特許異議申立
2024-700406
転写フィルム及び防眩性成形体
- 審判番号
- 2024-700406
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2021-158205
- 登録番号
- 7375798
- 請求日
- 2024年04月26日
- 審決日
- 2025年03月13日
- 公報発行日
- 2025年05月30日
- 結論
- 請求成立(取消)
- 当事者
- 【権利者】大日本印刷株式会社
- 【権利者代理人】宮嶋 学
- 【権利者代理人】堀田 幸裕
- 【権利者代理人】岡村 和郎
- 【権利者代理人】高田 泰彦
- 【権利者代理人】柏 延之
- 【権利者代理人】中村 行孝
- 【権利者代理人】浅野 真理
- 【異議申立人】吉田 琢磨
- 審判長/審判官
- 審判長 金丸 治之
- 審判官 武市 匡紘
- 審判官 藤井 眞吾
- 分類
- P1651.121-Z (B32B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第113条第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7375798号発明「転写フィルム及び防眩性成形体」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7375798号の請求項1~10に係る特許を取り消す。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7375798号(以下「本件特許」という。)の請求項1~10に係る特許についての出願は、令和3年9月28日に出願され、令和5年10月30日にその特許権の設定登録(特許掲載公報令和5年11月8日発行)がされ、その後、その特許について、令和6年4月26日に特許異議申立人吉田琢磨(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、同年7月17日付けで取消理由が通知され、同年9月13日に特許権者から意見書の提出がされ、同年12月19日付けで取消理由が通知され(決定の予告)、令和7年2月19日に特許権者から意見書の提出がされたものである。
第2 本件特許発明
本件特許の請求項1~10に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」~「本件発明10」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1~10に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
基材フィルムと転写層とを有し、屋外用途の外装材の表面の少なくとも一部上に前記転写層を転写するための転写フィルムであって、
前記転写層が、表面保護層及び接着層を有し、前記表面保護層及び前記接着層のいずれか一方又は双方が、耐候性向上剤を含有し、
前記表面保護層が、前記転写層における前記基材フィルム側の表層を構成し、
前記転写層を厚さ2mmのポリカーボネート板に転写して得られる試験片のヘイズが5%以上30%以下であり、前記試験片の前記表面保護層面について測定される60度鏡面光沢度が60%以上120%以下である、
転写フィルム。
【請求項2】
前記基材フィルムと、前記転写層における前記表面保護層とが接している、請求項1に記載の転写フィルム。
【請求項3】
前記表面保護層の前記基材フィルム側の表面における最大高さRzが、0.5μm以上3μm以下である、請求項1又は2に記載の転写フィルム。
【請求項4】
前記表面保護層が、平均粒子径が1μm以上10μm以下の粒子を含有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の転写フィルム。
【請求項5】
前記表面保護層と前記接着層との間に、プライマー層をさらに有する、請求項1~4のいずれか一項に記載の転写フィルム。
【請求項6】
前記プライマー層が、耐候性向上剤を含有する、請求項5に記載の転写フィルム。
【請求項7】
前記基材フィルムのヘイズが、10%以上80%以下である、請求項1~6のいずれか一項に記載の転写フィルム。
【請求項8】
屋外用途の成形体の表面の少なくとも一部上に前記転写層を転写するための、請求項1~7のいずれか一項に記載の転写フィルム。
【請求項9】
透明樹脂成形体の表面の少なくとも一部上に前記転写層を転写するための、請求項8に記載の転写フィルム。
【請求項10】
成形体と、前記成形体の表面の少なくとも一部上に設けられた表面保護フィルムと、を有する防眩性成形体であって、
前記表面保護フィルムが、請求項1~9のいずれか一項に記載の転写フィルムにおける前記転写層であり、前記転写層における前記表面保護層が、前記防眩性成形体の少なくとも一部の表層を構成する、
防眩性成形体。」
第3 取消理由通知(決定の予告)の概要
本件発明1~10は、申立人が提出した次の甲第1号証~甲第4号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許を受けることができないものであるため、請求項1~10に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
甲第1号証:特開2019-150988号公報
甲第2号証:特開2010-160398号公報
甲第3号証:特開2005-288780号公報
甲第4号証:特開2017-47594号公報
(以下、それぞれ「甲1」等という。)
第4 当審の判断
1.引用文献の記載等
(1)甲4
ア 甲4の記載事項
甲4には以下の記載がある。下線は当審で付した。「・・・」は省略を示す。
(ア)特許請求の範囲
「【請求項1】
少なくとも、基材層、凹凸層、および保護層が順に積層された加飾シートであって、
JIS B0601:2001に基づいて、カットオフ値を0.8mmとして、前記加飾シートが被転写体へ転写された場合の転写層の表面を測定したときの凹凸の平均間隔Smが、前記転写層の表面の少なくとも一部の領域において、0.05mm以上0.20mm以下である、加飾シート。
・・・
【請求項3】
前記凹凸層と前記保護層との間に、離型層をさらに備える、請求項1または2に記載の加飾シート。
・・・
【請求項5】
前記保護層上に、アンカー層がさらに積層されてなる、請求項1~4のいずれか一項に記載の加飾シート。
【請求項6】
前記アンカー層上に、接着層がさらに積層されてなる、請求項5に記載の加飾シート。
・・・
【請求項9】
被転写体上に転写層を備えてなる加飾成形品であって、
前記転写層が、少なくとも、保護層を有し、
JIS B0601:2001に基づいて、カットオフ値を0.8mmとして、前記転写層の表面を測定したときの凹凸の平均間隔Smが、前記転写層の表面の少なくとも一部の領域において、0.05mm以上0.20mm以下である、加飾成形品。」
(イ)技術分野
「【0001】
本発明は、加飾シートに関し、より詳細には、少なくとも、基材層、凹凸層、および保護層が順に積層された加飾シートに関する。また、被転写体上に転写層を備えてなる加飾成形品およびその製造方法にも関する。」
(ウ)発明が解決しようとする課題
「【0008】
本発明は上記の背景技術に鑑みてなされたものであり、その目的は、加飾成形品の表面に高意匠性等の所望の表面特性を付与できる加飾シートを提供することにある。」
(エ)発明を実施するための形態
「【0022】
<加飾シート>
本発明による加飾シートは、基材層、凹凸層、および保護層が順に積層されたものである。本発明による加飾シートは、転写型の加飾シートとして使用されるものであり、例えば、加飾成形品のインモールド成形用として好適に使用されるが、これに限らない。加飾シートは、凹凸層と保護層の界面で剥離することができ、成形時には、少なくとも保護層を有する転写層が、少なくとも基材と凹凸層とを有する離型シートから剥離されて、被転写体(例えば、樹脂成形品やディスプレイパネル)へと転写される。
【0023】
加飾シートは、凹凸層と保護層との間に離型層をさらに備えてもよく、凹凸層と保護層との間に低屈折率層をさらに備えてもよい。また、保護層上にアンカー層がさらに積層されてもよく、アンカー層上に接着層がさらに積層されてもよく、アンカー層と接着層との間に絵柄層をさらに備えてもよい。さらに、基材層の凹凸層と反対側の面に、帯電防止層をさらに備えてもよい。
【0024】
図1~図5は、本発明による加飾シートの一実施態様を示す模式断面図である。図1に記載の加飾シート10は、基材層11上に、凹凸層12、保護層13、アンカー層14、および接着層15が順に積層されたものである。すなわち、加飾シート10は、基材層11および凹凸層12を備える離型シート16と、保護層13、アンカー層14、および接着層15を備える転写層17とからなる。」
「【0029】
本発明においては、加飾シートが被転写体へ転写された場合の転写層の表面に所望の凹凸形状を形成することにより、特に表面形状を表すパラメーター(Sm、θa、Rz、Ra等)を調節することにより、高意匠性等の表面特性を付与することができる。転写層の表面は、凹凸形状を有し、好ましくは凹凸形状が離散的に存在している。例えば、被転写体がディスプレイの場合、ディスプレイ表面に防眩性や反射防止性を付与することもできる。
【0031】
加飾シートは、JIS B0601:2001に基づいて、加飾シートが被転写体へ転写された場合の転写層の表面を測定したとき、前記転写層の表面の少なくとも一部の領域において、転写層の表面は以下の表面形状を有する。カットオフ値を0.8mmとして、凹凸の平均間隔Smは、0.05mm以上0.20mm以下であり、好ましくは0.06mm以上0.18mm以下である。カットオフ値を0.25mmとして、十点平均粗さRzは、好ましくは0.20μm以上3.50μm以下であり、より好ましくは0.25μm以上3.20μm以下である。カットオフ値を0.25mmとして、算術平均粗さRaは、好ましくは0.02μm以上0.50μm以下であり、より好ましくは0.04μm以上0.50μm以下である。カットオフ値を0.25mmとして、平均傾斜角θaは、好ましくは0.1度以上5.0度以下であり、より好ましくは0.5度以上4.7度以下である。カットオフ値を0.8mmとして、二乗平均平方根粗さRqは、好ましくは0.05μm以上1.0μm以下であり、より好ましくは0.07μm以上0.8μm以下である。カットオフ値を0.8mmとして、粗さ曲線の最大山高さRpは、好ましくは0.1μm以上4.0μm以下であり、より好ましくは0.15μm以上3.5μm以下である。カットオフ値を0.8mmとして、粗さ曲線の最大谷深さRvは、好ましくは0.2μm以上3.5μm以下であり、より好ましくは0.25μm以上2.5μm以下である。カットオフ値を0.8mmとして、粗さ曲線要素の平均長さRSmは、好ましくは0.05mm以上0.25mm以下であり、より好ましくは0.08mm以上0.2mm以下である。カットオフ値を0.8mmとして、粗さ曲線のスキューネスRskは、好ましくは-1.0以上1.5以下であり、より好ましくは-0.8以上1.25以下である。カットオフ値を0.8mmとして、粗さ曲線のクルトシスRkuは、好ましくは3.0以上8.0以下であり、より好ましくは3.5以上7.0以下である。」
「【0032】
(基材層)
本発明による加飾シートの基材層は、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン系樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・ビニルアルコール共重合体などのビニル系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル系樹脂、ポリ(メタ)アクリル酸メチル、ポリ(メタ)アクリル酸エチルなどのアクリル系樹脂、ポリスチレン等のスチレン系樹脂、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体、三酢酸セルロース、セロファン、ポリカーボネート、ポリウレタン系などのエラストマー系樹脂などによるものが利用される。これらのうち、成形性および剥離性が良好である点から、ポリエステル系樹脂、特にポリエチレンテレフタレート(以下「PET」ということがある。)が好ましい。基材の厚さとしては、成形性や形状追従性、取り扱いが容易であるとの観点から、25~150μmの範囲が好ましく、さらに30~100μmの範囲がより好ましい。」
「【0033】
(凹凸層)
本発明による加飾シートの凹凸層は、表面(凹凸層の保護層側の面)に凹凸形状を有し、加飾シートが被転写体へ転写された場合の転写層の表面に所望の凹凸形状を形成するために設けられる層である。」
「【0050】
本発明において、加飾成形品のヘイズ値は、JIS K-7136に従って測定することができる。測定に使用する機器としては、反射・透過率計HR-100(村上色彩技術研究所)が挙げられる。全光線透過率は、JIS K-7361に従って、ヘイズ値と同じ測定器で測定できる。なお、ヘイズ、全光線透過率は、塗工面を光源に向けて測定する。60度グロスは、JIS Z8741により、精密光沢計((株)村上色彩研究所製 GM-26D)を用いて測定可能である。・・・」
「【0052】
加飾成形品のヘイズ値は1.0~40%であることが好ましく、1.0~30%であることがより好ましい。全光線透過率は、80~99%であることが好ましく、85~95%であることがより好ましい。60度グロスは、40~250であることが好ましく、40~200であることがより好ましい。・・・離型シートのヘイズ値、全光線透過率、60度グロス、像鮮明度、および反射率が上記数値範囲内であれば、加飾シートが被転写体へ転写された場合の転写層は、色再現性、視認性、および防眩性等の表面特性が得られやすい。なお、上記の値は、JIS K-7136に従って測定したときの全光線透過率が85%以上の透明シートを被転写体として用いたときの値である。透明シートに用いられる樹脂としては、たとえば、アクリルやポリカーカーボネート(当審注:原文の表現のまま)が挙げられる。」
「【0066】
(保護層)
本発明による加飾シートの保護層は、転写層が加飾シートから被転写体へと転写された後は、摩耗や光、薬品等から成形品や絵柄層を保護するための層である。保護層は、電離放射線硬化性樹脂、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂などを用いて形成することができる。・・・
【0067】
保護層が電離放射線硬化性樹脂から構成される場合、保護層は、電離放射線硬化性樹脂と、無機粒子の表面に反応性官能基を有する反応性無機粒子および/または拡散粒子と、多官能イソシアネートとを含むインキ組成物から形成されることが好ましい。このインキを、グラビアコート法、ロールコート法、コンマコート法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、およびグラビアリバースロールコーティング法等の公知の手段により塗布・乾燥させて形成することができる。」
「【0084】
上記のインキ組成物は、得られる所望物性に応じて、各種添加剤を配合することができる。添加剤としては、例えば紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、光安定剤、重合禁止剤、架橋剤、帯電防止剤、酸化防止剤、レベリング剤、チキソ性付与剤、カップリング剤、可塑剤、消泡剤、充填剤などが挙げられる。」
「【0088】
(アンカー層)
・・・
【0089】
・・・また、保護層の樹脂とアンカー層のアクリルポリオールとイソシアネートとを反応してなる樹脂との親和性により、保護層、アンカー層、および絵柄層または接着層の各層間の密着性を向上させることができる。
【0090】
さらに、アンカー層は、上記の樹脂に必要な添加剤を加えたものを適当な溶剤に溶解または分散させて調製したインキを、グラビアコート法、ロールコート法、コンマコート法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、およびグラビアリバースロールコーティング法等の公知の手段により塗布・乾燥させて形成することができる。通常、アンカー層の厚さは、0.1~6μmの範囲内であることが好ましく、1~5μmの範囲内であることがより好ましい。」
「【0095】
(接着層)
接着層は、転写層を接着性よく被転写体に転写するために形成される層である。・・・」
「【0098】
<加飾成形品>
本発明による加飾成形品は、被転写体上に転写層を備えてなる。転写層は、上記の加飾シートを用いて形成することができる。転写層の表面形状については、上記で説明したとおりである。本発明による加飾シートを用いて加飾成形品を製造することで、製造効率を向上させることができる。
【0099】
図6は、本発明による加飾成形品の一実施態様を示す模式断面図である。加飾成形品61は、被転写体62の一方の面上に、接着層15、アンカー層14、および保護層13からなる転写層を備えるものである。」
(オ)実施例
「【0103】
[実施例1]
<加飾シートの作製>
まず、基材層であるPETフィルム基材(東レ社製、A4300、厚み50μm)の片面に、下記組成の凹凸層用インキ1を塗布し、乾燥後、窒素雰囲気下で紫外線を照射させて下記のバインダー樹脂を硬化させ、厚さ2μmの凹凸層を形成して、離型シート1を得た。次いで、該離型シート1上に、グラビア印刷法によって、下記組成の保護層用インキを用いて塗工し、乾燥後に5g/m2になるように、保護層を形成した。次いで、該保護層上に、グラビア印刷法によって、下記組成のアンカー層用インキを用いて塗工し、乾燥後に3g/m2になるように、アンカー層を形成した。次いで、該アンカー層上に、グラビア印刷法によって、下記組成の接着層用インキを用いて塗工し、乾燥後に2g/m2になるように、接着層を形成した。なお、下記のインキは、適宜塗工しやすい粘度になるように有機溶剤で希釈した。
【0104】
(凹凸層用インキ1の組成)
・バインダー樹脂(ペンタエリスリトールトリアクリレート)
98.8質量部
・酢酸プロピオン酸セルロース 1.2質量部
・光重合開始剤(イルガキュア1 8 4;チバガイギー社製)2.7質量部
・光重合開始剤(ベンゾフェノン) 2.7質量部
・微粒子(シランカップリング処理シリカ,平均粒径1.5μm)
5.6質量部
・添加剤(エーテル変性シリコーン) 0.1質量部
・希釈溶剤(トルエン) 106.4質量部
・希釈溶剤(酢酸エチル) 5.0質量部
(保護層用インキの組成)
・紫外線硬化型アクリルアクリレート、シリカ粒子、光重合開始剤(DNPファインケミカル(株)製、商品名:KYKコート剤(82L))
100質量部
・ヘキサンメチレンジイソシアネート(日本ポリウレタン工業(株)製、商品名:コロネート2203): 2質量部
・希釈溶剤:メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン
(アンカー層用インキの組成)
・アクリルポリオール(大成ファインケミカル(株)製、商品名:アクリット6RH084T): 100質量部
・ヘキサンメチレンジイソシアネート(日本ポリウレタン工業(株)製、商品名:コロネート2203): 10質量部
・希釈溶剤:メチルエチルケトン、トルエン
(接着層用インキの組成)
・塩化ビニル酢酸ビニル共重合体(DNPファインケミカル(株)製、商品名:ST-P Aワニス): 100質量部
・希釈溶剤:メチルエチルケトン、トルエン
【0105】
さらに、基材層の他方の面上に、グラビア印刷法によって、下記組成の帯電防止層用インキを用いて塗工し、乾燥後に3g/m2になるように、帯電防止層を形成した。以上により、帯電防止層、基材層、凹凸層、保護層、アンカー層、接着層の順に積層された加飾シート1を作製した。なお、下記のインキは、適宜塗工しやすい粘度になるように有機溶剤で希釈した。
【0106】
(帯電防止層用インキの組成)
・カチオン系界面活性剤(第4級アンモニウム塩、大日精化工業(株)製、商品名:SP-V帯電防止剤(K)) 100質量部
・希釈溶剤:メチルエチルケトン、トルエン
【0107】
[実施例2]
<加飾シートの作製>
まず、基材層であるPETフィルム基材(東レ社製、A4300、厚み50μm)の片面に、下記組成の凹凸層用インキ2を塗布し、乾燥後、窒素雰囲気下で紫外線を照射させて下記のバインダー樹脂を硬化させ、厚さ3μmの凹凸層を形成して、離型シート2を得た。次に、離型シート1の代わりに離型シート2を用いた以外は、実施例1と同様にして、加飾シート2(層構成の順序:帯電防止層、基材層、凹凸層、保護層、アンカー層、接着層)を作製した。
【0108】
(凹凸層用インキ2の組成)
・バインダー樹脂(ペンタエリスリトールトリアクリレート(製品名PET30;日本化薬)) 3.04g
・拡散粒子(スチレンビーズペースト(製品名SX-130;綜研化学、粒径1.3μm、ビーズ含量40%)) 1g
・10%セルロースアセテートプロピオネート(酢酸エチル希釈;ポリマー含有率10%) 3.64g
・希釈溶剤(トルエン、酢酸ブチル、イソブチルアルコール) 7.21g
・光重合開始剤:イルガキュア651(チバガイギー社製) 0.11g
・フィラー/バインダー比 10/100」
「【0114】
<加飾シートの性能評価>
・・・
(光学特性の評価)
加飾シートの転写層(接着層)側を透明アクリルシート(クラレ社製,コモグラスDK3,厚み2mm)と重ね合わせ、加飾シートの帯電防止層(転写層の反対)側から加熱転写して加飾成形品を作製した。加飾成形品について、全光線透過率(%)、ヘイズ値(%)、像鮮明度(%)を測定した。同様にして、加飾シートを黒色アクリルシート(三菱レイヨン社製)と重ね合わせ、加飾シートの帯電防止層(転写層の反対)側から加熱転写して加飾成形品を作製し、グロス、反射率(%)を上記方法により測定し、測定結果を表1に示した。
【0115】
【表1】
[図:0001422428000001.jpg]
【0116】
(表面形状の評価)
加飾加飾シートの転写層(接着層)側を透明アクリルシート(クラレ社製,コモグラスDK3,厚み2mm)と重ね合わせ、加飾シートの帯電防止層(転写層の反対)側から加熱転写して加飾成形品を作製した。転写層の表面について、算術平均粗さRa(μm)、十点平均粗さRz(μm)、平均間隔Sm(mm)、二乗平均平方根粗さRq(μm)、粗さ曲線の最大山高さRp(μm)、粗さ曲線の最大谷深さRv(μm)、粗さ曲線要素の平均長さRSm(mm)、粗さ曲線のスキューネスRsk、粗さ曲線のクルトシスRku、平均傾斜角θa(度)を上記方法により測定し、測定結果を表2~7に示した。なお、各測定は、3回行い、その平均値を算出した。
【0117】
本発明の構成を満たす加飾シートは、転写層の表面に所望の表面形状を形成することで高意匠性等の表面特性を付与できることがわかった。
【0118】
【表2】
[図:0001422428000002.jpg]
【0119】
【表3】
[図:0001422428000003.jpg]
」
(カ)図面
「【図1】
[図:0001422428000004.jpg]
・・・
【図6】
[図:0001422428000005.jpg]
」
イ 甲4に記載された発明
甲4には、特に実施例1及び実施例2の加飾シートについて、次の「甲4発明」が記載されていると認められる。
「帯電防止層、基材層、凹凸層、保護層、アンカー層、接着層の順に積層された加飾シートであって、
基材層はPETフィルム基材であり、
被転写体の面上に、接着層、アンカー層、および保護層からなる転写層が転写されて加飾成形品が形成され、
加飾シートを透明アクリルシート(クラレ社製,コモグラスDK3、厚み2mm)に転写して作製した加飾成形品のヘイズ値が24.7%、60度グロスが53、又はヘイズ値が6.2%、60度グロスが122であり、
転写層の表面において、粗さ曲線の最大山高さRpが0.75μm、粗さ曲線の最大谷深さRvが1.41μm、又は粗さ曲線の最大山高さRpが1.01μm、粗さ曲線の最大谷深さRvが2.27μmである、加飾シート。」
(2)甲1
甲1には以下の記載がある。
「【0015】
《第1領域X及び第2領域Y》
離型シート10の転写層20と接する側の面は、第1領域Xと、第1領域Xに隣接する第2領域Yとを有する。
第1領域X及び第2領域Yの配置は任意である。例えば、離型シート10の中心部に第1領域X、周辺部に第2領域Yを配置する構成(図2の構成);離型シート10の中心部に第2領域Y、周辺部に第1領域Xを配置する構成;第1領域Xと第2領域Yとを並列して配置する構成;離型シート10の中心付近に独立した複数の第1領域Xを配置し、該複数の第1領域Xの周囲に第2領域Yを配置する構成;離型シート10の中心付近に独立した複数の第2領域Yを配置し、該複数の第2領域Yの周囲に第1領域Xを配置する構成;等が挙げられる。
なお、離型シート10は、転写層20と接する側の面に、さらに別の領域を有していてもよい。
【0016】
第1領域X及び第2領域Y´の表面形状(凹凸の程度等)は、目的(意匠性、防眩性等)に応じて異なるため特に限定されないが、JIS B0601:1994に準じて測定されるカットオフ値0.8mmでの算術平均粗さが、前記第1領域Xの算術平均粗さRa1と、前記第2領域Y´の算術平均粗さRa2で、Ra1≠Ra2の関係を満たすことが好ましい。
被転写物に転写層を転写した後の転写層表面の形状は、離型シートの表面形状と相補的形状を有するため、Ra1≠Ra2の関係を満たすことは、被転写物に対して、表面形状が異なる2つの領域を形成できることを意味している。
【0017】
「Ra1-Ra2」、「Ra1」、「Ra2」及び「Rz1」は、以下の範囲であることが好ましい。本発明において、Ra及びRzは、離型シートの第1領域及び第2領域に相当する箇所から3.3cm×3.3cmのサンプルを切り出し、該サンプルの縦方向を0.3cm間隔で10点測定、該サンプルの横方向を0.3cm間隔で10点測定し、合計20点の測定値の平均値とする。なお、サンプルは、目視でゴミや傷などの異常点がない箇所から切り出すものとする。
なお、本明細書において「AA~BB」とは、「AA以上BB以下」のことをいう。」
「【0020】
Rz1は0.25~5.00μmであることが好ましく、0.50~2.50μmであることがより好ましく、1.00~2.00μmであることがさらに好ましい。
Rz1を0.25μm以上とすることにより、第1領域Xに傷等の欠陥が生じた場合に、該欠陥を目立ちにくくすることができ、歩留まりを向上できる。また、Rz1を5.00μm以下とすることにより、被転写物の意匠性の低下を抑制できる。また、Rz1を5.00μm以下とすることにより、被転写物を液晶表示素子等の表示素子の前面に用いる場合、白化やギラツキを抑制できる。なお、「ギラツキ」とは、凹凸構造に起因して、映像光に微細な輝度のばらつきが見える現象のことをいう。」
「【0063】
保護層中には、有機粒子及び無機粒子等の粒子を含有してもよい。保護層中に粒子を含有することにより、樹脂成分との屈折率差による内部ヘイズの発現により、ギラツキや欠陥を目立ちにくくすることができる。これらの粒子は、同様の目的で、後述する接着剤層、アンカー層等に含有させてもよい。」
「【0065】
保護層中に含有する粒子の平均粒子径は、0.05~5.0μmが好ましく、0.5~3.0μmがより好ましい。
本明細書において、平均粒子径は、溶液中の該粒子を動的光散乱方法で測定し、粒子径分布を体積累積分布で表したときの50%粒子径(d50:メジアン径)である。50%粒子径は、例えば、Microtrac粒度分析計(日機装株式会社製)を用いて測定することができる。」
(3)甲2
甲2には以下の記載がある。
「【背景技術】
【0002】
近年、CRT、PDP(プラズマディスプレイ)、LCD(液晶ディスプレイ)パネルなどの高精細画像用ディスプレイや赤外線センサー、光導波路等の進歩に伴い、光学用透明高分子材料、特に面状(フィルム状やシート状など)の光学用透明高分子材料、つまり光学フィルムに対する要請が高まっている。
特に、ディスプレイ分野で使用される光学フィルムには、高い透明性、高い光学等方性に加えて、低い光学弾性率、耐熱性、高い機械的強度に対する要求が高まっている。
光学フィルムの使用例として、例えば、防眩フィルムは、一般に、CRT、PDP(プラズマディスプレイ)、LCD(液晶ディスプレイ)パネル等のディスプレイ表示装置において、外光の反射や蛍光灯等の写り込みによる視認性の低下を抑制するために、ディスプレイの最表面に配置される。防眩フィルムは、一般に基材の上に、凹凸形状を有した防眩層を形成することにより実現される。この凹凸形状を有する防眩層の形成は、透明基材の表面に、二酸化ケイ素(シリカ)等のフィラーを含む樹脂を塗工して形成されるものが一般的である(特許文献1および特許文献2)。さらに従来の方法では、凝集シリカ等の不定形シリカの二次凝集体により凹凸形状を形成するもの、または防眩層の表面に凹凸を持ったフィルムをラミネートし転写する方法(賦型処理)により凹凸形状を形成するもの、さらに有機ビーズを樹脂中に添加して凹凸形状を形成するもの等が提案されている。
近年、PDPおよびLCD等に代表されるディスプレイ市場の拡大とディスプレイの大型化に伴い、ディスプレイの最表面に配置される防眩フィルムについても、防眩性と他の改善が求められている。特に、コントラストの改善、透過鮮明度の向上、文字ボケの軽減、表示体を黒表示にした状態での優れた漆黒感(墨色の黒さの度合い)の実現等の改善が要求されている。また、ディスプレイの拡大化に伴い、その表面体として用いられる防眩フィルム自体にも拡大が要求されるが、拡大化による防眩フィルムの物理的変化(例えば、変性)により表示体としての視認性が若干低下することがあった。
防眩フィルムの拡大化による表示体の視認性の低下は、防眩フィルムにおける防眩性能力を向上させることにより解決しうるが、上記の改善要求を満たすことは困難であった。つまり、防眩性向上と上記の改善要求とは一般的に相反関係にあるとされており、この両者を同時に満足させる防眩フィルムの製造は困難とされている。
その一方、現在、ディスプレイ市場の拡大と大型化により、200ppi以上の高解析度を有する高価な高精細モニター用ではなく、100ppi以下の中低度の解析度を有する大型モニター用であって、防眩性と、上記の改善要求とを同時に満たし、しかも、安価な、防眩フィルムの開発が急務となっているのが現状である。
屋外で使用される場合には、高い耐候性が要求されている。
また、ディスプレイ表面で使用される場合には、高い表面硬度が要求されている。
特許文献3では、防眩フィルムの防眩性に、コントラストの改善、透過鮮明度の向上、文字ボケの軽減、表示体を黒表示にした状態での優れた漆黒感(墨色の黒さの度合い)の実現をさせるべく、表面凹凸構造を制御するために、微粒子の凝集状態の制御に関して検討されている。
特許文献4では、基材フィルムにラクトン環含有樹脂を使用し、防眩フィルムの耐候性と表面硬度を向上させている。しかし、防眩性については不十分であった。
さらには、フィルム取り扱いの作業性、安全性を考慮すると、防眩フィルム製造・加工の際に発生する静電気を発生しにくくするために、フィルム自身の表面電位を小さく抑え、帯電させにくくすることが要求される。
しかし、上記のすべての特性を十分に満足するものは、従来の防眩フィルムになかった。」
(4)甲3
甲3には以下の記載がある。
「【技術分野】
【0001】
本発明は、防眩性ハードコート転写材、特に液晶ディスプレイ等の各種ディスプレイ、屋外表示板等の建材等に対して、これらの被転写体の外観を損なうことなく、耐擦傷性、耐汚染性等に加え、防眩性を付与する表面保護反射防止層を形成するためのハードコート転写材に関する。さらに、本発明は、該防眩性ハードコート転写材の製造方法、該防眩性ハードコート転写材を用いる表面保護反射防止層の形成方法、および該表面保護反射防止層が形成されたプラスチック基材に関する。」
(5)周知技術1
甲2の【0002】、甲3の【0001】に示されるように、「屋外用途の転写フィルムにおいて防眩性を考慮すること」(以下「周知技術1」という。)は周知技術である。
2.本件発明1について
(1)対比
ア 本件発明1と甲4発明を対比する。
甲4発明の「PETフィルム基材」である「基材層」と「凹凸層」を合わせたものは、本件発明1の「基材フィルム」に相当する。
甲4発明の「保護層」は、転写層における配置関係より、被転写体に転写された場合、転写層の表層を構成することは明らかであるから、本件発明1の「表面保護層」に相当する。
甲4発明の「接着層」は本件発明1の「接着層」に、甲4発明の「転写層」は本件発明1の「転写層」にそれぞれ相当する。
甲4発明の「加飾シート」と、本件発明1の「屋外用途の外装材の表面の少なくとも一部上に前記転写層を転写するための転写フィルム」とは、「被転写体上に前記転写層を転写するための転写フィルム」という限りで一致する。
イ そうすると、本件発明1と甲4発明とは、
「基材フィルムと転写層とを有し、被転写体上に前記転写層を転写するための転写フィルムであって、
前記転写層が、表面保護層及び接着層を有し、
前記表面保護層が、前記転写層における前記基材フィルム側の表層を構成する、転写フィルム。」で一致し、次の相違点で相違する。
《相違点1》
「被転写体上に前記転写層を転写するための転写フィルム」に関し、本件発明1が「屋外用途の外装材の表面」に転写するものであるのに対し、甲4発明は、そのように特定されていない点。
《相違点2》
本件発明1が、「前記表面保護層及び前記接着層のいずれか一方又は双方が、耐候性向上剤を含有」するのに対し、甲4発明は、そのように特定されていない点。
《相違点3》
本件発明1が、「前記転写層を厚さ2mmのポリカーボネート板に転写して得られる試験片のヘイズが5%以上30%以下であり、前記試験片の前記表面保護層面について測定される60度鏡面光沢度が60%以上120%以下である」のに対し、甲4発明は、「加飾シートを透明アクリルシート(クラレ社製,コモグラスDK3、厚み2mm)に転写して作製した加飾成形品のヘイズ値が24.7%、60度グロスが53、又はヘイズ値が6.2%、60度グロスが122である」点。
(2)判断
ア 相違点1について
甲4に「被転写体がディスプレイの場合、ディスプレイ表面に防眩性や反射防止性を付与することもできる。」(【0029】)と記載されているものであるが、屋内用途においてもディスプレイ等の配置によっては太陽光の影響を受ける場合があるところ、甲4発明の被転写体に転写された転写層は、太陽光を含めた種々の光が被転写体に反射して眩しいことを解消するために、被転写体の表面に防眩性や反射防止性を付与し得るものである。
また、防眩フィルムが配置されたディスプレイが屋外で使用される場合があることは、甲2(【0002】)に記載されるとおりであり、屋外表示板等の屋外で使用される被転写体に転写材により防眩性を付与することも、甲3(【0001】)に記載されている。
したがって、甲4発明の転写層を備える加飾シートを、屋外用途の外装材の表面に用いることは適宜なし得たものである。
イ 相違点2について
甲4の【0084】には、保護層を形成するインキ組成物に関して、「上記のインキ組成物は、得られる所望物性に応じて、各種添加剤を配合することができる。」と記載され、当該記載における添加剤として、紫外線吸収剤、光安定剤等が挙げられている。そうすると、甲4発明の転写層を備える加飾シートを、屋外用途の外装材の表面に用いる際に、甲4における当該記載の技術的事項を参考にして、相違点2に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易になし得たものである。
ウ 相違点3について
本件発明1が「厚さ2mmのポリカーボネート板」に転写した場合のヘイズと60度鏡面光沢度を特定しているのに対し、甲4発明は「透明アクリルシート」に転写したものであることで相違するが、甲4に「透明シートに用いられる樹脂としては、たとえば、アクリルやポリカーカーボネート(「ポリカーボネート」の誤記と認定。)が挙げられる。」(【0052】)と記載されることからすると、「厚さ2mmのポリカーボネート板」に転写することもでき、いずれも透明な樹脂であることから、そのような被転写体に転写層を転写したもののヘイズ値は、同程度の値となる蓋然性が高い。そして、透明アクリルシートに転写した甲4発明の加飾成形品のヘイズ値が「24.7%」及び「6.2%」であることからすれば、甲4発明の加飾シートの転写層をポリカーボネートに転写した場合のヘイズ値は、「ヘイズが5%以上30%以下」となる蓋然性が高い。
他方で、甲4発明の加飾成形品の60度グロスは「53」及び「122」であり、いずれも本件発明1の数値範囲内にはない。しかし、甲4の【0052】で60度グロスは「40~200であることがより好ましい」とされていること、屋外用途の転写フィルムにおいて防眩性を考慮することは上記周知技術1として示したとおり周知であることからすれば、甲4発明を屋外用途の外装材の表面に用いる際に、防眩性を考慮して60度グロスの値を適宜設計して、本件発明1の数値範囲である「60度鏡面光沢度が60%以上120%以下」とすることは容易である。
よって、甲4発明に基いて、相違点3に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たものである。
エ 作用効果について
本件発明1の奏する作用効果は、甲4発明並びに甲2~甲4記載の技術的事項の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。
オ 意見書における特許権者の主張について
(ア)主張の概要
特許権者は、令和7年2月19日提出の意見書において、概ね次の旨を主張する。
主張a 本件発明1は、屋外用途の外装材の表面の少なくとも一部上に転写層を転写するための転写フィルムにおいて、「透明性と防眩性とを両立すること」(【0005】)を課題とし、本件発明1は、当該課題を解決するための手段として、「屋外用途の外装材の表面の少なくとも一部上に前記転写層を転写するための転写フィルム」(特徴(a))と「前記転写層を厚さ2mmのポリカーボネート板に転写して得られる試験片のヘイズが5%以上30%以下であり、前記試験片の前記表面保護層面について測定される60度鏡面光沢度が60%以上120%以下である」(特徴(b))という特徴を有しているところ、甲1~甲4のいずれも、特徴(a)、特徴(b)を開示していないから、本件発明の進歩性は、甲1~甲4に基づいて否定され得ない。
主張b 転写フィルムの用途と、転写フィルムのヘイズ値及び60度鏡面光沢度と、を別個に調整することはあり得ず、当業者であれば、用途に応じて転写層のヘイズ及び60度鏡面光沢度と、を別個に検討調整することを前提とした取消理由通知書での認定は、後知恵であり、失当である。
主張c 甲4に記載された実施例3の60°グロスは、198と非常に大きいが、防眩性の判定は良好となっており、本件特許において防眩性が不十分とされた比較例1の60度鏡面光沢度の値よりも更に大幅に大きい値であっても、甲4で想定した用途においては十分な防眩性と評価されているため、当業者であれば、転写フィルムの用途と切り離して、転写層のヘイズや60度鏡面光沢度を調整することはあり得ない。
主張d 本件特許の実施例での透明性評価は、「観察者と試験片との距離を30cm」及び「試験片と写真との距離を1m」との条件下で実施され、著しく写真の像がぼやけ易くなるような過酷な条件を用いることで、特徴(a)のような転写フィルムについて透明性を十分に評価できる。
主張e 甲4での評価は、耐候性向上剤を含有していない転写層についての評価となっており、本件明細書に記載された評価とそのまま対比することができない。
(イ)上記主張aについて
本件明細書における実施例からは、防眩性について、「得られた試験片を、表面保護層側が上面となるようにテーブル上に載置し、防眩性(アンチグレア性、AG性)として、38Wの蛍光灯の映り込みを目視により下記6段階で評価した。蛍光灯と試験片との距離を2mとした。」(【0141】)という試験条件において、60度鏡面光沢度が99.9以下であれば、「4:蛍光灯の光はぼやけているが、輪郭は判別できる。」という評価よりも良好であること(【0147】【表1】、耐候性試験前(0h)の実施例1)、また、透明性について、「得られた試験片を、表面保護層が観察者側を向き、ポリカーボネート板が写真側を向くように、観察者と写真との間に配置した。観察者と試験片との距離を30cmとし、試験片と写真との距離を1mとした。表面保護層側から試験片を介して写真を確認したときの透明性として、写真の視認性を下記6段階で評価した。」(【0142】)という試験条件において、ヘイズが25.3以下であれば、「4:写真の画像が全体的にぼやけている。」という評価よりも良好であること(【0147】【表1】、耐候性試験前(0h)の実施例4)は開示されている。
しかしながら、実施例における試験条件は蛍光灯下であり、室内環境のものであるから、実施例における転写フィルムが、「屋外用途の外装材の表面の少なくとも一部上に前記転写層を転写」した場合にも、透明性と防眩性とを両立できるものであることが本件明細書に開示されているとはいえず、屋内環境において試験された条件に基づいて、60℃鏡面光沢度、ヘイズの好ましい範囲を算出しているにすぎない。
したがって、上記主張aは、前提において誤っている。
そして、甲4発明を屋外用途の外装材の表面に用いる点については、上記(2)アにおける相違点1について示したとおりである。
よって、上記主張aを採用することはできない。
(ウ)上記主張bについて
上記(2)ウにおける相違点3についての判断を参照。
(エ)上記主張cについて
甲4では、「加飾成形品の表面に高意匠性等の所望の表面特性を付与できる加飾シートを提供すること」(【0008】)を目的としており、実施例1~3においては、「表面特性」として、全光線透過率(%)、ヘイズ値(%)、像鮮明度(%)、グロス、反射率(%)を測定したものである。【0115】【表1】を参照すると、実施例3は、ヘイズ値が低く、60度グロスが大きい表面特性を付与できるものであることは理解できるものの、特許権者が主張するような「十分な防眩性」と評価されたものとはいえない。
屋外用途の転写フィルムにおいて防眩性を考慮することは上記周知技術1として示したとおり周知であることからすれば、甲4発明を屋外用途の外装材の表面に用いる際に、防眩性を高めたものとする点については、上記(2)ウにおける相違点3について示したとおりである。
(オ)上記主張dについて
「転写フィルム」は、「成形体の表面に表面保護層を設ける」(【0002】)ものであって、「観察者と試験片との距離を30cm」及び「試験片と写真との距離を1m」との条件は、転写フィルムの使用態様と著しく異なるところ、このような条件下で評価することと、「屋外用途の外装材の表面の少なくとも一部上に前記転写層を転写するための転写フィルム」であることとの関係について、上記(イ)で述べたように本件明細書には何も示されていない。
(カ)上記主張eについて
甲4におけるヘイズ、60度グロスは、加飾シートの光学特性に関するものであって、耐候性向上剤を含有させるか否かとの関連性は少ない。
カ 小括
以上より、本件発明1は、甲4発明及び甲2~甲4記載の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
3.本件発明2について
甲4発明は、「帯電防止層、基材層、凹凸層、保護層、アンカー層、接着層の順に積層された」ものであるところ、上記2.(1)アにおいて示したとおり、「PETフィルム基材」である「基材層」と「凹凸層」を合わせたものは本件発明1の「基材フィルム」に相当するから、甲4発明において、「帯電防止層、基材層、凹凸層、保護層、アンカー層、接着層の順に積層された」ことは、本件発明2の「前記基材フィルムと、前記転写層における前記表面保護層とが接している」ことに相当する。
そうすると、本件発明2と甲4発明とは、相違点1~相違点3で相違し、その余の点で一致する。
そして、相違点1~相違点3についての判断は上記2.(2)ア~ウで説示したとおりである。
よって、本件発明2は、甲4発明及び甲2~甲4記載の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
4.本件発明3について
表面粗さに関して、最大高さRzは、粗さ曲線の最大山高さRpと粗さ曲線の最大谷深さRvの和であるから、甲4発明における転写層表面における最大高さは、2.16μm(0.75+1.41)又は3.28μm(1.01+2.27)である。
そうすると、本件発明3と甲4発明とは、相違点1~相違点3に加えて次の点で相違し、その余の点で一致する。
[相違点4]
本件発明3は「前記表面保護層の前記基材フィルム側の表面における最大高さRzが、0.5μm以上3μm以下である」のに対して、甲4発明は、転写層表面における最大高さが2.16μm又は3.28μmである点。
相違点1~相違点3についての判断は上記2.(2)ア~ウで説示したとおりである。
相違点4について検討する。
甲4発明において、被転写物の表面に防眩性や反射防止性を付与するために、上記2.(2)ウで説示したように転写層の表面の表面形状を適宜調節することは、当業者が適宜なし得たことであり、甲4発明における転写層表面における最大高さを相違点4に係る本件発明3で特定される程度のものとすることは、当業者が適宜なし得たことである。
よって、本件発明3は、甲4発明及び甲2~甲4記載の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
5.本件発明4について
本件発明4と甲4発明とは、相違点1~相違点4に加えて次の点で相違し、その余の点で一致する。
[相違点5]
本件発明4は「前記表面保護層が、平均粒子径が1μm以上10μm以下の粒子を含有する」のに対して、甲4発明はそのようなものであるか不明である点。
相違点1~相違点3についての判断は上記2.(2)ア~ウで、相違点4についての判断は上記4.で説示したとおりである。
相違点5について検討する。
甲1(【0063】、【0065】)には、保護層中の粒子を含有させることによりギラツキを低減でき、平均粒子径は0.5~3.0μmであることがより好ましいと記載されている。
甲4発明において、ギラツキを調整するために、甲1に記載の上記技術的事項を適用して、相違点5に係る本件発明4の構成とすることは、当業者が適宜なし得たことである。
よって、本件発明4は、甲4発明及び甲1~甲4記載の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
6.本件発明5について
甲4発明のアンカー層は本件発明5の「プライマー層」に相当する。
そうすると、本件発明5と甲4発明とは、相違点1~相違点5で相違し、その余の点で一致する。
相違点1~相違点3についての判断は上記2.(2)ア~ウで、相違点4についての判断は上記4.で、相違点5についての判断は上記5.で説示したとおりである。
よって、本件発明5は、甲4発明及び甲1~甲4記載の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
7.本件発明6について
本件発明6と甲4発明とは、相違点1~相違点5に加えて次の点で相違し、その余の点で一致する。
[相違点6]
本件発明6は「前記プライマー層が、耐候性向上剤を含有する」のに対して、甲4発明はそのようなものであるか不明である点。
相違点1~相違点3についての判断は上記2.(2)ア~ウで、相違点4についての判断は上記4.で、相違点5についての判断は上記5.で説示したとおりである。
相違点6について検討する。
甲4には、アンカー層に必要な添加剤を添加できる旨(【0090】)記載されていることからすると、保護層と同様にアンカー層に耐候性向上剤を含有させることは当業者にとって容易である。
よって、本件発明6は、甲4発明及び甲1~甲4記載の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
8.本件発明7について
本件発明7と甲4発明とは、相違点1~相違点6に加えて次の点で相違し、その余の点で一致する。
[相違点7]
本件発明7は「前記基材フィルムのヘイズが、10%以上80%以下である」のに対して、甲4発明はそのようなものであるか不明である点。
相違点1~相違点3についての判断は上記2.(2)ア~ウで、相違点4についての判断は上記4.で、相違点5についての判断は上記5.で、相違点6についての判断は上記7.で説示したとおりである。
相違点7について検討する。
甲4には、基材層の樹脂材料について、ポリオレフィン系樹脂、ビニル系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、エラストマー系樹脂など(【0032】)が挙げられており、これらの樹脂より、視認性、防眩性等を考慮し、ヘイズ値が10%以上80%以下となるような樹脂材料を選択することは当業者にとって容易である。
よって、本件発明7は、甲4発明及び甲1~甲4記載の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
9.本件発明8~10について
甲4発明の加飾シートをどのような被転写物に転写するかは当業者が適宜決め得ることであり、甲4発明の加飾シートの転写層を、屋外用途の透明性樹脂成形体の表面に転写し、成形体の表層を構成し防眩性をもたせることは、適宜なし得たものである。
よって、本件発明8~10は、甲4発明及び甲1~甲4記載の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
第5 むすび
以上のとおり、請求項1~10に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
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2024-700406