特許異議申立
2025-700243
推測装置、推測システム、推測プログラム及び推測方法
- 審判番号
- 2025-700243
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2022-019974
- 登録番号
- 7544085
- 請求日
- 2025年02月27日
- 審決日
- 2025年05月29日
- 公報発行日
- 2025年06月27日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】栗田工業株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人IPX
- 【異議申立人】土田 修史
- 審判長/審判官
- 審判長 田口 傑
- 審判官 武市 匡紘
- 審判官 長清 吉範
- 分類
- P1651.121-Y (D21F) / P1651.537-Y (D21F)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7544085号発明「推測装置、推測システム、推測プログラム及び推測方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7544085号の請求項1~11に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7544085号の請求項1~11に係る特許についての出願は、令和4年2月10日(優先権主張 令和3年2月12日)の出願であって、令和6年8月26日にその特許権の設定登録がされ、令和6年9月3日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和7年2月27日に特許異議申立人土田修史(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。
第2 本件発明
特許第7544085号の請求項1~11の特許に係る発明(以下「本件発明1」等という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1~11に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
水系において又は前記水系から派生して今後生じ得る見込結果を推測するための推測システムであって、
ここで、前記水系は紙製品を製造する工程における水系であり、
推測する前記見込結果は、前記紙製品の欠点数、紙力、継手率、サイズ度、透気度、平滑度、灰分量、色調、地合、臭気、又は水分率に関し、
パラメータ情報取得部と、関係性モデル情報取得部と、推測部と、出力部と、を備え、
前記パラメータ情報取得部は、前記水系の水質に関する水質パラメータ、前記水系、前記水系に関連する設備又は前記水系に添加する原料の制御条件に関する制御パラメータ、及び前記見込結果と異なる意味を持つパラメータであって前記水系、前記水系に関連する設備若しくは前記水系に添加する原料において又は前記水系、前記水系に関連する設備若しくは前記水系に添加する原料から派生して生じた結果に関する結果パラメータのうちいずれか1種であるパラメータを2つ以上含むパラメータ情報を取得し、
ここで、前記パラメータ情報は前記水質パラメータを含み、
前記関係性モデル情報取得部は、事前に作成した、前記見込結果又は前記見込結果に関連する指標と、2つ以上の前記パラメータとの関係を示す関係性モデル情報を取得し、
前記推測部は、前記パラメータ情報及び前記関係性モデル情報に基づいて、前記見込結果又は前記見込結果に関連する指標を推測し、
前記出力部は、前記推測部が推測した前記見込結果又は前記見込結果に関連する指標を、経時的に表示させる
推測システム。
【請求項2】
請求項1に記載の推測システムにおいて、
前記関係性モデル情報は、前記見込結果に相当する事前確認結果又は前記事前確認結果に関連する指標と、2つ以上の前記パラメータとの回帰分析、時系列分析、決定木、ニューラルネットワーク、ベイズ、クラスタリング又はアンサンブル学習により求められるモデルである
推測システム。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の推測システムにおいて、
前記関係性モデル情報は、前記見込結果に相当する事前確認結果又は前記事前確認結果に関連する指標と、2つ以上の前記パラメータとの回帰分析により求められるモデルである
推測システム。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の推測システムにおいて、
前記水質パラメータは、前記水系のpH、電気伝導率、酸化還元電位、ゼータ電位、濁度、温度、泡高さ、生物化学的酸素要求量(BOD)、化学的酸素要求量(COD)、吸光度、色、粒度分布、凝集度合い、異物量、水面の発泡面積、水中の汚れ面積、気泡の量、グルコースの量、有機酸の量、デンプンの量、カルシウムの量、全塩素の量、遊離塩素の量、溶存酸素量、カチオン要求量、硫化水素の量、過酸化水素の量及び系内の微生物の呼吸速度からなる群から選択される1種以上である、
推測システム。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の推測システムにおいて、
前記制御パラメータは、抄紙機の運転速度(抄速)、原料脱水機のろ布回転速度、洗浄機のろ布回転速度、前記水系に対する薬品添加量、前記水系に添加する原料に対する薬品添加量、前記水系に関連する設備に対する薬品添加量、加熱用の蒸気量、加熱用の蒸気温度、加熱用の蒸気圧力、種箱からの流量、プレスパートのニップ圧、プレスパートのフェルトバキューム圧、製紙原料の配合比率、製紙原料の損紙配合量、製紙原料のスクリーンの目開き、叩解機のローターとステーターの間の隙間距離、フリーネス及び叩解度からなる群から選択される1種以上である
推測システム。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の推測システムにおいて、
前記結果パラメータは、前記紙製品の単位重量(米坪)、歩留率、白水濃度、前記紙製品の含水率、前記紙製品を製造する設備内の蒸気量、前記紙製品を製造する設備内の蒸気温度、前記紙製品を製造する設備内の蒸気圧力、紙製品の厚さ、前記紙製品中の灰分濃度、前記紙製品の欠点の種類、前記紙製品の欠点の数、工程内における断紙の時期、フリーネス、叩解度及び曝気量からなる群から選択される1種以上である
推測システム。
【請求項7】
請求項1~請求項6のいずれか1項に記載の推測システムにおいて、
前記出力部は、前記推測部が推測した前記見込結果又は前記見込結果に関連する指標を、見込結果又は見込結果に関連する指標対時間グラフとして表示させる
推測システム。
【請求項8】
請求項1~請求項7のいずれか1項に記載の推測システムにおいて、
前記出力部は、前記推測部が推測した前記見込結果又は前記見込結果に関連する指標が、一定の閾値を超えた場合に警告を出力する
推測システム。
【請求項9】
請求項1~請求項8のいずれか1項に記載の推測システムにおいて、
関係性モデル情報調整部をさらに備え、
前記関係性モデル情報調整部は、前記パラメータ情報の中で前記関係性モデル情報に対して影響の小さいパラメータ情報を除外調整し、
前記関係性モデル情報取得部は、前記関係性モデル情報調整部によって影響の小さいパラメータ情報が除外調整されて作成された関係性モデル情報を取得する
推測システム。
【請求項10】
水系において又は前記水系から派生して今後生じ得る見込結果を推測するための推測プログラムであって、
ここで、前記水系は紙製品を製造する工程における水系であり、
推測する前記見込結果は、前記紙製品の欠点数、紙力、継手率、サイズ度、透気度、平滑度、灰分量、色調、地合、臭気、又は水分率に関し、
コンピュータを、パラメータ情報取得部、関係性モデル情報取得部、推測部及び出力部として機能させ、
前記パラメータ情報取得部は、前記水系の水質に関する水質パラメータ、前記水系、前記水系に関連する設備又は前記水系に添加する原料の制御条件に関する制御パラメータ、及び前記見込結果と異なる意味を持つパラメータであって前記水系、前記水系に関連する設備若しくは前記水系に添加する原料において又は前記水系、前記水系に関連する設備若しくは前記水系に添加する原料から派生して生じた結果に関する結果パラメータのうちいずれか1種であるパラメータを2つ以上含むパラメータ情報を取得し、
ここで、前記パラメータ情報は前記水質パラメータを含み、
前記関係性モデル情報取得部は、事前に作成した、前記見込結果又は前記見込結果に関連する指標と、2つ以上の前記パラメータとの関係を示す関係性モデル情報を取得し、
前記推測部は、前記パラメータ情報及び前記関係性モデル情報に基づいて、前記見込結果又は前記見込結果に関連する指標を推測し、
前記出力部は、前記推測部が推測した前記見込結果又は前記見込結果に関連する指標を、経時的に表示させる
推測プログラム。
【請求項11】
水系において又は前記水系から派生して今後生じ得る見込結果を推測するための、推測システムが実行する推測方法であって、
ここで、前記水系は紙製品を製造する工程における水系であり、
推測する前記見込結果は、前記紙製品の欠点数、紙力、継手率、サイズ度、透気度、平滑度、灰分量、色調、地合、臭気、又は水分率に関し、
パラメータ情報取得工程と、関係性モデル情報取得工程と、推測工程と、出力工程と、を備え、
前記パラメータ情報取得工程では、前記水系の水質に関する水質パラメータ、前記水系、前記水系に関連する設備又は前記水系に添加する原料の制御条件に関する制御パラメータ、及び前記見込結果と異なる意味を持つパラメータであって前記水系、前記水系に関連する設備若しくは前記水系に添加する原料において又は前記水系、前記水系に関連する設備若しくは前記水系に添加する原料から派生して生じた結果に関する結果パラメータのうちいずれか1種であるパラメータを2つ以上含むパラメータ情報を取得し、
ここで、前記パラメータ情報は前記水質パラメータを含み、
前記関係性モデル情報取得工程では、事前に作成した、前記見込結果又は前記見込結果に関連する指標と、2つ以上の前記パラメータとの関係を示す関係性モデル情報を取得し、
前記推測工程では、前記パラメータ情報及び前記関係性モデル情報に基づいて、前記見込結果又は前記見込結果に関連する指標を推測し、
前記出力工程では、前記推測工程で推測した前記見込結果又は前記見込結果に関連する指標を、経時的に表示させる
推測方法。」
第3 申立理由の概要
申立理由1 申立人は、主たる証拠として甲第1号証及び従たる証拠として甲第2号証~甲第3号証を提出し、請求項1~11に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、請求項1~11に係る特許を取り消すべきものである旨主張する。
申立理由2 申立人は、請求項7に係る特許は、請求項7で「前記」が付されていない「見込結果」が請求項1等の「見込結果」と同一か否か判別できないから、その記載から特許を受けようとする発明が不明確であり、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものあるから、請求項7に係る特許を取り消すべきものである旨主張する。
<申立人が提出した甲号証>
甲第1号証:特開2015-74835号公報
甲第2号証:ユッカ・ノッケライネン、坂田秀実、「リテンションと灰分コントロール」、紙パ技協誌、紙パルプ技術協会、1999年2月1日、第53巻、第2号、p.45~55
甲第3号証:特開2005-299028号公報
(甲○号証につき、以下「甲○」等という。)
第4 当審の判断
1 申立理由1について
(1) 甲号証の記載
ア 甲1及び引用発明
(ア) 甲1の記載事項
甲1には以下の記載がある(下線は当審で付した。)。
「【請求項1】
パルプ原料が漂白工程を経て貯蔵槽に貯蔵され、前記貯蔵槽から取り出されたパルプ原料の貯蔵槽出白色度を推定するパルプ白色度の推定方法であって、
前記漂白工程中のパルプ原料の残留塩素濃度、前記漂白工程中のパルプ原料の温度、前記漂白工程中のパルプ原料の白色度、前記漂白工程中のパルプ原料の蒸解および/または漂白の進行度合い、前記パルプ原料の送り流量、ならびに前記漂白工程で添加された漂白薬品の添加率を実測するステップと、
前記貯蔵槽でのパルプ原料滞留時間の推定値を算出するステップと、
前記貯蔵槽出白色度を目的変数とし、前記漂白工程中のパルプ原料の残留塩素濃度、前記漂白工程中のパルプ原料の温度、前記漂白工程中のパルプ原料の白色度、前記漂白工程中のパルプ原料の蒸解および/または漂白の進行度合い、前記パルプ原料の送り流量、前記漂白工程で添加された漂白薬品の添加率、ならびに前記貯蔵槽でのパルプ原料滞留時間を説明変数とする重回帰推定モデル式から前記貯蔵槽出白色度の推定値を算出するステップと、
を有することを特徴とするパルプ白色度の推定方法。」
「【請求項8】
パルプ原料が漂白工程を経て貯蔵槽に貯蔵され、前記貯蔵槽から取り出されたパルプ原料の貯蔵槽出白色度を推定するパルプ白色度の推定装置であって、
前記漂白工程中のパルプ原料の残留塩素濃度、前記漂白工程中のパルプ原料の温度、前記漂白工程中のパルプ原料の白色度、前記漂白工程中のパルプ原料の蒸解および/または漂白の進行度合い、前記パルプ原料の送り流量、ならびに前記漂白工程で添加された漂白薬品の添加率を取得する手段と、
前記貯蔵槽でのパルプ原料滞留時間の推定値を算出する手段と、
前記貯蔵槽出白色度を目的変数とし、前記漂白工程中のパルプ原料の残留塩素濃度、前記漂白工程中のパルプ原料の温度、前記漂白工程中のパルプ原料の白色度、前記漂白工程中のパルプ原料の蒸解および/または漂白の進行度合い、前記パルプ原料の送り流量、前記漂白工程で添加された漂白薬品の添加率、ならびに前記貯蔵槽でのパルプ原料滞留時間を説明変数とする重回帰推定モデル式から前記貯蔵槽出白色度の推定値を算出する手段と、
を備えたことを特徴とするパルプ白色度の推定装置。」
「【背景技術】
【0002】
紙の原料となるパルプの製造工程には多くのセンサーが設置され、製造途中の温度や流量、圧力、pHなどに加え製品品質に係わる重要な原料性状についても測定、管理許容値を満たしているかどうか監視している。
【0003】
図1に、典型的なクラフトパルプの多段漂白工程のプロセス・フローを示す。この漂白工程では、パルプ原料は二酸化塩素漂白段D0段、苛性ソーダ、酸素および過酸化水素添加アルカリ抽出段Eop段、二酸化塩素漂白段D1段を組み合わせた漂白工程が適用され、漂白を終えたパルプ原料は、複数の貯蔵槽に貯蔵される。このようにパルプ漂白工程の後工程には、通常、複数基からなる大容量の貯蔵槽が設置される場合が多く、パルプ原料は、その保管を兼ねてこの貯蔵槽内を日単位オーダーの長時間をかけて通過した後、抄紙機に送液される。そのため、例えばパルプ原料中の残留塩素濃度の多寡や、原料温度、貯蔵槽での滞留時間の長短に従って貯蔵槽内部で漂白反応がさらに進行し、パルプ白色度が変化していく。」
「【発明の効果】
【0016】
本発明は、従来、1日数回、定期的に測定される手分析値によってしか知り得なかった、複数基からなる大容量の貯蔵槽出のパルプ白色度の値を、連続値としてほぼ良好に推定することができるようになり、品質管理のガイド機能として活用して行くことが可能となる。」
「【0019】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。本発明では、仮想センサーであるソフトセンサーによって大容量の貯蔵槽内を通過後のパルプ原料の白色度を、重回帰式を使って推定する。そこで先ず、その重回帰式で用いる説明変数の1つとして必要な貯蔵槽でのパルプ原料滞留時間の推定計算方法、及び、その他の説明変数の選定例について述べる。次に、その推定精度を保持して行くため、1日に数回、定期測定されるパルプ白色度の手分析実測値を活用して、重回帰式を指数平滑法、カルマンフィルターを用いて逐次補正する方法について述べる。」
「【0025】
ここでは、二酸化塩素漂白段(D0段)、苛性ソーダ、酸素および過酸化水素添加アルカリ抽出段(Eop段)および二酸化塩素漂白段(D1段)からなる漂白工程で作られた後、それに付随する貯蔵槽で長時間滞留した後に取り出されたパルプ原料について統計解析を行なった。すなわち、このパルプ原料に対し、漂白工程で経てきた多数の操作項目の操業データと、約3か月分の手分析データ(500データほど)とからなる貯蔵槽出のパルプ白色度のデータを用いて統計解析を行なった。その結果、貯蔵槽出のパルプ白色度は、主に下記10個の説明変数と強い相関を持つことが判った。
[1]原料送り流量
[2]Eop段での苛性ソーダ(NaOH)添加率
[3]Eop段での過酸化水素(H2O2)添加率
[4]D1段での二酸化塩素(ClO2)添加率
[5]D1段出パルプ原料の白色度
[6]D1段出パルプ原料の温度
[7]D1段出パルプ原料の残留塩素濃度
[8]Eop段出パルプ原料の白色度
[9]Eop段出パルプ原料のK価
[10]貯蔵槽でのパルプ原料滞留時間
【0026】
ここでK価とは、パルプ原料の蒸解および/または漂白の進行度合いの指標となる、リグニン成分含有量を評価する指標である。尚、これら10個の説明変数は必ずしも全て用いなければならない訳ではない。また、上記以外の説明変数として、例えば、外気温度などをさらに加えても良い。
【0027】
尚、これらの説明変数に使うデータとして、貯蔵槽出のパルプ原料の白色度の手分析データのサンプリング時刻に対応した、それぞれ変数毎の遅れ時間を考慮したプロセスデータを用いたデータ群で統計解析作業を進めていかなければならない点に注意が必要である。
【0028】
貯蔵槽でのパルプ原料滞留時間Tは、操業状況や貯蔵槽の運用によって大きく変わるため一定値として決め難いが、相関が強く見られる値を採用すれば実用に耐え得るパルプ白色度の推定を行うことができる。
【0029】
但し、パルプ原料滞留時間Tなどの遅れ時間の決定に際しては、解析対象のプロセスデータを個別にグラフ化して判断し決定していくことも可能であるし、相互相関解析やシステム同定ツールなどのいろいろな解析ツールがあるので、それらを利用して行うこともできる。
【0030】
統計解析によって求めた重回帰式は、最終的に、各説明変数、各説明変数の係数値a1、・・・、a10、各説明変数の遅れ時間(T+L1)、・・・、(T+L9)を用いて(2)式のように表わせる。この遅れ時間とは、各説明変数について測定したパルプ原料が貯蔵槽から出てくるまでの時間を表わすもので、説明変数の測定位置によって各遅れ時間(T+L1)、・・・、(T+L9)が変わってくるので注意が必要である。尚、時間をさかのぼることになるため、式中のこの遅れ時間にはマイナス符号を付けている。
貯蔵槽出パルプ白色度=
a1×[原料送り流量(-(T+L1))]
+a2×[Eop段でのNaOH添加率(-(T+L2))]
+a3×[Eop段でのH2O2添加率(-(T+L3))]
+a4×[D1段でのClO2添加率(-(T+L4))]
+a5×[D1段出パルプ原料の白色度(-(T+L5))]
+a6×[D1段出パルプ原料の温度(-(T+L6))]
+a7×[D1段出パルプ原料の残留塩素濃度(-(T+L7))]
+a8×[Eop段出パルプ原料の白色度(-(T+L8)]
+a9×[Eop段出パルプ原料のK価(-(T+L9))]
+a10×[貯蔵槽でのパルプ原料滞留時間]+C (2)」
「【0048】
そのためα=1を設定し、実測値と推定値の偏差の全量を直接、補正していく場合も多い。図5に、貯蔵槽出のパルプ白色度の実測値を丸印で示し、平滑定数α=1として指数平滑法で補正した推定値を実線で示す。
【0049】
<3-2.カルマンフィルターによる補正>
カルマンフィルターを用いた補正方法は、指数平滑法のように定数項だけでなく、重回帰モデル式に現われる全ての係数値を逐次的に補正することができる。尚、ここで用いたカルマンフィルターは、システム雑音をゼロと仮定している。」
「【0067】
図8(a)に指数平滑法によるパルプ白色度の推定値(平滑定数α=1)を示し、図8(b)にカルマンフィルターによるパルプ白色度の推定値を示す。図8(a)、(b)では、丸印がパルプ白色度の数時間置きの手分析による実測値の推移を示し、実線が推定値を示している。推定モデル式を、手分析の実測値データの情報を基に逐次補正を施している貯蔵槽出のパルプ白色度のトレンド推移は、どちらの補正方法であっても、実測値に対し、良好に追従している。
【0068】
図9に、長期間にわたるパルプ白色度の推定値と手分析実測値を散布図形式に引き直したグラフを示す。推定値と手分析実測値の分布は一直線状にはならず、一定の幅を持って広がっているが、実用に足るだけの相関が認められた。本発明は、貯蔵槽から取り出されるパルプ白色度を連続値として管理することを可能にし、従来の手分析実測値だけでの間欠的な管理に対し、操業時の補助機能として有効である。
【0069】
図10に、貯蔵槽出のパルプ白色度の推定計算を実行する画面例を示す。表の一番下段の中央の枠内の数値(85.83%と記される数値)は、推定計算された貯蔵槽出のパルプ白色度を示している。また、表の最左列に上から下方に従って、推定モデル式の説明変数を示し、左から2列目は重回帰式モデルとした各説明変数の係数値を、左から3列目は推定計算に使用した各プロセス値(演算入力値)を示している。尚、係数値の列の最下段欄外は定数項の値を示している。」
「【0071】
図10の表の一番下段の右側の枠内の数値(85.95%と記される数値)は、その時に推定計算された貯蔵槽出のパルプ白色度のシミュレーション値例を示しており、表の最右列は、シミュレーション計算に用いる各々のプロセス値の模擬入力値を入力する。尚、表の欄外右上部にある「演算入力値コピー」ボタンを押すと、右から2列目に表示されているプロセス値(演算入力値)と同じ値がコピーされて入力され、かかる機能を有することにより入力の手間が省かれる。」
「【0073】
また、手分析値は日に数回しか測定されないためパルプ白色度のトラブルに繋がる場合も時に発生することがあるが、本機能で計算された推定値が管理値を逸脱した時に、警報(アラーム)を自動的に出して操業者にパルプ白色度異常推定として注意を促す利用方法も考えられる。」
「【図1】
[図:0001423547000001.jpg]
」
「【図5】
[図:0001423547000002.jpg]
」
「【図8】
[図:0001423547000003.jpg]
」
「【図10】
[図:0001423547000004.jpg]
」
(イ) 甲1発明
上記(ア)から、甲1には次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。
「パルプ原料が漂白工程を経て貯蔵槽に貯蔵され、前記貯蔵槽から取り出されたパルプ原料の貯蔵槽出白色度を推定するパルプ白色度の推定装置であって、
前記漂白工程中のパルプ原料の残留塩素濃度、前記漂白工程中のパルプ原料の温度、前記漂白工程中のパルプ原料の白色度、前記漂白工程中のパルプ原料の蒸解および/または漂白の進行度合い、前記パルプ原料の送り流量、ならびに前記漂白工程で添加された漂白薬品の添加率を取得する手段と、
前記貯蔵槽でのパルプ原料滞留時間の推定値を算出する手段と、
前記貯蔵槽出白色度を目的変数とし、前記漂白工程中のパルプ原料の残留塩素濃度、前記漂白工程中のパルプ原料の温度、前記漂白工程中のパルプ原料の白色度、前記漂白工程中のパルプ原料の蒸解および/または漂白の進行度合い、前記パルプ原料の送り流量、前記漂白工程で添加された漂白薬品の添加率、ならびに前記貯蔵槽でのパルプ原料滞留時間を説明変数とする重回帰推定モデル式から前記貯蔵槽出白色度の推定値を算出する手段と、
推定計算された貯蔵槽出のパルプ白色度を画面表示する手段と、
を備えることで、
貯蔵槽出のパルプ白色度の値を、連続値としてほぼ良好に推定することができるようにしたパルプ白色度の推定装置。」
イ 甲2
(ア) 甲2には、以下の事項が記載されている。
「
[図:0001423547000005.jpg]
[図:0001423547000006.jpg]
[図:0001423547000007.jpg]
[図:0001423547000008.jpg]
」(第53ページ左欄第10行~第54ページ左欄第4行)
「
[図:0001423547000009.jpg]
」
「
[図:0001423547000010.jpg]
」
(イ) 上記(ア)の図17には、図右上のWeb measurements部分の長方形から引き出された線が、Paper ash controllerと記載された○を通って、Σを○囲いした部分(以下「○Σ」という。)に接続されている。そして、○Σからはさらに2本の線が接続されており、一方は、HBと記載された近くでFilterからの経路のバルブに接続され、他方は、Feed-forward furnish ashと記載された○に接続されている。また、当該Feed-forward furnish ashと記載された○からはもう1本の分岐した線がでており、分岐の一方は、RM-200に接続され、分岐の他方は、Furnish ash controllerと記載された○を経て、図左側でFilterからFresh pulpへの経路のバルブにつながっている事項が看取される。
また、上記(ア)の図18には、上から3段目にPaper ashについてのグラフが記載されている。
そうすると、上記(ア)からみて、甲2には次の技術(以下「甲2技術」という。)が記載されている。
「紙料灰分変動を補正するためにフィードフォワード制御により新しい填(合議体注:「土へんに眞で構成される字」を「填」として表記する。)料の供給を調整することで、紙製品の灰分を安定化させる技術」
ウ 甲3
(ア) 甲3には以下の事項が記載されている。
「【請求項9】
抄紙機における紙切れをコンピュータを用いて予測する抄紙機の紙切れ予測方法であって、
前記コンピュータが前記抄紙機の抄紙に関する複数種のプロセス値を測定するための測定装置から前記プロセス値を収集するステップと、
前記コンピュータが前記収集するステップにおいて収集した複数種のプロセス値をデータベースに保存するステップと、
前記コンピュータが前記データベースに保存された複数種のプロセス値を取り出すステップと、
前記コンピュータが前記取り出すステップにおいて取り出された複数種のプロセス値をニューラルネットワークに適用して紙切れの危険度を算出するステップと、
前記コンピュータが前記算出するステップにおいて算出された紙切れの危険度を表す信号を送出するステップと、
前記送出するステップにおいて送出された信号に応じて、前記コンピュータに接続された出力装置から紙切れの危険度を示す情報を出力するステップと
を備えることを特徴とする抄紙機紙切れ予測方法。」
「【0029】
図1において、調成パート100、白水循環パート200、抄紙パート300の各部分は、上述したように紙製造プロセスの略図である。データベース500は抄紙に関する複数種のプロセス値を収集保存するもので、コンピュータ600によりアクセスされる。コンピュータ600は前記データベース500と通信し、紙切れ危険度を演算または出力する。監視モニター700はコンピュータ600による算出結果またはデータベース500に保存されたプロセス値などを出力する出力手段の一例である。なお、出力手段としてコンピュータ600に接続されたプリンタやスピーカなどを用いてもよい。」
「【図1】
[図:0001423547000011.jpg]
」
(イ) 上記(ア)から、甲3には次の技術(以下「甲3技術」という。)が記載されている。
「抄紙機における紙切れをコンピュータを用いて予測する技術」
(2) 本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
(ア) 「パルプ原料」の「漂白工程」では、水を用いてパルプの漂白処理をしていることは例示するまでもなく技術常識であるし、漂白されたパルプは紙製品に用いられるものであるから、甲1発明における「漂白工程」及び「貯蔵槽」を含む経路は、本件発明1における「紙製品を製造する工程における水系」に相当する。
(イ) 甲1発明の「貯蔵槽から取り出された」「パルプ原料の貯蔵槽出白色度」は、本件発明1の「水系において」「今後生じ得る見込み結果」に相当し、「水系において」という事項は「水系において又は前記水系から派生して」という事項を満たすから、甲1発明における「貯蔵槽から取り出された」「パルプ原料の貯蔵槽出白色度」は、本件発明1における「水系において又は前記水系から派生して今後生じ得る見込結果」に相当する。
(ウ) 甲1発明における「パルプ白色度の推定装置」は、本件発明1における「推測システム」に相当する。
(エ) 甲1発明の「白色度」は、本件発明1の「欠点数、紙力、継手率、サイズ度、透気度、平滑度、灰分量、色調、地合、臭気、又は水分率」に含まれる「色調」に相当するから、甲1発明の「パルプ原料の貯蔵槽出白色度」は本件発明1の「前記紙製品の欠点数、紙力、継手率、サイズ度、透気度、平滑度、灰分量、色調、地合、臭気、又は水分率」と対比して、紙製品であるかどうかはさておき、「欠点数、紙力、継手率、サイズ度、透気度、平滑度、灰分量、色調、地合、臭気、又は水分率」という事項に限って一致する。
(オ) 甲1発明の「説明変数」は、本件発明1の「パラメータ情報」に相当する。また、甲1発明の「前記漂白工程中のパルプ原料の残留塩素濃度、前記漂白工程中のパルプ原料の温度、前記漂白工程中のパルプ原料の白色度、前記漂白工程中のパルプ原料の蒸解および/または漂白の進行度合い、前記パルプ原料の送り流量、前記漂白工程で添加された漂白薬品の添加率、ならびに前記貯蔵槽でのパルプ原料滞留時間を説明変数とする」という事項を踏まえると、甲1発明における「前記漂白工程中のパルプ原料の残留塩素濃度、前記漂白工程中のパルプ原料の温度、前記漂白工程中のパルプ原料の白色度、前記漂白工程中のパルプ原料の蒸解および/または漂白の進行度合い、前記パルプ原料の送り流量、ならびに前記漂白工程で添加された漂白薬品の添加率を取得する手段」は、本件発明1における「パラメータ情報取得部」に相当する。
(カ) 甲1発明における「前記貯蔵槽出白色度を目的変数とし、前記漂白工程中のパルプ原料の残留塩素濃度、前記漂白工程中のパルプ原料の温度、前記漂白工程中のパルプ原料の白色度、前記漂白工程中のパルプ原料の蒸解および/または漂白の進行度合い、前記パルプ原料の送り流量、前記漂白工程で添加された漂白薬品の添加率、ならびに前記貯蔵槽でのパルプ原料滞留時間を説明変数とする重回帰推定モデル式から前記貯蔵槽出白色度の推定値を算出する手段」は本件発明1における「推測部」に相当する。
(キ) 甲1発明における「推定計算された貯蔵槽出のパルプ白色度を画面表示する手段」は、本件発明1における「出力部」に相当する。
(ク) 甲1発明において、漂白工程中のパルプ原料は水や漂白薬品と混在した状態にあることは明らかであるから、甲1発明における「前記漂白工程中のパルプ原料の残留塩素濃度、前記漂白工程中のパルプ原料の温度」は、本件発明1における「前記水系の水質に関する水質パラメータ」に相当する。
(ケ) 甲1発明における「前記パルプ原料の送り流量」及び「前記漂白工程で添加された漂白薬品の添加率」はどちらも、本件発明1における「前記水系、前記水系に関連する設備又は前記水系に添加する原料の制御条件に関する制御パラメータ」に相当する。
(コ) 甲1発明における「前記漂白工程中のパルプ原料の白色度」は、本件発明1における「前記見込結果と異なる意味を持つパラメータであって前記水系、前記水系に関連する設備若しくは前記水系に添加する原料において又は前記水系、前記水系に関連する設備若しくは前記水系に添加する原料から派生して生じた結果に関する結果パラメータ」に相当する。
(サ) 上記(オ)の手段及び上記(ク)~(コ)の各パラメータを踏まえると、甲1発明における「前記漂白工程中のパルプ原料の残留塩素濃度、前記漂白工程中のパルプ原料の温度、前記漂白工程中のパルプ原料の白色度、前記漂白工程中のパルプ原料の蒸解および/または漂白の進行度合い、前記パルプ原料の送り流量、ならびに前記漂白工程で添加された漂白薬品の添加率を取得する」事項は、本件発明1における「前記パラメータ情報取得部は、前記水系の水質に関する水質パラメータ、前記水系、前記水系に関連する設備又は前記水系に添加する原料の制御条件に関する制御パラメータ、及び前記見込結果と異なる意味を持つパラメータであって前記水系、前記水系に関連する設備若しくは前記水系に添加する原料において又は前記水系、前記水系に関連する設備若しくは前記水系に添加する原料から派生して生じた結果に関する結果パラメータのうちいずれか1種であるパラメータを2つ以上含むパラメータ情報を取得」する事項に相当する。ここで、甲1発明の「前記漂白工程中のパルプ原料の残留塩素濃度、前記漂白工程中のパルプ原料の温度」は上記(ク)のとおり、本件発明1の「水質パラメータ」に相当するから、甲1発明において「前記漂白工程中のパルプ原料の残留塩素濃度、前記漂白工程中のパルプ原料の温度」も取得している事項は、本件発明1における「ここで、前記パラメータ情報は前記水質パラメータを含」んでいる事項に相当する。
(シ) 甲1発明において「前記貯蔵槽出白色度を目的変数と」している事項を踏まえると、甲1発明における「目的変数」は、本件発明1の「前記見込結果又は前記見込結果に関連する指標」に相当する。また、甲1発明の「重回帰推定モデル式」は本件発明1の「関係性モデル情報」に相当するから、甲1発明における「前記貯蔵槽出白色度を目的変数とし、前記漂白工程中のパルプ原料の残留塩素濃度、前記漂白工程中のパルプ原料の温度、前記漂白工程中のパルプ原料の白色度、前記漂白工程中のパルプ原料の蒸解および/または漂白の進行度合い、前記パルプ原料の送り流量、前記漂白工程で添加された漂白薬品の添加率、ならびに前記貯蔵槽でのパルプ原料滞留時間を説明変数とする重回帰推定モデル式」は、本件発明1における「前記見込結果又は前記見込結果に関連する指標と、2つ以上の前記パラメータとの関係を示す関係性モデル情報」に相当する。
(ス) 甲1発明の「前記貯蔵槽出白色度の推定値を算出する手段」は上記(カ)のとおり本件発明1の「推測部」に相当するが、甲1発明の「前記貯蔵槽出白色度の推定値を算出する手段」のうち、「前記貯蔵槽出白色度」は上記(シ)のとおり甲1発明での「目的変数」でもあり、本件発明1の「前記見込結果又は前記見込結果に関連する指標」に相当する。また、甲1発明の「推定値を算出する」とは本件発明1の「指標」を「推測」することに相当するから、甲1発明において「前記貯蔵槽出白色度の推定値を算出する手段」が「説明変数」と「重回帰推定モデル式」により、「目的変数」である「前記貯蔵槽出白色度の推定値を算出する」事項は、本件発明1において、「前記推測部は、前記パラメータ情報及び前記関係性モデル情報に基づいて、前記見込結果又は前記見込結果に関連する指標を推測」する事項に相当する。
(セ) 甲1発明における「推定計算された貯蔵槽出のパルプ白色度を画面表示する」は、本件発明1における「前記推測部が推測した前記見込結果又は前記見込結果に関連する指標を、経時的に表示させる」と対比して、経時的かどうかはさておき、「前記推測部が推測した前記見込結果又は前記見込結果に関連する指標を、」「表示させる」という事項に限って一致する。
(ソ)そうすると、両者の一致点及び相違点は次のとおりである。
<一致点>
「水系において又は前記水系から派生して今後生じ得る見込結果を推測するための推測システムであって、
ここで、前記水系は紙製品を製造する工程における水系であり、
推測する前記見込結果は、欠点数、紙力、継手率、サイズ度、透気度、平滑度、灰分量、色調、地合、臭気、又は水分率に関し、
パラメータ情報取得部と、推測部と、出力部と、を備え、
前記パラメータ情報取得部は、前記水系の水質に関する水質パラメータ、前記水系、前記水系に関連する設備又は前記水系に添加する原料の制御条件に関する制御パラメータ、及び前記見込結果と異なる意味を持つパラメータであって前記水系、前記水系に関連する設備若しくは前記水系に添加する原料において又は前記水系、前記水系に関連する設備若しくは前記水系に添加する原料から派生して生じた結果に関する結果パラメータのうちいずれか1種であるパラメータを2つ以上含むパラメータ情報を取得し、
ここで、前記パラメータ情報は前記水質パラメータを含み、
前記推測部は、前記見込結果又は前記見込結果に関連する指標と2つ以上の前記パラメータとの関係を示す前記関係性モデル情報及び前記パラメータ情報に基づいて、前記見込結果又は前記見込結果に関連する指標を推測し、
前記出力部は、前記推測部が推測した前記見込結果又は前記見込結果に関連する指標を、表示させる
推測システム。」
<相違点1>
推測する前記見込結果に関し、本件発明1は、前記紙製品に関するものであるのに対し、甲1発明は、前記貯蔵槽から取り出されたパルプ原料に関するものであって、紙製品のものではない点。
<相違点2>
関係性モデル情報に関し、本件発明1は関係性モデル情報取得部を備えており、また、関係性モデル情報は事前に作成したものであるのに対し、甲1発明では、関係性モデル情報取得部を備えているかどうか明確でなく、また、関係性モデル情報が事前に作成されたものであるかどうかが明らかでない点。
<相違点3>
出力部における前記推測部が推測した前記見込結果又は前記見込結果に関連する指標の表示に関し、本件発明1は、経時的に表示させるものであるのに対し、甲1発明は、出力部で経時的な表示を行えるかどうかが明らかでない点。
イ 判断
まず、<相違点1>について検討する。
甲2技術は、紙製品の灰分を制御対象としている。また、甲3技術では抄紙機における紙切れを予測している。
一方、甲1発明の推定装置における重回帰推定モデル式や、その際に用いる説明変数は、貯蔵槽出白色度を推定するためのものであるから、甲1発明の説明変数や重回帰推定モデル式に基づいて、甲2技術で対象としている紙製品の灰分や甲3技術で予測対象となっている紙切れを推定することができない。そうすると、甲2技術や甲3技術を踏まえても、甲1発明に基づいて上記相違点1に係る本件発明1の事項を想到することは当業者が容易になし得たことではない。
ウ 申立人の主張について
申立人は、相違点1について、「甲第1号証及び甲第2号証は、いずれも抄紙機の製造工程におけるパラメータを測定することで、製造される紙料の品質を推測、又は算出してパラメータを測定することで、製造される紙料の品質を推測、又は算出してコントロールすることを目的とするものであり、同種技術である。そのため、当業者に甲第1号証に甲第2号証を適用する強い動機付けがある一方で、適用することを妨げる事情はない。」と主張する。
しかしながら、甲1発明は抄紙機の製造工程において記載がなく、そのパラメータもパルプ漂白に関するものであって、抄紙機で製造される紙料に関するものではない。また、仮に甲1発明のパルプ漂白工程の後段で甲2技術による抄紙が行われることがあったとしても、上記イのとおり、甲1発明のパラメータやモデル式では甲2技術の紙料灰分を推測できない。そうすると、かかる主張には理由がない。
エ 小括
してみると、他の相違点を検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明及び甲2~3に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3) 本件発明2~9について
本件発明2~9は、本件発明1に対して、さらに限定事項を付したものである。
よって、上記(2)に示した理由と同様の理由により、本件発明2~9は、甲1発明及び甲2~3に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(4) 本件発明10~11について
本件発明10及び11と甲1発明とを対比すると、少なくとも以下の点で相違する。
<相違点4>
推測する前記見込結果に関し、本件発明10及び11は、いずれも、前記紙製品に関するものであるのに対し、甲1発明は、前記貯蔵槽から取り出されたパルプ原料に関するものであって、紙製品のものではない点。
ここで、相違点4は、上記(2)で検討した相違点1と実質的に同じであるから、上記(2)と同様の理由により、甲1発明及び甲2~3に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(5) 理由1についてのまとめ
以上のとおり、請求項1~11に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではないから、申立理由1は理由がない。
2 申立理由2について
請求項7に記載された「前記出力部は、前記推測部が推測した前記見込結果又は前記見込結果に関連する指標を、見込結果又は見込結果に関連する指標対時間グラフとして表示させる」という事項における「見込結果又は見込結果に関連する指標対時間グラフ」は、「前記出力部」で表示させるグラフの種類を説明する表現であり、グラフでプロットされる個々のデータのそれぞれを特定する表現ではないから、上記事項は明確である。
してみると、請求項7の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件に適合するから、申立理由2は理由がない。
第5 むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1~11に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1~11に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2025-700243