特許異議申立
2025-700119
有機絶縁体および配線基板
- 審判番号
- 2025-700119
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2022-527009
- 登録番号
- 7524320
- 請求日
- 2025年01月27日
- 審決日
- 2025年03月24日
- 公報発行日
- 2025年05月30日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】京セラ株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人ブナ国際特許事務所
- 【異議申立人】寺澤 佳奈美
- 審判長/審判官
- 審判長 恩田 春香
- 審判官 綿引 隆
- 審判官 棚田 一也
- 分類
- P1651.113-Y (H01B) / P1651.121-Y (H01B) / P1651.536-Y (H01B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第1項、特許法第29条第2項、特許法第36条第4項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7524320号発明「有機絶縁体および配線基板」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7524320号の請求項1~4に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7524320号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~4に係る特許についての出願は、2021年(令和3年)5月24日(優先権主張 2020年(令和2年)5月27日)を国際出願日とする出願であって、令和6年7月19日にその特許権の設定登録がされ、同年7月29日に特許掲載公報が発行された。その後、本件特許に対し、令和7年1月27日に特許異議申立人 寺澤佳奈美(以下、「異議申立人」という。)は、特許異議の申立てを行った。
第2 本件発明
本件特許の請求項1~4に係る発明(以下、「本件発明1」~「本件発明4」といい、併せて「本件発明」という。)は、特許請求の範囲の請求項1~4に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
環状オレフィンコポリマーを主成分とする樹脂の硬化体であり、窒素ガス雰囲気下におけるケミルミネッセンス測定によって求められる積算発光量が3.7×105cpm以下である、有機絶縁体。
【請求項2】
前記硬化体のガラス転移温度が134℃以上140℃以下である、請求項1に記載の有機絶縁体。
【請求項3】
前記積算発光量が、2.8×105cpm以上3.2×105cpm以下である、請求項1または2に記載の有機絶縁体。
【請求項4】
絶縁層と該絶縁層の表面に配置された導体層とを具備し、前記絶縁層が請求項1~3のいずれかに記載の有機絶縁体である、配線基板。」
第3 申立理由の概要
1 異議申立人の提出した証拠
異議申立人は、次の甲第1号証(以下、「甲1」という。また、甲第2号証、甲第3号証を、それぞれ、「甲2」、「甲3」という。)を主たる証拠として、甲第2、3号証を従たる証拠として提出している。
甲第1号証(甲1):特開2019-11430号公報
甲第2号証(甲2):大石不二夫、“ケミルミネッセンスの高分子劣化研究への応用”、マテリアルライフ、1998年1月、10巻、1号、3~15ページ
甲第3号証(甲3):特開2010-100843号公報
2 特許異議の申立理由
異議申立人の主張する特許異議の申立ての理由は、以下のとおりである。
(1) 申立理由1(新規性) 本件発明1、3は、甲1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するから、本件特許の請求項1、3に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
(2) 申立理由2(進歩性) 本件発明1~4は、甲1に記載された発明及び甲2、3に記載された技術的事項に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許の請求項1~4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(3) 申立理由3(実施可能要件) 本件明細書の発明の詳細な説明は、本件発明1~4について、当業者が実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではないから、本件特許の請求項1~4に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
第4 異議申立人の提出した証拠の記載
1 甲1について
(1) 甲1の記載
甲1には、以下の記載がある(下線は当審において加筆した。以下同じ。)。
「【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施形態に基づいて説明する。なお、本実施形態では、数値範囲を示す「A~B」はとくに断りがなければ、A以上B以下を表す。
【0014】
まず、本発明に係る実施形態の環状オレフィン系共重合体組成物について説明する。
本実施形態に係る環状オレフィン系共重合体組成物は、環状オレフィン系共重合体(m)と、ヒンダートアミン系化合物(Y)と、を含有する。
本実施形態に係る環状オレフィン系共重合体組成物に含まれる環状オレフィン系共重合体(m)の含有量を100質量部としたとき、当該環状オレフィン系共重合体組成物中のヒンダートアミン系化合物(Y)の含有量は0.01質量部以上であり、好ましくは0.02質量部以上であり、より好ましくは0.05質量部以上、特に好ましくは0.08質量部以上である。ヒンダートアミン系化合物(Y)の含有量が上記下限値以上であると、環状オレフィン系共重合体組成物の耐熱老化性を向上させることができる。
また、本実施形態に係る環状オレフィン系共重合体組成物に含まれる環状オレフィン系共重合体(m)の含有量を100質量部としたとき、当該環状オレフィン系共重合体組成物中のヒンダートアミン系化合物(Y)の含有量は5質量部以下であり、好ましくは2質量部以下であり、より好ましくは1質量部以下である。ヒンダートアミン系化合物(Y)の含有量が上記上限値以下であると、環状オレフィン系共重合体組成物の誘電特性の低下を抑制することができる。
・・・・
【0063】
本実施形態に係るヒンダートアミン系化合物(Y)は、ラジカル捕捉作用を有しうる。それにより、本実施形態に係る環状オレフィン系共重合体組成物の製造時や成形時、成形物の使用環境下で受ける熱や光で発生するラジカルを捕捉し、当該製造時や成形時の環状オレフィン系重合体の酸化劣化や熱分解、熱や光による成形物中の環状オレフィン系重合体の酸化劣化、分解を抑制しうる。
・・・・
【0148】
[フィルムまたはシート]
本実施形態に係る環状オレフィン系共重合体組成物の架橋体はフィルムまたはシートに成形して各種用途に用いることができる。本実施形態に係る環状オレフィン系共重合体組成物を用いて、フィルムまたはシートを形成する方法としては、各種公知の方法が適用可能である。例えば、熱可塑性樹脂フィルム等の支持基材上に上述したワニスを塗布して乾燥後、加熱処理等して環状オレフィン系共重合体組成物を架橋することにより形成する方法が挙げられる。ワニスの支持基材への塗布方法は特に限定されないが、例えば、スピンコーターを用いた塗布、スプレーコーターを用いた塗布、バーコーターを用いた塗布等を挙げることができる。
また、本実施形態に係る環状オレフィン系共重合体組成物を溶融成形して、フィルムまたはシートを得る方法も挙げることができる。
【0149】
[積層体]
本実施形態に係る上記フィルムまたはシートは基材に積層することにより、積層体として各種用途に用いることができる。本実施形態に係る積層体を形成する方法は各種公知の方法が適用可能である。
例えば、基材に対し、上述の方法により製造したフィルムまたはシートを積層し、必要に応じてプレス等により加熱硬化することにより積層体を作製することができる。
また、導体層に対して、前述した架橋体を含む電気絶縁層を積層することにより積層体を作製することもできる。
・・・・
【0160】
[用途]
本実施形態に係る環状オレフィン系共重合体組成物および架橋体(Q)は、耐溶剤性、耐熱性、機械的強度、透明性に優れるので、当該架橋体からなる成形体は、例えば光ファイバー、光導波路、光ディスク基盤、光フィルター、レンズ、光学用接着剤、PDP用光学フィルター、有機EL用コーティング材料、航空宇宙分野における太陽電池のベースフィルム基材、太陽電池や熱制御システムのコーティング材、半導体素子、発光ダイオード、各種メモリー類等の電子素子、ハイブリッドIC、MCM、プリント配線基板、プリント配線基板の絶縁層を形成するために用いられるプリプレグや積層体、表示部品等のオーバコート材料あるいは層間絶縁材料、液晶ディスプレイや太陽電池の基板、医療用器具、自動車用部材、離型剤、樹脂改質剤、ディスプレイ用透明基板、リチウムイオン電池用部材、半導体プロセス部材、フィルムコンデンサ、ガスバリアコート材、電線被服材、自動車用部材、航空宇宙用部材、半導体用プロセス材、電線被覆材、リチウムイオン電池用部材、燃料電池用部材、コンデンサーフィルム、フレキシブルディスプレイ部材、アンカーコート材、透明接着剤、改質材、架橋助剤、医療用容器、医療用カテーテル部材、防水シール材、離型材、ハードコート材、発泡改質剤といった用途で使用することができる。
特に、誘電特性の経時安定性に優れ、耐溶剤性、耐熱性、透明性、機械的特性等にも優れるので、高周波回路基板等の高周波用途に好適に用いることができる。さらに、ガスバリア性にも優れるため、液晶ディスプレイや太陽電池の基板やフィルムまたはシートとして好適に用いることができる。」
「【実施例】
【0162】
以下、本発明を合成例、実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれにより何等制限されるものではない。
・・・・
【0166】
実施例および比較例によって得られたフィルムおよび積層体は次に述べる方法で評価を行った。
・・・・
【0168】
酸化劣化度評価:実施例および比較例によって得られた単層フィルムについて、フーリエ変換赤外分光光度計(FT-IR)を用い、フィルムの透過スペクトルを測定した。1710~1720cm-1付近のC=O結合による吸収強度(I(C=O))と、波数1460cm-1付近のC-H結合による吸収の強度(I(C-H))の比(I(C=O)/I(C-H))を酸化劣化度の指標とした。ここで、単層フィルムを125℃で485時間加熱処理をおこない、加熱処理の前後におけるI(C=O)/I(C-H)をそれぞれ測定し、加熱処理前後のI(C=O)/I(C-H)の変化量によってフィルムの耐熱老化性を評価した。
・・・・
【0169】
実験には以下の原材料を用いた。
・・・・
【0173】
環状オレフィン系重合体(n):
重合体1:エチレンとテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセンとからなる共重合体(製品名:アペル6509T、三井化学社製)
【0174】
ヒンダートアミン系化合物(Y):
化合物(Y)-1:CHIMASSORB 944 FDL(分子量2000~3100)(BASF社製)
化合物(Y)-2:CHIMASSORB 2020 FDL(分子量2600~3400)(BASF社製)
化合物(Y)-3:LA―52(分子量847)(ADEKA社製)
化合物(Y)-4:TINUVIN 770DF(分子量481)(BASF社製)
・・・・
【0176】
ラジカル重合開始剤:
架橋剤1:パークミルD(日本油脂社製)
【0177】
〔合成例1〕
十分に窒素置換した内容積4LのSUS製オートクレーブに、キシレン1670ml、5-ビニル-2-ノルボルネン(VNB)212ml、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセン(TD)120ml、MMAO(東ソーファインケム社製)のトルエン溶液をAl換算で4mmol、水素1984mlを投入した後、系中にエチレンを全圧0.6MPaになるまで導入した。遷移金属化合物(1)0.04mmolをトルエン10mlに溶解させて添加し、重合を開始した。エチレンガスを連続的に供給しながら圧力を保ち、25℃で60分間重合を行った後、5mlのメタノールを圧入することにより重合を停止した。重合終了後、反応物を、20mlの濃塩酸を加えたアセトン15Lとメタノール5Lの混合溶媒に投入してポリマーを全量析出させ、撹拌後濾紙でろ過した。本操作を反応物がなくなるまで繰り返して得られた全ポリマーを80℃、10時間で減圧乾燥した後、エチレン/TD/VNB共重合体を261g得た。極限粘度[η]は0.40(dL/g)、NMRにより決定したポリマー中のVNB由来構造の組成比は25.7mol%、TD由来構造の組成比は10.6mol%であった。DSCで測定したガラス転移温度は101℃であった。
【0178】
[実施例1]
(ワニス1の調製)
合成例1で得られた環状オレフィン系共重合体(m)、環状オレフィン系重合体(n)として重合体1、ラジカル重合開始剤として架橋剤1、ヒンダートアミン系化合物(Y)として化合物(Y)-1、溶媒としてキシレンを用い、表1の配合組成に従い秤量した。秤量したサンプルを十分に溶解するまで撹拌し、目的とするワニス状の環状オレフィン系共重合体組成物を得た。なお、表1および2中における各原料の配合割合の単位は質量部である。
【0179】
(フィルム製膜)
得られたワニス状の環状オレフィン系共重合体組成物を、PETフィルム上に10mm/秒の速度で塗工した後、窒素気流下送風乾燥機中110℃で2分、170℃で2分乾燥した。次いで、180℃に昇温して1時間加熱して架橋体からなる厚さ40μmの単層フィルムを得た。得られたフィルムをPETフィルムから剥がして、各評価を行った。得られた結果を表1に示す。
・・・・
【0188】
【表1】
[図:0001422493000001.jpg]
」
(2) 甲1発明及び甲1記載事項
ア 甲1発明
上記(1)によれば、甲1には、実施例1について、表1を参照すると、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されている。(なお、括弧内の記載は、根拠個所を示す。以下同じ。)
「70質量部の環状オレフィン系共重合体(m)、30質量部の環状オレフィン系共重合体(n)としての重合体1、2.1質量部のラジカル重合開始剤としての架橋剤1、0.1質量部のヒンダートアミン系化合物(Y)としての化合物(Y)-1を、溶媒としてのキシレンに溶解して得たワニス状の環状オレフィン系共重合体組成物を、PETフィルム上に10mm/秒の速度で塗工し、窒素気流下送風乾燥機中110℃で2分、170℃で2分乾燥し、次いで、180℃に昇温して1時間加熱して得た架橋体からなる単層フィルムであって(【0178】、【0179】、【0188】の【表1】)、
環状オレフィン系共重合体(m)はエチレン/テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセン(TD)/5-ビニル-2-ノルボルネン(VNB)共重合体であり(【0177】)、
重合体1はエチレンとテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセンとからなる共重合体(製品名:アペル6509T、三井化学社製)であり(【0173】)、
架橋剤1はパークミルD(日本油脂社製)であり(【0176】)、
化合物(Y)-1はCHIMASSORB 944 FDL(分子量2000~3100)(BASF社製)であり(【0174】)、
フーリエ変換赤外分光光度計(FT-IR)を用い、1710~1720cm-1付近のC=O結合による吸収強度(I(C=O))と、波数1460cm-1付近のC-H結合による吸収の強度(I(C-H))の比の変化量によってフィルムの耐熱老化性を評価した(【0168】)、
厚さ40μmの単層フィルム(【0179】)。」
イ 甲1記載事項1
上記(1)の【0148】及び【0160】によれば、甲1には、以下の技術事項(以下、「甲1記載事項1」という。)が記載されている。
「本実施形態に係る環状オレフィン系共重合体組成物の架橋体は、層間絶縁材料として使用することができる。」
ウ 甲1記載事項2
上記(1)の【0148】、【0149】によれば、甲1には、以下の技術事項(以下、「甲1記載事項2」という。)が記載されている。
「本実施形態に係る環状オレフィン系共重合体組成物を用いて製造したフィルムを積層し、加熱硬化することにより積層体を作製することができる。」
エ 甲1記載事項3
上記(1)の【0014】、【0063】によれば、甲1には、以下の技術事項(以下、「甲1記載事項3」という。)が記載されている。
「本実施形態に係る環状オレフィン系共重合体組成物は、環状オレフィン系共重合体(m)と、ヒンダートアミン系化合物(Y)と、を含有しており、
本実施形態に係るヒンダートアミン系化合物(Y)は、ラジカル捕捉作用を有しうることにより、環状オレフィン系共重合体組成物の製造時や成形時、成形物の使用環境下で受ける熱や光で発生するラジカルを捕捉し、当該製造時や成形時の環状オレフィン系重合体の酸化劣化や熱分解、熱や光による成形物中の環状オレフィン系重合体の酸化劣化、分解を抑制しうるものであり(【0063】)、
環状オレフィン系共重合体(m)の含有量を100質量部としたとき、当該環状オレフィン系共重合体組成物中のヒンダートアミン系化合物(Y)の含有量が0.01質量部以上であると、環状オレフィン系共重合体組成物の耐熱老化性を向上させることができる(【0014】)。」
2 甲2について
甲2には、以下の記載がある。
「本論文は種々のポリマーの熱劣化(空気中、不活性ガス中)のケミルミネッセンスの時間変化を、実測と動力学からシミュレーションしたものである。ペークトップ強度・測定中の積算強度・定常状態の強度やケミルミネッセンス減衰速度などのケミルミネッセンスパラメータが耐久性試験の結果で判断される高分子材料の安定性と強く相関性があることが見出せ、また、ケミルミネッセンスとポリマーの構造的な特徴との関係も調べられた。」(第8ページ右欄第15行~第22行)
「〔結論〕今回の実験的と理論的結果は、不活性ガス中のCL減衰速度の測定は高分子材料の劣化度(主に架橋による)の評価に有益である。」(第10ページ右欄第8行~第10行)
3 甲3について
甲3には、以下の記載がある。
「【0297】
[実施例1]
合成例1で得られたエチレン/DCPD共重合体500 mg、上記化学式で表されるパーヘキサ25B(PH25B) 12.5 mgをキシレン 5 mlに溶解させ、ワニスを得た。得られたワニスを、アプリケーターを用いて、ギャップ500μmでガラス板上に塗布した。その後、窒素気流下送風乾燥機中で140℃30分間、その後200℃に昇温して2時間加熱して架橋体からなるフィルムを得た。得られたフィルムをガラス基板から剥がして、固体13C-NMR、動的粘弾性測定により評価した。固体13C-NMRのチャートを[図1]に、動的粘弾性測定の結果を表2に示す。」
第5 当審の判断
1 申立理由1(新規性)及び申立理由2(進歩性)について
(1) 本件発明1
ア 甲1発明との対比
(ア) 甲1発明の「70質量部の環状オレフィン系共重合体(m)、30質量部の環状オレフィン系共重合体(n)としての重合体1、2.1質量部のラジカル重合開始剤としての架橋剤1、0.1質量部のヒンダートアミン系化合物(Y)としての化合物(Y)-1を、溶媒としてのキシレンに溶解して得たワニス状の環状オレフィン系共重合体組成物を、PETフィルム上に10mm/秒の速度で塗工し、窒素気流下送風乾燥機中110℃で2分、170℃で2分乾燥し、次いで、180℃に昇温して1時間加熱して得た架橋体」は、本件発明1の「環状オレフィンコポリマーを主成分とする樹脂」に相当する。
(イ) 上記第4の1(2)イのとおり、本実施形態に係る環状オレフィン系共重合体組成物の架橋体は、層間絶縁材料として使用することができるものである。
したがって、甲1発明の「70質量部の環状オレフィン系共重合体(m)、30質量部の環状オレフィン系共重合体(n)としての重合体1、2.1質量部のラジカル重合開始剤としての架橋剤1、0.1質量部のヒンダートアミン系化合物(Y)としての化合物(Y)-1を、溶媒としてのキシレンに溶解して得たワニス状の環状オレフィン系共重合体組成物を、PETフィルム上に10mm/秒の速度で塗工し、窒素気流下送風乾燥機中110℃で2分、170℃で2分乾燥し、次いで、180℃に昇温して1時間加熱して得た架橋体からなる単層フィルム」は、絶縁性のものであるといえる。
また、環状オレフィン系共重合体組成物の架橋体が有機物であることは、当業者にとって明らかである。
よって、本件発明1の「環状オレフィンコポリマーを主成分とする樹脂の硬化体」「である、有機絶縁体。」と甲1発明1の「70質量部の環状オレフィン系共重合体(m)、30質量部の環状オレフィン系共重合体(n)としての重合体1、2.1質量部のラジカル重合開始剤としての架橋剤1、0.1質量部のヒンダートアミン系化合物(Y)としての化合物(Y)-1を、溶媒としてのキシレンに溶解して得たワニス状の環状オレフィン系共重合体組成物を、PETフィルム上に10mm/秒の速度で塗工し、窒素気流下送風乾燥機中110℃で2分、170℃で2分乾燥し、次いで、180℃に昇温して1時間加熱して得た架橋体からなる単層フィルムであって、
環状オレフィン系共重合体(m)はエチレン/テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセン(TD)/5-ビニル-2-ノルボルネン(VNB)共重合体であり、
重合体1はエチレンとテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセンとからなる共重合体(製品名:アペル6509T、三井化学社製)であり、
架橋剤1はパークミルD(日本油脂社製)であり、
化合物(Y)-1はCHIMASSORB 944 FDL(分子量2000~3100)(BASF社製)であり、
フーリエ変換赤外分光光度計(FT-IR)を用い、1710~1720cm-1付近のC=O結合による吸収強度(I(C=O))と、波数1460cm-1付近のC-H結合による吸収の強度(I(C-H))の比の変化量によってフィルムの耐熱老化性を評価した、
厚さ40μmの単層フィルム。」とは、「環状オレフィンコポリマーを主成分とする樹脂」からなる「有機絶縁体。」である点で共通する。
以上によれば、本件発明1と甲1発明は、以下の一致点、相違点を有する。
[一致点]
環状オレフィンコポリマーを主成分とする樹脂である、有機絶縁体。
[相違点]
[相違点1]
本件発明1は、「環状オレフィンコポリマーを主成分とする樹脂の硬化体」であるのに対して、甲1発明は、そのような構成となっているのか明らかでない点。
[相違点2]
本件発明1は、「窒素ガス雰囲気下におけるケミルミネッセンス測定によって求められる積算発光量が3.7×105cpm以下である」のに対し、甲1発明は、そのような構成となっているのか明らかでない点。
イ 申立理由1(新規性)についての判断
相違点2は、相違点1の「硬化体」の特性に関するものであるから、相違点1と相違点2をまとめて検討する。
上記のとおり、本件発明1と甲1発明とは、上記相違点1及び相違点2を有する。
また、上記第4の1(2)ウ、エのとおり、甲1には、甲1記載事項2及び甲1記載事項3が記載されているものの、甲1には、「架橋体からなる単層フィルム」が、樹脂の硬化体であることは記載されておらず、当該甲1記載事項2及び甲1記載事項3を考慮しても、甲1発明が、相違点1及び相違点2に係る本件発明1の構成を有しているとはいえない。
さらに、上記第4の3で摘記した甲3の【0297】の記載を考慮しても、甲1発明が、相違点1及び相違点2に係る本件発明1の構成を有しているとはいえない。
したがって、相違点1及び相違点2は、実質的な相違点である。
よって、本件発明1は、甲1発明であるとはいえない。
ウ 申立理由2(進歩性)についての判断
上記第4の1(2)ウ、エのとおり、甲1には、甲1記載事項2及び甲1記載事項3が記載されているものの、甲1には、「環状オレフィンコポリマーを主成分とする樹脂の硬化体」の「窒素ガス雰囲気下におけるケミルミネッセンス測定によって求められる積算発光量」を、「3.7×105cpm以下」とすることは、記載も示唆もされていない。
したがって、甲1発明において、相違点1及び相違点2の構成とすることは、当業者であっても容易に想到し得るものではない。
さらに、上記第4の2で摘記したとおり、甲2には「不活性ガス中のCL減衰速度の測定は高分子材料の劣化度(主に架橋による)の評価に有益である。」ことが記載されているものの、「環状オレフィンコポリマーを主成分とする樹脂の硬化体」の「窒素ガス雰囲気下におけるケミルミネッセンス測定によって求められる積算発光量」を、「3.7×105cpm以下」とすることは、記載されていない。
したがって、甲2を考慮しても、甲1発明において、相違点1及び相違点2の構成とすることは、当業者であっても容易に想到し得るものではない。
よって、本件発明1は、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないし、甲2に記載された事項を含めて検討しても、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(2) 本件発明2~4
上記第2のとおり、本件発明2~4は、本件発明1の全ての構成を有するもの であり、いずれも上記相違点1及び相違点2に係る本件発明1の構成を有しているから、本件発明1と同様の理由により、本件発明2~4は、甲1発明であるとはいえず、本件発明2~4は、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないし、甲2に記載された事項を含めて検討しても、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3) 小括
したがって、異議申立人の主張する申立理由1(新規性)及び申立理由2(進歩性)は理由がない。
2 申立理由3(実施可能要件)について
(1) 申立人は、特許異議申立書第16~17ページの「エ」において、「本件請求項1に記載の有機絶縁体は、『環状オレフィンコポリマーを主成分とする樹脂の硬化体であ』ると記載されている。ここで、本件明細書における『主成分』であることの意味は、段落0011の『上記分析から環状オレフィンコポリマーを主成分とするとは、樹脂の硬化体中に占める環状オレフィンコポリマーに由来する樹脂成分の割合が60体積%以上となる場合とする。』との記載から、環状オレフィンコポリマーが60体積%以上含まれていることであるとされる。換言すれば、本件請求項1は、40体積%まで環状オレフィンコポリマー以外の成分(添加剤)を含む場合を含む。しかも、この添加剤の種類は何ら限定されず、酸化されやすいものであってよい。
一方、本件明細書に記載された実施例では、『耐熱環状オレフィンコポリマー(耐熱COC(ラジカル重合官能基含む)、三井化学(株)製)100質量部に対して、硬化開始剤(パークミルD、日油(株)製)を1質量部、酸化防止剤(Chimassorb944、BASF社製)を0.3質量部の割合で添加した。得られた混合物40質量%と溶媒60質量%とを混合して、樹脂ワニスを得た。』(段落0020)と記載され、この樹脂ワニスを乾燥、加熱等することによって、積算発光量が特定の値である絶縁層を具備する銅張積層板を得たと記載されている(段落0021、0022)。つまり、本件明細書で開示された実施例は、樹脂の硬化体中に占める環状オレフィンコポリマー以外の成分がごく少量添加され、積算発光量が2.8×105cpm以上のもののみとなっている。
上記実施例の記載を含む本件明細書の記載をいかに参照したとしても、その他成分として不特定の成分(例えば酸化されやすい添加剤)が40体積%まで添加された場合に、『窒素ガス雰囲気下におけるケミルミネッセンス測定によって求められる積算発光量が3.7×105cpm以下』、特に2.8×105cpm未満、であるような有機絶縁体をどのように製造することができるのか、当業者といえども理解することができない。」と主張する。
(2) しかしながら、上記第2のとおり、本件発明1は、「有機絶縁体」に係る「物の発明」であるところ、本件特許明細書の【0027】~【0031】、図1によると、試料No.1~7は、窒素ガス雰囲気下におけるケミルミネッセンス測定によって求められる積算発光量が3.7×105cpm以下であったことが開示されており、また、同【0020】~【0023】には、試料No.1~7を形成する手順等について、具体的に記載されている。
したがって、発明の詳細な説明には、甲1発明を作れるように、その手順等が明確かつ十分に記載されているといえる。
以上のとおりであるから、本件発明1及び本件の請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する本件発明2~4は、発明の詳細な説明に記載したものであり、また、本件特許明細書は、当業者が本件発明1~4を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものであるといえる。
(3) よって、申立人の上記(1)の主張を採用することはできない。
(4) 小括
したがって、異議申立人の主張する申立理由3(実施可能要件)は理由がない。
第6 むすび
以上の次第であるから、特許異議の申立ての理由及び異議申立人の提出した証拠によっては、本件特許の請求項1~4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1~4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2025-700119