特許拒絶査定不服審判
2014-025786
直交磁化配向方向を伴う基準層を有する磁気スタック
- 審判番号
- 2014-025786
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2012-520672外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2014年12月17日
- 審決日
- 2016年10月03日
- 公報発行日
- 2017年04月28日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】シーゲイト テクノロジー エルエルシー
- 【請求人代理人】特許業務法人深見特許事務所
- 分類
- P18 .113-WZ (H01L) / P18 .121-WZ (H01L)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条1項3号特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第17条の2第3項、特許法第29条第1項第3号、特許法第184条の4第1項、特許法第36条第6項第2号、特許法第17条の2第5項第4号、特許法第17条の2第5項、特許法第17条の2第4項、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特願2012-520672「直交磁化配向方向を伴う基準層を有する磁気スタック」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 1月20日国際公開、WO2011/008615、平成24年12月20日国内公表、特表2012-533189〕について、次のとおり審決する。
結論
【結 論】
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
【理 由】
1 手続の経緯
本願は、平成22年7月8日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2009年7月13日、アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、平成24年2月17日に特許法184条の4第1項の規定による翻訳文が提出され、平成25年2月25日付けで審査請求がなされ、平成26年2月18日付けで拒絶理由の通知がなされ、同年6月20日付けで意見書及び手続補正書の提出がなされ、同年8月12日付けで拒絶査定がなされた。これに対して同年12月17日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに手続補正書の提出がなされ、当審において平成27年12月22日付けで拒絶理由が通知され、平成28年5月6日付けで意見書及び手続補正書の提出がなされたものである。
2 平成28年5月6日付け手続補正について
(1)補正の内容
平成28年5月6日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)により、特許請求の範囲は、
「【請求項1】
磁気セルであって、
自由磁化配向方向を有する強磁性自由層と、
前記自由磁化配向方向に平行または逆平行の第1の基準磁化配向方向を有する第1の強磁性固定基準層とを備え、前記第1の強磁性固定基準層は、第1の阻止温度を有する第1の合成反強磁性素子を含み、前記磁気セルは、さらに、
前記強磁性自由層と前記第1の強磁性固定基準層との間にある第1の酸化物バリヤ層と、
前記第1の基準磁化配向方向に直交する第2の基準磁化配向方向を有する第2の強磁性固定基準層とを備え、前記第2の強磁性固定基準層は、前記第1の阻止温度よりも低い第2の阻止温度を有する第2の合成反強磁性素子を含み、
前記強磁性自由層は、前記第1の強磁性固定基準層と前記第2の強磁性固定基準層との間にあり、
前記第1および第2の合成反強磁性素子はいずれも、反強磁性的に結合されるとともに非磁気的でかつ電気的に導通するスペーサ層によって分離される2つの強磁性層を含む、磁気セル。
【請求項2】
前記強磁性自由層、前記第1の強磁性固定基準層、および前記第2の強磁性固定基準層は、面内磁気異方性を有する、請求項1に記載の磁気セル。
【請求項3】
前記強磁性自由層と前記第2の強磁性固定基準層との間に第2の酸化物バリヤ層をさらに備える、請求項1に記載の磁気セル。
【請求項4】
前記強磁性自由層は、前記磁気セルを流れる電流によって誘導されるスピントルクトランスファによって、高抵抗データ状態と低抵抗データ状態との間を切換える、請求項1に記載の磁気セル。
【請求項5】
前記自由磁化配向方向は、前記第2の基準磁化配向方向に直交する、請求項1に記載の磁気セル。
【請求項6】
スピントルクトランスファ磁気セルであって、
前記磁気セルを流れる電流によって誘導されるスピントルクトランスファによって、高抵抗データ状態と低抵抗データ状態との間を切換える、面内自由磁化配向方向を有する強磁性自由層と、
前記自由磁化配向方向に平行または逆平行の第1の基準磁化配向方向を有する第1の強磁性固定基準層とを備え、前記第1の強磁性固定基準層は、第1の阻止温度を有する第1の合成反強磁性素子を含み、前記スピントルクトランスファ磁気セルは、さらに、
前記強磁性自由層と前記第1の強磁性固定基準層との間にある第1の酸化物バリヤ層と、
前記自由磁化配向方向に直交する、面内の第2の基準磁化配向方向を有する第2の強磁性固定基準層とを備え、前記第2の強磁性固定基準層は、前記第1の阻止温度よりも低い第2の阻止温度を有する第2の合成反強磁性素子を含み、
前記強磁性自由層と前記第2の強磁性固定基準層との間の第2の酸化物バリヤ層とを備え、
前記第1および第2の合成反強磁性素子はいずれも、反強磁性的に結合されるとともに非磁気的でかつ電気的に導通するスペーサ層によって分離される2つの強磁性層を含む、スピントルクトランスファ磁気セル。
【請求項7】
スピントルクトランスファ磁気セルであって、
前記磁気セルを流れる電流によって誘導されるスピントルクトランスファによって、高抵抗データ状態と低抵抗データ状態との間を切換える、面内自由磁化配向方向を有する強磁性自由層と、
前記自由磁化配向方向に平行または逆平行の第1の基準磁化配向方向を有する第1の強磁性固定基準層とを備え、前記第1の強磁性固定基準層は、第1の阻止温度を有する第1の合成反強磁性素子を含み、前記スピントルクトランスファ磁気セルは、さらに、
前記強磁性自由層と前記第1の強磁性固定基準層との間にある第1の酸化物バリヤ層と、
前記第1の基準磁化配向方向に直交する、面内の第2の基準磁化配向方向を有する第2の強磁性固定基準層とを備え、前記第2の強磁性固定基準層は、前記第1の阻止温度よりも低い第2の阻止温度を有する第2の合成反強磁性素子を含み、
前記強磁性自由層と前記第2の強磁性固定基準層との間の第2の酸化物バリヤ層とを備え、
前記第1および第2の合成反強磁性素子はいずれも、反強磁性的に結合されるとともに非磁気的でかつ電気的に導通するスペーサ層によって分離される2つの強磁性層を含む、スピントルクトランスファ磁気セル。」
から、
「【請求項1】
磁気セルであって、
自由磁化配向方向を有する強磁性自由層と、
前記自由磁化配向方向に平行または逆平行の第1の基準磁化配向方向を有する第1の強磁性固定基準層とを備え、前記第1の強磁性固定基準層は、第1の合成反強磁性素子を含み、前記磁気セルは、さらに、
前記強磁性自由層と前記第1の強磁性固定基準層との間にある第1の酸化物バリヤ層と、
前記第1の基準磁化配向方向に直交する第2の基準磁化配向方向を有する第2の強磁性固定基準層とを備え、前記第2の強磁性固定基準層は、第2の合成反強磁性素子を含み、
前記強磁性自由層は、前記第1の強磁性固定基準層と前記第2の強磁性固定基準層との間にあり、
前記第1および第2の合成反強磁性素子はいずれも、反強磁性的に結合されるとともに非磁気的でかつ電気的に導通するスペーサ層によって分離される2つの強磁性層を含み、
前記第1の強磁性固定基準層は、その磁化配向が、後に形成される前記第2の強磁性固定基準層よりも高い温度で設定される、磁気セル。
【請求項2】
前記強磁性自由層、前記第1の強磁性固定基準層、および前記第2の強磁性固定基準層は、面内磁気異方性を有する、請求項1に記載の磁気セル。
【請求項3】
前記強磁性自由層と前記第2の強磁性固定基準層との間に第2の酸化物バリヤ層をさらに備える、請求項1に記載の磁気セル。
【請求項4】
前記強磁性自由層は、前記磁気セルを流れる電流によって誘導されるスピントルクトランスファによって、高抵抗データ状態と低抵抗データ状態との間を切換える、請求項1に記載の磁気セル。
【請求項5】
前記自由磁化配向方向は、前記第2の基準磁化配向方向に直交する、請求項1に記載の磁気セル。
【請求項6】
スピントルクトランスファ磁気セルであって、
前記磁気セルを流れる電流によって誘導されるスピントルクトランスファによって、高抵抗データ状態と低抵抗データ状態との間を切換える、面内自由磁化配向方向を有する強磁性自由層と、
前記自由磁化配向方向に平行または逆平行の第1の基準磁化配向方向を有する第1の強磁性固定基準層とを備え、前記第1の強磁性固定基準層は、第1の合成反強磁性素子を含み、前記スピントルクトランスファ磁気セルは、さらに、
前記強磁性自由層と前記第1の強磁性固定基準層との間にある第1の酸化物バリヤ層と、
前記自由磁化配向方向に直交する、面内の第2の基準磁化配向方向を有する第2の強磁性固定基準層とを備え、前記第2の強磁性固定基準層は、第2の合成反強磁性素子を含み、
前記強磁性自由層と前記第2の強磁性固定基準層との間の第2の酸化物バリヤ層とを備え、
前記第1および第2の合成反強磁性素子はいずれも、反強磁性的に結合されるとともに非磁気的でかつ電気的に導通するスペーサ層によって分離される2つの強磁性層を含み、
前記第1の強磁性固定基準層は、その磁化配向が、後に形成される前記第2の強磁性固定基準層よりも高い温度で設定される、スピントルクトランスファ磁気セル。
【請求項7】
スピントルクトランスファ磁気セルであって、
前記磁気セルを流れる電流によって誘導されるスピントルクトランスファによって、高抵抗データ状態と低抵抗データ状態との間を切換える、面内自由磁化配向方向を有する強磁性自由層と、
前記自由磁化配向方向に平行または逆平行の第1の基準磁化配向方向を有する第1の強磁性固定基準層とを備え、前記第1の強磁性固定基準層は、第1の合成反強磁性素子を含み、前記スピントルクトランスファ磁気セルは、さらに、
前記強磁性自由層と前記第1の強磁性固定基準層との間にある第1の酸化物バリヤ層と、
前記第1の基準磁化配向方向に直交する、面内の第2の基準磁化配向方向を有する第2の強磁性固定基準層とを備え、前記第2の強磁性固定基準層は、第2の合成反強磁性素子を含み、
前記強磁性自由層と前記第2の強磁性固定基準層との間の第2の酸化物バリヤ層とを備え、
前記第1および第2の合成反強磁性素子はいずれも、反強磁性的に結合されるとともに非磁気的でかつ電気的に導通するスペーサ層によって分離される2つの強磁性層を含み、
前記第1の強磁性固定基準層は、その磁化配向が、後に形成される前記第2の強磁性固定基準層よりも高い温度で設定される、スピントルクトランスファ磁気セル。」
に補正された。(なお、下線は請求人が付与した。)
(2)補正事項
ア 補正事項1
補正前の請求項1、6、7に記載された「前記第1の強磁性固定基準層は、第1の阻止温度を有する第1の合成反強磁性素子を含み」を、補正後の請求項1、6、7に記載された「前記第1の強磁性固定基準層は、第1の合成反強磁性素子を含み」とすること。
イ 補正事項2
補正前の請求項1、6、7に記載された「前記第2の強磁性固定基準層は、前記第1の阻止温度よりも低い第2の阻止温度を有する第2の合成反強磁性素子を含み」を、補正後の請求項1、6、7に記載された「前記第2の強磁性固定基準層は、第2の合成反強磁性素子を含み」とすること。
ウ 補正事項3
補正前の請求項1、6、7に記載された「前記第1および第2の合成反強磁性素子はいずれも、反強磁性的に結合されるとともに非磁気的でかつ電気的に導通するスペーサ層によって分離される2つの強磁性層を含む」を、補正後の請求項1、6、7に記載された「前記第1および第2の合成反強磁性素子はいずれも、反強磁性的に結合されるとともに非磁気的でかつ電気的に導通するスペーサ層によって分離される2つの強磁性層を含み、前記第1の強磁性固定基準層は、その磁化配向が、後に形成される前記第2の強磁性固定基準層よりも高い温度で設定される」とすること。
(3)補正の適否について
本願明細書の段落【0030】には、「多くの実施の形態においては、第1の反強磁性基準(ピニング)層AFM1は、第2の反強磁性基準(ピニング)層AFM2とは異なる材料組成を有する。第1の反強磁性基準(ピニング)層AFM1は、第2の反強磁性基準(ピニング)層AFM2よりも高い阻止温度を有し得る。したがって、第1の強磁性固定基準層または素子14は、その磁化配向を、後に形成される第2の強磁性固定基準層または素子13よりも高い温度に設定し得る。そして、第2の強磁性固定基準層または素子13は、その磁化配向を、前に形成された第1の強磁性固定基準層または素子14よりも低い温度に設定し得る。」ことが記載され、本願図面の図4には、「第1の反強磁性基準(ピニング)層AFM1」が「第1の強磁性固定基準素子14」に含まれ、「第2の反強磁性基準(ピニング)層AFM2」が「第2の強磁性固定基準素子13」に含まれる構造が記載されている。
そして、平成27年12月22日付けの拒絶理由通知では、
「『阻止温度』については本願明細書の段落30に、『第1の反強磁性基準(ピニング)層AFM1は、第2の反強磁性基準(ピニング)層AFM2よりも高い阻止温度を有し得る』ことは記載されているものの、『第1の合成反強磁性素子』と『第2の合成反強磁性素子』の阻止温度については記載されておらず」、「発明の詳細な説明の記載と対応していないので、請求項1~7に係る発明は明確でない」として、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない拒絶理由が指摘された。
これに対して、補正事項1及び2では、「第1の合成反強磁性素子」と「第2の合成反強磁性素子」の阻止温度の特定を削除し、補正事項3では、温度による磁化配向について「前記第1の強磁性固定基準層は、その磁化配向が、後に形成される前記第2の強磁性固定基準層よりも高い温度で設定され」ることが明りょうとなった。
そうすると、補正事項1-3は、いずれも特許法第17条の2第5項第4号に掲げる、明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当するものであり、特許法第17条の2第5項に規定する要件を満たす。
また、補正事項1-3による補正は、本願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「当初明細書等」という。また、本願の願書に最初に添付した明細書を「当初明細書」という。)に記載されているものと認められるから、補正事項1-3は、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものではなく、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たす。
さらに、補正事項1-3は、発明の特別な技術的特徴を変更するものではないと認められるから、特許法第17条の2第4項に規定する要件を満たすものといえる。
以上検討したとおりであるから、本件補正は、特許法第17条の2第3項、第4項、及び、第5項に規定する要件を満たす。
3 本願発明
本願の請求項1に係る発明は、平成28年5月6日付け手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである(以下「本願発明」という。)。
「磁気セルであって、
自由磁化配向方向を有する強磁性自由層と、
前記自由磁化配向方向に平行または逆平行の第1の基準磁化配向方向を有する第1の強磁性固定基準層とを備え、前記第1の強磁性固定基準層は、第1の合成反強磁性素子を含み、前記磁気セルは、さらに、
前記強磁性自由層と前記第1の強磁性固定基準層との間にある第1の酸化物バリヤ層と、
前記第1の基準磁化配向方向に直交する第2の基準磁化配向方向を有する第2の強磁性固定基準層とを備え、前記第2の強磁性固定基準層は、第2の合成反強磁性素子を含み、
前記強磁性自由層は、前記第1の強磁性固定基準層と前記第2の強磁性固定基準層との間にあり、
前記第1および第2の合成反強磁性素子はいずれも、反強磁性的に結合されるとともに非磁気的でかつ電気的に導通するスペーサ層によって分離される2つの強磁性層を含み、
前記第1の強磁性固定基準層は、その磁化配向が、後に形成される前記第2の強磁性固定基準層よりも高い温度で設定される、磁気セル。」
4 引用文献
平成27年12月22日付けの拒絶理由通知において引用された、本願の優先権主張の日(以下「本願優先日」という。)前に日本国内において頒布された刊行物である、特開2008-28362号公報(以下、「引用文献」という。)には、下記の事項が記載されている。
A 「【0025】
ここで、フリー層13の容易磁化方向は膜面に対して垂直であるので、磁化配列が平行となるピン層11との間では中間層12を介して磁気抵抗効果が発現するが、磁化配列が垂直となるピン層15との間では中間層14を介した磁気抵抗効果は発現しない。これは、大きなメリットであり、デュアルピン層構造(すなわち、フリー層の両側にそれぞれ中間層を介して2つのピン層が配置される構造)を有する磁気抵抗効果素子で問題であった2つ目のピン層による読み出し出力の劣化を回避することが可能となる。
【0026】
すなわち、本実施形態のMTJ素子10においては、2つのピン層(ピン層11とピン層15)の磁化の方向が直交している。このため、中間層12及び中間層14の両方で同じ材料、例えば、MgO(酸化マグネシウム)、AlOx(酸化アルミニウム)などの絶縁体を用いた場合、2つのピン層によって高いスピン注入効率が得られると同時に、磁気抵抗効果が一方の中間層のみで発現するという効果を有している。」
B 「【0104】
(第3の実施形態)
第3の実施形態は、フリー層及び2つのピン層のそれぞれに面内磁化膜を用いて、MTJ素子10を構成するようにしている。図10は、本発明の第3の実施形態に係るMTJ素子10の構成を示す斜視図である。図10は、本実施形態のMTJ素子10の基本構成を示している。
【0105】
MTJ素子10は、第1のピン層11、第1の中間層12、フリー層13、第2の中間層14、第2のピン層15が順に積層された積層構造を有している。なお、この基本構成は、積層順序が逆転していても構わない。
【0106】
ピン層11、フリー層13、ピン層15の容易磁化方向は、膜面に対して平行である。すなわち、全ての磁性層として面内磁化膜を用いることが可能となり、MTJ素子10を容易に形成することができる。
【0107】
また、ピン層11とフリー層13とは容易磁化方向が平行であり、ピン層11とピン層15とは容易磁化方向が互いに直交している。従って、磁化配列が平行となるフリー層13とピン層11との間では中間層12を介して磁気抵抗効果が発現するが、磁化配列が垂直となるフリー層13とピン層15との間では中間層14を介した磁気抵抗効果は発現しない。
【0108】
図11は、MTJ素子10の具体例を示す斜視図である。図10に示した基本構成の最上層及び最下層にそれぞれ、キャップ層17及び下地層16が設けられている。ピン層11は、ピン層11C/中間層11B/ピン層11Aの積層構造を有している。すなわち、ピン層11は、SAF構造を有している。ピン層11A及びピン層11Cの容易磁化方向は、膜面に対して平行である。また、ピン層11Aとピン層11Cとの磁化の方向は互い
に反平行に設定され、ピン層11Aとピン層11Cとは中間層11Bを挟んで反強磁性結合している。
【0109】
さらに、ピン層11Aの下(ピン層11Aと下地層16との間)には、ピン層11Aと接するように、反強磁性層19が設けられている。ピン層11Aは、反強磁性層19と交換結合することで、膜面に対して平行に磁化の方向が固着されている。この構造を用いることで、ピン層11Aの磁化固着力が増強され、外部磁場に対する耐性及び熱的な安定性が向上する。
【0110】
また、ピン層15は、フリー層13と明確な保持力差を設ける必要がある。このため、ピン層15としては、面内磁化型硬質磁性層を用いることが好ましい。
【0111】
面内磁化型硬質磁性層の材料としては、Co-Pt合金、或いはCo-Pt-X合金(Xは、Cr、Ta、Pd、B、Si、Ruから選ばれる少なくとも1つ以上の元素)があげられる。また、面内磁化型硬質磁性層を用いた硬質磁性層/中間層/硬質磁性層の構成を有するSAF構造も形成可能である。この場合、中間層にはRu或いはOsが用いられる。
【0112】
図12は、ピン層15の他の構成を示す斜視図である。ピン層15上(ピン層15とキャップ層17との間)には、ピン層15と接するように、反強磁性層18が設けられている。ピン層15は、反強磁性層18と交換結合することで、膜面に対して平行に磁化の方向が固着されている。
【0113】
図13は、ピン層15の他の構成を示す斜視図である。ピン層15は、ピン層15C/中間層15B/ピン層15Aの積層構造を有している。すなわち、ピン層15は、SAF構造を有している。ピン層15A及びピン層15Cの容易磁化方向は、膜面に対して平行である。また、ピン層15Aとピン層15Cとの磁化の方向は互いに反平行に設定され、ピン層15Aとピン層15Cとは中間層15Bを挟んで反強磁性結合している。
【0114】
図12および図13に示した反強磁性層19及び反強磁性層18は、強磁性層との結合の臨界温度すなわちブロッキング温度に差をつけることで、アニールシーケンスによりピン層11とピン層15との容易磁化方向を直交化することが可能となる。より具体的には、反強磁性層19にはPtMnやNiMnなどの高いブロッキング温度を有する材料を用い、反強磁性層18にはFeMnやIrMnなどの比較的低いブロッキング温度を有するものを用いることが好ましい。
【0115】
また、フリー層13は、強磁性層/中間層/強磁性層の積層構造、すなわち、SAF構造を有していても構わない。SAF構造において、強磁性層同士の磁化の方向は互いに反平行に設定され、中間層を挟んで反強磁性結合している。
【0116】
このようにしてMTJ素子10を構成した場合でも、上記第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。なお、上記第1の実施形態で示したように、フリー層13及びピン層11に界面層を挿入してもよい。また、MTJ素子10を構成する各層の材料については、上記第1及び第2の実施形態で示した材料を用いることができる。」
C 図13には、MTJ素子が、下から、下地層16、反強磁性層19、ピン層11A、中間層11B、ピン層11C、第1の中間層12、フリー層13、第2の中間層14、ピン層15A、中間層15B、ピン層15C、反強磁性層18、キャップ層17の順に各層が積層された構成であり、このうち、ピン層11A、中間層11B及びピン層11Cはピン層11を形成し、ピン層15A、中間層15B及びピン層15Cはピン層15を形成したものであることが記載されている。
D ここで、上記引用文献の記載事項について検討する。
(A)図13に記載された「MTJ素子10」のSAF構造について
上記Bから、「第3の実施形態」として、図10に「MTJ素子10」の基本構成が記載され、図11から図13には、該基本構成を基にした具体例が記載されている。そして、図11に記載されたピン層11のピン層11C/中間層11B/ピン層11Aからなる積層構造はSAF構造であることが段落【0108】記載されているので、図13に記載された「MTJ素子10」では、ピン層15C/中間層15B/ピン層15Aを積層したピン層15だけでなく、ピン層11C/中間層11B/ピン層11Aを積層したピン層11もSAF構造であると認められる。
(B)図13に記載された「MTJ素子10」の交換結合について
上記Bから、図11に記載されたピン層11Aと下地層16との間でピン層11Aと接するように設けられた「反強磁性層19」は、ピン層11Aと交換結合することが段落【0109】に記載され、図12に記載されたピン層15とキャップ層17との間でピン層15と接するように設けられた「反強磁性層18」は、ピン層15と交換結合することが段落【0112】に記載されていることから、図13に記載された「MTJ素子10」において、ピン層11Aと下地層16との間でピン層11Aと接するように設けられた「反強磁性層19」はピン層11Aと交換結合し、ピン層15Cとキャップ層17との間でピン層15Cと接するように設けられた「反強磁性層18」は、ピン層15Cと交換結合していると認められる。
(C)図13に記載された「MTJ素子10」のアニールシーケンスについて
上記Bから、「反強磁性層19」には高いブロッキング温度を有する材料が用いられ、「反強磁性層18」には比較的低いブロッキング温度を有する材料が用いられることが記載されている。
E よって、上記A乃至D及び図13の記載から、引用文献には、下記の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「第1のピン層11、第1の中間層12、フリー層13、第2の中間層14、第2のピン層15が順に積層された積層構造を有し、前記第1のピン層11と前記フリー層13とは容易磁化方向が平行であり、前記第1のピン層11と前記第2のピン層15とは容易磁化方向が互いに直交しているMTJ素子であって、
最上層及び最下層にキャップ層17及び下地層16が設けられ、
前記第1のピン層11は、ピン層11C/中間層11B/ピン層11Aを積層したSAF構造であり、
前記第2のピン層15は、ピン層15C/中間層15B/ピン層15Aを積層したSAF構造であり、
前記ピン層11Aと前記下地層16との間で前記ピン層11Aと交換結合する反強磁性層19が設けられ、
前記ピン層15Cと前記キャップ層17との間で前記ピン層15Cと交換結合する反強磁性層18が設けられ、
前記反強磁性層19は高いブロッキング温度を有する材料が用いられ、前記反強磁性層18は比較的低いブロッキング温度を有する材料が用いられるMTJ素子。」
5 対比
(1)本願発明と引用発明との対応関係について
ア 強磁性自由層について
引用発明の「フリー層13」は、磁化方向が容易磁化方向に向くものであるから、本願発明の「自由磁化配向方向を有する強磁性自由層」に相当する。
イ 第1の強磁性固定基準層について
MTJ素子では、フリー層の磁化方向をピン層の固定された磁化方向に対して平行または反平行(逆平行)に設定することで情報が記憶されるものであるところ、引用発明の「第1のピン層11」は、「前記フリー層13とは容易磁化方向が平行」であり、「ピン層11C/中間層11B/ピン層11Aを積層したSAF構造」である。そして、該「SAF構造」は、「SAF構造において、強磁性層同士の磁化の方向は互いに反平行に設定され、中間層を挟んで反強磁性結合している。」ものであることが引用文献の段落【0115】に記載されているので、引用発明の「第1のピン層11」は、合成反強磁性素子を含んでいるといえる。
よって、引用発明の「第1のピン層11」は、下記の相違点2を除いて、本願発明の「第1の合成反強磁性素子を含」み、「前記自由磁化配向方向に平行または逆平行の第1の基準磁化配向方向を有する第1の強磁性固定基準層」に相当する。
ウ 第1の酸化物バリヤ層について
MTJ素子では、ピン層とフリー層の間にバリヤ層を配置してトンネル磁気抵抗効果を発現させるものである。そして、引用発明では、「第1のピン層11」と「フリー層13」の間に「第1の中間層12」が設けられているので、本願発明と引用発明は、「前記強磁性自由層と前記第1の強磁性固定基準層との間にあるバリヤ層」を備えている点で共通している。
エ 第2の強磁性固定基準層について
引用発明の「第2のピン層15」は、「前記第1のピン層11と前記第2のピン層15とは容易磁化方向が互いに直交し」、「ピン層15C/中間層15B/ピン層15Aを積層したSAF構造」である。
よって、上記イの「SAF構造」の事項を踏まえると、引用発明の「第2のピン層15」は、本願発明の「第2の合成反強磁性素子を含」み、「前記第1の基準磁化配向方向に直交する第2の基準磁化配向方向を有する第2の強磁性固定基準層」に相当する。
オ 強磁性自由層の配置について
引用発明では、「第1のピン層11、第1の中間層12、フリー層13、第2の中間層14、第2のピン層15が順に積層された積層構造」を有していることから、「第1の中間層12」は、「第1のピン層11」と「フリー層13」の間に配置された構成となっているので、引用発明も「前記強磁性自由層は、前記第1の強磁性固定基準層と前記第2の強磁性固定基準層との間」にある構成になっている。
カ 合成反強磁性素子について
上記イ及びエから、引用発明の「第1のピン層11」である「ピン層11C/中間層11B/ピン層11Aを積層したSAF構造」、及び引用発明の「第2のピン層15」である「ピン層15C/中間層15B/ピン層15Aを積層したSAF構造」は、ともに、「強磁性層同士の磁化の方向は互いに反平行に設定され、中間層を挟んで反強磁性結合している。」ものと認められる。
また、MTJ素子では、書き込み電流を流してフリー層の磁化方向の反転が行われるので、引用発明の「第1のピン層11」の「中間層11B」及び「第2のピン層15」の「中間層15B」は、電気的に導通するものであり、かつ、2つのピン層の間に配置されているので、スペーサ層と呼び得るものでもある。
よって、本願発明と引用発明は、「前記第1および第2の合成反強磁性素子はいずれも、反強磁性的に結合されるとともに電気的に導通するスペーサ層によって分離される2つの強磁性層を含」む点で共通している。
キ 強磁性固定基準層の磁化方向の設定について
引用発明の「ピン層11A」は「反強磁性層19」と交換結合しており、「ピン層15C」は「反強磁性層18」と交換結合しているので、「ピン層11」の磁化の方向は「反強磁性層19」の磁化の方向によって決定され、「ピン層15」の磁化の方向は「反強磁性層18」の磁化の方向によって決定されるものであると認められる。
そして、引用発明では、「前記反強磁性層19は高いブロッキング温度を有する材料が用いられ、前記反強磁性層18は比較的低いブロッキング温度を有する材料が用いられ」、また、引用文献の段落【0114】には、「図12および図13に示した反強磁性層19及び反強磁性層18は、強磁性層との結合の臨界温度すなわちブロッキング温度に差をつけることで、アニールシーケンスによりピン層11とピン層15との容易磁化方向を直交化することが可能となる。」ことが記載されている。
そうすると、引用発明を製造するアニールシーケンスでは、先に反強磁性層18の磁化方向の設定を行い、後に反強磁性層19の磁化方向の設定を行った場合、反強磁性層18のブロッキング温度が反強磁性層19のブロッキング温度よりも低いため、先に設定した反強磁性層18の磁化方向が反強磁性層19の磁化方向の設定時に変更されてしまうので、「反強磁性層18」の磁化方向の設定は、「反強磁性層19」の磁化方向の設定後であって、反強磁性層19の磁化方向の設定時のアニール温度よりも低い温度で実施されることになる。そして、「ピン層11」の磁化の方向は「反強磁性層19」の磁化の方向によって決定され、「ピン層15」の磁化の方向は「反強磁性層18」の磁化の方向によって決定されることを踏まえると、「ピン層11」の磁化方向を設定する温度は、「ピン層15」の磁化方向を設定する温度よりも高いものと認められる。
よって、本願発明と引用発明は、「前記第1の強磁性固定基準層は、その磁化配向が、前記第2の強磁性固定基準層よりも高い温度で設定される」点で共通している。
ク 磁気セルについて
引用発明の「MTJ素子」も、「強磁性自由層」、「第1の強磁性固定基準層」、「第2の強磁性固定基準層」に相当する層を含み、かつ、「前記強磁性自由層は、前記第1の強磁性固定基準層と前記第2の強磁性固定基準層との間に」ある構成になっていることから、引用発明の「MTJ素子」は、下記の相違点1~3を除いて、本願発明の「磁気セル」に相当している。
(2)本願発明と引用発明の一致点について
上記の対応関係から、本願発明と引用発明は、
「磁気セルであって、
自由磁化配向方向を有する強磁性自由層と、
前記自由磁化配向方向に平行または逆平行の第1の基準磁化配向方向を有する第1の強磁性固定基準層とを備え、前記第1の強磁性固定基準層は、第1の合成反強磁性素子を含み、前記磁気セルは、さらに、
前記強磁性自由層と前記第1の強磁性固定基準層との間にあるバリヤ層と、
前記第1の基準磁化配向方向に直交する第2の基準磁化配向方向を有する第2の強磁性固定基準層とを備え、前記第2の強磁性固定基準層は、第2の合成反強磁性素子を含み、
前記強磁性自由層は、前記第1の強磁性固定基準層と前記第2の強磁性固定基準層との間にあり、
前記第1および第2の合成反強磁性素子はいずれも、反強磁性的に結合されるとともに電気的に導通するスペーサ層によって分離される2つの強磁性層を含み、
前記第1の強磁性固定基準層は、その磁化配向が、前記第2の強磁性固定基準層よりも高い温度で設定される、磁気セル。」
の点で一致している。
(3)本願発明と引用発明の相違点について
本願発明と引用発明とは、下記の点で相違する。
(相違点1)
本願発明の「前記強磁性自由層と前記第1の強磁性固定基準層との間にあるバリヤ層」は、「第1の酸化物バリヤ層」であるのに対し、引用発明の「第1の中間層12」は酸化物であるか定かではない点。
(相違点2)
本願発明の「スペーサ層」は「非磁気的でかつ電気的に導通する」ものであるのに対し、引用発明の「中間層11B」及び「中間層15B」が非磁気的なものであるか定かではない点。
(相違点3)
本願発明の「第2の強磁性固定基準層」は「後に形成される」ものであるのに対し、引用発明の「第2のピン層15」は「後に形成される」ものであるか定かではない点。
6 当審の判断
(1)相違点1について
MTJ素子において、ピン層とフリー層の間で磁気抵抗効果を発現する材料としてMgO等の酸化物をバリヤ層として用いることは、引用文献を示すまでもなく周知技術であるところ、上記4Aのとおり引用文献の段落【0026】には、「第1の実施形態」の「中間層12」の材料として、「例えば、MgO(酸化マグネシウム)、AlOx(酸化アルミニウム)などの絶縁体」を用いることが記載されていることから、引用発明の「第1の中間層12」も「MgO(酸化マグネシウム)、AlOx(酸化アルミニウム)などの絶縁体」により構成されているものと認められる。
そうすると、引用文献の上記の記載から、引用発明における「第1の中間層12」は、実質的に本願発明の「第1の酸化物バリヤ層」と認められる。
また、仮にそうでないとしても、引用発明における「第1の中間層12」をMgO(酸化マグネシウム)等の酸化物で構成すること,すなわち本願発明の「第1の酸化物バリヤ層」とすることは、引用文献の上記の記載に接した当業者が普通に行い得るものといえる。
以上から、相違点1は、本願発明と引用発明との実質的な相違点であるとはいえず、仮にそうでないとしても、引用文献の記載から、当業者が普通に行い得るものである。
(2)相違点2について
引用文献には、「第3の実施形態」の図13に記載された「中間層11B」及び「中間層15B」を構成する材料が記載されていないが、SAF構造の中間層として非磁性層であるRu(ルテニウム)が用いられることは、引用文献を示すまでもなく周知技術であるところ、引用文献の段落【0111】には、SAF構造の中間層として「Ru或いはOs」が用いられることが記載されていることから、引用発明の「中間層11B」及び「中間層15B」も「非磁性層であるRu(ルテニウム)」により構成されているものと認められる。
そうすると、引用文献の上記の記載から、引用発明における「中間層11B」及び「中間層15B」は、実質的に本願発明の「非磁気的でかつ電気的に導通するスペーサ層」と認められる。
また、仮にそうでないとしても、引用発明における「中間層11B」及び「中間層15B」を「非磁性層であるRu(ルテニウム)」で構成すること、すなわち本願発明の「非磁気的でかつ電気的に導通するスペーサ層」とすることは、引用文献の上記の記載に接した当業者が普通に行い得るものといえる。
以上から、相違点2は、本願発明と引用発明との実質的な相違点であるとはいえず、仮にそうでないとしても、引用文献の記載から、当業者が普通に行い得るものである。
(3)相違点3について
引用発明では、最下層に「下地層16」が設けられている。そして、MTJ素子における「下地層」は、その上に形成される層の結晶配向性或いは結晶性を制御するために設けられるものであることを踏まえると、引用発明では、最下層の下地層16、反強磁性層19、第1のピン層11、第1の中間層12、フリー層13、第2の中間層14、第2のピン層15、キャップ層17の順に形成されているものと認められる。
そうすると、引用発明の「第2のピン層15」は、「第1のピン層11」の後に形成されたものと認められることから、相違点3は、本願発明と引用発明との実質的な相違点であるとはいえない。
(4)本願発明の作用効果について
本願発明の作用効果も、引用発明、引用文献の記載及び周知技術から当業者が予測できる範囲のものである。
7 まとめ
以上のとおり、本願発明は、引用発明と同一であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであり、また、そうでないとしても、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。
8 むすび
したがって、本願発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し、又は同法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないから、その余の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
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2014-025786