特許異議申立
2022-700381
チャック及び工作機械
- 審判番号
- 2022-700381
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2021-182735
- 登録番号
- 7014331
- 請求日
- 2022年04月28日
- 審決日
- 2022年12月14日
- 公報発行日
- 2023年01月27日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】豊和工業株式会社
- 【権利者代理人】石田 喜樹
- 【権利者代理人】上田 恭一
- 【異議申立人】株式会社 北川鉄工所
- 【異議申立人代理人】黒住 智彦
- 【異議申立人代理人】舘 佳耶
- 審判長/審判官
- 審判長 見目 省二
- 審判官 中里 翔平
- 審判官 大山 健
- 分類
- P1651.121-Y (B23B) / P1651.537-Y (B23B) / P1651.536-Y (B23B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第4項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7014331号発明「チャック及び工作機械」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7014331号の請求項1~2に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7014331号(以下「本件特許」という。)の請求項1~2に係る特許についての出願は、令和3年11月9日に出願され、令和4年1月24日にその特許権の設定登録がされ、令和4年2月1日に特許掲載公報が発行された。
その後、その特許に対し、令和4年4月28日に特許異議申立人 株式会社北川鉄工所(以下「申立人」という。)により、請求項1~2に係る特許に対する特許異議の申立てがされた。
当審は令和4年10月19日付けで特許権者に対し審尋を通知し、令和4年11月2日に特許権者から回答書が提出された。
第2 本件発明
本件特許の請求項1~2に係る発明(以下、各請求項に係る発明を「本件発明1」などといい、本件発明1~2をまとめて「本件発明」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1~2に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
工作機械の回転軸に設けられ、前面に複数の取付溝が径方向に形成された円盤状のチャック本体と、
各前記取付溝内に前記径方向へ移動可能に設けられると共に、前記径方向に貫通して前面側に開口する収容溝をそれぞれ備えたマスタジョーと、
各前記収容溝内に前方への抜け止め状態で収容されるジョーナットと、
各前記マスタジョーの前面に当接させた状態で位置決めされるトップジョーと、
各前記トップジョーを前方から貫通して前記ジョーナットに緊締される2本のボルトと、を含んでなるチャックであって、
前記ジョーナットは、前記径方向で各ボルト毎に分割された2つの分割ナットからなると共に、
各前記分割ナットは、前記収容溝への収容状態で前記収容溝の開口を介して前方へ突出する楔部を備え、各前記トップジョーの後面には、前記楔部が嵌合する嵌合溝が前記径方向に形成されており、
何れか一方の前記分割ナットの前記楔部において、前記チャック本体の周方向での両側面のうち、何れか一方の側面には、前記ボルトの緊締に伴う前記一方の分割ナットの回転によって前記収容溝の内面に当接する第1当接部が、他方の側面には、前記回転に伴って前記嵌合溝の内面に当接する第2当接部が、前記ボルトを中心とする点対称位置にそれぞれ形成されて、
前記第1当接部と前記第2当接部との当接に伴い、前記トップジョーが前記マスタジョーに対して前記周方向に位置決めされることを特徴とするチャック。
【請求項2】
回転軸に、請求項1に記載のチャックを備えてなる工作機械。」
第3 特許異議申立理由及び申立人が提出した証拠
1 特許異議申立理由の概要
(1)申立理由1(進歩性)
本件発明は、甲第1号証記載の発明及び甲第2~4号証記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~2に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(2)申立理由2(明確性)
請求項1~2に係る特許は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願についてなされたものである。
(3)申立理由3(サポート要件)
請求項1~2に係る特許は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願についてなされたものである。
(4)申立理由4(実施可能要件)
請求項1~2に係る特許は、明細書の記載が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願についてなされたものである。
2 申立人が提出した証拠
甲第1号証:特許第6345375号公報
甲第2号証:特開2000-288809号公報
甲第3号証:株式会社北川鉄工所カタログ「チャックシリーズ・シリンダ シリーズ・ワークグリッパシリーズ」、平成25年9月、表 紙、p.25、34、92、裏表紙、写し
甲第4号証:特開2019-022934号公報
(以下、各甲号証を「甲1」などという。)
第4 特許異議申立理由の当審の判断
1 申立理由1(進歩性)について
(1)甲1の記載事項及び甲1発明
ア 甲1の記載事項
甲1には、以下の記載がある(下線は当審で付したものである。以下同じ。)。
(ア)「【0036】
<チャックの基本的構成>
図2に、本発明を適用したチャック1を例示する。図2に示すように、チャック1は、厚みの大きな円盤状の外観を有するチャック本体1aを備えている。チャック本体1aは、その正面が回転軸Jrに直交するように、その背面側が旋盤等の工作機械に固定されて用いられる。以下の説明で方向を示す際、適宜、この向きに従って正面側、背面側、回転軸方向(回転軸Jrが延びる方向)、周方向(回転軸Jrの回りの方向)、径方向(回転軸Jrを中心とするその半径の方向)等を用いる。
【0037】
チャック本体1aの正面は、平坦面となっており、その中央に円形の開口1bが形成されている。チャック本体1aの正面には、工作物(ワーク)を支持する複数(少なくとも2つ以上あればよいが、本実施形態では3つ)のジョー2が放射状に等間隔で配置されている。」
(イ)「【0039】
各ジョー2は、チャック本体1aに、径方向にスライド可能に組み付けられたマスタージョー20と、マスタージョー20に挿入されるTナット30(連結部材の一例)と、ボルト40による締結により、Tナット30を介してマスタージョー20に着脱可能に取り付けられるトップジョー50とで構成されている。
【0040】
(マスタージョー20)
チャック本体1aの正面には、その開口1bの周囲から径方向外側に等間隔で放射状に3つのスライド溝3が形成されている。マスタージョー20は、チャック本体1aを構成する部品として、これらスライド溝3の各々に組み付けられている。
【0041】
図3にも示すように、各マスタージョー20は、細長い矩形の被当接面22を正面側に有する角柱状の基部21aと、基部21aの背面側から両側に張り出した一対の鍔部21b,21bとを有し、横断面が略T形状をした硬質な金属部材からなる。各スライド溝3は、マスタージョー20に対応した略逆T形状の横断面を有している。各マスタージョー20は、被当接面22をチャック本体1aの正面側に露出させた状態で、径方向に延びるようにスライド溝3に嵌合されている。」
(ウ)「【0044】
被当接面22の幅方向の中央部位には、支持溝23が形成されている。支持溝23は、ジョー中心軸Jzを中心とする横断面が略逆T形状の溝からなる。支持溝23は、マスタージョー20がチャック本体1aに配置された状態で、スライド軸Jsに沿って径方向に延びるように、マスタージョー20の基部21aに形成されている。それにより、被当接面22は、支持溝23によって2つに分断されており、支持溝23の両側に一対のセレーション22aの帯状領域が形成されている。
【0045】
支持溝23は、被当接面22に開口する幅が相対的に狭い第1鍵溝部24と、第1鍵溝部24の背面側に連なる幅が相対的に広い抜止規制部25とを有している。第1鍵溝部24は、互いに向かい合う平坦かつ平行な一対の第1内接面24a,24aを有している。
【0046】
(Tナット30)
Tナット30は、横断面が全長にわたって略T形状をした硬質な金属の角柱状部材からなる。Tナット30の幅及び長さは、マスタージョー20の幅及び長さ、並びに、トップジョー50の幅及び長さよりも小さい。Tナット30は、抜止部30aと、直方体状の鍵部30bとを有している。鍵部30bは、抜止部30aに一端面が連なると共に、抜止部30aよりも狭い幅で抜止部30aに従って延びている。鍵部30bの他端面には、ジョー中心軸Jzの方向に延びる2つの締結穴31,31が、両端に離れて形成されている。
【0047】
Tナット30は、回転軸方向(正面側)への抜け出しが不能な状態で、支持溝23に沿って延びるように挿入されている。具体的には、抜止部30aは抜止規制部25に、鍵部30bは第1鍵溝部24に、それぞれ収容されるように、Tナット30の横断面が相対的に小さく形成されている。抜止部30aは、余裕を持って抜止規制部25に収容されている。鍵部30bは、その突端部分を被当接面22から突出させた状態で、第1鍵溝部24と嵌合するように、第1鍵溝部24に収容されている。」
(エ)「【0053】
図4に示すように、トップジョー50は、その背面側に、セレーション53aが形成された平坦面からなる、当接面53を有している。セレーション53aは、幅方向(短辺側の方向)と平行に形成されている。ジョー中心軸Jz、及び、径方向に延びてワーク支持部51の中心を通る支持中心軸Jc(通常はスライド軸Jsに一致)に直交している。当接面53の幅方向の中央部位には、横断面が矩形の帯状の溝(第2鍵溝部54)が、トップジョー50の両端部を貫通して形成されている。この実施形態では、第2鍵溝部54の幅は、第1鍵溝部24の幅と同一に設計されている。」
(オ)「【0056】
第2鍵溝部54の底面に、軸部収容部52bが開口している。第2鍵溝部54に鍵部30bの突端部分を嵌合させ、位置合わせすることで、締結穴31とボルト挿通孔52とが重なり合うようになっている。従って、これら締結穴31及びボルト挿通孔52を用いて、2つのボルト40でトップジョー50とTナット30とを緩く締結する。そうした状態で、Tナット30を支持溝23に外周側から挿入し、セレーション53a,22aの噛み合いにより、これらを所定位置に位置合わせする。そうして、2つのボルト40を各締結穴31に締結する。
【0057】
そうすることにより、トップジョー50がマスタージョー20に固定され、そして、被当接面22のセレーション22aに当接面53のセレーション53aが噛み合って密着する。セレーション22aが周方向に延びているので、当接面53が被当接面22に密着すれば、セレーション22a,53aによってトップジョー50の動きが規制され、トップジョー50はマスタージョー20に対して径方向に位置がずれるおそれはない。
【0058】
しかも、トップジョー50は、マスタージョー20に、ボルト40による締結で強固に固定できる。そのため、トップジョー50をいったんマスタージョー20に固定すれば、トップジョー50は、径方向だけでなく、周方向にもマスタージョー20に対して高精度に位置決めした状態で支持できる。従って、正確に芯出しを行うことにより、高精度なワークの加工が行える。」
(カ)「【0065】
通常であれば、トップジョー50の第2鍵溝部54は、セレーション53aに直交して延びるように形成されている。ところが、本実施形態の第2鍵溝部54は、セレーション53aに対して傾いた方向に延びるように形成されている(位置決め機構の一例)。その傾きは、実際は支持中心軸Jc(スライド軸Js)に対して僅か(例えば0.01°~0.5°)である(ここでは理解を容易にするために誇張して表してある)。」
(キ)「【0068】
更に、鍵部30bが大きく回動すると、鍵部30bの他方の対角部位の2箇所が第1内接面24aに接触し、第1鍵溝部24及び第2鍵溝部54の双方と、鍵部30bとの間の実質的な隙間が無くなる(図5に示す状態)。更に回動すると、第1鍵溝部24及び第2鍵溝部54の双方に押されて、鍵部30bは捩れるようになる(捩る力が作用する)。このように、第1鍵溝部24及び第2鍵溝部54の双方に対して、鍵部30bが傾いて接触する、又は捩れるようにすれば、トップジョー50の再取り付け時における、周方向の位置ずれ量が無くなるので、位置決め精度をより向上させることができる。」
(ク)「【0072】
<位置決め機構の別形態>
図6、図7に、位置決め機構の別形態を示す。図7の左上の図は、マスタージョー20の側を正面側から見た図である。その右上の図は、トップジョー50を正面側から見た図である。その下側の図は、マスタージョー20にトップジョー50が取り付けられた状態を正面側から見た図である。
【0073】
この形態では、Tナット30に位置決め機構が設けられている(改良Tナット30A)。すなわち、図6に示すように、改良Tナット30Aの鍵部30bには、第1鍵溝部24に嵌合する第1鍵部61と、第2鍵溝部54に嵌合する第2鍵部62とが形成されている。そして、第1鍵部61と第2鍵部62とが互いに傾いた方向(各々の傾きが異なる方向)に延びている。
【0074】
この場合、当接面53と被当接面22とが密着し、そして、トップジョー50がマスタージョー20に平行になると、第1鍵部61と第2鍵部62とが互いに傾いた方向に延びているので、第2鍵部62の一方の対角部位の2箇所T1,T2が、第2内接面54aに接触する。そして、鍵部30b(改良Tナット30A)が回動して、第1鍵部61の他方の対角部位の2箇所M1,M2が、第1内接面24aに近接、接触、更には捩られるようになる。
【0075】
従って、この場合も、前述した実施形態の位置決め機構と同様に、セレーション22a,53aの噛み合いにより、鍵部30bが、第1鍵溝部24及び第2鍵溝部54の双方に対して傾くか捩られることにより、隙間を無くすことができる。従って、位置決め精度の向上が図れる。
【0076】
しかもこの形態の場合、Tナット30を変更するだけでよく、マスタージョー20やトップジョー50は、従来品が利用できる。そのため、汎用性に優れるという利点がある。」
(ケ)「【図2】
[図:0001393105000001.jpg]
」
(コ)「【図7】
[図:0001393105000002.jpg]
」
イ 甲1の記載から理解できる事項
上記アの記載事項から、次の事項を理解できる。
(ア)チャック1は、チャック本体1aと、マスタージョー20と、改良Tナット30Aと、トップジョー50と、ボルト40とを備えているといえる(【0036】~【0037】、【0039】、【0073】)。
(イ)円盤状の外観を有するチャック本体1aは、回転軸Jrに直交するように工作機械に固定され、その正面に3つのスライド溝3が径方向に形成されているといえる(【0036】、【0040】)。
(ウ)マスタージョー20は、スライド溝3の各々に径方向にスライド可能に組み付けられるといえる(【0039】~【0040】)。
また、支持溝23が径方向に貫通していることを看取できること(図2)から、各マスタージョー20には、径方向に貫通して正面側である被当接面22に開口する支持溝23が形成されているといえる(【0041】、【0044】~【0045】)。
(エ)改良Tナット30Aは、各支持溝23に正面側への抜け出しが不能な状態で挿入されているといえる(【0039】、【0047】、【0073】)。
(オ)トップジョー50は、各マスタージョー20の被当接面22に密着し、位置決めした状態で支持されるといえる(【0039】、【0057】~【0058】)。
(カ)2つのボルト40を、トップジョー50の正面側から挿入する様子が看取できることから(図2)、2つのボルト40は、各トップジョー50の正面側から挿入され、改良Tナット30Aに締結されるといえる(【0039】、【0056】、【0073】)。
(キ)改良Tナット30Aは、その突端部分を被当接面22から突出させた状態で、支持溝23に収容される鍵部30bを備えているといえる(【0046】~【0047】、【0073】)。
(ク)トップジョー50の背面側の当接面53には、鍵部30bと嵌合する第2鍵溝部54が径方向に延びて形成されているといえる(【0053】、【0056】、【0065】、【0076】、図7)。
(ケ)ボルト40を締結し当接面53と被当接面22とが密着すると、改良Tナット30Aの鍵部30bの一方の対角部位の2箇所T1、T2(図7)が、第2鍵溝部54の第2内接面54aに接触し、鍵部30bが回動して、鍵部30bの他方の対角部位の2箇所M1、M2(図7)が、支持溝23の第1内接面24aに接触することで、トップジョー50をマスタージョー20に対して周方向にも高精度に位置決めした状態で支持するといえる(【0056】~【0058】、【0068】、【0073】~【0075】、図7)。
ウ 甲1発明
上記ア及びイの事項を整理すると、甲1には次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているということができる。
「回転軸Jrに直交するように工作機械に固定され、その正面に3つのスライド溝3が径方向に形成された円盤状の外観を有するチャック本体1aと、
スライド溝3の各々に径方向にスライド可能に組み付けられるマスタージョー20であって、各マスタージョー20には、径方向に貫通して正面側である被当接面22に開口する支持溝23が形成され、
各支持溝23に正面側への抜け出しが不能な状態で挿入される改良Tナット30Aと、
各マスタージョー20の被当接面22に密着し、位置決めした状態で支持されるトップジョー50と、
各トップジョー50の正面側から挿入され、改良Tナット30Aに締結される2つのボルト40と、
を備えたチャック1であって、
改良Tナット30Aは、その突端部分を被当接面22から突出させた状態で、支持溝23に収容される鍵部30bを備え、トップジョー50の背面側の当接面53には、鍵部30bと嵌合する第2鍵溝部54が径方向に延びて形成されており、
ボルト40を締結し当接面53と被当接面22とが密着すると、改良Tナット30Aの鍵部30bの一方の対角部位の2箇所T1、T2が、第2鍵溝部54の第2内接面54aに接触し、鍵部30bが回動して、鍵部30bの他方の対角部位の2箇所M1、M2が、支持溝23の第1内接面24aに接触することで、トップジョー50をマスタージョー20に対して周方向にも高精度に位置決めした状態で支持するチャック1」
(2)甲2~4の記載事項
ア 甲2の記載事項
甲2には、2つの分割型のTナット3、3に関して、以下の記載がある。
(ア)「【0010】
【発明の実施の形態】以下、図面を参照しながら本発明にかかる工作機械用チャックの実施の形態について説明する。図1に、従来から知られている工作機械用チャックの一例を示す。工作機械用チャック1は、ワークを保持するためのトップジョー2と、このトップジョー2に嵌合可能なTナット3と、このTナット3に嵌合可能なマスタージョー4と、このマスタージョー4を半径方向に向けて取り付けることができる円筒状のチャック本体5とを有している。トップジョー2とTナット3とマスタージョー4とチャック本体5は特定のサイズごとに1セットとなっている。トップジョー2とTナット3とマスタージョー4は互いに組み合わされて1組となり、チャック本体5の一端面側に互いに120゜の等間隔で取り付けられている。ワークは3つのトップジョー2の内側端によりチャック本体5の内周側中心位置に挟み込まれ、あるいは、3つのトップジョー2の外側端によりチャック本体5の外周側において半径方向に押し広げられた形態で、固定されるようになっている。」
(イ)「【0027】なお、分割型のTナットが用いられている場合であっても、図8に示すように、U字型のカバーを2つのTナット3、3のそれぞれの尾部322に被せることにより、図6に示した実施の形態と同様の効果を奏することができ、また、図9に示すように、板状体21を、分割された2つのTナット3、3の胴部32にそれぞれ当接させて固着することにより、図7に示した実施の形態と同様の効果を奏することができる。また、上記実施の形態においては、トップジョーとTナットとマスタージョーの組がチャック本体の一端面側に互いに120゜の等間隔で取り付けられた三ツ爪チャックの例について説明したが、チャックの大きさ等により四ツ爪チャック、五ツ爪チャック等に適宜設計変更は可能であることは言うまでもない。」
(ウ)「【図8】
[図:0001393105000003.jpg]
」
(エ)「【図9】
[図:0001393105000004.jpg]
」
イ 甲3の記載事項
甲3からは、Tナットに関して、以下の事項が看取される。
(ア)立形旋盤用大型チャックNVシリーズ、大口径フロント中空エアチャックUBシリーズの2つのTナットが、チャック本体の径方向に並んで描かれていること(p.25のFig.1、Fig.2、p.34の寸法図)。
(イ)T-nutに関し、参考図3~5のTナットは、参考図1~2のTナット(2つのボルト孔を有するもの)に対して、チャック本体のスライド溝への取付時における径方向の長さT-1が短く、1つのボルト穴しか有さないこと(p.92)。
ウ 甲4の記載事項
甲4には、2つの鍵部材170に関して、以下の記載がある。
(ア)「【0062】
各鍵部材170は、横断面が略T形状に形成されており、幅広部133bにスライド可能な状態で嵌合する抜止部170aと、幅狭部133aに隙間を有した状態で嵌合する中段部170bと、キー溝112に隙間を有した状態で嵌合する鍵部171とを有している。鍵部171の両側面のうち、一方の側面(非作用部176)が他方の側面(作用部174)よりも中心側に位置していて、キー溝112に嵌合した場合に、キー溝112の側面との間に隙間ができるように構成されている点は、第2の形態と同じである。」
(イ)「【0066】
この鍵部材170では、図7及び図8に示すように、鍵部171の幅W1aよりもキー溝112の幅W4の方が大きく、キー溝112の幅W4よりも中段部170bの幅W1bの方が僅かに大きく形成されている(W1a<W4<W1b)。従って、図8に白抜き矢印で示すように、第2の形態と同様に、一方の鍵部材170の作用部174は、キー溝112の一方の側面に接触し、他方の鍵部材170の作用部174は、キー溝112の他方の側面に接触し、押し付けるようになる。それにより、セレーション111aが延びる方向においても、高精度に位置決めされ、強固に固定できる。」
(ウ)「【図7】
[図:0001393105000005.jpg]
」
(エ)「【図8】
[図:0001393105000006.jpg]
」
(3)本件発明1と甲1発明との対比
ア 本件発明1と甲1発明を対比すると、以下のとおりとなる。
(ア)甲1発明の「円盤状の外観を有するチャック本体1a」は、本件発明1の「円盤状のチャック本体」に相当し、同様に、「マスタージョー20」は「マスタジョー」に、「改良Tナット30A」は「ジョーナット」に、「トップジョー50」は「トップジョー」に、「2つのボルト40」は「2本のボルト」に、「チャック1」は「チャック」に、それぞれ相当する。
(イ)甲1発明の「工作機械」は、本件発明1の「工作機械」に相当し、同様に、「回転軸Jr」は「回転軸」に相当するから、甲1発明の「回転軸Jrに直交するように工作機械に固定され」ることは、本件発明1の「工作機械の回転軸に設けられ」ることに相当する。
また、甲1発明の「正面」は、本件発明1の「前面」に相当し、同様に、「3つのスライド溝」は「複数の取付溝」に、「径方向」は「径方向」にそれぞれ相当するから、甲1発明の「その正面に3つのスライド溝3が径方向に形成され」ることは、本件発明1の「前面に複数の取付溝が径方向に形成され」ることに相当する。
(ウ)甲1発明の「径方向にスライド可能」であることは、本件発明1の「前記径方向へ移動可能」であることに相当するから、甲1発明の「スライド溝3の各々に径方向にスライド可能に組み付けられる」ことは、本件発明1の「各前記取付溝内に前記径方向へ移動に設けられる」ことに相当する。
また、甲1発明の「支持溝23」は、本件発明1の「収容溝」に相当する。そして、甲1発明の「支持溝23」が「径方向に貫通して正面側である被当接面22に開口する」ことは、本件発明1の「収容溝」が「前記径方向に貫通して前面側に開口する」ことに相当する。
さらに、甲1発明において「各マスタージョー20」に「支持溝23」が「形成され」ることは、「マスタージョー20」に「支持溝23」がそれぞれ「形成され」ることに他ならないから、本件発明1の「マスタジョー」が「収容溝」を「それぞれ備え」ることに相当する。
(エ)甲1発明の「正面側への抜け出しが不能な状態」であることは、本件発明1の「前方への抜け止め状態」であることに相当する。
また、甲1発明の「改良Tナット30A」が「各支持溝23」に「挿入される」と、「改良Tナット30A」が「各支持溝23」に収容された状態になることは明らかであるから、甲1発明の「改良Tナット30A」が「各支持溝23」に「挿入される」ことは、本件発明1の「ジョーナット」が「各前記収容溝内」に「収容される」ことに相当する。
(オ)上記(2)イ(ウ)より、甲1発明の「被当接面22」は「正面側」であることから、甲1発明の「トップジョー50」が「各マスタージョー20の被当接面22に密着し、位置決めした状態で支持される」ことは、本件発明1の「トップジョー」が「各前記マスタジョーの前面に当接させた状態で位置決めされる」ことに相当する。
(カ)甲1発明の「ボルト40」を「トップジョー50の正面側から挿入」し、「改良Tナット30Aに締結」した場合、「ボルト40」が「トップジョー50」を前方から貫通することは明らかであるから、甲1発明の「2つのボルト40」が「各トップジョー50の正面側から挿入され、改良Tナット30Aに締結される」ことは、本件発明1の「2本のボルト」が「各前記トップジョーを前方から貫通して前記ジョーナットに緊締される」ことに相当する。
(キ)甲1発明の「鍵部30b」は、本件発明1の「楔部」に相当する。
また、上記(1)イ(ウ)を踏まえると、甲1発明の「鍵部30b」が「支持溝23に収容される」際に、「その突端部分」が正面側である「被当接面22から突出」する状態とは、「鍵部30bの突端部分」が「被当接面22」の開口から正面側に「突出」する状態であることは明らかであるから、甲1発明の「鍵部30b」が「その突端部分を被当接面22から突出させた状態で、支持溝23に収容される」ことは、本件発明1の「楔部」が「前記収容溝への収容状態で前記収容溝の開口を介して前方へ突出する」ことに相当する。
したがって、甲1発明の「改良Tナット30Aは、その突端部分を被当接面22から突出させた状態で、支持溝23に収容される鍵部30bを備え」ることは、本件発明1の「前記ジョーナットは、前記径方向で各ボルト毎に分割された2つの分割ナットからなると共に、各前記分割ナットは、前記収容溝への収容状態で前記収容溝の開口を介して前方へ突出する楔部を備え」ることと、「前記ジョーナットは、前記収容溝への収容状態で前記収容溝の開口を介して前方へ突出する楔部を備え」る点に限り一致する。
(ク)甲1発明の「トップジョー50の背面側の当接面53」は、本件発明1の「トップジョーの後面」に相当し、同様に、「第2鍵溝部54」は「嵌合溝」に相当する。
したがって、甲1発明の「トップジョー50の背面側の当接面53」に、「鍵部30bと嵌合する第2鍵溝部54が径方向に延びて形成されて」いることは、本件発明1の「トップジョーの後面」に、「前記楔部が嵌合する嵌合溝が前記径方向に形成されて」いることに相当する。
(ケ)甲1発明の「支持溝23の第1内接面24a」は、本件発明1の「前記収容溝の内面」に相当し、同様に、「第2鍵溝部54の第2内接面54」は「前記嵌合溝の内面」に、「トップジョー50をマスタージョー20に対して周方向にも高精度に位置決めした状態で支持する」は「前記トップジョーが前記マスタジョーに対して前記周方向に位置決めされる」に相当する。
そして、甲1発明の「ボルト40を締結し当接面53と被当接面22とが密着すると、改良Tナット30Aの鍵部30bの一方の対角部位の2箇所T1、T2が、第2鍵溝部54の第2内接面54aに接触し、鍵部30bが回動して、鍵部30bの他方の対角部位の2箇所M1、M2が、支持溝23の第1内接面24aに接触すること」とは、「ボルト40」の締結に伴って「改良Tナット30A」が回転することにより、「鍵部30b」の一方の側面における「箇所T1」及び「箇所M2」が「第2内接面56a」及び「第1内接面24a」にそれぞれ接触するとともに、「鍵部30b」の他方の側面における「箇所T2」及び「箇所M1」が「第2内接面56a」及び「第1内接面24a」にそれぞれ接触することを示すといえる。
したがって、甲1発明の「ボルト40を締結し当接面53と被当接面22とが密着すると、改良Tナット30Aの鍵部30bの一方の対角部位の2箇所T1、T2が、第2鍵溝部54の第2内接面54aに接触し、鍵部30bが回動して、鍵部30bの他方の対角部位の2箇所M1、M2が、支持溝23の第1内接面24aに接触することで、トップジョー50をマスタージョー20に対して周方向にも高精度に位置決めした状態で支持する」ことと、本件発明1の「何れか一方の前記分割ナットの前記楔部において、前記チャック本体の周方向での両側面のうち、何れか一方の側面には、前記ボルトの緊締に伴う前記一方の分割ナットの回転によって前記収容溝の内面に当接する第1当接部が、他方の側面には、前記回転に伴って前記嵌合溝の内面に当接する第2当接部が、前記ボルトを中心とする点対称位置にそれぞれ形成されて、前記第1当接部と前記第2当接部との当接に伴い、前記トップジョーが前記マスタジョーに対して前記周方向に位置決めされる」こととは、「前記ジョーナットの前記楔部において、前記ボルトの緊締に伴う前記ジョーナットの回転によって前記収容溝の内面に当接する第1当接部と、前記回転に伴って前記嵌合溝の内面に当接する第2当接部が形成されて、前記第1当接部と前記第2当接部との当接に伴い、前記トップジョーが前記マスタジョーに対して前記周方向に位置決めされる」という点に限り一致する。
イ 一致点及び相違点
上記アの対比の結果、本件発明1と甲1発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
<一致点>
「工作機械の回転軸に設けられ、前面に複数の取付溝が径方向に形成された円盤状のチャック本体と、
各前記取付溝内に前記径方向へ移動可能に設けられると共に、前記径方向に貫通して前面側に開口する収容溝をそれぞれ備えたマスタジョーと、
各前記収容溝内に前方への抜け止め状態で収容されるジョーナットと、
各前記マスタジョーの前面に当接させた状態で位置決めされるトップジョーと、
各前記トップジョーを前方から貫通して前記ジョーナットに緊締される2本のボルトと、を含んでなるチャックであって、
前記ジョーナットは、前記収容溝への収容状態で前記収容溝の開口を介して前方へ突出する楔部を備え、各前記トップジョーの後面には、前記楔部が嵌合する嵌合溝が前記径方向に形成されており、
前記ジョーナットの前記楔部において、前記ボルトの緊締に伴う前記ジョーナットの回転によって前記収容溝の内面に当接する第1当接部と、前記回転に伴って前記嵌合溝の内面に当接する第2当接部が形成されて、
前記第1当接部と前記第2当接部との当接に伴い、前記トップジョーが前記マスタジョーに対して前記周方向に位置決めされるチャック。」
<相違点>
本件発明1は、「前記ジョーナットは、前記径方向で各ボルト毎に分割された2つの分割ナットからなると共に、各前記分割ナットは、前記収容溝への収容状態で前記収容溝の開口を介して前方へ突出する楔部を備え」、「何れか一方の前記分割ナットの前記楔部において、前記チャック本体の周方向での両側面のうち、何れか一方の側面には、前記ボルトの緊締に伴う前記一方の分割ナットの回転によって前記収容溝の内面に当接する第1当接部が、他方の側面には、前記回転に伴って前記嵌合溝の内面に当接する第2当接部が、前記ボルトを中心とする点対称位置にそれぞれ形成されて、前記第1当接部と前記第2当接部との当接に伴い、前記トップジョーが前記マスタジョーに対して前記周方向に位置決めされる」のに対し、甲1発明は、改良Tナット30Aは、1つのナットであって、2つの分割ナットからなるものでなく、さらに、当該1つのナットである改良Tナット30Aの鍵部30bの一方の側面に箇所T1及び箇所M2が設けられ、他方の側面に箇所T2及び箇所M1が設けられることから(上記ア(ケ)参照。)、何れか一方の分割ナットの楔部において、チャック本体の周方向での両側面のうち、何れか一方の側面に第1当接部、他方の側面に第2当接部が、ボルトを中心とする点対称位置にそれぞれ形成されているとはいえない点。
(4)判断
上記相違点について検討する。
工作機械のチャックにおいて、Tナット型の部材を分割型とすることは、例えば、甲2~4に記載されるように従来周知の技術(以下「周知技術」という。上記(2)参照。)であることから、甲1発明の改良Tナット30Aを2つの分割型ナットとすることは、当業者が容易に想到し得たことといい得る。
そして、甲1発明に周知技術を適用すると、分割した改良Tナット30Aの箇所T1、T2と箇所M1、M2とが、各ボルト40を中心とする点対称位置になる蓋然性が高いとまではいえる。
しかしながら、甲1発明に周知技術を適用した改良Tナット30Aでは、その機能を残しながら2つのナットに分割することになるから、2つの改良Tナット30Aのそれぞれに箇所T1、T2及び箇所M1、M2を設ける(すなわち、本件発明1の用語を用いて整理すると、2つ分割ナットのそれぞれに第1当接部及び第2当接部を形成する)構成とすることが自然である。
他方、本件発明1における、「何れか一方の前記分割ナットの前記楔部において、・・・第1当接部が、・・・第2当接部が、・・・形成されて」との発明特定事項は、2つの分割ナットのうち何れか一方の分割ナットにのみ第1当接部及び第2当接部が形成される態様を示していると理解できる(令和4年11月2日提出の回答書の4(1)も参照。)。
そうすると、甲1発明に周知技術を適用して、改良Tナット30Aを分割したとしても、2つ分割ナットのそれぞれに第1当接部及び第2当接部が形成されたものとなり、本件発明1のように、2つの分割ナットのうち何れか一方の分割ナットにのみ第1当接部及び第2当接部が形成されたものとならないから、甲1発明に周知技術を適用しても、相違点に係る本件発明1の発明特定事項とすることはできない。
さらに、甲1発明は、「ボルト40を締結し当接面53と被当接面22とが密着すると、改良Tナット30Aの鍵部30bの一方の対角部位の2箇所T1、T2が、第2鍵溝部54の第2内接面54aに接触し、鍵部30bが回動して、鍵部30bの他方の対角部位の2箇所M1、M2が、支持溝23の第1内接面24aに接触する」ものであるから、甲1発明に周知技術を適用した改良Tナット30Aでは、分割した2つの改良Tナット30Aのそれぞれの鍵部30bの一方の側面に箇所T1及び箇所M2を設け、他方の側面に箇所T2及び箇所M1を設ける(すなわち、本件発明1の用語を用いて整理すると、分割ナットの楔部の一方の側面に第1当接部及び第2当接部を形成し、他方の側面に第1当接部及び第2当接部を形成する)構成とすることが自然である。
他方、本件発明1における、「前記分割ナットの前記楔部において、前記チャック本体の周方向での両側面のうち、何れか一方の側面には、・・・第1当接部が、他方の側面には、・・・第2当接部が、・・・形成されて」との発明特定事項は、2つの分割ナットの楔部の何れか一方の側面に第1当接部を形成し(一方の側面には第2当接部を形成しない)、他方の側面に第2当接部を形成する(他方の側面には第1当接部を形成しない)態様を示していると理解できる。
そうすると、甲1発明に周知技術を適用した改良Tナット30Aでは、本件発明1のように、2つの分割ナットの楔部の何れか一方の側面に第1当接部を形成し(一方の側面には第2当接部を形成しない)、他方の側面に第2当接部を形成された(他方の側面には第1当接部を形成しない)ものとならないから、甲1発明に周知技術を適用しても、相違点に係る本件発明1の発明特定事項とすることはできない。
(5)申立人の主張について
ア 申立人の主張の概要
申立人は、特許異議申立書の第17ページ下1行~第19ページ第18行において、本件発明1と甲1号証に記載された発明とは、甲1号証に記載された発明が、ジョーナット20が2つの分割ナットからなるものではない点、箇所M1、M2と箇所T1、T2とが、ボルト40を中心とする点対称位置に形成されていない点で相違するが、甲1号証に記載された発明に甲2~4に記載される周知技術を適用することで、本件発明1とすることは、当業者が容易にすることができた旨主張している。
イ 申立人の主張の検討
本件発明1と甲1発明の相違点は、上記(3)イで示すとおりであり、上記(4)で説示したように、甲1発明に周知技術を適用しても、相違点に係る本件発明1の発明特定事項とすることはできない。
したがって、申立人の主張は採用できない。
(6)小括
したがって、本件発明1は、甲1発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明できたものとはいえない。
(7)本件発明2について
本件発明2は、本件発明1の構成を含んでさらに限定したものに相当し、本件発明2と甲1発明とは、上記相違点を有するものであるから、本件発明1と同様の理由により、甲1発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明できたものとはいえない。
(8)申立理由1(進歩性)についてのむすび
以上のとおり、本件発明は、甲1発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明できたものとはいえないから、請求項1~2に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものとはいえない。
2 申立理由2~4(明確性、サポート要件、実施可能要件)について
(1)申立人の主張について
ア 申立人の主張の概要
申立人は、特許異議申立書の第20ページ第1行~第22ページ第10行において、本件特許の請求項1に「前記第1当接部と前記第2当接部との当接に伴い、前記トップジョーが前記マスタジョーに対して前記周方向に位置決めされる」と記載されているが、本件特許の明細書の段落【0015】の記載をみても、トップジョー4は、楔部25に対して左右方向に遊びがある状態となり、トップジョー4を左右方向(周方向)に位置決めできないことから、トップジョーがマスタージョーに対してどのように位置決めされるかが不明であるから、本件発明は明確でなく、発明の詳細な説明に記載されたものでなく、発明の詳細な説明は、当業者が本件発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない旨主張している。
イ 申立人の主張の検討
本件発明1の「前記第1当接部と前記第2当接部との当接に伴い、前記トップジョーが前記マスタジョーに対して前記周方向に位置決めされる」との記載における「位置決め」について検討する。
本件特許の明細書の段落【0002】の「特に、特許文献1では、トップジョーを正確に位置決めするために、・・・他方の対角部位のマスタジョーのT字溝の内面に近接させて互いの隙間を小さくすることで、周方向の位置ずれ量を減少させるようにしている。」との本件発明の従来技術の記載、及び、本件発明は当該従来技術を基に発明されたものであることを考慮すると、本件発明1でいう位置決めの機能は、厳密に位置決めされるものに限られず、小さいながらも隙間が存在するためトップジョーがマスタジョーに対して完全に不動とはいえない、すなわち、目的とする位置からのごくわずかな移動を許容する態様を含むと理解するのが自然である(令和4年11月2日提出の回答書の4(2)も参照。)。
そして、本件特許の明細書の段落【0015】の記載、及び、図4(C)から、トップジョー4は、楔部25に対して左右方向に若干の遊びがある状態といえるところ、本件発明1でいう位置決めが上述の態様を含むものであることが明確に把握される以上、本件発明1は、明細書の発明の詳細な説明の記載と整合するといえる。
したがって、申立人の主張は採用できない。
(2)申立理由2~4(明確性、サポート要件、実施可能要件)のまとめ
以上のとおり、本件発明1により、トップジョーがマスタジョーに対して周方向に位置決めされているといえるところ、本件発明は明確であり、発明の詳細な説明に記載されたものであり、発明の詳細な説明は、当業者が本件発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものといえるから、請求項1~2に係る特許は、明細書及び特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第2号、同法第36条第6項第1号、及び同法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないとはいえない。
第5 むすび
以上のとおり、請求項1~2に係る特許は、特許異議申立書に記載された特許異議申立理由(申立理由1~4)によっては、取り消すことができない。
また、他に請求項1~2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2022-700381