特許異議申立
2024-700156
自動水栓および自動水栓に用いられる水栓金具
- 審判番号
- 2024-700156
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-210099
- 登録番号
- 7330074
- 請求日
- 2024年02月21日
- 審決日
- 2024年12月05日
- 公報発行日
- 2025年03月28日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】東亜電気工業株式会社
- 【権利者代理人】小川 啓輔
- 【権利者代理人】稲垣 達也
- 【異議申立人】大隅 庸平
- 審判長/審判官
- 審判長 居島 一仁
- 審判官 有家 秀郎
- 審判官 西田 秀彦
- 分類
- P1652.113-YAA(E03C) / P1652.121-YAA(E03C) / P1652.537-YAA(E03C)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条、特許法第29条、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第4項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7330074号発明「自動水栓および自動水栓に用いられる水栓金具」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7330074号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項9について訂正することを認める。
特許第7330074号の請求項1、3、4、5、6、9に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7330074号の請求項1ないし13に係る特許についての出願は、令和元年11月21日に出願され、令和5年8月10日にその特許権の設定登録がされ、同月21日に特許掲載公報が発行された。
これに対し、令和6年2月21日に、特許異議申立人 大隅 庸平(以下、「申立人」という。)より特許異議申立書(以下、「申立書」という。)が提出され、請求項1、3、4、5、6及び9に係る特許に対して、特許異議の申立てがされた。
その後の経緯は、次のとおりである。
令和6年 4月25日付け: 取消理由通知書
同年 6月 4日 : 特許権者による意見書及び訂正請求書の
提出
同年 7月25日 : 申立人による意見書の提出
同年 8月15日付け: 取消理由通知書(決定の予告)
同年10月 2日 : 特許権者による意見書及び訂正請求書の
提出
なお、令和6年6月4日にされた訂正の請求は、同年10月2日に新たな訂正の請求がされたことにより、取り下げられたものとみなす(特許法120条の5第7項)。
また、当審から令和6年10月11日付けで、申立人に対して意見書提出の期間を指定して、同月2日の訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)を行ったが、当該期間内に申立人から意見書の提出はなかった。
第2 訂正の適否
1 訂正請求の趣旨と訂正の内容
令和6年10月2日付け訂正請求書による訂正請求(以下、「本件訂正請求」といい、本件訂正請求による訂正を「本件訂正」という。)は、特許第7330074号の特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項9について訂正することを求めるものであって、その訂正の内容は以下のとおりである。(下線は訂正箇所を示す。)
・訂正事項1
特許請求の範囲の請求項9に、
「 水を加熱する加熱装置と、
第1吐水口を有し、前記加熱装置で加熱された水が通過可能に設置された水栓金具と、
前記第1吐水口から吐出する水の流量を制御する第1バルブと、
前記第1吐水口の下方を撮影するカメラと、
制御装置とを備える自動水栓であって、
前記制御装置は、前記カメラで撮影された画像に基づいて、前記第1吐水口の下方に、食材を検出した場合には、前記第1バルブおよび前記加熱装置を制御して、前記第1吐水口から、前記加熱装置で加熱しない水を吐出させることを特徴とする自動水栓。」
と記載されているのを、
「 水を加熱する加熱装置と、
第1吐水口を有し、前記加熱装置で加熱された水が通過可能に設置された水栓金具と、
前記第1吐水口から吐出する水の流量を制御する第1バルブと、
前記第1吐水口の下方を撮影するカメラと、
自動水栓を使用する人を撮影する第2カメラと、
制御装置とを備える自動水栓であって、
前記制御装置は、前記第2カメラが撮影した画像に基づいて、人体を検出し、かつ、前記カメラで撮影された画像に基づいて、前記第1吐水口の下方に、食材を検出した場合には、前記第1バルブおよび前記加熱装置を制御して、前記第1吐水口から、前記加熱装置で加熱しない水を吐出させることを特徴とする自動水栓。」
に訂正する。
2 訂正の目的の適否、特許請求の範囲の拡張・変更の存否、新規事項の有無、訂正の単位、及び独立特許要件について
(1)訂正の目的について
訂正事項1による訂正は、訂正前の請求項9に係る発明において、「自動水栓を使用する人を撮影する第2カメラ」を備えること、及び、「制御装置」が「前記第1吐水口から、前記加熱装置で加熱しない水を吐出させる」条件として、「前記第2カメラが撮影した画像に基づいて、人体を検出し」たことを追加する訂正であるから、特許法120条の5第2項ただし書1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(2)特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
上記(1)で説示したとおり、訂正事項1による訂正は、訂正前の請求項9に係る発明について限定を行うものであり、発明のカテゴリーや対象又は目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(3)新規事項の有無について
願書に添付した明細書には、次の記載がある。
「【0050】
また、連結部36には、カメラ51および物体センサ55が設けられている。
カメラ51は、第1吐水口91の下方を撮影するカメラであり、カメラ51が撮影した画像は、制御装置60に出力される。カメラ51は、横パイプ31Bよりも低い位置に設けられていることで、横パイプ31Bに邪魔されることなく、第1吐水口91の下方を撮影することが可能となっている。
物体センサ55は、第1吐水口91の下方に、人の手や、その他の物体が存在するか否かを検出する赤外線センサである。
【0051】
図1に示すように、延出部33には、第2カメラ52および温度表示部58が設けられている。
第2カメラ52は、延出部33の頂部に設けられ、透明なカバー52Aが被せられている。第2カメラ52は、自動水栓1を使用する人の動作を撮影するカメラである。
温度表示部58は、延出部33の前側(自動水栓を使用する人が立つ側であり、延出部33の、縦パイプ31Aおよび延出部33に対して第1吐水口91がある方向の側部)に、配置されている。温度表示部58は、制御装置60によって、第1吐水口91から吐出される水の温度が数字によって表示されるようになっている。このため、図2に示すように、温度表示部58には、内部にデジタル表示部58Aが配置されている。
・・・・
【0086】
まず、制御装置60は、第2カメラ52が撮影した画像に基づいて、人体が検出されたか(S10)、物体センサ55により物体が検出されたか(S11)、カメラ51により第1吐水口91の下に物体が検出されたか(S12)、を判定し、第2カメラ52により人体が検出され(S10,Yes)、物体センサ55で物体が検出され(S11,Yes)、かつ、カメラ51により第1吐水口91の下に物体が検出された(S12,Yes)と判定された場合には、ステップS13に進む。ステップS10~S12のいずれかで条件を満たさないと判定した場合には、ステップS10からの判定を繰り返す。
・・・・
【0089】
図9に示すように、温度・吐出量設定(S100)において、制御装置60は、撮影画像から、ユーザが、第1吐水口91の下で手洗い、または、物の洗浄をする(行おうとしている)かを判定する(S110)。制御装置60は、第1吐水口91の下で手洗い、または、物の洗浄をすると判定した場合には(S110,Yes)、環境温度Teが20℃より低いか否か判定する(S111)。そして、環境温度Teが20℃より低いと判定された場合には(S111,Yes)、設定温度Tsを40℃とし(S112)、温度・吐出量設定の処理を終了する。一方、制御装置60は、環境温度Teが20℃より低くないと判定した場合には(S111,No)、Tsを変更しないで、温度・吐出量設定の処理を終了する。なお、設定温度Tsは、初期値を0℃とし、Tsが0℃の場合には、加熱装置20による加熱をしないものとする。また、制御装置60は、所定の基準より綺麗な物体が検出された場合には、ステップS110において、条件を満たさないと判定する。
・・・・
【0094】
制御装置60は、ステップS140で急須が検出されない(No)と判定した場合、撮影画像から、食材が検出されたかを判定する(S150)。制御装置60は、食材が検出されたと判定した場合には(S150,Yes)、Tsを0℃(加熱しない)に設定し(S151)、温度・吐出量設定の処理を終了する。」
上記段落【0050】及び【0051】の記載より、「第1吐水口91の下方を撮影する」「カメラ51」のほかに、「自動水栓1を使用する人の動作を撮影する」「第2カメラ52」を備えることが、示されている。
上記段落【0086】、【0089】及び【0094】より、「制御装置60」が、「第2カメラ52により人体が検出され(S10,Yes)、・・・・、かつ、カメラ51により第1吐水口91の下に物体が検出された(S12,Yes)と判定された場合」に、「食材が検出されたと判定した場合には(S150,Yes)、Tsを0℃(加熱しない)に設定し(S151)」、「Tsが0℃の場合には、加熱装置20による加熱をしないものとする」ことが、示されている。
したがって、訂正事項1による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「願書に添付した明細書等」という。)に記載されたすべての事項に対して、新たな技術的事項を追加するものではない。
よって、訂正事項1による訂正は、願書に添付した明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。
(4)独立特許要件について
本件においては、訂正前の請求項9について、特許異議の申立てがされているので、訂正事項1において、請求項9について特許請求の範囲の減縮が行われていても、訂正の適否の要件として、訂正後の請求項9に係る発明について、特許法120条の5第9項で読み替えて準用する同法126条7項の独立特許要件は課されない。
(5)訂正の単位について
本件訂正前の請求項9に関し、請求項9は他の請求項を引用せず、また請求項9を引用する他の請求項もないから、本件訂正前の請求項9は、他の請求項と、特許法120条の5第4項に規定する一群の請求項を形成するものではない。
したがって、訂正事項1により、本件訂正前の請求項9に係る発明についてする本件訂正は、請求項ごとに訂正を行うものである。
(6)申立人の意見における主張について
申立人は、本件訂正に対する意見書を提出しておらず、本件訂正の適否に関して特段の主張をしていない。
3 小括
以上のとおり、本件訂正は、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる事項を目的とするものであって、かつ、同条9項で準用する同法126条5項及び6項の規定に適合するので、訂正後の請求項9について、本件訂正を認める。
第3 本件発明
上記第2のとおり、本件訂正請求による訂正は認められたので、本件特許の請求項1、3、4、5、6及び9に係る発明(以下、各々を「本件発明1」等という。)は、令和6年10月2日付け訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の、請求項1、3、4、5、6及び9に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
【請求項1】
水を加熱する加熱装置と、
第1吐水口を有し、前記加熱装置で加熱された水が通過可能に設置された水栓金具と、
前記第1吐水口から吐出する水の流量を制御する第1バルブと、
前記第1吐水口の下方を撮影するカメラと、
環境温度を推定または測定する環境温度取得部と、
制御装置とを備える自動水栓であって、
前記制御装置は、前記カメラで撮影された画像に基づいて、前記第1吐水口の下方で手を洗うと認識した場合、または、物を洗うと認識した場合、前記第1バルブおよび前記加熱装置を制御し、前記環境温度取得部が取得した前記環境温度が低いほど、前記第1吐水口から吐出する水の温度を高くすることすることを特徴とする自動水栓。
【請求項3】
水を加熱する加熱装置と、
第1吐水口を有し、前記加熱装置で加熱された水が通過可能に設置された水栓金具と、
前記第1吐水口から吐出する水の流量を制御する第1バルブと、
前記第1吐水口の下方を撮影するカメラと、
制御装置とを備える自動水栓であって、
前記制御装置は、前記カメラで撮影された画像に基づいて、前記第1吐水口の下方に鍋を検出した場合、前記第1バルブおよび前記加熱装置を制御して、前記鍋が所定の基準より綺麗であれば、前記第1吐水口から80℃以上の水を吐出し、前記鍋が所定の基準より綺麗でなければ、前記第1吐水口から50℃以下の水を吐出することを特徴とする自動水栓。
【請求項4】
水を加熱する加熱装置と、
第1吐水口を有し、前記加熱装置で加熱された水が通過可能に設置された水栓金具と、
前記第1吐水口から吐出する水の流量を制御する第1バルブと、
前記第1吐水口の下方を撮影するカメラと、
制御装置とを備える自動水栓であって、
前記制御装置は、前記カメラで撮影された画像に基づいて、前記第1吐水口の下方に茶葉が入った急須を検出した場合、前記第1バルブおよび前記加熱装置を制御して、90℃以上の水を吐出することを特徴とする自動水栓。
【請求項5】
水を加熱する加熱装置と、
第1吐水口を有し、前記加熱装置で加熱された水が通過可能に設置された水栓金具と、
前記第1吐水口から吐出する水の流量を制御する第1バルブと、
前記第1吐水口の下方を撮影するカメラと、
制御装置とを備える自動水栓であって、
前記制御装置は、前記カメラで撮影された画像に基づいて、前記第1吐水口の下方にカップを検出した場合、前記第1バルブおよび前記加熱装置を制御して、90℃以上の水を吐出することを特徴とする自動水栓。
【請求項6】
水を加熱する加熱装置と、
第1吐水口を有し、前記加熱装置で加熱された水が通過可能に設置された水栓金具と、
前記第1吐水口から吐出する水の流量を制御する第1バルブと、
前記第1吐水口の下方を撮影するカメラと、
制御装置とを備える自動水栓であって、
前記制御装置は、前記カメラで撮影された画像に基づいて、前記第1吐水口の下方にベビーバスを検出した場合、前記第1バルブおよび前記加熱装置を制御して、35~42℃の水を吐出することを特徴とする自動水栓。
【請求項9】
水を加熱する加熱装置と、
第1吐水口を有し、前記加熱装置で加熱された水が通過可能に設置された水栓金具と、
前記第1吐水口から吐出する水の流量を制御する第1バルブと、
前記第1吐水口の下方を撮影するカメラと、
自動水栓を使用する人を撮影する第2カメラと、
制御装置とを備える自動水栓であって、
前記制御装置は、前記第2カメラが撮影した画像に基づいて、人体を検出し、かつ、前記カメラで撮影された画像に基づいて、前記第1吐水口の下方に、食材を検出した場合には、前記第1バルブおよび前記加熱装置を制御して、前記第1吐水口から、前記加熱装置で加熱しない水を吐出させることを特徴とする自動水栓。
第4 証拠方法、特許異議申立理由の概要及び先の取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由の概要
1 証拠方法
申立人が提示する証拠は、以下のとおりである。なお、以下では甲第1号証、甲第2号証等を、それぞれ「甲1」、「甲2」等という。
(1)申立書に添付して提出された証拠
甲1: 特開平6-116996号公報
(平成6年4月26日公開)
甲2: 特開平10-155724号公報
(平成10年6月16日公開)
甲3: 特開平6-197857号公報
(平成6年7月19日公開)
(2)令和6年7月25日付け意見書に添付して提出された証拠
甲4: 特許第6198096号公報
(平成29年9月20日発行)
2 特許異議申立理由の概要
申立人が申立書において主張する申立理由の概要は、次のとおりである。
(1)請求項9に係る特許について、甲1を主たる証拠とした新規性の欠如に係る特許異議申立理由1
本件特許の請求項9に係る発明は、本件出願より前に公開された、甲1に記載された発明であり、特許法29条1項3号に該当するから、請求項9に係る特許は、同条1項の規定に違反してされたものである。
したがって、請求項9に係る特許は、同法113条2号に該当し、取り消されるべきものである。
(2)請求項9に係る特許について、甲1を主たる証拠とした進歩性の欠如に係る特許異議申立理由2
本件特許の請求項9に係る発明は、本件出願より前に公開された、甲1に記載された発明、甲2に記載された事項及び甲3に記載された事項に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項9に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものである。
したがって、請求項9に係る特許は、同法113条2号に該当し、取り消されるべきものである。
(3)請求項1、3、4、5、6及び9に係る特許について、明確性要件違反に係る特許異議申立理由3
本件特許の請求項1、3、4、5、6及び9に係る発明は、明確でないから、特許法36条6項2号に規定する要件を満たしておらず、これらの発明に係る特許は同法113条4号に該当し、取り消されるべきものである。
(4)請求項1、3、4、5、6及び9に係る特許について、サポート要件違反に係る特許異議申立理由4
本件特許の請求項1、3、4、5、6及び9に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではないから、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしておらず、これらの発明に係る特許は同法113条4号に該当し、取り消されるべきものである。
3 先の取消理由通知書に記載した取消理由(決定の予告)の概要
先の取消理由通知書(令和6年8月15日付け取消理由通知書)に記載した取消理由(決定の予告)の概要は、次のとおりである。
・請求項9に係る特許について、甲1を主たる証拠とした進歩性の欠如に係る取消理由
本件特許の請求項9に係る発明は、本件出願より前に公開された、甲1に記載された発明、及び甲2~甲4に記載された事項に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項9に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものである。
したがって、請求項9に係る特許は、同法113条2号に該当し、取り消されるべきものである。
第5 当審の判断
1 取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由(上記第4の3)、及び特許異議申立理由2(上記第4の2(2))について
(1)証拠の記載等
ア 甲1
(ア)記載及び図示
甲1には、次の記載及び図示がある(下線は、当審において付した。以下、同様。)。
a 「【0011】図1は本発明の一実施例としての流し台ユニット10の要部を示す斜視図である。流し台ユニット10には、洗浄槽12が設けられており、この洗浄槽12に湯水を吐水する吐水装置20を備える。吐水装置20は、湯及び水の供給源に接続された吐水接続具22と、この吐水接続具22の出水口側に接続され、ハンドレバー24により湯水の混合比を変更することで吐水温度を変更する湯水混合栓26と、この湯水混合栓26からの湯水を各種吐水形態で吐出するための吐水ヘッド装置30等を備えている。
【0012】吐水ヘッド装置30は、図2に示すように、湯水混合栓26の出水口端28に接続された開閉弁装置50と、吐水形態を切り換える吐水ヘッド150とを備えている。」
b 「【0018】次に、開閉弁装置50の動作について説明する。いま、電子制御回路180(図6参照)からソレノイドコイル123に電流が流されず、無励磁の状態では、プランジャ127は、スプリング力と永久磁石133による磁力とのつり合いで定まる位置に保持されている。この状態から、ソレノイドコイル123に正方向の電流を流して励磁すると、コア125、永久磁石133等を経路とする磁気閉回路が形成されて、スプリング131による付勢力に抗して、プランジャ127がコア125側へ移動して、コア125に吸着して安定保持される。このとき、プランジャ127と一体のパイロット弁体130も、上方位置にあるから、主弁90は、一次側流路81の圧力を受けて、パイロット弁体130に近接するように移動して、全開状態になる。
【0019】一方、電子制御回路180からソレノイドコイル123に逆方向へ電流を流すと、それまでの磁束が消磁され、スプリングの力によりプランジャ127が下方へ移動する。プランジャ127及びパイロット弁体130が下方へ移動して、パイロット弁体130がパイロット弁座102に着座してパイロット弁孔101を閉じる。パイロット弁孔101が閉じられると、パイロット弁孔101を通じて背圧室87から二次側流路85へ流れる湯水が減少し、一方、一次側流路81からブリード孔103を通じて背圧室87に流れる湯水により背圧室87の圧力が高くなる。この背圧室87の上昇圧力により、主弁90が主弁座65側に移動して主弁座65に着座する。これにより、主弁90が閉じられて、湯水の流通が遮断される。このように、パイロット弁機構120への開閉信号により開閉弁装置50は開閉動作を行なう。
【0020】上記吐水ヘッド150は、図2に示すように、吐水部Bと、シール部Cと、吐水部Bを駆動する各種電子機器、モータや流路等を有するヘッド本体部Dとをケース151内に収納し、該ケース151の基端部で上記弁本体61に螺着されている。なお、153はケース151に形成した吐水窓である。」
c 「【0024】吐水ヘッド150は、3種類の吐水形態で吐水する。この3種類の吐水形態は、例えば、シャワー水に気泡を混入した泡沫吐水形態(図4(a))、整流吐水形態(図4(b))、シャワー吐水形態(図4(c))である。また、上記回転吐水体200の上端側には、電子制御回路180で信号処理される距離センサ295が設けられている。距離センサ295は、図5に示すように、発光部295aと受光部295bとを備えた光センサであり、発光部295aから照射される光が洗浄槽12の底面または吐水対象物T(例えば、皿や野菜等)で反射し、該反射光を受光部295bで受光し、このときの位相差に基づいて距離を測定するものであり、洗浄槽12で反射したときに、最大値LMAX を出力し、吐水対象物Tがあるときには、判定基準(LMID 、LMIN )により判定されて、それより小さい値を出力する。」
d 「【0026】吐水ヘッド150内には、開閉弁装置50の流出口85Aから、吐水穴214a~214cのいずれか1つにまで湯水を供給するための流路が設けられており、つまり、主流路220から、上記流路191及び貫通穴192を通じて吐水流入穴212a~212cの1つに臨むことになる。」
e 「【0040】(2) 吐水形態の変更は、吐水ヘッドと吐水対象物との距離を測定することにより行っているが、これに限らず、吐水対象物の形状をパターン認識して、吐水形態を変更してもよい。例えば、流し台ユニットにおける吐水ヘッドに用いた場合には、吐水対象物として手の形状を認識して泡沫吐水形態としたり、やかん等の容器の形状を認識してストレート吐水形態に設定する等のように、吐水対象物を認識するカメラやパターン認識手段等からなる手段を設けて、吐水形態を変更する構成を採用することができる。また、投光をスキャニングして対象物の大きさを判定してもよい。」
f 「【0043】(5) 上記実施例では、吐水対象物との距離に応じて吐水形態の切換を単独で行なっているが、吐水形態の切換と同時に、吐水湯水の温度や吐水流量等を変更する制御を適宜加えてもよく、この場合には、使用性を一層向上させることができる。
【0044】
【発明の効果】以上説明したように、発明の吐水装置では、吐水形態が異なる吐水形態部を切換駆動する吐水ヘッドを備えており、この吐水ヘッドは、吐水対象物検出手段の検出結果に基づいて、吐水形態設定手段に予め記憶した吐水形態に対応した吐水形態の中から選択して、該選択された吐水形態で吐水する。したがって、吐水対象物に対して吐水する際に、吐水対象物に適した吐水形態が自動的に選択されるので、手動による吐水形態の切換操作が不要になり、優れた使用性を得ることができる。」
g 【図2】
「
[図:0001420315000001.jpg]
」
h 【図5】
「
[図:0001420315000002.jpg]
」
(イ)看取される事項
a 上記段落【0026】の記載を踏まえると、上記【図2】より、吐水ヘッド150内には、横方向に延びる主流路220が配置されている様子が、看取される。
b 上記段落【0024】の記載を踏まえると、上記【図5】より、距離センサ295は、吐水ヘッド150の下方の吐水対象物T(皿や野菜等)までの距離を測定する様子が、看取される。
(ウ)記載された発明
上記(ア)及び(イ)より、甲1には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると、認められる。
<甲1発明>
湯及び水の供給源に接続された吐水接続具22と、(段落【0011】)
この吐水接続具22の出水口側に接続され、湯水を各種吐水形態で吐出するための吐水ヘッド装置30を備えた、(段落【0011】)
吐水装置20であって、(段落【0011】)
吐水ヘッド装置30は、電子制御回路180で開閉動作がされる開閉弁装置50と、吐水ヘッド150を備え、(段落【0012】、【0018】-【0020】)
吐水ヘッド150内には、横方向に延びる主流路220が配置されており(段落【0026】、【図2】)
吐水ヘッド150は、ケース151に形成した吐水窓153と、電子制御回路180で信号処理され、吐水ヘッド150の下方の吐水対象物T(皿や野菜等)までの距離を測定する距離センサ295を備え、(段落【0020】、【0024】、【図5】)
吐出対象物Tを認識するカメラを設け、吐水湯水の温度や吐水流量を変更する制御を加え、(段落【0040】、【0043】)
吐水対象物に対して吐水する際に、吐水対象物に適した吐水形態が自動的に選択されるので、手動による切換操作が不要になり、優れた使用性を得ることができる、(段落【0044】)
吐水装置20。(段落【0011】)
イ 甲2
甲2には、次の記載がある。
(ア)「【0003】
【発明が解決しようとする課題】ところが、この従来の食器洗浄器はその用途が食器を洗うことだけに限られている。この食器洗浄器の活用範囲を食器を除いた多様な物、例えば果物や野菜などの洗いに用いられれば望ましい。しかし、食器洗浄器は洗浄過程で常に高温の洗浄水が供給され、この高温の洗浄水が果物や野菜などのような食品の栄養分や味あるいは外観の美麗さを損傷させる恐れがあるので、果物などの洗浄には利用し難い。」
(イ)「【0005】
【課題を解決するための手段】前述した目的は、洗浄対象物を収容する洗浄槽と、前記洗浄対象物に洗浄水を噴射する噴射ノズルと、前記噴射ノズルに洗浄水を供給するポンプと、前記洗浄水を加熱するヒータを備える食器洗浄器において、食器洗浄モードと果物洗浄モードを含めた複数の洗浄モードの選択のためのモード選択部と、前記モード選択部で選択された洗浄モードに当たる水温範囲を有する洗浄水を供給させるようヒータを制御する制御部とを含むことを特徴とする食器洗浄器により達成される。ここで、洗浄水の水温を感知する水温感知センサをさらに含み、前記制御部は前記水温感知センサからの信号に基づき前記ヒータを制御するのが望ましい。そして、果物果物モードが選択された場合、前記制御部は冷水のみ供給されるよう前記ヒータを動作させないこともできる。警報を表示する警報表示部をさらに含み、前記制御部は前記水温感知センサにより感知された洗浄水の水温が該当洗浄モードの水温範囲を超えた時、前記警報表示部を通してエラー警報してユーザーにこれを認識させうるようにするのが望ましい。前記洗浄槽の底部に集まった洗浄水の汚染度を感知する汚染度センサをさらに含み、前記制御部は前記汚染度センサからの感知信号に基づき汚染度が所定以下の祭洗浄動作を終了させることにより、洗浄過程を自動的に終了させることができる。また、本発明の目的は、洗浄対象物を収容する洗浄槽と、前記洗浄対象物に洗浄水を噴射する噴射ノズルと、前記噴射ノズルに洗浄水を供給するポンプと、前記洗浄水を加熱するヒータを備える食器洗浄器を用いた果物洗浄方法において、果物洗浄モード選択部を備える段階と、果物洗浄モードを選択する段階と、果物モードに当たる予め定められた温度範囲の洗浄水が供給されるよう前記ヒータを制御する段階を含むことを特徴とする食器洗浄器を用いた果物洗浄方法によっても達成される。」
ウ 甲3
甲3には、次の記載がある。
(ア)「【0001】
【産業上の利用分野】この発明は噴流水により食器類や食品等や手等を洗浄する洗浄装置に関するものである。」
(イ)「【0050】また、蓋22を開口21bに設けたことにて蓋22閉時においては乾いた食器8が置け、システムキッチン68の一部として蓋22が調理台に使え、よりシステムキッチン68が広く使え、開口21bへの物の落下が防止できる。また、ヒータよりなる加温装置28で構成される加熱手段を設けたことにて、低い温度にてはイチゴ等の野菜、高い温度では食器8・器具等の洗浄ができ、洗浄物に合った温度条件を選定することにて、洗浄物の保護と能率の良い洗浄ができる。洗浄物によって適した洗浄条件が得られる。」
エ 甲4
甲4には、次の記載及び図示がある。
(ア)「【0039】
各センサー60~64は対応する検知領域に人体の一部が存在するか否かを常時又は間欠的に検知し、この検出結果を制御部7に伝える。制御部7は吐水部3に設けられたセンサー60の検知結果に基づいて水供給管42に設けられた弁53を制御して、吐水部3による吐水の有無を切り替える。すなわち、センサー60がその検知領域600である吐水口310下側領域に入った人体の一部や皿等を検知したとき、制御部7は水供給管42に設けられた弁53を開き、給水管40及び給湯管41の両方又は一方から水供給管42に供給された水を吐水口310から吐出開始する。・・・・。
【0040】
制御部7は、センサー設置部33の左右に設けられたセンサー61、62の検知結果に基づいて給水管40に設けられた弁51及び給湯管41に設けられた弁52を制御し、これにより吐水部3の吐水量を制御する。・・・・。
【0042】
制御部7は、吐水部3のベース30の左右に設けられたセンサー63、64の検知結果に基づいて給水管40に設けられた弁51及び給湯管41に設けられた弁52を制御し、これにより吐水部3の吐水温度を制御する。・・・・。」
(イ)【図1】
「
[図:0001420315000003.jpg]
」
(ウ)【図4】
「
[図:0001420315000004.jpg]
」
(2)本件発明9の進歩性
ア 対比
本件発明9と甲1発明とを対比する。
甲1発明において、「湯」の「供給源」が、水を加熱して「湯」を生成する加熱部を有することが明らかであることを踏まえると、甲1発明が「湯」の「供給源に接続された」構成は、本件発明9が「水を加熱する加熱装置」を備えた構成に、相当する。
甲1発明において、「吐水ヘッド装置30」は、「開閉動作がされる開閉装置50」を備えて吐水を止栓した状態とし得ることが明らかであること、及び、「吐水接続具22」に接続される主要な部分は実質的に金属製と解されることを踏まえると、本件発明9において、「水栓金具」に、相当する。
甲1発明において、「吐水ヘッド装置30」が備える「吐水ヘッド150」に、「ケース151に形成した吐水窓153」が設けられている構成は、本件発明9において、「水栓金具」が「第1吐水口」を有する構成に、相当する。
甲1発明において、「吐水ヘッド装置30」が、「この吐水接続具22の出水口側に接続され、湯水を各種吐水形態で吐出するための」ものである構成は、「湯」の「供給源」から「吐水接続具22の出水口側」へと至った「湯水」が「吐水ヘッド装置30」を通過可能であることが明らかであることを踏まえると、本件発明9において、「水栓金具」が「前記加熱装置で加熱された水が通過可能に設置された」ものである構成に、相当する。
甲1発明において、「電子制御回路180で開閉動作がされる開閉弁装置50」は、「吐水ヘッド150」の「吐水窓153」からの「湯水」の「吐出」の有無を切り替え可能であることが明らかであること、及び、「吐水流量を変更する制御を加えた」場合には「吐水流量を変更」可能となることが明らかであることを踏まえると、本件発明9において、「前記第1吐水口から吐出する水の流量を制御する第1バルブ」に、相当する。
甲1発明において、「吐出対象物Tを認識するカメラ」は、「距離センサ295」と同様に「吐水ヘッド150の下方の吐水対象物T」を認識対象とすることが明らかであることを踏まえると、本件発明9において、「前記第1吐水口の下方を撮影するカメラ」に、相当する。
甲1発明において、「電子制御回路180」は、本件発明9において、「制御装置」に、相当する。
甲1発明において、「吐水装置20」が、「電子制御回路180で開閉動作がされる開閉弁装置50」を備えており、吐水の有無を自動で切り替え可能であることが明らかである構成は、本件発明9において、発明の対象が「制御装置」を備えた「自動水栓」である構成に、相当する。
甲1発明において、「吐出対象物Tを認識するカメラを設け、吐水湯水の温度や吐水流量を変更する制御を」行う構成は、「カメラ」で撮像した画像に基づいて「吐出対象物T」を検出及び認識し、「吐出湯水の温度」を変更するために「湯」の「供給源」における加熱の要否を制御することが明らかであること、及び、「吐水」の有無と「吐水流量」を変更するために「開閉弁装置50」を制御することが明らかであることを踏まえると、本件発明9において、「前記制御装置は、前記カメラで撮影された画像に基づいて」「前記第1バルブおよび前記加熱装置を制御」する構成に、相当する。
整理すると、本件発明9と甲1発明とは、以下の点で一致する。
「水を加熱する加熱装置と、
第1吐水口を有し、前記加熱装置で加熱された水が通過可能に設置された水栓金具と、
前記第1吐水口から吐出する水の流量を制御する第1バルブと、
前記第1吐水口の下方を撮影するカメラと、
制御装置とを備える自動水栓であって、
前記制御装置は、前記カメラで撮影された画像に基づいて、前記第1バルブおよび前記加熱装置を制御する、
自動水栓。」
そして両者は、次の相違点で、相違する。
<相違点>
本件発明9においては、「自動水栓を使用する人を撮影する第2カメラ」を備えること、及び、「前記制御装置は、前記第2カメラが撮影した画像に基づいて、人体を検出し、かつ、前記カメラで撮影された画像に基づいて、前記第1吐水口の下方に、食材を検出した場合には、前記第1バルブおよび前記加熱装置を制御して、前記第1吐水口から、前記加熱装置で加熱しない水を吐出させる」ことが、特定されているのに対し、
甲1発明においては、そのように特定されていない点。
イ 相違点についての判断
甲2及び甲3には、上記(1)イ及びウに摘記した事項が記載されている。
しかしながら、甲2及び甲3における上記の記載は、果実や野菜等の洗浄において低い温度の水を用いることが好ましいことを示すにとどまり、甲1発明において、上記相違点に係る本件発明9の構成をとることを、開示あるいは示唆するものではない。
甲4には、上記(1)エに摘記した事項が記載及び図示されている。
しかしながら、甲4における上記の記載及び図示は、水栓装置において、吐水の有無を切り替えるためのセンサー、吐水量を制御するためのセンサー、及び吐水温度を制御するためのセンサーを、それぞれ検知領域を異ならせて設けることを示すものであって、甲1発明において、上記相違点に係る本件発明9の構成をとることを、開示あるいは示唆するものではない。
そして、上記甲2~甲4に記載または図示される事項を併せて考慮しても、甲1発明において、「自動水栓を使用する人を撮影する第2カメラ」を追加し、かつ、「前記制御装置は、前記第2カメラが撮影した画像に基づいて、人体を検出し、かつ、前記カメラで撮影された画像に基づいて、前記第1吐水口の下方に、食材を検出した場合には、前記第1バルブおよび前記加熱装置を制御して、前記第1吐水口から、前記加熱装置で加熱しない水を吐出させる」という具体的な制御を行って、上記相違点に係る本件発明9の構成をとることが、示唆されていたということはできない。
したがって、甲1発明において、上記相違点に係る本件発明9の構成とすることは、たとえ甲2~甲4に記載される事項を考慮しても、当業者にとって容易に想到できたものとはいえない。
ウ 申立人の主張について
上記相違点に係る本件発明9の構成は、本件訂正により限定された構成であるところ、申立人は本件訂正請求があった旨の通知に対して意見書を提出しておらず、本件訂正に依拠した上記相違点の容易想到性について、特段の主張をしていない。
(3)小括
したがって、本件発明9は、甲1発明、及び甲2~甲4に記載される事項に基いて、当業者が容易に発明できたものではない。
よって、本件発明9に係る特許は、取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由(上記第4の3)、及び特許異議申立理由2(第4の2(2))によって、取り消されるべきものではない。
2 先の取消理由通知(決定の予告)において採用しなかった特許異議申立理由について
(1)甲1を主たる証拠とした新規性の欠如に係る特許異議申立理由1(上記第4の2(1))について
ア 甲1に記載される発明、及び本件発明9との対比
甲1には、上記1(1)ア(ウ)に認定した甲1発明が記載されており、本件発明9と甲1発明との対比は、上記1(2)アに対比したとおりである。
イ 本件発明9と甲1発明との同一性
本件発明9と甲1発明とは、上記1(2)アに示した相違点で、相違する。
そして、上記相違点は、「自動水栓を使用する人を撮影する第2カメラ」の有無、及び、「前記第2カメラが撮影した画像に基づいて、人体を検出し、かつ、前記カメラで撮影された画像に基づいて、前記第1吐水口の下方に、食材を検出した場合」の「制御装置」による制御を具体的に特定しているから、単なる形式的な相違点ということができず、実質的な相違点である。
したがって、甲1発明は、本件発明9ではない。
ウ 申立人の主張について
上記相違点に係る本件発明9の構成は、本件訂正により限定された構成であるところ、申立人は本件訂正請求があった旨の通知に対して意見書を提出しておらず、甲1発明が本件訂正がされた本件発明9であることについて、特段の主張をしていない。
エ 小括
よって、本件発明9に係る特許は、新規性欠如に係る特許異議申立理由1(第4の2(1))によって、取り消されるべきものではない。
(2)明確性要件違反に係る特許異議申立理由3(上記第4の2(3))について
ア 申立人の具体的な主張
(ア)「水の流量を制御する第1バルブ」、「吐出」及び「自動水栓」について
申立人は申立書において、本件発明1を特定する特許請求の範囲の請求項1には、「前記第1吐水口から吐出する水の流量を制御する第1バルブ」及び「前記制御装置は、・・・・前記第1バルブ・・・・を制御し・・・・吐出する・・・・自動水栓」と記載されているところ、「水の流量」として流量ゼロの状態を含むか否か、及び第1バルブの開閉操作まで含むか否かが不明瞭であるから、本件発明1は明確性要件に違反している旨を申立てている。
また申立人は、上記請求項1と同様の記載を含む請求項3、4、5、6及び9についても、同様に不明瞭であるから、本件発明3、4、5、6及び9も、明確性要件に違反している旨を申立てている。
(イ)「加熱装置で加熱しない」について
また申立人は、本件発明9を特定する特許請求の範囲の請求項9には、「前記加熱装置で加熱しない水を吐出させる」と記載されているところ、明細書の段落【0094】に記載される「Tsを0℃(加熱しない)に設定」することが請求項9において特定されていないから、「加熱装置で加熱しない」の記載が不明確である旨を申立てている。
イ 具体的主張についての当審の判断
(ア)判断基準
特許法36条6項2号の趣旨は、特許請求の範囲に記載された発明が明確でない場合に、特許が付与された発明の技術的範囲が不明確となることにより生じ得る第三者の不測の不利益を防止することにある。そこで、特許を受けようとする発明が明確であるか否かは、特許請求の範囲の記載のみならず、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願当時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。
(イ)判断基準に基づく判断
上記(ア)の判断基準に基づいて、判断する。
a 申立人が上記ア(ア)に申立てる点について
本件発明1、3、4、5、6及び9を特定する、特許請求の範囲の請求項1、3、4、5、6及び9には、「前記第1吐水口から吐出する水の流量を制御する第1バルブ」及び「前記制御装置は、・・・・前記第1バルブ・・・・を制御し・・・・吐出する・・・・自動水栓」と記載されている。
上記記載のうち、「第1バルブ」が「第1吐水口から吐出する水の流量を制御する」ことは、その記載自体が明確である。また、「制御装置」が「前記第1バルブ」を「制御」することも、その記載自体が明確である。また、「吐出」に関して特定がされた「自動水栓」であることも、その記載自体から明確である。
そして、「第1バルブ」に関する上記記載、及び、「吐出」について特定がされた「自動水栓」である記載が、それ自体明確であるから、流量がゼロの場合に関する特定や吐出の停止に関する特定が請求項において直接明記されていないからといって、本件発明1、3、4、5、6及び9を特定する特許請求の範囲の請求項1、3、4、5、6及び9の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確となるような事情はない。
したがって、本件発明1、3、4、5、6及び9を特定する特許請求の範囲の請求項1、3、4、5、6及び9の記載は、申立人が上記ア(ア)に申立てる点について、明確である。
b 申立人が上記ア(イ)に申立てる点について
本件発明9を特定する、特許請求の範囲の請求項9には、「前記加熱装置で加熱しない水を吐出させる」と記載されており、当該記載はそれ自体明確である。
なお、申立人が上記ア(イ)において言及する、本件明細書の段落【0094】における「Tsを0℃(加熱しない)に設定」の記載は、当該記載に先立つ段落【0089】に「なお、設定温度Tsは、初期値を0℃とし、Tsが0℃の場合には、加熱装置20による加熱をしないものとする。」と記載されているように、結局のところ加熱装置20による加熱をしないように設定することを意味するものであるから、請求項9における「前記加熱装置で加熱しない」という記載と不整合や矛盾を生じるものではない。
そして、上述したとおり、請求項9における「前記加熱装置で加熱しない」との記載は、その記載自体が明確であるところ、「設定温度Ts」を「0℃」とすることを併せて明記しなければ、第三者にとって不測の不利益を及ぼす程に意味・内容が不明確となるものではない。
したがって、本件発明9を特定する特許請求の範囲の請求項9の記載は、申立人が上記ア(イ)に申立てる点について、明確である。
ウ 小括
よって、本件発明1、3、4、5、6及び9を特定する特許請求の範囲の請求項1、3、4、5、6及び9の記載は、特許法36条6項2号の規定を満たしており、本件発明1、3、4、5、6及び9に係る特許は、明確性要件違反に係る特許異議申立理由3(第4の2(3))によって、取り消されるべきものではない。
(3)サポート要件違反に係る特許異議申立理由4(上記第4の2(4))について
ア 申立人の具体的な主張
(ア)「第1吐水口から吐水する水の流量を制御するバルブ」について
申立人は申立書において、本件発明1を特定する特許請求の範囲の請求項1には、「前記第1吐水口から吐出する水の流量を制御する第1バルブ」と記載されているところ、当該記載では、例えば第1バルブ以外により水の吐出や停止を行う態様など、明細書に記載されていない様々の態様を含み得るので、本件発明1はサポート要件に違反している旨を申立てている。
また申立人は、上記請求項1と同様の記載を含む請求項3、4、5、6及び9についても、同様であるから、本件発明3、4、5、6及び9も、サポート要件に違反している旨を申立てている。
(イ)「加熱装置で加熱しない水を吐出させる」について
申立人は申立書において、本件発明9を特定する特許請求の範囲の請求項9には、「加熱装置で加熱しない水を吐出させる」と記載されているところ、当該記載では、設定温度Tsに基づかない、明細書に記載されていない態様を含み得るので、本件発明9はサポート要件に違反している旨を申立てている。
イ 具体的主張についての当審の判断
(ア)判断基準
特許請求の範囲の記載が、特許法36条6項1号に規定する、いわゆるサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきである。
(イ)判断基準に基づく判断
上記(ア)の判断基準に基づいて、判断する。
a 本件明細書において解決しようとする課題
本件明細書の段落【0004】には、次の記載がある。
「【0004】
しかしながら、従来の自動水栓においては、水量を変更することができるものの、温度については調整されることはなかった。
そこで、本発明は、自動水栓において、状況に応じて温度を調整することを目的とする。」
上記段落【0004】の記載より、本件明細書において解決しようとする課題は、自動水栓において、状況に応じて温度を調整することであると認められる。
b 課題を解決できると認識されるか否か
本件発明1、3、4、5、6及び9を特定する、特許請求の範囲の請求項1、3、4、5、6及び9の記載は、上記第3に示したとおりであり、請求項1、3、4、5、6及び9の各々に、「吐出」する水の温度を制御する「自動水栓」であること、及び、どのような場合にどのように水の温度を制御するかが記載され、併せて、「第1吐水口から吐出する水の流量を制御する第1バルブ」を備えることが、記載されている。また、本件発明9を特定する、特許請求の範囲の請求項9には、「前記第1吐水口の下方に、食材を検出した場合」について、「前記加熱装置で加熱しない水を吐出させる」ことが、記載されている。
上記請求項1、3、4、5、6及び9の記載において、「吐出」する水の温度を制御する「自動水栓」であること、及び、どのような場合にどのように水の温度を制御するかが特定されていることにより、上記aに示した課題が解決されると、当業者が認識できることは、明らかである。
そして、特許請求の範囲の請求項1、3、4、5、6及び9において、自動水栓における吐出の停止について、または水の流量がゼロとなる場合について、特に請求項に明記していないからといって、本件発明1、3、4、5、6及び9が、自動水栓において状況に応じて温度を調整するという、上記aに示した課題を解決できないものとなるような事情はない。
また、特許請求の範囲の請求項9において、「加熱装置で加熱しない水を吐出させる」ことについて、加熱装置で加熱をしないようにするための設定を行う際に用いるパラメータの具体例まで、特に請求項に明記していないからといって、本件発明9が、自動水栓において状況に応じて温度を調整するという、上記aに示した課題を解決できないものとなるような事情はない。
したがって、特許請求の範囲の請求項1、3、4、5、6及び9の記載により特定される本件発明1、3、4、5、6及び9は、本件明細書に記載された発明で、当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるから、これに反する上記ア(ア)及び(イ)の申立人による申立ては、理由がない。
ウ 小括
よって、本件発明1、3、4、5、6及び9を特定する特許請求の範囲の請求項1、3、4、5、6及び9の記載は、特許法36条6項1号の規定を満たしており、本件発明1、3、4、5、6及び9に係る特許は、サポート要件違反に係る特許異議申立理由4(第4の2(4))によって、取り消されるべきものではない。
第6 結び
以上のとおり、本件発明1、3、4、5、6及び9に係る特許は、取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由、及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、取り消すことができない。
また、他に本件発明1、3、4、5、6及び9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2024-700156