特許異議申立
2024-700376
反射部材及びガラス積層部材の製造方法
- 審判番号
- 2024-700376
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-167467
- 登録番号
- 7369573
- 請求日
- 2024年04月19日
- 審決日
- 2025年01月15日
- 公報発行日
- 2025年03月28日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】信越石英株式会社
- 【権利者代理人】石原 進介
- 【権利者代理人】石原 詔二
- 【異議申立人】吉田 敦子
- 審判長/審判官
- 審判長 深草 祐一
- 審判官 宮澤 尚之
- 審判官 小野 久子
- 分類
- P1651.536-Y (C03B) / P1651.537-Y (C03B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第4項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7369573号発明「反射部材及びガラス積層部材の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7369573号の請求項1~10に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7369573号の請求項1~10に係る特許(以下、それぞれ「本件特許1」などといい、まとめて「本件特許」という。)についての出願は、令和1年9月13日に出願され、令和5年10月18日にその特許権の設定登録がされ、同年同月26日に特許掲載公報が発行された。
その後、本件特許1~10に対して、令和6年4月19日に特許異議申立人吉田敦子(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、同年6月25日付けで取消理由が通知され、同年8月9日に特許権者により意見書の提出がされ、同年9月3日付けで申立人に対して審尋が通知され、同年10月4日に申立人により回答書の提出がされた。
第2 本件特許請求の範囲の記載(本件発明)
本件特許請求の範囲の記載は、次のとおりである。そして、本件特許の請求項1~10に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」などといい、まとめて「本件発明」という。)は、その記載事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
不透明シリカ質焼結粉体層の上面及び下面に透明石英ガラス部材が貼り合せにより形成されてなる、少なくとも三層の積層構造を有する反射部材であり、
前記不透明シリカ質焼結粉体層と前記透明石英ガラス部材の境界を有し、
前記不透明シリカ質焼結粉体層の厚さが0.1mm以上であり、膜厚の分布が±0.05mm以下であり、
前記積層構造の上面及び下面の透明石英ガラス部材に、積層構造と平行な方向で荷重をかけた時、破壊する荷重が1cm2あたり5N以上であり、
前記積層構造の、不透明シリカ質焼結粉体層と透明石英ガラス部材の境目において、両者の中間の不透明度となる半透明度部分の幅が0.01mm以下である、反射部材。
【請求項2】
波長1000nm~2000nmにおける反射率が60%以上である、請求項1記載の反射部材。
【請求項3】
前記シリカ質焼結粉体層のかさ密度が1.3~1.5g/cm3である、請求項1又は2記載の反射部材。
【請求項4】
前記シリカ質焼結粉体層を複数層含み、前記シリカ質焼結粉体層及び前記石英ガラス部材が交互に積層されてなる、請求項1~3のいずれか1項記載の反射部材。
【請求項5】
シリカ質焼結粉体層の上面及び下面に石英ガラス部材が貼り合せにより形成されてなる、少なくとも三層のガラス積層部材の製造方法であって、
シリカガラス粒子及び水を含むスラリーを作成する工程と、
第一の石英ガラス部材の表面に前記スラリーを平坦に塗布した後、塗布膜を乾燥させ、平面度0.1mm以下のシリカ粉体層とする工程と、
前記第一の石英ガラス部材上のシリカ粉体層に、平面度0.1mm以下の面を有する第二の石英ガラス部材を載せ、中間積層体を形成する工程と、
前記中間積層体を加熱することにより、前記シリカ粉体層を、層中の粒子が固定され、層厚が0.1mm以上であり、かつ、層厚の分布が±0.05mmのシリカ質焼結粉体層とすると共に前記中間積層体を一体化し、ガラス積層部材を形成する工程と、
を含み、
前記シリカ質焼結粉体層と前記石英ガラス部材の境界を有する、ガラス積層部材の製造方法。
【請求項6】
前記ガラス積層部材の波長1000nm~2000nmにおける反射率が60%以上である、請求項5記載のガラス積層部材の製造方法。
【請求項7】
前記中間積層体を一体化する工程において、1cm2あたり1g以上の重りを使用する、請求項5又は6記載のガラス積層部材の製造方法。
【請求項8】
前記中間積層体を加熱する工程において、加熱温度が800~1350℃である、請求項5~7のいずれか1項記載のガラス積層部材の製造方法。
【請求項9】
前記第二の石英ガラス部材が、乾燥したシリカ粉体層が形成された石英ガラス部材であり、
前記第一の石英ガラス部材上のシリカ粉体層と、前記第二の石英ガラス部材上のシリカ粉体層を合わせる形で前記中間積層体を形成する、請求項5~8のいずれか1項記載のガラス積層部材の製造方法。
【請求項10】
前記中間積層体を形成する工程において、乾燥したシリカ粉体層が形成された第一の石英ガラス部材を複数用い、且つ前記第二の石英ガラス部材が、乾燥したシリカ粉体層を有しない石英ガラス部材であり、
前記複数の第一の石英ガラス部材をシリカ粉体層同士が接しない形で積層し、且つ最上部の前記第一の石英ガラス部材の前記シリカ粉体層上に、前記第二の石英ガラス部材を配置して、前記中間積層体を形成し、
シリカ質焼結体層を複数層含むガラス積層部材を形成する、請求項5~8のいずれか1項記載のガラス積層部材の製造方法。」
第3 特許異議の申立てについて
1 特許異議の申立ての理由の概要
申立人が主張する特許異議の申立ての理由は、概略、以下のとおりである。
ここで、申立人が提出した証拠方法は、次のものである。
甲第1号証 特許第7369573号公報(本件特許公報)
(1) 申立理由1(サポート要件違反)
本件特許1~10は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(2) 申立理由2(実施可能要件違反)
本件特許1~10は、発明の詳細な説明の記載が不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
2 取消理由通知に記載した取消理由の概要
当審が特許権者に通知した、令和6年6月25日付けの取消理由は、概略、以下のとおりである。
(1) 取消理由1(サポート要件違反)
本件特許5~10は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(2) 取消理由2(実施可能要件違反)
本件特許1~4は、発明の詳細な説明の記載が不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
3 当審の判断
事案に鑑み、サポート要件違反に係る取消理由1及び申立理由1をまとめて検討し、その後に、実施可能要件違反に係る取消理由2及び申立理由2をまとめて検討する。
(1) 取消理由1及び申立理由1(サポート要件違反)について
ア サポート要件の判断手法
特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載を対比し、特許請求の範囲で特定された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきである。
以下、この観点に立って検討する。
イ 本件発明の課題について
本件特許の願書に添付された明細書の発明の詳細な説明(以下、「発明の詳細な説明」という。)には、「シリカスラリーなどを利用する方法は、高反射性能を得るためにはシリカ粒子同士が部分的に融着して塊となった粒塊構造が必要で、強度的にも不安定で、水分や薬液による洗浄でも溶けたり剥離する問題や、ポーラスである為、汚れが付着すると除去が難しく、高純度を要求する半導体工業用途では使用が難しかった」こと(【0005】)、「これらの解決のためさまざまな工夫がなされている。例えば、特許文献2では、スラリーの焼成面や粉体の焼結体の表面に、透明なシリカ層を形成することが試みられた。これらの方法では、透明なシリカ層を形成するために少なくともシリカが溶融するための熱を加える必要があり、その際に反射層である焼結粉体層まで融着し、反射性能が低下したり、透明層形成の際の体積の変化や透明層と焼結粉体層の膨張収縮の差異による歪ができ、クラックなどの発生や破損に至ってしまうという、加熱の制御が難しいという問題があった」こと(【0006】)、「特許文献3で提案されているように、スラリーを塗布し、熱反射コーティングを密閉状態で2つの石英ガラスプレートで挟み、その縁部をともに火炎研磨または溶接されている石英プレートが試みられたが、溶接による固定が周囲のみであり、強固に貼り合せられておらず、製作中や、熱反射部材として使用中に破損し易いという問題があった」こと(【0007】)、及び、「本発明は、使用時にダスト発生がなく、破壊強度が大きく、高い反射率を維持しながら、製作時および使用時の高温環境でも破損を防ぐことができる反射部材、及び該反射部材として好適なガラス積層部材の製造方法を提供することを目的とする」こと(【0009】)が記載されている。
これらの記載を「反射部材」に対する課題に注目して整理すると、本件発明1~4の課題(以下、「本件課題1」という。)は、使用時にダスト発生がなく、破壊強度が大きく、高い反射率を維持しながら、使用時の高温環境でも破損を防ぐことができる反射部材を提供することであるといえる。
また、「ガラス積層部材の製造方法」に対する課題に注目して整理すると、本件発明5~10の課題(以下、「本件課題2」という。)は、使用時にダスト発生がなく、破壊強度が大きく、高い反射率を維持しながら、使用時の高温環境でも破損を防ぐことができる反射部材として好適なガラス積層部材を、製作時の高温環境で破損することなく製造する方法を提供することであるといえる。
ウ 発明の詳細な説明の記載について
(ア) まず、実施例に係る具体例に目を向けると、発明の詳細な説明の実施例欄(【0046】~【0078】)には、実施例1として、平均粒径1.5μmの合成シリカガラス粒子を純水中で混合してシリカスラリーを作成し、外径350mm、肉厚3mmの透明研磨した第一の透明石英ガラス円板上にシリカスラリーを流し、表面が平坦になるようにスクレーパーで整えながら塗布し、室温で5時間以上乾燥し、平均0.2mm厚、平面度0.07mmのシリカ粉体層を形成し、乾燥したシリカ粉体層の上に、外径350mm、肉厚3mm、平面度0.05mmの透明研磨した第二の透明石英ガラス円板を載せ、中間積層体を形成し、この中間積層体を大気雰囲気で1100℃3時間加熱し、不透明なシリカ質焼結粉体層を挟んだ透明石英ガラス円板からなるガラス積層部材を形成する方法、及び、得られたガラス積層部材について、剥れやクラック、変形がなく、不透明なシリカ質焼結粉体層の各部の膜厚は0.16~0.23mmであり、平均膜厚は0.2mmであり、不透明シリカ質焼結粉体層と透明石英ガラス板の境界は明瞭であり、その境界に中間層のような半透明部がなく、波長1000~2000nmにおける反射率は71%を下回らず、強度が10~30N/cm2であり、高温環境での耐久試験で、破損、剥れ、クラックがないことが記載されている(【0047】~【0056】)。
また、実施例2~8には、実施例1の製造方法から、(i)シリカスラリー中への有機物バインダの添加、(ii)熱処理条件、(iii)シリカ粉体層を有する第一の透明石英ガラス円板と第二の透明石英ガラス円板との重ね合わせの順序、及び、(iv)シリカ粉体層の平均厚さを変更したガラス積層部材の形成方法が記載されており、2枚の透明石英ガラス板の間に平均膜厚が0.15~0.4mmの不透明なシリカ質焼結粉体層を挟んだガラス積層部材や、3枚の透明石英ガラス板それぞれの間に平均膜厚が0.2mmの不透明なシリカ質焼結粉体層を挟んだガラス積層部材が得られたこと、得られたガラス積層部材について、剥れやクラック、変形がなく、不透明なシリカ質焼結粉体層の平均膜厚の膜厚の分布は±0.05mm以下の範囲内であり、不透明シリカ質焼結粉体層と透明石英ガラス板の境界は明瞭であり、その境界に中間層のような半透明部がなく、波長1000~2000nmにおける反射率は60%以上であり、強度が5~80N/cm2の範囲内であり、高温環境での耐久試験で、破損、剥れ、クラックがないことが記載されている(【0057】~【0069】)。
したがって、実施例に係る具体例であるガラス積層部材及びその形成方法は、当業者において、本件課題1、2を解決できると認識できるものであるということができる。
(イ) また、発明の詳細な説明には、「反射部材」に関して、「本発明の反射部材は、不透明シリカ質焼結粉体層16の上面及び下面に透明石英ガラス部材(10a,10b)が形成されてなる積層構造を有する反射部材であり、前記シリカ質焼結粉体層16の厚さが0.1mm以上であり、膜厚の分布が±0.05mm以下である」こと(【0035】)、「シリカ質焼結粉体層の厚さは、100μm以上が好適であり」、「シリカ質焼結粉体層が薄いと、熱線の反射効率が低下する」こと(【0038】)、「本発明の反射部材は、前記積層構造の、不透明シリカ質焼結粉体層と透明石英ガラス部材の間に、両者の中間の不透明度となる半透明な部分が実質なく(幅が0.01mm以下)、透明石英ガラス部材の境目まで反射率の良い不透明シリカ焼結粉体層が形成されている」こと(【0041】)、及び「本発明の反射部材は強度に優れ、前記積層構造の上面及び下面の石英ガラス部材に、積層構造と平行な方向で荷重をかけた時、破壊する荷重が1cm2あたり5N以上であ」ること(【0043】)が記載されている。
(ウ) そうすると、前記(ア)の具体例に加えて、前記(イ)の記載事項を併せ考えれば、発明の詳細な説明には、「不透明シリカ質焼結粉体層の上面及び下面に透明石英ガラス部材が貼り合せにより形成されてなる、少なくとも三層の積層構造を有する反射部材であり、前記不透明シリカ質焼結粉体層と前記透明石英ガラス部材の境界を有し、前記不透明シリカ質焼結粉体層の厚さが0.1mm以上であり、膜厚の分布が±0.05mm以下であり、前記積層構造の上面及び下面の透明石英ガラス部材に、積層構造と平行な方向で荷重をかけた時、破壊する荷重が1cm2あたり5N以上であり、前記積層構造の、不透明シリカ質焼結粉体層と透明石英ガラス部材の境目において、両者の中間の不透明度となる半透明度部分の幅が0.01mm以下である、反射部材」が記載されているといえるし、当業者であれば、当該反射部材にあっては、(i)不透明シリカ質焼結粉体層と透明石英ガラス部材の境目において、両者の中間の不透明度となる半透明度部分の幅を0.01mm以下として、境界部の反射率を高めること、(ii)前記不透明シリカ質焼結粉体層の厚さを0.1mm以上とし、熱線の反射効率の低下を抑制すること、及び(iii)前記積層構造の上面及び下面の透明石英ガラス部材に積層構造と平行な方向で荷重をかけた時の破壊する荷重を1cm2あたり5N以上として、反射部材の強度を高めることが重要であることを理解し、このような構造を具備する反射部材は、本件課題1を解決できると認識できるというべきである。
(エ) さらに、発明の詳細な説明には、「ガラス積層部材の製造方法」に関して、「本発明方法は、シリカ質焼結粉体層16の上面及び下面に石英ガラス部材(10a,10b)が形成されてなるガラス積層部材20の製造方法であって、シリカガラス粒子13及び水Wを含むスラリー12を作成する工程と[図1(a)]、第一の石英ガラス部材10aの表面に前記スラリー12を平坦に塗布した後[図1(b)]、前記塗布膜を乾燥させ、平面度0.1mm以下のシリカ粉体層14とする工程と、前記第一の石英ガラス部材10a上のシリカ粉体層14に、平面度0.1mm以下の面を有する第二の石英ガラス部材10bを載せ、中間積層体を形成する工程と[図1(c)]、前記中間積層体を加熱することにより、前記シリカ粉体層14を、層中の粒子13が固定され、層厚が0.1mm以上であり、かつ、層厚の分布が±0.05mmのシリカ質焼結粉体層16とすると共に前記中間積層体を一体化し、ガラス積層部材20を形成する工程と、を含むものである」こと(【0023】)、「シリカ粉体層14の厚さの分布が大きいと、平坦度が悪いので、第二の石英ガラス部材10bを載せる工程で、隙間ができる部分が広くなり、密着性が低下し、加熱により一体化させる事が困難となる」こと(【0026】)、「乾燥が不十分で水分が多く残留していると石英ガラス部材を貼り合せる加熱の際に、水分が水蒸気になり貼り合せ箇所で膨張して、一体化しないことがある」こと(【0027】)、「シリカ質焼結粉体層が厚過ぎると、加熱により、シリカ粉体層の粒子が固定されたシリカ質焼結粉体層とし、同時にシリカ粉体層と石英ガラス部材を一体化する工程において、シリカ粉体層の焼結時の収縮量が、石英ガラス部材に対して大きくなり、一体化できず、剥がれたり、シリカ質焼結粉体層にクラック(ひび割れ)が発生し易くなる」こと(【0032】)、「前記方法により、剥がれやクラック、変形等が生じず、シリカ質焼結粉体層16と石英ガラス部材10a,10bの間に、両者の中間の透明度を有する半透明な部分が実質ない、石英ガラス部材の境目まで反射率の良いシリカ質焼結粉体層を含むガラス積層部材20を容易に製造することができる」こと(【0034】)、及び、「前記ガラス積層部材の製造方法により、本発明の反射部材を容易に製造することができる」こと(【0035】)が記載されている。
(オ) そうすると、前記(ア)の具体例に加えて、前記(エ)の記載事項を併せ考えると、発明の詳細な説明には、「シリカ質焼結粉体層の上面及び下面に石英ガラス部材が貼り合せにより形成されてなる、少なくとも三層のガラス積層部材の製造方法であって、シリカガラス粒子及び水を含むスラリーを作成する工程と、第一の石英ガラス部材の表面に前記スラリーを平坦に塗布した後、塗布膜を乾燥させ、平面度0.1mm以下のシリカ粉体層とする工程と、前記第一の石英ガラス部材上のシリカ粉体層に、平面度0.1mm以下の面を有する第二の石英ガラス部材を載せ、中間積層体を形成する工程と、前記中間積層体を加熱することにより、前記シリカ粉体層を、層中の粒子が固定され、層厚が0.1mm以上であり、かつ、層厚の分布が±0.05mmのシリカ質焼結粉体層とすると共に前記中間積層体を一体化し、ガラス積層部材を形成する工程と、を含み、前記シリカ質焼結粉体層と前記石英ガラス部材の境界を有する、ガラス積層部材の製造方法」が記載されているといえるし、当業者であれば、当該製造方法にあっては、(i)第一の石英ガラス部材の表面にシリカガラス粒子と水を含むスラリーを平坦に塗布する工程、(ii)前記塗布膜を乾燥させ、平面度0.1mm以下のシリカ粉体層とする工程、(iii)前記第一の石英ガラス部材上のシリカ粉体層に、平面度0.1mm以下の面を有する第二の石英ガラス部材を載せ、中間積層体を形成する工程、及び(iv)前記中間積層体を加熱することにより、前記中間積層体を一体化して、ガラス積層部材を形成する工程が重要であり、このような工程を具備することで、剥がれやクラック、変形等が生じず、シリカ質焼結粉体層と石英ガラス部材の間に、両者の中間の透明度を有する半透明な部分が実質ない、石英ガラス部材の境目まで反射率の良いシリカ質焼結粉体層を含むガラス積層部材、及び前記ガラス積層部材を用いた反射部材を容易に製造することができることを理解し、このような工程を具備するガラス積層部材の製造方法は、本件課題2を解決できると認識できるというべきである。
エ 特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との対比、検討
本件特許請求の範囲の請求項1の記載は、前記第2に示したとおりであるところ、本件発明1の「反射部材」は、前記ウ(ウ)で検討した反射部材であるから、当業者において、発明の詳細な説明の記載及び技術常識に照らして、前記イに示した本件課題1を解決できると認識できる範囲のものであり、発明の詳細な説明に記載された発明といえる。
また、本件特許請求の範囲の請求項5の記載は、前記第2に示したとおりであるところ、本件発明5の「ガラス積層部材の製造方法」は、前記ウ(オ)で検討したガラス積層部材の製造方法であるから、当業者において、発明の詳細な説明の記載及び技術常識に照らして、前記イに示した本件課題2を解決できると認識できる範囲のものであり、発明の詳細な説明に記載された発明といえる。
そして、本件発明1に係る請求項1の記載を引用する本件発明2~4、本件発明5に係る請求項5の記載を引用する本件発明6~10についても事情は同じである。
オ 申立人の主張について
(ア) 主張の内容
発明の詳細な説明には、「前記シリカ質焼結粉体層の厚さは0.1mm以上が好ましく、200μm~1000μmがより好ましい。シリカ質焼結粉体層が厚過ぎると、加熱により、シリカ粉体層の粒子が固定されたシリカ質焼結粉体層とし、同時にシリカ粉体層と石英ガラス部材を一体化する工程において、シリカ粉体層の焼結時の収縮量が、石英ガラス部材に対して大きくなり、一体化できず、剥がれたり、シリカ質焼結粉体層にクラック(ひび割れ)が発生し易くなる。」(【0032】)と記載されている。
そして、実施例1~8には、シリカ質焼結粉体層の平均厚さが0.15~0.4mmのガラス積層部材が記載されているものの、平均厚さが0.4mmを超えた場合に、シリカ粉体層と石英ガラス部材の一体化工程において、剥がれたり、シリカ質焼結粉体層にクラック(ひび割れ)が発生することがないかどうか明らかでない。
また、比較例1には、シリカ粉体層(平均1.5mm厚)をバーナー加熱すると、シリカ粉体層に一部クラックが入ることが記載されているから、このような厚さが厚いシリカ粉体層と石英ガラス部材を貼り合わせ加熱(焼結)により一体化する場合にも、シリカ質焼結粉体層にクラックが入る蓋然性が高く、製作時の高温環境で破損を防ぐことができるとは到底認識できない。
これらのことを踏まえると、シリカ質焼結粉体層の厚さの上限が特定されていない本件発明1~10は、「製作時および使用時の高温環境でも破損を防ぐことができる」という「発明の課題」を解決できるといえず、サポート要件を満たしていない。
(イ) 検討
a まず、本件発明5について検討すると、本件発明5は、「前記中間積層体を加熱することにより、前記シリカ粉体層を、層中の粒子が固定され、層厚が0.1mm以上であり、かつ、層厚の分布が±0.05mmのシリカ質焼結粉体層とすると共に前記中間積層体を一体化し、ガラス積層部材を形成する工程」との特定事項を有するものであるから、加熱により前記中間積層体を一体化して、ガラス積層部材を形成される必要があることは明らかである。
したがって、シリカ粉体層の厚さが、実施例と比べて大幅に厚いような場合には、そもそも前記中間積層体を一体化できず、ガラス積層部材を形成することができないことを踏まえると、当業者であれば、本件発明5のシリカ粉体層及びシリカ質焼結粉体層の厚さには、事実上の上限値が想定されていることを理解でき、課題を解決できない構成は含まれないと解することが自然である。
b 次に、本件発明1について検討すると、本件発明1は、「不透明シリカ質焼結粉体層の上面及び下面に透明石英ガラス部材が貼り合せにより形成されてなる」との特定事項を有するものであるから、本件発明1の反射部材は一体化されていることは明らかであり、前記aでの検討と同様に、シリカ質焼結粉体層の厚さが、実施例と比べて大幅に厚く一体化していないような態様が含まれないことは明らかである。
また、本件発明1は、「前記積層構造の上面及び下面の透明石英ガラス部材に、積層構造と平行な方向で荷重をかけた時、破壊する荷重が1cm2あたり5N以上」との特定事項を有するものであるから、シリカ質焼結粉体層の厚さは、当該特定事項を満たす程度の層厚であることは、当業者にとって自明なことであって、課題を解決できない構成は含まれないと解することが自然である。
そして、前記エで検討したとおり、本件発明1~10は、本件課題1、2を解決できると認識できる範囲のものであり、発明の詳細な説明に記載された発明といえるから、申立人の主張は採用できない。
カ 取消理由1及び申立理由1についてのまとめ
以上のとおりであるから、取消理由1及び申立理由1に理由はない。
(2) 取消理由2及び申立理由2(実施可能要件違反)について
ア 実施可能要件の判断手法
物の発明について実施可能要件を充足するためには、当業者が、明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を製造し、使用することができる程度の記載があることを要する。また、方法の発明について実施可能要件を充足するためには、当業者が、明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その方法の使用をすることができる程度の記載があることを要する。
以下、この観点に立って検討する。
イ 発明の詳細な説明の記載について
(ア) 発明の詳細な説明の実施例欄(【0046】~【0078】)には、前記(1)ウ(ア)で検討したとおり、実施例に係る具体例として、透明石英ガラス板の間に1層又は2層の不透明なシリカ質焼結粉体層を有するガラス積層部材であって、不透明なシリカ質焼結粉体層の平均膜厚が0.15~0.4mmの範囲であり、その膜厚の分布は±0.05mm以下の範囲内であり、不透明シリカ質焼結粉体層と透明石英ガラス板の境界は明瞭であり、その境界に中間層のような半透明部がなく、波長1000~2000nmにおける反射率は60%以上であり、強度が5~80N/cm2の範囲内であるガラス積層部材の製造方法が記載されている。
(イ) また、発明の詳細な説明には、「本発明のガラス積層部材の製造方法の一つの実施の形態」として、次の事項が記載されている。
a シリカガラス粒子13及び水Wを含むスラリー12を作成する工程と、第一の石英ガラス部材10aの表面に前記スラリー12を平坦に塗布した後、前記塗布膜を乾燥させ、平面度0.1mm以下のシリカ粉体層14とする工程と、前記第一の石英ガラス部材10a上のシリカ粉体層14に、平面度0.1mm以下の面を有する第二の石英ガラス部材10bを載せ、中間積層体を形成する工程と、前記中間積層体を加熱することにより、前記シリカ粉体層14を、層中の粒子13が固定され、層厚が0.1mm以上であり、かつ、層厚の分布が±0.05mmのシリカ質焼結粉体層16とすると共に前記中間積層体を一体化し、ガラス積層部材20を形成する工程とを含む、ガラス積層部材の製造方法(【0023】)。
b 前記スラリー12に用いられるシリカガラス粒子13としては、公知のシリカガラス粒子を用いることができること(【0024】)。
c 前記石英ガラス部材としては、公知の石英ガラス製の部材を用いることができ、特に制限はなく、石英ガラス部材の形状等も特に制限がなく、石英ガラス部材の厚みは、強度の点からシリカ粉体層15よりも厚いことが好ましいこと(【0025】)。
d 前記スラリー12の塗布方法としては、石英ガラス部材10aの表面に平坦に塗布可能であれば特に制限はないこと(【0026】)。
e 前記塗布膜の乾燥方法は特に制限はなく、乾燥温度は常温~100℃程度が好ましいこと(【0028】)。
f 前記中間積層体を加熱する工程における加熱温度は800~1350℃が好適であること(【0030】)。
g 中間積層体の加熱の際により強固に貼り合せるため、重り(押し圧)を利用しても良いこと(【0031】)。
h 前記シリカ質焼結粉体層の厚さは0.1mm以上が好ましく、シリカ質焼結粉体層が厚過ぎると、加熱により、シリカ粉体層の粒子が固定されたシリカ質焼結粉体層とし、同時にシリカ粉体層と石英ガラス部材を一体化する工程において、シリカ粉体層の焼結時の収縮量が、石英ガラス部材に対して大きくなり、一体化できず、剥がれたり、シリカ質焼結粉体層にクラック(ひび割れ)が発生し易くなること(【0032】)。
i 前記aに示した製造方法を、シリカ質焼結粉体層を複数層含むガラス積層部材の製造に適用した方法として、(i)前記第二の石英ガラス部材10bとして、乾燥したシリカ粉体層が形成された石英ガラス部材を用い、第一の石英ガラス部材上のシリカ粉体層と、前記第二の石英ガラス部材上のシリカ粉体層を合わせる形で中間積層体を形成する方法、(ii)乾燥したシリカ粉体層が形成された第一の石英ガラス部材を複数用い、且つ前記第二の石英ガラス部材として、乾燥したシリカ粉体層を有しない石英ガラス部材を用い、前記複数の第一の石英ガラス部材をシリカ粉体層同士が接しない形で積層し、且つ最上部の前記第一の石英ガラス部材の前記シリカ粉体層上に、前記第二の石英ガラス部材を配置して、中間積層体を形成する方法、及び、(iii)第二の石英ガラス部材10bの上部にさらに乾燥したシリカ粉体層が形成された石英ガラス部材をシリカ粉体層が第二の石英ガラス部材10bに接するように積層し、中間積層体を形成する方法(【0033】)。
j 前記a~iに示した製造方法により、剥がれやクラック、変形等が生じず、シリカ質焼結粉体層16と石英ガラス部材10a,10bの間に、両者の中間の透明度を有する半透明な部分が実質ない、石英ガラス部材の境目まで反射率の良いシリカ質焼結粉体層を含むガラス積層部材20、及び反射部材を容易に製造することができること(【0034】、【0035】)。
ウ 実施可能要件の充足性の判断
(ア) 「反射部材」の製造方法について
発明の詳細な説明には、前記イ(ア)によれば、透明石英ガラス板の間に1層又は2層の不透明なシリカ質焼結粉体層を有するガラス積層部材であり、不透明なシリカ質焼結粉体層の平均膜厚が0.15~0.4mmの範囲であり、その膜厚の分布は±0.05mm以下の範囲内であり、不透明シリカ質焼結粉体層と透明石英ガラス板の境界は明瞭であり、その境界に中間層のような半透明部がなく、波長1000~2000nmにおける反射率は60%以上であり、強度が5~80N/cm2の範囲内であるガラス積層部材の具体的な製造方法が記載されている。
そして、当該ガラス積層部材は、波長1000~2000nmにおける反射率が60%以上であり、反射部材として使用できることは自明なことであるから、当業者において、前記ガラス積層部材の具体的な製造方法により、反射部材を容易に製造することができるものといえる。
また、発明の詳細な説明には、前記イ(イ)によれば、シリカ質焼結粉体層と石英ガラス部材の間に、両者の中間の透明度を有する半透明な部分が実質ない、石英ガラス部材の境目まで反射率の良いシリカ質焼結粉体層を含むガラス積層部材、及び反射部材を製造するための製造手順や好ましい条件等も記載されている。
以上を踏まえれば、発明の詳細な説明の記載に基づいて、当業者において、過度の試行錯誤を要することなく、本件発明1~4の「反射部材」を製造できるといえる。
(イ) 「ガラス積層部材の製造方法」について
前記(ア)で検討したとおり、発明の詳細な説明には、ガラス積層部材の具体的な製造方法や、シリカ質焼結粉体層と石英ガラス部材の間に、両者の中間の透明度を有する半透明な部分が実質ない、石英ガラス部材の境目まで反射率の良いシリカ質焼結粉体層を含むガラス積層部材を製造するための製造手順や好ましい条件等も記載されている。
そうしてみると、前記(ア)での検討と同様に、発明の詳細な説明の記載に基づいて、当業者において、過度の試行錯誤を要することなく、本件発明5~10の「ガラス積層部材の製造方法」を使用できるといえる。
(ウ) 前記(ア)及び(イ)に照らして、前記アの判断手法を本件に当てはめると、発明の詳細な説明の記載は、本件発明1~10について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているといえる。
エ 申立人の主張について
(ア) 主張の内容
本件発明1は、「前記不透明シリカ質焼結粉体層の厚さが0.1mm以上」、本件発明5は、「前記シリカ粉体層を、層中の粒子が固定され、層厚が0.1mm以上であり、かつ・・・のシリカ質焼結粉体層とする」を特定事項とするものであり、厚さ(層厚)の上限が特定されていないが、実施例に記載されている厚さ(平均で0.15~0.4mm)以外の厚さの厚い不透明シリカ質焼結粉体層をどのような条件で製造するのか、発明の詳細な説明には記載されていない。
そして、発明の詳細な説明の比較例1には、シリカ粉体層(平均1.5mm厚)をバーナー加熱すると、シリカ粉体層に一部クラックが入ることが記載されているから、このようにシリカ粉体層の厚さが厚いものを、どのような加熱条件で加熱すれば、製作時の高温環境でも破損を防ぐことができるのか、全く不明である。
また、発明の詳細な説明の【0030】には、シリカ粉体層をシリカ質焼結粉体層とするための加熱条件は記載されているものの、厚さの厚いシリカ質焼結粉体層を製造するための加熱条件は記載されていない。
したがって、実施例での製造が確認されていない平均の厚さが0.4mmを超えるようなシリカ質焼結粉体層を製造しようとする場合、当業者は、必要以上に過度の試行錯誤を繰り返さなければならないから、発明の詳細な説明の記載は、実施可能要件を満たしていない。
(イ) 検討
前記(1)オ(イ)で検討したとおり、本件発明1~10のシリカ質焼結粉体層の厚さには、事実上の上限値が想定されていると解せるから、実施例に比べて大幅に厚い場合を含まない。
そして、前記ウで検討したとおり、発明の詳細な説明の記載は、本件発明1~10について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているといえるから、申立人の主張は採用できない。
オ 申立理由2及び取消理由2についてのまとめ
以上のとおりであるから、申立理由2及び取消理由2に理由はない。
第4 むすび
以上のとおり、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、本件特許1~10を取り消すことはできない。
また、他に本件特許1~10を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2024-700376