特許異議申立
2025-700277
ガス濃度測定装置とその方法
- 審判番号
- 2025-700277
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2023-186511
- 登録番号
- 7549111
- 請求日
- 2025年03月07日
- 審決日
- 2025年08月20日
- 公報発行日
- 2025年09月26日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】明遠精密科技股▲分▼有限公司
- 【権利者代理人】山口 真二郎
- 【権利者代理人】大島 信之
- 【権利者代理人】松本 忠大
- 【異議申立人】中塚 英治
- 審判長/審判官
- 審判長 南 宏輔
- 審判官 伊藤 幸仙
- 審判官 藏田 敦之
- 分類
- P1651.121-Y (G01N)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第113条第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7549111号発明「ガス濃度測定装置とその方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7549111号の請求項1ないし20に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7549111号(以下「本件特許」という。)に係る出願(以下「本願」という。)は、令和5年10月31日(パリ条約による優先権主張2023年9月19日、(TW)台湾)に出願した特願2023-186511号であって、令和6年9月2日にその請求項1~20に係る発明について特許権の設定登録がされ、同年9月10日に特許掲載公報が発行され、その後、請求項1~20に係る特許に対して、令和7年3月7日に特許異議申立人 中塚 英治(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがなされたものである。
第2 本件特許発明
本件特許の請求項1~20に係る発明(それぞれ以下「本件発明1」ないし「本件発明20」という。)は、本件特許の特許請求の範囲の請求項1~20に記載された事項により特定される以下のとおりのものである(請求項1及び11におけるA~G、A’~G’は、分説するために当審にて付した分説番号である。また、以下、分説された各構成単位について、該分説番号を用いて「構成A」などということがある。)。
「【請求項1】
A 測定対象ガスのガス濃度を測定するためのガス濃度測定装置において、
B ガス出入り通路と連通することにより、そのうちの一つのチャンバーは前記測定対象ガスを有するガス検出チャンバーと、
C 前記測定対象ガスの温度を検出するための温度感知素子と、
D 前記測定対象ガスの圧力を検出するための圧力感知素子と、
E 前記ガス検出チャンバーの第1の側に設けられる光源供給装置であって、第1の検出ビームと補正ビームとを発生するためのものであり、前記測定対象ガスは、前記第1の検出ビームに対する吸光度が、前記補正ビームに対する吸光度より大きい少なくとも一つの光源であって、前記光源は、発光ダイオードである少なくとも一つの光源と、前記第1の検出ビームを第1の検出分光と第2の検出分光に分け、前記補正ビームを第1の補正分光と第2の補正分光に分けるためのものであり、前記第1の検出分光と前記第1の補正分光とは、前記ガス検出チャンバーと前記ガス検出チャンバーにおける前記測定対象ガスを通過し、前記第2の検出分光と前記第2の補正分光とは、前記ガス検出チャンバーと前記ガス検出チャンバーにおける前記測定対象ガスを通過しない分光素子と、を備える光源供給装置と、
F それぞれ、前記ガス検出チャンバーの第2の側と前記第1の側に位置する、第1の光感知素子と第2の光感知素子を少なくとも備え、それぞれ、前記第1の検出ビームの前記第1の検出分光の光強度と前記第2の検出分光の光強度を測定することにより、前記測定対象ガスの第1の検出濃度を算出し、それぞれ、前記補正ビームの前記第1の補正分光の光強度と前記第2の補正分光の光強度を測定することにより、前記測定対象ガスの補正濃度を算出し、前記第1の検出濃度から前記補正濃度を差し引いた後、前記測定対象ガスの前記ガス濃度を得られる光検知装置と、を少なくとも備え、
G 前記第1の検出ビームの波長は、前記測定対象ガスの吸収波長範囲内にあり、前記補正ビームの波長は、前記測定対象ガスの前記吸収波長範囲外にあり、これにより、前記ガス検出チャンバーによる光吸収干渉誤差を補正することを特徴とする、
ガス濃度測定装置。
【請求項2】
前記ガス出入り通路の両端は、それぞれ、通路ガス入口と通路ガス出口であり、前記通路ガス入口は前記測定対象ガスの入口であり、前記通路ガス出口は前記測定対象ガスの出口であり、前記ガス検出チャンバーは、前記チャンバーを有する中空チャンバー本体であり、前記中空チャンバー本体の両端は、それぞれ、検出ガス入口と検出ガス出口を有し、前記検出ガス入口と前記検出ガス出口とは、中空チャンバー本体の前記チャンバーと連通し、前記測定対象ガスは、前記ガス検出チャンバーの前記中空チャンバー本体の前記チャンバーを連続的に流れることを特徴とする、請求項1に記載のガス濃度測定装置。
【請求項3】
更に、処理素子を備え、前記処理素子は、前記測定対象ガスの前記温度と、前記測定対象ガスの前記圧力と、前記第1の検出分光の前記光強度、前記第2の検出分光の前記光強度、前記測定対象ガスの前記ガス検出チャンバーの前記チャンバーにおける光路長、及び前記測定対象ガスの吸収係数によって、前記測定対象ガスの前記第1の検出濃度を算出し、前記処理素子は、更に、前記測定対象ガスの前記温度、前記測定対象ガスの前記圧力、前記第1の補正分光の前記光強度、前記第2の補正分光の前記光強度、前記測定対象ガスの前記ガス検出チャンバーの前記チャンバーにおける前記光路長、及び前記測定対象ガスの前記吸収係数によって、前記測定対象ガスの前記補正濃度を算出することを特徴とする、請求項1に記載のガス濃度測定装置。
【請求項4】
前記測定対象ガスはオゾンであり、前記光源からの前記第1の検出ビームと前記補正ビームとは、紫外線であることを特徴とする、請求項1に記載のガス濃度測定装置。
【請求項5】
前記分光素子は傾斜式ビームスプリッターであり、前記分光素子により、前記第1の検出分光と前記第1の補正分光は、同じ第1の光路を有し、前記第2の検出分光と前記第2の補正分光は、同じ第2の光路を有することを特徴とする、請求項1に記載のガス濃度測定装置。
【請求項6】
前記ガス検出チャンバーは石英ガラス管であることを特徴とする、請求項1に記載のガス濃度測定装置。
【請求項7】
前記光源供給装置は、更に、光源制御素子を備え、前記光源制御素子は、前記光源供給装置の前記光源を制御して、交互ライトモードで前記第1の検出ビームと前記補正ビームとを提供するためのものであることを特徴とする、請求項1に記載のガス濃度測定装置。
【請求項8】
前記交互ライトモードは、パルスまたはインターバル形式のオンとオフであり、前記第1の検出ビームと前記補正ビームを提供することを特徴とする、請求項7に記載のガス濃度測定装置。
【請求項9】
前記第1の検出濃度から前記補正濃度を差し引いて得られる前記測定対象ガスの前記ガス濃度がデフォルト値より低いときに、前記光源は、前記第1の検出ビームの代わりに、少なくとも一つの第2の検出ビームを供給し、前記第2の検出ビームの波長及び/又は明るさは、前記第1の検出ビームの波長及び/又は明るさと異なることを特徴とする、請求項1又は7に記載のガス濃度測定装置。
【請求項10】
前記光源は、一つ又は複数の発光素子を有することにより、前記第1の検出ビームと前記補正ビームを供給することを特徴とする、請求項9に記載のガス濃度測定装置。
【請求項11】
A’ 測定対象ガスのガス濃度を測定するためのガス濃度測定方法において、
B’ ガス検出チャンバーを用意して、前記ガス検出チャンバーがガス出入り通路と連通することにより、前記ガス検出チャンバーのチャンバー内に、前記測定対象ガスがあるステップと、
C’ 前記測定対象ガスの温度を検出する温度測定ステップと、
D’ 前記測定対象ガスの圧力を検出する圧力測定ステップと、
E’1 発光ダイオードを光源として用いることにより、第1の検出ビーム及び補正ビームを用意して、前記測定対象ガスの前記第1の検出ビームに対する吸光度は、前記測定対象ガスの前記補正ビームに対する吸光度より大きいステップと、
E’2 前記第1の検出ビームを、前記ガス検出チャンバーおける前記測定対象ガスを通過する第1の検出分光と、前記ガス検出チャンバーおける前記測定対象ガスを通過しない第2の検出分光に分け、前記補正ビームを、前記ガス検出チャンバーと前記ガス検出チャンバーおける前記測定対象ガスを通過する第1の補正分光と、前記ガス検出チャンバーと前記ガス検出チャンバーおける前記測定対象ガスを通過しない第2の補正分光に分ける分光ステップと、
F’1 前記第1の検出ビームの前記第1の検出分光の光強度と、前記第2の検出分光の光強度をそれぞれ測定することにより、前記測定対象ガスの第1の検出濃度を算出する光強度測定ステップと、
F’2 前記補正ビームの前記第1の補正分光の光強度と、前記第2の補正分光の光強度をそれぞれ測定することにより、前記測定対象ガスの補正濃度を算出し、前記第1の検出濃度から前記補正濃度を差し引いた後、前記測定対象ガスの前記ガス濃度を得られる補正ステップと、を少なくとも含み、
G’ 前記第1の検出ビームの波長は、前記測定対象ガスの吸収波長範囲内にあり、前記補正ビームの波長は、前記測定対象ガスの前記吸収波長範囲外にあり、これにより、前記ガス検出チャンバーによる光吸収干渉誤差を補正することを特徴とする、
ガス濃度測定方法。
【請求項12】
前記測定対象ガスは、前記ガス検出チャンバーの前記チャンバーを連続的に流れることを特徴とする、請求項11に記載のガス濃度測定方法。
【請求項13】
前記光強度測定ステップは、更に、前記測定対象ガスの前記温度、前記測定対象ガスの前記圧力、前記第1の検出分光の前記光強度、前記第2の検出分光の前記光強度、前記測定対象ガスの前記ガス検出チャンバーの前記チャンバーおける光路長、及び前記測定対象ガスの吸収係数によって、前記測定対象ガスの前記第1の検出濃度を算出することを含み、前記補正ステップは、更に、前記測定対象ガスの前記温度、前記測定対象ガスの前記圧力、前記第1の補正分光の前記光強度、前記第2の補正分光の前記光強度、前記測定対象ガスの前記ガス検出チャンバーの前記チャンバーおける前記光路長、及び前記測定対象ガスの前記吸収係数によって、前記測定対象ガスの前記補正濃度を算出することを含むことを特徴とする、請求項11に記載のガス濃度測定方法。
【請求項14】
前記測定対象ガスはオゾンであり、前記第1の検出ビームと前記補正ビームとは紫外線であることを特徴とする、請求項11に記載のガス濃度測定方法。
【請求項15】
前記分光ステップは、分光素子により、前記第1の検出分光と前記第1の補正分光とが同じ第1の光路を有し、前記第2の検出分光と前記第2の補正分光とが同じ第2の光路を有することを特徴とする、請求項11に記載のガス濃度測定方法。
【請求項16】
前記ガス検出チャンバーは石英ガラス管であることを特徴とする、請求項11に記載のガス濃度測定方法。
【請求項17】
更に、光源制御素子を利用して前記光源を制御して、交互ライトモードで、前記第1の検出ビーム及び前記補正ビームを提供することを含むことを特徴とする、請求項11に記載のガス濃度測定方法。
【請求項18】
前記交互ライトモードは、パルスまたはインターバル形式のオンとオフであり、前記第1の検出ビームと前記補正ビームとを提供することを特徴とする、請求項17に記載のガス濃度測定方法。
【請求項19】
前記第1の検出濃度から、前記補正濃度を差し引いて得られる前記測定対象ガスの前記ガス濃度がデフォルト値より低いときには、前記第1の検出ビームの代わりに、少なくとも一つの第2の検出ビームを供給し、前記第2の検出ビームの波長及び/又は明るさは、前記第1の検出ビームの波長及び/又は明るさと異なることを特徴とする、請求項11に記載のガス濃度測定方法。
【請求項20】
更に、一つ又は複数の発光素子を有する前記光源により、前記第1の検出ビームと前記補正ビームとを供給することを含むことを特徴とする、請求項19に記載のガス濃度測定方法。」
第3 異議申立理由の概要
申立人は、証拠として以下の甲第1号証ないし甲第6号証を提出し、以下の異議申立理由によって、本件発明1ないし20に係る特許を取り消すべきものである旨を主張している。
1 異議申立理由 特許法第29条第2項(進歩性違反)について
本件発明1ないし20は、甲第1号証に記載された発明、及び甲第2号証~甲第6号証に記載の事項、または、例示される周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許は特許法第113条第2号の規定により取消されるべきである。
2 証拠方法
甲第1号証:特開2011-158426号公報
甲第2号証:国際公開第2020/066769号
甲第3号証:特開2004-163293号公報
甲第4号証:特表2009-517641号公報
甲第5号証:特表2017-532535号公報
甲第6号証:特許第4109596号公報
第4 文献の記載及び周知技術
1 甲第1号証
(1)本願の優先日前である平成23年8月18日に公開された特開2011-158426号公報(甲第1号証)には、図面とともに次の事項が記載されている。(下線は当審が付与した。以下同様。)
ア 「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はガス濃度計測装置および方法に係り、特に、対ノイズ性に優れ、高精度のガス濃度計測が可能なガス濃度計測装置および方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、可視または近赤外線の波長領域における半導体レーザの性能が向上し、高分解能分光の光源として利用するのに十分な分光特性を有するようになり、これを利用したガス濃度計測の手法が種々提案されている。この手法は波長可変半導体レーザ吸収分光法(Tunable Diode Laser Absorption Spectroscopy;TDLAS)と呼ばれる技術である。
【0003】
このTDLAS法によるガス濃度計測装置として、例えば特許第3342446号公報に開示されたものがある。この従来のガス濃度計測装置の概要について、図10および図11を参照して説明する。図10に示すように、レーザ光を発振するための半導体レーザダイオード(LD)101からなる光源は、LDドライバ102の制御回路に接続され、半導体レーザダイオード101の温度と電流が制御される。半導体レーザダイオード101から発振されたレーザ光は、ハーフミラー101bで反射されて、一方の光学窓107aから他方の光学窓107bに向けてレーザ光Lが計測領域に入射される。計測領域を通過したレーザ光は、他方の光学窓107bの近傍に配置された受光手段としての2つのフォトダイオード(PD2、PD3)105,106によって受光される。
【0004】
一方のフォトダイオード105は光軸上に配置され、計測領域を通過したレーザ光Lを受光する。また他方のフォトダイオード106は、レーザ光軸から外れたところに配置され、計測領域の火炎ガスから発せられる光を背景光として受光する。これら2つのフォトダイオード105,106からの受光信号は、測定ユニット108を経由してAD変換器109に入力され、さらにコンピュータ110に送られる。なお、ガス濃度が既知である標準ガスが封入または流通可能にされた参照セル103を備えており、該参照セル103を通過したレーザ光はフォトダイオード(PD1)104によって受光され、測定ユニット108およびAD変換器109を経由してコンピュータ110に送られる。」
イ 「【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述したように、特許文献1に開示された技術においては、ガス濃度に相当するガス吸収信号の周波数帯は、レーザ光の発振波長を変調するための変調信号周波数の2倍の周波数に重畳されることになる。実際のガス濃度計測環境では、ホワイトノイズのように全周波数帯にわたるノイズが存在し、ガス吸収信号の周波数帯と同じ周波数帯のノイズが大きい場合には、信号処理の段階でノイズと計測信号の区別ができなくなって計測精度が悪化するおそれがあるという事情があった。
【0011】
本発明は、上記従来の事情に鑑みてなされたものであって、対ノイズ性に優れ、高精度のガス濃度計測が可能なガス濃度計測装置および方法を提供することを目的としている。」
ウ 「【0045】
〔第1実施形態〕
図1は本発明の第1実施形態に係るガス濃度計測装置の構成図である。本実施形態のガス濃度計測装置においても従来(特許文献1)と同様に波長可変半導体レーザ吸収分光法(TDLAS)を用いている。
【0046】
本実施形態のガス濃度計測装置の実際のガス濃度計測時の配置は従来(図10参照)と同様である。すなわち、半導体レーザダイオード1(光源)はLDドライバ2に接続されて、温度および注入電流がLDドライバ2によって制御される。半導体レーザダイオード1から発振されたレーザ光はハーフミラーを介して計測対象の計測領域に入射される。該計測領域を通過したレーザ光は、該レーザ光の光軸上に配置されたフォトダイオード(PD2)5(受光手段)によって受光される。また、背景光はレーザ光軸から外れたところに配置されたフォトダイオード(PD3)6によって受光される。さらに、ガス濃度が既知である標準ガスが封入または流通可能にされた参照セル(図示略)を備え、ハーフミラーを介して該参照セルを通過したレーザ光は、フォトダイオード(PD1)4(第2受光手段)によって受光される。
【0047】
また、測定ユニット8Aは、タイミング制御部11、電圧発生器12、サイン波発生器13、電圧生成部14A、アンプ15a,15b、ハイパスフィルタ16a,16b、位相検波器17a,17b,19、ローパスフィルタ18a~18eおよびアンプ/ローパスフィルタ20を備えている。
【0048】
タイミング制御部11、電圧発生器12、サイン波発生器13および電圧生成部14Aは、特許請求の範囲にいう変調手段に該当し、半導体レーザダイオード1から発振されるレーザ光の発振波長を所定周波数の変調信号で変調するものであり、測定対象のガス状物質に固有の吸収波長を所定周波数で変調する第1の期間と、該固有の吸収波長から外れた波長を所定周波数で変調する第2の期間とを有する点に特徴がある。
【0049】
ここで、タイミング制御部11は、これら第1の期間および第2の期間の切り換えタイミングを制御するものである。また電圧発生器12は、第2の期間に固有の吸収波長から外れた波長とするためのバイアス電圧を発生するものである。またサイン波発生器13は、所定周波数のサイン波を発生し、該サイン波信号が変調信号となる。
【0050】
また、電圧生成部14Aは、第1の期間には、アンプ/ローパスフィルタ20から出力される電圧をバイアス電圧として、サイン波発生器13から出力される変調信号(サイン波信号)を重畳してLDドライバ2に供給し、また第2の期間には、電圧発生器12の出力をバイアス電圧として、サイン波発生器13から出力される変調信号(サイン波信号)を重畳してLDドライバ2に供給する。なお、後述のように、位相検波器19によりレーザ光の発振波長を参照セル内のガス吸収がピークとなる波長にロックされ、アンプ/ローパスフィルタ20からは該波長に応じたバイアス電圧が出力される。
【0051】
これにより、レーザ光の発振波長は、第1の期間では測定対象のガス状物質に固有の吸収波長に変調が掛けられ、第1の期間では該固有の吸収波長から外れた波長に変調が掛けられることとなる。なお、第1の期間および第2の期間の切り換えは、同一時間刻みで交互に切り換えても良いし、また本来のガス濃度測定期間である第1の期間を第2の期間より長めにするなどデューティ比を持たせるようにしても良い。また、本実施形態では、電圧発生器12によるバイアス電圧を一定値としているが、固有の吸収波長から外れた波長とする電圧範囲で第2の期間に階段状に変化するようにしても良い。
【0052】
次に、受光後の信号処理として、フォトダイオード(PD3)6で受光する背景光の処理ルートにはローパスフィルタ18aを備え、高周波ノイズが除去される。またフォトダイオード(PD2)5で受光する主計測光の信号処理については、ローパスフィルタ18bを備えて高周波ノイズを除去する処理ルートと、アンプ15a、ハイパスフィルタ16a、位相検波器17a(復調手段)およびローパスフィルタ18cを備える処理ルートとを有する。後者の処理ルートでは、アンプ15aで信号増幅された後、ハイパスフィルタ16aで低周波ノイズが除去され、位相検波器17aで変調周波数の偶数倍の周波数(ここでは2倍)の同調信号で復調され、さらにローパスフィルタ18cで高周波ノイズが除去される。
【0053】
また、参照セルを通過した受光信号の信号処理についても、ローパスフィルタ18dを備えて高周波ノイズを除去する処理ルートと、アンプ15b、ハイパスフィルタ16b、位相検波器17b(第3復調手段)およびローパスフィルタ18eを備える処理ルートとを有する。後者の処理ルートでは、アンプ15bで信号増幅された後、ハイパスフィルタ16bで低周波ノイズが除去され、位相検波器17bで変調周波数の偶数倍の周波数(ここでは2倍)の同調信号で復調され、さらにローパスフィルタ18eで高周波ノイズが除去される。
【0054】
またさらに、ハイパスフィルタ16bの出力信号に対して変調周波数の奇数倍の周波数(ここでは1倍)で位相検波を施す位相検波器19(第4復調手段)を備えて、該位相検波器19の出力はアンプ/ローパスフィルタ20を介して電圧生成部14Aにフィードバックされる。位相検波器19の出力は、参照セル内のガスによる吸収信号の1次微分信号であり、該1次微分信号は吸収中心波長付近でガス吸収中心波長とレーザ光の発振波長との差に比例することから、位相検波器19の出力がゼロとなるようにバイアス電圧を設定することにより、レーザ光の発振波長がガス吸収のピーク波長にロックされることとなる。
【0055】
次に、以上の各構成要素を備えたガス濃度計測装置における信号処理(ガス濃度計測方法)について、図2を参照して説明する。ここで、図2は本実施形態のガス濃度計測装置における信号処理を説明する説明図である。
【0056】
図2(a)には、レーザ光の発振波長を変調信号で変調する処理と、フォトダイオード(PD2)5で受光する主計測光の信号処理とを、一連の処理ルート(実ガス計測ルート)として模式的に示している。また、ホワイトノイズ等のノイズが影響する可能性のある箇所を指し示している。
【0057】
まず、レーザ光の発振波長を変調信号で変調する処理では、電圧生成部14Aにおいて、測定対象のガス状物質に固有の吸収波長に応じた電圧の第1の期間と、該固有の吸収波長から外れた波長に応じた電圧の第2の期間とを周期的に持つバイアス電圧に、変調信号(サイン波信号)が重畳される。なお、ここでは第2の期間の電圧を第1の期間の電圧(固有の吸収波長に応じた電圧)より低くずらして設定しているが、高めにずらした設定としても良い。
【0058】
電圧生成部14Aで生成した電圧はLDドライバ2に供給され、ここで注入電流に変換されて半導体レーザダイオード1から発振されるレーザ光の発振波長が制御されることとなる。また、計測領域を通過したレーザ光は、該レーザ光の光軸上に配置されたフォトダイオード(PD2)5によって受光される。
【0059】
図2(b)には、計測領域を通過したレーザ光の波長の第1の期間および第2の期間における時間推移を模式的に例示する。(理解のし易さのために一部を拡大強調して表しており、厳密には実際のものと異なる。)第1の期間では測定対象のガス状物質に固有の吸収波長となるタイミング(箇所)でガス吸収が発生しているのに対し、第2の期間では測定対象のガス状物質に固有の吸収波長となるタイミングが存在しないことから、ガス吸収のある箇所も存在していない。但し、図2(a)に指し示したように、実ガス計測ルートにおいてノイズが影響する可能性のある箇所が存在することから、第1の期間および第2の期間の双方において回路に発生する全てのノイズの影響が受光信号に重畳していることになる。
【0060】
次に、受光信号は、アンプ15aで信号増幅された後、ハイパスフィルタ16aで低周波ノイズが除去され、位相検波器17aで変調周波数の2倍の周波数の同調信号で復調され、さらにローパスフィルタ18cで高周波ノイズが除去される。その結果として、第1の期間にはノイズによるオフセット信号を含むガス濃度信号が得られ、第2の期間にはノイズによるオフセット信号のみが得られることとなる。したがって、第1の期間で計測したオフセット信号を含むガス濃度信号から、第2の期間で計測したオフセット信号を差し引くことにより、正確なガス濃度を求めることができる。
【0061】
以上説明したように、本実施形態のガス濃度計測装置および方法では、レーザ光の発振波長を所定周波数の変調信号で変調する際に、測定対象のガス状物質に固有の吸収波長を所定周波数で変調する第1の期間と、該固有の吸収波長から外れた波長を所定周波数で変調する第2の期間とを有することとしたので、第1の期間にはノイズによるオフセット信号を含むガス濃度信号が得られ、第2の期間にはノイズによるオフセット信号のみが得られることとなり、第1の期間で計測したオフセット信号を含むガス濃度信号から、第2の期間で計測したオフセット信号を差し引くことにより、正確なガス濃度を求めることができる。
【0062】
つまり、本実施形態のガス濃度計測装置および方法は、従来の計測手法で計測が行われる第1の期間に、該固有の吸収波長から外れた波長を所定周波数で変調する第2の期間を追加したものであるが、第2の期間ではガス吸収は発生せず、計測領域にガスがない状態と等価な計測を行うことができ、ノイズによるオフセット量を正確に計測することができる。その結果として、対ノイズ性に優れ、高精度のガス濃度計測が可能なガス濃度計測装置および方法を実現することができる。
【0063】
以上の説明では、主として実ガス計測ルート(フォトダイオード(PD2)5で受光する主計測光の信号処理)について説明したが、参照ガス計測ルート(参照セルを通過した受光信号の信号処理)についても同様である。すなわち、第1の期間で計測したオフセット信号を含むガス濃度信号から、第2の期間で計測したオフセット信号を差し引くことにより、正確な参照セルのガス濃度を求めることができる。」
エ 「図1
[図:0001426846000001.jpg]
」
オ 「図2
[図:0001426846000002.jpg]
」
カ 「図10
[図:0001426846000003.jpg]
」
(2)認定事項
ガス濃度計測装置の実際のガス濃度計測時の配置を示す図10(【0046】)より、火炎ガスが図中下方より上昇して計測領域を通過すること、LDドライバ102、2、半導体レーザダイオード101、1(光源)、ハーフミラー101b、参照セル103、フォトダイオード(PD1)104、4(第2受光手段)が、計測領域からみて、図中左側、一方の光学窓107a側に位置することが見て取れる。
(3)甲1発明1、甲1発明2
上記(1)、(2)から、甲第1号証には、次の発明(以下「甲1発明1」、「甲1発明2」という。)が記載されているものと認められる(括弧内に主な根拠箇所を示す。)。
ア 甲1発明1
「対ノイズ性に優れ、高精度のガス濃度計測を行うことを課題とする、波長可変半導体レーザ吸収分光法(Tunable Diode Laser Absorption Spectroscopy;TDLAS)と呼ばれる手法を用いたガス濃度計測装置であって(【0001】、【0011】)、
火炎ガスが通過する領域を計測領域として、LDドライバ102、2、半導体レーザダイオード101、1(光源)、ハーフミラー101b、参照セル103、フォトダイオード(PD1)104、4(第2受光手段)が、計測領域からみて、一方の光学窓107a側に位置しており(【0046】、図10)、
レーザ光を発振するための前記半導体レーザダイオード(LD)101、1からなる光源は、前記LDドライバ102、2の制御回路に接続されて、その温度と電流を制御され、当該半導体レーザダイオード101、1から発振されたレーザ光は、前記ハーフミラー101bで反射されて、前記一方の光学窓107aから他方の光学窓107bに向けてレーザ光Lが前記計測領域に入射し、当該計測領域を通過して、他方の光学窓107bの近傍に配置された受光手段としてのフォトダイオード(PD2)105、5によって受光され、前記ハーフミラー101bを通過したレーザ光は、ガス濃度が既知である標準ガスが封入または流通可能にされた参照セル103を通過して、フォトダイオード(PD1)104、4によって受光され、これらフォトダイオード(PD1、PD2)からの受光信号は、コンピュータ110、10に送られるものであり(【0003】、【0004】、【0046】、図1、図10)、
前記半導体レーザダイオード1から発振されるレーザ光の発振波長は、第1の期間には、測定対象のガス状物質に固有の吸収波長を所定周波数で変調され、第2の期間には、該固有の吸収波長から外れた波長を前記所定周波数で変調され(【0048】、【0057】、図2)、
前記計測領域を通過したレーザ光である主計測光を受光するフォトダイオード(PD2)5の信号処理である実ガス計測ルートでは(【0056】、【0058】、図1及び図10)、前記第1の期間には、測定対象のガス状物質に固有の吸収波長となるタイミング(箇所)でガス吸収が発生し、ノイズによるオフセット信号を含むガス濃度信号が得られる一方、前記第2の期間には、測定対象のガス状物質に固有の吸収波長となるタイミングが存在せず、ガス吸収のある箇所も存在しない、ノイズによるオフセット信号のみが得られることから、前記第1の期間で計測したオフセット信号を含むガス濃度信号から、前記第2の期間で計測したオフセット信号を差し引くことにより、正確なガス濃度を求めることができ(【0059】、【0060】)、
前記参照セルを通過したレーザ光を受光するフォトダイオード(PD1)4の信号処理である参照ガス計測ルートでは、前記第1の期間で計測したオフセット信号を含むガス濃度信号から、前記第2の期間で計測したオフセット信号を差し引くことにより、正確な参照セルのガス濃度を求めることができ(【0063】、図1、図10)
従来の計測手法で計測が行われる第1の期間に、ガス物質に固有の吸収波長から外れた波長を所定周波数で変調する第2の期間を追加して、当該第2の期間ではガス吸収は発生せず、計測領域にガスがない状態と等価な計測を行うことができ、ノイズによるオフセット量を正確に計測することができる、対ノイズ性に優れ、高精度のガス濃度計測が可能であるガス濃度計測装置(【0062】)。」
イ 甲1発明2
「対ノイズ性に優れ、高精度のガス濃度計測を行うことを課題とする、波長可変半導体レーザ吸収分光法(Tunable Diode Laser Absorption Spectroscopy;TDLAS)と呼ばれる手法を用いたガス濃度計測方法であって(【0001】、【0011】)、
火炎ガスが通過する領域を計測領域として、LDドライバ102、2、半導体レーザダイオード101、1(光源)、ハーフミラー101b、参照セル103、フォトダイオード(PD1)104、4(第2受光手段)が、計測領域からみて、一方の光学窓107a側に位置するガス濃度計測装置を用いて(【0046】、図10)、
レーザ光を発振するための前記半導体レーザダイオード(LD)101、1からなる光源は、前記LDドライバ102、2の制御回路に接続されて、その温度と電流を制御され、当該半導体レーザダイオード101、1から発振されたレーザ光は、前記ハーフミラー101bで反射されて、前記一方の光学窓107aから他方の光学窓107bに向けてレーザ光Lが前記計測領域に入射し、当該計測領域を通過したレーザ光は、他方の光学窓107bの近傍に配置された受光手段としてのフォトダイオード(PD2)105、5によって受光され、前記ハーフミラー101bを通過したレーザ光は、ガス濃度が既知である標準ガスが封入または流通可能にされた参照セル103を通過して、フォトダイオード(PD1)104、4によって受光され、これらフォトダイオード(PD1、PD2)からの受光信号は、コンピュータ110、10に送られるステップと(【0003】、【0004】、【0046】、図1、図10)、
前記半導体レーザダイオード1から発振されるレーザ光の発振波長は、第1の期間には、測定対象のガス状物質に固有の吸収波長を所定周波数で変調され、第2の期間には、該固有の吸収波長から外れた波長を前記所定周波数で変調されるステップと(【0048】、【0057】、図2)、
前記計測領域を通過したレーザ光である主計測光を受光するフォトダイオード(PD2)5の信号処理である実ガス計測ルートでは(【0056】、【0058】、図1及び図10)、前記第1の期間には、測定対象のガス状物質に固有の吸収波長となるタイミング(箇所)でガス吸収が発生し、ノイズによるオフセット信号を含むガス濃度信号が得られる一方、前記第2の期間には、測定対象のガス状物質に固有の吸収波長となるタイミングが存在せず、ガス吸収のある箇所も存在しない、ノイズによるオフセット信号のみが得られることから、前記第1の期間で計測したオフセット信号を含むガス濃度信号から、前記第2の期間で計測したオフセット信号を差し引くことにより、正確なガス濃度を求めるステップと(【0059】、【0060】)、
前記参照セルを通過したレーザ光を受光するフォトダイオード(PD1)4の信号処理である参照ガス計測ルートでは、前記第1の期間で計測したオフセット信号を含むガス濃度信号から、前記第2の期間で計測したオフセット信号を差し引くことにより、正確な参照セルのガス濃度を求めるステップとを含み(【0063】、図1、図10)、
従来の計測手法で計測が行われる第1の期間に、ガス物質に固有の吸収波長から外れた波長を所定周波数で変調する第2の期間を追加して、当該第2の期間ではガス吸収は発生せず、計測領域にガスがない状態と等価な計測を行うことができ、ノイズによるオフセット量を正確に計測することができる、対ノイズ性に優れ、高精度のガス濃度計測が可能であるガス濃度計測方法(【0062】)。」
2 甲第2号証
本願の優先日前である2020年(令和2年)4月2日に公開された国際公開第2020/066769号(甲第2号証)には、次の事項が記載されている。
(1)「[0020]
本実施形態では、高温ガスユニット50において、測定セル4内を流れる被測定流体の圧力を検出するための圧力センサ20が設けられている。また、測定セル4には、被測定流体の温度を測定するための温度センサ11(ここでは測温抵抗体)が設けられている。圧力センサ20および温度センサ11の出力は、センサケーブル10bを介して電気ユニット52に入力される。温度センサ11は、複数が設けられていてもよい。また、温度センサ11としては、測温抵抗体以外にも、サーミスタや熱電対などを用いることもできる。
[0021]
電気ユニット52には、測定セル4内に入射させる光を発する光源1と、測定セル4から出射した光を受光する測定光検出器7と、測定光検出器7から出力される、受光した光の強度に応じた検出信号に基づいて被測定流体の濃度を演算するように構成された演算部8と、光源1からの参照光を受光する参照光検出器9とが設けられている。」
(2)「[0026]
窓部3としては、紫外光等の濃度測定に用いる検出光に対して耐性および高透過率を有し、機械的・化学的に安定なサファイアが好適に用いられるが、他の安定な素材、例えば石英ガラスを用いることもできる。測定セル4のセル本体40(流路形成部)は例えばSUS316L製であってよい。」
(3)「[0030]
以上に説明した測定セル4において、測定セル4内を往復する光の光路長は、窓部3と反射部材5との距離の2倍によって規定することができる。濃度測定装置100において、測定セル4に入射され、その後、反射部材5によって反射された光は、測定セル4内の流路4cに存在するガスによって、ガスの濃度に依存して吸収される。そして、演算部8は、測定光検出器7からの検出信号を周波数解析することによって、当該吸収波長λでの吸光度Aλを測定することができ、さらに、以下の式(1)に示すランベルト・ベールの法則に基づいて、吸光度Aからガス濃度Cを算出することができる。
Aλ=-log10(I/I0)=αLC ・・・(1)
[0031]
上記の式(1)において、I0は測定セルに入射する入射光の強度、Iは測定セル内のガス中を通過した光の強度、αはモル吸光係数(m2/mol)、Lは光路長(m)、Cは濃度(mol/m3)である。モル吸光係数αは物質によって決まる係数である。」
(4)「[0034]
さらに、濃度測定装置100では、圧力センサ20が設けられており、測定セル4内のガスの圧力を測定することができる。したがって、圧力センサ20からの出力に基づいて、光検出器の出力によって測定された吸光度を所定圧力(例えば、1気圧)のときの吸光度に補正することができる。そして、補正した吸光度に基づいて、特許文献3に記載の濃度測定装置と同様に、ランベルト・ベールの法則から、被測定流体の濃度を演算により求めることができる。このように、演算部8が、測定光検出器7および圧力センサ20を用いて被測定流体の濃度を演算するので、濃度測定をより精度よく行うことができる。また、測定セル4を流れるガスの温度を測定する温度センサ11を設けているので、温度による補正を含む濃度検出を実行することもできる。」
3 甲第3号証
本願の優先日前である平成16年6月10日に公開された特開2004-163293号公報(甲第3号証)には、次の事項が記載されている。
(1)「【0023】
オゾンガス濃度計測装置(2)での紫外線透過窓(7)の近傍部にオゾンガス流通路(5)内の圧力を検知する圧力センサー(15)とオゾンガス流通路(5)内を流れるオゾンガスの温度を検知する温度センサー(16a)とが配置してある。そして、この圧力センサー(15)で検出した圧力信号と温度センサー(16a)で検出した温度信号は、前記オゾン濃度算出装置(14)に入力されるようになっている。なお、オゾンガス流量が少ない場合には紫外線透過窓(7)の極近傍のケーシング(6)に取り付けた温度センサー(16b)を用いた方がオゾンガス温度を正確に計測できる。」
(2)「【0027】
ここで、測定対象ガス(オゾンガス)での紫外線吸光強度をI、標準ガス又は100Pa以下の真空状態での紫外線吸光強度をI0、モル吸光係数をε[L/mol・cm]、測定光路長をd[cm]、オゾン濃度をC[mol/L]、測定対象ガスの圧力をP[kPa]、測定対象ガスの温度をT[K]、基準圧をPN(101.3kPa)、基準温度をTN(273K)とした場合、オゾン濃度と紫外線吸光強度との関係は次式で表すことができる。
【式1】
[図:0001426846000004.jpg]
」
4 甲第4号証
本願の優先日前である平成21年4月30日に公表された特表2009-517641号公報(甲第4号証)には、図面とともに次の事項が記載されている。
(1)「【要約】
【課題】300nm以下に吸収を有する物質の溶液中での検出及び濃度測定のための方法及び装置の提供。
【解決手段】装置(10)は、透明セル(30)、光源(20)、バンドパスフィルター(22)、ビームスプリッター(24)、対照検出器(42)及び試料検出器(40)を備えており、波長300nm以下の光を放射する発光ダイオード(20)を光源として用いる。光源(20)からバンドパスフィルター(22)を通して波長300nm以下の紫外光を送り、ビームスプリッター(24)に通し、ビームスプリッターで分岐した電磁波を対照検出器(42)で定量して対照値を得、既知の光路長のセル(30)を通過した電磁波を試料検出器で定量して試料値を得、試料値と対照値から吸光度(A)を計算する。本発明の方法及び装置はタンパク質及び核酸の検出及び濃度測定に特に有用である。」
(2)「【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
図1は、本発明の一実施形態に係る装置の概略横断面図である。装置(10)はUV発光ダイオード(20)、入口(32)と出口(34)とを有するフローセル(30)及び光検出器(40,42)を備えており、光検出器(40,42)はUV感受性光電子増倍管又はUV感受性光ダイオードのいずれでもよい。装置はバンドパス干渉フィルター(22)を備えているが、これは、問題とするUV波長に対して低い吸光係数を維持しながら、1以上のスペクトル帯又はスペクトル線を反射するとともに他のものを透過する光学フィルターである。フィルターのバンド幅は、良好な直線性と広いダイナミックレンジを得るため、好ましくは10nm未満であり、狭いほど好ましい。光は次にビームスプリッター(24)を通過する。ビームスプリッター(24)は光の一部を分岐して対照光検出器(42)に向け、残りの光は窓(36)を通してフローセル(10)内の溶液に導かれる。ビームスプリッター(24)及び対照光検出器(42)は、発光ダイオード(20)の強度変化に追従させるのに用いられ、発光ダイオードを注意深く恒温維持する必要がなくなる。フローセル(30)は、サファイア、石英又は合成溶融石英のようなUV透明材料からなる窓(36及び38)を有しており、既知の光路長を有する。」
(2)「図1
[図:0001426846000005.jpg]
」
5 甲第5号証
本願の優先日前である平成29年11月2日に公表された特表2017-532535号公報(甲第5号証)には、次の事項が記載されている。
(1)「【0006】
現行の光学的な硝酸イオンのセンサは、硝酸イオンによる紫外線の直接的な吸光によるものであり、その光は、概ね240nmより小さい中心波長を有するものである。そして、硝酸イオンの濃度は、サンプルを介して透過した光を測定することにより算出することができる。また、ランベルト・ベールの法則(A= ε・c・L)は公知である。ここで、Aは次式で与えられる吸光度である。
【0007】
【数1】
[図:0001426846000006.jpg]
εは硝酸イオンのモル吸光係数であり、cは硝酸イオンの濃度であり、Lはサンプルの経路長である。硝酸イオンのモル吸光係数のスペクトルは先行技術において既知であり、図1に表示されている。波長がおよそ240nmよりも大きい場合、吸光はとても小さく、波長が240nmより減少すると吸光は急に増加する。硝酸イオンによって強く吸光される光の波長(すなわち、およそ240nmよりも小さい波長)を生じさせるために、先行技術では、光学的硝酸イオンセンサにおいて、キセノンランプまたは重水素ランプが概して使用されている。キセノンランプおよび重水素ランプは、両方とも、240nmより小さい紫外線の放射を含む広帯域で放射(すなわち、放射範囲には、波長の範囲が含まれている)する。また、206nmにて放射するヨウ化水銀ランプのような、他のランプも提案されている。
【0008】
紫外線の吸光を用いた硝酸イオン濃度の測定の精度を改良するための先行技術においては多くの特徴が開示されている。例えば、ランベルト・ベールの法則の式における「初めの光強度」の適切な値を定めるための光源の強さを決定するために基準測定が用いられ得る。この測定を行うための方法には、基準チャネルを生成するようにビームを分離すること(例えば、DE4407332C2)、ビームの一部が検体を通過しないようにビームを拡げ、測定経路または基準経路のどちらも遮断するための可動のビームブロックを組み合せること(例えば、AT408488B)、または、基準物質をビームの経路に挿入および除去すること(例えば、US3853407A、WO03067228A1)が含まれる。
【0009】
複数の波長における硝酸イオンによる吸光の測定についても、先行技術に開示されている。例えば、波長における吸光の信頼度を決定するために、2つ以上の紫外線の波長を利用することが、DE3324606C2およびJP4109596B2に記載されている。」
(2)「【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明に係る装置は、先行技術における1つ以上の短所を克服し、流体中のイオン、分子、または原子の濃度を測定できる。本発明に係る装置は、光源としての固体発光部材(例えば、発光ダイオード(LED)またはレーザダイオード(LD)の形態における固体発光装置)を含み、流体中のイオン、分子、または原子の濃度を測定するために240nmより小さい波長の光の透過率の測定結果を用いる。当該装置は、水中の硝酸イオン濃度の測定に使用されてもよい。
【0022】
駆動中、光源から放射された強度P1の光は検体に入射し、光検出手段により透過光の強度P2が測定される。光の透過率P2/P1から、イオン、分子または、原子(以降、「対象物」とよぶ)による光の吸光度が測定可能となり、対象物の濃度は、ランベルト・ベールの法則を用いて決定され得る。任意ではあるが、強度P1は第2光検出手段により測定されてもよい。」
(3)「【発明を実施するための形態】
【0035】
本発明に係るセンサ装置は、従来技術のセンサの短所を克服しつつ、流体内のイオンまたは分子の濃度を測定することができる。本発明に係るセンサ装置は、固体発光部品(例えば、発光ダイオード(LED)またはレーザダイオード(LD))を光源として備え、240nm未満の波長λを有する光の透過率の測定値を用いて、流体内に存在するイオンまたは分子の濃度を測定する。上記装置は、水中の硝酸イオン濃度を測定するのに用いてもよい。
【0036】
本発明の一態様に係る例示的なセンサ装置を図2に示す。上記センサ装置は、検体2中の対象物1の濃度を測定するよう構成されている。対象物1は、一または複数種類のイオン、分子、原子、またはそれらの任意の組み合わせでよい。光源3は固体発光素子4(固体発光装置とも称する)を有し、240nm未満の一または複数の波長を有する光5を発し、当該波長は少なくともその一部が対象物1に吸収される。光源の発した光5の一部またはすべてが検体2に入射し、検体2内を伝搬する。検体に入射する光を入射光6と称し、強度P1を有する。当該光は検体の判明した距離Lを伝搬する。上記光の一部は、検体2内に存在する任意の対象物1に吸収される。検体2内を伝搬し終えると、上記光は透過光8と称され、強度P2を有する。透過光8は第1光検出手段9に入射し、第1光検出手段9を用いて透過光8の強度を測定する(光源3および第1光検出手段9を第1センシング素子と称してもよい)。P1およびP2の値を用いて、光の透過率(P2/P1)を測定し、それによって、検体内の対象物による入射光6の吸光度を測定してもよい。それから、当該吸光度から、検体内の対象物の濃度を計算してもよい。すべての部材間での光の結合は、自由空間伝搬によって行ってもよいし、レンズのようなビーム成形手段によって行ってもよい。
【0037】
光6の波長において実質的に透過性の二つの窓10および11(例えば、各窓は光の少なくとも10%、好ましくは少なくとも50%を透過する)のあいだに検体2を任意で配置し、入射光6が結合して、検体の判明した距離Lだけ通過するようにしてもよい。検体2は流体(例えば、液体または気体)である。例えば、検体は水でもよい。
【0038】
入射光6の強度(P1)を、第2光検出手段20を用いて任意で測定してもよい。当該測定では、P1は、第2検知手段20に入射した光の強度に比例する。第2光検出手段20を光源3内部に配置して、例えば、光源3内部の固体発光素子4が発した光21の強度を検知してもよい。あるいは、第2光検出手段20を光源3の外側に設置して、光5の強度を検知してもよい。任意で、部分反射ミラー22のような光学部品が光5に作用し(例えば、光源3と検体2のあいだに配置されている)、光5の一部を第2光検出手段20に結合させてもよい(この例示的な構成を図2に示す)。第2光検出手段20を備える利点は、それを用いて光源3の発した光5の強度の変動を特定し、それによって光の透過率をより正確に測定できることである。」
(4)「【0102】
上記センサ装置の概略図が図2に示される。上記センサ装置は、光源3、検体2、および検体処理手段12(サンプル処理手段とも称される)を備える。光源3は、光21を放射する固体発光素子4を備える。検体処理手段12は、第1窓10および第2窓11を備える。光21の全部または一部が、放射光5として光源3から放射される。光5の全部または一部は、入射光6として第1窓10に入射する。入射光6は、第1窓10、検体2、そして第2窓11を伝播する。透過光8は、第1光検出手段9に入射する。第1窓10および第2窓11は、光6に対してほぼ透明である。上記センサ装置は、部分反射ミラー22を備えてよい。部分反射ミラー22は、光5の一部を反射して、その光5の一部を付加的に設けた第2光検出手段20に向ける。コントローラ23は、第1光検出手段9から入力を受ける。コントローラ23は、第2光検出手段20から入力を受けてもよい。コントローラ23は、光源3の運転を制御する。
【0103】
固体発光素子4は、中心波長が200nmから240nmの光を放射するLEDであってよい。例えば、AlyGa1-yN(0≦y≦1)半導体材料を含むLEDは、中心波長が約210nmから240nmの光を放射する。好ましくは、上記LEDは、pドープされたAlaGa1-aN層(0≦a≦1)とnドープされたAlbGa1-bN層(0≦b≦1)の間に設けられたAlyGa1-yN層(0.6≦y≦1)を含む光放射領域を備える。他の例では、固体発光素子4は、窒化ホウ素またはAlcGadB1-c-dN(0≦c≦1;0≦d≦1)を有してもよい。第1の実施例におけるその他の例として、固体発光素子4は、中心波長が約225nmの光21を放射する、AlyGa1-yN半導体材料を有する。上記光源から放射される光の光強度POは、10μmよりも大きいことが好ましい。さもなければ、第1光検出手段 の感度を高くする必要がある。この例において、光源3は、図2
に示される、波長安定素子24またはフィルタ26を備えていない。
【0104】
第1窓10および第2窓11は、入射光6に対して10%から100%の透過率を有するのが好ましい(この例では、波長は約225nm)。第1窓10および第2窓11は、UV溶融石英(UVFS)を含んでよい。UV溶融石英は、波長λ=225nmにおいて90%以上の透過率を有する。第1窓10および第2窓11の他の好適な材料には、水晶、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、フッ素重合体、フッ化エチレンプロピレン(FEP)、CYTOP、およびポリメタクリル酸メチル(PMMA)が含まれる。入射光6は、第1窓10および第2窓11に対してほぼ垂直に通過する。検体2内を伝播する光の距離Lは0.1mmから100mmであり、好ましくは0.5mmから20mmであり、最も好ましいのは約1mmから約10mmである。検体処理手段12は検体入口および検体出口を有し、検体入口と検体出口との間に第1窓10および第2窓11が設けられる。これにより、第1窓10と第2窓11との間を伝播する光を通過する検体の連続的な流れがもたらされ、図17(a)に示される直列センサが提供される。例えば、検体処理手段12は、第1窓10および第2窓11を備えたチューブ(例えば、PVCまたは他のポリマー、もしくは、ステンレス鋼または他の合金)であってよい。あるいは、検体処理手段12として、図17(b)に示される液浸センサを用いてもよい。」
6 甲第6号証
本願の優先日前である平成20年7月2日に発行された特許第4109596号公報(甲第6号証)には、次の事項が記載されている。
(1)「(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料水に対して所定波長帯域の光を照射し、そのとき得られる吸光度と比吸光度に基づいて濃度推定式を求め、この濃度推定式を用いて前記試料水中に含まれる測定対象成分の濃度を得るようにした水質測定方法において、所定の時間間隔で吸光度を連続的に採取し、ある時点におけるある特定の波長における吸光度と、この特定の波長の前後において僅かに異なる二つの波長における吸光度と、前記ある時点より一つ前の時点のある特定の波長における吸光度と、この特定の波長の前後において僅かに異なる二つの波長における吸光度とを用いて逐次演算を行うことにより、前記比吸光度の微小時間経過による変化量を逐次計算し、この変化量を用いて前記比吸光度を逐次補正することを特徴とする水質測定方法。
【請求項2】
試料水に対して所定波長帯域の光を照射し、そのとき得られる特定波長hにおける吸光度Ahと、前記特定波長の前後において僅かに異なる二つの波長h1,h2における吸光度Ah1,Ah2と、吸光度Ahに対する吸光度Ah1,Ah2の比吸光度rh1,rh2と、波長h,h1,h2における吸光係数εh,εh1,εh2とに基づいてC=(Ah1-rh1Ah)/(εh1-rh1εh)なる濃度推定式R1またはC=(Ah2-rh2Ah)/(εh2-rh2εh)なる濃度推定式R2を求め、この濃度推定式R1またはR2を用いて前記試料水中に含まれる測定対象成分の濃度Cを得るようにした水質測定方法において、前記吸光度Ah,Ah1,Ah2を連続的に測定し、微小時間経過による吸光度Ah,Ah1,Ah2の変化量ΔAh,ΔAh1,ΔAh2に基づいて微小時間経過による比吸光度rh1,rh2の変化量eh1,eh2を逐次計算し、該比吸光度の変化量eh1,eh2を用いて前記比吸光度rh1,rh2を逐次補正することを特徴とする水質測定方法。
【請求項3】
前記変化量eh1,eh2を計算するに際して、ΔAh1-(εh1/εh)ΔAhの正負によってeh1の正負を判定するとともに、ΔAh2-(εh2/εh)ΔAhの正負によってeh2の正負を判定し、その後、eh1×eh2>0のときは、eh1は-ab/(a2+1)でeh2はb/(a2+1)とし、eh1×eh2≦0のときは、eh1×b>0ならばeh1は-ab/(a2+1)でeh2は0とし、eh1×b≦0ならばeh1は0でeh2はbとする請求項2に記載の水質測定方法。
但し、
a=(εhAh2-εh2Ah)/(εhAh1-εh1Ah)
b={Ah1(εh2-rh2εh)+Ah(rh2εh1-rh1εh2)
+Ah2(rh1εh-εh1)}/(εhAh1-εh1Ah)」
(2)「【0027】
次に、比吸光度rの影響について
図5は、前記採水調査によって得られたデータから、前記式(8)によって求めたNO3--N以外の共存物質の比吸光度rNO3の採水地点ごとの平均値およびNO3―-Nの標準物質の比吸光度rを示し、図6は同じく、採水地点ごとの比吸光度rの変動係数を示している。これらの図から、いずれの測定地点の比吸光度rも波長が大きくなるにつれて減少傾向にあり、礫間浄化施設の流入水と流出水がほぼ同様の傾向を示していることが分かる。また、標準物質の比吸光度rは、230nm付近で最も傾きが大きくなっており、下記式(10の1),(10の2)が成り立っている。
ε225/ε230>r225…… (10の1)
ε235/ε230<r235…… (10の2)
【0028】
そして、変動係数は、いずれの採水地点においても、230nmから離れるにつれて大きくなっており、礫間浄化施設流入水の最大の変動係数が0.47と大きく、採集沈殿池の225nmの比吸光度rは変動係数が0.05と最も小さい。NO3―-Nの濃度推定の精度の面から言えば比吸光度rの変動は可及的に小さい方がよい。そこで、以下においては、NO3―-Nの濃度推定を行う場合、230nm付近の吸光度を用いて行うこととする。
【0029】
比吸光度rの影響を把握するために、吸光係数εは各サンプルの値、比吸光度rは各測定地点での平均値を用いて、NO3―-Nの濃度推定を行った。このときの推定結果を下記表4に示し、推定値と実測値との相関を図7に示す。
・・・(略)・・・
【0031】
上記表4から、比吸光度rの変動が大きいため、吸光係数εに平均値を用いた場合と比べて誤差が大きくなっていることが分かる。特に、比吸光度rの変動が大きい礫間浄化施設流入口では、誤差平均値が1.41mgN/Lと大きくなっているのが分かる。このことから、上記手法は、比吸光度rの変動の影響が大きく、共存物質の組成の変動が少ない水域においては十分適用が可能であるが、共存物質の組成の変動が大きい水域でより精度よく推定するためには、一定時間間隔で化学分析を行い、濃度推定式を校正する、あるいは、比吸光度rの変動を補正するアルゴリズムを適用するなどの手法が必要であると考えられる。
【0032】
この発明は、上述の事柄に留意してなされたもので、その目的は、共存物質の組成が変化したりその濃度が変化しても、所望の測定対象成分の濃度を、前記共存物質の影響を可及的に受けることがなく、精度よく測定することのできる水質測定方法を提供することである。」
(3)「【課題を解決するための手段】
【0033】
上記目的を達成するために、この発明は、試料水に対して所定波長帯域の光を照射し、そのとき得られる吸光度と比吸光度に基づいて濃度推定式を求め、この濃度推定式を用いて前記試料水中に含まれる測定対象成分の濃度を得るようにした水質測定方法において、所定の時間間隔で吸光度を連続的に採取し、ある時点におけるある特定の波長における吸光度と、この特定の波長の前後において僅かに異なる二つの波長における吸光度と、前記ある時点より一つ前の時点のある特定の波長における吸光度と、この特定の波長の前後において僅かに異なる二つの波長における吸光度とを用いて逐次演算を行うことにより、前記比吸光度の微小時間経過による変化量を逐次計算し、この変化量を用いて前記比吸光度を逐次補正することを特徴としている(請求項1)。
【0034】
より具体的には、この発明の水質測定方法は、試料水に対して所定波長帯域の光を照射し、そのとき得られる特定波長hにおける吸光度Ahと、前記特定波長の前後において僅かに異なる二つの波長h1,h2における吸光度Ah1,Ah2と、吸光度Ahに対する吸光度Ah1,Ah2の比吸光度rh1,rh2と、波長h,h1,h2における吸光係数εh,εh1,εh2とに基づいてC=(Ah1-rh1Ah)/(εh1-rh1εh)なる濃度推定式R1またはC=(Ah2-rh2Ah)/(εh2-rh2εh)なる濃度推定式R2を求め、この濃度推定式R1またはR2を用いて前記試料水中に含まれる測定対象成分の濃度Cを得るようにした水質測定方法において、前記吸光度Ah,Ah1,Ah2を連続的に測定し、微小時間経過による吸光度Ah,Ah1,Ah2の変化量ΔAh,ΔAh1,ΔAh2に基づいて微小時間経過による比吸光度rh1,rh2の変化量eh1,eh2を逐次計算し、該比吸光度の変化量eh1,eh2を用いて前記比吸光度rh1,rh2を逐次補正するようにしている(請求項2)。
さらに、請求項2の水質測定方法において、前記変化量eh1,eh2を計算するに際して、ΔAh1-(εh1/εh)ΔAhの正負によってeh1の正負を判定するとともに、ΔAh2-(εh2/εh)ΔAhの正負によってeh2の正負を判定し、その後、eh1×eh2>0のときは、eh1は-ab/(a2+1)でeh2はb/(a2+1)とし、eh1×eh2≦0のときは、eh1×b>0ならばeh1は-ab/(a2+1)でeh2は0とし、eh1×b≦0ならばeh1は0でeh2はbとすることが望ましい(請求項3)。
但し、
a=(εhAh2-εh2Ah)/(εhAh1-εh1Ah)
b={Ah1(εh2-rh2εh)+Ah(rh2εh1-rh1εh2)
+Ah2(rh1εh-εh1)}/(εhAh1-εh1Ah)
【発明の効果】
【0035】
上記特徴的構成よりなる水質測定方法においては、試料水中に含まれる共存物質の組成が変化したりその濃度が変化しても、前記試料水中の所望の測定対象成分の濃度を、共存物質の影響を可及的に受けることがなく、精度よく測定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
この発明の水質測定方法が従来の水質測定方法と大きく異なる点は、試料水に対して所定波長帯域の光を照射し、そのとき得られる吸光測定値に基づいて濃度推定式を求め、この濃度推定式を用いて前記試料水中に含まれる測定対象成分の濃度を得るようにした水質測定方法において、前記濃度推定式を求める際に用いる比吸光度の変動を補正するようにしたことであり、より詳しくは、一定の時間間隔で測定値を連続的に採取し、ある時点におけるある特定の波長における吸光度と、この特定の波長の前後において僅かに異なる二つの波長における吸光度と、前記ある時点より一つ前の時点のある特定の波長における吸光度と、この特定の波長の前後において僅かに異なる二つの波長における吸光度とを用いて逐次演算を行うことにより試料水中の測定対象成分の濃度を得るようにしたことである。つまり、濃度推定式を的確に補正することにより、試料水中の測定対象成分の濃度を、当該測定対象成分のスペクトルに変化が生じたり、前記試料水中に共存する物質の組成や濃度に起因して当該共存物質のスペクトルに変化が生じたりしていても、さらには、測定装置などにおける機械的な要因によって測定誤差が生じていてもこれらの要因にかかわりなく前記測定対象成分の濃度を精度よく測定できるようにしたことである。」
7 周知技術
(1)周知技術1
甲第2号証及び甲第3号証の記載に例示されるように、測定対象ガスの温度を測定する温度センサと、測定対象ガスの圧力を測定する圧力センサとを備えるガス濃度測定装置は、本願の優先日前に周知である(以下、「周知技術1」という。)
(2)周知技術2
甲第4号証及び甲第5号証の記載に例示されるように、光源と測定手段との間に分光素子を設けて、光ビームを2方向へ分光して、その一方は対象物を通過させ、他方は対象物を通過させず、測定した各分光の光強度を用いて、ランベルト・ベールの法則によりガス濃度を算出するガス濃度測定装置は、本願の優先日前に周知である(以下、「周知技術2」という。)。
第5 当審の判断
1 請求項1に係る発明について
(1)対比
本件発明1と甲1発明1とを対比する。
ア 構成Aについて
甲1発明1における「測定対象のガス状物質」は、本件発明1における「測定対象ガス」に相当するから、甲1発明1において、「測定対象のガス状物質」のガス濃度を計測する「ガス濃度計測装置」は、本件発明1における「測定対象ガスのガス濃度を測定するためのガス濃度測定装置」(構成A)に相当する。
イ 構成Bについて
甲1発明1において、「計測領域」は、「火炎ガスが通過する領域」であるから、甲1発明1が、「計測領域」の前後に『「計測領域」を通過する「火炎ガス」の流路』を備えていることは、当業者に明らかである。
しかるに、そのような流路は、計測領域と連通するものであり、計測領域の内部のガスは、測定対象となるから、甲1発明1の『「計測領域」を通過する「火炎ガス」の流路』及び「計測領域」は、それぞれ、構成Bの「ガス出入り通路」及び「測定対象ガスを有する検出チャンバー」に相当する。
よって、甲1発明1は、構成Bを備えている。
ウ 構成C、Dについて
甲1発明1は、測定対象ガスの温度を検出する手段も、測定対象ガスの圧力を検出する手段も備えていないから、本件発明1の構成C、Dを備えていない。
エ 構成Eについて
(ア)甲1発明1における「当該半導体レーザダイオード101、1」及び「ハーフミラー101b」のそれぞれは、本件発明1における「発光ダイオードである少なくとも一つの光源」及び「分光素子」に相当する。
(イ)甲1発明1における「半導体レーザダイオード101、1(光源)、ハーフミラー101b」は、本件発明1の『「少なくとも1つの光源と、」「分光素子と、を備える光源供給装置」』に相当するところ、甲1発明1において、「LDドライバ102、2、半導体レーザダイオード101、1(光源)、ハーフミラー101b、参照セル103、フォトダイオード(PD1)104、4(第2受光手段)が、計測領域からみて、一方の光学窓107a側に位置して」いることは、本件発明1における『「少なくとも1つの光源と、」「分光素子と、を備える光源供給装置」が、「前記ガス検出チャンバーの第1の側に設けられる」』構成に相当する。
(ウ)甲1発明1において、「前記半導体レーザダイオード1から発振されるレーザ光の発振波長は、第1の期間には、測定対象のガス状物質に固有の吸収波長を所定周波数で変調され、第2の期間には、該固有の吸収波長から外れた波長を前記所定周波数で変調され」、「前記第1の期間には、測定対象のガス状物質に固有の吸収波長となるタイミング(箇所)でガス吸収が発生し、ノイズによるオフセット信号を含むガス濃度信号が得られる一方、前記第2の期間には、測定対象のガス状物質に固有の吸収波長となるタイミングが存在せず、ガス吸収のある箇所も存在しない、ノイズによるオフセット信号のみが得られること」からすると、甲1発明1における『「測定対象のガス状物質に固有の吸収波長を所定周波数で変調され」る「第1の期間」の「レーザ光」』及び『「該固有の吸収波長から外れた波長を前記所定周波数で変調され」る「第2の期間」の「レーザ光」』は、それぞれ、本件発明1における『「吸光度が、前記補正ビームに対する吸光度より大きい」「第1の検出ビーム」』及び「補正ビーム」に相当する。このことから、甲1発明1における「半導体レーザダイオード(発光ダイオードである少なくとも一つの光源)」は、本件発明1における「前記測定対象ガスは、前記第1の検出ビームに対する吸光度が、前記補正ビームに対する吸光度より大きい少なくとも一つの光源」に相当する。
(エ)甲1発明1の、
『「第1の期間」において、「前記半導体レーザダイオード1から発振されるレーザ光」』、
『「第1の期間」において、「前記ハーフミラー101bで反射されて、」「計測領域を通過して、他方の光学窓107bの近傍に配置された受光手段としてのフォトダイオード(PD2)105、5によって受光され」る「レーザ光L」』、
『「第1の期間」において、「前記ハーフミラー101bを通過し」て、「参照セル103を通過して、フォトダイオード(PD1)104、4によって受光され」る「レーザ光」』、
『「第2の期間」において、「前記半導体レーザダイオード1から発振されるレーザ光」』、
『「第2の期間」において、「前記ハーフミラー101bで反射されて、」「計測領域を通過して、他方の光学窓107bの近傍に配置された受光手段としてのフォトダイオード(PD2)105、5によって受光され」る「レーザ光L」』、
及び
『「第2の期間」において、「前記ハーフミラー101bを通過し」て、「参照セル103を通過して、フォトダイオード(PD1)104、4によって受光され」る「レーザ光」』
は、それぞれ、本件発明1における
「第1の検出ビーム」、
『「前記ガス検出チャンバーと前記ガス検出チャンバーにおける前記測定対象ガスを通過」する「第1の検出分光」』、
『「前記ガス検出チャンバーと前記ガス検出チャンバーにおける前記測定対象ガスを通過しない」「第2の検出分光」』、
「補正ビーム」
『「前記ガス検出チャンバーと前記ガス検出チャンバーにおける前記測定対象ガスを通過」する「第1の補正分光」』、
及び
『「前記ガス検出チャンバーと前記ガス検出チャンバーにおける前記測定対象ガスを通過しない」「第2の補正分光」』に相当する。
このことからして、甲1発明1の「ハーフミラー101b」は、本件発明1の「分光素子」と同様に、『「第1の期間」において、「前記半導体レーザダイオード1から発振されるレーザ光」(第1の検出ビーム)』を分光し、『「第2の期間」において、「前記半導体レーザダイオード1から発振されるレーザ光」(補正ビーム)』を分光するものである。
(オ)以上のことからして、甲1発明1は、構成Eを備えている。
オ 構成Fについて
(ア)甲1発明1の『「一方の光学窓107a側に位置」して、「前記ハーフミラー101bを通過し」、「参照セル103を通過し」た「レーザ光」を「受光」する「フォトダイオード(PD1)104、4」』及び『「他方の光学窓107bの近傍に配置され」、「当該計測領域を通過したレーザ光」を受光する「受光手段』として「フォトダイオード(PD2)105、5」』は、本件発明1における「それぞれ、前記ガス検出チャンバーの第2の側と前記第1の側に位置する、第1の光感知素子と第2の光感知素子」に相当し、かつ、これらは、「光検知装置」を構成する。
(イ)甲1発明1の、
『「第1の期間」において、「前記ハーフミラー101bで反射されて、」「計測領域を通過して、他方の光学窓107bの近傍に配置された受光手段としてのフォトダイオード(PD2)105、5によって受光され」る「レーザ光L」』、
『「第1の期間」において、「前記ハーフミラー101bを通過し」て、「参照セル103を通過して、フォトダイオード(PD1)104、4によって受光され」る「レーザ光」』、
『「第2の期間」において、「前記ハーフミラー101bで反射されて、」「計測領域を通過して、他方の光学窓107bの近傍に配置された受光手段としてのフォトダイオード(PD2)105、5によって受光され」る「レーザ光L」』、
及び
『「第2の期間」において、「前記ハーフミラー101bを通過し」て、「参照セル103を通過して、フォトダイオード(PD1)104、4によって受光され」る「レーザ光」』は、それぞれ、本件発明1における
「第1の検出分光」、
「第2の検出分光」、
「第1の補正分光」、
及び
「第2の補正分光」に相当し、かつ、これらのいずれも、フォトダイオード(PD1、PD2)により受光され、測定されるものである。
(ウ)甲1発明1は、「前記第1の検出ビームの前記第1の検出分光の光強度と前記第2の検出分光の光強度を測定することにより、前記測定対象ガスの第1の検出濃度を算出」することも、「前記補正ビームの前記第1の補正分光の光強度と前記第2の補正分光の光強度を測定することにより、前記測定対象ガスの補正濃度を算出」することも、「前記第1の検出濃度から前記補正濃度を差し引」くことも行わない。
算出過程は異なるものの、「測定対象のガス状物質(測定対象ガス)」の「ガス濃度」を得る点では、甲1発明1は、本件発明1と共通する。
(エ)これらのことからして、甲1発明1は、構成Fの内、「それぞれ、前記ガス検出チャンバーの第2の側と前記第1の側に位置する、第1の光感知素子と第2の光感知素子を少なくとも備え」、「前記第1の検出ビームの前記第1の検出分光の光強度と前記第2の検出分光の光強度を測定」し、「前記補正ビームの前記第1の補正分光の光強度と前記第2の補正分光の光強度を測定」し、「前記測定対象ガスの前記ガス濃度を得られる光検知装置」の構成を備える。
カ 構成Gについて
甲1発明1の『「第1の期間」における「測定対象のガス状物質に固有の吸収波長を所定周波数で変調され」る「レーザ光の発振波長」』及び『「第2の期間」における「該固有の吸収波長から外れた波長を前記所定周波数で変調され」る「レーザ光の発振波長」』は、それぞれ、本件発明1における『「前記測定対象ガスの吸収波長範囲内にあ」る「第1の検出ビームの波長」』及び『「前記測定対象ガスの吸収波長範囲外にあ」る「補正ビームの波長」』にそれぞれ相当する。
しかしながら、甲1発明1において、「前記ガス検出チャンバーによる光吸収干渉誤差を補正する」か否かは特定されていない。
キ 一致点・相違点
以上のことから、本件発明1と甲1発明1との一致点及び相違点は、次のとおりである。
<一致点>
「測定対象ガスのガス濃度を測定するためのガス濃度測定装置において、
ガス出入り通路と連通することにより、そのうちの一つのチャンバーは前記測定対象ガスを有するガス検出チャンバーと、
前記ガス検出チャンバーの第1の側に設けられる光源供給装置であって、第1の検出ビームと補正ビームとを発生するためのものであり、前記測定対象ガスは、前記第1の検出ビームに対する吸光度が、前記補正ビームに対する吸光度より大きい少なくとも一つの光源であって、前記光源は、発光ダイオードである少なくとも一つの光源と、前記第1の検出ビームを第1の検出分光と第2の検出分光に分け、前記補正ビームを第1の補正分光と第2の補正分光に分けるためのものであり、前記第1の検出分光と前記第1の補正分光とは、前記ガス検出チャンバーと前記ガス検出チャンバーにおける前記測定対象ガスを通過し、前記第2の検出分光と前記第2の補正分光とは、前記ガス検出チャンバーと前記ガス検出チャンバーにおける前記測定対象ガスを通過しない分光素子と、を備える光源供給装置と、
それぞれ、前記ガス検出チャンバーの第2の側と前記第1の側に位置する、第1の光感知素子と第2の光感知素子を少なくとも備え、それぞれ、前記第1の検出ビームの前記第1の検出分光の光強度と前記第2の検出分光の光強度を測定し、それぞれ、前記補正ビームの前記第1の補正分光の光強度と前記第2の補正分光の光強度を測定し、前記測定対象ガスの前記ガス濃度を得られる光検知装置と、を少なくとも備え、
前記第1の検出ビームの波長は、前記測定対象ガスの吸収波長範囲内にあり、前記補正ビームの波長は、前記測定対象ガスの前記吸収波長範囲外にある、
ガス濃度測定装置。」
<相違点1>
本件発明1は、「前記測定対象ガスの温度を検出するための温度感知素子と、前記測定対象ガスの圧力を検出するための圧力感知素子と」を備えているのに対して、甲1発明1は、これらを備えていない点。
<相違点2>
本件発明1は、「第1の光感知素子と第2の光感知素子」により、「それぞれ、前記第1の検出ビームの前記第1の検出分光の光強度と前記第2の検出分光の光強度を測定することにより、前記測定対象ガスの第1の検出濃度を算出し、それぞれ、前記補正ビームの前記第1の補正分光の光強度と前記第2の補正分光の光強度を測定することにより、前記測定対象ガスの補正濃度を算出し、前記第1の検出濃度から前記補正濃度を差し引いた後、前記測定対象ガスの前記ガス濃度を得られる」ものであるのに対して、甲1発明1は、「第1の光感知素子と第2の光感知素子」により、「前記第1の検出ビームの第1の検出分光の光強度と、前記第2の検出分光の光強度」、「前記補正ビームの前記第1の補正分光の光強度と、前記第2の補正分光の光強度」を測定するものの、「前記第1の検出ビームの前記第1の検出分光の光強度と、前記第2の検出分光の光強度をそれぞれ測定することにより、前記測定対象ガスの第1の検出濃度を算出」することも、「前記補正ビームの前記第1の補正分光の光強度と、前記第2の補正分光の光強度をそれぞれ測定することにより、前記測定対象ガスの補正濃度を算出」することも、「前記第1の検出濃度から前記補正濃度を差し引」くことも行わない点。
<相違点3>
前記第1の検出ビームの波長は、前記測定対象ガスの吸収波長範囲内にあり、前記補正ビームの波長は、前記測定対象ガスの前記吸収波長範囲外にあることにより、本件発明1では、前記ガス検出チャンバーによる光吸収干渉誤差を補正するのに対して、甲1発明1では、光吸収干渉誤差を補正するか否か特定されていない点。
(2)判断
事案に鑑みて、相違点2について検討する。
ア 甲1発明1は、「前記半導体レーザダイオード1から発振されるレーザ光の発振波長は、第1の期間には、測定対象のガス状物質に固有の吸収波長を所定周波数で変調され、第2の期間には、該固有の吸収波長から外れた波長を前記所定周波数で変調され、前記計測領域を通過したレーザ光である主計測光を受光するフォトダイオード(PD2)5の信号処理である実ガス計測ルートでは、前記第1の期間には、測定対象のガス状物質に固有の吸収波長となるタイミング(箇所)でガス吸収が発生し、ノイズによるオフセット信号を含むガス濃度信号が得られる一方、前記第2の期間には、測定対象のガス状物質に固有の吸収波長となるタイミングが存在せず、ガス吸収のある箇所も存在しない、ノイズによるオフセット信号のみが得られることから、前記第1の期間で計測したオフセット信号を含むガス濃度信号から、前記第2の期間で計測したオフセット信号を差し引くことにより、正確なガス濃度を求めることができ、前記参照セルを通過したレーザ光を受光するフォトダイオード(PD1)4の信号処理である参照ガス計測ルートでは、前記第1の期間で計測したオフセット信号を含むガス濃度信号から、前記第2の期間で計測したオフセット信号を差し引くことにより、正確な参照セルのガス濃度を求めることができ」るものである。
イ 甲1発明1において、周知技術2を適用できるかについて検討する。
オフセット信号を差し引くことにより、対ノイズ性に優れ、高精度のガス濃度計測を行うものである甲1発明1において、仮に、周知技術2を適用したとすれば、第1の期間において、計測領域を通過したレーザ光より、ノイズによるオフセット信号を含む計測領域のガス濃度信号を得て、参照セルを通過したレーザ光より、オフセット信号を含む参照セルのガス濃度信号を得て、これら2つのガス濃度信号よりガス濃度を得るものとなる。このガス濃度は、甲1発明1であれば、第2の期間に計測するオフセット信号を差し引いて求める、対ノイズ性に優れる高精度なガス濃度ではなくなっていることから、周知技術2を適用してガス濃度を求めるガス濃度計測装置は、「対ノイズ性に優れ、高精度のガス濃度計測を行う」という発明が解決しようとする課題を解決できないものである。
このように、甲1発明1において、周知技術2を適用すれば、甲1発明1が解決しようとする課題を解決できないものとなってしまうから、甲1発明1において、周知技術2を適用することには、阻害要因がある。
ウ 甲第2号証~甲第6号証のいずれにも、周知技術2以外の相違点2に係る記載はない。
エ そして、本件発明1は、その具体的構成によって、補正濃度を求めて、差し引くことにより、ガス検出チャンバーによる光吸収干渉誤差(オフセット量)を補正したガス濃度を求めることを実現したものであり、この点は、甲第1号証に記載も示唆もなく、また、上記のとおり、周知技術2に照らしてもこのようなガス濃度が求められるものではない。
オ 以上のことからして、甲1発明1において、相違点2に係る構成となすことは、当業者といえども容易になし得たこととはいえない。
カ 申立人の主張について
令和7年3月7日提出の特許異議申立書(以下「異議申立書」という。)における、上記相違点2に関する申立人の主張について検討する。
申立人は、異議申立書において、本件発明1は、「前記第1の検出ビーム(55)の前記第1の検出分光 (55a)の光強度と前記第2の検出分光 (55b) の光強度を測定することにより、前記測定対象ガス(200) の第1の検出濃度 (Co31) を算出し、それぞれ、前記補正ビーム (56) の前記第1の補正分光 (56a) の光強度と前記第2の補正分光 (56b) の光強度を測定することにより、前記測定対象ガス (200) の補正濃度 (Co32) を算出しているのに対し、甲1発明1はハーフミラー(101b)によって計測領域と参照セルとに分けられた光の強度から濃度を算出する点が明らかでない点。」を相違点2として、「ランベルト・ベールの法則によってガス濃度を測定する際に、光源と測定セルとの間に配置したハールミラーのような光学素子を用いて2方向に分岐させて其々の光強度を測定し、測定した其々の光強度を用いて濃度を算出することは従来周知であり(例えば、甲第4号証及び甲第5号証に、光学素子で分岐した測定領域を透過する光の強度と透過しない光の強度から濃度を算出することが記載されている)、甲1発明1に周知技術の技術事項を適用することは、適宜為し得ることにすぎない。」と主張している(33頁)。
上記主張は、周知技術2を、どのような目的(課題)により、どのように適用するのか、その具体的内容に欠けるものである。
また、申立人が述べる相違点2及び周知技術は、当審が認定した相違点2及び周知技術2に相当するものであり、当該周知技術2によっても、甲1発明1において、相違点2に係る構成となすことが容易とはいえないことは、上記イ~オにて述べたところである。よって、当該申立人の主張は採用することができない。
キ 以上のとおりであるから、甲1発明1において、上記相違点2に係る構成となすことは、当業者といえども容易にはなし得ないことである。
(3)小括
以上より、相違点1、3について論ずるまでもなく、本件発明1は、甲1発明1、及び、甲第2号証~甲第6号証に開示された事項又は周知技術から、当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。
2 本件発明2~10について
本件発明2~10はそれぞれ、本件特許の請求項1を直接又は間接的に引用する形式で記載された請求項2~10に係る発明であり、本件発明1の構成を全て含み、それをさらに減縮した発明であるから、甲1発明1とは、上記相違点1~3で少なくとも相違する。
そして、相違点2については、上記1(2)で検討したとおりであるから、本件発明2~10についても、本件発明1と同じ理由により、甲1発明1、及び、甲第2~6号証に開示された事項又は周知技術から、当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。
3 本件発明11について
(1)対比
上記1(1)で説示した本件発明1と甲1発明1との対比を踏まえ、本件発明11と甲1発明2とを対比する。なお、甲1発明1と甲1発明2とは、単にカテゴリーが異なることに伴うものを除き、相当する構成を有している。
ア 構成A’について
構成Aと構成A’は、相当するものであるから、上記1(1)アの説示を踏まえると、甲1発明2は、構成A’に相当する構成を有するといえる。
イ 構成B’について
構成Bと構成B’は、相当するものであるから、上記1(1)イの説示を踏まえると、甲1発明2は、構成B’に相当する構成を有するといえる。
ウ 構成C’、D’について
構成C’、D’と、構成C、Dは、相当するものであるから、上記1(1)ウの説示を踏まえると、甲1発明2は、構成C’、D’を有していない。
エ 構成E’1及びE’2について
「構成E’1及びE’2」と、構成Eとは、構成Eにおいてのみ、光源供給装置がガス検出チャンバーの第1の側に設けられることが特定されるものの、その余の点については、相当するものである。
よって、上記1(1)エの説示を踏まえると、甲1発明2は、構成E’1及びE’2に相当する構成を有するといえる。
オ 構成F’1及びF’2について
「構成F’1及びF’2」と、構成Fとは、構成Fにおいてのみ、第1の光感知素子と、第2の光感知素子とが、ガス検出チャンバーの第2の側と第1の側に位置することが特定されるものの、その余の点については、相当するものである。
よって、上記1(1)オの説示を踏まえると、甲1発明2は、構成F’1、F’2の内、「前記第1の検出ビームの前記第1の検出分光の光強度と、前記第2の検出分光の光強度をそれぞれ測定する」「光強度測定ステップ」と、「前記補正ビームの前記第1の補正分光の光強度と、前記第2の補正分光の光強度をそれぞれ測定」し、「前記測定対象ガスの前記ガス濃度を得られる」「補正ステップ」を有している。
カ 構成G’について
構成Gと構成G’は、相当するものであるから、上記1(1)カの説示を踏まえると、甲1発明2は、構成G’のうち、「前記第1の検出ビームの波長は、前記測定対象ガスの吸収波長範囲内にあり、前記補正ビームの波長は、前記測定対象ガスの前記吸収波長範囲外にあ」る構成を有しているものの、「前記ガス検出チャンバーによる光吸収干渉誤差を補正する」か否かは特定されていない。
キ 一致点・相違点
以上のことから、本件発明11と、甲1発明2との一致点及び相違点は、次の通りである。
<一致点>
「測定対象ガスのガス濃度を測定するためのガス濃度測定方法において、
ガス検出チャンバーを用意して、前記ガス検出チャンバーがガス出入り通路と連通することにより、前記ガス検出チャンバーのチャンバー内に、前記測定対象ガスがあるステップと、
発光ダイオードを光源として用いることにより、第1の検出ビーム及び補正ビームを用意して、前記測定対象ガスの前記第1の検出ビームに対する吸光度は、前記測定対象ガスの前記補正ビームに対する吸光度より大きいステップと、
前記第1の検出ビームを、前記ガス検出チャンバーおける前記測定対象ガスを通過する第1の検出分光と、前記ガス検出チャンバーおける前記測定対象ガスを通過しない第2の検出分光に分け、前記補正ビームを、前記ガス検出チャンバーと前記ガス検出チャンバーおける前記測定対象ガスを通過する第1の補正分光と、前記ガス検出チャンバーと前記ガス検出チャンバーおける前記測定対象ガスを通過しない第2の補正分光に分ける分光ステップと、
前記第1の検出ビームの前記第1の検出分光の光強度と、前記第2の検出分光の光強度をそれぞれ測定するステップと、
前記補正ビームの前記第1の補正分光の光強度と、前記第2の補正分光の光強度をそれぞれ測定し、前記測定対象ガスの前記ガス濃度を得られる補正ステップと、を少なくとも含み、
前記第1の検出ビームの波長は、前記測定対象ガスの吸収波長範囲内にあり、前記補正ビームの波長は、前記測定対象ガスの前記吸収波長範囲外にある、
ガス濃度測定方法。」
<相違点1’>
本件発明11は、「前記測定対象ガスの温度を検出する温度測定ステップと、前記測定対象ガスの圧力を検出する圧力測定ステップと」を備えているのに対して、甲1発明2は、これらを備えていない点。
<相違点2’>
本件発明11は、「光強度測定ステップ」において、「前記第1の検出ビームの前記第1の検出分光の光強度と、前記第2の検出分光の光強度をそれぞれ測定することにより、前記測定対象ガスの第1の検出濃度を算出」し、「補正ステップ」において、「前記補正ビームの前記第1の補正分光の光強度と、前記第2の補正分光の光強度をそれぞれ測定することにより、前記測定対象ガスの補正濃度を算出し、前記第1の検出濃度から前記補正濃度を差し引いた後、前記測定対象ガスの前記ガス濃度を得られる」のに対して、甲1発明2では、「前記第1の検出ビームの第1の検出分光の光強度と、前記第2の検出分光の光強度」、「前記補正ビームの前記第1の補正分光の光強度と、前記第2の補正分光の光強度」を測定するものの、「前記第1の検出ビームの前記第1の検出分光の光強度と、前記第2の検出分光の光強度をそれぞれ測定することにより、前記測定対象ガスの第1の検出濃度を算出」することも、「前記補正ビームの前記第1の補正分光の光強度と、前記第2の補正分光の光強度をそれぞれ測定することにより、前記測定対象ガスの補正濃度を算出」することも、「前記第1の検出濃度から前記補正濃度を差し引」くことも行わない点。
<相違点3’>
前記第1の検出ビームの波長は、前記測定対象ガスの吸収波長範囲内にあり、前記補正ビームの波長は、前記測定対象ガスの前記吸収波長範囲外にあることにより、本件発明11では、前記ガス検出チャンバーによる光吸収干渉誤差を補正するのに対して、甲1発明2では、光吸収干渉誤差を補正するか否か特定されていない点。
(2)判断
事案に鑑みて、上記1(2)で説示した相違点2に係る判断を踏まえて相違点2’について検討する。
相違点2と相違点2’は、カテゴリーが異なることに伴う点を除き、同様の技術的事項に関する相違点であるから、上記1(2)に説示したものと同じ理由により、甲1発明2において、上記相違点2’に係る構成となすことは、当業者といえども容易には想到し得ないものである。
(3)小括
以上より、相違点1’、3’について論ずるまでもなく、本件発明11は、甲1発明2、及び、甲第2号証~甲第6号証に開示された事項又は周知技術から、当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。
4 本件発明12~20について
本件発明12~20はそれぞれ、本件特許の請求項11を直接又は間接的に引用する形式で記載された請求項12~20に係る発明であり、本件発明11の構成を全て含み、それをさらに減縮した発明であるから、甲1発明2とは、上記相違点1’~3’で少なくとも相違する。
そして、相違点2’については、上記3(2)で述べたとおりであるから、本件発明12~20についても、本件発明11と同じ理由により、甲1発明2、及び、甲第2号証~甲第6号証に開示された事項又は周知技術から、当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。
5 まとめ
以上のとおりであるので、上記第3に示した異議申立理由は、理由がない。
第6 むすび
以上のとおり、異議申立理由及び証拠によっては、本件発明1~20に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1~20に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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