合にも試験区2ないし24(ベース飲料サンプルAを使用)と同様の酸味低減効果を奏し、発明の課題を解決できると認識できる。
すなわち、本件特許発明1に該当する飲料全てについて、発明の課題を解決できると当業者は認識できる。
したがって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。
(5)申立理由5についてのまとめ
上記(3)及び(4)のとおりであるから、本件特許の請求項1~6に係る特許は、いずれも特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしている特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当せず、申立理由5の理由では、本件特許の請求項1~6に係る特許を取り消すことはできない。
6 申立理由6(明確性要件)について
(1)明確性要件の判断基準
特許を受けようとする発明が明確であるか否かは、特許請求の範囲の記載のみならず、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。
そこで、検討する。
(2)明確性要件についての判断
本件特許の特許請求の範囲の記載は上記第2のとおりであり、それら自体に不明確な記載はないし、また、発明の詳細な説明の記載とも整合している。
したがって、本件特許発明1~6の記載に関して、特許請求の範囲の記載のみならず、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえない。
(3)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、上記第3 6(1)の主張をするものの、請求項1の「脱アルコール麦汁発酵液を原料とする」という記載は、製造方法を特定しているものではなく、「非アルコールビールテイスト飲料」の原料を特定しているものに過ぎない。すなわち、「物の発明に係る請求項にその物の製造方法が記載されている場合」に該当しない。
したがって、不可能・非実際的事情が存在することについて、本件特許の明細書等に記載がなく、また、特許権者から主張・立証がされていないとしても、本件特許発明1及び2が明確でないとはいうことにはならない。
また、特許異議申立人は、上記第3 6(2)の主張もするものの、「高甘味度甘味料」は、その記載のとおり、甘味度が高い甘味料を意味するものであり、具体的にどのようなものかは当業者であれば理解できるから、第三者に不測の不利益を及ぼすおそれはない。
また、甲13~16に記載された事項によって本件特許発明1及び2の記載が変更されることはないから、甲13~16によって上記判断が覆るものでもない。
したがって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。
(4)申立理由6についてのまとめ
上記(2)及び(3)のとおりであるから、本件特許の請求項1~6に係る特許は、いずれも特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしている特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当せず、申立理由6の理由では、本件特許の請求項1~6に係る特許を取り消すことはできない。
7 申立理由7(新規事項)について
(1)新規事項の追加についての判断手法
補正が、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものであるときは、当該補正は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものということができる(知財高判平成20年5月30日(平成18年(行ケ)10563号)「ソルダーレジスト」大合議判決)。
(2)新規事項の追加の有無についての判断
上記判断手法に照らして、本件補正が新規事項を追加するものであるか検討する。
令和6年10月16日に提出された手続補正書による手続補正(以下、「本件補正」という。)は、補正前の請求項1に「非アルコールビールテイスト飲料。」とあるのを、「非アルコールビールテイスト飲料(但し、高甘味度甘味料を含有する非アルコールビールテイスト飲料を除く)。」に補正することを含むものである。
本件補正前の請求項1に係る「非アルコールビールテイスト飲料」は、高甘味度甘味料の含有、非含有について何ら特定されていなかったところ、本件明細書の【0018】に「本発明の非アルコールビールテイスト飲料には、本発明の効果を妨げない範囲でその他 の原料を配合してもよい。すなわち、本発明の非アルコールビールテイスト飲料では、・・・甘味料(例えば、高甘味度甘味料)・・・などを原料として使用することができる。」と記載されていることを参酌すると、本件補正前の請求項1に係る発明は「高甘味度甘味料を含有する非アルコールビールテイスト飲料」と「高甘味度甘味料を含有しない非アルコールビールテイスト飲料」の両方を含むものであると解される。本件補正はそのうちの前者を削除し後者に限定するものであるから、当初明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものであることは明らかである。
本件補正における請求項3及び5の補正についても同様である。また、本件補正における【0004】の補正が新規事項を追加するものではないことも明らかである。
したがって、本件補正は、新規事項を追加するものではなく、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たすものである。
(3)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、特許権者が令和6年10月16日に提出した意見書(甲17)の項目「オ 効果」の記載を引用し、「この記載によれば、引用発明から予測し得ない格別顕著な効果を主張するにあたって、高甘味度甘味料が関与しないビール風味にあえて言及することで引用文献1との差別化を図って」いるから、本件補正の請求項1、3、5の補正は単に「高甘味度甘味料を含有する非アルコールビールテイスト飲料」を除外するものではなく、「高甘味度甘味料を含有しない非アルコールビールテイスト飲料における酸味を低減するという発明の効果の顕著性と結び付けられており」、したがって「当初明細書に記載されていない新たな技術的意義を補正前の発明に追加している」と主張している。
しかし、特許異議申立人が引用する甲17の記載は、進歩性欠如の拒絶理由において引用された引用文献2が高甘味度甘味料特有の後に尾を引く不自然な甘さ等を改善することを課題とし、高甘味度甘味料を必須の発明特定事項とする発明であるから、当業者は引用文献2から高甘味度甘味料を含有しない非アルコールビールテイスト飲料を提供することを動機づけられることはなく、かつ、高甘味度甘味料の含有、非含有に関わらない課題である「ノンアルコールビール風味飲料における酸味の突出」を解決するという本件発明の効果を予測することもできなかったというものである。
そうすると、甲17の記載は、本件特許発明の「非アルコールビールテイスト飲料における酸味を低減する」という効果が、「高甘味度甘味料を含有しない」ことに由来するという主張を記載したものではないことが明らかであるから、高甘味度甘味料と本件特許発明の効果との関係性を前提とする特許異議申立人の主張は甲17の記載を曲解するものであり、失当である。
また、上記5(3)で検討したことを踏まえると、当業者は当初明細書等の記載に基づいて「5-メチル-2-フルフラールの含有量が10ppb以上である、非アルコールビールテイスト飲料」は、高甘味度甘味料含有の有無に関わらず、「非アルコールビールテイスト引用における酸味を低減する」という課題を解決できるものと認識することができるのであるから、本件補正により新たな発明の効果、技術的意義が補正前の発明に追加されたともいえない。
よって、特許異議申立人の主張を採用することはできない。
(4)申立理由7についてのまとめ
上記(2)及び(3)のとおりであるから、本件特許の請求項1~6に係る特許は、いずれも特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してされたものではないから、同法第113条第1号に該当せず、申立理由7の理由では、本件特許の請求項1~6に係る特許を取り消すことはできない。
第5 結語
以上のとおりであるから、特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては、本件特許の請求項1~6に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1~6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2025-700698