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特許無効審判

2021-800097

植物の緑色を復元しあるいは緑色に保持する方法

審判番号
2021-800097
法域
特許
審判種別
無効審判(無効の審決)
出願番号
特願2002-226688
登録番号
3538190
請求日
2021年11月19日
審決日
2023年06月26日
公報発行日
2024年06月28日
結論
請求不成立
当事者
  • 【請求人】株式会社 伊藤園
  • 【請求人代理人】田中 克郎
  • 【請求人代理人】松山 智恵
  • 【請求人代理人】松本 陸
  • 【請求人代理人】溝端 俊介
  • 【請求人代理人】内藤 和彦
  • 【請求人代理人】北谷 賢次
  • 【被請求人】佐藤 東洋彦
  • 【被請求人代理人】辻本 希世士
  • 【被請求人代理人】辻本 良知
  • 【被請求人代理人】丸山 英之
  • 【被請求人代理人】豊栖 康弘
  • 【被請求人代理人】豊栖 康司
  • 【被請求人代理人】豊栖 健
審判長/審判官
  • 審判長 瀬良 聡機
  • 審判官 阪野 誠司
  • 審判官 冨永 保
分類
P1113.113-YAA(A01N) / P1113.121-YAA(A01N) / P1113.536-YAA(A01N) / P1113.537-YAA(A01N) / P1113.851-YAA(A01N) / P1113.853-YAA(A01N)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第2項、特許法第29条、特許法第134条の2第9項、特許法第29条第1項第3号、特許法第36条第4項第1号、特許法第134条の2第1項、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第6項第1号、特許法第134条の2第3項、特許法第123条第1項第4号、特許法第36条第6項、特許法第2条第3項第2号
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

上記当事者間の特許第3538190号発明「植物の緑色を復元しあるいは緑色に保持する方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。

結論

結 論 特許第3538190号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-11〕について訂正することを認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。

理由

理 由 第1 手続の経緯 1 特許第3538190号の請求項1~11に係る発明についての特許出願は、平成14年8月2日にされ、平成16年3月26日に特許権の設定登録がなされた(請求項の数11。以下、その特許を「本件特許」といい、その明細書を「本件特許明細書」という。)。 2 本件特許について、本件特許の利害関係人である、株式会社伊藤園(以下「請求人」という。)から、本件特許の特許請求の範囲の請求項1~11に係る発明の特許を無効にすることを求める旨の無効審判の請求がなされた。 以下に、本件審判の請求以後の手続の経緯を整理して示す。 令和3年11月19日付け 審判請求書、証拠説明書及び甲第1~36号証並びに甲第12、13、21及び22号証の抄訳を提出(請求人) 令和4年 3月18日付け 審判事件答弁書、証拠説明書1及び乙第1~6号証の提出(被請求人) 令和4年 4月19日付け 上申書、証拠説明書(2)及び甲第37~48号証の提出(請求人) 令和4年 5月 9日付け 審理事項通知書 令和4年 5月27日付け 上申書(2)の提出(請求人) 令和4年 5月27日付け 上申書、証拠説明書2及び乙第7~15号証の提出(被請求人) 令和4年 6月23日付け 上申書(3)、甲第49~71号証並びに甲第64号証及び甲第65号証の抄訳の提出(東京地方裁判所民事第46部C係宛証拠説明書(3)が同時に提出された。)(請求人) 令和4年 6月24日付け 口頭審理陳述要領書の提出(請求人) 令和4年 6月24日付け 口頭審理陳述要領書の提出(被請求人) 令和4年 7月 7日 口頭審理 令和4年 7月14日付け 上申書(4)、証拠説明書(3)(東京地方裁判所民事第46部C係宛証拠説明書(3)に替えて甲第49~71号証の証拠説明書として)、証拠説明書(4)及び甲第72~74号証の提出(請求人) 令和4年 7月14日付け 上申書(2)の提出(被請求人) 令和4年 7月15日付け 上申書(5)の提出(請求人) 令和4年 8月12日付け 上申書(6)、証拠説明書(3)の差替版、証拠説明書(5)及び甲第75号証の提出(請求人) 令和4年 9月30日付け 審決の予告 令和4年12月 6日付け 訂正請求書の提出(被請求人) 令和5年 3月 3日付け 弁駁書、証拠説明書(6)及び甲第76~87号証並びに甲第78~81、83及び84号証の抄訳の提出(請求人) 令和5年 5月15日付け 上申書及び証拠説明書(7)並びに甲第88及び89号証の提出(被請求人) 第2 訂正の適否 1 訂正の内容 被請求人は、令和4年12月6日に訂正請求書を提出して、本件特許の明細書及び特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~11について請求項ごとに訂正(以下「本件訂正」という。)することを求めた。 その訂正の内容は、以下のとおりである。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に「植物の緑色を復元しあるいは緑色に保持する方法」とあるのを、「植物の緑色を復元し、あるいは、植物の葉緑素に含まれるマグネシウムが失われて褐変するのを防止することにより植物の緑色を保持する方法」と訂正する。(下線は訂正箇所。以下同様。) (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項2に「植物の緑色を復元しあるいは緑色に保持する方法」とあるのを、「植物の緑色を復元し、あるいは、植物の葉緑素に含まれるマグネシウムが失われて褐変するのを防止することにより植物の緑色を保持する方法」と訂正する。 (3)訂正事項3 特許請求の範囲の請求項3に「植物の緑色を復元しあるいは緑色に保持する方法」とあるのを、「植物の緑色を復元し、あるいは、植物の葉緑素に含まれるマグネシウムが失われて褐変するのを防止することにより植物の緑色を保持する方法」と訂正する。 (4)訂正事項4 特許請求の範囲の請求項4に「植物の緑色を復元しあるいは緑色に保持する方法」とあるのを、「植物の緑色を復元し、あるいは、植物の葉緑素に含まれるマグネシウムが失われて褐変するのを防止することにより植物の緑色を保持する方法」と訂正する。 (5)訂正事項5 特許請求の範囲の請求項5に「植物の緑色を復元しあるいは緑色に保持する方法」とあるのを、「植物の緑色を復元し、あるいは、植物の葉緑素に含まれるマグネシウムが失われて褐変するのを防止することにより植物の緑色を保持する方法」と訂正する。 (6)訂正事項6 特許請求の範囲の請求項5に「植物をSe、Mo、Cr、Mnのいずれかの金属含有酵母」とあるのを、「植物をCr、Mnのいずれかの金属含有酵母」と訂正する。 (7)訂正事項7 特許請求の範囲の請求項6に「植物の緑色を復元しあるいは緑色に保存する方法」とあるのを、「植物の緑色を復元し、あるいは、植物の葉緑素に含まれるマグネシウムが失われて褐変するのを防止することにより植物の緑色を保存する方法」と訂正する。 (8)訂正事項8 特許請求の範囲の請求項7に「植物の緑色を復元しあるいは緑色に保存する方法」とあるのを、「植物の緑色を復元し、あるいは、植物の葉緑素に含まれるマグネシウムが失われて褐変するのを防止することにより植物の緑色を保存する方法」と訂正する。 (9)訂正事項9 特許請求の範囲の請求項8に「植物の緑色を復元しあるいは緑色に保存する方法」とあるのを、「植物の緑色を復元し、あるいは、植物の葉緑素に含まれるマグネシウムが失われて褐変するのを防止することにより植物の緑色を保存する方法」と訂正する。 (10)訂正事項10 特許請求の範囲の請求項9に「植物の緑色を復元しあるいは緑色に保存する方法」とあるのを、「植物の緑色を復元し、あるいは、植物の葉緑素に含まれるマグネシウムが失われて褐変するのを防止することにより植物の緑色を保存する方法」と訂正する。 (11)訂正事項11 特許請求の範囲の請求項10に「植物の緑色を復元しあるいは緑色に保存する方法」とあるのを、「植物の緑色を復元し、あるいは、植物の葉緑素に含まれるマグネシウムが失われて褐変するのを防止することにより植物の緑色を保存する方法」と訂正する。 (12)訂正事項12 特許請求の範囲の請求項11に「植物の緑色を復元しあるいは緑色に保存する方法」とあるのを、「植物の緑色を復元し、あるいは、植物の葉緑素に含まれるマグネシウムが失われて褐変するのを防止することにより植物の緑色を保存する方法」と訂正する。 (13)訂正事項13 明細書の【0006】に「植物の緑色を復元しあるいは緑色に保持する。」とあるのを、「植物の緑色を復元し、あるいは、植物の葉緑素に含まれるマグネシウムが失われて褐変するのを防止することにより植物の緑色を保持する。」と訂正する。 (14)訂正事項14 明細書の【0006】に「さらに酵母は、Se、Mo、Cr、Mn等の金属を含有する金属酵母を含むものとすることもできる。」とあるのを、「さらに酵母は、Cr、Mn等の金属を含有する金属酵母を含むものとすることもできる。」と訂正する。 2 訂正の適否についての検討 (1)訂正事項1について ア 訂正の目的について 訂正事項1は、本件訂正前の請求項1に係る発明における、植物を緑色に保持する方法を、「植物の葉緑素に含まれるマグネシウムが失われて褐変するのを防止することにより植物の緑色を保持する方法」に訂正するものである。 この点について、願書に添付した特許請求の範囲及び明細書(以下「本件特許明細書等」という。)には、「【0002】・・・植物は、葉緑素に含有されるマグネシウムが失われると、緑色を失って枯渇した色に退色する。」、及び「【0016】さらに、調整液には、還元糖や還元剤を含ませることもできる。還元糖や還元剤の溶液に、緑色になった植物を浸漬すると、顔料や染料で人工的に着色したような不自然な色が調整される。また、処理後における植物の変色を防止できる。それは、還元糖や還元剤が、酸化を防止して、変色するのを少なくするからである。」との記載がある。 また、後記甲第3号証には、「【0002】【従来の技術】甲殻類或いは青果物は、漁獲或いは剥皮、カット後短時間のうちに変色し、商品価値が著しく減少してしまう。この変色作用は、甲殻類或いは青果物に含まれているチロシナーゼ、ポリフェノール等の酵素が、漁獲或いは剥皮、カット等により活性化され、メラニン、ポリキノン等の生成が促進されることに起因する。」との記載がある。 これらの記載から、植物の変色については、少なくとも、葉緑素に含有されるマグネシウムが失われることや酸化がその原因として知られていると理解できるところ、訂正事項1は、植物を緑色に保持する方法について、「植物の葉緑素に含まれるマグネシウムが失われて褐変するのを防止することにより」との記載を追加して、その作用機序を特定することによって、特定の原因に由来する植物の変色を防止することに限定するものである(なお、無効理由5の請求人の主張に対する検討で後述するように(第7の7(2)オ)、植物の緑色の変色防止は、葉緑素に含まれるマグネシウムが失われて褐変することを防止することが唯一の手段ではない。)。 また、同時に、本件特許明細書等の「【0011】酵母を含む酵母液は、好ましくは、60~100℃で、沸騰する温度よりも低い温度に加温される。植物が加温された酵母液に浸漬されると、葉緑素は、短い時間で速やかに緑色に変色される。植物を浸漬する酵母液の酵母の濃度を濃くしても、葉緑素を緑色にできる時間は短くなる。・・・【0012】・・・植物を加熱された酵母液に接触させて、葉緑素を緑色にできる最低の金属濃度は、1ppmである。」、及び「【0039】さらに、以上の実施例は、褐変した植物の緑色を復元する方法を例示した。ただ、本発明の方法は、緑色が褐変した植物を処理するのではなくて、緑色をしている植物を処理して、緑色が退色するのを防止することもできる。」との記載を考慮すれば、葉緑素に含有されるマグネシウムが失われて褐変することを抑制する上記作用機序が一定程度機能する温度や、酵母及び金属の濃度の範囲に、機能表現の追加によって処理条件が限定されたともいえる。 したがって、訂正事項1は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。 イ 実質上特許請求の範囲を拡張、又は変更するものであるかについて 訂正事項1は、植物の緑色を保持する方法について、所定の作用機序による植物の緑色を保持する方法に限定し、当該方法における金属濃度等の処理条件を当該作用機序が働く条件に限定するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 したがって、訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。 ウ 新規事項の追加の有無について 本件特許明細書等の【0039】には、「本発明の方法は、緑色が褐変した植物を処理するのではなくて、緑色をしている植物を処理して、緑色が退色するのを防止することもできる。それは、植物に亜鉛を添加することにより、植物の葉緑素に含まれるマグネシウムが失われて褐変するのを防止できるからである。」との記載がある(下線は当審合議体が付与。)。 そして、請求項1には、植物をZn含有酵母を含む金属酵母液に接触させることが記載されているところ、植物をZn含有酵母を含む金属酵母液に接触させることにより、植物に亜鉛が添加されているといえるから、本件特許明細書等には、植物をZn含有酵母を含む金属酵母液に接触させて、「植物の葉緑素に含まれるマグネシウムが失われて褐変するのを防止することにより植物の緑色を保持する」方法が記載されているといえる。 したがって、訂正事項1は、本件特許明細書等に記載した事項を総合することにより導かれる事項との関係において新たな技術的事項を導入するものではなく、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。 (2)訂正事項2について ア 訂正の目的について 訂正事項2は訂正事項1と同様の訂正であるから、上記(1)アで述べたのと同様である。 イ 実質上特許請求の範囲を拡張、又は変更するものであるかについて 訂正事項2は訂正事項1と同様の訂正であるから、上記(1)イで述べたのと同様である。 ウ 新規事項の追加の有無について 本件特許明細書等には、上記(1)ウで示した事項のほか、【0010】に「植物の緑色を復元し、あるいは緑色に保持する方法は、酵母を含む酵母液に植物を浸漬し、あるいは、酵母液を植物に散布して酵母液に接触させる。酵母液に含まれる酵母は金属を含有している。酵母に含有される金属は、Zn、Cu、Fe、Mg、Se、Mo、Cr、Mn等である。」との記載がある。 してみると、本件特許明細書等には、植物を緑色に保持する方法について、ZnとCu、Fe、Mg、Se、Mo、Cr、Mn等は同様に作用することが記載されているといえるから、植物にCu、Fe、Mg、Se、Mo、Cr、Mn等を添加することにより、植物の葉緑素に含まれるマグネシウムが失われて褐変するのを防止できることが記載されているといえる。 そして、請求項2には、植物をCu含有酵母を含む金属酵母液と接触させることが記載されているから、請求項2に係る発明では、植物にCuが添加されているといえる。 したがって、訂正事項2は、本件特許明細書等に記載した事項を総合することにより導かれる事項との関係において新たな技術的事項を導入するものであるとはいえず、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。 (3)訂正事項3について ア 訂正の目的について 訂正事項3は訂正事項1と同様の訂正であるから、上記(1)アで述べたのと同様である。 イ 実質上特許請求の範囲を拡張、又は変更するものであるかについて 訂正事項3は訂正事項1と同様の訂正であるから、上記(1)イで述べたのと同様である。 ウ 新規事項の追加の有無について 請求項3は酵母がFe含有酵母である点で、Cu含有酵母である請求項2と相違するが、上記(2)ウで述べたとおり、本件特許明細書等の【0010】には、ZnとFeが同様の物として記載されているから、上記(2)ウで述べたのと同様である。 (4)訂正事項4について ア 訂正の目的について 訂正事項4は訂正事項1と同様の訂正であるから、上記(1)アで述べたのと同様である。 イ 実質上特許請求の範囲を拡張、又は変更するものであるかについて 訂正事項4は訂正事項1と同様の訂正であるから、上記(1)イで述べたのと同様である。 ウ 新規事項の追加の有無について 請求項4は酵母がMg含有酵母である点で、Cu含有酵母である請求項2と相違するが、上記(2)ウで述べたとおり、本件特許明細書等の【0010】には、ZnとMgが同様の物として記載されているから、上記(2)ウで述べたのと同様である。 (5)訂正事項6について 請求項5に係る訂正事項5及び6について、事案に鑑み、まず訂正事項6について述べ、後記(6)で、訂正事項5について述べる。 ア 訂正の目的について 訂正事項6は、請求項5の「Se、Mo、Cr、Mnのいずれか」との記載を「Cr、Mnのいずれか」とすることで、金属含有酵母の金属の種類を削減し、限定するものであるから、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。 イ 実質上特許請求の範囲を拡張、又は変更するものであるかについて 訂正事項6は、上記アで述べたとおり、金属含有酵母の金属の種類を削減し、限定するものに過ぎないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。 ウ 新規事項の追加の有無について 訂正事項6は、金属含有酵母の金属の種類を削減し、限定するものに過ぎないから、本件特許明細書等に記載した事項を総合することにより導かれる事項との関係において新たな技術的事項を導入するものではなく、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。 (6)訂正事項5について ア 訂正の目的について 訂正事項5は訂正事項1と同様の訂正であるから、上記(1)アで述べたのと同様である。 イ 実質上特許請求の範囲を拡張、又は変更するものであるかについて 訂正事項5は訂正事項1と同様の訂正であるから、上記(1)イで述べたのと同様である。 ウ 新規事項の追加の有無について 本件訂正後の請求項5は酵母がCr又はMn含有酵母である点で、Cu含有酵母である請求項2と相違するが、上記(2)ウで述べたとおり、本件特許明細書等の【0010】には、ZnとCr及びMnが同様の物として記載されているから、上記(2)ウで述べたのと同様である。 (7)訂正事項7について ア 訂正の目的について 訂正事項7は訂正事項1と同様の訂正であるから、上記(1)アで述べたのと同様である。 イ 実質上特許請求の範囲を拡張、又は変更するものであるかについて 訂正事項7は訂正事項1と同様の訂正であるから、上記(1)イで述べたのと同様である。 ウ 新規事項の追加の有無について 訂正事項7は訂正事項1~5と同様の訂正であるから、上記(1)~(4)及び(6)の各ウで述べたのと同様である。 (8)訂正事項8について ア 訂正の目的について 訂正事項8は訂正事項1と同様の訂正であるから、上記(1)アで述べたのと同様である。 イ 実質上特許請求の範囲を拡張、又は変更するものであるかについて 訂正事項8は訂正事項1と同様の訂正であるから、上記(1)イで述べたのと同様である。 ウ 新規事項の追加の有無について 訂正事項8は訂正事項1~5と同様の訂正であるから、上記(1)~(4)及び(6)の各ウで述べたのと同様である。 (9)訂正事項9について ア 訂正の目的について 訂正事項9は訂正事項1と同様の訂正であるから、上記(1)アで述べたのと同様である。 イ 実質上特許請求の範囲を拡張、又は変更するものであるかについて 訂正事項9は訂正事項1と同様の訂正であるから、上記(1)イで述べたのと同様である。 ウ 新規事項の追加の有無について 訂正事項9は訂正事項1~5と同様の訂正であるから、上記(1)~(4)及び(6)の各ウで述べたのと同様である。 (10)訂正事項10について ア 訂正の目的について 訂正事項10は訂正事項1と同様の訂正であるから、上記(1)アで述べたのと同様である。 イ 実質上特許請求の範囲を拡張、又は変更するものであるかについて 訂正事項10は訂正事項1と同様の訂正であるから、上記(1)イで述べたのと同様である。 ウ 新規事項の追加の有無について 訂正事項10は訂正事項1~5と同様の訂正であるから、上記(1)~(4)及び(6)の各ウで述べたのと同様である。 (11)訂正事項11について ア 訂正の目的について 訂正事項11は訂正事項1と同様の訂正であるから、上記(1)アで述べたのと同様である。 イ 実質上特許請求の範囲を拡張、又は変更するものであるかについて 訂正事項11は訂正事項1と同様の訂正であるから、上記(1)イで述べたのと同様である。 ウ 新規事項の追加の有無について 訂正事項11は訂正事項1~5と同様の訂正であるから、上記(1)~(4)及び(6)の各ウで述べたのと同様である。 (12)訂正事項12について ア 訂正の目的について 訂正事項12は訂正事項1と同様の訂正であるから、上記(1)アで述べたのと同様である。 イ 実質上特許請求の範囲を拡張、又は変更するものであるかについて 訂正事項12は訂正事項1と同様の訂正であるから、上記(1)イで述べたのと同様である。 ウ 新規事項の追加の有無について 訂正事項12は訂正事項1~5と同様の訂正であるから、上記(1)~(4)及び(6)の各ウで述べたのと同様である。 (13)訂正事項13について ア 訂正の目的について 訂正事項13は、訂正事項1~5及び訂正事項7~12により訂正される請求項1~11の記載と明細書の記載との不整合を正すものであり、特許法第134条の2第1項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものである。 イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであるかについて 訂正事項13は、請求項1~11の記載との不整合を正すために明細書の記載を訂正するものであり、当該訂正によって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 したがって、訂正事項13は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。 ウ 新規事項の追加の有無について 上記(1)~(4)及び(6)の各ウで述べたのと同様である。 エ 明細書の訂正と関係する請求項について 訂正事項13は請求項1~11の記載との不整合を正すための明細書の訂正であり、請求項1~11に関係するところ、本件訂正の請求は、一群の請求項である請求項1~11(後記(15)で述べる。)についてされている。 したがって、訂正事項13は、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第4項に適合するものである。 (14)訂正事項14 ア 訂正の目的について 訂正事項14は、訂正事項6により訂正される請求項5及び請求項5の記載を引用する請求項6~11の記載と明細書の記載との不整合を正すものであり、特許法第134条の2第1項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものである。 イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであるかについて 訂正事項14は、請求項5~11の記載との不整合を正すために明細書の記載を訂正するものであり、当該訂正によって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 したがって、訂正事項14は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。 ウ 新規事項の追加の有無について 上記(5)ウで述べたのと同様である。 エ 明細書の訂正と関係する請求項について 訂正事項14は請求項5~11の記載との不整合を正すための明細書の訂正であり、一群の請求項である請求項5~11(後記(15)で述べる。)に関係するところ、本件訂正の請求は、請求項5~11を含む、一群の請求項である請求項1~11(後記(15)で述べる。)についてされている。 したがって、訂正事項14は、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第4項に適合するものである。 (15)一群の請求項について 本件訂正前の請求項1~11について、請求項2~11が請求項1の記載を引用する関係にあるので、特許法第134条の2第3項に規定する一群の請求項に該当するものであるところ、本件訂正の請求は、当該一群の請求項である請求項1~11についてされているから、特許法第134条の2第3項に適合するものである。 3 請求人の主張について 請求人は、弁駁書、34~35頁において、「被請求人は,審査経過において本件発明の効果が無機金属ではなく有機金属の効果によるものと主張しつつ,令和4年12月6日付け「訂正請求書」(甲第34号証)においては,亜鉛を添加することによる効果(「植物の葉緑素に含まれるマグネシウムが失われて褐変するのを防止する」)を主張し訂正を行っているわけであるが,これはまさに包袋禁反言に該当し,許されるものではない。」と主張するが、被請求人の効果に関する主張についての請求人の見解の妥当性はともかく、訂正の適否の判断については、訂正要件を満たすかどうかによって判断すべきものであり、その判断については、上記2で述べたとおりであるから、請求人の主張は採用できない。 4 まとめ 以上のとおりであるから、本件特許の明細書及び特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~11について訂正することを認める。 第3 本件発明 上記第2で示したとおり、請求項1~11についての本件訂正は認められたので、本件特許の請求項1~11に係る発明は、本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1~11に記載された事項により特定される、以下のとおりのもの(以下「本件発明1」~「本件発明11」と、それらをまとめて「本件発明」いうことがある。また、本件訂正後の特許請求の範囲を「本件特許請求の範囲」ということがある。)と認める。 「【請求項1】 植物をZn含有酵母を含む金属酵母液に接触させて、植物の緑色を復元し、あるいは、植物の葉緑素に含まれるマグネシウムが失われて褐変するのを防止することにより植物の緑色を保持する方法。 【請求項2】 植物をCu含有酵母を含む金属酵母液に接触させて、植物の緑色を復元し、あるいは、植物の葉緑素に含まれるマグネシウムが失われて褐変するのを防止することにより植物の緑色を保持する方法。 【請求項3】 植物をFe含有酵母を含む金属酵母液に接触させて、植物の緑色を復元し、あるいは、植物の葉緑素に含まれるマグネシウムが失われて褐変するのを防止することにより植物の緑色を保持する方法。 【請求項4】 植物をMg含有酵母を含む金属酵母液に接触させて、植物の緑色を復元し、あるいは、植物の葉緑素に含まれるマグネシウムが失われて褐変するのを防止することにより植物の緑色を保持する方法。 【請求項5】 植物をCr、Mnのいずれかの金属含有酵母を含む金属酵母液に接触させて、植物の緑色を復元し、あるいは、植物の葉緑素に含まれるマグネシウムが失われて褐変するのを防止することにより植物の緑色を保持する方法。 【請求項6】 植物を接触させる酵母液の金属濃度が1ppm以上である請求項1ないし5のいずれかに記載される植物の緑色を復元し、あるいは、植物の葉緑素に含まれるマグネシウムが失われて褐変するのを防止することにより植物の緑色を保存する方法。 【請求項7】 植物を接触させる酵母液の金属濃度が1000ppm以下である請求項1ないし5のいずれかに記載される植物の緑色を復元し、あるいは、植物の葉緑素に含まれるマグネシウムが失われて褐変するのを防止することにより植物の緑色を保存する方法。 【請求項8】 植物を接触させる酵母液の温度が50~100℃である請求項1ないし7のいずれかに記載される植物の緑色を復元し、あるいは、植物の葉緑素に含まれるマグネシウムが失われて褐変するのを防止することにより植物の緑色を保存する方法。 【請求項9】 酵母液を植物に接触させる時間が5分以上である請求項1ないし8のいずれかに記載される植物の緑色を復元し、あるいは、植物の葉緑素に含まれるマグネシウムが失われて褐変するのを防止することにより植物の緑色を保存する方法。 【請求項10】 酵母液を植物に接触させる時間が60分以下である請求項1ないし9のいずれかに記載される植物の緑色を復元し、あるいは、植物の葉緑素に含まれるマグネシウムが失われて褐変するのを防止することにより植物の緑色を保存する方法。 【請求項11】 酵母液がカルシウムを含有する請求項1ないし10のいずれかに記載される植物の緑色を復元し、あるいは、植物の葉緑素に含まれるマグネシウムが失われて褐変するのを防止することにより植物の緑色を保存する方法。」 第3 本件審判の請求の趣旨並びにその主張の概要及び請求人が提出した証拠方法 1 本件審判の請求の趣旨 請求人の請求の趣旨は、「特許第3538190号の請求項1乃至11に係る発明についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求める。」である(審判請求書、第1回口頭審理調書)。 2 請求人が主張する無効理由及び証拠方法の概要 請求人は、以下の無効理由1~13を主張し、証拠方法として、甲第1号証~甲第89号証を提出した。 3 審判請求書、上申書、口頭審理陳述要領書及び弁駁書に記載した請求人が主張する無効理由の概要 請求人が主張する無効理由1~6、7-1、7-2及び8~13は、概略以下のとおりである(第1回口頭審理調書)。 (1)無効理由1(新規性欠如) 本件発明1~7及び9~11は、甲第15号証、甲第21号証及び甲第22号証で示される本件出願時における周知技術を参照すると、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明である甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、本件発明1~7及び9~11に係る特許は同法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、無効とすべきである(同法第123条第1項第2号)。 (2)無効理由2(進歩性欠如:甲第1号証が主引用例) 本件発明1~11は、甲第1号証、甲第4号証、甲第8号証及び甲第9号証に記載された発明、並びに、甲第15号証、甲第21号証及び甲第22号証で示される本件出願時における周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本件発明1~11に係る特許は同法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、無効とすべきである(同法第123条第1項第2号)。 (3)無効理由3(新規性欠如) 本件発明1~7、9及び11は、甲第15号証、甲第21号証及び甲第22号証で示される本件出願時における周知技術を参照すると、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明である甲第2号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、本件発明1~7、9及び11に係る特許は同法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、無効とすべきである(同法第123条第1項第2号)。 (4)無効理由4(進歩性欠如:甲第2号証が主引用例) 本件発明1~11は、甲第2号証、甲第4号証、甲第8号証及び甲第9号証に記載された発明、並びに、甲第15号証、甲第21号証及び甲第22号証で示される本件出願時における周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本件発明1~11に係る特許は同法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、無効とすべきである(同法第123条第1項第2号)。 (5)無効理由5(新規性欠如) 本件発明1~5、7及び9~11は、甲第15号証、甲第21号証及び甲第22号証で示される本件出願時における周知技術を参照すると、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明である甲第3号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、本件発明1~5、7及び9~11に係る特許は同法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、無効とすべきである(同法第123条第1項第2号)。 (6)無効理由6(進歩性欠如:甲第3号証が主引用例) 本件発明1~11は、甲第3号証、甲第4号証、甲第8号証及び甲第9号証に記載された発明、並びに、甲第15号証、甲第21号証及び甲第22号証で示される本件出願時における周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本件発明1~11に係る特許は同法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、無効とすべきである(同法第123条第1項第2号)。 (7)無効理由7-1(進歩性欠如:甲第4号証が主引用例) 本件発明1~4及び6~11は、甲第1号証、甲第2号証、甲第3号証、甲第4号証、甲第8号証及び甲第9号証に記載された発明、並びに、甲第15号証、甲第21号証及び甲第22号証で示される本件出願時における周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本件発明1~4及び6~11に係る特許は同法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、無効とすべきである(同法第123条第1項第2号)。 (8)無効理由7-2(進歩性欠如:甲第24号証が主引用例) 本件発明1~4及び6~11は、甲第1号証、甲第2号証、甲第3号証、甲第8号証、甲第9号証及び甲第24号証に記載された発明、並びに、甲第15号証、甲第21号証及び甲第22号証で示される本件出願時における周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本件発明1~4及び6~11に係る特許は同法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、無効とすべきである(同法第123条第1項第2号)。 (9)無効理由8(進歩性欠如:甲第5号証が主引用例) 本件発明2及び6~11は、甲第1号証、甲第2号証、甲第3号証、甲第5号証、甲第8号証及び甲第9号証に記載された発明、並びに、甲第15号証、甲第21号証及び甲第22号証で示される本件出願時における周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本件発明2及び6~11に係る特許は同法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、無効とすべきである(同法第123条第1項第2号)。 (10)無効理由9(進歩性欠如:甲第6号証が主引用例) 本件発明1、2及び6~10は、甲第1号証、甲第2号証、甲第3号証、甲第6号証、甲第8号証及び甲第9号証に記載された発明、並びに、甲第15号証、甲第21号証及び甲第22号証で示される本件出願時における周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本件発明1~2及び6~10に係る特許は同法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、無効とすべきである(同法第123条第1項第2号)。 (11)無効理由10(進歩性欠如:甲第7号証が主引用例) 本件発明3、6、7、9及び10は、甲第1号証、甲第2号証、甲第3号証、甲第7号証、甲第8号証及び甲第9号証に記載された発明、並びに、甲第15号証、甲第21号証及び甲第22号証で示される本件出願時における周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本件発明3、6、7、9及び10に係る特許は同法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、無効とすべきである(同法第123条第1項第2号)。 (12)無効理由11(サポート要件) 本件発明1~11は、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識から、あらゆる温度条件下で、あらゆる植物に対して行われる、あらゆる金属濃度の金属含有酵母の接触工程まで、又は、金属としてSe,Mo,Cr又はMnを含有する酵母を含む金属酵母液を接触させた場合にまで、その課題を解決することができると認識できないものであるため、本件発明1~11に係る特許は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定される要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、無効とすべきである(同法第123条第1項第4号)。 (13)無効理由12(実施可能要件) 本件特許の発明の詳細な説明は、本件発明1~11を、当業者が本件特許明細書に記載された作用効果を奏する発明として当業者が本件発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されておらず、特に、退色していない植物については、金属含有酵母との接触のみでどのようにすれば緑色を復元ないし保持できるのか理解できないため、本件発明1~11に係る特許は、発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号に規定される要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、無効とすべきである(同法第123条第1項第4号)。 (14)無効理由13(明確性要件) 本件発明1~11は、請求項1~11における「金属酵母液」又は「酵母液」が具体的にどのような液体を特定しているのか判然としない点、及び、請求項1ないし5の「緑色に保持する方法」と請求項6ないし11の「緑色に保存する方法」の記載が統一されていない点において、請求項に係る発明の範囲が不明確であるから、本件発明1~11に係る特許は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定される要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、無効とすべきである(同法第123条第1項第4号)。 4 請求人が提出した証拠方法 請求人が提出した証拠方法は、以下のとおりである。 (1)審判請求書とともに提出した証拠 甲第1号証:「色あざやかな漬物漬床の改善試案」、フードリサーチ、No.140、1998.08、57~59頁 甲第2号証:「下面型発酵性酵母による無塩発酵漬物」、フードリサーチ、No.140、1998.08、22~24頁 甲第3号証:特開平8-266245号公報 甲第4号証:特開平10-14530号公報 甲第5号証:特開平6-217732号公報 甲第6号証:特開平3-81206号公報 甲第7号証:特開平11-157968号公報 甲第8号証:特開平9-131160号公報 甲第9号証:特開平9-94058号公報 甲第10号証:特開昭56-18569号公報 甲第11号証:特開2000-245400号公報 甲第12号証:「Products & Technologies」、Food Technology、Vol.52、No.4、1998.04、74~76、78、80、82頁 甲第13号証:米国特許第5709856号明細書 甲第14号証:特開2001-95526号公報 甲第15号証:「ミネラル強化パン酵母の開発」、食品と開発、Vo.33、No.2、1998.02、10~12頁 甲第16号証:特開平8-332082号公報 甲第17号証:特開平8-332083号公報 甲第18号証:特開平8-332081号公報 甲第19号証:特開2003-198号公報 甲第20号証:国際公開第02/089606号 甲第21号証:「Functional genomics and metal metabolism」、Genome Biol.、2(10)、2001、reviews 1028.1-2018.3 甲第22号証:「Emission Factor Documentation for AP-42 Section 9.13.4 Yeast Production Final Report」(https://www.epa.gov/sites/default/files/2020-10/documents/b9s13-4.pdf)、1994.03 甲第23号証:特開平6-46795号公報 甲第24号証:特開平10-14529号公報 甲第25号証:「塩蔵きゅうりのクロロフィルの変化」、日本食品工業学会誌、17巻5号、1970、187-192頁 甲第26号証:特開2002-37701号公報 甲第27号証:特開平10-286077号公報 甲第28号証:特開平8-298958号公報 甲第29号証:特許第4377794号公報 甲第30号証:特許第4150419号公報 甲第31号証:甲第29号証の審査経過で提出された平成21年6月11日付けの意見書 甲第32号証:甲第30号証の審査経過で提出された平成20年5月7日付けの意見書 甲第33号証:特開平3-119960号公報 甲第34号証:特開2004-201553号公報 甲第35号証:実験成績証明書、令和3年10月26日、株式会社伊藤園開発一部二課 中瀬 純平 甲第36号証:「発酵 大麦エキス情報サイト」と題するウェブサイト(https://www.hakko-omugi.jp/?p=178)を印刷した書面、印刷日令和3年4月23日 (2)令和4年4月19日付け上申書において提出した証拠 甲第37号証:東京地方裁判所令和3年(ワ)第19176号被告準備書面(2)、令和4年2月28日 甲第38号証:同事件被告証拠説明書(2)、令和4年2月28日 甲第39号証:「ミネラル強化酵母の特性と応用」、FOOD Style 21、Vol.6 No.8、2002、62~64頁 甲第40号証:本件特許の審査経過で提出された平成16年1月26日付けの意見書 甲第41号証:調査報告書、2022年2月25日、JAPAN TESTING LABORATORIES株式会社 日本信頼性評価機構 甲第42号証:特開平1-281057号公報 甲第43号証:特開2006-217914号公報 甲第44号証:特開2019-208504号公報 甲第45号証:特開2004-201639号公報 甲第46号証:「亜鉛酵母10%(製法特許 第4829745号)」と題するウェブサイト(https://www.medience.jp/products/zinc-yeast)を印刷した書面、印刷日令和4年2月24日 甲第47号証:特開昭63-287474号公報 甲第48号証:特開2000-279164号公報 (3)令和4年6月23日付け上申書(3)において提出した証拠 甲第49号証:東京地方裁判所令和3年(ワ)第19176号被告準備書面(3)、令和4年6月17日 甲第50号証:同事件被告証拠説明書(3)、令和4年6月17日 甲第51号証:特許庁、特許実用新案審査基準、第III部第2章第2節 進歩性 甲第52号証:特願2020-83795号の審査経過で提出された令和3年6月7日付けの意見書 甲第53号証:特開平11-346716号公報 甲第54号証:「野沢菜漬の緑色保持に関する研究(2)」、長野県食品工業試験場研究報告、29号、2001.10、35-40頁 甲第55号証:分析報告書、2022年6月17日、JAPAN TESTING LABORATORIES株式会社 甲第56号証:実験成績証明書、令和4年6月13日、株式会社伊藤園開発一部開発二課 叶 英樹 甲第57号証:本件審理事項通知書、令和4年5月9日 甲第58号証:「銅クロロフィルおよび銅クロロフィリンナトリウムについて」、愛知県衛研技術情報、Vol.18 No.4、1994、1~6頁 甲第59号証:「ミネラル補給を目的とした健康食品に用いられるミネラル素材の品質調査」、東京健安研セ年報、56、2005、175-178頁 甲第60号証:「亜鉛酵母の違法品をご存じですか?!メディエンスの亜鉛酵母は、毎ロット分析している安全な製品です!」と題するウェブサイト(https://www.medience.jp/product-info-151117/)を印刷した書面、印刷日令和4年6月14日 甲第61号証:「野沢菜漬に関する研究(第2報)」、長野県工業技術総合センター研究報告、2号、2007.8、F22~F26頁 甲第62号証:「アットグリーン AG-3」と題するウェブサイト(https://www.satoh-unsou.co.jp/original/ag-3/)を印刷した書面、印刷日令和4年6月14日 甲第63号証:特許庁、特許実用新案審査基準、第III部第2章第3節 新規性・進歩性の審査の進め方 甲第64号証:「The Biochemical Basis of Zinc Physiology」、Physiological Reviews、Vol.73、 No.1、1993、79~118頁 甲第65号証:「The Role of Zinc and Copper in Gynecological Malignancies」、nutrients、12、2020、3732 甲第66号証:新村出編、広辞苑(第5版)、株式会社岩波書店、平成10年、2316頁の「ふくげん」の項 甲第67号証:特開平9-65851号公報 甲第68号証:特開2009-165439号公報 甲第69号証:「茶葉抽出残渣等の効果的利活用法の開発」、京都府中小企業技術センター技報、No.36、2008、16~26頁 甲第70号証:「名古屋種の卵殻色の特徴」、愛知農総試研報、36、2004、87~91頁 甲第71号証:特許庁、特許実用新案審査基準、第II部第2章第3節 明確性要件 (4)令和4年7月14日付け上申書(4)において提出した証拠 甲第72号証:実験成績証明書、令和4年7月14日、株式会社伊藤園品質管理二部第二課・冨田 佳祐 甲第73号証:「漬物工業の現況と新技術動向」、調理科学、Vol.27、No.4、1994、48~55頁 甲第74号証:「Quantitative determination of trace metals in single yeast cells by time-resolved ICP-MS using dissolved standards for calibration」、Applied Microbiology and Biotechnology、103、2019、1475~1483頁 (5)令和4年8月12日付け上申書(6)において提出した証拠 甲第75号証:「ミネラル強化パン酵母の開発(特集/食品素材としての有用菌の利用)」と題するウェブページ(https://ndlonline.ndl.go.jp/#!/detail/R300000002-I4392838-00)を印刷した書面、印刷日令和3年4月13日 (6)令和5年3月3日付け弁駁書において提出した証拠 甲第76号証:東京地方裁判所令和3年(ワ)第19176号被告準備書面(5)、令和5年2月24日 甲第77号証:東京地方裁判所令和3年(ワ)第19176号被告準備書面(6)、令和5年2月24日 甲第78号証:「Chlorophyll」、ENCYCLOPEDIA OF FOOD AND HEALTH、Benjamin Caballeroら編、2016、37~41頁 甲第79号証:「Research Progress in the Interconversion, Turnover and Degradation of Chlorophyll」、Cells、2021、10、3134、1~14頁 甲第80号証:「Characterization of Mg-dechelating substance in senescent and pre-senescent Arabidopsis thaliana leaves」、BIOLOGIA PLANTARUM、(55)1、2011、75~82頁 甲第81号証:「Quality Maintenance of Postharvest Horticultural Crops by Stress Treatments and Approach for the Elucidation of Its Mechanism」、J.Japan.Soc.Hort.Sci.、82(1)、2013、1~10頁 甲第82号証:特開平11-75791号公報 甲第83号証:「FOOD CHEMISTRY THIRD EDITION」、1996、651~722頁 甲第84号証:「Physicochemical changes in the discoloration of dried green tea noodles caused by polyphenol oxidase from wheat flour」、LWT-Food Science and Technology、130、2020、109614、1~7頁 甲第85号証:特開2003-47434号公報 甲第86号証:特開平10-155466号公報 甲第87号証;特開平10-4874号公報 (7)令和5年5月15日付け上申書において提出した証拠 甲第88号証:東京地方裁判所令和3年(ワ)第19176号被告求釈明申立書、令和5年4月25日 甲第89号証:東京地方裁判所令和3年(ワ)第19176号原告準備書面11、令和5年5月2日 5 当審合議体が提示する参考文献 当審合議体が提示する参考文献は、以下のとおりである。 参考文献1:特開2001-25373号公報 参考文献2:国際公開第2020/027283号 参考文献3:株式会社東京化学同人、生化学辞典、第4版、2007年、第1074~1075頁 参考文献4:新村出編、株式会社岩波書店、広辞苑、第5版、1998年、第288頁 参考文献5:グルタチオン高含有「酵母エキスYH」、月刊フードケミカル、平成3年10月、Vol.7、No.10、70~75頁 参考文献6:日本食品標準成分表2015年版(七訂)、第3章 資料、4 水道水中の無機質、表26及び表27、https://www.mext.go.jp/component/a_menu/science/detail/__icsFiles/afieldfile/2015/12/24/1365334_1-0326.pdf 第4 答弁の趣旨並びにその主張の概要及び被請求人が提出した証拠方法 1 答弁の趣旨 被請求人の答弁の趣旨は、「本件審判請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。との審決を求める。」であると認める(審判事件答弁書「6.答弁の趣旨」)。 そして、被請求人は請求人が主張する上記無効理由1~6、7-1、7-2及び8~13は、審判事件答弁書、上申書、上申書(2)及び口頭審理陳述要領書において、いずれも理由がない旨の主張をしていると認める。 2 被請求人が提出した証拠方法 被請求人が提出した証拠方法は、以下のとおりである。 (1)審判事件答弁書とともに提出した証拠 乙第1号証:「13.ナスの皮の紫色は何によるものですか?その成分には健康機能がありますか?」と題するウェブサイト(https://www.5aday.net/v350f200/faq/13.html#:~:text=%E3%82%82%E3%81%AE%E3%81%A7%E3%81%99%E3%81%8B%EF%BC%9F-,%E3%81%9D%E3%81%AE%E6%88%90%E5%88%86%E3%81%AB%E3%81%AF%E5%81%A5%E5%BA%B7%E6%A9%9F%E8%83%BD%E3%81%8C%E3%81%82%E3%82%8A%E3%81%BE%E3%81%99%E3%81%8B%EF%BC%9F,%E3%82%82%E5%90%AB%E3%81%BE%E3%82%8C%E3%81%A6%E3%81%84%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82)を印刷した書面、印刷日令和3年12月5日 乙第2号証:「酵母の同定に関する最新情報(令和元年版)多様性データの継続的更新が微生物生態学に貢献する」と題するウェブサイト(https://katosei.jsbba.or.jp/view_html.php?aid=1218)を印刷した書面、印刷日令和3年11月11日 乙第3号証:「伊藤園 商品情報 ごくごく飲める 毎日1杯の青汁 PET350g」と題するウェブサイト(https://www.itoen.jp/products/detail.php?id=2394)を印刷した書面、印刷日令和3年1月15日 乙第4号証:「伊藤園 商品情報 毎日1杯の青汁 おいしいフルーツミックス 紙パック200ml」と題するウェブサイト(https://www.itoen.jp/products/detail.php?id=2571)を印刷した書面、印刷日令和3年3月5日 乙第5号証:実験結果報告書、令和3年12月10日、特許業務法人豊栖特許事務所 弁理士 豊栖 健 乙第6号証:特開2004-201639号公報 (2)令和4年5月27日付け上申書において提出した証拠 乙第7号証:東京地方裁判所令和3年(ワ)第19176号原告準備書面5、令和4年4月21日 乙第8号証:硫酸亜鉛七水和物の安全データシート、昭和化学株式会社、改定日2021年6月9日 乙第9号証:硫化亜鉛の安全データシート、富士フイルム和光純薬株式会社、改訂日2020年8月31日 乙第10号証:報告書、株式会社FUJIYA、令和4年4月15日、株式会社FUJIYA 冨士谷 仁一 乙第11号証:実験結果報告書、株式会社FUJIYA、令和4年4月15日、株式会社FUJIYA 冨士谷 仁一 乙第12号証:「英ナビ!辞書英和辞典 essential」と題するウェブサイト(https://www.ei-navi.jp/dictionary/content/essential/)を印刷した書面、印刷日令和4年4月7日 乙第13号証:「MAU 造形ファイル アートとデザインの素材・道具・技法 色調」と題するウェブサイト(http://zokeifile.musabi.ac.jp/%E8%89%B2%E8%AA%BF/)を印刷した書面、印刷日令和4年4月13日 乙第14号証:特開昭59-63175号公報 乙第15号証:特開昭59-120046号公報 第5 証拠の記載 1 各甲号証の記載事項 (1)甲第1号証の記載事項 本件出願日前に頒布された刊行物である甲第1号証には、以下の事項が記載されている。 記載(1a) 「色あざやかな漬物 漬床の改善試案 汐見修一氏の提案 <滋賀県信楽町> 臭気を発生しない漬床の開発が望まれている。 この漬床は、マメ類、穀類、イモ類などの利用残渣に食塩、ヨモギエキス、乳酸菌、酵母などを添加して、低温発酵させたことを特徴とする漬床であって、野菜を漬ける場合でも重石を載せることなく、1日後に元の色彩を残した色の鮮やかな漬物を得ることができる。 さらに、特別な手入れをすることなしに、長期間使用しても臭気を発生することはない。 また、この漬床を水に懸濁して得た上澄液は、浅漬用の漬液として利用でき、この漬液に1時間ほど野菜を漬けることにより容易に浅漬けが得られる。」(第57頁表題、左欄第1~13行) 記載(1b) 「(実施例1) おからにパン粉を加えた漬床 おからにパン粉を加え、水分が60%になるように調整したもの1kgに食塩100gを加え、よく混捏する。この混合物に、別に調整したヨモギエキス40ml、乳酸菌(株式会社ビオック製乳酸菌、ペジオコッカス ハロフィルス(P.halophilus))5kgおよび酵母(株式会社ビオック製酵母味噌用、Zygosaccharomycess rouxii)5gを添加し、よく混合したのちポリエチレン製袋に真空包装し、10℃にて2週間熟成し、漬床を得た。」 (第59頁左欄第7~17行) 記載(1c) 「(実施例2) 実施例1で得られた漬床5kgに水500lを加え、よく攪拌したのち静置し、得られた上澄液が浅漬用漬液である。」(第59頁左欄第25~28行) 記載(1d) 「(実施例3) 実施例1で得られた漬床に、キウリをよく洗浄し、周囲を食塩で擦り込んだ後、漬け込んだ。12時間後に取り上げたが、よく漬かったキウリの漬物が得られた。さらに、12時間経った24時間後に取り上げたが、12時間後のものとほとんど変わりのない漬物が得られた。」(第59頁左欄第29~35行) 記載(1e) 「(実施例5) キウリを水でよく洗い、輪切りにしたのち、全体を食塩で軽く揉んで、実施例2で得られた浅漬用漬液をキウリにかけて、全体が液に浸るようにした。約1時間後にキウリの浅漬けが得られた。なお、24時間後においても浅漬けのキウリを得ることができ、漬液にも臭いは生じなかった。」(第59頁右襴第11~17行) 記載(1f) 「色あざやかな漬物になる マメ類、穀類およびイモ類などの利用残渣にヨモギエキス、乳酸菌および酵母を添加して発酵させた漬床は、キウリやナスなどの野菜を漬けることにより、重石をのせることなく、1日後に元の色彩を残した色の鮮やかな漬物を得ることができる。 さらに2~3日漬けておいても同様の漬物を得ることができる。また、繰り返し野菜をこの漬床に漬けることができ、この漬床は1か月後においても臭気を発生することなく、長期間密閉度の高い室内においても容易に漬物を漬けることができる。 また、この漬床から得られる漬液は、キウリなどの野菜にかけることにより、1時間程度の短時間で浅漬けを得ることができるとともに、1日後においても同様の浅漬けを得ることができ、漬液に臭気を生じることはない。」(第59頁右襴第18~35行) (2)甲第2号証の記載事項 本件出願日前に頒布された刊行物である甲第2号証には、以下の事項が記載されている。 記載(2a) 「5℃以下から凍結しない範囲の低温下で、野菜、海草等を漬込み、低温下でも生育が可能であるところの下面型発酵性酵母の発酵力を利用して、生成されるエタノールや炭酸ガスの防腐効果と添加酵母の優先繁殖による拮抗作用による産膜酵母乳酸菌等有害微生物の繁殖を抑制して、緑色と食感の良好な無塩発酵漬物を研究したのである。」(第23頁左欄第8~15行) 記載(2b) 「以上を常法通り重石をして5℃以下から凍結しない範囲の低温で漬込みを続ける。」(第23頁左欄第23~24行)」 記載(2c) 「実施例2 無塩野沢菜と煮菜 野沢菜10kgをブランチングした後、グルコース0.6kg、水酸化カルシウム10g及び乳酸カルシウム50gと共に漬込み、パン酵母を105/gとなるように添加して落しぶたと70kgの重石と共に2℃以下で3ヶ月間置いた。重石は途中10kgとした。 この結果、緑色を保持した無塩野沢菜漬が得られ、ひとつは軽く絞った後に調味液に漬けたところ、塩蔵原料から製造したものよりも野沢菜の持ち味が生き新鮮感があるという好評価を得た。 いまひとつは味噌と酒粕と共に煮込んで煮菜を製造した結果、色調、風味共に優れた評価を得た。」(第23頁右欄第17~28行) (3)甲第3号証の記載事項 本件出願日前に頒布された刊行物である甲第3号証には、以下の事項が記載されている。 記載(3a) 「【0001】 【産業上の利用分野】本発明は、生鮮物の変色防止剤、詳しくは、コウジ酸と含硫アミノ酸あるいは含硫アミノ酸を含有した酵母エキスを有効成分する生鮮物の変色防止剤に関する。 【0002】 【従来の技術】甲殻類或いは青果物は、漁獲或いは剥皮、カット後短時間のうちに変色し、商品価値が著しく減少してしまう。この変色作用は、甲殻類或いは青果物に含まれているチロシナーゼ、ポリフェノール等の酵素が、漁獲或いは剥皮、カット等により活性化され、メラニン、ポリキノン等の生成が促進されることに起因する。従来、甲殻類或いは青果物の変色防止には、ビタミンC、リンゴ酸やクエン酸等の有機酸、重合リン酸、みょうばん或いはSO2等が使用されていた。しかしながら、変色防止効果が弱かったり、SO2のように使用量が厳しく規制されているものもあり、充分な効果があるとは言い難い。」 記載(3b) 「【0008】本発明で使用できる酵母エキスは、含硫アミノ酸を含有しているもので、例えば、トルラ酵母、パン酵母、ビール酵母等の酵母を培養し、酵母から得られた抽出物、あるいは、これを乾燥したものでも構わない。これら酵母エキスは、含硫アミノ酸として、特にグルタチオンを1%以上含有したものが好ましい。酵母エキスの使用量は、0.01%~1%、特に0.05%~0.2%含有することが好ましい。 【0009】本発明の生鮮物の変色防止剤は、様々な生鮮物の変色防止に使用できる。例えば、バレイショ、ゴボウ等の根菜類の変色は剥皮後に起こりやすいため、剥皮後本発明の変色防止剤に浸漬することにより、変色を防止することができる。また、キャベツ、レタス等の葉菜類については、カット後に変色が起こりやすいため、カット後本発明の変色防止剤に浸漬することにより、変色を防止することができる。その他、リンゴ、バナナ等の果物については剥皮後に起こる変色防止に、エビ、カニ等の甲殻類については漁獲後に起こる黒変防止に使用することができる。」 記載(3c) 「【0010】本発明の特徴は、コウジ酸と含硫アミノ酸またはコウジ酸と含硫アミノ酸を含有した酵母エキスとを有効成分として含有すること、特に、酵母エキスとしては、グルタチオンを1%以上含有していることにある。コウジ酸単独でもある程度の変色防止効果は見られるが、含硫アミノ酸または酵母エキス、特に、酵母エキス中に含まれるグルタチオンの抗酸化作用が、本発明の変色防止作用をより効果的にしていると推測される。」 記載(3d) 「【0012】実施例 2 バレイショの変色防止 コウジ酸1g、酵母エキスYH((株)興人製、グルタチオン含量8.5%)1gを水道水1Lに溶解し処理液とした。バレイショは皮を剥き、水道水にさらしたものをスライスし、その100gを1試験区とし、処理液に10分間浸漬した後、水を切り、プラスチックトレーに入れ、ラッピングし、5℃で保存した。保存中のバレイショの変色の程度を観察し、-、±、+、++、+++の5段階で評価した。結果を表1に表す。」 記載(3e) 「【0015】実施例 3 キャベツの変色防止 コウジ酸1g、グルタチオン((株)興人製)1gを水道水1Lに溶解し処理液とした。キャベツは細切りにし、その100gを1試験区とし、処理液に10分間浸漬した後、水を切り、プラスチックトレーに入れ、ラッピングし、5℃で保存した。保存中のキャベツの変色の程度を観察し、-、±、+、++、+++の5段階で評価した。結果を表2に表す。 【0016】実施例 4 キャベツの変色防止 コウジ酸1g、酵母エキス1gを水道水1Lに溶解し処理液とした。キャベツは細切りにし、その100gを1試験区とし、処理液に10分間浸漬した後、水を切り、プラスチックトレーに入れ、ラッピングし、5℃で保存した。保存中のキャベツの変色の程度を観察し、-、±、+、++、+++の5段階で評価した。結果を表2に表す。 【0017】比較例6~9 実施例3と同様に、無添加区、コウジ酸1g添加区、グルタチオン1g添加区、酵母エキス1g添加区について行った。保存中のキャベツの変色の程度を観察し、-、±、+、++、+++の5段階で評価した。結果を表2に表す。 【0018】 【表2】 [図:0001410582000001.jpg] 」 (4)甲第4号証の記載事項 本件出願日前に頒布された刊行物である甲第4号証には、以下の事項が記載されている。 記載(4a) 「【請求項1】退色した植物を金属イオンを含む溶液に接触させて、金属イオンの作用で植物の緑色を復元し、あるいは緑色に保持する方法において、 金属イオンを含む溶液に亜鉛イオンを含む溶液を使用することを特徴とする植物の緑色を復元しあるいは緑色に保持する方法。 【請求項2】亜鉛イオンを含む溶液が、鉄イオンも含有している請求項1に記載される植物の緑色を復元しあるいは緑色に保持する方法。」(特許請求の範囲) 記載(4b) 「【0010】 【発明が解決しようとする課題】従来の方法は、前記の公報に記載されるように、鉄イオン、銅イオン、マグネシウムイオン等を含む溶液で、葉緑素の緑色を復元し、あるいは、緑色に保持する技術が記載される。植物を鉄イオンを含む溶液に浸漬して、葉緑素を緑色にすると、暗色の緑色となり、全ての植物を自然な色調の緑色にできない欠点がある。銅イオンを含む溶液に浸漬する方法は、植物を綺麗な色調にできる。ただ、銅イオンの溶液に浸漬された植物は、処理後に銅の含有量が多くなる。銅は、植物に少量含まれるが、多量の銅を添加することは、健康上決して好ましくない。このため、銅イオンの作用で葉緑素を緑色にする方法は、食べ物の処理として好ましくない。さらに、植物をマグネシウムの溶液に浸漬して、緑色に処理すると、緑色に変色した葉緑素が水に溶けやすい欠点がある。このため、たとえば水に浸漬して販売する惣菜等をこの方法で処理すると、水に葉緑素が溶けて緑色となり、植物の緑色が薄くなる。また、水が緑色になると、植物をあたかも顔料や染料で着色したものと同じように見られる欠点もある。 【0011】本発明は、さらにこのような欠点を解決することを目的に開発されたものである。本発明の重要な目的は、褐変した植物を優れた色調の緑色に復元できると共に、植物を緑色に処理して緑色に長期保存できる植物の緑色を復元し、あるいは緑色に処理した状態で保存する方法を提供することにある。 【0012】 【課題を解決するための手段】本発明の植物の緑色を復元しあるいは緑色に保持する方法は、前述の目的を達成するために、退色した植物、あるいは退色していない植物を、金属イオンを含む溶液に浸漬して葉緑素を緑色にし、あるいは緑色の状態で保存できる方法を改良したものである。本発明の方法は、葉緑素を緑色にする金属イオンに亜鉛イオンを使用する。したがって、植物を亜鉛イオンを含む溶液に接触させて、葉緑素を緑色にする。本発明は、植物を亜鉛イオンを含む溶液に接触させる方法を特定するものではないが、最も簡単な方法は、植物を亜鉛イオンを含む溶液に浸漬する方法である。ただ、必ずしも植物を亜鉛イオンを含む溶液に浸漬する必要はない。亜鉛イオンを含む溶液を植物の表面に散布して、亜鉛イオンの作用で植物の緑色を復元しあるいは緑色に保持することもできる。 【0013】さらに、本発明の請求項2に記載する方法は、亜鉛イオンを含む溶液に、鉄イオンを含有させて、退色した植物の緑色を復元し、あるいは、退色していない植物を緑色に保存する。」 記載(4c) 「【0015】植物の緑色を復元し、あるいは緑色に保持する方法は、植物を亜鉛イオンを含む発色剤溶液に浸漬し、あるいは、亜鉛イオンを含む発色剤溶液を植物に散布して、発色剤溶液に接触させる。亜鉛イオンを含む発色剤溶液は、好ましくは、60~100℃で、沸騰する温度よりも低い温度に加温される。植物が加温された発色剤溶液に浸漬されると、葉緑素は、短い時間で速やかに緑色に変色される。植物を浸漬する溶液の亜鉛濃度を、濃くしても、葉緑素を緑色にできる時間は短くなる。したがって、短時間で葉緑素を緑色にする場合は、加温された亜鉛濃度の高い溶液に植物を浸漬する。植物の葉緑素をゆっくりと時間をかけて緑色にするときは、加温されない亜鉛濃度の低い溶液に浸漬する。 【0016】溶液の亜鉛濃度は、葉緑素を緑色にする時間と、溶液の温度とを考慮して最適値に調整する。たとえば、60℃以上に加熱して、浸漬する植物の葉緑素を10分程度で緑色にする溶液は、亜鉛濃度を100ppm以上とする。植物を加熱された亜鉛イオンを含む発色剤溶液に接触させて、葉緑素を緑色にできる最低の亜鉛濃度は、5ppmである。したがって、亜鉛イオンを含む発色剤溶液の亜鉛濃度は、緑色に変色させる時間と、溶液の加熱温度とを考慮して、たとえば、5ppm~5%、好ましくは10ppm~1000ppm、さらに好ましくは50~800ppmの範囲とされる。」 記載(4d) 「【0036】以上の実施例は、褐変した植物の緑色を復元する方法を例示した。ただ、本発明の方法は、緑色が褐変した植物を処理するのではなくて、緑色をしている植物を処理して、緑色が退色するのを防止することもできる。それは、植物に亜鉛を添加することにより、植物の葉緑素に含まれるマグネシウムが失われて褐変するのを防止できるからである。 【0037】 【発明の効果】本発明の植物の緑色を復元しあるいは緑色に保持する方法は、褐変した植物を優れた色調の緑色に復元できると共に、植物を緑色に処理して緑色に長期保存できる特長がある。本発明の方法で処理した植物は、水に浸漬して緑色が退色することが少なく、長時間にわたって緑色を保持できる特長もある。それは、亜鉛が、マグネシウムよりもイオン化傾向が小さく、亜鉛が水に溶解して除去されるのが防止されるからである。 【0038】さらに、亜鉛は銅のように人体に悪影響を与えることが少なく、また、鉄のように植物を黒ずんた緑色とすることもない。このため、本発明の方法で処理した植物は、自然の葉緑素に近い緑色となり、しかもその色は変色せず、さらにまた、処理した植物に薬害等の心配がない極めて優れた特長がある。 【0039】さらに、本発明の方法は、顔料や染料で着色するのではなく、植物に含まれていた葉緑素を緑色に復元させるので、たとえば、赤や紫等の花と、緑色であった葉等を含む植物を一緒に処理しても、緑色であった部分のみを緑色とし、花の部分等を緑色に着色することがない。このため、種々の植物全体を処理するにもかかわらず、緑色であった部分のみを選択して緑色に復元できる特長がある。」 (5)甲第5号証の記載事項 本件出願日前に頒布された刊行物である甲第5号証には、以下の事項が記載されている。 記載(5a) 「【請求項1】銅クロロフィル及び/又は銅クロロフィリンアルカリ金属塩、並びに還元剤の一種又は二種以上を含む水溶液に、緑色野菜類又は海草類を浸漬することを特徴とする緑色野菜類及び海草類の着色方法。 【請求項2】銅クロロフィリンアルカリ金属塩とアスコルビン酸及びそのアルカリ金属塩を共に0.5ppm以上10000ppm以下の範囲で含む水溶液に緑色野菜類又は海草類を浸漬することを特徴とする緑色野菜類及び海草類の着色方法。 【請求項3】請求項1又は請求項2記載の緑色野菜類及び海草類の着色方法において、浸漬と同時に若しくは浸漬の後に、被着色物を50℃以上に加熱することを特徴とする緑色野菜類及び海草類の着色方法。 【請求項4】請求項1、請求項2、又は請求項3のいずれかに記載された緑色野菜類及び緑色海草類の着色方法によって得られる被着色物。」(特許請求の範囲) 記載(5b) 「【0005】 【発明が解決しようとする課題】そこで本発明が解決しようとする課題は、前記の従来の着色方法に伴っていた欠点を解決し得る方法、即ち着色の前提として脱色処理を施す必要のない着色方法、さらにはこれに加えて着色後の色落ちを可及的に抑制することが可能な着色方法、並びにこれらの着色方法によって得られる被着色物を提供することにある。 【0006】 【課題を解決するための手段】本発明者は上記課題を解決せんと鋭意検討を重ねた結果、銅クロロフィル等と還元剤を含む水溶液を用いることにより、着色の前提として脱色処理を施す段階を省略することが可能であり、さらには一定の加温処理を施すことで着色後の色落ちを可及的に抑制することが可能であることを見出し本発明を完成した。」 記載(5c) 「【0014】さらに、被着色物の浸漬後にかかる被着色物を加熱する場合には、90℃以上の高温で少なくとも30秒以上加熱処理を行う必要がある。ところで、本発明方法の被着色物として用いられる「緑色野菜類及び海草類」は、天然品の有する本来の色彩が緑色である野菜類や海草類のみならず、緑色に着色することによりその商品としての価値を見出すことの可能な野菜類や海草類をも意味するものである。また、生鮮品はもとより、乾燥品、塩蔵品、ボイル品、缶詰製品、壜詰製品等をも意味するものである。ここで緑色野菜類としては、蕨、セリ、ゼンマイ、たらの芽、フキ、菜の花、山葵、野沢菜、胡瓜、ほうれんそう、アスパラ、枝豆、グリーンピース、そら豆等を;海草類としては、わかめ、昆布、海苔、もずく等を具体的に例示することができる。」 (6)甲第6号証の記載事項 本件出願日前に頒布された刊行物である甲第6号証には、以下の事項が記載されている。 記載(6a) 「1 植物を緑色に発色させる方法であって、植物に水溶性クロロフィル類を含む溶液を含浸させた後、前記含浸されたクロロフィル類を水に不溶化することを特徴とする植物の発色方法。 2 植物が元々クロロフィルを含む場合に、不溶化を、銅イオンおよび/または亜鉛イオンの存在下で、酸性溶液中で加熱することにより行う請求項1記載の植物の発色方法。」(特許請求の範囲) 記載(6b) 「〔従来の技術〕 植物が緑色を呈しているのは、葉緑素を含んでいることによる。葉緑素は、分子の中心にMg元素を有するポルフィリン化合物で、クロロフィルとも称される。このクロロフィルは、耐候性が充分でない。 そこで、従来、畳表に用いられる藺草、和菓子用の木の葉、山菜などの植物の緑色を鮮やかにし、かつ緑色の耐候性(寿命)を向上させるために、これらの植物を、銅イオンとクエン酸等の弱酸の存在下で、30分~1時間煮沸あるいは蒸すようにしている。この処理方法では、植物中のクロロフィルが、その分子中のMg元素がCu元素で置換された銅クロロフィルに変わり、安定化する、このような処理を施した藺草から得られた畳は「不変色畳」と呼ばれることもある。 〔発明が解決しようとする課題〕 しかし、上記の方法では、植物中に元々含まれていたクロロフィルを銅クロロフィルに改質しているにすぎないため、植物中のクロロフィルを多く含有する部分はより鮮やかな緑色にできるが、根白部や斑の入った部分などのようなクロロフィルの含有量の少ない部分は、発色しないか、あるいは色が悪いまま残ってしまう。そのため、多くの問題が起こる。たとえば、畳表用として用いられる藺草の場合、この藺草1は第1図に示したように、その全長100~150cmのうち、根本から約5~20cmの部分が根白部1aとなり、緑色の良質部分1bは、この根白部1aと、先から約3~10cmの先端部1cとを除いた約90~120cmの部分にしか過ぎないので、前記の処理方法を施した藺草を編んで畳表にした場合、縁の部分が白くなったり、色ムラや色調不連続が生じたりして、良質な畳表といえなくなるなどの問題があった。このような色ムラは、山菜や葉藺等、他の用途に用いられる緑色植物にも起こりうる。 このような事情に鑑み、この発明は、根白部などの色白部や斑の入った部分などのような植物の緑色でない部分を緑色に発色させる発色方法を提供することを第1の課題とし、植物の緑色の部分をより鮮やかな緑色にするとともに、植物の緑色を長時間保たせることのできる発色方法を提供することを第2の課題とする。」(第1頁左欄第18行~第2頁左上欄第20行) 記載(6c) 「〔実 施 例〕 以下にこの発明の工業的な実施例を示すが、この発明は、以下の実施例に限定されない。 -実施例1- 第4図(a)にみるように、パレット8(60mm×300mm×1500mm)中に、1パレット当たり1畳分の藺草1を入れておき、これらのパレットを10個まとめて1ロットとしたものを、第4図(b)にみる内容積800リットルの銅板で内張りした減圧釜3に入れ、内容積5m3のタンク6から、0.03重量%の銅クロロフィリンナトリウム水溶液7を液用ポンプ5aを用いて減圧釜3に供給して、減圧釜3内に銅クロロフィリンナトリウム水溶液7を満たした後、真空ポンプ4で釜内を10mmHgに減圧することにより、藺草に銅クロロフィリンナトリウム水溶液を含浸させた。 次に、減圧釜3の内部を常圧に戻し、釜内の銅クロロフィリンナトリウム水溶液を液用ポンプ5aでタンク6に戻しておいて、内容積5m3の酸液タンク13から減圧釜3内に別の液用ポンプ5bを用いて、pH3~4のクエン酸水溶液10を800l供給した後、ボイラー14から減圧釜3にスチームを送って、減圧釜3を95℃で30分間加熱した。その後、藺草1を減圧釜3から出して、水で洗浄して余分な薬品を除去し、乾燥することにより、畳表用藺草を得た。 得られた畳表用藺草は、根白部が緑色に発色していた。そしてこれを編んで得られた畳表は、従来、苦情の原因となっていた、色ムラ、根白等が目立たないものであった。」(第4頁左上欄第7行~右上欄第16行) (7)甲第7号証の記載事項 本件出願日前に頒布された刊行物である甲第7号証には、以下の事項が記載されている。 記載(7a) 「【請求項1】グルコン酸鉄を有効成分とする芝の葉色保持剤。 【請求項2】硫酸鉄、硝酸鉄、塩化鉄よりなる群より選んだ少なくとも一種とを有効成分とし、鉄の内のグルコン酸鉄由来の鉄が25重量%以上である芝の葉色保持剤。 【請求項3】硫酸鉄、硝酸鉄、塩化鉄よりなる群より選んだ少なくとも一種と、酢酸、クエン酸、乳酸よりなる群より選んだ少なくとも一種と、グルコン酸、消石灰、水とを混合反応させ、清澄ろ過してなる芝の葉色保持剤。 【請求項4】pH2.0~pH4.5の水溶液である請求項1、2、3の何れかに記載の芝の葉色保持剤。」(特許請求の範囲) 記載(7b) 「【0004】特公昭59-25760号公報には、鉄塩、エチレンジアミンテトラ酢酸、ショ糖脂肪酸エステル、アルキルベンゼンスルホン酸塩及び尿素を含有することを特徴とする芝用散布剤が記載されている。鉄塩としては、硫酸、塩酸、硝酸等の第1鉄あるいは第2鉄塩のような無機塩又はエチレンジアミンテトラ酢酸鉄が記載されている。硫酸第1鉄の施用のみでは、芝は、黒色ないし紫色を帯びた緑色となり、エチレンジアミンテトラ酢酸鉄の施用のみでは、芝には直接的影響は認められないと記載されている。 【0005】特開昭61-132581号公報には、エチレンジアミン四酢酸(以下EDTAと略称する)鉄アンモニウム塩を主成分とし必要量のMg、Mn等の微量要素を含んだ水溶液を芝生に散布して葉緑素の増殖をはかる芝生緑化剤が開示されている。又鉄とキレート結合して緑色となる有機化合物(例えばニトロソNW酸・ニトロソシェファー酸)の鉄塩の水溶液のみ又はエチレンジアミン四酢酸の鉄アンモニウム塩と併用して芝生に散布して芝生の着色と同時に鉄分その他の補給により葉緑素の増殖をはかる芝生緑化剤が開示されている。 ・・・ 【0008】 【本発明が解決しようとする課題】EDTA鉄塩のキレータであるEDTAは、自然界に本来存在しない化学合成品であり環境に残留しやすく、土壌重金属の可溶化などの環境面が懸念される。また、EDTA鉄塩はEDTA分子が大きいために、必ずしも吸収性がよいものではないので、必要量よりも過剰に施用しなければならないが、過剰の鉄がEDTAと離れた後にリン酸と水不溶の塩を形成し、りん酸の肥効を阻害するので、りん酸等の施用を増やさなければならないという不経済な面がある。しかし、鉄塩としては、これまでEDTA鉄塩よりも優れた芝の葉色保持剤は市場に登場していなかった。本発明の課題は、土壌重金属の可溶化やりん酸の肥効を阻害するEDTA鉄塩を使用することなく、芝の葉色を保持する薬剤を提供することである。 【0009】 【課題を解決するための手段】本発明者らは、前記の課題を解決するため鋭意研究を行った結果、鉄の吸収性移行性に優れ、自然界に本来存在し、植物等が通常代謝でき、環境中に残留しないもので、食品添加物としても安全性が確認されている鉄塩について検討を行った。その結果、グルコン酸の鉄塩が芝の葉色保持剤として格別の効果があることを発見し、これを用いれば課題を解決できることを発見した。さらに、グルコン酸の鉄塩を用いれば、無機の鉄塩を併用しても、グルコン酸の鉄塩単独に近い性能を出すことが出来ることを見出して、本発明に到達した。」 記載(7c) 「【0016】本発明の芝の葉色保持剤は、水に溶解または希釈して、鉄として50~300ppmの水溶液にして用いられる。芝生1m2当たり鉄として20~30mgが施用される。晩秋から冬に散布すると葉の緑色を増し、初夏に散布すると肥料の吸収を高め、根の伸長を促進し、鉄欠乏土壌で散布すると鉄欠乏による黄化を予防し、軟弱徒長しないよう窒素成分を控えたとき散布すると緑色を保持できる。 【0017】 【作用】グルコン酸鉄塩がEDTA鉄塩に優る機構は明確ではないが、次のようなことが推定される。第一に、グルコン酸はEDTAよりも分子量が小さい。第二に、グルコン酸は糖類似化合物(グルコ-スの酸化物)であり、生体親和性が高い。第三にグルコン酸は鉄のキレート容量がEDTAよりうわまる。第四に、鉄の移行を終えた後のグルコン酸はグルコン酸-6-リン酸を経てHME回路で代謝されエネルギー源となる。第五に、グルコン酸は生分解されやすいので環境に残留して重金属をキレートするなどの副作用がない。これらのことにより、グルコン酸の鉄塩を用いるとEDTA鉄塩よりも芝の鉄の吸収がよく、エネルギ-源ともなるので、芝の葉色保持効果が高くなると考えられる。」 (8)甲第8号証の記載事項 本件出願日前に頒布された刊行物である甲第8号証には、以下の事項が記載されている。 記載(8a) 「【0003】 【発明が解決しようとする課題】ぬか味噌はその独特の臭いを好む人も多いが、食生活の変化あるいはし好の変化に伴いぬか味噌の臭いは敬遠される傾向にある。また、ぬか味噌は、毎日かき混ぜて十分な管理をしないと味が酸っぱくなるが、この毎日かき混ぜる手間と独特な臭いのために、近年では利用されることが少なくなってきている。一方、豆乳、豆腐の製造の際に分離されるオカラは、一部はそのまま食用にされたり、オカラを用いた加工食品や食品の増量材等として使用されているものの、その大部分は廃棄処分されている。発明者はオカラの利用について永年研究を続けており、大豆タンパクの分解によって野菜のみならず、食肉、魚を付け込むことによっ漬物をおいしくすることを見い出した。そこで、この発明は、オカラ、特に保存に便利な乾燥オカラを用いた新規な漬物床の素を提供するものである。 【0004】 【課題を解決するための手段】この発明は上記目的を達成するために次のような構成とした。即ち、請求項1に係る漬物床の素は、乾燥オカラとイースト菌とを乾燥剤とともにパックしてなることを特徴とする。また、請求項2に係る漬物床の素は、乾燥オカラとイースト菌と塩または砂糖とを乾燥剤とともにパックしてなることを特徴とする。また、請求項3に係る漬物床の素は、乾燥オカラは水分が10~13%であり、乾燥オカラ1kgに対してイースト菌を10g~40gの割合としたことを特徴とする。また、請求項4に係る漬物床の素は、乾燥オカラ1kgに対して塩または砂糖を100g~700gの割合としたことを特徴とする。また、請求項5に係る漬物床の素は、とうがらしまたは練りがらしを入れてなることを特徴とする。」 記載(8b) 「【0010】 【実施例1】乾燥オカラ10kgとイースト菌300gからなる漬物床の素に約40度の温水5リットルを入れてよくかき混ぜ、30分放置した後、食塩を3kg入れて漬物床を得た。この床にきゅうりを一晩漬け込んだところ、サラダ感覚のみずみずしいオカラ漬けきゅうりが得られた。」 記載(8c) 「【0013】 【発明の効果】この発明は上記のように、乾燥オカラを主成分とするから、長期保存が可能であるとともに、その漬物床の調製もきわめて簡単である。また、漬物床としての保存も簡単であり手軽に漬け込むことができる。野菜は、変色することがなく野菜の風味を残した旨味のあるみずみずしい漬物を得ることができる。また、肉は大豆タンパクにより繊維が分解され、柔らかなおいしい肉とすることができる。」 (9)甲第9号証の記載事項 本件出願日前に頒布された刊行物である甲第9号証には、以下の事項が記載されている。 記載(9a) 「【0003】 【発明が解決しようとする課題】ぬか味噌はその独特の臭いを好む人も多いが、食生活の変化に伴いぬか味噌の臭いは敬遠されるとともに、毎日かき混ぜなければならないという手間がかかるために、近年では利用されることが少なくなっている。また、毎日かき混ぜて十分な管理をしないと味が酸っぱくなるという問題がある。一方、豆乳、豆腐の製造の際に分離されるオカラは、一部は食用にされ、オカラを用いた加工食品や食品の増量材等として使用されているものの、その大部分は廃棄処分されている。発明者はオカラの利用について永年研究を続けており、大豆タンパクの分解によって漬物をおいしくすることを見い出した。そこで、この発明は、オカラ、特に生絞りオカラを用いた新規な漬物床を提供するものである。 【0004】 【課題を解決するための手段】この発明は上記目的を達成するために次のような構成とした。即ち、請求項1に係る漬物床は、生絞りオカラにイースト菌を混ぜてなる床材を真空パックし、これを115~140℃で20分~50分間加熱してなることを特徴とする。また、請求項2に係る漬物床は、前記床材に食塩を混ぜることを特徴とする。また、請求項3に係る漬物床は、生絞りオカラ100重量部に対してイースト菌を0.003~0.007重量部の割合としたことを特徴とする。また、請求項4に係る漬物床は、生絞りオカラ100重量部に対して食塩を5~15重量部の割合としたことを特徴とする。また、請求項5に係る漬物床は、前記床材に塩化マグネシウムを入れることを特徴とする。」 記載(9b) 「【0010】 【実施例1】生絞りオカラ10kgにイースト菌を50g、食塩を1kgの割合で混合した床材を真空パックし、その後直ちに120℃で30分加熱して漬物床を得た。この床にきゅうりを一晩漬け込んだところ、サラダ感覚のみずみずしいオカラ漬けきゅうりが得られた。」 記載(9c) 「【0014】 【発明の効果】この発明は上記のように、使用方法がきわめて簡単であり手軽に漬け込むことができる。野菜は、変色することがなく野菜の風味を残した旨味のあるみずみずしい漬物を得ることができる。また、肉は大豆タンパクにより繊維が分解され、柔らかなおいしい肉とすることができる。」 (10)甲第15号証の記載事項 本件出願日前に頒布された刊行物である甲第15号証には、以下の事項が記載されている。 記載(15a) 「(2)パン酵母のミネラル含量 ヒト体内で見出される主要元素(C、H、O、N、S)以外に、栄養学的に重要な微量元素、即ちミネラルとして14種の金属元素がある(表1)。この14種のミネラルは必須金属あるいは必須ミネラルと呼ばれ、各金属には固有の欠乏症が解明されている。パン酵母には14種の必須ミネラルの中の9種が含まれている。パン酵母ミネラルの大部分はカリウム(K)、リン(P)でありその次にMgが多い(表2)。しかし一般にこれらの値は酵母を培養生産する際の培地の無機質含量によって一義的に決まる。」(第10頁右欄第27~41行) 記載(15b) 「表2 パン酵母のミネラル含量:必須金属について K 2,500 P 1,113 Mg 148.6 Ca 76.1 Na 25.3 Fe(mg/100g乾物) 7.2 Zn 65.6 Mn 12.8 Cu(ppm) 2.0」(第11頁左欄第1~10行) (11)甲第16号証の記載事項 本件出願日前に頒布された刊行物である甲第16号証には、以下の事項が記載されている。 記載(16a) 「【0001】 【産業上の利用分野】本発明は、ミネラル、特に亜鉛を高濃度に含有する食用酵母及びその製造方法に関するものである。」 記載(16b) 「【0019】このようにして亜鉛を取り込んだ酵母は、遠心分離、濾過等によって集菌した後、洗浄して目的の菌体を得、必要があれば凍結乾燥その他常法にしたがって乾燥菌体とし、各種の用途に使用する。また、希望するのであれば、菌体を破砕ないし菌体を溶菌して内容物を取り出し、これを利用することも可能である。」 (12)甲第17号証の記載事項 本件出願日前に頒布された刊行物である甲第17号証には、以下の事項が記載されている。 記載(17a) 「【0001】 【産業上の利用分野】本発明は、ミネラル、特に鉄を高濃度に含有する食用酵母及びその製造方法に関するものである。」 記載(17b) 「【0019】このようにして鉄を取り込んだ酵母は、遠心分離、濾過等によって集菌した後、洗浄して目的の菌体を得、必要があれば凍結乾燥その他常法にしたがって乾燥菌体とし、各種の用途に使用する。また、希望するのであれば、菌体を破砕ないし菌体を溶菌して内容物を取り出し、これを利用することも可能である。」 (13)甲第18号証の記載事項 本件出願日前に頒布された刊行物である甲第18号証には、以下の事項が記載されている。 記載(18a) 「【0001】 【産業上の利用分野】本発明は、ミネラル、特にマグネシウムを高濃度に含有する食用酵母及びその製造方法に関するものである。」 記載(18b) 「【0024】このようにしてマグネシウムを取り込んだ酵母は、遠心分離、濾過等によって集菌した後、洗浄して目的の菌体を得、必要があれば凍結乾燥その他常法にしたがって乾燥菌体とし、各種の用途に使用する。また、希望するのであれば、菌体を破砕ないし菌体膜を溶菌して内容物を取り出し、これを利用することも可能である。」 (14)甲第21号証の記載事項 本件出願日前に頒布された刊行物である甲第21号証には、以下の事項が記載されている。なお、訳文は請求人が提出した甲第21号証の抄訳を参照して、合議体が作成した。 記載(21a) 「鉄、銅、及び亜鉛等の金属は全ての生物に必須の栄養素である。」(第1頁左欄第1~2行) (15)甲第22号証の記載事項 本件出願日前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった電子的技術情報である甲第22号証には、以下の事項が記載されている。なお、訳文は請求人が提出した甲第22号証の抄訳を参照して、合議体が作成した。 記載(22a) 「様々な必須栄養素及びビタミンも酵母の生産に必要とされている。必要な栄養素及びミネラルには、窒素、カリウム、リン酸塩、マグネシウム、及びカルシウムと、微量の鉄、亜鉛、銅、マンガン、及びモリブデンが含まれる。」(9.13.4-3頁第10~12行) (16)甲第24号証の記載事項 本件出願日前に頒布された刊行物である甲第24号証には、以下の事項が記載されている。 記載(24a) 「【請求項1】退色した植物を金属イオンを含む溶液に接触させて、金属イオンの作用で植物の緑色を復元し、あるいは緑色に保持する方法において、 亜鉛鉱を破砕した亜鉛鉱粉粒末を液体に浸漬して、亜鉛鉱に含まれる亜鉛を溶解させて亜鉛イオンを含む溶液とし、この溶液に植物を接触させて植物の緑色を復元しあるいは緑色に保持する方法。」(特許請求の範囲) 記載(24b) 「【0010】 【発明が解決しようとする課題】従来の方法は、前記の公報に記載されるように、鉄イオン、銅イオン、マグネシウムイオン等を含む溶液で、葉緑素の緑色を復元し、あるいは、緑色に保持する技術が記載される。植物を鉄イオンを含む溶液に浸漬して、葉緑素を緑色にすると、暗色の緑色となり、全ての植物を自然な色調の緑色にできない欠点がある。銅イオンを含む溶液に浸漬する方法は、植物を綺麗な色調にできる。ただ、銅イオンの溶液に浸漬された植物は、処理後に銅の含有量が多くなる。銅は、植物に少量含まれるが、多量の銅を添加することは、健康上決して好ましくない。このため、銅イオンの作用で葉緑素を緑色にする方法は、食べ物の処理として好ましくない。さらに、植物をマグネシウムの溶液に浸漬して、緑色に処理すると、緑色に変色した葉緑素が水に溶けやすい欠点がある。このため、たとえば水に浸漬して販売する惣菜等をこの方法で処理すると、水に葉緑素が溶けて緑色となり、植物の緑色が薄くなる。また、水が緑色になると、植物をあたかも顔料や染料で着色したものと同じように見られる欠点もある。 【0011】本発明は、さらにこのような欠点を解決することを目的に開発されたものである。本発明の重要な目的は、褐変した植物を優れた色調の緑色に復元できると共に、植物を緑色に処理して緑色に長期保存できる植物の緑色を復元し、あるいは緑色に処理した状態で保存する方法とこの方法に使用する発色剤パックを提供することにある。」 記載(24c) 「【0020】発色剤溶液は、好ましくは、60℃以上で、沸騰する温度よりも低い温度に加温される。加温された発色剤溶液に植物が浸漬されると、葉緑素は、短い時間で速やかに緑色に変色される。植物を浸漬する溶液に多量の亜鉛鉱粉粒末を浸漬して、亜鉛濃度を濃くしても、葉緑素を緑色にできる時間は短くなる。したがって、短時間で葉緑素を緑色にする場合は、多量の亜鉛鉱粉粒末を添加して、亜鉛濃度の高い加熱された発色剤溶液に植物を浸漬する。植物の葉緑素をゆっくりと時間をかけて緑色にするときは、加温されない亜鉛濃度の低い溶液に浸漬する。」 記載(24d) 「【0040】以上の実施例は、褐変した植物の緑色を復元する方法を例示した。ただ、本発明の方法は、緑色が褐変した植物を処理するのではなくて、緑色をしている植物を処理して、緑色が退色するのを防止することもできる。それは、植物に亜鉛を添加することにより、植物の葉緑素に含まれるマグネシウムが失われて褐変するのを防止できるからである。」 (17)甲第29号証の記載事項 本件出願日後に頒布された刊行物である甲第29号証には、以下の事項が記載されている。 記載(29a) 「【請求項1】 非加熱状態で植物を酵母に接触させて、植物の緑色を復元しあるいは緑色に保持する方法であって、 前記酵母が亜鉛、銅、鉄、マグネシウムの少なくともいずれかを含んでおり、前記酵母を植物に接触させる時間が10日以上であることを特徴とする植物の緑色を復元しあるいは緑色に保持する方法。 【請求項2】 請求項1に記載の植物の緑色を復元しあるいは緑色に保持する方法であって、前記酵母を液体に混合してなる酵母液の状態で植物に接触させることを特徴とする植物の緑色を復元しあるいは緑色に保持する方法。」(特許請求の範囲) 記載(29b) 「【0032】 また浸漬させる時間は、10日間以上、好ましくは数ヶ月間、より好ましくは2ヶ月以上とする。本発明者が行った実験によれば、塩漬して褐変したキュウリに対して、加熱処理を伴わなくとも、浸漬して約1ヶ月で緑色に戻りはじめ、2ヶ月程で70%程度緑色に戻り、3か月でほぼ元の緑色が回復された。さらに、キュウリなどを塩漬する際に上記の酵母液を予め添加しておくと、褐変が抑止され緑色が維持されることも確認された。」 記載(29c) 「【0036】 上記の処理は常温または室温での長時間の処理を基本とするものである。特にキュウリの漬け物や高菜など、食感を重視する食品用途では、熱処理を可能な限り短時間、あるいは常温に近付ける。熱処理しても問題のない用途においては、加熱により短時間で処理することができる。一方、冷温に保持することで褐変を抑止することもできる。本発明者が行った試験では、常温下での処理では長時間経過すると徐々に変色することがあるが、冷温下にて行うことによりこのような変色を抑える効果が得られ、常温や室温での処理に比べてより鮮やかな緑色を得ることができることが判明した。一方、冷蔵による場合は一般に処理時間が長くなる傾向にある。本明細書において非加熱状態とは、常温もしくは室温のみならず、冷蔵の場合も包含する意味で使用する。冷蔵による場合は、好ましくは-5~8℃の範囲とする。水分中に塩分を含むため、氷点下でも氷とならずに処理できる。」 (18)甲第64号証の記載事項 本件出願日前に頒布された刊行物である甲第64号証には、以下の事項が記載されている。なお、訳文は請求人が提出した甲第64号証の抄訳を参照して、合議体が作成した。 記載(64a) 「全ての生命体における亜鉛、その生命現象における役割、及び特定機能との関連についての認識は、他の必須代謝物に比べて不当に遅れていた。この状況は、過去において適切な分析方法が欠如していたことに起因する。生物学における亜鉛の役割を定義するために十分なほど、簡単で、感度があり、精度があり、定量的な亜鉛の測定方法は、ここ20年のほどの間にようやく開発された。亜鉛の検出限界が1μg/gである初期の方法は化学的であるが(表1)、着色した亜鉛キレート複合体の形成に基づくものであり、感度が悪く最終目的に対して信頼性の低いものであることが証明された(530)。」(第81頁右欄第6~18行) (19)甲第65号証の記載事項 本件出願日後に頒布された刊行物である甲第65号証には、以下の事項が記載されている。なお、訳文は請求人が提出した甲第65号証の抄訳を参照して、合議体が作成した。 記載(65a) 「亜鉛と銅は異なる組織において追跡可能な重要な微量栄養素である。亜鉛と銅は生体構造の必須成分である。」(第1頁本文第2~3行) 記載(65b) 「亜鉛は重要な微量栄養素であり、細胞の増殖、分化、成長、発達に必要である。」(第2頁15~16行) 記載(65c) 「メタロチオネイン(MT)等の亜鉛結合タンパク質は、細胞内金属結合タンパク質である。それらはすべての生物に生存し、金属のホメオスタシスを仲介している。」(第4頁第2~3行) 記載(65d) 「銅は別の微量元素の一つであり、全ての生物種に必須の栄養素である。」(第6頁第16行) 2 各乙号証の記載事項 (1)乙第11号証 実験結果報告書である乙第11号証には、以下の事項が記載されている。 記載(11a) 「5.実験方法 5.1 材料 ・退色していない市販の生のキュウリ ・亜鉛酵母 ・硫酸亜鉛 5.2 方法 Aは、94℃に加温した水に、亜鉛酵母を入れ、25ppmの亜鉛濃度の酵母液とし、生のキュウリを25分浸漬した。 Bは、94℃に加温した水に、硫酸亜鉛を入れ、50ppmの亜鉛濃度の液とし、生のキュウリを25分浸漬した。 Cは、62℃に加温した水に、亜鉛酵母を入れ、25ppmの亜鉛濃度の酵母液とし、生のキュウリを90分浸漬した。 Dは、62℃に加温した水に、硫酸亜鉛を入れ、50ppmの亜鉛濃度の液とし、生のキュウリを90分浸漬した。 A~Dを冷蔵庫内で保存し、経過観察を行った。 5.3 評価 目視で確認するとともに、色差計(コニカミノルタ株式会社製、製品名:分光測色計 CM-5)で計測したLab(L:明度、a:色相、b:色度)を基に色調(-a/b)を算出した。-a/bの値は緑色度の指標として用いられ、-a/bの数値が1に近いほど鮮やかな緑色を示す。 Labの計測値は、別々の3か所を選択して測定し、平均値を示す。 6.結果 2日目の色差計測定において変化を確認したところ、A、C(亜鉛酵母)の方がB、D(硫酸亜鉛)よりも緑色であることが確認された。7日目と10日目においてもほぼ同様であり、7日目の色差計測定において、Bの-a/bの値が0.35から0.28に低下しているが、A、C、Dは2日目とほぼ同様の結果が得られ、10日目の色差計測定において、Bの-a/bの値がさらに0.25に低下しているが、A、C、Dはほぼ同様の結果が得られた。 目視においても同様であり、処理前に緑色のキュウリは、25ppm濃度の亜鉛酵母液に浸漬したキュウリ(A、C)の方が、50ppm濃度の硫酸亜鉛の液体に浸漬したキュウリ(B、D)よりも緑色であることが確認された。」(第1頁第13行~第2頁第10行) (2)乙第14号証の記載事項 本件出願日前に頒布された刊行物である乙第14号証には、以下の事項が記載されている。 記載(14a) 「緑色野菜の搾汁を飲料に供する為には、野菜独特の緑色を保持させることが好ましい。処がこれら搾汁を飲料として快適なPH域3.3~4.5にする為有機酸を添加したり加工中に加熱したりすると、野菜汁の緑色は緑褐色になり野菜特有の緑色が消失する。このような色調の変化を防ぐ為には、野菜汁をPH7.0~7.5に調整するか又はクロロフイル分子中のマグネシウムを銅,鉄,コバルト,マンガンなどの金属塩類と置換するなどの処置が必要となる。」(第1頁左欄第12行~右欄第5行) (3)乙第15号証の記載事項 本件出願日前に頒布された刊行物である乙第15号証には、以下の事項が記載されている。 記載(乙15a) 「実施例1 スズメツキしない鋼の缶材料を慣用の食品缶用のエナメル(白色顔料入りのアクリル塗料)で塗つた。エナメルを焼付けてから、そのエナメル塗りの板から缶の胴を作つた。サイドシームにパウダーストライプを施し、缶にビニル有機ゾル内部塗料のスプレーをかけた。缶を封じるために作られる鏡板も、通常のエポキシ-フェノールエナメル塗料を塗つてあるスズメツキをしない鋼の缶材料から製造する。 一連の試験において、冷凍えんどう豆(パーフエクシヨン変種)を解凍し、種々の種なる金属塩から由来する金属イオンを500ppmに含む水の中で漂白した。えんどう豆を漂白液につけて180゜~190°Fの温度で約6分間処理した。えんどう豆を冷いなま水で冷し、水を切り、選別してからエナメルをスプレー塗装した缶の中へ食塩1%および砂糖2%からなる予熱した塩水(180°F)と共に詰めた。 封をした缶を蒸溜レトルト中で11分間260°Fで滅菌した。缶を水で約95°Fに冷却した。滅菌した製品中の塩水のpHは、漂白処理に使用された金属塩に関連して、5.1から6.4に亘ることが分つた。 このようにして加工した後、缶を開いて、その内容物の色を0~10の等級尺度によつて評価した。従来の方法で加工されたえんどう豆の黄オリーブ色を等級0と定め、漂白したばかりのえんどう豆の色を等級10の色と定めた。そして1から9までの等級は加工したえんどう豆の緑色の強度の増加率を表わす。漂白し加工した上24時間室温で貯蔵したえんどう豆および同様に55℃(131°F)で1月間貯蔵の後のえんどう豆に与えられた色の等級を下の第1表にまとめて示す。1か月55℃における貯蔵は、普通の貯蔵温度条件下に長期間貯蔵した野菜に起る変化に相当する色変化を生じさせる加速試験である。 [図:0001410582000002.jpg] 第1表を参照すると直ちに明らかであることは本発明の方法によつて漂白したえんどう豆は、即ち漂白水に亜鉛または銅のイオンが加えられている場合、その緑色(色等級7~8)を加工してから55℃で1月間貯蔵した後でさえ保持していた(色等級6~7)が、一方亜鉛または銅以外の金属イオンを含有する漂白水で漂白したえんどう豆は加工の後1日で低い等級の緑色(即ち色等級0~3)を示し、55℃に1月間貯蔵した後では等級0~1に劣化した。」(第6頁左上欄第3行~第7頁左上欄第10行) 第6 本件明細書の記載 本件訂正後の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」といい、本件特許請求の範囲及び願書に添付した図面と併せて、「本件明細書等」ということがある。)の発明の詳細な説明には、以下の記載がある。 記載(ア) 「【0002】 【従来の技術】 植物は、葉緑素に含有されるマグネシウムが失われると、緑色を失って枯渇した色に退色する。葉緑素は、植物を金属イオンを含む溶液に浸漬し、金属イオンの作用で緑色に復元できる。この性質を利用して、退色した植物を緑色にする技術は開発されている。植物の緑色を復元する金属イオンとして、鉄イオン、銅イオン、マグネシウムイオン、亜鉛イオン等が使用される。 【0003】 【発明が解決しようとする課題】 植物を鉄イオンを含む溶液に浸漬して、植物の葉緑素を緑色にすると、暗色の緑色となり、全ての植物を自然な色調の緑色にできない。銅イオンを含む溶液に浸漬する方法は、銅イオンの溶液に浸漬されるので、植物の銅の含有量が多くなる。銅は、植物に少量含まれるが、多量の銅を添加することは、健康上決して好ましくない。このため、銅イオンの作用で葉緑素を緑色にする方法は、食べ物の処理として好ましくない。さらに、植物をマグネシウムの溶液に浸漬して、緑色に処理すると、緑色に変色した葉緑素が水に溶けやすい欠点がある。このため、たとえば水に浸漬して販売する惣菜等をこの方法で処理すると、水に葉緑素が溶けて緑色となり、植物の緑色が薄くなる。また、水が緑色になると、植物をあたかも顔料や染料で着色したものと同じように見られる欠点もある。亜鉛イオンで植物の緑色を復元する方法は、褐変した植物を優れた色調の緑色に復元でき、しかも長時間にわたって緑色を保持できる特長もある。 【0004】 ただ、亜鉛イオンで植物を緑色にする方法は、たとえば、植物を浸漬する溶液の調整に硫酸亜鉛や草木灰等を使用する。これ等を水に入れて亜鉛イオンを溶解させる。この方法は、薬品である硫酸亜鉛を使用し、あるいは種々の成分が混合されて混合成分を調整するのが極めて難しい草木灰を使用するので、安心して植物を緑色にするのが難しい。草木灰は、種々の植物を焼却して製作されるので、原料となる植物に好ましくない成分が含まれていると、これを除去するのが極めて難しい。 【0005】 本発明は、さらにこのような欠点を解決することを目的に開発されたものである。本発明の重要な目的は、褐変した植物を優れた色調の緑色に復元できることにくわて、極めて安全に植物を緑色に処理して緑色に長期保存できる植物の緑色を復元し、あるいは緑色に処理した状態で保存する方法を提供することにある。」 記載(イ) 「【0006】 【課題を解決するための手段】 本発明の方法は、植物を酵母を含む酵母液に接触させて、植物の緑色を復元し、あるいは、植物の葉緑素に含まれるマグネシウムが失われて褐変するのを防止することにより植物の緑色を保持する。酵母液は、Znを含有する酵母、Cuを含有する酵母、Feを含有する酵母、Mgを含有する酵母のいずれかまたは複数を含有する。さらに酵母は、Cr、Mn等の金属を含有する金属酵母を含むものとすることもできる。さらにまた、酵母液は、これ等の金属を複数種含むものとすることもできる。複数の金属を含む酵母を使用して、植物の色合いを調整して好ましい緑色にできる。 【0007】 酵母液の金属濃度は、たとえば1ppm以上、好ましくは3ppm以上とすることができる。酵母液は金属濃度を1ppm以上として植物を緑色に変色できる。さらに、金属濃度を3ppm以上として好ましい緑色に変色できる。酵母液の金属濃度は1000ppm以下とすることができる。酵母液の金属濃度を高くすると添加する金属酵母のコストが高くなる。 【0008】 酵母液は、50~100℃に加温して植物をより速やかに緑色に変色できる。酵母液の温度は、好ましくは60~95℃とする。酵母液を植物に接触させる時間は、たとえば5分以上、好ましくは15分以上とする。また、酵母液を植物に接触させる時間は、好ましくは60分以下とする。植物が軟化するのを少なくして能率よく緑化するためである。植物の軟化は、酵母液に乳酸カルシウム等を添加して少なくできる。」 記載(ウ) 「【0010】 植物の緑色を復元し、あるいは緑色に保持する方法は、酵母を含む酵母液に植物を浸漬し、あるいは、酵母液を植物に散布して酵母液に接触させる。酵母液に含まれる酵母は金属を含有している。酵母に含有される金属は、Zn、Cu、Fe、Mg、Se、Mo、Cr、Mn等である。これ等の金属を含有する酵母は、金属を添加している培地で培養、酵素処理して不活性化し、洗浄の後、不溶成分を除去して、乾燥して製作される。たとえばZnを含有する酵母は、培地に塩化亜鉛を添加して培養され、Cuを含有する酵母は培地に硫酸銅を添加して培養される。金属は塩化物や硫化物の状態で培地に添加されて、金属を含有する酵母を培養する。 【0011】 酵母を含む酵母液は、好ましくは、60~100℃で、沸騰する温度よりも低い温度に加温される。植物が加温された酵母液に浸漬されると、葉緑素は、短い時間で速やかに緑色に変色される。植物を浸漬する酵母液の酵母の濃度を濃くしても、葉緑素を緑色にできる時間は短くなる。したがって、短時間で葉緑素を緑色にする場合は、加温された酵母濃度の高い溶液に植物を浸漬する。植物の葉緑素をゆっくりと時間をかけて緑色にするときは、加温されない酵母濃度の低い酵母液に浸漬する。 【0012】 酵母液の酵母濃度は、酵母の金属含有量と、葉緑素を緑色にする時間と、溶液の温度とを考慮して最適値に調整する。たとえば、60℃以上に加熱して、浸漬する植物の葉緑素を10分程度で緑色にする溶液は、金属濃度が5ppm以上となるように酵母の添加量を調整する。植物を加熱された酵母液に接触させて、葉緑素を緑色にできる最低の金属濃度は、1ppmである。したがって、酵母液の亜鉛濃度は、植物を緑色に変色させる時間と、溶液の加熱温度とを考慮して、たとえば、1ppm~1000ppm、好ましくは3ppm~300ppm、さらに好ましくは5~100ppmの範囲とされる。」 記載(エ) 「【0013】 植物は、溶液に浸漬すると柔らかくなる性質がある。とくに、加熱された酵母液に浸漬すると、水分を吸収して柔らかくなる性質がある。溶液に浸漬して柔らかくなるのは、たとえば、酵母液に乳酸カルシウム等のカルシウムイオンを添加して防止できる。カルシウムイオンは、植物が水分を吸収して膨潤状態となるのを防止する。乳酸カルシウム等のカルシウム添加量は、植物の種類、浸漬時間、溶液温度等を考慮して最適値に調整する。カルシウムの添加量を多くすると、植物が柔らかくなるのを効果的に防止できる。カルシウムの添加量は、たとえば、30~1000ppm、好ましくは100~500ppm、さらに好ましくは150~400ppmとされる。 【0014】 さらに、酵母液には、他の金属イオンを酵母に加えて添加することもできる。たとえば、鉄イオンや銅イオン等を添加して、植物を緑色にする時間を短くし、あるいは、植物によっては色調を濃い緑色とすることもできる。酵母液に接触させて緑色になった植物は、その後、調整液に浸漬して色調を調整し、あるいは、短時間で洗浄を完了することもできる。 【0015】 調整液は、クエン酸のように、金属イオンと反応して錯塩を作るものが使用できる。緑色になった植物がクエン酸の溶液に浸漬されると、遊離して植物表面に付着している金属イオンがクエン酸と反応し、錯塩となって分離できる。このため、クエン酸の溶液に浸漬して、植物を短時間で水洗できる。 【0016】 さらに、調整液には、還元糖や還元剤を含ませることもできる。還元糖や還元剤の溶液に、緑色になった植物を浸漬すると、顔料や染料で人工的に着色したような不自然な色が調整される。また、処理後における植物の変色を防止できる。それは、還元糖や還元剤が、酸化を防止して、変色するのを少なくするからである。さらに、還元糖や還元剤で色調を調整する方法は、酵母液の酵母濃度を高くし、短時間で植物を緑色にし、その後に、調整液で色調を調整することにより、自然な発色の植物を短時間で処理できる特長がある。」 記載(オ) 「【0018】 【実施例】 [実施例1] 塩蔵して退色したワラビ、たらの芽、山ぜり、キュウリ等の惣菜を下記のように処理して緑色を復元させる。 (1)酵母液に惣菜を浸漬して緑色に復元する処理 酵母液は、下記のようにして製作する。 1リットルの水に、水溶性亜鉛酵母(米国 Grow Company,Inc.製 Soluble Zinc Yeast)を489mg添加して酵母液とする。この酵母は5重量%の亜鉛を含有するので、酵母液は24.5ppmの亜鉛を含有する。 【0019】 この酵母液を90℃に加熱して、150gのワラビ、たらの芽、山ぜり、キュウリ等の惣菜を浸漬する。浸漬された全ての惣菜は、約5分経過すると変色が開始される。5~15分浸漬した後、ワラビ、たらの芽、山ぜり、キュウリ等の惣菜を酵母液から取り出す。 【0020】 (2)緑色に復元した惣菜を調整液に浸漬して色調を調整して色止めする処理 調整液は、下記のようにして製作する。 1リットルに水に、 クエン酸………………………1000mg 還元糖…………………………1000mg 還元剤……………………………500mg を添加して溶解させる。 【0021】 還元糖にブドウ糖を、還元剤にアスコルビン酸を使用して調整液とし、調整液を60~65℃に加温し、加温された調整液に、(1)の処理の完了した惣菜を酵母液から取り出して浸漬する。惣菜は、この調整液に30分~1時間浸漬して、色止めする。 【0022】 その後、調整液から惣菜を取り出し、一晩から一昼夜、清水に浸漬して塩抜きして葉緑素を緑色にした食品とする。処理された惣菜を、30日清水に浸漬すると、水は緑色に変色せず、また、惣菜の緑色は変色しなかった。 【0023】 [実施例2] 1リットルの水に、100mgの水溶性亜鉛酵母を添加して酵母液を製作する以外、実施例1と同じようにして、退色したワラビを自然な緑色に変色させることができる。この酵母液は5ppmの亜鉛を含有している。 【0024】 [実施例3] さらに、1リットルの水に40mgの水溶性亜鉛酵母を添加して酵母液を製作する以外、実施例1と同じように処理すると、退色したワラビは薄い緑色になった。この酵母液は2ppmの亜鉛を含有している。さらに、この実施例において、水溶性亜鉛酵母の添加量を20mgとして亜鉛濃度を1ppmとする酵母液を調整して、ワラビを処理するとワラビは淡い緑色に変色した。」 記載(カ) 「【0038】 以上の実施例は、酵母液に添加する酵母に、Znを含有する酵母、Cuを含有する酵母を使用したが、本発明はこれ等の酵母に代わって、あるいはこれ等の酵母に加えて、Feを含有する酵母、Mgを含有する酵母、Seを含有する酵母、Moを含有する酵母、Crを含有する酵母、Mnを含有する酵母のいずれかを使用して、退色した植物を緑色に変色させることができる。酵母液は、異なる金属を含有する複数種の酵母を添加することができ、また金属イオンを添加することもできる。酵母と金属イオンを添加している酵母液は、酵母の作用で植物を緑色に変化できるので、金属イオンの濃度を低くして植物を自然な緑色に変色できる。」 記載(キ) 「【0039】 さらに、以上の実施例は、褐変した植物の緑色を復元する方法を例示した。ただ、本発明の方法は、緑色が褐変した植物を処理するのではなくて、緑色をしている植物を処理して、緑色が退色するのを防止することもできる。それは、植物に亜鉛を添加することにより、植物の葉緑素に含まれるマグネシウムが失われて褐変するのを防止できるからである。」 記載(ク) 「【0040】 【発明の効果】 本発明の方法は、褐変した植物を優れた色調の緑色に復元できると共に、植物を緑色に処理した状態で長期保存できる特長がある。とくに本発明の方法は、酵母を使用することにより、安全な方法であって、しかも酵母の添加量を少なくして金属濃度の低い酵母液で植物を緑色に変色できる特長がある。」 第7 無効理由についての当審合議体の判断 1 当審合議体は、以下に示すとおり、無効理由1~13のいずれについても理由がないものと判断する。 理由は以下のとおりである。なお、各無効理由の内容を考慮し、事案に鑑み無効理由13から判断する。 2 無効理由13について (1)特許法第36条第6項第2号(明確性要件)の判断について 特許法第36条第6項第2号は、特許請求の範囲の記載に関し、特許を受けようとする発明が明確でなければならない旨規定する。この趣旨は、特許請求の範囲に記載された発明が明確でない場合には、特許の付与された発明の技術的範囲が結果的に不明確となり、第三者に不測の不利益を及ぼすことがあり得るため、そのような不都合な結果を防止することにある。そして、特許を受けようとする発明が明確であるか否かは、特許請求の範囲の記載のみならず、願書に添付した明細書の記載及び図面を全体として理解した上で、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断される。 (2)本件発明における「金属酵母液」又は「酵母液」の記載について ア 本件特許請求の範囲の請求項1~5には、「Zn含有酵母を含む金属酵母液」等との記載があり、「金属酵母液」が「Zn含有酵母」等の金属含有酵母を含むものであることが特定されている。また、「金属酵母液」又は「酵母液」なる文言のみからは、前者が「金属酵母を含む液」を意味し、後者が「酵母を含む液」を意味すると理解することは、一般的な文章における用語の解釈として自然であるといえる。 イ ここで、本件明細書等を全体として理解するため、それらの記載を参照してみることとする。本件明細書には、「これ等の金属を含有する酵母は、金属を添加している培地で培養、酵素処理して不活性化し、洗浄の後、不溶成分を除去して、乾燥して製作される。」との記載(記載(ウ))があるところ、参考文献1(特開2001-25373号公報の【0006】)に記載されるような酵母エキスの一般的な製造方法を参酌すると、本件明細書の上記記載は酵母エキスの製造方法に対応するものと認められる。 したがって、本件明細書等の記載全体を踏まえて理解すれば、請求項1~5に記載された「Zn含有酵母」等の金属含有酵母には、菌体そのもののみならず、菌体を破砕ないし溶菌して内容物を取り出したもの(酵母エキス)をも包含して理解すべきことは明らかである。 ウ また、本件明細書に記載された実施例において、金属含有酵母として、亜鉛含有パン酵母のほかに、水溶性亜鉛酵母及び水溶性銅酵母が用いられていることも、金属含有酵母に関する上記の理解と整合している。 そして、参考文献1(特開2001-25373号公報の【0006】)に記載されるような酵母エキスの一般的な製造方法を参酌しても明らかなように、水溶性酵母が「酵母中の蛋白質成分などを自己消化するか又は酵素により分解した後、不溶性成分を遠心分離などにより除去し、水溶性成分を濃縮及び乾燥した」ものを意味することは当業者の技術常識であり、このことは、参考文献2(本願出願後に頒布された国際公開第2020/027283号)の[0018]において、「このような亜鉛含有酵母(以下、亜鉛酵母とも表記する)は、不溶性成分を含むものと水溶性のもの(すなわち、亜鉛酵母エキス)とが市販されているが、本発明ではどちらも使用できる。特に限定されないが、不溶性成分を含む亜鉛酵母としては、ミネラル酵母シリーズ(亜鉛)(オリエンタル酵母工業株式会社)や亜鉛酵母10%(メディエンス株式会社)やHigh Zinc Yeast(Grow Company, Inc.)等を、水溶性の亜鉛酵母としては、ミネラル酵母エキス「イーストリッチシリーズ(亜鉛)」(オリエンタル酵母工業株式会社)やSoluble Zinc Yeast(Grow Company, Inc.)等を例示できる。」と記載されていることとも合致している。 エ さらに、本件特許出願前に頒布された甲第16号証~甲第18号証の記載(記載(16a)、記載(16b)、記載(17a)、記載(17b)、記載(18a)、記載(18b))を参酌しても明らかなように、亜鉛含有酵母等の金属含有酵母について、遠心分離、濾過等によって集菌した後、洗浄して得た菌体を必要に応じて乾燥したもののほか、菌体を破砕ないし溶菌して内容物を取り出したものを利用することが本件特許出願時における当業者の技術常識であったことからも、「Zn含有酵母」等の金属含有酵母としては、遠心分離、濾過等によって集菌した後、洗浄して得た菌体自体に加え、菌体を破砕ないし溶菌して内容物を取り出したもの(酵母エキス)が含まれると当業者は把握できる。 オ 以上を総合すると、本件特許請求の範囲の請求項1~5における「Zn含有酵母を含む金属酵母液」等との記載について、当業者は、文言から一応理解できる「Zn含有酵母」等の金属含有酵母そのものを含む液のみならず、「Zn含有酵母」等の金属含有酵母の菌体を破砕ないし溶菌して内容物を取り出したもの(酵母エキス)を含む液をも含んだ意味であると通常把握できることから、それら記載が第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえない。 カ 「金属酵母液」又は「酵母液」の記載についての請求人の主張について 「金属酵母液」又は「酵母液」の記載についての請求人の主張は、それら記載が一般的な技術用語ではなく、本件明細書においても定義されていないことなどから、本件明細書の記載及び本件特許出願時の技術常識を参酌してもそれら記載は不明確であるというものであるが、上記ア~オのとおり、本件明細書等の記載、本願出願時における技術常識等を参酌すると、「Zn含有酵母を含む金属酵母液」等との記載は、「Zn含有酵母」等の金属含有酵母の菌体そのもの又は菌体を破砕ないし溶菌して内容物を取り出したもの(酵母エキス)を含む液を意味することが明らかであり、当該主張を踏まえても、それら記載が第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえないことは上述のとおりである。 なお、以上のとおり、本件特許請求の範囲における「Zn含有酵母を含む金属酵母液」等との記載については、金属含有酵母の菌体そのもの又は菌体を破砕ないし溶菌して内容物を取り出したものを含む液を意味するものと解釈できることから、無効理由1~12においても、当該解釈に基づいて判断を行うこととする。 (3)本件発明における「緑色を保持する方法」と「緑色を保存する方法」の記載について ア 本件発明1~5に係る請求項1~5には「緑色を保持する方法」と記載される一方、本件発明6~11に係る請求項6~11には「緑色を保存する方法」と記載されており、両者はその文言が一致していない。 イ そのため、それら文言のみからは、両者が同じ意味であるのかが一義的に明らかではないが、本件明細書を参酌すると、「緑色を保持する方法」と「緑色を保存する方法」を異なる意味で使い分けていることを示唆する記載はなく、また、その必要性もない。さらに、本件発明6~11が本件発明1~5を引用するものであることも踏まえると、それら文言が同じ意味であると解釈することができ、それら文言が一致していないことで第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえない。 (4)小括 したがって、本件発明1~11の特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たさない特許出願に対してされたものとはいえず、同法第123条第1項第4号の規定により、本件発明1~11に係る特許を無効とすべきものではない。 3 無効理由1について (1)甲第1号証に記載された発明 甲第1号証には、酵母を含む漬床を調製した後に(記載(1b))、当該漬床に水を加えてよく撹拌したのち静置し、得られた上澄液を浅漬用漬液として調製したこと(記載(1c))が記載され、キウリを当該漬液に約1時間接触させることでキウリの浅漬けを得ることが記載されている(記載(1e))。 よって、甲第1号証には、 「おからにパン粉を加えて水分を調整したものに食塩を加えて混捏した混合物に、別に調整したヨモギエキス、乳酸菌および酵母を添加して得た漬床に水を加え、よく撹拌したのち静置して、得られた上澄液を浅漬用漬液としてキウリを漬けることにより、浅漬けキウリを得る方法。」の発明が記載されているといえる(以下「甲1-1発明」という。)。 また、甲第1号証には、酵母を含む漬床を調製した後に(記載(1b))、当該漬床にキウリを漬け込んで漬物を得たこと(記載(1d))が記載され、当該漬床にキウリやナスなどの野菜を漬けることにより、元の色彩を残した色の鮮やかな漬け物を得ることができることも記載されている(記載(1f))。 よって、甲第1号証には、 「おからにパン粉を加えて水分を調整したものに食塩を加えて混捏した混合物に、別に調整したヨモギエキス、乳酸菌および酵母を添加して得た漬床にキウリを漬け込み、元の色彩を残した色の鮮やかなキウリの漬物を得る方法。」の発明が記載されているといえる(以下「甲1-2発明」という。)。 (2)本件発明1との対比・判断 ア 対比 本件発明1と甲1-1発明とを対比すると、キウリは植物に相当することから、ともに「植物を液に接触させる、方法。」である点で一致し、以下の点で相違する。 相違点A1-1:植物を接触させる液について、本件発明1は「金属酵母液」であるのに対して、甲1-1発明は「おからにパン粉を加えて水分を調整したものに食塩を加えて混捏した混合物に、別に調整したヨモギエキス、乳酸菌および酵母を添加して得た漬床に水を加え、よく撹拌したのち静置して、得られた上澄液である浅漬用漬液」である点。 相違点A1-2:用いる酵母について、本件発明1は「Zn含有酵母」であるのに対して、甲1-1発明はそのような特定がない点。 相違点A1-3:本件発明1は「植物の緑色を復元し、あるいは、植物の葉緑素に含まれるマグネシウムが失われて褐変するのを防止することにより植物の緑色を保持する方法。」であるのに対して、甲1-1発明は「浅漬けキウリを得る方法。」である点。 また、本件発明1と甲1-2発明とを対比すると、キウリは植物に相当すること、また、キウリなどの緑色の野菜を漬ける場合には元の色彩を残すことで緑色に保持されるといえることから、「植物を酵母を含むものに接触させて、植物の緑色を保持する方法。」である点で一致し、以下の点で相違する。 相違点A1-4:植物を接触させる酵母を含むものについて、本件発明1は「金属酵母液」であるのに対して、甲1-2発明は「おからにパン粉を加えて水分を調整したものに食塩を加えて混捏した混合物に、別に調整したヨモギエキス、乳酸菌および酵母を添加して得た漬床」である点。 相違点A1-5:用いる酵母について、本件発明1は「Zn含有酵母」であるのに対して、甲1-2発明はそのような特定がない点。 相違点A1-6:植物の緑色を保持する方法について、本件発明1は「植物の葉緑素に含まれるマグネシウムが失われて褐変するのを防止することにより」との特定がされ、かつ、「あるいは」との特定により、当該方法との択一的な選択肢として「植物の緑色を復元」する「方法」との特定がされているのに対して、甲1-2発明はそのような特定がない点。 イ 相違点A1-1の判断 (ア)甲1-1発明における浅漬用漬液とされる上澄液について 甲第1号証の実施例に記載された上澄液は、おからにパン粉を加えて水分を調整したものに食塩を加えて混捏した混合物に、別に調整したヨモギエキス、乳酸菌および酵母を添加して漬床を得た上で、当該漬床に水を加え、よく撹拌したのち静置することで得られたものである。さらに、記載(1b)及び記載(1c)を参酌すると、酵母5gを含む漬床5kgに水500lを加え、よく撹拌したのち静置して得ており、酵母に対して重量比で100000倍の水を加えた上で静置することが記載されている。以上の調製過程を踏まえれば、当該上澄液に酵母が含まれている旨の記載やその示唆があるとは認められない。 (イ)甲第72号証に基づく請求人の主張について 請求人は、上申書(4)、2頁において、甲第72号証には、ドライイースト6gに蒸留水40ccを加え、24時間静置して得られる上澄液について、その一部を顕微鏡で観察したところ酵母を確認できたことが記載されているところ、その記載も踏まえ、請求人は甲第1号証の実施例に記載された上澄液は当然酵母が含まれているのが自然であると主張している。 しかしながら、甲第1号証の実施例に記載された上澄液と、甲第72号証に記載された上澄液とは、その調製方法が大きく異なり、再現実験とはなっていないことから、甲第72号証の実験結果をもって、甲1-1発明における上澄液に酵母が含まれていると合理的に推認することはできないし、上澄液が酵母を含めることを想定したものともいえないから、上記出願人の主張は採用できない。 (ウ)甲第86号証に基づく請求人の主張について 請求人は、弁駁書、19~21頁において、甲第1号証の筆者が発明者として記載されている甲第86号証では、甲1-1発明の上澄液と同様の調製方法(実施例1)から製造された上澄液からなる乳酸菌飲料において、酵母が「4.0×106/ml」含まれるとの分析結果が示されている(表1)ことから、甲1-1発明の上澄液にも酵母が含まれていることは明らかである旨主張している。 しかしながら、甲1-1発明の上澄液の調製方法に用いる物質の種類やその配合比等は甲第86号証の実施例1に記載の調製方法におけるものとは異なり、異なる調製方法により調製された上澄液が同一のものであるとはいえないから、甲第86号証の実施例1に記載の乳酸菌飲料に酵母が含まれることが甲1-1発明の上澄液が酵母を含むことの理由とはならない。 したがって、上記請求人の主張は採用できない。 (エ)判断 してみると、甲1-1発明の浅漬用漬液は酵母を含むものとは認められないことから、相違点A1-1は実質的相違点である。 ウ 相違点A1-2の判断 (ア)本件発明1における「Zn含有」なる記載の意味について 本件発明1における「Zn含有」なる記載について、その文言自体はZnを含むことのみを意味しており、その含有量については何ら特定するものではないと解釈できる。 また、本件明細書の【0007】において、「酵母液の金属濃度は、たとえば1ppm以上、好ましくは3ppm以上とすることができる。酵母液は金属濃度を1ppm以上として植物を緑色に変色できる。さらに、金属濃度を3ppm以上として好ましい緑色に変色できる。酵母液の金属濃度は1000ppm以下とすることができる。」との記載があるが(記載(イ))、当該記載は酵母液として好ましい金属濃度を例示しているものに過ぎないことからも、本件発明1においてZn含有量は何ら特定されていないものと認められる。 (イ)酵母全般においてZnが含有されているか否かについて 甲第21号証、甲第22号証、甲第64号証及び甲第65号証に記載されるように、Znが酵母又は生物全般において必須の元素であると知られていたことや、甲第15号証に記載されるように、少なくとも一部の酵母においてはZnを含む様々な金属元素の具体的な含有量が分析されていたことを踏まえれば、酵母全般においてZnが含有されているものと認められる。 (ウ)被請求人の主張について 被請求人は、答弁書、31~32頁及び上申書(2)、3頁において、酵母には多種多様なものが存在することが記載された乙第2号証の記載とともに、甲第21号証、甲第22号証、甲第64号証及び甲第65号証に記載のessentialとの英単語は必須という意味のほかに重要という意味があることが記載された乙第12号証の記載も提示しつつ、甲第21号証及び甲第22号証には亜鉛等の金属が重要である旨の一般論を説明するに過ぎず、全ての酵母に必ず亜鉛等の金属が含まれることを開示していないと主張している。 しかしながら、生物学の分野におけるessentialの文言は、参考文献3(株式会社東京化学同人、生化学辞典、第4版、2007年、第1074~1075頁)に示されるように、必須アミノ酸(essential amino acids)や必須脂肪酸(essential fatty acids)の例のように必須という意味で使用されるという技術常識を踏まえれば、生物学分野における学術文献である甲第21号証、甲第22号証、甲第64号証及び甲第65号証においても、essentialの語を必須という意味で解釈するのが自然である。 また、酵母には多種多様なものが存在するという一般論が存在するとしても、そのことをもって各種金属元素を含有しないものが存在することを意味するとはいえない。 したがって、上記被請求人の主張は採用できない。 (エ)判断 してみると、甲1-1発明の酵母はZnを含有するものと認められることから、相違点A1-2は実質的相違点ではない。 エ 相違点A1-3の判断 (ア)甲1-1発明の「浅漬けキウリを得る方法。」について 甲第1号証の冒頭には、「この漬床は、・・・1日後に元の色彩を残した色の鮮やかな漬物を得ることができる。・・・また、この漬床を水に懸濁して得た上澄液は、浅漬用の漬液として利用でき、この漬液に1時間ほど野菜を漬けることにより容易に浅漬けが得られる。」と記載(記載(1a))されており、色の鮮やかな漬物と浅漬けとは別のものとして記載されている。また、実施例で得られた浅漬けのキウリについても、「漬液にも臭いは生じなかった。」との記載(記載(1d))や「この漬床から得られる漬液は、キウリなどの野菜にかけることにより、1時間程度の短時間で浅漬けを得ることができるとともに、1日後においても同様の浅漬けを得ることができ、漬液に臭気を生じることはない。」との記載(記載(1f))は存在するものの、得られた浅漬けのキウリの緑色が復元すること又は植物の葉緑素に含まれるマグネシウムが失われて褐変するのを防止することにより緑色が保持されることは記載されていない。 (イ)請求人の主張について 請求人は、上申書(4)、2~4頁及び弁駁書、21~23頁において、甲第1号証における「1日後においても同様の浅漬けを得ることができ」との記載について、「色あざやかな漬物になる」なる項目中の記載であり、漬物についても「元の色彩を残した色の鮮やかな漬物」との記載を受けた「同様の漬物」との記載があることを踏まえると、「同様の浅漬け」における「同様」とは「元の色彩を残した色の鮮やかな」という意味である旨主張している。 しかしながら、甲第1号証においては、「色あざやかな」又は「色の鮮やかな」なる文言は漬物のみに用いられており、浅漬けに用いられていないこと、また、記載(1f)における 「 マメ類、穀類およびイモ類などの利用残渣にヨモギエキス、乳酸菌および酵母を添加して発酵させた漬床は、キウリやナスなどの野菜を漬けることにより、重石をのせることなく、1日後に元の色彩を残した色の鮮やかな漬物を得ることができる。 さらに2~3日漬けておいても同様の漬物を得ることができる。・・・ また、この漬床から得られる漬液は、キウリなどの野菜にかけることにより、1時間程度の短時間で浅漬けを得ることができるとともに、1日後においても同様の浅漬けを得ることができ、漬液に臭気を生じることはない。」 との記載全体を踏まえれば、下線を付した「同様の」なる文言は、その直前に記載された「浅漬け」と同様であることを意味しているに過ぎず、当該文言によって、漬物のみに用いられている「色あざやかな」又は「色の鮮やかな」なる修飾句が浅漬けに係るものではないと解釈するのが妥当である。 したがって、上記主張は採用できない。 (ウ)判断 してみると、甲1-1発明は「植物の緑色を復元し、あるいは、植物の葉緑素に含まれるマグネシウムが失われて褐変するのを防止することにより植物の緑色を保持する方法。」ではなく、相違点A1-3は実質的相違点である。 オ 相違点A1-4の判断 (ア)「金属酵母液」の「液」の技術的意味について 「液」とは、その用語の意味として、参考文献4(新村出編、株式会社岩波書店、広辞苑、第5版、1998年、第288頁)には「流動する物質。水分。しる。」と記載されているように、「水分などの流動する物質」を意味するのが本件特許出願日当時の技術常識である。 そこで、本件発明1の「金属酵母液」についても、「水分などの流動する物質」であることが特定されているものとして検討する。 (イ)甲1-2発明における漬床について 甲1-2発明の認定の根拠とした実施例1では、「おからにパン粉を加え、水分が60%になるように調整したもの1kgに食塩100gを加え、よく混捏する。この混合物に、別に調整したヨモギエキス40ml、乳酸菌(株式会社ビオック製乳酸菌、ペジオコッカス ハロフィルス(P.halophilus))5kgおよび酵母(株式会社ビオック製酵母味噌用、Zygosaccharomycess rouxii)5gを添加し、よく混合したのちポリエチレン製袋に真空包装し、10℃にて2週間熟成」することで漬床を得ているところ(記載(1b))、漬床の調製において添加された成分のうち重量比率で8割近くは乳酸菌であり、途中でヨモギエキスが添加されることを踏まえても、最終的に得られる漬床に含有される水分量は、全体の1割ほどであると認められる。 してみると、漬床が水分を一定程度含有するものであるとしても、全体として「水分などの流動する物質」であるとは認められない。 (ウ)請求人の主張について 請求人は、上申書(4)、3~4頁において、漬床に含まれる食塩は浸透圧により野菜の細胞中の水分を漬床に移動させるとの甲第73号証の記載を参照しつつ、量の多寡は別として、漬床には水分が必ず含まれており、その水分には酵母も含まれていると主張している。 しかしながら、本件発明1における「植物をZn含有酵母を含む金属酵母液に接触させて、」なる記載は、植物を接触させる対象が「Zn含有酵母を含む金属酵母液」であることを特定しており、接触させた後に野菜の水分が漬床に移動するなどにより結果的に「Zn含有酵母を含む金属酵母」の「液」となる場合は含まれないと理解すべきことから、請求人の主張は採用できない。 また、請求人は、弁駁書、24~26頁において、甲第87号証を援用して、甲第1号証の乳酸菌の添加量「5kg」は誤記であり、正しい「5g」であるとすると、漬床の水分量は55.7%となり、10%の水を添加しただけで上澄液が調製される(記載(1c))ほどの大量の水分を含む漬床は「水分などの流動物質である」旨主張している。 仮に、請求人の主張どおり、甲第1号証の乳酸菌の添加量に誤記があり、漬床の水分量が55.7%であったとしても、甲第1号証には、「おからにパン粉を加え、水分が60%になるように調整したもの1kgに食塩100gを加え、よく混捏する。・・・」との記載があり(記載(1b))、「混捏」できるものは液状であるとはいえず、その後液状の物質はヨモギエキスしか加えられておらず、その量は40mlと全体の量からみてわずかであるから、漬床が液状であるとはいえない。なお、上澄液を得る際には10%の水ではなく、100倍の重量の水(漬床5kgに対し500lの水)を加えており、10%の水を添加しただけではない。 したがって、上記請求人の主張は採用できない。 (エ)判断 してみると、甲1-2発明における「漬床」は「液」ではなく、相違点A1-4は実質的相違点である。 カ 相違点A1-5の判断 上記ウと同様の理由により、甲1-2発明の酵母はZnを含有するものと認められることから、相違点A1-5は実質的相違点ではない。 キ 相違点A1-6の判断 甲第1号証には、甲1-2発明の元の色彩を残した色の鮮やかなキウリの漬物を得る方法について、「植物の葉緑素に含まれるマグネシウムが失われて褐変するのを防止することにより」元の色彩を残すことは記載されておらず、植物の緑色を復元することも記載されていないから、上記エで述べたのと同様に、甲1-2発明は、「植物の葉緑素に含まれるマグネシウムが失われて褐変するのを防止することにより」植物の緑色を保持する方法であるとはいえない。また、甲1-2発明は、植物の緑色を復元する方法であるともいえない。 してみると、相違点A1-6は実質的相違点である。 ク まとめ したがって、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明であるとはいえない。 (3)本件発明2~5との対比・判断 ア 対比 本件発明1と本件発明2~5とは、金属酵母液に含まれる酵母が「Zn含有酵母」であるか、「Cu含有酵母」、「Fe含有酵母」、「Mg含有酵母」又は「Cr、Mnのいずれかの金属含有酵母」であるかという点のみで相違することから、本件発明2~5と甲1-1発明とを対比すると、上記の相違点A1-1及び相違点A1-3のほか、以下の点で相違する。 相違点A2-2:用いる酵母について、本件発明2は「Cu含有酵母」であるのに対して、甲1-1発明はそのような特定がない点。 相違点A3-2:用いる酵母について、本件発明3は「Fe含有酵母」であるのに対して、甲1-1発明はそのような特定がない点。 相違点A4-2:用いる酵母について、本件発明4は「Mg含有酵母」であるのに対して、甲1-1発明はそのような特定がない点。 相違点A5-2:用いる酵母について、本件発明5は「Cr、Mnのいずれかの金属含有酵母」であるのに対して、甲1-1発明はそのような特定がない点。 また、本件発明2~5と甲1-2発明とを対比すると、上記の相違点A1-4及び相違点A1-6のほか、以下の点で相違する。 相違点A2-5:用いる酵母について、本件発明2は「Cu含有酵母」であるのに対して、甲1-2発明はそのような特定がない点。 相違点A3-5:用いる酵母について、本件発明3は「Fe含有酵母」であるのに対して、甲1-2発明はそのような特定がない点。 相違点A4-5:用いる酵母について、本件発明4は「Mg含有酵母」であるのに対して、甲1-2発明はそのような特定がない点。 相違点A5-5:用いる酵母について、本件発明5は「Cr、Mnのいずれかの金属含有酵母」であるのに対して、甲1-2発明はそのような特定がない点。 イ 相違点A2-2、相違点A3-2、相違点A4-2、相違点5-2、相違点A2-5、相違点A3-5、相違点A4-5及び相違点5-5の判断 相違点A1-2又は相違点A1-5と、相違点A2-2、相違点A3-2、相違点A4-2、相違点5-2、相違点A2-5、相違点A3-5、相違点A4-5又は相違点5-5とは、金属含有酵母に含まれる金属の種類が「Zn含有酵母」であるか、「Cu含有酵母」、「Fe含有酵母」、「Mg含有酵母」又は「Cr、Mnのいずれかの金属含有酵母」であるかという点のみで異なる。 しかし、上記(2)ウに記載のとおり、甲第21号証、第22号証及び第65号証に記載されるように、Cu、Fe又はMgが酵母又は生物全般において必須の元素であることが知られていた。 また、甲第22号証に記載されるように、Mnが酵母又は生物全般において必須の元素であると知られていたことや、甲第15号証に記載されるように、少なくとも一部の酵母においてはMnを含む様々な金属元素の具体的な含有量が分析されていたことを踏まえれば、酵母全般において少なくともMnが含有されているものと認められる。 そして、本件発明2~5において金属の含有量は特定されていないものと認められる。 してみると、上記(2)ウで述べたのと同様に、甲1-1発明及び甲1-2発明の酵母は少なくともCu、Fe、Mg及びMnを含有するものと認められることから、相違点A1-2又は相違点A1-5と同様に、これらの相違点は実質的相違点ではない。 ウ まとめ したがって、相違点A1-1、相違点A1-3、相違点A1-4及び相違点A1-6は実質的相違点であるから、本件発明2~5は、甲第1号証に記載された発明であるとはいえない。 (4)本件発明6、7及び9~11との対比・判断 本件発明6、7及び9~11は、本件発明1~5を引用するものであるところ、上記のとおり、本件発明1~5と甲1-1発明及び甲1-2発明のそれぞれとの間には実質的相違点が存在することから、本件発明6、7及び9~11についても、甲1-1発明及び甲1-2発明のそれぞれとの間には実質的相違点が存在することは明らかである。 したがって、本件発明6、7及び9~11は、甲第1号証に記載された発明であるとはいえない。 (5)小括 したがって、本件発明1~7及び9~11は、甲1-1発明及び甲1-2発明のそれぞれとの間に実質的相違点が存在し、甲第1号証に記載された発明であるとはいえないから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない、ということができない。 よって、請求人の主張する無効理由1には理由がなく、本件発明1~7及び9~11についての特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものとはいえず、同法第123条第1項第2号に該当せず、無効理由1により無効とすべきものではない。 4 無効理由2について (1)甲第1号証に記載された発明 無効理由1に関し、認定したとおりである(前記3(1)参照)。 (2)本件発明1~5との対比・判断 ア 対比 無効理由1で対比したとおりの一致点及び相違点である(前記3(2)ア及び(3)ア参照)。 イ 相違点A1-1及び相違点A1-4についての判断 (ア)動機付けの有無 甲第1号証には、酵母を用いて調製した浅漬用漬液にキウリを漬け、浅漬けキウリを得る方法の発明(甲1-1発明)が記載されているものの、甲1-1発明において上澄液に酵母を添加するなど、浅漬用漬液の代わりに金属酵母液を用いようとする動機付けについては、示唆も含めて記載がない。また、甲第1号証には、酵母を添加して得た漬床にキウリを漬け込み、元の色彩を残した色の鮮やかなキウリの漬物を得る方法の発明(甲1-2発明)についても記載されているものの、記載(1a)及び記載(1f)のとおり、当該漬床を用いることで元の色彩を残した色の鮮やかな漬物を得ることができるとともに、1か月後においても臭気を発生することがないことも記載されていることを参酌すれば、当該漬床の配合比率が重要であると認められることから、甲1-2発明において漬床に水分を添加して液状とするなど、漬床の代わりに金属酵母液を用いようとする動機付けについても、示唆も含めて記載がない。 甲第4号証には、「植物を金属イオンを含む溶液に接触させて、金属イオンの作用で植物の緑色を復元し、あるいは緑色に保持する方法」が記載されているものの、植物を金属酵母液に接触させることは何ら記載されていない。 甲第8号証及び第9号証には、イースト菌を含む漬物床に野菜を漬けることで、変色することがなく野菜の風味を残した旨味のあるみずみずしい漬物を得ることが記載されているが(記載(8a)~記載(8c)、記載(9a)~記載(9c))、漬物床の代わりに金属酵母液を用いることについては何ら記載されていない。 甲第15号証、第21号証及び第22号証には、酵母が金属元素を必須とすること等が記載されているが、植物を金属酵母液に接触させることは何ら記載されていない。 (イ)判断 してみると、甲第1号証、甲第4号証、甲第8号証、甲第9号証、甲第15号証、甲第21号証及び甲第22号証を参酌しても、植物を「金属酵母液」に接触させる動機付けを見いだせないから、甲第1号証に記載された発明において、相違点A1-1及び相違点A1-4に係る技術的事項を採用することが、当業者が容易になし得た技術的事項とは認められない。 また、本件発明1~5の奏する効果として、本件明細書には、「褐変した植物を優れた色調の緑色に復元できると共に、植物を緑色に処理した状態で長期保存できる」ことが記載されているところ(記載(ク))、甲第1号証、甲第4号証、甲第8号証、甲第9号証、甲第15号証、甲第21号証及び甲第22号証を参酌しても、本件発明1~5の金属酵母液を用いることで「褐変した植物を優れた色調の緑色に復元できると共に、植物を緑色に処理した状態で長期保存できる」という効果は何ら記載されておらず、当該効果を当業者が予測できたともいえない。 ウ まとめ 本件発明1~5は、甲第1号証、甲第4号証、甲第8号証及び甲第9号証に記載された発明、並びに、甲第15号証、甲第21号証及び甲第22号証で示される本件出願時における周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (3)本件発明6~11との対比・判断 本件発明6~11は、本件発明1~5を引用するものであるから、甲1-1発明及び甲1-2発明のそれぞれとの間には相違点A1-1及び相違点A1-4が存在するところ、上記のとおり、相違点A1-1及び相違点A1-4について、当業者が容易に想到し得たとは認められない。 したがって、本件発明6~11は、甲第1号証、甲第4号証、甲第8号証及び甲第9号証に記載された発明、並びに、甲第15号証、甲第21号証及び甲第22号証で示される本件出願時における周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (4)小括 したがって、相違点A1-3及び相違点A1-6について検討するまでもなく、本件発明1~11は、甲第1号証、甲第4号証、甲第8号証及び甲第9号証に記載された発明、並びに、甲第15号証、甲第21号証及び甲第22号証で示される本件出願時における周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、ということができない。 よって、請求人の主張する無効理由2は理由がなく、本件発明1~11についての特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものとはいえず、同法第123条第1項第2号に該当せず、無効理由2により無効とすべきものではない。 5 無効理由3について (1)甲第2号証に記載された発明 甲第2号証には、緑色と食感の良好な無塩発酵漬物を調製するため(記載(2a))、5℃以下から凍結しない範囲の低温で(記載(2b))、ブランチングした野沢菜をグルコース、水酸化カルシウム、乳酸カルシウム、パン酵母の混合物に2℃以下で3ヶ月間漬け込むことが記載されている(記載(2c))。 よって、甲第2号証には、 「野沢菜10kgをブランチングした後、グルコース0.6kg、水酸化カルシウム10g及び乳酸カルシウム50gと共に漬込み、パン酵母を105/gとなるように添加して落しぶたと70kgの重石と共に2℃以下で3ヶ月間置くことにより、緑色を保持した無塩野沢菜漬を得る方法。」の発明が記載されているといえる(以下「甲2発明」という)。 (2)本件発明1との対比・判断 ア 対比 本件発明1と甲2発明とを対比すると、「植物を酵母を含むものに接触させて、植物の緑色を保持する方法。」である点で一致し、以下の点で相違する。 相違点B1-1:植物を接触させる酵母を含むものについて、本件発明1は「金属酵母液」であるのに対して、甲2発明は「グルコース0.6kg、水酸化カルシウム10g及び乳酸カルシウム50gに、パン酵母を105/gとなるように添加したもの」である点。 相違点B1-2:用いる酵母について、本件発明1は「Zn含有酵母」であるのに対して、甲2発明はそのような特定がない点。 相違点B1-3:本件発明1は、植物の緑色を保持する方法について「植物の葉緑素に含まれるマグネシウムが失われて褐変するのを防止することにより」との特定がされ、かつ、「あるいは」との特定により、当該方法との択一的な選択肢として「植物の緑色を復元」する「方法」との特定がされているのに対して、甲2発明はそのような特定がない点。 イ 相違点B1-1の判断 (ア)液の技術的意味について 上記3(2)オ(ア)で述べたとおりである。 (イ)甲2発明における漬床について 甲2発明は、「野沢菜10kgをブランチングした後、グルコース0.6kg、水酸化カルシウム10g及び乳酸カルシウム50gと共に漬込み、パン酵母を105/gとなるように添加して落しぶたと70kgの重石と共に2℃以下で3ヶ月間置」いたものであるところ、液体を添加するものではない。 してみると、野沢菜自体が水分を一定程度含有するものであるとしても、野沢菜を漬け込む対象であるグルコース、水酸化カルシウム、乳酸カルシウムにパン酵母を添加したもの全体が「水分などの流動する物質」であるとは認められない。 (ウ)請求人の主張について 請求人は、上申書(4)、4~5頁において、甲第2号証におけるグルコース等の糖類が浸透圧を生じさせ、浸かりを促進させる旨の記載を参照しつつ、酵母は野菜の外部に滲み出た水分を経由して野沢菜に接触していると主張している。 しかしながら、本件発明1における「植物をZn含有酵母を含む金属酵母液に接触させて、」なる記載は、野菜を接触させる対象が「Zn含有酵母を含む金属酵母液」であることを特定しており、接触させた後に野菜の水分が漬床に移動するなどにより結果的に「Zn含有酵母を含む金属酵母」の「液」となる場合は含まれないと理解すべきことから、請求人の主張は採用できない。 また、請求人は、弁駁書、30頁において、仮に野沢菜に含まれる水分が液滴のような液体の粒として存在していた場合、それに含む酵母を金属酵母液ではないと考えるのは不合理であり、これが金属酵母液ではないのであれば、本件発明は不明確である旨主張するが、野沢菜に含まれる水分が液滴のような液体の粒として存在するという仮定自体が甲第2号証の記載に基づかないものであり、仮に野沢菜に含まれる水分が液滴のような液体の粒として存在したとしても、液体の粒が存在する程度の水分の量によって野沢菜を漬け込む対象であるグルコース、水酸化カルシウム、乳酸カルシウムにパン酵母を添加したもの全体が「水分などの流動する物質」となるとはいえず、さらに、上記3(2)オで述べたとおり、接触させた後に野菜の水分が漬床に移動するなどにより結果的に「Zn含有酵母を含む金属酵母」の「液」となる場合は含まれないと理解すべきでもある。 したがって、請求人のこの主張も採用できない。 (エ)判断 してみると、甲2発明における「グルコース、水酸化カルシウム、乳酸カルシウムにパン酵母を添加したもの」は「液」ではなく、相違点B1-1は実質的相違点である。 ウ 相違点B1-2の判断 上記3(2)ウと同様の理由により、甲2発明の酵母はZnを含有するものと認められることから、相違点B1-2は実質的相違点ではない。 エ 相違点B1-3の判断 甲第2号証には、「下面型発酵性酵母の発酵力を利用して、生成されるエタノールや炭酸ガスの防腐効果と添加酵母の優先繁殖による拮抗作用による産膜酵母乳酸菌等有害微生物の繁殖を抑制して、緑色と食感の良好な無塩発酵漬物を研究した」との記載があるから(記載(2c))、甲2発明は、そのような作用機序によって、無塩野沢菜漬の緑色を保持していると認識できる一方で、甲第2号証には、「植物の葉緑素に含まれるマグネシウムが失われて褐変するのを防止することにより」無塩野沢菜漬の緑色を保持しているとの記載はない。 また、甲第2号証には、植物の緑色を復元するとの記載はない。 したがって、相違点B1-3は実質的相違点である。 オ まとめ したがって、本件発明1は、甲第2号証に記載された発明であるとはいえない。 (3)本件発明2~5との対比・判断 ア 対比 本件発明1と本件発明2~5とは、金属酵母液に含まれる酵母が「Zn含有酵母」であるか、「Cu含有酵母」、「Fe含有酵母」、「Mg含有酵母」又は「Cr、Mnのいずれかの金属含有酵母」であるかという点のみで相違することから、本件発明2~5と甲2発明とを対比すると、上記の相違点B1-1及び相違点B1-3のほか、以下の点で相違する。 相違点B2-2:用いる酵母について、本件発明2は「Cu含有酵母」であるのに対して、甲2発明はそのような特定がない点。 相違点B3-2:用いる酵母について、本件発明3は「Fe含有酵母」であるのに対して、甲2発明はそのような特定がない点。 相違点B4-2:用いる酵母について、本件発明4は「Mg含有酵母」であるのに対して、甲2発明はそのような特定がない点。 相違点B5-2:用いる酵母について、本件発明5は「Cr、Mnのいずれかの金属含有酵母」であるのに対して、甲2発明はそのような特定がない点。 イ 相違点B2-2~B5-2の判断 上記3(3)イと同様の理由により、甲2発明の酵母は少なくともCu、Fe、Mg及びMnを含有するものと認められることから、相違点B2-2~B5-2は実質的相違点ではない。 ウ まとめ したがって、相違点B1-1及び相違点B1-3は実質的相違点であるから、本件発明2~5は、甲第2号証に記載された発明であるとはいえない。 (4)本件発明6、7、9及び11との対比・判断 本件発明6、7、9及び11は、本件発明1~5を引用するものであるところ、上記のとおり、本件発明1~5のそれぞれと甲2発明との間には実質的相違点が存在することから、本件発明6、7、9及び11のそれぞれについても、甲2発明との間には実質的相違点が存在することは明らかである。 したがって、本件発明6、7、9及び11は、甲第2号証に記載された発明であるとはいえない。 (5)小括 したがって、本件発明1~7、9及び11は、甲第2号証に記載された発明であるとはいえないから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない、ということができない。 よって、請求人の主張する無効理由3には理由がなく、本件発明1~7、9及び11についての特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものとはいえず、同法第123条第1項第2号に該当せず、無効理由3により無効とすべきものではない。 6 無効理由4について (1)甲第2号証に記載された発明 無効理由2に関し、認定したとおりである(前記5(1)参照)。 (2)本件発明1~5との対比・判断 ア 対比 無効理由3で対比したとおりの一致点及び相違点である(前記5(2)ア及び(3)ア参照)。 イ 相違点B1-1についての判断 (ア)動機付けの有無 甲第2号証には、「野沢菜10kgをブランチングした後、グルコース0.6kg、水酸化カルシウム10g及び乳酸カルシウム50gと共に漬込み、パン酵母を105/gとなるように添加して落しぶたと70kgの重石と共に2℃以下で3ヶ月間置くことにより、緑色を保持した無塩野沢菜漬を得る方法。」(甲2発明)が記載されているものの、記載(2a)のとおり、上記特定の配合の混合物に漬け込むことで、生成されるエタノールや炭酸ガスの防腐効果と添加酵母の優先繁殖による拮抗作用による産膜酵母乳酸菌等有害微生物の繁殖を抑制することも記載されていることを参酌すれば、当該配合が重要であると認められることから、甲2発明においてグルコース、水酸化カルシウム、乳酸カルシウム及びパン酵母からなる混合物に水分を添加して液状とするなど、当該混合物の代わりに金属酵母液を用いようとする動機付けについては、示唆も含めて記載がない。 甲第4号証には、「植物を金属イオンを含む溶液に接触させて、金属イオンの作用で植物の緑色を復元し、あるいは緑色に保持する方法」が記載されているものの、植物を金属酵母液に接触させることは何ら記載されていない。 甲第8号証及び第9号証には、イースト菌を含む漬物床に野菜を漬けることで、変色することがなく野菜の風味を残した旨味のあるみずみずしい漬物を得ることが記載されているが(記載(8a)~記載(8c)、記載(9a)~記載(9c))、金属酵母液を用いることについては何ら記載されていない。 甲第15号証、第21号証及び第22号証には、酵母が金属元素を必須とすること等が記載されているが、植物を金属酵母液に接触させることは何ら記載されていない。 (イ)判断 してみると、甲第2号証、甲第4号証、甲第8号証、甲第9号証、甲第15号証、甲第21号証及び甲第22号証を参酌しても、植物を接触させる液として「金属酵母液」を用いる動機付けを見いだせない。 したがって、相違点B1-1については、当業者が容易に想到し得たとは認められない。 ウ 相違点B1-3についての判断 甲第2号証には、「低温下でも生育が可能であるところの下面型発酵性酵母の発酵力を利用して、生成されるエタノールや炭酸ガスの防腐効果と添加酵母の優先繁殖による拮抗作用による産膜酵母乳酸菌等有害微生物の繁殖を抑制して、緑色と食感の良好な無塩発酵漬物を研究した」との記載がある(記載(2a))から、甲2発明において緑色が保持されるのは、下面型発酵性酵母の発酵力により生成されるエタノールや炭酸ガスの防腐効果と添加酵母の優先繁殖による拮抗作用による産膜酵母乳酸菌等有害微生物の繁殖の抑制によるものであると当業者は理解するといえる。そして、そのような作用機序が、本件発明1~5で特定される「植物の葉緑素に含まれるマグネシウムが失われて褐変するのを防止することにより植物の緑色を保持する」という作用機序や、「植物の緑色を復元する」という作用と関係するという本件出願時の技術常識はなく、甲第2号証、甲第4号証、甲第8号証、甲第9号証、甲第15号証、甲第21号証及び甲第22号証を参酌しても、甲2発明において、かかる作用機序による植物の緑色を保持する方法とすること、又は植物の緑色を復元する方法とすることが当業者が容易に想到し得たものであるともいえない。 エ 効果について 本件発明1~5の奏する効果として、本件明細書には、「褐変した植物を優れた色調の緑色に復元できると共に、植物を緑色に処理した状態で長期保存できる」ことが記載されているところ(記載(ク))、甲第2号証、甲第4号証、甲第8号証、甲第9号証、甲第15号証、甲第21号証及び甲第22号証を参酌しても、本件発明1~5の金属酵母液を用いることによって「褐変した植物を優れた色調の緑色に復元できると共に、植物を緑色に処理した状態で長期保存できる」という効果は何ら記載されておらず、当該効果を当業者が予測できたともいえない。 オ まとめ したがって、本件発明1~5は、甲第2号証、甲第4号証、甲第8号証及び甲第9号証に記載された発明、並びに、甲第15号証、甲第21号証及び甲第22号証で示される本件出願時における周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (3)本件発明6~11との対比・判断 本件発明6~11は、本件発明1~5を引用するものであるから、甲2発明との間には相違点B1-1及び相違点B1-3が存在するところ、上記のとおり、これら相違点については、当業者が容易に想到し得たとは認められない。 したがって、本件発明6~11は、甲第2号証、甲第4号証、甲第8号証及び甲第9号証に記載された発明、並びに、甲第15号証、甲第21号証及び甲第22号証で示される本件出願時における周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (4)小括 したがって、本件発明1~11は、甲第2号証、甲第4号証、甲第8号証及び甲第9号証に記載された発明、並びに、甲第15号証、甲第21号証及び甲第22号証で示される本件出願時における周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、ということができない。 よって、請求人の主張する無効理由4は理由がなく、本件発明1~11についての特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものとはいえず、同法第123条第1項第2号に該当せず、無効理由4により無効とすべきものではない。 7 無効理由5について (1)甲第3号証に記載された発明 甲第3号証には、生鮮物の変色防止のため(記載(3a))、バレイショ、キャベツなどの植物を含硫アミノ酸を含有した酵母エキスを含む溶液に10分間浸漬した後、水を切り保存することが記載されている(記載(3d)、記載(3e))。 よって、甲第3号証には、 「コウジ酸1gと含硫アミノ酸を含有した酵母エキス1gを水道水1Lに溶解させた処理液にキャベツを10分間浸漬した後、水を切り保存することによりキャベツの変色を防止する方法。」の発明が記載されているといえる(以下「甲3発明」という)。 (2)本件発明1との対比・判断 ア 対比 本件発明1と甲3発明とを対比すると、「植物を酵母を原料としたものを含む液に接触させて、植物の緑色を保持する方法。」である点で一致し、以下の点で相違する。 相違点C1-1:用いる酵母について、本件発明1は「Zn含有酵母」であるのに対して、甲3発明はそのような特定がない点。 相違点C1-2:植物を接触させる酵母を原料としたものを含む液について、本件発明1は「Zn含有酵母を含む金属酵母液」であるのに対して、甲3発明は酵母エキスを含む処理液である点。 相違点C1-3:本件発明1は、植物の緑色を保持する方法について「植物の葉緑素に含まれるマグネシウムが失われて褐変するのを防止することにより」との特定がされ、かつ、「あるいは」との特定により、当該方法との択一的な選択肢として「植物の緑色を復元」する「方法」との特定がされているのに対して、甲3発明はそのような特定がない点。 イ 相違点C1-1の判断 上記3(2)ウと同様の理由により、甲3発明の酵母はZnを含有するものと認められることから、相違点C1-1は実質的相違点ではない。 ウ 相違点C1-2の判断 (ア)本件発明1における「Zn含有酵母を含む金属酵母液」の意味について 前記2(2)イに記載のとおり、本件発明1における「Zn含有酵母を含む金属酵母液」は、金属含有酵母の菌体そのもの又は菌体を破砕ないし溶菌して内容物を取り出したもの(酵母エキス)を含む液を意味するものと解釈できる。 (イ)甲3発明で用いられる酵母エキスについて 甲第3号証には、変色の防止に用いる酵母エキスについて、「本発明で使用できる酵母エキスは、含硫アミノ酸を含有しているもので、例えば、トルラ酵母、パン酵母、ビール酵母等の酵母を培養し、酵母から得られた抽出物、あるいは、これを乾燥したものでも構わない。」(記載(3b))とだけ記載されており、酵母エキスについて特定の成分のみを抽出するような方法により調製すべきことは特段記載されていない。また、参考文献1(特開2001-25373号公報の【0006】)に記載されるような酵母エキスの一般的な製造方法を参酌すると、酵母エキスには酵母菌体に含まれる水溶性成分全般が含まれるものと認められる。してみると、甲3発明で用いられる酵母エキスについて、甲3発明の酵母がZn等の金属を含有するのであれば、それから調製される酵母エキスについてもZn等の金属を含有するものといえる。 さらに、バレイショに関する実施例2において使用されている酵母エキスである「酵母エキスYH」について、本件特許出願の前に頒布された参考文献5(グルタチオン高含有「酵母エキスYH」、月刊フードケミカル、平成3年10月、Vol.7、No.10、70~75頁)には、エキスの抽出方法に関して、「生酵母の水懸濁液を直ちに加熱処理し,酵母の自己消化の阻止と同時にグルタチオンを含むエキスの抽出を行う。抽出残渣は,遠心分離によりエキスから分離除去される。」と記載され(第71頁右欄の「1.3 菌体集菌、エキス抽出」の項)、特定の成分のみを抽出するような方法により調製していないこと、また、調製された「酵母エキスYH」の成分に関して、「微量成分として,鉄,カルシウム,マグネシウム,銅,亜鉛,マンガン等を含み,」と記載され(第71頁右欄の「2.2 微量成分」の項)、亜鉛等の金属を含有することが確認されている。そして、キャベツに関する実施例3以降、酵母エキスについて具体的な商品名等は記載されていないものの、甲第3号証の実施例全体において、各原料を最初に記載するときのみ、その製造元を記載していることも踏まえれば、当業者であれば、その直前の実施例2で用いた酵母エキスを用いていることは当然理解し得ることであり、甲第3号証に記載されているに等しい事項と言うべきであるから、甲3発明で用いられる酵母エキスが酵母に含まれるZn等の金属を含有するものと認められる。 (ウ)判断 したがって、本件発明1における「Zn含有酵母を含む金属酵母液」は、甲3発明における酵母エキスを含む処理液を包含するものであるから、相違点C1-2は実質的相違点ではない。 エ 相違点C1-3の判断 甲第3号証には、「甲殻類或いは青果物は、漁獲或いは剥皮、カット後短時間のうちに変色し、商品価値が著しく減少してしまう。この変色作用は、甲殻類或いは青果物に含まれているチロシナーゼ、ポリフェノール等の酵素が、漁獲或いは剥皮、カット等により活性化され、メラニン、ポリキノン等の生成が促進されることに起因する。」と記載されている(記載3a))が、甲第3号証には「キャベツの変色を防止する方法」が「植物の葉緑素に含まれるマグネシウムが失われて褐変するのを防止することにより」なされているとの記載はない。また、甲第3号証には、植物の緑色を復元する方法についての記載はない。 したがって、相違点C1-3は実質的相違点である。 オ 請求人の主張について 請求人は、弁駁書、3~8頁において、 (i)「植物の緑色を復元」する方法については何ら訂正されていないから、本件発明は甲第3号証に開示されていること、 (ii) 甲第78~80号証(なお、これらの文献は本件出願前公知ではない。)を援用して、植物の褐変は、葉緑素に含まれるマグネシウムが失われることに起因することが周知の一般的な原理であり、「植物の葉緑素に含まれるマグネシウムが失われて褐変するのを防止することにより植物の緑色を保持する方法」との作用機構は植物の一般的な褐変の原理を特定したものに過ぎず、褐変の防止の原理については何ら記載していないこと、前記作用機構は甲第3号証に開示されており、本件発明は甲3発明と同一であること、 (iii)甲第80号証を援用して、甲3発明においては、グルタチオンがマグネシウム脱離酵素の活性を阻害し、マグネシウムの離脱を阻害することにより褐色化を防止しているのであり、その作用機序はまさに「植物の葉緑素に含まれるマグネシウムが失われて褐変するのを防止する」ものであること、 を主張する。 また、令和5年5月15日付け上申書において、 (iv) 関連訴訟(令和3年(ワ)第19176号損害賠償請求事件)において、被請求人が「植物をZnないしCu含有酵母を含む金属酵母液に接触させた状態において、葉緑素からマグネシウムが離脱しない場合であっても、葉緑素からマグネシウムが離脱した上でZnないしCuに置換した場合であっても、植物の緑色が保持されるのであれば、訂正後の本件発明の技術的範囲に含まれると解される。」と主張していることを捉えて、「植物の葉緑素に含まれるマグネジウムが失われて褐変するのを防止することにより植物の緑色を保持する方法」との訂正は、本件発明の作用機序を、葉緑素からマグネシウムが離脱することを防止するものに限定することを意図するものではない、というものであり、およそ意味のない訂正である以上、なおも甲3発明に対して新規性を欠くものとなることは明らかであること、 を主張する。 そこで、検討する。 (i)について 甲第3号証には、植物の緑色を復元することについての記載は一切ないので、本件発明が甲第3号証に開示されているとはいえない。また、審決の予告においては「植物の緑色を復元しあるいは緑色に保持する方法」の点が一致するとしたのであり、「植物の緑色を復元」する方法の点において、甲3発明と一致するとは述べていない。 (ii)について 甲第2号証に「下面型発酵性酵母の発酵力を利用して、生成されるエタノールや炭酸ガスの防腐効果と添加酵母の優先繁殖による拮抗作用による産膜酵母乳酸菌等有害微生物の繁殖を抑制して、緑色と食感の良好な無塩発酵漬物を研究した」と記載され(記載(2a))、甲第3号証に「甲殻類或いは青果物は、漁獲或いは剥皮、カット後短時間のうちに変色し、商品価値が著しく減少してしまう。この変色作用は、甲殻類或いは青果物に含まれているチロシナーゼ、ポリフェノール等の酵素が、漁獲或いは剥皮、カット等により活性化され、メラニン、ポリキノン等の生成が促進されることに起因する。」と記載される(記載(3a))とおり、植物の緑色の変色の防止は、葉緑素に含まれるマグネシウムが失われて褐変することを防止することが唯一の手段であるとはいえないから、本件発明が植物の一般的な褐変の原理を特定したものに過ぎないとはいえない。また、本件発明は、植物を、Znなどの金属を含有する金属酵母液に接触させて、「植物の葉緑素に含まれるマグネシウムが失われて褐変するのを防止することにより植物の緑色を保持する方法」であるところ、甲3号証には、酵母エキス(Znなどの金属を含む)とキャベツを接触させても、変色の程度が無添加のものと変わらないことが示されており(表2の比較例9(酵母エキス)と比較例6(無添加)を参照。)、甲3発明が本件発明とは異なる手段によりキャベツの変色を防止していることが理解できる。 それゆえ、「植物の葉緑素に含まれるマグネシウムが失われて褐変するのを防止することにより植物の緑色を保持する方法」との作用機構は、甲3号証に開示されているとはいえず、本件発明は、甲3発明と同一ではない。 (iii)について 甲第80号証に「マグネシウム脱離酵素活性は、EDTAの添加により増強され、MgCl2、HgCl2及び還元型グルタチオンにより阻害され、これは、反応生成物による逆阻害や混合物の酸化還元状態への依存性等の現象を示唆するものである。」(75頁、Abstract、4~6行、翻訳文により示す。)との記載があるが、甲第80号証は本件出願前に公知の文献ではないから、その記載を根拠にして本件発明が甲3発明と同一であるとはいえない。 仮に、その内容を参酌するにしても、甲第3号証には、酵母に含まれるグルタチオンがマグネシウムの離脱を阻害することにより褐色化を防止している旨の記載はなく、また、グルタチオンを含有する酵母エキスが単独で変色防止作用を有しているとの記載もないから、甲第3号証において、グルタチオンを含む酵母が単独で変色防止作用を有しているといえない。 すなわち、甲3第号証の特許請求の範囲及び産業上の利用分野の記載並びに実施例3及び4と比較例(以上記載(3a)及び記載(3e))との対比から、甲3発明では、コウジ酸とグルタチオン(グルタチオンを含む酵母エキス)との組合せによって(コウジ酸を混合することによって)、変色防止を行うものであって、甲第80号証で述べられるグルタチオンによるマグネシウムの離脱を阻害するという作用機序によるものとはいえない。このことは、甲第3号証において、葉緑素を持たないエビなどの変色を防止している(摘示(3b))ことからも、甲3発明は、葉緑素中のグルタチオンがMg脱離酵素の活性を阻害するという作用機構ではないことは明らかである。 したがって、甲3発明においては、グルタチオンがマグネシウムの離脱を阻害することにより褐色化を防止していると結論付けることはできない。 (iv)について この主張に対応する本件訂正は、「植物の葉緑素に含まれるマグネシウムが失われて褐変するのを防止することにより」植物の緑色を保持する方法とする訂正であり、当該訂正によって、特定の原因に由来する植物の変色を防止することに限定されることは上記第2で述べたとおりであるから、「およそ意味のない訂正である」とはいえない。また、この点が実質的相違点であることは、上記エで述べたとおりである。 なお、被請求人の「葉緑素からマグネシウムが離脱した上でZnないしCuに置換した場合であっても、植物の緑色が保持されるのであれば、訂正後の本件発明の技術的範囲に含まれる」との主張は、金属酵母液に接触させる方法により、葉緑素中のマグネシウムが失われて褐変する現象を防止して、植物の緑色を保持できている限りは、その方法を実行中及び終了時のマグネシウムとZnないしはCuの存在(共存)状態によらず、本件発明に該当するというものであると理解できるといえる。 したがって、上記請求人の主張(i)~(iv)は採用できない。 カ 被請求人の主張について 被請求人は、答弁書、43頁において、甲3発明で用いられる酵母エキスがZnを含有するとはいえないとの主張をしている。 しかしながら、前記ウ(イ)に記載のとおり、甲3発明で用いられる酵母エキスはZnを含有するものと認められる。 したがって、上記被請求人の主張は採用できない。 キ まとめ したがって、本件発明1は、甲第3号証に記載された発明であるとはいえない。 (3)本件発明2~5との対比・判断 ア 対比 本件発明1と本件発明2~5とは、金属酵母液に含まれる酵母が「Zn含有酵母」であるか、「Cu含有酵母」、「Fe含有酵母」、「Mg含有酵母」又は「Cr、Mnのいずれかの金属含有酵母」であるかという点のみで相違することから、本件発明2~5と甲3発明とを対比すると、上記の相違点C1-3のほか、以下の点で相違する。 相違点C2-1:用いる酵母について、本件発明2は「Cu含有酵母」であるのに対して、甲3発明はそのような特定がない点。 相違点C3-1:用いる酵母について、本件発明3は「Fe含有酵母」であるのに対して、甲3発明はそのような特定がない点。 相違点C4-1:用いる酵母について、本件発明4は「Mg含有酵母」であるのに対して、甲3発明はそのような特定がない点。 相違点C5-1:用いる酵母について、本件発明5は「Cr、Mnのいずれかの金属含有酵母」であるのに対して、甲3発明はそのような特定がない点。 イ 相違点C2-1~C5-1の判断 上記3(3)イと同様の理由により、甲3発明の酵母は少なくともCu、Fe、Mg及びMnを含有するものと認められることから、相違点C2-1~C5-1は実質的相違点ではない。 ウ まとめ したがって、相違点C1-3は実質的相違点であるから、本件発明2~5は、甲第3号証に記載された発明であるとはいえない。 (4)本件発明7及び9~11との対比・判断 本件発明7及び9~11は、本件発明1~5を引用するものであるところ、上記のとおり、本件発明1~5のそれぞれ甲3発明との間には実質的相違点が存在することから、本件発明7及び9~11のそれぞれについても、甲3発明との間には実質的相違点が存在することは明らかである。 したがって、本件発明7及び9~11は、甲第3号証に記載された発明であるとはいえない。 (5)小括 したがって、本件発明1~5、7及び9~11は、甲第3号証に記載された発明であるとはいえないから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない、ということはできない。 よって、請求人の主張する無効理由5には理由がなく、本件発明1~5、7及び9~11についての特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものとはいえず、同法第123条第1項第2号に該当せず、無効理由5により無効とすべきものではない。 8 無効理由6について (1)甲第3号証に記載された発明 無効理由5に関し、認定したとおりである(前記7(1)参照)。 (2)本件発明1~5との対比・判断 ア 対比・判断 無効理由5で対比したとおりの一致点・相違点である(前記7(2)ア及び(3)ア参照。)。 イ 相違点C1-3についての判断 (ア)動機付けの有無 植物の緑色を保持する方法について、甲第3号証には、コウジ酸と含硫アミノ酸あるいは含硫アミノ酸を含有した酵母エキスを有効成分する生鮮物の変色防止剤に関するものであること、甲殻類或いは青果物の変色は、甲殻類或いは青果物に含まれているチロシナーゼ、ポリフェノール等の酵素が、漁獲或いは剥皮、カット等により活性化され、メラニン、ポリキノン等の生成が促進されることに起因することが記載されている(記載(3a))が、「植物の葉緑素に含まれるマグネシウムが失われて褐変するのを防止することにより」植物の緑色を保持することは記載も示唆もされていない。また、「植物の緑色を復元する」ことについても記載も示唆もない。 そして、甲第4号証、甲第8号証、甲第9号証、甲第15号証、甲第21号証及び甲第22号証には、上記4(2)イで示した事項が記載されているが、コウジ酸と含硫アミノ酸あるいは含硫アミノ酸を含有した酵母エキスによって、「植物の葉緑素に含まれるマグネシウムが失われて褐変するのを防止することにより植物の緑色を保持する」こと、及び「植物の緑色を復元する」ことは記載も示唆もされていない。 (イ)判断 してみると、甲第3号証、甲第4号証、甲第8号証、甲第9号証、甲第15号証、甲第21号証及び甲第22号証を参酌しても、甲3発明について、「植物の葉緑素に含まれるマグネシウムが失われて褐変するのを防止することにより植物の緑色を保持する方法」とすること、「植物の緑色を復元する方法」とすることについて動機付けを見いだせない。 したがって、相違点C1-3については、当業者が容易に想到し得たとは認められない。 ウ 効果について 本件発明1~5の奏する効果として、本件明細書には、「褐変した植物を優れた色調の緑色に復元できると共に、植物を緑色に処理した状態で長期保存できる」ことが記載されているところ(記載(ク))、甲第3号証、甲第4号証、甲第8号証、甲第9号証、甲第15号証、甲第21号証及び甲第22号証を参酌しても、本件発明1~5の金属酵母液を用いることによって「褐変した植物を優れた色調の緑色に復元できると共に、植物を緑色に処理した状態で長期保存できる」という効果は何ら記載されておらず、当該効果を当業者が予測できたともいえない。 エ 請求人の主張について 請求人は、弁駁書、9~13頁において、甲第81号証には、抗酸化物質であるグルタチオン(GSH)やアスコルビン酸(AsA)が活性酸素(ROS)によるクロロフィル分解酵素の活性化を防ぎ,それにより植物の緑色が保持される機序が示されていること、抗酸化物質がマグネシウムの脱離を阻害することは甲第82号証の「麦類はその加令と共に・・・さらにSOD,ペルオキシダーゼ等の抗酸化に関与する酵素が減少し,その他の抗酸化活性成分,特に配糖体型フラボノイドが減少して抗酸化作用が減弱し,その結果,麦類緑葉中に生成する活性酸素の作用によりクロロフィルのマグネシウムが酸化作用を受けて脱離し,クロロフィルはフェオフィチンとなり緑色が退色する。」との記載から明らかであること、抗酸化物質は葉緑素の変色を保持する効果があると考えられるが、葉緑素を含まない食肉の変色防止にも寄与することが甲第83号証に記載されていること、甲第78号証に記載のとおり、ポリフェノールオキシダーゼ(POD)は、クロロフィルの分解に関与することが知られていること、甲第84号証には、DGTN(緑茶麺)の変色における化学組成の変化は、PPO(ポリフェノールオキシダーゼ)活性の上昇に伴い、ポリフェノール化合物とクロロフィル含量が減少していることを示している旨の記載があること、並びに植物の褐変が,ポリフェノールの酸化とクロロフィルからのマグネシウムの脱離によるものであり、また、その褐変が金属イオンにより復元又は保持されることは甲第29及び85号証にも記載されていることを指摘して、本件発明は進歩性がないことを主張する。 そこで、検討する。 まず、甲第3号証には、植物の緑色を復元することについての記載はないから、当該復元する方法とすることについての動機付けがない。 また、植物の緑色を保持する方法については、7(2)オで述べたとおり、甲第3号証に本件発明の「植物の葉緑素に含まれるマグネシウムが失われて褐変するのを防止することにより植物の緑色を保持する方法」との作用機構は開示されているとはいえない。 さらに、上記主張は、本件発明が、植物を金属含有酵母を含む金属酵母液に接触させて、植物の緑色を復元し、あるいは、植物の葉緑素に含まれるマグネシウムが失われて褐変するのを防止することにより植物の緑色を保持する方法であるという前提を考慮せず、個々の証拠に示されたデータや考察をつなぎ併せて推測した上で、本件発明の変色防止や復元方法に進歩性がないことを主張しているだけである。 提示された証拠を個々に検討する。 甲第82号証の記載は、麦類のSOD等の抗酸化活性成分が減少した結果として、クロロフィルのマグネシウムが酸化作用を受けて脱離し、クロロフィルはフェオフィチンとなり緑色が退色するというものであり、抗酸化活性成分の減少とクロロフィルのマグネシウムの脱離との関係が示されているといえる。しかし、甲3発明における変色の防止が抗酸化活性成分の減少が原因であるとの記載は甲第3号証になく、また、甲第3号証には「酵母エキス中に含まれるグルタチオンの抗酸化作用が、本発明の変色防止作用をより効果的にしていると推測される」との記載はあるものの(記載(3c))、上記7(2)キで述べたとおり、グルタチオンを含有する酵母エキスがキャベツの変色を実質的に防止しているとはいえないから、甲第3号証の記載からは、植物を本件発明1~5で特定される金属酵母液に接触させることよって、植物の葉緑素に含まれるマグネシウムが失われて褐変するのを防止することにより植物の緑色を保持する方法を当業者が容易に想到できるとはいえない。 請求人が指摘する甲第83号証の記載は、食肉色素の安定性等に関するものであって、キャベツの変色に関する甲3発明と直接関連するものではない。 甲第84号証の上記記載は、緑茶麺の変色において、PPO(ポリフェノールオキシダーゼ)活性の上昇に伴い、ポリフェノール化合物とクロロフィル含量が減少していることを示しているといえ、甲第3号証には、「変色作用は、甲殻類或いは青果物に含まれているチロシナーゼ、ポリフェノール等の酵素が、漁獲或いは剥皮、カット等により活性化され、メラニン、ポリキノン等の生成が促進されることに起因する」との記載もあるが(記載(3a))、上述のとおり、グルタチオンを含有する酵母エキスがキャベツの変色を実質的に防止しているとはいえないから、甲第3号証の記載からは、植物を本件発明1~5で特定される金属酵母液に接触させることよって、植物の葉緑素に含まれるマグネシウムが失われて褐変するのを防止することにより植物の緑色を保持する方法を当業者が容易に想到できるとはいえない。 甲第81、78、29及び85号証については、これらの文献は本件出願前に公知ではないから、その記載を根拠にして本件発明の進歩性を否定することはできない。仮にこれら文献の記載を考慮したとしても、甲第82~84号証について検討したのと同様の理由により、これら文献の記載に基づいて本件発明の進歩性を否定することはできない。 したがって、上記請求人の主張を採用することはできない。 オ まとめ 本件発明1~5は、甲第3号証、甲第4号証、甲第8号証及び甲第9号証に記載された発明、並びに、参考文献5(グルタチオン高含有「酵母エキスYH」、月刊フードケミカル、平成3年10月、Vol.7、No.10、70~75頁)、甲第15号証、甲第21号証及び甲第22号証で示される本件出願時における周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (3)本件発明6~11との対比・判断 本件発明6~11は、本件発明1~5を引用するものであるから、甲3発明との間には相違点C1-3が存在するところ、上記のとおり、この相違点については、当業者が容易に想到し得たとは認められない。 したがって、本件発明6~11は、甲第3号証、甲第4号証、甲第8号証、甲第9号証に記載された発明、並びに、参考文献5(グルタチオン高含有「酵母エキスYH」、月刊フードケミカル、平成3年10月、Vol.7、No.10、70~75頁)、甲第15号証、甲第21号証及び甲第22号証で示される本件出願時における周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (4)小括 したがって、本件発明1~11は、甲第3号証、甲第4号証、甲第8号証及び甲第9号証に記載された発明、並びに、参考文献5(グルタチオン高含有「酵母エキスYH」、月刊フードケミカル、平成3年10月、Vol.7、No.10、70~75頁)、甲第15号証、甲第21号証及び甲第22号証で示される本件出願時における周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、ということができない。 よって、請求人の主張する無効理由6は理由がなく、本件発明1~11についての特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものとはいえず、同法第123条第1項第2号に該当せず、無効理由6により無効とすべきものではない。 9 無効理由7-1及び7-2について (1)甲第4号証又は甲第24号証に記載された発明 甲第4号証又は甲第24号証には、植物を金属イオンを含む溶液に接触させて、金属イオンの作用で植物の緑色を復元し、あるいは緑色に保持する方法において、金属イオンを含む溶液に亜鉛イオンを含む溶液を使用すること(記載(4a)、記載(24a))、浸漬する植物の葉緑素を緑色にする時間に応じて、加温の程度や亜鉛濃度を調整すること(記載(4c)、記載(24c))、植物の緑色が退色するのを防止することもできるのは、植物に亜鉛を添加することにより、植物の葉緑素に含まれるマグネシウムが失われて褐変するのを防止できるからであること(記載(4d)、記載(24d))が記載されている。 よって、甲第4号証又は甲第24号証には、「退色した植物を金属イオンを含む溶液に接触させて、金属イオンの作用で植物の緑色を復元し、あるいは緑色に保持する方法において、金属イオンを含む溶液に亜鉛イオンを含む溶液を使用することを特徴とする植物の緑色を復元しあるいは植物の葉緑素に含まれるマグネシウムが失われて褐変するのを防止することにより植物の緑色を保持する方法。」の発明が記載されているといえる(以下「甲4発明」又は「甲24発明」という)。 (2)本件発明1との対比・判断 ア 対比 本件発明1と甲4発明又は甲24発明とを対比すると、「植物を液に接触させて、植物の緑色を復元し、あるいは、植物の葉緑素に含まれるマグネシウムが失われて褐変するのを防止することにより植物の緑色を保持する方法。」である点で一致し、以下の点で相違する。 相違点D1:本件発明1は接触させる液について「Zn含有酵母を含む金属酵母液」と特定しているのに対して、甲4発明又は甲24発明は「亜鉛を含む液」と特定している点。 イ 相違点D1についての判断 (ア)動機付けの有無 甲第4号証又は甲第24号証には、退色した植物を金属イオンを含む溶液に接触させて、金属イオンの作用で植物の緑色を復元し、あるいは緑色に保持する方法において、金属イオンを含む溶液に亜鉛イオンを含む溶液を使用することを特徴とする植物の緑色を復元しあるいは緑色に保持する方法(甲4発明又は24発明)が記載されているものの、金属イオンを含む溶液の代わりに金属酵母液を用いることや金属イオンを含む溶液に酵母を添加することの動機付けについては、甲第4号証又は甲第24号証に示唆も含めて記載がない。 甲1号証には、酵母を用いて調製した浅漬用漬液にキウリを漬け、浅漬けキウリを得る方法の発明(甲1-1発明)や、酵母を添加して得た漬床にキウリを漬け込み、元の色彩を残した色の鮮やかなキウリの漬物を得る方法の発明(甲1-2発明)が記載されており、浅漬けに関する甲1-1発明は漬液に臭気を生じることがないことを特徴とし、漬物に関する甲1-2発明は元の色彩を残した色の鮮やかな漬物を得られることを特徴としているが、甲1-1発明の浅漬用漬液や甲1-2発明の漬床を、甲4発明等に組み合わせる(添加する)動機付けとなる記載や示唆はない。さらにいえば、甲1-1発明の浅漬用漬液は、上記3(2)イで検討したとおり、酵母を含んでいないため、仮に、甲4発明等に添加したとしても、金属酵母液とはならない。 甲第2号証には、野沢菜10kgをブランチングした後、グルコース0.6kg、水酸化カルシウム10g及び乳酸カルシウム50gと共に漬込み、パン酵母を105/gとなるように添加して落しぶたと70kgの重石と共に2℃以下で3ヶ月間置くことにより、緑色を保持した無塩野沢菜漬を得る方法(甲2発明)が記載されているものの、甲2発明で用いたグルコース、水酸化カルシウム、乳酸カルシウム及びパン酵母からなる混合物を、甲4発明等に組み合わせる(添加する)動機付けとなる記載や示唆はない。 甲第3号証には、コウジ酸1gと含硫アミノ酸を含有した酵母エキス1gを水道水1Lに溶解させた処理液にキャベツを10分間浸漬した後、水を切り保存することによりキャベツの変色を防止する方法(甲3発明)が記載されているところ、記載(3c)を参酌すれば、当該甲3発明は、コウジ酸と含硫アミノ酸を生鮮物の変色防止の有効成分とすることを技術思想とするものであって、酵母に含まれる金属に着目するものではなく、含硫アミノ酸を含有する物質として酵母が記載されているに過ぎず、また、金属イオンを含む溶液は甲第3号証に記載された酵母エキスに限られず、多種多様な物質が存在するから、甲第4号証に記載された金属イオンを含む溶液として、わざわざ甲第3号証に記載の処理液を用いる動機付けがあるとはいえない。 甲第8号証及び甲第9号証には、イースト菌を含む漬物床に野菜を漬けることで、変色することがなく野菜の風味を残した旨味のあるみずみずしい漬物を得ることが記載されているが(記載(8a)~記載(8c)、記載(9a)~記載(9c))、当該漬物床を甲4発明等に組み合わせる(添加する)動機付けとなる記載や示唆はない。 甲第15号証、甲第21号証及び甲第22号証には、酵母が金属元素を必須とすること等が記載されているが、植物を金属酵母液に接触させることは何ら記載されていない。 (イ)請求人の主張について(審判請求書) 請求人は、審判請求書、143~148頁において、酵母が植物の緑色保持のみならず、広く食品等の退色防止に使用されることは周知であったこと、食用とされる植物の緑色を保持するのに金属イオンを添加することの問題は広く知られており、甲第7号証及び甲第23号証においても無機金属が有機金属に置き換えられていることを踏まえれば、金属に代わり、甲第15号証~甲第18号証に記載されるように食品用途で用いられる金属酵母で置き換えることは強い動機付けが存在したこと、本件発明の奏する効果について、甲4発明で使用された無機金属よりも低レベルの金属濃度を含む酵母と接触することで植物を緑色に復元するとの効果は当業者が予測し得ない格別顕著なものではないことを主張している。 そこで、まず、請求人の主張する動機付けについて検討する。甲第7号証には芝の葉色を保持するためにグルコン酸鉄を用いることが記載され、甲第23号証には、銅塩や亜鉛塩等の着色剤が人体には好ましくないことを踏まえ、貯蔵褐色植物の緑色復元方法において銅クロロフイリンナトリウム等のクロロフイル類を用いることが記載されているものの、それらは有機金属を用いることが記載されているに過ぎず、金属酵母液を用いることについては何ら記載されていない。 また、甲第15号証~甲第18号証のそれぞれには、金属酵母が食品用途で用いられることが記載されているものの、金属酵母液を植物の緑色を復元しあるいは緑色を保持する方法において使用し得ることを示唆する記載はない。 してみると、甲第23号証に記載されるように、銅塩や亜鉛塩等が人体には好ましくないことが公知であったとしても、甲第7号証、甲第23号証及び甲第15号証~甲第18号証の記載から、甲4発明又は甲24発明において、金属イオンを含む溶液の代わりに金属酵母液を用いようとすることや金属イオンを含む溶液に酵母を添加することの動機付けがあったとはいえない。 次に、本件発明の奏する効果について検討する。 本件発明の奏する効果として、本件明細書には、「酵母を使用することにより、安全な方法であって、しかも酵母の添加量を少なくして金属濃度の低い酵母液で植物を緑色に変色できる」ことが記載され(記載(ク))、金属濃度については「酵母液の金属濃度は、たとえば1ppm以上、好ましくは3ppm以上とすることができる。酵母液は金属濃度を1ppm以上として植物を緑色に変色できる。さらに、金属濃度を3ppm以上として好ましい緑色に変色できる。」とも記載されている(記載(イ))。また、本件明細書の実施例3では、金属濃度を1ppmとした場合に植物を淡い緑色に変色できたことが具体的に記載されている(記載(オ))。 一方で、甲第4号証には、植物を緑色に変色するために必要な金属濃度について、「植物を加熱された亜鉛イオンを含む発色剤溶液に接触させて、葉緑素を緑色にできる最低の亜鉛濃度は、5ppmである。」と記載されており(記載(4c))、また、甲第1号証、甲第2号証、甲第3号証、甲第8号証、甲第9号証、甲第15号証、甲第21号証、甲第22号証及び甲第24号証の記載を参酌しても、金属濃度を1ppmという非常に低い濃度の場合に植物を緑色に変色できることについて記載も示唆も存在しないことから、酵母を使用することにより、安全な方法であって、金属濃度の低い酵母液で植物を緑色に変色できるという本件発明の奏する効果は当業者の予想し得たものともいえない。 したがって、上記請求人の主張は採用できない。 (ウ)請求人の主張について(弁駁書) また、請求人は、弁駁書、13~15頁、32~34頁において、 (i) 「植物に亜鉛を添加することにより、植物の葉緑素に含まれるマグネシウムが失われて褐変するのを防止できる」というのが本件発明1であると理解するのならば、緑色保持の有効成分は甲4発明や甲24発明(弁駁書には「甲27発明」と記載されているが、誤記と認める。以下同様。)と区別できず、金属酵母液の使用は相違点ではないことになり、本件発明2についても同様であること、 (ii) 「植物の葉緑素に含まれるマグネシウムが失われて褐変するのを防止することにより植物の緑色を保持する方法」の機序が亜鉛等の無機金属の添加によるものであるならば、甲4発明及び甲24発明も本件発明と同じ効果を奏することになること、 (iii) 甲第7号証及び甲第23号証で従来技術について本件明細書に記載のものと同様の問題が指摘された上で,従来緑色の復元に使用されていた無機金属が有機金属に置き換えられているから、食用とされる植物の緑色を保持することを目的とする当業者にとって、甲4発明や甲24発明の金属を,甲第7号証や甲第23号証で使用された有機金属のように、食品として認可されている金属強化酵母に置き換える強い動機づけが存在していたといえること、 を主張する。 そこで、検討する。 (i)について 上記(2)ア及びイで述べたとおり、本件発明1と甲4発明又は甲24発明とは、「植物の緑色を復元し、あるいは、植物の葉緑素に含まれるマグネシウムが失われて褐変するのを防止することにより植物の緑色を保持する方法」である点で一致するが、相違点D1の点で相違するから、両者を区別できないとはいえない。 (ii)について 「植物の葉緑素に含まれるマグネシウムが失われて褐変するのを防止することにより植物の緑色を保持する方法」の機序が亜鉛等の無機金属の添加によるものであるならば、との仮定に立つ主張であるが、仮に、本件発明1が金属酵母液に含まれる無機金属が緑色の保持に貢献しているものであったとしても、本件発明1は、金属イオンを含む溶液に亜鉛イオンを含む溶液を使用する甲4発明又は甲24発明とは異なり、金属酵母液を用いるものであって、それによって、安全な方法であって、金属濃度の低い酵母液で植物を緑色に変色できるという効果を奏するものであるから、かかる効果が甲4発明又は甲24発明と同じであるとはいえない。 また、請求人は、甲第41号証及び甲第55号証の実験結果から、亜鉛強化酵母とネガティブコントロールとの間で効果に有意な違いが確認されなかったこと、本件発明と甲4発明及び甲27発明との間で亜鉛等の濃度について正確な比較実験がなされていないことも指摘するが、そのことによって、安全な方法であって、金属濃度の低い酵母液で植物を緑色に変色できるという効果が否定されるものではない。 (iii)について この主張は、上記(イ)の審判請求書における主張と同旨の主張と認められるから、上述のとおりである。 したがって、上記請求人の主張も採用できない。 (エ)判断 してみると、相違点D1については、当業者が容易に想到し得たとは認められない。 ウ まとめ 本件発明1は、甲第1号証、甲第2号証、甲第3号証、甲第4号証又は甲第24号証、甲第8号証及び甲第9号証に記載された発明、並びに、甲第15号証、甲第21号証及び甲第22号証で示される本件出願時における周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (3)本件発明2~4との対比・判断 ア 対比 本件発明1と本件発明2~4とは、金属酵母液に含まれる酵母が「Zn含有酵母」であるか、「Cu含有酵母」、「Fe含有酵母」又は「Mg含有酵母」であるかという点のみで相違することから、本件発明2~4と甲4発明又は甲24発明とを対比すると、上記の相違点D1のほか、以下の点で相違する。 相違点D2:用いる酵母について、本件発明2は「Cu含有酵母」であるのに対して、甲4発明又は甲24発明はそのような特定がない点。 相違点D3:用いる酵母について、本件発明3は「Fe含有酵母」であるのに対して、甲4発明又は甲24発明はそのような特定がない点。 相違点D4:用いる酵母について、本件発明4は「Mg含有酵母」であるのに対して、甲4発明又は甲24発明はそのような特定がない点。 イ 相違点D2~D4の判断 上記(2)イと同様の理由により、甲4発明又は甲24発明において、金属イオンを含む溶液の代わりに金属酵母液を用いようとすることや金属イオンを含む溶液に酵母を添加することの動機付けがあったとはいえないことから、相違点D2~D4については、当業者が容易に想到し得たとは認められない。 ウ まとめ 本件発明2~4は、甲第1号証、甲第2号証、甲第3号証、甲第4号証又は甲第24号証、甲第8号証及び甲第9号証に記載された発明、並びに、甲第15号証、甲第21号証及び甲第22号証で示される本件出願時における周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (4)本件発明6~11との対比・判断 本件発明6~11は、本件発明1~4を引用するものであるから、甲4発明又は甲24発明との間には相違点D1~D4が存在するところ、上記のとおり、相違点D1~D4について、当業者が容易に想到し得たとは認められない。 したがって、本件発明6~11は、甲第1号証、甲第2号証、甲第3号証、甲第4号証又は甲第24号証、甲第8号証及び甲第9号証に記載された発明、並びに、甲第15号証、甲第21号証及び甲第22号証で示される本件出願時における周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 なお、本件発明6~11は、本件発明5も引用するものであるところ、審判請求書の記載からみて、無効理由7-1及び7-2は、本件発明5を引用する本件発明6~11を対象とするものとは認められない。 (5)小括 したがって、本件発明1~4及び6~11は、甲第1号証、甲第2号証、甲第3号証、甲第4号証又は甲第24号証、甲第8号証及び甲第9号証に記載された発明、並びに、甲第15号証、甲第21号証及び甲第22号証で示される本件出願時における周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、ということができない。 よって、請求人の主張する無効理由7-1及び7-2は理由がなく、本件発明1~4及び6~11についての特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものとはいえず、同法第123条第1項第2号に該当せず、無効理由7-1及び7-2により無効とすべきものではない。 10 無効理由8について (1)甲第5号証に記載された発明 甲第5号証には、植物を銅クロロフィル及び/又は銅クロロフィリンアルカリ金属塩を含む溶液に接触させて、植物に緑色を着色すること(記載(5a))が記載されている。 よって、甲第5号証には、「銅クロロフィル及び/又は銅クロロフィリンアルカリ金属塩、並びに還元剤の一種又は二種以上を含む水溶液に、緑色野菜類又は海草類を浸漬することを特徴とする緑色野菜類及び海草類の着色方法。」の発明が記載されているといえる(以下「甲5発明」という)。 (2)本件発明2との対比・判断 ア 対比 本件発明2と甲5発明とを対比すると、「植物を液に接触させる方法。」である点で一致し、以下の点で相違する。 相違点E1:本件発明2は接触させる液について「Cu含有酵母を含む金属酵母液」と特定しているのに対して、甲5発明は「銅クロロフィル及び/又は銅クロロフィリンアルカリ金属塩を含む液」と特定している点。 相違点E2:本件発明2は「植物の緑色を復元し、あるいは、植物の葉緑素に含まれるマグネシウムが失われて褐変するのを防止することにより植物の緑色を保持する方法」と特定しているのに対して、甲5発明は「緑色野菜類及び海草類の着色方法」と特定している点。 イ 相違点E1についての判断 (ア)動機付けの有無 甲第5号証には、銅クロロフィル及び/又は銅クロロフィリンアルカリ金属塩、並びに還元剤の一種又は二種以上を含む水溶液に、緑色野菜類又は海草類を浸漬することを特徴とする緑色野菜類及び海草類の着色方法(甲5発明)が記載されているものの、金属酵母液を用いようとすることや、銅クロロフィル及び/又は銅クロロフィリンアルカリ金属塩、並びに還元剤の一種又は二種以上を含む水溶液に酵母を添加することは、甲第5号証に動機付けとなる記載や示唆がない。 甲第1号証には、酵母を用いて調製した浅漬用漬液にキウリを漬け、浅漬けキウリを得る方法の発明(甲1-1発明)や、酵母を添加して得た漬床にキウリを漬け込み、元の色彩を残した色の鮮やかなキウリの漬物を得る方法の発明(甲1-2発明)が記載されているものの、甲1-1発明の浅漬用漬液や甲1-2発明の漬床を、甲5発明に組み合わせる(添加する)動機付けとなる記載や示唆はない。さらにいえば、甲1-1発明の浅漬用漬液は、上記3(2)イで検討したとおり、酵母を含んでいないため、仮に、甲5発明に添加したとしても、金属酵母液とはならない。 甲第2号証には、野沢菜10kgをブランチングした後、グルコース0.6kg、水酸化カルシウム10g及び乳酸カルシウム50gと共に漬込み、パン酵母を105/gとなるように添加して落しぶたと70kgの重石と共に2℃以下で3ヶ月間置くことにより、緑色を保持した無塩野沢菜漬を得る方法(甲2発明)が記載されているものの、甲2発明で用いたグルコース、水酸化カルシウム、乳酸カルシウム及びパン酵母からなる混合物を、甲5発明に組み合わせる(添加する)動機付けとなる記載や示唆はない。 甲第3号証には、コウジ酸1gと含硫アミノ酸を含有した酵母エキス1gを水道水1Lに溶解させた処理液にキャベツを10分間浸漬した後、水を切り保存することによりキャベツの変色を防止する方法(甲3発明)が記載されているものの、甲5発明は緑色野菜類及び海草類の着色方法であって、変色を防止する方法ではないことから、甲5発明において金属酵母液を用いようとすることについて、甲第3号証に動機付けとなる記載や示唆がない。 甲第8号証及び第9号証には、イースト菌を含む漬物床に野菜を漬けることで、変色することがなく野菜の風味を残した旨味のあるみずみずしい漬物を得ることが記載されているが(記載(8a)~記載(8c)、記載(9a)~記載(9c))、当該漬物床を甲5発明に組み合わせる(添加する)動機付けとなる記載や示唆はない。 甲第15号証、甲第21号証及び甲第22号証には、酵母が金属元素を必須とすること等が記載されているが、植物を金属酵母液に接触させることは何ら記載されていない。 (イ)判断 してみると、相違点E1については、当業者が容易に想到し得たとは認められない。 ウ 相違点E2についての判断 (ア)動機付けの有無 甲第5号証には、「【発明が解決しようとする課題】そこで本発明が解決しようとする課題は、前記の従来の着色方法に伴っていた欠点を解決し得る方法、即ち着色の前提として脱色処理を施す必要のない着色方法、さらにはこれに加えて着色後の色落ちを可及的に抑制することが可能な着色方法、並びにこれらの着色方法によって得られる被着色物を提供することにある。 ・・・ 【課題を解決するための手段】本発明者は上記課題を解決せんと鋭意検討を重ねた結果、銅クロロフィル等と還元剤を含む水溶液を用いることにより、着色の前提として脱色処理を施す段階を省略することが可能であり、さらには一定の加温処理を施すことで着色後の色落ちを可及的に抑制することが可能であることを見出し本発明を完成した。」との記載(記載(5b))、及び「本発明方法の被着色物として用いられる「緑色野菜類及び海草類」は、天然品の有する本来の色彩が緑色である野菜類や海草類のみならず、緑色に着色することによりその商品としての価値を見出すことの可能な野菜類や海草類をも意味するものである。」との記載があること(記載(5c))を参酌すると、甲5発明の「着色方法」は、本来の色彩が緑色ではない植物を含め、処理液自体で、緑色に着色することを意図したものと認められる。 一方で、本件発明2の「植物の緑色を復元し、あるいは、植物の葉緑素に含まれるマグネシウムが失われて褐変するのを防止することにより植物の緑色を保持する方法」は、本件明細書において、発明が解決しようとする課題として「植物を鉄イオンを含む溶液に浸漬して、植物の葉緑素を緑色にすると、暗色の緑色となり、全ての植物を自然な色調の緑色にできない。・・・また、水が緑色になると、植物をあたかも顔料や染料で着色したものと同じように見られる欠点もある。」と記載されているとおり(記載(ア))、植物本来の緑色を復元しあるいは保持することを目的とした発明であることを踏まえると、その課題の点で相違している。 また、甲第5号証には、植物を着色する代わりに、植物の緑色を復元し、あるいは、植物の葉緑素に含まれるマグネシウムが失われて褐変するのを防止することにより植物の緑色を保持することについて、示唆も含めて記載がない。 (イ)判断 してみると、相違点E2については、当業者が容易に想到し得たとは認められない。 エ 請求人の主張について 請求人は、弁駁書、34~36頁において、 (i)相違点E1について、食用とされる植物の緑色を保持することを目的とする当業者にとって、甲5発明の有機金属を、食品として認可されている金属強化酵母に置き換える強い動機づけが存在していたといえること、 (ii)相違点E2について、本件発明の効果が酵母に含まれる有機金属によるものである限り、本件発明も「処理液自体で、緑色に着色することを意図したもの」となり、また、酵母に含まれる有機金属であって、植物の緑色の復元乃至保持に関与する有機金属には甲5発明の銅クロロフィル等も含まれると考えられることから、これを着色と呼ぶか、復元乃至保持と呼ぶかは単に表現上の問題であり、甲第29号証にも、銅クロロフィルが緑色を「復元」すると表現されていることから、実質的相違点ではないこと、 (iii)被請求人が審査経過で主張した有機金属による効果は金属クロロフィルによるものであると考えられるが、それでもなお相違点E1及び2が実質的相違点であると判断される場合には、本件発明における「金属酵母液」の有効成分の範囲が第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であることを意味することとなる旨、 を主張する。 そこで、検討する。 (i)について 上記イ(ア)で述べたとおりであり、また、上記9(2)イで述べたのと同様である。 (ii)について 上記ウ(ア)で述べたとおり、甲5発明の「着色方法」は、本来の色彩が緑色ではない植物を含め、処理液自体で、緑色に着色することを意図したものである一方、本件発明2は、植物本来の緑色を復元しあるいは保持することを目的としたものであるから、それらが方法として同じであるとはいえず、単なる表現上の差異であるともいえないから、実質的相違点である。 (iii)について 被請求人の審査経過における有機金属に関する主張と相違点E1及びE2が実質的相違点であることとの関連はなく、実質的相違点であると判断した場合に本件発明2における「金属酵母液」が明確でないとする理由もない。 したがって、上記請求人の主張を採用することはできない。 オ まとめ 本件発明2は、甲第1号証、甲第2号証、甲第3号証、甲第5号証、甲第8号証及び甲第9号証に記載された発明、並びに、甲第15号証、甲第21号証及び甲第22号証で示される本件出願時における周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (3)本件発明6~11との対比・判断 本件発明6~11は、本件発明2を引用するものであるから、甲5発明との間には相違点E1、E2が存在するところ、上記のとおり、相違点E1、E2について、当業者が容易に想到し得たとは認められない。 したがって、本件発明6~11は、甲第1号証、甲第2号証、甲第3号証、甲第5号証、甲第8号証及び甲第9号証に記載された発明、並びに、甲第15号証、甲第21号証及び甲第22号証で示される本件出願時における周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 なお、本件発明6~11は、本件発明1及び3~5も引用するものであるところ、審判請求書の記載からみて、無効理由8は、本件発明1及び3~5を引用する本件発明6~11を対象とするものとは認められない。 (4)小括 したがって、本件発明2及び6~11は、甲第1号証、甲第2号証、甲第3号証、甲第5号証、甲第8号証及び甲第9号証に記載された発明、並びに、甲第15号証、甲第21号証及び甲第22号証で示される本件出願時における周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、ということができない。 よって、請求人の主張する無効理由8は理由がなく、本件発明2及び6~11についての特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものとはいえず、同法第123条第1項第2号に該当せず、無効理由8により無効とすべきものではない。 11 無効理由9について (1)甲第6号証に記載された発明 甲第6号証には、植物を緑色に発色させる方法であって、植物に水溶性クロロフィル類を含む溶液を含浸させた後、前記含浸されたクロロフィル類を水に不溶化することを特徴とする植物の発色方法(記載(6a))が記載されている。 よって、甲第6号証には、「植物を緑色に発色させる方法であって、植物に水溶性クロロフィル類を含む溶液を含浸させた後、前記含浸されたクロロフィル類を水に不溶化することを特徴とする植物の発色方法。」の発明が記載されているといえる(以下「甲6発明」という)。 (2)本件発明1との対比・判断 ア 対比 本件発明1と甲6発明とを対比すると、「植物を液に接触させる方法。」である点で一致し、以下の点で相違する。 相違点F1-1:本件発明1は接触させる液について「Zn含有酵母を含む金属酵母液」と特定しているのに対して、甲6発明は「水溶性クロロフィル類を含む液」と特定している点。 相違点F1-2:本件発明1は「植物の緑色を復元し、あるいは、植物の葉緑素に含まれるマグネシウムが失われて褐変するのを防止することにより植物の緑色を保持する方法」と特定しているのに対して、甲6発明は「植物を緑色に発色させる方法」と特定している点。 イ 相違点F1-1についての判断 (ア)動機付けの有無 甲第6号証には、植物を緑色に発色させる方法であって、植物に水溶性クロロフィル類を含む溶液を含浸させた後、前記含浸されたクロロフィル類を水に不溶化することを特徴とする植物の発色方法(甲6発明)が記載されているものの、水溶性クロロフィル類を含む溶液の代わりに金属酵母液を用いることや水溶性クロロフィル類を含む溶液に酵母を添加することの動機付けについては、甲第6号証に示唆も含めて記載がない。 甲第1号証には、酵母を用いて調製した浅漬用漬液にキウリを漬け、浅漬けキウリを得る方法の発明(甲1-1発明)や、酵母を添加して得た漬床にキウリを漬け込み、元の色彩を残した色の鮮やかなキウリの漬物を得る方法の発明(甲1-2発明)が記載されているものの、甲1-1発明の浅漬用漬液や甲1-2発明の漬床を、甲6発明に組み合わせる(添加する)動機付けとなる記載や示唆はない。さらにいえば、甲1-1発明の浅漬用漬液は、上記3(2)イで検討したとおり、酵母を含んでいないため、仮に、甲6発明に添加したとしても、金属酵母液とはならない。 甲第2号証には、野沢菜10kgをブランチングした後、グルコース0.6kg、水酸化カルシウム10g及び乳酸カルシウム50gと共に漬込み、パン酵母を105/gとなるように添加して落しぶたと70kgの重石と共に2℃以下で3ヶ月間置くことにより、緑色を保持した無塩野沢菜漬を得る方法(甲2発明)が記載されているものの、甲2発明で用いたグルコース、水酸化カルシウム、乳酸カルシウム及びパン酵母からなる混合物を、甲6発明に組み合わせる(添加する)動機付けとなる記載や示唆はない。 甲第3号証には、コウジ酸1gと含硫アミノ酸を含有した酵母エキス1gを水道水1Lに溶解させた処理液にキャベツを10分間浸漬した後、水を切り保存することによりキャベツの変色を防止する方法(甲3発明)が記載されているものの、甲6発明において金属酵母液を用いようとすることは、甲第3号証に動機付けとなる記載や示唆がない。 甲第8号証及び甲第9号証には、イースト菌を含む漬物床に野菜を漬けることで、変色することがなく野菜の風味を残した旨味のあるみずみずしい漬物を得ることが記載されているが(記載(8a)~記載(8c)、記載(9a)~記載(9c))、当該漬物床を甲6発明に組み合わせる(添加する)動機付けとなる記載や示唆はない。 甲第15号証、甲第21号証及び甲第22号証には、酵母が金属元素を必須とすること等が記載されているが、植物を金属酵母液に接触させることは何ら記載されていない。 (イ)判断 してみると、相違点F1-1については、当業者が容易に想到し得たとは認められない。 ウ 相違点F1-2についての判断 (ア)動機付けの有無 甲第6号証には、発明が解決しようとする課題として「植物中に元々含まれていたクロロフィルを銅クロロフィルに改質しているにすぎないため、植物中のクロロフィルを多く含有する部分はより鮮やかな緑色にできるが、根白部や斑の入った部分などのようなクロロフィルの含有量の少ない部分は、発色しないか、あるいは色が悪いまま残ってしまう。そのため、多くの問題が起こる。」と記載され(記載(6b))、実施例においても「得られた畳表用藺草は、根白部が緑色に発色していた。」との記載があること(記載(6c))を参酌すると、甲6発明の「発色させる方法」は、本来の色彩が白色である植物を含め緑色に発色させることを意図したものと認められる。 一方で、本件発明1の「植物の緑色を復元し、あるいは、植物の葉緑素に含まれるマグネシウムが失われて褐変するのを防止することにより植物の緑色を保持する方法」は、本件明細書において、発明が解決しようとする課題として「植物を鉄イオンを含む溶液に浸漬して、植物の葉緑素を緑色にすると、暗色の緑色となり、全ての植物を自然な色調の緑色にできない。・・・また、水が緑色になると、植物をあたかも顔料や染料で着色したものと同じように見られる欠点もある。」と記載されているとおり(記載(ア))、植物本来の緑色を復元しあるいは保持することを目的とした発明であることを踏まえると、その課題の点で相違している。 また、甲第6号証には、植物を緑色に発色させる代わりに、植物の緑色を復元し、あるいは、植物の葉緑素に含まれるマグネシウムが失われて褐変するのを防止することにより植物の緑色を保持することについて、示唆も含めて記載がない。 (イ)判断 してみると、相違点F1-2については、当業者が容易に想到し得たとは認められない。 エ 請求人の主張について 請求人は、弁駁書、36~38頁において、無効理由9に関して主張するが、その内容は、無効理由8に関して上記10(2)エで示した主張と同様のものであるから、その判断についても上記10(2)エで示したのと同様であり、採用できない。 オ まとめ 本件発明1は、甲第1号証、甲第2号証、甲第3号証、甲第6号証、甲第8号証及び甲第9号証に記載された発明、並びに、甲第15号証、甲第21号証及び甲第22号証で示される本件出願時における周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (3)本件発明2との対比・判断 ア 対比 本件発明1と本件発明2とは、金属酵母液に含まれる酵母が「Zn含有酵母」であるか、「Cu含有酵母」であるかという点のみで相違することから、本件発明2と甲6発明とを対比すると、上記の相違点F1-2のほか、以下の点で相違する。 相違点F2-1:本件発明1は接触させる液について「Cu含有酵母を含む金属酵母液」と特定しているのに対して、甲6発明は「水溶性クロロフィル類を含む液」と特定している点。 イ 相違点F2-1の判断 上記(2)イと同様の理由により、甲6発明において、水溶性クロロフィル類を含む溶液の代わりに金属酵母液を用いようとすることや水溶性クロロフィル類を含む溶液に酵母を添加することの動機付けがあったとはいえないことから、相違点F2-1については、当業者が容易に想到し得たとは認められない。 ウ まとめ 本件発明2は、甲第1号証、甲第2号証、甲第3号証、甲第6号証、甲第8号証及び甲第9号証に記載された発明、並びに、甲第15号証、甲第21号証及び甲第22号証で示される本件出願時における周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (4)本件発明6~10との対比・判断 本件発明6~10は、本件発明1又は2を引用するものであるから、甲6発明との間には相違点F1-1、F1-2及びF2-1が存在するところ、上記のとおり、相違点F1-1、F1-2及びF2-1について、当業者が容易に想到し得たとは認められない。 したがって、本件発明6~10は、甲第1号証、甲第2号証、甲第3号証、甲第6号証、甲第8号証及び甲第9号証に記載された発明、並びに、甲第15号証、甲第21号証及び甲第22号証で示される本件出願時における周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 なお、本件発明6~10は、本件発明3~5も引用するものであるところ、審判請求書の記載からみて、無効理由9は、本件発明3~5を引用する本件発明6~10を対象とするものとは認められない。 (5)小括 したがって、本件発明1、2、6~10は、甲第1号証、甲第2号証、甲第3号証、甲第6号証、甲第8号証及び甲第9号証に記載された発明、並びに、甲第15号証、甲第21号証及び甲第22号証で示される本件出願時における周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、ということができない。 よって、請求人の主張する無効理由9は理由がなく、本件発明1、2及び6~10についての特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものとはいえず、同法第123条第1項第2号に該当せず、無効理由9により無効とすべきものではない。 12 無効理由10について (1)甲第7号証に記載された発明 甲第7号証には、芝の葉色を保持するため、芝にグルコン酸鉄を含む溶液を施用すること(記載(7a)、記載(7b))が記載されている。 よって、甲第7号証には、「グルコン酸鉄を有効成分とする水溶液からなる芝の葉色保持剤を用いた芝の葉色を保持する方法。」の発明が記載されているといえる(以下「甲7発明」という)。 (2)本件発明3との対比・判断 ア 対比 本件発明3と甲7発明とを対比すると、「植物を液に接触させて、植物の緑色を保持する方法。」である点で一致し、以下の点で相違する。 相違点G1:本件発明3は接触させる液について「Fe含有酵母を含む金属酵母液」と特定しているのに対して、甲7発明は「グルコン酸鉄を含む液」と特定している点。 相違点G2:本件発明1は、植物の緑色を保持する方法について「植物の葉緑素に含まれるマグネシウムが失われて褐変するのを防止することにより」との特定がされ、かつ、「あるいは」との特定により、当該方法との択一的な選択肢として「植物の緑色を復元」する「方法」との特定がされているのに対して、甲7発明はそのような特定がない点。 イ 相違点G1についての判断 (ア)動機付けの有無 甲第7号証には、グルコン酸鉄を有効成分とする水溶液からなる芝の葉色保持剤を用いた芝の葉色を保持する方法(甲7発明)が記載されているものの、グルコン酸鉄を有効成分とする水溶液の代わりに金属酵母液を用いることやグルコン酸鉄を有効成分とする水溶液に酵母を添加することの動機付けについては、甲第7号証に示唆も含めて記載がない。 甲第1号証には、酵母を用いて調製した浅漬用漬液にキウリを漬け、浅漬けキウリを得る方法の発明(甲1-1発明)や、酵母を添加して得た漬床にキウリを漬け込み、元の色彩を残した色の鮮やかなキウリの漬物を得る方法の発明(甲1-2発明)が記載されているものの、甲1-1発明の浅漬用漬液や甲1-2発明の漬床を、甲7発明に組み合わせる(添加する)動機付けとなる記載や示唆はない。さらにいえば、甲1-1発明の浅漬用漬液は、上記3(2)イで検討したとおり、酵母を含んでいないため、仮に、甲7発明に添加したとしても、金属酵母液とはならない。 甲第2号証には、野沢菜10kgをブランチングした後、グルコース0.6kg、水酸化カルシウム10g及び乳酸カルシウム50gと共に漬込み、パン酵母を105/gとなるように添加して落しぶたと70kgの重石と共に2℃以下で3ヶ月間置くことにより、緑色を保持した無塩野沢菜漬を得る方法(甲2発明)が記載されているものの、甲2発明で用いたグルコース、水酸化カルシウム、乳酸カルシウム及びパン酵母からなる混合物を、甲7発明に組み合わせる(添加する)動機付けとなる記載や示唆はない。 甲第3号証には、コウジ酸1gと含硫アミノ酸を含有した酵母エキス1gを水道水1Lに溶解させた処理液にキャベツを10分間浸漬した後、水を切り保存することによりキャベツの変色を防止する方法(甲3発明)が記載されているものの、甲7発明において金属酵母液を用いようとすることは、甲第3号証に動機付けとなる記載や示唆がない。 甲第8号証及び甲第9号証には、イースト菌を含む漬物床に野菜を漬けることで、変色することがなく野菜の風味を残した旨味のあるみずみずしい漬物を得ることが記載されているが(記載(8a)~記載(8c)、記載(9a)~記載(9c))、当該漬物床を甲7発明に組み合わせる(添加する)動機付けとなる記載や示唆はない。 甲第15号証、甲第21号証及び甲第22号証には、酵母が金属元素を必須とすること等が記載されているが、植物を金属酵母液に接触させることは何ら記載されていない。 (イ)判断 してみると、相違点G1については、当業者が容易に想到し得たとは認められない。 ウ 相違点G2についての判断 (ア)動機付けの有無 甲第7号証には、上記イ(ア)で示した事項のほか、エチレンジアミン四酢酸(以下EDTAと略称する)鉄アンモニウム塩を主成分とし必要量のMg、Mn等の微量要素を含んだ水溶液を芝生に散布して葉緑素の増殖を図ること、鉄とキレート結合して緑色となる有機化合物(例えばニトロソNW酸・ニトロソシェファー酸)の鉄塩の水溶液のみ又はエチレンジアミン四酢酸の鉄アンモニウム塩と併用して芝生に散布して芝生の着色と同時に鉄分その他の補給により葉緑素の増殖を図ること(記載(7b))、並びにグルコン酸の鉄塩を用いるとEDTA鉄塩よりも芝の鉄の吸収がよく、エネルギー源ともなるので、芝の葉色保持効果が高くなると考えられることが記載されている(記載(7c))ことを考慮すると、甲7発明は、グルコン酸鉄を含む液を用いることで、鉄分を吸収させることにより葉緑素の増殖を図り、エネルギー源とすることで芝の葉色を保持させるものであるといえる。 一方、本件発明1の「植物の緑色を復元し、あるいは、植物の葉緑素に含まれるマグネシウムが失われて褐変するのを防止することにより植物の緑色を保持する方法」は、本件明細書において、発明が解決しようとする課題として「植物を鉄イオンを含む溶液に浸漬して、植物の葉緑素を緑色にすると、暗色の緑色となり、全ての植物を自然な色調の緑色にできない。・・・また、水が緑色になると、植物をあたかも顔料や染料で着色したものと同じように見られる欠点もある。」と記載されているとおり(記載(ア))、植物本来の緑色を復元しあるいは保持することを目的とした発明であることを踏まえると、その課題の点で相違している。また、甲7発明の芝の葉色を保持する方法について、「植物の葉緑素に含まれるマグネシウムが失われて褐変するのを防止することにより」とすること及び「植物の緑色を復元」する「方法」とすることについて動機付けとなるような記載や示唆は甲第7号証にない。 また、甲第1号証、甲第2号証、甲第3号証、甲第8号証、甲第9号証、甲第15号証、甲第21号証及び甲第22号証には、上記イ(ア)に示した事項が記載されているが、かかる事項を参酌しても、甲7発明の芝の葉色を保持する方法について、「植物の葉緑素に含まれるマグネシウムが失われて褐変するのを防止することにより」とすること及び「植物の緑色を復元」する「方法」とすることについて動機付けられるとはいえない。 (イ)判断 してみると、相違点G2については、当業者が容易に想到し得たとは認められない。 ウ まとめ 本件発明3は、甲第1号証、甲第2号証、甲第3号証、甲第7号証、甲第8号証及び甲第9号証に記載された発明、並びに、甲第15号証、甲第21号証及び甲第22号証で示される本件出願時における周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (3)本件発明6、7、9及び10との対比・判断 本件発明6、7、9及び10は、本件発明3を引用するものであるから、甲7発明との間には相違点G1及び相違点G2が存在するところ、上記のとおり、相違点G1及び相違点G2について、当業者が容易に想到し得たとは認められない。 したがって、本件発明6、7、9及び10は、甲第1号証、甲第2号証、甲第3号証、甲第7号証、甲第8号証及び甲第9号証に記載された発明、並びに、甲第15号証、甲第21号証及び甲第22号証で示される本件出願時における周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 なお、本件発明6、7、9及び10は、本件発明1、2、4及び5も引用するものであるところ、審判請求書の記載からみて、無効理由10は、本件発明1、2、4及び5を引用する本件発明6、7、9及び10を対象とするものとは認められない。 エ 請求人の主張について 請求人は、弁駁書、38~40頁において、無効理由10に関して主張するが、その内容は、無効理由8に関して上記10(2)エで示した主張と同様のものであるから、その判断についても上記10(2)エで示したのと同様であり、採用できない。 (4)小括 したがって、本件発明3、6、7、9及び10は、甲第1号証、甲第2号証、甲第3号証、甲第7号証、甲第8号証及び甲第9号証に記載された発明、並びに、甲第15号証、甲第21号証及び甲第22号証で示される本件出願時における周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、ということができない。 よって、請求人の主張する無効理由10は理由がなく、本件発明3、6、7、9及び10についての特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものとはいえず、同法第123条第1項第2号に該当せず、無効理由10により無効とすべきものではない。 13 無効理由11について (1)サポート要件の判断の前提 特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。 (2)発明の詳細な説明の記載について ア 本件発明の解決課題について 記載(ア)及び本件明細書全体を参酌すると、本件発明の解決しようとする課題は、褐変した植物を優れた色調の緑色に復元できることに加えて、極めて安全に植物を緑色に処理して緑色に長期保存できる植物の緑色を復元し、あるいは緑色に処理した状態で保存する方法を提供することであると認められる。 イ 本件発明と発明の詳細な説明の記載との対比によるサポート要件の判断について (ア)課題を解決するための手段について 上記アで示した課題を解決するための手段として、記載(イ)には、植物を酵母を含む酵母液に接触させて、植物の緑色を復元し、あるいは、植物の葉緑素に含まれるマグネシウムが失われて褐変するのを防止することにより植物の緑色を保持することが記載されており、酵母液は、Znを含有する酵母、Cuを含有する酵母、Feを含有する酵母、Mgを含有する酵母のいずれかまたは複数を含有すること、酵母は、Cr、Mn等の金属を含有する金属酵母を含むものとすることもでき、さらにまた、酵母液は、これ等の金属を複数種含むものとすることもできること、複数の金属を含む酵母を使用して、植物の色合いを調整して好ましい緑色にできることが記載されている。 (イ)本件発明の科学的原理に関する推測について 記載(ア)によると、植物は葉緑素に含有されるマグネシウムが失われると緑色を失って枯渇した色に退色するところ、植物を金属イオンを含む溶液に浸漬することで、金属イオンの作用で葉緑素の緑色を復元できるという背景技術を挙げつつ、記載(イ)及び(ウ)において、植物が酵母液に浸漬される場合においても、葉緑素の緑色を復元できることが記載されている。 (ウ)本件発明における酵母に含まれる金属について 記載(ア)によると、従来技術において、植物を金属イオンを含む溶液に浸漬し、金属イオンの作用で緑色に復元する方法が使用されており、その際に植物の緑色を復元する金属イオンとして、鉄イオン、銅イオン、マグネシウムイオン、亜鉛イオン等が使用されていたことが記載され、また、記載(カ)には、「実施例は、酵母液に添加する酵母に、Znを含有する酵母、Cuを含有する酵母を使用したが、本発明はこれ等の酵母に代わって、あるいはこれ等の酵母に加えて、Feを含有する酵母、Mgを含有する酵母、Seを含有する酵母、Moを含有する酵母、Crを含有する酵母、Mnを含有する酵母のいずれかを使用して、退色した植物を緑色に変色させることができる。」とも記載されている。 (エ)本件発明に関する実施例の記載について 実施例では、退色した惣菜、褐変した竹の箸、又は褐変した桜の葉のそれぞれを、水溶性亜鉛酵母、亜鉛含有パン酵母、又は水溶性銅酵母を用いた金属酵母液に加熱して接触させることで、それら植物の緑色を復元し、また、その後も緑色を保持できたことが具体的に記載されている(記載(オ))。 (オ)植物の緑色を保持する方法における作用機序について 植物の緑色を保持する方法における作用機序について、本件明細書には、「以上の実施例は、褐変した植物の緑色を復元する方法を例示した。ただ、本発明の方法は、緑色が褐変した植物を処理するのではなくて、緑色をしている植物を処理して、緑色が退色するのを防止することもできる。それは、植物に亜鉛を添加することにより、植物の葉緑素に含まれるマグネシウムが失われて褐変するのを防止できるからである。」との記載がある(記載(キ))。 (カ)本件発明の解決課題と本件発明との関係について 上記(イ)の科学的原理、上記(ウ)の従来技術及び本件明細書の記載、上記(エ)の実施例からみて、上記(ア)の課題解決手段のうち、Zn、Cu、Fe、Mg含有酵母であれば、本件発明の課題を解決できると当業者は認識できるといえる。 一方で、金属酵母液に含まれる酵母として「Cr、Mnのいずれかの金属含有酵母」を使用する場合については、本件明細書の記載(カ)に「退色した植物を緑色に変色させることができる」との記載があるものの、従来技術や本件発明に関する実施例において具体的な裏付けが何ら存在しないことから、本件発明の課題を解決できると当業者が認識できると直ちにはいえない。そこで、Cr又はMn含有酵母については、請求人の主張と併せ、次の(3)で検討する。 (3)請求人の主張について 請求人は、審判請求書、156~167頁、上申書(2)、21~27頁、口頭審理陳述要領書、2~11頁、弁駁書、15~17頁、40~41頁において、無効理由11について主に以下の主張を行っている。 主張(1):本件発明1~11について、高温下での接触が必須であること 主張(2):本件発明1~11について、金属濃度が重要な要素であること 主張(3):本件発明1~11について、緑色の復元が確認された植物は緑色が退色している塩蔵品と褐変した乾燥品のみであること 主張(4):本件発明1~11について、緑色の復元は色止め処理して得られた効果に過ぎないこと 主張(5):本件発明5~11について、酵母の含有する金属元素がSe、Mo、Cr又はMnである場合については実施例で効果が確認されていないこと 主張(6)金属濃度や接触時間が重要であり、対象の植物との関係で限定されるべきであること 主張(7)当業者は本件発明の効果を「酵母の菌体そのもの」によることを認識できないこと 主張(8)「金属含有酵母の菌体そのもの」を用いてあらゆる植物の緑色を復元乃至保持するための手段が反映されていないこと 以下、主張(1)~(8)について検討する。 ア 主張(1)について 請求人は、本願実施例では全ての例において加熱して接触されており、加熱せずに接触させて緑色を復元させた例がないこと、本件特許出願人による甲第29号証及び甲第30号証の特許公報に対応した特許出願経過から、本件特許出願日当時に緑色の復元には高温下での処理が必須であると本件特許出願人が考えていたことが示されていることを挙げ、本件発明は高温下での接触が必須であると主張している。 そこで、上記主張について検討する。記載(ウ)によると、植物と金属酵母液とを接触させる際、「植物が加温された酵母液に浸漬されると、葉緑素は、短い時間で速やかに緑色に変色される。」一方で、「植物の葉緑素をゆっくりと時間をかけて緑色にするときは、加温されない酵母濃度の低い酵母液に浸漬する。」ことや「酵母液の酵母濃度は、酵母の金属含有量と、葉緑素を緑色にする時間と、溶液の温度とを考慮して最適値に調整する。」ことも記載されているから、葉緑素を緑色にする時間と酵母液の金属濃度に応じて温度を適宜調整することで、褐変した植物の緑色を復元しあるいは緑色の復元された植物又は緑色をしている植物を緑色に保持できるものと理解できる。すなわち、本件特許の発明の詳細な説明には、植物と金属酵母液とを接触させる温度は葉緑素を緑色にする時間と酵母液の金属濃度に応じて適宜調整すればよい旨が記載されており、当該記載に触れた当業者が高温下での接触が必須であると考えるとは認められない。 さらに、請求人が提示する甲第29号証には、非加熱状態で植物を酵母に接触させて、植物の緑色を復元しあるいは緑色に保持する発明が記載されており(記載(29a))、実施例においても、非加熱状態で植物を酵母に接触させて、植物の緑色を復元しあるいは緑色に保持したことが具体的に記載されている。また、甲第29号証には、接触させる時間が10日以上であることを特徴とすることも記載されているところ(記載(29b)、記載(29c))、本件発明の明細書において、ゆっくりと時間をかけて緑色にする場合には、加温されない酵母液に浸漬させる旨の記載(記載(ウ))とも整合している。 してみると、本件発明は高温下での接触が必須であるとはいえないことから、主張(1)は採用できない。 イ 主張(2)について 請求人は、本件発明の明細書では酵母の量が100mg未満であると効果が得られない旨を記載しているものの、本件発明において金属濃度が特定されていないと主張している。 そこで、上記主張について検討する。記載(イ)において、金属酵母液の金属濃度は、「たとえば1ppm以上、好ましくは3ppm以上とすることができる。酵母液は金属濃度を1ppm以上として植物を緑色に変色できる。さらに、金属濃度を3ppm以上として好ましい緑色に変色できる。酵母液の金属濃度は1000ppm以下とすることができる。」と記載されるとともに、記載(ウ)において、「酵母液の酵母濃度は、酵母の金属含有量と、葉緑素を緑色にする時間と、溶液の温度とを考慮して最適値に調整する。たとえば、60℃以上に加熱して、浸漬する植物の葉緑素を10分程度で緑色にする溶液は、金属濃度が5ppm以上となるように酵母の添加量を調整する。植物を加熱された酵母液に接触させて、葉緑素を緑色にできる最低の金属濃度は、1ppmである。したがって、酵母液の亜鉛濃度は、植物を緑色に変色させる時間と、溶液の加熱温度とを考慮して、たとえば、1ppm~1000ppm、好ましくは3ppm~300ppm、さらに好ましくは5~100ppmの範囲とされる。」と記載されており、本件明細書の実施例においては、亜鉛濃度が1ppm、2ppm、5ppm、24.5ppm等で実施されていることから(記載(オ))、当業者であれば、それら記載を参考にして金属酵母液の金属濃度を適宜調整することで、褐変した植物の緑色を復元しあるいは緑色の復元された植物又は緑色をしている植物を緑色に保持できるものと理解できる。すなわち、当該記載に触れた当業者であれば、当該記載を参考にして接触時間や接触温度等の他の条件に応じて酵母や金属濃度を適宜調整すればよいものと理解できることから、本件発明において金属濃度が特定されていないとしても、本件発明の課題を解決できないとはいえない。 してみると、主張(2)は採用できない。 ウ 主張(3)について 請求人は、本願実施例で使用された植物は退色した惣菜、褐変した竹の箸、又は褐変した桜の葉であり、本願出願時の技術常識を参酌しても、塩蔵品や乾燥品のようにもはや緑色ではない植物について緑色を復元することしか知られていなかったこと、生キュウリを90℃の温度の下で15分間酵母と接触させる実験を請求人が行ったところ、甲第35号証に記載のとおり当初の緑色が著しく損なわれる結果となったことを踏まえれば、本件発明の対象となる植物は緑色が退色している塩蔵品と褐変した乾燥品のみであると主張している。 そこで、上記主張について検討する。記載(キ)によると、「本発明の方法は、緑色が褐変した植物を処理するのではなくて、緑色をしている植物を処理して、緑色が退色するのを防止することもできる」ことが記載されており、その科学的原理についても、「植物に亜鉛を添加することにより、植物の葉緑素に含まれるマグネシウムが失われて褐変するのを防止できるからである。」と記載されていることから、該作用機構の記載を参照すれば、接触させる植物として、緑色が褐変した植物のみならず緑色をしている植物を用いることができ、その場合には緑色に保持することができるものと当業者が理解できる。 また、請求人が提示する甲第35号証においては、生キュウリの緑色が著しく損なわれているが、被請求人が提示する乙第11号証では、生キュウリを対象に金属酵母液と金属溶液を用いた比較実験が行われており、その結果として金属酵母液を用いた例では緑色がより保持されたことが確認されていること、また、乙第11号証に記載の実験条件について、「Aは、94℃に加熱した水に、亜鉛酵母を入れ、25ppmの亜鉛濃度の酵母液とし、生のキュウリを25分浸漬した」、「Cは、62℃に加熱した水に、亜鉛酵母を入れ、25ppmの亜鉛濃度の酵母液とし、生のキュウリを90分浸漬した」と記載されており(記載(11a))、本件発明の明細書の記載と齟齬するものでもないことを参酌すると、緑色をしている植物を用いた場合においても、本件明細書の記載を踏まえて適宜条件を調整することにより、緑色を保持することができるものと認められる。なお、甲第35号証に記載の結果については、金属酵母液と接触させる際の条件やその後の調整液による処理の条件が生キュウリには不適であったことを示しているに過ぎず、条件を調整することで緑色を保持することができると考えるのが妥当である。 してみると、主張(3)は採用できない。 エ 主張(4)について 請求人は、本願実施例では、塩蔵品や乾燥品である植物を酵母液から取り出した後にクエン酸等を含有する調整液に浸漬して色止め処理を行っており、甲第4号証、甲第24号証、甲第29号証及び甲第30号証に記載の実施例においても同様であることから、緑色の復元は色止め処理して得られた効果に過ぎないと主張している。 そこで、上記主張について検討する。記載(エ)によると、「酵母液に接触させて緑色になった植物は、その後、調整液に浸漬して色調を調整、あるいは、短時間で洗浄を完了することもできる。」ことが記載されており、調整液にクエン酸、還元糖、還元剤を含ませることで、「緑色になった植物がクエン酸の溶液に浸漬されると、遊離して植物表面に付着している金属イオンがクエン酸と反応し、錯塩となって分離できる。このため、クエン酸の溶液に浸漬して、植物を短時間で水洗できる。」とともに、「還元糖や還元剤の溶液に、緑色になった植物を浸漬すると、顔料や染料で人工的に着色したような不自然な色が調整される。また、処理後における植物の変色を防止できる。」ことも記載されていることから、調整液による色止めする処理は、色調を調整、あるいは、短時間で洗浄を完了するために適宜実施すればよいものと当業者は十分に理解することができる。また、請求人が提示する甲号証を参酌しても、緑色の復元は色止め処理して得られた効果に過ぎないことを示す具体的な根拠となる記載があるとはいえない。 してみると、主張(4)は採用できない。 オ 主張(5)について 請求人は、本願実施例では、酵母の含有する金属元素がSe、Mo、Cr又はMnである場合について効果が確認されておらず、また、本件特許出願時において、酵母の含有する金属元素がSe、Mo、Cr又はMnであっても緑色を復元ないし保持できることは知られていないと主張している(当該主張に関し、Se又はMo含有酵母については、本件訂正により請求項5の記載から削除されているため、以下、Cr又はMn含有酵母について検討する。)。また、上記(2)イ(オ)で検討したとおり、本件明細書の記載からでは、Cr又はMn含有酵母では、本件発明の課題を解決できると当業者が認識できるとまではいえないと主張する。 これに対して、被請求人は乙第14号証及び乙第15号証を提示しているところ、乙第15号証は生野菜の天然の色を保持する方法において、野菜を亜鉛および銅のイオンからなる群より選択される金属イオンを含有する漂白液中において約150°Fから約212°Fまでの温度で処理し、その後野菜を容器に詰めることを特徴とする方法に関するものであり、その実施例では、漂白水に加える金属塩として亜鉛塩や銅塩のほかに「MnSO4・H2O」、「Cr(NO3)3・9H2O」を用いた例が記載されている(記載(乙15a))。当該実施例では、亜鉛塩や銅塩を用いた場合に貯蔵後においても色等級が高く、生野菜の天然の色を保持されていることが記載される一方、「MnSO4・H2O」、「Cr(NO3)3・9H2O」を用いた場合については、色等級が低く、金属塩の添加がない場合に比べればわずかに色が保持される程度であることが把握できる。 よって、乙第15号証の実施例の記載を技術常識として参酌すれば、色を保持できる程度は大きく低減するとしても、作用する金属が亜鉛や銅のみならずMnやCrの場合においても、一定程度緑色を復元ないし保持できることは、当業者が十分に理解できたものと認められる。さらに、本件明細書において、記載(ウ)のとおり、培地に金属を添加することで金属を含有する酵母を培養できることが記載されていることを踏まえれば、当業者はMnやCrを含有する酵母も適宜入手できるものと認められる。 してみると、Cr、Mn含有酵母に関しては、本件出願時の技術常識に照らし、本件発明の課題を解決できると当業者は認識できるといえる。 したがって、主張(5)は採用できない。 カ 主張(6)について この主張は、上記主張(1)~(3)と同様の内容を含む主張であり、また、接触時間についても主張するが、上記ア~ウで述べたとおりであり、また、接触時間は金属濃度、処理温度等を考慮して適宜調整できるといえる。さらに、請求人は、上限である1000ppmの金属濃度を上回る程度のマグネシウムがクロロフィルから失われた場合に褐変を防止することはできない旨主張するが、本件明細書の「酵母液の金属濃度は、たとえば1ppm以上、好ましくは3ppm以上とすることができる。酵母液は金属濃度を1ppm以上として植物を緑色に変色できる。さらに、金属濃度を3ppm以上として好ましい緑色に変色できる。酵母液の金属濃度は1000ppm以下とすることができる。」との記載(記載(イ))は、「とすることができる」との記載から明らかなとおり、金属濃度の上限を限定するものであるとは解されず、本件発明1~6及び8~11では、金属濃度の上限は特定されていないから、当該主張は発明特定事項に基づくものではなく、仮に本件発明1~6及び8~11が金属濃度の上限を1000ppmとするものであったとしても、上限を1000ppmとする本件発明7と共に、当該上限に応じた程度、期間について、植物の緑色を復元し、あるいは、植物の葉緑素に含まれるマグネシウムが失われて褐変するのを防止することにより植物の緑色を保持することができるといえる。 したがって、主張(6)は採用できない。 キ 主張(7)について 本件明細書に記載の実施例において、用いられている酵母は、水溶性亜鉛酵母(米国 Grow Company,Inc.製 Soluble Zinc Yeast)、亜鉛含有パン酵母(米国 Grow Company,Inc.製 High Zinc Yeast)、銅含有酵母であるところ、上記2(2)ウに記載したとおり、上記亜鉛含有パン酵母は不溶性成分を含むミネラル酵母であり、当該不溶性成分を含むミネラル酵母は酵母の菌体そのものであるといえる。また、銅含有酵母についても、酵母の菌体そのものであると解するのが自然である。仮に実施例で用いられている酵母が菌体そのものではなかったとしても、本件明細書の、菌体そのものを包含するといえる酵母に関する記載(記載(ウ))、金属濃度、処理温度、処理時間、酵母の添加量等に関する記載(記載(イ)、(ウ))等の記載と実施例の記載を参酌すれば、「酵母の菌体そのもの」が本件発明の効果を奏することを当業者が理解できるといえる。 したがって、主張(7)は採用できない。 ク 主張(8)について 請求人は、甲第47号証の、金属が「酵母に取り込まれた後は,菌体外に排出されない」との記載を指摘して、金属酵母液の有効成分が「金属含有酵母の菌体そのもの」であった場合、菌体を破壊する処理を行って菌体外に金属を溶出させない限り、大量の金属を金属酵母液に含めることは不可能であり、これは緑色保持にも当てはまる旨主張する。 しかし、たとえ甲第47号証に上記のとおりの記載があったとしても、甲第47号証の記載はビールの醸造の分野に関するものであって、技術分野が異なるし、本件明細書には菌体を破壊することが必要である旨の記載はなく、実施例(実施例4、6及び9)では、「金属含有酵母の菌体そのもの」といえる酵母を用いて、実際に惣菜等の植物の緑色を復元したこと、処理された惣菜を、30日清水に浸漬すると、水は緑色に変色せず、また、惣菜の緑色は変色しなかったことが実験結果を伴って具体的に記載されており(記載(オ))(仮に実施例で用いられている酵母が金属含有酵母の菌体そのものではなかったとしても同様である。)、本件明細書の金属濃度、処理温度、処理時間、酵母の添加量等に関する記載(記載(イ)、(ウ))等の記載を参酌すれば(仮に実施例で用いられている酵母が金属含有酵母の菌体そのものではなかったとしても同様である。)、これらの条件によって緑色の復元及び保持の程度が異なることがあるとしても、金属含有酵母の菌体そのものを用いることで、植物の緑色を復元し、あるいは、植物の葉緑素に含まれるマグネシウムが失われて褐変するのを防止することにより植物の緑色を保持することができることを当業者は理解できるといえる。 したがって、主張(8)は採用できない。 (4)小括 以上により、本件発明1~11は、発明の詳細な説明に記載された発明であるといえるし、かつ、発明の詳細な説明に記載される各種条件を踏まえることで、当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえるから、請求項1~11の記載が特許法第36条第6項第1号に適合するといえる。 よって、請求人の主張する無効理由11は理由がなく、本件発明1~11についての特許は特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえず、特許法第123条第1項第4号に該当せず、無効理由11により無効とすべきものではない。 14 無効理由12について (1)実施可能要件の判断の前提 方法の発明における発明の「実施」とは、その方法の使用をする行為をいう(特許法第2条第3項第2号)から、特許法第36条第4項第1号の「その実施をすることができる」(実施可能要件)とは、その方法を使用できることである。したがって、方法の発明については、明細書の記載又はその示唆及び出願当時の技術常識に基づき、当業者がその方法を使用することができるのであれば、上記の実施可能要件を満たすということができる。 (2)検討 上記13で検討したとおりであり、本件明細書の記載からみて、植物と金属酵母液とを接触させる温度、酵母液の金属濃度、クエン酸等を含有する調整液に浸漬して色止め処理を適宜調整しつつ、褐変した植物又は緑色をしている植物を金属含有酵母を含む金属酵母液と接触させることにより、植物の緑色を復元し、あるいは、植物の葉緑素に含まれるマグネシウムが失われて褐変するのを防止することにより植物(退色していない植物を含むといえる。)の緑色を保持することができるといえるものであるから、本件発明は、明細書の記載又はその示唆及び出願当時の技術常識に基づき、当業者がその方法を使用することができるといえる。 したがって、本件明細書は、当業者が本件発明を実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるといえる。 (3)請求人の主張について 請求人の、審判請求書、167頁、上申書(2)、27~29頁、弁駁書、15~17頁、41~42頁における、無効理由12についての主張は、上記13(3)で示した主張と同様の主張である。 上申書(2)では、甲第41号証では、亜鉛強化酵母(S2)が退色していない生のキュウリの緑色を保持するどころか水(C2)よりも退色させたことが示されていることを指摘して実施可能要件を満たさないことも主張しているが、特定の条件下で緑色が保持されなかったとしてもそのことだけで実施可能要件を満たさないと解することはできず、かかる主張は採用できない。 したがって、請求人の主張は採用できない。 (4)小括 以上により、本件発明1~11について、発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に適合するといえる。 よって、請求人の主張する無効理由12は理由がなく、本件発明1~11についての特許は特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえず、特許法第123条第1項第4号に該当せず、無効理由12により無効とすべきものではない。 第8 むすび 以上のとおり、本件発明1~7及び9~11は、特許法第29条第1項第3号に該当せず、特許を受けることができないものではないから、本件発明1~7及び9~11に係る特許は同法第29条第1項の規定に違反してされたものであるとして、無効とすべきでものではない(同法第123条第1項第2号)。また、本件発明1~11は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではないから、本件発明1~11に係る特許は同法第29条第2項の規定に違反してされたものであるとして、無効とすべきものではない(同法第123条第1項第2号)。さらに、本件発明1~11に係る特許は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号及び第2号に規定される要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえず、発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号に規定される要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえないから、無効とすべきものではない(同法第123条第1項第4号)。 審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。 よって、結論のとおり審決する。

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2021-800097

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