特許異議申立
2025-700536
細胞接着用粒子及びその使用
- 審判番号
- 2025-700536
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2021-512112
- 登録番号
- 7586496
- 請求日
- 2025年05月16日
- 審決日
- 2025年07月02日
- 公報発行日
- 2025年08月29日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】国立大学法人九州大学
- 【権利者代理人】田▲崎▼ 聡
- 【権利者代理人】飯田 雅人
- 【権利者代理人】小林 淳一
- 【権利者代理人】川越 雄一郎
- 【権利者代理人】春田 洋孝
- 【異議申立人】林 法子
- 審判長/審判官
- 審判長 長井 啓子
- 審判官 深草 亜子
- 審判官 幸田 俊希
- 分類
- P1651.121-Y (C12M) / P1651.537-Y (C12M)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7586496号発明「細胞接着用粒子及びその使用」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7586496号の請求項1~11に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7586496号の請求項1~11に係る特許についての出願は、令和2年3月30日に出願され、令和6年11年11日に特許の設定登録がされ、同年11月19日に特許掲載公報が発行された。本件は、その特許に対し、令和7年5月16日に特許異議申立人 林 法子(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立て(以下、「申立て」という。)がされたものである。
第2 本件発明
特許第7586496号の請求項1~11に係る発明は、その特許請求の範囲の請求項1~11に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「【請求項1】
水溶液中に存在する細胞を接着するための細胞接着用粒子であって、
少なくとも表面の一部に飽和含水時の中間水量が1~30wt%である水和性組成物を有し、
前記細胞接着用粒子の平均粒子径が4.5~500μmである、細胞接着用粒子。
【請求項2】
前記細胞には、腫瘍細胞、幹細胞、血管内皮細胞、神経細胞、マクロファージ、樹状細胞、単核球、好中球、平滑筋細胞、繊維芽細胞、心筋細胞、骨格筋細胞、肝実質細胞、肝非実質細胞、膵ラ島細胞が含まれる、請求項1に記載の細胞接着用粒子。
【請求項3】
前記水和性組成物がメトキシエチルアクリレートを含む重合物である、請求項1又は2に記載の細胞接着用粒子。
【請求項4】
少なくとも表面の一部に飽和含水時の中間水量が1~30wt%である水和性組成物を有する粒子を細胞を含む溶液に接触させ前記細胞を接着する工程を含み、
前記粒子の平均粒子径が4.5~500μmである、細胞の捕捉方法。
【請求項5】
前記細胞には、腫瘍細胞、幹細胞、血管内皮細胞、神経細胞、マクロファージ、樹状細胞、単核球、好中球、平滑筋細胞、繊維芽細胞、心筋細胞、骨格筋細胞、肝実質細胞、肝非実質細胞、又は膵ラ島細胞が含まれる、請求項4に記載の細胞の捕捉方法。
【請求項6】
前記水和性組成物がメトキシエチルアクリレートを含む重合物である、請求項4又は5に記載の細胞の捕捉方法。
【請求項7】
少なくとも表面の一部に飽和含水時の中間水量が1~30wt%である水和性組成物を有する粒子と、当該粒子の表面に接着した細胞を含み、
前記粒子の平均粒子径が4.5~500μmである、粒子と細胞の複合体。
【請求項8】
前記細胞には、腫瘍細胞、幹細胞、血管内皮細胞、神経細胞、マクロファージ、樹状細胞、単核球、好中球、平滑筋細胞、繊維芽細胞、心筋細胞、骨格筋細胞、肝実質細胞、肝非実質細胞、膵ラ島細胞が含まれる、請求項7に記載の粒子と細胞の複合体。
【請求項9】
前記水和性組成物がメトキシエチルアクリレートを含む重合物である、請求項7又は8に記載の粒子と細胞の複合体。
【請求項10】
請求項7~9のいずれか一項に記載の粒子と細胞の複合体を細胞培養用の培地内に播種する、当該複合体からの細胞の脱離方法。
【請求項11】
請求項10に記載の方法によって細胞を得て、前記細胞を細胞培養用の培地内で培養する、細胞培養方法。」 (以下、上記請求項1~11に係る発明を「本件発明1」~「本件発明11」という。まとめて「本件発明」ということもある。)
第3 特許異議申立理由
申立人が主張する申立理由は、概略、次のとおりのものである。
1 申立人が主張する申立理由1(甲第1号証を主引例、甲第2号証~甲第7号証を副引例とした進歩性欠如)
本件発明1~11は、本件優先日前に頒布された甲第1号証に記載された発明、および、甲第2号証~甲第7号証に記載されるような本件優先日当時の技術常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29第2項の規定により特許を受けることができないものであるので、同法第113条第2号に該当し取消されるべきものである。
[証拠方法]
甲第1号証:特開2012-105579号公報
甲第2号証:特開2008-1794号公報
甲第3号証:特許第5401989号公報
甲第4号証:特開2016-63801号公報
甲第5号証:特表2013-500717号公報
甲第6号証:特表2012-527901号公報
甲第7号証:特開平5-091872号公報
(以下、上記「甲第1号証」~「甲第7号証」を「甲1」~「甲7」と略す。)
2 申立人が主張する申立理由2(サポート要件違反)
仮に、特許権者が、申立理由1を解消するために、特許請求の範囲の訂正を行った場合、そのような訂正をした後の本件発明1~11は、発明の詳細な説明に記載されたものではないので、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないものであり、同法第113条第4号に該当し取消されるべきものである。
第4 当審の判断
1 申立理由1(甲1~甲7に基づく進歩性欠如)についての判断
(1)甲1(特開2012-105579号公報)の記載事項
<1a>
「【請求項1】
中間水の量が30wt%以下の水和性組成物を溶液に接触させて、当該水和性組成物の表面に溶液中の細胞を吸着して溶液から分離することを特徴とする細胞分離方法。
【請求項2】
前記水和性組成物の中間水の量が1wt%以上であることを特徴とする請求項1に記載の細胞分離方法。
【請求項3】
前記水和性組成物が、60mol%以上のポリ(2-メトキシエチルアクリレート)を含む重合物であることを特徴とする請求項1又は2に記載の細胞分離方法。」(特許請求の範囲の請求項1~3)
<1b>
「本発明は、生体内に存在する所定の細胞を選択的に吸着して分離させるための細胞分離方法、および、当該方法に用いられる水和性組成物に関する。」(段落【0001】)
<1c>
「本発明により分離回収が可能な物質は、血液中や体液中で水和殻を形成して存在している物質であれば特に制限はなく、例えば、血液等に含まれる転移性のがん細胞、白血病細胞などの腫瘍細胞、幹細胞、血小板、血管内皮細胞、神経細胞、マクロファージ、樹状細胞、単核球、好中球、平滑筋細胞、繊維芽細胞、心筋細胞、骨格筋細胞、肝実質細胞、肝非実質細胞、膵ラ島細胞などの機能細胞の他、血漿タンパク質等に対する適用も可能である。」(段落【0023】)
<1d>
「・・・上述の高分子を材料として用いた本発明の接着器具、医療機器は、好適な表面構造を備え得る。」(段落【0025】)
<1e>
「本発明に係る細胞分離方法において水和性組成物に吸着されることにより体液などの水溶液から分離された細胞等は、適宜の方法により水和性組成物から脱離されて、例えば、がん細胞であれば培養することで抗がん剤のスクリーニングに使用したり、幹細胞であれば所望の臓器への分化増殖等に使用することが可能である。・・・」(段落【0027】)
<1f>
「本発明において使用する水和性組成物を適用する基材の材質や形状は特に制限されることなく、例えば、多孔質体、繊維、不織布、粒子、フィルム、シート、チューブ、中空糸や粉末等いずれでも良い。・・・」(段落【0032】)
<1g>
「2,中間水量の測定
上記で作製した水和性組成物試料(Sample A~C)について、含湿雰囲気への暴露や、最高で7日間の水中へ浸漬により飽和含水を与える等の方法によりそれぞれ適量の水を含水させた。含水後の各試料の所定量を取り、あらかじめ重量を測定した酸化アルミパンの底に薄く広げた。示差走査熱量計(DSC-8230, リガク社製) を用いて、室温から-100℃まで冷却し、ついで10分間ホールドした後、昇温速度2.5℃/min.で-100℃から50℃まで加熱を行う過程での吸発熱量の測定を行った。なお、予め各試料の基材に用いたPET基板は有意な量の含水を生じないことを確認した。
各試料について、DSC測定後にアルミパンにピンホールをあけて真空乾燥後、その重量減少分を含水量として求めた。含水量(WC)は、基材に用いたPET基板の質量を除外した上で、以下の式(I)で求めた。
含水量(WC) = (W1-W0 ) / W0 (I)
(W0:試料の乾燥重量(g)、W1:試料の含水重量(g))
次に、各Sample A~C毎(Sample Bについては、各組成毎)に、各含水量におけるコールドクリスタリゼーションに伴う発熱量と0℃付近の吸熱量の関係から、Sample A~Cにおける不凍水と中間水の最大量を求めてW0で除することにより、それぞれのSampleにおける不凍水量と中間水量とした。」(段落【0037】~【0038】)
<1h>
「3,血小板の吸着試験
飽和含水させたSample A~Cと、対照材としてのガラス基板とガラス基板を用いて、クエン酸ナトリウムで抗凝固した人新鮮多血小板血漿と試料表面とを37℃、60分間接触させた後、リン酸緩衝溶液でリンスし、グルタルアルデヒドで固定した。その後、試料表面1×104μm2に粘着した血小板数を電子顕微鏡で観察した。血小板の粘着形態変化の進行度により、I(正常)、II(偽足形成)、III(伸展)型に分類して血液との適合性の評価を行った。
PETに吸着した全血小板を1000とした場合の、各試料における粘着血小板の相対数を各試料における中間水の量に対して図7に示す。
4,がん細胞の吸着試験
飽和含水させたSample A,Cと、対照材としてのガラス基板とPET基板を用いて、がん細胞の吸着試験を行った。ウシ胎児血清を添加した培地で培養したヒト線維肉腫細胞(HT-1080)に、各試料を37℃、60分間接触させた後、リン酸緩衝溶液でリンスし、ホルムアルデヒドで固定した。細胞の核をDAPI、アクチン骨格をphalloidin抗体、ビンキュリン接着班を抗vinculin抗体でそれぞれ染色して共焦点レーザー顕微鏡を用いて接着細胞数の計測を行った。
PETに吸着した癌胞数を1000とした場合の、各試料における吸着癌細胞数の相対数を各試料における中間水の量に対して図7に合わせて示す。なお、Sample CであるPMPC表面上では、がん細胞の接着が弱く、リン酸緩衝溶液でのリンス時にほとんどのがん細胞の剥離が観察されたため、図7には概数を記入した。
5,血管内皮細胞の吸着試験
飽和含水させたSample A,Cと、対照材としてのガラス基板とPET基板を用いて、ヒト血管内皮細胞の吸着試験を行った。ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)は、ウシ胎児血清、へパリン、endothelial cell growth supplementを添加した培地で培養したものを用いた。各試料を血管内皮細胞の培養液に37℃、60分間接触させた後、リン酸緩衝溶液でリンスし、ホルムアルデヒドで固定した。細胞の核をDAPI、アクチン骨格をphalloidin抗体、ビンキュリン接着班を抗vinculin抗体でそれぞれ染色して共焦点レーザー顕微鏡を用いて接着細胞数の計測を行った。
PETに吸着した血管内皮細胞数を1000とした場合の、各試料における吸着血管内皮細胞数の相対数を各試料における中間水の量に対して図7に合わせて示す。なお、Sample CであるPMPC表面上では、血管内皮細胞の接着が弱く、リン酸緩衝溶液でのリンス時にほとんどの細胞の剥離が観察されたため、図7には概数を記入した。
6,歯根膜由来(幹)細胞の吸着試験
飽和含水させたSample A,Cと、対照材としてのガラス基板とPET基板を用いて、ヒト歯根膜由来細胞の吸着試験を行った。ヒト歯根膜由来細胞(PDL)は、ウシ胎児血清を添加した培地で培養したものを用いた。各試料を血管内皮細胞の培養液に37℃、60分間接触させた後、リン酸緩衝溶液でリンスし、ホルムアルデヒドで固定した。細胞の核をDAPI、アクチン骨格をphalloidin抗体、ビンキュリン接着班を抗vinculin抗体でそれぞれ染色して共焦点レーザー顕微鏡を用いて接着細胞数の計測を行った。
PETに吸着した歯根膜由来細胞数を1000とした場合の、各試料における吸着歯根膜由来細胞数の相対数を各試料における中間水の量に対して図7に合わせて示す。なお、Sample CであるPMPC表面上では、歯根膜由来細胞の接着が弱く、リン酸緩衝溶液でのリンス時にほとんどの細胞の剥離が観察されたため、図7には概数を記入した。(段落【0040】~【0043】)」
(2)甲2(特開2008-001794号公報)の記載事項
<2a>
「本発明の高分子化合物は、基体表面を該高分子化合物で被覆することにより、生理活性物質の非特異的吸着を抑制する性質、特定の生理活性物質を固定化する性質を容易に付与することが可能である。・・・」(段落【0041】)
<2b>
「本発明に使用する基体の素材は、酸化ケイ素、プラスチック、金属及び/または金属酸化物その他を用いることができるが、板や容器の形状で用いる場合には、表面処理の容易性、量産性の観点から、プラスチックが好ましく、中でも熱可塑性樹脂がより好ましい。・・・一方、粒子形状で用いる場合には、酸化ケイ素や金属及び/または金属酸化物が操作性の良さの点から好ましい。」(段落【0045】)
<2c>
「《実施例》
平均粒径40μmのシリカビーズを合成例で得られた高分子化合物の50wt%酢酸エチル溶液に浸漬し、ボルテックスミキサーでよく攪拌した。吸引ろ過によりビーズを回収し、よく乾燥させた後、150℃で2時間加熱処理を施した。」(段落【0053】)
(3)甲3(特許第5401989号公報)の記載事項
<3a>
「【請求項1】
無機材料からなる粒子を核とし、当該無機材料からなる粒子の表面に、重合性官能基または連鎖移動基を有するシランカップリング剤を共有結合させることによって、重合性官能基または連鎖移動基を導入し、該粒子と下記一般式[1]で表される活性エステル基を有するモノマーを含む重合性成分を混合し、次いで重合反応を進行させることにより、該粒子表面に高分子化合物を含む層を形成した医療用粒子。
・・・
【請求項20】
請求の範囲第15項~第16項のいずれかに記載の分析用粒子を、標的生体分子の溶解液、血液、血漿、血清、細胞破砕液、細胞培養液、及び組織破砕液から選ばれる少なくとも一つの溶液に接触させることにより標的生体物質を回収することを特徴とする分析用粒子の利用方法。」(特許請求の範囲の請求項1および20)
<3b>
「本発明は、生理活性物質を固定化する機能を有する医療用粒子、生体分子の相互作用を分析するための分析用粒子、並びにそれらの製造方法に関する。」(段落【0001】)
<3c>
「本発明に使用する核となる粒子の素材は、特に限定されるものではなく、有機物、無機物を問わず用いることができる。・・・中でも、酸化ケイ素が取り扱いやすく最も好ましい。また、粒子の大きさは何ら制限を受けるものではなく、目的・用途に合わせて適宜選択できる。・・・実際に粒子として用いる場合には、用途によっても異なるが、粒径が数nmから100μm程度のものが好ましい。
以上のように高分子化合物を含む層を表面に形成した本発明の粒子は、生理活性物質の固定化能力に優れた粒子である。」(段落【0046】~【0047】)
(4)甲4(特開2016-063801号公報)の記載事項
<4a>
「【請求項1】
少なくとも表面の一部が3wt%以上、30wt%以下の中間水を含有可能な水和性組成物からなることを特徴とする細胞培養用支持体。」(特許請求の範囲の請求項1)
<4b>
「実施例の結果から明らかなように、一定以上の割合で中間水を含むPMEA(ポリ(2-メトキシエチルアクリレート))、PMe3A(ポリ(2-(2-メトキシエトキシ)エトキシエチルアクリレート-コ-ブチルアクリレート))、PMe2A(ポリ(2-(2-メトキシエトキシ)エチルアクリレート-コ-ブチルアクリレート))等をそれぞれ基質として、血清培地中で細胞を播種し洗浄した場合には、接着した細胞が球状を維持することが明らかとなった。また、細胞の播種に先だってインテグリン接着を阻害する処理を行った場合、以下で説明するように、中間水を含有しない基質上では細胞接着の程度が、細胞が接着しない基質と同程度まで低下するのに対して、一定以上の割合で中間水を含む基質上では細胞接着の程度は低下するが完全に低下することはなく、また細胞の形態に変化は観察されなかった。このように、一定以上の割合で中間水を含む基質上では、タンパク質の吸着が抑制され、その結果、基質表面が露出し、インテグリンを介在しない細胞接着の機構が発現したと理解することができる。」(段落【0021】)
<4c>
「本発明において、細胞培養の基質として使用する細胞培養用支持体は、培養する細胞と接触する表面の少なくとも一部が3~30wt%の中間水を含有しうる水和性組成物からなるものであれば良く、当該水和性組成物のみから構成されるものの他、他の基材からなる培養皿の表面の少なくても一部にコーティングなどの手段により当該水和性組成物を設けたものであってもよい。上記中間水を含有可能な水和性組成物で、支持体の基材の所定の表面部分をコーティング等して用いる場合、当該基材の材質に特に制限はなく、剛体でも、弾性体でも、ゲル等を用いてもよく、その材質としてはガラス等の他、木錦、麻等の天然高分子、PET、ナイロン、ポリエステル、ポリアクリロニトリル、ポリオレフィン、ハロゲン化ポリオレフィン、ポリウレタン、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリ(メタ)アクリレート、エチレン-ビニルアルコール共重合体、ブタジエン-アクリロニトリル共重合体等の合成高分子あるいはこれらの混合物が挙げられる。また、金属、セラミクス及びそれらの複合材料等が例示でき、複数の材質より構成されていてもかまわない。前記細胞培養用支持体の形状は、ディッシュ状(皿状)である他、フラスコ、培養用スライド、マルチウェルプレート、多孔質体、繊維、不織布、粒子、フィルム、シート、チューブ、中空糸及び粉末からなる群から選択される少なくとも1種類の形状の場合がある。また、前記細胞培養用支持体がフィルム、シート、チューブ、中空糸等の形状の場合に、細胞に接する表面の少なくとも一部にコーティングなどの手段により当該水和性組成物を設けることを条件として、半透性を示す場合がある。その場合、分画分子量は、3,500以下、6,000-8,000又は12,000-14,000の場合がある。あるいは、細胞に接する表面と該表面を裏打ちする表面との間を0.22μm又は0.45μmの径の微小細孔が連絡する場合がある。」(段落【0037】)
(5)甲5(特表2013-500717号公報)の記載事項
<5a>
「本開示は、細胞培養用マイクロキャリアに関し、より詳しくは、合成された既知組成マイクロキャリアに関する。」(段落【0002】)
<5b>
「を有する、乾燥したアミン官能化ポリスチレン微小球(ポリスチレンAM-NH2、Rapp Polymere GMBH,粒径250~315μm、1.09ミリモルNH2/g)、1gをその容器に加えた。アミノ官能化ビーズを24時間に亘り窒素泡立てによって混合した。微小球を濾過し、DMFおよびエタノール(5×各10mL)で洗浄し、真空下で一晩乾燥させた。」(段落【0106】)
(6)甲6(特表2012-527901号公報)の記載事項
<6a>
「本開示は細胞培養マイクロキャリアに関し、さらに具体的には、合成の化学的に定義されたマイクロキャリアに関する。」(段落【0002】)
<6b>
「加えて、すべてではないにしてもほとんどのマクロキャリアが、穏やかな攪拌によって懸濁できることを確実にするために、マイクロキャリアのサイズ変化は小さいことが好ましい。例として、マイクロキャリアの形態的粒度分布(geometric size distribution)は約1~1.4でありうる。マイクロキャリアは任意の適切な大きさであって差し支えない。例えば、マイクロキャリアは約20μm~1000μmの直径寸法を有しうる。このような直径を有する球形のマイクロキャリアは、マイクロキャリア1つあたり数百~数千個の細胞の接着を支持できる。油中水型の共重合技術を経て形成されたマイクロキャリアの大きさは、攪拌速度または使用する乳化剤の種類を変化させることによって容易に調整することができる。例えば、攪拌速度を速めると、より小さな粒径が得られる傾向にある(例えば図10参照)。加えて、エチルセルロースなどのポリマー性乳化剤の使用は、より小さい分子量の乳化剤と比較して、より大きい粒子を可能にすると考えられる。したがって、攪拌速度または攪拌強度および乳化剤を容易に改質して、所望の粒径のマイクロキャリアを得ることができる。」(段落【0051】)
<6c>
「実施例10:マイクロキャリアの調製
攪拌速度が260rpmであったことを除き、実施例1と同一の手順を反復した。330μmの平均粒径が観察された(図10参照)。
実施例11:マイクロキャリアの調製
攪拌速度が330rpmであったことを除き、実施例1と同一の手順を反復した。210μmの平均粒径が観察された(図10参照)。」(段落【0126】~段落【0127】)
(7)甲7(特開平5-091872号公報)の記載事項
<7a>
「【従来の技術】近年、動物細胞を培養するための担体として、粒子状担体、多孔性担体、繊維状担体、薄膜状担体(特開昭64-47372号公報)等、種々の培養担体が開発されている。とりわけ、微小球体表面に細胞を付着又は固定化することで動物細胞を擬似浮遊状態で培養するマイクロキャリア(以下「MC」と略称する。)、及び、担体の内部に細胞を付着又は物理的に細胞を固定化し増殖する多孔性担体(“TIBTECH”May 1990,Vol.8,131-136)がよく知られている。前者のMCの例として、サイトデックス(Cytodex(商品名),Pharmacia社製)、メタクリル酸エステル系担体(特開昭63-71173号、特開昭63-226282号、特開昭64-10979号各公報)等が知られている。一方、担体の内部も付着体として利用している多孔性担体としては、ベラックス社の担体(特開昭62-502936号公報)、ニルソン社の担体(特開昭62-169837号公報)、三菱化成株式会社の担体(特開平2-291260号、特開平3-43076号各公報)等の報告がある。」(段落【0002】)
(8)甲1に記載された発明の認定
甲1は、生体内に存在する所定の細胞を選択的に吸着して分離させるための細胞分離方法やそれに用いられる水和性組成物に関する発明を開示する特許公開公報であって、請求項1を引用する請求項2には「中間水の量が1wt%以上30wt%以下の水和性組成物を溶液に接触させて、当該水和性組成物の表面に溶液中の細胞を吸着して溶液から分離することを特徴とする細胞分離方法。」の発明が記載されている(上記記載事項<1a>)。
これについて、発明の詳細な説明には、上記水和性組成物は細胞接着器具や医療機器に適用することができ(上記記載事項<1d>)、その1例としてポリ(2-メトキシエチルアクリレート)を含む重合物が挙げられ(上記記載事項<1a>)、分離が可能な細胞として、腫瘍細胞、幹細胞、血管内皮細胞、神経細胞、マクロファージ、樹状細胞、単核球、好中球、平滑筋細胞、繊維芽細胞、心筋細胞、骨格筋細胞、肝実質細胞、肝非実質細胞、膵ラ島細胞等が挙げられている(上記記載事項<1c>)。また、実施例においては、上記水和性組成物の1例であるポリ(2-メトキシエチルアクリレート)を含む重合物の中間水量が測定されるとともに(上記記載事項<1g>)、血小板、がん細胞、血管内皮細胞及び歯根膜由来(幹細胞)の吸着試験の結果(上記記載事項<1h>)が記載されている。
したがって、甲1には、次の<甲1A発明>が記載されているといえる。
<甲1A発明>
「溶液中の細胞を吸着するための水和性組成物を材料として用いた接着器具・医療機器であって、
前記細胞が、腫瘍細胞、幹細胞、血管内皮細胞、神経細胞、マクロファージ、樹状細胞、単核球、好中球、平滑筋細胞、繊維芽細胞、心筋細胞、骨格筋細胞、肝実質細胞、肝非実質細胞、膵ラ島細胞等であり、
前記水和性組成物が、ポリ(2-メトキシエチルアクリレート)を含む重合物であり、
前記水和性組成物の飽和含水時の中間水の量が、1wt%以上30wt%以下である細胞吸着用接着器具・医療機器。」
また、甲1には、<甲1A発明>認定時に甲1に記載されていると認定した事項に加え、生体内に存在する所定の細胞を選択的に吸着して分離させるための細胞分離方法が記載されている(上記記載事項<1b>)から、甲1には、次の<甲1B発明>が記載されているといえる。
<甲1B発明>
「飽和含水時の中間水の量が、1wt%以上30wt%以下である水和性組成物を材料として用いた接着器具・医療機器を、細胞を含む溶液に接触させ吸着する工程を含み、
前記細胞が、腫瘍細胞、幹細胞、血管内皮細胞、神経細胞、マクロファージ、樹状細胞、単核球、好中球、平滑筋細胞、繊維芽細胞、心筋細胞、骨格筋細胞、肝実質細胞、肝非実質細胞、膵ラ島細胞等であり、
前記水和性組成物が、ポリ(2-メトキシエチルアクリレート)を含む重合物である、細胞の吸着方法。」
また、甲1には、<甲1A発明>認定時に甲1に記載されていると認定した事項が記載されているから、甲1には、次の<甲1C発明>が記載されているといえる。
<甲1C発明>
「飽和含水時の中間水の量が1wt%以上30wt%以下である水和性組成物を材料として用いた接着器具・医療機器と、当該接着器具・医療機器の表面に接着した細胞を含み、
前記細胞が、腫瘍細胞、幹細胞、血管内皮細胞、神経細胞、マクロファージ、樹状細胞、単核球、好中球、平滑筋細胞、繊維芽細胞、心筋細胞、骨格筋細胞、肝実質細胞、肝非実質細胞、膵ラ島細胞等であり、
前記水和性組成物が、ポリ(2-メトキシエチルアクリレート)を含む重合物である、接着器具・医療機器と細胞の複合体。」
(9)本件発明1~3について
ア 対比
本件発明1と、甲1A発明を対比する 。
本件発明1の「細胞接着用」との用途と、甲1A発明の「細胞吸着用」との用途とは、いずれも、水和性組成物を表面に有する物体を溶液と接触させ、該物体表面に溶液中の細胞を接着・吸着することであり、これらの作用に実質的な差異はない。
また、甲1A発明において具体的に特定されている細胞および水和性組成物は、本件発明1の「細胞」および「水和性組成物」に包含される下位概念である。
したがって、両者は次の<一致点>で一致し、<相違点1>において相違するといえる。
<一致点>
水溶液中に存在する細胞を接着するための細胞接着用部材であって、少なくとも表面の一部に飽和含水時の中間水量が1~30wt%である水和性組成物を有する、細胞接着用部材。
<相違点1>
水和性組成物を表面に有する物体が、本件発明1では「平均粒子径が4.5~500μmである粒子」であるのに対し、甲1A発明では「接着器具、医療機器」である点。
イ 相違点1の検討
甲1には、水和性組成物を適用する器材や材質の形状として、粒子も例示されている(上記記載事項<1f>)が、実施例はないし、粒子径について具体的な数値は記載されておらず、適した粒子径を決定するための手がかりとなる記載はない。また、粒子表面に存在する中間水を利用して細胞を選択的に接着するにあたって、粒子径と細胞接着の程度や態様に関する技術常識が本件特許優先日前にあったとも認められない。
一方、本件発明1では、粒子径に依存して、粒子に接着した細胞が自律的に脱離する比率が変化することを見出し、自律的に脱離しやすい粒子径として「平均粒子径が4.5~500μm」という範囲を特定したものである(実施例3の特に【0079】、図7)。
したがって、甲1A発明において、「接着器具、医療機器」を、接着した細胞が自律的に脱離しやすいという性質を備えた「平均粒子径が4.5~500μmである粒子」に変更することは、当業者といえども、容易になし得たこととは認めることができない。
申立人は、甲2~6に記載されるような本件優先日時点の技術常識に基づけば、上記相違点1に係る構成は当業者が容易に導き出せるものである旨主張する。
しかし、甲2に記載された高分子化合物や甲3に記載された粒子は、生理活性物質・標的生体分子といった化学物質を接着させることを目的とするものである。一方、甲1A発明は細胞を吸着させることを目的とする発明であり、両者は接着させる対象が異なるため、甲2及び甲3を甲1A発明に組み合わせる動機付けはない。
また、甲4において粒子は多数の支持体の選択肢の一つとして記載されたものに過ぎず、まして、上記相違点1に係る特定の平均粒子径を教示するものではない。
さらに、甲5及び甲6に記載されているのは、細胞支持体であるマイクロキャリアである一方、甲1A発明は溶液中の細胞を吸着させることを目的とした発明であり、両者は用途が異なるため、甲1A発明に甲5及び6を組み合わせる動機付けはない。
以上のとおり、甲1A発明に甲2~6に記載された技術的事項を組み合わせて本件発明1の構成に至ることが当業者にとって容易であるとはいうことはできない。
そして、本件発明は、甲1A発明の「接着器具、医療機器」について、「平均粒子径が4.5~500μmである粒子」とすることで、粒子に接着し分離された細胞が、その後に細胞培養用の培地内で自律的に脱離を生じるという特有の効果を奏するものである。
申立人は、当該効果について、甲7も挙げて、細胞を接着させる粒子には、粒子に接着させた細胞を細胞培養用の培地に接種して培養する用地に用いられるもの、および、粒子に接着させた細胞を粒子内で培養する用途に用いられるものがあることは本件優先日時点の技術常識であるところ、それらのいずれに該当するか不明である本件発明の「細胞接着用粒子」が発揮する効果とはいえない旨、主張する。
しかし、本件明細書には、【発明の効果】の項目に、「・・・培地等で細胞の自立的な脱離を生じるため、細胞に与えるダメージを抑制しながら目的の標的細胞を血液等から分離・回収することが可能となる。」と記載されており、これは実施例により裏付けられているうえ、当業者が理解可能な効果であるから、申立人の上記主張は採用の限りでない。
ウ 小括
以上からすると、本件発明1は、甲1に記載された発明、および、甲2~甲7に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
また、本件発明1に従属する本件発明2及び3についても同様である。
(10)本件発明4~11について
本件発明4~6と甲1B発明、本件発明7~9と甲1C発明との相違点は、本件発明1~3と甲1A発明と同じであるから、上記(9)と同様の理由により、本件発明4~6及び本件発明7~9は、甲1に記載された発明、および、甲2~甲7に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
本件発明7~9を引用する本件発明10及び11についても同様である。
(11)小括
以上のとおりであるから、申立理由1(甲1~甲7に基づく進歩性欠如)は、理由がない。
2 申立理由2(サポート要件)についての判断
(1)申立人の主張の具体的内容
仮に、特許権者が、申立理由1を解消するために、特許請求の範囲の請求項1~3の「細胞接着用粒子」を「細胞接着および脱離用粒子」に、請求項4~6の「細胞の捕捉方法」を「細胞の捕捉および脱離方法」に、請求項7~9の「粒子と細胞の複合体」を「細胞を脱離するために用いられる、粒子と細胞の複合体」に、それぞれ訂正した場合、訂正後の特許請求の範囲の記載は、サポート要件を満たしていない。
(2)判断
上記(1)のとおり、申立理由2は、仮に、特許権者が、申立理由1を解消するために特許請求の範囲の訂正を行った場合の、訂正後の特許請求の範囲の記載の不備を指摘するものである(上記第3の2)ところ、本件特許は訂正されていないのだから、前提を欠いており、理由はない。
第5 むすび
以上のとおり、申立てにおいて申立人が主張する理由によっては、本件発明1~11に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1~11に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2025-700536