特許異議申立
2025-700492
ミノキシジルを含有する外用組成物、および、ミノキシジルの析出防止方法
- 審判番号
- 2025-700492
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2024-024745
- 登録番号
- 7577881
- 請求日
- 2025年05月02日
- 審決日
- 2025年09月24日
- 公報発行日
- 2025年10月31日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】ロート製薬株式会社
- 【権利者代理人】勝又 政徳
- 【権利者代理人】岩谷 龍
- 【異議申立人】池田 抄太郎
- 審判長/審判官
- 審判長 藤原 浩子
- 審判官 川口 裕美子
- 審判官 井上 千弥子
- 分類
- P1651.113-Y (A61K) / P1651.121-Y (A61K) / P1651.536-Y (A61K) / P1651.537-Y (A61K)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第4項第1号、特許法第44条第1項、特許法第29条第1項第3号、特許法第2条第3項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7577881号発明「ミノキシジルを含有する外用組成物、および、ミノキシジルの析出防止方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7577881号の請求項1~14に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7577881号(以下「本件特許」という。)の請求項1~14に係る特許についての出願(以下「本件特許出願」という。)は、令和6年2月21日にされた特許法第44条第1項の規定による出願であって、平成30年9月3日(優先権主張 平成29年9月4日、平成30年8月31日)を出願日とする特願2018-164395号(以下「原出願」という。)を最先の出願とする、いわゆる第3世代分割出願であるところ、各世代の分割出願は、次のとおりのものである。
原出願 :特願2018-164395号
第1世代分割出願 :特願2023-23902号
第2世代分割出願 :特願2023-149731号
第3世代分割出願(本件特許出願):特願2024-24745号
そして、本件特許出願について、令和6年10月25日に特許権の設定登録がされ、同年11月5日に特許掲載公報が発行され、その後、令和7年5月2日に、本件特許の請求項1~14に係る特許に対して、特許異議申立人である池田 抄太郎(以下「申立人」という。)から特許異議の申立てがされ、同年6月20日付けで取消理由が通知され、同年8月22日に特許権者から意見書が提出された。
第2 本件発明
本件特許の請求項1~14に係る発明(以下、番号順にそれぞれ「本件発明1」~「本件発明14」ともいい、これらをまとめて「本件発明」ともいう。)は、特許請求の範囲の請求項1~14に記載された事項によって特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
(A)ミノキシジル、(B)ジブチルヒドロキシトルエンおよび(C)パントテニールエチルエーテル又はパンテノールを含有し、
さらに、リン酸、水、エタノール及び多価アルコールを含有し、
ミノキシジルの濃度が4.5~7w/v%であり、
(B)ジブチルヒドロキシトルエンの濃度が0.01~1.0w/v%であり、
(C)パントテニールエチルエーテル又はパンテノールの濃度が0.5~1w/v%であり、
水の配合量が10~40w/v%であり、
1,3-ブチレングリコールを含む多価アルコールの配合量が8~30w/v%であり、
エタノールを25~55w/v%の割合で含有し、
pHが5.5~7.0である外用組成物(ただし、外用組成物が、塩化カルプロニウム又はその水和物を含有する組成物である場合を除く)。
【請求項2】
(A)ミノキシジルの含有量が、5w/v%である、請求項1記載の外用組成物。
【請求項3】
(B)ジブチルヒドロキシトルエンの濃度が0.05~0.8w/v%である、請求項1又は2に記載の外用組成物。
【請求項4】
パンテノールを含有する、請求項1~3のいずれかに記載の外用組成物。
【請求項5】
(C)パントテニールエチルエーテル又はパンテノールの濃度が0.5w/v%又は1w/v%である、請求項1~4のいずれか1項に記載の外用組成物。
【請求項6】
さらに、ピリドキシン塩酸塩、トコフェロール酢酸エステルおよびメントールから選択される少なくとも1種を含有する、請求項1~5のいずれか1項に記載の外用組成物。
【請求項7】
さらに、ピリドキシン塩酸塩、トコフェロール酢酸エステルおよびメントールを含有する、請求項1~6のいずれか1項に記載の外用組成物。
【請求項8】
さらに、ピリドキシン塩酸塩を0.01~0.1w/v%、トコフェロール酢酸エステルを0.01~0.1w/v%、メントールを0.1~0.5w/v%の割合で含有する、請求項1~7のいずれかに記載の外用組成物。
【請求項9】
エタノールを40~55w/v%の割合で含有する、請求項1~8のいずれか1項に記載の外用組成物。
【請求項10】
pHが6.0~7.0である、請求項1~9のいずれか1項に記載の外用組成物。
【請求項11】
(A)ミノキシジルを4.5~7w/v%、
(B)ジブチルヒドロキシトルエンを0.01~1.0w/v%、
(C)パントテニールエチルエーテル又はパンテノールを0.5~1w/v%、
ピリドキシン塩酸塩を0.01~0.1w/v%、
トコフェロール酢酸エステルを0.01~0.1w/v%、
メントールを0.1~0.5w/v%、
水を10~40w/v%、
エタノールを25~55w/v%、
1,3-ブチレングリコールを含む多価アルコールを8~30w/v%の割合で含有し、
さらに、リン酸を含有し、
pHが5.5~7.0である、外用組成物(ただし、外用組成物が、塩化カルプロニウム又はその水和物を含有する組成物である場合を除く)。
【請求項12】
(A)ミノキシジルを5w/v%、
(B)ジブチルヒドロキシトルエンを0.05~0.8w/v%、
(C)パントテニールエチルエーテル又はパンテノールを0.5~1w/v%、
ピリドキシン塩酸塩を0.05w/v%、
トコフェロール酢酸エステルを0.08w/v%、
メントールを0.3w/v%、
水を10~35w/v%、
エタノールを35~55w/v%、
1,3-ブチレングリコールを含む多価アルコールを8~25w/v%の割合で含有し、
さらに、リン酸を含有し、
pHが6.0~7.0である、外用組成物(ただし、外用組成物が、塩化カルプロニウム又はその水和物を含有する組成物である場合を除く)。
【請求項13】
(A)ミノキシジルを5w/v%、
(B)ジブチルヒドロキシトルエンを0.05~0.8w/v%、
(C)パントテニールエチルエーテル又はパンテノールを0.5w/v%又は1w/v%、
ピリドキシン塩酸塩を0.05w/v%、
トコフェロール酢酸エステルを0.08w/v%、
メントールを0.3w/v%、
水を10~35w/v%、
エタノールを35~55w/v%、
1,3-ブチレングリコールを含む多価アルコールを8~20w/v%の割合で含有し、
さらに、リン酸を含有し、
pHが6.0~7.0である、外用組成物(ただし、外用組成物が、塩化カルプロニウム又はその水和物を含有する組成物である場合を除く)。
【請求項14】
ポリエチレンテレフタレートを主成分とする樹脂からなる容器に充填されている、請求項1~13のいずれか1項に記載の外用組成物。」
第3 特許異議申立書に記載された申立理由の概要
申立人は、特許異議申立書(以下「申立書」ともいう。)において、証拠方法として以下の甲第1号証~甲第21号証を提出するとともに、概略、以下の申立理由1~5により、本件発明に係る特許は、取り消されるべきものであると主張している。
1 申立理由1、2(分割要件違反による新規性、進歩性欠如)
本件特許出願は、分割要件を満たしていないから、甲第1号証は本件特許出願前に公開された文献である。
そして、本件発明1~14は、甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、また、甲第1号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
よって、本件発明1~14に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
2 申立理由3(サポート要件違反)
本件特許の願書に添付された明細書(以下「本件明細書」ともいう。)は、本件発明1~14のうち、(C)成分がパンテノールである場合に、本件発明1~14の課題を解決することができるように記載されていない。
よって、本件発明1~14に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
3 申立理由4(実施可能要件違反)
本件明細書に記載された実施例5、比較例5及び6は再現可能なものではなく、本件明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1~14を実施することができる程度に、明確かつ十分に記載されたものではない。
よって、本件発明1~14に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
4 申立理由5(甲第8号証を主引例とする進歩性欠如)
本件発明1~14は、甲第8号証に記載された発明に、甲第9号証に記載された技術事項、及び本件特許の優先日当時の技術常識ないし周知技術を組み合わせることにより当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件発明1~14に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
5 証拠方法
甲第1号証:特開2020-37517号公報
甲第2号証:特開2023-169290号公報
甲第3号証:特願2023-149731号の経過情報照会
/J-PlatPat(https://www.j-platpat.inpit.go.jp/h0000)、
2025年4月30日出力
甲第4号証:「試験報告書」、2025年4月22日、一般財団法人日本食
品分析センター
甲第5号証:東京地裁令和元年(ワ)第23164号判決
甲第6号証:特願2023-149731号における令和5年9月15日提
出「上申書」、ロート製薬株式会社
甲第7号証:特願2024-24745号における令和6年2月21日提出
の「上申書」、ロート製薬株式会社
甲第8号証:特開2002-326913号公報
甲第9号証:特開2012-25770号公報
甲第10号証:特願2024-24745号における令和6年9月25日提
出の「審判請求書」、ロート製薬株式会社
甲第11号証:特開2002-308740号公報
甲第12号証:特開2001-288090号公報
甲第13号証:特開2011-68695号公報
甲第14号証:国際公開第2014/017573号
甲第15号証:「RiUP X5」製品情報/X5 Hair Regrowth
Treatment,MINTEL,ID:1125951,掲載時期2009年7月
甲第16号証:「RiUP X5 PLUS」製品情報/X5 Plus Hair
Regrowth Treatment,MINTEL,ID:3645763,掲載時期
2016年1月
甲第17号証:ダイヤモンド・オンライン掲載記事「大正製薬「リアップ」
の牙城危うし!5社が後発品を準備中」、2018年6月4
日掲載、(https://diamond.jp/articles/-/171500)
甲第18号証:大正製薬ホールディングス・オンライン掲載記事「3分でわ
かる大正製薬」、2025年4月22日出力、
(https://web.archive.org/web/20231111235836/
https://www.taisho-holdings.co.jp/investors/digest/)
甲第19号証:国際公開第01/76540号
甲第20号証:特開2016-204362号公報
甲第21号証:特開2002-29935号公報
以下、甲第1号証~甲第21号証を、番号順にそれぞれ「甲1」~「甲21」ともいう。
第4 取消理由の概要
令和7年6月20日付けの取消理由通知書における取消理由(以下「取消理由」ともいう。)の概要は、以下のとおりである。
[取消理由1](サポート要件違反)
本件特許の特許請求の範囲の記載は、下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、本件特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
記
本件発明1~3、5~14のうち、(C)成分がパンテノールである外用組成物の発明については、本件発明1~3、5~14の解決しようとする課題を解決できると当業者が認識することはできない。
また、本件発明4は、本件発明4の解決しようとする課題を解決できると当業者が認識することはできない。
よって、本件発明1~14は、発明の詳細な説明に記載されたものではない。
第5 当審の判断
本件特許の請求項1~14に係る特許は、以下のとおり、取消理由及び申立書に記載された申立理由によっては、取り消すことができない。
1 取消理由1及び申立理由3(サポート要件違反)について
取消理由1及び申立理由3は、同旨であるから、まとめて判断する。
(1)サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
(2)本件発明の解決しようとする課題
本件明細書の発明の詳細な説明(以下「発明の詳細な説明」という。)の【0005】~【0006】には、以下の事項が記載されている(原文にない下線は当審による。以下同様。)。
「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、グリコール類は粘性と粘着性が比較的高いため、組成物中のグリコール類の含有量が多いと、頭皮にべたつきが残るなど使用感の低下を招く可能性があった。このため、グリコール類を多量に含有せずにミノキシジルの析出が抑制された外用組成物の開発が求められていた。
【0006】
本発明は、ミノキシジルを3~10w/v%含有する外用組成物であって、ミノキシジルの析出が抑制された外用組成物を提供することを課題とする。」
上記記載からみて、本件発明の解決しようとする課題は、「ミノキシジルを3~10w/v%含有する外用組成物であって、ミノキシジルの析出が抑制された外用組成物」の提供であると認められる。
(3)本件明細書の発明の詳細な説明の記載
発明の詳細な説明には、以下の事項が記載されている。
ア 「【課題を解決するための手段】
【0007】
[1] (A)ミノキシジル、(B)ジブチルヒドロキシトルエンおよび(C)パントテニールエチルエーテルを含有し、ミノキシジルの濃度が3~10w/v%である外用組成物。
【0008】
[2] (B)ジブチルヒドロキシトルエンの濃度が0.01~1.0w/v%である、[1]に記載の外用組成物。
【0009】
[3] (C)パントテニールエチルエーテルの濃度が0.1~2.0w/v%である、[1]または[2]に記載の外用組成物。
【0010】
[4] さらに、ピリドキシン塩酸塩、トコフェロール酢酸エステルおよびメントールから選択される少なくとも1種を含有する、[1]~[3]のいずれかに記載の外用組成物。
【0011】
[5] pHが5.0~8.0である、[1]~[4]のいずれかに記載の外用組成物。
【0012】
[6] ポリエチレンテレフタレートを主成分とする樹脂からなる容器に充填されている、[1]~[5]のいずれかに記載の外用組成物。
【0013】
[7] ミノキシジルを3~10w/v%含有する外用組成物に、ジブチルヒドロキシトルエンおよびパントテニールエチルエーテルを添加する、ミノキシジルの析出防止方法。」
イ 「【0020】
ミノキシジルを3~10w/v%含有する外用組成物にジブチルヒドロキシトルエンおよびパントテニールエチルエーテルの両方を配合することにより、それらを単独で配合した場合よりも、ミノキシジルの析出(特に、低温下での析出)を抑制できる。また、グリコール類を多量に含有せずにミノキシジルの析出を防止できるため、使用感が良好で、保存安定性に優れた外用組成物を得ることができる。また、パントテニールエチルエーテルに替えて、パンテノール、ヒノキチオール、ジフェンヒドラミン若しくはその塩、またはサリチル酸若しくはその塩を用いた場合にも同様の効果が期待される。」
ウ 「【実施例】
【0030】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0031】
表1~3に示す組成の外用組成物を常法に従って調製した。各組成物を50mL容量のガラス容器に充填し、表1および3に示す組成の外用組成物については4℃の恒温器で14日間、表2に示す組成の外用組成物については-20℃の恒温器で12日間静置した後、目視で結晶析出を観察した。結果を表1、表2の「低温安定性」の欄に示す。ここでは、析出が認められなかったものを「○」で示し、析出が認められたものを「×」で示した。
【0032】
【表1】
[図:0001428005000001.jpg]
【0033】
【表2】
[図:0001428005000002.jpg]
【0034】
表1および2に示すように、液剤100mLあたりミノキシジルを5g含有する液剤にジブチルヒドロキシトルエン(以下、BHTと略す場合がある)およびパントテニールエチルエーテルを配合すると、低温保存後にミノキシジルの析出はみられなかった(実施例1~5)。しかし、液剤にBHTまたはパントテニールエチルエーテルを単独で配合した場合では、ミノキシジルの析出が観察された(比較例1、2、5、6)。また、BHTと同じ抗酸化剤であるブチルヒドロキシアニソール(BHA)またはアスコルビン酸をパントテニールエチルエーテルと共に用いたところ、ミノキシジルの析出が見られた(比較例3、4)。
【0035】
【表3】
[図:0001428005000003.jpg]
【0036】
表3に示す組成物は、有効成分として、ミノキシジルおよびパントテニールエチルエーテルに加え、ピリドキシン塩酸塩、トコフェロール酢酸エステルおよびl-メントールをさらに含む。表1および2の結果と同様に、BHTおよびパントテニールエチルエーテルを含む液剤では、低温保存後にミノキシジルの析出が見られなかった(実施例6)のに対し、BHTまたはパントテニールエチルエーテルのどちらかのみを含む液剤ではミノキシジルの析出が見られた(比較例7、8)。
【0037】
表1~3に示される結果より、ミノキシジルを3~10w/v%含有する外用組成物にジブチルヒドロキシトルエンおよびパントテニールエチルエーテルの両方を配合することによって、それらを単独で配合した場合や、ジブチルヒドロキシトルエン以外の抗酸化剤を配合した場合よりもミノキシジルの析出を顕著に抑制できることがわかる。」
(4)検討
ア 上記(3)の発明の詳細な説明の記載によれば、本件発明のうち、(C)成分がパントテニールエチルエーテルである外用組成物については、ミノキシジルの析出を抑制できることが実施例5において具体的に確認され、上記(2)の課題を解決できると当業者は認識することができる。
一方、(C)成分がパンテノールである外用組成物については、発明の詳細な説明において、ミノキシジルの析出を抑制できることが具体的に確認されていない。
イ そこで、パンテノールに関する発明の詳細な説明の記載を検討すると、発明の詳細な説明の【0020】には、「パントテニールエチルエーテルに替えて、パンテノール、ヒノキチオール、ジフェンヒドラミン若しくはその塩、またはサリチル酸若しくはその塩を用いた場合にも同様の効果が期待される」と記載されている(上記(3)イ)。
そして、パントテニールエチルエーテルは、パンテノールの3つのヒドロキシ基のうち、1つのヒドロキシ基がエチルエーテル化された化合物であり、両者は化学構造が非常に近似し、その性質も近似していると認識できるから、(C)成分をパントテニールエチルエーテルに代えてパンテノールとした外用組成物についても、同様に、ミノキシジルの析出を抑制することができ、上記(2)の課題を解決することができると当業者が認識できると認められる。
ウ したがって、本件発明は、本件発明の解決しようとする課題を解決することができると認識できる範囲のものであり、発明の詳細な説明に記載されたものである。
(5)申立人の主張について
ア 申立人は、発明の詳細な説明は、(C)成分として、パントテニールエチルエーテルに代えて、パンテノールとしたときに、本件発明の解決しようとする課題を解決できるように記載されていないこと、具体的には、発明の詳細な説明においてパンテノールについて記載されているのは【0020】のみであるが、【0020】に記載された化合物は、それぞれ化学構造も物性も異なるから、同様の効果を奏すると認識できないこと、加えて、(B)成分のジブチルヒドロキシトルエン(BHT)を、化学構造の類似するブチルヒドロキシアニソール(BHA)に変更すると結晶が析出するのであるから(【表1】の比較例3)、(C)成分のパンテノールとパントテニールエチルエーテルについても、化学構造が類似していても、結晶析出について同じ効果を奏するとは認識できないことを挙げて、(C)成分がパンテノールである場合については、上記課題を解決することができると認識することはできないと主張している。
イ しかしながら、上記(4)イのとおり、パントテニールエチルエーテルは、パンテノールの3つのヒドロキシ基のうち、1つのヒドロキシ基をエチルエーテル化しただけの化合物であるから、両化合物は、化学構造が非常に近似しており、その性質も近似していると認識できる。
[図:0001428005000004.jpg]
一方、ジブチルヒドロキシトルエンとブチルヒドロキシアニソールは、(i)主骨格が、フェノールとヒドロキノンで異なり、(ii)かさ高いt-ブチル基の置換数及び置換位置が異なり、(iii)ベンゼン環の4位が、メトキシ基とメチル基で異なるから、化合物全体の化学構造が異なるといえる。
[図:0001428005000005.jpg]
そうすると、ジブチルヒドロキシトルエンをブチルヒドロキシアニソールに代えたときに、結晶の析出についての効果が異なるからといって、パントテニールエチルエーテルとパンテノールについても、同様に、結晶の析出について効果が異なると認識することはできない。
ウ そして、上記(4)イのとおり、発明の詳細な説明の【0020】には、「パントテニールエチルエーテルに替えて、パンテノール、ヒノキチオール、ジフェンヒドラミン若しくはその塩、またはサリチル酸若しくはその塩を用いた場合にも同様の効果が期待される」と記載され、上記イのとおり、パントテニールエチルエーテルとパンテノールは化学構造が非常に近似し、その性質も近似していると認識できるから、(C)成分を実施例で効果が確認されているパントテニールエチルエーテルに代えて、パンテノールとした外用組成物についても、パントテニールエチルエーテルと同様に、ミノキシジルの析出を抑制することができ、本件発明の解決しようとする課題を解決することができると当業者が認識できると認められる。
また、申立人は、パンテノールについて上記課題が解決できないとする具体的な根拠を提示していない。
したがって、申立人の上記主張は、採用することができない。
(6)まとめ
よって、本件発明1~14に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえないから、取消理由1及び申立理由3によって、取り消すべきものではない。
2 申立理由1、2(分割要件違反による新規性、進歩性欠如)について
(1)申立人の主張の概要
申立人は、原出願の願書に最初に添付した特許請求の範囲又は明細書(以下「原出願の当初明細書等」という。)において、(C)成分として具体的に記載されているのは、パントテニールエチルエーテルのみであり、パントテニールエチルエーテル以外の化合物の濃度は、原出願の当初明細書等に記載されておらず、第2世代分割出願の出願時の特許請求の範囲の請求項5において新たに追加されたものであること、そうすると、本件特許出願は分割要件を満たしておらず、原出願の時にしたものとみなすことはできないから、原出願の公開公報である甲1は、本件特許出願前に公開された刊行物であることを挙げて、本件発明は、甲1により、新規性、進歩性を欠如するものであると主張している。
(2)第2世代分割出願の出願時の特許請求の範囲の請求項5について
第2世代分割出願の出願時の特許請求の範囲の請求項5は、以下のとおりのものである。
「【請求項5】
(C)パントテニールエチルエーテル、パンテノール、ヒノキチオール、ジフェンヒドラミン若しくはその塩、またはサリチル酸若しくはその塩の濃度が0.1~2.0w/v%である、請求項1~4のいずれか1項に記載の外用組成物。」
(3)原出願の当初明細書等について
原出願の当初明細書等の【0019】~【0020】には、以下のとおり記載されている。
「【0019】
本発明の外用組成物に含まれる(C)パントテニールエチルエーテルは、(2R)-N-(3-エトキシプロピル)-2,4-ジヒドロキシ-3,3-ジメチルブタンアミドとも称される化合物である。本発明の外用組成物において、パントテニールエチルエーテルの濃度は、0.1~2.0w/v%であることが好ましく、0.3~1.5w/v%であることがより好ましく、0.5~1.0w/v%であることがさらに好ましい。
【0020】
ミノキシジルを3~10w/v%含有する外用組成物にジブチルヒドロキシトルエンおよびパントテニールエチルエーテルの両方を配合することにより、それらを単独で配合した場合よりも、ミノキシジルの析出(特に、低温下での析出)を抑制できる。また、グリコール類を多量に含有せずにミノキシジルの析出を防止できるため、使用感が良好で、保存安定性に優れた外用組成物を得ることができる。また、パントテニールエチルエーテルに替えて、パンテノール、ヒノキチオール、ジフェンヒドラミン若しくはその塩、またはサリチル酸若しくはその塩を用いた場合にも同様の効果が期待される。」
(4)パンテノールの濃度について
上記(3)のとおり、原出願の当初明細書等の【0019】には、「パントテニールエチルエーテルの濃度は、0.1~2.0w/v%である」と記載されているが、パントテニールエチルエーテル以外の化合物の濃度は、申立人が主張するように、明示的な記載はされていない。
しかしながら、上記【0020】に、パントテニールエチルエーテル以外の化合物について、パントテニールエチルエーテルと代替可能であり、同様の効果が期待されると記載されていれば、同様の効果を奏するための濃度についてもパントテニールエチルエーテルと同程度であると認識することができる。
そうすると、上記【0019】の記載に基づいて、パントテニールエチルエーテル以外の化合物の濃度を0.1~2.0w/v%とすることは、原出願の当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではないといえる。
したがって、第2世代分割出願は、分割要件を満たしているから、本件特許出願も、分割要件を満たしているといえる。
そして、本件特許出願が、分割要件を満たしている以上、本件特許の出願日は、原出願の出願の時にしたものとみなされるから、甲1は、本件特許の出願前に公開された文献ではなく、甲1による新規性欠如、進歩性欠如の主張は、理由がない。
(5)まとめ
よって、本件特許出願は、分割要件を満たしており、甲1による新規性欠如、進歩性欠如の主張は理由がないから、本件発明1~14に係る特許は、申立理由1、2によって、取り消すべきものではない。
3 申立理由4(実施可能要件違反)について
(1)実施可能要件の判断基準
特許法第36条第4項第1号は、明細書の発明の詳細な説明の記載は、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が、その実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでなければならないと定めるところ(いわゆる「実施可能要件」)、この規定にいう「実施」とは、物の発明においては、その物を作り、使用をする行為をいうものであるから(特許法第2条第3項第1号)、物の発明について実施可能要件を満たすためには、発明の詳細な説明の記載は、当業者が、その記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、当該発明に係る物を作り、使用をすることができる程度のものでなければならない。
以上を前提として、発明の詳細な説明の記載が、本件発明について実施可能要件を満たすものであるか検討する。
(2)作ることができること
上記1(3)ウのとおり、発明の詳細な説明には、本件発明1の具体例である実施例5の外用組成物を製造したことが記載されているから、当業者は、発明の詳細な説明の記載に基づいて、本件発明1を作ることができると理解することができ、本件発明2~14についても同様に作ることができると理解できると認められる。
(3)使用することができること
本件発明1~14は、外用組成物の発明であるところ、発明の詳細な説明の【0028】には、以下のとおり、本件発明の外用組成物の使用方法について記載されているから、当業者は、発明の詳細な説明の記載に基づいて、本件発明1~14を使用することができると理解できると認められる。
「【0028】
(使用方法)
本発明の外用組成物の使用方法は、使用対象の毛髪の状態、頭皮の状態、年齢、性別などによって異なるが、例えば以下の方法とすればよい。すなわち、1日数回(例えば、1~5回、好ましくは1~3回)、適量(例えば、0.5~2g、または0.5~2mL)を皮膚(例えば、頭皮)に適用すればよい。また、ミノキシジルの1日使用量が、例えば1~1000mgとなるように外用組成物を皮膚(例えば、頭皮)に適用すればよい。適用方法は、剤型に合わせて、塗布、噴霧等すればよい。適用期間は、例えば7日間以上で、育毛効果が十分に得られるまで適用すればよく、例えば6か月以内、少なくとも4か月以内とすればよい。」
(4)申立人の主張について
ア 申立人は、発明の詳細な説明に記載された実施例5、比較例5及び6について、第三者機関が再現実験を行った結果、下記の表-1、表-2のとおり、いずれの例においても結晶が析出し、実験を再現することができなかったと主張している。
[図:0001428005000006.jpg]
[図:0001428005000007.jpg]
具体的には、第三者機関による実施例5、比較例5及び6の再現実験では、いずれも「-20℃、12日間」の低温保存条件下において結晶の析出がみられ、また、「5℃、12日間」の保存条件下においてはいずれも結晶が析出せず、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)及びパントテニールエチルエーテルを配合した場合と、いずれか一方のみを配合した場合とで効果の差異はみられなかったから、実施例5、比較例5及び6は再現可能なように記載されたものではなく、発明の詳細な説明は、当業者が本件発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでないと主張している。
イ しかしながら、上記(1)のとおり、物の発明である本件発明1~14について、実施可能要件を満たすためには、発明の詳細な説明の記載は、当業者が、その記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、当該発明に係る物を作り、使用をすることができる程度のものでなければならないところ、上記(2)、(3)のとおり、当業者は、発明の詳細な説明の記載に基づいて、本件発明1~14を作ることができ、使用することができるものと理解することができる。
そして、第三者の再現実験によれば、「-20℃、12日間」の低温保存条件下において結晶の析出がみられたとしても、「5℃、12日間」の保存条件下においては結晶が析出しないのであるから、本件発明の外用組成物は、使用することができるものと認められる。
したがって、申立人の上記主張は、採用することができない。
(5)まとめ
以上のとおり、発明の詳細な説明の記載は、当業者が、本件発明1~14を作ることができ、使用することができる程度に記載されたものであるから、実施可能要件を満たすといえる。
よって、本件発明1~14に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしている特許出願に対してされたものであり、申立理由4によって、取り消すべきものではない。
5 申立理由5(甲8を主引例とする進歩性欠如)について
(1)甲8に記載された発明
ア 甲8の【0023】~【0025】には、以下の事項が記載されている。(なお、・・・は、記載を省略した箇所である。以下同様。)
「【0023】実施例2
実施例1と同様にして、表1に示す本発明品2~30のロ一ション剤を調製した。
・・・
(組成)
【0024】
【表1】
・・・
【0025】
【表2】
[図:0001428005000008.jpg]
」
イ 上記【表2】に記載された「本発明品18」は「ローション剤」であるから(【0023】)、「本発明品18」に基づいて、甲8には、以下の引用発明が記載されているといえる。
<引用発明>
「ミノキシジル 5.0g
L-メントール 0.17g
ビタミンEアセテート 0.02g
パントテニルエチルエーテル 0.44g
パンテノール 0.44g
塩酸ピリドキシン 0.02g
ヒノキチオール 0.02g
グリチルレチン酸 0.02g
塩酸ジフェンヒドラミン 0.01g
1,3-ブチレングリコール 23.0g
エタノール 47.0g
リン酸 適量
精製水 全量100mL
を含み、pHが6.0であるローション剤。」
(2)本件発明1について
ア 対比
(ア)本件発明1と引用発明を対比すると、引用発明の「ミノキシジル」は、本件発明1の「(A)ミノキシジル」に相当し、引用発明の「パントテニルエチルエーテル」と「パンテノール」は、本件発明1の「(C)パントテニールエチルエーテル又はパンテノール」に相当する。
また、引用発明の「リン酸」、「精製水」、「エタノール」は、それぞれ、本件発明1の「リン酸」、「水」、「エタノール」に相当する。
さらに、引用発明の「1,3-ブチレングリコール」は、本件発明1の「多価アルコール」及び「1,3-ブチレングリコールを含む多価アルコール」に相当する。
そして、引用発明の「pHが6.0であるローション剤」は、ローション剤が「外用組成物」であることから、本件発明1の「pHが5.5~7.0である外用組成物」に相当する。
(イ)次に、各成分の濃度について検討すると、引用発明は、精製水を配合して全量100mLとしているから、各成分の濃度は、w/v%で表される。
そして、精製水以外の成分の合計量は、リン酸の「適量」を除いて、76.14gであるから、精製水の配合量は、約23.86gといえる。
そうすると、引用発明における各成分の濃度は、以下のとおりとなる。
ミノキシジル 約5.0w/v%
L-メントール 約0.17w/v%
ビタミンEアセテート 約0.02w/v%
パントテニルエチルエーテル 約0.44w/v%
パンテノール 約0.44w/v%
塩酸ピリドキシン 約0.02w/v%
ヒノキチオール 約0.02w/v%
グリチルレチン酸 約0.02w/v%
塩酸ジフェンヒドラミン 約0.01w/v%
1,3-ブチレングリコール 約23.0w/v%
エタノール 約47.0w/v%
リン酸 適量
精製水 約23.86w/v%
上記引用発明における各成分の濃度のうち、ミノキシジルの約5.0w/v%、精製水の約23.86w/v%、1,3-ブチレングリコールの約23.0w/v%、エタノールの47.0w/v%は、本件発明1における、「ミノキシジルの濃度が4.5~7w/v%」、「水の配合量が10~40w/v%」、「1,3-ブチレングリコールを含む多価アルコールの配合量が8~30w/v%」、「エタノールを25~55w/v%の割合で含有」に相当する。
(ウ)そして、引用発明は、塩化カルプロニウム又はその水和物を含有する組成物ではないから、引用発明は、本件発明1における「ただし、外用組成物が、塩化カルプロニウム又はその水和物を含有する組成物である場合を除く」ものに相当する。
(エ)以上によれば、本件発明1と引用発明の一致点及び相違点は、以下のとおりである。
<一致点>
「(A)ミノキシジル、および(C)パントテニールエチルエーテル又はパンテノールを含有し、
さらに、リン酸、水、エタノール及び多価アルコールを含有し、
ミノキシジルの濃度が4.5~7w/v%であり、
水の配合量が10~40w/v%であり、
1,3-ブチレングリコールを含む多価アルコールの配合量が8~30w/v%であり、
エタノールを25~55w/v%の割合で含有し、
pHが5.5~7.0である外用組成物(ただし、外用組成物が、塩化カルプロニウム又はその水和物を含有する組成物である場合を除く)。」
<相違点1>
本件発明1は、(B)成分として、「ジブチルヒドロキシトルエン」を「0.01~1.0w/v%」の濃度で含有するのに対し、引用発明は、ジブチルヒドロキシトルエンを含有しない点。
<相違点2>
本件発明1は、「(C)パントテニールエチルエーテル又はパンテノールの濃度が0.5~1w/v%」であるのに対し、引用発明は、パントテニールエチルエーテルの濃度が0.44w/v%、パンテノールの濃度が0.44w/v%である点。
イ 相違点1の判断
(ア)甲8の記載
甲8の【0017】には、ジブチルヒドロキシトルエンに関する以下の記載がある。
「【0017】本発明の育毛剤組成物においては、上記した成分の他、一般の外用剤に使用される種々の成分、例えば、賦形剤、血管拡張剤(塩化カルプロニウム、ニコチン酸ベンジル、センブリ抽出液、オタネニンジンエキス、トウガラシチンキなど)、抗ヒスタミン剤(塩酸イソチペンジルなど)、抗炎症剤(グアイアズレンなど)、角質溶解剤(尿素、サリチル酸など)、殺菌剤(グルコン酸クロルヘキシジン、イソプロピルメチルフェノール、第4級アンモニウム塩、ピロクトンオラミンなど)、保湿剤(ヒアルロン酸ナトリウム、コンドロイチン硫酸など)、各種動植物(イチイ、ボタンピ、カンゾウ、オトギリソウ、附子、ビワ、カワラヨモギ、コンフリー、アシタバ、サフラン、サンシシ、ローズマリー、セージ、モッコウ、セイモッコウ、ホップ、プラセンタなど)の抽出物、ビタミン類(酢酸レチノール、アスコルビン酸、硝酸チアミン、シアノコバラミン、ビオチンなど)、抗酸化剤(ジブチルヒドロキシトルエン、ピロ亜硫酸ナトリウム、トコフェロール、エデト酸ナトリウム、アスコルビン酸、イソプロピルガレートなど)、溶解補助剤(アジピン酸ジイソプロピル、ミリスチン酸イソプロピル、各種植物油、各種動物油、炭化水素類など)、代謝賦活剤(パンテノールなど)、ゲル化剤(水溶性高分子など)、粘着剤、香料、清涼化剤(ハッカ油、カンフルなど)、染料などの通常使用される成分を本発明の効呆を損なわない範囲で配合することができる。」(当審注:「効呆」は「効果」の自明な誤記と認める。)
上記【0017】によれば、甲8には、引用発明において、一般の外用剤に使用されるジブチルヒドロキシトルエンなどの抗酸化剤を配合しても良いことが記載されているといえる。
(イ)本件明細書の記載
一方、本件明細書には、ジブチルヒドロキシトルエンについて以下のとおり記載されている。
「【0018】
本発明の外用組成物に含まれる(B)ジブチルヒドロキシトルエンは、2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾールとも呼ばれる芳香族化合物の一種であり、一般的には抗酸化剤として知られている。」
「【0033】
【表2】
[図:0001428005000009.jpg]
【0034】
表1および2に示すように、液剤100mLあたりミノキシジルを5g含有する液剤にジブチルヒドロキシトルエン(以下、BHTと略す場合がある)およびパントテニールエチルエーテルを配合すると、低温保存後にミノキシジルの析出はみられなかった(実施例1~5)。しかし、液剤にBHTまたはパントテニールエチルエーテルを単独で配合した場合では、ミノキシジルの析出が観察された(比較例1、2、5、6)。また、BHTと同じ抗酸化剤であるブチルヒドロキシアニソール(BHA)またはアスコルビン酸をパントテニールエチルエーテルと共に用いたところ、ミノキシジルの析出が見られた(比較例3、4)。」
(ウ)判断
上記(イ)のとおり、本件明細書には、ジブチルヒドロキシトルエンは、一般的には抗酸化剤として知られている成分であるが、パントテニールエチルエーテルと共に配合すると、ミノキシジルの析出がみられないのに対し、ジブチルヒドロキシトルエン又はパントテニールエチルエーテルを単独で配合すると、析出が観察されること、ジブチルヒドロキシトルエンと同じ抗酸化剤であるブチルヒドロキシアニソールやアスコルビン酸に変更すると、パントテニールエチルエーテルと共に配合しても析出がみられることが記載されている。すなわち、本件明細書には、ジブチルヒドロキシトルエンは、一般的には抗酸化剤として知られている成分であるが、本件発明1においては、パントテニールエチルエーテルと共に配合することで、ミノキシジルの析出がみられないようにするために配合している成分であることが記載されている。
一方、上記(ア)のとおり、甲8には、ジブチルヒドロキシトルエンを配合しても良いことは記載されていても、一般の外用剤に使用される抗酸化剤として記載されているにすぎず、パントテニールエチルエーテルと共に配合することで、ミノキシジルの析出がみられないようにするために、配合することは記載されていない。
そうすると、引用発明において、パントテニールエチルエーテルと共に配合することで、ミノキシジルの析出がみられないようにするために、ジブチルヒドロキシトルエンを配合することは、当業者が容易に行うことではない。
したがって、引用発明において、相違点1に係る本件発明1の構成を採用することは、当業者が容易に行うことではない。
ウ 本件発明1の効果について
上記イ(イ)、(ウ)のとおりの本件明細書の記載によれば、本件発明1は、ジブチルヒドロキシトルエンとパントテニールエチルエーテルを共に配合することで、ミノキシジルの析出がみられないという優れた効果を奏することが理解できる。
一方、申立人が提出した甲1~甲21を検討しても、本件発明1の上記効果について、当業者が予測し得るといえる理由は見当たらない。
したがって、本件発明1は、当業者が予測し得ないような優れた効果を奏するものである。
エ 申立人の主張について
(ア)引用発明の認定について
a 申立人は、甲8の【0017】には、抗酸化剤としてジブチルヒドロキシトルエンを配合できることが記載されているから、甲8に記載された「本発明品18」にジブチルヒドロキシトルエンを含有してもよい発明(甲8発明)を認定することができること、そうすると、本件発明1と甲8発明は、(B)ジブチルヒドロキシトルエンを含有する点でも一致すると主張している(申立書51頁1行~55頁表の下から8行)。
b しかしながら、「本発明品18」は、ジブチルヒドロキシトルエンを含有しておらず、また、甲8の【0017】(上記イ(ア)参照)に多数列挙された種々の成分の中から、特にジブチルヒドロキシトルエンを選択して本発明品18に配合した発明が記載されているといえる理由もないから、申立人が主張する甲8発明が、甲8に記載されているということはできない。
したがって、申立人の上記主張は、採用することができない。
(イ)相違点1の判断について
a 申立人は、甲8の【0017】に、抗酸化剤としてジブチルヒドロキシトルエンを配合できることが記載されていることに加え、ジブチルヒドロキシトルエンは、ミノキシジルを有効成分とする育毛組成物に配合される抗酸化剤の第一選択肢であるから、本発明品18に抗酸化剤としてジブチルヒドロキシトルエンを配合することは、当業者が容易に想到し得たことであると主張している。
すなわち、甲15には、2009年6月に販売開始された「RiUP X5」の成分としてジブチルヒドロキシトルエンが記載され、甲16には、2015年10月に販売開始された「RiUP X5 PLUS」の成分としてジブチルヒドロキシトルエンが記載されており、さらに、本件優先日である2017年9月4日当時、RiUP(リアップ)シリーズは、発毛剤・育毛剤市場における主力製品であり(甲17・ダイヤモンド・オンライン掲載記事「大正製薬「リアップ」の牙城危うし!5社が後発品を準備中」(2018年6月4日掲載)、https://diamond.jp/articles/-/171500)、第2世代分割出願の出願日である2023年9月15日当時も、同製品は依然として高いシェアを維持しているから(甲18・大正製薬ホールディングス・オンライン掲載記事「3分でわかる大正製薬」(掲載日不詳)(https://web.archive.org/web/20231111235836/https://www.taisho-holdings.co.jp/investors/digest/))、リアップシリーズを参考にして、本発明品18に、抗酸化剤としてジブチルヒドロキシトルエンをさらに配合することは、本件優先日当時の技術常識ないし周知技術に基づいて当業者が容易に想到し得たことであると主張している(申立書58頁下から4行~60頁12行)。
b しかしながら、申立人が主張の根拠とする上記甲号証のうち、甲17は、掲載日が2018年6月4日であり、甲18は、掲載日が不詳であるから、いずれも、本件優先日当時公知の証拠ではない。また、甲15、甲16によれば、本件優先日当時のミノキシジルを有効成分とする育毛組成物にジブチルヒドロキシトルエンが含まれているものがあることは理解できるが、第一選択肢とまでいえるかどうかは定かではない。むしろ、甲8の【0017】には、上記イ(ア)のとおり、「【0017】本発明の育毛剤組成物においては、上記した成分の他、一般の外用剤に使用される種々の成分、例えば、・・・抗酸化剤(ジブチルヒドロキシトルエン、ピロ亜硫酸ナトリウム、トコフェロール、エデト酸ナトリウム、アスコルビン酸、イソプロピルガレートなど)、・・・などの通常使用される成分を本発明の効呆を損なわない範囲で配合することができる。」と記載されているから、ジブチルヒドロキシトルエンは、他の抗酸化剤と代替可能な抗酸化剤であり、第一選択肢として認識されていたと理解することはできない。
そして、ジブチルヒドロキシトルエンは、一般的には抗酸化剤として知られており、上記イのとおり、引用発明において、パントテニールエチルエーテルと共に配合することで、ミノキシジルの析出がみられないようにするために、ジブチルヒドロキシトルエンを配合することは、当業者が容易に行うことではない。
したがって、申立人の上記主張は、採用することができない。
(ウ)甲8に記載された発明と比較した有利な効果について
a 申立人は、(i)本件明細書において、効果が具体的に確認されているのは、実施例5の1点のみであり、実施例5から、各成分の濃度、pHを変更し、その他の成分を含有させた本件発明1については、実施例5と同様の効果が認識できないこと、(ii)甲9には、低温でも結晶が析出しないミノキシジル製剤が記載され、甲8に記載された「本発明品18」と近い組成の製剤も記載されているから、甲8に記載された「本発明品18」は、低温でも結晶が析出しない可能性が高いと合理的に認識することができ、そうすると、本件発明1における低温でも結晶が析出しないという効果は、甲8の記載から予測し得たといえること、(iii)本件明細書記載の実施例5、比較例5及び6は、第三者の再現実験の結果、結晶が析出し、再現することができなかったから、信頼性に欠けること、(iv)(C)成分がパンテノールである場合の有利な効果は確認されていないこと、を挙げて、本件発明1は、甲8に記載された発明と比較した有利な効果を奏するとはいえないと主張している(申立書62頁下から12行~71頁3行)。
b しかしながら、(i)上記ウのとおり、本件明細書には、ジブチルヒドロキシトルエンとパントテニールエチルエーテルを共に配合すると、ミノキシジルの析出がみられないという優れた効果を奏することが実施例、比較例によって、具体的に記載されており、ジブチルヒドロキシトルエンとパントテニールエチルエーテルを共に配合することが、上記効果を奏するために必要であることが理解できるから、各成分の濃度、pHを変更し、その他の成分を含有させたとしても、ジブチルヒドロキシトルエンとパントテニールエチルエーテルを共に配合していれば、上記効果を奏すると認識することができ、また、上記効果を奏しないといえる具体的な理由もみあたらない。
また、(ii)甲8に記載された本発明品18について検討するにあたり、当業者が敢えて甲9における結晶の析出性について参酌する理由はない。
そして、(iii)第三者の1回の再現実験によって、本件明細書記載の実施例、比較例が再現できなかったというだけでは、本件明細書記載の実施例、比較例が信頼性に欠けるとまではいうことはできない。
さらに、(iv)上記1(4)イのとおり、パントテニールエチルエーテルは、パンテノールの3つのヒドロキシ基のうち、1つのヒドロキシ基がエチルエーテル化された化合物であり、両者は化学構造が非常に近似しており、その性質も近似していると認識できるから、パントテニールエチルエーテルと同様に、パンテノールについても、優れた効果を奏すると認識することができる。
したがって、申立人の上記主張は、採用することができない。
オ 小括
よって、相違点2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲8に記載された発明、甲9に記載された技術事項、及び本件優先日当時の技術常識ないし周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)本件発明2~14について
本件発明2~10は、本件発明1を直接又は間接的に引用するものであり、本件発明11~14は、本件発明1において、さらに、他の成分を特定し、又は、充填する容器を特定した発明であって、いずれも、上記(2)アに挙げた「相違点1」を引用発明との間に有するから、上記(2)イ~オのとおり、本件発明2~14は、甲8に記載された発明、甲9に記載された技術事項、及び本件優先日当時の技術常識ないし周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(4)まとめ
よって、本件発明1~14は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものとはいえないから、本件発明1~14に係る特許は、申立理由5によって、取り消すことはできない。
第6 むすび
以上のとおりであるから、本件特許の請求項1~14に係る特許は、取消理由通知書における取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議の申立ての理由によっては取り消すことができない。
また、他に本件特許の請求項1~14に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2025-700492