特許異議申立
2024-700581
地盤注入用薬液、その製造方法及び地盤注入硬化方法
- 審判番号
- 2024-700581
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-105564
- 登録番号
- 7401100
- 請求日
- 2024年06月19日
- 審決日
- 2024年10月30日
- 公報発行日
- 2024年11月29日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】名古屋カレット株式会社
- 【権利者代理人】加藤 朝道
- 【権利者代理人】内田 潔人
- 【異議申立人】強化土エンジニヤリング 株式会社
- 【異議申立人代理人】久門 享
- 【異議申立人代理人】久門 保子
- 審判長/審判官
- 審判長 光本 美奈子
- 審判官 弘實 由美子
- 審判官 渡辺 陽子
- 分類
- P1651.121-Y (C09K) / P1651.537-Y (C09K)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7401100号発明「地盤注入用薬液、その製造方法及び地盤注入硬化方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7401100号の請求項1~14に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7401100号(以下「本件特許」という。)の請求項1~14に係る特許は、令和2年6月18日に出願され、令和5年12月11日にその特許権の設定登録がされ、同年同月19日に特許掲載公報が発行され、その後、令和6年6月19日に特許異議申立人 強化土エンジニヤリング株式会社(以下「申立人」という。)により全請求項に係る特許に対して特許異議の申立てがされたものである。
第2 本件発明
本件特許の特許請求の範囲の請求項1~14に係る発明(以下「本件発明1」~「本件発明14」といい、これらをまとめて「本件発明」ともいう。)は、その特許請求の範囲に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】
地盤中に薬液を注入して該地盤を硬化させるための地盤注入用薬液であって、A液として水ガラス及び可溶性アルカリ物質の水溶液と、B液としてスラグ懸濁液の組成を有し、可溶性アルカリ物質は、結晶性ケイ酸ソーダ、オルソケイ酸ソーダ、又はセスキケイ酸ソーダの1以上、又はこれらの1以上と苛性アルカリの混合物であり、次の(a)、(b)、(c)の条件を満たすことを特徴とする地盤注入用薬液:
該地盤注入用薬液1リットル当たり、
(a)3.5>[SiO2]>0.3
(b)2.5>[SiO2]/[Na2O]>1.7
(c)5>[CaO]>0.3
ここで[SiO2]は水ガラス中のSiO2のモル濃度と可溶性アルカリ物質中のSiO2の合計のモル濃度、[Na2O]は水ガラス中のNa2Oのモル濃度と可溶性アルカリ物質をNa2O換算した合計のモル濃度、[CaO]はスラグ中のCaOのモル濃度をそれぞれ表す。
【請求項2】
前記スラグのブレーン値が8000cm2/g以上の請求項1記載の地盤注入用薬液。
【請求項3】
前記可溶性アルカリ物質が、結晶性ケイ酸ソーダ、オルソケイ酸ソーダ、又はセスキケイ酸ソーダの1以上である請求項1又は2記載の地盤注入用薬液。
【請求項4】
液状化防止または礫層注入に使用する請求項1~3のいずれかに記載の地盤注入用薬液。
【請求項5】
ゲル化時間が、0.5時間以上の範囲又は1時間以上の範囲で調節可能である請求項1~4のいずれかに記載の地盤注入用薬液。
【請求項6】
地盤中に薬液を注入して該地盤を硬化させるための地盤注入用薬液の製造方法であって、
A液として水ガラス及び可溶性アルカリ物質の水溶液と、B液としてスラグ懸濁液の組成を有する地盤注入用薬液を、次の(a)、(b)、(c)の条件を満たすよう夫々調製すること、但し、可溶性アルカリ物質は、結晶性ケイ酸ソーダ、オルソケイ酸ソーダ、又はセスキケイ酸ソーダの1以上、又はこれらの1以上と苛性アルカリの混合物である:
該地盤注入用薬液1リットル当たり、
(a)3.5>[SiO2]>0.3
(b)2.5>[SiO2]/[Na2O]>1.7
(c)5>[CaO]>0.3
ここで[SiO2]は水ガラス中のSiO2のモル濃度と可溶性アルカリ物質中のSiO2の合計のモル濃度、[Na2O]は水ガラス中のNa2Oのモル濃度と可溶性アルカリ物質をNa2O換算した合計のモル濃度、[CaO]はスラグ中のCaOのモル濃度をそれぞれ表す、
を特徴とする地盤注入用薬液の製造方法。
【請求項7】
前記スラグのブレーン値が8000cm2/g以上である請求項6記載の地盤注入用薬液の製造方法。
【請求項8】
前記可溶性アルカリ物質が、結晶性ケイ酸ソーダ、オルソケイ酸ソーダ、又はセスキケイ酸ソーダの1以上である請求項6又は7記載の地盤注入用薬液の製造方法。
【請求項9】
ゲル化時間を、0.5時間以上の範囲又は1時間以上の範囲で調節する請求項6~8のいずれかに記載の地盤注入用薬液の製造方法。
【請求項10】
地盤中に薬液を注入して該地盤を硬化させるための地盤注入硬化方法であって、
A液として水ガラス及び可溶性アルカリ物質の水溶液と、B液としてスラグ懸濁液の組成を有する地盤注入用薬液を、次の(a)、(b)、(c)の条件を満たすよう準備する工程、但し、可溶性アルカリ物質は、結晶性ケイ酸ソーダ、オルソケイ酸ソーダ、又はセスキケイ酸ソーダの1以上、又はこれらの1以上と苛性アルカリの混合物である:
該地盤注入用薬液1リットル当たり、
(a)3.5>[SiO2]>0.3
(b)2.5>[SiO2]/[Na2O]>1.7
(c)5>[CaO]>0.3
ここで[SiO2]は水ガラス中のSiO2のモル濃度と可溶性アルカリ物質中のSiO2の合計のモル濃度、[Na2O]は水ガラス中のNa2Oのモル濃度と可溶性アルカリ物質をNa2O換算した合計のモル濃度、[CaO]はスラグ中のCaOのモル濃度をそれぞれ表す、
A液、B液を混合して地盤に注入する工程
を含むことを特徴とする地盤注入硬化方法。
【請求項11】
前記スラグのブレーン値が8000cm2/g以上である請求項10記載の地盤注入硬化方法。
【請求項12】
前記可溶性アルカリ物質が、結晶性ケイ酸ソーダ、オルソケイ酸ソーダ、またはセスキケイ酸ソーダの1以上である請求項10又は11記載の地盤注入硬化方法。
【請求項13】
液状化防止または礫層注入のため1ショット、1.5ショット、又は2ショットで注入する請求項10~12のいずれかに記載の地盤注入硬化方法。
【請求項14】
ゲル化時間を、0.5時間以上の範囲又は1時間以上の範囲で調節する請求項10~13のいずれかに記載の地盤注入硬化方法。」
第3 特許異議の申立ての理由
1 特許異議申立書に記載された理由の概要
(1)申立理由1(甲1を主たる引用例とした進歩性)
本件発明1~14は、本件出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった後記2の甲第1~第4号証に記載された発明に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件発明1~14に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである。
(2)申立理由2(サポート要件)
本件特許に係る出願は、下記の点で特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たさないものであるから、本件発明1~14に係る特許は、同法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである。
本件明細書には本件発明1の(a)、(b)、(c)の数値限定の臨界的意義の根拠となる実施例あるいはデータは記載されておらず、特に、(b)について、[SiO2]/[Na2O]=2.51(甲1の表3のJIS2号)との間の臨界的意義を示す記載はなく、本件明細書の実施例1~6には「メタケイ酸ソーダ9水塩」のみを用いた場合と「メタケイ酸ソーダ9水塩」と「苛性アルカリ」を併用した場合が記載されるだけであるから、本件の特許請求の範囲に係る発明は詳細な説明に記載したものではない。
2 証拠方法
甲第1号証:特開平10-158647号公報
甲第2号証:特開平8-060153号公報
甲第3号証:特開平9-078064号公報
甲第4号証:最先端技術の薬液注入工法、第108-110頁
(以下、「甲第1号証」~「甲第4号証」をそれぞれ「甲1」~「甲4」ともいう。)
3 甲号証の記載について
(1)甲1には、次の記載がある。
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は軟弱等の地盤を固結する地盤注入工法に係り、特に、懸濁型グラウトと溶液型グラウトの両者に存する欠点をそれぞれ互いにおぎなって、均質で、かつ、高強度で耐久性に優れた固結体を得る地盤注入工法に関する。」
「【0004】
【発明が解決しようとする課題】上述のセメント-水ガラス系グラウトに存する欠点を改良するために、従来、スラグ-セメント系懸濁型グラウトや、スラグ-セメント-アルカリ剤系懸濁型グラウトが開発されている。さらには、これら系のスラグやセメントを微粒子化して浸透性、恒久性を改良した懸濁型グラウトも開発されている。
【0005】これらの懸濁型グラウトは水硬性を発現するためにはアルカリの存在が必要である。しかし、これらは実際に地下に注入した場合、グラウト中のアルカリ分が地下水の影響で急速に溶出されやすくなって水硬性を失い、このため固結体の恒久性が低下する。
【0006】さらに、上記懸濁型グラウトにおいて、グラウト中のスラグやセメントを微粒子化してもなお、溶液型グラウトのような浸透性は得られず、このため、細かい土粒子層では脈状に固結されやすくなる。したがって、これらグラウトを用いてもなお、全体が均質に固結され得ないのみならず、地下水との接触によりアルカリが溶出し、水硬性の低下を来たす。
【0007】さらに、水ガラス系と反応剤を含む溶液型グラウトも用いられている。しかし、これは浸透性は良好であるものの、高強度の固結体が得られないという欠点を有している。
【0008】そこで、本発明の目的は懸濁型グラウトと溶液型グラウトの両者に存する欠点をそれぞれ互いにおぎなって、均質で、かつ、高強度で、耐久性に優れた固結体を得る上述公知技術に存する欠点を改良した地盤注入工法を提供することにある。」
「【0013】本発明にかかる注入材Aは単独では比較的高強度を呈するが、地盤中の粗い部分にしか浸透し得ない。セメントやスラグを微粉化すれば、さらに強度は増加し、浸透性もよくなる。しかし、浸透性についてはそれでも溶液型の注入材には及ばない。
【0014】注入材Bは溶液型グラウトであって、反応剤を多くすれば、ゲル化時間が早くなり、浸透効果が得られなくなる。また、反応剤を少なくすれば、ゲル化時間は長くなり、浸透性はよいが、固結に長時間がかかりすぎて、未固結のまま逸脱してしまう懸念があり、強度も一般に小さい。」
「【0023】注入材A、Bの注入はいずれもその物性により1ショット、Y字管による1.5ショット、2ショットの注入方式を適宜選定して注入する。この場合、注入材Bは浸透性を要求するため、水ガラス液を注入後、反応剤液を注入するか、または、反応剤液を注入後、水ガラス液を注入する、いわゆる水ガラス液と反応剤液を別々に注入する。特に、この方法は注入材B自体のゲル化時間が短い場合に、浸透性を向上せしめるのに効果的である。
【0024】このような注入方式をとることにより、粗砂~砂礫および中砂のみならず、ある程度の細砂層まで浸透が可能で、懸濁型グラウトとしては浸透性が極めて優れ、かつ、懸濁型グラウトは溶液型グラウトで完全に覆われ、懸濁型グラウトのアルカリの溶出が防げるのみならず、アルカリ養生の形態となって充分な強度を示すようになる。」
「【0027】本発明に用いられる水ガラスは通常のJIS3号、珪酸ソーダの他に各種モル比のものが使用される。特に、本発明では、アルカリの存在が必要であるため、注入材Aで用いる水ガラスとしてはJIS3号、高モル比水ガラス(モル比3.4以上)の他に、特に、JIS1号、2号等の低モル比の水ガラスが効果的な場合が多い。
【0028】セメントはポルトランドセメント、スラグは高炉スラグが通常使用されるが、それ以外のセメント、スラグであってもよい。これらは、いずれも微粒子状である程よいが、ブレーン比表面積が5,000cm2/g程度を境にしてこれ以上に微粉化されると効果は著しい。
【0029】注入材Aのアルカリ材としては、無機系のアルカリ性塩(アルミン酸アルカリ金属塩、炭酸水素アルカリ金属塩、炭酸アルカリ金属塩等)、苛性アルカリ、石灰類が用いられる。
【0030】注入材Bの反応剤は水ガラス溶液をアルカリ領域で硬化せしめる反応剤であれば、いずれでもよい。一例を示せば、無機塩類、例えば、炭酸カルシウム等の炭酸塩、炭酸水素ナトリウム等の炭酸水素のアルカリ金属塩、アルミン酸のアルカリ金属塩、硫酸水素のアルカリ金属塩、アルカリ土金属の塩化物等、有機反応剤、例えば、グリオキザール等のジアルデヒド、エチレンカーボネート等の炭酸エステル、トリアセチン、ジアセチン等の多価酢酸エステル等、酸類、例えば硫酸、リン酸等である。
【0031】この中で、特に、アルミン酸のアルカリ金属塩、アルカリ土金属の塩化物等が効果的である。アルミン酸のアルカリ金属塩は各種のモル比のアルミン酸ソーダが通常使用され、特に、アルミン酸カリウムが好ましい。アルカリ土金属の塩化物はカルシウム、マグネシウムの塩化物が挙げられるが、塩化カルシウムが一般的である。」
「【0035】(2)スラグ
表2に示すブレーン比表面積を異にした2種類の高炉スラグを使用した。
【0036】
【表2】
[図:0001416508000001.jpg]
【0037】(3)水ガラス
表3に示す組成のJIS3号と2号の水ガラスを使用した。
【0038】
【表3】
[図:0001416508000002.jpg]
【0039】(4)アルカリ材および反応剤
注入材A2のアルカリ材として、アルミン酸ソーダ、炭酸水素ナトリウムおよび消石灰、注入材Bに使用する反応剤として、アルミン酸ソーダ、炭酸水素ナトリウム、塩化カルシウム、グリオキザールを用いた。
【0040】アルミン酸ソーダ:比重(20℃)1.47、Al2O319.0%、Na2O20.2%、モル比1.75の組成からなるアルミン酸ソーダ溶液。」
「【0045】2.注入材の配合と物性
(1)注入材A1およびA2
注入材A1およびA2の配合例とその物性を表4に記載する。ここで、ゲル化時間はカップ倒立法、ホモゲルの一軸圧縮強度は土質工学会基準「土の一軸圧縮試験方法」により測定した。
【0046】
【表4】
[図:0001416508000003.jpg]
【0047】表4から注入材A1のうち、セメント単独(試料No.1、2)はゲル化時間は長く、高強度を示すものの、セメントが沈降して不均一な固結体となる。スラグ単独(試料No.3、4)ではスラグが沈降し、しかも未固結状態のままである。」
「【0052】使用する水ガラスはアルカリの比率が高い低モル比のJIS2号はJIS3号の場合に比べてゲル化時間は短縮し、強度は増大していることがわかる。(試料No.10と11、14と15)。すなわち、セメント、スラグとの反応性が高いことを示している。」
「【0055】
【表5】
[図:0001416508000004.jpg]
【0056】表5から、注入材Bは溶液型でいずれもアルカリ性を呈し、ホモゲルの強度は水ガラス、反応剤の濃度にもよるが、有機系のグリオキザールの場合(試料No.23、24)でもせいぜい2kgf/cm2程度で、一般に低強度である。反面、反応剤の量によりゲル化時間は短時間から長時間の広範囲に及んでいる。
【0057】3.注入試験
表4の注入材A1またはA2、表5の注入材Bについて、本発明にかかるA1とB、A2とBの組合せによる注入を図1に示す実験室での注入装置を用いて注入試験を行う。対照として注入材A1、A2、B単独の注入試験を行い、本発明の場合と比較する。」
「【0060】注入試験1
注入材A1およびA2とを注入後に注入材Bを注入、または注入材Bを注入後に注入材A1あるいはA2を注入。使用した注入材A1またはA2と注入材Bの組合せならびに生成固結体のおおよその一軸圧縮強度および浸透状態を表6に示す。注入材A1またはA2と注入材Bの注入比率は対象地盤により適宜選定でき、ここでは等量注入とした。」
「【0063】
【表6】
[図:0001416508000005.jpg]
【0064】表6より、本発明に係る注入工法では、スラグ、セメントが微粒子化されていない場合(実験No.1、5、7)は浸透性にやや欠ける部分がみられるが、未固血部分はなく、全般に浸透性に優れ、強度的には、スラグ、セメント、水ガラス、アルカリ材、反応剤の量にも左右されるが高強度を示す。」
「【0071】本発明にかかる表6の注入試験結果ではいずれも高い強度を示すとともに浸透性においても優れている。特に、スラグ、セメントのブレーン比表面積が5,000cm2/g以上の微粒子状の場合(実験No.2、3、4、6、8、9、10)は強度、浸透性ともに一段と優れている。
【0072】このように本発明の地盤注入工法は懸濁型グラウトと溶液型グラウトに存する欠点を互いにおぎなって、それぞれの長所のみを互いに助長して高強度で、しかも細粒土層にも充分浸透し、注入対象地盤全体を均質に固結せしめ得る。したがって、優れた耐久性、止水性にも期待がもてる。」
(2)甲2には、次の記載がある。
「【0008】そこで、本発明の目的は一次注入材としてゲル化時間の短い懸濁型グラウトを用い、二次注入材としてゲル化時間の長い微粒子スラグを主成分とするグラウトを用い、二次注入材を一次注入材による拘束効果のもとに注入し、これにより二次注入材は懸濁型でありながら、従来の溶液型にほぼ比適するような浸透性をもって注入され、従来の無機系や有機系水ガラスグラウトでは全く期待できないような高強度で均質な固結を得、上述の公知技術に存する欠点を改良した地盤注入工法を提供することにある。
【0009】
【問題点を解決するための手段】前述の目的を達成するため、本発明によれば、一次注入材と二次注入材を地盤中に注入して該地盤を固結する地盤注入工法において、前記一次注入材がセメントおよび/またはスラグを主成分とし、平均粒径が大きく、かつゲル化時間の短い注入材であり、前記二次注入材がスラグを主成分とし、平均粒径が前記一次注入材に用いられるものよりも小さく、かつゲル化時間が前記一次注入材よりも長い注入材であることを特徴とする。」
「【0012】前記二次注入材はスラグを主成分とし、これに必要に応じて水ガラス、アルカリ剤、セメント、反応剤等を混合してなるゲル化時間が一次注入材よりも長いグラウトである。ここで用いられるスラグは平均粒径が一次注入材に用いられるものよりも小さいものである。」
「【0017】さらに、上述の水ガラスとしては、広範囲のモル比が使用できる。特に、二次注入材に用いられる水ガラスはモル比が2.8以下、好ましくは2.8~1.0、さらに好ましくは2.8~1.5のものが強度の点から好ましい。しかし、モル比が2.8以上のものでも、スラグとの反応性が劣るため強度的には低くなるものの、得られる注入材のゲル化時間は極めて長くなり、これにアルカリ剤を加えれば、反応性が高くなって、高強度の固結体が得られ、また、得られる注入材のゲル化時間も容易に調整し得る。
【0018】また、アルカリ剤としては苛性アルカリ、アルミン酸のアルカリ金属塩、石灰、重炭酸塩、炭酸塩、縮合リン酸系を含むリン酸塩等が挙げられる。
【0019】このうち、重炭酸塩、縮合リン酸系を含むリン酸塩は水ガラス-微粒子スラグ系において、水ガラスのモル比が2.8以上では、一般に、ゲル化時間の促進剤として作用し、モル比が2.8以下では、ゲル化時間の遅延剤として作用する。
【0020】また、アルミン酸のアルカリ金属塩は単独で、あるいは水ガラスとの併用により、カルシウムとの反応によって、または、このアルカリ分がアルミナとスラグの潜在水硬性を刺激してスラグを固化せしめて固結体の強度を向上せしめる。
【0021】さらに、消石灰系のアルカリ剤は水ガラスのアルカリ分が増大すると、得られる注入材の粘性を高めることになり、このため、浸透性を大幅に低下させるが、微量の場合には、ゲル化時間の促進剤として作用する。
【0022】水ガラスと炭酸カルシウムの反応は水ガラスのアルカリが非常に高くないと(通常モル比が1.0以下)反応性に乏しい。これは炭酸カルシウムが消石灰になって、水ガラスと反応するには多量のアルカリを必要とするからである。
【0023】なお、上述のアルカリ剤はスラグの潜在水硬性を刺激して水ガラスの存在なくしてスラグを固化せしめるが、特に、これは微粒子スラグとの反応性に優れている。
【0024】さらに、本発明では、注入材のゲル化時間を調整するために、エステル類、アルデヒド類、アミド類、アルコール類、酸類、その他の無機、有機の反応剤、酸性珪酸水溶液等のゲル化促進剤、フライアッシュ、珪華、珪藻土、白土類ホワイトカーボン等のポゾラン類を併用することもでき、また、ゲル化時間が非常に長時間を要して沈降のおそれがある系では分散剤を少量併用してもよい。」
「【0025】上述の一次注入材および二次注入材はそれぞれ、地盤中に一次注入材を注入の後、二次注入材を注入するか、あるいは同時に注入する。
【0026】
【作用】スラグに水ガラスのアルカリ、アルミン酸のアルカリ金属塩のアルカリ、セメントのアルカリ、消石灰のアルカリ、苛性アルカリ等が作用すると、スラグがスラグ本来の潜在水硬性を発揮するようになる。これはこれらのアルカリによる刺激作用でスラグが硬化することによるが、スラグを微粒子化することによりこれらの作用が大幅に増大する。
【0027】スラグとセメントでは、セメントが多量の場合はセメント自体の自硬性によってもちろん硬化するが、セメント量が少なく、スラグの量が多くなると、セメントのアルカリ分が少なくなり、スラグ自体が硬化しにくくなる。ここでスラグを微粒子化して反応接触面を大きくすることによって徐々に両粒子間での硬化作用が進行していくものと思われる。
【0028】上記系への水ガラスの添加は、水ガラスのアルカリ分がスラグの潜在水硬性を刺激してスラグからカルシウムイオンが遊離され、このカルシウムイオンが水ガラスのSiO2とも反応するとともに、セメント自体の自硬性と相俟って固結強度の大きな固結体を形成するものである。
【0029】水ガラスとしては如何なるモル比のものでももちろん以上のような効果を発揮するが、アルカリ分の量的関係からモル比が2.8以下好ましくは2.8~1.0さらに好ましくは2.8~1.5付近のものが水ガラスと微粒子スラグの系における注入工法に最も適切なゲル化時間の領域で、かつ高強度をうる。
【0030】また、微粒子セメントを併用する場合、セメントとスラグ間の親和性を高めて、上記反応を誘起せしめるのにより適しているものと考えられる。」
「【0033】
【表1】
[図:0001416508000006.jpg]
」
「【0036】(3)水ガラス
表3に示すモル比を異にした5種類の水ガラスを使用した。
【0037】
【表3】
[図:0001416508000007.jpg]
」
「【0047】
【表4】
[図:0001416508000008.jpg]
」
「【0052】
【表5】
[図:0001416508000009.jpg]
」
「【0055】d~mでは、水ガラスのモル比が2.75~1.52であり、スラグは微粒子状のもので、モル比2.01のe~jをはさんで、何れも殆どの系においてチキソトロピックな現象を起こすことなく、低粘性で強度も強化されている。」
「【0059】以上の結果から、二次注入材としては、平均粒子径が10μm以下で比表面積が5000cm2/g以上の微粒子スラグと、モル比が2近辺を中心とした水ガラスをベースとして、アルカリ材によってゲル化時間、粘性の調整をはかることにより、粘性の大幅な上昇はみられず、溶液型グラウトにはみられない高強度が得られることが明らかになった。」
(3)甲3には、次の記載がある。
「【0007】さらに、水ガラスのようなアルカリ分と、微粉化スラグとを混合してなるグラウトも開発されている。この場合、水ガラスとして低モル比のものを用いることにより、上記スラグの潜在水硬性が発現される。
【0008】しかし、この系の混合液に海水を用いた場合、ゲル化時間が短縮されてしまい、充分に長いゲル化時間を保持し得ないという問題が生じる。しかも、海水を用いた場合、重炭酸塩や炭酸塩等のゲル化遅延剤が機能しなくなる。特に、水温が高くなると、この傾向が著しくなる。」
「【0013】
【発明の実施の形態】本発明に用いられる水ガラスはモル比約4位以下の任意の水ガラス、粉状水ガラス、メタ珪酸ソーダ等であるが、好ましくはモル比2.8以下の水ガラス、さらに好ましくはモル比2.0以下の水ガラスである。また、任意のモル比の水ガラスに苛性アルカリを添加してモル比2.8以下に調整された水ガラスであってもよい。
【0014】本発明に用いられる上述スラグは海水の存在下、あらかじめ少量の水ガラス、例えば、水ガラス純分で約5重量%以下、好ましくは0.1~3重量%の水ガラスの混合されたスラグである。水ガラスが5重量%以上になると、スラグと直ちに反応してしまい、遅延剤として機能しなくなる。ここに用いられる水ガラスとしては、モル比2.8以下のものが好ましく、また、スラグとしては高炉スラグである。
【0015】高炉スラグは通常、酸化カルシウムを20~50重量%含み、90%以上がガラス質である。この粒度は通常、ブレーン比表面積が3000~4000cm2/gであるが、本発明に用いられるスラグは6000cm2/g以上、特に8000cm2/g以上が好ましい。これは水ガラスに含まれるアルカリとの反応性を向上せしめ、良好な固結性を得るためである。」
「【0019】〔実験例1〕本実験に用いられる材料として、表2に示される各種水ガラス(a-1、a-2、a-3、a-4)、表3に示される各種スラグ(b-1、b-2、b-3、b-4)、表4に示される各種助剤(c-1、c-2、c-3、c-4、c-5、d-1)、水道水(e-1)および海水(e-2)を用い、表5の実験No.1~39に示される配合に従って、A液およびB液を調製し、これらAB合流液のゲル化時間を測定し、結果を表5に示した。
【0020】
【表2】
[図:0001416508000010.jpg]
【0021】
【表3】
[図:0001416508000011.jpg]
【0022】表3において、平均粒径は粒径分布の累積値が50%を示す粒径、すなわち、メジアン径で表し、粒度分布幅は分布の上下それぞれ2.5%づつを除外した全粉体の95%を占める粒径の範囲を示す。
【0023】また、表3におけるスラグはいずれも、SiO2:33.02%、CaO:41.94%、Al2O3:12.83%、MgO:8.61%、Fe2O3:0.37%の組成を有するものである。
【0024】
【表4】
[図:0001416508000012.jpg]
【0025】
【表5】
【0026】(注)表5の記号の説明
(1)a-1、a-2、a-3、a-4はそれぞれ表2に示される水ガラス。
(2)b-1、b-2、b-3、b-4はそれぞれ表3に示されるスラグ。
(3)c-1、c-2、c-3、c-4、c-5はそれぞれ表4に示される助剤1。
(4)d-1は表4に示される助剤2。
(5)e-1は水道水。
(6)e-2は海水。
【0027】表5において、A液およびB液はそれぞれ、ミキサーからサンプリングし、混合してゲル化するまで攪拌しつづけた。
【0028】なお、表5のA液およびB液は実際の地盤注入に当たっては、両者を混合して一液として注入してもよく、また、両者を別々にポンプで送液し、合流混合して注入してもよい。あるいはまた、混合槽中で、あらかじめスラグと海水と少量の水ガラスを混合しておき、これに水ガラス水溶液を投入して混合し、一液として注入してもよい。あるいはさらに、水ガラスと海水を混合しておき、これにスラグと少量の水ガラスを含む混合液、あるいはスラグと海水と少量の水ガラスを含む混合液を投入して作液してもよく、現場状況に合わせて任意の混合方法を採用することができる。」
「【表5】
[図:0001416508000013.jpg]
【表5】
[図:0001416508000014.jpg]
」
(4)甲4には、次の記載がある。
「
[図:0001416508000015.jpg]
」
「
[図:0001416508000016.jpg]
」
第4 当審の判断
以下に述べるとおり、当審は、申立書に記載した申立ての理由によっては、請求項1~14に係る特許を取り消すことはできない。
1 申立理由1(甲1を主たる引用例とした進歩性)
(1) 甲1に記載された発明
甲1(前記第3の3(1)参照。)の【0001】、【0036】【表2】、【0038】【表3】、【0040】、【0046】【表4】試料No.4の注入材A1と【0055】【表5】試料No.17の注入材Bからなる【0063】【表6】実験No.3、及び、【0060】の記載から、甲1には次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているものと認められる。
(甲1発明)
「軟弱等の地盤を固結するために使用される、全容1000ml当たりJIS3号水ガラス200mlとアルミン酸ソーダ溶液を20ml含有する注入材Bと、全容1000ml当りスラグ400gと残り水を含有する注入材Aとを等量注入してなる地盤注入用注入材」
(2) 本件発明1
ア 対比に先立ち、甲1発明の地盤注入用注入材全容1000ml当たりの[SiO2]、[Na2O]、[CaO]について検討する。
(ア) 甲1発明の注入材Bについて
甲1の【0038】【表3】によれば、水ガラスJIS3号は、比重が1.39であり、SiO2を29wt%及びNa2Oを9.4wt%含むものであるから、甲1発明の注入材Bは、水ガラスJIS3号に由来するSiO2を200×1.39×29×10-2=80.62(g)とNa2Oを200×1.39×9.4×10-2=26.13(g)含むものである。
また、甲1の【0040】によれば、アルミン酸ソーダは、比重が1.47であり、Na2Oを20.2wt%含むものであるから、甲1発明の注入材Bは、アルミン酸ソーダ由来のNa2Oを20×1.47×0.202=5.94(g)含むものである。
したがって、甲1発明の注入材Bは、1000ml当たりSiO2を80.62g、Na2Oを32.07g含むものと認められる。
(イ) 甲1発明の注入材Aについて
スラグ中のCaO濃度は42%程度であることが技術常識であるから、甲1発明の注入材Aは、1000ml当たりCaOを400×0.42=168(g)程度含むものと認められる。
(ウ) 甲1発明の[SiO2]、[Na2O]及び[CaO](モル濃度)について
甲1の【0060】から、甲1発明の注入材AとBは等量注入されるものであるから、注入材AとB合計1000ml当たりの[SiO2]、[Na2O]、[CaO]は、[SiO2]=80.62/2/60.08=0.67、[Na2O]=32.07/2/62=0.26、[CaO]=168/2/57.07=1.47であり、[SiO2]/[Na2O]=2.58である。
イ 対比
本件発明1と甲1発明を対比する。
甲1発明の「アルミン酸ソーダ」が可溶性のアルカリ物質であることは技術常識であり、甲1発明の「軟弱等の地盤を固結するために使用される、」「地盤注入用注入材」は本件発明1の「地盤中に薬液を注入して該地盤を硬化させるための地盤注入用薬液」に相当する。
前記アのとおり、甲1発明は1000ml当たりの[SiO2]が0.67であり[CaO]が1.47であるから、本件発明1の「(a)3.5>[SiO2]>0.3」及び「(c)5>[CaO]>0.3
ここで[SiO2]は水ガラス中のSiO2のモル濃度と可溶性アルカリ物質中のSiO2の合計のモル濃度、[CaO]はスラグ中のCaOのモル濃度をそれぞれ表す。」を充足する。そうすると、両者は、
「地盤中に薬液を注入して該地盤を硬化させるための地盤注入用薬液であって、A液として水ガラス及び可溶性アルカリ物質の水溶液と、B液としてスラグ懸濁液の組成を有し、次の(a)、(c)の条件を満たすことを特徴とする地盤注入用薬液:
該地盤注入用薬液1リットル当たり、
(a)3.5>[SiO2]>0.3
(c)5>[CaO]>0.3
ここで[SiO2]は水ガラス中のSiO2のモル濃度と可溶性アルカリ物質中のSiO2の合計のモル濃度、[CaO]はスラグ中のCaOのモル濃度をそれぞれ表す。」の点で一致し、以下の点で相違するものである。
<相違点1-1>
本件発明1は可溶性アルカリ物質が「結晶性ケイ酸ソーダ、オルソケイ酸ソーダ、又はセスキケイ酸ソーダの1以上、又はこれらの1以上と苛性アルカリの混合物」であるのに対して、甲1発明では「アルミン酸ソーダ」である点。
<相違点1-2>
本件発明1は「(b)2.5>[SiO2]/[Na2O]>1.7
ここで[SiO2]は水ガラス中のSiO2のモル濃度と可溶性アルカリ物質中のSiO2の合計のモル濃度、[Na2O]は水ガラス中のNa2Oのモル濃度と可溶性アルカリ物質をNa2O換算した合計のモル濃度をそれぞれ表す。」のに対して、甲1発明では[SiO2]/[Na2O]が2.59である点。
ウ 検討
(ア) 相違点1-1について
甲1には、注入材Bの反応剤としては様々な種類のものが記載されているものの(【0030】、【0031】)、結晶性ケイ酸ソーダ、オルソケイ酸ソーダ、又はセスキケイ酸ソーダの1以上、又はこれらの1以上と苛性アルカリの混合物を反応剤として用いることは記載されておらず、それらを反応剤として用いることを動機付ける記載もなされていない。甲4の表2.3に低モル水ガラスとしてオルソケイ酸ソーダ、セキス(当審注:セスキの誤記と認められる)ケイ酸ソーダ、メタケイ酸ソーダが記載されていることは、甲1発明において反応剤としてこれらを用いることを動機付けるものでもない。
したがって、甲1発明において、アルミン酸ソーダにかえて、または、アルミン酸ソーダに加えて、結晶性ケイ酸ソーダ、オルソケイ酸ソーダ、又はセスキケイ酸ソーダの1以上、又はこれらの1以上と苛性アルカリの混合物を用いることを当業者が容易に想到したとはいえない。
(イ)相違点1-2について
甲2には、水ガラスそのものは反応剤として記載されていないことに加え、ゲル化時間を調整し得るものとして例示されているのは、苛性アルカリ、アルミン酸のアルカリ金属塩等(【0018】~【0024】)である。甲2には、加えて「前記二次注入材はスラグを主成分とし、これに必要に応じて水ガラス、アルカリ剤、セメント、反応剤等を混合してなるゲル化時間が一次注入材よりも長いグラウトである。ここで用いられるスラグは平均粒径が一次注入材に用いられるものよりも小さいものである。」(【0012】)及び「水ガラスとしては、広範囲のモル比が使用できる。特に、二次注入材に用いられる水ガラスはモル比が2.8以下、好ましくは2.8~1.0、さらに好ましくは2.8~1.0、さらに好ましくは2.8~1.5のものが強度の点から好ましい。しかし、モル比が2.8以上のものでも、スラグとの反応性が劣るため強度的には低くなるものの、得られる注入材のゲル化時間は極めて長くなり、これにアルカリ剤を加えれば、反応性が高くなって、高強度の固結体が得られ、また、得られる注入材のゲル化時間も容易に調整し得る。」(【0017】)と記載され、【0047】表4ニには、A液(モル比2.01の水ガラス)とB液(8300cm2/gのスラグとセメント)からなる一次注入材、【0052】表5e~jにはモル比2.01の水ガラス、8300cm2/gのスラグ、アルカリ剤、セメント等を含む二次注入材が記載されている。
また、甲3には「さらに、水ガラスのようなアルカリ分と、微粉化スラグとを混合してなるグラウトも開発されている。この場合、水ガラスとして低モル比のものを用いることにより、上記スラグの潜在水硬性が発現される。」(【0007】)および「しかし、この系の混合液に海水を用いた場合、ゲル化時間が短縮されてしまい、十分に長いゲル化時間を保持し得ないという問題が生じる」(【0008】)と記載されるように、甲3は海水を混合した系において「本発明に用いられる水ガラスはモル比約4位以下の任意の水ガラス、粉状水ガラス、メタ珪酸ソーダ等であるが、好ましくはモル比2.8以下の水ガラス、さらに好ましくはモル比2.0以下の水ガラスである。また、任意のモル比の水ガラスに苛性アルカリを添加してモル比2.8以下に調整された水ガラスであってもよい。」(【0013】)と記載するものであり、甲3の表5実験No.14と37を比較すると、B液(スラグ液)にc-5(モル比1.03のメタ珪酸ソーダ)を加えたNo.37の方がゲルタイムは長くなっている。
しかしながら、これらの甲2及び甲3の記載に接した当業者が、高強度を示し、かつ、ほぼ全域への充分な浸透性という効果が既に達成されている【表6】に開示される甲1発明において、甲2に記載のモル比2.01や2.8~1.5の水ガラスを採用することや、モル比を1.7超かつ2.5未満とすることを動機付けられたとはいえない。
以上のとおりであるから、甲1発明において、相違点1-2に係る本件発明1の発明特定事項を採用することは、当業者が容易に想到し得たものではない。
(ウ) 小括
したがって、本件発明1は、甲1に記載された発明及び甲1~甲4に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(3) 本件発明2~5
本件発明2~14は、いずれも本件発明1を全て包含し、それぞれ個別の技術事項を追加したものである。そうすると、本件発明2~5は、前記(2)に示した理由と同様の理由により、甲1に記載された発明及び甲1~甲4に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(4) 本件発明6
本件発明6は、本件発明1の地盤注入用薬液の製造方法に係る発明であるから、前記(2)に示した理由と同様の理由により、甲1に記載された発明及び甲1~甲4に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(5) 本件発明7~9
本件発明7~9は、いずれも本件発明6を全て包含し、それぞれ個別の技術事項を追加したものである。そうすると、本件発明7~9は、前記(4)に示した理由と同様の理由により、甲1に記載された発明及び甲1~甲4に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(6) 本件発明10
本件発明10は、本件発明1の発明特定事項を全て包含し、「A液、B液を混合して地盤に注入する工程を含むことを特徴とする地盤注入硬化方法との発明特定事項を追加したものである。そうすると、本件発明10は、前記(2)に示した理由と同様の理由により、甲1に記載された発明及び甲1~甲4に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(7) 本件発明11~14
本件発明11~14は、いずれも本件発明10を全て包含し、それぞれ個別の技術事項を追加したものである。そうすると、本件発明11~14は、前記(6)に示した理由と同様の理由により、甲1に記載された発明及び甲1~甲4に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
2 申立理由2(サポート要件)について
(1) 本件発明1の「可溶性アルカリ物質」および「モル比」について
ア 申立人の主張(特許異議申立書の22頁下から6行~23頁上から6行)
本件明細書には本件発明1の(a)、(b)、(c)の数値限定の臨界的意義の根拠となる実施例あるいはデータは記載されておらず、特に、(b)について、[SiO2]/[Na2O]=2.51(甲1の表3のJIS2号)との間の臨界的意義を示す記載はない。また、本件明細書の実施例1~6では「メタケイ酸ソーダ9水塩」のみを用いた場合と「メタケイ酸ソーダ9水塩」と「苛性アルカリ」を併用した場合が記載されるだけであり、オルソケイ酸ソーダ、セスキケイ酸ソーダの実施例はなく、少なくとも「結晶性ケイ酸ソーダ、オルソケイ酸ソーダ、又はセスキケイ酸ソーダ」の2以上を用いる場合は記載されておらず、本件の特許請求の範囲に係る発明は詳細な説明に記載したものではない。
イ 当審の判断
本件発明は、「水ガラスとスラグと、アルカリ剤としてアルミン酸アルカリを用いる注入薬液は、アルミン酸ソーダが、2019年に劇物指定となって使用できなくなった。そのためにそれに代わるものとして劇物を用いないで同等以上の性能を有する地盤注入用薬剤及び地盤注入硬化方法が求められている。・・・懸濁物質としてはスラグを主体とし、水ガラスを使用しても(特に1時間オーダの)長いゲルタイムが調整可能な、液状化防止にも安心して(即ち、劇物を使用することなく)使用できる地盤注入用薬液を提供することを目的とする。本発明は他の一視点において、同様な地盤注入硬化方法を提供することを目的とする。」(本件特許の明細書の【0009】、【0010】参照。)との記載から、長いゲルタイムが調整可能な、液状化防止にも安心して(即ち、劇物を使用することなく)使用できる地盤注入用薬液を提供することを解決しようとする課題とするものと認められる。
オルソケイ酸ソーダやセスキケイ酸ソーダは、本件実施例で用いられるメタケイ酸ソーダ9水塩と同様に結晶性ケイ酸ソーダとして周知の化合物であり、当業者であればメタケイ酸ソーダ9水塩と同様の作用を奏すると認識し得るものである。
また、モル比についても、本件特許の明細書の【0026】実施例4および【図1】、並びに、【0028】実施例6および【図2】、から、メタケイ酸ソーダ9水塩の添加量を増やす(すなわち本件発明1(b)のモル比を減少させる)とゲルタイムが短くなる傾向が理解でき、例えば図1に記載される例ではモル比2.15~2.04程度、図4に記載される例では2.15~2.01程度であるところ、本件明細書の【0015】において「水ガラスと可溶性アルカリ合計のモル比は、2.8以上ではスラグを刺激できず強度増加を期待できない。また、1.7以下ではゲルタイムが短い傾向がある」と記載されることからも、当業者であれば、2.5>[SiO2]/[Na2O]>1.7において前記課題が解決されると理解するものと認められる。
このように、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載された事項及び本件出願時の技術常識に基づき、当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるから、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載された発明である。
(2)本件発明2~14について
本件発明1において、さらにスラグのプレーン値やゲル時間等を特定する本件発明2~5、これらの製造方法に係る発明である本件発明6~9、及び、これらの地盤注入用薬液を用いる地盤注入硬化方法に係る発明である本件発明10~14についても、本件発明1について(1)にて検討したとおりの理由から、発明の詳細な説明に記載された発明である。
(3) 小括
したがって、本件発明1~14は、発明の詳細な説明に記載された発明である。
第5 むすび
以上のとおりであるから、異議申立人による特許異議申立書の理由及び証拠によっては、本件特許の請求項1~14に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1~14に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2024-700581