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特許異議申立

2024-700029

水分散体

審判番号
2024-700029
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2022-577584
登録番号
7311209
請求日
2024年01月17日
審決日
2024年08月27日
公報発行日
2024年09月27日
結論
維持
当事者
  • 【権利者】中京油脂株式会社
  • 【権利者代理人】小西 富雅
  • 【異議申立人】森田 悠介
審判長/審判官
  • 審判長 門前 浩一
  • 審判官 村守 宏文
  • 審判官 長谷川 真一
分類
P1651.121-Y (C09D) / P1651.537-Y (C09D)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第2項、特許法第113条第2号、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第7311209号発明「水分散体」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第7311209号の請求項1~16に係る特許を維持する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 本件特許に係る出願は、2022年(令和4年)9月15日(優先権主張 令和3年9月22日(以下「本件優先日」という。)を国際出願日とする特許出願をしたものであって、令和5年7月10日に請求項1~16に係る特許の設定登録がされ、同年同月19日に特許掲載公報が発行されたところ、令和6年1月17日に特許異議申立人 森田 悠介(以下「申立人」という。)により全請求項に係る特許に対して特許異議の申立てがされたものである。 第2 本件発明 特許第7311209号の請求項1~16の特許に係る発明(以下、「本件特許発明1」~「本件特許発明16」といい、まとめて「本件特許発明」ともいう。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1~16に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 基材に対して3g/m2(乾燥重量)以上のポリ乳酸を含む膜であって、100℃で加熱圧着をしたとき、5.0(N/15mm)以上(JIS Z 1707、剥離速度:300mm/分)のヒートシール性を有する膜を形成するための水分散体であって、 ポリ乳酸、ポリビニルアルコール類及び水を含み、 前記ポリビニルアルコール類はその平均ケン化度が60.0~82.0モル%であり、平均重合度は200~700であり、 前記ポリ乳酸とポリビニルアルコール類との配合比(質量比)は、98/2~90/10である、水分散体。 【請求項2】 前記ポリビニルアルコール類はポリビニルアルコールである、請求項1に記載の水分散体。 【請求項3】 前記ポリビニルアルコール類の平均重合度が240~600である、請求項1に記載の水分散体。 【請求項4】 前記ポリビニルアルコール類はその平均ケン化度が60.0~70.0モル%であり、かつその平均重合度は230~300である、請求項1に記載の水分散体。 【請求項5】 前記ポリビニルアルコール類はその平均ケン化度が60.0~70.0モル%であり、かつその平均重合度は500~700である、請求項1に記載の水分散体。 【請求項6】 前記ポリビニルアルコール類はその平均ケン化度が69.0~74.0モル%であり、かつその平均重合度は400~600である、請求項1に記載の水分散体。 【請求項7】 前記ポリビニルアルコール類はその平均ケン化度が78.5~82.0モル%であり、かつその平均重合度は200~400である、請求項1に記載の水分散体。 【請求項8】 前記ポリビニルアルコール類はその平均ケン化度が78.5~82.0モル%であり、かつその平均重合度は400~600である、請求項1に記載の水分散体。 【請求項9】 請求項1~8の何れかの記載の水分散体を準備するステップと、 前記水分散体をセルロース材料製の第1基材の表面と第2基材の表面とへ積層するステップと、 前記水分散体から前記水を除去して前記第1基材の表面に第1シール層を形成し、前記第2基材の表面に第2シール層を形成するステップと、 前記第1シール層と前記第2シール層とを接着させるステップと、 を備えた積層体の製造方法。 【請求項10】 前記第1シール層と前記第2シール層とを接着させるステップにおいて、前記第1シール層及び前記第2シール層に熱、圧力若しくは振動の少なくとも1つを印加する、請求項9に記載の製造方法。 【請求項11】 前記第1シール層と前記第2シール層とを接着させるステップにおいて、前記第1シール層及び前記第2シール層に、70~300℃の加熱条件かつ0.1~1.0MPaの加圧条件を5秒以下印加する、請求項9に記載の製造方法。 【請求項12】 請求項1~8の何れかに記載の前記水分散体から形成される第1シール層を積層した第1基材表面と、 請求項1~8の何れかに記載の前記水分散体から形成される第2シール層を積層した第2基材表面と、を備えた積層体であって、 前記第1シール層の膜厚は3~10g/m2であり、前記第2シール層の膜厚は3~10g/m2であり、両者を100℃、0.2MPa、1秒間でヒートシールしたときのヒートシール強度が5N/150mm以上10N/150mm未満以下(JIS Z 1707、剥離速度:300mm/分)である、積層体。 【請求項13】 前記第1シール層と前記第2シール層とを120℃、0.2MPa、1秒間でヒートシールしたときのヒートシール強度が6N/15mm以上(JIS Z 1707、試験速度:300mm/分)とする、請求項12に記載の積層体。 【請求項14】 10.0g/m2以下のCobb吸水度を有する請求項12に記載の積層体。 【請求項15】 10.0g/m2以下のCobb吸水度を有する請求項13に記載の積層体。 【請求項16】 請求項1~9の何れかに記載の水分散体のコーティング剤又は接着剤の製造のための使用。 第3 申立ての理由の概要 令和6年1月17日に申立人が提出した特許異議申立書(以下「特許異議申立書」という。)に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。 1 申立理由1(甲第1号証を主引例とする進歩性) 本件特許の請求項1~16に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証ないし甲第5号証に記載された発明に基づいて、本件特許の優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規程により特許を受けることができたものであるから、本件特許の請求項1~16に係る発明は、同法同条の規定に違反してされたものであり、特許法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 2 申立理由2(サポート要件) 本件特許の請求項1~16に係る発明は、下記の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。 (1)ポリ乳酸について 本件特許の請求項1には、「ポリ乳酸」と規定されている。また、本願明細書段落0018には、「生分解性樹脂としてポリ乳酸を選択したのは、工業的に実用化が進んでおり、その他の生分解性樹脂と比較し、安価で食品包装用として好ましいためである。尚、基材に積層されたポリ乳酸の膜をヒートシール層として適用する場合、L型とD型のポリ乳酸の配合比は6:94~94:6とすることが好ましい。この範囲において優れたヒートシール性が得られる。他方、この範囲を外れると結晶化度と融点が上昇するため、低温でヒートシール性を発揮することが困難となるおそれがある。」と記載されているものの、実施例において、「ポリ乳酸(トタルコービオン(株)社製PLA LX930 D型乳酸:L型乳酸=10:90」を用いたものの実験結果しか示されておらず、D型乳酸:L型乳酸=10:90以外のポリ乳酸を用いた場合においても、課題を解決できることは明らかにされていない。また、明細書の記載を参酌しても合理的に推認できるような説明はされていない。 ポリ乳酸は、L型とD型の配合比によって、融点(結晶性/非晶性)、ガラス転移温度、メルトフローレートなどの物性が異なることは技術常識であり、分散液における粒子径、分散性、成膜性、接着性、ヒートシール強度、機械的強度、耐水性に影響することが推認できる。 すなわち、本件特許発明1は、発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものである。出願時の技術常識に照らしても、請求項に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとは言えない。本件特許発明1を引用する本件特許発明2~16についても同様である。 (2)ヒートシール条件について 本件特許発明1には、「100℃で加熱圧着をしたとき、5.0(N/15mm)以上(JIS Z 1707、剥離速度:300mm/分)のヒートシール性を有する膜」と規定されているが、ヒートシール条件として、ヒートシール時の温度が100℃ということしか記載されていない。 甲第6号証など、ヒートシール強度には、ヒートシール時の温度だけではなく、時間や、圧力などの要素も大きく影響することが知られている。そのため、ヒートシール強度を表すときには、温度以外にも時間や圧力などのヒートシール条件も併せて記載することが通常である。例えば、甲第7号証は、水性樹脂分散液のヒートシール強度における評価条件として、温度と共に、時間と圧力を記載している。 すなわち、本件特許発明1は、発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものである。出願時の技術常識に照らしても、請求項に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとは言えない。本件特許発明1を引用する本件特許発明2~16についても同様である。 3 申立理由3(明確性要件) 本件特許の請求項1~16に係る発明は、下記の点で特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。 本件特許発明1に記載の分散体の特定は、分散体の構造又は特性にとどまるものではなく、形成される膜が、「基材に対して3g/m2(乾燥重量)以上のポリ乳酸を含む膜であって」(以下「発明特定事項A」という。)、「100℃で加熱圧着をしたとき、5.0(N/15mm)以上(JIS Z 1707、剥離速度:300mm/分)のヒートシール性を有する膜を形成する」(以下「発明特定事項B」という。)ことにより、実現されうるものである。しかしながら、発明特定事項Bを実現する方法が、「基材に対して3g/m2(乾燥重量)以上のポリ乳酸を含む膜であ」るということ以外、その形成される膜についての実現方法が一切記載されていない。 本件特許の明細書段落0005に「ポリ乳酸の水分散体により積層体を形成する需要が高まるにつれ、かかる積層体に要求されるヒートシール性もより高いものとなってきた。」と、従来よりも高いヒートシール性を得ることを課題としていることから、発明特定事項A、Bを満たす膜を形成することは、従来技術では容易ではないことであるならば、明細書の発明の詳細な説明に具体的な記載がない場合に、これを実現することが当業者にとって、明らかであると認めることはできない。 本件特許発明1は、分散体の発明であるが、このような物の発明にあっては、特許請求の範囲において、当該物の構造又は特性を明記して、直接物を特定することが原則であるところ(最高裁判所平成27年6月5日第二小法廷判決・民集69巻4号904頁参照)、上記のとおり、本件特許発明1は、物の構造又は特性から当該物を特定することができず、本件明細書の記載や技術常識を考慮しても、当該物を特定することができないから、特許を受けようとする発明が明確であるということはできない。本件特許発明1を引用する本件特許発明2~16についても同様である。 4 証拠方法 (1)甲第1号証:特開2004-285144号公報 (2)甲第2号証:特開2004-237473号公報 (3)甲第3号証:特開2004-358721号公報 (4)甲第4号証:特開平8-27280号公報 (5)甲第5号証:特開2001-354841号公報 (6)甲第6号証:東京大学審査学位論文:[No.16508],表紙,論文の内容の要旨,目次,pp.1-40,pp.111-129,奥付、写し (7)甲第7号証:ケミパールTM(開発品)パンフレット、写し (8)甲第8号証:ウェブページ「JIS Z 1707:2019 食品包装用プラスチックフィルム通則」 URL:https://kikakurui.com/zl/Zl707-2019-01.html (出力日2024年1月15日) 証拠の表記は特許異議申立書の記載におおむね従った。 以下、順に「甲1」のようにいう。 第4 当審の判断 以下に述べるとおり、当審は、申立人が申し立てる申立理由1~3によっては本件特許を取り消すことはできないと判断する。 1 申立理由1(進歩性)について (1)甲号証等の記載事項 ア 甲1の記載事項 甲1には以下の事項が記載されている。 (1a)「【特許請求の範囲】 【請求項1】 ポリ乳酸とポリビニルアルコール系樹脂とを、ポリ乳酸とポリビニルアルコール系樹脂の配合比率が99/1~30/70(質量比)の範囲で溶融混練した組成物を水に分散することにより得られることを特徴とする水性エマルジョン。 【請求項2】 組成物がポリ乳酸とポリビニルアルコール系樹脂に加えて、ポリ乳酸とポリビニルアルコール系樹脂とを合わせた100質量部に対して、可塑剤0.1~30質量部及びアニオン界面活性剤0.01~10質量部の1種以上をさらに配合し溶融混練した組成物であることを特徴とする請求項1記載の水性エマルジョン。 【請求項3】 ポリビニルアルコール系樹脂が平均重合度700以下でケン化度が84モル%以下のポリビニルアルコールであることを特徴とする請求項1又は2に記載の水性エマルジョン。 ・・・ 【0001】 【発明の属する技術分野】 本発明は、良好な接着性、皮膜形成性、被覆性等を有する水性エマルジョンに関するものである。 ・・・ 【0011】 本発明において用いられるPVA系樹脂の平均重合度は特に制限されないが、好ましくは平均重合度約700以下のものが、より好ましくは約600以下のものが用いられる。平均重合度が約700を超えると溶融混練が困難になる傾向が見られる。また、PVA系樹脂のケン化度は特に制限されないが、好ましくはケン化度約84モル%以下のものが用いられ、より好ましくは約70モル%以下のものが用いられる。ケン化度が約84モル%を超えた場合、溶融混練が困難になる傾向が見られる。但し、PVA系樹脂に可塑剤を添加して溶融するもので、本発明の効果を損なわない範囲のものであれば、平均重合度約700を超えるものやケン化度約84モル%を超えるものも用いることができる。 本発明において、PVAの平均重合度及びケン化度は、JIS-K6726に従って測定される。 【0012】 またポリ乳酸とPVA系樹脂との配合比率は通常約99/1~30/70(質量比)であり、より好ましくは約95/5~50/50である。約99/1以上ではポリ乳酸とPVA系樹脂との組成物が水に乳化せず安定な水性エマルジョンとならない。また、約30/70以下では皮膜の耐水性が低下するなど性能低下が生じる。」 (1b)「【0033】 以下に本発明において得られる水性エマルジョンの用途について具体的に説明するが、これらに限定されるものでない。 (1)コーティング剤用途 塗料、防湿や防水性コーティング剤、金属腐食防止剤、合成ポリマーフィルムのコーティング剤、紙のクリアーコーティング剤、紙の顔料コーティング剤、紙の内添サイズ剤、再湿接着剤、帯電防止剤、防曇剤等に用いられ、本発明の水性エマルジョンが用いられたコーティング剤を使用することにより耐水性が良好で平滑かつ均質な樹脂皮膜が得られる。 (2)接着剤用途 紙管用接着剤、紙や合板の接着剤、木材と合成樹脂フィルムの貼り合わせ剤、紙やガラス繊維の内添用バインダー等に用いられ、このような用途に本発明の水性エマルジョンを用いると耐水性、接着性に優れた接着剤が得られる。 (3)バインダー用途 セラミックス成形用バインダー(テープ成形用バインダー、ブレス成形用バインダー、鋳込み成形用バインダー等)、耐火物用バインダー等の無機物用バインダーとして用いられ、本発明の水性エマルジョンが用いられたバインダーを使用することにより、乾燥速度が速く、乾燥による歪も少なく、強度に優れた成形品が得られる。 (4)混和剤用途 モルタル混和剤、ポリマーセメント用混和剤等に用いられ、本発明の水性エマルジョンが用いられた混和剤を使用することにより、作業性が良好で、初期接着力の優れたものが得られる。 (5)繊維加工剤用途 繊維のサイジング加工剤、経糸糊剤、フロッキー加工剤、捺染バインダー、不織布用バインダー、各種織物のバッキング剤、ガラス繊維処理剤等に用いられ、このような用途に本発明の水性エマルジョンを用いると接着性、耐磨耗性等に優れた繊維加工剤が得られる。」 (1c)「【0034】 【実施例】 以下、具体例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例によってなんら限定されるものではない。なお、以下の実施例において「%」および「部」は特に断りのない限りそれぞれ「質量%」および「質量部」を意味する。 【0035】 <PVA系樹脂の合成例> 攪拌機、還流冷却管、窒素導入管、温度計、圧力計を備えた反応器を窒素置換した後、脱酸素した酢酸ビニルモノマー2250質量部、エタノール1000質量部を仕込み攪拌下で昇温を開始し内温が60℃となったところで、別途エタノール50質量部に開始剤としてAIBN1.5質量部を溶解した溶液を添加して重合を開始した。60℃で4時間重合した後、冷却して重合を停止した。このときの重合溶液中の固形分濃度は57.3質量%であった。得られた重合溶液を塔内に多孔板を多段数有する脱モノマー塔に供給して塔下部よりメタノール蒸気を吹き込んで重合溶液と接触させ未反応の酢酸ビニルモノマーを除去した。このときのポリ酢酸ビニル系樹脂-メタノール溶液の固形分濃度は44質量%であった。このポリ酢酸ビニル系樹脂-メタノール溶液1000質量部に2質量%水酸化ナトリウム-メタノール溶液を18質量部添加後よく混合して40℃で1時間放置した。ケン化後得られたゲルを粉砕機で粉砕し、その後60℃の送風乾燥機で乾燥した。乾燥後粉砕を行い、平均重合度が300でケン化度が70モル%の本発明のPVA系樹脂を得た。 【0036】 [水性エマルジョンの性能評価] <乳化性> 20℃の水中に固形分濃度が40質量%になるように溶融混練した組成物を投入して10分間攪拌し、乳化分散状態を観察した。 【0037】 <分散粒径> 前記乳化性の評価で得られた水性エマルジョンの分散粒子の平均粒径を自動粒度分布測定装置(堀場製作所製;遠心沈降式)を用いて測定した。 【0038】 <放置安定性> 前記乳化性の評価で得られた水性エマルジョンを10℃30日間静置状態で放置したときの状態を目視で観察した。 【0039】 <接着性> 前記乳化性の評価で得られた水性エマルジョンを紙(中性紙)、木(カバ材)、無機物(花崗岩)、繊維(木綿の布)、金属(SUS304)に塗布し、乾燥後容易に剥がれるかどうかを観察した。 【0040】 <耐水性> 前記乳化性の評価で得られた水性エマルジョンをキャスティングし、厚さ100μmのフィルムを作成し、フィルムを20℃の水に30分間浸漬したときの状態を目視で観察した。 【0041】 (実施例1) 重量平均分子量130,000、d体含有割合12.0質量%でl体含有割合88.00質量%のポリ乳酸70質量部と合成例1で得られた平均重合度300、ケン化度70モル%のPVA系樹脂30質量部を東洋精機株式会社製混練機(ラボプラストミル)にて190℃にて10分間溶融混練し組成物を得た。得られた組成物は乳化性に優れ、平均粒径は0.8μmであった。また放置安定性、接着性、耐水性も優れていた。 【0042】 (実施例2) 実施例1のPVA系樹脂の代わりに平均重合度500、ケン化度60モル%のPVA系樹脂を使用し、グリセリンを5部、ドデシルベンゼンスルホン酸ソーダ1部を使用した以外は実施例1と同様に溶融混練し組成物を得た。得られた水組成物は乳化性に優れ、平均粒径1.2μmであった。また放置安定性、接着性、耐水性も優れていた。 【0043】 (実施例3) 実施例1のポリ乳酸を80質量部とし、PVA系樹脂を平均重合度200、ケン化度78モル%のPVA系樹脂20質量部に代えて使用した以外は実施例1と同様に溶融混練し組成物を得た。得られた組成物は乳化性に優れ、平均粒径1.5μmであった。また放置安定性、接着性、耐水性も優れていた。 【0044】 (実施例4) 実施例3のPVA系樹脂の代わりに、平均重合度530、ケン化度75モル%のPVA系樹脂を使用し、アセチルトリブチルクエン酸5部を使用した以外は実施例1と同様に溶融混練し組成物を得た。得られた組成物は乳化性に優れ、平均粒径1.8μmであった。また放置安定性、接着性、耐水性も優れていた。 【0045】 (実施例5) 実施例3のPVA系樹脂の代わりに平均重合度300、ケン化度40モル%、アリルスルホン酸ソーダ3.1モル%変性のPVA系樹脂を使用した以外は、実施例3と同様に溶融混練し組成物を得た。得られた組成物は乳化性に優れ、平均粒径0.8μmであった。また放置安定性、接着性、耐水性も優れていた。 【0046】 (実施例6) 実施例1のPVA系樹脂の代わりに平均重合度450、ケン化度50モル%、ポリオキシ エチレングリコールブチルビニルエーテル(エチレンオキサイド10付加)5.2モル%変性のPVA系樹脂を使用した以外は、実施例1と同様に溶融混練し組成物を得た。得られた水性組成物は乳化性に優れ、平均粒径0.9μmであった。また放置安定性、接着性、耐水性も優れていた。 【0047】 (実施例7) 実施例1のポリ乳酸を40質量部とし、平均重合度500、ケン化度70モル%のPVA系樹脂60質量部を使用し、ポリエチレングリコール(平均分子量200)を6部、ドデシルベンゼンスルホン酸ソーダ1部を使用した以外は実施例1と同様に溶融混練し組成物を得た。得られた組成物は乳化性に優れ、平均粒径1.5μmであった。また放置安定性、接着性、耐水性も優れていた。 【0048】 (実施例8) 実施例1のPVA系樹脂の代わりに平均重合度400、ケン化度65モル%、ラウリルビニルエーテル3.2モル%変性のPVA系樹脂を使用した以外は、実施例1と同様に溶融混練し組成物を得た。得られた組成物は乳化性に優れ、平均粒径1.2μmであった。また放置安定性、接着性、耐水性も優れていた。 【0049】 (実施例9) 実施例1のPVA系樹脂の代わりに平均重合度300、ケン化度75モル%、エチレン4.5モル%変性のPVA系樹脂を使用した以外は、実施例1と同様に溶融混練し組成物を得た。得られた組成物は乳化性に優れ、平均粒径1.2μmであった。また放置安定性、接着性、耐水性も優れていた。 【0050】 (実施例10) 実施例1で使用したポリ乳酸に代えて、特開2002-363393号公報の実施例1に従って作製したナノコンポジットポリ乳酸を使用し、アセチルトリブチルクエン酸8部を使用した以外は実施例1と同様に溶融混練し組成物を得た。得られた組成物は乳化性に優れ、平均粒径1.0μmであった。また放置安定性、接着性、耐水性も優れていた。 【0051】 (比較例1) 実施例1のポリ乳酸を10質量部、PVA系樹脂を平均重合度200、ケン化度78モル%のPVA系樹脂90質量部に代えて使用した以外は実施例1と同様に溶融混練し組成物を得た。得られた組成物は乳化性に優れ、平均粒径1.2μmであり、放置安定性にも優れていたが、接着性、耐水性が低かった。」 イ 甲2の記載事項 甲2には以下の事項が記載されている。 (2a)「【0034】 熱融着層(II) 本発明に係る熱融着層(II)は、融点が45~80℃の生分解性樹脂(c)と前記脂肪族ポリエステル共重合体(a)とからなる。 【0035】 熱融着層(II)に用いられる脂肪族ポリエステル共重合体(a)は、前記基材層(I)で使用されるものとは、同じであっても異なっていてもよい。 熱融着層(II)では、二種以上の脂肪族ポリエステル共重合体(a)を混合使用してもよい。 【0036】 生分解性樹脂(c) 本発明の生分解性ポリエステル積層フィルムの熱融着層(II)に用いる生分解性樹脂(c)は、融点が45~80℃、好ましくは55~75℃の範囲のものであり、具体的には、ポリラクトン、ポリブチレンアジペート,ポリエチレンアジペート,ポリヘキサメチレンオキザレート,ポリエチレンスベレート,ポリヘキサメチレンサクシネート等が挙げられる。 【0037】 ポリラクトン 生分解性樹脂(c)に用いられるポリラクトンとしては、ε-カプロラクトン、δ-バレロラクトン、β-メチル-δ-バレロラクトン等のラクトンの1種類若しくは2種以上を重合して得られるポリラクトン及びラクトンと他の脂肪族ヒドロキシカルボン酸とのコポリマーが例示できる。かかるポリラクトンの重量平均分子量30,000~200,000、好ましくは50,000~150,000、特に好ましくは70,000~100,000の範囲にある。かかるポリラクトンの具体例としては、例えば、ε-カプロラクトンの開環重合によって得られたもの、6-ヒドロキシカプロン酸の脱水重縮合によって得られたもの、あるいは両者を重合させて得られるポリε-カプロラクトン、ポリδ-バレロラクトン等が挙げられる。又、ラクトンと共重合される他の脂肪族ヒドロキシカルボン酸としては、グリコール酸、グリコライド、乳酸、ラクタイド、各種ヒドロキシ酪酸、各種ヒドロキシ吉草酸、各種ヒドロキシカプロン酸またはそれらの環状無水物等が挙げられる。これらポリラクトンの中でも、好ましくは該ラクトン類のみからなる重合体であり、特に好ましくはポリカプロラクトン(PCL)である。 熱融着層(II)では、二種以上の生分解性樹脂(c)を混合使用してもよい。 【0038】 熱融着層(II)を形成する樹脂組成物(d)における生分解性樹脂(c)と前記脂肪族ポリエステル共重合体(a)との割合は、好ましくは、生分解性樹脂(c)が、20~90重量%、更に好ましくは40~85重量%、好ましくは、脂肪族ポリエステル共重合体(a)が80~10重量%、更に好ましくは60~15重量%である(ここで、生分解性樹脂(c)と前記脂肪族ポリエステル共重合体(a)との割合の合計は100重量%である。)。生分解性樹脂(c)が20重量%未満では、生分解性ポリエステル積層フィルムの熱融着層に用いた場合に、得られる生分解性ポリエステル積層フィルムのヒートシール性(熱融着性)が不十分となりヒートシールが完了する前に基材層(I)が融解してシール加熱部と生分解性ポリエステル積層フィルムが融着するおそれがある。一方、90重量%を超えると生分解性ポリエステル積層フィルムの成形時に熱融着層がチルロールへ貼りつくおそれがあり、また生分解性樹脂(c)の融点が低いため通常のチルロール温度(5~30℃)で固化が完了せず、ニップロールの押し跡が熱融着層に転写したり、チルロールから剥がれる過程で剥離ムラを生じるおそれがあり、また得られる生分解性ポリエステル積層フィルムも熱融着層がブロッキングを起こすおそれもある。」 (2b)「【0042】 熱融着層(II)は、上記で得られた混練物を、前記基材層(I)の項で述べた成形方法により単独で成形してもよいし、基材層(I)と共押出して生分解性ポリエステル積層フィルムを直接成形してもよい。 【0043】 熱融着層(II)の厚さは用途に応じて種々決め得るが、通常、2~100μm、好ましくは3~30μmである。 【0044】 生分解性ポリエステル積層フィルムの成形 上記基材層(I)及び熱融着層(II)からなる生分解性ポリエステル積層フィルムは、通常の成形方法により成形される。例えば複数の押出機からフィードブロック式あるいはマルチマニホールド式にひとつの口金に連結する共押出方法、前記それぞれ単独に成形した基材層(I)のフィルムと熱融着層(II)のフィルムをロールやプレスにより加熱圧着する方法等が挙げられる。押出方法としては、Tダイ、Iダイ、丸ダイ等から押出ししたフィルムを冷却キャストロールや水、圧空等により急冷して固化させることにより得られる。 【0045】 本発明の生分解性ポリエステル積層フィルムは、基材層(I)の少なくとも片側または両側に熱融着層(II)が直接積層されてなるものが、基材層(I)と熱融着層(II)との層間接着強度(ラミネート強度)に優れるので好ましいが、基材層(I)と熱融着層(II)との間に例えば、バリア性に優れた樹脂層を挟んでもよい。ピロー包装等には片側にヒートシール層として熱融着層(II)が設けられたものが使用される。 なお、熱融着層(II)は、基材層(I)の全面に設けられても、所望の部分に設けられてもよい。 【0046】 本発明の生分解性ポリエステル積層フィルムは、基材層(I)に、他のプラスチックフィルム、紙、アルミ箔等を積層してもよい。 【0047】 生分解性ポリエステル積層フィルムの特徴 基材層(I)及び熱融着層(II)からなる本発明の生分解性ポリエステル積層フィルムは次のような特徴を有する。 ヘーズ(HZ):厚さが30μmの積層フィルムで、通常50%以下、好ましくは10~40%の範囲にある。 平行光線透過率(PLT):厚さが30μmの積層フィルムで、通常50%以上、好ましくは60~80%の範囲にある。 表面固有抵抗:表面固有抵抗は、帯電防止剤を添加しない場合は、1016Ω以上、帯電防止剤を添加することにより、1011~1014Ωの範囲にある。 ヒートシール特性:ヒートシール開始温度が60℃以上で、ヒートシール強度が5N/15mm以上、好ましくは8N/15mm以上ある。」 (2c)「【0049】 【実施例】 以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。 【0050】 使用した樹脂を下記に示す。 (a)脂肪族ポリエステル共重合体 PCLBS-1:ダイセル化学(株)社製(ブタンジオール-コハク酸-カプロラクトン三元共重合体、カプロラクトン:3.98モル%,Mw122,000、MFR(190℃)0.9、Tm104℃、生分解性良好) PCLBS-2:ダイセル化学(株)社製(ブタンジオール-コハク酸-カプロラクトン三元共重合体、カプロラクトン:9.77モル%、Mw143,000、MFR(190℃)0.9、Tm101℃、生分解性良好) (b)他の生分解性樹脂 PLAC-1(ポリ乳酸):D乳酸含有量:1.6重量%、融点;167℃、比重:1.3、Tg:57.8℃、MFR(190℃)2.6g/10分 (c)生分解性樹脂 PCL:ダイセル化学工業(株)社製ポリカプロラクトン、商品名PH7(Mn7万、MFR(190℃)2.0g/10分、融点60℃) 【0051】 使用した樹脂添加剤を下記に示す。 シリカ(SI):富士シリシア社製、商品名サイシリア730(粒径4μm) EA(エルカ酸アミド):チバスペシャルティケミカルズ社製、商品名ATMER SA1753 PEG:ポリエチレングリコール(融点39~43℃) GMO:グリセリンモノオレート GMS:グリセリンモノステアレート St酸:ステアリン酸 StDEA:ステアリルジエタノールアミン 【0052】 本発明における各種測定方法は以下の通りである。 (1)重量平均分子量等の分子量:GPCにより測定し、汎用較正曲線にて換算して求めた。 (2)表面固有抵抗(Ω)(表1で表面抵抗と略記):シシド静電気株式会社製スタチックオネストメータ タイプH-0110を用いて測定した。 (3)ブリード:フィルム表面を指先でこすることで、表面の性状の変化からブリードあり/なしを求めた。ありを×、なしを○で評価した。 (4)ヘーズ(HZ)及び平行光線透過率(PLT):日本電色工業社製ヘイズメーター300Aを用いて、ヘイズ(HZ:%)及び平行光線透過率(PT:%)を測定した。測定値は5回の平均値である。 (5)ヒートシール強度:積層フィルムの熱融着層(II)面同士を重ね合わせた後に、テスター産業株式会社製 TP-701-B HEAT SEAL TESTERを用いて、所定の温度で、シール面圧1kg/cm2、時間1秒の条件下で熱融着した。尚、加熱はフィルムの上側のみとした。次いで、熱融着したフィルムを、オリエンテック社製テンシロン万能試験機 RTC-1225を用いて幅15mmの熱融着したサンプルを300mm/分の引張り速度で剥離し、その最大強度をヒートシール強度(熱融着強度)とした。 【0053】 [実施例1~6および比較例1] <組成物の製造> 組成物として表1に示す組成の比で計量し、40mmφの1軸押出機を用いて180℃で溶融混練して各組成物を得た。 <無延伸2層フィルムの製造> 先端にT-ダイを具備した40mmφの多層ダイを備えた1軸押出機を用い所定の厚み構成で、基材層(I)及び熱融着層(II)を共押出し、無延伸二層フィルムを得た。 得られた生分解性ポリエステル積層フィルムの評価結果を表1に示す。 【0054】 【表1】 [図:0001414203000001.jpg] 【0055】 表1から明らかなように、脂肪族ポリエステル(a)とポリ乳酸の混合体からなる単層の 比較例1に対して実施例1~6はヒートシール性を有している。 また帯電防止剤と滑剤を添加した実施例1~4は、滑剤を添加していない実施例5~6及び比較例1に比べて表面固有抵抗が低い積層フィルムが得られる。特に実施例1~3(同一の処方)は帯電防止の効果が大きい上に帯電防止剤等のブリードがないという特徴を有している。」 ウ 甲3の記載事項 甲3には以下の事項が記載されている。 (3a)「【特許請求の範囲】 【請求項1】 D-乳酸含有量が8%以下である乳酸系ポリマー(乳酸系ポリマ-A)からなる層(A層)と、D-乳酸含有量が9%~91%である乳酸系ポリマー100重量部に対し滑剤を0.05~2重量部、耐ブロッキング剤を0.05~1.0重量部配合した乳酸系ポリマー(乳酸系ポリマ-B)からなる層(B層)とからなり、少なくとも片側の表面がB層により構成されることを特徴とする乳酸系ポリマー多層フィルム。 【請求項2】 D-乳酸含有量が8%以下である乳酸系ポリマー(乳酸系ポリマ-A)からなる層(A層)と、D-乳酸含有量が9%~91%である乳酸系ポリマー100重量部に対し滑剤を0.05~2重量部、耐ブロッキング剤を0.05~1.0重量部配合した乳酸系ポリマー(乳酸系ポリマ-B)からなる層(B層)とからなり、A層及び/又はB層が少なくとも一軸方向に面倍率が1.5~14倍になるように延伸され、少なくとも片側の表面がB層により構成されることを特徴とする乳酸系ポリマー多層フィルム。 【請求項3】 前記滑剤が脂肪酸アミドであり、D-乳酸含有量が8%以下である乳酸系ポリマー(乳酸系ポリマ-A)の融点がTm1(℃)で、滑剤(B)の軟化点がTm2(℃)であるとき、Tm1<Tm2の関係が成り立つ脂肪酸アミドであることを特徴とする請求項1又は2に記載の乳酸系ポリマー多層フィルム。 【請求項4】 前記耐ブロッキング剤が無機系微粒子であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の乳酸系ポリマー多層フィルム。 【請求項5】 請求項1又は2記載の乳酸系ポリマー多層フィルムの一部をヒートシールしたことを特徴とする袋。 【請求項6】 静摩擦係数が0.5以下、ヘイズ値が5%以下かつ100℃でヒートシールした場合のヒートシール強度が5N/15mm以上であるり、且つフィルム表面同士のブロッキングが起こらないことを特徴とするL-乳酸系ポリマーを主成分とする少なくとも2層からなる耐熱性に優れた乳酸系ポリマー多層フィルム。」 (3b)「【0005】 これらの脂肪族ポリエステルを用いたフィルムは、汎用フィルムと同等、あるいは、それ以上の力学物性、光学物性、熱物性を有し、生分解性であるため、包装分野での幅広い応用が期待されている。 しかしながら、脂肪族ポリエステル、特に、乳酸系ポリマーから得られるフィルムは、ヒートシール性に乏しく、製袋等の二次加工が困難で、実用上の問題となっていた。 特開平8-323946号公報にはポリ乳酸系重合体を主成分とする組成物からなるフィルムを有し、少なくとも一方の最外層が生分解性プラスチックフィルムである多層生分解性プラスチックフィルムが開示されている。特開平9-157408号公報では、ポリ乳酸重合体とTg≦0℃の脂肪族ポリエステルの多層フィルムが開示されている。これらは、脂肪族ジオールと脂肪族ジカルボン酸を縮合して得られる重合体、および環状ラクトン類を開環重合して得られる重合体がヒートシール性向上に効果があることを開示している。特開2001-219522号公報には、ポリ乳酸系重合体のD-乳酸含有割合がDa≦7かつDb-Da>3の関係が成り立つ異なるポリ乳酸系重合体からなる積層2軸延伸フィルムが開示されている。しかしながら、いずれのフィルムもヒートシール性は向上するものの、ヒートシール性、滑り性、耐ブロッキング性及び透明性を同時に満たすには未だ十分ではなかった。 【0006】 【特許文献1】 特開平8-323946号公報 【特許文献2】 特開平9-157408号公報 【特許文献3】 特開2001-219522号公報」 (3c)「【0029】 次に、本発明による乳酸系ポリマー多層フィルム、延伸フィルムを製造する方法を詳細に説明する。本発明の乳酸系ポリマー組成物から得られたフィルムは、乳酸系ポリマーに滑剤等を混合機で均一に混合してペレット化し、押出成形することにより製造することができる。更に必要に応じて延伸加工することにより延伸フィルムを製造することができる。 【0030】 本発明の乳酸系ポリマー多層フィルムの成形方法としては、公知の方法を用いることができる。例えば次の方法により得られる。パウダー状あるいはペレット状の乳酸系ポリマーに滑剤をリボンブレンダー等で混合した後、2軸押出機で組成物を押出しペレット化する。ペレットにした組成物は、加熱処理を行なう事でペレット中のポリマーの結晶化を促進し、耐熱性が向上して、ペレット同士の融着が防止されて押出安定性が向上する。押出成形をする場合は、押出機の押出機先端に特定の金型を取り付けることにより、インフレフィルム成形、T-ダイフィルム成形を行なうことができる。 【0031】 多層フィルムを成形する場合は、Tダイが装着された押出機を用いる溶融押出法によりフィルム状に成形することが好ましい。この際、異なる樹脂組成物を、別々にフィルム化した後に接着しても良いし、また、マルチマニホールドダイ、あるいはフィードブロックを備えた押出機を用いて、共押出しても良い。また、得られた多層フィルムをロール延伸によって流れ方向に延伸することにより多層延伸フィルムを製造することができる。さらに、テンター延伸によって横方向に延伸してもよいし、横延伸後、緊張下で熱処理してもよい。」 (3d)「【0034】 【実施例】 本発明を以下実施例により説明するが、実施例は本発明をこれらのものに限定するものではない。 文中で、部とあるのはいずれも重量基準である。また、滑剤の軟化点、摩擦係数、透明性(ヘイズ)、ブロッキング性は、次に記す方法で測定、評価した。 (1)摩擦係数 ASTM D 1894-75に準じて求めた。下記基準によって評価した。 良好:動摩擦係数及び静摩擦係数がいずれも0.5以下である。 滑り性不良:動摩擦係数及び静摩擦係数の少なくとも1方が0.5超である。 (2)透明性(ヘイズ) ASTM D 1003の方法に準じて求めた。下記基準により評価した。 良好:ヘイズ値が5%以下のもの。 不良:ヘイズ値が5%超のもの。 (4)ブロッキング性 ASTM D-1893に準拠し、サンプルを50℃で1日放置してから測定した。下記基準によって評価した。 良好:全くブロッキングが認められなかった。 不良:ブロッキングが認められた。 (5)ヒートシール性 フィルムのヒートシール性の評価は、JIS Z1707に準じて実施し、100℃でのシール強度を測定した。下記基準によって評価した。 良好:5N/15mm以上 不良:5N/15mm未満 (6)滑剤の軟化点 JIS K-2531 環球法に準拠し測定した。 (7)滑剤の融点 窒素雰囲気中で10℃/分の昇温速度下のDSCで測定した。 【0035】 本実施例で用いた脂肪酸アミド1~5は、それぞれ下記特徴を有するものである。 脂肪酸アミド1: 商品名 ライトアマイドWH-255、共栄社化学(株)製、軟化点255℃ 脂肪酸アミド2: 商品名 ライトアマイドWEF、共栄社化学(株)製、融点:139℃ 脂肪酸アミド3: 商品名 ライトアマイドWES、共栄社化学(株)製、融点:140℃ 脂肪酸アミド4: オレイン酸アミド、融点:74℃ 脂肪酸アミド5: エチレンビスステアリン酸アミド、融点:140℃ 【0036】 (実施例1) ヘンシェルミキサー中でポリ乳酸B(商品名 LACEA H-280、三井化学製、Mw 20万、L体/D体=88/12)100重量部、軟化点255℃の脂肪酸アミド1 2.0重量部、平均粒径2.7μmの微粉末シリカ(商品名 サイリシア710、富士シリシア化学製)0.2重量部を混合し、ドライブレンド物を調製した。その後、このドライブレンド物を、210℃に設定された、スクリュー径が35mmφの同方向二軸回転式押出機へと供給し、溶融混練して、ペレットを調製した。このペレットをシリンダー温度が220℃に設定された、スクリュー径が50mmφの押出し機と表層原料押出し用のシリンダー温度が240℃に設定されたスクリュー径40mmφの押出し機によって構成された、ダイス幅350mmのT-ダイ多層フィルム製膜機のスクリュー径40mmφの押出し機側へ供給した。一方、ポリ乳酸A(商品名 LACEA H-400、三井化学製、Mw 22万、L体/D体=98/2、融点162℃)をスクリュー径50mmφの押出し機にを供給した。 このようにして、50mmφの押出し機からは160μmの厚さ、40mmφの押出し機からは40μmの厚さの樹脂が押出されるように夫々の押出し機の吐出量を調整し、温度を30℃に調整したキャストロール上に押出し、トータル厚み200μmの二種二層の無延伸フィルムを得た。 この未延伸フィルムを、バッチ式二軸延伸機を用い、73℃に温度調整された延伸槽内で1分間の予熱した後、縦方向に2.5倍、横方向に2.5倍の同時二軸延伸を行い、フィルムの熱固定の為、延伸槽温度を100℃まで昇温し、フィルムを取り出した。 【0037】 (実施例2) 実施例1の脂肪酸アミド1 2.0重量部を脂肪酸アミド1 1.0重量部に変更した以外は、実施例1と同様な操作を行ない二軸延伸フィルムを取り出した。 【0038】 (実施例3) 実施例1の脂肪酸アミド1 2.0重量部を脂肪酸アミド1 0.7重量部に変更した以外は、実施例1と同様な操作を行ない二軸延伸フィルムを取り出した。 【0039】 (実施例4) 実施例1の脂肪酸アミド1 2.0重量部を脂肪酸アミド1 0.3重量部に変更した以外は、実施例1と同様な操作を行ない二軸延伸フィルムを取り出した。 【0040】 (実施例5) 実施例1の脂肪酸アミド1 2.0重量部を脂肪酸アミド1 0.1重量部に変更した以外は、実施例1と同様な操作を行ない二軸延伸フィルムを取り出した。 【0041】 (実施例6) 実施例1の脂肪酸アミド1 2.0重量部を脂肪酸アミド1 0.1重量部、また微粉末シリカの添加量を0.2重量部から0.05重量部に変更した以外は、実施例1と同様な操作を行ない二軸延伸フィルムを取り出した。 【0042】 (実施例7) 実施例1の脂肪酸アミド1 2.0重量部を脂肪酸アミド1 0.1重量部、また微粉末シリカの添加量を0.2重量部から1.0重量部に変更した以外は、実施例1と同様な操作を行ない二軸延伸フィルムを取り出した。 【0043】 (比較例1) 実施例1の脂肪酸アミド1 2.0重量部を脂肪酸アミド1 2.5重量部に変更した以外は、実施例1と同様な操作を行ない二軸延伸フィルムを取り出した。 【0044】 (比較例2) 実施例1の脂肪酸アミド1 2.0重量部を脂肪酸アミド1 0.01重量部に変更した以外は、実施例1と同様な操作を行ない二軸延伸フィルムを取り出した。 【0045】 (比較例3) 実施例1の脂肪酸アミド1 2.0重量部を脂肪酸アミド1 0.01重量部、また微粉末シリカの添加量を0.2重量部から0.03重量部に変更した以外は、実施例1と同様な操作を行ない二軸延伸フィルムを取り出した。 【0046】 (比較例4) 実施例1の脂肪酸アミド1 2.0重量部を脂肪酸アミド1 0.01重量部、また微粉末シリカの添加量を0.2重量部から1.2重量部に変更した以外は、実施例1と同様な操作を行ない二軸延伸フィルムを取り出した。 【0047】 (比較例5) 実施例1の脂肪酸アミド1 2.0重量部を融点が約74℃の脂肪酸アミド4 0.6重量部に変更した以外は、実施例1と同様な操作を行ない二軸延伸フィルムを取り出した。 【0048】 (比較例6) 実施例1の脂肪酸アミド1 2.0重量部を融点が約139℃の脂肪酸アミド2 1.0重量部に変更した以外は、実施例1と同様な操作を行ない二軸延伸フィルムを取り出した。 【0049】 (比較例7) 実施例1の脂肪酸アミド1 2.0重量部を融点が約143℃の脂肪酸アミド3 0.4重量部に変更した以外は、実施例1と同様な操作を行ない二軸延伸フィルムを取り出した。 【0050】 (比較例8) 実施例1の脂肪酸アミド1 2.0重量部を融点が約143℃の脂肪酸アミド3 0.7重量部に変更した以外は、実施例1と同様な操作を行ない二軸延伸フィルムを取り出した。 【0051】 (比較例9) 実施例1の脂肪酸アミド1 2.0重量部を融点が約140℃の脂肪酸アミド50.7重量部に変更した以外は、実施例1と同様な操作を行ない二軸延伸フィルムを取り出した。 【0052】 以上の全実施例及び全比較例で得た各々の二軸延伸フィルムについて、フィルムの表面同士の滑り性、ヘイズ値、フィルム同士のブロッキング性を測定した。結果を表1~表5に示す。 【0053】 【表1】 [図:0001414203000002.jpg] 【0054】 【表2】 [図:0001414203000003.jpg] 【0055】 【表3】 [図:0001414203000004.jpg] 【0056】 【表4】 [図:0001414203000005.jpg] 【0057】 【表5】 [図:0001414203000006.jpg] 」 エ 甲4の記載事項 甲4には以下の事項が記載されている。 (4a)「【特許請求の範囲】 【請求項1】 ポリ乳酸、または、乳酸とオキシカルボン酸のコポリマーを主成分とする分解性ポリマーの分散液を、セルロース繊維を含有する基材に塗布した後、加熱処理することを特徴とする分解性複合材料の製造方法。 【請求項2】 乳酸が、D-乳酸、L-乳酸、またはそれらの混合物である請求項1記載の製造方法。 【請求項3】 オキシカルボン酸が、グリコール酸、または6-ヒドロキシカプロン酸である請求項1記載の製造方法。 【請求項4】 分解性ポリマーの重量平均分子量が、50,000以下である請求項1記載の製造方法。 【請求項5】 ポリ乳酸、または、乳酸とオキシカルボン酸のコポリマーを主成分とする分解性ポリマーの分散液を、セルロース繊維を含有する基材に塗布して、基材の分解速度を遅らせる方法。」 (4b)「【0010】湿式微粒化の際に用いる溶媒としては、水が特に好ましい。また、分散液中のポリマーの濃度は、ポリマー微粒子が十分に分散してスラリー状となれば良く、10~50wt%の濃度が特に好ましい。湿式微粒化する際に、分散剤を使用してもよく、使用できる分散剤の種類としては、特に限定はされないが、ポリビニルアルコール等の水溶性高分子系分散剤が好ましい。例えば、完全鹸化型あるいは部分鹸化型のポリビニルアルコール、または分子内にスルホン酸基を有するポリビニルアルコール誘導体、ポリスチレンスルホン酸塩、ポリ-α-メチルスチレンスルホン酸塩などのアニオン性水溶性高分子が挙げられる。分散剤の使用量は、通常、ポリマー100重量部当たり、0.1~20重量部が好ましく、特に好ましくは、1~10重量部である。また、分散効率を上げるため上記分散剤を併用して使用してもかまわない。 【0011】本発明の分解性ポリマーの分散液を、セルロース繊維を含有する基材へ塗布する方法としては、ポリマー分散液を基材に、吹付、散布、浸積、または、バーコーター、エアナイフコーター、ロールコーター、ブレードコーター等の機器を使用して塗布する方法等が挙げられる。ポリマーの塗布量については、使用する基材の強度または坪量によって異なるが、通常、乾燥重量で表して、基材100重量部当たり、1~40重量部である。特に好ましくは、1~20重量部の範囲である。農業用畝カバー等においては、透水性、分解性および高い遮断性を有することが望ましいため、原紙の片面のみに塗布し、ポリマーの塗布量を10重量部以下にすることが好ましい。 【0012】さらに、特定の最終用途特性を付与するために、他の添加物を分散液に配合することができる。他の添加物の例としては、デンプン、蛋白、フッ化炭素、クレー、二酸化チタン、活性炭等が挙げられる。本発明の分解性複合材料に用いられるセルロース繊維を含有する基材としては、アート紙(塗被紙)、クラフト紙、ロール紙、ライスペーパー、その他の加工原紙、クロス紙、ボール紙などが用いられる。これらのセルロース繊維を含有する基材は、再生したパルプを含んでもかまわない。本発明の方法では、分解性ポリマー分散液をセルロース繊維を含有する基材に塗布した後、ポリマーを基材に定着させるため、ポリマーの融点付近あるいは融点以上に温度を上げてポリマーを溶融し、基材と接着する加熱処理を行う。加熱処理温度は、通常、100℃~200℃の温度であり、ポリマーが基材と十分に接着できれば、熱ロールなどを用いても良い。」 オ 甲5の記載事項 甲5には以下の事項が記載されている。 (5a)「【0055】接着の機能は、木、板、布、ガラス等を貼り合わせる狭義の接着に限らず、木材パルプ、ステープルファイバー、木片、皮屑、合成繊維、同ウェッブ等の有機質材料あるいはロックウール、セメント、寒水石、石綿、粘土、陶土、金属および金属酸化物の粉末等の無機質材料を接着させて強化紙、パルプモールド、不織布、人造皮革、無機質繊維板、無機質建材ボード等を造ることに、さらには浸漬される紙、布などを強化強靭化させてブックカバー、糊付されたシーツ、ワイシャツを提供することなどに、広い意味での接着剤として使用される性質をいう。これらの用途に使用される場合の特徴の一つは、加工物が生分解性を持ち、廃棄後の自然環境下で容易に分解し、廃棄物に由来する環境汚染を起さないことである。例えば紙類のヒートシール剤として生分解性ポリエステルの水系分散液を用いる場合、同ポリエステルの結晶性に由来する高温高湿に耐えるブロッキング抵抗性、短い接着時間、さらに水系分散液であるための水解性など環境汚染を起さないリサイクル型ヒートシール剤という好ましい効果が期待される。」 (5b)「【0070】(実施例2)二軸同方向押出機(株式会社日本製鋼所、スーパーテックスXCT、シリンダー径69mm、L/D=42)のホッパーからポリブチレンサクシネートアジペート(昭和高分子株式会社、商品名ビオノーレ#3050、Tm=95℃、MFR=80)ペレットを40kg/hの割合で連続的に供給し、投入部から4ブロック目のシリンダー部に設けた投入口より部分鹸化ポリビニルアルコール(クラレポバール220EG、実施例1に同じ)の15%水溶液を80℃に保持しつつ18kg/hの流量でプランジャーポンプにより圧入し、さらに8ブロック目のシリンダー部に設けた投入口より80℃に保持した水を22kg/hの流量でプランジャーポンプにより圧入し連続的に押出乳化した。シリンダー温度はホッパー部50℃、樹脂溶融部140℃、乳化剤水溶液添加部以降100℃とした。樹脂ペレットの溶融粘度ηo=50,000mPa・s/125℃、乳化剤水溶液粘度ηw=1,800mPa・sであり、ηo/ηw=27.8であった。生成押出物はピーク粒子径1.64μm、固形分濃度56.3%、粘度6,850mPa・s(20℃)の放置安定性良好なエマルジョンであった。また生分解性試験では分解率95%(35日間)であった。 ・・・ 【0072】(実施例6)生分解性ポリエステルをポリ乳酸に変更する以外は実施例2と同様にして表1に示す性状の安定な押出生成物を得た。ポリ乳酸は市販のL-乳酸(90%水溶液)を次に示すプログラム(特開昭59-96123号公報の実施例2記載と同一条件)で脱水縮合して得られたもので、Tm=160℃、MFRは流下が速すぎて測定不可であった。生分解性試験は、58℃の堆肥中で行い、分解率85%(35日間)であった。 ・・・ 【0076】(実施例10)(応用性能評価その1) 実施例3で得られたエマルジョンを4ミルのアプリケーターで上質紙に塗布し110℃、3分間乾燥した。得られた塗工紙に原紙を重ね70℃、2秒、0.1MPaで熱圧接着させた。室温に冷却後接着面を剥離すると全面的に紙破し充分に接着されていた。生分解性試験は、分解率95%(35日間)であった。 ・・・ 【0081】 【表1】 [図:0001414203000007.jpg] 」 カ 甲8の記載事項 甲8には以下の事項が記載されている。 (8a)「A.1一般 フィルムの性能を評価する場合,表A.1によってフィルムを性能項目ごとに種別する。ただし,必要に応じて,種別は受渡当事者間の協定によって別途設定することができる。 なお,必要に応じて,フィルム内面,外面の区別及び縦方向,横方向などの条件を記載し,数値の大きい方を基に種別する。 表A.1ーフィルムの種別 [図:0001414203000008.jpg] 」(第9頁参照) (2)甲1に記載された発明 甲1には、実施例3の水性エマルジョンとして、「重量平均分子量130,000、d体含有割合12.0質量%でl体含有割合88.00質量%のポリ乳酸80質量部と平均重合度200、ケン化度78モル%のPVA系樹脂20質量部を東洋精機株式会社製混練機(ラボプラストミル)にて190℃にて10分間溶融混練して得た組成物を、20℃の水中に固形分濃度が40質量%になるように投入して10分間攪拌し、乳化分散状態とした水性エマルジョンであって、紙(中性紙)、木(カバ材)、無機物(花崗岩)、繊維(木綿の布)、金属(SUS304)に塗布し、乾燥後に接着性に優れる水性エマルジョン」の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている(摘記1a及び1c参照)。 (3)対比・判断 ア 本件特許発明1 (ア)甲1発明との対比 本件特許発明1と甲1発明とを対比する。 甲1発明の「重量平均分子量130,000、d体含有割合12.0質量%でl体含有割合88.00質量%のポリ乳酸」、「平均重合度200、ケン化度78モル%のPVA樹脂」及び「乳化分散状態とした水性エマルジョン」は、それぞれ、本件特許発明1の「ポリ乳酸」、「平均ケン化度が60.0~82.0モル%であり、平均重合度は200~700であ」る「ポリビニルアルコール類」及び「水分散体」に相当し、甲1発明の「水性エマルジョン」が「ポリ乳酸」と「PVA系樹脂」を「溶融混練して得た組成物を、20℃の水中に固形分濃度が40質量%となるように投入して10分間攪拌し」たものであることは、本件特許発明1の「水分散体」が「ポリ乳酸、ポリビニルアルコール類及び水を含」むものであることに相当する。 また、甲1発明の「水性エマルジョン」が「紙(中性紙)、木(カバ材)、無機物(花崗岩)、繊維(木綿の布)、金属(SUS304)に塗布し、乾燥後に接着性に優れる」ものであること、すなわち、基材に接着性に優れた膜を形成するためのものであることは、本件特許発明1の「水分散体」が「基材に対してポリ乳酸を含む膜を形成するため」のものであることに相当する。 そうすると、本件特許発明1と甲1発明とは、以下の点で一致し、少なくとも相違点1~2の点で相違する。 <一致点> 「基材に対してポリ乳酸を含む膜を形成するための水分散体であって、 ポリ乳酸、ポリビニルアルコール類及び水を含み、 前記ポリビニルアルコール類はその平均ケン化度が60.0~82.0モル%であり、平均重合度は200~700である、水分散体」 <相違点1> 基材に対して形成する膜が、本件特許発明1では、「3g/m2(乾燥重量)以上」のポリ乳酸を含み、「100℃で加熱圧着をしたとき、5.0(N/15mm)以上(JIS Z 1707、剥離速度:300mm/分)のヒートシール性を有する」のに対して、甲1発明では、そのように特定されていない点 <相違点2> ポリ乳酸とポリビニルアルコール類との配合比(質量比)が、本件特許発明1では、「98/2~90/10」であるのに対して、甲1発明では、そのように特定されていない点 (イ)相違点についての検討 まず、相違点1について検討する。 A 甲1には、甲1発明の「水性エマルジョン」について、紙や合板の接着剤用途(摘記1b参照)は記載されているものの、ヒートシールに用いることやそのヒートシール性については記載も示唆もされていない。 B 甲4には、ポリ乳酸を主成分とし、分散剤としての部分鹸化型のポリビニルアルコールをポリマー100重量部当たり1~10重量部で使用した分散液を、セルロース繊維を含有する基材に塗布し、接着のため加熱処理すること(摘記4a及び4b参照)、甲5には、ポリ乳酸と部分鹸化ポリビニルアルコールの15%水溶液と水とを流量比40/18/22(ポリ乳酸とポリビニルアルコールの質量比で93.7/6.3)で連続的に押出乳化してエマルジョンを得たこと(摘記5b参照)、その水系分散液を紙類のヒートシール剤として用いること(摘記5a参照)が、それぞれ記載されているものの、具体的な分散液の塗布量やそのヒートシール性については記載も示唆もされていない。 C ヒートシール性の技術常識として、甲8に記載のとおり、JIS Z 1707:2019(食品包装用プラスチックフィルム通則)における規定があり、その付属書Aでは、ヒートシール強さに応じて1種~5種の種別があり、5.0N/15mmは性能が最下位の5種に相当する(摘記8a参照)。他方、ポリ乳酸フィルムについては、ヒートシール性が乏しく、また、ヒートシール性は向上できても、ヒートシール性、滑り性、耐ブロッキング性、透明性等の各種特性を同時に満たすことが困難であること(3b参照)が知られているところ、甲1発明の「水性エマルジョン」を基材に対して塗布、乾燥後に得られる膜について、少なくとも5.0N/15mm程度のヒートシール性は有すると直ちに認識できるものではない。 D 甲2には、基材層に積層する熱融着層の厚みについて、通常2~100μm、3~30μmが好ましく、共押出成形で得た熱融着層の厚みが10μmの場合に、ヒートシール強度が5N/15mm以上(熱融着層面同士重ね合わせ、60℃以上の温度、シール面圧1kg/cm2、時間1秒で熱融着した場合)となること(摘記2b及び2c参照)、甲3には、共押出成形で得た160μm厚のポリ乳酸フィルムと40μm厚のポリ乳酸フィルムとの、JIS Z 1707に準じた100℃でのヒートシール強度が5N/15mm以上となること(摘記3a及び3d参照)がそれぞれ記載されている。 しかしながら、上記甲2の熱融着層同士重ね合わせたヒートシール構造は、熱融着層に融点が45~80℃の生分解性樹脂を含むことを特徴とするものであるし(摘記2a参照)、熱融着層にポリ乳酸であるPLAC-1(融点167℃)を含む比較例では、むしろ、厚みが10μmでも十分なヒートシール強度が得られないこと(摘記2c参照)が示唆されている。 また、上記甲3の溶融共押出成形によるヒートシール構造は、基材に熱融着層を設けず、直接融着させたもの(摘記3c及び3d参照)であって、甲1発明の「水性エマルジョン」を基材に対して塗布、乾燥後に得られる膜のヒートシール性について示唆するものではない。 E そうすると、甲1には、甲1発明の「水性エマルジョン」をヒートシール用途の膜形成に適用する動機付けは見当たらないし、仮に、甲1発明の「水性エマルジョン」をヒートシール用途の膜形成に適用し、さらに膜のヒートシール性を向上する動機付けがあったと解しても、ヒートシール性以外の各種特性等のバランスも考慮しつつ、5.0N/15mm以上のヒートシール性を実現することは、甲2~甲5の記載及び示唆に接した当業者にとっても容易ではない。まして、甲1発明の「水性エマルジョン」を基材に対して塗布、乾燥後に得られる膜であれば、5.0N/15mmのヒートシール性を満たしていると認識できるものではない。 (ウ)本件特許発明の効果について 本件発明1は、優れたヒートシール性と耐水性が得られるという顕著な効果を奏するものである(本件特許明細書の段落0006参照)。 (エ)申立人の主張及び当審の判断 申立人は、特許異議申立書において、以下A~Dのとおり主張する。 A 甲2の段落0043に記載の熱融着層(II)のポリ乳酸は49~124.5g/m3で、本件特許発明の「3g/m2(乾燥重量)以上」と重複するし、また、基材に対するポリ乳酸の量を増量することで、接着性や被膜性が向上することは当該技術分野において常識的に考慮されることにすぎず、当該構成を採用することで、当業者が予測しえない顕著な効果を奏するとも認められない。 B 本願実施例において、「100℃で加熱圧着したとき、5.0(N/15mm)以上(JIS Z 1707、剥離速度:300mm/分)のヒートシール性を有する膜を形成」のみを満たさない比較例がないため、それ以外の特定事項を満たしていれば、当該事項も満たすものと認められる。 C 甲2の段落0047、甲3の段落0012、0034の記載から、ヒートシール性を5N/15mm以上とするために、温度を60℃以上や100℃とすることにも特段の困難性は認められず、当該構成を採用することで、当業者が予測しえない顕著な効果を奏するとも認められない。 D 本件特許発明1のJIS Z 1707における5.0(N/15mm)以上のヒートシール性は、最もヒートシール強さが小さいとされる5種(3以上6未満)に該当し、従来技術では容易ではない程度の特段に高い範囲ではなく、分散体の構成自体は公知技術に近く、発明の実質は分散体の構成自体とヒートシールに用いることのみであり、その効果自体も上記JISの最もヒートシール強さが小さいとされる5種に入るようなものであり、基材に対する膜の量や、ヒートシール性を甲1発明に適用しようと試みることに格段の困難性はない。 E 当審の判断 しかしながら、上記(イ)Cで示したとおり、ポリ乳酸フィルムはヒートシール性に乏しいこと、ヒートシール性、滑り性、耐ブロッキング性、透明性等の各種特性を同時に満たすことが困難であることが知られているところ、甲1発明の「水性エマルジョン」を基材に対して塗布、乾燥後に得られる膜が、少なくとも5.0N/15mm程度のヒートシール性は有すると直ちに認識できるものではない。 また、上記(イ)Aで示したとおり、甲1にはヒートシールに用いることやそのヒートシール性については記載も示唆もされておらず、甲1には、甲1発明の「水性エマルジョン」をヒートシール用途の膜を形成するためのものとする動機付けが見当たらない。 仮に、甲1発明の「水性エマルジョン」をヒートシール用途の膜形成に適用し、さらに膜のヒートシール性を向上する動機付けがあったと解しても、上記(イ)Dで示したとおり、甲2、甲3に記載のヒートシール構造は、ポリ乳酸を含む水性エマルジョンで膜を形成したものではないため、甲2、甲3の記載や示唆は直ちに考慮できるものではないし、上記(イ)Bで示したとおり、甲4、甲5には、具体的な分散液の塗布量やそのヒートシール性については記載も示唆もされていない。そして、(イ)Eで示したとおり、具体化のためにはヒートシール性だけでなく、ヒートシール性以外の特性等のバランス等も考慮する必要があるところ、5.0N/15mm以上のヒートシール性を実現することは、甲2~甲5の記載及び示唆に接した当業者にとっても容易ではないし、ポリ乳酸の水性エマルジョンにおいて、そのようなヒートシール性が得られることにより、顕著な効果が奏するものである。 よって、申立人の上記主張はいずれも採用できない。 (オ)小括 したがって、相違点2について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1発明及び甲2~5に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではなく、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明ではないから、同法第113条第2号の規定により、本件特許発明1に係る特許を取り消されるべきものであるとすることはできない。 イ 本件特許発明2~16について 本件特許発明2~16は、本件特許発明1を直接又は間接的に引用し、さらに限定したものであり、前記本件特許発明1と甲1発明との相違点1、2と同じ相違点を有するものであるから、本件特許発明2~16は、甲1に記載された発明並びに甲2~甲5及び甲8に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではなく、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものでもないから、同法第113条第2号の規定により、本件特許発明2~16に係る特許を取り消されるべきものであるとすることはできない。 2 申立理由2(サポート要件)について (1) サポート要件の判断基準 特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。 (2)申立人の主張及び当審の判断 本件特許発明1の課題は、本件特許明細書の段落0005~0006の記載からみて、100℃で加熱圧着を実行したとき、5.0(N/15mm)以上のヒートシール性と耐水性が得られるポリ乳酸の水分散体を提供することであると認める。 そして、本件特許明細書の実施例の記載からみて、本件特許発明1の発明特定事項を備えれば、前記課題を解決できることが理解できる。 申立人は、特許異議申立書において、以下のとおり主張する。 ア 実施例において「ポリ乳酸(トタルコービオン(株)社製PLA LX930 D型乳酸:L型乳酸=10:90)」を用いたものの実施結果しか示されておらず、D型乳酸:L型乳酸=10:90以外のポリ乳酸を用いた場合においても、課題を解決できることは明らかにされず、明細書の記載を参酌しても合理的に推認できるような説明はされていない一方、ポリ乳酸は、L型とD型の配合比によって、融点(結晶性/非晶性)、ガラス転移温度、メルトフローレートなどの物性が異なることが技術常識であり、分散液における粒子径、分散性、成膜性、接着性、ヒートシール強度、機械的強度、防水性に影響することが推認できるところ、課題を解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものである。 イ 本件特許発明1には、ヒートシール条件として、ヒートシール時の温度が100℃ということしか記載されていないが、ヒートシール強度には、ヒートシール時の温度だけではなく、時間や、圧力などの要素も大きく影響することが知られているところ、課題を解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものである。 ウ 当審の判断 しかしながら、上記アについて、本件特許発明1には「基材に対して3g/m2(乾燥重量)以上のポリ乳酸を含む膜であって、100℃で加熱圧着をしたとき、5.0(N/15mm)以上(JIS Z 1707、剥離速度:300mm/分)のヒートシール性を有する膜を形成する」ことが特定事項に含まれていることから課題を解決できることは明らかであるし、当該特定事項は、本件特許明細書の段落0018における「L型とD型のポリ乳酸の配合比は6:94~94:6とすること・・・この範囲において優れたヒートシール性が得られ・・・この範囲を外れると結晶化度と融点が上昇するため、低温でヒートシール性を発揮することが困難となるおそれがある。」との記載を参考にして、L型とD型のポリ乳酸の配合比を6:94~94:6の範囲で適宜調整することで実施可能なものである。 また、上記イについて、本件特許発明1で特定されるヒートシール条件は、ヒートシール性の評価のための条件である。他方、本件特許明細書の段落0027には、「ヒートシール強度評価」を「ヒートシール時のプレス圧は0.2MPa、プレス時間は1秒の一定条件を用い」て行うことが記載されている。そして、ヒートシール強度における評価条件として温度と共に、時間と圧力を特定することが技術常識であるところ、本件特許発明1で特定されるヒートシール条件として、当該記載も加味して把握するべきものと解される。 よって、申立人の上記主張はいずれも採用できない。 したがって、本件特許発明1は、発明の詳細な説明に記載された発明であり、発明の詳細な説明の記載により当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものである。 また、本件特許発明1を直接又は間接的に引用する本件特許発明2~16についても同様である。 3 申立理由3(明確性要件)について (1)明確性要件の判断基準 特許を受けようとする発明が明確であるかは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。 (2)申立人の主張及び当審の判断 本件特許発明1は、水分散体の成分及び配合比の特定、形成される膜のヒートシール性の特定を明確に把握することができるから、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確な点はない。 申立人は、特許異議申立書において、以下のとおり主張する。 ア 本件特許発明1に記載の分散体の特定は、分散体の構造又は特性にとどまるものではなく、形成される膜の特定事項により実現されうるものであるが、その実現する方法が「基材に対して3g/m2(乾燥重量)以上のポリ乳酸を含む膜であ」るということ以外、その形成される膜についての実現方法が一切記載されていない。従来よりも高いヒートシール性を得ることを課題としているならば、明細書の発明の詳細な説明に具体的な記載がない場合に、これを実現することが当業者にとって明らかであると認めることはできない。 イ 本件特許発明1は、分散体の発明であるが、このような物の発明にあっては、当該物の構造又は特性を明記して、直接物を特定することが原則であるところ、本件特許発明1は物の構造又は特性から当該物を特定することができず、本件特許明細書の記載や技術常識を考慮しても、当該物を特定することができないから、特許を受けようとする発明が明確であるということはできない。 ウ 当審の判断 しかしながら、上記アについて、本件特許明細書の段落0026には、「実施例及び比較例の水分散体は紙製基材(日本製紙(株)社製:NPI上質)に所望の膜厚(乾燥質量、g/m2)となるようバーコーターを用いて片面塗工し、130℃で60秒間乾燥することでヒートシール層を基材シート上に作製した」との記載を考慮すれば、バーコーターによる塗工、乾燥のみならず、公知の各種塗工、乾燥方法によりヒートシール層を基材シート上に作製できることは明らかである。 また、上記イについて、上記のとおり、水分散体の成分及び配合比の特定、形成される膜のヒートシール性の特定を明確に把握することができる。 よって、上記申立人の主張はいずれも採用できない。 したがって、本件特許発明1は、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確ではない。 また、本件特許発明1を直接又は間接的に引用する本件特許発明2~16についても同様である。 第5 むすび したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件特許発明1~16に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件特許発明1~16に係る発明を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2024-700029

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