特許異議申立
2024-700640
炉温制御装置、炉温制御方法及びコークスの製造方法
- 審判番号
- 2024-700640
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2023-559848
- 登録番号
- 7409580
- 請求日
- 2024年07月09日
- 審決日
- 2025年07月01日
- 公報発行日
- 2025年10月31日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】JFEスチール株式会社
- 【権利者代理人】杉村 憲司
- 【権利者代理人】齋藤 恭一
- 【権利者代理人】鈴木 俊樹
- 【異議申立人】国分 信宏
- 審判長/審判官
- 審判長 光本 美奈子
- 審判官 村守 宏文
- 審判官 弘實 由美子
- 分類
- P1651.16 -YAA(C10B) / P1651.113-YAA(C10B) / P1651.121-YAA(C10B)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第9項、特許法第29条の2、特許法第126条第7項、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
結論
結 論
特許第7409580号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~4、10〕、〔5~9、11、12〕について訂正することを認める。
特許第7409580号の請求項3、4、7、8、10~12に係る特許を維持する。
特許第7409580号の請求項1、2、5、6、9に係る特許についての特許異議申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
1 本件特許に係る出願は、2023年(令和5年)7月24日(優先権主張 令和4年7月25日 (JP)日本国)を国際出願日とする出願であって、令和5年12月25日に請求項1~9に係る特許の設定登録がされ、令和6年1月9日に特許掲載公報が発行されたところ、令和6年7月9日に特許異議申立人 国分信宏(以下「申立人」という。)により全請求項に係る特許に対して特許異議の申立てがされたものである。
2 その後の手続きは以下のとおりである。
令和6年11月26日付け 当審において取消理由通知
令和7年 1月29日 訂正請求書及び意見書の提出(特許権者)
同年 2月18日付け 当審において訂正請求があった旨の通知
なお、令和7年2月18日の通知書に対して、申立人からの応答はなかった。
第2 訂正の適否
1 訂正内容
令和7年1月29日提出の訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)は、次の訂正事項1~12からなる。下線は訂正箇所を示す。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1を削除する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を削除する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3に「前記温度予測部は、前記温度予測値を算出する対象である前記燃焼室又は前記炭化室についての前記操業実績情報に加えて、近接する前記燃焼室及び前記炭化室についての前記操業実績情報に基づいて、前記温度予測値を算出する、請求項1又は2に記載の炉温制御装置。」とあるうち、請求項1を引用するものについて、独立形式に改める。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4に「前記温度予測部は、ある時刻から前記燃焼室又は前記炭化室の温度の変化周期より長い時間分遡った前記操業実績情報の時系列データについて、前記燃焼室又は前記炭化室の温度の変化周期毎に区分し、前記区分毎の前記操業実績情報の時系列データの特徴量と、前記ある時刻から前記燃焼室又は前記炭化室の温度の変化周期後の前記燃焼室又は前記炭化室の温度との関係を表すモデル及び前記操業実績情報に基づいて、前記炭化室の温度の変化周期後の前記燃焼室又は前記炭化室の温度である温度予測値を算出する、請求項1又は2に記載の炉温制御装置。」とあるうち、請求項1を引用するものについて、独立形式に改める。
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項2に「前記操業実績情報は、前記炭化室に装入された石炭についての重量の実績値、水分含有量の実績値、装入からの経過時間の実績値及び前記燃焼室への燃料ガス供給量を調整する調整弁開度の実績値、を含む、請求項1に記載の炉温制御装置。」とあるところ、独立形式に改められた特許請求の範囲の請求項3及び請求項4を引用して、新たに請求項10とする。
(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項5を削除する。
(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項6を削除する。
(8)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項7に「前記温度予測ステップは、前記温度予測値を算出する対象である前記燃焼室又は前記炭化室についての前記操業実績情報に加えて、近接する前記燃焼室及び前記炭化室についての前記操業実績情報に基づいて、前記温度予測値を算出する、請求項5又は6に記載の炉温制御方法。」とあるうち、請求項5を引用するものについて、独立形式に改める。
(9)訂正事項9
特許請求の範囲の請求項8に「前記温度予測ステップは、ある時刻から前記燃焼室又は前記炭化室の温度の変化周期より長い時間分遡った前記操業実績情報の時系列データについて、前記燃焼室又は前記炭化室の温度の変化周期毎に区分し、前記区分毎の前記操業実績情報の時系列データの特徴葦と、前記ある時刻から前記燃焼室又は前記炭化室の温度の変化周期後の前記燃焼室又は前記炭化室の温度との関係を表すモデル及び前記操業実績情報に基づいて、前記炭化室
の温度の変化周期後の前記燃焼室又は前記炭化室の温度である温度予測値を算出する、請求項5又は6に記載の炉温制御方法。」とあるうち、請求項5を引用するものについて、独立形式に改める。
(10)訂正事項10
特許請求の範囲の請求項9を削除する。
(11)訂正事項11
特許請求の範囲の請求項6に「前記操業実績情報は、前記炭化室に装入された石炭についての重量の実績値、水分含有量の実績値、装入からの経過時間の実績値及び前記燃焼室への燃料ガス供給量を調整する調整弁開度の実績値、を含む、請求項5に記載の炉温制御方法。」とあるところ、独立形式に改められた特許請求の範囲の請求項7及び請求項8を引用して、新たに請求項11とする。
(12)訂正事項12
特許請求の範囲の請求項9に「請求項5又は6に記載の炉温制御方法によって算出された前記燃焼室又は前記炭化室への供給熱量に基づいて、前記燃焼室への燃料ガス供給量又は前記燃料ガス供給量を調整する調整弁開度を調整してコークスを製造する、コークスの製造方法。」とあるところ、独立形式に改められた特許請求の範囲の請求項7を引用して、新たに請求項12とする。
2 一群の請求項について
訂正前の請求項1~4についてなされた訂正事項1~5は、訂正前の請求項2~4が訂正前の請求項1を引用するものであるから、一群の請求項についてされたものである。
訂正前の請求項5~9についてなされた訂正事項6~12は、訂正前の請求項6~9が訂正前の請求項5を引用するものであるから、一群の請求項についてされたものである。
したがって、本件訂正は、一群の請求項ごとにされたものである。
3 本件訂正についての検討
(1) 訂正事項1、2、6、7、10について
訂正事項1、2、6、7、10は、それぞれ、訂正前の請求項1、2、5、6、9を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものである。
(2)訂正事項3、4、8、9について
訂正事項3、4、8、9は、それぞれ、訂正事項1、2、6、7、すなわち、訂正前の請求項1、2、5、6の削除に伴い、訂正前の請求項3、4、7、8のうち、請求項1又は5を引用する選択肢を、削除された請求項を引用するという不明瞭な記載を解消し、独立形式に改めるものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」及び同第3号に規定する「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものである。
(3)訂正事項5について
訂正事項5は、訂正事項1、2、すなわち、訂正前の請求項1、2の削除に伴い、訂正前の請求項3、4のうち、請求項2を引用する選択肢を、削除された請求項を引用するという不明瞭な記載を解消し、訂正後の請求項3又は4を引用する形式に改め、請求項10とするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」及び同第3号に規定する「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものである。
(4)訂正事項11について 訂正事項11は、訂正事項6、7、すなわち、訂正前の請求項5、6の削除に伴い、訂正前の請求項7、8のうち、請求項6を引用する選択肢を、削除された請求項を引用するという不明瞭な記載を解消し、訂正後の請求項7又は8を引用する形式に改め、請求項11とするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」及び同第3号に規定する「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものである。
(5)訂正事項12について
訂正事項12は、訂正事項6、7、すなわち、訂正前の請求項5、6の削除に伴い、訂正前の請求項9のうち、請求項5を引用する選択肢を、削除された請求項を引用するという不明瞭な記載を解消し、訂正後の請求項7を引用する形式に改め、請求項12とするものであって、それによって、「前記温度予測ステップ」を訂正前の請求項7の範囲に減縮するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」及び同第3号に規定する「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものである。
(6)独立特許要件について
本件においては、訂正前の全ての請求項1~9について特許異議申立てがされているので、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項に規定される独立特許要件が課される請求項はない。
(7)小括
以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる事項を目的とするものであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5、6項の規定に適合するものである。
4 訂正の適否についてのまとめ
したがって、本件特許の特許請求の範囲を令和6年11月22日提出の訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~4、10〕、〔5~9、11、12〕について訂正することを認める。
第3 本件発明
前記第2のとおり、本件訂正の請求は認められたので、本件特許の請求項1~12に係る発明は、その特許の特許請求の範囲の請求項1~12に記載された以下のとおりのものである。請求項1~12に係る発明を、それぞれ「本件発明1」~「本件発明12」といい、まとめて「本件発明」ともいう。
「【書類名】特許請求の範囲
【請求項1】
(削除)
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
燃焼室と炭化室とが交互に連接されて炉団を構成するコークス炉における前記燃が室又は前記炭化室の温度を制御する炉温制御装置であって、
前記燃焼室及び前記炭化室の温度の実績値並びに前記燃焼室及び前記炭化室への供給熱量の実績値を少なくとも含む操業実績情報、が入力される入力装置と、
ある時刻から一定時間分遡った前記操業実績情報の時系列データと前記ある時刻から任意に定めた所定時間後の前記燃焼室又は前記炭化室の温度との関係を表すモデル及び前記操業実績情報に基づいて、任意に定めた所定時間後の前記燃焼室又は前記炭化室の温度である温度予測値を算出する温度予測部と、
算出された前記温度予測値に基づいて目標温度となるように、前記燃焼室又は前記炭化室への供給熱量を算出する炉温制御部と、を備え、
前記温度予測部は、前記温度予測値を算出する対象である前記燃焼室又は前記炭化室についての前記操業実績情報に加えて、近接する前記燃焼室及び前記炭化室についての前記操業実績情報に基づいて、前記温度予測値を算出する、炉温制御装置。
【請求項4】
燃焼室と炭化室とが交互に連接されて炉団を構成するコークス炉における前記燃焼室又は前記炭化室の温度を制御する炉温制御装置であって、
前記燃焼室及び前記炭化室の温度の実績値並びに前記燃焼室及び前記炭化室への供給熱量の実績値を少なくとも含む操業実績情報、が入力される入力装置と、
ある時刻から一定時間分遡った前記操業実績情報の時系列データと前記ある時刻から任意に定めた所定時間後の前記燃焼室又は前記炭化室の温度との関係を表すモデル及び前記操業実績情報に基づいて、任意に定めた所定時間後の前記燃焼室又は前記炭化室の温度である温度予測値を算出する温度予測部と、
算出された前記温度予測値に基づいて、目標温度となるように、前記燃焼室又は前記炭化室への供給熱量を算出する炉温制御部と、を備え、
前記温度予測部は、ある時刻から前記燃焼室又は前記炭化室の温度の変化周期より長い時間分遡った前記操業実績情報の時系列データについて、前記燃焼室又は前記炭化室の温度の変化周期毎に区分し、前記区分毎の前記操業実績情報の時系列データの特徴量と、前記ある時刻から前記燃焼室又は前記炭化室の温度の変化周期後の前記燃焼室又は前記炭化室の温度との関係を表すモデル及び前記操業実績情報に基づいて、前記炭化室の温度の変化周期後の前記燃焼室又は前記炭化室の温度である温度予測値を算出する、炉温制御装置。
【請求項5】
(削除)
【請求項6】
(削除)
[請求項7】
燃焼室と炭化室とが交互に連接されて炉団を構成するコークス炉における前記燃焼室又は前記炭化室の温度を制御する炉温制御方法であって、
前記燃焼室及び前記炭化室の温度の実績値並びに前記燃炉室及び前記炭化室への供給熱量の実績直を少なくとも含む操業実績情報、が入力される入カステップと、
ある時刻から一定時間分遡った前記操業実績情報の時系列データと前記ある時刻から任意に定めた所定時間後の前記燃焼室又は前記炭化室の温声との関係を表すモデル及び前記操業実績情報に基づいて、任意に定めた所定時間後の前記燃焼室又は前記炭化室の温度である温度予測値を算出する温度予測ステップと、
算出された前記温度予測値に基づいて、目標温度となるように、前記燃焼室又は前記炭化室への供給熱量を算出する炉温制御ステップとを含み、
前記温度予測ステップは、前記温度予測値を算出する対象である前記燃焼室又は前記炭化室についての前記操業実績情報に加えて、近接する前記燃焼室及び前記炭化室についての前記操業実績情報に基づいて、前記温度予測値を算出する、炉温制御方法。
【請求項8】
燃焼室と炭化室とが交互に連接されて炉団を構成するコークス炉における前記燃焼室又は前記炭化室の温度を制御する炉温制御方法であって、
前記燃焼室及び前記炭化室の温度の実績値並びに前記燃焼室及び前記炭化室への供給熱量の実績値を少なくとも含む操業実績情報、が入力される入カステップと、
ある時刻から一定時間分遡った前記操業実績情報の時系列データと前記ある時刻から任意に定めた所定時間後の前記燃焼室又は前記炭化室の温度との関係を表すモデル及び前記操業実績情報に基づいて、任意に定めた所定時間後の前記燃焼室又は前記炭化室の温度である温度予測値を算出する温度予測ステップと、
算出された前記温度予測値に基づいて、目標温度となるように、前記燃焼室又は前記炭化室への供給熱量を算出する炉温制御ステップと、を含み、
前記温度予測ステップは、ある時刻から前記燃焼室又は前記炭化室の温度の変化周期より長い時間分遡った前記操業実績情報の時系列データについて、前記燃焼室又は前記炭化室の温度の変化周期毎に区分し、前記区分毎の前記操業実績情報の時系列データの特徴量と、前記ある時刻から前記燃焼室又は前記炭化室の温度の変化周期後の前記燃焼室又は前記炭化室の温度との関係を表すモデル及び前記操業実績情報に基づいて、前記炭化室の温度の変化周期後の前記燃焼室又は前記炭化室の温度である温度予測値を算出する、炉温制御方法。
【請求項9】
(削除)
【請求項10】
前記操業実績情報は、前記炭化室に装入された石炭についての重量の実績値、水分含有量の実績値、装入からの経過時間の実績値及び前記燃焼室への燃料ガス供給量を調整する調整弁開度の実績値、を含む、請求項3又は4に記載の炉温制御装置。
【請求項11】
前記操業実績情報は、前記炭化室に装入された石炭についての重量の実績値、水分含有量の実績値、装入からの経過時間の実績値及び前記燃焼室への燃料ガス供給量を調整する調整弁開度の実績値、を含む、請求項7又は8に記載の炉温制御方法
【請求項12】
請求項7に記載の炉温制御方法によって算出された前記燃焼室又は前記炭化室への供給熱量に基づいて、前記燃焼室への燃料ガス供給量又は前記燃料ガス供給量を調整する調整弁開度を調整してコークスを製造する、コークスの製造方法。」
第4 特許異議申立ての理由及び当審が通知した取消理由の概要
1 申立人が申し立てた理由の要旨は、次のとおりである。
(1)拡大先願
本件特許の請求項1、2、4~6、8、9に係る発明は、本件特許の優先日前の特許出願であって、その優先日後に公開がされた出願(甲第1号証)の明細書、請求の範囲に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができないから、本件特許の前記請求項に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
(2)新規性
本件特許の請求項1、5、9に係る発明は、甲第2号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、本件特許の前記請求項に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
(3)進歩性
本件特許の請求項1~9に係る発明は、甲第2号証に記載された発明及び甲第3号証~甲第5号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の前記請求項に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
2 当審において令和6年11月26日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
(1)取消理由(拡大先願)
本件特許の請求項1、2、5、6、9に係る発明は、本件特許の優先日前の特許出願であって、その優先日後に公開がされた出願(甲第1号証)の明細書、請求の範囲に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができないから、本件特許の前記請求項に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
3 証拠方法等の一覧
特許異議申立書とともに申立人が提出した証拠は、次のとおりである。
(1)甲第1号証:特願2021-146906号(特開2023-39670号公報)
(2)甲第2号証:Zhongda Tian, "Predictive control of coke oven flue temperature based on orthogonal neural network", Australian journal of Electrical and Electronics Engineering, 2020, VOL.17, NO.2, P.146-156
(3)甲第3号証:特開平5-247467号公報
(4)甲第4号証:特開平9-302351号公報
(5)甲第5号証:特開平2-60990号公報
以下、「甲第1号証」~「甲第5号証」を、それぞれ「甲1」~「甲5」ともいう。
第5 当審において通知した取消理由(拡大先願)についての判断(前記第4 1(1)及び2(1)参照)
以下、甲1を「先願」といい、先願の出願日における出願の明細書、請求の範囲を、「先願明細書等」という。
1 先願明細書等に記載された発明
先願明細書等には、コークス製造プロセスの制御装置及び方法の[第1実施形態](【0010】~【0059】)について、特に以下の事項が記載されている。
(1)炭化室と燃焼室とが炉壁を介して交互に配置されてなるコークス炉における、コークス製造プロセスの制御装置(【0010】、【0012】)は、入力部、目標炉温算出部、投入熱量算出部、及び、投入熱量設定部を備えており、コークス温度が予め定められた目標温度に応じた値になるように投入熱量を制御する(【0015】)装置であること(【図1】等)、
(2)入力部は、コークス製造プロセスの現在から過去の操業の実績値を含む操業データを入力する部分であること(【0016】、【0044】)、
(3)目標炉温算出部は、コークス温度予測機能と炉団温度最適化機能を有し(【0017】)、コークス温度予測機能は、式(2)で表されるコークス温度予測モデルを用いてコークス温度を予測するものであり(【0028】~【0042】、【0045】~【0047】、図5等)、炉団温度最適化機能は、コークス温度予測モデルにより予測したコークス温度とコークス温度の目標温度との差を表す項を含む評価関数に基づいて目標炉団温度を算出するものであること(【0017】、【0048】~【0052】、図5等)、
(4)投入熱量算出部は、炉団温度予測機能と投入熱量最適化機能とを有し(【0018】)、炉団温度予測機能は、式(1)で表される炉団温度予測モデルにより炉団温度を予測するものであり(【0020】~【0026】、【0053】~【0054】、【図7】等)、投入熱量最適化機能は、炉団温度予測モデルにより予測した炉団温度と目標炉温算出部で算出した目標炉団温度との差を表す項を含む評価関数に基づいて、目標炉温算出部で算出した目標炉団温度を使用して燃焼室への投入熱量を算出するものであること(【0018】、【0054】~【0056】、【図7】等)、及び、
(5)投入熱量設定部は、投入熱量算出部で算出した投入熱量をコークス製造プロセスに反映させるようにアクチュエータの制御装置に出力するものであり、アクチュエータの制御装置は、アクチュエータを介して調整弁を操作して、調整弁の開度を投入熱量算出部で算出した投入熱量に対応する開度にするものであること(【0019】、【0055】)。
以上の記載からみて、先願明細書等には以下の発明(以下、制御装置に係る発明を「先願発明A」、及び、制御方法に係る発明を「先願発明B」)という。)が記載されていると認められる。
<先願発明A>
「炭化室と燃焼室とが炉壁を介して交互に配置されてなるコークス炉における、コークス製造プロセスの制御装置であって、
コークス製造プロセスの現在から過去の操業の実績値を含む操業データを入力する入力部と、
式(2)で表されるコークス温度予測モデルを用いてコークス温度を予測するコークス温度予測機能と、コークス温度予測モデルにより予測したコークス温度とコークス温度の目標温度との差を表す項を含む評価関数に基づいて目標炉団温度を算出する炉団温度最適化機能と、を有する目標炉温算出部と、
式(1)で表される炉団温度予測モデルにより炉団温度を予測する炉団温度予測機能と、炉団温度予測モデルにより予測した炉団温度と目標炉温算出部で算出した目標炉団温度を使用して燃焼室への投入熱量を算出する投入熱量最適化機能と、を有する投入熱量算出部と、
投入熱量算出部で算出した投入熱量をコークス製造プロセスに反映させるようにアクチュエータの制御装置に出力し、アクチュエータの制御装置は、アクチュエータを介して調整弁5を操作して、調整弁5の開度を投入熱量算出部で算出した投入熱量に対応する開度にする投入熱量設定部と、
を備える、コークス製造プロセスの制御装置
[図:0001427945000001.jpg]
ここで、Troは炉団温度[℃]、Qは投入熱量[GJ/h]、Sは装填量[トン]、Wは石炭水分量[%]を表し、tは現在時刻の規定時間先の時間を表し、ΔTro(t)は目的変数で、時刻t-1から時刻tまでの炉団温度Troの変化量を表し、ΔQ(t-i)、ΔTro(t-i)、ΔS(t-i)、ΔW(t-i)は説明変数で、それぞれ、投入熱量Q、炉団温度Tro、装炭量S、石炭水分量Wの時刻t-i-1から時刻t-iまでの変化量を表し、係数ai、bi、ci、diは、それぞれ、ΔQ(t-i)、ΔTro(t-i)、ΔS(t-i)、ΔW(t-i)に対する係数を表す。また、前記説明変数を求める際に過去の値については実績値を用い、将来の値についてはスケジュール値又は既に式(1)で算出したΔTro(t)により求められる炉団温度Tro(t)を用いる。
[図:0001427945000002.jpg]
ここで、Tcoはコークス温度[℃]、Troは炉団温度[℃]、ttは通り時間[hr]、tkは乾留時間[hr]、Sは装炭量[トン]、Wは石炭水分量[%]を表し、n-jは乾留サイクルを通り数で分割した期間を特定する変数であり、ΔTco(n)は目的変数で、ある炭化室の今回の乾留サイクルのコークス温度の、前回の乾留サイクルのコークス温度から変化量を表し、ΔTro(n-j)、Δtt(n)、Δtk(n)、ΔS(n)、ΔW(n)は説明変数で、それぞれ、
ΔTro(n-j):
<<nの期間に対応する通りにおけるコークス温度を予測する場合>>
j=0の場合:(n-jの期間における目標炉団温度)-(n-j-5(通りの数が5の場合)の期間における実績炉団温度)
j=1、2、・・・(j≧1の場合):(n-jの期間における実績炉団温度)-(n-j-5(通りの数が5の場合)の期間における実績炉団温度)
<<n+1の期間に対応する通りにおけるコークス温度を予測する場合>>
j=0、1(0≦j≦1)の場合:(n-jの期間における目標炉団温度)-(n-j-5(通りの数が5の場合)の期間における実績炉団温度)
j=2、3、・・・(j≧2)の場合:(n+1-jの期間における実績炉団温度)-(n+1-j-5(通りの数が5の場合)の期間における実績炉団温度)
Δtk(n):ある炭化室の今回の乾留サイクルにおける乾留予定時間-当該炭化室2の前回の乾留サイクルにおける実績乾留時間
ΔS(n):ある炭化室の今回の乾留サイクルにおける装炭量-当該炭化室2の前回の乾留サイクルにおける実績装炭量
ΔW:ある炭化室の今回の乾留サイクルにおける石炭水分量-当該炭化室2の前回の乾留サイクルにおける実績石炭水分量
を表す。」
<先願発明B>
「炭化室と燃焼室とが炉壁を介して交互に配置されてなるコークス炉における、コークス製造プロセスの制御装方法あって、
コークス製造プロセスの現在から過去の操業の実績値を含む操業データを入力する入力ステップと、
式(2)で表されるコークス温度予測モデルを用いてコークス温度を予測するコークス温度予測ステップと、コークス温度予測モデルにより予測したコークス温度とコークス温度の目標温度との差を表す項を含む評価関数に基づいて目標炉団温度を算出する炉団温度最適化ステップと、を有する目標炉温算出ステップと、
式(1)で表される炉団温度予測モデルにより炉団温度を予測する炉団温度予測ステップと、炉団温度予測モデルにより予測した炉団温度と目標炉温算出部で算出した目標炉団温度を使用して燃焼室への投入熱量を算出する投入熱量最適化ステップと、を有する投入熱量算出ステップと、
投入熱量算出部で算出した投入熱量をコークス製造プロセスに反映させるようにアクチュエータの制御装置に出力し、アクチュエータの制御装置は、アクチュエータを介して調整弁5を操作して、調整弁5の開度を投入熱量算出部で算出した投入熱量に対応する開度にする投入熱量設定ステップと、
を含む、コークス製造プロセスの制御方法
[図:0001427945000003.jpg]
ここで、Troは炉団温度[℃]、Qは投入熱量[GJ/h]、Sは装填量[トン]、Wは石炭水分量[%]を表し、tは現在時刻の規定時間先の時間を表し、ΔTro(t)は目的変数で、時刻t-1から時刻tまでの炉団温度Troの変化量を表し、ΔQ(t-i)、ΔTro(t-i)、ΔS(t-i)、ΔW(t-i)は説明変数で、それぞれ、投入熱量Q、炉団温度Tro、装炭量S、石炭水分量Wの時刻t-i-1から時刻t-iまでの変化量を表し、係数ai、bi、ci、diは、それぞれ、ΔQ(t-i)、ΔTro(t-i)、ΔS(t-i)、ΔW(t-i)に対する係数を表す。また、前記説明変数を求める際に過去の値については実績値を用い、将来の値についてはスケジュール値又は既に式(1)で算出したΔTro(t)により求められる炉団温度Tro(t)を用いる。
[図:0001427945000004.jpg]
ここで、Tcoはコークス温度[℃]、Troは炉団温度[℃]、ttは通り時間[hr]、tkは乾留時間[hr]、Sは装炭量[トン]、Wは石炭水分量[%]を表し、n-jは乾留サイクルを通りの数で分割した期間を特定する変数であり、ΔTco(n)は目的変数で、ある炭化室の今回の乾留サイクルのコークス温度の、前回の乾留サイクルのコークス温度から変化量を表し、ΔTro(n-j)、Δtt(n)、Δtk(n)、ΔS(n)、ΔW(n)は説明変数で、それぞれ、
ΔTro(n-j):
<<nの期間に対応する通りにおけるコークス温度を予測する場合>>
j=0の場合:(n-jの期間における目標炉団温度)-(n-j-5(通りの数が5の場合)の期間における実績炉団温度)
j=1、2、・・・(j≧1の場合):(n-jの期間における実績炉団温度)-(n-j-5(通りの数が5の場合)の期間における実績炉団温度)
<<n+1の期間に対応する通りにおけるコークス温度を予測する場合>>
j=0、1(0≦j≦1)の場合:(n-jの期間における目標炉団温度)-(n-j-5(通りの数が5の場合)の期間における実績炉団温度)
j=2、3、・・・(j≧2)の場合:(n+1-jの期間における実績炉団温度)-(n+1-j-5(通りの数が5の場合)の期間における実績炉団温度)
Δtk(n):ある炭化室の今回の乾留サイクルにおける乾留予定時間-当該炭化室2の前回の乾留サイクルにおける実績乾留時間
ΔS(n):ある炭化室の今回の乾留サイクルにおける装炭量-当該炭化室2の前回の乾留サイクルにおける実績装炭量
ΔW:ある炭化室の今回の乾留サイクルにおける石炭水分量-当該炭化室2の前回の乾留サイクルにおける実績石炭水分量
を表す。」
2 本件発明3について
(1)対比
本件発明3と先願発明Aとを対比する。
ア 先願発明Aの「炭化室と燃焼室とが炉壁を介して交互に配置されてなるコークス炉」は、本件発明1の「燃焼室と炭化室とが交互に連接されて炉団を構成するコークス炉」に相当する。
イ 先願発明Aの「コークス製造プロセスの現在から過去の操業の実績値を含む操業データを入力する入力部」は、その操業の実績値として、「式(1)で表される炉団温度予測モデル」及び「式(2)で表されるコークス温度予測モデル」の説明変数、すなわち、投入熱量Q、炉団温度Tro、装炭量S、石炭水分量W、通り時間tt、乾留時間tkの実績値を含むことは明らかであり、ここで、炉団温度は「全燃焼室3の温度の代表値」(先願明細書等の【0012】)、コークス温度は「炭化室2から排出された直後のコークス10の温度」(先願明細書等の【0014】)、投入熱量は「全燃焼室3の投入熱量」(先願明細書等の【0012】)であり、「炭化室2から排出された直後のコークス10温度」は実質的に炭化室の温度に相当するといえるし、「全燃焼室3の投入熱量」は実質的に炭化室への投入熱量ともいえるから、本件発明3の「前記燃焼室及び前記炭化室の温度の実績値並びに前記燃焼室及び前記炭化室への供給熱量の実績値を少なくとも含む操業実績情報、が入力される入力装置」に相当する。
ウ 先願発明Aの「式(1)で表される炉団温度予測モデル」は、「時刻t-1から時刻t(現在時刻の規定時間先の時間)までの炉団温度Troの変化量」を表す「ΔTro(t)」を目的変数とし、投入熱量Q、炉団温度Tro、装炭量S、石炭水分量Wの時刻t-i-1から時刻t-iまでの変化量をそれぞれ表す「ΔQ(t-i)」、「ΔTro(t-i)」、「ΔS(t-i)」、「ΔW(t-i)」を説明変数とし、それらの関係を式(1)で表したものであり、前記説明変数を求める際に用いるt-1、t-2、t-3、・・・における各操業の実績値は、時系列データを構成するものといえるから、本件発明3の「ある時刻から一定時間分遡った前記操業実績情報の時系列データと前記ある時刻から任意に定めた所定時間後の前記燃焼室又は前記炭化室の温度との関係を表すモデル」に相当する。すると、先願発明Aの「投入熱量算出部」が有する「式(1)で表される炉団温度予測モデルにより炉団温度を予測する炉団温度予測機能」は、本件発明3の「ある時刻から一定時間分遡った前記操業実績情報の時系列データと前記ある時刻から任意に定めた所定時間後の前記燃焼室又は前記炭化室の温度との関係を表すモデル及び前記操業実績情報に基づいて、任意に定めた所定時間後の前記燃焼室又は前記炭化室の温度である温度予測値を算出する温度予測部」に相当する。
エ 先願発明Aの「投入熱量算出部」が有する「炉団温度予測モデルにより予測した炉団温度と目標炉温算出部で算出した目標炉団温度を使用して燃焼室への投入熱量を算出する投入熱量最適化機能」は、本件発明3の「算出された前記温度予測値に基づいて、目標温度となるように、前記燃焼室又は前記炭化室への供給熱量を算出する炉温制御部」に相当する。
オ 先願発明Aの「コークス炉における、コークス製造プロセスの制御装置」は、「投入熱量算出部」において「予測した炉団温度」と「目標炉団温度」とを使用して燃焼室への投入熱量を算出し、「投入熱量設定部」で算出した投入熱量に調整するものであり、実質的に炉団温度を制御するものといえるから、本件発明3の「コークス炉における前記燃焼室又は前記炭化室の温度を制御する炉温制御装置」に相当する。
すると、本件発明3と先願発明Aとの一致点及び相違点は、次のとおりである。
<一致点>
「燃焼室と炭化室とが交互に連接されて炉団を構成するコークス炉における前記燃焼室又は前記炭化室の温度を制御する炉温制御装置であって、
前記燃焼室及び前記炭化室の温度の実績値並びに前記燃焼室及び前記炭化室への供給熱量の実績値を少なくとも含む操業実績情報、が入力される入力装置と、
ある時刻から一定時間分遡った前記操業実績情報の時系列データと前記ある時刻から任意に定めた所定時間後の前記燃焼室又は前記炭化室の温度との関係を表すモデル及び前記操業実績情報に基づいて、任意に定めた所定時間後の前記燃焼室又は前記炭化室の温度である温度予測値を算出する温度予測部と、
算出された前記温度予測値に基づいて、目標温度となるように、前記燃焼室又は前記炭化室への供給熱量を算出する炉温制御部と、を備える、炉温制御装置。」
<相違点1>
前記温度予測部が、本件発明3では、前記温度予測値を算出する対象である前記燃焼室又は前記炭化室についての前記操業実績情報に加えて、近接する前記燃焼室及び前記炭化室についての前記操業実績情報に基づいて、前記温度予測値を算出するのに対して、先願発明Aでは、そのような特定はされていない点
(2)相違点1についての検討
先願明細書等には、「本実施形態の手法は、全燃焼室3の投入熱量を一括で調整する場合に限定されない」、「例えば、1つの炭化室2の単位で窯出し装炭作業を実施する場合、各燃焼室3に調整弁及びアクチュエータを設置し、炭化室2ごとに乾留状態(投入熱量)を制御しても良い」、「例えば、全ての燃焼室3に温度計6を設置し、炉団温度に代えて各燃焼室3の温度を炉温として用いても良い」(【0012】)と記載されており、先願発明Aにおいて、炉団温度に代えて各燃焼室の温度を実績値として用い、各燃焼室で個別に温度予測及び投入熱量の算出を行うことが記載されている。
また、「第1実施形態で述べたコークス温度予測モデルは、単一の炭化室2の物理現象に基づく回帰モデルであるが、単一の炭化室2の物理現象に着目するだけでは十分とはいえないことがある」、「単一の炭化室2の物理現象に着目するだけでは、隣接する炭化室2の温度変化の傾向や、操業条件の変化の傾向を捉えられないからである」(【0060】)と記載されており、温度予測モデルにおいて、隣接する炭化室の影響を考慮すべきことが示唆されている。
しかしながら、隣接する炭化室の影響を考慮したモデルが具体的に示された第2実施形態は、「回帰モデル901の予測誤差をビックデータ機械学習手法で推定し、補正を行うハイブリッドモデル構成」(【0063】)の温度予測モデルであって、各燃焼室の温度予測のために用いる実績値として、温度予測の対象である燃焼室に近接する燃焼室及び炭化室の温度の実績値を用いるものとは異なるし、この差異が課題を解決するための具体化手段における微差であるともいえない。
(3)小括
したがって、本件発明3は、先願明細書等に記載された発明(先願発明A)と同一のものではないし、実質的に同一のものでもない。
3 本件発明4について
(1)対比
本件発明4は、本件発明3における「前記温度予測部は、前記温度予測値を算出する対象である前記燃焼室又は前記炭化室についての前記操業実績情報に加えて、近接する前記燃焼室及び前記炭化室についての前記操業実績情報に基づいて、前記温度予測値を算出する」との記載を、「前記温度予測部は、ある時刻から前記燃焼室又は前記炭化室の温度の変化周期より長い時間分遡った前記操業実績情報の時系列データについて、前記燃焼室又は前記炭化室の温度の変化周期毎に区分し、前記区分毎の前記操業実績情報の時系列データの特徴量と、前記ある時刻から前記燃焼室又は前記炭化室の温度の変化周期後の前記燃焼室又は前記炭化室の温度との関係を表すモデル及び前記操業実績情報に基づいて、前記炭化室の温度の変化周期後の前記燃焼室又は前記炭化室の温度である温度予測値を算出する」との記載に置き換えたものに相当する。
すると、本件発明4と先願発明Aとの相違点は、次のとおりである。
<相違点2>
前記温度予測部が、本件発明4では、ある時刻から前記燃焼室又は前記炭化室の温度の変化周期より長い時間分遡った前記操業実績情報の時系列データについて、前記燃焼室又は前記炭化室の温度の変化周期毎に区分し、前記区分毎の前記操業実績情報の時系列データの特徴量と、前記ある時刻から前記燃焼室又は前記炭化室の温度の変化周期後の前記燃焼室又は前記炭化室の温度との関係を表すモデル及び前記操業実績情報に基づいて、前記炭化室の温度の変化周期後の前記燃焼室又は前記炭化室の温度である温度予測値を算出するのに対して、先願発明Aでは、そのような特定はされていない点
(2)相違点2についての検討
先願明細書等の【0022】には、「時間遅れを考慮するために、1時間周期で連続する複数の期間分の実績値、(炉団温度Tro以外については)将来1時間先のスケジュール値を説明関数に与える値として用いて、炉団温度予測モデルにより、目的関数である将来1時間先の炉団温度を予測する」、「詳細には、1時間先(t)~5時間前(t-6)までの○で示す各項目を説明変数に採用している」、「炉団温度には、操業起因の周期的な変動が存在するため、前処理として移動平均フィルタを適用し、周期変動を抑制するのが好ましい」と記載されている。当該記載からすると、実績値は1時間毎の時系列データを前提とするものであり、周期変動はフィルタで除去する対応が示唆されているところ、温度の変化周期毎の時系列データの特徴量を用いて温度予測値を算出するものとは異なるし、この差異が課題を解決するための具体化手段における微差であるともいえない。
(3)小括
したがって、本件発明4は、先願明細書等に記載された発明(先願発明A)と同一のものではないし、実質的に同一のものでもない。
4 本件発明7について
(1)対比
本件発明7と先願発明Bとを対比する。
ア 先願発明Bの「炭化室と燃焼室とが炉壁を介して交互に配置されてなるコークス炉」は、本件発明7の「燃焼室と炭化室とが交互に連接されて炉団を構成するコークス炉」に相当する。
イ 先願発明Bの「コークス製造プロセスの現在から過去の操業の実績値を含む操業データを入力する入力ステップ」は、その操業の実績値として、「式(1)で表される炉団温度予測モデル」及び「式(2)で表されるコークス温度予測モデル」の説明変数、すなわち、投入熱量Q、炉団温度Tro、装炭量S、石炭水分量W、通り時間tt、乾留時間tkの実績値を含むことは明らかであり、ここで、炉団温度は「全燃焼室3の温度の代表値」(先願明細書等の【0012】)、コークス温度は「炭化室2から排出された直後のコークス10の温度」(先願明細書等の【0014】)、投入熱量は「全燃焼室3の投入熱量」(先願明細書等の【0012】)であり、「炭化室2から排出された直後のコークス10温度」は実質的に炭化室の温度に相当するといえるし、「全燃焼室3の投入熱量」は実質的に炭化室への投入熱量ともいえるから、本件発明7の「前記燃焼室及び前記炭化室の温度の実績値並びに前記燃焼室及び前記炭化室への供給熱量の実績値を少なくとも含む操業実績情報、が入力される入力ステップ」に相当する。
ウ 先願発明Bの「式(1)で表される炉団温度予測モデル」は、「時刻t-1から時刻t(現在時刻の規定時間先の時間)までの炉団温度Troの変化量」を表す「ΔTro(t)」を目的変数とし、投入熱量Q、炉団温度Tro、装炭量S、石炭水分量Wの時刻t-i-1から時刻t-iまでの変化量をそれぞれ表す「ΔQ(t-i)」、「ΔTro(t-i)」、「ΔS(t-i)」、「ΔW(t-i)」を説明変数とし、それらの関係を式(1)で表したものであり、前記説明変数を求める際に用いるt-1、t-2、t-3、・・・における各操業の実績値は、時系列データを構成するものといえるから、本件発明7の「ある時刻から一定時間分遡った前記操業実績情報の時系列データと前記ある時刻から任意に定めた所定時間後の前記燃焼室又は前記炭化室の温度との関係を表すモデル」に相当する。すると、先願発明Bの「投入熱量算出ステップ」が有する「式(1)で表される炉団温度予測モデルにより炉団温度を予測する炉団温度予測ステップ」は、本件発明7の「ある時刻から一定時間分遡った前記操業実績情報の時系列データと前記ある時刻から任意に定めた所定時間後の前記燃焼室又は前記炭化室の温度との関係を表すモデル及び前記操業実績情報に基づいて、任意に定めた所定時間後の前記燃焼室又は前記炭化室の温度である温度予測値を算出する温度予測ステップ」に相当する。
エ 先願発明Bの「投入熱量算出ステップ」が有する「炉団温度予測モデルにより予測した炉団温度と目標炉温算出部で算出した目標炉団温度を使用して燃焼室への投入熱量を算出する投入熱量最適化ステップ」は、本件発明7の「算出された前記温度予測値に基づいて、目標温度となるように、前記燃焼室又は前記炭化室への供給熱量を算出する炉温制御ステップ」に相当する。
オ 先願発明Bの「コークス炉における、コークス製造プロセスの制御方法」は、「投入熱量算出ステップ」において「予測した炉団温度」と「目標炉団温度」とを使用して燃焼室への投入熱量を算出し、「投入熱量設定部」で算出した投入熱量に調整するものであり、実質的に炉団温度を制御するものといえるから、本件発明7の「コークス炉における前記燃焼室又は前記炭化室の温度を制御する炉温制御方法」に相当する。
すると、本件発明7と先願発明Bとの一致点及び相違点は、次のとおりである。
<一致点>
「燃焼室と炭化室とが交互に連接されて炉団を構成するコークス炉における前記燃焼室又は前記炭化室の温度を制御する炉温制御方法であって、
前記燃焼室及び前記炭化室の温度の実績値並びに前記燃焼室及び前記炭化室への供給熱量の実績値を少なくとも含む操業実績情報、が入力される入力ステップと、
ある時刻から一定時間分遡った前記操業実績情報の時系列データと前記ある時刻から任意に定めた所定時間後の前記燃焼室又は前記炭化室の温度との関係を表すモデル及び前記操業実績情報に基づいて、任意に定めた所定時間後の前記燃焼室又は前記炭化室の温度である温度予測値を算出する温度予測ステップと、
算出された前記温度予測値に基づいて、目標温度となるように、前記燃焼室又は前記炭化室への供給熱量を算出する炉温制御ステップと、を含む、炉温制御方法。」
<相違点1’>
前記温度予測ステップが、本件発明7では、前記温度予測値を算出する対象である前記燃焼室又は前記炭化室についての前記操業実績情報に加えて、近接する前記燃焼室及び前記炭化室についての前記操業実績情報に基づいて、前記温度予測値を算出するのに対して、先願発明Bでは、そのような特定はされていない点
(2)相違点1’についての検討
前記2(2)で検討したとおり、先願明細書等には、各燃焼室の温度を実績値として用い、各燃焼室で個別に温度予測及び投入熱量の算出を行うことが記載され、温度予測モデルにおいて、隣接する炭化室の影響を考慮すべきことが示唆されているものの、隣接する炭化室の影響を考慮したモデルとして具体的に示された温度予測モデルは、各燃焼室の温度予測のために用いる実績値として、温度予測の対象である燃焼室に近接する燃焼室及び炭化室の温度の実績値を用いるものとは異なるし、この差異が課題を解決するための具体化手段における微差であるともいえない。
(3)小括
したがって、本件発明7は、先願明細書等に記載された発明(先願発明B)と同一のものではないし、実質的に同一のものでもない。
5 本件発明8について
(1)対比
本件発明8は、本件発明7における「前記温度予測ステップは、前記温度予測値を算出する対象である前記燃焼室又は前記炭化室についての前記操業実績情報に加えて、近接する前記燃焼室及び前記炭化室についての前記操業実績情報に基づいて、前記温度予測値を算出する」との記載を、「前記温度予測ステップは、ある時刻から前記燃焼室又は前記炭化室の温度の変化周期より長い時間分遡った前記操業実績情報の時系列データについて、前記燃焼室又は前記炭化室の温度の変化周期毎に区分し、前記区分毎の前記操業実績情報の時系列データの特徴量と、前記ある時刻から前記燃焼室又は前記炭化室の温度の変化周期後の前記燃焼室又は前記炭化室の温度との関係を表すモデル及び前記操業実績情報に基づいて、前記炭化室の温度の変化周期後の前記燃焼室又は前記炭化室の温度である温度予測値を算出する」との記載に置き換えたものに相当する。
すると、本件発明8と先願発明Bとの相違点は、次のとおりである。
<相違点2’>
前記温度予測ステップが、本件発明8では、ある時刻から前記燃焼室又は前記炭化室の温度の変化周期より長い時間分遡った前記操業実績情報の時系列データについて、前記燃焼室又は前記炭化室の温度の変化周期毎に区分し、前記区分毎の前記操業実績情報の時系列データの特徴量と、前記ある時刻から前記燃焼室又は前記炭化室の温度の変化周期後の前記燃焼室又は前記炭化室の温度との関係を表すモデル及び前記操業実績情報に基づいて、前記炭化室の温度の変化周期後の前記燃焼室又は前記炭化室の温度である温度予測値を算出するのに対して、先願発明Bでは、そのような特定はされていない点
(2)相違点2’についての検討
前記3(2)で検討したとおり、先願明細書等の記載からすると、実績値は1時間毎の時系列データを前提とするものであり、周期変動はフィルタで除去する対応が示唆されているところ、温度の変化周期毎の時系列データの特徴量を用いて温度予測値を算出するものとは異なるし、この差異が課題を解決するための具体化手段における微差であるともいえない。
(3)小括
したがって、本件発明8は、先願明細書等に記載された発明(先願発明B)と同一のものではないし、実質的に同一のものでもない。
6 本件発明10について
本件発明10は、本件発明3又は4を包含し、さらに特定事項を追加したものであるから、前記2、3で検討したのと同様の理由により、先願明細書等に記載された発明(先願発明A)と同一のものではないし、実質的に同一のものでもない。
7 本件発明11、12について
本件発明11、12は、本件発明7又は8を包含し、さらに特定事項を追加したものであるから、前記4、5で検討したのと同様の理由により、先願明細書等に記載された発明と同一のものではないし、実質的に同一のものでもない。
第6 当審において採用しなかった特許異議申立ての理由(新規性、進歩性)について(前記第4 1(2)、(3)参照)
1 甲2に記載された発明
甲2には、以下の事項が記載されている。なお、甲2は外国語による文献であるため、申立人による和訳に基づいて記載する。
(1)コークス炉のフリュー温度の予測制御のため、直交ニューラルネットワークを用いること(第147頁左欄第43~45行)、コークス炉が50~100個の加熱ユニットから構成され、各加熱ユニットは炭化室、燃焼室及び蓄熱室から構成されること(第147頁右欄第19~22行)、炭化室と燃焼室が交互に配置されていること(図1)、フリュー温度はコークス炉の燃焼室のそれぞれにおける垂直火炎温度の平均値であること(第146頁左欄第4~6行)。
(2)コークス炉の加熱プロセスをモデル化するために直交ニューラルネットワークが使用され、式(2):
「
[図:0001427945000005.jpg]
ここで、uは制御対象の入力であり、yは制御対象の出力である。mは入力の次数であり、nは出力の次数である。その対象U(k)=(uk-m,uk-m+1,・・・,uk)とその対象の出力Y(k)=(yk-m,yk-m+1,・・・,yk)は、直交ニューラルネットワークの入力として選択され、それは、X(k)=[y(k-1),・・・,y(k-n),u(k),・・・,u(k-m)]である。」
でモデル化されること(第149頁左欄第16~28行)、前記式(2)から式(34):
「
[図:0001427945000006.jpg]
」
のモデルを導出し、直交ニューラルネットワークに基づくコークス炉のフリュー温度の予測制御に使用すること(第152頁右欄第17行~第153頁左欄下から第1行)が記載されている。
また、コークス炉のフリュー温度が出力として選択され、高炉ガス流量が入力として選択され、すなわち、直交ニューラルネットワークの入力は、フリュー温度と高炉ガス流量を含むこと(第149頁右欄第2~6行)。
(3)kはサンプリングタイムであり、y(k)はシステムの出力であり、u(k)はシステムの入力であること(第151頁左欄第41~42行)。
(4)直交ニューラルネットワークに基づくコークス炉の予測制御の構成として、直交ニューラルネットワーク基づく予測出力:yp(k+i)と参照軌道(Reference trajectory):yr(k+i)とに基づき、ローリング最適化(Rolling optimization)して、u(k)を出力すること(図7)。
前記(1)から甲1には、燃焼室と炭化室とが交互に配置されているコークス炉のフリュー温度(燃焼室の温度の平均値)を制御する装置及び方法が記載されているといえる。また、前記(2)では実測値が入力されることも明らかであるから、甲1には、、フリュー温度(燃焼室の温度の平均値)の実績値と高炉ガス流量(燃焼室に供給するガスの流量)の実績値が、直交ニューラルネットワークに入力される構成が記載されているといえる。
加えて、前記(3)について、前記(2)の式(2)は、サンプリングタイムk-1とサンプリングタイムkとの間のある時刻からみて、それより前のサンプリングタイムk-n、・・・、k-1におけるフリュー温度、サンプリングタイムk-m、・・・、k-1における高炉ガス流量を入力として、前記ある時刻からみて、それよりも後のサンプリングタイムkにおけるフリュー温度を出力とするモデルであるといえる。
してみると、甲2には、サンプリングタイムk-1とサンプリングタイムkとの間のある時刻からみて、それより前のサンプリングタイムk-n、・・・、k-1におけるフリュー温度、サンプリングタイムk-m、・・・、k-1における高炉ガス流量を入力、前記ある時刻からみて、それよりも後のサンプリングタイムkにおけるフリュー温度を出力とするモデルに、前記実績値を入力して、サンプリングタイムkにおけるフリュー温度の予測値を算出する構成が記載されているといえる。
さらに、前記(4)のu(k)が高炉ガス流量(燃焼室に供給するガスの流量)であることは明らかであるから、甲1には、サンプリングタイムkにおけるフリュー温度の予測値と参照軌道とに基づき、最適化された高炉ガス流量(燃焼室に供給するガスの流量)を算出する構成が記載されているといえる。
以上の記載からみて、甲2には以下の発明(以下、制御装置に係る発明を「甲2発明A」、及び、制御方法に係る発明を「甲2発明B」)という。)が記載されていると認められる。
<甲2発明A>
「燃焼室と炭化室とが交互に配置されているコークス炉のフリュー温度(燃焼室の温度の平均値)を制御する装置であって、
フリュー温度の実績値と高炉ガス流量(燃焼室に供給するガスの流量)の実績値が、直交ニューラルネットワークに入力される構成と、
サンプリングタイムk-1とサンプリングタイムkとの間のある時刻からみて、それより前のサンプリングタイムk-n、・・・、k-1におけるフリュー温度、サンプリングタイムk-m、・・・、k-1における高炉ガス流量を入力、前記ある時刻からみて、それよりも後のサンプリングタイムkにおけるフリュー温度を出力とするモデルに、前記実績値を入力して、サンプリングタイムkにおけるフリュー温度の予測値を算出する構成と、
前記フリュー温度の予測値と参照軌道とに基づき、最適化された高炉ガス流量を算出する構成と、
を備える、コークス炉のフリュー温度を制御する装置」
<甲2発明B>
「燃焼室と炭化室とが交互に配置されているコークス炉のフリュー温度(燃焼室の温度の平均値)を制御する方法であって、
フリュー温度の実績値と高炉ガス流量(燃焼室に供給するガスの流量)の実績値が、直交ニューラルネットワークに入力される構成と、
サンプリングタイムk-1とサンプリングタイムkとの間のある時刻からみて、それより前のサンプリングタイムk-n、・・・、k-1におけるフリュー温度、サンプリングタイムk-m、・・・、k-1における高炉ガス流量を入力、前記ある時刻からみて、それよりも後のサンプリングタイムkにおけるフリュー温度を出力とするモデルに、前記実績値を入力して、サンプリングタイムkにおけるフリュー温度の予測値を算出する構成と、
前記フリュー温度の予測値と参照軌道とに基づき、最適化された高炉ガス流量を算出する構成と、
を含む、コークス炉のフリュー温度を制御する方法」
2 本件発明3について
(1)対比
本件発明3と甲2発明Aとを対比する。
ア 甲2発明Aの「燃焼室と炭化室とが交互に配置されているコークス炉」は、本件発明3の「燃焼室と炭化室とが交互に連接されて炉団を構成するコークス炉」に相当する。
イ 甲2発明Aの「フリュー温度の実績値と高炉ガス流量の実績値が、直交ニューラルネットワークに入力される構成」は、フリュー温度、高炉ガス流量が、それぞれ、燃焼室の温度の平均値、燃焼室に供給するガスの流量であり、また、燃焼室に供給するガスの流量は、燃焼室への供給熱量に相当するといえるから、本件発明3の「前記燃焼室の温度の実績値並びに前記燃焼室及び前記炭化室への供給熱量の実績値を少なくとも含む操業実績情報、が入力される入力装置」に相当する。
ウ 甲2発明Aの「サンプリングタイムk-1とサンプリングタイムkとの間のある時刻からみて、それより前のサンプリングタイムk-n、・・・、k-1におけるフリュー温度、サンプリングタイムk-m、・・・、k-1における高炉ガス流量を入力、前記ある時刻からみて、それよりも後のサンプリングタイムkにおけるフリュー温度を出力とするモデル」は、本件発明3の「ある時刻から一定時間分遡った前記操業実績情報の時系列データと前記ある時刻から任意に定めた所定時間後の前記燃焼室又は前記炭化室の温度との関係を表すモデル」に相当する。すると、甲2発明Aの「サンプリングタイムk-1とサンプリングタイムkとの間のある時刻からみて、それより前のサンプリングタイムk-n、・・・、k-1におけるフリュー温度、サンプリングタイムk-m、・・・、k-1における高炉ガス流量を入力、前記ある時刻からみて、それよりも後のサンプリングタイムkにおけるフリュー温度を出力とするモデルに、前記実績値を入力して、サンプリングタイムkにおけるフリュー温度の予測値を算出する構成」は、本件発明3の「ある時刻から一定時間分遡った前記操業実績情報の時系列データと前記ある時刻から任意に定めた所定時間後の前記燃焼室又は前記炭化室の温度との関係を表すモデル及び前記操業実績情報に基づいて、任意に定めた所定時間後の前記燃焼室又は前記炭化室の温度である温度予測値を算出する温度予測部」に相当する。
エ 甲2発明Aの「前記フリュー温度の予測値と参照軌道とに基づき、最適化された高炉ガス流量を算出する構成」は、本件発明3の「算出された前記温度予測値に基づいて、目標温度となるように、前記燃焼室又は前記炭化室への供給熱量を算出する炉温制御部」に相当する。
オ 甲2発明Aの「コークス炉のフリュー温度を制御する装置」は、本件発明3の「コークス炉における前記燃焼室又は前記炭化室の温度を制御する炉温制御装置」に相当する。
すると、本件発明3と甲2発明Aとの一致点及び相違点は、次のとおりである。
<一致点>
「燃焼室と炭化室とが交互に連接されて炉団を構成するコークス炉における前記燃焼室又は前記炭化室の温度を制御する炉温制御装置であって、
前記燃焼室の温度の実績値及び前記燃焼室への供給熱量の実績値を少なくとも含む操業実績情報、が入力される入力装置と、
ある時刻から一定時間分遡った前記操業実績情報の時系列データと前記ある時刻から任意に定めた所定時間後の前記燃焼室又は前記炭化室の温度との関係を表すモデル及び前記操業実績情報に基づいて、任意に定めた所定時間後の前記燃焼室又は前記炭化室の温度である温度予測値を算出する温度予測部と、
算出された前記温度予測値に基づいて、目標温度となるように、前記燃焼室又は前記炭化室への供給熱量を算出する炉温制御部と、を備える、炉温制御装置。」
<相違点3>
温度予測値を算出するために用いられる操業実績情報が、本件発明3では、前記燃焼室の温度の実績値及び前記燃焼室への供給熱量の実績値に加え、前記炭化室の温度の実績値及び前記炭化室への供給熱量の実績値を含むのに対して、甲2発明Aでは、そのような特定はされていない点
<相違点4>
前記温度予測部が、本件発明3では、前記温度予測値を算出する対象である前記燃焼室又は前記炭化室についての前記操業実績情報に加えて、近接する前記燃焼室及び前記炭化室についての前記操業実績情報に基づいて、前記温度予測値を算出するのに対して、甲2発明Aでは、そのような特定はされていない点
(2)相違点3についての検討
ア 甲3には、ニューラルネットワークを利用して操業実績の学習と操業変更時のアクション手段を予測するコークス炉の自動燃焼制御装置において、供給熱量を出力するニューラルネットワークの入力層に取り込むコークス炉の操業データとして、(1)操業目標GCT、(2)操業目標NCT、(3)石炭の装入量、(4)石炭の水分値、(5)石炭の揮発分、(6)フリュー温度、(7)燃料ガスのカロリ、(8)燃料ガスの流量、(9)燃料用空気量、(10)石炭の乾留時間、(11)装入後の経過時間、(12)コークス品位、を使用すること(【0001】、【0014】、【0015】、図2)が記載されており、「(6)フリュー温度」は燃焼室の温度、「(8)燃料ガスの流量」は燃焼室及び炭化室への供給熱量に相当するといえるものの、炭化室の温度を使用することは記載も示唆もされていない。そうすると、前記甲3の記載事項を参酌しても、甲2発明Aの直交ニューラルネットワークの入力として、フリュー温度の実績値、高炉ガス流量の実績値に加えて、炭化室の温度の実績値を使用することが動機付けられるものではない。
イ 甲4には、コークス炉の各燃焼室に供給される燃焼ガスおよび空気の流量を調節する流量調節計の開度を変更する方法において、窯毎の排出コークス温度、装炭量、装炭時水分、乾留時間、炉温(該窯の両側に位置する燃焼室の雰囲気温度の平均値)の実績値を検出し、該実績値から窯毎のコークス温度を伝熱モデルを用いて推定し、窯毎の前記排出コークス温度の実績値と前記推定値の差を窯間のコークス温度偏差とし、該窯間のコークス温度偏差をもとに流量調節計の開度の変更量を演算すること(【0014】)、すなわち、窯毎のコークス温度の伝熱モデルに入力される実績値として、炉温(該窯の両側に位置する燃焼室の雰囲気温度の平均値)と該窯の排出コークス温度が記載されている。しかしながら、該窯の排出コークス温度は実質的に炭化室の温度であるといえるとしても、前記伝熱モデルは、該窯の排出コークス温度(炭化室の温度)を推定するモデルであり、甲2発明Aのフリュー温度(燃焼室の温度)の予測値を算出するモデルとは、予測値を算出する対象が異なるし、甲2には、入力変数の増加に伴い、直交ニューラルネットワークの処理ユニットが増加し、学習速度の低下が主な問題となる(第155頁左欄第20~27行)と記載されているから、前記伝熱モデルの入力変数(排出コークス温度への影響因子)を甲2発明Aのフリュー温度の予測値を算出するモデルに直ちに適用できるものではない。そうすると、前記甲4の記載事項を参酌しても、甲2発明Aの直交ニューラルネットワークに入力される実績値データとして炭化室の温度を使用することが直ちに動機付けられるものではない。
ウ 甲5には、コークス炉の温度制御方法において、燃焼室の温度の目標値との偏差から燃料増加量を演算することが記載されているものの、甲2発明Aのフリュー温度、すなわち、燃焼室の温度の予測値を算出するモデルについては何ら記載されていない。そうすると、前記甲5の記載事項を参酌しても、甲2発明Aの直交ニューラルネットワークに入力される実績値データとして炭化室の温度を使用することが直ちに動機付けられるものではない。
(3)小括
したがって、相違点4について検討するまでもなく、本件発明3は、甲2に記載された発明(甲2発明A)ではないし、甲2に記載された発明及び甲3~甲5に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
3 本件発明4について
(1)対比
本件発明4は、本件発明3における「前記温度予測部は、前記温度予測値を算出する対象である前記燃焼室又は前記炭化室についての前記操業実績情報に加えて、近接する前記燃焼室及び前記炭化室についての前記操業実績情報に基づいて、前記温度予測値を算出する」との記載を、「前記温度予測部は、ある時刻から前記燃焼室又は前記炭化室の温度の変化周期より長い時間分遡った前記操業実績情報の時系列データについて、前記燃焼室又は前記炭化室の温度の変化周期毎に区分し、前記区分毎の前記操業実績情報の時系列データの特徴量と、前記ある時刻から前記燃焼室又は前記炭化室の温度の変化周期後の前記燃焼室又は前記炭化室の温度との関係を表すモデル及び前記操業実績情報に基づいて、前記炭化室の温度の変化周期後の前記燃焼室又は前記炭化室の温度である温度予測値を算出する」との記載に置き換えたものに相当する。
すると、本件発明4と甲2発明Aとの相違点は、次のとおりである。
<相違点3>
温度予測値を算出するために用いられる操業実績情報が、本件発明4では、前記燃焼室の温度の実績値及び前記燃焼室への供給熱量の実績値に加え、前記炭化室の温度の実績値及び前記炭化室への供給熱量の実績値を含むのに対して、甲2発明Aでは、そのような特定はされていない点
<相違点5>
前記温度予測部が、本件発明4では、ある時刻から前記燃焼室又は前記炭化室の温度の変化周期より長い時間分遡った前記操業実績情報の時系列データについて、前記燃焼室又は前記炭化室の温度の変化周期毎に区分し、前記区分毎の前記操業実績情報の時系列データの特徴量と、前記ある時刻から前記燃焼室又は前記炭化室の温度の変化周期後の前記燃焼室又は前記炭化室の温度との関係を表すモデル及び前記操業実績情報に基づいて、前記炭化室の温度の変化周期後の前記燃焼室又は前記炭化室の温度である温度予測値を算出するのに対して、甲2発明Aでは、そのような特定はされていない点
(2)相違点3についての検討
前記2(2)で検討したとおり、前記甲3~甲5の記載事項を参酌しても、甲2発明Aの直交ニューラルネットワークの入力として、フリュー温度の実績値、高炉ガス流量の実績値に加えて、炭化室の温度の実績値を使用することが直ちに動機付けられるものではない。
(3)小括
したがって、相違点5について検討するまでもなく、本件発明4は、甲2に記載された発明(甲2発明A)ではないし、甲2に記載された発明及び甲3~甲5に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
4 本件発明7について
(1)対比
本件発明7と甲2発明Bとを対比する。
ア 甲2発明Bの「燃焼室と炭化室とが交互に配置されているコークス炉」は、本件発明7の「燃焼室と炭化室とが交互に連接されて炉団を構成するコークス炉」に相当する。
イ 甲2発明Bの「フリュー温度の実績値と高炉ガス流量の実績値が、直交ニューラルネットワークに入力される構成」は、フリュー温度、高炉ガス流量が、それぞれ、燃焼室の温度の平均値、燃焼室に供給するガスの流量であり、また、燃焼室に供給するガスの流量は、燃焼室への供給熱量に相当するといえるから、本件発明7の「前記燃焼室の温度の実績値並びに前記燃焼室及び前記炭化室への供給熱量の実績値を少なくとも含む操業実績情報、が入力される入力ステップ」に相当する。
ウ 甲2発明Bの「サンプリングタイムk-1とサンプリングタイムkとの間のある時刻からみて、それより前のサンプリングタイムk-n、・・・、k-1におけるフリュー温度、サンプリングタイムk-m、・・・、k-1における高炉ガス流量を入力、前記ある時刻からみて、それよりも後のサンプリングタイムkにおけるフリュー温度を出力とするモデル」は、本件発明7の「ある時刻から一定時間分遡った前記操業実績情報の時系列データと前記ある時刻から任意に定めた所定時間後の前記燃焼室又は前記炭化室の温度との関係を表すモデル」に相当する。すると、甲2発明Bの「サンプリングタイムk-1とサンプリングタイムkとの間のある時刻からみて、それより前のサンプリングタイムk-n、・・・、k-1におけるフリュー温度、サンプリングタイムk-m、・・・、k-1における高炉ガス流量を入力、前記ある時刻からみて、それよりも後のサンプリングタイムkにおけるフリュー温度を出力とするモデルに、前記実績値を入力して、サンプリングタイムkにおけるフリュー温度の予測値を算出する構成」は、本件発明7の「ある時刻から一定時間分遡った前記操業実績情報の時系列データと前記ある時刻から任意に定めた所定時間後の前記燃焼室又は前記炭化室の温度との関係を表すモデル及び前記操業実績情報に基づいて、任意に定めた所定時間後の前記燃焼室又は前記炭化室の温度である温度予測値を算出する温度予測ステップ」に相当する。
エ 甲2発明Bの「前記フリュー温度の予測値と参照軌道とに基づき、最適化された高炉ガス流量を算出する構成」は、本件発明3の「算出された前記温度予測値に基づいて、目標温度となるように、前記燃焼室又は前記炭化室への供給熱量を算出する炉温制御ステップ」に相当する。
オ 甲2発明Bの「コークス炉のフリュー温度を制御する方法」は、本件発明7の「コークス炉における前記燃焼室又は前記炭化室の温度を制御する炉温制御方法」に相当する。
すると、本件発明7と甲2発明Bとの一致点及び相違点は、次のとおりである。
<一致点>
「燃焼室と炭化室とが交互に連接されて炉団を構成するコークス炉における前記燃焼室又は前記炭化室の温度を制御する炉温制御方法であって、
前記燃焼室の温度の実績値及び前記燃焼室への供給熱量の実績値を少なくとも含む操業実績情報、が入力される入力ステップと、
ある時刻から一定時間分遡った前記操業実績情報の時系列データと前記ある時刻から任意に定めた所定時間後の前記燃焼室又は前記炭化室の温度との関係を表すモデル及び前記操業実績情報に基づいて、任意に定めた所定時間後の前記燃焼室又は前記炭化室の温度である温度予測値を算出する温度予測ステップと、
算出された前記温度予測値に基づいて、目標温度となるように、前記燃焼室又は前記炭化室への供給熱量を算出する炉温制御ステップと、を含む、炉温制御方法。」
<相違点3’>
温度予測値を算出するために用いられる操業実績情報が、本件発明7では、前記燃焼室の温度の実績値及び前記燃焼室への供給熱量の実績値に加え、前記炭化室の温度の実績値及び前記炭化室への供給熱量の実績値を含むのに対して、甲2発明Bでは、そのような特定はされていない点
<相違点4’>
前記温度予測ステップが、本件発明7では、前記温度予測値を算出する対象である前記燃焼室又は前記炭化室についての前記操業実績情報に加えて、近接する前記燃焼室及び前記炭化室についての前記操業実績情報に基づいて、前記温度予測値を算出するのに対して、甲2発明Bでは、そのような特定はされていない点
(2)相違点3’についての検討
前記2(2)で検討したのと同様の理由から、前記甲3~甲5の記載事項を参酌しても、甲2発明Bの直交ニューラルネットワークの入力として、フリュー温度の実績値、高炉ガス流量の実績値に加えて、炭化室の温度の実績値を使用することが直ちに動機付けられるものではない。
(3)小括
したがって、相違点4’について検討するまでもなく、本件発明7は、甲2に記載された発明(甲2発明B)ではないし、甲2に記載された発明(甲2発明B)並びに甲3~甲5に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
5 本件発明8について
(1)対比
本件発明8は、本件発明7における「前記温度予測ステップは、前記温度予測値を算出する対象である前記燃焼室又は前記炭化室についての前記操業実績情報に加えて、近接する前記燃焼室及び前記炭化室についての前記操業実績情報に基づいて、前記温度予測値を算出する」との記載を、「前記温度予測ステップは、ある時刻から前記燃焼室又は前記炭化室の温度の変化周期より長い時間分遡った前記操業実績情報の時系列データについて、前記燃焼室又は前記炭化室の温度の変化周期毎に区分し、前記区分毎の前記操業実績情報の時系列データの特徴量と、前記ある時刻から前記燃焼室又は前記炭化室の温度の変化周期後の前記燃焼室又は前記炭化室の温度との関係を表すモデル及び前記操業実績情報に基づいて、前記炭化室の温度の変化周期後の前記燃焼室又は前記炭化室の温度である温度予測値を算出する」との記載に置き換えたものに相当する。
すると、本件発明8と先願発明Bとの相違点は、次のとおりである。
<相違点3’>
温度予測値を算出するために用いられる操業実績情報が、本件発明8では、前記燃焼室の温度の実績値及び前記燃焼室への供給熱量の実績値に加え、前記炭化室の温度の実績値及び前記炭化室への供給熱量の実績値を含むのに対して、甲2発明Bでは、そのような特定はされていない点
<相違点5’>
前記温度予測ステップが、本件発明8では、ある時刻から前記燃焼室又は前記炭化室の温度の変化周期より長い時間分遡った前記操業実績情報の時系列データについて、前記燃焼室又は前記炭化室の温度の変化周期毎に区分し、前記区分毎の前記操業実績情報の時系列データの特徴量と、前記ある時刻から前記燃焼室又は前記炭化室の温度の変化周期後の前記燃焼室又は前記炭化室の温度との関係を表すモデル及び前記操業実績情報に基づいて、前記炭化室の温度の変化周期後の前記燃焼室又は前記炭化室の温度である温度予測値を算出するのに対して、先願発明Bでは、そのような特定はされていない点
(2)相違点3’についての検討
前記2(2)で検討したのと同様の理由から、前記甲3~甲5の記載事項を参酌しても、甲2発明Bの直交ニューラルネットワークの入力として、フリュー温度の実績値、高炉ガス流量の実績値に加えて、炭化室の温度の実績値を使用することが直ちに動機付けられるものではない。
(3)小括
したがって、相違点5’について検討するまでもなく、本件発明8は、甲2に記載された発明(甲2発明B)ではないし、甲2に記載された発明(甲2発明B)並びに甲3~甲5に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
6 本件発明10について
本件発明10は、本件発明3又は4を包含し、さらに特定事項を追加したものであるから、前記2、3で検討したのと同様の理由により、甲2に記載された発明ではないし、甲2に記載された発明及び甲3~甲5に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
7 本件発明11、12について
本件発明11、12は、本件発明7又は8を包含し、さらに特定事項を追加したものであるから、前記4、5で検討したのと同様の理由により、甲2に記載された発明ではないし、甲2に記載された発明及び甲3~甲5に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
第7 むすび
前記第5及び第6のとおり、本件特許の請求項3、4、7、8、10~12に係る特許は、取消理由及び特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては、取り消すことはできない。さらに、他に本件特許の請求項3、4、7、8、10~12に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、本件訂正により請求項1、2、5、6、9は削除され、請求項1、2、5、6、9に係る特許に対する特許異議の申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2024-700640