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特許異議申立

2025-700748

高次脳機能改善剤

審判番号
2025-700748
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2020-116561
登録番号
7627553
請求日
2025年07月22日
審決日
2025年10月17日
公報発行日
2025年11月28日
結論
維持
当事者
  • 【権利者】株式会社神鋼環境ソリューション
  • 【権利者代理人】弁理士法人三枝国際特許事務所
  • 【異議申立人】松本 文彦
審判長/審判官
  • 審判長 松田 成正
  • 審判官 壷内 信吾
  • 審判官 加藤 友也
分類
P1651.113-Y (A61K) / P1651.121-Y (A61K) / P1651.16 -Y (A61K) / P1651.537-Y (A61K) / P1651.536-Y (A61K)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法36条4項1号特許法113条4号
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第29条の2、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第4項第1号
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第7627553号発明「高次脳機能改善剤」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第7627553号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第7627553号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし5に係る特許についての出願は、令和2年7月6日を出願日とする出願であって、令和7年1月29日にその特許権の設定登録(請求項の数5)がされ、同年2月6日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、同年7月22日に特許異議申立人 松本 文彦(以下、「特許異議申立人」という。)から特許異議の申立て(対象請求項:請求項1ないし5)がされたものである。 第2 本件特許発明 本件特許の請求項1ないし5に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」のようにいう。)は、それぞれ、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。 「【請求項1】 ユーグレナを含有する、健常者を含む対象に適用するための、選択的注意力改善剤。 【請求項2】 前記ユーグレナがユーグレナ・グラシリスである、請求項1に記載の選択的注意力改善剤。 【請求項3】 前記ユーグレナがユーグレナ・グラシリスEOD-1株(受託番号FERM BP-11530)である、請求項1に記載の選択的注意力改善剤。 【請求項4】 食品組成物、栄養補助食品、又は食品添加剤である、請求項1~3のいずれかに記載の選択的注意力改善剤。 【請求項5】 経口組成物である、請求項1~4のいずれかに記載の選択的注意力改善剤。」 第3 特許異議申立書に記載した特許異議申立ての理由の概要等 令和7年7月22日に特許異議申立人が提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書」という。)に記載した特許異議申立ての理由の概要及び証拠方法は次のとおりである。なお、判断の便宜上、当審において、新規性・進歩性の理由については主引用文献ごとに特許異議申立の理由を整理した。 1 申立理由1(甲第1号証に基づく新規性・進歩性) 本件特許発明1は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、本件特許発明1ないし5は、甲第1号証に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし5に係る特許は、同法同条の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 2 申立理由2(甲第6号証に基づく進歩性) 本件特許発明1ないし5は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第6号証に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし5に係る特許は、同法同条の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 3 申立理由3(甲第9号証に係る特許出願(特願2020-74963号)に基づく拡大先願) 本件特許発明1、2、4及び5は、本件特許の出願前の特許出願であって、本件特許の出願後に出願公開がされた下記の甲第9号証に係る特許出願(特願2020-74963号)の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、本件特許の出願の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、また、本件特許の出願の時において、本件特許の出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1、2、4及び5に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 4 申立理由4(サポート要件) 本件特許の請求項1、2、4及び5に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。 本件特許明細書である甲第10号証の【0073】に記載されているとおり、ユーグレナとしてパラミロン含有率が非常に高いユーグレナ・グランリスEOD-1株(独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許生物寄託センター(NITE-IPOD)の乾燥粉末(神鋼環境ソリューション製、パラミロン含有率70%以上)を用いた実施例でしか選択的注意力改善の作用が示されていない。 ここで、ユーグレナとして用いる株が異なれば、特に含まれるパラミロンの含有率が異なれば、生理活性が異なることが技術常識である(要すれば、甲第6号証の【0013】、甲第8号証の1.3 Euglena gracilis EOD-1株)。 してみると、請求項1に係る発明のように「ユーグレナ」について、何らその株、パラミロン含有量が特定されていない場合にも、選択的注意力改善の作用が発揮されることを合理的に推測することは困難である。 つまり、特定のユーグレナ株(ユーグレナ・グラシリスEOD-1株)のみが記載されているに過ぎない本願明細書の実施例に基づいて、請求項1に係る発明のようにユーグレナであること以外、何らその株やパラミロン含有率を特定しない範囲まで発明を拡張ないし一般化できるとはいえない。 したがって、請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明において裏付けられた範囲を超える発明を含むものであるから、発明の詳細な説明に記載された発明を記載したものとはいえない。 このことは、本件特許の請求項1の発明特定事項を包含する請求項2、請求項4、請求項5についても同様である。 5 申立理由5(実施可能要件) 本件特許の請求項1、2、4及び5に係る特許は、下記の点で特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。 ユーグレナとして用いる株が異なれば、特に含まれるパラミロンの含有率が異なれば、生理活性が異なることが技術常識である(要すれば、甲第6号証の【0013】、甲第8号証の1.3 Euglena gracilis EOD-1株)。 してみると、請求項1の「ユーグレナ」として、無数に存在するミドリムシ属(=ユーグレナ属)に属する微細藻類の中から如何なるユーグレナを用いれば選択的注意力改善の作用が得られるのか、合理的に推測することは困難であり、当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤を要するものと思料する。 具体的には、ユーグレナであること以外、何らその株やパラミロン含有率が特定されていない場合において、実施例で用いられているパラミロン含有率が非常に高いユーグレナ・グラシリスEOD-1株(独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許生物寄託センター(NITE-IPOD)の乾燥粉末(神鋼環境ソリューション製、パラミロン含有率70以上))を用いた場合と同様の選択的注意力改善の作用を発揮することができるユーグレナを選択することは当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤が必要であるため、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない。 したがって、請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明において裏付けられた範囲を超える発明を含むものであるから、発明の詳細な説明に記載された発明を記載したものとはいえない。 このことは、本件特許の請求項1の発明特定事項を包含する請求項2、請求項4、請求項5についても同様である。 6 証拠方法 甲第1号証:「健康寿命を支えるスッキリや機敏さ、いきいきへ!ヒト臨床試験により、ミドリムシの継続摂取が脳の状態に効果的に寄与することを確認しました~脳由来神経栄養因子(BDNF)の上昇や認知機能速度・運動速度の向上、心の健康スコアの改善などを確認~」、INTERNET ARCHIVE WAYBACKMACHINE、[online]、2019年6月30日、株式会社ユーグレナホームページ、[2025年4月22日検索]、インターネット<URL:https://web.archive.org/web/20190630003935/https:|//www.euglena.jp/news/20190528/> 甲第2号証:特開2019-112361号公報 甲第3号証:特開2020-38157号公報 甲第4号証:特開2017-114844号公報 甲第5号証:特表2016-501235号公報 甲第6号証:特開2019-104717号公報 甲第7号証:国際公開第2014/157077号 甲第8号証:神鋼環境ソリューション技報、令和2年3月20日、第16巻、第2号、p.13-19 甲第9号証:特開2020-188755号公報 甲第10号証:特許第7627553号公報 証拠の表記は、特許異議申立書の記載におおむね従った。以下、順に「甲1」のようにいう。 第4 当審の判断 1 申立理由1(甲1に基づく新規性・進歩性)について (1)甲1に記載された事項等 ア 甲1に記載された事項 甲1には、「ユーグレナのニュース」に関して、おおむね次の事項が記載されている。 ・「 [図:0001429047000001.jpg] 」(第1/4ページ中欄) ・「 [図:0001429047000002.jpg] 」(第2/4ページ上欄) ・「 [図:0001429047000003.jpg] 」(第2/4ページ下欄) ・「 [図:0001429047000004.jpg] 」(第3/4ページ上欄) イ 甲1に記載された発明 甲1に記載された事項を整理すると、甲1には次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認める。 <甲1発明> 「年齢が50歳以上70歳未満の健康上問題のない閉経後の女性が摂取することにより、脳からの指令で身体が動く速度(認知機能速度・運動速度)の向上を示すユーグレナ粉末。」 (2)本件特許発明1について ア 対比 本件特許発明1と甲1発明を対比する。 甲1発明における「年齢が50歳以上70歳未満の健康上問題のない閉経後の女性が摂取することにより」は、本件特許発明1における「健常者を含む対象に適用するための」に相当する。 甲1発明における「ユーグレナ粉末」は本件特許発明1における「ユーグレナを含有する」という発明特定事項を有することは明らかである。 甲1発明における「脳からの指令で身体が動く速度(認知機能速度・運動速度)の向上を示す」「粉末」は本件特許発明1における「選択的注意力改善剤」と、「剤」という限りにおいて一致する。 そうすると、両者は次の点で一致する。 <一致点> 「ユーグレナを含有する、健常者を含む対象に適用するための、剤。」 そして、両者は次の点で相違又は一応相違する。 <相違点1> 「剤」に関し、本件特許発明1においては「選択的注意力改善剤」と特定されているのに対して、甲1発明においては「脳からの指令で身体が動く速度(認知機能速度・運動速度)の向上を示す」「粉末」と特定されている点。 イ 判断 相違点1について検討する。 本件特許発明1における「選択的注意力」とは、本件特許の発明の詳細な説明(以下、「発明の詳細な説明」という。)の【0059】によると、「様々な情報の中から自己にとって重要な情報を選び、そこへ注意を向ける能力」であり、関連する反応、行動、活動等の一部の例として「多くの人が会話している中で自分の名前を呼ばれて反応する。」、「多くの人が会話している中で特定の人物と会話ができる。」、「多くのファイルの中から自分に必要なファイルを探し出す。」、「多くの建物の中から自分の目的地である建物を見つけ出す。」、「旅行先で、目的地に関する標識や情報を見つける。」、「工事現場で危険を知らせる標識を見つける。」及び「本屋で知りたい情報の本を見つける。」が例示されるものである。 そうすると、本件特許発明1における「選択的注意力」は甲1発明における「脳からの指令で身体が動く速度(認知機能速度・運動速度)」とは異なるものといえ、相違点1は実質的な相違点である。 また、甲1には、甲1発明を上記のような「選択的注意力」の「改善剤」の用途に適用する動機付けとなる記載はないし、他の証拠にもない。 したがって、甲1発明を「選択的注意力改善剤」の用途に適用し、甲1発明において、相違点1に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。 そして、本件特許発明1の奏する「選択的注意力改善剤を提供することができる」(発明の詳細な説明の【0008】、【0057】及び【0082】)という効果は、甲1発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項からみて、本件特許発明1の「ユーグレナを含有する」及び「健常者を含む対象に適用するための」という構成から当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものである。 ウ 特許異議申立人の主張について (ア)特許異議申立人の主張の概要 特許異議申立人は、特許異議申立書において、おおむね次のとおり主張する。 「甲第1号証には、ユーグレナの継続摂取により、Cognitrax(コグニトラックス)というパソコンを用いた認知機能検査で測定した言語、視覚、情報処理能力など7項目のテストで、脳機能における認知機能速度および運動速度に関する測定を行った結果、認知機能速度は12週目でユーグレナ摂取群のスコアの変化量がプラセボ摂取群に比べて有意に上昇したことが記載されている。 甲第2号証(【0057】)及び甲第3号証(【0018】、【0019】)に記載されているように、Cognitrax(コグニトラックス)にストループテスト(ST:Stroop Test)があることは技術常識であった。 また、甲第4号証(【0030】)、甲第5号証(【0097】)に記載されているように、ストループテストが選択的注意力の古典的心理学試験であることも技術常識であった。 つまり、Cognitrax(コグニトラックス)のストループテスト(ST:Stroop Test)で、選択的注意力を評価できることは技術常識であった。 してみると、甲1発明で、Cognitrax(コグニトラックス)によって、ユーグレナ摂取群の認知機能速度が向上しているのであれば、ストループテストでもスコアが向上している蓋然性が高い。 ここで、用途発明とは、(i)ある物の未知の属性を発見し、(ii)この属性により、その物が新たな用途への使用に適することを見いだしたことに基づく発明をいう(特許・実用新案審査基準 第 III 部 第2章第4節 特定の表現を有する請求項等についての取扱い 3.物の用途を用いてその物を特定しようとする記載(用途限定)がある場合)が、本件特許発明の「選択的注意力改善」との用途は、上記技術常識を考慮すれば、甲1発明のユーグレナの持つ認知機能速度の向上に対して、何ら新たな用途を提供したとは言えず、選択的注意力改善剤の用途についての相違点は実質的な相違点ではない。 また、本件特許明細書(甲第10号証)の【0059】には、「選択的注意力は、様々な情報の中から自己にとって重要な情報を選び、そこへ注意を向ける能力である」と定義されているが、甲第1号証には、Cognitrax(コグニトラックス)によってユーグレナ摂取群の認知機能速度が向上することが記載されていることから、甲第2号証乃至甲第5号証に記載の技術常識を参酌すれば、本件特許発明の「選択的注意力改善」との用途は少なくとも当業者が容易に想到し得たものである。」(特許異議申立書第40及び41ページ) (イ)特許異議申立人の主張についての判断 特許異議申立人の上記主張について検討する。 「Cognitrax(コグニトラックス)というパソコンを用いた認知機能検査」に「ストループテスト」があり、「ストループテスト」により、選択的注意力を評価できることが技術常識であったとしても、「ストループテスト」は「Cognitrax(コグニトラックス)というパソコンを用いた認知機能検査」のうちの一つにすぎず(甲3の【0018】及び【0019】によると、少なくとも10種類のテストがある。)、甲1において行われた検査ではないし、「Cognitrax(コグニトラックス)というパソコンを用いた認知機能検査」中のテストは全て同様のスコアを示すという当業者の技術常識がある訳でもない。 したがって、甲1発明において、「Cognitrax(コグニトラックス)というパソコンを用いた認知機能検査で測定した言語、視覚、情報処理能力など7項目のテスト」でユーグレナ摂取群の認知機能速度が向上していることを確認しているとしても、「ストループテスト」でも同様である蓋然性が高いとはいえない。 また、甲1に、「Cognitrax(コグニトラックス)によってユーグレナ摂取群の認知機能速度が向上すること」が記載されているとしても、「ユーグレナ」に「選択的注意力改善」という属性があることは、甲1を含めいずれの証拠にも記載されていないから、本件特許発明1の「選択的注意力改善」という用途は当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。 よって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。 エ まとめ したがって、本件特許発明1は甲1発明であるとはいえないし、甲1発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 (3)本件特許発明2ないし5について 本件特許発明2ないし5はいずれも、請求項1の記載を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲1発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (4)申立理由1についてのむすび したがって、本件特許発明1は特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえないし、本件特許発明1ないし5は同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるともいえないから、本件特許の請求項1ないし5に係る特許は同法同条の規定に違反してされたものであるとはいえず、同法第113条第2号に該当せず、申立理由1によっては取り消すことはできない。 2 申立理由2(甲6に基づく進歩性)について (1)甲6に記載された事項等 ア 甲6に記載された事項 甲6には、「自立神経バランス改善剤」に関して、おおむね次の事項が記載されている。下線は予め付されたものと当審で付したものである。 ・「【請求項1】 ユーグレナを含有する、自律神経バランス改善剤。 【請求項2】 前記ユーグレナがユーグレナ・グラシリスである、請求項1に記載の自律神経バランス改善剤。 【請求項3】 前記ユーグレナがユーグレナ・グラシリスEOD-1株(受託番号FERM BP-11530)である、請求項1又は2に記載の自律神経バランス改善剤。」 ・「【請求項5】 睡眠の質的改善、集中力向上、免疫力向上、及び便通改善からなる群より選択される少なくとも1種のために用いられる、請求項1~4のいずれかに記載の自律神経バランス改善剤。」 ・「【0013】 1.ユーグレナ ユーグレナは、ミドリムシ属(=ユーグレナ属)に属する微細藻類であり、その限りにおいて特に制限されない。ユーグレナとして、具体的には、例えばEuglena gracilis(ユーグレナ・グラシリス)、Euglena longa、Euglena caudata、Euglena oxyuris、Euglena tripteris、Euglena proxima、Euglena viridis、Euglena sociabilis、Euglena ehrenbergii、Euglena deses、Euglena pisciformis、Euglena spirogyra、Euglena acus、Euglena geniculata、Euglena intermedia、Euglena mutabilis、Euglena sanguinea、Euglena stellata、Euglena terricola、Euglena klebsi、Euglena rubra、Euglena cyclopicolaなどが挙げられる。これらの中でも、本発明の効果をより確実に発揮できるという観点から、好ましくはユーグレナ・グラシリスが挙げられ、より好ましくはユーグレナ・グラシリスEOD-1株[2013年6月28日付で独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許生物寄託センター{NITE-IPOD(郵便番号292-0818 日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 120号室)}にブダペスト条約の規定下で、受託番号FERM BP-11530として国際寄託済み]が挙げられる。 【0014】 ユーグレナの形態は、ユーグレナの細胞体又はその成分の大半を含むものである限り、特に制限されない。ユーグレナの形態としては、例えばユーグレナの乾燥粉末形態、ユーグレナの懸濁液、ユーグレナエキス等が挙げられ、中でも、好ましくはユーグレナの乾燥粉末形態が挙げられる。 【0015】 ユーグレナの乾燥状態におけるパラミロン含有率は、例えば50%以上、好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上である。」 ・「【0022】 3.用途 ユーグレナは、自律神経バランス改善作用を有することから、自律神経バランス改善剤の有効成分として、利用することができる。これにより、交感神経が活性化すべき活動下でも交感神経が適切に活性化しない状態を改善することができ、副交感神経が活性化すべき回復及び休息下でも副交感神経が適切に活性化しない状態を改善することができる。前者について、より具体的には、交感神経が活性化すべき活動下、例えば事務的作業時におけるLF/HF値をより向上することができる。後者について、より具体的には、回復及び休息下におけるLF/HF値をより低減することができる。上記観点から、自律神経バランス改善とは、自律神経バランス適正化、自律神経バランス調整、特に心身活動状況に応じた自律神経バランス適正化、自律神経バランス調整と言い換えることもできる。 【0023】 また、ユーグレナは、集中力を発揮すべき状況下において集中力をより高め、さらにその持続力をより高めることができ、さらに睡眠の質、免疫力、便通等を改善することができる。この観点から、ユーグレナは、例えば、以下に列挙する用途: (A)睡眠の質的改善 (A1)起床時眠気の改善 (A2)入眠改善 (A3)睡眠持続性改善 (A4)夢み改善 (A5)睡眠による疲労回復感の改善 (B)集中力向上 (B1)集中力持続 (B2)心身活動時の集中力及びその持続力の向上 (B3)事務的作業における集中力及びその持続力の向上 (C)免疫力向上 (C1)呼吸器疾患に対する予防効果の向上 (C2)疲れ、体力低下、老化、睡眠不足等により引き起こされる、免疫機能低下の抑制 (D)便通改善 (D1)排便後の不快感(残便感等)の低減 (D2)腹痛改善 (D3)腹部のハリの低減 (D4)排便困難性の低減 に利用することができる。なお、上記用途中、括弧内に数字が記載された項目の用途((A1)、(B1)等の用途)は、括弧内のアルファベットが同一であり且つ括弧内に数字が記載されていない項目の用途((A)、(B)等の用途)の下位概念に相当する。 【0024】 ユーグレナは、好ましくは、その自律神経バランス改善作用に基づいて、上記上位概念の用途(A)~(D)の内の複数(2~4つ、より好ましくは3~4つ、さらに好ましくは4つ全て)の用途を含む包括的な用途に利用することができる。 【0025】 さらには、以下に列挙する用途、目的、対象: (a1)肩こり、イライラなど自律神経の乱れによる様々な症状や不眠などに対して (a2)健やかな眠りをもたらし、翌朝起床時の疲労感(疲れやだるさの感覚)を軽減する (a3)夜間の良質な睡眠(起床時の疲労感や眠気を軽減)をサポートする (a4)起床時の疲労感や眠気を軽減する (a5)健やかな眠り(寝つきの向上)に役立つ (a6)夢みが良い (a7)睡眠の満足度 (a8)めざめがすっきり (a9)深い睡眠をとるために (a10)睡眠リズムの乱れに (a11)さわやかな目覚めのために (a12)すこやかな睡眠のために (a13)一過性のストレス低減 (a14)睡眠リズムの乱れが中高年の内蔵脂肪を増加させる (a15)質の良い睡眠のために (a16)副交感神経を活性化させて良い眠りを (a17)自律神経を定常化させる (a18)睡眠の質の向上により免疫力が向上する (a19)熟睡できる (a20)寝つきが悪い方に (a21)夜間によく起きてしまう方に に利用することができる。 【0026】 さらには、以下に列挙する用途、目的、対象: (b1)集中力が持続します (b2)集中力を持続させ、ミスを減らします (b3)交感神経を活性化 (b4)スポーツのお供に (b5)勉強のお供に (b6)会議のお供に (b7)運転のお供に (b8)研究のお供に に利用することができる。 【0027】 さらには、以下に列挙する用途、目的、対象: (d1)ストレス緩和効果 (d2)副交感神経活性化によりリラックスできる (d3)ストレス緩和により便通改善 (d4)安静時のリラックス効果向上 (d5)気分転換をサポートします (d6)お腹のハリをなくします (d7)お腹のスッキリ感を向上 (d8)排便後の満足感向上 (d9)残便感をなくします (d10)リラックスによる便通改善 に利用することができる。 【0028】 なお、「改善」とは、症状又は状態の好転又は緩和、症状又は状態の悪化の防止又は遅延、症状又は状態の進行の逆転、防止又は遅延をいう。 【0029】 本発明の剤は、各種分野において、例えば食品添加剤、食品組成物(健康食品、健康増進剤、栄養補助剤(サプリメントなど)を包含する)、医薬などとして用いることができる。 【0030】 本発明の剤は、通常は経口摂取されるが、これに限定されるものではない。」 ・「【実施例】 【0037】 以下に、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。 【0038】 製造例1 ユーグレナ・グラシリスEOD-1株(独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許生物寄託センター(NITE-IPOD)の乾燥粉末(神鋼環境ソリューション製、パラミロン含有率70%以上)を下記配合でカプセル錠としたものを試験食とし、対照食としてコーンスターチを配合したカプセル錠を製造した。 【0039】 【表1】 [図:0001429047000005.jpg] 【0040】 試験例1 試験概要は以下のとおりである。また、試験デザイン及び試験フローを図1に示す。図1中、対照食及び試験食は製造例1で製造したカプセル錠である。 ・試験期間 : 対照食2週間、試験食2週間 ・試験食の摂取量 : ユーグレナ乾燥粉末換算で 500mg/day ・対照食の摂取量 : 試験食と同量 ・被験者 : 男性3名( Age 39.7歳、BMI 22) 【0041】 <被験者の選択> 同意を取得した被験者候補に、スクリーニング検査として便通、疲労等に関するアンケートを行った。スクリーニング検査の結果から、下記選択基準を満たし、便通不良と疲労の自覚があり、且つ下記のいずれの除外基準にも抵触しない適格な者(3名)を選択した。 【0042】 選択基準 (1) 年齢が20歳以上60歳未満の男性の方 (2) 週の排便回数が週に5日以下の方 (3) 疲労やストレスを感じておられる方 (4) 健康な方で、現在何等かの疾患で治療をしていない方 (5) 非喫煙者の方 除外基準 (1) 現在、何等かの慢性疾患を患い薬物治療を受けている方 (2) 食品にアレルギー症状を示す恐れのある方 (3) 便秘薬、整腸薬および排便訴求のサプリメント類を日常的に摂取している方(難消化性デキストリン、オリゴ糖、食物繊維リッチなど) (4) 重篤な疾患の既往歴・現病歴のある方 (5) 高度の貧血のある方 (6) 過去4週間以内に、健康食品を変更した方、あるいは新たに使い始めた方 (7) 過去4週間以内に、屋外での長時間の作業、運動、海水浴、レジャーなど、日常生活を超えて紫外線を浴びた方、あるいは試験期間中にその予定がある方 (8) 夜勤および昼夜交代制のお仕事の方 (9) 同意取得時に、病気の治療や予防等のために病院やクリニックに通って処置(ホルモン補充療法、薬物療法、運動療法、その他)を受けている方、あるいは治療が必要と判断される方 (10) 糖代謝、脂質代謝、肝機能、腎機能、心臓、循環器、呼吸器、内分泌系、神経系の重篤な疾患あるいは精神疾患の既往歴をお持ちの方 (11) アルコールおよび薬物依存の既往歴をお持ちの方 (12) 化粧品および食品に対してアレルギーの発症の恐れがある方 (13) 同意取得日前4週間以内に、他のヒト試験に参加している方、あるいはこの試験の実施予定期間中に他のヒト試験に参加する予定がある方」 ・「【0058】 (c) 集中力の評価結果 PVT検査における、5分ごとの平均反応時間と反応時間500ms以上となった回数の3人の平均値を、図8及び9に示す。また、自覚症しらべによる疲労感の総スコアを図10に示す。 【0059】 図8及び9に示されるように、ユーグレナ摂取により、集中力が向上し、さらにその持続時間がより長くなった。また、ユーグレナ摂取により事務的作業後の疲労感は低減すること(図10)から、ユーグレナ摂取による集中力の向上及びその持続時間の延長は、身体に過剰な負荷をかけるものではないことが示唆された。これらの結果は、事務的作業時に交感神経がより活性化したことによる結果であると考えられた。」 イ 甲6に記載された発明 甲6に記載された事項を、特に請求項1及び5並びに実施例に関して、整理すると、甲6には次の発明(以下、「甲6発明」という。)が記載されていると認める。 <甲6発明> 「ユーグレナを含有する、年齢が20歳以上60歳未満の男性の方、週の排便回数が週に5日以下の方、疲労やストレスを感じておられる方、健康な方で、現在何等かの疾患で治療をしていない方及び非喫煙者の方という選択基準を満たす方を対象とし、睡眠の質的改善、集中力向上、免疫力向上、及び便通改善からなる群より選択される少なくとも一種のために用いられる、自律神経バランス改善剤。」 (2)本件特許発明1について ア 対比 本件特許発明1と甲6発明を対比する。 甲6発明における「年齢が20歳以上60歳未満の男性の方、週の排便回数が週に5日以下の方、疲労やストレスを感じておられる方、健康な方で、現在何等かの疾患で治療をしていない方及び非喫煙者の方という選択基準を満たす方を対象とし」は、本件特許発明1における「健常者を含む対象に適用するための」に相当する。 甲6発明における「睡眠の質的改善、集中力向上、免疫力向上、及び便通改善からなる群より選択される少なくとも一種のために用いられる、自律神経バランス改善剤」は本件特許発明1における「選択的注意力改善剤」と、「剤」という限りにおいて一致する。 そうすると、両者は次の点で一致する。 <一致点> 「ユーグレナを含有する、健常者を含む対象に適用するための、剤。」 そして、両者は次の点で相違する。 <相違点2> 「剤」に関し、本件特許発明1においては「選択的注意力改善剤」と特定されているのに対して、甲6発明においては「睡眠の質的改善、集中力向上、免疫力向上、及び便通改善からなる群より選択される少なくとも一種のために用いられる、自律神経バランス改善剤」と特定されている点。 イ 判断 相違点2について検討する。 本件特許発明1における「選択的注意力」とは、上記1(2)イのとおり、「様々な情報の中から自己にとって重要な情報を選び、そこへ注意を向ける能力」であり、関連する反応、行動、活動等の一部の例として「多くの人が会話している中で自分の名前を呼ばれて反応する。」、「多くの人が会話している中で特定の人物と会話ができる。」、「多くのファイルの中から自分に必要なファイルを探し出す。」、「多くの建物の中から自分の目的地である建物を見つけ出す。」、「旅行先で、目的地に関する標識や情報を見つける。」、「工事現場で危険を知らせる標識を見つける。」及び「本屋で知りたい情報の本を見つける。」が例示されるものである。 そして、甲6には、甲6発明を上記のような「選択的注意力」の「改善剤」の用途に適用する動機付けとなる記載はないし、他の証拠にもない。 したがって、甲6発明を「選択的注意力改善剤」の用途に適用し、甲6発明において、相違点2に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。 そして、本件特許発明1の奏する「選択的注意力を改善できる選択的注意力改善剤を提供することができる」という効果は、甲6発明並びに甲6及び他の証拠に記載された事項からみて、本件特許発明1の「ユーグレナを含有する」及び「健常者を含む対象に適用するための」という構成から当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものである。 ウ 特許異議申立人の主張について (ア)特許異議申立人の主張の概要 特許異議申立人は、特許異議申立書において、おおむね次のとおり主張する。 「甲第6号証には、ユーグレナの継続摂取により、集中力を発揮すべき状況下において集中力をより高め、さらにその持続力をより高めることができることが記載されている。 甲第2号証(【0057】)及び甲第3号証(【0018】、【0019】)に記載されているように、Cognitrax(コグニトラックス)にストループテスト(ST:Stroop Test)があることは技術常識であった。 また、甲第4号証(【0030】)、甲第5号証(【0097】)に記載されているように、ストループテストが選択的注意力の古典的心理学試験であることも技術常識であった。 つまり、Cognitrax(コグニトラックス)のストループテスト(ST:Stroop Test)で、選択的注意力を評価できることは技術常識であった。 甲第3号証の【0019】には、ストループテストが実行機能、単純又は複雑反応速度、速度と正確さの妥協、情報処理速度、抑制又は脱抑制に関するテストであり、文字の意味及び色に基づき、表示文字について条件に従って応答する速度及び正確さを測定することも記載されている。 そして、甲第1号証には、ユーグレナの継続摂取により、Cognitrax(コグニトラックス)というパソコンを用いた認知機能検査で測定した言語、視覚、情報処理能力など7項目のテストで、脳機能における認知機能速度および運動速度に関する測定を行った結果、認知機能速度は12週目でユーグレナ摂取群のスコアの変化量がプラセボ摂取群に比べて有意に上昇したことが記載されている。 してみると、甲6発明のように、ユーグレナ粉末の継続摂取により、集中力を発揮すべき状況下において集中力をより高め、さらにその持続力をより高めることができるのであれば、Cognitrax(コグニトラックス)におけるストループテストでもスコアが向上している蓋然性が高い。 ここで、本件特許明細書(甲第10号証)の【0059】には、「選択的注意力は、様々な情報の中から自己にとつて重要な情報を選び、そこへ注意を向ける能力である」と定義されているが、甲第6号証には、ユーグレナの継続摂取により、集中力を発揮すべき状況下において集中力をより高め、さらにその持続力をより高めることができることが記載されており、甲第1号証には、Cognitrax(コグニトラックス)によってユーグレナ摂取群の認知機能速度が向上することが記載されていることから、甲第2号証乃至甲第5号証に記載の技術常識を参酌すれば、本件特許発明の「選択的注意力改善」との用途は当業者が容易に想到し得たものである。」(特許異議申立書第44及び45ページ) (イ)特許異議申立人の主張についての判断 特許異議申立人の上記主張について検討する。 「Cognitrax(コグニトラックス)というパソコンを用いた認知機能検査」に「ストループテスト」があり、「ストループテスト」により、選択的注意力を評価できることが技術常識であったとしても、「ストループテスト」は「Cognitrax(コグニトラックス)というパソコンを用いた認知機能検査」のうちの一つにすぎず(甲3の【0018】及び【0019】によると、少なくとも10種類のテストがある。)、甲6において行われた検査ではない。そもそも、甲6においては、「Cognitrax(コグニトラックス)というパソコンを用いた認知機能検査」自体行われていない。 また、「集中力」が高くなり、その持続力が高くなれば、「ストループテスト」のスコアが向上するという当業者の技術常識がある訳でもない。 したがって、甲6発明が「ユーグレナ粉末の継続摂取により、集中力を発揮すべき状況下において集中力をより高め、さらにその持続力をより高めることができる」ものであるとしても、「ストループテスト」でもスコアが向上している蓋然性が高いとはいえない。 また、「ユーグレナ」に「選択的注意力改善」という属性があることは、甲6を含めいずれの証拠にも記載されていないから、本件特許発明1の「選択的注意力改善」という用途は当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。 よって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。 エ まとめ したがって、本件特許発明1は甲6発明並びに甲6及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (3)本件特許発明2ないし5について 本件特許発明2ないし5はいずれも、請求項1の記載を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲6発明並びに甲6及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (4)申立理由2についてのむすび したがって、本件特許発明1ないし5は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項1ないし5に係る特許は同法同条の規定に違反してされたものであるとはいえず、同法第113条第2号に該当せず、申立理由2によっては取り消すことはできない。 3 申立理由3(甲9に係る特許出願(特願2020-74963号)に基づく拡大先願)について (1)甲9に係る特許出願(特願2020-74963号)の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項等 ア 甲9に係る特許出願(特願2020-74963号)の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項 甲9に係る特許出願(特願2020-74963号)の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「甲9先願明細書等」という。)には、「脳機能改善用食品組成物、脳機能改善剤、脳由来神経栄養因子増加用食品組成物、ストレスホルモン分泌抑制用食品組成物、脳由来神経栄養因子増加剤及びストレスホルモン分泌抑制剤」に関して、おおむね次の事項が記載されている。下線は当審で付したものである。 ・「【請求項1】 ユーグレナを有効成分として含有することを特徴とする脳機能改善用食品組成物。」 ・「【0029】 <脳機能、認知機能> 本明細書において「脳機能」とは、主に「認知機能」のことを意味し、例えば、認知機能速度及び運動速度をいう。 認知機能速度とは、精神運動速度とも呼ばれ、刺激に対して、適切な反応を準備し、動作に移すスピードの指標である。認知機能速度が低下すると、日常生活における体の動きが緩慢となり、高齢者において転倒のリスクが増加することが知られている。 【0030】 脳機能は、例えばCNS Vital Signs社が開発した認知機能検査であるコグニトラックス(Cognitrax)によって評価することができる。認知機能検査では、例えば、指叩きテストやSDC(Symbol Digit Coding)テストが行われる。 【0031】 指叩きテストは、決められた時間内にキーボードのスペースキーをできるだけ早く叩く課題であり、運動速度の評価に使用される。また、SDCテストは、パソコン画面の上部に表示されたシンボルと数字の組み合わせの表を参照して、画面下部の空欄の表にシンボルに対応する数字を入れる課題であり、脳の情報処理速度の評価に使用される。指叩きテストとSDCテストの成績から認知機能速度(情報を反応および処理し動作に移す速さ)が評価される。」 ・「【0033】 <脳機能改善剤> 本実施形態に係る脳機能改善剤は、ユーグレナを有効成分とする脳機能改善剤である。 「ユーグレナ」には、ユーグレナ生細胞やユーグレナの乾燥藻体などのユーグレナ藻体の他、ユーグレナの水性溶媒抽出物、ユーグレナ藻体の加工品等が含まれる。 【0034】 「脳機能改善剤」とは、脳機能を改善させる剤のことをいい、「認知機能改善剤剤」を包括する概念である。脳機能の改善は、例えば、認知機能検査などにより認知機能を測定することで評価することができる。」 ・「【0042】 <食品組成物及び医薬組成物> また、本実施形態に係る脳機能改善剤は、薬理学的に許容され得る添加剤を加え、食品組成物や医薬組成物等の組成物として用いることができる。 【0043】 (食品組成物) 本実施形態の脳機能改善用食品組成物は、食品の分野では、脳機能改善作用を有効に発揮できる有効な量のユーグレナを食品素材として、各種食品に配合することにより、当該作用を有する食品組成物を提供することができる。 すなわち、食品の分野において、脳機能改善用等と表示された食品の食品組成物を提供することができる。当該食品組成物としては、一般の食品のほか、特定保健用食品、栄養機能食品、機能性表示食品、病院患者用食品、サプリメント等が挙げられる。また、食品添加物として用いることもできる。 当該食品組成物としては、例えば、調味料、畜肉加工品、農産加工品、飲料(清涼飲料、アルコール飲料、炭酸飲料、乳飲料、果汁飲料、茶、コーヒー、栄養ドリンク等)、粉末飲料(粉末ジュース、粉末スープ等)、濃縮飲料、菓子類(キャンディ(のど飴)、クッキー、ビスケット、ガム、グミ、チョコレート等)、パン、シリアル等が挙げられる。また、特定保健用食品、栄養機能食品、機能性表示食品等の場合、カプセル、トローチ、シロップ、顆粒、粉末等の形状であっても良い。」 ・「【実施例】 【0056】 以下、具体的実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。 【0057】 <試験1:高用量のユーグレナの継続摂取が認知機能及びQOLに与える影響> 試験1では、ユーグレナ粉末を含有する試験食品組成物を、従来よりも高用量で24週間継続摂取することによる、認知機能、QOLに与える影響の検討を行った。 【0058】 (試験食品組成物について) 実施例1(ユーグレナ摂取群)及び比較例1(プラセボ摂取群)の試験食品組成物の組成を以下の表1及び表2に示す。 【0059】 【表1】 [図:0001429047000006.jpg] 【0060】 【表2】 [図:0001429047000007.jpg] 【0061】 試験食品組成物の剤形はハードカプセルであり、包装はアルミパウチ包であった。包装開封後は、冷蔵庫に保管した。 【0062】 (摂取方法) 試験期間中、1回4カプセル(合計でユーグレナ1gに相当)を、1日に3回、毎食後に摂取した。なお、摂取し忘れた場合には、任意の時間帯にて摂取することとした。 【0063】 (試験のデザイン) 試験は、二重盲検プラセボ対照比較試験で実施した。摂取期間は24週間であり、0週(開始前)、摂取6週後、摂取12週後、摂取24週後の来院時に各種検査等を実施した。検査及び試験スケジュールを表3に示す。 【0064】 【表3】 [図:0001429047000008.jpg] 【0065】 (試験の概略) 試験期間は約28週間であり、そのうち摂取期間は24週間とした。 目標解析症例数は60例(ユーグレナ摂取群30例、プラセボ摂取群30例)とし、試験参加症例数は66例、内訳はユーグレナ摂取群33例、プラセボ摂取群33例であった。 【0066】 (被験者及び制限事項) 年齢が50歳以上の女性を被験者とした。 被験者は、重篤な臓器障害や特定の疾病がなく、それらの関連する治療を受けていないもの及び何らかの薬物療法を受けていない者である健常者を選択した。 以下の事項を被験者の試験期間中のその他の制限事項とし、各被験者に遵守させることとした。なお、以下にいう、試験期間とは、摂取開始から摂取終了来院当日までとした。 ・提供された試験食品を定められた用法用量で摂取する。 ・試験期間中は不規則な生活(睡眠不足、暴飲暴食、節食等)を避ける。 ・食事、運動、睡眠に関しては、本試験開始前と同様な量、質を維持する。 ・試験期間中は試験食品組成物以外のサプリメント及び健康食品の摂取は止める。 ・試験期間中、医薬品、医薬部外品及び健康食品等の服用及び摂取は原則控える。やむを得ず使用しなければならない場合は、すみやかに試験担当者へ連絡させる。 ・試験期間中は、禁煙とする。 ・試験に関する話を関係者以外の第三者に漏洩することを禁止する。また、試験食品組成物の他の人への提供を禁止する。 【0067】 (試験食品組成物の摂取状況) 各被験者の試験食品組成物の摂取状況について、著しく試験食品組成物の摂取率の低い被験者はいなかった。 【0068】 (評価方法及び評価項目) 0週来院時、摂取6週来院時、摂取12週来院時、摂取24週来院時に診察及び決められた検査を実施した。評価項目は、血液マーカー(BDNF:脳由来神経栄養因子)、Cognitraxスコア(記憶力・認知機能の変化)、QOLアンケート(SF-36)とした。 【0069】 (統計解析) 試験において「各検査値が摂取前後および群間で異ならない」という帰無仮説の検証を行った。両側検定で有意水準を5%とし、有意差が認められた場合にこの帰無仮説が棄却されたと結論した。有意水準5%未満を「統計学的に有意な差あり」、5%以上10%未満を「傾向あり」と判定した。尚、検定方法については、群間の変化量をWilcoxonの順位和検定で判定した。また、本統計解析では、R version 3.5.1(R development Core Team製)を使用した。 【0070】 (試験の結果) 66例中に途中辞退者4例を除き62例が試験を完了した。図1乃至図3及び表4乃至表6に試験の結果を示す。図1は、BDNF(脳由来神経栄養因子)の群間変化量を示すグラフである。図2A及び図2Bは、Cognitraxスコア(数値が高ければ良い)の認知機能速度及び運動速度の群間変化量を示すグラフである。図3は、SF-36(数値が高ければ良い)に基づく心の健康(MH)の群間変化量を示すグラフである。 【0071】 (BDNF) BDNF(脳由来神経栄養因子)について、図1及び表4に結果を示す。ユーグレナ摂取群において、0週と比較して、12週で有意なBDNFの上昇傾向が見られた。図1に示されるように、変化量では、ユーグレナ摂取群において、プラセボ摂取群と比較して6週、12週で有意な上昇傾向、24週で有意な上昇が見られた。 【0072】 【表4】 [図:0001429047000009.jpg] 【0073】 (コグニトラックスの結果) 認知機能速度について、図2A及び表5に結果を示す。ユーグレナ摂取群において、0週と比較して24週で有意な認知機能速度の上昇傾向がみられた。図2Aに示されるように、変化量でユーグレナ摂取群においてプラセボ摂取群と比較して12週で有意な上昇がみられた。 【0074】 運動速度について、図2B及び表5に結果を示す。図2Bに示されるように、変化量でユーグレナ摂取群において、プラセボ摂取群と比較して12週、24週で有意な上昇がみられた。 【0075】 【表5】 [図:0001429047000010.jpg] 【0076】 (SF-36の結果) 心の健康(MH)について、図3及び表6に結果を示す。ユーグレナ摂取群において、0週と比較して6週、12週、24週で有意な上昇がみられた。図3に示されるように、変化量においてはユーグレナ摂取群において、プラセボ摂取群と比較して、6週、12週、24週で有意な上昇がみられた。 【0077】 【表6】 [図:0001429047000011.jpg] 【0078】 (結果の考察) BDNF(脳由来神経栄養因子)について、0週~6週、0週~12週の変化量で、プラセボ摂取群と比較して、ユーグレナ摂取群で有意な上昇傾向がみられ、0週~24週の変化量では有意な上昇がみられた(図1)。 【0079】 コグニトラックスについて、認知機能速度では、ユーグレナ摂取群において0週と比較して24週で有意な上昇傾向がみられ、0週~12週の変化量で、プラセボ摂取群と比較して、ユーグレナ摂取群で有意な上昇がみられた(図2A)。また、0週~24週でも有意な程ではないが、プラセボ摂取群と比較して、ユーグレナ摂取群で顕著な上昇がみられ、情報や物事を理解して応える時間が短くなることが期待される。 【0080】 また、運動速度では、0週~12週、0週~24週の変化量で、プラセボ摂取群と比較して、ユーグレナ摂取群で有意な上昇がみられた(図2B)。運動速度は、指たたきテストで左右各々の速度と指たたき回数を測定しているものであり、運動速度の向上が期待された。 【0081】 SF-36に関して、MH(心の健康)の項目でユーグレナ摂取群において6週、12週、24週で有意な改善が見られた。変化量においても0週~6週、7週~12週、13週~24週でプラセボ摂取群と比較してユーグレナ摂取群で有意な差がみられ(図3)、抑うつ効果が示唆された。 【0082】 以上の試験結果から、ユーグレナを24週間摂取することにより、認知機能の改善、運動速度の向上、抑うつ効果が奏されることが示された。つまり、ユーグレナが健康寿命の延伸、QOLの向上に貢献できる可能性が示唆された。特に、平均寿命と健康寿命の差異が男性よりも長い女性において、ユーグレナが健康寿命の延伸、QOLの向上に貢献できる可能性が示唆された。」 イ 甲9先願明細書等に記載された発明 甲9先願明細書等に記載された事項を、特に【請求項1】及び実施例に関して、整理すると、甲9先願明細書等には次の発明(以下、「甲9先願発明」という。)が記載されていると認める。 <甲9先願発明> 「ユーグレナを有効成分として含有する、年齢が50歳以上の女性の健常者を被験者とする、脳機能改善剤。」 (2)本件特許発明1について ア 対比 本件特許発明1と甲9先願発明を対比する。 甲9先願発明における「ユーグレナを有効成分として含有する」は本件特許発明1における「ユーグレナを含有する」に相当する。 甲9先願発明における「年齢が50歳以上の女性の健常者を被験者とする」は、本件特許発明1における「健常者を含む対象に適用するための」に相当する。 甲9先願発明における「脳機能改善剤」は本件特許発明1における「選択的注意力改善剤」と、「剤」という限りにおいて一致する。 そうすると、両者は次の点で一致する。 <一致点> 「ユーグレナを含有する、健常者を含む対象に適用するための、剤。」 そして、両者は次の点で相違又は一応相違する。 <相違点3> 「剤」に関し、本件特許発明1においては「選択的注意力改善剤」と特定されているのに対して、甲9先願発明においては「脳機能改善剤」と特定されている点。 イ 判断 相違点3について検討する。 本件特許発明1における「選択的注意力」とは、上記1(2)イのとおり、「様々な情報の中から自己にとって重要な情報を選び、そこへ注意を向ける能力」であり、関連する反応、行動、活動等の一部の例として「多くの人が会話している中で自分の名前を呼ばれて反応する。」、「多くの人が会話している中で特定の人物と会話ができる。」、「多くのファイルの中から自分に必要なファイルを探し出す。」、「多くの建物の中から自分の目的地である建物を見つけ出す。」、「旅行先で、目的地に関する標識や情報を見つける。」、「工事現場で危険を知らせる標識を見つける。」及び「本屋で知りたい情報の本を見つける。」が示されるものである。 他方、甲9先願発明における「脳機能」とは、甲9の【0029】によると、主に「認知機能」のことを意味し、「認知機能速度及び運動速度」が例示されるものである。 そうすると、本件特許発明1における「選択的注意力」は甲9先願発明における「脳機能」とは異なるものといえ、相違点3は実質的な相違点である。 また、「選択的注意力改善剤」という用途は、周知技術又は慣用技術であるとはいえないから、相違点3は課題解決のための具体化手段における微差(周知技術、慣用技術の付加、削除、転換等であって、新たな効果を奏するものではないもの)であるとはいえない。 ウ 特許異議申立人の主張について (ア)特許異議申立人の主張の概要 特許異議申立人は、特許異議申立書において、おおむね次のとおり主張する。 「甲第9号証の【0079】には、「コグニトラックスについて、認知機能速度では、ユーグレナ接取群において0週と比較して24週で有意な上昇傾向がみられ、0週~12週の変化量で、プラセボ摂取群と比較して、ユーグレナ摂取群で有意な上昇がみられた(図2A)。また、0週~24週でも有意な程ではないが、プラセボ摂取群と比較して、ユーグレナ摂取群で顕著な上昇がみられ、情報や物事を理解して応える時間が短くなることが期待される。」ことが記載されている。 ここで、甲第2号証(【0057】)、甲第3号証(【0018】、【0019】)、甲第4号証(【0030】)、甲第5号証(【0097】)に記載されているように、Cognitrax(コグニトラックス)のストループテスト(ST:Stroop Test)で、選択的注意力を評価できることは技術常識であった。 してみると、甲9発明で、Cognitrax(コグニトラックス)によって、ユーグレナ摂取群の認知機能速度が向上しているのであれば、ストループテストでもスコアが向上している蓋然性が高い。 ここで、用途発明とは、(i)ある物の未知の属性を発見し、(ii)この属性により、その物が新たな用途への使用に適することを見いだしたことに基づく発明をいう(特許・実用新案審査基準 第 III 部 第2章第4節 特定の表現を有する請求項等についての取扱い 3.物の用途を用いてその物を特定しようとする記載(用途限定)がある場合)が、本件特許発明の「選択的注意力改善」との用途は、上記技術常識を考慮すれば、甲9発明のユーグレナの持つ脳機能改善である認知機能速度の向上に対して、何ら新たな用途を提供したとは言えず、選択的注意力改善剤の用途についての相違点は実質的な相違点ではない。」(特許異議申立書第48及び49ページ) (イ)特許異議申立人の主張についての判断 特許異議申立人の上記主張について検討する。 「Cognitrax(コグニトラックス)というパソコンを用いた認知機能検査」に「ストループテスト」があり、「ストループテスト」により、選択的注意力を評価できることが技術常識であったとしても、「ストループテスト」は「Cognitrax(コグニトラックス)というパソコンを用いた認知機能検査」のうちの一つにすぎず(甲3の【0018】及び【0019】によると、少なくとも10種類のテストがある。)、甲9において行われた検査ではないし、「Cognitrax(コグニトラックス)というパソコンを用いた認知機能検査」中のテストは全て同様のスコアを示すという当業者の技術常識がある訳でもない。 したがって、甲9先願発明において、「コグニトラックスについて、認知機能速度では、ユーグレナ接取群において0週と比較して24週で有意な上昇傾向がみられ、0週~12週の変化量で、プラセボ摂取群と比較して、ユーグレナ摂取群で有意な上昇がみられた」ことを確認しているとしても、「ストループテスト」でも同様である蓋然性が高いとはいえない。 よって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。 エ まとめ したがって、本件特許発明1と甲9先願発明との間には実質的な相違点である相違点3があり、また、両者は実質同一であるともいえないから、本件特許発明1は甲9先願発明と同一であるとはいえない。 (3)本件特許発明2、4及び5について 本件特許発明2、4及び5はいずれも、請求項1の記載を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲9先願発明と同一であるとはいえない。 (4)申立理由3についてのむすび したがって、本件特許発明1、2、4及び5は、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項1、2、4及び5に係る特許は、同法同条の規定に違反してされたものであるとはいえず、同法第113条第2号に該当せず、申立理由3によっては取り消すことはできない。 4 申立理由4(サポート要件)について (1)サポート要件の判断基準 特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。 そこで、検討する。 (2)特許請求の範囲の記載 本件特許の特許請求の範囲の記載は上記第2のとおりである。 (3)発明の課題 発明の詳細な説明の【0001】ないし【0005】によると、本件特許発明1、2、4及び5の解決しようとする課題(以下、「発明の課題」という。)は「選択的注意力改善剤」を提供することである。 (4)発明の詳細な説明の記載 以下、発明の詳細な説明の主な記載を摘記する。下線は予め付されたものと当審で付したものである。 ア 発明の詳細な説明の【0006】には「本発明者は、上記課題に鑑みて鋭意研究した結果、ユーグレナ、パラミロン、パラミロン加工物、及びβ-1,3-グルカンからなる群より選択される少なくとも1種を含有する、高次脳機能改善剤、であれば、上記課題を解決できることを見出した。この知見に基づいてさらに研究を進めた結果、本発明が完成した。即ち、本発明は、下記の態様を包含する。 項1. ユーグレナ、パラミロン、パラミロン加工物、及びβ-1,3-グルカンからなる群より選択される少なくとも1種を含有する、高次脳機能改善剤. 項2. ユーグレナ、パラミロン、及びパラミロン加工物からなる群より選択される少なくとも1種を含有する、項1に記載の高次脳機能改善剤. 項3. 前記ユーグレナを含有し、且つ前記ユーグレナがユーグレナ・グラシリスである、項1又は2に記載の高次脳機能改善剤. 項4. 前記ユーグレナを含有し、且つ前記ユーグレナがユーグレナ・グラシリスEOD-1株(受託番号FERM BP-11530)である、項1又は2に記載の高次脳機能改善剤. 項5. 選択的注意力、及び空間作業記憶力からなる群より選択される少なくとも1種の改善に用いるための、項1~4のいずれかに記載の高次脳機能改善剤. 項6. 選択的注意力及び空間作業記憶力の改善に用いるための、項1~5のいずれかに記載の高次脳機能改善剤. 項7. 食品組成物、栄養補助食品、又は食品添加剤である、項1~6のいずれかに記載の高次脳機能改善剤. 項8. 経口組成物である、項1~7のいずれかに記載の高次脳機能改善剤. 項9. ユーグレナ、パラミロン、パラミロン加工物、及びβ-1,3-グルカンからなる群より選択される少なくとも1種を含有する、選択的注意力及び/又は空間作業記憶力の改善剤.」と記載されており、該記載中には、本件特許発明1、2、4及び5の発明特定事項のうち、「健常者を含む対象に適用するための」という発明特定事項以外の発明特定事項に対応する記載がある。 イ 発明の詳細な説明の【0011】には「1.ユーグレナ ユーグレナは、ミドリムシ属(=ユーグレナ属)に属する微細藻類であり、その限りにおいて特に制限されない。ユーグレナとして、具体的には、例えばEuglena gracilis(ユーグレナ・グラシリス)、Euglena longa、Euglena caudata、Euglena oxyuris、Euglena tripteris、Euglena proxima、Euglena viridis、Euglena sociabilis、Euglena ehrenbergii、Euglena deses、Euglena pisciformis、Euglena spirogyra、Euglena acus、Euglena geniculata、Euglena intermedia、Euglena mutabilis、Euglena sanguinea、Euglena stellata、Euglena terricola、Euglena klebsi、Euglena rubra、Euglena cyclopicolaなどが挙げられる。これらの中でも、本発明の効果をより確実に発揮できるという観点から、好ましくはユーグレナ・グラシリスが挙げられ、より好ましくはユーグレナ・グラシリスEOD-1株[2013年6月28日付で独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許生物寄託センター{NITE-IPOD(郵便番号292-0818 日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 120号室)}にブダペスト条約の規定下で、受託番号FERM BP-11530として国際寄託済み]が挙げられる。」と記載され、同【0012】には「ユーグレナの形態は、ユーグレナの細胞体又はその成分の大半を含むものである限り、特に制限されない。ユーグレナの形態としては、例えばユーグレナの乾燥粉末形態、ユーグレナの懸濁液、ユーグレナエキス等が挙げられ、中でも、好ましくはユーグレナの乾燥粉末形態が挙げられる。」と記載され、同【0013】には「ユーグレナの乾燥状態におけるパラミロン含有率は、例えば50%以上、好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上である。」と記載され、同【0014】には「ユーグレナは、1種単独であってもよいし、2種以上の組み合わせであってもよい。」と記載されている。 ウ 発明の詳細な説明の【0027】ないし【0032】には「3.ユーグレナ及びパラミロンの製造方法 ユーグレナは、液体に含まれたユーグレナを培養する工程(培養工程)を含む方法により、大量に調製することが可能である。・・・(略)・・・培養工程の後に、液体の遠心分離や重力分離などによってユーグレナを濃縮することが好ましい。得られたユーグレナは、所望の形態に応じて、追加の処理(例えば、液体への懸濁、水中又は油中への分散、エキス抽出、乾燥粉末化等)に供することができる。」と、ユーグレナの製造方法が記載されている。 エ 発明の詳細な説明の【0055】には「5.用途 ユーグレナ、パラミロン、パラミロン加工物、及びβ-1,3-グルカンからなる群より選択される少なくとも1種(以下、「本発明の有効成分」と示すこともある。)は、高次脳機能改善作用を有する。このため、本発明の有効成分は、高次脳機能改善のために用いることができる。」と記載され、同【0056】には「 なお、「改善」とは、症状又は状態の好転又は緩和、症状又は状態の悪化の防止又は遅延、症状又は状態の進行の逆転、防止又は遅延をいう。」と記載され、同【0057】には「 高次脳機能は、知覚、記憶、学習、思考、判断などの認知過程と行為を意味する脳機能である。本発明の有効成分は、高次脳機能の中でも、特に選択的注意力、空間作業記憶力等の改善に好適に使用することができる。本発明の有効成分は、好ましくは、疲労時の選択的注意力、空間作業記憶力等を改善することができる。」と記載され、同【0059】には「選択的注意力は、様々な情報の中から自己にとって重要な情報を選び、そこへ注意を向ける能力である。選択的注意力が関連している反応、行動、活動等の一部の例を以下に示す。 ・多くの人が会話している中で自分の名前を呼ばれて反応する。 ・多くの人が会話している中で特定の人物と会話ができる。 ・多くのファイルの中から自分に必要なファイルを探し出す。 ・多くの建物の中から自分の目的地である建物を見つけ出す。 ・旅行先で、目的地に関する標識や情報を見つける。 ・工事現場で危険を知らせる標識を見つける。 ・本屋で知りたい情報の本を見つける。」と記載されている。 オ 発明の詳細な説明の【0062】には「本発明の剤は、各種分野において、例えば食品組成物(健康食品、健康増進剤、栄養補助食品(サプリメントなど)を包含する)、食品添加剤、化粧品、化粧品添加剤、医薬、試薬、飼料などとして用いることができる。本発明の剤は、好ましくは経口組成物である。」と記載されている。 カ 発明の詳細な説明の【0070】には「本発明の剤の適用(例えば、投与、摂取、接種など)量は、高次脳機能改善作用を発現する有効量であれば特に限定されず、通常は、有効成分の乾燥重量として、一般に1日あたり0.1~10000 mg/kg体重である。上記適用量は1日1回以上(例えば1~3回)に分けて適用するのが好ましく、年齢、病態、症状により適宜増減することもできる。」と記載され、同【0071】には「本発明の好ましい一態様において、ユーグレナ適用量(乾燥重量)は、1日あたり、好ましくは100~1000mg、より好ましくは250~750mg、さらに好ましくは400~600mgである。適用は1日1回とすることが好ましく、また毎日適用することが好ましい。適用期間は、好ましくは3日間以上、より好ましくは1週間以上、さらに好ましくは2週間以上、よりさらに好ましくは3週間以上である。本発明の有効成分は天然由来であり安全性が高いので適用期間の上限は特に制限されないが、例えば3年間、1年間、6ヶ月間、3ヶ月間、又は2ヶ月間である。」と記載されている。 キ 発明の詳細な説明の【0073】ないし【0082】には、年齢が20歳以上65歳未満の健常男女である被験者を2群に割付け、「ユーグレナ・グラシリスEOD-1株」を含有する「試験食」を摂取させた群は「ユーグレナ・グラシリスEOD-1株」を含有しない対照食(プラセボ)を摂取させた群よりも選択的注意力が改善されていることを確認している旨の記載があり、該記載中には、本件特許発明1、2、4及び5の発明特定事項のうち、「健常者を含む対象に適用するための」という発明特定事項に対応する記載(同【0075】の「年齢が20歳以上65歳未満の健常男女」という記載)もある。 (5)サポート要件の判断 上記(4)ア及びキから、発明の詳細な説明には、本件特許発明1、2、4及び5に対応する記載があり、文言上、本件特許発明1、2、4及び5は発明の詳細な説明に記載されているといえる。 また、発明の詳細な説明の上記(4)の記載、特に発明の詳細な説明の【0073】ないし【0082】の「ユーグレナ・グラシリスEOD-1株」を含有する「試験食」を摂取させた群が「ユーグレナ・グラシリスEOD-1株」を含有しない対照食(プラセボ)を摂取させた群よりも選択的注意力が改善されていることを確認している旨の記載(上記(4)キ)及び同【0011】ないし【0014】の「ユーグレナ」の種類や形態等には特に制限がない旨の記載(上記(4)イ)から、当業者は、「ユーグレナを含有する選択的注意力改善剤」は発明の課題を解決できると認識できる。 そして、本件特許発明1、2、4及び5は当業者が発明の課題を解決できると認識できる上記「ユーグレナを含有する選択的注意力改善剤」をさらに限定したものである。 したがって、本件特許発明1、2、4及び5は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものである。 よって、本件特許発明1、2、4及び5に関して、特許請求の範囲の記載はサポート要件に適合する。 (6)特許異議申立人の主張について 特許異議申立人の上記第3 4における主張について検討する。 発明の詳細な説明の【0073】ないし【0082】において、「ユーグレナとしてパラミロン含有率が非常に高いユーグレナ・グランリスEOD-1株(独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許生物寄託センター(NITE-IPOD)の乾燥粉末(神鋼環境ソリューション製、パラミロン含有率70%以上)を用いた実施例でしか選択的注意力改善の作用が示されていない。」としても、同【0011】の「ユーグレナは、ミドリムシ属(=ユーグレナ属)に属する微細藻類であり、その限りにおいて特に制限されない。ユーグレナとして、具体的には、例えばEuglena gracilis(ユーグレナ・グラシリス)、Euglena longa、Euglena caudata、Euglena oxyuris、Euglena tripteris、Euglena proxima、Euglena viridis、Euglena sociabilis、Euglena ehrenbergii、Euglena deses、Euglena pisciformis、Euglena spirogyra、Euglena acus、Euglena geniculata、Euglena intermedia、Euglena mutabilis、Euglena sanguinea、Euglena stellata、Euglena terricola、Euglena klebsi、Euglena rubra、Euglena cyclopicolaなどが挙げられる。これらの中でも、本発明の効果をより確実に発揮できるという観点から、好ましくはユーグレナ・グラシリスが挙げられ、より好ましくはユーグレナ・グラシリスEOD-1株[2013年6月28日付で独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許生物寄託センター{NITE-IPOD(郵便番号292-0818 日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 120号室)}にブダペスト条約の規定下で、受託番号FERM BP-11530として国際寄託済み]が挙げられる。」という記載から、「選択的注意力改善」という効果をより確実に発揮できるという観点からは「ユーグレナ・グラシリスEOD-1株」が好ましいが、「ユーグレナ・グラシリスEOD-1株」以外の「ユーグレナ」でも多少は「選択的注意力改善」という効果を発揮できると当業者は理解する。 また、甲6及び8から、「ユーグレナとして用いる株が異なれば、特に含まれるパラミロンの含有率が異なれば、生理活性が異なることが技術常識である」といえたとしても、「ユーグレナ・グラシリスEOD-1株」以外の「ユーグレナ」では、「ユーグレナ・グラシリスEOD-1株」が奏する効果を全く奏さないということが当業者の技術常識であるとまではいえない。 他に、本件特許発明1、2、4及び5の発明特定事項を有するだけでは発明の課題を解決できないことを示す具体的な証拠が示されている訳でもない。 したがって、「請求項1に係る発明のように「ユーグレナ」について、何らその株、パラミロン含有量が特定されていない場合にも、選択的注意力改善の作用が発揮されることを合理的に推測することは困難である。」とはいえない。 よって、特許異議申立人の上記第3 4における主張は採用できない。 (7)申立理由4についてのむすび したがって、本件特許の請求項1、2、4及び5に係る特許はいずれも、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるとはいえないから、同法第113条第4号に該当せず、申立理由4によっては取り消すことはできない。 5 申立理由5(実施可能要件)について (1)実施可能要件の判断基準 上記第2のとおり、本件特許発明1、2、4及び5は物の発明であるところ、物の発明について実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を生産し、使用することができる程度の記載があることを要する。 そこで、検討する。 (2)実施可能要件の判断 発明の詳細な説明の記載は上記4(4)のとおりであり、発明の詳細な説明には、本件特許発明1、2、4及び5の各発明特定事項について具体的に記載され、本件特許発明1、2、4及び5の製造方法、本件特許発明1、2、4及び5を適用する際の適用量及び本件特許発明1、2、4及び5の実施例についても具体的に記載されている。 したがって、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、本件特許発明1、2、4及び5を生産し、使用することができる程度の記載があるといえる。 よって、本件特許発明1、2、4及び5に関して、発明の詳細な説明の記載は実施可能要件を充足する。 (3)特許異議申立人の主張について 特許異議申立人の上記第3 5における主張について検討する。 上記4(6)のとおり、「ユーグレナ・グラシリスEOD-1株」以外の「ユーグレナ」でも多少は「選択的注意力改善」という効果を発揮できると当業者は理解するし、「ユーグレナ・グラシリスEOD-1株」以外の「ユーグレナ」では、「ユーグレナ・グラシリスEOD-1株」が奏する効果を全く奏さないということが当業者の技術常識であるとまではいえない。 また、実施可能要件を充足するためには、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、本件特許発明1、2、4及び5を生産し、使用することができる程度の記載があれば十分であって、実施例と同様の選択的注意力改善の作用を発揮することができるユーグレナをどのようにして選択するかまでの記載が必要とされるものではない。 したがって、「実施例で用いられている・・・(略)・・・と同様の選択的注意力改善の作用を発揮することができるユーグレナを選択することは当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤が必要であるため、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない。」とはいえない。 よって、特許異議申立人の上記第3 5における主張は採用できない。 (4)申立理由5についてのむすび したがって、本件特許の請求項1、2、4及び5に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるとはいえないから、同法第113条第4号に該当せず、申立理由5によっては取り消すことはできない。 第5 結語 以上のとおり、本件特許の請求項1ないし5に係る特許は、特許異議申立書に記載した特許異議申立ての理由によっては取り消すことはできない。 また、他に本件特許の請求項1ないし5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2025-700748

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