特許異議申立
2024-700515
チャック
- 審判番号
- 2024-700515
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-104476
- 登録番号
- 7393878
- 請求日
- 2024年06月03日
- 審決日
- 2025年01月08日
- 公報発行日
- 2025年02月28日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】株式会社北川鉄工所
- 【権利者代理人】SK弁理士法人
- 【権利者代理人】奥野 彰彦
- 【権利者代理人】伊藤 寛之
- 【異議申立人】豊和工業 株式会社
- 【異議申立人代理人】石田 喜樹
- 【異議申立人代理人】上田 恭一
- 審判長/審判官
- 審判長 鈴木 貴雄
- 審判官 田々井 正吾
- 審判官 堀内 亮吾
- 分類
- P1651.537-Y (B23B) / P1651.536-Y (B23B) / P1651.121-Y (B23B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第4項第1号、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7393878号発明「チャック」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7393878号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7393878号の請求項1~4に係る特許(以下「本件特許」という。)についての出願は、令和元年6月4日に出願され、令和5年11月29日にその特許権の設定登録がされ、同年12月7日に特許掲載公報が発行された。本件特許異議申立ての経緯は次のとおりである。
1 令和6年6月3日
特許異議申立人豊和工業株式会社(以下「申立人」という。)による請求項1~4に係る特許に対する特許異議の申立て。
2 令和6年8月29日付け
特許権者北川鉄工所(以下「特許権者」という。)に対して特許の取消しの理由(以下「取消理由」という)を通知。
3 令和6年10月28日
特許権者による意見書の提出。
第2 本件特許発明
本件請求項1~4に係る特許発明(以下請求項1に係る発明を「本件特許発明1」といい、同様に請求項○に係る発明を「本件特許発明○」という。また、「本件特許発明1」~「本件特許発明4」をまとめて「本件特許発明」ということがある。)は、特許掲載公報の特許請求の範囲の請求項1~4に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
ボデーの正面でワークを把握するチャックであって、
プランジャと、複数のマスタージョーと、複数のトップジョーとを備え、
前記プランジャは、前記ボデーの内部において回転軸方向に沿って移動可能に配置され、
前記マスタージョーは、
前記マスタージョーの周方向の移動を規制する二面幅を備え、
前記ボデーの正面において径方向に沿って設けられたガイド溝に収容され、
前記プランジャの移動に応じて、第1の姿勢で前記ガイド溝に沿って開閉可能に構成され、
前記トップジョーは、
前記マスタージョーに着脱可能であって、
前記マスタージョーとともに開閉することで前記ワークを把握又は開放可能に構成され、
前記トップジョーが前記ワークを把握すると、前記マスタージョーと前記プランジャとが互いに押圧されて加圧状態となり、その結果前記マスタージョーが傾いて又は捩じられて第2の姿勢に変化し、
ここで、前記第2の姿勢では、前記マスタージョーの二面幅の対角部と前記ガイド溝の壁面との距離が前記第1の姿勢に比して小さく、
前記第2の姿勢において、前記対角部が前記壁面に接触して固定される、
チャック。
【請求項2】
ボデーの正面でワークを把握するチャックであって、
プランジャと、複数のマスタージョーと、複数のトップジョーとを備え、
前記プランジャは、前記ボデーの内部において回転軸方向に沿って移動可能に配置され、
前記マスタージョーは、
前記マスタージョーの周方向の移動を規制する二面幅を備え、
前記ボデーの正面において径方向に沿って設けられたガイド溝に収容され、
前記プランジャの移動に応じて、第1の姿勢で前記ガイド溝に沿って開閉可能に構成され、
前記トップジョーは、
前記マスタージョーに着脱可能であって、
前記マスタージョーとともに開閉することで前記ワークを把握又は開放可能に構成され、
前記トップジョーが前記ワークを把握すると、前記マスタージョーと前記プランジャとが互いに押圧されて加圧状態となり、その結果前記マスタージョーが傾いて又は捩じられて第2の姿勢に変化し、
ここで、前記第2の姿勢では、前記マスタージョーの二面幅の対角部と前記ガイド溝の壁面との距離が前記第1の姿勢に比して小さく、
前記二面幅は、前記ボデーの正面視において前記プランジャとの接触面に垂直な方向の面に対して微小角を有するように延在し、これにより前記加圧状態において、前記マスタージョーが前記第1の姿勢から前記第2の姿勢に変化する、
チャック。
【請求項3】
ボデーの正面でワークを把握するチャックであって、
プランジャと、複数のマスタージョーと、複数のトップジョーとを備え、
前記プランジャは、前記ボデーの内部において回転軸方向に沿って移動可能に配置され、
前記マスタージョーは、
前記マスタージョーの周方向の移動を規制する二面幅を備え、
前記ボデーの正面において径方向に沿って設けられたガイド溝に収容され、
前記プランジャの移動に応じて、第1の姿勢で前記ガイド溝に沿って開閉可能に構成され、
前記トップジョーは、
前記マスタージョーに着脱可能であって、
前記マスタージョーとともに開閉することで前記ワークを把握又は開放可能に構成され、
前記トップジョーが前記ワークを把握すると、前記マスタージョーと前記プランジャとが互いに押圧されて加圧状態となり、その結果前記マスタージョーが傾いて又は捩じられて第2の姿勢に変化し、
ここで、前記第2の姿勢では、前記マスタージョーの二面幅の対角部と前記ガイド溝の壁面との距離が前記第1の姿勢に比して小さく、
前記マスタージョーは、前記プランジャとの接触面に段差を有し、これにより前記加圧状態において、前記マスタージョーが前記第1の姿勢から前記第2の姿勢に変化する、
チャック。
【請求項4】
ボデーの正面でワークを把握するチャックであって、
プランジャと、複数のマスタージョーと、複数のトップジョーとを備え、
前記プランジャは、前記ボデーの内部において回転軸方向に沿って移動可能に配置され、
前記マスタージョーは、
前記マスタージョーの周方向の移動を規制する二面幅を備え、
前記ボデーの正面において径方向に沿って設けられたガイド溝に収容され、
前記プランジャの移動に応じて、第1の姿勢で前記ガイド溝に沿って開閉可能に構成され、
前記トップジョーは、
前記マスタージョーに着脱可能であって、
前記マスタージョーとともに開閉することで前記ワークを把握又は開放可能に構成され、
前記トップジョーが前記ワークを把握すると、前記マスタージョーと前記プランジャとが互いに押圧されて加圧状態となり、その結果前記マスタージョーが傾いて又は捩じられて第2の姿勢に変化し、
ここで、前記第2の姿勢では、前記マスタージョーの二面幅の対角部と前記ガイド溝の壁面との距離が前記第1の姿勢に比して小さく、
前記マスタージョーは、少なくとも第1及び第2のマスタージョーを含み、これらが前記ボデーの正面中心から互いに均等に配置され、
前記ボデーの前記ガイド溝は、前記第1のマスタージョーを収容する第1のガイド溝と、前記第2のマスタージョーを収容する第2のガイド溝とを含み、
前記プランジャは、前記第1のマスタージョーと嵌合する第1のT溝と、前記第2のマスタージョーと嵌合する第2のT溝とを備え、
前記ボデーの正面視において、前記第1及び第2のガイド溝の延在方向と、前記第1及び第2のT溝の延在方向との位置角度が異なる、
チャック。」
第3 取消理由通知で通知した取消理由
1 取消理由の要旨
当審が、令和6年8月29日付け取消理由通知書(以下、単に「取消理由通知」という。)で通知した取消理由の要旨は以下のとおりである。
A.(明確性)本件の請求項2~4に係る特許は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである(下記第4の2(1)、(3)、(5)を参照。)。
B.(実施可能要件)本件の請求項2に係る特許は、発明の詳細な説明の記載が不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである(下記第4の3(2)を参照。)。
C.(進歩性)本件特許発明2~4は、甲第1号証に記載された発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、本件の請求項2~4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
なお、請求項1に対して取消理由は通知されなかった。
2 申立人が提出した甲号証
甲第1号証:特開2017-154215号公報(以下「甲1」という。)
第4 通知した取消理由に対する判断
1 甲1について
(1)甲1の記載事項
ア 発明の詳細な説明
「【0010】
図1は実施例1の3つのトップジョウ3を有するチャック100を示しており、実施例1のチャックを示す図であり、図1Aは縦断面を、図1BはX?X断面を、図1Cはサスペンション5を夫々示している。チャック100は、ボディ1の前方(図中右側)の面に半径方向に移動する複数(図では3つ)のトップジョウ3を、等角度間隔に備えている。
【0011】
ボディ1内には回転軸Cの軸方向に移動するプランジャ4が挿入されており、ボディ1にはさらに半径方向へマスタジョウ2を案内する案内溝10が設けられている。プランジャ4とマスタジョウ2とが楔作用をなすべく係合されている。
【0012】
プランジャ4は、逆T字形の溝の形状をしたウエッジ部4aを有しており、後方(図中左方向)に行くほど回転軸Cの軸心から離れるように溝が傾斜している。マスタジョウ2の楔部材2aは、ウエッジ部4aに入り込んで摺動する。一方で、マスタジョウ2の両脇のジョウキャリア2bは、案内溝10を摺動する。ボディ1に対して相対的にプランジャ4を後方に引き込むと楔作用により、マスタジョウ2はボディ1により動きを規制され、案内溝10により半径方向に軸心に向けて移動させる。トップジョウ3は、マスタジョウ2に1対1に固定されワークを把持する。プランジャ4を前方に押し出すと、マスタジョウ2は半径方向に軸心にから離れる方向に移動する。
【0013】
図1Bにおいて、案内溝10は、断面においてT字状の溝であり、半径方向に延びた前壁面10a、後壁面10b及び左右壁面10c、10dを有し、前壁面10a、後壁面10bが均一な間隔でもって対向し、左右壁面10c、10dも互いに均一な間隔でもって対向している。マスタジョウ2は、両脇にジョウキャリア2bを有し案内溝10の断面形状に相似する断面形状になっており、マスタジョウ2は前壁面10a、後壁面10bの間で前後方向の動きを規制され、左右壁面10c、10dの間で左右方向の動きを規制されている。
【0014】
マスタジョウ2の後側面2eには、有底孔2cが穿孔され、サスペンション5が収容されている。図1Cに示すように、サスペンション5はコイルバネからなるバネ部材6をコンテナ7に格納したものである。コンテナ7は、円筒状でありかつ、底部7aを有している。バネ部材6は、有底孔2cの底面2dとコンテナ7の底部7aとの間に圧縮状に納められている。サスペンション5は、案内溝10の中で、マスタジョウ2を前方(図中右方向)に押す弾発力を発揮し、マスタジョウ2の両脇のジョウキャリア2bを案内溝10の前壁面10aに押し付けた状態を、トップジョウ3によるワークの把持前から保持する。なお、案内溝10の後壁面10bには、一部にヌスミ加工によるヌスミ面10eが形成されており、コンテナ7の底部7aはヌスミ面10eを摺動する。
【0015】
図1において、代表して1つのトップジョウ3について、プランジャ4とマスタジョウ2及びサスペンション5が示されているが、他の2つのトップジョウ3についても、構造は同じである。いずれのマスタジョウ2も、サスペンション5の弾発力によりマスタジョウ2を同じ方向(本例では、前方(図中右方向))に押されており、案内溝10の前壁面10aに押し付けられている。
【0016】
次に、マスタジョウ2と案内溝10との間には必然的に微小な隙間によるワークの把握精度への影響について説明する。図2は、チャック100をスピンドルが重力の向きに対して水平になっている通常の旋盤に適用した場合の重力によるマスタジョウ2の姿勢を示す図である。チャック100の向きは水平であり、重力の向きは半径方向(図の上から下)である。図において、重力によるマスタジョウ2の姿勢が破線で示されている。マスタジョウ2とそれに固定されたトップジョウ3との合成の重心Gの位置は通常、案内溝10の前壁面10aよりトップジョウ3側にあり、重量による倒れ(回転)が発生している。倒れの向きはトップジョウ3の回転軸Cに対する回転位相の位置によりまちまちとなる。図2Aに示すように、トップジョウ3の位置が軸芯の上側(回転位相0度)であれば図中時計回りに倒れる(矢印イ)。そして、ジョウキャリア2bは、外周側では地点c1で前壁面10aと接触し、内周側では地点c2において後壁面10bと接触している。
【0017】
図2Bに示すように、トップジョウ3の位置が軸芯の下側(回転位相180度)であれば図中時計回りに倒れる(矢印ロ)。そして、ジョウキャリア2bは、内周側では地点c3で前壁面10aと接触し、外周側では地点c4において後壁面10bと接触している。図2Cに示すように、トップジョウ3の位置が軸芯の横(回転位相90度若しくは270度)であれば円周方向において、図中時計回りに倒れる(矢印ハ)。上側は前壁面10aと地点c5において接触し、下側は後壁面10bと地点c6において、また下側になる左右壁面10c、10dのいずれかの前側で地点c9において接触している。ワークを把握すれば把握力によるトップジョウ3の回転は重力の方向に関係なく、全てのトップジョウ3が(外径把握であれば)チャック外周側に回転する。
【0018】
チャック100の開閉動作によりトップジョウ3がワークを把握すると、ワークからの反力とプランジャ4からの力が偶力になりモーメントが発生する。このモーメントはマスタジョウ2とトップジョウ3を回転させようとするが、ボディ1の案内溝10により規制され回転は抑えられる。しかし微視的には、ボディ1の案内溝10とジョウキャリア2bとの間の微小な隙間の範囲内では、マスタジョウ2とトップジョウ3は回転する。この回転の量はトップジョウ3がワークを把握する直前にマスタジョウ3がガタの範囲のどの位置にあるかで変わる。
【0019】
ワークを把握すれば把握力によるトップジョウ3の回転は重力の方向に関係なく、全てのトップジョウ3が(外径把握であれば)チャック100の外周側に回転(矢印ニ、ホ)する。しかしながら、把握する瞬間のワークがトップジョウ3に接触した直後のガタによるトップジョウ3の回転は重力の影響を受け、トップジョウ3の回転位相の位置によりバラバラの挙動を示す。
【0020】
例えば、図2Aの状態においては、ジョウキャリア2bは案内溝10との接触位置を、外周側では後壁面10bの地点c7、内周側では前壁面10aの地点c8へ乗り移るように矢印二の方向に回転する。これに対して、図2Bの状態においては、ジョウキャリア2bは案内溝10との接触位置は外周側では後壁面10bの地点c4のままであり、内周側では前壁面10aの地点c3のままである。
【0021】
このことがワークを把握する瞬間のワークの位置を不安定にさせ、把握精度を悪化させる原因となっている。この傾向はチャックの長期間の使用により案内溝10が摩耗し隙間が大きくなったときに顕著にあらわれる。またガタによるトップジョウ3の回転はワーク浮上りの原因の一つである。
【0022】
サスペンション5(図1)は、マスタジョウ2とトップジョウ3がワークを把持する前の段階で、3つのジョウキャリア2bを予め対応する案内溝10の前後壁面10a、bのうち一方側の壁面(実施例においては、前壁面10a)に押し付けるものである。サスペンション5の弾発力は、少なくとも、マスタジョウ2とトップジョウ3がいずれの回転位相であっても重力に打ち勝って、案内溝10の前壁面10aに押し付ける程度であれば良い。マスタジョウ2とトップジョウ3がワークを把持する前の段階で、倒れが生じないようにすれば良いのである。
【0023】
図3は、ワークを把持したときのトップジョウ3の動きを示す図であり、図3Aはチャック100の断面を、図3Bは正面から見た姿勢を示している。サスペンション5の弾発力は、3つのマスタジョウ2がどのような回転位相であっても、重力に打ち勝って、外周側は案内溝10の後壁面10b、内周側は案内溝10の前壁面10aに押付けることが可能な強さに設定されている。一方で、サスペンション5の弾発力は、把握力による回転モーメントと比較するとはるかに弱く設定されている。なお、11はチャック100を図示しないスピンドル若しくはバックプレートに取り付けるボルトである。
【0024】
サスペンション5が、ワークを把持する前の段階で、3つのマスタジョウ2は、サスペンション5によって、外周側は案内溝10の後壁面10b、内周側は案内溝10の前壁面10aに押付けられており、マスタジョウ2とトップジョウ3がどのような回転位相の位置であっても、どの向きから重力が作用しても同じ姿勢になる。把握直後のガタによるマスタジョウ2とトップジョウ3の回転は起こるが、外径把握の場合には全てのマスタジョウ2が案内溝10の内周側の地点c8を支点として矢印トのように回転し、ジョウキャリア2bの外周側か案内溝10の後壁面10bに接触するという挙動となる。全てのマスタジョウ2の挙動が同じであるので、把握する瞬間のワークの位置が安定し、高い把握精度が得られる。また、回転の支点が案内溝10の内周側にあるので、ガタによるマスタジョウ2の回転は浮上りが小さくなるように作用する。
【0025】
また、本実施例によれば、チャック100の長期間の使用により案内溝10が摩耗し隙間が大きくなったとしても、摩耗の程度とは把握精度や浮上りへの悪影響を小さく抑えることができる。」
イ 図面
【図1】
[図:0001419359000001.jpg]
【図2】
[図:0001419359000002.jpg]
【図3】
[図:0001419359000003.jpg]
(2)甲1の記載事項の整理
ア 段落【0023】、図3の記載からみて、甲1記載のチャック100は、ボディ1の正面でワークWを把握する。
イ 段落【0011】~【0012】、図1、3の記載からみて、甲1記載のチャック100は、プランジャ4と、複数のマスタジョウ2と、複数のトップジョウ3とを備え、プランジャ4は、ボディ1の内部において回転軸C方向に沿って移動可能に配置されている。
ウ 段落【0011】~【0013】、図1、3の記載からみて、上記イのマスタジョウ2は、周方向(左右方向)の移動を規制するジョウキャリア2bを備え、ボディ1の正面において半径方向へ設けられた案内溝10に挿入され、プランジャ4の移動に応じて、前記案内溝10により前記ボディ1の半径方向に移動するように構成されている。
エ 段落【0012】、図1~3の記載からみて、上記イのトップジョウ3は、マスタジョウ2に1対1に固定され、前記マスタジョウ2とともにボディ1の半径方向に移動することで前記ワークWを把持するように構成されている。
オ 段落【0018】~【0019】、図3の記載からみて、トップジョウ3がワークWを把握すると、ワークWからの反力とプランジャ4からの力が偶力になりマスタジョウ2とトップジョウ3を回転させようとするモーメントが発生する。
カ 段落【0010】、【0012】、【0023】、図1、3の記載からみて、マスタジョウ2は、少なくとも第1及び第2のマスタジョウ2を含み、ボディ1の前面に等角度間隔に備えられている。
キ 段落【0010】~【0011】、図1の記載からみて、ボディ1の案内溝10は、マスタジョウ2ごとに設けられ、第1のマスタジョウ2を収容する第1の案内溝10と、第2のマスタジョウ2を収容する第2の案内溝10とを含んでいる。
ク 段落【0012】、図1の記載からみて、プランジャ4は、マスタジョウ2ごとにウェッジ部4aを備え、第1のマスタジョウ2の楔部材2aが入り込んで摺動する第1のウエッジ部4aと、第2のマスタジョウ2の楔部材2aが入り込んで摺動する第2のウエッジ部4aとを備える。
(3)甲1発明
ア 甲1発明A
上記(1)ア~イ、(2)ア~オより、甲1には、次の発明(以下「甲1発明A」という。)が記載されている。
「ボディ1の正面でワークWを把握するチャック100であって、
プランジャ4と、複数のマスタジョウ2と、複数のトップジョウ3とを備え、
前記プランジャ4は、前記ボディ1の内部において回転軸C方向に沿って移動可能に配置され、
前記マスタジョウ2は、
前記マスタジョウ2の左右方向の移動を規制するジョウキャリア2bを備え、
前記ボディ1の正面において半径方向へ設けられた案内溝10に挿入され、
前記プランジャ4の移動に応じて、前記案内溝10により前記ボディ1の半径方向に移動するように構成され、
前記トップジョウ3は、
前記マスタジョウ2に1対1に固定され、
前記マスタジョウ2とともに前記ボディ1の半径方向に移動することで、前記ワークWを把持するように構成され、
前記トップジョウ3が前記ワークWを把握すると、前記ワークWからの反力と前記プランジャ4からの力が偶力になり前記マスタジョウ2と前記トップジョウ3を回転させようとするモーメントが発生する、
チャック。」
イ 甲1発明B
上記(1)ア~イ、(2)ア~クより、甲1には、次の発明(以下「甲1発明B」という。)が記載されている。
「ボディ1の正面でワークWを把握するチャック100であって、
プランジャ4と、複数のマスタジョウ2と、複数のトップジョウ3とを備え、
前記プランジャ4は、前記ボディ1の内部において回転軸C方向に沿って移動可能に配置され、
前記マスタジョウ2は、
前記マスタジョウ2の左右方向の移動を規制するジョウキャリア2bを備え、
前記ボディ1の正面において半径方向へ設けられた案内溝10に挿入され、
前記プランジャ4の移動に応じて、前記案内溝10により前記ボディ1の半径方向に移動するように構成され、
前記トップジョウ3は、
前記マスタジョウ2に1対1に固定され、
前記マスタジョウ2とともに前記ボディ1の半径方向に移動することで、前記ワークWを把持するように構成され、
前記トップジョウ3が前記ワークWを把握すると、前記ワークWからの反力と前記プランジャ4からの力が偶力になり前記マスタジョウ2と前記トップジョウ3を回転させようとするモーメントが発生し、
前記マスタジョウ2は、少なくとも第1及び第2のマスタジョウ2を含み、これらが前記ボディ1の前面に等角度間隔に備え、
前記ボディ1の前記案内溝10は、前記第1のマスタジョウ2を挿入する第1の案内溝10と、前記第2のマスタジョウ2を挿入する第2の案内溝10とを含み、
前記プランジャ4は、前記第1のマスタジョウ2の楔部材2aが入り込んで摺動する第1のウエッジ部4aと、前記第2のマスタジョウ2の楔部材2aが入り込んで摺動する第2のウエッジ部4aとを備える、
チャック。」
2 理由A(明確性)
(1)取消理由通知で通知した請求項2についての理由A(明確性)
ア 「第1の姿勢」及び「第2の姿勢」について
請求項2に記載した「ここで、前記第2の姿勢では、前記マスタージョーの二面幅の対角部と前記ガイド溝の壁面との距離が前記第1の姿勢に比して小さく、 前記二面幅は、前記ボデーの正面視において前記プランジャとの接触面に垂直な方向の面に対して微小角を有するように延在し、これにより前記加圧状態において、前記マスタージョーが前記第1の姿勢から前記第2の姿勢に変化する」の発明特定事項について、「第1の姿勢」及び「第2の姿勢」に関し、次の(ア)~(エ)の点で明確でない。
(ア)上記発明特定事項における「第1の姿勢」と「第2の姿勢」のいずれにおいて、「二面幅」が、「前記ボデーの正面視において前記プランジャとの接触面に垂直な方向の面に対して微小角を有するように延在」するかが、不明である。
(イ)一般的に日本語では「A、これにより、B」の記載は、「Aを原因としてBの結果となる」との因果関係を説明する際に用いられるところ、上記(ア)により、「これにより」の前後の「前記二面幅は、前記ボデーの正面視において前記プランジャとの接触面に垂直な方向の面に対して微小角を有するように延在し」と「前記加圧状態において、前記マスタージョーが前記第1の姿勢から前記第2の姿勢に変化する」ことの因果関係が不明である。(ウ)すなわち、上記(ア)が「第2の姿勢」を指す場合には、上記(イ)の「これにより」の前側に姿勢変化後の「第2の姿勢」が記載されることになるため、「これにより」の前側が「原因」で後側が「結果」となる因果関係が、文法上、成立していない。
(エ)また、上記(ア)が「第1の姿勢」の場合には、発明の詳細な説明を参酌しても、上記(イ)の前側、すなわち「前記ボデーの正面視において前記プランジャとの接触面に垂直な方向の面に対して微小角を有するように延在」すること の内容を理解することができない。すなわち、二面幅が、プランジャとの接触面に垂直な方向の面に対して微小角を有するように延在する場合に、なぜ、加圧状態において、第2の姿勢に変化するのか、その動作原理が不明である
イ 「微小角」について
請求項2における、マスタージョーが備える二面幅がボデーの正面視においてプランジャとの接触面に垂直な方向の面に対して有する「微小角」が、公差内で許容される誤差程度のものである場合に、第1の姿勢から第2の姿勢への変化で生じる変化がこのような誤差程度となる「マスタージョーの二面幅の対角部とガイド溝の壁面との距離」について、ガタを抑制又は防止することにより、高い把持精度でワークを把持するチャックを提供するという本件特許発明の課題を解決することの観点からみて、その技術的意義を理解することができず、機械分野における部材間のガタは部材間の距離に依存するという出願時の技術常識を考慮すると、請求項2においてこれを理解するための事項が不足している。
(2)請求項2についての理由A(明確性)の検討
ア 上記(1)アの理由について
特許権者の令和6年10月28日に提出の意見書(以下、単に「意見書」という。)に基づいて、請求項2と発明の詳細な説明の第1の実施形態(段落0012~0031)の記載を検討すると、以下のことが把握される。(なお、参考図1の接触面の符号33bは、発明の詳細な説明、図4、参考図2等の記載からみて、32bの誤記であるため、以下読み替える。)
通常のマスタージョー3の二面幅33は、ボデーの正面視において接触面32a,32bに対して垂直になるように破線Lに沿って延在するのに対して、請求項2におけるマスタージョー3は、二面幅33の延在方向が接触面32a,32bに対して垂直ではなく、垂直な方向の面(破線L)に対して微小角θだけ傾いた構成が特徴になっている。
よって、請求項2に記載したマスタージョー3の「二面幅33」が、「前記ボデー2の正面視において前記プランジャ7との接触面に垂直な方向の面に対して微小角θを有するように延在」するのは、マスタージョー3の構成であり、マスタージョー3が「第1の姿勢」と「第2の姿勢」のいずれであっても変わることはない。
また、このマスタージョー3の構成により、プランジャ7の接触面72a又は72bによって、接触面32a又は32bが押圧されたときに、二面幅33が破線L(通常、加圧状態においてボデー2のガイド溝21の延在方向に平行になる)に対して微小角θだけ傾く。
【参考図1】
[図:0001419359000004.jpg]
【参考図2】
[図:0001419359000005.jpg]
そうすると、上記(1)ア(ア)については、「第1の姿勢」と「第2の姿勢」のいずれにおいても、「二面幅」が、「前記ボデーの正面視において前記プランジャとの接触面に垂直な方向の面に対して微小角を有するように延在」することが理解される。そして、上記(1)ア(イ)については、「二面幅」が、「前記ボデーの正面視において前記プランジャとの接触面に垂直な方向の面に対して微小角を有するように延在」することにより、「前記加圧状態において、前記マスタージョーが前記第1の姿勢から前記第2の姿勢に変化する」ことが理解される。
そして、このように、請求項2において上記(1)ア(ア)~(イ)が理解されることにより、上記(1)ア(ウ)~(エ)の不備も存在しないことが明らかである。
したがって、上記(1)アの理由により、請求項2が明確でないとはいえない。
イ 上記(1)イの理由について
上記アで検討したとおり、本件特許発明2は、マスタージョー3の「二面幅33」が、「前記ボデー2の正面視において前記プランジャ7との接触面に垂直な方向の面に対して微小角θを有するように延在」するというマスタージョーの構成により、プランジャ7の接触面72a又は72bによって、接触面32a又は32bが押圧されたときに、前記マスタージョーと前記プランジャとが互いに押圧されて加圧状態となり、マスタージョーが傾いて又は捩じられて第2の姿勢に変化し、マスタージョーが第1の姿勢から第2の姿勢に変化するものである。
そうすると、微小角は、把握精度の高いチャックを提供するという課題を解決することを目的として、この第1の姿勢から第2の姿勢に変化を実現するという意図を持って設定され、マスタージョーの構成に反映されたものであるから、公差内で許容される誤差程度のものではない。
例えば、機械製図において、工作品のサイズの大きさaをサイズ公差の大きさbとともに、a±bと記載する場合に、サイズ公差bの大きさは、サイズの大きさaの工作品を加工するときに許容される誤差であって、サイズの大きさaがサイズ公差の大きさbより顕著に大きいことは、技術常識である。そして、本件特許発明2における微小角はaに該当し、申立て理由における公差はbに該当することになり、両者の大きさの程度は明確に識別され得るから、「微小角」の大きさが、公差内で許容される誤差程度のものと区別が付かないという理由によっては、不明確になることはない。
したがって、上記(1)イの理由により、請求項2が明確でないとはいえない。
(3)取消理由通知で通知した請求項3についての理由A(明確性)
請求項3において、マスタージョーがプランジャとの接触面に有する「段差」が、公差内で許容される誤差程度のものである場合に、第1の姿勢から第2の姿勢への変化がこのような誤差程度となる「マスタージョーの二面幅の対角部とガイド溝の壁面との距離」について、ガタを抑制又は防止することにより、高い把持精度でワークを把持するチャックを提供するという課題を解決することの観点からみて、その技術的意義を理解することができず、機械分野における部材間のガタは部材間の距離に依存するという出願時の技術常識を考慮すると、請求項3においてこれを理解するための事項が不足している。
(4)請求項3についての理由A(明確性)の検討
請求項3の「段差」についても、請求項2の「微小角」と同様に、把握精度の高いチャックを提供するという課題を解決することを目的として、第1の姿勢から第2の姿勢に変化を実現するという意図を持ってマスタージョーにおいて設定されたものであるから、当該「段差」は、公差内で許容される誤差程度のものではない。よって、上記(2)イで検討したのと同様に、請求項3において、「段差」の大きさが、公差内で許容される誤差程度のものと区別が付かないという理由により、不明確になることはない。
したがって、上記(3)の理由により、請求項3が明確でないとはいえない。
(5)取消理由通知で通知した請求項4についての理由A(明確性)
請求項4において、ボデーの正面視において、第1及び第2のマスタージョーを収容する第1及び第2のガイド溝の延在方向と、前記第1及び第2のマスタージョーと嵌合する第1及び第2のT溝の延在方向との「位置角度」が、公差内で許容される誤差程度のものである場合に、第1の姿勢から第2の姿勢への変化で生じる変化がこのような誤差程度となる「マスタージョーの二面幅の対角部とガイド溝の壁面との距離」について、ガタを抑制又は防止することにより、高い把持精度でワークを把持するチャックを提供するという課題を解決することの観点からみて、その技術的意義を理解することができず、機械分野における部材間のガタは部材間の距離に依存するという出願時の技術常識を考慮すると、請求項4においてこれを理解するための事項が不足している。
(6)請求項4についての理由A(明確性)の検討
請求項4の「位置角度」についても、請求項2の「微小角」、請求項3の「段差」と同様に、把握精度の高いチャックを提供するという課題を解決することを目的として、この第1の姿勢から第2の姿勢に変化を実現するという意図を持ってガイド溝の延在方向及びT溝の延在方向について設定されたものであるから、当該「段差」は、公差内で許容される誤差程度のものではない。よって、上記(2)イで検討したのと同様に、請求項4において、「位置角度」の大きさが、公差内で許容される誤差程度と区別が付かないという理由により、不明確になることはない。
したがって、上記(5)の理由により、請求項4が明確でないとはいえない。
(7)理由A(明確性)のまとめ
上記(2)、(4)、(6)のとおり、取消理由通知で通知した理由A(明確性)により、本件特許発明2~4が明確でないとはいえない。
3 理由B(実施可能要件)
(1)対象請求項 請求項2
(2)取消理由通知で通知した理由B(実施可能要件)
請求項2に記載した「前記二面幅は、前記ボデーの正面視において前記プランジャとの接触面に垂直な方向の面に対して微小角を有するように延在し、これにより前記加圧状態において、前記マスタージョーが前記第1の姿勢から前記第2の姿勢に変化する」の発明特定事項に関し、段落0027の記載、及び図6Bの微小角θの記載からは、ボデー2の正面から見た正面視において、マスタージョー3の二面幅33の延在方向は、接触面32a,32bに垂直な方向(ボデー2の径方向)に対して微小角θを有するという状態になるのは、第1の姿勢ではなく、第2の姿勢であることが推定される。
これらの記載、及び段落0029の記載からみて、請求項2記載の上記発明特定事項の「これにより」の前側の「前記二面幅は、前記ボデーの正面視において前記プランジャとの接触面に垂直な方向の面に対して微小角を有するように延在」することが原因となり、後側の「前記加圧状態において、前記マスタージョーが前記第1の姿勢から前記第2の姿勢に変化する」という結果が生じるという因果関係について、微小角θが第2の姿勢におけるものであることから、理解することができない。
よって、本件の発明の詳細な説明は、「チャック」の物の発明である請求項2に係る発明について明確に説明しているとはいえず、あるいは作れるように記載されているとはいえない。
なお、図6A及び図6Bの図示内容からみて、例えば、接触面32aが傾斜していることにより、マスタージョーとプランジャが加圧状態となったことで、第2の姿勢において、二面幅が、ボデーの正面視においてプランジャとの接触面に垂直な方向の面に対して微小角θを有するように延在する可能性は認められるとしても、この微小角θが原因となる上記の因果関係を読み取ることは困難である。
(3)理由B(実施可能要件)の検討
請求項2記載の上記発明特定事項の「これにより」の前側の「前記二面幅は、前記ボデーの正面視において前記プランジャとの接触面に垂直な方向の面に対して微小角を有するように延在」することが原因となり、後側の「前記加圧状態において、前記マスタージョーが前記第1の姿勢から前記第2の姿勢に変化する」という結果が生じるという因果関係については、上記2(2)アで請求項2に対する理由A(明確性)について検討したとおり、「二面幅」が、「前記ボデーの正面視において前記プランジャとの接触面に垂直な方向の面に対して微小角を有するように延在」することにより、「前記加圧状態において、前記マスタージョーが前記第1の姿勢から前記第2の姿勢に変化する」ことが理解されるから、上記(2)の理由は、本件の発明の詳細な説明が、当業者が請求項2に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでないことの根拠にはならない。
(4)理由B(実施可能要件)のまとめ
よって、本件の発明の詳細な説明は、取消理由通知で通知した理由B(実施可能要件)により、当業者が本件特許発明2を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでないとはいえない。
4 理由C(進歩性)
(1)請求項2
ア 本件特許発明2と甲1発明Aの対比
(ア)甲1発明Aの「ボディ1」は本件特許発明2の「ボデー」に相当し、以下同様に「ワークW」は「ワーク」に、「チャック100」は「チャック」に、それぞれ相当する。
(イ)甲1発明Aの「プランジャ4」は本件特許発明2の「プランジャ」に相当し、以下同様に「マスタジョウ2」は「マスタージョー」に、「トップジョウ3」は「トップジョー」に、「回転軸C」は「回転軸」に、それぞれ相当する。
(ウ)甲1発明Aの「左右方向」は本件特許発明2の「周方向」に相当し、以下同様に「半径方向へ設けられた」は「径方向に沿って設けられた」に、「案内溝10に挿入され」は「ガイド溝に収容され」に、「案内溝10により前記ボディ1の半径方向に移動するように」は「前記ガイド溝に沿って開閉可能に」に、それぞれ相当する。
(エ)甲1発明Aの「マスタジョウ2に1対1に固定され」は、トップジョウ3のそれぞれが図1B、図2C図示のようにTナットを介してマスタジョウ2に着脱可能に取り付けられているから、本件特許発明2の「マスタージョーに着脱可能であって」に相当し、以下同様に「マスタジョウ2とともにボディ1の半径方向に移動する」は「マスタージョーとともに開閉する」に、「把持するように」は、マスタジョウ2が半径方向の軸心に向けた方向と軸心から離れた方向に移動する(段落0012)ことから、「把持又は開放可能に」に、それぞれ相当する。
(オ)甲1発明Aの「前記ワークWからの反力と前記プランジャ4からの力が偶力になり前記マスタジョウ2と前記トップジョウ3を回転させようとするモーメントが発生する」は、トップジョウ3がワークWを把握することに伴い、マスタジョウ2とプランジャ4が互いに押圧されて加圧状態となったことでワークWからの反力とプランジャ4からの力が偶力になり、マスタジョウ2と前記トップジョウ3を回転させようとするモーメントが発生するのであるから、本件特許発明2の「前記マスタージョーと前記プランジャとが互いに押圧されて加圧状態」となることに相当する。
イ 本件特許発明2と甲1発明Aの一致点及び相違点
本件特許発明2と甲1発明Aは次の(ア)の点で一致し、(イ)の点で相違する。
(ア)一致点
ボデーの正面でワークを把握するチャックであって、
プランジャと、複数のマスタージョーと、複数のトップジョーとを備え、
前記プランジャは、前記ボデーの内部において回転軸方向に沿って移動可能に配置され、
前記マスタージョーは、
前記マスタージョーの周方向の移動を規制する二面幅を備え、
前記ボデーの正面において径方向に沿って設けられたガイド溝に収容され、
前記プランジャの移動に応じて、前記ガイド溝に沿って開閉可能に構成され、
前記トップジョーは、
前記マスタージョーに着脱可能であって、
前記マスタージョーとともに開閉することで前記ワークを把握又は開放可能に構成され、
前記トップジョーが前記ワークを把握すると、前記マスタージョーと前記プランジャとが互いに押圧されて加圧状態となる、
チャック。
(イ)相違点
マスタージョーとプランジャとが互いに押圧されて加圧状態となった結果、ガイド溝に沿って開閉可能な第1の姿勢のマスタージョーに関し、本件特許発明2が、「前記マスタージョーが傾いて又は捩じられて第2の姿勢に変化し、ここで、前記第2の姿勢では、前記マスタージョーの二面幅の対角部と前記ガイド溝の壁面との距離が前記第1の姿勢に比して小さく、前記二面幅は、前記ボデーの正面視において前記プランジャとの接触面に垂直な方向の面に対して微小角を有するように延在し、これにより前記加圧状態において、前記マスタージョーが前記第1の姿勢から前記第2の姿勢に変化する」のに対して、甲1発明Aでは、マスタージョーが第1の姿勢から第2の姿勢に変化するか否かが不明であり、よって、これに伴い、マスタージョーが傾いて又は捩じられるか否か、及びマスタージョーの二面幅の対角部とガイド溝の壁面との距離が第2の姿勢では第1の姿勢に比して小さくなるか否かが不明である点。
ウ 相違点の検討
上記2(2)イで検討したとおり、本件特許発明2の「微小角」は、公差内で許容される誤差程度のものではない。
そうすると、甲1発明Aにおいて、「二面幅」が、「前記ボデーの正面視において前記プランジャとの接触面に垂直な方向の面に対して微小角を有するように延在」するというマスタージョーの構成が、自明であるとはいえず、また、他に、当該構成について開示した文献はなく、甲1発明Aに基づいて、上記イ(イ)の相違点を備えた本件特許発明2に想到することが当業者にとって容易であるという根拠を見いだすことができない。
(2)請求項3
ア 本件特許発明3と甲1発明Aの対比
上記(1)アにおいて、本件特許発明2と甲1発明Aを対比した内容と共通であり、「本件特許発明2」を「本件特許発明3」と読み替えた内容に相当する。
イ 本件特許発明3と甲1発明Aの一致点及び相違点
本件特許発明3と甲1発明Aは次の(ア)の点で一致し、(イ)の点で相違する。
(ア)一致点
上記(1)イの本件特許発明2と甲1発明Aの一致点と同じである。
(イ)相違点
マスタージョーとプランジャとが互いに押圧されて加圧状態となった結果、ガイド溝に沿って開閉可能な第1の姿勢のマスタージョーに関し、本件特許発明3が、「前記マスタージョーが傾いて又は捩じられて第2の姿勢に変化し、ここで、前記第2の姿勢では、前記マスタージョーの二面幅の対角部と前記ガイド溝の壁面との距離が前記第1の姿勢に比して小さく、前記マスタージョーは、前記プランジャとの接触面に段差を有し、これにより前記加圧状態において、前記マスタージョーが前記第1の姿勢から前記第2の姿勢に変化する」のに対して、甲1発明Aでは、マスタージョーが第1の姿勢から第2の姿勢に変化するか否かが不明であり、よって、これに伴い、マスタージョーが傾いて又は捩じられるか否か、及びマスタージョーの二面幅の対角部とガイド溝の壁面との距離が第2の姿勢では第1の姿勢に比して小さくなるか否かが不明である点。
ウ 相違点の検討
上記2(4)で検討したとおり、本件特許発明3の「段差」は、公差内で許容される誤差程度のものではない。
そうすると、甲1発明Aにおいて、「マスタージョー」が、「プランジャとの接触面に段差を有し」というマスタージョーの構成が、自明であるとはいえず、また、他に、当該構成について開示した文献はなく、甲1発明Aに基づいて、上記イ(イ)の相違点を備えた本件特許発明3に想到することが当業者にとって容易であるという根拠を見いだすことができない。
(3)請求項4
ア 本件特許発明4と甲1発明Bの対比
(ア)~(オ)上記(1)ア(ア)~(オ)において、本件特許発明2と甲1発明Aを対比した内容と共通であり、「本件特許発明2」を「本件特許発明4」と、及び「甲1発明A」を「甲1発明B」と、読み替えた内容に相当する。
(カ)甲1発明Bの「ボディ1の前面に等角度間隔に備え」は本件特許発明4の「ボデーの正面中心から互いに均等に配置され」に相当する。
(キ)甲1発明Bの「マスタジョウ2を挿入する」は本件特許発明4の「マスタージョーを収容する」に相当する。
(ク)甲1発明Bの「マスタジョウ2の楔部材2aが入り込んで摺動する」は本件特許発明4の「マスタージョーと嵌合する」に相当し、同様に「ウエッジ部4a」は「T溝」に相当する。
イ 本件特許発明4と甲1発明Bの一致点及び相違点
本件特許発明4と甲1発明Bは次の(ア)の点で一致し、(イ)の点で相違する。
(ア)一致点
ボデーの正面でワークを把握するチャックであって、
プランジャと、複数のマスタージョーと、複数のトップジョーとを備え、
前記プランジャは、前記ボデーの内部において回転軸方向に沿って移動可能に配置され、
前記マスタージョーは、
前記マスタージョーの周方向の移動を規制する二面幅を備え、
前記ボデーの正面において径方向に沿って設けられたガイド溝に収容され、
前記プランジャの移動に応じて、第1の姿勢で前記ガイド溝に沿って開閉可能に構成され、
前記トップジョーは、
前記マスタージョーに着脱可能であって、
前記マスタージョーとともに開閉することで前記ワークを把握又は開放可能に構成され、
前記トップジョーが前記ワークを把握すると、前記マスタージョーと前記プランジャとが互いに押圧されて加圧状態となり、その結果前記マスタージョーが傾いて又は捩じられて第2の姿勢に変化し、
前記マスタージョーは、少なくとも第1及び第2のマスタージョーを含み、これらが前記ボデーの正面中心から互いに均等に配置され、
前記ボデーの前記ガイド溝は、前記第1のマスタージョーを収容する第1のガイド溝と、前記第2のマスタージョーを収容する第2のガイド溝とを含み、
前記プランジャは、前記第1のマスタージョーと嵌合する第1のT溝と、前記第2のマスタージョーと嵌合する第2のT溝とを備える、
チャック。
(イ)相違点
マスタージョーとプランジャとが互いに押圧されて加圧状態となった結果、ガイド溝に沿って開閉可能な第1の姿勢のマスタージョーに関し、本件特許発明4が、「前記マスタージョーが傾いて又は捩じられて第2の姿勢に変化し、ここで、前記第2の姿勢では、前記マスタージョーの二面幅の対角部と前記ガイド溝の壁面との距離が前記第1の姿勢に比して小さく、前記ボデーの正面視において、前記第1及び第2のガイド溝の延在方向と、前記第1及び第2のT溝の延在方向との位置角度が異なる」のに対して、甲1発明Bでは、マスタージョーが第1の姿勢から第2の姿勢に変化するか否かが不明であり、よって、これに伴い、マスタージョーが傾いて又は捩じられるか否か、及びマスタージョーの二面幅の対角部とガイド溝の壁面との距離が第2の姿勢では第1の姿勢に比して小さくなるか否か、及び前記ボデーの正面視において、第1及び第2のガイド溝の延在方向と、第1及び第2のT溝の延在方向との位置角度が異なるか否かが不明である点。
ウ 相違点の検討
上記2(6)で検討したとおり、本件特許発明4の「位置角度」は、公差内で許容される誤差程度のものではない。
そうすると、甲1発明Bにおいて、「マスタージョー」が、「前記ボデーの正面視において、前記第1及び第2のガイド溝の延在方向と、前記第1及び第2のT溝の延在方向との位置角度が異なる」という構成が、自明であるとはいえず、また、他に、当該構成について開示した文献はなく、甲1発明Aに基づいて、上記イ(イ)の相違点を備えた本件特許発明4に想到することが当業者にとって容易であるという根拠を見いだすことができない。
(4)理由C(進歩性)のまとめ
したがって、請求項2~4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。
5 小括
上記2~4のとおりであるから、本件特許は、取消理由通知で通知した理由A(明確性)、理由B(実施可能要件)及び理由C(進歩性)によっては取り消すことができない。
第5 取消理由通知で採用しなかった特許異議申立書の申立ての理由
1 申立ての理由の概要
上記第3の理由以外で、特許異議申立書において申し立てられた理由の要旨は以下のとおりである。
D.(新規性)本件特許の請求項1~4に係る発明は、甲1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項1~4に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
E.(進歩性)本件特許の請求項1に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
F.(明確性)本件の請求項1に係る特許は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
以下、理由D(新規性)及び理由E(進歩性)について、次の2で請求項1に対しての理由D(新規性)及び理由E(進歩性)を、その次の3で請求項2~4に対しての理由D(新規性)と分けて検討し、引き続いて4で請求項1に対しての理由E(明確性)を検討する。
2 請求項1に対しての理由D(新規性)及び理由E(進歩性)
(1)対象請求項 請求項1
(2)本件特許発明1の新規性・進歩性についての検討
ア 本件特許発明1と甲1発明Aの対比
上記第4の4(1)アにおいて、本件特許発明2と甲1発明Aを対比した内容と共通であり、「本件特許発明2」を「本件特許発明1」と読み替えた内容に相当する。
イ 本件特許発明1と甲1発明Aの一致点及び相違点
本件特許発明1と甲1発明Aは次の(ア)の点で一致し、(イ)の点で相違する。
(ア)一致点
上記第4の4(1)イの本件特許発明2と甲1発明Aの一致点と同じである。
(イ)相違点
マスタージョーとプランジャとが互いに押圧されて加圧状態となった結果、ガイド溝に沿って開閉可能な第1の姿勢のマスタージョーに関し、本件特許発明1が、「前記マスタージョーが傾いて又は捩じられて第2の姿勢に変化し、ここで、前記第2の姿勢では、前記マスタージョーの二面幅の対角部と前記ガイド溝の壁面との距離が前記第1の姿勢に比して小さく、前記第2の姿勢において、前記対角部が前記壁面に接触して固定される」のに対して、甲1発明Aでは、マスタージョーが第1の姿勢から第2の姿勢に変化するか否かが不明であり、よって、これに伴い、マスタージョーが傾いて又は捩じられるか否か、及びマスタージョーの二面幅の対角部とガイド溝の壁面との距離が第2の姿勢では第1の姿勢に比して小さく、第2の姿勢において、対角部が壁面に接触して固定されるか否かが不明である点。
ウ 相違点の検討
(ア)甲1の段落【0016】、【0019】~【0025】、図1~3から理解できる事項
上記相違点に関し、甲1には、特に段落【0016】、【0019】~【0025】(特に段落【0016】、【0019】、【0024】)、図1~3の記載からみて、以下のことが理解される。
チャック100の開閉動作によりトップジョウ3がワークを把握する瞬間のワークがトップジョウ3に接触した直後のガタによるトップジョウ3の回転は重力の影響を受け、トップジョウ3の回転位相の位置によりバラバラの挙動を示すことを抑制するため、甲1発明Aにおいては、ワークを把持する前の段階で、3つのマスタジョウ2は、サスペンション5によって、外周側は案内溝10の後壁面10b、内周側は案内溝10の前壁面10aに押付けられ、マスタジョウ2とトップジョウ3がどのような回転位相の位置であっても、どの向きから重力が作用しても同じ姿勢になる。
その結果、把握直後のガタによるマスタジョウ2とトップジョウ3の回転は起こるが、外径把握の場合には全てのマスタジョウ2が案内溝10の内周側の地点c8を支点として矢印トのように回転し、ジョウキャリア2bの外周側か案内溝10の後壁面10bに接触するという挙動となり、全てのマスタジョウ2の挙動が同じであるので、把握する瞬間のワークの位置が安定し、高い把握精度が得られる。
(イ)本件特許発明1の甲1発明Aに対する進歩性について
上記(ア)の事項から、甲1発明Aにおいては、サスペンション6の作用によって、3つのマスタジョウ2の外周側は案内溝10の後壁面10b、内周側は案内溝10の前壁面10aに押付けることで、マスタジョウ2とトップジョウ3がどのような回転位相の位置であっても同じ姿勢になり、ワークWを外径把握する場合には、全てのマスタジョウ2の挙動が同じとなり、把握する瞬間のワークの位置が安定し、高い把握精度が得られることが理解される。
しかしながら、これらのマスタジョウ2の挙動は、ボディ1の軸C方向の前後の移動(図2の矢印イ~ニ、図3の矢印ト)に関するものであるから、本件特許発明1の「前記マスタージョーの二面幅の対角部と前記ガイド溝の壁面との距離」の大小というマスタージョーの「周方向の移動」に対応する事項とはいえないし、上記(ア)の事項以外にも対応する事項は記載されていない。
よって、甲1発明Aにおいて、マスタージョーとプランジャとが互いに押圧されて加圧状態となった結果、ガイド溝に沿って開閉可能な第1の姿勢のマスタージョーに関し、第1の姿勢とは異なる第2の姿勢となることはあっても、上記相違点の「マスタージョーの二面幅の対角部とガイド溝の壁面との距離が第2の姿勢では第1の姿勢に比して小さく、第2の姿勢において、対角部が壁面に接触して固定される」ことについては、記載されているものとも、示唆されているものともいえないし、このようなことが自明であるという根拠も見いだすことはできない。
エ 請求項1に対する理由D(新規性)及び理由E(進歩性)についてのまとめ
上記イ(イ)のとおり、本件特許発明1と甲1発明Aには、相違点が存在するから同一でなく、本件特許発明1は甲1に記載された発明ではない。
そして、上記ウのとおり、本件特許発明1は、甲1発明Aに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
よって、請求項1に係る特許を、上記理由D(新規性)及び理由E(進歩性)により取り消すことはできない。
3 請求項2~4に対する理由D(新規性)の検討
上記第4の4で検討したとおり、本件特許発明2と甲1発明Aは、上記第4の4(1)イ(イ)の相違点で、本件特許発明3と甲1発明Aは、上記第4の4(2)イ(イ)の相違点で、本件特許発明4と甲1発明Bは、上記第4の4(3)イ(イ)の相違点で、それぞれ相違するから、本件特許発明2~4は甲1に記載された発明ではない。
したがって、請求項2~4に係る特許を、上記理由D(新規性)により取り消すことはできない。
4 理由F(明確性)
(1)対象請求項 請求項1
(2)申立ての理由の説明
申立人が特許異議申立書において申し立てた請求項1に関する理由F(明確性)は、次のア~イを内容とする。
ア 「第1の姿勢」及び「第2の姿勢」が不明確
誤差や隙間の設定により、二面幅は、ワークの把握前の第1の姿勢でも既に対角部を壁面に接触させている場合も有り得るから、どのようにして対角部が壁面に接触しない第1の姿勢となるのか具体的な構成が不明確であり、誤差や隙間の設定により、第2の姿勢についても、誤差や隙間の設定により、二面幅は、第2の姿勢では対角部を壁面に接触させていない場合も有り得るから、どのようにして対角部が壁面に接触する第2の姿勢となるのか具体的な構成が不明確となっている。
イ 姿勢変化の技術的意味が不明確
仮に上記アの「第1の姿勢」「第2の姿勢」が明確であるとしても、本件特許発明1の「第1の姿勢」及び「第2の姿勢」と、誤差等によって、第1の姿勢で対角部を壁面に接触させていない二面幅が、第2の姿勢で傾いて対角部をガイド溝の壁面に接触させる場合の「第1の姿勢」及び「第2の姿勢」との区別ができず、姿勢変化の技術的意味が不明確となっている。
(3)申立ての理由に対する検討
ア 請求項1の記載
請求項1には、マスタージョーについて、「前記プランジャの移動に応じて、第1の姿勢で前記ガイド溝に沿って開閉可能に構成され」、及び「トップジョーが前記ワークを把握すると、前記マスタージョーと前記プランジャとが互いに押圧されて加圧状態となり、その結果前記マスタージョーが傾いて又は捩じられて第2の姿勢に変化し」と記載されている。
そして、第1の姿勢及び第2の姿勢について、「前記第2の姿勢では、前記マスタージョーの二面幅の対角部と前記ガイド溝の壁面との距離が前記第1の姿勢に比して小さく」、及び「前記第2の姿勢において、前記対角部が前記壁面に接触して固定される」と記載されている。
イ 段落【0024】、【0025】の記載
段落【0024】には「特に、ワークを把握しておらず、マスタージョー3が開閉可能な状態での姿勢を第1の姿勢と称するものとする。すなわち、図5Aに示されるように、マスタージョー3の第1の姿勢においては、マスタージョー3のウェッジ部32とプランジャ7のT溝71とが干渉せずにスムーズに摺動し、且つマスタージョー3の二面幅33とボデー2のガイド溝21とが干渉せずスムーズに摺動するように、それぞれ微小な隙間Sを有している。」と記載されている。
そして、段落【0025】には「一方、マスタージョー3が第1の姿勢から捩じられた状態を、第2の姿勢と称するものとする。第2の姿勢では、マスタージョー3の二面幅33の対角部33a,33bとガイド溝21の壁面21wとの距離が第1の姿勢に比して小さいことに留意されたい。すなわち、図5Bに示されるように、マスタージョー3の第2の姿勢においては、マスタージョー3のウェッジ部32とプランジャ7の接触面72aとが接触し、マスタージョー3の二面幅33とボデー2のガイド溝21とが接触するか又はマスタージョー3の二面幅33とボデー2のガイド溝21との隙間Sが小さくなることによって、周方向のガタが抑制される。」と記載されている。
ウ 上記(2)アの第1の姿勢及び第2の姿勢について
上記アより、請求項1に記載した第1の姿勢とは、プランジャの移動に応じて、ガイド溝に沿って開閉可能になっているマスタージョーの姿勢であり、第2の姿勢とは、トップジョーがワークを把握することで、マスタージョーとプランジャとが互いに押圧されて加圧状態となった結果、マスタージョーが第1の姿勢から傾いて又は捩じられて変化した姿勢であることが把握される。
そうすると、請求項1の記載から第1の姿勢と第2の姿勢の内容が把握されるのであるから、「第1の姿勢」及び「第2の姿勢」は明確であるといえる。
なお、第1の姿勢に関して、申立ての理由では「誤差や隙間の設定により、二面幅は、ワークの把握前の第1の姿勢でも既に対角部を壁面に接触させている場合も有り得る」と指摘していることについて、上記段落0024には、第1の姿勢では、マスタージョー3の二面幅33とボデー2のガイド溝21とが干渉せずスムーズに摺動するように、微小な隙間Sを有していることが記載されているから、第1の姿勢で(二面幅の)対角部を(ガイド溝の)壁面に接触することはない。
そして、第2の姿勢に関して、申立ての理由では「第2の姿勢では対角部を壁面に接触させていない場合も有り得る」と指摘していることについて、請求項1には「対角部が前記壁面に接触して固定される」と記載されているから、第2の姿勢で(二面幅の)対角部を(ガイド溝の)壁面に接触させていない場合はあり得ない。
エ 上記(2)イの姿勢変化の技術的意味について
本件の請求項1には「前記トップジョーが前記ワークを把握すると、前記マスタージョーと前記プランジャとが互いに押圧されて加圧状態となり、その結果前記マスタージョーが傾いて又は捩じられて第2の姿勢に変化し」と記載されていることから、本件特許発明1における第1の姿勢から第2の姿勢への姿勢変化は、この「加圧状態」となった結果であり、上記(2)イの単に「誤差、或いはトップジョーが接触するワークの表面形状により、マスタージョーは、ワークの把握前(第1の姿勢)と把握状態(第2の姿勢)とで姿勢を変化させる」ものとは異なることが理解されるから、上記姿勢変化の技術的意味は明確である。
(4)請求項1に対する理由F(明確性)についてのまとめ
上記(3)で検討したとおり、上記(2)の理由により、本件特許発明1が不明確であるとはいえない。
したがって、請求項1に係る特許を、上記理由F(明確性)により取り消すことはできない。
5 小括
上記2~4のとおり、本件特許は、取消理由通知で採用しなかった特許異議申立書に記載の申立ての理由によっては、取り消すことができない。
第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由、及び特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては、本件特許の請求項1~4に係る特許を取り消すことができない。そして、他に取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2024-700515