特許異議申立
2019-700548
金属ガスケット
- 審判番号
- 2019-700548
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2017-031389
- 登録番号
- 特許第6453369号(P6453369)
- 請求日
- 2019年07月12日
- 審決日
- 2020年03月04日
- 公報発行日
- 2020年06月26日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】日本リークレス工業株式会社
- 【権利者代理人】杉村 憲司
- 【異議申立人】三田 翔
- 審判長/審判官
- 審判長 渋谷 善弘
- 審判官 金澤 俊郎
- 審判官 齊藤 公志郎
- 分類
- P1651.121-YAA(F02F) / P1651.537-YAA(F02F) / P1651.536-YAA(F02F) / P1651.55 -YAA(F02F)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法17条の2第3項特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号、特許法第17条の2第3項、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第6453369号発明「金属ガスケット」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第6453369号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-3〕について訂正することを認める。
特許第6453369号の請求項1に係る特許を維持する。
特許第6453369号の請求項2及び3に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
特許第6453369号の請求項1ないし3に係る特許についての出願は、平成30年12月21日にその特許権の設定登録がされ、平成31年1月16日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許について令和元年7月12日に特許異議申立人三田翔(以下、「異議申立人」という。)より請求項1ないし3に対して特許異議の申立てがされ、当審は、令和元年9月26日付け(同年10月2日発送)で取消理由を通知した。それに対し、特許権者により、令和元年11月25日に意見書の提出及び訂正請求がされた。当審は、異議申立人に対し、令和元年11月28日付け(同年12月4日発送)で、訂正請求があった旨の通知をし、令和元年12月24日に異議申立人から意見書が提出されたものである。
第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
本件訂正の請求による訂正の内容は、次のとおりである(なお、下線を付した箇所は訂正箇所である。)。
(1)訂正事項1
特許権者は、特許請求の範囲の請求項1を、以下の事項により特定されるとおりに訂正することを請求する。(なお、下線部は訂正箇所を示す。以下同様。)
「【請求項1】
外表面にシール材がコーティングされるとともにシリンダボア孔シール用のフルビードと液体孔シール用のハーフビードとを備える少なくとも1枚の金属基板を有し、シリンダヘッドとシリンダブロックとの間に装着される金属ガスケットであって、
前記ハーフビードは、
前記金属基板の平坦な基板本体に第1湾曲部を介して連なり該基板本体に対して傾斜する傾斜板部と、
前記傾斜板部に第2湾曲部を介して連なり、該傾斜板部に対して傾斜する縁板部とを有し、
前記第1湾曲部の凸側表面における半径及び前記第2湾曲部の凹側表面における半径が、2.0mm~3.5mmの範囲内で互いに同値であり、
前記ハーフビードの高さが、0.35mm~0.85mmの範囲内であり、
前記ハーフビードの幅が、1.2mm~1.8mmの範囲内であることを特徴とする金属ガスケット。」
(2)訂正事項2
特許権者は、明細書の段落【0011】に、
「本発明の金属ガスケットは、外表面にシール材がコーティングされるとともにシリンダボア孔シール用のフルビードと液体孔シール用のハーフビードとを備える少なくとも1枚の金属基板を有し、シリンダヘッドとシリンダブロックとの間に装着される金属ガスケットであって、前記ハーフビードは、前記金属基板の平坦な基板本体に第1湾曲部を介して連なり該基板本体に対して傾斜する傾斜板部と、前記傾斜板部に第2湾曲部を介して連なり、該傾斜板部に対して傾斜する縁板部とを有し、前記第1湾曲部の凸側表面における半径及び前記第2湾曲部の凹側表面における半径が、2.0mm~3.5mmの範囲内で互いに同値であることを特徴とする。」
と記載されているのを、
「本発明の金属ガスケットは、外表面にシール材がコーティングされるとともにシリンダボア孔シール用のフルビードと液体孔シール用のハーフビードとを備える少なくとも1枚の金属基板を有し、シリンダヘッドとシリンダブロックとの間に装着される金属ガスケットであって、前記ハーフビードは、前記金属基板の平坦な基板本体に第1湾曲部を介して連なり該基板本体に対して傾斜する傾斜板部と、前記傾斜板部に第2湾曲部を介して連なり、該傾斜板部に対して傾斜する縁板部とを有し、前記第1湾曲部の凸側表面における半径及び前記第2湾曲部の凹側表面における半径が、2.0mm~3.5mmの範囲内で互いに同値であり、前記ハーフビードの高さが、0.35mm~0.85mmの範囲内であり、前記ハーフビードの幅が、1.2mm~1.8mmの範囲内であることを特徴とする。」
と訂正することを請求する。
(3)訂正事項3
特許権者は、特許請求の範囲の請求項2を削除する訂正を請求する。
(4)訂正事項4
特許権者は、明細書の段落【0012】に、
「本発明の金属ガスケットは、上記構成において、前記ハーフビードの高さが、0.35mm~0.85mmの範囲内であるのが好ましい。」と記載されているのを、削除する訂正を請求する。
(5)訂正事項5
特許権者は、特許請求の範囲の請求項3を削除する訂正を請求する。
(6)訂正事項6
特許権者は、明細書の段落【0013】に、
「本発明の金属ガスケットは、上記構成において、前記ハーフビードの幅が、1.2mm~1.8mmの範囲内であるのが好ましい。」と記載されているのを、削除する訂正を請求する。
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、一群の請求項及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項1の、請求項1に係る訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とし、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
訂正事項2の、明細書の段落【0011】に係る訂正は、明瞭でない記載の釈明を目的とし、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
訂正事項3の、請求項2に係る訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とし、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
訂正事項4の、明細書の段落【0012】に係る訂正は、明瞭でない記載の釈明を目的とし、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
訂正事項5の、請求項3に係る訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とし、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
訂正事項6の、明細書の段落【0013】に係る訂正は、明瞭でない記載の釈明を目的とし、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
また、訂正前の請求項1ないし3は、請求項2及び3が、訂正の請求の対象である請求項1の記載を引用する関係にあるから、訂正前において一群の請求項ごとにされたものである。
3 小括
本件訂正の請求による訂正事項1ないし6は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び同条第9項で準用する同法第126条第4項から第7項までの規定に適合する。
よって、訂正後の請求項〔1-3〕及び明細書について訂正を認める。
第3 訂正後の本件発明
本件訂正の請求により訂正された訂正請求項1に係る発明(以下、「本件発明1」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
(1)本件発明1
「【請求項1】
外表面にシール材がコーティングされるとともにシリンダボア孔シール用のフルビードと液体孔シール用のハーフビードとを備える少なくとも1枚の金属基板を有し、シリンダヘッドとシリンダブロックとの間に装着される金属ガスケットであって、
前記ハーフビードは、
前記金属基板の平坦な基板本体に第1湾曲部を介して連なり該基板本体に対して傾斜する傾斜板部と、
前記傾斜板部に第2湾曲部を介して連なり、該傾斜板部に対して傾斜する縁板部とを有し、
前記第1湾曲部の凸側表面における半径及び前記第2湾曲部の凹側表面における半径が、2.0mm~3.5mmの範囲内で互いに同値であり、
前記ハーフビードの高さが、0.35mm~0.85mmの範囲内であり、
前記ハーフビードの幅が、1.2mm~1.8mmの範囲内であることを特徴とする金属ガスケット。」
第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
本件訂正前の請求項1ないし3に係る発明に対して令和元年9月26日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。
(1)請求項1に係る発明は、特開2005-315419号公報(甲第1号証)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、請求項1に係る特許は、取り消されるべきものである。
(2)請求項1に係る発明は、特開2005-315419号公報(甲第1号証)に記載された発明及び特開平4-95668号公報(甲第2号証)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、請求項1に係る特許は、取り消されるべきものである。
(3)請求項2に係る発明は、特開2005-315419号公報(甲第1号証)に記載された発明及び周知の事項1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、請求項2に係る特許は、取り消されるべきものである。
(4)請求項2に係る発明は、特開2005-315419号公報(甲第1号証)に記載された発明、特開平4-95668号公報(甲第2号証)に記載された発明及び周知の事項1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、請求項2に係る特許は、取り消されるべきものである。
(5)請求項3に係る発明は、特開2005-315419号公報(甲第1号証)に記載された発明、周知の事項1及び周知の事項2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、請求項3に係る特許は、取り消されるべきものである。
(6)請求項3に係る発明は、特開2005-315419号公報(甲第1号証)に記載された発明、特開平4-95668号公報(甲第2号証)に記載された発明、周知の事項1及び周知の事項2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、請求項3に係る特許は、取り消されるべきものである。
(7)請求項1ないし3に係る特許は、その特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。
(8)請求項1ないし3に係る特許は、その発明の詳細な説明が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。
(9)請求項1及び2に係る特許は、その特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。
2 甲各号証に記載された発明及び技術
(1)甲第1号証
取消理由において引用した甲第1号証(特開2005-315419号公報)には、「金属ガスケット」に関して、図面(図1及び図2)とともに次の事項が記載されている。(下線は当審で付した。以下同様。)
ア 「【0001】
本発明は、内燃機関のシリンダブロックとシリンダヘッドとの間に介装される金属ガスケットの改良に関する。」
イ 「【0008】
即ち、本発明は、上記目的を達成するために、シリンダヘッドとシリンダブロックとの間に介在されて両面間をシールする金属ガスケットであって、複数のシリンダ用開口を有する金属薄板と、前記シリンダ用開口に対応して設けられたシリンダ用開口及び各種配管用の開口と、前記各開口の周縁部に曲率半径0.5mm以上の湾曲部を起点として屈曲させてなるビードとを備える弾性金属基板とからなり、前記金属薄板のシリンダ用開口の周縁を、一対の前記弾性金属基板のシリンダ用開口周縁のピードで挟み込むように積層して構成されることを特徴とする金属ガスケットを提供する。」
ウ 「【0011】
本発明の金属ガスケットは、複数のシリンダ用開口を有する金属薄板を、前記シリンダ用開口に対応して設けられたシリンダ用開口及び各種配管用の開口と、これら各開口の周縁部に形成されたビードとを備える一対の弾性金属基板で構成され、金属薄板のシリンダ用開口の周縁を、一対の前記弾性金属基板のシリンダ用開口周縁のピードで挟み込むように積層して構成されるもので、具体的には、図2に示した金属ガスケットを例示することができる。
【0012】
但し、本発明では、図1に図2のXX断面に基づく断面図にて示すように、弾性金属基板A1、A2のビード2,3の屈曲部Cを、曲率半径(R)が0.5mm以上の湾曲部を起点とするように形成したことを特徴とする。シリンダヘッドやシリンダブロック10の表面には、鋳巣が形成されることが多く、中にはφ1.5mmを越える大きな鋳巣が存在する。上記のように、従来の金属ガスケットではビード2,3の屈曲部Cの角部と鋳巣との隙間によりシール性が低下するが、本発明の金属ガスケットでは、装着時に、ビード2,3の湾曲部Cの湾曲状の起点が鋳巣を覆うように弾性変形してシールを確保する。一般的な弾性金属基板A1,A2は、板厚0.2~0.3mmのステンレス鋼板製であり、弾性変形によりφ1.5mmを越えるような鋳巣を確実に覆うためには、湾曲状の起点の曲率半径(R)が0.5mm以上、好ましくは1.5mm以上にする必要がある。このような屈曲部Cを形成するには、Rを付与しながら曲げ加工を行うことにより容易に実施できる。
【0013】
本発明においては、金属ガスケットのその他の部位には制限がなく、従来と同様にすることができる。尚、図1において、符号Bは金属薄板であり、厚さ0.05~0.15mmのステンレス鋼板とすることが好ましい。
【0014】
また、金属ガスケットの弾性金属基板A1.A2はビードの湾曲部Cが形成された基板の表面に、未発泡ゴム層や発泡ゴム層を形成してもよい。発泡ゴム層は従来より金属ガスケットに使用されている発泡ゴムを使用することも可能であるが、特に以下に記載する発泡ゴム層(ムーニー値10~70のポリマーを20~70質量%の割合で含有する発泡ゴム層)を使用すると、高温・高圧下でのヘタリが無く、鋳巣や面の粗いシリンダブロックやシリンダヘッドに対し良好にシールすることができる。」
エ 「【0019】
上記のゴムコンパウンドは、有機溶剤に溶解させて塗布液とされ、弾性金属基板A2に塗布される。有機溶剤は上記のゴムコンパウンドを溶解できるものであれば制限されるものではないが、トルエン等の芳香族炭化水素系溶剤(ケトン系も可)10~90質量%に対し、エステル系溶剤を10~90質量%の割合で混合したものを例示できる。そして、この有機溶剤に上記のゴムコンパウンドを固形分濃度10~60質量%となるように溶解する。」
オ 「【0024】
板厚0.2mmのステンレス鋼板を用い、図1に示すような、φ51.5mmのシリンダ用開口を有し、その周縁に曲率半径0.5mm、1.0mm、2.0mmの屈曲部Cを形成して円環状のビードを有する弾性金属板を作製した。そして、φ2.5mmで深さ2.5mmの鋳巣を有し、中央に気体流通用のノズルを貫通させたSS50C製のフランジを別途用意し、鋳巣の直上にビードの屈曲部Cが位置するように弾性金属基板を配置し、ビード線圧10N/mmの条件で締め込み、試験体とした。
【0025】
上記試験体に、フランジのノズルから空気(200KPa)を送り込み、漏れ量を測定したところ、曲率半径0.5mmの試験体の漏洩量と比較して曲率半径1.0mmの試験体では1/3の漏洩量に、曲率半径2.0mmの試験体では1/5の漏洩量に格段に減少していた。」
上記アないしオ並びに図1及び図2の図示内容を総合すると、甲第1号証には、「金属ガスケット」に関して、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。
〔甲1発明〕
「表面に発泡ゴム層が形成されるとともにシリンダ用開口シール用のフルビード2と各種配管用開口シール用のハーフビード3とを備える少なくとも1枚の弾性金属基板A1、A2を有し、シリンダヘッドとシリンダブロック10との間に装着される金属ガスケットであって、
前記ハーフビード3は、
前記弾性金属基板A2の平坦部に一方の屈曲部(湾曲部)Cを介して連なり該平坦部に対して傾斜する傾斜部と、
前記傾斜部に他方の屈曲部(湾曲部)Cを介して連なり、該傾斜部に対して傾斜する開口8周縁部とを有し、
前記屈曲部(湾曲部)Cの起点の曲率半径を2.0mmとした金属ガスケット。」
(2)甲第2号証
甲第2号証には、「マニホルド用金属ガスケット」に関して、図面(図1ないし図6)とともに次の事項が記載されている。
ア 「2.特許請求の範囲
(1)排気マニホルドの取付フランジ端面と排気吐出口を開口したシリンダヘッド側面との間に挟持され、平板又はビード部を有するビード板の少なくとも2枚以上を非止着状態で積層した金属製薄板から成るマニホルド用金属ガスケットにおいて、前記ビード板の板厚をに対するビード部の曲げアールRの比R/tを7~15に設定したことを特徴とするマニホルド用金属ガスケット。
(2)前記ビード板の板厚の範囲を0.2~0.35mmとしたことを特徴とする請求項1に記載のマニホルド用金属ガスケット。」(1ページ左下欄4行ないし15行)
イ 「〔産業上の利用分野〕
この発明は、排気マニホルドの取付フランジ端面と排気吐出口を開口したシリンダヘッド側面との間に挟持状態に締付けられるマニホルド用金属ガスケットに関する。」(1ページ左下欄17行ないし右下欄1行)
ウ 「〔課題を解決するための手段〕
この発明は、上記の目的を達成するために、次のように構成されている。即ち、この発明は、排気マニホルドの取付フランジ端面と排気吐出口を開口したシリンダヘッド側面との間に挟持され、平板又はビード部を有するビード板の少なくとも2枚以上を非止着状態で積層した金属製薄板から成るマニホルド用金属ガスケットにおいて、前記ビード板の板厚をに対するビード部の曲げアールRの比R/tを7~15に設定したことを特徴とするマニホルド用金属ガスケットに関する。
また、このマニホルド用金属ガスケットにおいて、前記ビード板の板厚の範囲を0.2~0.35mm設定したものである。」(2ページ右下欄下から2行ないし3ページ左上欄12行)
エ 「この実施例の排気マニホルド用金属ガスケットlは、排気吐出口を開口した多気筒エンジンのシリンダへッドの側面と、前記排気吐出口の数と同数の分岐管を有する排気マニホルドの取付はフランジ端面(いずれも図示せず)との間に挟持して締付は固定されるものであり、図示のように三つ排気吐出口の周りにおいてシリンダヘッドの側面と排気マニホルドの端面との当接面の気密性を保持して排気ガスを漏洩しないようにシールするものである。金属ガスケット1は、両外側のビード板2,3とその間に挟まれた内側の金属薄板即ち中板4とから構成されている。両外側のビード板2,3と中板4とは、多気筒エンジンのシリンダヘッドに形成された排気吐出口と同数の気体流通孔5,6及び7を有している。両外側のビード板2.3はその締付は前の自由状態では、気体流通孔5,6及び7の周囲において、その一部が第2図に図示されているように、気体流通孔に向かうにしたがって中板4から次第に離れていくテーパ8,9と、テーパ部8,9に続いて中板4と平行なビート部10,11とを有する。中板から離れていく部分、即ちビード板2,3の主たる平坦部分からテーパ部8,9に移行する部分及びテーパ部8,9から中板4と平行など一ド部10,11に移行する部分とは、アールRによる曲げ加工により形成されている。ビード部10,11は、排気マニホルドの取付けフランジにおける大きな熱変形等の変形を吸収するためにばね機能を有する状態即ち弾性変形可能に形成されている。
このマニホルド用金属ガスケットについて、ビード板2,3を上記のように構成し、且つ配置することによって、シリンダヘッドの端面と排気マニホルドの端面とから成る当接面の気密性を保持し、極めて良好なシール機能を果たすことができる。
中板4は、厚さ0.3~0.7mm、好ましくは0.5mmの溶融Alメッキ鋼板(SAIC,SACC)から製作されている。また、両側の金属薄板であるビード板2,3の板厚tは、0.2~0.35mm(この例では0.25mm)のステンレススチール調質板(SUS 301H等)から製作されている。気体流通孔5~7の直径は40mmである。また、ビード板2,3のテーバ部8,9の幅(気体流通孔の半径方向で見た幅)は2.5mmであり、ビード部10,11の幅(方向は同上)は2.75mmである。更に、ビード部10,11の中板4からの高さは、0.75mmであり、即ち、金属ガスケット1の自由状態での高さは、ビード板2,3の板厚tを加えて1mmに形成されている。
ビード板2,3の主たる平坦部分からテーバ部8,9に移行する屈曲部12,13と、テーバ部8,9からビード部10,11に移行する屈曲部14,15は、いずれも0.5mm以上の曲げアールRとされている。」(3ページ左下欄8行ないし4ページ右上欄1行)
オ 「製造面からすると、曲げアールRをを余りに大きくとると、テーパ部の直線部分が短くなり過ぎるため、取り得る曲げ半径の最大値は、3.5mmであることが経験的に分かってくる。」(5ページ左下欄16行ないし19行)
カ 「この発明によるマニホルド用金属ガスケットは、以上のように構成されており、次のような効果を有する。即ち、このマニホルド用金属ガスケットは、排気マニホルドの取付フランジ端面と排気吐出口を開口したシリンダヘッド側面との間に挟持され、平板又はビード部を存するビード板の少なくとも2枚以上を非止着状態で積層した金属製薄板からなり、前記ビード板の板厚をに対するビード部の曲げアールRの比R/tを7~15としたので、従来の金属ガスケットのビード部が温度の幅の大きい熱変化に晒されるシリンダヘッドと排気マニホルドの影響を受けてヘタリや亀裂を生じ易く、シール性能が劣化する傾向にあるのに反して、応力は基準値よりも低くすることができると共に、面圧を基準値からの増加を所定の範囲内に抑えることができ、シール線を形成するビード部の応力及び面圧を適性な範囲に収められるので、温度の幅の大きい熱変化によるシール性能の劣化を防止することができる。」(5ページ右下欄13行ないし6ページ左上欄11行)
上記アないしカ並びに図1及び図2の図示内容を総合すると、甲第2号証には、「マニホルド用金属ガスケット」に関して、次の発明(以下、「甲2発明1」、「甲2発明2」及び「甲2発明3」という。)が記載されている。
〔甲2発明1〕
「金属ガスケット1のビード板2、3の主たる平坦部分からテーパ部8、9に移行する屈曲部12、13とテーパ部8、9からビード部10、11に移行する屈曲部14、15は、いずれも0.5mm以上の曲げアールRとされており、製造面から取りうる曲げ半径の最大値は、3.5mmであること。」(以下「甲2発明1」という。)
〔甲2発明2〕
「金属ガスケット1のビード板2、3の板厚tは0.2~0.35mmであり、板厚tに対する曲げアールRの比R/tは7~15に設定したこと。」(以下「甲2発明2」という。)
甲2発明1から、屈曲部の曲げアールRの大きさが0.5mm以上3.5mm以下であることが分かり、甲2発明2から、屈曲部の曲げアールRの大きさが1.4mm以上(板厚t=0.2、R/t=7のとき)、5.25mm以下(板厚t=0.35、R/t=15のとき)であることが分かる。
そうすると、甲2発明1及び甲2発明2を同時に満足する屈曲部の曲げアールの大きさは、1.4mm以上(板厚t=0.2、R/t=7のとき)、3.5mm以下(製造面から取りうる曲げ半径の最大値)でなければならないことが分かる。すなわち、次の甲2発明3が導かれる。
〔甲2発明3〕
「金属ガスケット1のビード板2、3の主たる平坦部分からテーパ部8、9に移行する屈曲部12、13とテーパ部8、9からビード部10、11に移行する屈曲部14、15の曲げアールRは、1.4mm以上(板厚t=0.2、R/t=7のとき)、3.5mm以下(製造面から取りうる曲げ半径の最大値)であること。」(以下「甲2発明3」という。)
(3)甲第4号証
甲第4号証には、「平形ガスケット、特にシリンダヘッドガスケット」に関して、図面(特に、図1ないし図3参照。)とともに次の事項が記載されている。
ア 「【0001】
本発明は、内燃機関用の平形ガスケット、特にシリンダヘッドガスケットに関する。
【背景技術】
【0002】
チェーンケースのための貫通孔と、このチェーンケース孔に隣接して延びる縁領域とを有し、チェーンケース孔が、完全にまたは部分的に縁領域の外側に配置された弾性的な封止部材によって完全に取り囲まれている少なくとも1つの封止層を備える金属製のシリンダヘッドガスケットが特許文献1に開示されている。この際、縁領域は、ビードまたはハーフビードであってよい弾性的な封止部材のための支持装置を含んでいる。
【0003】
金属層に形成された複数の貫通孔を有する金属製の平形ガスケットが特許文献2によって公知である。フルビードまたはハーフビードが封止部材として貫通孔の領域に配置されている。
【0004】
今日の内燃機関では、燃焼室の、耐久性のある弾性的な封止のために、ばね鋼に型押しを施した、いわゆるフルビードが用いられたシリンダヘッドガスケットが使用されることが多い。フルビードは、隆起部が薄板の底面を起点として一方の方向に形成され、それによって、底面の反対側に対する接触線(ビード稜線)が封止線として形成されているという特徴を有している。フルビードは、ビード稜線の両側に配置された複数のいわゆるビード脚部によって底面の平面において常に支持されており、すなわち、2本の封止線が底面の平面に形成されている。フルビードのこのような基本構造は、断面においてスペースを最低限にする必要があり、比較的複雑な型押し器具によって形成しなくてはならない。
【特許文献1】独国特許出願公開第19809755号明細書
【特許文献2】特開平06-117542号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、非常に限られたスペースの状況のための平形ガスケット、特に、燃焼室封止部の領域のシリンダヘッドガスケットであって、それによって、器具のコストを削減しながら公知の機能特性を維持する必要がある平形ガスケットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的は、燃焼室側の少なくとも1つの貫通孔を備える、特に金属製の、少なくとも1つの支持部材によって構成されており、貫通孔が、貫通孔と同心に延びるストッパ部材によって取り囲まれ、また、少なくとも1つの金属製の機能層に設けられ、貫通孔と同心に延び、弾性的に作用する少なくとも1つのハーフビードであって、支持部材の材料厚さよりも厚く形成されたストッパ部材上に直接摩擦結合して載っているハーフビードによって取り囲まれている、内燃機関用の平形ガスケット、特にシリンダヘッドガスケットによって達成される。
【0007】
本発明の対象物の有利な態様が、従属請求項によって得られる。
【0008】
特に限られたスペース状況のために、ストッパ部材およびこれと作用接続させることができるハーフビードによって構成された、燃焼室封止の、フルビードに対して新規な種類の構想が本発明の対象物によって提供される。
【0009】
各燃焼室の弾性的な封止が、貫通孔の外側で閉じられた、通常同心に延びている、幅と高さを設定可能なハーフビードによって行われる。この際、寸法決めは利用ケースに依存する。0.8から2.5mmのハーフビード幅と、0.05から1.0mmの間の高さが通常であると考えられる。」
上記ア及び図1ないし図3の図示内容を総合すると、甲第4号証には、「平形ガスケット、特にシリンダヘッドガスケット」に関して、次の発明(以下、「甲4発明」という。)が記載されている。
「シリンダヘッドガスケットのハーフビードの幅を0.8~2.5mmとし、高さを0.05~1.0mmとすること。」
(4)甲第5号証
甲第5号証には、「シリンダヘッドガスケット」に関して、図面(特に、図1、図6、図9、図10、図12参照。)とともに次の事項が記載されている。
ア 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、エンジンのシリンダヘッドとシリンダブロックとの間に挟まれてこれらを気密且つ液密にシールするシリンダヘッドガスケットに関する。」
イ 「【0035】前記ボア穴ビード11~13は、高さが例として0.25mm、幅が例として2.0mmに設定され、外周ビード14などのハーフビードは、高さが例として0.35mm、幅が例として1.5mmに設定されている。このような基板2は、例としてSUS301Hなどのステンレス鋼板などの金属板2aの両面に、例として膨張黒鉛シートなどの低摩擦係数の材料からなるシール材層16が、接着層(図示せず)を介して固着されている。前記金属板2aの板厚は例として0.2mmに選ばれ、シール材層16の層厚は例として0.1mmに選ばれている。」
上記ア及びイ並びに図1、図6、図9、図10、図12の図示内容を総合すると、甲第5号証には、「シリンダヘッドガスケット」に関して、次の発明(以下、「甲5発明」という。)が記載されている。
「シリンダヘッドガスケットのハーフビードの高さを0.35mmとし、幅を1.5mmとすること。」
3 当審の判断
(1)特許法第29条第2項について
ア 甲1発明との対比・判断
本件発明1と甲1発明とを対比すると、後者の「表面」は、その技術的意義からみて、前者の「外表面」に相当し、以下同様に、「発泡ゴム層」は「シール材」に、「形成される」ことは「コーティングされる」ことに、「シリンダ用開口」は「シリンダボア孔」に、「フルビード2」は「フルビード」に、「各種配管用開口」は「液体孔」に、「ハーフビード3」は「ハーフビード」に、「弾性金属基板A1、A2」は「金属基板」に、「シリンダブロック10」は「シリンダブロック」に、「平坦部」は「平坦な基板本体」に、「一方の屈曲部(湾曲部)C」は「第1湾曲部」に、「他方の屈曲部(湾曲部)C」は「第2湾曲部」に、「傾斜部」は「傾斜板部」に、「開口8周縁部」は「縁板部」に、それぞれ相当する。
そうすると、本件発明1と甲1発明とは、以下の[一致点]で一致し、[相違点]で相違する。
[一致点]
「外表面にシール材がコーティングされるとともにシリンダボア孔シール用のフルビードと液体孔シール用のハーフビードとを備える少なくとも1枚の金属基板を有し、シリンダヘッドとシリンダブロックとの間に装着される金属ガスケットであって、
前記ハーフビードは、
前記金属基板の平坦な基板本体に第1湾曲部を介して連なり該基板本体に対して傾斜する傾斜板部と、
前記傾斜板部に第2湾曲部を介して連なり、該傾斜板部に対して傾斜する縁板部とを有する金属ガスケット。」
[相違点]
本件発明1は「前記第1湾曲部の凸側表面における半径及び前記第2湾曲部の凹側表面における半径が、2.0mm~3.5mmの範囲内で互いに同値であり、
前記ハーフビードの高さが、0.35mm~0.85mmの範囲内であり、
前記ハーフビードの幅が、1.2mm~1.8mmの範囲内である」のに対し、
甲1発明は、「前記屈曲部(湾曲部)Cの起点の曲率半径を2.0mmとした」点。
上記相違点について検討する。
上記甲2発明3は、「金属ガスケットのビード板2、3の主たる平坦部分からテーパ部8、9に移行する屈曲部12、13とテーパ部8、9からビード部10、11に移行する屈曲部14、15の曲げアールRは、1.4mm以上、3.5mm以下であること。」というものであり、「1.4mm以上、3.5mm以下」という数値範囲は、本件発明1における「2.0mm~3.5mm」という数値範囲と類似するが、上記甲2発明3は、屈曲部12、13」の凹側表面における半径(曲げアール)と、屈曲部14、15の凹側表面における半径(曲げアール)についていうものであり、本件発明のように「前記第1湾曲部の凸側表面における半径及び前記第2湾曲部の凹側表面における半径」についていうものではない。また、「互いに同値」とするものでもない。
また、上記甲4発明及び甲5発明は、ハーフビードの高さと幅に関するものである。
してみれば、本件発明1の「前記第1湾曲部の凸側表面における半径及び前記第2湾曲部の凹側表面における半径が、2.0mm~3.5mmの範囲内で互いに同値」とする技術的事項は、いずれの文献にも記載されていない。
そして、本件発明1は、この技術的事項を備えることにより、本件特許明細書の段落【0034】及び【0035】に記載されるように、ハーフビードの上側の表面を、形状測定器の片角スタイラスと呼ばれる測定子を矢印方向に走らせて測定してハーフビードの外形形状の作画線を得るという、顕著な作用効果を得られるものである。
したがって、本件発明1は、甲1発明、甲2発明3及び周知の事項に基づいて、当業者が容易に想到できたものであるとはいえない。
以上のとおりであるから、本件訂正後の請求項1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものとはいえず、同法第113条第2号に該当するものではない。
(2)特許法第36条第6項第2号について
特許権者は、令和元年11月25日に提出された意見書において、「訂正発明において、『前記第1湾曲部の凸側表面における半径及び前記第2湾曲部の凹側表面における半径が、・・・互いに同値であること』と特定しているのは、特許明細書の段落[0021]~[0024]及び図3に示されるように、形状測定器を用いてハーフビードの上側表面の外形形状を測定することにより、『第1湾曲部の凸側表面における半径』と『第2湾曲部の凹側表面における半径』の値を容易に管理することができるためです。一方、ハーフビードの裏側にあたる第2湾曲部の凸側表面における半径を測定することは一般的には困難です。訂正発明の上記構成は、湾曲部の形状を容易に測定・管理ができるという技術的意義があります。」(8ページ下から7行目ないし9ページ1行)と主張している。
そして、特許権者の上記主張は、本件明細書の段落【0034】及び【0035】の記載により裏付けられるものである。
そうすると、本件発明1において「前記第1湾曲部の凸側表面における半径及び前記第2湾曲部の凹側表面における半径が、2.0mm~3.5mmの範囲内で互いに同値」とすることの技術的意義は、上記本件明細書の記載事項及び意見書による釈明を踏まえると、形状測定器を用いてハーフビードの上側表面の外形形状を測定することにより、「第1湾曲部の凸側表面における半径」と「第2湾曲部の凹側表面における半径」の値を容易に管理することができるためであることが明らかになった。
よって、特許法第36条第6項第2号の取消理由は解消した。
(3)特許法第36条第4項第1号について
令和元年11月25日に提出された意見書において、10ページに参考図が示されるとともに、
「訂正発明の金属ガスケットを形成するために、ハーフビード金型150の上型150aの面取部のR値(Dr2)と下型150bの面取部のR値(Dr1)は、同値ではなく、金属基板の板厚(T)を考慮して設計しています。
上型150aは直接金属基板を押しますので、面取部のR値は金属基板の板厚を考慮しないR値(Dr2)となります。
一方、下型150bは金属基板を下面側から押しますので、面取部のR値はDr2から金属基板の板厚をマイナスしています。
すなわち、「第1湾曲部の凸側表面における半径(Br1)」と「第2湾曲部の凹側表面における半径(Br2)」の値を同値にするために、基本設計では、
Dr1=Dr2-T
と、面取部を設定しています。」(10ページ1行ないし11行)
という説明がされた。
そして、上記説明は、当業者であれば、本件明細書の段落【0023】、【0024】、【0034】、【0035】等の記載から導くことができるものである。
したがって、本件明細書の発明の詳細な説明は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものであるといえる。
したがって、特許法第36条第4項第1号の取消理由は解消した。
(4)特許法第36条第6項第1号について
本件訂正により、請求項1において「前記ハーフビードの高さが、0.35mm~0.85mmの範囲内であり」、「前記ハーフビードの幅が、1.2mm~1.8mmの範囲内である」という事項が限定され、請求項2及び請求項3が削除された。
したがって、特許法第36条第6項第1号の取消理由は解消した。
(5)異議申立人の意見について
ア 進歩性について
異議申立人は、令和元年12月24日の意見書において、
「訂正後の請求項1発明は、取消理由通知の旧請求項2、旧請求項3に対する理由と同じ理由により、当業者が容易に想到できたものです。」(5ページ最下行ないし6ページ1行)と主張する。
しかし、上記のように、訂正後の請求項1発明(本件発明1)は、甲1発明、甲2発明3及び周知の事項に基づいて、当業者が容易に想到できたものであるとはいえない。
イ 明確性について
異議申立人は、令和元年12月24日の意見書において、
「訂正後の請求項1発明がどのような技術的意義を有するのか、不明であり、訂正後の請求項1発明は、取消理由通知に記載の理由と同じ理由により、明確ではありません。」(7ページ1行ないし3行)と主張する。
しかし、上記のように、本件発明1において「前記第1湾曲部の凸側表面における半径及び前記第2湾曲部の凹側表面における半径が、2.0mm~3.5mmの範囲内で互いに同値」とすることの技術的意義は、形状測定器を用いてハーフビードの上側表面の外形形状を測定することにより、「第1湾曲部の凸側表面における半径」と「第2湾曲部の凹側表面における半径」の値を容易に管理することができるためであることが明らかになった。
したがって、特許法第36条第6項第2号の取消理由は解消した。
ウ 実施可能要件について
異議申立人は、令和元年12月24日の意見書において、
「取消理由通知書に記載の理由と同じ理由により、本件特許明細書には、本件発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえません。」(9ページ14行ないし16行)と主張する。
しかし、上記のように、本件明細書の段落【0023】、【0024】、【0034】、【0035】等の記載から導かれる特許権者の説明を参酌すると、本件明細書の発明の詳細な説明は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものであるといえる。
したがって、特許法第36条第4項第1号の取消理由は解消した。
エ サポート要件について
異議申立人は、令和元年12月24日の意見書において、
「訂正された請求項1発明は、本件特許の課題を解決しておらず、取消理由通知書に記載された理由と同じ理由により、本件特許明細書で充分にサポートされていないものです。」(10ページ18行ないし20行)と主張する。
しかし、上記のように、本件訂正により、請求項1に「前記ハーフビードの高さが、0.35mm~0.85mmの範囲内であり、前記ハーフビードの幅が、1.2mm~1.8mmの範囲内である」という事項が追加され、請求項2及び請求項3が削除された。
したがって、特許法第36条第6項第1号の取消理由は解消した。
なお、異議申立人は、「訂正された請求項1発明には、シール材19の表面の「微細なヒビ割れ」及び「スジ状の痕跡」がなく、且つ「シール限界値が80μm」を上回るという効果を奏しない発明が包含されています。」(10ページ16行ないし18行)とも主張する。
しかし、本件明細書にはそのような実施例は記載されておらず、また、異議申立人は、本件発明1には「シール材19の表面の「微細なヒビ割れ」及び「スジ状の痕跡」がなく、且つ「シール限界値が80μm」を上回るという効果を奏しない発明」が含まれることを何ら立証していない。
したがって、異議申立人の上記主張は採用できない。
第5 取消理由通知に採用しなかった異議申立て理由について
1 特許法第36条第6項第2号違反について
異議申立人は、特許異議申立書において、請求項1ないし3に係る発明における「同値」という記載は明確でない旨主張する。
しかしながら、本件発明における「同値」が「同じ値」を意味することは自明といえる。また、本件発明における「2.0mm~3.5mmの範囲内で互いに同値であり」という事項は、当業者が通常使用する測定器の測定精度の範囲で同値であると理解できる。
したがって、本件発明における「同値」という記載は明確でないとはいえない。
2 特許法第17条の2第3項違反について
異議申立人は、特許異議申立書において、請求項1ないし3に係る発明に「前記第1湾曲部の凸側表面における半径及び前記第2湾曲部の凹側表面における半径が、2.0mm~3.5mmの範囲内で互いに同値である」という発明特定事項が追加された平成30年11月7日の手続補正は、特許法第17条の2第3項に違反するものである旨主張する。
しかしながら、本件の願書に最初に添付された明細書には、
「【0023】
また、図3(a)に示す片斜面断面形状のハーフビード16の第1湾曲部16aの凸側表面(外角側の表面)におけるビード半径Br(当審注:本件発明1における「第1湾曲部の凸側表面における半径」に相当する。)及び第2湾曲部16cの凹側表面(内角側の表面)におけるビード半径Br(当審注:本件発明1における「第2湾曲部の凹側表面における半径」に相当する。)は、それぞれ図3(b)に示すように定義される。
【0024】
ここで、本発明の一実施の形態である金属ガスケット10においては、ハーフビード16の第1湾曲部16aの凸側表面におけるビード半径Br及び第2湾曲部16cの凹側表面におけるビード半径Brは、それぞれ2.0mm~3.5mmの範囲内に設定されている。このような構成とすることにより、第1湾曲部16a及び第2湾曲部16cの凹側表面におけるシール材19の表面に「スジ状の痕跡」を生じさせることなく、ハーフビード16による冷却水孔14や潤滑油孔15に対するシール限界値を高めて、ハーフビード16の圧縮が不完全であっても十分なシール機能を発揮させることができる。」
と記載され、「第1湾曲部16aの凸側表面(外角側の表面)におけるビード半径Br」(本件発明1における「第1湾曲部の凸側表面における半径」に相当する。)と「第2湾曲部16cの凹側表面(内角側の表面)におけるビード半径Br」(本件発明1における「第2湾曲部の凹側表面における半径」に相当する。)とが同じ文字「Br」を使って表されているから、本件発明における「前記第1湾曲部の凸側表面における半径及び前記第2湾曲部の凹側表面における半径が、2.0mm~3.5mmの範囲内で互いに同値である」という事項が記載されているといえる。
したがって、請求項1ないし3に係る発明に「前記第1湾曲部の凸側表面における半径及び前記第2湾曲部の凹側表面における半径が、2.0mm~3.5mmの範囲内で互いに同値である」という発明特定事項が追加された平成30年11月7日の手続補正は、特許法第17条の2第3項に違反するものであるとはいえない。
第6 結語
上記第4及び第5のとおりであるから、令和元年9月26日付け取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件訂正後の請求項1に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、請求項2及び3に係る特許は、上記のとおり、訂正により削除された。これにより、異議申立人による特許異議の申立てについて、請求項2及び3に係る申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2019-700548