特許異議申立
2024-700805
免震構造
- 審判番号
- 2024-700805
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2021-025153
- 登録番号
- 7440441
- 請求日
- 2024年08月26日
- 審決日
- 2024年12月16日
- 公報発行日
- 2025年02月28日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】清水建設株式会社
- 【権利者代理人】松沼 泰史
- 【権利者代理人】川渕 健一
- 【権利者代理人】西澤 和純
- 【異議申立人】渡辺 郁子
- 審判長/審判官
- 審判長 有家 秀郎
- 審判官 立澤 正樹
- 審判官 土屋 真理子
- 分類
- P1651.121-Y (E04H)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7440441号発明「免震構造」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7440441号の請求項1~5に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7440441号の請求項1~5に係る特許についての出願は、令和3年2月19日に特許出願したものであって、令和6年2月19日にその特許権の設定登録がされ、同月28日に特許掲載公報が発行された。
その後、令和6年8月26日に特許異議申立人 渡辺 郁子(以下、「申立人」という。)により、請求項1~5に係る特許に対して、特許異議の申立てがされた。
第2 本件特許発明
本件特許の請求項1~5の特許に係る発明(以下、それぞれを「本件特許発明1」等という。)は、その特許請求の範囲の請求項1~5に記載された事項により特定される次のものである。
「【請求項1】
高層または超高層の構造物における最上部分となる高層部と、前記高層部の下側の下層部と、の間に免震層が設けられ、
前記下層部は、下層コア部と、前記下層コア部に隣接する下層コア隣接部と、を有し、
前記下層コア部は、前記下層コア隣接部よりも剛性が大きく設定され、
前記高層部は、前記下層部よりも剛性が大きく設定され、固有周期が2秒以下かつ前記下層部の固有周期の30%以下であり、
前記高層部の免震周期を前記下層部の周期に対して20%以上ずらしている免震構造。
【請求項2】
前記高層部は、高層コア部と、前記高層コア部に隣接する高層コア隣接部と、を有し、
前記高層コア部は、RC造のRCコアウォールが設けられ、前記高層コア隣接部よりも剛性が大きく設定されている請求項1に記載の免震構造。
【請求項3】
前記高層部には、AMDが設けられている請求項1又は2に記載の免震構造。
【請求項4】
前記免震層の免震機能を拘束するロック機構を有する請求項1から3のいずれか一項に記載の免震構造。
【請求項5】
前記高層部の重量は、構造物全体の重量の15%以上である請求項1から4のいずれか一項に記載の免震構造。」
第3 証拠一覧、特許異議申立理由の要旨
1 証拠一覧
(1)申立人より提出された証拠
申立人により提出された証拠は、以下のとおりである。なお、甲第1号証、甲第2号証等を、それぞれ「甲1」「甲2」等という場合がある。
甲第1号証:村上勝英他、「中間階に免震層を持つ建物の設計」、日本建築学会技術報告集、1999年2月、第7号、51-56頁
甲第2号証:小林正人他、「モード連成作用を考慮した中間層免震構造の各部地震応答予測 中間免震構造の地震応答予測と耐震性能 その2」、日本建築学会構造系論文集、2003年10月、第572号、73-80頁
甲第3号証:特開2017-071924号公報
甲第4号証:特開2011-074594号公報
甲第5号証:特開2018-145626号公報
甲第6号証:特開2018―003441号公報
甲第7号証の1:村上勝英、「中間層免震構造の地震時の応答予測に関する研究」、村上勝英、筑波大学システム情報工学研究科、2001年10月、表紙、目次、35-36頁、95-96頁、98頁、102-104頁、107頁、113-114頁、126-128頁
甲第7号証の2:つくばポジトリ、https://tsukuba.repo.nii.ac.jp/records/21030、2024年8月26日印刷
なお、甲第7号証の2は、甲第7号証の1の公開時期を示す証拠である。
2 特許異議申立理由の要旨
申立人が特許異議申立書において主張する特許異議申立理由の要旨は、次のとおりである。
(1)進歩性欠如
本件特許の請求項1~5に係る発明は、本件特許の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1に記載された発明、甲2に記載された技術的事項、甲3に記載された技術的事項、甲6に記載された技術的事項、甲4及び甲5に記載された周知技術に基づいて、
または、
本件特許の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲7の1に記載された発明、甲2に記載された技術的事項、甲3に記載された技術的事項、甲6に記載された技術的事項、甲4及び甲5に記載された周知技術に基づいて、
その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明することができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、それらの発明に係る特許は同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
第4 当審の判断
1 進歩性欠如について
(1)甲号証の記載
事案に鑑み、甲1、甲2、甲7の1の記載についてみる。
ア 甲1
(ア)甲1の記載事項
本件特許の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1には、以下の記載がある(下線は、当審が付した。以下同様。)
a (52頁左欄1~8行)
「中間層に免震層を配置した建物の設計例として、後楽二丁目東地区第一種市街地再開発事業施設建築物を示す。本建物は、用途が事務所・住宅・店舗の複合用途建築物である。
・・・
階数: 地上14階,地下2階,塔屋1階」
b (52頁左欄11~15行)
「本建物では、周辺の環境や景観との調和、都心部における住宅・商業施設の優良な環境の形成と新たに介入する事務諸機能の共存を考えて、各種用途を以下に示すように一建物内で立体的に配置する事により、建物を高層化せずに個性豊かな地区整備となる計画とした。」
c (52頁左欄38~44行)
「図6の軸組図に示すように、10階下部に、800φの天然ゴム系積層ゴムアイソレータと鉛ダンパーからなる免震部材を設けた構造とし、10階以上の住宅部分にあたる上部構造では、鉄筋コンクリート造で壁式構造に近い耐震壁付ラーメン構造、9階以下の事務室・店舗部分にあたる下部構造では、鉄骨鉄筋コンクリート造(一部鉄骨造)耐震壁付ラーメン構造として、建物の上下で大きく異なる構造形式を採用した。」
d (52頁右欄)
図3 下部基準階平面図(事務室階)
「
[図:0001419367000001.jpg]
」
e (52頁右欄)
図6 軸組図(短辺方向)
「
[図:0001419367000002.jpg]
」
f (53頁左欄4~7行)
「中間階に免震層をもつ建物の振動特性を把握するために、上部建物重量が地上部全体重量の約2割の実建物を想定した振動解析モデル(図7に示す下部構造が9質点、上部構造が6質点の合計15質点せん断型並進モデル)を用いて、地震応答解析を行った。」
g (53頁右欄)
図7 振動解析モデル概要
「
[図:0001419367000003.jpg]
」
h (55頁左欄23~27行)
「1階床レベルを入力位置とした下部構造9層,免震層1層,上部構造5層となる合計15層の擬似立体解析モデルにより詳細な検討を行った。擬似立体解モデルのモデル図を図17に、擬似立体解析モデルの固有周期を表1に示す。」
i (55頁左欄)
表1 擬似立体解析モデルの固有周期(秒)
「
[図:0001419367000004.jpg]
」
j (56頁左欄6行)
「上部構造の重量は地上部全体重量の約22%である・・・」
k 上記「d」の図3、及び、上記「e」の図6から、
・下部構造は、耐震壁及びSRC柱を有する領域と、当該領域に隣接するS造の領域とを備える
ことが看取される。
l 上記「f」の記載、及び、上記「g」の図7から、
・振動解析モデルが、質点間をバネで接続し、バネが所定のバネ定数を有する
ことが看取される。
m 上記「i」の表1から、
・上部構造のみの擬似立体モデルの固有周期として示される3つの値は、T1が0.29(秒)、T2が0.24(秒)、T3が0.21(秒)である
ことが読み取れる。
(イ)甲1に記載された発明
甲1には、上記「(ア)」より次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されている。
「中間階に免震層を配置した建物であって、
本建物は、用途が事務所・住宅・店舗の複合用途建築物で、地上14階であって(52頁左欄1~3行)、
各種用途を一建物内で立体的に配置する事により、建物を高層化せず(52頁左欄11~15行)、
10階下部に、天然ゴム系積層ゴムアイソレータと鉛ダンパーからなる免震部材を設けた構造とし、10階以上の住宅部分にあたる上部構造では、鉄筋コンクリート造で壁式構造に近い耐震壁付ラーメン構造、9階以下の事務室・店舗部分にあたる下部構造では、鉄骨鉄筋コンクリート造(一部鉄骨造)耐震壁付ラーメン構造として、建物の上下で大きく異なる構造形式を採用し(52頁左欄38~44行)、
下部構造は、耐震壁及びSRC柱を有する領域と、当該領域に隣接するS造の領域とを備え(図3、6)、
中間階に免震層をもつ建物の振動特性を把握するために、実建物を想定した振動解析モデルを用いて、地震応答解析を行い(53頁左欄4~7行)、
振動解析モデルが、質点間をバネで接続し、バネが所定のバネ定数を有し(53頁左欄4~7行、図7)、
1階床レベルを入力位置とした下部構造9層、免震層1層、上部構造5層となる合計15層の擬似立体解析モデルであり(55頁左欄23~27行)、
上部構造のみの擬似立体モデルの固有周期として示される3つの値は、T1が0.29(秒)、T2が0.24(秒)、T3が0.21(秒)であり(表1)、
上部構造の重量は地上部全体重量の約22%である(56頁左欄6行)、
中間階に免震層を配置した建物」
イ 甲2
本件特許の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となつた甲2には、以下の記載がある。
(ア)甲2の記載事項
a (73頁右欄1~6行)
「 本論文では,中間層免震構造の応答分布に与える免震層位置およびダンパーの影響を定性的・定量的に評価し,上部構造の応答増幅のメカニズムを解明する。特に,本研究では,R.I.Skinnerらが基礎免震構造の応答構造の分析のために用いた両端自由振動モードによるモード掃引法を応用し,この応答増幅が下部構造部と上部構造部の振動モード間の連成作用により引き起こされることを示す。」
b (74頁右欄13~21行)
「固有周期1秒程度の中高層建物を対象とした基本モデル(免震を施さないモデル)を設定し,その任意の層を免震層とした免震モデルを設定する(図1)。
基本モデルは16質点せん断型モデルとし,1次固有周期を1秒に設定する。
・・・免震モデルは,免震層以外は,質量,剛性とも基本モデルと同様とする。また,免震層を除く上部および下部構造部には,それぞれの1次固有周期に対して,減衰定数2%の剛性比例型減衰を内部減衰として用いる。」
c (74頁右欄22~32行)
「免震層はアイソレータを弾性とし,ダンパーは鋼材ダンパー等を想定した完全弾塑性型(2次剛性なし)の履歴特性と有するものとし、
・・・
アイソレータおよびダンパーの弾性剛性kf,ksは,次式で定義される剛性比bf,bsにより与える。
・・・
解析ではbf=200(免震周期・・・は,基礎,5,8,13層免震モデルでそれぞれ,3.4,3.1,2.9,2.5secとなる)・・・」
c (74頁右欄)
図1 解析モデル
「
[図:0001419367000005.jpg]
」
d (74頁右欄最終行及び76頁左欄1~2行)
「 モード掃引法に用いる基本モードベクトル(suT0Msu0=1に基準化)を図2に示す。(3)式のとおり上部構造部は両端自由振動モード,下部構造部は下部構造部のみの振動モードとなる。」
e (75頁)
「図2 基本モードベクトル」のうち「13層免震」の図(□上部2次0.22s、◆下部1次0.72sのそれぞれの下線は申立人が付与した。)
「
[図:0001419367000006.jpg]
」
f 上記「e」の図から、
・13層免震モデルの基本モードベクトルの13層免震固有周期は、上部1次で∞s、上部2次で0.22s、下部1次で0.72s、下部2次で0.・26sであること
が読み取れる。
(イ)甲2に記載された事項
甲2には、上記「(ア)」より次の事項(以下、「甲2記載事項」という。)が記載されている。
「中間層免震構造の応答分布に与える免震層位置およびダンパーの影響を定性的・定量的に評価し,上部構造の応答増幅メカニズムを解明するために,基礎免震構造の応答構造の分析のために用いた両端自由振動モードによるモード掃引法を応用し,この応答増幅が下部構造部と上部構造部の振動モード間の連成作用により引き起こされることを示したものであり(73頁右欄1~6行),
固有周期1秒程度の中高層建物を対象とした基本モデル(免震を施さないモデル)を設定し,その任意の層を免震層とした免震モデルを設定し,基本モデルは16質点せん断型モデルとし(74頁右欄13~21行),
免震モデルは,免震層以外は,質量,剛性とも基本モデルと同様とし,免震層を除く上部および下部構造部を有し(74頁右欄13~21行),
免震周期は13層免震モデルで2.5secとなり(74頁右欄31~32行),
モード掃引法に用いる基本モードベクトルは,上部構造部は両端自由モード,下部構造部は下部構造物のみの振動モードとし(74頁右欄最終行及び76頁左欄1~2行),
13層免震モデルの基本モードベクトルの13層免震固有周期は,上部1次で∞s,上部2次で0.22s,下部1次で0.72s,下部2次で0.26sであること(図2のうち13層免震の図)。」
ウ 甲7の1
(ア)甲7の1の記載事項
本件特許の出願前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲7の1には、以下の記載がある。
a (95頁9~11行)
「中間階に免震層を配置した建物の設計例として、飯田橋ファーストビル・ファーストヒルズ飯田橋(後楽二丁目東地区第一種市街地再開発事業施設建築物)を示す。本建物は、用途が事務所,住宅,店舗の複合用途建築物である。」
b (96頁13~14行)
「高層部分の住宅階と低層部分の事務室階との境界となる中間階に免震層を設ける」
c (102頁6~14行)
「図6-10の軸組図に示すように、10階下部に免震層を設定して800φの天然ゴム系積層ゴムアイソレータと鉛ダンパーからなる免震部材を設けた構造として、建物全体の設計用地震力を低減させて、大地震時にも下部構造を弾性状態に保つことを可能にしている。そこで図6-11の下部基準階床梁伏図に示すように9階以下の事務室,店舗部分にあたる下部構造では、コア部分は鉄筋コンクリート造耐震壁を持つ鉄骨鉄筋コンクリート造とし、事務室空間及び外周部はCFT柱(コンクリート充填鋼管柱)と鉄骨梁を用いた鉄骨造とした混合構造による耐震壁付ラーメン構造を採用している。また図6―12の高層部基準階床梁伏図に示すように、10階以上の住宅部分にあたる上部構造では、鉄筋コンクリート造で壁式構造に近い耐震壁付ラーメン構造を採用している。」
d (102頁)
「図6-10 軸組図(短辺方向)
[図:0001419367000007.jpg]
」
e (103頁)
「図6-11 下部基準階床梁伏図
[図:0001419367000008.jpg]
」
f (104頁2~3行)
「実中間層免震構造建物となる飯田橋ファーストビル・ファーストヒルズ飯田橋では、中間免震層および14階建てで合計15層の多層構造となっている。」
g (104頁8~14行)
「そこで本建物の振動特性を把握するために、図6-13に示す本建物の各階質量、短辺方向の剛性を用いた下部構造が9質点、上部構造が6質点の合計15質点のせん断並進型中間層免震構造モデルを用いて地震応答解析を行ない、前章までの応答予測法との比較を行う。
なお本建物をモデル化した15質点系中間層免震構造モデルに対応する2質点系中間層免震構造モデルの諸元を次に示す。
・全体質量に対する上部構造質量の比:Rm=0.22
・下部構造の固有周期:Tu=1.07sec
」
h (107頁)
「図6-13 15質点中間層免震構造モデルの概要(飯田橋ファーストビル,短辺方向)
[図:0001419367000009.jpg]
」
i 上記「h」の図6-13から、
・15質点系中間層免震構造モデルが、質点間をバネで接続し、バネが所定のバネ定数を有する
ことが看取される。
(イ)甲7の1に記載された発明
甲7の1には、上記「(ア)」より次の発明(以下、「甲7発明」という。)が記載されている。
「中間階に免震層を配置した建物であって、
本建物は、用途が事務所、住宅、店舗の複合用途建築物であり(95頁9~11行)、
高層部分の住宅階と低層部分の事務室階との境界となる中間階に免震層を設け(96頁13~14行)、
10階下部に免震層を設定して天然ゴム系積層ゴムアイソレータと鉛ダンパーからなる免震部材を設けた構造として、建物全体の設計用地震力を低減させ、9階以下の事務室、店舗部分では、コア部分は鉄筋コンクリート造耐震壁を持つ鉄骨鉄筋コンクリート造とし、事務室空間及び外周部はCFT柱(コンクリート充填鋼管柱)と鉄骨梁を用いた鉄骨造とした混合構造による耐震壁付ラーメン構造を採用し(102頁6~12行)、
10階以上の住宅部分にあたる上部構造では、鉄筋コンクリート造で壁式構造に近い耐震壁付ラーメン構造を採用し(102頁13~14行)、
中間免震層および14階建てで合計15層の多層構造となっており(104頁2~3行)、
本建物の振動特性を把握するために、下部構造が9質点、上部構造が6質点の合計15質点のせん断並進型中間層免震構造モデルを用いて地震応答解析を行ない、本建物をモデル化した15質点系中間層免震構造モデルに対応する2質点系中間層免震構造モデルの諸元が、
・全体質量に対する上部構造質量の比:Rm=0.22
・下部構造の固有周期:Tu=1.07sec
であり(104頁8~14行)、
15質点系中間層免震構造モデルが、質点間をバネで接続し、バネが所定のバネ定数を有する(図6-13)、
中間階に免震層を配置した建物。」
(2)本件特許発明1について
ア 甲1発明を主引用発明とした場合
(ア) 対比
本件特許発明1と甲1発明とを対比する。
a 甲1発明の「建物」は、本件特許発明1の「構造物」に相当する。
b 甲1発明の「建物」は、「10階以上の住宅部分にあたる上部構造では、鉄筋コンクリート造で壁式構造に近い耐震壁付ラーメン構造、9階以下の事務室・店舗部分にあたる下部構造では、鉄骨鉄筋コンクリート造(一部鉄骨造)耐震壁付ラーメン構造として、建物の上下で大きく異なる構造形式を採用し」ていることから、甲1発明の「建物」の「10階以上の住宅部分にあたる上部構造」、「9階以下の事務室・店舗部分にあたる下部構造」は、それぞれ本件特許発明1の「構造物における最上部分となる高層部」、「高層部の下側の下層部」に相当する。
c 上記「b」から、甲1発明の「天然ゴム系積層ゴムアイソレータと鉛ダンパーからなる免震部材を設けた構造」は、「10階下部」に設けられており、「10階以上の住宅部分にあたる上部構造」と「9階以下の事務室・店舗部分にあたる下部構造」の間に設けられるものであるから、本件特許発明1の「構造物における最上部分となる高層部」と、「高層部の下側の下層部」と、の間に設けられた「免震層」に相当する。
d 甲1発明の「下部構造」が備える「耐震壁及びSRC柱を有する領域」、「当該領域に隣接するS造の領域」は、それぞれ本件特許発明1の「下層コア部」、「下層コア部に隣接する下層コア隣接部」に相当する。
e 甲1発明の「下部構造」が備える「耐震壁及びSRC柱を有する領域」と「S造の領域」を比較すると、その構造からみて、「耐震壁及びSRC柱を有する領域」の方が剛性が大きいことは明らかであることは、本件特許発明1の「前記下層コア部は、前記下層コア隣接部よりも剛性が大きく設定され」ていることに相当する。
f 上記「a」~「c」の対比をふまえると、甲1発明の「中間層に免震層を配置した建物」は、本件特許発明1の「免震構造」に相当する。
以上を整理すると、本件特許発明1と甲1発明とは、
「構造物における最上部分となる高層部と、前記高層部の下側の下層部と、の間に免震層が設けられ、
前記下層部は、下層コア部と、前記下層コア部に隣接する下層コア隣接部と、を有し、
前記下層コア部は、前記下層コア隣接部よりも剛性が大きく設定される、
免震構造。」
で一致し、以下の点で相違する。
<相違点1>
「構造物」(建物)が、本件特許発明1は「高層または超高層」であるのに対して、甲1発明は「地上14階」である点。
<相違点2>
本件特許発明1の「高層部」は、「下層部よりも剛性が大きく設定され」ているのに対して、甲1発明は、「振動解析モデル」の「質点間」を接続する「バネが所定のバネ定数を有」しているが、「上部構造」と「下部構造」の「剛性」の関係が不明である点。
<相違点3>
本件特許発明1の「高層部」は、「固有周期が2秒以下かつ下層部の固有周期の30%以下」であると特定されているのに対して、甲1発明では、そのように特定されていない点。
<相違点4>
本件特許発明1は「前記高層部の免震周期を前記下層部の周期に対して20%以上ずらしている」のに対して、甲1発明は、「上部構造」の免震周期と「下部構造」の「周期」の関係が不明である点。
(イ) 判断
a 相違点3について
事案に鑑みて、まず、上記相違点3について検討する。
申立人は特許異議申立書において、後記(ウ)aに示すとおり、甲2には「13層免震」について上記相違点3に相当する構成が開示されている旨、及び、甲1発明に甲2に開示される上記構成を適用して上記相違点3は想到容易である旨を、主張している。
(a)甲2記載事項が有する構成
甲2記載事項の「免震モデル」は、「中間層免震構造の応答分布に与える免震層位置及びダンパーの影響を定性的・定量的に評価するため」のものであり、「任意の層を免震層」とし、「免震層を除く上部及び下部構造部」について、「免震層以外は、質量、剛性とも基本モデルと同様」としたものである。
また、甲2記載事項では、「上部構造部は両端自由モード、下部構造部は下部構造部のみの振動モード」とする「基本モードベクトル」に関し、「13層免震モデルの基本モードベクトルの13層免震固有周期」について、「上部1次で∞s、上部2次で0.22s、下部1次で0.72s、下部2次で0.26s」であることが、示されている。
(b)甲2記載事項が相違点3に相当する構成を有するか
甲2記載事項における「13層免震固有周期」は、「上部1次で∞s」、「下部1次で0.72s」であるから、「1次」の「固有周期」に着目して、「上部」の固有周期は、2秒以下ではなく、「下部」の固有周期の30%以下でもない。
また、甲2記載事項における「13層免震固有周期」は、「上部2次で0.22s」、「下部2次で0.26s」であるから、「2次」の「固有周期」に着目して、「上部」の固有周期は「下部」の固有周期の30%以下ではない。
したがって、甲2記載事項は、「13層免震固有周期」として示される「上部」と「下部」の「固有周期」の数値として、上記相違点3に係る本件特許発明1の構成を有するものではない。
(c)甲2記載事項の「13層免震モデル」を、甲1発明に適用する動機付けがあるか
甲1発明における「擬似立体解析モデル」は、「10階下部」に「免震部材」を設け、「10階以上」の「上部構造」と「9階以下」の「下部構造」について、「建物の上下で大きく異なる構造形式を採用」した「実建物」を「想定した振動解析モデル」である。
これに対し、甲2記載事項の「13層免震モデル」は、上記(a)に示したとおり、「免震層位置」の影響を評価するために「免震層以外は、質量、剛性とも基本モードと同様」とするモデルについて、「13層」を免震層の位置としたものであるから、甲1発明における「擬似立体解析モデル」とは、モデルの目的、免震層の位置、及び免震層の上下の建物の構成が、いずれも異なる。
したがって、甲1発明において、「擬似立体解析モデル」として、甲2記載事項の「13層免震モデル」を適用する動機付けはない。
また、甲1発明において、「建物」の実物が有する「固有周期」として、甲2記載事項の「13層免震モデル」に示される数値とする動機付けもない。
(d)甲2記載事項の「13層免震モデル」の一部の数値を、甲1発明に適用することは容易であるか
上記(c)に示すとおり、甲2記載事項の「13層免震モデル」は、甲1発明の「擬似立体解析モデル」とは、モデルの目的及び前提とする建物の構造が大きく異なるから、甲1発明における建物の構造または「擬似立体解析モデル」に示される一部の数値を維持したまま、甲2記載事項の「13層免震モデル」に示される一部の数値を適用することには、阻害要因がある。
そのため、たとえば甲1発明の「擬似立体解析モデル」における「上部構造」のみの「固有周期」として示される「T1が0.29(秒)、T2が0.24(秒)、T3が0.21(秒)」といった数値を維持したままで、甲2記載事項の「13層免震モデル」に示される「固有周期」を部分的に適用することは、当業者にとって容易ではない。
(e)甲2記載事項に基づく容易想到性の小括
上記(b)のとおり、甲2記載事項は、相違点3に係る構成に相当する構成を有さない。
上記(c)のとおり、甲1発明に甲2記載事項を適用する動機付けはない。
また、仮に甲1発明に甲2記載事項を適用したとしても、上記(b)のとおり、甲2記載事項は相違点3に係る構成に相当する構成を有さないから、相違点3に係る本件特許発明1の構成に至るものではない。
そして、上記(d)のとおり、甲1発明において、甲2記載事項の「13層免震モデル」に示される数値の一部を切り出して適用することには、阻害要因がある。
したがって、甲1発明において、甲2記載事項に基づいて上記相違点3に係る本件特許発明1の構成に至ることは、当業者にとって容易ではない。
(f)その余の証拠である甲3~甲6を考慮した場合について
摘記は省略するが、本件特許異議申立におけるその余の証拠である甲3~甲6にも、上記相違点3に係る構成に相当する構成は記載されていない。
したがって、甲1発明において、上記相違点3に係る本件特許発明1の構成に至ることは、甲3~甲6にも、示唆されていない。
(g)相違点3の小括
上記(a)~(f)のとおりであるから、甲1発明において、上記相違点3に係る本件特許発明1の構成に至ることは、甲2記載事項、及び甲3~甲6に記載される事項を考慮しても、当業者にとって容易ではない。
b 進歩性のまとめ
上記aのとおり、相違点3に係る本件特許発明1の構成は、甲1発明、甲2記載事項、及び甲3~甲6に記載される事項を考慮しても、当業者にとって容易ではない。
そのため、その他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1発明、甲2記載事項、及び甲3~甲6に記載される事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものではない。
(ウ)申立人の主張について
a 相違点3に関する申立人の主張
上記相違点3に関し、申立人は特許異議申立書において、以下の主張をしている。
(a)甲2記載事項は相違点3に相当する構成を有する旨の主張
申立人は、特許異議申立書の第10頁第1行~第8行において、甲第2号証には、「13層免震において、上部構造部の固有周期を示す上部2次が0.22s」であり、「高層部の固有周期が2秒以下であること」、及び、「下部構造の固有周期を示す下部1次が0.72sであるから、下部構造の固有周期の30%は、0.72×0.3=0.216で、有効数字を考慮すると0.22s」となり、「上部構造が下部構造の固有周期の30%である0.22sに等し」く、「上部構造が下部構造の固有周期30%以下であること」が記載されているとして、甲2記載事項は相違点3に相当する構成を有する旨主張する。
(b)甲1発明に甲2記載事項を適用して想到容易である旨の主張
申立人は、特許異議申立書第20頁第1行~第9行において、甲2記載事項は本件特許発明1の上部構造部が、固有周期が2秒以下かつ下部構造部の固有周期の30%以下である構成を備えているから、相違点3は、甲1発明に甲2記載事項を適用して想到容易である旨、主張している。
(c)甲1発明は相違点3に係る構成の一部を有する旨の主張
申立人は、特許異議申立書第8頁第5行~第7行及び第8頁表1において、表1には、「上部構造のみの擬似立体モデル」の「固有周期」として、「T1」が「0.29」(秒)、「T2」が「0.24」(秒)、「T3」が「0.21」(秒)といった値が示されているとして、「高層部」の「固有周期が2秒以下」である相違点3の構成の一部は、甲1発明が有する構成であり、相違点ではない旨、主張している。
b 申立人の主張に対する判断
上記申立人の主張について、検討する。
(a)上記主張a(a)について
申立人の上記主張a(a)について、検討する。
上記(イ)a(b)で判断したとおり、甲2記載事項における「13層免震固有周期」は、「上部1次で∞s」、「下部1次で0.72s」であるから、「1次」の「固有周期」に着目して、「上部」の固有周期は、2秒以下ではなく、「下部」の固有周期の30%以下でもない。
そして、甲2記載事項における「13層免震固有周期」は、「上部2次で0.22s」、「下部2次で0.26s」であるから、「2次」の「固有周期」に着目して、「上部」の固有周期は「下部」の固有周期の30%以下ではない。
また、申立人は、「13層免震」の「固有周期」について、「上部2次」と「下部1次」と異なる次数の固有周期を対比して、甲2記載事項は相違点3に相当する構成を有する旨主張しているが、「固有周期」について異なる次数の「上部」と「下部」を対比することが適切であるとはいえない。
したがって、申立人の上記主張によって、上記判断を変更する事情はない。
(b)上記主張a(b)について
申立人の上記主張a(b)について、検討する。
上記(イ)a(c)で判断したとおり、甲2記載事項における「13層免震固有周期」は、「上部1次で∞s」、「下部1次で0.72s」であるから、「1次」の「固有周期」に着目して、「上部」の固有周期は、2秒以下ではなく、「下部」の固有周期の30%以下でもない。
そして、甲2記載事項における「13層免震固有周期」は、「上部2次で0.22s」、「下部2次で0.26s」であるから、「2次」の「固有周期」に着目して、「上部」の固有周期は「下部」の固有周期の30%以下ではない。
また、申立人は、「13層免震」の「固有周期」について、「上部2次」と「下部1次」と異なる次数の固有周期を対比して、甲2記載事項は相違点3に相当する構成を有する旨主張しているが、「固有周期」について異なる次数の「上部」と「下部」を対比することが適切であるとはいえない。
したがって、甲2記載事項は、相違点3に相当する構成を有していない。
さらに、上記(イ)a(c)で判断したとおり、甲1発明における「擬似立体解析モデル」と甲2記載事項における「13層免震モデル」は、モデルの目的、免震層の位置、及び免震層の上下の建物の構成が、いずれも異なるものであり、甲1発明において、「擬似立体解析モデル」として、甲2記載事項の「13層免震モデル」を適用する動機付けはない。
また、甲1発明において、「建物」が有する「固有周期」として、甲2記載事項の「13層免震モデル」に示される数値とする動機付けはない。
したがって、申立人の上記主張によって、上記判断を変更する事情はない。
(c)上記主張a(c)について
申立人の上記主張a(c)について、検討する。
相違点3に係る構成は、「高層部」と「下層部」を有した一つの「構造物」における「高層部」の「固有周期」、及び、「高層部」と「下層部」の「固有周期」の関係を特定するものであり、1つの相違点として認定されるべきである。
そして、上記(イ)a(d)で判断したとおり、甲1発明の「擬似立体解析モデル」と甲2記載事項の「13層免震モデル」は、モデルの目的及び前提とする建物の構造が大きく異なる。「固有周期」など建物の構造の特性を示す数値は、その建物の構造に応じた数値であり、甲1発明における建物の構造または「擬似立体解析モデル」に示される一部の数値を維持したまま、甲2記載事項の「13層免震モデル」に示される一部の数値を適用することには、阻害要因がある。
そのため、甲1発明の「擬似立体解析モデル」における「上部構造」のみの「固有周期」として示される「T1が0.29(秒)、T2が0.24(秒)、T3が0.21(秒)」といった数値を維持したままで、甲2記載事項の「13層免震モデル」に示される「固有周期」を部分的に適用することは、当業者にとって容易ではない。
したがって、申立人の上記主張によって、上記判断を変更する事情はない。
c 小括
上記bのとおりであるから、申立人の主張について検討しても、本件特許発明1の進歩性について、上記(イ)と異なる判断をすべき事情は見いだせない。
イ 甲7の1発明を主引用発明とした場合
(ア) 対比
本件特許発明1と甲7の1発明とを対比する。
a 甲7の1発明の「建物」は、本件特許発明1の「構造物」に相当する。
b 甲7の1発明の「建物」は、「10階以上の住宅部分にあたる上部構造では、鉄筋コンクリート造で壁式構造に近い耐震壁付ラーメン構造を採用し」、「9階以下の事務室、店舗部分では、コア部分は鉄筋コンクリート造耐震壁を持つ鉄骨鉄筋コンクリート造とし、事務室空間及び外周部はCFT柱(コンクリート充填鋼管柱)と鉄骨梁を用いた鉄骨造とした混合構造による耐震壁付ラーメン構造を採用し」ていることから、甲7の1発明の「建物」の「10階以上の住宅部分にあたる上部構造」、「9階以下の事務室、店舗部分」は、それぞれ本件特許発明1の「構造物における最上部分となる高層部」、「高層部の下側の下層部」に相当する。
c 上記「b」から、甲7の1発明の「天然ゴム系積層ゴムアイソレータと鉛ダンパーからなる免震部材を設けた構造」は、「10階下部」に設けられており、「10階以上の住宅部分にあたる上部構造」と「9階以下の事務室、店舗部分」の間に設けられるものであるから、本件特許発明1の「構造物における最上部分となる高層部」と、「高層部の下側の下層部」と、の間に設けられた「免震層」に相当する。
d 甲7の1発明の「9階以下の事務室、店舗部分」が備える「鉄筋コンクリート造耐震壁を持つ鉄骨鉄筋コンクリート造」である「コア部分」、「CFT柱(コンクリート充填鋼管柱)と鉄骨梁を用いた鉄骨造とした混合構造による耐震壁付ラーメン構造」である「事務室空間及び外周部」は、それぞれ本件特許発明1の「下層コア部」、「下層コア部に隣接する下層コア隣接部」に相当する。
e 甲7の1発明の「9階以下の事務室、店舗部分」が備える「鉄筋コンクリート造耐震壁を持つ鉄骨鉄筋コンクリート造」である「コア部分」と「CFT柱(コンクリート充填鋼管柱)と鉄骨梁を用いた鉄骨造とした混合構造による耐震壁付ラーメン構造」である「事務室空間及び外周部」を比較すると、その構造からみて、「鉄筋コンクリート造耐震壁を持つ鉄骨鉄筋コンクリート造」である「コア部分」の方が剛性が大きいことは明らかであるから、甲7の1発明は、本件特許発明1の「前記下層コア部は、前記下層コア隣接部よりも剛性が大きく設定され」ていることに相当する構成を備える。
f 上記「a」~「c」の対比をふまえると、甲7の1発明の「中間階に免震層を配置した建物」は、本件特許発明1の「免震構造」に相当する。
以上を整理すると、本件特許発明1と甲7の1発明とは、
「構造物における最上部分となる高層部と、前記高層部の下側の下層部と、の間に免震層が設けられ、
前記下層部は、下層コア部と、前記下層コア部に隣接する下層コア隣接部と、を有し、
前記下層コア部は、前記下層コア隣接部よりも剛性が大きく設定される、
免震構造。」
で一致し、以下の点で相違する。
<相違点5>
「構造物」(建物)が、本件特許発明1は「高層または超高層」であるのに対して、甲7の1発明は「14階建て」である点。
<相違点6>
本件特許発明1の「高層部」は、「下層部よりも剛性が大きく設定され」ているのに対して、甲7の1発明は、「15質点系中間層免震構造モデル」の「質点間」を接続する「バネが所定のバネ定数を有」してるが、「上部構造」と「下部構造」の「剛性」の関係が不明である点。
<相違点7>
本件特許発明1の「高層部」は、「固有周期が2秒以下かつ下層部の固有周期の30%以下」であると特定されているのに対して、甲7の1発明では、そのように特定されていない点。
<相違点8>
本件特許発明1は「前記高層部の免震周期を前記下層部の周期に対して20%以上ずらしている」のに対して、甲7の1発明は、「上部構造」の免震周期と「下部構造」の「周期」の関係が不明である点。
(イ) 判断
a 相違点7について
事案に鑑みて、まず、上記相違点7について検討する。
申立人は特許異議申立書において、後記(ウ)aに示すとおり、甲2には「13層免震」について上記相違点7に相当する構成が開示されている旨、及び、甲7の1発明に甲2に開示される上記構成を適用して上記相違点7は想到容易である旨を、主張している。
(a)甲2記載事項が有する構成
甲2記載事項の「免震モデル」は、「中間層免震構造の応答分布に与える免震層位置及びダンパーの影響を定性的・定量的に評価するため」のものであり、「任意の層を免震層」とし、「免震層を除く上部及び下部構造部」について、「免震層以外は、質量、剛性とも基本モデルと同様」としたものである。
また、甲2記載事項では、「上部構造部は両端自由モード、下部構造部は下部構造部のみの振動モード」とする「基本モードベクトル」に関し、「13層免震モデルの基本モードベクトルの13層免震固有周期」について、「上部1次で∞s、上部2次で0.22s、下部1次で0.72s、下部2次で0.26s」であることが、示されている。
(b)甲2記載事項が相違点7に相当する構成を有するか
甲2記載事項における「13層免震固有周期」は、「上部1次で∞s」、「下部1次で0.72s」であるから、「1次」の「固有周期」に着目して、「上部」の固有周期は、2秒以下ではなく、「下部」の固有周期の30%以下でもない。
また、甲2記載事項における「13層免震固有周期」は、「上部2次で0.22s」、「下部2次で0.26s」であるから、「2次」の「固有周期」に着目して、「上部」の固有周期は「下部」の固有周期の30%以下ではない。
したがって、甲2記載事項は、「13層免震固有周期」として示される「上部」と「下部」の「固有周期」の数値として、上記相違点7に係る本件特許発明1の構成を有するものではない。
(c)甲2記載事項の「13層免震モデル」を、甲7の1発明に適用する動機付けがあるか
甲7の1発明における「15質点系中間層免震構造モデル」は、「10階下部」に「免震層」を設け、「10階以上」の「上部構造」と「9階以下」の「下部構造」について、それぞれ「鉄筋コンクリート造で壁式構造に近い耐震壁付ラーメン構造」、「コア部分は鉄筋コンクリート造耐震壁を持つ鉄骨鉄筋コンクリート造とし、事務室空間及び外周部はCFT柱(コンクリート充填鋼管柱)と鉄骨梁を用いた鉄骨造とした混合構造による耐震壁付ラーメン構造」とした建物の上下で大きく異なる構造形式を採用した建物の「振動特性を把握する」ための「15質点系中間層免震構造モデル」である。
これに対し、甲2記載事項の「13層免震モデル」は、上記(a)に示したとおり、「免震層位置」の影響を評価するために「免震層以外は、質量、剛性とも基本モードと同様」とするモデルについて、「13層」を免震層の位置としたものであるから、甲7の1発明における「15質点系中間層免震構造モデル」とは、モデルの目的、免震層の位置、及び免震層の上下の建物の構成が、いずれも異なる。
したがって、甲7の1発明において、「15質点系中間層免震構造モデル」として、甲2記載事項の「13層免震モデル」を適用する動機付けはない。
また、甲7の1発明において、「建物」が有する「固有周期」として、甲2記載事項の「13層免震モデル」に示される数値とする動機付けもない。
(d)甲2記載事項の「13層免震モデル」の一部の数値を、甲7の1発明に適用することは容易であるか
上記(c)に示すとおり、甲2記載事項の「13層免震モデル」は、甲7の1発明の「15質点系中間層免震構造モデル」とは、モデルの目的及び前提とする建物の構造が大きく異なるから、甲7の1発明における建物の構造または「15質点系中間層免震構造モデル」に示される一部の数値を維持したまま、甲2記載事項の「13層免震モデル」に示される一部の数値を適用することには、阻害要因がある。
(e)甲2記載事項に基づく容易想到性の小括
上記(b)のとおり、甲2記載事項は、相違点7に係る構成に相当する構成を有さない。
上記(c)のとおり、甲7の1発明に甲2記載事項を適用する動機付けはない。
また、仮に甲7の1発明に甲2記載事項を適用したとしても、上記(b)のとおり、甲2記載事項は相違点7に係る構成に相当する構成を有さないから、相違点7に係る本件特許発明1の構成に至るものではない。
そして、上記(d)のとおり、甲7の1発明において、甲2記載事項の「13層免震モデル」に示される数値の一部を切り出して適用することには、阻害要因がある。
したがって、甲7の1発明において、甲2記載事項に基づいて上記相違点7に係る本件特許発明1の構成に至ることは、当業者にとって容易ではない。
(f)その余の証拠である甲3~甲6を考慮した場合について
摘記は省略するが、本件特許異議申立におけるその余の証拠である甲3~甲6にも、上記相違点7に係る構成に相当する構成は記載されていない。
したがって、甲7の1発明において、上記相違点7に係る本件特許発明1の構成に至ることは、甲3~甲6にも、示唆されていない。
(g)相違点7の小括
上記(a)~(f)のとおりであるから、甲7の1発明において、上記相違点7に係る本件特許発明1の構成に至ることは、甲2記載事項、及び甲3~甲6に記載される事項を考慮しても、当業者にとって容易ではない。
b 進歩性のまとめ
上記aのとおり、相違点7に係る本件特許発明1の構成は、甲7の1発明、甲2記載事項、及び甲3~甲6に記載される事項を考慮しても、当業者にとって容易ではない。
そのため、その他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲7の1発明、甲2記載事項、及び甲3~甲6に記載される事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものではない。
(ウ)申立人の主張について
a 相違点7に関する申立人の主張
上記相違点7に関し、申立人は特許異議申立書において、以下の主張をしている。
(a)甲2記載事項は相違点7に相当する構成を有する旨の主張
申立人は、特許異議申立書の第10頁第1行~第8行において、甲第2号証には、「13層免震において、上部構造部の固有周期を示す上部2次が0.22s」であり、「高層部の固有周期が2秒以下であること」、及び、「下部構造の固有周期を示す下部1次が0.72sであるから、下部構造の固有周期の30%は、0.72×0.3=0.216で、有効数字を考慮すると0.22s」となり、「上部構造が下部構造の固有周期の30%である0.22sに等し」く、「上部構造が下部構造の固有周期30%以下であること」が記載されているとして、甲2記載事項は相違点7に相当する構成を有する旨主張する。
(b)甲7の1発明に甲2記載事項を適用して想到容易である旨の主張
申立人は、特許異議申立書第23頁第18行~第23行において、甲2記載事項は本件特許発明1の上部構造部が、固有周期が2秒以下かつ下部構造部の固有周期の30%以下である構成を備えているから、相違点7は、甲7の1発明に甲2記載事項を適用して想到容易である旨、主張している。
b 申立人の主張に対する判断
上記申立人の主張について、検討する。
(a)上記主張a(a)について
申立人の上記主張a(a)について、検討する。
上記(イ)a(b)で判断したとおり、甲2記載事項における「13層免震固有周期」は、「上部1次で∞s」、「下部1次で0.72s」であるから、「1次」の「固有周期」に着目して、「上部」の固有周期は、2秒以下ではなく、「下部」の固有周期の30%以下でもない。
そして、甲2記載事項における「13層免震固有周期」は、「上部2次で0.22s」、「下部2次で0.26s」であるから、「2次」の「固有周期」に着目して、「上部」の固有周期は「下部」の固有周期の30%以下ではない。
また、申立人は、「13層免震」の「固有周期」について、「上部2次」と「下部1次」と異なる次数の固有周期を対比して、甲2記載事項は相違点3に相当する構成を有する旨主張しているが、「固有周期」について異なる次数の「上部」と「下部」を対比することが適切であるとはいえない。
したがって、申立人の上記主張によって、上記判断を変更する事情はない。
(b)上記主張a(b)について
申立人の上記主張a(b)について、検討する。
上記(イ)a(c)で判断したとおり、甲2記載事項における「13層免震固有周期」は、「上部1次で∞s」、「下部1次で0.72s」であるから、「1次」の「固有周期」に着目して、「上部」の固有周期は、2秒以下ではなく、「下部」の固有周期の30%以下でもない。
そして、甲2記載事項における「13層免震固有周期」は、「上部2次で0.22s」、「下部2次で0.26s」であるから、「2次」の「固有周期」に着目して、「上部」の固有周期は「下部」の固有周期の30%以下ではない。
また、申立人は、「13層免震」の「固有周期」について、「上部2次」と「下部1次」と異なる次数の固有周期を対比して、甲2記載事項は相違点7に相当する構成を有する旨主張しているが、「固有周期」について異なる次数の「上部」と「下部」を対比することが適切であるとはいえない。
したがって、甲2記載事項は、相違点7に相当する構成を有していない。
さらに、上記(イ)a(c)で判断したとおり、甲7の1発明における「15質点系中間層免震構造モデル」と甲2記載事項における「13層免震モデル」は、モデルの目的、免震層の位置、及び免震層の上下の建物の構成が、いずれも異なるものであり、甲7の1発明において、「15質点系中間層免震構造モデル」として、甲2記載事項の「13層免震モデル」を適用する動機付けはない。
また、甲7の1発明において、「建物」が有する「固有周期」として、甲2記載事項の「13層免震モデル」に示される数値とする動機付けはない。
したがって、申立人の上記主張によって、上記判断を変更する事情はない。
c 小括
上記bのとおりであるから、申立人の主張について検討しても、本件特許発明1の進歩性について、上記(イ)と異なる判断をすべき事情は見いだせない。
(3)本件特許発明2について
本件特許発明2は、本件特許発明1の構成をすべて含み、さらに限定を加えた発明であるから、上記(2)で検討した理由と同じ理由により、甲1発明、及び、甲2又はその他の証拠に記載の事項に基づいて、もしくは、甲7の1発明、及び、甲2又はその他の証拠に記載の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(4)本件特許発明3について
本件特許発明3は、本件特許発明1の構成をすべて含み、さらに限定を加えた発明であるから、上記(2)で検討した理由と同じ理由により、甲1発明、及び、甲2又はその他の証拠に記載の事項に基づいて、もしくは、甲7の1発明、及び、甲2又はその他の証拠に記載の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(5)本件特許発明4について
本件特許発明4は、本件特許発明1の構成をすべて含み、さらに限定を加えた発明であるから、上記(2)で検討した理由と同じ理由により、甲1発明、及び、甲2又はその他の証拠に記載の事項に基づいて、もしくは、甲7の1発明、及び、甲2又はその他の証拠に記載の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(6)本件特許発明5について
本件特許発明5は、本件特許発明1の構成をすべて含み、さらに限定を加えた発明であるから、上記(2)で検討した理由と同じ理由により、甲1発明、及び、甲2又はその他の証拠に記載の事項に基づいて、もしくは、甲7の1発明、及び、甲2又はその他の証拠に記載の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
第5 むすび
以上のとおり、本件特許発明1~5に係る特許は、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、取り消すことはできない。
また、他に本件特許発明1~5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、前記結論のとおり、決定する。
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2024-700805