特許異議申立
2024-701187
メタノール燃料船
- 審判番号
- 2024-701187
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2023-189202
- 登録番号
- 7500852
- 請求日
- 2024年12月11日
- 審決日
- 2025年03月28日
- 公報発行日
- 2025年04月25日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】日本シップヤード株式会社
- 【権利者】今治造船株式会社
- 【権利者】ジャパンマリンユナイテッド株式会社
- 【異議申立人】佐藤 雅彦
- 審判長/審判官
- 審判長 筑波 茂樹
- 審判官 高橋 学
- 審判官 横溝 顕範
- 分類
- P1651.113-Y (B63B) / P1651.121-Y (B63B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7500852号発明「メタノール燃料船」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7500852号の請求項1~8に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7500852号の請求項1~8に係る特許(以下「本件特許」という。)についての出願は、令和5年11月6日の出願であって、令和6年6月7日に特許権の設定登録がされ、同年6月17日に特許掲載公報が発行され、同年12月11日に特許異議申立人佐藤雅彦(以下「申立人」という。)による特許異議の申立てがされた。
第2 本件発明
本件特許の請求項1~8に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」等という。)は、その特許請求の範囲の請求項1~8に記載された事項により特定される、以下のとおりのものと認められる。
「【請求項1】
メタノール燃料で推進可能な船体を備えたメタノール燃料船において、
船体隔壁と所定の隙間を形成するように配置された一対の隔壁鋼板と、
船体側壁と所定の隙間を形成するように配置された一対の側壁鋼板と、
前記船体の縦通構造の一部を前後に区画する区画鋼板と、を備え、
前記隔壁鋼板、前記側壁鋼板及び前記縦通構造により形成される内部空間を燃料タンクとして使用し、
前記隔壁鋼板は、前記燃料タンクと前記船体隔壁との間にコファダムを形成する鋼板であり、
前記側壁鋼板は、前記燃料タンクと前記船体側壁との間にコファダムを形成する鋼板であり、
前記区画鋼板は、前記縦通構造の内部空間を前後方向に仕切ることによりコファダムを形成する鋼板である、
ことを特徴とするメタノール燃料船。
【請求項2】
前記縦通構造は、カーゴホールドのホッパー、カーゴホールドのトップサイド、二重底又はダブルハルの二重壁構造である、請求項1に記載のメタノール燃料船。
【請求項3】
上甲板と所定の隙間を形成するように配置された頂部鋼板を備える、請求項1に記載のメタノール燃料船。
【請求項4】
前記燃料タンクの下方に位置する前記ホッパー、前記二重底又は前記二重壁構造の部分を前記燃料タンクとして利用するように構成した、請求項2に記載のメタノール燃料船。
【請求項5】
前記燃料タンクは、船体中央又は機関室前に配置されている、請求項1に記載のメタノール燃料船。
【請求項6】
前記燃料タンクの直上の上甲板上に設置されたコファダム又は燃料供給装置室を備える、請求項1に記載のメタノール燃料船。
【請求項7】
前記燃料タンク及び前記コファダムの直上の上甲板上に配置された燃料供給装置室を備え、前記燃料タンクから主機関にカーボンリサイクル燃料を供給する燃料供給配管は、前記燃料供給装置室及び前記コファダムを経由するように構成されている、請求項1に記載のメタノール燃料船。
【請求項8】
前記メタノール燃料船は、ばら積み貨物船である、請求項1に記載のメタノール燃料船。」
第3 特許異議申立理由の概要
申立人が特許異議申立書で主張する特許異議申立理由の要旨は、次のとおりである。また、申立人は、特許異議申立書とともに、甲第1号証~甲第8号証を提出した(以下、甲第1号証等を甲1等と略記する。)。
理由1(特許法第29条第1項第3号:新規性)
理由1-1 本件発明1、5、8は、甲1に記載の発明と同一である。
理由1-2 本件発明1、2、3、6は、甲2に記載の発明と同一である。
理由2(特許法第29条第2項:進歩性)
理由2-1 本件発明1~8は、甲1に記載の発明、及び甲2、4~8に記載された事項から容易想到である。
理由2-2 本件発明1~7は、甲2に記載の発明、及び甲1、3~5、8から容易想到である。
証拠一覧
甲1:中村健一、”メタノール燃料船の設計について”、日本マリンエンジニアリング学会誌、公益社団法人日本マリンエンジニアリング学会、2023年7月1日、第58巻、第4号、p133~136
甲2:吉識恒夫、”造船技術の進展”、株式会社成山堂書店、平成19年10月8日、p36~37
甲3:”Preparing Container Vessels for Conversion to Green Fuels”、Maersk Mc-Kinney Moller Center for Zero Carbon Shipping、2022年9月、p(8/27)、(13/27)~(14/27)
甲4:惠美洋彦、”英和版船体構造イラスト集”、株式会社成山堂書店、平成18年11月28日初版発行、p160~161
甲5:Michael Rachow、外2名、”Analysis of the Requirement for the Ships Using Methanol as Fuel”、International Journal of Marine Engineering Innovation and Research、2018年12月、Vol.3(2)、p58,62~67
甲6:”Approval in Principle for Methanol Superstorage Solution on Existing Ships”、The Maritime Executive、2023年10月3日、インターネット
<URL:https://maritime-executive.com/corporate/approval-in-principle-for-methanol-superstorage-solution-on-existing-ships>
甲7:ClassNK代替燃料船ガイドライン(第2.0版)、一般財団法人日本海事協会、2022年6月、p6
甲8:Monika Bortnowska、”Projected Reductions in CO2 Emissions by Using Alternative Methanol Fuel to Power a Servise Operstion Vessel”、MDPI、2023年11月3日、p13
第4 当審の判断
1 甲1を主引例とした理由1-1(新規性)及び理由2-1(進歩性)について
(1)甲1について
ア 甲1の記載事項
甲1には以下の記載がある。
・「メタノール燃料船の設計について」(表題)
・「2.1.2 一体型タンク配置
メタノールタンクは燃料油と同様に船体構造をそのままタンクとすることが出来る点,他の代替燃料と異なる有利な点となっている.
従来燃料油タンクとして利用している機関室両脇のタンク,貨物艙二重底タンク,トップサイドタンク等を利用することが出来る.ただし一体型のタンクとする場合は,考えられる最低水線より低い外板,メタノールを貯蔵する他の燃料タンク,又は燃料調整室で境界が形成される面を除いて,コファダムで周囲を保護する必要がある.
レトロフィットでメタノール焚きに改造されたStena LineのフェリーStena Germanicaの場合,元々バラストタンクであった二重底にメタノールタンクを設置している3).同様の配置をばら積み船に適用すると図4のケースとなるが,この場合メタノールタンクは船底外板に面して構わないが,貨物艙との間にはコファダムが必要となる.
また,Methanol Instituteが一昨年行ったウェビナーでは,図5の様に貨物艙の最後部に区画を取ってタンクを装備するケースが紹介されている.4)
貨物艙や機関室との間に空所が必要であったり,喫水線上の外板にも空所が必要であったりする点など,注意を要するものの,こういった場所にもメタノールタンクを設置することが出来る.」
・「2.2 メタノールタンクについて
また,メタノールタンクの材質には通常の船体と同様の炭素鋼が使用でき,無機ジンク系,エポキシ系等,耐アルコール性塗装を内面に施している事例がある.」
・「
[図:0001421398000001.jpg]
」
・「
[図:0001421398000002.jpg]
」
イ 甲1の認定事項
上記アによれば、甲1には以下の事項が記載されていると認められる。
(ア)メタノール燃料で推進可能な船体を備えたメタノール燃料船である。
(イ)「元々バラストタンクであった二重底にメタノールタンクを設置している」「Stena LineのフェリーStena Germanica」と「同様の配置をばら積み船に適用すると図4のケースとなる」との記載、及び図4から、船底にある船体首尾方向二本の実線で描かれた部分は、二重底のバラストタンクであることが理解できるから、図5の船底にある船体首尾方向二本の実線で描かれた部分も同様に二重底のバラストタンクであることが理解できる。
(ウ)「メタノールタンクは燃料油と同様に船体構造をそのままタンクとすることが出来る」という記載、「図5の様に貨物艙の最後部に区画を取ってタンクを装備する」との記載、及び図5から、濃い灰色で着色された区画に船体構造をそのままタンクとするメタノールタンクが配置されていることが看取される。
(エ)上記(イ)及び(ウ)によれば、二重底のバラストタンクの上壁がメタノールタンクの底部を構成しているといえる。
(オ)「図5の様に貨物艙の最後部に区画を取ってタンクを装備する」との記載、及び図5から、船体首尾方向において、メタノールタンクの船首側に貨物艙が、メタノールタンクの船尾側に機関室が配置されていることが看取される。
(カ)「貨物艙や機関室との間に空所が必要であったり,喫水線上の外板にも空所が必要であったりする」との記載を踏まえると、上記(オ)によれば、船体首尾方向において、メタノールタンク前壁と貨物艙後壁の間、及びメタノールタンク後壁と機関室前壁の間には空所があるといえる。
(キ)図5のメタノールタンクは「貨物艙の最後部に区画を取っ」たものであることから、一体型のタンクといえる。
(ク)「一体型のタンクとする場合は,考えられる最低水線より低い外板,メタノールを貯蔵する他の燃料タンク,又は燃料調整室で境界が形成される面を除いて,コファダムで周囲を保護する必要がある」との記載を踏まえると、上記(キ)によれば、船体幅方向において、メタノールタンクの周囲、すなわちメタノールタンク側壁の外側にコファダムがあるといえる。
(ケ)メタノールタンクの材質は通常の船体と同様の炭素鋼である。
ウ 甲1に記載された発明
上記ア及びイによれば、甲1から把握される発明(以下「甲1発明」という。)は以下のとおりである。
「メタノール燃料で推進可能な船体を備えたメタノール燃料船において、
貨物艙の最後部の区画を船体構造をそのままタンクとするメタノールタンクとして使用し、
船体首尾方向において、メタノールタンク前壁と貨物艙後壁の間、及びメタノールタンク後壁と機関室前壁の間には空所があり、
船体幅方向において、メタノールタンク側壁の外側にコファダムがあり、
二重底のバラストタンクの上壁がメタノールタンクの底部を構成し、
メタノールタンクの材質は通常の船体と同様の炭素鋼である
メタノール燃料船。」
エ 申立人の主張について
(ア)申立人は、甲1から以下の発明が認定できると主張している。
「A.メタノール燃料で推進可能な船体を備えたメタノール燃料船において、船体隔壁と所定の隙間を形成するように配置された一対の隔壁鋼板と、船体側壁と所定の隙間を形成するように配置された一対の側壁鋼板と、前記船体の縦通構造の一部を前後に区画する区画鋼板と、を備え、前記隔壁鋼板、前記側壁鋼板及び前記縦通構造により形成される内部空間を燃料タンクとして使用し、
B.前記隔壁鋼板は、前記燃料タンクと前記船体隔壁との間にコファダムを形成する鋼板であり、前記側壁鋼板は、前記燃料タンクと前記船体側壁との間にコファダムを形成する鋼板であり、前記区画鋼板は、前記縦通構造の内部空間を前後方向に仕切ることによりコファダムを形成する鋼板である、ことを特徴とするメタノール燃料船。」
(イ)しかしながら、以下のとおり、申立人の主張する発明を甲1から認定することはできない。
a 船体首尾方向において、メタノールタンク前壁と貨物艙後壁の間、及びメタノールタンク後壁と機関室前壁の間に空所があるとはいえるけれども、貨物艙後壁や機関室前壁の詳細が不明であるのだから、これを「船体隔壁」ということはできない。
b 船体幅方向において、メタノールタンク側壁の外側にコファダムがあるとはいえるけれども、「船体側壁」との間のコファダムであるか否かは不明であるのだから、「船体側壁と所定の隙間を形成する」ということはできない。
c 二重底のバラストタンクの上壁がメタノールタンクの底部を構成しているといえるけれども、二重底のバラストタンク「の一部を前後に区画する区画鋼板」は看取することができない。
(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明を対比する。
(ア)後者の「メタノール燃料で推進可能な船体を備えたメタノール燃料船」は、前者の「メタノール燃料で推進可能な船体を備えたメタノール燃料船」に相当する。
(イ)上記(ア)を踏まえると、後者の「メタノールタンク」は、前者の「燃料タンク」に相当する。
(ウ)後者の「メタノールタンク前壁」と「メタノールタンク後壁」は、タンクを構成するものであって、「船体構造をそのままタンクと」し、「材質は通常の船体と同様の炭素鋼」であるのだから、船体首尾方向において一対の隔壁を構成する鋼板といえる。そうすると、後者の「メタノールタンク前壁」と「メタノールタンク後壁」は、前者の「一対の隔壁鋼板」に相当する。
(エ)上記(ウ)を踏まえると、後者の「船体首尾方向において、メタノールタンク前壁と貨物艙後壁の間、及びメタノールタンク後壁と機関室前壁の間」に「空所」を形成するように配置された「メタノールタンク前壁」及び「メタノールタンク後壁」と、前者の「船体隔壁と所定の隙間を形成するように配置された一対の隔壁鋼板」とは、「前後の壁と所定の隙間を形成するように配置された一対の隔壁鋼板」の点で共通する。
(オ)後者の「メタノールタンク側壁」は、タンクを構成するものであって、「船体構造をそのままタンクと」し、「材質は通常の船体と同様の炭素鋼」であるのだから、船体幅方向において一対の隔壁を構成する鋼板といえる。そうすると、後者の「メタノールタンク側壁」は、前者の「一対の側壁鋼板」に相当する。
(カ)上記(オ)を踏まえると、後者の「船体幅方向において、メタノールタンク側壁の外側にコファダム」を形成するように配置された「メタノールタンク側壁」と、前者の「船体側壁と所定の隙間を形成するように配置された一対の側壁鋼板」とは、「左右の壁と所定の隙間を形成するように配置された一対の側壁鋼板」の点で共通する。
(キ)後者の「二重底のバラストタンク」は、前者の「縦通構造」に相当する。
(ク)上記(イ)~(キ)を踏まえると、後者の「メタノールタンク前壁」、「メタノールタンク後壁」、「メタノールタンク側壁」及び「メタノールタンクの底部を構成」する「二重底のバラストタンクの上壁」により形成される「貨物艙の最後部の区画をメタノールタンクとして使用」することは、前者の「前記隔壁鋼板、前記側壁鋼板及び縦通構造により形成される内部空間を燃料タンクとして使用」することに相当する。
(ケ)後者の「空所」は、前者の「コファダム」に相当する。
(コ)上記(ウ)(エ)(ケ)を踏まえると、後者の「メタノールタンク前壁」と「メタノールタンク後壁」が「船体首尾方向において、メタノールタンク前壁と貨物艙後壁の間、及びメタノールタンク後壁と機関室前壁の間」に「空所」を形成する「炭素鋼」であることと、前者の「前記隔壁鋼板は、前記燃料タンクと前記船体隔壁との間にコファダムを形成する鋼板であ」ることとは、「前記隔壁鋼板は、前記燃料タンクと前記前後の壁との間にコファダムを形成する鋼板であ」ることの点で共通する。
(サ)上記(オ)及び(カ)を踏まえると、後者の「メタノールタンク側壁」が「船体幅方向において、メタノールタンク側壁の外側」に「コファダム」を形成する「炭素鋼」であることと、前者の「前記側壁鋼板は、前記燃料タンクと前記船体側壁との間にコファダムを形成する鋼板であ」ることとは、「前記側壁鋼板は、前記燃料タンクと前記左右の壁との間にコファダムを形成する鋼板であ」ることの点で共通する。
(シ)後者の「二重底のバラストタンク」は、「メタノールタンクの底部」側にコファダムを形成するものといえる。
(ス)上記(キ)及び(シ)を踏まえると、後者の「二重底のバラストタンクの上壁がメタノールタンクの底部を構成」することと、前者の「前記区画鋼板は、前記縦通構造の内部空間を前後方向に仕切ることによりコファダムを形成する鋼板である」こととは、「前記縦通構造の内部空間がコファダムを形成する」ことの点で共通する。
(セ)そうすると両者は、
「メタノール燃料で推進可能な船体を備えたメタノール燃料船において、
前後の壁と所定の隙間を形成するように配置された一対の隔壁鋼板と、
左右の壁と所定の隙間を形成するように配置された一対の側壁鋼板と、
を備え、
前記隔壁鋼板、前記側壁鋼板及び縦通構造により形成される内部空間を燃料タンクとして使用し、
前記隔壁鋼板は、前記燃料タンクと前記前後の壁との間にコファダムを形成する鋼板であり、
前記側壁鋼板は、前記燃料タンクと前記左右の壁との間にコファダムを形成する鋼板であり、
前記縦通構造の内部空間がコファダムを形成する、」
メタノール燃料船。」
の点で一致し、以下の点で相違する。
〔相違点1-1〕
前後の壁に関し、本件発明1は「船体隔壁」であるのに対して、甲1発明は「貨物艙後壁」と「機関室前壁」であるところ、これらが「船体隔壁」を構成するものであるのか否か不明な点。
〔相違点1-2〕
左右の壁に関し、本件発明1は「船体側壁」であるのに対して、甲1発明は左右の壁が「船体側壁」であるのか否か不明な点。
〔相違点1-3〕
本件発明1は、「前記船体の縦通構造の一部を前後に区画する区画鋼板と、を備え、」「前記区画鋼板は、前記縦通構造の内部空間を前後方向に仕切ることによりコファダムを形成する鋼板である」のに対して、甲1発明は、「区画鋼板」を備えていない点。
イ 判断
(ア)理由1-1(新規性)について
本件発明1と甲1発明は、相違点1-1~3で明らかに相違するから、本件発明1は、甲1発明ではない。
(イ)理由1-2(進歩性)について
事案に鑑み、相違点1-3から検討する。
本件発明1は、「区画鋼板」によって、既存の「縦通構造」の一部を前後に区画して、「縦通構造」の内部空間を前後方向に仕切ることにより「船体構造の一部(縦通構造)をコファダムとして利用する」(本件特許明細書段落【0016】)という作用効果を奏するものである。
一方、「縦通構造」の内部空間を「区画鋼板」によって前後方向に仕切ることによりコファダムとして利用するという相違点1-3に係る構成は、申立人が提出した他の証拠にも、記載も示唆もされていないし、周知慣用の技術や設計事項といえる根拠もない。
そして、甲1発明の「二重底のバラストタンク」について、「区画鋼板」によってその内部空間を前後方向に仕切ることの動機付けはない。
また、甲1のメタノール燃料船に「二重底のバラストタンク」以外の縦通構造が存在するとしても、その詳細は不明であるし、他の縦通構造の内部空間をコファダムとして形成することについて記載も示唆もされていないから、他の縦通構造の内部空間を前後方向に仕切ることによりコファダムを形成する「区画鋼板」を設けることが容易になし得るものであるということもできない。
したがって、相違点1-1及び2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)本件発明2~8について
本件発明5及び8は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに限定をしたものであるから、本件発明1と同様の理由により、本件発明5及び8は、甲1発明ではない。
本件発明2~8は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに限定をしたものであるから、本件発明1と同様の理由により、本件発明2~8は、甲1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(4)小括
本件発明1、5、8は甲1に記載された発明ではないから、本件発明1、5、8は、特許法第29条第1項第3号に該当するものではなく、同項の規定に違反してされたものということはできない。
本件発明1~8は、甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明1~8は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものということはできない。
2 甲2を主引例とした理由1-2(新規性)及び理由2-2(進歩性)について
(1)甲2について
ア 甲2の記載事項
甲2には以下の記載がある。
・「メンブレン方式LNG船は,フランスにて開発された「テクニガス方式(近年の呼称はGTTマークIII)」と「ガストランスポート方式(GTTNo.96)」の2種類が建造されている。格納容器に用いるタンク・メンブレン材は,-162℃の極低温に適する,アルミ,ステンレス,熱収縮の少ないインバー(36%ニッケル合金)などである。メンブレン方式は船体構造内面に,補強ポリウレタンフォームパネル,またはパーライト入り防熱箱を2層に配置している。防熱箱の表面に薄膜金属メンブレンを取り付け,2層構造をなす防熱箱の中間に,液漏洩の際の防護壁となる2次防壁を取り付けてある。メンブレン方式LNG船の概要・外観を図2-11,写真2-9に示す。」
・「
[図:0001421398000003.jpg]
」
イ 甲2の認定事項
上記アによれば、甲2には以下の事項が記載されていると認められる。
(ア)メンブレン方式LNG船である。
(イ)図2-11から、No.1CARGO TANK~No.4 CARGO TANKという4つのカーゴタンクが船体首尾方向に配置されていることが看取される。
(ウ)図2-11から、カーゴタンクは、タンク前後壁、タンク左右壁、タンク上下壁により形成される内部空間をカーゴタンクとして使用するものといえる。
ウ 甲2に記載された発明
上記ア及びイによれば、甲2から把握される発明(以下「甲2発明」という。)は以下のとおりである。
「4つのカーゴタンクが船体首尾方向に配置されており、
タンク前後壁、タンク左右壁、タンク上下壁により形成される内部空間をカーゴタンクとして使用し、
タンク・メンブレン材は,ステンレスである、
メンブレン方式LNG船。」
エ 申立人の主張について
(ア)申立人は、甲2から以下の発明が認定できると主張している。
「A.メタノール燃料で推進可能な船体を備えたメタノール燃料船において、船体隔壁と所定の隙間を形成するように配置された一対の隔壁鋼板と、船体側壁と所定の隙間を形成するように配置された一対の側壁鋼板と、前記船体の縦通構造の一部を前後に区画する区画鋼板と、を備え、前記隔壁鋼板、前記側壁鋼板及び前記縦通構造により形成される内部空間を燃料タンクとして使用し、
B.前記隔壁鋼板は、前記燃料タンクと前記船体隔壁との間にコファダムを形成する鋼板であり、前記側壁鋼板は、前記燃料タンクと前記船体側壁との間にコファダムを形成する鋼板であり、前記区画鋼板は、前記縦通構造の内部空間を前後方向に仕切ることによりコファダムを形成する鋼板である、ことを特徴とするメタノール燃料船。」
(イ)しかしながら、以下のとおり、申立人の主張する発明を甲2から認定することはできない。
a メタノール燃料で推進可能であることは記載も示唆もされていない。
b 看取できるのはカーゴタンクであって燃料タンクではない。
c 船体首尾方向において、タンク前後壁と隣接するのは、別のカーゴタンク前後壁であり、これを「船体隔壁」ということはできないし、所定の隙間が形成されているか否かも不明である。最後尾のNo.4 CARGO TANKを見ても、そのタンク後壁と隣接する機関室の前壁が「船体隔壁」といえるものであるのか否かは不明であるし、所定の隙間が形成されているか否かも不明である。
d 図2-11平面図には、タンク左右壁の位置に、4つのカーゴタンクにわたって船体首尾方向に延在する実線が描かれているから、当該実線と船体側壁との間に所定の隙間が形成されている可能性はあるものの、当該実線は、4つのカーゴタンクにわたっているものであるから、少なくともタンク左右壁ではない。
e 縦通構造を看取することができないし、縦通構造の一部を前後に区画する区画鋼板を看取することもできない。
f 申立人が参照している図2-9は、メンブレン方式LNG船について説明する図であると理解できる記載がないし、メンブレン方式LNG船について説明する図2-11の断面図と異なっている。
(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲2発明を対比する。
(ア)後者の「メンブレン方式LNG船」と、前者の「メタノール燃料船」とは、「船」の点で共通する。
(イ)後者の「カーゴタンク」と、前者の「燃料タンク」とは、「タンク」の点で共通する。
(ウ)後者の「タンク前後壁」、「タンク左右壁」、「タンク上下壁」は「ステンレスである」ことと、前者の「一対の隔壁鋼板」、「一対の側壁鋼板」、「縦通構造の一部」とは、「一対の前後鋼板」、「一対の左右鋼板」、「上下壁」の点で共通する。
(エ)上記(ウ)を踏まえると、後者の「タンク前後壁、タンク左右壁、タンク上下壁により形成される内部空間をカーゴタンクとして使用」することと、前者の「前記隔壁鋼板、前記側壁鋼板及び前記縦通構造により形成される内部空間を燃料タンクとして使用」することとは、「前後鋼板、左右鋼板及び上下壁により形成される内部空間をタンクとして使用」することの点で共通する。
(オ)そうすると両者は、
「船において、
一対の前後鋼板と、
一対の左右鋼板と、
上下壁と、を備え、
前記前後鋼板、前記左右鋼板及び前記上下壁により形成される内部空間をタンクとして使用する、
船。」
の点で一致し、以下の点で相違する。
〔相違点2-1〕
本件発明1は、「メタノール燃料で推進可能な船体を備えたメタノール燃料船」の「燃料タンク」であるのに対して、甲2発明は、「メンブレン方式LNG船」の「カーゴタンク」である点。
〔相違点2-2〕
前後鋼板に関し、本件発明1は、「船体隔壁と所定の隙間を形成するように配置された一対の隔壁鋼板」であって、「前記隔壁鋼板は、前記燃料タンクと前記船体隔壁との間にコファダムを形成する鋼板であ」るのに対して、甲2発明の「タンク前後壁」は、船体隔壁と所定の隙間、すなわちコファダムを形成するように配置されたものであるのか否か不明な点。
〔相違点2-3〕
左右鋼板に関し、本件発明1は、「船体側壁と所定の隙間を形成するように配置された一対の側壁鋼板」であって、「前記側壁鋼板は、前記燃料タンクと前記船体側壁との間にコファダムを形成する鋼板であ」るのに対して、甲2発明の「タンク左右壁」は、船体側壁と所定の隙間、すなわちコファダムを形成するように配置されたものであるのか否か不明な点。
〔相違点2-4〕
上下壁に関し、本件発明1は、「前記船体の縦通構造の一部」であり、さらに「前記船体の縦通構造の一部を前後に区画する区画鋼板」を備え、「前記区画鋼板は、前記縦通構造の内部空間を前後方向に仕切ることによりコファダムを形成する鋼板である」のに対して、甲2発明の「タンク上下壁」は、船体の縦通構造の一部であるのか否か不明であり、コファダムを形成する「区画鋼板」を備えていない点。
イ 判断
(ア)理由2-1(新規性)について
本件発明1と甲2発明は、相違点2-1~4で明らかに相違するから、本件発明1は、甲2発明ではない。
(イ)理由2-2(進歩性)について
事案に鑑み、相違点2-4から検討する。
a メンブレン方式LNG船のカーゴタンクとは、タンクの内部を薄くてしわがあるステンレス鋼「メンブレン」で覆うことで、低温を保ちガスの膨張を吸収する方式をいうことは技術常識である。
そして甲2発明は、メンブレン方式LNG船のカーゴタンクであるのだから、タンク内部はメンブレンで覆われており、船体の縦通構造が内部に露出してタンク壁を構成することはない。
そうすると、甲2発明において、上下壁を船体の縦通構造の一部とすることには阻害事由があるといえる。
b さらに検討すると、本件発明1は、「区画鋼板」によって、既存の「縦通構造」の一部を前後に区画して、「縦通構造」の内部空間を前後方向に仕切ることにより「燃料タンク」のための独立したコファダムを形成するという作用効果を奏するものである。
一方、相違点2-4に係る構成は、申立人が提出した他の証拠にも、記載も示唆もされていないし、周知慣用の技術や設計事項といえる根拠もない。
そして甲2発明は、船体の「縦通構造の一部」をタンク壁とするものではない上に、「区画鋼板」によってその内部空間を前後方向に仕切ることの動機付けもないから、甲2発明において、「前記船体の縦通構造の一部を前後に区画する区画鋼板」を追加して、「前記縦通構造の内部空間を前後方向に仕切ることによりコファダムを形成する」ことを、当業者が容易になし得たものということはできない。
c したがって、相違点2-1~3について検討するまでもなく、本件発明1は、甲2発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)本件発明2~7について
本件発明2、3、6は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに限定をしたものであるから、本件発明1と同様の理由により、本件発明2、3、6は、甲2発明ではない。
本件発明2~7は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに限定をしたものであるから、本件発明1と同様の理由により、本件発明2~7は、甲2発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(4)小括
本件発明1~3、6は甲2に記載された発明ではないから、本件発明1~3、6は、特許法第29条第1項第3号に該当するものではなく、同項の規定に違反してされたものということはできない。
本件発明1~7は、甲2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明1~7は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものということはできない。
第5 むすび
以上のとおりであるから、申立人が特許異議申立書に記載した特許異議申立理由及び証拠によっては、本件特許の請求項1~8に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1~8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2024-701187