特許異議申立
2024-700211
熱反射部材及び熱反射層付きガラス部材の製造方法
- 審判番号
- 2024-700211
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-179740
- 登録番号
- 7341017
- 請求日
- 2024年03月05日
- 審決日
- 2024年05月21日
- 公報発行日
- 2024年06月28日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】信越石英株式会社
- 【権利者代理人】石原 進介
- 【権利者代理人】石原 詔二
- 【異議申立人】吉田 敦子
- 審判長/審判官
- 審判長 日比野 隆治
- 審判官 宮澤 尚之
- 審判官 小野 久子
- 分類
- P1652.536-Y (C03B) / P1652.537-Y (C03B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第4項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7341017号発明「熱反射部材及び熱反射層付きガラス部材の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7341017号の請求項1~4に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7341017号の請求項1~6に係る特許(以下、それぞれ「本件特許1」などといい、まとめて「本件特許」という。)についての出願は、令和1年9月30日に出願され、令和5年8月31日にその特許権の設定登録がされ、同年9月8日に特許掲載公報が発行された。
その後、本件特許1~4に対して、令和6年3月5日に特許異議申立人吉田敦子(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされた。
第2 本件特許請求の範囲の記載(本件発明)
本件特許請求の範囲の記載は、願書に添付された特許請求の範囲のとおりであるところ、特許異議の申立てがされた請求項1~4の記載は、次のとおりである。そして、本件特許の請求項1~4に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」などといい、まとめて「本件発明」という。)は、その記載事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
シリカ質焼結粉体層の上面及び下面に石英ガラス層が形成されてなる積層構造を有する熱反射部材であり、
前記熱反射部材の端部の前記シリカ質焼結粉体層部分に、少なくとも該シリカ質焼結粉体層の1/2の厚みより厚い、気体又は液体を浸透しない非透過層と、
該非透過層と該シリカ質焼結粉体層の間に、非透過層から焼結体粉体層に向かって密度が変化する緩衝層と、を有することを特徴とする熱反射部材。
【請求項2】
前記シリカ質焼結粉体層を複数含み、前記シリカ質焼結粉体層及び前記石英ガラス層が交互に積層されてなり、
前記複数のシリカ質焼結粉体層の端部にはそれぞれ前記緩衝層と前記非透過層が形成され、前記シリカ質焼結粉体層が外部に露出しない構造であることを特徴とする請求項1記載の熱反射部材。
【請求項3】
前記複数のシリカ質焼結粉体層それぞれが、相互に異なる粒径分布の粉体から構成されることを特徴とする請求項2記載の熱反射部材。
【請求項4】
前記石英ガラス層の形状が平面、曲面又は円筒形状であることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項記載の熱反射部材。」
第3 特許異議の申立てについて
1 申立ての理由の概要
申立人が主張する申立ての理由は、概略、以下のとおりである。
ここで、申立人が提出した証拠方法は、次のものである。
甲第1号証 特許第7341017号公報(本件特許公報)
(1) 申立理由1(サポート要件違反)
本件特許1~4は、特許請求の範囲の記載が後記2(1)オ(ア)の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(2) 申立理由2(実施可能要件違反)
本件特許1~4は、発明の詳細な説明の記載が後記2(2)エ(ア)の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
2 当審の判断
(1) 取消理由1(サポート要件違反)について
ア サポート要件の判断手法
特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載を対比し、特許請求の範囲で特定された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきである。
以下、この観点に立って検討する。
イ 本件発明の課題について
本件特許の願書に添付された明細書(以下、「本件特許明細書」という。)の発明の詳細な説明には、「シリカスラリーなどを利用する方法は、高反射性能を得るためにはシリカ粒子同士が部分的に融着して塊となった粒塊構造が必要であるが、この構造は、粒子相互の接触面積が限られるので強度が不安定で、水分や薬液による洗浄でも溶けたり、剥離したりする問題や、多孔質である為、汚れが付着すると除去が難しかったりする問題が有り、高純度を要求する半導体工業用途では使用が難しかった」こと(【0005】)、「これらの解決のためさまざまな工夫がなされている。例えば、特許文献1では、スラリー由来の粉体の焼結体層の表面に透明なシリカ層を形成することが試みられた。これらの方法では、透明なシリカ層を形成するために、少なくともシリカが溶融または生成するための熱を加える必要があり、その際に反射層である粒塊層の粒子同士が融着し、反射性能が低下したり、透明層形成の際の体積の変化や、透明層と粒塊層の膨張収縮の差異による歪ができ、クラックなどの発生や破損に至ってしまったりするという加熱制御の難しさの問題があった」こと(【0006】)、及び、「本発明は、高い反射率を維持しながら、製作時および使用時の高温環境でも破損せず、使用時にダスト発生がなく、薬液による洗浄が可能な熱反射部材、及び該熱反射部材として好適な熱反射層付きガラス部材の製造方法を提供することを目的とする」こと(【0008】)が記載されている。
これらの記載を「熱反射部材」に対する課題に注目して整理すると、本件発明の課題は、高い反射率を維持しながら、使用時の高温環境でも破損せず、使用時にダスト発生がなく、薬液による洗浄が可能な熱反射部材を提供することであるといえる。
なお、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、製作時の諸問題についても記載されているが、この諸問題は、「熱反射層付きガラス部材の製造方法」に対する課題として捉えるのが相当である。
ウ 発明の詳細な説明の記載について
(ア) まず、実施例に係る具体例に目を向けると、発明の詳細な説明の実施例欄(【0059】~【0089】)には、1層のシリカ質焼結粉体層を有し、シリカ質焼結粉体層の厚さが平均400μmであり、非透過層の厚み(幅)が平均291~360μmの範囲内であり、緩衝層の厚み(幅)が平均60~90μmの範囲内である、熱反射層付き石英ガラス板状部材(実施例1~4)、及び、2層のシリカ質焼結粉体層を有し、1層のシリカ質焼結粉体層の厚さが平均200μmであり、非透過層の厚み(幅)が平均290μmであり、緩衝層の厚み(幅)が平均60μmである、熱反射層付き石英ガラス板状部材(実施例5、6)を認めることができる。
そして、実施例1~3、5、6の熱反射層付き石英ガラス板状部材について、浸漬試験にて、シリカ質焼結粉末層への浸透が確認されなかったこと(実施例1~3、5、6)、高温環境での耐久試験にて、破損や剥がれ、クラックが発生しなかったこと(実施例1~3、5、6)、及び、反射率測定にて、波長1000~2000nmにおける反射率が78%以上(実施例1~3)、又は、波長2000nmでの反射率が78%以上(実施例1、5、6)であることが、いずれも確認されているから、実施例に係る具体例である熱反射層付き石英ガラス板状部材は、当業者において、本件発明の課題を解決できると認識できるものであるということができる。
(イ) 次に、本件発明の課題に関連する一般的な機序についてみると、発明の詳細な説明には、「熱反射部材」の構造と機序に関して、次の事項を認めることができる。
a 「本発明の熱反射部材10Aは、シリカ質焼結粉体層12の上面及び下面に石英ガラス層18が形成されてなる積層構造を有する熱反射部材であり、前記熱反射部材の端部の前記シリカ質焼結粉体層12部分に、少なくとも該シリカ質焼結粉体層12の1/2の厚みより厚い、気体又は液体を浸透しない非透過層16と、該非透過層16と該シリカ質焼結粉体層12の間に、非透過層16から焼結粉体12層に向かって密度が変化する緩衝層14と、を有するものである」こと(【0020】)。
b 「本発明の熱反射部材10Aにおいて、前記シリカ質焼結粉体層は熱反射材として作用する」こと(【0021】)。
c 「前記熱反射部材10Aの端部に形成される前記非透過層16は、気体又は液体が浸透せず、シリカ質焼結粉体層12よりも密度が高く、強固な非透過層である。該非透過層16により、脆弱なシリカ質焼結粉体層12を挟み込む石英ガラス層18の端部から、当該シリカ質焼結粉体層12が剥離する事を防ぎ、また、その端部から、シリカ質焼結粉体層12への気体や液体の透過を防止することができる」こと(【0031】)。
d 「本発明では密度の高い非透過層16と密度の低い焼結粉体層12の間に、非透過層16から粉体層12へ向かって密度傾斜のある緩衝層14を設けるものであ」り、「この緩衝層14によって、端部への応力の集中を避け、破損リスクをなくすことが可能となる」こと(【0034】)。
e 「前記非透過層16の厚み(幅W1)は、各層を結合する強度と非透過性を維持するため、シリカ質焼結粉体層12の厚みtの50%以上は必要であ」り、「非透過層16の厚みが不足して、粉体層12に液体や気体が進入した状態で加熱されると、急激な内圧の高まりで、板状態は破壊されるので注意が必要である」こと(【0035】)。
(ウ) そうすると、前記(ア)の具体例に加えて、前記(イ)の記載事項、なかでも、前記(イ)c~eに示した機序に基づいて、当業者であれば、熱反射部材がシリカ質焼結粉体層12の上面及び下面に石英ガラス層18が形成されてなる積層構造を有する熱反射部材にあっては、熱反射部材の端部に気体又は液体を浸透しない非透過層と、非透過層とシリカ質焼結粉体層の間に、非透過層から焼結体粉体層に向かって密度が変化する緩衝層とを有し、なおかつ、非透過層の厚みがシリカ質焼結粉体層の厚みの50%(1/2)以上であることが重要であることを理解し、このような構造を具備する熱反射部材について、本件発明の課題を解決できると認識できるというべきである。
エ 特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との対比、検討
本件特許請求の範囲の請求項1~4の記載は、前記第2に示したとおりであるところ、本件発明1の「熱反射部材」は、前記ウ(ウ)で検討した熱反射部材であるから、本件発明1は、当業者において、発明の詳細な説明の記載及び技術常識に照らして、前記イに示した本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであり、発明の詳細な説明に記載された発明といえる。
また、本件発明1に係る請求項1の記載を引用する本件発明2~4についても事情は同じである。
オ 申立人の主張について
(ア) 具体的な指摘事項
a 指摘事項1
発明の詳細な説明の【0053】の「前記シリカ質焼結粉体層の厚さは0.1mm以上が好ましく、200μm~1000μmがより好ましい。シリカ質焼結粉体層が厚過ぎると、加熱により、シリカ粉体層の粒子が固定されたシリカ質焼結粉体層とし、同時にシリカ粉体層と石英ガラス部材を一体化する工程において、シリカ粉体層の焼結時の収縮量が、石英ガラス部材に対して大きくなり、一体化できず、剥がれたり、シリカ質焼結粉体層にクラック(ひび割れ)が発生し易くなる。」との記載や、実施例に記載されたシリカ質焼結粉末層の厚さが最大でも平均400μmであることを踏まえると、シリカ質焼結粉体層が厚すぎると、石英ガラス部材と加熱により一体化する工程において、剥がれたり、シリカ質焼結粉体層にクラック(ひび割れ)が発生しやすくなるから、シリカ質焼結粉体層の厚みの上限が特定していない本件発明1~4は、「製作時および使用時の高温環境でも破損しない」という課題を解決できるとはいえない。
b 指摘事項2
発明の詳細な説明の実施例に記載された非透過層の幅が最大でも平均360μmであることや、非透過層の幅を大きくするために加熱加工や溶接加工を行った比較例1及び2では製造途中で破損したことを踏まえると、平均360μmを超える非透過層は得られないから、非透過層の厚みの上限を特定していない本件発明1~4は、「製作時および使用時の高温環境でも破損しない」という課題を解決できるとはいえない。
(イ) 検討
そこで、検討するに、本件発明1~4は、「熱反射部材」という完成品に関する発明であるから、当該発明の課題は、前記イで検討したとおりであって、製造時の課題、すなわち、製造時の高温環境で破損しないという課題を包含しない。
そして、申立人が論拠とする、発明の詳細な説明の【0053】の記載や、比較例1及び2の記載は、いずれも、熱反射部材の製造時における破損について記載したものであるから、これらの記載を根拠に、本件発明の課題を解決できないということはできない。
したがって、申立人の前記(ア)の主張はいずれも採用できない。
カ 取消理由1についてのまとめ
以上のとおりであるから、取消理由1に理由はない。
(2) 取消理由2(実施可能要件違反)について
ア 実施可能要件の判断手法
物の発明について実施可能要件を充足するためには、当業者が、明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を製造し、使用することができる程度の記載があることを要する。
以下、この観点に立って検討する。
イ 発明の詳細な説明の記載
(ア) 本件特許明細書の発明の詳細な説明には、「熱反射部材」を製造することに関して、次の事項が記載されている。
a 「本発明の熱反射部材を製造する方法は特に制限はないが、シリカ質焼結粉体層の上面及び下面に石英ガラス層が形成されてなる積層構造を有する中間ガラス積層体を製造した後、レーザー等で所定の形状に切り抜き、シリカ質焼結粉体層12の端部に緩衝層14と非透過層16が形成された熱反射部材を製造することが好適である。緩衝層14及び非透過層16の形成は、切断と同時でも良く、予め緩衝層14や非透過層16を形成した後、切断しても良い」こと(【0037】)。
b 「シリカ質焼結粉体層の上面及び下面に石英ガラス層が形成されてなる積層構造を有する中間ガラス積層体は、レーザー等で溶断することにより、所定の形状に切り抜くことができるが、このときレーザービームの移動を適度な速度とすることにより、レーザーで所定の形状に切り抜くと同時に切り抜き端部の焼結粉体層に非透過層と緩衝層を同時に生成することができる」こと(【0038】)。
c 「予め緩衝層14や非透過層16を形成した後、切断する方法としては、例えば、切り抜きに先立って、前記中間ガラス積層体の端部の切り抜き予定の位置に、切断しない程度のパワーの弱いレーザーの熱や弱いバーナー火炎により、外表面の石英ガラス層側から前記焼結粉体層を加熱し焼締めることにより緩衝層からなる焼締め部位又は緩衝層と非透過層からなる焼締め部位を形成せしめ、その後、強いレーザーで当該部分を切り抜くことにより、より強固な緩衝層と非透過層からなる端部構造を形成せしめ、シリカ質焼結粉体層12の端部に緩衝層14と非透過層16が形成された熱反射部材を製造することができる」こと(【0040】)。
d 「シリカ質焼結粉体層の上面及び下面に石英ガラス層が形成されてなる積層構造を有する中間ガラス積層体の製造方法は特に制限はないが、シリカ粉体層の上面及び下面に石英ガラス部材が形成されてなる積層構造を有する中間積層体を形成した後、該中間積層体を加熱することにより、前記シリカ粉体層をシリカ質焼結粉体層とすると共に前記中間積層体を一体化し、中間ガラス積層体を形成することが好適である。また、予め石英ガラス層上にシリカ質焼結粉体層を形成した後、シリカ質焼結粉体層上に別の石英ガラス層を形成し、焼成することにより、両者を貼り合わせ、中間ガラス積層体を作製してもよい」こと(【0043】)。
e 「中間ガラス積層体の製造方法の一例」として、(i)図5に示した如く、シリカガラス粒子26及び水28を含むスラリー30を、第一の石英ガラス部材32aの表面に塗布し[図5(a)]、塗布膜34を形成する工程と[図5(b)]、該塗布膜34を乾燥させ、シリカ粉体層36とする工程と、前記第一の石英ガラス部材32a上のシリカ粉体層36に、第二の石英ガラス部材32bを載せ[図5(c)]、中間積層体を形成する工程と、を含むことが好適であって、該中間積層体を加熱することにより、前記シリカ粉体層36をシリカ質焼結粉体層12とすると共に前記中間積層体を一体化し、中間ガラス積層体38を形成することができる[図5(d)]こと、(ii)前記スラリーに用いられるシリカガラス粒子としては、平均粒子径が0.1~5μmのシリカガラス粒子が好適であり、スラリー中のシリカガラス粒子の含有量は特に制限はないが、50~80質量%が好適であること、(iii)前記石英ガラス部材としては、特に制限はないが、波長400~2000nmにおける光の透過率が80%以上である無色透明な石英ガラス部材がより好ましいこと、(iv)石英ガラス部材の厚みは、0.5mm以上が好ましく、加工等の点から10mm以下が実用的であること、(v)シリカ粉体層と接する石英ガラス部材の表面は、平面度0.1mm以下であることが好適であること、(vi)前記スラリーの塗布方法としては、石英ガラス部材の表面に塗布可能であれば特に制限はないこと、(vii)乾燥温度はシリカ粉体層のシリカガラス粒子が固定される温度より低いのが望ましく、具体的には、乾燥温度は常温(5~35℃)~100℃程度が好ましいこと、(viii)前記中間積層体を加熱する工程の加熱温度は800~1350℃が好適であり、加熱雰囲気は特に制限はないが、大気雰囲気が好ましいこと、(ix)中間積層体の加熱の際により強固に貼り合せるため、重り(押し圧)を利用しても良く、1cm2あたり1g以上の重り(押し圧)を使用することが好適であること、及び、(x)前記シリカ質焼結粉体層の厚さは0.1mm以上が好ましく、200μm~1000μmがより好ましいこと(【0044】~【0053】)。
f 「シリカ質焼結粉体層を複数層含む熱反射部材」を製造する際の「中間ガラス積層体」について、「前述の中間積層体を形成する工程において、前記第二の石英ガラス部材として、乾燥したシリカ粉体層が形成された石英ガラス部材を用い、第一の石英ガラス部材上のシリカ粉体層と、前記第二の石英ガラス部材上のシリカ粉体層を合わせる形で中間積層体を形成する方法や、乾燥したシリカ粉体層が形成された第一の石英ガラス部材を複数用い、且つ前記第二の石英ガラス部材として、乾燥したシリカ粉体層を有しない石英ガラス部材を用い、前記複数の第一の石英ガラス部材をシリカ粉体層同士が接しない形で積層し、且つ最上部の前記第一の石英ガラス部材の前記シリカ粉体層上に、前記第二の石英ガラス部材を配置して、中間積層体を形成する方法、第二の石英ガラス部材の上部にさらに乾燥したシリカ粉体層が形成された石英ガラス部材をシリカ粉体層が第二の石英ガラス部材に接するように積層し、中間積層体を形成する方法等が挙げられる」こと(【0054】)。
(イ) さらに、発明の詳細な説明の実施例欄(【0059】~【0089】)には、前記(ア)の記載事項に則した具体的な製造方法により、前記(1)ウ(ア)に示した「熱反射層付き石英ガラス板状部材」を得たことが記載されており、特に、実施例1、3、4には、次の事項が記載されている。
a 「平均粒径1.5μmの合成シリカガラス粒子26を60%、メチルセルロース1%となるように純水28中で混合したシリカスラリー30を」、「透明石英ガラス円板32aの片面に平坦に塗布し、室温(23℃)で5時間以上乾燥し、シリカ粉体層36を0.4mmの膜厚で形成し」、「その透明石英ガラス板32aのシリカ粉体層36側に」、「透明石英ガラス円板32bを乗せ、5g/cm2の荷重を掛けながら、大気雰囲気炉にて、1100℃×3時間で加熱し、シリカ質焼結粉体層12(平均0.4mm厚)を有した板状部材(中間ガラス積層体)38を形成した」こと(実施例1、【0061】、【0062】)。
b 「前記得られた中間ガラス積層体38に対して、レーザー加工機にて、出力500(W)、送り速度140(mm/分)にて外周の切断加工を行」うことで、「シリカ質焼結粉体層12を有し」、「レーザー加工を行った外周部に、液体や気体が浸透しない非透過層」と「非透過層から焼結粉体層に向かって徐々に密度が変化する緩衝層」とを有し、「非透過層」の厚さが「平均291μm」である「熱反射層付き石英ガラス板状部材(本発明の熱反射部材)10A」が得られたこと(実施例1、【0063】、【0065】)。
c 「実施例1と同様の方法により、中間ガラス積層体を形成した。得られた中間ガラス積層体に対して、レーザー加工を行う前に、レーザー加工を行おうとする位置を、レーザー出力50(W)、送り速度300(mm/分)にて走行し、レーザー出力による予備的加熱を行」い、「次いで、その板状部材の外周部に対して、レーザー加工機にて、出力500(W)、送り速度140(mm/分)にて切断加工を行」うことで、「シリカ粉体焼結層を有し」、「レーザー加工を行った外周部に、液体や気体が浸透しない非透過層」と「非透過層から焼結層に向かって徐々に密度が変化する緩衝層」とを有し、「非透過層」の厚さが「平均360μm」である「熱反射層付き石英ガラス板状部材(本発明の熱反射部材)」が得られたこと(実施例3、【0070】、【0071】)。
d 「実施例1と同様の方法により、中間ガラス積層体を形成した。得られた中間ガラス積層体の外周部に対して、レーザー加工機にて、出力500(W)より出力の大きい800(W)、1000(W)、送り速度140(mm/分)、100(mm/分)、50(mm/分)と、それぞれレーザー切断加工を行」うことで、「シリカ質粉体焼結層を有し」、「レーザー加工を行った外周部に、液体や気体が浸透しない非透過層と、非透過層から焼結層に向かって徐々に密度が変化する緩衝層」とを有し、「非透過層厚」が「291μm」~「325μm」の範囲内である「熱反射層付き石英ガラス板状部材(本発明の熱反射部材)」が得られたこと(実施例4、【0072】~【0074】【表1】)。
ウ 実施可能要件の充足性の判断
(ア) 「中間ガラス積層体」の製造方法について
本件発明の「熱反射部材」は、前記イ(ア)aによれば、「シリカ質焼結粉体層の上面及び下面に石英ガラス層が形成されてなる積層構造を有する中間ガラス積層体を製造した後、レーザー等で所定の形状に切り抜」くことにより製造できるところ、「中間ガラス積層体」の製造方法に関して、発明の詳細な説明には、前記イ(ア)dによれば、シリカ粉体層の上面及び下面に石英ガラス部材が形成されてなる積層構造を有する中間積層体を形成した後に、該中間積層体を加熱して、前記シリカ粉体層をシリカ質焼結粉体層とすると共に前記中間積層体を一体化し、中間ガラス積層体を形成する方法や、予め石英ガラス層上にシリカ質焼結粉体層を形成した後、シリカ質焼結粉体層上に別の石英ガラス層を形成した後に焼成一体化して、中間ガラス積層体を形成する方法が記載されている。
そして、前者の中間ガラス積層体の形成方法について、発明の詳細な説明には、前記イ(イ)aに摘記したとおり、その具体的な形成方法が記載されているし、また、前記イ(ア)e及びfに摘記したとおり、当該形成方法の好ましい条件等も記載されている。
以上を踏まえれば、発明の詳細な説明の記載に基づいて、当業者において、過度の試行錯誤を要することなく、「中間ガラス積層体」を製造できるといえる。
(イ) 「中間ガラス積層体」から「熱反射部材」を製造する方法について
次に、「中間ガラス積層体」から「熱反射部材」を製造する方法について検討すると、発明の詳細な説明には、前記イ(ア)bによれば、前記中間ガラス積層体をレーザー等で溶断する際に、レーザービームの移動を適度な速度とすることにより、レーザーで所定の形状に切り抜くと同時に切り抜き端部の焼結粉体層に非透過層と緩衝層を同時に生成することができることが記載され、前記イ(イ)b及びdによれば、実施例1、4には、当該方法の具体例が記載されている。そして、実施例4には、レーザー出力を500(W)~1000(W)の範囲、送り速度を50(mm/分)~140(mm/分)の範囲でそれぞれ変えることにより、非透過層の厚さを調整できることも示されている。
また、発明の詳細な説明には、前記イ(ア)cによれば、前記中間ガラス積層体の端部の切り抜き予定の位置に、切断しない程度のパワーの弱いレーザーの熱や弱いバーナー火炎により、外表面の石英ガラス層側から前記焼結粉体層を加熱し焼締めることにより緩衝層からなる焼締め部位又は緩衝層と非透過層からなる焼締め部位を形成し、その後、強いレーザーで当該部分を切り抜くことにより、シリカ質焼結粉体層の端部に緩衝層と非透過層が形成された熱反射部材を製造することができることが記載され、そして、前記イ(イ)cによれば、実施例3には、当該方法の具体例が記載され、実施例1のレーザー加工を行う前に、レーザー加工を行おうとする位置を、レーザー出力50(W)、送り速度300(mm/分)にて走行し、レーザー出力による予備的加熱を行うことで、非透過層の厚さを実施例1より大きくできることが示されている。
さらに、前記イ(ア)cによれば、切断しない程度のパワーの弱いレーザーの熱等で予備的加熱する位置に非透過層が形成されることからして、当該予備的加熱する位置を調整することにより、非透過層の厚みを調整できることも理解できる。
以上を踏まえれば、発明の詳細な説明の記載に基づいて、当業者において、過度の試行錯誤を要することなく、「中間ガラス積層体」から「熱反射部材」を製造でき、「熱反射部材」の端部に形成される「非透過層」の厚みを調整できるといえる。
(ウ) 前記(ア)及び(イ)に照らして、前記アの判断手法を本件に当てはめると、発明の詳細な説明の記載は、本件発明1~4について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているといえる。
エ 申立人の主張について
(ア) 具体的な指摘事項
発明の詳細な説明には、(i)非透過層の幅を大きくするために加熱加工や溶接加工を行ったところ途中で破損したこと(比較例1及び2)、(ii)最大360μmの非透過層が製造されたこと(実施例3)、(iii)レーザ加工機の出力や送り速度により非透過層の幅を調整すること(実施例4)が記載され、また、(v)実施例4に基づき、レーザ切断加工の出力、送り速度を調整しても、非透過層の幅は400μm程度になることしか予測できないこと、さらに、(iv)500μmを超える非透過層については発明の詳細な説明に全く記載されていないことを踏まえると、当業者は、実施例に記載されている非透過層よりも厚い非透過層を製造しようとする場合には、必要以上に過度の試行錯誤を繰り返さなければならないから、発明の詳細な説明の記載は、実施可能要件を満たさない。
(イ) 検討
前記ウで検討したとおり、非透過層の厚みは、中間ガラス積層体をレーザー等で溶断する際のレーザー出力及び送り速度で調整できることに加えて、レーザー加工を行う前の予備的加熱する位置によっても調整できることを理解できるから、当業者は、実施例に記載されている非透過層よりも厚い非透過層を製造しようとする場合にも、過度の試行錯誤を要することなく実施できるといえる。
したがって、申立人の前記(ア)の主張は採用できない。
オ 取消理由2についてのまとめ
以上のとおりであるから、取消理由2に理由はない。
第4 むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件特許1~4を取り消すことはできない。
また、他に本件特許1~4を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2024-700211