特許異議申立
2022-700485
電子写真現像剤用フェライトキャリア芯材、電子写真現像剤用キャリア及び現像剤
- 審判番号
- 2022-700485
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2017-229617
- 登録番号
- 6978051
- 請求日
- 2022年06月06日
- 審決日
- 2023年04月28日
- 公報発行日
- 2023年08月25日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】パウダーテック株式会社
- 【権利者代理人】高村 雅晴
- 【権利者代理人】長谷川 悠
- 【権利者代理人】河内 亮
- 【異議申立人】山本 英生
- 審判長/審判官
- 審判長 松波 由美子
- 審判官 清水 康司
- 審判官 川口 聖司
- 分類
- P1651.113-YAA(G03G) / P1651.121-YAA(G03G) / P1651.537-YAA(G03G)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第2項、特許法第36条、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6978051号発明「電子写真現像剤用フェライトキャリア芯材、電子写真現像剤用キャリア及び現像剤」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6978051号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項〔1ないし9〕について訂正することを認める。
特許第6978051号の請求項1,2,4ないし9に係る特許を維持する。
特許第6978051号の請求項3に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
1 手続の経緯
特許第6978051号(請求項の数9。以下,「本件特許」という。)に係る出願は,平成29年11月29日に出願され,令和3年11月15日にその特許権の設定登録がされ,令和3年12月8日に特許掲載公報が発行されたものである。
その後,請求項1ないし9に係る特許について,令和4年6月6日に特許異議申立人(以下,「申立人」という。)により本件特許異議の申立てがされ,当審において,同年8月15日付けで取消理由が通知され,その指定期間内である同年10月13日に特許権者より訂正請求書(以下,当該訂正請求書による訂正の請求を「本件訂正請求」といい,本件訂正請求による訂正を「本件訂正」という。)及び意見書が提出され,本件訂正請求に対して,申立人より令和5年2月17日に意見書が提出された。
2 本件訂正の適否についての判断
(1)本件訂正の内容
本件訂正は,以下の訂正事項からなる(下線は,訂正箇所を示すために,合議体が付した。)。
また,本件訂正請求は,一群の請求項〔1ないし9〕に対して請求されたものである。
訂正事項1:
本件訂正前の請求項1に「前記フェライトキャリア芯材が,(MnO)x(MgO)y(Fe2O3)zにおいて,x+y+z=100mol%を満たし,x,yが,それぞれ15~60mol%,0.1~35mol%であり,MnO,MgO及びFe2O3の一部がSrOで0.35~5.0mol%置換された組成を有する,フェライトキャリア芯材。」と記載されているのを,「前記フェライトキャリア芯材が,(MnO)x(MgO)y(Fe2O3)zにおいて,x+y+z=100mol%を満たし,x,yが,それぞれ35~45mol%,5~15mol%であり,MnO,MgO及びFe2O3の一部がSrOで0.4~2.0mol%置換された組成を有し,
前記フェライトキャリア芯材は,6.5mmギャップにおける,電圧1000V印加時のコア抵抗R1000(単位:Ω)と500V印加時のコア抵抗R500(単位:Ω)とが,5.0≦Log10(|R500-R1000|)≦11.0の関係を満足する,フェライトキャリア芯材。」に訂正する。(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2及び4ないし9も同様に訂正する。)
訂正事項2:
請求項3を削除する。
訂正事項3:
訂正前の請求項4に「請求項1~3のいずれか一項に記載の」と記載されているのを,「請求項1又は2に記載の」に訂正する。(請求項4の記載を直接的又は間接的に引用する請求項5ないし9も同様に訂正する。)
訂正事項4:
訂正前の請求項5に「請求項1~4のいずれか一項に記載の」と記載されているのを,「請求項1,2及び4のいずれか一項に記載の」に訂正する。(請求項5の記載を直接的又は間接的に引用する請求項6ないし9も同様に訂正する。)
訂正事項5:
訂正前の請求項6に「請求項1~5のいずれか一項に記載の」と記載されているのを,「請求項1,2,4及び5のいずれか一項に記載の」に訂正する。(請求項6の記載を直接的又は間接的に引用する請求項7ないし9も同様に訂正する。)
訂正事項6:
訂正前の請求項7に「請求項1~6のいずれか一項に記載の」と記載されているのを,「請求項1,2及び4~6のいずれか一項に記載の」に訂正する。(請求項7の記載を直接的又は間接的に引用する請求項8及び9も同様に訂正する。)
訂正事項7:
訂正前の請求項8に「請求項1~7のいずれか一項に記載の」と記載されているのを,「請求項1,2及び4~7のいずれか一項に記載の」に訂正する。(請求項8の記載を引用する請求項9も同様に訂正する。
(2)訂正の目的の適否,新規事項の有無,及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
ア 訂正事項1について
(ア) 訂正事項1による訂正のうち,MnO及びMgOのモル分率であるx及びyの数値範囲を,それぞれ「15~60」及び「0.1~35」から,「35~45」及び「5~15」に訂正し,SrOの置換量(モル分率)の数値範囲を,「0.35~5.0」から「0.4~2.0」にする訂正は,訂正後の各数値範囲を,訂正前の各数値範囲内であって,かつ,訂正前の各数値範囲よりも狭い範囲に限定する訂正であることから,「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
また,訂正後の各数値範囲は,本件訂正前の明細書の【0028】に記載されているから,各数値範囲を当該訂正後の各数値範囲に限定する訂正は,新規事項を追加するものではない。
また,訂正後の各数値範囲は,訂正前の各数値範囲内に収まっていて,訂正後の各数値範囲に訂正前の各数値範囲外の数値が含まれることはないから,各数値範囲を訂正後の各数値範囲に限定する訂正は,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。
(イ) 訂正事項1による訂正のうち,「前記フェライトキャリア芯材は,6.5mmギャップにおける,電圧1000V印加時のコア抵抗R1000(単位:Ω)と500V印加時のコア抵抗R500(単位:Ω)とが,5.0≦Log10(|R500-R1000|)≦11.0の関係を満足する」なる発明特定事項を付加する訂正は,訂正前のフェライトキャリア芯材のR1000とR500の関係は任意であったものを,5.0≦Log10(|R500-R1000|)≦11.0を満たすフェライトキャリア芯材に限定する訂正であるから,「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
また,前記R1000とR500が5.0≦Log10(|R500-R1000|)≦11.0を満たすことは,本件訂正前の特許請求の範囲の請求項3や,本件訂正前の明細書の【0023】に記載されているから,前記発明特定事項を付加する訂正は,新規事項を追加するものではない。
また,前記発明特定事項を付加する訂正は,訂正前のフェライトキャリア芯材のR1000とR500の関係は任意であったものを,5.0≦Log10(|R500-R1000|)≦11.0を満たすフェライトキャリア芯材に限定する訂正であって,訂正前には,各請求項に包含されていなかったものが,訂正後の各請求項に包含されることはないから,前記発明特定事項を付加する訂正は,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。
イ 訂正事項2ないし7について
訂正事項2ないし7は,特許請求の範囲から請求項3を削除するとともに,請求項4ないし9から,請求項3の記載を引用する部分を削除する訂正であるから,「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
また,訂正事項2ないし7が,新規事項を追加するものでなく,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではないことは,明らかである。
(3)小括
以上のとおりであるから,本件訂正は,特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる事項を目的とするものであり,かつ,同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって,特許請求の範囲を,訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項〔1ないし9〕について訂正することを認める。
3 本件特許の各請求項に係る発明
前記2で述べたとおり,本件訂正は認められるから,本件特許の請求項1,2,4ないし9(請求項3は本件訂正により削除された。)に係る発明(以下,「本件訂正発明1」,「本件訂正発明2」等という。)は,本件訂正後の請求項1,2,4ないし9に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
芯材断面における結晶粒界の全長L1と芯材周囲長L2とが,2≦L1/L2≦9の関係を満足する,電子写真現像剤用フェライトキャリア芯材であって,
前記結晶粒界の全長L1は,L1=[{(結晶粒の円相当径×π)の総和}-芯材周囲長]/2の式により算出される値であり,
前記フェライトキャリア芯材が,(MnO)x(MgO)y(Fe2O3)zにおいて,x+y+z=100mol%を満たし,x,yが,それぞれ35~45mol%,5~15mol%であり,MnO,MgO及びFe2O3の一部がSrOで0.4~2.0mol%置換された組成を有し,
前記フェライトキャリア芯材は,6.5mmギャップにおける,電圧1000V印加時のコア抵抗R1000(単位:Ω)と500V印加時のコア抵抗R500(単位:Ω)とが,5.0≦Log10(|R500-R1000|)≦11.0の関係を満足する,フェライトキャリア芯材。
【請求項2】
形状係数SF-2が150以下である粒子を,個数基準で30%以上含む,請求項1に記載のフェライトキャリア芯材。
【請求項4】
体積平均粒径が20~80μmである,請求項1又は2に記載のフェライトキャリア芯材。
【請求項5】
1kOe(80kA/m)における磁化が40~75emu/gである,請求項1,2及び4のいずれか一項に記載のフェライトキャリア芯材。
【請求項6】
見掛け密度が1.6~2.6g/cm3である,請求項1,2,4及び5のいずれか一項に記載のフェライトキャリア芯材。
【請求項7】
粒径24μm未満の粒子の割合が4.5体積%以下である,請求項1,2及び4~6のいずれか一項に記載のフェライトキャリア芯材。
【請求項8】
請求項1,2及び4~7のいずれか一項に記載のフェライトキャリア芯材と,前記フェライトキャリア芯材の表面に設けられた樹脂からなる被覆層とを備えた,電子写真現像剤用キャリア。
【請求項9】
請求項8に記載のキャリアと,トナーとを含む,電子写真現像剤。」
4 取消理由通知に記載した取消理由の概要
本件訂正前の請求項1ないし9に係る特許に対して通知された取消理由は,概略,次のとおりである。
取消理由1(新規性・進歩性欠如):本件特許の請求項1,2,4ないし6,8,9に係る発明は,本件特許に係る出願の出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である甲1に記載された発明であり,請求項1,4,8,9に係る発明は,本件特許に係る出願の出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である甲2に記載された発明であり,特許法29条1項3号に該当するから,当該請求項1,2,4ないし6,8,9に係る特許は,特許法29条1項の規定に違反してされたものである。
又は,本件特許の請求項1,2,4ないし6,8,9は,本件特許出願の出願前に日本国内又は外国において,頒布された刊行物である甲1に記載された発明に基づいて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
取消理由2(サポート要件違反):本件特許の請求項1ないし9に係る特許は,特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
取消理由1において引用された甲1,甲2は,次のとおりである。
甲1:特開2012-159642号公報
甲2:特開2015-388625号公報
5 引用例の記載及び引用例に記載された発明
(1)甲1
ア 甲1の記載
甲1は,本件特許に係る出願の出願前である平成24年8月23日に頒布された刊行物であって,当該甲1には,次の記載がある。(下線は,後述する甲1発明の構成等に特に関連する箇所を示すために,合議体が付した。)
(ア) 「【技術分野】
【0001】
本発明は,複写機,プリンター等に用いられる二成分系電子写真現像剤に使用される電子写真現像剤用フェライトキャリア芯材,フェライトキャリア及びこれらの製造方法,並びに該フェライトキャリアを用いた電子写真現像剤に関する。
【背景技術】
・・・(中略)・・・
【0010】
近年は,鉄粉キャリアに代わって真比重約5.0程度と軽く,また磁化も低いフェライトをキャリアとして用いたり,さらに表面に樹脂を被覆した樹脂コートフェライトキャリアが多く使用されており,現像剤寿命は飛躍的に伸びてきた。
・・・(中略)・・・
【0012】
ところで,最近,環境規制が厳しくなり,Ni,Cu,Zn等の金属の使用は避けられるようになってきており,環境規制に適応した金属の使用が求められており,キャリア芯材として用いられるフェライト組成はCu-Znフェライト,Ni-ZnフェライトからMnを用いたマンガンフェライト,Mn-Mg-Srフェライト等に移行している。
・・・(中略)・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
従って,本発明の目的は,小粒径であるにもかかわらず,粒子形状が球形に近いが,表面に微小な凹凸が存在するためBET比表面積が従来の芯材粒子よりも大きく,かつ帯電性に優れ,芯材の割れ・欠けによるキャリア飛散が発生しにくい長寿命の電子写真現像剤用フェライトキャリア芯材,フェライトキャリア及びこれらの製造方法,並びに該フェライトキャリアを用いた電子写真像剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明者らは,上記のような課題を解決すべく鋭意検討した結果,Srを一定量含有するフェライトキャリア芯材(フェライト粒子)において,特に平均粒径が35μmを下回る粒径においては形状の悪い粒子も形状の良い粒子も粒径の差は小さく,単純に小粒径のキャリア粒子の存在を抑制すればキャリア飛散が解決するのではなく,キャリアという粒子の集合体において形状の分布がある一定の分布の幅に収まるようにすることが必要であることを知見した。つまり,キャリア芯材の形状係数SF-2の個数分布が一定分布に必要があることを見出し,そして,このようなフェライトキャリア芯材が,仮焼成後にSr化合物を添加することにより得られることを知見し,本発明に至った。
【0025】
すなわち,本発明は,
(1)フェライト組成が,Srを0.5~2.5重量%含有し,Sr-Fe酸化物の存在量が下記の条件式を満たし,
【0026】
【数1】
0<Srフェライトの重量/全Sr-Fe酸化物の合計重量≦0.8
(但し,全Sr-Fe酸化物の合計重量=Srフェライト+Srフェライト以外のSr-Fe酸化物)
(2)形状係数SF-2の個数分布において,100以上105未満の粒子が40個数%以上,105以上110未満の粒子が5~40個数%,110以上120未満の粒子が20個数%以下,120以上の粒子が10個数%以下,130以上の粒子が5個数%以下,
(3)BET比表面積が0.15~0.30m2/g,
(4)レーザー回折式粒度分布測定装置の測定における平均粒径D50が20~35μm,
(5)1K・1000/4π・A/mの磁場をかけたときのVSM測定による磁化が50~65Am2/kg,であることを特徴とする電子写真現像剤用フェライトキャリア芯材を提供するものである。
・・・(中略)・・・
【発明の効果】
【0039】
本発明に係る電子写真現像剤用フェライトキャリア芯材は,小粒径であるにもかかわらず,粒子形状が球形に近いが,表面に微小な凹凸が存在するためBET比表面積が従来の芯材粒子よりも大きく,かつ帯電性に優れ,芯材の割れ・欠けによるキャリア飛散が発生しにくい長寿命の電子現像剤用フェライトキャリア芯材である。そして,上記フェライトキャリア芯材に樹脂を被覆して得られるフェライトキャリアとトナーとからなる電子写真現像剤は,高い帯電量を有し,実機中おけるキャリア飛散が防止され,継続的に高画質の印刷物が得られる。また,本発明の製造方法によって,上記フェライトキャリア芯材及びフェライトキャリアが安定的に生産性をもって得られる。」
(イ) 「【発明を実施するための形態】
【0040】
以下,本発明を実施するための形態について説明する。
<本発明に係る電子写真現像剤用フェライトキャリア芯材及びフェライトキャリア>
本発明に係る電子写真現像剤用フェライトキャリア芯材は,(1)フェライト組成が,Srを0.5~2.5重量%含有し,Sr-Fe酸化物の存在量が下記の条件式を満たす。
【0041】
【数2】
0<Srフェライトの重量/全Sr-Fe酸化物の合計重量≦0.8
(但し,全Sr-Fe酸化物の合計重量=Srフェライト+Srフェライト以外のSr-Fe酸化物)
【0042】
本発明に係る電子写真現像剤用キャリア芯材は,上記のようにSrを0.5~2.5重量%含有する。Srは抵抗や表面性の調整に寄与し,表面酸化の際に高磁化を保つ効果を有するだけでなく,含有することで芯材の帯電能力を高める効果も得られる。Srが0.5重量%未満の場合には,Srの含有効果が得られず表面酸化処理後の磁化の低下が大きくなり易くなる。さらに,一次焼成及び本焼成時にSrフェライトを含むSr-Fe酸化物の生成量が少なくなりすぎるため,抵抗及び芯材の帯電量を上げる効果が期待できない。特に,写真等の高印字率での印刷を連続的に行なった場合,帯電低下が発生しトナー飛散やトナー消費量の増加といった不具合が出てくる可能性がある。Srの含有量が2.5重量%を超えると,残留磁化や保磁力が高くなり,現像剤として用いたとき,はけ筋等の画像欠陥が発生し,画質が低下する。・・・(中略)・・・
【0048】
本発明に係る電子写真現像剤用キャリア芯材は,(2)形状係数SF-2の個数分布において,100以上105未満の粒子が40個数%以上,105以上110未満の粒子が5~40個数%,110以上120未満の粒子が20個数%以下,120以上の粒子が10個数%以下,130以上の粒子が5個数%以下である。
【0049】
形状係数の個数分布が上記(2)で示される範囲を満たさない場合は,形状が球形ではない粒子の存在割合が増加し,樹脂被覆後キャリアをトナーと混合・撹拌し,現像剤を実機の現像器に投入して使用した場合に,キャリア粒子で尖った部分に電界が集中しやすくなることで実質的に低抵抗となり,低抵抗のキャリア粒子と同様にキャリア飛散の原因となる。特に,芯材粒子表面の凸部の存在は,電界の向きにもよるが,芯材表面の曲率が異なり凸部となり,電場(電気力線)が当該凸部に集中することで他の部分と比べて局所的に抵抗が下がる。局所的な抵抗の低下が感光体近傍で発生した場合には白斑の原因となる。
・・・(中略)・・・
【0055】
本発明に係る電子写真現像剤用キャリア芯材は,(3)BET比表面積が0.15~0.30m2/g,好ましくは0.15~0.25m2/g,さらに好ましくは0.15~0.22m2/gである。
【0056】
BET比表面積が上記範囲よりも小さい場合には,樹脂被覆を行なっても十分に樹脂のアンカー効果が得られないだけでなく,被覆されなかった樹脂によってキャリア芯材同士が凝集してしまうことがある。そのため実質的な被覆樹脂量が減少し,キャリアとしての寿命が短くなったり,凝集したキャリア粒子が現像器中で解されることでキャリア芯材表面が大きく露出し,低抵抗化することでキャリア飛散が発生する原因になる。BET比表面積が上記範囲よりも大きい場合は,被覆樹脂が芯材表面に留まらず染み込みすぎることでキャリアとして所望の抵抗と帯電量が得られないことがある。なお,BET比表面積測定を行う際,測定結果は測定サンプルである芯材粒子表面の水分の影響を強く受けるので,可能な限りサンプル表面に付着している水分を除去するような前処理を行うことが好ましい。
・・・(中略)・・・
【0058】
本発明に係る電子写真現像剤用キャリア芯材は,(4)レーザー回折式粒度分布測定装置の測定における平均粒径D50が20~35μm,好ましくは22~32μmである。
【0059】
平均粒径が上記範囲よりも小さい場合は,芯材1粒子当たりの磁力が小さくなるため,粒子形状やBET比表面積が上記範囲内であってもキャリア飛散を防止することが出来ない。平均粒径が上記範囲よりも大きい場合は,現像剤を作成したときに高いトナー濃度が実現できず,高画質の印刷物が得られないか,高いトナー濃度にした場合に急速に現像剤の帯電量が下がるか,帯電量分布が広がり,トナー飛散の原因となる。
【0060】
(体積平均粒径)
この平均粒径は,レーザー回折散乱法により測定した。装置として日機装株式会社製マイクロトラック粒度分析計(Model9320-X100)を用いた。屈折率は2.42とし,25±5℃,湿度55±15%の環境下で測定を行った。ここで言う平均粒径(メジアン径)とは,体積分布モード,ふるい下表示での累積50%粒子径である。・・・(中略)・・・
【0061】
本発明に係る電子写真現像剤用フェライトキャリア芯材は,(5)1K・1000/4π・A/mの磁場をかけたときのVSM測定による磁化が50~65Am2/kgである。上記1K・1000/4π・A/mにおける磁化が50Am2/g未満であると,飛散物磁化が悪化しキャリア付着による画像欠陥の原因となる。一方,本発明の上記組成範囲では,65Am2/gを超えることはない。この磁気特性(磁化)は,下記によって測定される。
【0062】
(磁気特性)
振動試料型磁気測定装置(型式:VSM-C7-10A(東英工業社製))を用いた。測定試料は,内径5mm,高さ2mmのセルに詰めて上記装置にセットした。測定は,印加磁場を加え,5KOeまで掃引した。次いで,印加磁場を減少させ,記録紙上にヒステリシスカーブを作製した。このカーブのデータより印加磁場が1KOeにおける磁化を読み取った。
【0063】
上記範囲(1)~(5)を満たす電子写真現像剤用フェライト芯材粒子は小粒径であるにもかかわらず,粒子形状が球形に近いが,表面に微小な凹凸が存在するためBET比表面積が従来の芯材粒子よりも大きく,かつ帯電性に優れ,芯材粒子の割れ・欠けによるキャリア飛散が発生しにくく,かつ長寿命のものとなる。
【0064】
本発明に係るフェライトキャリア芯材は,上記Srに加えて,Mn及びMgを含有することが好ましく,Mnは好ましくは15~22重量%,より好ましくは17~22重量%,さらに好ましくは18~21重量%,Mgは好ましくは0.5~3重量%,より好ましくは0.5~2.5重量%,さらに好ましくは0.5~2重量%含有する。Feは好ましくは45~55重量%,より好ましくは47~55重量%,さらに好ましくは48~55重量%含有し,残部はO(酸素)と随伴不純物であり,随伴不純物は原料に含まれるものや製造工程において混入するものであり,その合計量は0.5重量%以下である。」
(ウ) 「【実施例1】
【0132】
Fe2O3を52モル,MnO2を40モル及びMgOを8モルとなるように秤量し,ローラーコンパクターでペレット化した。得られたペレットを大気雰囲気の条件下,1030℃にてロータリー式の焼成炉で仮焼成をおこなった。
【0133】
これを乾式ビーズミルにて粗粉砕した後,水とSrCO3を1.5モル添加し,湿式ビーズミルで6時間粉砕し,バインダー成分としてPVAをスラリー固形分に対して3.2重量%となるように添加し,ポリカルボン酸系分散剤をスラリーの粘度が2~3ポイズになるように添加したものを粉砕スラリーとした。この際のスラリーの固形分は55重量%,スラリー粒径のD50は1.82μmであった。
【0134】
このようにして得られた粉砕スラリーをスプレードライヤーにて造粒,乾燥し,大気雰囲気の条件下,ロータリーを用いて大気中,700℃で一次焼成を行った。次いで,電気炉を用いて,酸素濃度0.5体積%の条件下,1130℃で4時間保持し,本焼成を行なった。その後,解砕し,さらに分級してフェライト粒子からなるキャリア芯材を得た。
【0135】
さらに得られたフェライト粒子からなるキャリア芯材を大気雰囲気の条件下,表面酸化処理温度520℃,ロータリー式の電気炉で表面酸化処理を行い表面酸化処理済みのキャリア芯材(フェライト粒子)を得た。」
(エ) 「【0156】
実施例1~14及び比較例1~7の配合割合(原料仕込みモル数),仮焼成条件(温度及び雰囲気),粉砕スラリー・本造粒条件(SrCO3量,スラリー固形分及びスラリー粒径),一次焼成条件(温度及び雰囲気),本焼成条件(温度及び雰囲気)及び分級条件(微粉除去,粗粉除去)を表1に示す。また,実施例1~14及び比較例1~7により得られたキャリア芯材の化学分析,Mn/Mgのモル比,酸化処理前の特性(磁化,N/N抵抗,N/N帯電量,H/H帯電量)及び表面酸化処理前のX線回折を表2に示す。
【0157】
さらに,実施例1~14及び比較例1~7の表面酸化処理温度,表面酸化処理後の特性(平均粒径,見掛け密度,BET比表面積,磁化,N/N抵抗,N/N帯電量,H/H帯電量)を表3,表面酸化処理後のX線回折及び塩素溶出量を表4,表面酸化処理後のX線解析の比較を表5にそれぞれ示す。さらに,形状係数SF-2の個数分布及び平均値,XPSによるMn3+,Mn4+の存在の有無を表6に示す。ここにおいて,表3に示す帯電量の測定方法は下記の通りである。また,表2及び表3の抵抗及び帯電量の各環境下の測定条件は下記の通りである。その他の各測定方法は上述の通りである。なお,SF-2の個数分布,平均粒径,BET比表面積及びCl溶出量は表酸化処理前後でほとんど変化しないので表面酸化処理後の値のみ記載した。
・・・(中略)・・・
【0161】
【表1】
[図:0001400446000001.jpg]
【0162】
【表2】
[図:0001400446000002.jpg]
【0163】
【表3】
[図:0001400446000003.jpg]
【0164】
【表4】
[図:0001400446000004.jpg]
【0165】
【表5】
[図:0001400446000005.jpg]
【0166】
【表6】
[図:0001400446000006.jpg]
」
イ 甲1に記載された発明
甲1の【0163】の【表3】から,実施例1の平均粒径が25.82μm,見掛け密度が2.11g/cm3,磁化が55.8Am2/kgであることが看取され,【0166】の【表6】から,実施例1における形状係数SF-2が130以上の粒子が0.80%であることが看取されるところ,【表3】に示された「平均粒径」とは,【0058】ないし【0060】の記載からみて,体積平均粒径にほかならず,【表3】に示された「磁化」とは,【0062】の記載からみて,印加磁場が1KOeにおける磁化を指していると理解されるから,前記ア(ア)ないし(エ)で摘記した甲1の記載から,甲1に,実施例1に係る電子写真現像用フェライトキャリア芯材の発明として,次の発明(以下,「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「Fe2O3を52モル,MnO2を40モル及びMgOを8モルとなるように秤量し,ローラーコンパクターでペレット化し,得られたペレットを大気雰囲気の条件下,1030℃にてロータリー式の焼成炉で仮焼成を行い,これを乾式ビーズミルにて粗粉砕した後,水とSrCO3を1.5モル添加し,湿式ビーズミルで6時間粉砕し,バインダー成分としてPVAをスラリー固形分に対して3.2重量%となるように添加し,ポリカルボン酸系分散剤をスラリーの粘度が2~3ポイズになるように添加したものを粉砕スラリー(スラリーの固形分は55重量%,スラリー粒径のD50は1.82μm)とし,得られた粉砕スラリーをスプレードライヤーにて造粒,乾燥し,大気雰囲気の条件下,ロータリーを用いて大気中,700℃で一次焼成を行い,次いで,電気炉を用いて,酸素濃度0.5体積%の条件下,1130℃で4時間保持し,本焼成を行ない,その後,解砕し,さらに分級して得られたフェライト粒子からなるキャリア芯材を大気雰囲気の条件下,表面酸化処理温度520℃,ロータリー式の電気炉で表面酸化処理を行うことによって製造された表面酸化処理済みの電子写真現像剤用フェライトキャリア芯材であって,
体積平均粒径が25.82μm,
見掛け密度が2.11g/cm3,
印加磁場が1KOeにおける磁化が55.8Am2/kg,
形状係数SF-2の個数分布において130以上の粒子が0.80%である,
電子写真現像剤用フェライトキャリア芯材。」
(2)甲2
甲2は,本件特許出願の出願前である平成27年2月26日に頒布された刊行物であるところ,甲2の【0128】ないし【0130】,【0186】ないし【0192】,【0203】,【0204】,【0209】,【0214】,【0217】,【0218】,【0219】の表1,【0220】の表2,【0238】等の記載から,甲2に,磁性コア9,磁性コア9を用いた比較例3の磁性キャリア10の発明として,次の発明(以下,「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。
「Fe2O3 63.0質量部,MnCO3 29.0質量部,Mg(OH)2 5.5質量部,SrCO3 2.5質量部となるようにフェライト原材料を秤量し,その後,ジルコニア(直径10mm)のボールを用いた乾式ボールミルで2時間粉砕・混合し,粉砕・混合した後,バーナー式焼成炉を用い大気中において950℃で2時間焼成し,(MnO)0.333(MgO)0.124(SrO)0.022(Fe2O3)0.520なる組成(数値はモル比を示す。)の仮焼フェライトを作成し,クラッシャーで0.3mm程度に粉砕した後に,ステンレス(直径10mm)のボールミルを用い,仮焼フェライト100質量部に対し,水を30質量部加え,湿式ボールミルで1時間粉砕し,そのスラリーを,ジルコニアのビーズ(直径1.0mm)を用いた湿式ビーズミルで1時間粉砕し,フェライトスラリーA(仮焼フェライト微粉砕品)を得,フェライトスラリーA 100質量部に対して,バインダーとしてポリビニルアルコール2.0質量部を添加し,スプレードライヤー(製造元:大川原化工機)で,球状粒子に造粒し,焼成雰囲気をコントロールするために,電気炉にて窒素雰囲気下(酸素濃度0.3体積%)で,8時間かけて室温から900℃まで昇温し,その後1時間かけて焼成のピーク温度,1130℃まで昇温した。そのまま1130℃を保持し,4時間焼成し,その後,4時間かけて600℃まで冷却し,さらに5時間かけて室温まで冷却してフェライトコアAを取り出し,フェライトコアAの凝集した粒子を解砕した後に,目開き250μmの篩で篩分して粗大粒子を除去し,その後,磁力選別機を用いて弱磁性物を除去して得られた磁性コア9であって,
体積基準の50%粒径が33.9μm,
表面を,東レ・ダウコーニング社製のシリコーンワニスSR2440 1.5質量部で被覆して磁性キャリア10とした時の体積基準の50%粒径が33.9μm,
当該磁性キャリア10の断面におけるフェライト部の面積率が0.89,
結晶の個数平均面積が7.1μm2である,
磁性コア9。」
6 判断
(1)取消理由1(新規性・進歩性欠如)について
ア 甲1を主引例とする取消理由1について
(ア)本件訂正発明1について
a 対比
甲1発明は,Fe2O3を52モル,MnO2を40モル及びMgOを8モルとなるように秤量してペレット化して仮焼成し,粗粉砕した後,水とSrCO3を1.5モル添加して粉砕し,PVA及びポリカルボン酸系分散剤を添加して粉砕スラリーとし,この粉砕スラリーを造粒・本焼成・解砕・分級・表面酸化処理をして得られたキャリア芯材であって,MnO40モル%,MgO8モル%及びFe2O352モル%の一部がSrO1.5モル%置換された組成を有しているといえるから,本件訂正発明1の「前記フェライトキャリア芯材が,(MnO)x(MgO)y(Fe2O3)zにおいて,x+y+z=100mol%を満たし,x,yが,それぞれ35~45mol%,5~15mol%であり,MnO,MgO及びFe2O3の一部がSrOで0.4~2.0mol%置換された組成を有」するとの要件を満たしている。
したがって,本件訂正発明1と甲1発明は,
「電子写真現像剤用フェライトキャリア芯材であって,
前記フェライトキャリア芯材が,(MnO)x(MgO)y(Fe2O3)zにおいて,x+y+z=100mol%を満たし,x,yが,それぞれ35~45mol%,5~15mol%であり,MnO,MgO及びFe2O3の一部がSrOで0.4~2.0mol%置換された組成を有する,フェライトキャリア芯材。」
である点で一致し,次の点で相違する。
相違点1-1:
本件訂正発明1は,芯材断面における結晶粒界の全長L1と芯材周囲長L2とが,2≦L1/L2≦9の関係を満足し,前記結晶粒界の全長L1は,L1=[{(結晶粒の円相当径×π)の総和}-芯材周囲長]/2の式により算出される値であり,6.5mmギャップにおける,電圧1000V印加時のコア抵抗R1000(単位:Ω)と500V印加時のコア抵抗R500(単位:Ω)とが,5.0≦Log10(|R500-R1000|)≦11.0の関係を満足するのに対して,
甲1発明が,2≦L1/L2≦9の関係を満足するか否か,及び5.0≦Log10(|R500-R1000|)≦11.0の関係を満足するか否かは定かでない点。
b 相違点1-1について
(a) 甲1発明について,2≦L1/L2≦9の関係を満足しているとともに,5.0≦Log10(|R500-R1000|)≦11.0の関係を満足していると推認できる根拠はないから,相違点1-1は実質的な相違点である。
そして,本件訂正発明1と甲1発明の間に,実質的な相違点がある以上,本件訂正発明1は,甲1発明ではない。
(b) 本件特許明細書の【0012】ないし【0015】,【0019】,【0023】等の記載から理解されるように,相違点1-1に係る本件訂正発明1の発明特定事項は,近年の高速印刷化の要求に答えるために必要な高バイアス電圧下及び耐刷によってコート層が薄くなったときの絶縁破壊の発生を抑制するとともに,キャリア抵抗が高すぎて画像濃度が出にくくなるという問題が生じないようにするために,採用されたものであって,【0063】の【表2】からは,2≦L1/L2≦9の関係を満足しない例7及び例8では,絶縁性に劣るとともに,飛散キャリア数が多く,キャリア付着抑制の効果に劣るものとなっており,特に,L1/L2が2に満たない例8では,Log10(|R500-R1000|)が測定できず,絶縁破壊が生じていることを把握できる。
一方,甲1には,小粒径であるにもかかわらず,粒子形状が球形に近いが,表面に微小な凹凸が存在するためBET比表面積が従来の芯材粒子よりも大きく,かつ帯電性に優れ,芯材の割れ・欠けによるキャリア飛散が発生しにくい長寿命の電子写真現像剤用フェライトキャリア芯材とするために,
(1)フェライト組成が,Srを0.5~2.5重量%含有し,Sr-Fe酸化物の存在量が下記の条件式を満たす。
0<Srフェライトの重量/全Sr-Fe酸化物の合計重量≦0.8
(但し,全Sr-Fe酸化物の合計重量=Srフェライト+Srフェライト以外のSr-Fe酸化物)
(2)形状係数SF-2の個数分布において,100以上105未満の粒子が40個数%以上,105以上110未満の粒子が5~40個数%,110以上120未満の粒子が20個数%以下,120以上の粒子が10個数%以下,130以上の粒子が5個数%以下である。
(3)BET比表面積が0.15~0.30m2/gである。
(4)レーザー回折式粒度分布測定装置の測定における平均粒径D50が20~35μmである。
(5)1K・1000/4π・A/mの磁場をかけたときのVSM測定による磁化が50~65Am2/kgである。
なる構成を採用することが記載されており,甲1発明はその実施例である。
しかしながら,甲1には,高速印刷に必要な高バイアス電圧下での絶縁破壊の発生については記載も示唆もなく,L1/L2やLog10(|R500-R1000|)の値を制御することで,当該絶縁破壊の発生を抑制するという技術思想は開示されていない。
また,申立人が提出した甲2ないし甲6を含め,L1/L2やLog10(|R500-R1000|)の値を制御することで,高速印刷に必要な高バイアス電圧下での絶縁破壊の発生を抑制するという技術思想が,本件特許に係る出願の出願前に当業者に知られていたことを示す証拠は見当たらない。
以上によれば,本件訂正発明1は,甲1発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではない。
c 申立人の主張について
申立人は,令和5年2月17日に提出した意見書において,甲3(特開2009-180941号公報)には,抵抗が低くなりすぎてキャリア飛散が起こり画像欠陥の原因となることを防止するとともに,高抵抗になりすぎて現像電流が十分得られずベタ部で画像濃度が出にくくなることを防止するために,印加電圧が100V及び500Vにおける6.5mmGapのブリッジ式電気抵抗値R100及びR500について,それぞれ5×106ないし1×1010Ωであることが望ましいことが記載されており,甲1発明において,高電界下における絶縁破壊発生をより抑制するとともに,キャリア抵抗が過度に高くなり画像濃度が出にくくなるのを抑制するとの課題を解決するために,光源像電界に対応させて電気抵抗測定時の印加電圧を甲3よりも高い500Vと1000Vにスライドさせてキャリア芯材の電気抵抗値を測定し規定することは当業者であれば容易に想到し得る等と主張するが,そもそも,甲1及び甲3には,高速印刷に必要な高バイアス電圧下での絶縁破壊の発生については記載も示唆もないことから,甲1や甲3に接した当業者は,甲1発明に,甲3に記載された技術を適用する際には,甲1発明の電子写真現像剤用フェライトキャリア芯材のR100及びR500を,それぞれ5×106ないし1×1010Ωの範囲内に設定しようとするはずであって,印加電圧を500V及び1000Vにスライドして,甲1発明に適用することには,動機付けが存在しない。
また,申立人は,前記意見書において,印加電圧1000Vで絶縁破壊しないキャリア芯材は,印加電圧が500Vから1000Vにおけるブリッジ式電気抵抗値が106ないし1011の範囲に収まる等とも主張するが,仮に,申立人の当該主張が正しいのだとしても,甲1発明の電子写真現像剤用フェライトキャリア芯材が,印加電圧1000Vで絶縁破壊するのか否かを,甲1の記載等から推認することはできないから,甲1発明が,5.0≦Log10(|R500-R1000|)≦11.0を満足するのか否かは不明と言わざるを得ない。
したがって,申立人の主張は採用できない。
d 小括
以上のとおり,本件訂正発明1は,甲1発明でなく,甲1発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものでもないから,甲1を主引例とする取消理由1によって,請求項1に係る特許を取り消すことはできない。
(イ)本件訂正発明2,4ないし6,8,9について
本件特許の請求項2,4ないし6,8,9は,請求項1の記載を引用する形式で記載されたものであって,本件訂正発明2,4ないし6,8,9は,本件訂正発明1の発明特定事項を全て具備し,これに限定を加えたものに相当するところ,前記(ア)で述べたとおり,本件訂正発明1が,甲1発明でなく,甲1発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものでもない以上,本件訂正発明2,4ないし6,8,9も,同様の理由で,甲1発明でなく,甲1発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
したがって,甲1を主引例とする取消理由1によって,請求項2,4ないし6,8,9に係る特許を取り消すことはできない。
イ 甲2を主引例とする取消理由1について
(ア)本件訂正発明1について
a 対比
本件訂正発明1と甲2発明を対比すると,両者は,
「電子写真現像剤用フェライトキャリア芯材であって,
前記フェライトキャリア芯材が,(MnO)x(MgO)y(Fe2O3)zにおいて,x+y+z=100mol%を満たし,x,yが,それぞれ15~60mol%,0.1~35mol%であり,MnO,MgO及びFe2O3の一部がSrOで0.35~5.0mol%置換された組成を有する,フェライトキャリア芯材。」
である点で一致し,次の点で一応相違する。
相違点2-1:
本件訂正発明1は,芯材断面における結晶粒界の全長L1と芯材周囲長L2とが,2≦L1/L2≦9の関係を満足し,前記結晶粒界の全長L1は,L1=[{(結晶粒の円相当径×π)の総和}-芯材周囲長]/2の式により算出される値であり,6.5mmギャップにおける,電圧1000V印加時のコア抵抗R1000(単位:Ω)と500V印加時のコア抵抗R500(単位:Ω)とが,5.0≦Log10(|R500-R1000|)≦11.0の関係を満足するのに対して,
甲2発明が,2≦L1/L2≦9の関係を満足するか否か,及び5.0≦Log10(|R500-R1000|)≦11.0の関係を満足するか否かは定かでない点。
相違点2-2:
本件訂正発明1では,xが,35~45mol%であるのに対して,
甲2発明では,xが,33.3mol%である点。
b 相違点について
甲2発明について,2≦L1/L2≦9の関係を満足しているとともに,5.0≦Log10(|R500-R1000|)≦11.0の関係を満足していると推認できる根拠はないから,相違点2-1は実質的な相違点である。また,相違点2-2は,実質的な相違点である。
そして,本件訂正発明1と甲2発明の間に,実質的な相違点がある以上,本件訂正発明1は,甲2発明ではない。
c 小括
本件訂正発明1は,甲2発明でない。
したがって,甲2を主引例とする取消理由1によって,請求項1に係る特許を取り消すことはできない。
(イ)本件訂正発明4,8,9について
本件特許の請求項4,8,9は,請求項1の記載を引用する形式で記載されたものであって,本件訂正発明4,8,9は,本件訂正発明1の発明特定事項を全て具備し,これに限定を加えたものに相当するところ,前記(ア)で述べたとおり,本件訂正発明1が,甲2発明でない以上,本件訂正発明4,8,9も,同様の理由で,甲2発明でない。
したがって,甲2を主引例とする取消理由1によって,請求項4,8,9に係る特許を取り消すことはできない。
ウ 取消理由1のまとめ
取消理由1によって,請求項1,2,4ないし6,8,9に係る特許を取り消すことはできない。
(2)取消理由2(サポート要件違反)について
ア 本件特許明細書の発明の詳細な説明の【0012】ないし【0015】の記載からみて,本件特許発明が解決しようとする課題は,高速印刷において,トナーの移行量を高めるためにバイアス電圧を高く設定すると,従来のキャリアでは,使用するにつれてコート層が剥がれ,キャリア芯材が露出してしまうため,白斑やキャリア付着等の画像欠陥が引き起こされることと理解される。
そして,発明の詳細な説明の【0013】,【0015】,【0019】には,芯材断面における結晶粒界の全長L1と芯材周囲長L2とが,2≦L1/L2≦9の関係を満足するという手段を採用することにより,前記課題を解決できること,L1/L2が2未満であると絶縁破壊が起こりやすくなり,特に,高電界下及び耐刷によってコート層が薄くなったときにこの問題が顕著となる一方,L1/L2が9を越えると,キャリア抵抗が高すぎて画像濃度が出にくくなることが説明されている。
また,発明の詳細な説明の【0023】には,Log10(|R500-R1000|)を5.0以上とすることで,高電界下および耐刷によってコート層が薄くなったときの絶縁破壊発生をより一層抑制することができ,また,11.0以下とすることで,キャリア抵抗が過度に高くなり画像濃度が出にくくなる問題が発生することがより一層抑制されることが説明されている。
そして,発明の詳細な説明の【0040】ないし【0060】には,実施例である例1ないし例6のフェライトキャリア芯材と,比較例である例7及び例8のフェライトキャリア芯材について説明され,【0061】ないし【0063】には,キャリア付着の評価に関して,L1/L2が2.3ないし8.8の範囲にあり,Log10(|R500-R1000|)が7.3ないし8.9の範囲にある例1ないし例6のフェライトキャリア芯材のほうが,L1/L2が9.5及び0.2であり,Log10(|R500-R1000|)が9.3及び測定不能である例7及び例8のフェライトキャリア芯材よりも優れていることが示されている。これら例1ないし例8は,いずれも,原料として,MnO:38mol%、MgO:11mol%、Fe2O3:50.3mol%及びSrO:0.7mol%を用いている。
ここで,技術的にみると,L1/L2の値は,結晶粒の大きさに依存するパラメータであり,結晶粒の大きさは,芯材の表面凹凸の状態に影響を及ぼし,芯材の表面凹凸の状態は,コート層の剥がれやすさに影響を及ぼすものと推察されるから,L1/L2の値をコントロールすることで,コート層の剥がれやすさ,すなわち,絶縁破壊の発生しやすさを制御することが可能であると当業者は理解することができる。また,5.0≦Log10(|R500-R1000|)≦11.0の関係を満足するということは,少なくとも,初期状態(未使用の状態)において,印加電圧1000Vでは絶縁破壊が生じないことを意味している。
そうすると,当業者は,発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識から,L1/L2が概ね2.3ないし8.8の範囲にあり,Log10(|R500-R1000|)が通常の範囲にあれば,初期状態において,高電圧下(1000V)でも絶縁破壊が生じず,使用に伴うコート層の剥がれも生じにくい電子写真現像剤用フェライトキャリア芯材とすることができると理解するものといえる。
そして,本件特許の請求項1には,2≦L1/L2≦9の関係を満足すること,及び5.0≦Log10(|R500-R1000|)≦11.0の関係を満足することが発明特定事項として記載されているから,本件訂正発明1,2,4ないし9は,当業者が出願時の技術常識に照らし発明の課題を解決できると認識できる範囲のものといえる。
なお,原料における成分量の大小は,当該成分の結晶粒のサイズに影響を及ぼすものと推察されることから,実施例で採用している各原料の成分量とは大きく異なる成分量を有する場合に,適切なL1/L2の値が2ないし9の範囲であるのか否かは,定かでないというべきであるが,本件訂正発明1ないし9における各原料の成分量は,実施例で採用している各原料の成分量と近い値のものに限定されているから,各原料の成分量に関して,本件訂正発明1,2,4ないし9は,当業者が出願時の技術常識に照らし発明の課題を解決できると認識できる範囲のものでないとはいえない。
以上のとおり,本件特許発明1,2,4ないし9は,発明の詳細な説明に記載したものであるから,取消理由2によって,請求項1,2,4ないし9に係る特許を取り消すことはできない。
7 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
(1) 申立人は,特許異議申立書において,訂正前の請求項7に係る発明は,甲1発明であるか,甲1発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,その特許は,特許法29条の規定に違反してされたものであると主張する。
本件特許の請求項7は,請求項1の記載を引用する形式で記載されたものであって,本件訂正発明7は,本件訂正発明1の発明特定事項を全て具備し,これに限定を加えたものに相当するところ,前記6(1)ア(ア)で述べたとおり,本件訂正発明1が,甲1発明でなく,甲1発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものでもない以上,本件訂正発明7も,同様の理由で,甲1発明でなく,甲1発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
申立人の当該主張は採用できない。
(2) 申立人は,訂正前の請求項2,6,7に係る発明は,甲2発明であるから,その特許は,特許法29条1項の規定に違反してされたものであると主張する。
本件特許の請求項2,6,7は,請求項1の記載を引用する形式で記載されたものであって,本件訂正発明2,6,7は,本件訂正発明1の発明特定事項を全て具備し,これに限定を加えたものに相当するところ,前記6(1)イ(ア)で述べたとおり,本件訂正発明1が,甲2発明でない以上,本件訂正発明2,6,7も,同様の理由で,甲2発明でない。
申立人の当該主張は採用できない。
8 むすび
以上のとおりであるから,取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては,本件請求項1,2,4ないし9に係る特許を取り消すことはできない。さらに,他に本件請求項1,2,4ないし9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また,請求項3に係る特許は,前記2で述べたとおり,訂正により削除された。これにより,申立人による特許異議の申立てのうち請求項3に係る申立ては,申立ての対象が存在しないものとなったため,特許法120条の8第1項で準用する同法135条の規定により却下する。
よって,結論のとおり決定する。
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2022-700485