特許異議申立
2024-700697
フェライト粒子、電子写真現像剤用キャリア、電子写真現像剤及びフェライト粒子の製造方法
- 審判番号
- 2024-700697
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2023-524254
- 登録番号
- 7426166
- 請求日
- 2024年07月23日
- 審決日
- 2025年06月03日
- 公報発行日
- 2025年09月26日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】パウダーテック株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人航栄事務所
- 【異議申立人】山本 英生
- 審判長/審判官
- 審判長 粟野 正明
- 審判官 石川 雄太郎
- 審判官 佐藤 陽一
- 分類
- P1651.536-YAA(C01G) / P1651.537-YAA(C01G)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第4項、特許法第36条第6項第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7426166号発明「フェライト粒子、電子写真現像剤用キャリア、電子写真現像剤及びフェライト粒子の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7426166号の明細書を、訂正請求書に添付された訂正明細書のとおり、訂正後の請求項〔1~11〕について訂正することを認める。
特許第7426166号の請求項1~11に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7426166号(以下「本件特許」という。)の請求項1~11に係る特許についての出願は、2022年(令和 4年) 5月27日(優先権主張 令和 3年 5月28日)を国際出願日とする出願(特願2023-524254号。以下「本願」という。)であって、令和 6年 1月24日にその特許権の設定登録がなされ、同年 2月 1日にその特許掲載公報が発行されたものである。
その後、令和 6年 7月23日に、請求項1~11(全請求項)に係る特許に対し、特許異議申立人である山本 英生(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされた。
本件特許異議の申立てにおける手続の経緯は、以下のとおりである。
令和 6年 7月23日 :特許異議の申立て
10月11日付け:取消理由通知(審尋を含む)
12月16日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和 7年 1月31日付け:通知書(訂正請求があった旨の通知)
3月 7日 :申立人による意見書の提出
第2 訂正請求について
1 請求の趣旨
令和 6年12月16日になされた訂正請求(以下「本件訂正請求」という。)の請求の趣旨は、特許第7426166号の明細書を、訂正請求書に添付した訂正明細書のとおり、訂正後の請求項1~11について訂正することを求める、というものである。
2 訂正の内容
本件訂正請求に係る訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりである。なお、訂正箇所には、当合議体が下線を付した。
(1)訂正事項1
願書に添付した明細書の段落【0052】の
「まず、「Fe」、「Mn」及び「Mg」の総物質量(mol)から「Mg」の占める割合(mol%)を算出し、「w」の値を求める。この「w」の値と、上記で求めた「x」の値に基づき、以下の計算式から「u」、「v」を算出する。
u=(1-w)×(1-x)
v=1-u-w」
という記載において「u=(1-w)×(1-x)」と記載されているのを「u=(1-w)×x」に訂正する。
3 訂正の適否についての当審における判断
(1)訂正事項1に係る訂正について
ア 訂正の目的の適否について
(ア)明細書の段落【0032】の記載を踏まえると、特許請求の範囲の請求項1において、「u」は、フェライト粒子のAサイトにおけるFe3+の占有率であり、「v」は、フェライト粒子のAサイトにおけるMn2+の占有率であると認められる。
そして、請求項1では、「u+v+w=1」、「0.870≦v<1.000」、「0.001≦w<0.070」と規定されているから、Mn2+の占有率「v」は、「0.870≦v<1.000」であり、Fe3+の占有率「u」は、u=1-v-wを計算して、「0≦u≦0.129」となると認められる。
また、段落【0165】の表2には、実施例における「u」が、0.000~0.073となることが記載されており、この「u」範囲は、上記「0≦u≦0.129」を満たすものである。同様に、「v」が、0.907~0.997となることが記載されており、この「v」範囲は、上記「0.870≦v<1.000」を満たすものである。
加えて、段落【0033】には、「上記「v」の範囲内とすることで、高速印刷に適した磁気特性を有するフェライト粒子を得ることができる」ことが記載されている。
(イ)一方、本件訂正前の段落【0052】には、u、vの算出方法が記載されており、
u=(1-w)×(1-x)
v=1-u-w
の式から、「u」、「v」を算出する旨が記載されている。
ここで、表2の実施例4のw=0.060、x=0.035から、uを算出すると、u=(1-0.060)×(1-0.035)=0.940×0.965=0.907、u=0.907から、vを算出すると、v=1-0.907-0.060=0.033となる。
すなわち、u=0.907、v=0.033となる。
そして、これらの値は、表2の実施例4における、u=0.033、v=0.908と異なる値である。
(ウ)上記(ア)によれば、明細書及び特許請求の範囲の記載は、一貫して、Mn2+の占有率「v」が、「0.870≦v<1.000」を満たすというものであるから、上記(イ)のように、本件訂正前の段落【0052】の「u=(1-w)×(1-x)、v=1-u-w」を用いて計算される「v」(=0.033)が、「0.870≦v<1.000」を満たさない以上、「u=(1-w)×(1-x)」との記載に誤りがあると認められる(「v=1-u-w」は、「u+v+w=1」を変形したものである。)。
(エ)そこで、表2の実施例4のu、wの値から「u/(1-w)」を計算すると、概ね0.035となり、この値は、実施例4の「x」と同じ値である。
そうすると、本件訂正後の「u=(1-w)×x」と本件訂正前の「u=(1-w)×(1-x)」との等式としての類似性、「u/(1-w)」の計算結果と実施例4の「x」の値との整合性を考慮すれば、本件訂正後の「u=(1-w)×x」との記載が、明細書及び特許請求の範囲の記載と整合が取れていて妥当といえる。
(オ)上記(ア)~(エ)を踏まえると、「u=(1-w)×(1-x)」との記載が誤りで、「u=(1-w)×x」との記載が正しいことが明らかで、当業者であれば、そのことに気付いて、訂正後の趣旨に理解するのが当然であるといえる。
(カ)以上のとおり、訂正事項1に係る訂正は、誤記の訂正を目的とする訂正であり、特許法第120条の5第2項ただし書第2号に掲げる事項を目的とするものである。
イ 新規事項の追加の有無について
上記アのとおり、訂正事項1に係る訂正は、誤記の訂正を目的とする訂正であるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
ウ 特許請求の範囲の拡張又は変更の存否について
上記アのとおり、訂正事項1に係る訂正は、誤記の訂正を目的とする訂正であるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
エ 独立特許要件について
本件においては、本件訂正前の請求項1~11について特許異議の申立てがされているので、訂正事項1に係る訂正後の請求項1~11に係る発明については、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
4 一群の請求項について
本件訂正前の請求項2~11は、請求項1の記載を引用するものであり、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものであるから、本件訂正前の請求項1~11は一群の請求項である。
そして、本件訂正請求は、一群の請求項ごとにされたものであるから、特許法第120条の5第4項の規定に適合する。
5 明細書又は図面の訂正と関係する請求項について
訂正事項1に係る訂正は、本件特許の明細書を訂正するものであるが、いずれも一群の請求項である本件訂正前の請求項1~11に関係する訂正である。
そして、本件訂正は、当該明細書の訂正に係る請求項を含む一群の請求項の全てについて行われているから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第4項に適合する。
6 まとめ
以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第2号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、本件特許の明細書を訂正請求書に添付した訂正明細書のとおり、訂正後の請求項〔1~11〕について訂正することを認める。
第3 本件発明
本件特許の請求項1~11に係る発明は、本願の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1~11に記載された事項により特定される、次のとおりのものである(以下、請求項1~11に係る発明を、それぞれ「本件発明1」~「本件発明11」といい、これらを総称して「本件発明」という。また、本件訂正により訂正された明細書を「本件明細書」という。)。
「【請求項1】
空間群Fd-3mに帰属するスピネル型結晶構造を有し、
そのフェライト組成が下記式(1)で表されるフェライト粒子。
(Fe3+u,Mn2+v,Mg2+w)(Mn3+x,Fe2+y,Fe3+z)2O4・・・(1)
但し、
u+v+w=1
x+y+z=1
0.870≦v<1.000
0.001≦w<0.070
0.000≦x≦0.075
【請求項2】
前記式(1)中のwが下記の条件を満足する請求項1に記載のフェライト粒子。
0.003≦w≦0.060
【請求項3】
当該フェライト粒子に含まれるFe、Mn、Mgの総物質量を100molとしたときに、これらのフェライト構成元素とは別にSr元素を0.4mol以上1.2mol以下含有する請求項1又は請求項2に記載のフェライト粒子。
【請求項4】
内部空隙率が4.0%以下である請求項1又は請求項2に記載のフェライト粒子。
【請求項5】
3K・1000/4π・A/mの磁場をかけたときのB-H測定による飽和磁化が70Am2/kg以上90Am2/kg以下である請求項1又は請求項2に記載のフェライト粒子。
【請求項6】
見掛密度が2.10g/cm3以上2.40g/cm3以下である請求項1又は請求項2に記載のフェライト粒子。
【請求項7】
請求項1又は請求項2に記載のフェライト粒子と、当該フェライト粒子の表面を被覆する樹脂被覆層とを備える電子写真現像剤用キャリア。
【請求項8】
請求項7に記載の電子写真現像剤用キャリアとトナーとを含む電子写真現像剤。
【請求項9】
補給用現像剤として用いられる請求項8に記載の電子写真現像剤。
【請求項10】
請求項1又は請求項2に記載のフェライト粒子を製造するためのフェライト粒子の製造方法であって、
Fe原料、Mn原料及びMg原料の配合量が下記式(2)を満たすように配合して被焼成物を作製し、
当該被焼成物を気孔率が20%以上35%以下の耐火物容器に収容して焼成することによりフェライト粒子を製造するフェライト粒子の製造方法。
2.00≦nFe/(nMn+nMg)≦3.00・・・(2)
但し、
nFe:前記Fe原料中のFe元素の物質量(mol%)
nMn:前記Mn原料中のMn元素の物質量(mol%)
nMg:前記Mg原料中のMg元素の物質量(mol%)
【請求項11】
前記被焼成物を密閉式雰囲気熱処理炉において、炉内圧が炉外の雰囲気圧よりも2Pa以上100Pa以下の範囲で高くなるように加圧した状態で焼成する請求項10に記載のフェライト粒子の製造方法。」
第4 特許異議の申立ての理由及び取消理由の概要
1 特許異議の申立ての理由の概要
申立人は、以下の理由により、本件特許の請求項1~11に係る特許は取り消されるべきものであると主張している。
(1)申立理由1(サポート要件;取消理由として、適用条文を変更して採用)
ア 本件特許の請求項1は、フェライト粒子のAサイトにおけるMn2+の占有率について、「0.870≦v<1.000」と規定する。
一方、上記vの値を、本願の願書に添付した訂正前の明細書(以下「訂正前明細書」という。)に記載の算出方法に従って算出しても、その値は、訂正前明細書の表2に記載された値とはならず、「0.870≦v<1.000」を満足しない。
イ そうすると、訂正前明細書の発明の詳細な説明には、課題を解決するためにvの値の範囲を定めたことは記載されてはいるものの、出願時の技術常識に照らしても、当該範囲内であれば課題を解決できると当業者が認識できる程度に具体例が記載されているとはいえないから、本件特許の請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとはいえない。また、請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項2~11に係る発明も同様である。
ウ よって、本件発明1~11については、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから、同発明に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
(2)申立理由2(明確性要件;取消理由として不採用)
ア 本件特許の請求項1は、フェライト粒子のAサイトにおけるFe3+、Mn2+及びMg2+の占有率を、それぞれ、u、v及びw(u+v+w=1)、BサイトにおけるMn3+、Fe2+及びFe3+の占有率を、それぞれ、x、y及びz(x+y+z=1)と規定する。
ここで、訂正前明細書には、上記x、y及びzについて、「「x」、「y+z」は、X線回折パターンをリートベルト解析することにより得られる値であり、「u」、「v」、「w」はICP発光分析法によりフェライト粒子に含まれる元素を定量することにより得られる値である」ことが記載されている(段落【0040】)。
しかしながら、X線回折パターンのリートベルト解析によるフェライト粒子の元素定量分析では、分析前の試料調整としてフェライト粒子を大気雰囲気下で650℃で焼成しているところ(段落【0041】)、このような試料調整でBサイトの元素のみが酸化分解するとは考え難く、本願の出願当時の当業者の技術常識では、BサイトのみならずAサイトの元素も酸化分解されるものと考えられるため、このような調整がなされた試料の、X線回折パターンのリートベルト解析による元素定量分析では、フェライト粒子全体の組成が元素定量分析されることになり、Bサイトのみの元素定量分析はなされ得ない。
同様に、ICP発光分析法によるフェライト粒子の元素定量分析でも、本願の出願当時の当業者の技術常識では、Aサイトのみの元素定量分析を行うことはできない。
イ そうすると、訂正前明細書に記載の方法によって、フェライト粒子のAサイト及びBサイトのFe、Mn及びMgの占有率を測定・算出しても、正しい占有率を得ることができず、ある具体的な物が本件特許の請求項1に係る発明の技術的範囲に入るか否かを判断できないから、特許請求の範囲の記載は、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確である。また、請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項2~11に係る発明も同様である。
ウ よって、本件発明1~11については、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号に適合するものではないから、同発明に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
(3)申立理由3(サポート要件;取消理由として不採用)
ア 上記(2)のとおり、訂正前明細書に記載の方法によって、フェライト粒子のAサイト及びBサイトのFe、Mn及びMgの占有率を測定・算出しても、正しい占有率を得ることができないから、訂正前明細書の表2に記載の測定・算出値は正しい値とはいえず、本件特許の請求項1に係る発明及び請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項2~11に係る発明は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものとなるおそれがある。
イ よって、本件発明1~11については、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから、同発明に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
2 取消理由の概要
(1)令和 6年10月11日付けで通知した取消理由の概要
ア 取消理由1
(ア)訂正前明細書の算出方法に従ってvの値を算出しても、段落【0165】の表2に記載された値とはならず、請求項1のvの範囲内ともならない。
以上によれば、訂正前明細書に記載される所定の製造方法により本件発明のフェライト粒子を製造しても、vの値が請求項1のvの範囲内のフェライト粒子を製造することはできない。また、訂正前明細書には、上記vの値の算出方法に係る他の記載もないから、どのようにすれば、vの値を請求項1のvの範囲内とすることができるかを見いだすために、当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤、複雑高度な実験等をする必要があるといえる。
(イ)よって、訂正前明細書の発明の詳細な説明は、本件発明1~11について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえないから、同発明に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
第5 当審における判断
以下に述べるように、特許異議申立書に記載した申立理由及び当審において通知した取消理由によっては、本件特許の請求項1~11に係る特許を取り消すことはできない。
1 取消理由1(実施可能要件;申立理由1(サポート要件)の適用条文を変更)
(1)取消理由通知において、訂正前明細書の算出方法に従って、vの値を算出しても、段落【0165】の表2に記載された値とはならず、本件発明1のvの範囲内ともならないから、訂正前明細書に記載される所定の製造方法により本件発明のフェライト粒子を製造しても、vの値が本件発明1のvの範囲内のフェライト粒子を製造することはできないし、訂正前明細書には、上記vの値の算出方法に係る他の記載もないから、どのようにすれば、vの値を本件発明1のvの範囲内とすることができるかを見いだすために、当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤、複雑高度な実験等をする必要がある旨を指摘した。
(2)以下、検討する。
上記第2で述べたとおり、本件訂正により、訂正前明細書の段落【0052】の関係式が訂正され、本件明細書に記載される所定の製造方法により本件発明のフェライト粒子を製造すれば、vの値が、本件発明1のvの占有率の範囲内のフェライト粒子を製造することができることが本件明細書の記載から理解できるようになった。
そうすると、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件発明1~11について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものである。
以上のとおりであるから、取消理由1は解消した。
(3)取消理由1(実施可能要件;申立理由1(サポート要件))についてのまとめ
よって、取消理由1(実施可能要件;申立理由1(サポート要件))によっては、本件特許の請求項1~11に係る特許を取り消すことはできない。
2 申立理由2(明確性要件;取消理由として不採用)
(1)本件特許の請求項1~11の記載は、上記第3のとおりのものであるところ、請求項1~11の記載に不明確なところはなく、その意味は明確であるから、本件発明1~11について、特許請求の範囲の記載は、特許を受けようとする発明が明確である。
(2)ア 申立人は、X線回折パターンのリートベルト解析によるフェライト粒子の元素定量分析では、分析前の試料調整としてフェライト粒子を大気雰囲気下で650℃で焼成しているところ(段落【0041】)、このような試料調整でBサイトの元素のみが酸化分解するとは考え難く、本願の出願当時の当業者の技術常識では、BサイトのみならずAサイトの元素も酸化分解されるものと考えられるため、このような調整がなされた試料の、X線回折パターンのリートベルト解析による元素定量分析では、フェライト粒子全体の組成が元素定量分析されることになり、Bサイトのみの元素定量分析はなされ得ないから、訂正前明細書に記載の方法によって、フェライト粒子のAサイト及びBサイトのFe、Mn及びMgの占有率を測定・算出しても、正しい占有率を得ることができず、ある具体的な物が本件訂正前の請求項1に係る発明の技術的範囲に入るか否かを判断できないから、特許請求の範囲の記載は、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確である旨を主張する。
イ 以下、検討する。
(ア)特許権者は、令和 6年12月16日提出の意見書に、以下の参考文献1、2を添付した。
参考文献1:杉本光男、「FerritE(2) フェライトの化学」、電気化学、昭和37年、第30巻、p.604~611
参考文献2:今瀬肇、外2名、「Mnフェライトの構造解析」、[online]、2012年、インターネット
<URL:https://www.mext.go.jp/component/a_menu/science/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2012/07/30/1323227_2_1.pdf>
(当合議体注:「中性子利用技術移転推進プログラム」業務実施結果報告書(https://www.mext.go.jp/a_menu/shinkou/ryoushi/detail/1323226.htm)の「中性子利用事例集(2)」)
(イ)参考文献1の第605ページ左欄「1.2 高温における金属イオンの分布」には、スピネル型のフェライトを高温から急冷すると、元素の種類によっては、金属元素MのB格子(Bサイト)への侵入が起こりにくいことが示されている。
(ウ)特許権者が令和 6年12月16日に提出した意見書の第3ページには、本件明細書の実施例1のフェライト粒子をロータリーキルン処理後(650℃焼成)の粒子についての粉末X線回折パターンが示されており、当該X線回折パターンから、Mn2O3及びFe2O3が析出していることが確認できる。
(エ)ここで、本件明細書の段落【0041】には、フェライト粒子の組成分析に当たり、「発明に係るフェライト粒子をロータリーキルンを用い大気雰囲気下において650℃で焼成することで「Fe2O3」、「Mn2O3」に分解することで、試料を調製する。」ことが記載されており、この工程は、Bサイトを占有する元素の占有率を求めるために行われるものであるから、上記(イ)、(ウ)を踏まえると、この工程では、焼成後の急冷により、元々Bサイトの一部を占有していたMnがMn2O3の形で析出し、その後のX線回折により、析出が確認されたことが理解できる。
(オ)そうすると、本件明細書に記載の方法によって、フェライト粒子のAサイト及びBサイトのFe、Mn及びMgの占有率を測定・算出すると、正しい占有率を得ることができ、ある具体的な物が本件発明1に係る発明の技術的範囲に入るか否かを判断できる。
(カ)以上のとおりであるから、申立人の上記アの主張は採用できない。
(3)申立理由2(明確性要件)についてのまとめ
よって、申立理由2(明確性要件)によっては、本件特許の請求項1~11に係る特許を取り消すことはできない。
3 申立理由3(サポート要件;取消理由として不採用)
(1)ア 本件明細書の記載によれば、本件発明が解決しようとする課題は、「高速印刷に適した磁気特性を有し、高速印刷時にも良好な画像特性を有する電子写真用現像剤のキャリア芯材に好適なフェライト粒子、電子写真現像剤用キャリア、電子写真現像剤及びフェライト粒子の製造方法を提供すること」にあると認められる(段落【0010】)。
イ そして、本件明細書の段落【0029】、【0089】の記載によれば、フェライト粒子のフェライト組成を「(Fe3+u,Mn2+v,Mg2+w)(Mn3+x,Fe2+y,Fe3+z)2O4・・・(1)」で表したときに、Bサイトにおける「Mn3+」の占有率を表す「x」の値を0.075以下に抑制すること、
上記式(1)で表されるフェライト粒子を得るべく、Fe原料、Mn原料及びMg原料を下記式(2)を満たすように秤量して混合すること、
2.00≦nFe/(nMn+nMg)≦3.00・・・(2)
但し、
nFe:前記Fe原料中のFe元素の物質量(mol%)
nMn:前記Mn原料中のMn元素の物質量(mol%)
nMg:前記Mg原料中のMg元素の物質量(mol%)
によって、上記アの課題を解決できることを当業者であれば認識できるといえる。また、このことは、本件明細書の段落【0118】~【0166】に記載された実施例によっても実証されている。
ウ 一方、本件発明1、10及びこれらの記載を引用する本件発明2~9、11は、上記イの式(1)、(2)を満たすことを発明特定事項とするものであるから、本件発明1~11は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものである。
(2)ア 申立人は、上記2のとおり、訂正前明細書に記載の方法によって、フェライト粒子のAサイト及びBサイトのFe、Mn及びMgの占有率を測定・算出しても、正しい占有率を得ることができないから、訂正前明細書の表2に記載の測定・算出値は正しい値とはいえず、本件訂正前の請求項1に係る発明及び請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項2~11に係る発明は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものとなるおそれがある旨主張する。
イ 以下、検討する。
上記2で述べたとおり、本件明細書に記載の方法によって、フェライト粒子のAサイト及びBサイトのFe、Mn及びMgの占有率を測定・算出すると、正しい占有率を得ることができるから、申立人の上記アの主張は、前提を欠くものであり採用できない。
(3)申立理由3(サポート要件)についてのまとめ
よって、申立理由3(サポート要件)によっては、本件特許の請求項1~11に係る特許を取り消すことはできない。
第6 むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立書に記載した申立理由及び当審において通知した取消理由によっては、本件特許の請求項1~11に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1~11に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2024-700697