特許異議申立
2024-700307
地盤注入用固結材及びその製造方法
- 審判番号
- 2024-700307
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2017-119795
- 登録番号
- 7355358
- 請求日
- 2024年04月03日
- 審決日
- 2024年06月25日
- 公報発行日
- 2024年07月26日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】富士化学株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人三枝国際特許事務所
- 【異議申立人】香中 伸枝
- 審判長/審判官
- 審判長 菊地 則義
- 審判官 長谷川 真一
- 審判官 門前 浩一
- 分類
- P1651.121-Y (C09K) / P1651.536-Y (C09K) / P1651.537-Y (C09K)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条、特許法第2条
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7355358号発明「地盤注入用固結材及びその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7355358号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本件特許に係る出願は、平成29年6月19日(以下「本件出願日」という。)に出願され、令和5年9月25日に特許権の設定登録がされ(請求項の数6)、同年10月3日に特許掲載公報が発行されたところ、令和6年4月3日に特許異議申立人 香中 伸枝(以下「申立人」という。)によって、全請求項に係る特許についての特許異議の申立てがされたものである。
第2 本件発明及び本件明細書の記載
1 本件発明
本件発明は、次のとおりの発明(以下、請求項番号にしたがって「本件発明1」などといい、まとめて「本件発明」ということもある。)である。
「【請求項1】
珪酸ソーダ、水酸化マグネシウム及び酸成分を含有する地盤注入用固結材であって、
(1)前記地盤注入用固結材は、SiO2濃度が11質量%以上であり、
(2)Siを含有する固形分の平均粒子径が0.80nm以下であり、
(3)ゲル化時間が1時間以上である、
ことを特徴とする地盤注入用固結材。
【請求項2】
粘度が3.5mPa・s以下である、請求項1に記載の地盤注入用固結材。
【請求項3】
請求項1又は2に記載する地盤注入用固結材の製造方法であって、
(1)前記地盤注入用固結材は、SiO2濃度が11質量%以上であり、
(2)(i)珪酸ソーダ、水酸化マグネシウム及び水を含有するA液と、(ii)酸成分及び水を含有し且つ珪酸ソーダを含有しないB液と、を混合してC液を得る工程を有し、前記A液を調製する原料としての水酸化マグネシウムは実質的に針状結晶を含有しない、
ことを特徴とする製造方法。
【請求項4】
前記A液を調製する原料としての前記珪酸ソーダは、SiO2/Na2Oで表されるモル比が3~5であり、且つ、SiO2濃度が10~30質量%である、請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
前記A液を調製する原料としての前記珪酸ソーダは、SiO2/Na2Oで表されるモル比が3.1~3.8であり、且つ、SiO2濃度が20~30質量%である、請求項3又は4に記載の製造方法。
【請求項6】
請求項3~5のいずれかに記載の製造方法において、前記C液を得る工程の後に、当該C液に珪酸ソーダ及び水を含有するD液を混合する工程を更に有する、中結型又は瞬結型の地盤注入用固結材の製造方法。」
2 本件明細書の記載
「【0014】
本発明の地盤注入用固結材
本発明の地盤注入用固結材は、珪酸ソーダ、水酸化マグネシウム及び酸成分を含有する地盤注入用固結材であって、
(1)前記地盤注入用固結材は、SiO2濃度が11質量%以上であり、
(2)Siを含有する固形分の平均粒子径が0.80nm以下であり、
(3)ゲル化時間が1時間以上である、
ことを特徴とする。
【0015】
上記特徴を有する本発明の地盤注入用固結材は、(i)珪酸ソーダ、水酸化マグネシウム及び水を含有するA液と、(ii)酸成分及び水を含有し且つ珪酸ソーダを含有しないB液とを混合してC液を得ることにより調製される。
【0016】
この調製方法は、添加剤である水酸化マグネシウムの作用によりA液とB液とを混合した際のゲル化時間が長く確保されており、最終的な固結材のSiO2濃度が11質量%以上と高濃度であっても部分ゲルの発生が抑制されていて調製が容易であり、しかも地盤(特に密な地盤や粘土質の地盤)への浸透性が良好である。また、SiO2濃度が11質量%以上であるため固結後の強度も優れている。
【0017】
本発明の地盤注入用固結材は、(i)珪酸ソーダ、水酸化マグネシウム及び水を含有するA液と、(ii)酸成分及び水を含有し且つ珪酸ソーダを含有しないB液とを混合してC液を得ることにより調製される。
【0018】
A液を調製する原料としての珪酸ソーダとしては限定されず、市販品やそれに水を加えて希釈した希釈溶液を使用できる。
【0019】
珪酸ソーダのモル比(SiO2/Na2O)は限定されないが、3~5程度が好ましく、汎用の珪酸ソーダが使えるため、3.1~3.8程度がより好ましい。
【0020】
珪酸ソーダに含まれるシリカ濃度(SiO2濃度)としては、10~30質量%程度が好ましく、20~30質量%程度がより好ましい。
【0021】
珪酸ソーダとしては、一般に1号珪酸ソーダ~5号珪酸ソーダが知られているが、その中でも3号珪酸ソーダ~5号珪酸ソーダが好ましく、特に5号珪酸ソーダが好ましい。5号珪酸ソーダを用いることにより、部分ゲルの発生をより抑制することができ、得られる地盤注入用固結材の固結後の強度向上及び収縮抑制の効果が得られ易い。5号珪酸ソーダは、モル比が3.7、SiO2濃度が25.6質量%であり、モル比が3.5~3.8、SiO2濃度が24~30質量%の珪酸ソーダを用いる場合には、5号珪酸ソーダと同様の良好な効果が得られ易い。
【0022】
A液を調製する原料としての水酸化マグネシウムとしては限定的ではないが、地盤注入用固結材の製品品質の観点からは平均粒子径が300~1000μmのものが好ましく、特に500~850μmのものがより好ましい。なお、本明細書における水酸化マグネシウムの平均粒子径は、光学顕微鏡を用いた2点間距離測定により測定した値である。
【0023】
A液を調製する原料としての水酸化マグネシウムは市販品を用いることができる。なお、本発明では、水酸化マグネシウムは球状結晶から構成されていることが好ましく、針状結晶は含まれていないことが好ましい。針状結晶が含まれる場合には、水酸化マグネシウムのA液中での溶解性に影響を及ぼす可能性がある。よって、針状結晶が含まれる場合には、光学顕微鏡で水酸化マグネシウム粒子200個を観察した際に針状結晶の個数は10個以下であることが好ましい。
【0024】
水酸化マグネシウムはA液とB液とを混合した際のゲル化時間の短縮を抑制することができるため、水酸化マグネシウムの添加により、部分ゲルの発生を抑制し、SiO2濃度が11質量%以上である、ゲル化時間が1時間以上の地盤注入用固結材が得られる。
【0025】
A液に含まれる珪酸ソーダの含有量は限定的ではないが、A液中のSiO2濃度は11~15質量%程度が好ましく、12~14質量%程度がより好ましい。
【0026】
また、A液に含まれる水酸化マグネシウムの含有量は限定的ではないが、A液中の濃度は0.7質量%程度以上が好ましく、0.7~1.0質量%程度がより好ましい。
【0027】
A液は、珪酸ソーダ、上記水酸化マグネシウム及び水を含有すれば良いが、実質的には当該3成分のみから構成されていることが好ましい。その他、本発明の効果を損なわない範囲で従来から地盤注入用固結材の分野で公知の添加剤を添加することは可能である。
【0028】
B液に含まれる酸成分としては、限定されないが、硫酸及び/又はリン酸が好ましい。これらの酸は複数種類を混合して使用することもできる。これらの酸は、酸濃度が50~80質量%の市販の酸溶液がそのまま使用できる。また、B液中の酸濃度としては、40質量%程度以上が好ましく、40~80質量%程度がより好ましい。
【0029】
B液には珪酸ソーダは含有されず、B液は実質的には酸成分及び水の2成分から構成されていることが好ましい。その他、本発明の効果を損なわない範囲で従来から地盤注入用固結材の分野で公知の添加剤を添加することは可能である。
【0030】
A液とB液とを混合することにより得られる本発明の地盤注入用固結材(C液)における酸成分及び水の含有量は、地盤注入用固結材の所望のSiO2含有量、pH及びゲルタイムに応じて適宜設定することができる。
【0031】
本発明の地盤注入用固結材のSiO2含有量は11質量%以上であり、12質量%以上が好ましく、上限値は13質量%程度である。また、pHとゲル化時間は関連しており、本発明の地盤注入用固結材は、ゲル化時間が1時間以上(緩結型)であって、pHは4~8程度であることが好ましい。なお、緩結型の固結材のゲル化時間の上限値としては24時間程度である。よって、地盤注入用固結材における水の含有量はSiO2含有量の調整の点で設定し、酸成分の含有量はpH及びゲルタイムの調整の点で設定すればよい。
【0032】
A液とB液との混合方法は限定されないが、例えば、調製用容器にB液を入れておき、当該B液を撹拌しながらA液を滴下することにより各成分を混合することが好ましい。このような混合方法を採用することにより、部分ゲルの発生を抑制しながら本発明の地盤注入用固結材を効率的に調製することができるとともに、酸成分の供給による調製用容器の腐食等の発生を効果的に抑制することができる。」
「【0035】
ここで、地盤注入用固結材に含まれるSiを含有する固形分の平均粒子径が0.80nm以下であることは部分ゲルの発生が抑制(許容範囲の少量のゲルの発生が認められても地盤注入用固結材の実用性に影響はない)されていることを意味し、これは調製の容易性と地盤(特に密な地盤や粘土質の地盤)への良好な浸透性の効果をもたらす。
【0036】
本発明では、Siを含有する固形分の平均粒子径は、全自動水平型多目的X線回折装置(株式会社リガク製、製品名SmartLab)を用いて小角散乱を行い、次いで粒径・空孔径解析ソフトウェア(株式会社リガク製、製品名NANO-Solver)で球形解析することにより得られる値である。この平均粒子径は0.80nm以下であればゲルが実質的に認められず清澄であるか又は許容範囲の少量のゲルの発生が認められても地盤注入用固結材の実用性に影響はないことを意味する。この平均粒子径は0.80nm以下であればよいが、地盤への浸透性を考慮すると平均粒子径は小さい方が好ましく、測定可能な下限値としては0.10nm程度である。
【0037】
本発明では、地盤注入用固結材のゲル化時間は、室温下、500mlビーカーに地盤注入用固結材150ml及び38.4mm×φ8mm回転子を入れて、初速40rpmで回転させ、回転が停止した時間をゲル化時間とした。本発明では、ゲル化時間は1時間以上であればよいが、その中でも2~30時間が好ましく、3~20時間がより好ましい。
【0038】
本発明の地盤注入用固結材は、地盤の液状化防止注入工事、地盤補強工事等に広く利用することができる。特にコロイダルシリカを含有しない点で密な地盤及び粘土質地盤への浸透性も良好である上、SiO2含有量は11質量%以上であり固結強度も優れている。」
「【実施例】
【0044】
以下に実施例、比較例及び試験例を示して本発明を具体的に説明する。但し、本発明は実施例に限定されない。
【0045】
実施例及び比較例では、下記材料を20℃の条件で使用した。
・5号珪酸ソーダ(富士化学株式会社製)
(SiO2:25.6質量%,Na2O:7.1質量%,モル比:3.7,富士化学(株)製)
・3号珪酸ソーダ(富士化学株式会社製)
(SiO2:29.0質量%,Na2O:9.3質量%,モル比:3.2,富士化学(株)製)
・78%硫酸(工業用)
・水酸化マグネシウム(和光純薬工業株式会社製)
但し、水酸化マグネシウムの平均粒子径は69.30nmであり、水酸化マグネシウムには実質的に針状結晶は含まれていなかった。
・水(工業用)
実施例1~2及び比較例1~3(地盤注入用固結材の調製)
下記表1に示すA液及びB液を用意し、B液を130rpmで撹拌しながらA液をポンプ流量9.05mL/secで滴下することにより混合し、実施例1~2及び比較例1~3の地盤注入用固結材を調製した。
【0046】
各地盤注入用固結材の特徴を表1に併せて示す。なお、ゲルタイムはカップ倒立法により測定した。本明細書における地盤注入用固結材の性状の評価基準は下記の通りである。
【0047】
○:ゲルが実質的に認められず清澄である
△:許容範囲の少量のゲルの発生が認められる(実用性あり)
×:多量のゲルの発生が認められる(実用性なし)
【0048】
【表1】
[図:0001412320000001.jpg]
」
「【0060】
試験例1(固結体の作製及び一軸圧縮強さの測定)
実施例1、比較例1~2で作製した3種の地盤注入用固結材を用いて固結体(供試体)を作製し、一軸圧縮強度を測定した。具体的には、豊浦硅砂を用いてDr=50、φ=50mm、h=100mmで水中落下法により固結体を作製し、材令7日及び28日で一軸圧縮強さを測定した。
【0061】
結果を図2に示す。図2によれば、実施例1の地盤注入用固結材を用いて作製した固結体(以下、「実施例1の固結体」という。他も同様。)は、材令28日で目標値の800kN/m2を達成した。この数値は、比較例1の固結体と比べて、材令7日では約42%、材令28日では約34%高い強度であった。
【0062】
なお、同じSiO2濃度で比較すると、水酸化マグネシウムに含まれる添加物の影響と推測されるが、実施例1の固結体は比較例2の固結体と比べて強度はやや劣るが、材令7日では約16%低かった強度が、材令28日では約6%の低下に留まった。これは、水酸化マグネシウムを添加した実施例1の地盤注入用固結材のゲルタイムが長く、硬化までに時間を要するためと推測される。実施例1と比較例2の固結体を比較すると、材令28日以降ではほぼ遜色ない強度が得られている。」
第3 異議申立ての概要及び証拠方法
1 異議申立ての概要
(1)申立理由1(進歩性欠如)
本件発明1~6は、甲1、甲2、甲3又は甲4に記載された発明及び甲5~6に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件発明1~6に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(2)申立理由2(実施可能要件違反)
本件特許の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1~6について、実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでないため、本件特許の請求項1~6に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。
(3)申立理由3(明確性違反)
本件特許に係る出願は、本件発明3~6についての特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。
2 証拠方法の一覧
申立人は、次の甲第1号証~甲第3号証を提出した。甲第1号証~甲第7号証を、以下「甲1」~「甲7」ともいう。
甲第1号証:特開昭60-233192号公報
甲第2号証:特開昭60-231785号公報
甲第3号証:特開昭60-231786号公報
甲第4号証:特開昭60-53587号公報
甲第5号証:「薬液注入の長期耐久性と恒久グラウト本設注入工法の設計施工」(株式会社近代科学社、2016年10月31日、初版)
甲第6号証:特開2016-141726号公報
甲第7号証:「化学大辞典5」(共立出版株式会社、昭和50年12月1日、縮刷版18刷)
また、当審により、次の参考文献1及び2(以下「参1」及び「参2」ともいう。)を追加した。
参考文献1:東曹産業株式会社ホームページ「珪酸ソーダ(水ガラス)の物理的性質」検索日:令和6年6月19日(URL:https://www.toso-sangyo.com/products/properties/)
参考文献2:林純薬工業株式会社の公式通販サイト「硫酸(51~98%)の濃度と密度早見表」検索日:令和6年6月19日(URL:https://direct.hpc-j.co.jp/shop/pages/sulfuric_acid02.aspx)
第4 甲号証等の記載
1 甲1の記載
甲1には、次の記載がある。
(1)「ゲル化調整剤を含む水ガラス水溶液と、酸性液とを混合して非アルカリ性珪酸水溶液を調製し、この水溶液を地盤注入用薬液として用いることを特徴とする地盤注入工法。」(特許請求の範囲)
(2)「上述したゲル化調整剤のうち、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウムのような多価金属の水酸化物、或は炭酸マグネシウムや炭酸カルシウムのような多価金属の炭酸塩は難溶性であるため遅効性アルカリ剤として優れており、リン酸2ナトリウムはPHの急激な変化を妨ぐアルカリ性を呈するPH緩衝剤として、又、硫酸アルミニウムや塩化アルミニウムは酸性を呈するPH緩衝剤としてすぐれている。又、硫酸カルシウムのような多価金属の硫酸塩は難溶性であるため、遅効性の酸として優れている。これらのうち遅効性アルカリ剤、アルカリ性を呈する緩衝剤は水ガラスと混合し、遅効性酸、酸性を呈する緩衝剤は酸と混合して用いる事により所定のゲル化時間を保持しながらゲル化後のPH値を中性領域に保持したり、或はPHの変動を少なくする事によりゲル化時間の調整を容易にするという効果を得る。」(第3頁左下欄第13行~右下欄第9行)
(3)「実験-1
A液として水ガラス水溶液、B液として硫酸水溶液を用意し、これらをそれぞれ攪拌翼の備えられたろうと状容器に導入して混合し、この混合液を前容器下端からとりだし、PH値とゲル化時間を測定した。結果を表-1に示す。
[図:0001412320000002.jpg]
表-1の各配合例において、いずれも均質なゲルを形成した。
なおA液をビーカーに採取し、これに攪拌しながらB液を添加混合したところ、塊状シリカ分が析出された。
前述より酸過剰な状態で水ガラスと酸性液を合流すれば、均質な配合液を得、かつ任意のPH値とゲル化時間を設定できることがわかる。」(第4頁左下欄第1行~第5頁左上欄第8行)
(4)「実験-3
(A) A液およびB液として表-3のNo.Aに示す配合のものを用いた。A液には遅効性アルカリ剤としてMg(OH)2を添加した。この添加量は第3図のグラフの横軸に示す各号である。実験-1と同様な方法でA液およびB液を合流し、得られた合流液のゲル化時間ならびにPHの挙動を測定し、結果を第3図に示した。
・・・
(C) A液およびB液として表-3のNo.Cに示す配合のものを用いた。A液の水ガラス濃度ならびにB液の酸濃度はそれぞれNo.Aのものよりも濃厚である。A液には遅効性アルカリ剤としてMg(OH)2を、第5図のグラフの横軸に示す各量添加した。A液およびB液を実験-1と同様な方法で合流し、得られた合流液のゲル化時間ならびにPHの挙動を測定し、結果を第5図に示した。
・・・
[図:0001412320000003.jpg]
上述の実験-3における第3図ないし第8図からわかるように、A液に遅効性アルカリ剤を添加しておけば、A・B合流液は合流時にはPH値2ないし5の弱酸性を呈するが、その後、徐々に増大して中性方向に移向してゲル化し、ゲル化後にはほゞ中性領域を呈している。」(第6頁右上欄第18行~第7頁右上欄第1行)
(5)「
[図:0001412320000004.jpg]
」
(6)「
[図:0001412320000005.jpg]
」
2 甲2の記載
甲2には、次の記載がある。
(1)「水ガラス水溶液および酸性液を注入管を通して地盤中に合流注入する地盤注入工法において、前記水ガラス水溶液および酸性液は前記注入管内の混合部で酸過剰に保持されるような合流比率で合流され、次いでそのまま直ちに地盤中に注入されることを特徴とする注盤注入工法。」(特許請求の範囲)
(2)「実験1
A液として水ガラス水溶液、B液として硫酸水溶液を用意し、これらをそれぞれ攪拌翼の備えられたろうと状容器に導入して混合し、この混合液を前容器下端からとりだし、pH値とゲル化時間を測定した。結果を表-1に示す。
[図:0001412320000006.jpg]
表-1の各配合例において、いずれも均質なゲルを形成した。
なお、A液をビーカーに採取し、これに攪拌しながらB液を添加混合したところ、塊状シリカ分が析出された。
前述より酸過剰な状態で水ガラスと酸性液を合流すれば、均質な配合液を得、かつ任意のpH値とゲル化時間を設定できることがわかる。」(第3頁左上欄第9行~左下欄第8行)
(3)「さらに、本発明では前述のA液またはB液の少なくとも一方にゲル化調整剤を添加してもよい。
前述ゲル化調整剤として、塩(無機塩、有機塩、塩基性塩、中性塩、酸性塩等)、アルコール類、苛性ソーダのようなアルカリ類等を用いる事が出来、また珪酸と反応したり、pHを変動せしめたり、或は他の化学的、電気化学的作用により、珪酸ゲルを形成せしめたり、ゲル化時間を変動せしめたり、流動性を変動せしめたり、あるいはpH緩衝剤のようにpHの変動を少なくしたり、またはpHの変動をゆるやかにしてゲル化をゆるやかに行わせたり、さらには固結を増大せしめたりするものを用いることができる。
・・・
上述したゲル化調整剤のうち、水酸化マグネシウムや水酸化アルミニウムのような多価金属の水酸化物、或は炭酸マグネシウムや炭酸カルシウムのような多価金属の炭酸塩は難溶性であるため、遅効性アルカリ剤として優れており、リン酸2ナトリウムはPHの急激な変化を妨ぐアルカリ性を呈するPH緩衝剤として、又硫酸アルミニウムや塩化アルミニウムは酸性を呈するPH緩衝剤としてすぐれている。又硫酸カルシウムのような多価金属の硫酸塩は難溶性であるため、遅効性の酸として優れている。
これらのうち遅効性アルカリ剤、アルカリ性を呈する緩衝剤は水ガラスと混合し、遅効性酸、酸性を呈する緩衝剤は酸と混合して用いることにより所定のゲル化時間を保持しながらゲル化後のPH値を中性領域に保持したり、或はPHの変動を少なくすることによりゲル化時間の調整を容易にするという効果を得る。」(第4頁右下欄第11行~第5頁右下欄14行)
(4)「実験-3
(A) A液およびB液として表-3のNo.Aに示す配合のものを用いた。A液には遅効性アルカリ剤としてMg(OH)2を添加した。この添加量は第2図のグラフの横軸に示す各量である。実験-1と同様な方法でA液およびB液を合流し、得られた合流液のゲル化時間ならびにPHの挙動を測定し、結果を第2図に示した。
・・・
(C) A液およびB液として表-3のNo.Cに示す配合のものを用いた。A液の水ガラス濃度ならびにB液の酸濃度はそれぞれNo.Aのものよりも濃厚である。A液には遅効性アルカリ剤としてMg(OH)2を、第4図のグラフの横軸に示す各量添加した。A液およびB液を実験-1と同様な方法で合流し、得られた合流液のゲル化時間ならびにPHの挙動を測定し、結果を第4図に示した。
・・・
[図:0001412320000007.jpg]
上述の実験-3における第2図ないし第7図からわかるように、A液に遅効性アルカリ剤を添加しておけば、A・B合流液鉱合流時にはPH値2ないし5の弱酸性を呈するが、その後、徐々に増大して中性方向に移向してゲル化し、ゲル化後にはほゞ中性領域を呈している。(第6頁左下欄第4行~第7頁右上欄第18行)」
(5)「
[図:0001412320000008.jpg]
」
(6)「
[図:0001412320000009.jpg]
」
3 甲3の記載
甲3には、次の記載がある。
(1)「水ガラス水溶液および酸性液を注入管を通して地盤中に合流注入する地盤注入工法において、前記水ガラス水溶液および酸性液は前記注入管に至るまでの管路で、酸過剰に保持されるような合流比率で合流され、次いでそのまま直ちに注入管を通して地盤中に注入されることを特徴とする地盤注入工法。」(特許請求の範囲)
(2)「実験1
A液として水ガラス水溶液、B液として硫酸水溶液を用意し、これらをそれぞれ攪拌翼の備えられたろうと状容器に導入して混合し、この混合液を前容器下端からとりだし、pH値とゲル化時間を測定した。結果を表-1に示す。
[図:0001412320000010.jpg]
表-1の各配合例において、いずれも均質なゲルを形成した。
なお、A液をビーカーに採取し、これに攪拌しながらB液を添加混合したところ、塊状シリカ分が析出された。
前述より酸過剰な状態で水ガラスと酸性液を合流すれば、均質な配合液を得、かつ任意のpH値とゲル化時間を設定できることがわかる。」(第3頁左上欄第11行~左下欄第8行)
(3)「さらに、本発明では前述のA液またはB液の少なくとも一方にゲル化調整剤を添加してもよい。
前述ゲル化調整剤として、塩(無機塩、有機塩、塩基性塩、中性塩、酸性塩等)、アルコール類、苛性ソーダのようなアルカリ類等を用いる事が出来、また珪酸と反応したり、pHを変動せしめたり、或は他の化学的、電気化学的作用により、珪酸ゲルを形成せしめたり、ゲル化時間を変動せしめたり、流動性を変動せしめたり、あるいはpH緩衝剤のようにpHの変動を少なくしたり、またはpHの変動をゆるやかにしてゲル化をゆるやかに行わせたり、さらには固結を増大せしめたりするものを用いることができる。
・・・
上述したゲル化調整剤のうち、水酸化マグネシウムや水酸化アルミニウムのような多価金属の水酸化物、或は炭酸マグネシウムや炭酸カルシウムのような多価金属の炭酸塩は難溶性であるため、遅効性アルカリ剤として優れており、リン酸2ナトリウムはpHの急激な変化を妨ぐアルカリ性を呈するpH緩衝剤として、又硫酸アルミニウムや塩化アルミニウムは酸性を呈するpH緩衝剤としてすぐれている。又硫酸カルシウムのような多価金属の硫酸塩は難溶性であるため、遅効性の酸として優れている。
これらのうち遅効性アルカリ剤、アルカリ性を呈する緩衝剤は水ガラスと混合し、遅効性酸、酸性を呈する緩衝剤は酸と混合して用いる事により所定のゲル化時間を保持しながらゲル化後のpH値を中性領域に保持したり、或はpHの変動を少なくする事によりゲル化時間の調整を容易にするという効果を得る。」(第4頁左下欄第11行~第5頁左下欄第14行)
(4)「実験-3
(A) A液およびB液として表-3のNo.Aに示す配合のものを用いた。A液には遅効性アルカリ剤としてMg(OH)2を添加した。この添加量は第2図のグラフの横軸に示す各量である。実験-1と同様な方法でA液およびB液を合流し、得られた合流液のゲル化時間ならびにPHの挙動を測定し、結果を第2図に示した。
・・・
(C) A液およびB液として表-3のNo.Cに示す配合のものを用いた。A液の水ガラス濃度ならびにB液の酸濃度はそれぞれNo.Aのものよりも濃厚である。A液には遅効性アルカリ剤としてMg(OH)2を、第4図のグラフの横軸に示す各量添加した。A液およびB液を実験-1と同様な方法で合流し、得られた合流液のゲル化時間ならびにPHの挙動を測定し、結果を第4図に示した。
・・・
[図:0001412320000011.jpg]
上述の実験-3における第2図ないし第7図からわかるように、A液に遅効性アルカリ剤を添加しておけば、A・B合流液は合流時にはPH値2ないし5の弱酸性を呈するが、その後、徐々に増大して中性方向に移向してゲル化し、ゲル化後にはほゞ中性領域を呈している。」(第6頁右上欄第4行~第7頁左上欄第18行)
(5)「
[図:0001412320000012.jpg]
」
(6)「
[図:0001412320000013.jpg]
」
4 甲4の記載
甲4には、次の記載がある。
(1)「 水ガラスを酸で処理して得られる非アルカリ性珪酸水溶液と、多価金属の水酸化物とを含有してなる地盤注入用薬液。」(特許請求の範囲)
(2)「実施例
非アルカリ性珪酸水溶液として次の配合のものを使用した。
3号水ガラス原液 35 容量部
硫 酸 (97%) 5.2容量部
水 59.8容量部
上記配合の非アルカリ性珪酸水溶液のPHは1.7を示した。この非アルカリ性珪酸水溶液(50CC)に対して、ゲル化促進剤として炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)、水酸化カルシウム(Ca(OH)2)、水酸化マグネシウム(Mg(OH)2)、および炭酸マグネシウム(MgCO3)をそれぞれ単独で添加混合しく50CC水溶液として)、得られた薬液についてのゲル化時間の変化を第1図に示した。
第1図において、(1)はNaHCO3、(2)はCa(OH)2、(3)はMg(OH)2、(4)はMgCO3の例を示す。
第1図からわかるように曲線(1)および(4)はほぼ垂直な直線状を示しているのに対し、曲線(2)および(3)は相当に傾斜している。即ち、炭酸水素ナトリウム(曲線(1))ならびに炭酸マグネシウム(曲線(4))に比べて本発明にかかるアルカリ土類金属の水酸化物(曲線(2)、(3))はその添加量の変化に対して、ゲル化時間の変動が緩慢であり、ゲル化時間の調整が容易であることがわかる。」(第2頁左下欄第3行~右下欄第13行)
当審注:上記「(1)」、「(2)」、「(3)」、「(4)」はそれぞれ、数字に丸。
(3)「
[図:0001412320000014.jpg]
」
5 甲5の記載
甲5には、次の記載がある。
(1)「
[図:0001412320000015.jpg]
」(第29頁)
(2)「
[図:0001412320000016.jpg]
」(第31~32頁)
(3)「
[図:0001412320000017.jpg]
」(第32頁)
(4)「
[図:0001412320000018.jpg]
」(第36頁)
(5)「
[図:0001412320000019.jpg]
・・・
[図:0001412320000020.jpg]
」(第41~42頁)
6 甲6の記載
甲6には、次の記載がある。
「【0015】
<地盤改良材の説明>
以下、実施形態に係る薬液(地盤改良材)1について説明する。図1に示すように、薬液1は、水ガラス2に水3を配合して希釈水ガラス4とし、その希釈水ガラス4を、撹拌しつつ酸5に混合して得た酸性シリカゾル溶液6を含む。
【0016】
薬液1は、酸性シリカゾル溶液6そのものであってもよい。薬液1に更に別の希釈水ガラスをぶつけることにより瞬結性を獲得してもよい。アルカリ性の希釈水ガラスを加えることで、薬液1のpHを調整することができる。薬液1のpHを調整することで、薬液1のゲルタイムを調整することができるため、酸性シリカゾル溶液6への希釈水ガラスの混合の有無、その希釈水ガラスのシリカ濃度等により、薬液1を瞬結材とすることも長結材とすることも可能である。」
「【0030】
<実施例1>
以下に示す実験条件のもと、円筒容器内の酸5に希釈水ガラス4を投入し、撹拌翼で撹拌しつつ薬液1を作液(生成)した。各実験に使用した水ガラス2、水ガラスを希釈するための水3、酸5を構成する硫酸と希釈水のそれぞれの配合(体積、濃度)を配合1-0,1-1,1-2,1-3,2-0,2-1,2-2,3-0とし、表1に示した。
【0031】
各配合の材料に対し、撹拌動力、希釈水ガラス4のシリカ濃度、希釈水ガラス4の投入速度を変化させて作液状況を評価した。作液状況として、塩やシリカの析出、ゲル化の発生等の不具合を生じ、溶液としての薬液1の生成ができなかったものを「×」とし、上記のような不具合の発生がなく、薬液1が生成できたものを「○」とした。作液状況の評価結果を表2に示した。
【0032】
[実験条件]
材料液温:20℃
容器内径:12.6cm
薬液1の粘度:2.7mPa・sec
薬液1の密度:1.174g/cm3
練り上がり薬液1の液面の高さ:8cm
攪拌翼:6枚羽根タービン
翼径:5cm
翼幅:1cm
邪魔板:なし
練り上がり薬液量:1l。
【0033
【表1】
[図:0001412320000021.jpg]
」
7 甲7の記載
甲7には、次の記載がある。
「
[図:0001412320000022.jpg]
」
8 参1には、次の記載がある。
(1)「
[図:0001412320000023.jpg]
」
(2)「
[図:0001412320000024.jpg]
」
上記(1)、(2)から、参1には珪酸ソーダ(水ガラス)の物理的性質についての各種開示があり、比重とモル比の関係図(20℃)より、例えば、モル比が3.2である水ガラスの比重は、約1.41であることが読み取れる。
9 参2には、次の記載がある。
「
[図:0001412320000025.jpg]
・・・
[図:0001412320000026.jpg]
」
上記から、参2には、硫酸(51-98%)の濃度と密度の関係についての早見表の開示があり、例えば、75%硫酸の密度は、1.67g/mLであり、97%硫酸の密度は、1.84g/mLであることが読み取れる。
第5 申立理由1(進歩性欠如)についての当審の判断
1 甲号証に記載された発明
(1)甲1に記載された発明
甲1の特許請求の範囲には、ゲル化調整剤を含む水ガラス水溶液と、酸性液とを混合して非アルカリ性珪酸水溶液を調製した地盤注入用薬液が記載されている(上記第4の摘記1(1)を参照)。
また、甲1には、実験-1として、A液として水ガラス水溶液、B液として硫酸水溶液を、それぞれ攪拌翼の備えられた、ろうと状容器に導入して混合し、この混合液を前容器下端から取り出して、pH値とゲル化時間の測定を行ったことが記載されており、甲1の表-1には、配合No.9として、50cc当たり、3号水ガラス35.0ccと残部が水であるA液と、50cc当たり、75%硫酸7.0ccと残部が水であるB液とを混合した混合液のpH値は1.5であり、ゲル化時間は240分であることが記載されている(上記第4の摘記1(3)を参照)。
さらに、甲1には、実験-3として、遅効性アルカリ剤としてMg(OH)2を添加したA液と、B液とを、実験-1と同様な方法で合流し、得られた合流液のゲル化時間とpHの挙動の測定を行ったことが記載されており、甲1の表-3、第5図には、No.Cとして、50cc当たり、3号水ガラス20.0ccと残部が水であるものに、Mg(OH)2を0.5g添加したA液と、50cc当たり、75%H2SO4を4.1cc含み、残部が水であるB液との混合液は、混合時のpHが約1.2であり、ゲル化時間が約30分であることが記載されている(上記第4の摘記1(4)、(6)を参照)。
そうすると、甲1には、次の発明(以下「甲1A発明」、「甲1B発明」という。)が記載されていると認められる。
<甲1A発明>
「50cc当たり、3号水ガラス35.0ccと残部が水であるA液と、50cc当たり、75%硫酸7.0ccと残部が水であるB液とを混合した混合液からなる地盤注入用薬液であって、pH値が1.5であり、ゲル化時間が240分である地盤注入用薬液。」
<甲1B発明>
「50cc当たり、3号水ガラス20.0ccと残部が水であるものにMg(OH)2を0.5g添加したA液と、75%H2SO4を4.1cc含み、残部が水であるB液とを混合した地盤注入用薬液であって、混合時のpH値が1.2であり、ゲル化時間が約30分である地盤注入用薬液。」
(2)甲2に記載された発明
甲2には、地盤注入工法に用いる水ガラス水溶液と酸性液を混合した液体が記載されているところ(上記第4の摘記2(1)を参照)、甲2の表-1、表-3、第4図(上記第4の摘記2(2)、(4)、(6)を参照)は、上記甲1A発明及び甲1B発明の認定で用いた表-1、表-3、第5図と同じものであるから、甲2には、次の発明(以下「甲2A発明」、「甲2B発明」という。)が記載されていると認められる。
<甲2A発明>
「50cc当たり、3号水ガラス35.0ccと残部が水であるA液と、50cc当たり、75%硫酸7.0ccと残部が水であるB液とを混合した混合液からなる地盤注入用薬液であって、pH値が1.5であり、ゲル化時間が240分である地盤注入用薬液。」
<甲2B発明>
「50cc当たり、3号水ガラス20.0ccと残部が水であるものにMg(OH)2を0.5g添加したA液と、75%H2SO4を4.1cc含み、残部が水であるB液とを混合した地盤注入用薬液であって、混合時のpH値が1.2であり、ゲル化時間が約30分である地盤注入用薬液。」
(3)甲3に記載された発明
甲3には、地盤注入工法に用いる水ガラス水溶液と酸性液を混合した液体が記載されているところ(上記第4の摘記3(1)を参照)、甲3の表-1、表-3、第4図(上記第4の摘記3(2)、(4)、(6)を参照)は、上記甲1A発明及び甲1B発明の認定で用いた表-1、表-3、第5図と同じものであるから、甲3には、次の発明(以下「甲3A発明」、「甲3B発明」という。)が記載されていると認められる。
<甲3A発明>
「50cc当たり、3号水ガラス35.0ccと残部が水であるA液と、50cc当たり、75%硫酸7.0ccと残部が水であるB液とを混合した混合液からなる地盤注入用薬液であって、pH値が1.5であり、ゲル化時間が240分である地盤注入用薬液。」
<甲3B発明>
「50cc当たり、3号水ガラス20.0ccと残部が水であるものにMg(OH)2を0.5g添加したA液と、75%H2SO4を4.1cc含み、残部が水であるB液とを混合した地盤注入用薬液であって、混合時のpH値が1.2であり、ゲル化時間が約30分である地盤注入用薬液。」
(4)甲4に記載された発明
甲4の特許請求の範囲には、水ガラスを酸で処理して得られる非アルカリ性珪酸水溶液と、多価金属の水酸化物とを含有してなる地盤注入用薬液についての発明が記載されている(上記第4の摘記4(1)を参照)。
また、甲4には、上記発明の実施例として、3号水ガラス原液35容量部、硫酸(97%)5.2容量部、水59.8容量部であるpHが1.7である非アルカリ性珪酸水溶液50ccに、水酸化マグネシウム(Mg(OH)2)を、第1図の量で添加したものが記載されている(上記第4の摘記4(2)、(3)を参照)。
そして、上記実施例において、第1図のゲル化時間が100分になるように水酸化マグネシウム(Mg(OH)2)の添加したもの(添加量:約0.4g)に着目して、整理すると、甲4には、次の発明(以下「甲4発明」という。)が記載されていると認められる。
<甲4発明>
「3号水ガラス原液35容量部、硫酸(97%)5.2容量部、水59.8容量部であるpHが1.7である非アルカリ性珪酸水溶液50ccに、水酸化マグネシウム(Mg(OH)2)を0.4g添加した、ゲル化時間が100分である地盤注入用薬液。」
2 対比・判断
(1)甲1A発明との対比・判断
ア 対比
甲1A発明と本件発明1を対比する。
甲1A発明の「3号水ガラス」、「硫酸」、「地盤注入用薬液」はそれぞれ、本件発明1の「珪酸ソーダ」、「酸成分」、「地盤注入用固結材」に相当する。
また、甲1A発明の地盤注入用薬液は、「ゲル化時間が240分」であるから、本件発明1の「ゲル化時間が1時間以上である」という発明特定事項を充足する。
そして、SiO2/Na2O(モル比)が3.2である3号水ガラス(3号珪酸ソーダ)のSiO2濃度は29.0質量%であること(本件明細書の段落【0045】を参照)、SiO2/Na2O(モル比)が3.2である水ガラス(3号水ガラス)の比重は、約1.41であること(上記第4の摘記8(1)、(2)を参照)、75%硫酸の密度は、1.67g/mLであること(上記第4の摘記9を参照)を考慮して、甲1A発明の地盤注入用薬液におけるSiO2の濃度を計算すると、約12.0(={(35×1.41)×29.0/100}/{(35×1.41)+(50-35)+(7×1.67)+(50-7.0)}×100)質量%であるから、本件発明1の「前記地盤注入用固結材は、SiO2濃度が11質量%以上であり」という発明特定事項を充足する。
そうすると、本件発明1と甲1A発明とは、以下の一致点及び相違点を有する。
<一致点>
「珪酸ソーダ及び酸成分を含有する地盤注入用固結材であって、
前記地盤注入用固結材は、SiO2濃度が11質量%以上であり、
ゲル化時間が1時間以上である、地盤注入用固結材。」
<相違点1>
本件発明1は、水酸化マグネシウムを含有し、Siを含有する固形分の平均粒子径が0.80nm以下であるのに対し、甲1A発明は、水酸化マグネシウムを含有せず、Siを含有する固形分の平均粒子径が0.80nm以下であることが特定されていない点。
イ 判断
以下、上記相違点1について検討する。
甲5には、3号水ガラスの分子の大きさが、約0.1nmであることが記載され、水ガラスグラウトでは、シロキサン鎖が線状に伸び、シロキサン鎖が接触した部分では、架橋して網状に成長することが記載されている(上記第4の摘記5(1)、(2)を参照)。
そして、甲1には、水酸化マグネシウムのような多価金属の水酸化物は難溶性であるため遅効性アルカリ剤として優れており、このような遅効性アルカリ剤は、水ガラスと混合して用いることにより、所定のゲル化時間を保持しながらゲル化後のpH値を中性領域に保持したり、pHの変動を少なくすることにより、ゲル化時間の調整を容易にするという効果が得られる旨記載されている(上記第4の摘記1(2)を参照)。
しかしながら、甲1、甲5には、水ガラスを含む溶液を、酸成分を含む溶液と混合した混合液において、水酸化マグネシウムを用いることで、Siを含有する固形分の平均粒子径を0.80nm以下に調整することについては記載も示唆もされていない。
また、本件明細書の記載(段落【0019】~【0021】、【0026】、【0044】~【0048】、表1)を参酌すると、地盤注入用固結材SiO2の含有量、珪酸ソーダの種類、水酸化マグネシウムの含有量や製造条件等が変化することにより、水酸化マグネシウムを添加した水ガラスを含む溶液と、酸成分を含む溶液とを混合した混合液におけるSiを含有する固形分の平均粒子径は様々な値をとり得ると解されるから、甲1A発明において、3号水ガラスを含む溶液に、水酸化マグネシウムを添加して、硫酸を含む溶液と混合したとしても、Siを含有する固形分の平均粒子径を0.80nm以下にするということを意識せずに、水酸化マグネシウムの添加量、各成分の混合比や混合方法等を調整して、Siを含有する固形分の平均粒子径を0.80nm以下とすることは当業者といえども容易になし得ることとはいえない。
よって、本件発明1は、甲1A発明、並びに、甲1及び甲5に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものではない。
ウ 本件発明2~6について
本件発明2~6は、本件発明1を包含し、さらに特定事項を追加したものであるから、上記イで検討したのと同様の理由により、甲1A発明、並びに、甲1、甲5及び甲6に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものではない。
(2)甲1B発明との対比・判断
ア 対比
甲1B発明と本件発明1を対比する。
甲1B発明の「3号水ガラス」、「Mg(OH)2」、「H2SO4」、「地盤注入用薬液」はそれぞれ、本件発明1の「珪酸ソーダ」、「水酸化マグネシウム」、「酸成分」、「地盤注入用固結材」に相当する。
一方、SiO2/Na2O(モル比)が3.2である3号水ガラス(3号珪酸ソーダ)のSiO2濃度は29.0質量%であること(本件明細書の段落【0045】を参照)、SiO2/Na2O(モル比)が3.2である水ガラス(3号水ガラス)の比重は、約1.41であること(上記第4の摘記8(1)、(2)を参照)、75%硫酸の密度は、1.67g/mLであること(上記第4の摘記9を参照)を考慮して、甲1B発明の地盤注入用薬液におけるSiO2の濃度を計算すると、約7.3(={(20×1.41)×29.0/100}/{(20×1.41)+(50-20)+0.5+(4.1×1.67)+(50-4.1)}×100)質量%であるから、本件発明1の「前記地盤注入用固結材は、SiO2濃度が11質量%以上であり」という発明特定事項を充足しない。
そうすると、本件発明1と甲1B発明とは、以下の一致点及び相違点を有する。
<一致点>
「珪酸ソーダ、水酸化マグネシウム及び酸成分を含有する地盤注入用固結材であることを特徴とする地盤注入用固結材。」
<相違点2>
本件発明1は、地盤注入用固結材のSiO2濃度が11質量%以上であり、ゲル化時間が1時間以上であり、Siを含有する固形分の平均粒子径が0.80nm以下であるのに対し、甲1B発明は、SiO2濃度が約7.3質量%であり、ゲル化時間が約30分であることに加えて、Siを含有する固形分の平均粒子径が0.80nm以下であることが特定されていない点。
イ 判断
以下、上記相違点2について検討する。
甲5には、3号水ガラスの分子の大きさが、約0.1nmであることが記載され、水ガラスグラウトでは、シロキサン鎖が線状に伸び、シロキサン鎖が接触した部分では、架橋して網状に成長することが記載されている(上記第4の摘記5(1)、(2)を参照)。
そして、甲1の表-1には、上記(1)アで記載したように、A液50cc当たり、3号水ガラスを35cc含有させ、B液と混合した後のSiO2の含有量が約12.0質量%であり、ゲル化時間が240分であるものが記載されていることに加え、表-1の記載からは、混合液のpHが同じ場合、水ガラスの含有量が多いものの方が、ゲル化時間が短く、水ガラスの含有量が同程度の場合は、pHが低いものの方が、ゲル化時間が長くなることが読み取れる(上記第4の摘記1(3)を参照)。
しかしながら、甲1、甲5には、水ガラスを含む溶液を、酸成分を含む溶液と混合した混合液において、Siを含有する固形分の平均粒子径を0.80nm以下に調整することについては記載も示唆もされていない。
また、本件明細書の記載(段落【0019】~【0021】、【0026】、【0044】~【0048】、表1)を参酌すると、地盤注入用固結材SiO2の含有量、珪酸ソーダの種類、水酸化マグネシウムの含有量や製造条件等が変化することにより、水酸化マグネシウムを添加した水ガラスを含む溶液と、酸成分を含む溶液とを混合した混合液におけるSiを含有する固形分の平均粒子径は様々な値をとり得ると解されるから、甲1B発明において、3号水ガラスの含有量を増やし、pHを低くして、ゲル化時間が長くなるように調整したとしても、Siを含有する固形分の平均粒子径を0.80nm以下にするということを意識せずに、各成分の混合比や混合方法等を調整して、Siを含有する固形分の平均粒子径を0.80nm以下とすることは当業者といえども容易になし得ることとはいえない。
よって、本件発明1は、甲1B発明と、甲1、甲5の記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものではない。
ウ 本件発明2~6について
本件発明2~6は、本件発明1を包含し、さらに特定事項を追加したものであるから、上記イで検討したのと同様の理由により、甲1B発明、並びに、甲1、甲5及び甲6に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものではない。
(3)甲2A発明~甲3B発明との対比・判断
甲2A発明~甲3B発明と、本件発明1~6との対比・判断については、上記(1)、(2)で検討した事項と同様であるから、本件発明1~6は、甲2A発明~甲3B発明と、甲1~甲6に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものではない。
(4)甲4発明との対比・判断
ア 対比
甲4発明と本件発明1を対比する。
甲4発明の「3号水ガラス」、「水酸化マグネシウム(Mg(OH)2)」、「硫酸」、「地盤注入用薬液」はそれぞれ、本件発明1の「珪酸ソーダ」、「水酸化マグネシウム」、「酸成分」、「地盤注入用固結材」に相当する。
また、甲4発明の地盤注入用薬液は、「ゲル化時間が100分」であるから、本件発明1の「ゲル化時間が1時間以上である」という発明特定事項を充足する。
そして、SiO2/Na2O(モル比)が3.2である3号水ガラス(3号珪酸ソーダ)のSiO2濃度は29.0質量%であること(本件明細書の段落【0045】を参照)、SiO2/Na2O(モル比)が3.2である水ガラス(3号水ガラス)の比重は、約1.41であること(上記第4の摘記8(1)、(2)を参照)、97%硫酸の密度は、1.84g/mLであること(上記第4の摘記9を参照)を考慮して、甲4発明の地盤注入用薬液におけるSiO2の濃度を計算すると、約12.0(={(35×1.41)×29.0/100}/{(35×1.41)+(5.2×1.84)+59.8+0.4}×100)質量%であるから、本件発明1の「前記地盤注入用固結材は、SiO2濃度が11質量%以上であり」という発明特定事項を充足する。
そうすると、本件発明1と甲4発明とは、以下の一致点及び相違点を有する。
<一致点>
「珪酸ソーダ、水酸化マグネシウム及び酸成分を含有する地盤注入用固結材であって、
前記地盤注入用固結材は、SiO2濃度が11質量%以上であり、
ゲル化時間が1時間以上である、地盤注入用固結材。」
<相違点3>
本件発明1は、Siを含有する固形分の平均粒子径が0.80nm以下であるのに対し、甲4発明は、それが特定されていない点。
イ 判断
以下、上記相違点3について検討する。
甲5には、3号水ガラスの分子の大きさが、約0.1nmであることが記載され、水ガラスグラウトでは、シロキサン鎖が線状に伸び、シロキサン鎖が接触した部分では、架橋して網状に成長することが記載されている(上記第4の摘記5(1)、(2)を参照)。
そして、甲4発明は、水ガラスと硫酸に加えて、水酸化マグネシウムが添加された混合液である。
しかしながら、本件明細書の表1の比較例3には、珪酸ナトリウム(水ガラス)と硫酸とを混合したA液に、水酸化マグネシウムを含むB液を加えた混合液では、Siを含有する固形分の平均粒子径が1.60nmになることが記載されているところ、甲4発明も、水ガラスと硫酸をあらかじめ混合した液に、水酸化マグネシウムを添加しているから、反応前の水ガラス分子の大きさは約0.1nmだったとしても、水酸化マグネシウムを含まない硫酸溶液中では、水ガラス分子の縮合が進み、Siを含有する固形分の平均粒子径は、0.80nmよりも大きくなると推認される。
そして、甲4、甲5には、水ガラスと酸成分と水酸化マグネシウムを含む混合液において、Siを含有する固形分の平均粒子径を0.80nm以下に調整することについては記載も示唆もされていないし、本件明細書の記載(段落【0019】~【0021】、【0026】、【0044】~【0048】、表1)を参酌すると、地盤注入用固結材SiO2の含有量、珪酸ソーダの種類、水酸化マグネシウムの含有量や製造条件等が変化することにより、水酸化マグネシウムと水ガラスと酸成分を含む混合液におけるSiを含有する固形分の平均粒子径は様々な値をとり得ると解されるから、甲4発明において、Siを含有する固形分の平均粒子径を0.80nm以下にするということを意識せずに、各成分の混合比や混合方法等を調整して、Siを含有する固形分の平均粒子径を0.80nm以下とすることは当業者といえども容易になし得ることとはいえない。
よって、本件発明1は、甲4発明、並びに、甲4及び甲5に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものではない。
ウ 本件発明2~6について
本件発明2~6は、本件発明1を包含し、さらに特定事項を追加したものであるから、上記イで検討したのと同様の理由により、甲4発明と、甲4~甲6に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものではない。
(5)申立人の主張について
申立人は、特許異議申立書の第32~33頁において、「甲第5号証から、水ガラス(粒径0.1nm)と酸から製造される酸性シリカゾルにおいて、シリカ粒子(ケイ酸)が、時間経過に伴い、重縮合反応が徐々に進行することで増粒され、粒径1nm程度の大きさとなることは公知である。そうすると、水ガラスと酸成分を含む甲1発明~甲4発明の薬液中に含まれる、水ガラス由来のSiを含有する固形分とは、上記シリカ粒子と考えられるから、甲1発明~甲4発明の薬液における「Siを含有する固形分」が、粒径0.1nm~1nmの範囲の粒子径を有することは自明であり、かかる甲1発明~甲4発明と、本件特許発明1とを対比すると、両者の間に差異はない。・・・よって、甲1発明~甲4発明に基づき、甲第5号証に記載された公知事項を参酌して、本件特許発明1に想到することは、当業者であれば容易になし得るものであって、本件特許発明1は進歩性を有しない。」と主張する。
しかしながら、上記(1)~(4)において検討したとおり、本件明細書の記載(段落【0019】~【0021】、【0026】、【0044】~【0048】、表1)を参酌すると、地盤注入用固結材SiO2の含有量、珪酸ソーダの種類、水酸化マグネシウムの含有量や製造条件等が変化することにより、水酸化マグネシウムを含む水ガラスと酸成分の混合液における、Siを含有する固形分の平均粒子径は様々な値をとり得ると解されるから、水ガラス分子の粒径が約0.1nmであったとしても、水酸化マグネシウムを含む水ガラスと硫酸の混合液では、Siを含有する固形分の平均粒子径が0.80nm以下であることは自明なことではなく、Siを含有する固形分の平均粒子径を0.80nm以下にするということを意識せずに、各成分の混合比や混合方法等を調整して、Siを含有する固形分の平均粒子径を0.80nm以下とすることは当業者といえども容易になし得ることとはいえない。
よって、上記申立人の主張は採用できない。
(6)小括
以上のとおり、本件発明1~6は、甲1、甲2、甲3又は甲4に記載された発明、並びに、甲1~甲6に記載された技術事項に基づいて当業者が容易になし得たものであるとすることはできないから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるとはいえない。
第6 申立理由2(実施可能要件違反)についての当審の判断
1 本件発明1の地盤注入用固結材に係る発明について
(1)判断手法について
特許法36条4項1号は、明細書の発明の詳細な説明の記載は、「その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したもの」でなければならないと定める。そして、物の発明における発明の実施とは、その物の生産、使用等をする行為をいうから(特許法2条3項1号)、同法36条4項1号の「その実施をすることができる」とは、その物を作ることができ、かつ、その物を使用できることであり、物の発明については、明細書にその物を生産する方法及び使用する方法についての具体的な記載が必要であるが、そのような記載がなくても、明細書及び図面の記載並びに出願当時の技術常識に基づき、当業者がその物を作ることができ、かつ、その物を使用できるのであれば、上記の実施可能要件を満たすということができる。さらに、ここにいう「使用できる」といえるためには、特許発明に係る物について、例えば発明が目的とする作用効果等を奏する態様で用いることができるなど、少なくとも何らかの技術上の意義のある態様で使用することができることを要するというべきである。
(2)本件への当てはめ
ア 本件発明1は、上記第2の1に記載のとおりの「地盤注入用固結材」であるから、本件発明1は物の発明であり、本件発明1が実施可能であるというためには、本件明細書の記載並びに本件出願当時の技術常識に基づき、当業者が、本件発明1に係る「地盤注入用固結材」を作ることができ、かつ、当該「地盤注入用固結材」を使用できる必要があるとともに、それで足りるというべきである。
イ 「地盤注入用固結材」を作ることができるかについて
本件明細書の段落【0044】~【0048】、表1には、実施例1及び2として、本件発明1の発明特定事項を充足する地盤注入用固結材の具体例が記載されており、珪酸ナトリウム、水酸化マグネシウム、水、硫酸として、どこから入手したどのようなグレードのものを、どのような含有量で配合させるかが具体的に記載され、その製造方法についても具体的に記載されている。
また、本件明細書の段落【0036】~【0037】には、本件発明1で特定される「平均粒径」や「ゲル化時間」の測定方法についても具体的に記載されている。
そうすると、当業者であれば、実施例の記載や本件明細書の記載を参考に、本件発明1の「平均粒径」をはじめ、本件発明1の発明特定事項を充足する地盤注入用固結材を実際に作ることができるというべきである。
ウ 「地盤注入用固結材」を使用できるかについて
本件明細書の段落【0038】には、地盤注入用固結材は、地盤の液状化防止注入工事、地盤補強工事等に広く利用することができることが記載されており、本件明細書の段落【0060】~【0062】には、本件発明1の発明特定事項を充足する地盤注入用固結材を用いて固結体(供試体)を作製したことが具体的に記載されているから、本件発明1の地盤注入用固結材を使用できるといえる。
(3)申立人の主張について
申立人は、特許異議申立書の第40頁において、「本件明細書には、「Siを含有する固形分の平均粒子径」について、その値を得る方法は記載されているものの(本件明細書の段落[0036])、どのようにして0.8nm以下に調整するのかについては、何ら記載もされていない。」と主張する。
しかしながら、本件明細書の実施例1及び2には、珪酸ナトリウム、水酸化マグネシウム、水、硫酸として、どこから入手したどのようなグレードのものを、どのような含有量で配合させるかが具体的に記載され、その製造方法についても具体的に記載されている。
また、本件明細書の段落【0015】~【0029】には、珪酸ソーダとして、どのような種類のものを用いるのが好ましいか、水酸化マグネシウムの好ましい含有量はどの程度か、A液とB液にどのような成分を含有させるのが好ましいかといった一般的な記載もあることから、Siを含有する固形分の平均粒子径0.80nm以下にどのように調整すればよいかについて、本件明細書には十分に記載されているといえる。
よって、上記申立人の主張は採用できない。
2 本件発明3の地盤注入用固結材の製造方法に係る発明について
(1)判断手法について
特許法36条4項1号は、明細書の発明の詳細な説明の記載は、「その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したもの」でなければならないと定める。そして、方法の発明における発明の実施とは、その方法を使用する行為をいうから(特許法2条3項2号)、同法36条4項1号の「その実施をすることができる」とは、その方法を使用できることであり、明細書にその方法を使用することについての具体的な記載が必要であるが、そのような記載がなくても、明細書及び図面の記載並びに出願当時の技術常識に基づき、当業者がその方法を使用できるのであれば、上記の実施可能要件を満たすということができる。
(2)本件への当てはめ
ア 本件発明3は、上記第2の1に記載のとおりの「地盤注入用固結材の製造方法」であるから、本件発明3は方法の発明であり、本件発明3が実施可能であるというためには、本件明細書の記載並びに本件出願当時の技術常識に基づき、当業者が、本件発明3に係る「地盤注入用固結材の製造方法」を使用できる必要があるとともに、それで足りるというべきである。
イ 「地盤注入用固結材」を使用できるかについて
本件明細書の段落【0044】~【0048】、表1には、実施例1及び2として、本件発明3の発明特定事項を充足する地盤注入用固結材の製造方法の具体例が記載されており、珪酸ナトリウム、水酸化マグネシウム、水、硫酸として、どこから入手したどのようなグレードのものを、どのような含有量、どのような手順で配合させるか等について具体的に記載されており、特に、和光純薬工業株式会社(当審注:現在は、富士フイルム和光純薬株式会社)から、実質的に針状結晶を含まない水酸化マグネシウムを入手できることも記載されている。
そうすると、当業者であれば、実施例の記載を参考に、本件発明3の「A液を調整する原料としての水酸化マグネシウムは実質的に針状結晶を含有しない」ものを用いることをはじめ、本件発明3の発明特定事項を充足する地盤注入用固結材の製造方法を実際に使用することができるというべきである。
(3)申立人の主張について
申立人は、特許異議申立書の第40~41頁において、「本件明細書の【実施例】における「水酸化マグネシウム」は市販品をそのまま使用したものでありながら実質的に針状結晶は含まれていない一方、本件特許権者は「一般的に入手可能な水酸化マグネシウムには通常、一定量の針状結晶が含まれている」とも述べており矛盾する・・・「通常、一定量の針状結晶が含まれている一般的に入手可能な水酸化マグネシウム」からどのように針状結晶を除去して「実質的に針状結晶を有さない水酸化マグネシウム」を得るのかという点については何ら記載もされていないから、本件明細書は、当業者が「H 前記A液を調整する原料としての水酸化マグネシウムは実質的に針状結晶を有しない」地盤注入用固結材の製造方法を実施することができるように記載されたものとはいえない。」と主張する。
しかしながら、本件特許権者が述べている一定量の針状結晶が含まれている一般的に入手可能な水酸化マグネシウムとは、「工業輸入品番号:60RG」であり、本件明細書において、「実質的に針状結晶を有さない水酸化マグネシウム」として記載されているのは、和光純薬株式会社製のものであり、両者が同一のものであるということはできず、矛盾はない。
また、和光純薬株式会社から、「実質的に針状結晶を有さない水酸化マグネシウム」を入手できるのであるから、本件明細書は、地盤注入用固結材の製造方法を実施することができるように記載されたものといえる。
よって、上記申立人の主張は採用できない。
4 小括
したがって、本件特許の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1~6について、実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるから、本件特許の請求項1~6に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものではない。
第7 申立理由3(明確性要件違反)についての当審の判断
1 判断手法
特許を受けようとする発明が明確であるか否かは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願当時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。
2 本件への当てはめ
本件発明3は、「A液を調製する原料としての水酸化マグネシウムは実質的に針状結晶を含有しない」ものである。
ここで、「針状結晶」とは、一般に「針状」の形状を有する結晶と解されるところ、「針状」の形状と、そうでないものとは当業者であれば、容易に区別できると解されるから、本件発明3が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえない。
また、本件発明3を引用する本件発明4~6についても同様である。
3 申立人の主張について
申立人は、特許異議申立書の第42頁において、本件明細書には、「水酸化マグネシウムの「針状結晶」および「球状結晶」の具田的な説明についての説明はない。・・・六方晶系の結晶を形成する水酸化マグネシウムが「実質的に針状結晶を含有しない」とは、具体的にどのような形状、例えばどの程度のアスペクト比を有する結晶を含有し、どのような形状の結晶を含有しないことを意味するのか、本件明細書の記載からは明らかでない。」と主張する。
しかしながら、本件発明3は、水酸化マグネシウムの結晶の針状の程度について言及したものではないから、結晶が、針状か、そうでないかが区別できれば、本件発明3は明確であるといえるところ、上記2でも述べたように、「針状」の形状と、そうでないものとは当業者であれば、容易に区別できると解される。
よって、上記申立人の主張は採用できない。
4 小括
以上で検討したとおり、本件発明3~6は、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえないから、本件特許に係る出願は、本件発明3~6についての特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないものとはいえない。
第8 むすび
以上のとおりであるから、申立人による特許異議申立書の理由及び証拠によっては、本件特許の請求項1~6に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1~6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2024-700307