特許異議申立
2022-700757
地盤注入工法並びに注入材
- 審判番号
- 2022-700757
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2018-144399
- 登録番号
- 6992981
- 請求日
- 2022年08月03日
- 審決日
- 2022年11月07日
- 公報発行日
- 2022年12月28日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】強化土エンジニヤリング株式会社
- 【権利者代理人】久門 享
- 【権利者代理人】久門 保子
- 【異議申立人】伊藤 裕美
- 審判長/審判官
- 審判長 住田 秀弘
- 審判官 北川 創
- 審判官 前川 慎喜
- 分類
- P1651.121-Y (E02D)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6992981号発明「地盤注入工法並びに注入材」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6992981号の請求項1~14に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第6992981号(以下「本件特許」という。)に係る特許出願は、平成30年7月31日に出願され、令和3年12月13日にその特許権の設定登録がされ、令和4年2月3日に特許掲載公報が発行されたものである。
その後、令和4年8月3日に特許異議申立人伊藤 裕美(以下「申立人」という。)により特許異議申立書(以下「申立書」という。)が提出され、請求項1~14に係る発明の特許に対して特許異議の申立てがされた。
第2 本件特許発明
1 本件特許発明
本件特許の請求項1~14に係る発明(以下、それぞれ「本件特許発明1」~「本件特許発明14」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1~14に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
【請求項1】
地盤注入材を地盤の削孔内に設置した注入管の吐出口から注入して地盤改良する地盤注入工法において、前記地盤注入材は、pHは1~10であって、シリカコロイド又は水ガラスのいずれか1種又は複数種を反応剤として、酸或いは塩のいずれか1種或いは複数種を有効成分とし、かつシリカ濃度は0.4~40wt%、シリカのモル比は2.0~100、ゲル化時間は瞬結から10000分の配合から選定したシリカ注入液であって、該シリカ注入液のゲル化時間を(GT0)、該シリカ注入液と現場土を混合したゲル化時間を土中ゲル化時間(GTS0)として1ステージ当たりの注入時間を(H)とすると、β=H/GTS0=100~0.001とし、地盤状況、注入孔間隔、ステージ長、並びに単位ステージ当りの注入量に応じて、GT0>H≧GTS0又はGT0>GTS0≧Hとなるように、該シリカ注入液のゲル化時間(GT0)とシリカ濃度からなる配合処方を用い、施工条件を以下の範囲で設定するものとし、該シリカ注入液の配合処方は以下の手順を行うことにより、注入範囲外への逸脱を低減することを特徴とする地盤注入工法。
(施工条件)
(1)注入速度は限界浸透注入速度内とする。
(2)注入孔間隔又は固結径L=1~3m
(3)毎分注入速度q=1~30L/min ただし、限界浸透注入速度内とする。
(4)1ステージ長:0.33m~3.0m
(5)1ステージ当たりの注入時間(H) 4.4~10000分
(6)気中ゲル化時間(GT0)10分~10000分
(7)気中pH(PH0)1~10
(8)シリカ濃度0.4~40%(重量%)
(9)土中ゲル化時間(GTS0) 10分~3000分
(10)β=H/GTS0=100~0.001
ここで限界浸透注入速度内とは、割裂注入領域の限界よりも小さい浸透注入速度をいう。
(シリカ注入液の配合処方の手順)
(1)地盤注入の対象となる土を用いて注入対象地盤の密度で要求される固結土の強度が得られるシリカ濃度を設定する。
(2)要求される固結土の強度が得られるシリカ濃度を用いて、pH或いは添加剤に対応したゲル化時間(GT0)を有するシリカ注入液を調整する。
(3)その配合液を注入対象地盤の現場土と混合して、土中ゲル化時間(GTS0)を測定する。
(4)設定した注入孔間隔、注入方式、1注入ステージ長より単位ステージの固結対象土量を設定する。
(5)単位ステージの固結対象土量から注入量を設定し、浸透可能限界内の注入速度から単位ステージ当たりの注入時間(H)を設定する。
(6)地盤状況、注入孔間隔、ステージ長、並びに単位ステージ当りの注入量に応じて、GT0>H≧GTS0又はGT0>GTS0≧Hとなる該シリカ注入液のゲル化時間(GT0)とシリカ濃度からなる配合処方を設定する。
【請求項2】
請求項1に記載の地盤注入工法であって、前記注入管は、削孔内に充填したシールグラウト内に固定される注入外管と該注入外管に挿入して上下に摺動する一本又は複数本の注入液送液管路を有する注入内管からなり、前記シリカ注入液は、前記シールグラウトを破って地盤に注入することを特徴とする地盤注入工法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の地盤注入工法において、前記シリカ注入液は、以下の条件を満たす柱状浸透注入によって注入することを特徴とする地盤注入工法。
(1)1ステージ当たりの注入量132l~10,800l
(2)注入速度10l~30l/min
(3)1ステージ当たりの注入時間4.4分~1080分
(4)土中ゲル化時間(GTSO)=10~3000分
(5)β=H/GTSO=100~0.001
【請求項4】
請求項1または2に記載の地盤注入工法おいて、前記シリカ注入液は、以下のいずれか又は複数の注入方式によって、地盤に注入することを特徴とする地盤注入工法。
(1)点注入
(2)多点注入
(3)柱状注入
(4)袋パッカ注入
(5)多点同時注入
(6)多ステージ同時注入
(7)多ステージ選択注入
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の地盤注入工法において、前記シリカ注入液を注入するのに先立って、懸濁型グラウト或いは瞬結型グラウトを注入することを特徴とする地盤注入工法。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の地盤注入工法において、前記シリカ注入液は、一次注入材を注入した後、二次注入材として注入することを特徴とする地盤注入工法。
【請求項7】
請求項2に記載の地盤注入工法において、前記注入外管は、削孔内に充填されたシールグラウト内に設置され、前記シールグラウトは以下のいずれかのグラウトであることを特徴とする地盤注入工法。
(1)カルシウムアルミネートを有効成分とする懸濁型グラウト。
(2)高分子増粘剤を有効成分とするグラウト。
(3)粘土を有効成分とする懸濁型グラウト。
(4)セメント・ベントナイトを有効成分とする懸濁型グラウト。
【請求項8】
請求項2に記載の地盤注入工法において、前記注入外管の吐出口は、弾性逆止弁又は透水性被覆膜又は水溶性高分子フィルム又は縦方向に亀裂を生ずるフィルムで覆われていることを特徴とする地盤注入工法。
【請求項9】
請求項1に記載の地盤注入工法において、前記シリカ注入液は、二重管ロッドを用いて瞬結型グラウトによる一次注入を行って後、浸透性グラウトの二次注入として注入することを特徴とする地盤注入工法。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載の地盤注入工法の注入管理方法において、以下のいずれか又は複数のデータを現場集中管理装置又は情報管理センターサーバーにデータを蓄積し、施工現場からのデータを既存のデータと共に解析し、その結果を直接又はインターネットで施工現場にフィードバックするものとし、或いは解析の結果、目的とする注入が行われていないと判断した場合、注入の補正を施工現場に指示して確実な施工を行わせしめ、又はその情報を現場の集中管理装置に送信して、或いは注入の自動化を行うものとし、その情報過程をデータ情報センター又はクラウドで管理し、リアルタイム又は必要な任意の時点で開示できるようにしたことを特徴とする地盤注入工法の注入管理方法。
(1)注入地盤データ並びに削孔データ
(2)注入装置データ
(3)計測装置と計測データ
(4)注入液のデータ
(5)注入工法のデータ
(6)注入計画データ
(7)注入前後の試験データ
(8)注入データ
(9)追加注入データ
(10)環境データ
(11)注入効果の確認データ
ただし、上記において、薬液注入とはシリカ注入液或いはシリカを含有する懸濁型注入液の注入をいう。
【請求項11】
請求項1~9のいずれか一項に記載の地盤注入工法の注入管理方法において、注入圧力、注入速度、注入量、浸透状況に関するデータを三次元的に画面表示で可視化して所定の注入領域における注入状況をリアルタイムで、或いは注入結果を把握し、注入圧力および/または流量の少なくとも一つの設定範囲を満たしていない部分を見出した場合は、その部分に再注入することを特徴とする地盤注入工法の注入管理方法。
【請求項12】
請求項1~9のいずれか一項に記載の地盤注入工法であって、削孔に充填したシールグラウト中に設けた注入管の管壁に袋パッカを形成する袋体を間隔をあけて複数個取り付け、かつ、前記袋体の内部ならびに上下に隣接する前記袋体間に開口する吐出口を備えた注入管装置を地盤中に設けられた削孔中に挿入し、次いで前記袋体の内部に開口する吐出口から前記袋体中に硬化性懸濁液を充填し、膨らませて袋パッカを形成するとともに、前記上下に隣接する前記袋体間に開口する吐出口から前記シリカ注入液を注入して前記シールグラウトを破って前記地盤を固結することを特徴とする地盤注入工法。
【請求項13】
請求項12に記載の地盤注入工法であって、前記袋パッカ中への固結材の充填は削孔内におけるシールグラウトの充填後、或いは前記シールグラウトの充填工程の途中で行うことを特徴とする地盤注入工法。
【請求項14】
請求項1に記載の地盤注入工法であって、吐出口を有する注入管を複数本、前記削孔に充填したシールグラウト中に設け、それぞれの注入管からの注入を集中管理装置で制御して同時に又は選択的に地盤に注入することを特徴とする地盤注入工法。
第3 特許異議申立理由の概要
申立人は、本件特許発明1~14に対して、証拠として甲第1号証~甲第11号証を提出し、次の特許異議申立理由を申し立てている。
本件特許発明1は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に想到し得た発明であるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
本件特許発明2~14は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明、及び甲第3号証~甲第11号証に記載された周知技術に基づいて、当業者が容易に想到し得た発明であるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
2 証拠
申立人が特許異議申立書に添付して提出した証拠(甲第1号証~甲第11号証。以下「甲1」~「甲11」という。)は、以下のとおりである。
甲1:特許4437481号公報
甲2:特開2014-1618号公報
甲3:特開2013-113086号公報
甲4:特開2002-60748号公報
甲5:特開2014-177746号公報
甲6:特開2016-75096号公韻
甲7:特開2012-188831号公報
甲8:特開2016-166529号公報
甲9:特開2009-180078号公報
甲10:特開2017-40079号公報
甲11:浸透固化処理工法技術マニュアル,財団法人沿岸開発技術研究センター,平成15年3月,p.1-2,40-44,48-49,51,94-96,105-106
第4 証拠の記載
1 甲1
(1)記載事項
甲1には、以下の事項が記載されている(下線は当審で付した。)。
「【0023】
注入孔間隔が従来の注入孔間隔1mの場合よりも大きくなるにつれ、浸透している注入液の先端部は新しい土との反応でpHは上昇するものの浸透面積は急激に増大し、注入液の注入圧の圧力勾配が大幅に低下するため、浸透面積が拡大して注入液の単位面積当たりの浸透速度は低下して、注入液は拡散し、地下水により希釈して固結性が低減する。
【0024】
このため、後続のゲル化時間が長いままの土中注入液は、希釈分散されてますます固結性を失う。このため、注入領域のうち中心部からはなれるにつれ、大幅に強度低下や未固結部分が生じるのみならず、注入途中で注入液が注入範囲外に逸脱したり地上部に逸脱したりする。一度逸脱すると止まらず注入を中止して固結を待たなくてはならず、その場合固結待ちに長時間かかり、且つ、再注入しても固結状態が不均等になっているため、注入対象地盤の計画通りの注入が出来ず、注入領域内部の固結が不均一であったりすることが判った。」
…
【0026】
本発明者らは改良地盤を事前に調査し、注入孔間隔、注入ステージ、注入率、注入量Q、注入速度qから注入時間Hを算出し、注入する薬液の現場砂の土中ゲル化時間(Ts)と注入時間Hの比率Aを0.01~1、好ましくは0.03~0.5の範囲に設定することで、酸性反応剤の使用量が少なく注入時間(H)よりも土中ゲル化時間の短い薬液であっても、広い改良範囲を地盤改良することができ、且つ確実に地盤を固結する事が出来、又以下の配合設定をすることにより上記の課題を解決することができた。
【0027】
1.地盤中に非アルカリ性シリカ注入液を注入する地盤注入工法であって、地盤改良を行う地盤において、以下の(1)~(8)の手法で注入液の配合設定を行うことを特徴とする地盤改良工法。
【0028】
(1) 注入液の配合(シリカ濃度と反応剤濃度)と気中pHaと気中ゲル化時間(Ta)の関係を確認する。
(2) 改良対象地盤からの採取土と注入液を用いて、注入液の配合と、土中ゲル化時間(Ts)と土中pHsの関係を確認する。
(3) 採取土と注入液を用いて、注入液の配合と固結採取土の強度(qu)の関係を確認する。
(4) 要求される地盤改良強度から注入液の配合のシリカ濃度を決定する。
(5) 注入対象土層における改良土の単位体積あたりの注入量を算出する。
(6) 注入孔間隔と注入ステージ長を決定し、単位ステージあたりの受持土量から1ステージあたりの注入量(Ql)を算出する。
(7) 毎分吐出量(ql)を設定し、1注入ステージ当たりの注入時間(H)を設定する。
(8) 注入時間(H)と土中ゲル化時間(Ts)の関係から注入液の反応剤濃度を設定する。」
「【0126】
○現場注入速度試験
注入を行う地盤において浸透により薬液が注入する注入速度を求める実験を行った。まず、注入を行う地盤において薬液を注入する速度と注入圧力の関係を実測し、図8に注入しない場合をゼロとし、縦軸に注入圧力、横軸に注入速度を記録した。
【0127】
注入速度を上げると注入圧力も上がり、比例関係にある図8の初期直線勾配領域と、初期直線勾配から破壊勾配領域までの漸移領域の注入速度の範囲では、地盤中の空隙が薬液に置き換わっていると考えられる。しかし、注入速度と注入圧力がこの領域から外れると地盤中に乱れが生じ、脈状に注入されたり、亀裂が入るなどして浸透注入が行われていないことがわかる。これより、注入圧力と注入速度による初期直線勾配が求められ、比例関係から外れる注入速度を限界注入速度11(l/min)とし、漸移領域をq=11~16(l/min)とした。
【0128】
この結果より、本実験の注入速度qは限界注入速度以下の10(l/min)で行った。」
「【0145】
本実施例に使用される薬液は次のものを用いた(pH1.51、シリカ濃度8%の薬液)。
水ガラス:比重(20℃)1.32、SiO2濃度25.5%、Na2O濃度7.23%、モル比3.75、pH11.5のものを使用。
コロイダルシリカ:陽イオン交換樹脂で処理せしめた水ガラス水溶液にアルカリを添加し、過熱して縮合安定化せしめ、濃縮したシリカコロイド溶液であって、SiO2濃度約30%、Na2O濃度0.7%以下、比重(20℃)1.21~1.22、pH9~10の物性を呈するコロイダルシリカ。
75%リン酸:」
「【0149】
(2) 薬液の気中ゲル化時間(Ta)測定と、現場砂を用いた土中ゲル化時間(Ts)の測定
1)気中ゲル化時間(Ta)
薬液を配合してから薬液の粘度が100Mpa・sを超えるまでの時間を気中ゲル化時間とする(B型粘度計による)。本実施例では約3000分であった。
2)土中ゲル化時間(Ts)
注入対象地盤の代表的な土を採取し、これを必要に応じ乾燥(気乾)する。ゲル化時間測定用のカップに、この土100g(つき固める)を計り取る。これに薬液25~30mlを入れよく混合する。貫入試験機の針かこれに類似するものをさし、これを引き抜いたとき孔が塞がらない状態になった時点をもって土中ゲル化時間とする。本実施例では24分であった。」
「【0154】
(4) 注入条件より土中ゲル化時間と注入時間の比を求める。
注入孔間隔=2.0m
注入ステージ長=0.5m
改良地盤体積=(2.0m÷2)2×π×0.5=1.57m3
※改良地盤を直径2.0m深さ0.5mの直径として算出した。
注入率=40%
注入量=1.57m3×0.4=628l
注入速度=5l/分
注入時間=注入量/注入速度=125.6分
注入時間係数A=土中ゲル化時間/注入時間=24/125.6=0.19より、(式1)の範囲に当てはまる。」
(2)甲1発明
上記(1)からみて、甲1には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているものと認める(引用箇所の段落番号を付した。)。
(甲1発明)
「地盤中に非アルカリ性シリカ注入液を注入する地盤注入工法であって、地盤改良を行う地盤において、以下の(1)~(8)の手法で注入液の配合設定を行い(【0027】)、
(1) 注入液の配合(シリカ濃度と反応剤濃度)と気中pHaと気中ゲル化時間(Ta)の関係を確認する。
(2) 改良対象地盤からの採取土と注入液を用いて、注入液の配合と、土中ゲル化時間(Ts)と土中pHsの関係を確認する。
(3) 採取土と注入液を用いて、注入液の配合と固結採取土の強度(qu)の関係を確認する。
(4) 要求される地盤改良強度から注入液の配合のシリカ濃度を決定する。
(5) 注入対象土層における改良土の単位体積あたりの注入量を算出する。
(6) 注入孔間隔と注入ステージ長を決定し、単位ステージあたりの受持土量から1ステージあたりの注入量(Ql)を算出する。
(7) 毎分吐出量(ql)を設定し、1注入ステージ当たりの注入時間(H)を設定する。
(8) 注入時間(H)と土中ゲル化時間(Ts)の関係から注入液の反応剤濃度を設定する。(【0028】)
注入する薬液の現場砂の土中ゲル化時間(Ts)と注入時間Hの比率Aを0.01~1、好ましくは0.03~0.5の範囲に設定することで、酸性反応剤の使用量が少なく注入時間(H)よりも土中ゲル化時間の短い薬液であっても、広い改良範囲を地盤改良することができ、且つ確実に地盤を固結する事が出来(【0026】)、
さらに、注入条件は、
注入孔間隔=2.0m
注入ステージ長=0.5m
改良地盤体積=(2.0m÷2)2×π×0.5=1.57m3
※改良地盤を直径2.0m深さ0.5mの直径として算出した。
注入率=40%
注入量=1.57m3×0.4=628l
注入速度=5l/分
注入時間=注入量/注入速度=125.6分
であり(【0154】)、
注入を行う地盤において薬液を注入する速度と注入圧力の関係を実測し、注入圧力と注入速度による初期直線勾配を求め、比例関係から外れる注入速度を限界注入速度とし、注入速度qは限界注入速度以下で行い(【0126】~【0128】)、
薬液の気中ゲル化時間(Ta)は、約3000分であり、土中ゲル化時間(Ts)は、24分であり(【0149】)、
使用される薬液は、pH1.51、シリカ濃度8%の薬液であって、
水ガラス:比重(20℃)1.32、SiO2濃度25.5%、Na2O濃度7.23%、モル比3.75、pH11.5のものを使用。
コロイダルシリカ:陽イオン交換樹脂で処理せしめた水ガラス水溶液にアルカリを添加し、過熱して縮合安定化せしめ、濃縮したシリカコロイド溶液であって、SiO2濃度約30%、Na2O濃度0.7%以下、比重(20℃)1.21~1.22、pH9~10の物性を呈するコロイダルシリカ。
75%リン酸:
のものを用いることにより(【0145】)、
注入途中で注入液が注入範囲外に逸脱したり地上部に逸脱したりする課題を解決する(【0023】、【0024】)、
地盤注入工法(【0027】)。」
第5 当審の判断
1 本件特許発明1
(1)対比
本件特許発明1と甲1発明とを対比する。
ア 甲1発明の「非アルカリ性シリカ注入液」は、本件特許発明1の「地盤注入材」に相当する。
甲1発明の「地盤中に非アルカリ性シリカ注入液を注入する地盤注入工法」は、「非アルカリ性シリカ注入液」を地盤の削孔内に設置した注入管の吐出口から注入して地盤改良するものであることは、技術常識から明らかであるから、本件特許発明1の「地盤注入材を地盤の削孔内に設置した注入管の吐出口から注入して地盤改良する地盤注入工法」に相当する。
イ 甲1発明の「使用される薬液は」、「pH1.51」「の薬液であ」ることは、本件特許発明1の「前記地盤注入材は、pHは1~10であ」る「シリカ注入液であ」ることに相当する。
甲1発明の「使用される薬液は」、「水ガラス」、「濃縮したシリカコロイド溶液であ」る「コロイダルシリカ」及び「75%リン酸」「のものを用いる」ことは、本件特許発明1の「前記地盤注入材は」、「シリカコロイド又は水ガラスのいずれか1種又は複数種を反応剤として、酸或いは塩のいずれか1種或いは複数種を有効成分と」する「シリカ注入液であ」ることに相当する。
甲1発明の「使用される薬液は」、「シリカ濃度8%の薬液であ」ることは、本件特許発明1の「前記地盤注入材は」、「シリカ濃度は0.4~40wt%」の「シリカ注入液であ」ることに相当する。
甲1発明の「使用される薬液」として、「水ガラス:」「モル比3.75」「のものを使用」することは、本件特許発明1の「前記地盤注入材は」、「シリカのモル比は2.0~100」である「シリカ注入液であ」ることに相当する。
甲1発明の「気中ゲル化時間(Ta)は、約3000分であ」ることは、本件特許発明1の「ゲル化時間は瞬結から10000分」であることに相当する。
以上によれば、甲1発明の「使用される薬液」は、本件特許発明1の「pHは1~10であって、シリカコロイド又は水ガラスのいずれか1種又は複数種を反応剤として、酸或いは塩のいずれか1種或いは複数種を有効成分とし、かつシリカ濃度は0.4~40wt%、シリカのモル比は2.0~100、ゲル化時間は瞬結から10000分の配合から選定したシリカ注入液」に相当する。
ウ 甲1発明の「薬液の気中ゲル化時間(Ta)」及び「土中ゲル化時間(Ts)」は、それぞれ本件特許発明1の「該シリカ注入液のゲル化時間(GT0)」及び「該シリカ注入液と現場土を混合したゲル化時間」である「土中ゲル化時間(GTS0)」にそれぞれ相当する。
甲1発明において、「注入する薬液の現場砂の土中ゲル化時間(Ts)と注入時間Hの比率Aを0.01~1、好ましくは0.03~0.5の範囲に設定すること」は、それにより「薬液」に関して「注入時間(H)よりも土中ゲル化時間の短い」ものとなることから、比率A=土中ゲル化時間(Ts)/注入時間(H)を「0.01~1、好ましくは0.03~0.5の範囲に設定すること」であると認められる。そうすると、比率Aの逆数である注入時間(H)/土中ゲル化時間(Ts)は、1~100、好ましくは2~33.3…の範囲に設定することとなり、このことは、本件特許発明1において、「該シリカ注入液のゲル化時間を(GT0)、該シリカ注入液と現場土を混合したゲル化時間を土中ゲル化時間(GTS0)として1ステージ当たりの注入時間を(H)とすると、β=H/GTS0=100~0.001と」することに相当する。
また、甲1発明の「(7) 毎分吐出量(ql)を設定し、1注入ステージ当たりの注入時間(H)を設定する。」との事項、及び「注入時間=注入量/注入速度=125.6分」との事項から、甲1発明において、「1注入ステージ当たりの注入時間(H)」は「125.6分」であり、また、「土中ゲル化時間(Ts)は、24分であ」る。
そうすると、甲1発明において、「1注入ステージ当たりの注入時間(H)」/「土中ゲル化時間(Ts)」=「125.6分」/「24分」を計算すると、約5.23となり、このことも、本件特許発明1において、「該シリカ注入液のゲル化時間を(GT0)、該シリカ注入液と現場土を混合したゲル化時間を土中ゲル化時間(GTS0)として1ステージ当たりの注入時間を(H)とすると、β=H/GTS0=100~0.001と」することに相当する。
エ また、甲1発明において、「注入する薬液の現場砂の土中ゲル化時間(Ts)と注入時間Hの比率Aを0.01~1、好ましくは0.03~0.5の範囲に設定することで」、「注入時間(H)よりも土中ゲル化時間の短い薬液」を用いること、また、「1注入ステージ当たりの注入時間(H)」は「125.6分」であり、「薬液の気中ゲル化時間(Ta)は、約3000分であり、土中ゲル化時間(Ts)は、24分であ」ることから、「薬液の気中ゲル化時間(Ta)」(約3000分)>「1注入ステージ当たりの注入時間(H)」(125.6分)≧「土中ゲル化時間(Ts)」(24分)であるから、甲1発明と、本件特許発明1の「地盤状況、注入孔間隔、ステージ長、並びに単位ステージ当りの注入量に応じて、GT0>H≧GTS0又はGT0>GTS0≧Hとなるように、該シリカ注入液のゲル化時間(GT0)とシリカ濃度からなる配合処方を用い」ることとは、「GT0>H≧GTS0」「となるように、該シリカ注入液のゲル化時間(GT0)とシリカ濃度からなる配合処方を用い」る点で共通する。
オ 甲1発明の「注入を行う地盤において薬液を注入する速度と注入圧力の関係を実測し、注入圧力と注入速度による初期直線勾配を求め、比例関係から外れる注入速度を限界注入速度とし、注入速度qは限界注入速度以下で行」うことは、本件特許発明1の「(1)注入速度は限界浸透注入速度内とする」こと、及び「ここで限界浸透注入速度内とは、割裂注入領域の限界よりも小さい浸透注入速度をいう」ことに相当する。
甲1発明の「注入孔間隔=2.0m」であることは、本件特許発明1の「(2)注入孔間隔又は固結径L=1~3m」であることに相当する。
甲1発明の「注入速度=5l/分」であること、及び「注入を行う地盤において薬液を注入する速度と注入圧力の関係を実測し、注入圧力と注入速度による初期直線勾配を求め、比例関係から外れる注入速度を限界注入速度とし、注入速度qは限界注入速度以下で行」うことは、本件特許発明1の「(3)毎分注入速度q=1~30L/min ただし、限界浸透注入速度内とする」ことに相当する。
甲1発明の「注入ステージ長=0.5m」であることは、本件特許発明1の「(4)1ステージ長:0.33m~3.0m」であることに相当する。
甲1発明の「注入時間=注入量/注入速度=125.6分」であることは、本件特許発明1の「(5)1ステージ当たりの注入時間(H) 4.4~10000分」であることに相当する。
甲1発明の「薬液の気中ゲル化時間(Ta)は、約3000分であ」ることは、本件特許発明1の「(6)気中ゲル化時間(GT0)10分~10000分」であることに相当する。
甲1発明の「使用される薬液は、pH1.51」「の薬液であ」ることは、本件特許発明1の「(7)気中pH(PH0)1~10」であることに相当する。
甲1発明の「使用される薬液は」、「シリカ濃度8%の薬液であ」ることは、本件特許発明1の「(8)シリカ濃度0.4~40%(重量%)」であることに相当する。
甲1発明の「薬液の」「土中ゲル化時間(Ts)は、24分であ」ることは、本件特許発明1の「(9)土中ゲル化時間(GTS0) 10分~3000分」であることに相当する。
甲1発明において、「注入する薬液の現場砂の土中ゲル化時間(Ts)と注入時間Hの比率Aを0.01~1、好ましくは0.03~0.5の範囲に設定すること」で「注入時間(H)よりも土中ゲル化時間の短い薬液」を用いること、及び「1注入ステージ当たりの注入時間(H)」/「土中ゲル化時間(Ts)」=「125.6分」/「24分」を計算すると、約5.23となることは、本件特許発明1の「(10)β=H/GTS0=100~0.001」であることに相当する。
以上によれば、甲1発明の「注入条件」及び上記の「注入途中で注入液が注入範囲外に逸脱したり地上部に逸脱したりする課題を解決する」ために行うことは、本件特許発明1の「施工条件を」
「(施工条件)
(1)注入速度は限界浸透注入速度内とする。
(2)注入孔間隔又は固結径L=1~3m
(3)毎分注入速度q=1~30L/min ただし、限界浸透注入速度内とする。
(4)1ステージ長:0.33m~3.0m
(5)1ステージ当たりの注入時間(H) 4.4~10000分
(6)気中ゲル化時間(GT0)10分~10000分
(7)気中pH(PH0)1~10
(8)シリカ濃度0.4~40%(重量%)
(9)土中ゲル化時間(GTS0) 10分~3000分
(10)β=H/GTS0=100~0.001
ここで限界浸透注入速度内とは、割裂注入領域の限界よりも小さい浸透注入速度をいう。」
「の範囲で設定するものと」することに相当する。
カ1 甲1発明の「(3) 採取土と注入液を用いて、注入液の配合と固結採取土の強度(qu)の関係を確認」し、「(4) 要求される地盤改良強度から注入液の配合のシリカ濃度を決定する」ことと、本件特許発明1の「(1)地盤注入の対象となる土を用いて注入対象地盤の密度で要求される固結土の強度が得られるシリカ濃度を設定する」こととは、「地盤注入の対象となる土を用いて」「要求される固結土の強度が得られるシリカ濃度を設定する」点で共通する。
カ2 甲1発明の「非アルカリ性シリカ注入液」は、「(1) 注入液の配合(シリカ濃度と反応剤濃度)と気中pHaと気中ゲル化時間(Ta)の関係を確認する」との事項から、「気中pHa」や「反応剤濃度」に対応した「気中ゲル化時間(Ta)」を有するものであり、本件特許発明1の「(シリカ注入液の配合処方の手順)」の「(2)」の「pH或いは添加剤に対応したゲル化時間(GT0)を有するシリカ注入液」に相当する。そうすると、甲1発明において、「(4) 要求される地盤改良強度から注入液の配合のシリカ濃度を決定」してから、「(8) 注入時間(H)と土中ゲル化時間(Ts)の関係から注入液の反応剤濃度を設定する」ことは、本件特許発明1の「(シリカ注入液の配合処方の手順)」の「(2)」における「要求される固結土の強度が得られるシリカ濃度を用いて、pH或いは添加剤に対応したゲル化時間(GT0)を有するシリカ注入液を調整する」ことに相当する。
カ3 甲1発明の「(2) 改良対象地盤からの採取土と注入液を用いて、注入液の配合と、土中ゲル化時間(Ts)と土中pHsの関係を確認する。」との事項から、「注入液」と「改良対象地盤からの採取土」とを混合して、「土中ゲル化時間(Ts)」を測定することは明らかであり、このことは、本件特許発明1の「(3)その配合液を注入対象地盤の現場土と混合して、土中ゲル化時間(GTS0)を測定する。」に相当する。
カ4 甲1発明の「(6) 注入孔間隔と注入ステージ長を決定し、単位ステージあたりの受持土量から1ステージあたりの注入量(Ql)を算出する」ことは、「単位ステージあたりの受持土量」は、本件特許発明1の「単位ステージの固結対象土量」に相当し、「注入孔間隔と注入ステージ長」と各注入孔の位置関係といった注入方式に基づいて求められることは明らかであるから、本件特許発明1の「(4)設定した注入孔間隔、注入方式、1注入ステージ長より単位ステージの固結対象土量を設定する」ことに相当する。
カ5 甲1発明の「(6)」「単位ステージあたりの受持土量から1ステージあたりの注入量(Ql)を算出する」ことは、本件特許発明1の「(5)単位ステージの固結対象土量から注入量を設定」することに相当する。
甲1発明の「(7) 毎分吐出量(ql)を設定し、1注入ステージ当たりの注入時間(H)を設定する」ことは、本件特許発明1の「(5)」「浸透可能限界内の注入速度から単位ステージ当たりの注入時間(H)を設定する」ことに相当する。
そうすると、甲1発明は、本件特許発明1の「(5)単位ステージの固結対象土量から注入量を設定し、浸透可能限界内の注入速度から単位ステージ当たりの注入時間(H)を設定する。」との構成を備える。
カ6 甲1発明において、「注入する薬液の現場砂の土中ゲル化時間(Ts)と注入時間Hの比率Aを0.01~1、好ましくは0.03~0.5の範囲に設定すること」で」「注入時間(H)よりも土中ゲル化時間の短い薬液」を用いること、また、「1注入ステージ当たりの注入時間(H)」は「125.6分」であり、「薬液の気中ゲル化時間(Ta)は、約3000分であり、土中ゲル化時間(Ts)は、24分であ」ることから、「薬液の気中ゲル化時間(Ta)」(約3000分)>「1注入ステージ当たりの注入時間(H)」(125.6分)≧「土中ゲル化時間(Ts)」(24分)であって、これらのことは、本件特許発明1の「(6)地盤状況、注入孔間隔、ステージ長、並びに単位ステージ当りの注入量に応じて、GT0>H≧GTS0又はGT0>GTS0≧Hとなる該シリカ注入液のゲル化時間(GT0)とシリカ濃度からなる配合処方を設定する」との事項と、「GT0>H≧GTS0」「となる該シリカ注入液のゲル化時間(GT0)とシリカ濃度からなる配合処方を設定する」点で共通する。
カ7 カ1~カ6によれば、甲1発明と、本件特許発明1とは、「該シリカ注入液の配合処方は」、
「(シリカ注入液の配合処方の手順)」
「(a)地盤注入の対象となる土を用いて」「要求される固結土の強度が得られるシリカ濃度を設定する。」
「(b)要求される固結土の強度が得られるシリカ濃度を用いて、pH或いは添加剤に対応したゲル化時間(GT0)を有するシリカ注入液を調整する。」
「(3)その配合液を注入対象地盤の現場土と混合して、土中ゲル化時間(GTS0)を測定する。
(4)設定した注入孔間隔、注入方式、1注入ステージ長より単位ステージの固結対象土量を設定する。
(5)単位ステージの固結対象土量から注入量を設定し、浸透可能限界内の注入速度から単位ステージ当たりの注入時間(H)を設定する。
(6)地盤状況、注入孔間隔、ステージ長、並びに単位ステージ当りの注入量に応じて、GT0>H≧GTS0又はGT0>GTS0≧Hとなる該シリカ注入液のゲル化時間(GT0)とシリカ濃度からなる配合処方を設定する。」
の(a)~(b)の手順及び(3)~(6)の手順を行う点で共通する。
キ 甲1発明の「注入途中で注入液が注入範囲外に逸脱したり地上部に逸脱したりする課題を解決する」ことは、本件特許発明1の「注入範囲外への逸脱を低減すること」に相当する。
以上によれば、本件特許発明1と甲1発明との一致点及び相違点は、以下のとおりである。
<一致点>
「地盤注入材を地盤の削孔内に設置した注入管の吐出口から注入して地盤改良する地盤注入工法において、前記地盤注入材は、pHは1~10であって、シリカコロイド又は水ガラスのいずれか1種又は複数種を反応剤として、酸或いは塩のいずれか1種或いは複数種を有効成分とし、かつシリカ濃度は0.4~40wt%、シリカのモル比は2.0~100、ゲル化時間は瞬結から10000分の配合から選定したシリカ注入液であって、該シリカ注入液のゲル化時間を(GT0)、該シリカ注入液と現場土を混合したゲル化時間を土中ゲル化時間(GTS0)として1ステージ当たりの注入時間を(H)とすると、β=H/GTS0=100~0.001とし、GT0>H≧GTS0となるように、該シリカ注入液のゲル化時間(GT0)とシリカ濃度からなる配合処方を用い、施工条件を以下の範囲で設定するものとし、該シリカ注入液の配合処方は以下の(a)~(b)の手順及び(3)~(6)の手順を行うことにより、注入範囲外への逸脱を低減することを特徴とする地盤注入工法。
(施工条件)
(1)注入速度は限界浸透注入速度内とする。
(2)注入孔間隔又は固結径L=1~3m
(3)毎分注入速度q=1~30L/min ただし、限界浸透注入速度内とする。
(4)1ステージ長:0.33m~3.0m
(5)1ステージ当たりの注入時間(H) 4.4~10000分
(6)気中ゲル化時間(GT0)10分~10000分
(7)気中pH(PH0)1~10
(8)シリカ濃度0.4~40%(重量%)
(9)土中ゲル化時間(GTS0) 10分~3000分
(10)β=H/GTS0=100~0.001
ここで限界浸透注入速度内とは、割裂注入領域の限界よりも小さい浸透注入速度をいう。
(シリカ注入液の配合処方の手順)
(a)地盤注入の対象となる土を用いて要求される固結土の強度が得られるシリカ濃度を設定する。
(b)要求される固結土の強度が得られるシリカ濃度を用いて、pH或いは添加剤に対応したゲル化時間(GT0)を有するシリカ注入液を調整する。
(3)その配合液を注入対象地盤の現場土と混合して、土中ゲル化時間(GTS0)を測定する。
(4)設定した注入孔間隔、注入方式、1注入ステージ長より単位ステージの固結対象土量を設定する。
(5)単位ステージの固結対象土量から注入量を設定し、浸透可能限界内の注入速度から単位ステージ当たりの注入時間(H)を設定する。
(6)GT0>H≧GTS0となる該シリカ注入液のゲル化時間(GT0)とシリカ濃度からなる配合処方を設定する。」
<相違点1>
シリカ濃度の設定(決定)において、要求される固結土の強度(要求される地盤改良強度)が、本件特許発明1の「(シリカ注入液の配合処方の手順)」の(1)では、「注入対象地盤の密度」に基づくことが限定されているのに対し、甲1発明の「注入液の配合設定を行」う「(1)~(8)の手法」の(4)では、「注入対象地盤の密度」に基づくことが限定されていない点。
<相違点2>
「(シリカ注入液の配合処方の手順)」の「(a)地盤注入の対象となる土を用いて要求される固結土の強度が得られるシリカ濃度を設定する」こと、及び「(b)要求される固結土の強度が得られるシリカ濃度を用いて、pH或いは添加剤に対応したゲル化時間(GT0)を有するシリカ注入液を調整する」ことが、それぞれ、本件特許発明1の「(シリカ注入液の配合処方の手順)」の(1)~(6)のうちの最初の(1)及び(2)で行われるのに対し、甲1発明の「注入液の配合設定を行」う「(1)~(8)の手法」では、
「(1) 注入液の配合(シリカ濃度と反応剤濃度)と気中pHaと気中ゲル化時間(Ta)の関係を確認する。
(2) 改良対象地盤からの採取土と注入液を用いて、注入液の配合と、土中ゲル化時間(Ts)と土中pHsの関係を確認する。
(3) 採取土と注入液を用いて、注入液の配合と固結採取土の強度(qu)の関係を確認する。」
の後の(4)及び(8)で行われる点。
<相違点3>
「シリカ注入液のゲル化時間(GT0)とシリカ濃度からなる配合処方」が、本件特許発明1では、「地盤状況、注入孔間隔、ステージ長、並びに単位ステージ当りの注入量に応じて、GT0>H≧GTS0又はGT0>GTS0≧Hとなるように」「用いられる」又は「設定される」のに対して、甲1発明では、「地盤状況、注入孔間隔、ステージ長、並びに単位ステージ当りの注入量に応じて」「用いられる」又は「設定される」ものではなく、また、「GT0>H≧GTS0」「となるように」「用いられる」又は「設定される」が、「GT0>GTS0≧Hとなるように」「用いられる」又は「設定される」ものではない点。
(2)判断
ア 事案に鑑み、上記相違点3について検討する。本件特許の願書に添付した明細書(以下「本件特許明細書」という。)には、相違点3に係る本件特許発明1の構成に関連して、以下の事項が記載されている(下線は当審で付した。)。
「【0008】
本発明は多様な地盤条件下で注入中もゲル化後も地盤との間の化学的反応が継続してそれが耐久性に影響するシリカグラウトを用いて、対象とする地盤条件、施工条件、環境条件において注入目的と要求される期間における所定の改良土効果等に対応して、所定の注入領域から注入材を逸脱することなく、所定の注入効果を持続するための注入方式並びに注入設計の選定、注入材と処方の選定、施工管理も含めた一体化した統合技術が必要であることに着目して本発明を完成したものである。」
「【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は地盤に設置した注入管から地盤中に注入材を注入することにより、地盤の止水性の向上、強度増大、液状化防止等の地盤改良を実施するための地盤注入技術に関する発明であって、大きな固結径を得ようとすると粗い土層から所定注入領域外へ逸脱しやすいという問題を解決して、特に複雑な土層からなる地盤条件下で粗い土層や地表面に逸脱することなく土粒子間浸透により所定の範囲に大きな固結体を経済的に、かつ注入量に相当する固結体を注入した領域に確実に形成することを可能にしたものである。」
「【0015】
また透水係数がk=10-2~10-3程度の均質地盤或いは不均質地盤で一次注入材の注入で粗い土層や逸脱しやすい土層を充填して均質地盤にした上で非アルカリ性シリカグラウトを注入した場合、土中ゲルタイム(GTS0)が注入時間(H)より長くても注入液は注入した領域にとどまり、ゲルタイムの経過と共にゲル化し、注入量に相当する固結土量を形成することが判った。これは酸性シリカ溶液が中性に近い地盤中でゲル化が進行する特性があることにもよる。この場合、GT0>GTS0≧Hとなる。」
「【0018】
土粒子間浸透せしめるためには図7に示すように割裂注入領域の限界よりも低い注入速度q(L/min)で注入しなくてはならない。もし点注入ならば図8に示すように浸透半径を大きくするには高い注入圧力を必要とし、割裂注入領域に入ってしまう。しかし、多数の点注入を同時に行うとか、柱状浸透にすれば図9に示すように同一条件下で注入速度を大きくしても低圧で浸透注入できることが判る。また多数の注入ポイントから同時注入するならば、1点当りから低い注入速度で注入しても同時注入で大きな注入速度で低圧注入できることが判る。
【0019】
地盤は通常異なる土質が層状に形成されている、一方確実な地盤改良するためにはゲル化時間の長い浸透性に優れた溶液型注入材を土粒子間に浸透注入しなくてはならない。浸透性のよい注入材は不均質地盤では粗い層や地表面に逸脱しやすく、その結果、細かい層への土粒子間浸透が阻害されるし、広範囲な土粒子間浸透が困難になる。これを防ぐために浸透性の良い注入液の注入に先立って、懸濁型グラウトや瞬結性グラウト等の浸透性の悪い注入材を一次注入して地盤を均質化して浸透性の良い注入材を二次注入して複合注入を確実に行って注入範囲からの逸脱をおさえて対象地盤全体を広範囲に地盤改良することが可能になる。(図10~図12)」
「【0028】
実施工において所定の注入効果が得られた具体例を、表1(b)に示す。
【0029】
【表1】
[図:0001392087000001.jpg]
」
本件特許明細書の【0010】によれば、本件特許発明1は、「複雑な土層からなる地盤条件下で粗い土層や地表面に逸脱することなく土粒子間浸透により所定の範囲に大きな固結体を経済的に、かつ注入量に相当する固結体を注入した領域に確実に形成することを可能に」することを課題とするものであるところ、【0015】によれば、「透水係数がk=10-2~10-3程度の均質地盤或いは不均質地盤で一次注入材の注入で粗い土層や逸脱しやすい土層を充填して均質地盤にした上で非アルカリ性シリカグラウトを注入した場合、土中ゲルタイム(GTS0)が注入時間(H)より長くても注入液は注入した領域にとどまり、ゲルタイムの経過と共にゲル化し、注入量に相当する固結土量を形成すること」、「この場合、GT0>GTS0≧Hとなる」ことを発見したものであることが理解できる。
また、【0018】によれば、「多数の点注入を同時に行う」、「柱状浸透」、「多数の注入ポイントから同時注入する」ことにより、低圧であっても、大きな注入速度で注入できることが記載され、大きな注入速度で注入すれば、注入時間(H)が小さくなることは自明である。そして、【0028】によれば、「実施工において所定の注入効果が得られた具体例」である【0029】の表1(b)には、4つの例が示されているところ、上から1つ目の例(注入時間が68分、GTOが2000[当審による注:単位は分と認められる]、GTSOが150分)、及び4つ目の例(注入時間が67分、GTOが1000[当審による注:単位は分と認められる]、GTSOが200分)により、「GT0>GTS0≧H」の関係を満たす例が示されている。
そうすると、本件特許発明1は、「透水係数がk=10-2~10-3程度の均質地盤或いは不均質地盤で一次注入材の注入で粗い土層や逸脱しやすい土層を充填して均質地盤に」する場合や、本件特許明細書の【0029】の表1(b)の上から1つ目及び4つ目の例に示される条件により施工する場合に、「GT0>GTS0≧H」の関係を満たすシリカ注入液の配合処方によって、「複雑な土層からなる地盤条件下で粗い土層や地表面に逸脱することなく土粒子間浸透により所定の範囲に大きな固結体を経済的に、かつ注入量に相当する固結体を注入した領域に確実に形成することを可能に」するものであると認められる。
これに対して、甲1には、相違点3に係る甲1発明の構成に関連して、以下の事項が記載されている(下線は当審で付した。)。
「【0002】
従来、シリカ溶液を使用した注入工法は、注入孔間隔(≒浸透固結径)を、通常直径0.8~1.0m程度とし、毎分吐出量8~20l、注入ステージのピッチ0.30~0.5mとして注入する方法をとった。注入孔間隔がこれ以上になると固結が不確実になり、均等な固結が期待できない。そのため、注入孔間隔を短くし地盤改良を行うことが必要であった。
【0003】
しかるに長期耐久性に優れたシリカ溶液を用いて液状化防止に注入工法を用いられるようになり、そこで、経済性を得るには注入孔間隔を大きくとり大きな注入固結径を得ることが必要になった。このためには、注入孔間隔を1m以上から4m、即ち固結径を1.5m以上例えば2~4mの大きな浸透固結を土粒子間浸透によって行う事が必要である。
【0004】
この場合、1注入ステージ当たりの注入量は数百l以上、通常は400l以上、或いは1000l以上となり、1注入ステージ当り数時間から十数時間の注入時間を要する事になり、当然のことながら注入液のゲル化時間は注入時間よりも長いことが土粒子間浸透のために必要なため、数時間から十数時間の長いゲル化時間を要求される事になる。」
「【0022】
注入初期段階のシリカ溶液はその先行部は常に新しい地盤と反応を続けていくため急速に上記反応が進行するが後続のシリカ溶液はすでに反応した後の地盤に浸透するため地盤との反応が少なくて済むから、pHの上昇度が低下し、土中浸透液のpH(pHsf)は気中で配合された注入液のpH(pHa)に近くなり、したがって浸透土中ゲル化時間の短縮の傾向は低減して気中ゲル化時間(Ta)に近づく。このため、浸透距離が長い程注入孔に近い浸透領域程浸透土中ゲル化時間は長いままで浸透が続けられていく事がわかった。
【0023】
注入孔間隔が従来の注入孔間隔1mの場合よりも大きくなるにつれ、浸透している注入液の先端部は新しい土との反応でpHは上昇するものの浸透面積は急激に増大し、注入液の注入圧の圧力勾配が大幅に低下するため、浸透面積が拡大して注入液の単位面積当たりの浸透速度は低下して、注入液は拡散し、地下水により希釈して固結性が低減する。
【0024】
このため、後続のゲル化時間が長いままの土中注入液は、希釈分散されてますます固結性を失う。このため、注入領域のうち中心部からはなれるにつれ、大幅に強度低下や未固結部分が生じるのみならず、注入途中で注入液が注入範囲外に逸脱したり地上部に逸脱したりする。一度逸脱すると止まらず注入を中止して固結を待たなくてはならず、その場合固結待ちに長時間かかり、且つ、再注入しても固結状態が不均等になっているため、注入対象地盤の計画通りの注入が出来ず、注入領域内部の固結が不均一であったりすることが判った。
【0025】
以上の特性を見出した本発明者は以下の手法により上記の課題を解決した。
【0026】
本発明者らは改良地盤を事前に調査し、注入孔間隔、注入ステージ、注入率、注入量Q、注入速度qから注入時間Hを算出し、注入する薬液の現場砂の土中ゲル化時間(Ts)と注入時間Hの比率Aを0.01~1、好ましくは0.03~0.5の範囲に設定することで、酸性反応剤の使用量が少なく注入時間(H)よりも土中ゲル化時間の短い薬液であっても、広い改良範囲を地盤改良することができ、且つ確実に地盤を固結する事が出来、又以下の配合設定をすることにより上記の課題を解決することができた。
【0027】
1.地盤中に非アルカリ性シリカ注入液を注入する地盤注入工法であって、地盤改良を行う地盤において、以下の(1)~(8)の手法で注入液の配合設定を行うことを特徴とする地盤改良工法。
【0028】
(1) 注入液の配合(シリカ濃度と反応剤濃度)と気中pHaと気中ゲル化時間(Ta)の関係を確認する。
(2) 改良対象地盤からの採取土と注入液を用いて、注入液の配合と、土中ゲル化時間(Ts)と土中pHsの関係を確認する。
(3) 採取土と注入液を用いて、注入液の配合と固結採取土の強度(qu)の関係を確認する。
(4) 要求される地盤改良強度から注入液の配合のシリカ濃度を決定する。
(5) 注入対象土層における改良土の単位体積あたりの注入量を算出する。
(6) 注入孔間隔と注入ステージ長を決定し、単位ステージあたりの受持土量から1ステージあたりの注入量(Ql)を算出する。
(7) 毎分吐出量(ql)を設定し、1注入ステージ当たりの注入時間(H)を設定する。
(8) 注入時間(H)と土中ゲル化時間(Ts)の関係から注入液の反応剤濃度を設定する。
【0029】
2.請求項1記載の地盤改良工法において、(3)で上載圧を加えて固結採取土の強度(qu)を確認することを特徴とする地盤改良工法。
【0030】
3.請求項2記載の地盤改良工法において、(7)で毎分吐出量(ql)は注入速度と注入圧力が比例関係にある初期直線勾配領域と初期直線勾配から破壊勾配領域までの漸移領域までの注入速度で注入することを特徴とする地盤改良工法。
【0031】
4.請求項1、2または3記載の地盤改良工法において、前記注入液の注入時間(H)と土中ゲル化時間(Ts)が以下の条件を満たすように設定する地盤改良工法。
【0032】
(1) 0.01≦A<1
(2) Ts<H<Ta
(3) 15分<H<1500分
(4) pHaが1.5~8
ここで、
A :土中ゲル化時間Ts(分)と注入時間H(分)の比(=Ts/H)
Ta:注入液の気中ゲル化時間(20℃)
Ts:現物採取土と注入液の混合土のゲル化時間(分)
H :1ステージ当たりの注入時間(分)
pHa:気中pH」
「【0120】
以上より次のことがわかる。地盤において浸透距離を長くし、改良地盤を広げるためには、シリカ溶液を地盤中に広範囲に注入する必要があるが、通常の注入圧力で注入を行うと、固結地盤の外周部では圧力勾配が低下するので、注入範囲が広くなると注入が不十分になり、充分な圧力勾配が得られず拡散による浸透に近くなってしまう。このため希釈によって固結体は外周部に行くほど強度低下が起こる。
【0121】
これを防ぐために、従来は薬液のシリカ濃度を高く設定する方法が用いられてきた。また、液状化防止等注入孔間隔を1~4mにして大きな注入受持土量に対して、土粒子間浸透させるために注入速度を小さくすると非常に注入時間が長くなるが、土中ゲル化時間が注入時間以上になるように注入液の酸性反応剤の量を多くしてpHを低くしたシリカ溶液を用いてきた。
【0122】
これは、従来では気中ゲル化時間に比べ土中ゲル化時間が短くなると、地盤中に注入された薬液は地盤に土粒子間浸透しないと考えられてきたからである。よって、注入液は注入時間に相当する土中ゲル化時間と同じかそれより長く設定した。このため前述のような問題が生じた。また、或いは注入液の酸性値を高くしてゲル化時間を長くすると地盤中に反応生成物である酸根を多く残すことになった。これは地下水の水質上好ましくなく、地中構造物にも好ましくないことになる。
【0123】
本発明はpHが非アルカリ領域のシリカグラウトを用いて注入孔間隔が1~4mの好ましくは1.5~4mの浸透固結径を得、逸脱することなく均等にかつ固結体のpHがほぼ中性で固結せしめるために1ステージ当りの注入時間(H)、注入液の気中ゲル化時間(Ta)、土中ゲル化時間(Ts)の関係を解明し本発明を完成した。」
甲1の上記記載によれば、「従来」、「注入液のゲル化時間は注入時間よりも長いことが土粒子間浸透のために必要」と考えられており(【0002】~【0004】)、「注入孔間隔が従来の注入孔間隔1mの場合よりも大きくなるにつれ、浸透している注入液の先端部は新しい土との反応でpHは上昇するものの浸透面積は急激に増大し、注入液の注入圧の圧力勾配が大幅に低下するため、浸透面積が拡大して注入液の単位面積当たりの浸透速度は低下して、注入液は拡散し、地下水により希釈して固結性が低減する」(【0023】)ため、「後続のゲル化時間が長いままの土中注入液は、希釈分散されてますます固結性を失」い、「注入領域のうち中心部からはなれるにつれ、大幅に強度低下や未固結部分が生じるのみならず、注入途中で注入液が注入範囲外に逸脱したり地上部に逸脱したりする」(【0024】)という課題や、「従来では気中ゲル化時間に比べ土中ゲル化時間が短くなると、地盤中に注入された薬液は地盤に土粒子間浸透しないと考えられてきた」(【0122】)ことから、「従来は薬液のシリカ濃度を高く設定する方法が用いられ」、「液状化防止等注入孔間隔を1~4mにして大きな注入受持土量に対して、土粒子間浸透させるために注入速度を小さくすると非常に注入時間が長くなるが、土中ゲル化時間が注入時間以上になるように注入液の酸性反応剤の量を多くしてpHを低くしたシリカ溶液を用いてきた」(【0121】)が、「注入液の酸性値を高くしてゲル化時間を長くすると地盤中に反応生成物である酸根を多く残すことになった。これは地下水の水質上好ましくなく、地中構造物にも好ましくない」(【0122】)という課題も存在していたところ、甲1発明は、「注入初期段階のシリカ溶液はその先行部は常に新しい地盤と反応を続けていくため急速に上記反応が進行するが後続のシリカ溶液はすでに反応した後の地盤に浸透するため地盤との反応が少なくて済むから、pHの上昇度が低下し、土中浸透液のpH(pHsf)は気中で配合された注入液のpH(pHa)に近くなり、したがって浸透土中ゲル化時間の短縮の傾向は低減して気中ゲル化時間(Ta)に近づく」ため、「浸透距離が長い程注入孔に近い浸透領域程浸透土中ゲル化時間は長いままで浸透が続けられていく事がわかった」(【0022】)ことに基づいて、「注入する薬液の現場砂の土中ゲル化時間(Ts)と注入時間Hの比率Aを0.01~1、好ましくは0.03~0.5の範囲に設定することで、酸性反応剤の使用量が少なく注入時間(H)よりも土中ゲル化時間の短い薬液であっても、広い改良範囲を地盤改良することができ、且つ確実に地盤を固結する事が出来」るようにして、上記の課題を解決するものであると認められる。
そうすると、甲1発明は、特に本件特許明細書【0010】に記載されているような「複雑な土層からなる地盤条件下で粗い土層や地表面に逸脱することなく土粒子間浸透により所定の範囲に大きな固結体を経済的に、かつ注入量に相当する固結体を注入した領域に確実に形成することを可能に」することを課題とするものではないから、相違点3に係る本件特許発明1のように、「該シリカ注入液のゲル化時間(GT0)とシリカ濃度からなる配合処方」を「地盤状況、注入孔間隔、ステージ長、並びに単位ステージ当りの注入量に応じて」「設定する」動機がない。
仮に、甲1発明において、シリカ注入液の配合処方を、地盤状況等に応じて設定することがあるとしても、「シリカ注入液のゲル化時間(GT0)とシリカ濃度からなる配合処方」を、土中ゲル化時間(Ts)を注入時間(H)よりも長いものとすると、甲1発明の「注入時間(H)よりも土中ゲル化時間の短い薬液」を用いることによって解決されていた、「後続のゲル化時間が長いままの土中注入液は、希釈分散されてますます固結性を失う」ため、「注入領域のうち中心部からはなれるにつれ、大幅に強度低下や未固結部分が生じるのみならず、注入途中で注入液が注入範囲外に逸脱したり地上部に逸脱したりする」(【0024】)課題や、「土中ゲル化時間が注入時間以上になるように注入液の酸性反応剤の量を多く」(【0121】)することで、「注入液の酸性値を高くしてゲル化時間を長くすると地盤中に反応生成物である酸根を多く残すことにな」り、「地下水の水質上好ましくなく、地中構造物にも好ましくない」(【0122】)との課題が解決されなくなることから、甲1発明において、シリカ注入液の配合処方を、「GT0>H≧GTS0」だけでなく、相違点3に係る本件特許発明1のように、「GT0>GTS0≧H」を含むよう設定することには、阻害要因がある。
したがって、甲1発明に、相違点3に係る本件特許発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到できたことではない。
イ 申立書には、申立ての根拠となる証拠として、甲1のほか、甲2~甲11が挙げられているところ、甲2は、相違点1及び相違点2に関する証拠であって、相違点3に関する証拠ではなく、甲3~甲11は、本件特許発明2以下に関連する証拠であって、本件特許発明1に関連する証拠ではなく、甲2~甲11には、上記の阻害要因にも関わらず、甲1発明において、相違点3に係る本件特許発明1のようにシリカ注入液の配合処方を設定することが当業者が容易に想到できたことを示す記載もない。
したがって、その余の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1発明、甲2~甲11に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
2 本件特許発明2~14
本件特許発明2~14は、本件特許発明1の発明特定事項をすべて含み、さらに限定を加えた発明である。
そうすると、本件特許発明2~14は、上記1と同様の理由により、甲1発明、甲2~甲11に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
3 申立人の主張について
申立人は、申立書において、以下の旨を主張する。
(主張1)
「(4) 相違点3について
本件発明1は、注入時間(H)、気中ゲル化時間(GT0)および土中ゲル化時間(GTS0)を「GT0>H≧GTS0またはGT0>GTS0≧H」とするものであるから、引用発明1の「土中ゲル化時間(Ts)<注入時間(H)<気中ゲル化時間(Ta)」を含むものと言える。してみると、相違点3は実質的な相違点ではない。」(申立書38頁1~6行)
(主張2)
「(5) 相違点3について(補足)
本件の特許権者は、「GT0>H≧GTS0またはGT0>GTS0≧H」の意義について、本件特許の審査過程(拒絶査定不服審判の審判請求書)の中で、「地盤は異なる土質が層状に形成されているから、不均質地盤では溶液型注入材は粗い層や地表面に逸脱しやすく、そうすると細い土層への浸透が阻害されるため一次注入として、懸濁型グラウト(アルカリ性)、瞬結性グラウト(中性付近)で均質化をする、従って、同一注入孔でも土層や一次注入材の種類によって、H≧GTS0又はH≦GTS0となるように注入液のゲルタイム(GT0)や配合組成を設定して複合注入を確実に行って、注入範囲からの逸脱を抑えて対象全体を広範囲に地盤改良することが可能になる。」、「実際の地盤注入において、所定の注入領域からの逸脱を低減して地盤注入するにはGT0>GTS0≧H又はGT0>H≧GTS0として、地盤が不均質な土質が互層になっている場合は、これらを併用して注入する必要があります。」と主張しているので、念のため、この点について補足する。
甲1の段落0001~0006の従来例に記載されているように、注入時間をゲル化時間よりも短くすることは、通常行われていることであり、土中ゲル化時間(Ts)が気中ゲル化時間(Ta)よりも短いことは明らかであるから(甲1・段落0091)、気中ゲル化時間(Ta)>土中ゲル化時間(Ts)>注入時間(H)とすることは、単なる従来技術に過ぎない。また、甲1の表8にも、「気中ゲル化時間>注入時間>土中ゲル化時間」とした実施例と「気中ゲル化時間>土中ゲル化時間>注入時間」とした比較例1」が開示されている。なお、甲1の請求項1に係る発明は、注入時間と土中ゲル化時間を具体的に規定する発明特定事項を備えていないから、表8の比較例1,2は、甲1の請求項1に係る発明との関係においては「実施例」である。つまり、甲1発明は、「気中ゲル化時間>注入時間>土中ゲル化時間」とする場合だけでなく、「気中ゲル化時間>土中ゲル化時間>注入時間」とする場合も含んだ発明である。
甲1の段落0048に記載されているように、液状化対策工等の本設工事は、現場ごとに異なる地盤条件や設計強度に対応して、適切な配合設計、注入設計を行う必要があり、このために、現場採取土を用いて室内実験を行い、注入時間や目標強度にあった配合を決定するのが通常である。また、甲1発明は、注入液の配合設計や注入量・注入時間の設定を1注入ステージごとに行うものである。一つの注入孔に対して複数の注入ステージを設定する場合には、各ステージの地盤条件等に応じてステージ毎に配合や注入時間が決定されることになるから、地盤状況、注入孔間隔、並びに単位ステージ当りの注入量に応じて、「気中ゲル化時間>注入時間>土中ゲル化時間」または「気中ゲル化時間>土中ゲル化時間>注入時間」となるシリカ注入液のゲル化時間とシリカ濃度からなる配合処方を設定することは、当業者にとって単なる設計事項に過ぎない。」(申立書38頁7行~39頁16行)
申立人の主張1について検討する。申立人の主張のとおり、本件特許発明1の「GT0>H≧GTS0又はGT0>GTS0≧H」との式が、甲1発明の「土中ゲル化時間(Ts)<注入時間(H)<気中ゲル化時間(Ta)」となる関係を含むものであるとしても、甲1発明には、土中ゲル化時間(Ts)及び注入時間(H)の大小関係を、本件特許発明1のように「地盤状況、注入孔間隔、ステージ長、並びに単位ステージ当りの注入量に応じて」設定する技術的思想がない。
そして、上記1(2)アで検討したように、相違点3にかかる本件特許発明1の構成と、相違点3にかかる甲1発明の構成は、それぞれ異なる課題を解決するためのものであって、相違点3に係る本件特許発明1の「地盤状況、注入孔間隔、ステージ長、並びに単位ステージ当りの注入量に応じて、GT0>H≧GTS0又はGT0>GTS0≧Hとなるように、該シリカ注入液のゲル化時間(GT0)とシリカ濃度からなる配合処方を用い」るとの構成は、「透水係数がk=10-2~10-3程度の均質地盤或いは不均質地盤で一次注入材の注入で粗い土層や逸脱しやすい土層を充填して均質地盤に」(【0015】)する場合や、本件特許明細書の【0029】の表1(b)の上から1つ目及び4つ目の例に示される条件により施工する場合には、「GT0>GTS0≧H」となる配合処方であっても、「複雑な土層からなる地盤条件下で粗い土層や地表面に逸脱することなく土粒子間浸透により所定の範囲に大きな固結体を経済的に、かつ注入量に相当する固結体を注入した領域に確実に形成することを可能に」(【0010】)する点で技術的意義を有するものと認められる。
したがって、相違点3は、実質的な相違点である。
申立人の主張2について検討する。申立人の主張のように、「注入時間をゲル化時間よりも短くすることは、通常行われていることであり」、「気中ゲル化時間(Ta)>土中ゲル化時間(Ts)>注入時間(H)とすることは、単なる従来技術に過ぎない」としても、甲1発明において、「注入時間をゲル化時間よりも短く」し、「気中ゲル化時間(Ta)>土中ゲル化時間(Ts)>注入時間(H)」とした場合には、甲1発明が解決すべき課題を解決することができなくなるため、阻害要因があることは、上記1(2)アにおいて検討した通りである。
また、甲1の【0130】の表8に開示されている比較例1は、申立人の主張のとおり、「気中ゲル化時間>土中ゲル化時間>注入時間」としたものであるが、
「【0137】
比較例1においては、固結地盤の外周部(サンプル3)および、隣接固結地盤の接触部分(サンプル2)では1日後のゲル化が確認でき、十分な一軸圧縮強度が発現したものの、固結地盤は吐出口付近の地盤(サンプル2)ではpHが低くゲル化に約4日を要し、一軸圧縮強度も低かった。これは、吐出口付近で初期の注入液と反応し、後期の注入液が地盤と反応の終わった地盤に注入されるため、注入液はホモゲルのゲル化と同じ挙動を示し、ゲル化時間が長くなるものと思われる。また、ゲル化時間が長くなるため、強度発現が遅くなり、十分な一軸圧縮強度が得られなかったと思われる。」(下線は当審で付した。)
と記載されているように、「ゲル化時間が長くなるため、強度発現が遅くなり、十分な一軸圧縮強度が得られなかった」例として示されているものであるから、甲1発明において、「気中ゲル化時間>土中ゲル化時間>注入時間」とすることを動機づけるものではない。
そして、「甲1の請求項1に係る発明は、注入時間と土中ゲル化時間を具体的に規定する発明特定事項を備えていない」ことは、申立人の主張のとおりであるが、甲1の【0130】の表8の比較例1、2は、いずれも十分な一軸圧縮強度が得られなかった例であって、甲1には、「気中ゲル化時間>土中ゲル化時間>注入時間」とすることを動機づける例は示されていない。
さらに、甲1の【0048】に、「上述したように液状化対策工等の本設工事は、現場ごとに異なる地盤条件や設計強度に対応して、適切な配合設計、注入設計を行わなくてはならない。このため、現場採取土を用いて室内実験を行い、注入時間、目標強度に合った配合を決定する。」ことが記載されていることは、申立人の主張のとおりであるが、「現場ごとに異なる地盤条件や設計強度に対応して」、「気中ゲル化時間>土中ゲル化時間>注入時間」となるシリカ注入液のゲル化時間とシリカ濃度からなる配合処方を設定することは、甲1に記載されておらず、当業者が容易に想到できたものともいえない。
したがって、申立人の主張1及び主張2は、いずれも採用することができない。
第6 むすび
以上のとおり申立人が申し立てた特許異議申立理由及び証拠によっては、本件特許発明1~14に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許発明1~14に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2022-700757