特許異議申立
2025-700689
醤油様香が抑制された非アルコールビールテイスト飲料
- 審判番号
- 2025-700689
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2023-148434
- 登録番号
- 7608547
- 請求日
- 2025年07月04日
- 審決日
- 2025年09月10日
- 公報発行日
- 2025年10月31日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】キリンホールディングス株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人フィールズ国際特許事務所
- 【異議申立人】清水 将博
- 審判長/審判官
- 審判長 柴田 昌弘
- 審判官 天野 宏樹
- 審判官 中村 和正
- 分類
- P1651.113-Y (A23L) / P1651.121-Y (A23L) / P1651.4 -Y (A23L) / P1651.537-Y (A23L) / P1651.55 -Y (A23L)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法17条の2第3項特許法113条1号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第17条の2第3項、特許法第29条第2項、特許法第39条第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7608547号発明「醤油様香が抑制された非アルコールビールテイスト飲料」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7608547号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7608547号(以下「本件特許」という。)の請求項1ないし6に係る特許についての出願は、2023年(令和5年)7月31日(優先権主張 令和4年12月23日)を国際出願日とする特願2023-547400号の一部を令和5年9月13日に新たな特許出願としたものであって、令和6年12月20日にその特許権の設定登録(請求項の数6)がされ、令和7年1月6日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、同年7月4日に特許異議申立人 清水 将博(以下「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:全請求項)がされたものである。
第2 本件特許発明
本件特許の請求項1ないし6に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」のようにいう。)は、それぞれ、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
5-メチル-2-フルフラールの含有量が10ppb以上500ppb以下である非アルコールビールテイスト飲料であって、以下の条件:
(a)β-ユーデスモールの含有量が0.1ppb以上100ppb以下である;および
(b)カプリル酸の含有量が0.3ppm以上10ppm以下である、
の両方を満たし、脱アルコール麦汁発酵液を原料とする、非アルコールビールテイスト飲料(但し、高甘味度甘味料を含有する非アルコールビールテイスト飲料を除く)。
【請求項2】
アルコール(エタノール)濃度が0.005v/v%未満である、請求項1に記載の非アルコールビールテイスト飲料。
【請求項3】
5-メチル-2-フルフラールの含有量が10ppb以上500ppb以下である非アルコールビールテイスト飲料を製造する方法であって、前記非アルコールビールテイスト飲料が、以下の条件:
(a)β-ユーデスモールの含有量が0.1ppb以上100ppb以下である;および
(b)カプリル酸の含有量が0.3ppm以上10ppm以下である、
の両方を満たすように、β-ユーデスモールおよびカプリル酸の含有量を調整する工程、を含んでなり、前記非アルコールビールテイスト飲料が脱アルコール麦汁発酵液を原料とするものである、方法(但し、高甘味度甘味料を含有する非アルコールビールテイスト飲料の製造方法を除く)。
【請求項4】
前記非アルコールビールテイスト飲料のアルコール(エタノール)濃度が0.005v/v%未満である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
5-メチル-2-フルフラールの含有量が10ppb以上500ppb以下である非アルコールビールテイスト飲料における醤油様香を低減する方法であって、前記非アルコールビールテイスト飲料が、以下の条件:
(a)β-ユーデスモールの含有量が0.1ppb以上100ppb以下である;および
(b)カプリル酸の含有量が0.3ppm以上10ppm以下である、
の両方を満たすように、β-ユーデスモールおよびカプリル酸の含有量を調整する工程、を含んでなり、前記非アルコールビールテイスト飲料が脱アルコール麦汁発酵液を原料とするものである、方法(但し、高甘味度甘味料を含有する非アルコールビールテイスト飲料における醤油様香を低減する方法を除く)。
【請求項6】
前記非アルコールビールテイスト飲料のアルコール(エタノール)濃度が0.005v/v%未満である、請求項5に記載の方法。」
第3 特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要
令和7年7月4日に特許異議申立人が提出した特許異議申立書(以下「特許異議申立書」という。)に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。
1 申立理由1(甲第1号証に基づく進歩性)
本件特許発明1ないし6は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明に基づいて、本件特許の優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし6に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
2 申立理由2(甲第2号証に基づく新規性・進歩性)
本件特許発明1ないし6は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第2号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、甲第2号証に記載された発明に基づいて、本件特許の優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであって、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし6に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
3 申立理由3(甲第12号証に基づく同日出願)
本件特許発明1ないし6は、同日出願人が同日出願した下記の甲第12号証に係る出願の請求項1ないし6に係る発明と同一と認められ、かつ、当該出願に係る発明は特許されており協議をすることができず、特許法第39条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし6に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
4 申立理由4(サポート要件)
本件特許の請求項1ないし6に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
本件特許明細書において、β-ユーデスモールやカプリル酸が共存する環境でそれらの含有量を変えた場合に一方の成分が他方の成分の作用を阻害しないことはもちろん、β-ユーデスモールやカプリル酸が醤油様香を低減する機序も具体的に説明されていない。そうすると、表3に示された試験1~4の結果を考慮しても、β-ユーデスモールやカプリル酸が共存する環境でそれらの含有量を変えた場合に、試験区17と同程度に醤油香を低減できることを当業者は認識できない。したがって、本件特許発明1~6は、発明の詳細な説明に記載したものではない。
5 申立理由5(明確性要件)
本件特許の請求項1ないし6に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
(1)脱アルコール麦汁発酵液は明らかに製造方法の特徴として使用されており、本件特許発明1における「脱アルコール麦汁発酵液を原料とする」という記載は、麦汁を発酵させて得られた麦汁発酵液を脱アルコールして得られた原料から作られたことを意味すると認められる。したがって、「脱アルコール麦汁発酵液を原料とする」という記載を含む本件特許発明1は、「物の発明についての請求項にその物の製造方法が記載されている場合」(いわゆるプロダクト・バイ・プロセス・クレーム)に該当する。また、本件特許明細書の記載を考慮しても、「脱アルコール麦汁発酵液を原料とする」という記載が物としての「非アルコールビールテイスト飲料」のどのような構造又は特性を表しているのかは一義的に明らかではなく、それが明らかであるという技術常識もないため、結果的に「非アルコールビールテイスト飲料」の特徴を当業者は理解できない。したがって、本件特許発明1は明確でない。本件特許発明1の記載を引用する本件特許発明2も同様である。
(2)本件特許発明1には、単に「高甘味度甘味料」という記載があるだけで、それが、甲第16号証(【0015】)で定義される高甘味度甘味料と同じ意味を有するのかは不明である。仮に本件特許発明1における「高甘味度甘味料」が甲第16号証で定義される「ショ糖の数百倍から数千倍の高い甘味を有する甘味料」と同じ意味を有する場合であっても、「数百倍」や「数千倍」との記載は依然として不明確である。したがって、本件特許発明1は明確でない。本件特許発明2~6についても同様である。
6 申立理由6(新規事項)
本件特許の請求項1ないし6に係る特許は、下記の点で特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第1号に該当し取り消すべきものである。
本件特許発明1において「但し、高甘味度甘味料を含有する非アルコールビールテイスト飲料を除く」とする補正は、単に「高甘味度甘味料を含有する非アルコールビールテイスト飲料」を除外するものではなく、高甘味度甘味料を含有しない非アルコールビールテイスト飲料における醤油様香を低減するという発明の効果の主張と結び付けられており、一方で、このような高甘味度甘味料と発明の効果との関係性は、当初明細書等に記載されていないものである。つまり、「高甘味度甘味料を含有する非アルコールビールテイスト飲料」を除外することによって、当初明細書等に記載されていない新たな技術的意義を補正前の発明に追加している。したがって、上記補正は、当初明細書等に記載した事項との関係において新たな技術的事項を導入するものであり、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。本件特許発明2~6についても同様である。
7 証拠方法
甲第1号証:特開2017-209027号公報
甲第2号証:国際公開第2021/105521号
甲第3号証:Toru Kishimoto et al.、Analysis of Hop-Derived Terpenoids in Beer and Evaluation of Their Behavior Using the Stir Bar-Sorptive Extraction Method with GC-MS、J. Agric. Food Chem.、American Chemical Society、2005、Vol. 53、No. 12、p. 4701-4707
甲第4号証:冨士原義徳、ビールフレーバー、香料、日本香料協会、2004年9月、No. 223、p. 145-153
甲第5号証:醸造物の成分、財団法人日本醸造協会、平成11年12月10日、p. 236-241
甲第6号証:Kurt Varmuza et al.、Chemometric evaluation of concentration profiles from compounds relevant in beer ageing、Eur Food Res Technol、Springer-Verlag、2002年6月12日、Vol. 215、p. 235-239
甲第7号証:醸造物の成分、財団法人日本醸造協会、平成11年12月10日、p. 214-221
甲第8号証:醸造物の成分、財団法人日本醸造協会、平成11年12月10日、p. 476-501
甲第9号証:Stefan Coghe et al.、Sensory and Instrumental Flavour Analysis of Wort Brewed with Dark Specialty Malts、JOURNAL OF THE INSTITUTE OF BREWING、The Institute & Guild of Brewing、2004、Vol. 110、No. 2、p. 94-103
甲第10号証:特開2016-101102号公報
甲第11号証:上田哲哉、ビールの香味と香気成分について、香料、日本香料協会、2022年3月、No. 293、p. 53-66
甲第12号証:特許第7595180号公報
甲第13号証:荒井綜一他、最新香料の辞典(普及版)、株式会社朝倉書店、2013年5月25日(普及版第2刷)、p. 532-539
甲第14号証:山本信次、近年の甘味料の動向、[online]、一般社団法人東京顕微鏡院、2015年10月30日、URL:https://www.kenko-kenbi.or.jp/columns/food/1879/
甲第15号証:最近の合成甘味料事情、JFRLニュース、[online]、Japan Food Research Laboratories、Vol. 5、No. 20、2016年4月、URL:https://www.jfrl.or.jp/storage/file/news_vol5_no20.pdf
甲第16号証:特開2017-23017号公報
甲第17号証:意見書(特許出願2023-148434)
なお、証拠の表記は、特許異議申立書の記載におおむね従った。
第4 当審の判断
1 申立理由1(甲第1号証に基づく進歩性)について
(1)甲第1号証に記載された事項等
ア 甲第1号証に記載された事項
甲第1号証には、「ビールテイスト飲料およびその製造方法」に関して、おおむね次の事項が記載されている。
・「【請求項1】
β-ユーデスモールおよびホップ成分Aを含んでなるビールテイスト飲料であって、
該ホップ成分Aが該飲料に対して0.44%以上含有し、
該飲料中に含まれるβ-ユーデスモール/ホップ成分Aの比が60以下であり、
該ホップ成分Aが、ガスクロマトグラフ質量分析法(GC/MS法)により測定した場合に、内部標準物質ボルネオールのリテンションタイムに対し16~18分後の出現時間差を有するピークに対応する成分であり、該リテンションタイムで検出される96m/z、113m/z、および95m/zのレスポンス(高さ)が96m/z>113m/z>95m/zとなる、ビールテイスト飲料。」
・「【0001】
本発明は、ギャラクシー種ホップに特徴的な香気が強調されたビールテイスト飲料およびその製造方法に関する。」
・「【0013】
本発明において「ビールテイスト飲料」とは、通常にビールを製造した場合、すなわち、酵母等による発酵に基づいてビールを製造した場合に得られるビール特有の味わい、香りを有する飲料をいい、例えば、ビール、発泡酒、リキュール等の発酵麦芽飲料や、完全無アルコール麦芽飲料等の非発酵麦芽飲料が挙げられる。」
・「【0016】
本発明による飲料は麦芽飲料の形態で提供することができる。本発明において「麦芽飲料」とは、麦および/または麦芽から得られた麦汁を主体とする飲料を意味し、炭酸ガス等により清涼感が付与された麦芽清涼飲料も含まれるものとする。麦芽飲料としては、アルコール含量が0重量%である完全無アルコール麦芽飲料のような非発酵麦芽飲料や、アルコールを含有するアルコール含有麦芽飲料が挙げられる。このアルコール含有麦芽飲料としては、発酵して得られた発酵麦芽飲料とアルコールが添加された麦芽飲料が挙げられる。麦芽飲料としては、また、発酵して得られた発酵麦芽飲料からアルコール、その他の低沸点成分や低分子成分を除去して得られた非アルコール発酵麦芽飲料が挙げられる。」
・「【0023】
本発明のビールテイスト飲料において、β-ユーデスモール/ホップ成分Aの比が60以下であれば特に限定されるものではないが、好ましくは55以下であり、より好ましくは50以下であり、さらに好ましくは45以下である。また、β-ユーデスモールは、本発明のビールテイスト飲料に対して、少なくとも10ppb以上含まれることが好ましく、10~200ppb含まれることがより好ましい。」
・「【0028】
本発明のビールテイスト飲料が発酵麦芽飲料である場合には、少なくとも水、麦芽、およびホップを含んでなる発酵前液を発酵させることにより製造することができる。すなわち、麦芽、ホップ等の醸造原料から調製された麦汁(発酵前液)に発酵用ビール酵母を添加して発酵を行い、所望により発酵液を低温にて貯蔵した後、ろ過工程により酵母を除去することにより、本発明による発酵麦芽飲料を製造することができる。
【0029】
上記製造手順において麦汁の作製は常法に従って行うことができる。例えば、醸造原料と水の混合物を糖化し、濾過して、麦汁を得、その麦汁を煮沸し、煮沸した麦汁を冷却することにより麦汁を調製することができる。ホップは、麦汁を煮沸した後、あるいは麦汁を煮沸中に添加することができる。」
・「【0035】
本発明のビールテイスト飲料が発酵麦芽飲料である場合の製造方法では、ホップ、麦芽以外に、米、とうもろこし、こうりゃん、馬鈴薯、でんぷん、糖類(例えば、液糖)等の酒税法で定める副原料や、タンパク質分解物や酵母エキス等の窒素源、香料、色素、起泡・泡持ち向上剤、水質調整剤、発酵助成剤等のその他の添加物を醸造原料として使用することができる。また、未発芽の麦類(例えば、未発芽大麦(エキス化したものを含む)、未発芽小麦(エキス化したものを含む))を醸造原料として使用してもよい。得られた発酵麦芽飲料は、(i)減圧若しくは常圧で蒸留してアルコールおよび低沸点成分を除去するか、あるいは(ii)逆浸透(RO)膜にてアルコールおよび低分子成分を除去することによって、非アルコール発酵麦芽飲料とすることもできる。
【0036】
本発明の飲料が麦や麦芽を使用しないビールテイスト発酵飲料である場合には、発酵麦芽飲料の製造手順に準じて、少なくとも水およびホップを含んでなる発酵前液を発酵させることにより製造することができる。発酵前液には、水、ホップの他に炭素源(例えば、液糖などの糖類)、窒素源(例えば、タンパク質分解物や酵母エキスなどのアミノ酸供給源)を添加することができ、必要に応じて、香料、色素、起泡・泡持ち向上剤、水質調整剤、発酵助成剤等のその他の添加物等を添加することができる。得られたビールテイスト発酵飲料は、(i)減圧若しくは常圧で蒸留してアルコールおよび低沸点成分を除去するか、あるいは(ii)逆浸透(RO)膜にてアルコールおよび低分子成分を除去することによって、非アルコール・ビールテイスト発酵飲料とすることもできる。」
・「【0040】
異なる香気特徴を持ったホップ品種をブレンドした試験品の評価(1)
下記試験例1では、スパイシーでハーバルな香気を持つヘルスブルッカー種ホップ(産国:ドイツ)(Hopsteiner社)とパッションフルーツを思わせるフルーティーな香気(パッションフルーツ様の香気)を有するギャラクシー(産国:オーストラリア)(Hop Products Australia社)を用いて試験品を作成した。ホップの配合量は、表1の通りである。
具体的には、淡色麦芽(淡色麦芽:フランス、スフレ社)と水の混合物を、インフュージョン糖化法によって糖化し、糖度を15度に調整した仕込麦汁を調製し、煮沸した。煮沸後の麦汁を、90℃で60分間静置させた。静置後の麦汁を濾紙で濾過し、濾過後の麦汁を氷水で約12℃まで冷却した後、ホップ(ヘルスブルッカー種ホップおよびギャラクシー種ホップ)を加えた。冷却後の麦汁にビール酵母を添加し、1週間の主発酵及び14日間の後発酵を行った。その後、糖度が12度になるように炭酸水で希釈して、試験品(試験番号1~7)を作成した。
【0041】
下記試験例2では、ギャラクシー種ホップを単独で用いた以外は試験例1と同様に試験品(試験番号8~12)を作成した。ギャラクシー種ホップの配合量は、表2の通りである。
【0042】
下記試験例1および2の試験品(試験番号1~12)の官能評価は表3の通り4段階で行い、5名の訓練されたパネルにより行われた。
【0043】
【表1】
[図:0001428030000001.jpg]
【0044】
【表2】
[図:0001428030000002.jpg]
【0045】
【表3】
[図:0001428030000003.jpg]
【0046】
試験例1
試験番号4~7は、ヘルスブルッカー種ホップ(ヘルスブルッカー)を2.85g/Lから2.95g/L、ギャラクシー種ホップ(ギャラクシー)を0.15g/Lから0.05g/Lをブレンドしたものであり、ヘルスブルッカー種ホップのスパイシーなハーバル香の中でギャラクシー種ホップに特徴的なパッションフルーツを思わせるフルーティーな香りが強調されより好ましい香気を有した。
【0047】
試験番号3は、ヘルスブルッカー種ホップを2.97g/L、ギャラクシー種ホップを0.03g/Lをブレンドしたものであり、ヘルスブルッカー種ホップ単独の時とは違いフルーティーな香りが加わり、好ましい香気を有した。
【0048】
試験番号2は、ヘルスブルッカー種ホップを2.98g/L、ギャラクシー種ホップを0.02g/Lをブレンドしたものであるが、ヘルスブルッカー種ホップの単独使用とは異なりハーバル香の中にギャラクシー種ホップの香りがほのかに感じられ、やや好ましい香気を有した。
【0049】
試験番号1は、ヘルスブルッカー種ホップを2.99g/L、ギャラクシー種ホップを0.01g/Lブレンドしたものであるが、ヘルスブルッカー種ホップを単独で使用した時のような単調なハーバル香のままでギャラクシー種ホップの香りが感じられず好ましくない香気を有した。
【0050】
試験例2
試験例2においては、試験番号8~12はギャラクシー種ホップを0.01g/Lから0.15g/Lになるよう調整したサンプルであるが、ギャラクシー種ホップのパッションフルーツを思わせるフルーティーな香気はほのかにしか感じられず好ましい香気は得られなかった。特に試験例2の試験番号11および12ではギャラクシー種ホップの香りがほとんど感じられないのに対し、ギャラクシー種ホップの配合量がより少ない試験例1の試験番号4および5ではその特徴的な香りが感じられるという興味深い結果になった。
【0051】
試験例1および2の結果から、単調なハーバル香を持ったヘルスブルッカー種ホップに異なる香気特徴を持ったギャラクシー種ホップを加えると、その量が僅かでもギャラクシー種ホップの香りが強調され、より好ましい香気を生み出すことが出来ると分かった。
【0052】
試醸品の成分分析
上記表1の試験品(試験番号1~7)を分析し、好ましい香気を得るための指標成分の探索を行った。その結果、ギャラクシー種ホップはヘルスブルッカー種ホップにはない新規の成分(ホップ成分A)を含むことが分かった。ホップ成分Aはその特徴として、ガスクロマトグラフ質量分析法(GC/MS)により測定した場合に、内部標準物質ボルネオールのリテンションタイムに対し17分後の出現時間差を有しており、そのピークはオクタン酸(CAS番号:124-07-2)とデカン酸(CAS番号:334-48-5)の間に存在することが分かった。また、そのリテンションタイムで検出される96m/z、113m/z、および95m/zのレスポンス(高さ)が96m/z>113m/z>95m/zとなった。図1にホップ成分Aに関するスペクトルデータを示した。ガスクロマトグラフ質量分析法(GC/MS)の分析条件は下記の通りである。
カラム:キャピラリーカラム(商品名:HP-INNOWAX)(長さ60m、内径0.25mm、膜厚0.25μm)
オーブン温度:40℃、0.3分-3℃/分→240℃、20分間
キャリアガス:He、10psi定圧送気
トランスファーライン温度:240℃
MSイオンソース温度:230℃
MSQポール温度:150℃
フロント注入口温度:200℃
モニタリングイオン:以下の定量イオンに加え、ホップ成分Aについては113m/zおよび96m/zを成分同定イオンとして加える、
定量イオン:
・ボルネオール:m/z=110
・β-ユーデスモール:m/z=149
・リナロール:m/z=93
・ホップ成分A:m/z=95。
β-ユーデスモールとリナロールの濃度は、ppbを単位として算出した。飲料中のホップ成分Aの濃度は、添加した内部標準物質ボルネオールのイオン110m/zに対する定量イオン(95m/z)のレスポンス比率(%)を求め、この比率に基づいて飲料中のホップ成分Aの濃度を定量した。
【0053】
ホップ香気の全体の強度としてリナロール(Linalool)を指標とし、またヘルスブルッカー種ホップ特有の指標としてβ-ユーデスモール(β-Eudesmol)を選択し分析を行った。その結果を下記表4に示した。
【0054】
【表4】
[図:0001428030000004.jpg]
【0055】
試験番号1~7でギャラクシー種ホップの配合が増えるにつれて、ホップ成分Aの成分値は0.82%から1.73%に増加した。またホップ成分Aに対するリナロールの比率は152.23から71.39、β-ユーデスモールの比率は61.90から27.88に減少した。
【0056】
試験番号13~16は、使用するホップの配合量のみを変えて、試験番号1~7の試験品と同様に作成し、同様に官能評価と成分分析を行った。試験番号13~16の試験品の官能評価は表3の通り4段階で行い、5名の訓練されたパネルにより行った。」
イ 甲第1号証に記載された発明
甲第1号証に記載された事項を、特に【0040】及び【0056】並びに表4の試験番号3~7及び13~16に関して整理すると、甲第1号証には次の発明(以下、順に「甲1発明」「甲1製法発明」「甲1方法発明」という。)が記載されていると認める。
<甲1発明>
「淡色麦芽と水の混合物を、インフュージョン糖化法によって糖化し、糖度を15度に調整した仕込麦汁を調製し、煮沸し、煮沸後の麦汁を、90℃で60分間静置させ、静置後の麦汁を濾紙で濾過し、濾過後の麦汁を氷水で約12℃まで冷却した後、ホップを加え、冷却後の麦汁にビール酵母を添加し、1週間の主発酵及び14日間の後発酵を行った後、糖度が12度になるように炭酸水で希釈して作成した飲料であって、β-ユーデスモールの濃度が25.04~99.89ppbである、飲料。」
<甲1製法発明>
「淡色麦芽と水の混合物を、インフュージョン糖化法によって糖化し、糖度を15度に調整した仕込麦汁を調製し、煮沸し、煮沸後の麦汁を、90℃で60分間静置させ、静置後の麦汁を濾紙で濾過し、濾過後の麦汁を氷水で約12℃まで冷却した後、ホップを加え、冷却後の麦汁にビール酵母を添加し、1週間の主発酵及び14日間の後発酵を行った後、糖度が12度になるように炭酸水で希釈する工程を含む、β-ユーデスモールの濃度が25.04~99.89ppbである飲料を作成する方法。」
<甲1方法発明>
「淡色麦芽と水の混合物を、インフュージョン糖化法によって糖化し、糖度を15度に調整した仕込麦汁を調製し、煮沸し、煮沸後の麦汁を、90℃で60分間静置させ、静置後の麦汁を濾紙で濾過し、濾過後の麦汁を氷水で約12℃まで冷却した後、ホップを加え、冷却後の麦汁にビール酵母を添加し、1週間の主発酵及び14日間の後発酵を行った後、糖度が12度になるように炭酸水で希釈することで、β-ユーデスモールの濃度が25.04~99.89ppbである飲料におけるギャラクシー種ホップに特徴的な香気を強調する方法。」
(2)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明における「飲料」は、β-ユーデスモールの濃度が25.04~99.89ppbであるから、本件特許発明1における「β-ユーデスモールの含有量が0.1ppb以上100ppb以下である」という特定事項を満たす。
また、甲1発明は、麦汁にビール酵母を添加して発酵させたものを炭酸水で希釈して作成したものであるから、本件特許発明1と「麦汁発酵液を原料とする」及び「ビールテイスト飲料」という限りにおいて一致する。
そして、甲1発明は「高甘味度甘味料」を含んでいない。
すると、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「ビールテイスト飲料であって、以下の条件:
(a)β-ユーデスモールの含有量が0.1ppb以上100ppb以下である、
を満たし、麦汁発酵液を原料とする、ビールテイスト飲料(但し、高甘味度甘味料を含有する非アルコールビールテイスト飲料を除く)。」
そして、両者は次の点で相違する。
<相違点1>
本件特許発明1は、「5-メチル-2-フルフラールの含有量が10ppb以上500ppb以下」及び「(b)カプリル酸の含有量が0.3ppm以上10ppm以下」であり、「脱アルコール」麦汁発酵液を原料とする「非アルコール」ビールテイスト飲料とあるのに対して、甲1発明は、そのようには特定されていない点。
イ 判断
相違点1について検討する。
甲1発明は、脱アルコール化したものではないから、「脱アルコール」麦汁発酵液を原料とする「非アルコール」ビールテイスト飲料ではない。
そして、甲第1号証の【0016】には、甲第1号証記載の「飲料」として発酵麦芽飲料からアルコール、その他の低沸点成分や低分子成分を除去して得られた発酵麦芽飲料が例示されているものの、甲1発明においてアルコールを除去して非アルコール飲料とする際には、β-ユーデスモールやカプリル酸の含有量も変化するものと解され、その際にこれらの化合物の含有量を本件特許発明1の発明特定事項の範囲とすることの動機付けとなる記載は、甲第1号証及び他の証拠を見ても見いだすことができない。
してみると、甲1発明において、相違点1に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。
そして、本件特許発明1の奏する「非アルコールビールテイスト飲料において、5-メチル-2-フルフラールに起因する醤油様香を低減することが可能となる」(発明の詳細な説明の【0007】)という効果は、甲1発明並びに甲第1号証及び他の証拠に記載された事項からみて、本件特許発明1の構成から当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものである。
なお、特許異議申立人は、甲第6号証よりビールには5-メチル-2-フルフラールが11~55ppb程度の量で含まれ、甲第4及び5号証よりビールにはカプリル酸が1.46~6.3ppm程度の量で含まれていることが知られているから、甲1発明はそれらの濃度が本件特許発明1で特定される数値範囲内である蓋然性が高い旨主張するが、甲第4ないし6号証は、いずれも非アルコールビールテイスト飲料について示すものではなく、ビールにおける5-メチル-2-フルフラール又はカプリル酸の量を示したものであり、脱アルコール化した飲料が甲第4ないし6号証で示されるビールと同等の量の5-メチル-2-フルフラール又はカプリル酸を含むという技術常識もないことから、甲1発明におけるそれらの濃度が本件特許発明1で特定される数値範囲内である蓋然性が高いとはいえない。
また、特許異議申立人は、甲1発明において、原料の一部に脱アルコール麦汁発酵液を使用し、非アルコールビールテイスト飲料を採用することに格別の困難性はない旨主張するが、上記したとおり、甲1発明においてアルコールを除去して非アルコール飲料とする際には、β-ユーデスモールやカプリル酸の含有量も変化するものと解され、その際にこれらの化合物の含有量を本件特許発明1の発明特定事項の範囲とすることの動機付けとなる記載は、甲第1号証及び他の証拠を見ても見いだすことができない。
よって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。
ウ まとめ
したがって、本件特許発明1は、甲1発明並びに甲第1号証及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3)本件特許発明2について
本件特許発明2は、請求項1を引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、本件特許発明2は、甲1発明並びに甲第1号証及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(4)本件特許発明3について
本件特許発明3と甲1製法発明とを対比すると、両者は少なくとも上記(2)に記載した相違点1と実質的に同じ点で相違し、同様なことがいえるから、本件特許発明3は、甲1製法発明並びに甲第1号証及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(5)本件特許発明4について
本件特許発明4は、請求項3を引用して特定するものであり、本件特許発明3の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明3と同様に、本件特許発明4は、甲1製法発明並びに甲第1号証及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(6)本件特許発明5について
本件特許発明5と甲1方法発明とを対比すると、両者は少なくとも上記(2)に記載した相違点1と実質的に同じ点で相違し、同様なことがいえるから、本件特許発明5は、甲1方法発明並びに甲第1号証及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(7)本件特許発明6について
本件特許発明6は、請求項5を引用して特定するものであり、本件特許発明5の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明5と同様に、本件特許発明6は、甲1方法発明並びに甲第1号証及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(8)申立理由1についてのまとめ
上記(2)ないし(7)のとおり、本件特許の請求項1ないし6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではないから、同法第113条第2号に該当せず、申立理由1によっては取り消すことはできない。
2 申立理由2(甲第2号証に基づく新規性・進歩性)について
(1)甲第2号証に記載された事項等
ア 甲第2号証に記載された事項
甲第2号証には、「METHOD FOR THE REDUCTION OF AROMA LOSS DURING THE PRODUCTION OF ETHANOL-REDUCED AND ETHANOL-FREE BEVERAGES」に関して、おおむね次の事項が記載されている。なお、甲第2号証は外国語文献であるため、該当箇所の抄訳のみを示す。なお、抄訳は、特許異議申立書の記載をおおむね利用した。
・「本発明は、エタノールを減少させた飲料およびエタノール不含の飲料の製造の間のアロマ喪失を減少するための方法に関する。」(第1頁)
・「従って、本発明の発明者等は、エタノール含有飲料の熱による脱アルコール化(Thermal dealcolization)のための現在確立されている方法を改善し、脱アルコール化飲料製品中の芳香化合物(aromatic compounds)の著しく増加した最終含有量を達成するための方法を開発することに自らの課題を設定した。
この課題は、以下のステップを含む、エタノールを減少させた飲料およびエタノール不含の飲料の製造の間のアロマ喪失を減少するための方法により解決された:
(a)1~60体積%のエタノールを含有する飲料を、熱によるまたは膜をベースとする脱アルコール化プロセスにより脱アルコール化するステップ;
(b)脱アルコール化された飲料から、エタノール含有プロセス流を分離するステップ;
(c)(i)分離されたエタノール含有プロセス流を、凝縮器、少なくとも1つのストリッピングカラム、および引き続いて少なくとも1つの吸着体カラムに搬送するステップ、または
(ii)分離されたエタノール含有プロセス流を少なくとも1つの吸着体カラムに直接搬送するステップ;
ここで、エタノール含有プロセス流のエタノール含有画分は、前記の少なくとも1つの吸着体カラムに吸着される;
(d)残留プロセス流を前記の脱アルコール化された飲料ヘリサイクルするステップ。
本発明の方法は、優れた芳香フレーバープロファイルを有する脱アルコール化飲料を製造し、それによって、既存の熱によるまたは膜脱アルコール化プロセスの数十年間にわたって存在する問題を克服するだけでなく、エネルギー消被が低く、当該方法は連続的な様式で実施することができるので、費用効率が高く、工業的規模の製造に適している。さらに、本発明による方法は、既存の技術を変更する必要なしに、任意の既存の熱によるまたは膜脱アルコール化プロセスおよびプラントに組み入れることができる。さらに、分離されたエタノールは脱着させることができ、独立して使用/販売することができるので、顕著な体積損失は生じない。脱アルコール化飲料に追加的な水を添加する必要はなく、ガス流が連続的にリサイクルされ、再使用される。」(第1~2頁)
・「本発明の範囲内において、ステップ(a)における用語「飲料」(すなわち、脱アルコール化プロセスを受ける飲料)は、ビール、ワインおよびマッシュを含むものとして理解されるべきである。本発明の方法は、例えばストロングビール、ラガー、エール、ペールビール、小麦ビール、スタウト、ライスビール(rice beer)、酒、サイダー、白ワイン、赤ワイン、ロゼ、シードルおよびスパークリングワインとして当業者に公知の全ての種類のビールおよびワインに特に適しているが、任意の種類のスピリットにも適している。ステップ(a)において特に好適な飲料(すなわち、脱アルコール化プロセスを受ける飲料)は、1~60体積%のエタノール含有量を有し、例示的な濃度範囲は、1~50体積%、2~40体積%、2~30体積%、2~25体積%、および2.5~20体積%、ならびに3~15体積%のエタノール含有量である。ステップ(a)における(すなわち、脱アルコール化プロセスを受ける)飲料が、0.01~3.0mg/l mg/l、0.01~1mg/lまたは0.01~0.2mg/l未満の溶解酸素レベルを有することがさらにとりわけ好適である。低い酸素レベルは、飲料内の酸化反応によるフレーバー喪失および/または望ましくないフレーバー化合物の生成を防止し、このことは最終製品の優れたフレーバープロファイルにさらに寄与する。」(第2~3頁)
・「本発明における脱アルコール化は、10~100%、20~100%、30~100%または40~100%の、飲料の元のエタノール含有量のエタノール減少が達成されるまで実施される。飲料の元のエタノール含有量のエタノール減少はまた、40~99.9%、50~99.7%、60~99.8%、または70~99.5%のエタノール減少が達成されるまで実施することもできる。従って、特に好適な実施態様内において、脱アルコール化飲料のエタノール含有量は、0~20%、0~15体積%、0~5体積%、0~1体積%、0~0.7体積%、0~0.5体積%、0~0.05体積%の範囲から選択される。脱アルコール化飲料のエタノール含有量のさらなる適切な範囲は、0.01~7体積%、0.01~5体積%、0.01~2.5体積%、0.01~1.5体積%から選択される。」(第3~4頁)
・「用語「芳香化合物」は、以下の化合物のうちの少なくとも1種を指すと理解されるべきである:アセトアルデヒド、n-プロバノール、i-ブタノール、2-メチルブタノール、3-メチルブタノール、酢酸エチル、フェニルエタノール、3-メチルブタン酸、ヘキサン酸およびカプリル酸。」(第4頁)
・「本発明の方法が、上記で定義されるようなステップ(c)(ii)を実施することによって実施される場合、本発明の方法のステップ(d)内において、前記の少なくとも1つの吸着体カラムを出る残留気体プロセス流は、脱アルコール化された飲料中にリサイクルされる。本発明の方法のステップ(d)を実施することにより、最終製品のフレーバープロファイルが修復され、なぜなら技術水準の熱によるまたは膜脱アルコール化プロセスによって分離された芳香化合物は、脱アルコール化された飲料にリサイクルされ、帰着されるためであり、なぜならば、それらは前記の少なくとも1つの吸着体カラムの吸着体材料に吸着されないからである。「リサイクリング」は、本発明の方法のために適したものとして当業者がわかる任意の手段または方策によって実施することができる。代替の実施態様内では、前記の少なくとも1つの吸着体カラムを出る気体プロセス流は、脱アルコール化飲料にリサイクルされる前に凝縮される。
本発明の方法が、上記で定義されるようなステップ(c)(i)を実施することによって実施される場合、本発明の方法のステップ(d)内において、前記の少なくとも1つの吸着体カラムを出る残留気体プロセス流は、少なくとも1つのストリッピングカラムを経て脱アルコール化飲料中にリサイクルされる。この実施態様内では、前記の少なくとも1つの吸着体カラムを出る気体プロセス流は、少なくとも1つのストリッピングカラムを経て脱アルコール化飲料へ移される。この実施態様は、元々の飲料の芳香化合物の大部分だけでなく、最初に除去されたエタノールの一部分も特定の所望の含有量に至るまで最終製品に戻すことも可能にするため、最終製品のエタノール含有量が0.5~5体積%である場合、例えばライトビールまたはアルコール低減ワイン(alcohol-reduced wine)の場合に特に適している。本発明の方法のステップ(d)を実施することにより、最終製品のフレーバープロファイルが修復され、なぜなら技術水準の熱によるまたは膜脱アルコール化プロセスによって分離された芳香化合物は、脱アルコール化飲料にリサイクルされ、帰着されるためであり、なぜならば、それらは前記の少なくとも1つの吸着体カラムの吸着体材料に吸着されないからである。さらに、最終製品のエタノール含有量を正確に調節することができる。「リサイクリング」は、本発明の方法のために適したものとして当業者がわかる任意の手段または方策によって実施することができる。代替の実施態様内では、前記の少なくとも1つの吸着体カラムを出る気体プロセス流は、脱アルコール化飲料にリサイクルされる前に凝縮される。」(第9~10頁)
・「特定の実施態様A
以下のステップを含む、エタノールを減少させた飲料およびエタノール不含の飲料の製造の間のアロマ喪失を減少するための方法:
(a)1~20体積%のエタノールを含有するビールおよびワインから選択される飲料を、熱によるまたは膜をベースとする脱アルコール化プロセスにより脱アルコール化するステップ;
(b)脱アルコール化された飲料から、2~25体積%のエタノール含有量を有するエタノール含有プロセス流を分離するステップ、この際、前記エタノール含有プロセス流は、2~40体積%のエタノール、60~98体積%のH2Oおよび50~200mg/lの芳香化合物を含み、前記芳香化合物は、n-プロパノール、3-メチルブチルアセテート、2-メチル-1-プロバノール、イソブチル、イソアミルアセテート、アセトアルデヒド、エチルアセテート、i-ブタノール、2-メチルブタノール、3-メチルブタノール、フェニルエタノール、エチルホルメート(ethylformiate)、フェニルエチルアセテートおよびイソアミルアルコールからなる群から選択される;
(c)(i)分離されたエタノール含有プロセス流を、凝縮器、少なくとも1つのストリッピングカラム、および引き続いて少なくとも1つの吸着体カラムに搬送するステップ、この際、エタノール含有プロセス流のエタノール含有画分は、前記の少なくとも1つの吸着体カラムに吸着される;
(d)残留プロセス流を、予凝縮なしで、前記の脱アルコール化された飲料ヘリサイクルするステップ。
特定の実施態様B
以下のステップを含む、エタノールを減少させた飲料およびエタノール不含の飲料の製造の間のアロマ喪失を減少するための方法:
(a)1~20体積%のエタノールを含有するビールおよびワインから選択される飲料を、熱によるまたは膜をベースとする脱アルコール化プロセスにより脱アルコール化するステップ;
(b)脱アルコール化された飲料から、2~25体積%のエタノール含有量を有するエタノール含有プロセス流を分離するステップ、この際、前記エタノール含有プロセス流は、2~40体積%のエタノール、60~98体積%のH2Oおよび50~200mg/lの芳香化合物を含み、前記芳香化合物は、n-プロパノール、3-メチルブチルアセテート、2-メチル-1-プロパノール、イソプチル、イソアミルアセテート、アセトアルデヒド、エチルアセテート、i-ブタノール、2-メチルブタノール、3-メチルブタノール、フェニルエタノール、エチルホルメート(ethylformiate)、フェニルエチルアセテートおよびイソアミルアルコールからなる群から選択される;
(c)(ii)分離されたエタノール含有プロセス流を少なくとも1つの吸着体カラムに直接搬送するステップ;
この際、エタノール含有プロセス流のエタノール含有画分は、前記の少なくとも1つの吸着体カラムに吸着される;
(d)残留プロセス流を、予凝縮なしで、前記の脱アルコール化された飲料ヘリサイクルするステップ。
特定の実施態様C
以下のステップを含む、エタノールを減少させた飲料およびエタノール不含の飲料の製造の間のアロマ喪失を減少するための方法:
(a)1~20体積%のエタノールを含有するビールおよびワインから選択される飲料を、熱によるまたは膜をベースとする脱アルコール化プロセスにより脱アルコール化するステップ;
(b)脱アルコール化された飲料から、2~25体積%のエタノール含有量を有するエタノール含有プロセス流を分離するステップ、この際、前記エタノール含有プロセス流は、2~40体積%のエタノール、60~98体積%のH2Oおよび50~200mg/lの芳香化合物を含み、前記芳香化合物は、n-プロパノール、3-メチルブチルアセテート、2-メチル-1-プロパノール、イソブチル、イソアミルアセテート、アセトアルデヒド、エチルアセテート、i-ブタノール、2-メチルブタノール、3-メチルブタノール、フェニルエタノール、エチルホルメート(ethylformiate)、フェニルエチルアセテートおよびイソアミルアルコールからなる群から選択される;
(c)(i)分離されたエタノール含有プロセス流を、凝縮器、少なくとも1つのストリッピングカラム、および引き続いて少なくとも1つの吸着体カラムに搬送するステップ、この際、エタノール含有プロセス流のエタノール含有画分は、前記の少なくとも1つの吸着体カラムに吸着される;
(d)残留プロセス流を、予凝縮を伴って、前記の脱アルコール化された飲料ヘリサイクルするステップ。
特定の実施態様D
以下のステップを含む、エタノールを減少させた飲料およびエタノール不含の飲料の製造の間のアロマ喪失を減少するための方法:
(a)1~20体積%のエタノールを含有するビールおよびワインから選択される飲料を、熱によるまたは膜をベースとする脱アルコール化プロセスにより脱アルコール化するステップ;
(b)脱アルコール化された飲料から、2~25体積%のエタノール含有量を有するエタノール含有プロセス流を分離するステップ、この際、前記エタノール含有プロセス流は、2~40体積%のエタノール、60~98体積%のH2Oおよび50~200mg/lの芳香化合物を含み、前記芳香化合物は、n-プロパノール、3-メチルブチルアセテート、2-メチル-1-プロパノール、イソブチル、イソアミルアセテート、アセトアルデヒド、エチルアセテート、i-ブタノール、2-メチルブタノール、3-メチルブタノール、フェニルエタノール、エチルホルメート(ethylformiate)、フェニルエチルアセテートおよびイソアミルアルコールからなる群から選択される;
(c)(ii)分離されたエタノール含有プロセス流を少なくとも1つの吸着体カラムに直接搬送するステップ;この際、エタノール含有プロセス流のエタノール含有画分は、前記の少なくとも1つの吸着体カラムに吸着される;
(d)残留プロセス流を、予凝縮を伴って、前記の脱アルコール化された飲料ヘリサイクルするステップ。」(第11~14頁)
・「例3:芳香物質プロファイルの分析
図1に示すように、熱をベースとする脱アルコール化を行うと、脱アルコール化飲料およびエタノール含有プロセス流1が生成する。
飲料に元々含まれていた芳香化合物は、熱をベースとする脱アルコールプロセス中にエタノール含有プロセス流に移る。この移動は、図6に視覚化されている。そこには、飲料、ならびにそれに由来する脱アルコール化飲料およびエタノール含有プロセス流の、芳香化合物分布が示されている。以下の芳香化合物を、ガスクロマトグラフィー法(Gas Chromatography Headspace with FID Sampler)によって測定した。
アセトアルデヒド
n-プロパノール
i-ブタノール
2-メチルブタノール
3-メチルブタノール
酢酸エチル
フェニルエタノール
3-メチルブタン酸
ヘキサン酸
カプリル酸
図1に示すように、エタノール含有プロセス流はステップ(c)(i)に付される。ここで、芳香化合物を含有するエタノール含有プロセス流は、エタノール含有画分と、芳香化合物が蓄積される残留プロセス流とに分離される。芳香化合物の分布を図7に示す。芳香化合物「アセトアルデヒド」(これはオフフレーバーと考えられる)は、吸着体に吸着され、従ってエタノール含有画分中に蓄積する(図8)。
実験は以下の方法で行った:
1Lのエタノール含有プロセス流を、強化(15℃)容器に入れ、蟷動ポンプ(Watson Marlow,520DU)を用いることによって、ストリッピングカラム(直径60mm、高さ1400mm)中に、カラムの塔頂で2L/hの体積流量で搬送した。ストリッピングカラムを、充填材料(Teflonラシヒリング、直径6mm、高さ6mm、Sigma-Aldrich,Z243477)で充填した。向流で流れる不活性ガス流(N2、12L/分)を、ストリッピングカラムの塔底から塔頂へと搬送した。当該ストリッピングカラムを、1.013barの圧力および22℃の温度で使用した。不活性ガス流を吸着体カラムと接触させ、ストリッピングカラム中にリサイクルした。吸着のために、吸着体材料(Clariant,TZP9028;MFIゼオライト,SiO2/Al2O3モル比1000)で充填した3つの吸着体カラムを使用した。同時に2つのカラムを吸着のために使用し、1つのカラムを脱着のために使用した。吸着体カラムからのエタノールの脱着のために、不活性ガス流(N2、0.6L/分)を使用した。真空ポンプによって、吸着体カラム内の圧力を100mbarに低下させた。20分のサイクル時間の後、カラムはそれらの役割を変えた。72サイクルを実施した。
例3は、本発明の方法が、エタノール含有プロセス流からエタノールを選択的に分離するが、残留プロセス流内に芳香化合物を保持することを示す。図6および7は、技術水準の脱アルコール化プロセスによって飲料から分離される芳香化合物の大部分を、最終製品にリサイクルできることを示す。さらに、オフフレーバーであるアセトアルデヒドを著しく減少させることができる(図8)。」(第18~19頁)
・「リサイクルされるプロセス流(エタノール含有プロセス流または残留プロセス流)の量が多いほど、より多くの芳香化合物を最終飲料製品に再び移すことができる。」(第21頁)
・「特許請求の範囲
1.以下のステップを含む、エタノールを減少させた飲料およびエタノール不含の飲料の製造の間のアロマ喪失を減少するための方法:
(a)1~60体積%のエタノールを含有する飲料を、熱によるまたは膜をベースとする脱アルコール化プロセスにより脱アルコール化するステップ;
(b)脱アルコール化された飲料から、エタノール含有プロセス流を分離するステップ;
(c)(i)分離されたエタノール含有プロセス流を、凝縮器、少なくとも1つのストリッピングカラムに、および引き続いて少なくとも1つの吸着体カラムに搬送するステップ、または
(ii)分離されたエタノール含有プロセス流を少なくとも1つの吸着体カラムに直接搬送するステップ;
この際、エタノール含有プロセス流のエタノール含有画分は、前記の少なくとも1つの吸着体カラムに吸着される;
(d)残留プロセス流を前記の脱アルコール化された飲料ヘリサイクルするステップ。
2.前記の少なくとも1つの吸着体カラムの吸収体材料が、少なくとも200のSiO2/Al2O3モル比を有するMFIゼオライトおよび/またはシリカライトを含む、請求項1に記載の方法。
3.前記飲料が5~20℃の温度を有し、前記エタノール含有プロセス流が15~40℃の温度を有し、前記少なくとも1つの吸着体カラム内の温度が20~65℃である、請求項1または2に記載の方法。
4.ステップ(c)(i)または(ii)における吸着が、0.5~2barの圧力で行われる、請求項1~3のいずれか1つに記載の方法。
5.ステップ(c)のエタノール含有プロセス流の搬送が、50~950(L/時)/吸着体体積Lの流量で実施される、請求項1~4のいずれか1つに記載の方法。
6.ステップ(a)が二段階ステップとして実施され、プロセス流1が得られ、これは方法ステップ(b)~(d)に付されるエタノール含有プロセスステップであり、プロセス流2が得られ、これは廃棄される、請求項1~5のいずれか1つに記載の方法。
7.プロセス流2に対するプロセス流1の体積比が0.01~1の範囲から選択される、請求項6に記載の方法。
8.前記の脱アルコール化された飲料に対する前記エタノール含有プロセス流の比が、5~20体積%の範囲から選択される、請求項1~7のいずれか1つに記載の方法。
9.前記エタノール含有プロセス流が、10~90体積%のエタノール、10~90体積%のH2Oおよび50~200mg/lの芳香化合物を含有する、請求項1~8のいずれか1つに記載の方法。
10.ステップ(a)における前記飲料の溶存酸素レベルが、0.01~3.0mg/lの範囲から選択される、請求項1~9のいずれか1つに記載の方法。
11.ステップ(c)が少なくとも1回繰り返される、請求項1~10のいずれか1つに記載の方法。
12.ステップ(c)および(b)が少なくとも1回繰り返される、請求項1~11のいずれか1つに記載の方法。」(第24~25頁)
イ 甲第2号証に記載された発明
甲第2号証に記載された事項を、特に請求項1に関して整理すると、甲第2号証には次の発明(以下、順に「甲2発明」「甲2製法発明」「甲2方法発明」という。)が記載されていると認める。
<甲2発明>
「以下のステップを含む、エタノール不含の飲料の製造の間のアロマ喪失を減少するための方法により製造された飲料:
(a)1~60体積%のエタノールを含有する飲料を、熱によるまたは膜をベースとする脱アルコール化プロセスにより脱アルコール化するステップ;
(b)脱アルコール化された飲料から、エタノール含有プロセス流を分離するステップ;
(c)(i)分離されたエタノール含有プロセス流を、凝縮器、少なくとも1つのストリッピングカラムに、および引き続いて少なくとも1つの吸着体カラムに搬送するステップ、または
(ii)分離されたエタノール含有プロセス流を少なくとも1つの吸着体カラムに直接搬送するステップ;
この際、エタノール含有プロセス流のエタノール含有画分は、前記の少なくとも1つの吸着体カラムに吸着される;
(d)残留プロセス流を前記の脱アルコール化された飲料ヘリサイクルするステップ。」
<甲2製法発明>
「以下のステップを含む、エタノール不含の飲料の製造の間のアロマ喪失を減少するための方法により飲料を製造する方法:
(a)1~60体積%のエタノールを含有する飲料を、熱によるまたは膜をベースとする脱アルコール化プロセスにより脱アルコール化するステップ;
(b)脱アルコール化された飲料から、エタノール含有プロセス流を分離するステップ;
(c)(i)分離されたエタノール含有プロセス流を、凝縮器、少なくとも1つのストリッピングカラムに、および引き続いて少なくとも1つの吸着体カラムに搬送するステップ、または
(ii)分離されたエタノール含有プロセス流を少なくとも1つの吸着体カラムに直接搬送するステップ;
この際、エタノール含有プロセス流のエタノール含有画分は、前記の少なくとも1つの吸着体カラムに吸着される;
(d)残留プロセス流を前記の脱アルコール化された飲料ヘリサイクルするステップ。」
<甲2方法発明>
「以下のステップを含む、エタノール不含の飲料の製造の間のアロマ喪失を減少するための方法:
(a)1~60体積%のエタノールを含有する飲料を、熱によるまたは膜をベースとする脱アルコール化プロセスにより脱アルコール化するステップ;
(b)脱アルコール化された飲料から、エタノール含有プロセス流を分離するステップ;
(c)(i)分離されたエタノール含有プロセス流を、凝縮器、少なくとも1つのストリッピングカラムに、および引き続いて少なくとも1つの吸着体カラムに搬送するステップ、または
(ii)分離されたエタノール含有プロセス流を少なくとも1つの吸着体カラムに直接搬送するステップ;
この際、エタノール含有プロセス流のエタノール含有画分は、前記の少なくとも1つの吸着体カラムに吸着される;
(d)残留プロセス流を前記の脱アルコール化された飲料ヘリサイクルするステップ。」
(2)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲2発明とを対比する。
甲2発明における「飲料」は、(a)の脱アルコール化するステップを含む方法で製造されたものであるから、本件特許発明1における「脱アルコール」「液を原料とする」「飲料」という特定事項を満たす。
そして、甲2発明は「高甘味度甘味料」を含んでいない。
すると、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「脱アルコール液を原料とする、飲料(但し、高甘味度甘味料を含有する非アルコールビールテイスト飲料を除く)。」
そして、両者は次の点で相違する。
<相違点2>
本件特許発明1は、「5-メチル-2-フルフラールの含有量が10ppb以上500ppb以下である非アルコールビールテイスト飲料であって、
以下の条件:
(a)β-ユーデスモールの含有量が0.1ppb以上100ppb以下である;および
(b)カプリル酸の含有量が0.3ppm以上10ppm以下である、
の両方を満たし、」「麦汁発酵液を原料とする非アルコールビールテイスト飲料」とあるのに対して、甲2発明は、そのようには特定されていない点。
イ 判断
相違点2について検討する。
甲2発明における飲料は、「ビール、ワインおよびマッシュを含むもの」(甲第2号証の第2~3頁)であり、「麦汁発酵液を原料とする非アルコールビールテイスト飲料」に特定されていない。
したがって、相違点2は実質的な相違点であり、本件特許発明1は甲2発明ではない。
また、甲第2号証及び他の証拠には、甲2発明において相違点2に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することの動機付けとなる記載はない。
してみると、甲2発明において、相違点2に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。
そして、本件特許発明1の奏する「非アルコールビールテイスト飲料において、5-メチル-2-フルフラールに起因する醤油様香を低減することが可能となる」(発明の詳細な説明の【0007】)という効果は、甲2発明並びに甲第2号証及び他の証拠に記載された事項からみて、本件特許発明2の構成から当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものである。
なお、特許異議申立人は、甲第6号証よりビールには5-メチル-2-フルフラールが11~55ppb程度の量で含まれ、甲第3号証よりビールにはβ-ユーデスモールが0.5~17.5ppb程度の量で含まれ、甲第4及び5号証よりビールにはカプリル酸が1.46~6.3ppm程度の量で含まれていることが知られているから、甲2発明におけるそれらの濃度は本件特許発明1で特定される数値範囲内である蓋然性が高い旨主張するが、甲第3ないし6号証は、いずれも非アルコールビールテイスト飲料について示すものではなく、ビールにおける5-メチル-2-フルフラール、β-ユーデスモール又はカプリル酸の量を示したものであり、甲2発明における飲料は、上記したとおり、「麦汁発酵液を原料とする非アルコールビールテイスト飲料」を特定するものではないから、当該飲料がアロマ喪失を減少するための方法により製造されたとしても、甲第3ないし6号証で示されるビールと同等の量の5-メチル-2-フルフラール、β-ユーデスモール又はカプリル酸を含むとは限らないことから、甲2発明は本件特許発明1で特定される数値範囲内である蓋然性が高いとはいえない。
よって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。
ウ まとめ
したがって、本件特許発明1は、甲2発明であるとはいえないし、甲2発明並びに甲第2号証及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3)本件特許発明2について
本件特許発明2は、請求項1を引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、本件特許発明2は、甲2発明であるとはいえないし、甲2発明並びに甲第2号証及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(4)本件特許発明3について
本件特許発明3と甲2製法発明とを対比すると、両者は少なくとも上記(2)に記載した相違点2と実質的に同じ点で相違し、同様なことがいえるから、本件特許発明3は、甲2製法発明であるとはいえないし、甲2製法発明並びに甲第2号証及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(5)本件特許発明4について
本件特許発明4は、請求項3を引用して特定するものであり、本件特許発明3の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明3と同様に、本件特許発明4は、甲2製法発明であるとはいえないし、甲2製法発明並びに甲第2号証及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(6)本件特許発明5について
本件特許発明5と甲2方法発明とを対比すると、両者は少なくとも上記(2)に記載した相違点2と実質的に同じ点で相違し、同様なことがいえるから、本件特許発明5は、甲2方法発明であるとはいえないし、甲2方法発明並びに甲第2号証及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(7)本件特許発明6について
本件特許発明6は、請求項5を引用して特定するものであり、本件特許発明5の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明5と同様に、本件特許発明6は、甲2方法発明であるとはいえないし、甲2方法発明並びに甲第2号証及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(8)申立理由2についてのまとめ
上記(2)ないし(7)のとおり、本件特許の請求項1ないし6に係る特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものではないから、同法第113条第2号に該当せず、申立理由2によっては取り消すことはできない。
3 申立理由3(甲第12号証に基づく同日出願)について
(1)甲第12号証における特許請求の範囲の記載
本件特許に係る出願と同日に出願された特願2023-547400号(特許第7595180号:甲第12号証)の請求項1ないし6に係る発明(以下、順に「同日出願発明1」のようにいう。)は、設定登録時の特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「【請求項1】
5-メチル-2-フルフラールの含有量が10ppb以上500ppb以下である非アルコールビールテイスト飲料であって、以下の条件:
(a)β-ユーデスモールの含有量が0.1ppb以上100ppb以下である;および(b)カプリル酸の含有量が0.3ppm以上10ppm以下である、
の両方を満たし、脱アルコール麦汁発酵液を原料とする、非アルコールビールテイスト飲料。
【請求項2】
アルコール(エタノール)濃度が0.005v/v%未満である、請求項1に記載の非アルコールビールテイスト飲料。
【請求項3】
5-メチル-2-フルフラールの含有量が10ppb以上500ppb以下である非アルコールビールテイスト飲料を製造する方法であって、前記非アルコールビールテイスト飲料が、以下の条件:
(a)β-ユーデスモールの含有量が0.1ppb以上100ppb以下である;および(b)カプリル酸の含有量が0.3ppm以上10ppm以下である、
の両方を満たすように、β-ユーデスモールおよびカプリル酸の含有量を調整する工程、を含んでなり、前記非アルコールビールテイスト飲料が脱アルコール麦汁発酵液を原料とするものである、方法。
【請求項4】
前記非アルコールビールテイスト飲料のアルコール(エタノール)濃度が0.005v/v%未満である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
5-メチル-2-フルフラールの含有量が10ppb以上500ppb以下である非アルコールビールテイスト飲料における醤油様香を低減する方法であって、前記非アルコールビールテイスト飲料が、以下の条件:
(a)β-ユーデスモールの含有量が0.1ppb以上100ppb以下である;および(b)カプリル酸の含有量が0.3ppm以上10ppm以下である、
の両方を満たすように、β-ユーデスモールおよびカプリル酸の含有量を調整する工程、を含んでなり、前記非アルコールビールテイスト飲料が脱アルコール麦汁発酵液を原料とするものである、方法。
【請求項6】
前記非アルコールビールテイスト飲料のアルコール(エタノール)濃度が0.005v/v%未満である、請求項5に記載の方法。」
(2)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と同日出願発明1とを対比すると、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「5-メチル-2-フルフラールの含有量が10ppb以上500ppb以下である非アルコールビールテイスト飲料であって、以下の条件:
(a)β-ユーデスモールの含有量が0.1ppb以上100ppb以下である;および(b)カプリル酸の含有量が0.3ppm以上10ppm以下である、
の両方を満たし、脱アルコール麦汁発酵液を原料とする、非アルコールビールテイスト飲料。」
そして、両者は次の点で相違する。
<相違点3>
本件特許発明1は、「非アルコールビールテイスト飲料」から「但し、高甘味度甘味料を含有する非アルコールビールテイスト飲料を除く」と特定するのに対して、同日出願発明1は、そのようには特定されていない点。
イ 判断
相違点3について検討する。
相違点3は、課題解決のための具体化手段における微差であるとはいえないし、同日出願発明1の発明特定事項を本件特許発明1において上位概念として表現したことによる差異であるともいえないし、単なるカテゴリー表現上の差違であるともいえない。
ウ まとめ
したがって、本件特許発明1は同日出願発明1と同一であるとはいえない。
また、同様に、本件特許発明1は同日出願発明2ないし6と同一であるとはいえない。
(3)本件特許発明2について
本件特許発明2は、請求項1を引用して特定するものであるから、「高甘味度甘味料を含有する非アルコールビールテイスト飲料を除く」という発明特定事項を有しているのに対し、同日出願発明2は上記発明特定事項を有していない。
したがって、本件特許発明2は本件特許発明1と同様の理由により同日出願発明2と同一であるとはいえない。
また、同様に、本件特許発明2は同日出願発明1及び3ないし6と同一であるとはいえない。
(4)本件特許発明3について
本件特許発明3と同日出願発明3とを対比すると、上記(2)と同様なことがいえるから、本件特許発明3は、同日出願発明3と同一であるとはいえない。
また、同様に、本件特許発明3は同日出願発明1、2及び4ないし6と同一であるとはいえない。
(5)本件特許発明4について
本件特許発明4は、請求項3を引用して特定するものであるから、「高甘味度甘味料を含有する非アルコールビールテイスト飲料の製造方法を除く」という発明特定事項を有しているのに対し、同日出願発明4は上記発明特定事項を有していない。
したがって、本件特許発明4は本件特許発明3と同様の理由により同日出願発明4と同一であるとはいえない。
また、同様に、本件特許発明4は同日出願発明1ないし3、5及び6と同一であるとはいえない。
(6)本件特許発明5について
本件特許発明5と同日出願発明5とを対比すると、上記(2)(4)と同様なことがいえるから、本件特許発明5は、同日出願発明5と同一であるとはいえない。
また、同様に、本件特許発明5は同日出願発明1ないし4及び6と同一であるとはいえない。
(7)本件特許発明6について
本件特許発明6は、請求項5を引用して特定するものであるから、「高甘味度甘味料を含有する非アルコールビールテイスト飲料における醤油様香を低減する方法を除く」という発明特定事項を有しているのに対し、同日出願発明6は上記発明特定事項を有していない。
したがって、本件特許発明6は本件特許発明5と同様の理由により同日出願発明6と同一であるとはいえない。
また、同様に、本件特許発明6は同日出願発明1ないし5と同一であるとはいえない。
(8)申立理由3についてのまとめ
上記(2)ないし(7)のとおり、本件特許の請求項1ないし6に係る特許は、特許法第39条第2項の規定に違反してされたものではないから、同法第113条第2号に該当せず、申立理由3によっては取り消すことはできない。
4 申立理由4(サポート要件)について
(1)サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
そこで、検討する。
(2)サポート要件の判断
本件特許の特許請求の範囲の記載は上記第2のとおりである。
発明の詳細な説明の【0005】によると、本件特許発明1ないし6の解決しようとする課題(以下「発明の課題」という。)は、「醤油様香が低減された非アルコールビールテイスト飲料およびその製造方法を提供する」ことである。
そして、発明の詳細な説明の【0006】には「(1)5-メチル-2-フルフラールの含有量が10ppb以上である非アルコールビールテイスト飲料であって、以下の条件:
(a)β-ユーデスモールの含有量が0.1ppb以上である;および
(b)カプリル酸の含有量が0.3ppm以上である、
のいずれかを満たす、非アルコールビールテイスト飲料。
・・・
(6)5-メチル-2-フルフラールの含有量を10ppb以上である非アルコールビールテイスト飲料を製造する方法であって、前記非アルコールビールテイスト飲料が、以下の条件:
(a)β-ユーデスモールの含有量が0.1ppb以上である;および
(b)カプリル酸の含有量が0.3ppm以上である、
のいずれかを満たすように、β-ユーデスモールおよび/またはカプリル酸の含有量を調整する工程、を含んでなる、方法。
・・・
(8)5-メチル-2-フルフラールの含有量を10ppb以上である非アルコールビールテイスト飲料における醤油様香を低減する方法であって、前記非アルコールビールテイスト飲料が、以下の条件:
(a)β-ユーデスモールの含有量が0.1ppb以上である;および
(b)カプリル酸の含有量が0.3ppm以上である、
のいずれかを満たすように、β-ユーデスモールおよび/またはカプリル酸の含有量を調整する工程、を含んでなる、方法。」と記載され、【0009】には「非アルコールビールテイスト飲料のアルコール濃度は・・・さらにこの好ましくは0.005%(v/v)未満」と、【0011】には「本発明の非アルコールビールテイスト飲料における5-メチル-2-フルフラールの含有量は、10ppb以上・・・5-メチル-2-フルフラール含有量の上限値は・・・好ましくは500ppb」と、【0012】には「β-ユーデスモールの含有量が0.1ppb以上・・・さらに好ましくは100ppb以下」及び「カプリル酸の含有量が0.3ppm以上・・・さらに好ましくは10ppm以下」と、【0018】には「本発明の非アルコールビールテイスト飲料では・・・甘味料(例えば、高甘味度甘味料)・・・などを原料として使用することができる」と記載され、本件特許発明1ないし6に対応する記載がある。
さらに、発明の詳細な説明の【0023】ないし【0036】には本件特許発明の実施形態について説明があり、試験1の結果から、5-メチル-2-フルフラールの含有量が10ppb以上になると醤油様香が強く感じられることが読み取れ、試験2の結果から、5-メチル-2-フルフラールによる醤油様香が強く感じられる非アルコールビールテイスト飲料において、β-ユーデスモールの含有量を0.1ppb以上に調整すると、醤油様香が顕著に低減されることが読み取れ、試験3の結果から、5-メチル-2-フルフラールによる醤油様香が強く感じられる非アルコールビールテイスト飲料において、カプリル酸の含有量を0.3ppm以上に調整すると、醤油様香が顕著に低減されることが読み取れる。そして、【0007】には本件特許発明による発明の効果が記載されている。
そうすると、当業者は、「5-メチル-2-フルフラールの含有量が10ppb以上である非アルコールビールテイスト飲料であって、以下の条件:
(a)β-ユーデスモールの含有量が0.1ppb以上である;および
(b)カプリル酸の含有量が0.3ppm以上である、
のいずれかを満たす、非アルコールビールテイスト飲料」、「該非アルコールビールテイスト飲料を製造する方法」及び「該非アルコールビールテイスト飲料における醤油様香を低減する方法」は、発明の課題を解決できると当業者は認識できる。
そして、本件特許発明1ないし6は、上記の発明の課題を解決できると認識できる全ての特定事項を有し、さらに限定するものであるから、当然、発明の課題を解決できると当業者は認識できる。
したがって、本件特許発明1ないし6は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。
よって、本件特許発明1ないし6に関して、特許請求の範囲の記載はサポート要件に適合する。
(3)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、上記第3 4のとおり主張するが、5-メチル-2-フルフラール含有量が100ppb、β-ユーデスモール含有量が0.1ppbである試験区9及び5-メチル-2-フルフラール含有量が100ppb、カプリル酸含有量が0.3ppmである試験区13と比べて、5-メチル-2-フルフラール含有量が100ppb、β-ユーデスモール含有量が0.1ppb及びカプリル酸含有量が0.3ppmである試験区16の方が醤油様香が顕著に低減されているから、5-メチル-2-フルフラールに起因する醤油様香を低減するβ-ユーデスモール及びカプリル酸の作用は互いに阻害し合うことがないことが読み取れる。また、試験2の試験区4、8~11及び試験3の試験区4、12~15の結果から、β-ユーデスモール及びカプリル酸含有量を増やせば5-メチル-2-フルフラールに起因する醤油様香の強さがそれに応じて抑制されることが読み取れるから、試験区16における5-メチル-2-フルフラールの濃度を500ppbに増やした場合であっても、β-ユーデスモール及びカプリル酸の含有量も増量することにより醤油様香を抑制できると理解することができる。そして、ベース飲料サンプルAについての試験区16とベース飲料サンプルBについての試験区17は同様の結果を示していることから、ベース飲料サンプルAに代えて麦汁発酵液を脱アルコールしたベース飲料サンプルBを用いる場合においても、ベース飲料サンプルAと同様の作用効果が得られるものと当業者は理解することができる。
よって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。
(4)申立理由4(サポート要件)についてのまとめ
本件特許の請求項1ないし6に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしている特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当せず、申立理由4によっては取り消すことはできない。
5 申立理由5(明確性要件)について
(1)明確性要件の判断基準
特許を受けようとする発明が明確であるかは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。
そこで、検討する。
(2)明確性要件の判断
本件特許の請求項1ないし6の記載は、上記第2のとおりであり、それ自体に不明確な記載はなく、また、発明の詳細な説明の記載とも整合している。
したがって、本件特許発明1ないし6に関して、特許請求の範囲の記載は、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえない。
よって、本件特許発明1ないし6は明確である。
(3)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、上記第3 5のとおり主張するが、発明の詳細な説明には、「本発明の非アルコールビールテイスト飲料には、本発明の効果を妨げない範囲でその他の原料を配合してもよい。すなわち、本発明の非アルコールビールテイスト飲料では、・・・甘味料(例えば、高甘味度甘味料)・・・などを原料として使用することができる」こと(【0018】)、「ビール等の発酵麦芽飲料を製造した後、得られた発酵麦芽飲料からアルコールを除去する方法も挙げられる。飲料からアルコールを除去する方法としては、(i)減圧若しくは常圧で蒸留してアルコールおよび低沸点成分を除去する方法、および(ii)逆浸透(RO)膜にてアルコールおよび低分子成分を除去する方法、および(iii)揮発成分を遠心力を使用しながら蒸気に吸着させて除去する方法が挙げられる」こと(【0021】)、実施例において「脱アルコール麦汁発酵液」を得ること(【0025】)が記載されており、これらの記載も含め、本件特許明細書等の記載を考慮し、また、当業者の出願当時における技術常識を基礎とすれば、「高甘味度甘味料」及び「脱アルコール麦汁発酵液」の意味するところは明確であるし、「脱アルコール麦汁発酵液を原料とする」という記載は製造方法による特定とまではいえないから、本件特許発明1ないし6に関しては、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえない。
よって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。
(4)申立理由5(明確性要件)についてのまとめ
本件特許の請求項1ないし6に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしている特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当せず、申立理由5によっては取り消すことはできない。
6 申立理由6(新規事項)について
(1)新規事項の判断基準
補正が、当業者にとって、当初明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものであるか否かにより、その補正が新規事項を追加する補正であるか否かを判断する。
補正が当初明細書等に記載した事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものである場合は、その補正は、新規事項を追加する補正でない。
他方、補正が新たな技術的事項を導入するものである場合は、その補正は新規事項を追加する補正である。
(2)新規事項の判断
本件特許に係る出願において、令和6年10月23日に提出された手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)により、請求項1が補正され、「(但し、高甘味度甘味料を含有する非アルコールビールテイスト飲料を除く)」との事項が特定された(以下「補正事項」という。)。
当該補正事項に関して、当初明細書等の記載をみるに、発明の詳細な説明には、「本発明の非アルコールビールテイスト飲料には、本発明の効果を妨げない範囲でその他の原料を配合してもよい。すなわち、本発明の非アルコールビールテイスト飲料では、・・・甘味料(例えば、高甘味度甘味料)・・・などを原料として使用することができる」こと(【0018】)が記載され、実施例において「高甘味度甘味料」を含有することは記載されていない。
これらの記載も含め、当初明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、当該補正事項は、新たな技術的事項を導入するものであるとはいえない。
よって、当該補正事項は、新規事項を追加する補正ではない。
(3)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、令和6年10月23日に提出された意見書(甲第17号証)に言及しつつ「ここでは、引用発明から予測し得ない格別顕著な効果を主張するにあたって、ビール風味に対する高甘味度甘味料の関与の有無にあえて言及し、高甘味度甘味料が存在しない場合に対して、高甘味度甘味料が存在する場合とは異なる技術的意義を与えていると認められる。」と主張するが、これについて、特許権者は、本件特許発明と引用文献1に記載された発明との差異に言及しているのであって、本件特許発明の新たな効果を主張しているのではない。
よって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。
(4)申立理由6(新規事項)についてのまとめ
本件特許の請求項1ないし6に係る特許は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしている特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第1号に該当せず、申立理由6によっては取り消すことはできない。
第5 結語
上記第4のとおり、本件特許の請求項1ないし6に係る特許は、特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては、取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1ないし6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2025-700689