特許異議申立
2025-700364
青海苔香を有する固形組成物
- 審判番号
- 2025-700364
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2021-551179
- 登録番号
- 7558183
- 請求日
- 2025年03月31日
- 審決日
- 2025年09月24日
- 公報発行日
- 2025年10月31日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】サントリーホールディングス株式会社
- 【権利者代理人】山本 修
- 【権利者代理人】宮前 徹
- 【権利者代理人】松尾 淳一
- 【権利者代理人】武田 健志
- 【異議申立人】坪井 この美
- 審判長/審判官
- 審判長 松田 成正
- 審判官 加藤 友也
- 審判官 柴田 昌弘
- 分類
- P1651.121-Y (A23F) / P1651.537-Y (A23F)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法36条6項1号特許法113条4号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第2項、特許法第113条第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7558183号発明「青海苔香を有する固形組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7558183号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7558183号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし5に係る特許についての出願は、2020年(令和2年)9月25日(優先権主張 2019年(令和1年)9月30日)を国際出願日とする出願であって、令和6年9月19日にその特許権の設定登録(請求項の数5)がされ、同年同月30日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、令和7年3月31日に特許異議申立人 坪井 この美(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:全請求項)がされたものである。
第2 本件特許発明
本件特許の請求項1ないし5に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」のようにいい、これらをまとめて「本件特許発明」という。)は、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
ジメチルスルフィド及びβ-イオノンを含有し、β-イオノン含有量のジメチルスルフィド含有量に対する重量比が0.003~0.8であり、煎茶の茶葉抽出物を含有する、固形組成物。
【請求項2】
粉末組成物である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
2種類以上のデキストリンを含有する、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
直鎖状デキストリン及び環状デキストリンを含有する、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
α-イオノン、β-シクロシトラール、(z)-3-ヘキセノール、1-ペンテン-3-オール、ヘキサナール及びネロリドールからなる群より選択される一以上の芳香成分をさらに含有する、請求項1~4のいずれか1項に記載の組成物。」
第3 特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要等
令和7年3月31日に特許異議申立人が提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書」という。)に記載した申立ての理由の概要及び証拠方法は次のとおりである。
1 申立理由1(甲第1号証を主たる証拠とする進歩性)
本件特許の請求項1ないし5に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明に基いて、本件特許の優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし5に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
2 申立理由2(サポート要件)
本件特許の請求項1ないし5に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
(1)本件特許の明細書の【0069】、【0072】の結果は、茶葉の留出液及びβ-イオノン標準品を添加せず、パウダーを溶解しただけの試料(コントロール)を3.0点として各種試料に対して1点~5点の間で採点しているが(【0068】)、各種試料のジメチルスルフィドの濃度(200ppb又は198ppb)は、コントロール(甲4記載の計算から2.1ppb)の約100倍である。そして、ジメチルスルフィドの濃度が高い玉露において、浅草海苔様の臭いが強く感じられることは周知であるので(甲1)、ジメチルスルフィドの濃度が100倍増加すれば、茶葉抽出物の青海苔香の余韻も増強されると認識することが合理的である。
よって、本件特許の明細書の表1及び表2の結果は単に、青海苔香の原因であるジメチルスルフィドの濃度が100倍に増量したことにより、青海苔香の余韻が増強されたという至極当然のことを示しているに過ぎず、「本件重量比」を特定に範囲とすることにより、課題が解決できることを示していない。
また、本件特許の明細書には、「本件重量比」が、いかなる作用機序に基づいて青海苔香の余韻を増強させるかについての技術的説明がなく、「本件重量比」を特定の範囲とすることにより、ジメチルスルフィドによる青海苔香の余韻が増強されるという技術常識は存在しない。
よって、本件発明、特に「本件重量比」の構成と、作用効果との関係の技術的意味が不明であり、当業者は、本件発明により課題を解決できることを合理的に認識することはできない。
(2)香気成分には、臭いを感じることができる最低濃度(閾値)が存在するが、本件特許発明では、「本件重量比」のみが特定され、ジメチルスルフィド及びβ-イオノンの含有量は特定されていないので、これらの濃度が閾値未満であっても課題を解決できることは実証されておらず、また、その裏付けとなる技術的説明もない。
よって、当業者は、具体的な含有量が全く特定されていない本件発明により、課題を解決できることを合理的に認識することはできない。
(3)溶液中の香気物質の濃度が、香気に影響を与えることは技術常識であり、香気成分には、臭いを感じることができる最低濃度(閾値)が存在するが、本件特許の明細書には、媒体が特定量である試料の評価しか記載されておらず、ジメチルスルフィド及びβ-イオノンの濃度が閾値未満になっても課題を解決できることの技術的説明が存在しない。
よって、当業者は、媒体の量によってジメチルスルフィド及びβ-イオノンの濃度が閾値未満になっても、課題を解決できることを合理的に認識することはできない。
3 証拠方法
甲第1号証:川上美智子著、茶の香り研究ノート -製造にみる多様性の視点から-、初版、2000年11月20日発行、株式会社光生館、53頁、59頁、61-64頁
甲第2号証:特開平6-296457号
甲第3号証:Marcel Zhu, et al., Determination of Volatile Chemical Constitutes in Tea by Simultaneous Distillation Extraction, Vacuum Hydrodistillation and Thermal Desorption, CHROMATOGRA PHIA, Vol.68, no.7-8. 8 August 2008, pages 603-610
甲第4号証:「コントロール」中のDS濃度の算出過程を記載した書面、作成者:坪井この美、令和7年3月13日作成
甲第5号証:特開昭60-210949号公報
甲第6号証:特開平5-304890号公報
甲第7号証:国際公開第2019/159869号
甲第8号証:中林敏郎ほか著、緑茶・紅茶・烏龍茶の化学と機能、訂正一版、1994年6月10日、弘学出版株式会社、87-89頁
なお、証拠の表記については、概ね特許異議申立書の記載にしたがった。以下、順に「甲1」のようにいう。
第4 当審の判断
当審は、申立理由1及び2には、以下のとおり理由がないと判断する。
1 申立理由1(甲1を主たる証拠とする進歩性)について
(1)甲1に記載された事項等
甲1には、被覆茶のヘッドスペースガス分析に関して、次の記載がある。
・「2.Tenax GCによるHead Space Gas分析
試料は、次の4種である。
被覆茶3種:碾茶(京都,福寿園製),玉露(京都,福寿園製)
かぶせ玉露(茨城奥久慈,吉成園製)
露天茶1種:煎茶(茨城奥久慈,吉成園製)
煎茶と被覆茶のガスクロマトグラムを図lV-6に示した。各ピークの高さ比率および同定物質を表lV-8に示した。」(61頁11-19行)
・「
[図:0001427993000001.jpg]
」(62頁図IV-6)
・「一方,玉露と煎茶の香気パターンの比較から,dimethylsulfide(ピーク1)および2-methylpropanal,3-methylbutanal(2),pentanal(3),heptanal (7)などの低沸点アルデヒドが玉露の特有成分と考えられた。また,高沸点成分ではα-ionone,β-iononeが玉露の方に僅かに多く認められた。」(62頁3-6行)
・「
[図:0001427993000002.jpg]
」(63頁表IV-8.)
・「
[図:0001427993000003.jpg]
」(64頁表IV-8.続き)
・「以上の結果から,被覆茶が有する香気〈覆い香〉は,(1)(当審注:「(1)」は、○の中に1を表す。)トップノート成分であるdimethyl sulfide(海苔様香気),3-methylbutanal, pentanal(いずれも甘い異臭),2-methyl-propanalの含有比および絶対量が高いこと,(2)(当審注:「(2)」は、○の中に2を表す。)被覆によりC6化合物の生成が抑えられ,緑荼の碁本的な香りである〈青臭さ〉が弱いこと,(3)(当審注:「(3)」は、○の中に1を表す。)高沸点成分であるα-ionone,β-iononeなどヨノン系化合物の含量がやや高く,花様の香りが付加されること,以上の3点の要因が絡って形成されると考えられた。」(64頁1-6行)
甲1に記載された事項を、特に、表IV-8にヘッドスペースのガス成分を分析した結果が記載されている煎茶について整理すると、当該煎茶は、ガスクロマトグラフィーで分析されていることからみて、煎茶の茶葉を抽出することにより得られた抽出液であると解され、表IV-8及び62頁3-6行の記載からみて、ジメチルスルフィド及びβ-イオノンを含むといえるから、甲1には次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認める。
<甲1発明>
「ジメチルスルフィド及びβ-イオノンを含有し、β-イオノン含有量のジメチルスルフィド含有量に対する重量比がある一定量であり、煎茶の茶葉抽出物を含有する、液体組成物。」
(2)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲1発明とは、以下の点で一致する。
<一致点>
「ジメチルスルフィド及びβ-イオノンを含有し、煎茶の茶葉抽出物を含有する、組成物。」
そして、両者は、以下の点で相違する。
<相違点1-1>
本件特許発明1は「β-イオノン含有量のジメチルスルフィド含有量に対する重量比が0.003~0.8」であるのに対し、甲1発明は当該重量比が不明である点。
<相違点1-2>
本件特許発明1は「粉末組成物」であるのに対し、甲1発明は「液体組成物」である点。
イ 判断
上記相違点1-1について検討する。
甲1には、甲1発明の組成物の、β-イオノン含有量のジメチルスルフィド含有量に対する重量比が0.003~0.8であることは記載されていないし、甲1及び他の証拠をみても、甲1発明の組成物の、β-イオノン含有量のジメチルスルフィド含有量に対する重量比が0.003~0.8である蓋然性が高いと判断する理由もない。
したがって、上記相違点1-1は実質的な相違点である。
そして、甲1及び他の証拠をみても、甲1発明においてβ-イオノン含有量のジメチルスルフィド含有量に対する重量比を0.003~0.8とする動機付けがない。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、甲1発明において、相違点1-1に係る本件特許発明1の発明特定事項を満たすものとすることは、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ 特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は特許異議申立書(14-15頁)において、下記の(ア)~(ウ)の根拠を示して、甲1~甲3及び周知技術(甲7)に基づいて、煎茶の抽出物である甲1発明において、青海苔香の余韻を高めるために、ジメチルスルフィドとβ-イオノンに着目し、「本件重量比」が本件発明1の範囲(0.003~0.8)となるようにジメチルスルフィドを添加することは当業者が容易に想到し得る程度のことである、主張をしている。
(ア)甲1(62頁3-6行)では、被覆茶が有する香気の要因として、ジメチルスルフィド及びβ-イオノン等のヨノン系化合物が重要であることが記載されていることから、甲1は、煎茶抽出物の香気の改善において、ジメチルスルフィドとβ-イオノンに着目することを示唆している。
(イ)甲2には、お茶の呈味及び香気をさらに強化することを目的として、ジメチルスルフィドを添加できることが記載されている(段落【0014】)。また、甲7より、緑茶風味を感じさせる観点から、香気成分としてジメチルスルフィドやβ-イオノン(甲第7号証の「β-ヨノン」と同じ。)を加えることができることは周知技術である。
(ウ)甲1には、緑茶の一種である「玉露」のヘッドスペースガス成分の分析において、ジメチルスルフィドのピークの高さ比率が「8.0」及び「12.1」であり、β-イオノンのピークの高さ比率が「0.3」であることが記載されている。β-イオノンのジメチルスルフィドに対するピーク高さ比率の比は「0.0375」、「0.025」である。
甲3には、「Green tea」(緑茶)の茶葉のフレーバー化合物を、昇温脱離により分析したところ、GC-MS割合でジメチルスルフィドが「4.98」であり、β-イオノンが「2.84」であることが記載されている(表4)。β-イオノンのジメチルスルフィドに対するGC-MS割合の比は「0.57」(2.84/4.98)である。
また、甲1のピークの高さ比率及び甲3のGC-MS割合は、茶葉抽出物中の成分の含有量に依存すると解される。
これらを考慮すれば、「本件重量比」が本件発明1の範囲(0.003~0.8)であることは、緑茶(煎茶、玉露等)の茶葉抽出物において一般的である。
しかし、上記(ア)ないし(ウ)に対して、それぞれ以下の理由から、特許異議申立人の主張は採用することができない。
(ア)甲1の62頁3-6行には、ジメチルスルフィド、β-イオノンのほかに、ペンタナールやヘプタナール等の低沸点アルデヒドや高沸点成分としてα-イオノンも例示されているので、甲1の当該記載からジメチルスルフィドとβ-イオノンに着目する動機付けがあるとはいえない。
(イ)甲2の【0014】には、お茶の呈味および香気をさらに強化することを目的として、茶葉粉末と共にジメチルサルファイドを添加することが記載されているものの、ジメチルスルフィドをβ-イオノンと併用することは記載されていない。そして、甲7の[0031]には、茶フレーバーとしてジメチルスルフィド及びβ-ヨノンが他の多くの化合物と共に例示されているものの、ジメチルスルフィドをβ-イオノンと併用することに着目した記載はない。そうすると、甲2及び甲7の記載から、甲1発明においてβ-イオノン含有量のジメチルスルフィド含有量に対する重量比を0.003~0.8とする動機付けがあるとはいえない。
(ウ)甲1で測定されているのはヘッドスペースガス成分であり、ジメチルスルフィドは低沸点成分であり、βイオノンは高沸点成分であることを考慮すると、ヘッドスペースガス成分が甲1発明の液体組成物の組成を示すものとはいえない。仮に、甲1記載のヘッドスペースガス成分の組成比が甲1発明の液体組成物の組成比と同じであるとしても、甲1発明の液体組成物を噴霧乾燥等によって固形組成物にする際には、その組成比も変化すると解されるから、甲1発明から固形組成物を得る際に、β-イオノン含有量のジメチルスルフィド含有量に対する重量比を0.003~0.8とする動機付けがあるとはいえない。また、甲3に記載された昇温脱離は、茶葉そのものに含まれる揮発性化合物を測定したものであり、茶葉の抽出液を乾燥し得てられる固型組成物を水に溶解した試料を測定したものではない。そして、甲3に記載された3つの測定方法のうち、残りの2つの測定方法ではβ-イオノン含有量のジメチルスルフィド含有量に対する重量比が0.003~0.8ではなく(甲3の表2、表3)、3つの測定方法の中では、表2に結果が示されているVHDが茶の揮発性成分の分析に最も適していると甲3には記載されている(609頁右欄2-5行)。そうすると、甲3の記載から、甲1発明においてβ-イオノン含有量のジメチルスルフィド含有量に対する重量比を0.003~0.8とする動機付けがあるとはいえない。
よって、本件特許発明1は、甲1発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3)本件特許発明2ないし5について
本件特許発明2ないし5は、請求項1の記載を直接又は間接的に引用するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て含むものである。
そうすると、本件特許発明2ないし5と甲1発明とは、少なくとも上記相違点1-1において相違するから、本件特許発明2ないし5は、甲1飲料発明であるとはいえない。
また、甲1及び他の証拠に記載された事項を考慮しても、甲1発明において、上記相違点1-1に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用する動機付けがあるとはいえないことは、上記(2)イにおいて検討したとおりである。
よって、本件特許発明2ないし5は、甲1発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(4)申立理由1についてのまとめ
したがって、本件特許発明1ないし5は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえない。
よって、本件特許の請求項1ないし5に係る特許は、特許法第113条第2号に該当せず、申立理由1によっては取り消すことはできない。
2 申立理由2(サポート要件)について
(1)サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
(2)特許請求の範囲の記載
特許請求の範囲の記載は上記第2のとおりである。
(3)本件特許発明が解決しようとする課題
本件特許の明細書の発明の詳細な説明の【0005】の記載からみて、本件特許発明1ないし5が解決しようとする課題は、水などの媒体に添加したときに、青海苔香をもたらし、且つその香りが持続して感じられる固形組成物を提供することであると認められる(以下、「本発明の課題」という。)。
(4)サポート要件の判断
本件特許の明細書の発明の詳細な説明の【0011】、【0012】、【0014】~【0016】、【0020】、【0022】、【0029】、【0032】及び【0036】本件特許発明1ないし5に対応する記載がある。そして、同【0050】~【0073】に記載された実施例において、市販のかぶせ茶又は煎茶の茶葉抽出液に、市販のかぶせ茶の茶葉留出液を混合し、噴霧乾燥して得られた3種類の粉末組成物(β-イオノン含有量のジメチルスルフィド含有量に対する重量比はそれぞれ、8/83=0.096、8/54=0.15、11/30=0.37)を水に溶解したところ、いずれも青海苔香として優れた香りが感じられたことが記載されており(【0056】、【0060】)、さらに、市販の煎茶の茶葉抽出液にデキストリン等を加えたものを噴霧乾燥処理して得た粉末茶(パウダー)をベースとし、これに対して、ジメチルスルフィド濃度が11504ppbであり、β-イオノン濃度はほぼ0ppbである活性炭処理を行った茶葉の留出液と、β-イオノンの標準品と、水とを加えて調製した試料のうち、β-イオノン含有量のジメチルスルフィド含有量に対する重量比が0.003~3を満たす試料1-1~1-8並びに試料2-1~2-4は、上記ベースとした粉末茶に水のみを加えて、活性炭処理を行った茶葉の留出液やβ-イオノンの標準品を加えなかったもの(コントロール)と比して飲み終わりに感じられる青海苔香の余韻がよいことが示されている(【表1】、【表2】)。
そうすると、本件特許の明細書の発明の詳細な説明の記載から、煎茶の茶葉抽出液を含み、ジメチルスルフィド及びβ-イオノンを含有し、β-イオノン含有量のジメチルスルフィド含有量に対する重量比が0.003~3の範囲である固形組成物であれば、本発明の課題を解決できると当業者は認識する。
そして、本件特許発明1は、上記発明特定事項をすべて満たすものであるから、発明の詳細な説明の記載から当業者が本発明の課題を解決できると認識できる範囲のものである。
したがって、本件特許の明細書の上記記載並びに出願時の技術常識を踏まえれば、当業者であれば本件特許発明1の構成を満たせば本発明の課題が解決できるものと理解する。本件特許発明1の発明特定事項の全てを有し、さらに限定するものである本件特許発明2ないし5についても同様である。
よって、本件特許発明1ないし5に記載された発明は、発明の詳細な説明に記載されたものであり、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を充足する。
(5)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は特許異議申立書(20-23頁)において、上記第3 2の主張しているので、順に検討する。
ア 上記第3 2(1)の主張について
特許異議申立人は、本件特許の明細書に記載された実施例は、ジメチルスルフィド濃度が各種試料と比して100分の1程度の、パウダーを溶解しただけの試料(コントロール)を3.0点として評価しており、ジメチルスルフィドの濃度が100倍増加すれば、茶葉抽出物の青海苔香の余韻も増強されると認識することが合理的である、と主張している。
しかし、本件特許の明細書の発明の詳細な説明の【0015】には、ジメチルスルフィドのみではトップノートに感じられる青海苔香の香ばしい香りのみが強調されること、ジメチルスルフィドに対して所定の重量比でβ-イオノンを組み合わせることで、玉露のような上質な茶飲料の飲み終わりに感じられる華やかな甘い芳香が付与され、芳香のバランスの優れた厚みのある青海苔香が感じられるようになることが記載されており、ジメチルスルフィドの濃度が100倍増加すれば、青海苔香の香ばしい香りが持続して飲み終わりまで感じられるとはいえない。また、特許異議申立人は、ジメチルスルフィドの濃度が100倍増加すれば、茶葉抽出物の青海苔香の余韻も増強されることを示す、具体的な証拠を提示するものでもない。
したがって、特許異議申立人の上記主張は、上記(4)の判断に影響するものではない。
イ 上記第3 2(2)の主張について
本件特許の明細書の【0017】及び【0018】には、ジメチルスルフィド及びβ-イオノンの含有量がそれぞれ記載されており、どちらについても、例えば、0.001ppm以上であることが記載されているので、ジメチルスルフィド及びβ-イオノンがごくわずかな量であっても含有されていればよいことが理解できる。そして、特許異議申立人は、ジメチルスルフィド及びβ-イオノンの含有量が少なく、これらの濃度が閾値未満である場合に本発明の課題を解決できないことを示す具体的な証拠を提示するものでもない。
したがって、特許異議申立人の主張は、上記(4)の判断に影響するものではない。
ウ 上記第3 2(3)の主張について
本件特許発明は「固形組成物」に係る発明であり、水などの媒体に添加したときに本発明の課題を解決できることは、上記(4)において検討したとおりである。そして、本件特許の明細書の【0038】には、本発明の固形組成物を液体に含有させる場合の溶液中の含有量が記載されており、ジメチルスルフィド及びβ-イオノンの濃度が閾値未満になるほど希釈することは想定されていないし、仮に、閾値未満になるほど希釈した場合に本発明の課題を解決できないとしても、「固形組成物」に係る発明である本件特許発明が、サポート要件を充足することに変わりはない。
したがって、特許異議申立人の主張は、上記(4)の判断に影響するものではない。
(6)申立理由2についてのまとめ
上記(4)及び(5)に記載したとおり、本件特許の請求項1ないし5に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしている出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当せず、申立理由2によって取り消すことはできない。
第5 結語
以上のとおりであるから、特許異議申立書に記載した特許異議申立ての理由によっては、本件特許の請求項1ないし5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1ないし5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2025-700364