特許異議申立
2022-701280
繊維ウェブ製品及びその製造方法
- 審判番号
- 2022-701280
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2022-007712
- 登録番号
- 7090858
- 請求日
- 2022年12月21日
- 審決日
- 2023年10月31日
- 公報発行日
- 2024年02月22日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】河野製紙株式会社
- 【権利者代理人】布施 行夫
- 【権利者代理人】大渕 美千栄
- 【権利者代理人】松本 充史
- 【権利者代理人】森田 雄一
- 【異議申立人】森田 悠介
- 審判長/審判官
- 審判長 井上 茂夫
- 審判官 藤井 眞吾
- 審判官 西本 浩司
- 分類
- P1652.121-YAA(A47K) / P1652.113-YAA(A47K) / P1652.537-YAA(A47K)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第120条の5第9項、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第1項、特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第6項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7090858号発明「繊維ウェブ製品及びその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7090858号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~9〕について訂正することを認める。
特許第7090858号の請求項1~5に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7090858号(以下「本件特許」という。)の請求項1~10に係る特許についての出願は、令和3年10月22日に出願した特願2021-173165号の一部を令和4年1月21日に新たな特許出願としたものであって、令和4年6月17日にその特許権の設定登録がされ、令和4年6月27日に特許掲載公報が発行された。本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和4年12月21日 :特許異議申立人森田悠介(以下「申立人」という。)による請求項1~5に係る特許に対する特許異議の申立て
令和5年 3月22日付け:取消理由通知書
令和5年 5月11日 :特許権者による意見書の提出
令和5年 6月 7日付け:取消理由通知書(決定の予告)
令和5年 8月 3日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出(以下、この訂正請求書による訂正の請求を「本件訂正請求」といい、訂正自体を「本件訂正」という。)
なお、当審から令和5年8月16日付けで申立人に対して訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)をしたが、指定期間内に申立人からは応答がなかった。
第2 本件訂正の適否
1 本件訂正の内容
本件訂正の内容は、訂正箇所に下線を付して示すと、次のとおりである。
(1)訂正事項1
本件訂正前の請求項1に記載された「を含むことを」を、「を含み、鉱物性粉体を含まないことを」に訂正する(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2~5、7~9も同様に訂正する)。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1を引用する請求項6の引用関係を解消して独立の請求項とし、
「広葉樹パルプを含む繊維ウェブに薬液が含浸されており、前記薬液が、保湿成分、水分、炭化水素類を含む油性成分、植物性粉体、を含み、
23℃、50%相対湿度における前記薬液中の前記保湿成分、前記水分、前記油性成分、前記植物性粉体の配合比が、1:0.05~1.0:0.01~1.0:0.01~1.0であることを特徴とする繊維ウェブ製品。」
と訂正する(請求項6の記載を直接的又は間接的に引用する請求項7~9も同様に訂正する)。
2 一群の請求項について
本件訂正前の請求項1~9は、請求項2~9が、本件訂正前の請求項1の記載を引用する関係にあるから、本件訂正請求は、一群の請求項〔1~9〕について請求されたものである。
なお、訂正請求書において、「訂正後の請求項6と、訂正後の請求項6の記載を引用する訂正後の請求項7~9については、当該請求項についての訂正が認められる場合には、一群の請求項の他の請求項とは別途訂正することを求める。」としている。しかしながら、請求項7~9は、請求項6の他、請求項1~5も直接的又は間接的に引用しているから、請求項6~9を別の訂正単位とする求めは認められない。
3 訂正の目的、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の適否について
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、本件訂正前の請求項1における「薬液」の成分を限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正事項1は、本件特許の明細書の【0030】~【0035】、【図1A】の記載に基づくものであるから、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件明細書等」という。)に記載した事項の範囲内においてするものである。
また、訂正事項1は、本件訂正前の請求項1に係る発明の発明特定事項をさらに限定するものであり、また、発明のカテゴリーや対象を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(2)訂正事項2について
訂正事項2は、本件訂正前の請求項1を引用する請求項6について、独立形式に改めるものであるから、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものである。
また、訂正事項2は、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
4 特許出願の際に独立して特許を受けることができることについて
(1)請求項6について
本件訂正前の請求項6について特許異議の申立てがされていないが、請求項6についての訂正は、他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とする訂正であるから、本件訂正後の請求項6に係る発明に対しては、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
(2)請求項7~9について
本件訂正前の請求項7~9について特許異議の申立てがされておらず、また、上記3(1)で示したとおり、請求項7~9についての訂正は、訂正事項1による特許請求の範囲の減縮を含む訂正を含んでいるから、本件訂正後の請求項7~9に係る発明に対しては、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件が課される。
そこで、訂正後の請求項7~9の独立特許要件について以下検討する。
訂正後の請求項7~9に係る発明は、「前記保湿成分及び前記油性成分により水素結合が緩和された前記繊維ウェブのパルプ繊維間に前記植物性粉体が介入して前記パルプ繊維を起毛させる」という発明特定事項を有するものであり、当該発明特定事項は、特許異議の申立ての証拠には記載も示唆もなく、また、当業者に自明な事項でもないから、訂正後の請求項7~9に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものには該当しない。
したがって、訂正後の請求項7~9に係る発明は、特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであり、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する第126条第7項に適合するものである。
5 本件訂正の適否のまとめ
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5~7項の規定に適合する。
第3 本件発明
上記第2のとおり本件訂正が認められたことから、本件特許の請求項1~5に係る発明(以下「本件発明1」等という。また、本件発明1~5を「本件発明」と総称することもある。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1~5に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、請求項1~5の記載は、次のとおりである。
【請求項1】
広葉樹パルプを含む繊維ウェブに薬液が含浸されており、前記薬液が、保湿成分、水分、炭化水素類を含む油性成分、植物性粉体、を含み、鉱物性粉体を含まないことを特徴とする繊維ウェブ製品。
【請求項2】
請求項1に記載した繊維ウェブ製品において、
前記繊維ウェブがドライクレープ紙であることを特徴とする繊維ウェブ製品。
【請求項3】
請求項1または2に記載した繊維ウェブ製品において、
前記繊維ウェブが広葉樹パルプを50[重量%]以上含むことを特徴とする繊維ウェブ製品。
【請求項4】
請求項1~3の何れか1項に記載した繊維ウェブ製品において、
前記保湿成分がグリセリンを含むことを特徴とする繊維ウェブ製品。
【請求項5】
請求項1~4の何れか1項に記載した繊維ウェブ製品において、
前記植物性粉体の平均粒子径が2~50[μm]であることを特徴とする繊維ウェブ製品。
第4 取消理由通知書(決定の予告)に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
本件訂正前の請求項1~5に係る特許に対して、当審が令和5年6月7日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。
請求項1~5に係る発明は、下記甲第7号証に記載された発明に基いて、又は当該甲第7号証に記載された発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許を受けることができないものであるため、請求項1~5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
<引用文献等一覧>
以下、甲第7号証を甲7という。他も同様。
甲7 :国際公開第2007/088717号
甲12:特開2012-110407号公報
2 当審の判断
(1)甲7発明
ア 甲7には、以下の事項が記載されている(下線は、強調のため当審で付したものである。以下同様。)。
「発明が解決しようとする課題
[0003] そこで、本発明の主たる課題は、さらさら感および滑らか感を両立した、より肌への刺激が少ない薄葉紙を提供することにある。」
「[0020] ・・・特に好ましい組合せは、第一のパウダーがタルクであり、第二のパウダーが澱粉である。」
「[0034] 表1に示す各種の2プライティシューペーパー(本発明に係る実施例1~4および比較例1~9)を製造し、各種物性の測定・算出および官能評価を行った。」
「[0035] 使用した薬液原液は、パウダーを除いた有効成分92重量%及び水分8%からなり、有効成分中に、保湿剤83重量%、柔軟剤5重量%、抗酸化剤1重量%、油性成分10重量%、および乳化成分1.0重量%を含むものであった。」
「[0036] さらに、使用した原紙は、米坪(1プライ)が19g/m2、NBKP配合率が50%、LBKP配合率が50%、パルプフリーネスが650ml、内添紙力剤の使用量(対パルプスラリー)が15kg/t、縦方向乾燥紙力が298cN/25mm、横方向乾燥紙力が70cN/25mm、縦方向湿潤紙力が169cN/25mm、横方向湿潤紙力が50cN/25mmであった。」
「[0038][表1]
[図:0001406693000001.jpg]
」
「[0040] 本発明は、ティシューペーパー、トイレットペーパー、キッチンペーパー、クレープ紙等の薄葉紙に適用可能なものである。」
「請求の範囲
[1] 原紙に対して薬液を5~40重量%含有してなり、
前記薬液は、平均粒径が3~15μmである第一のパウダーと、平均粒径が15~40μmの第二のパウダーとを重量比0.1:1.9~1.9:0.1で配合してなるパウダーを、0.1~30重量%含むものである、
ことを特徴とする薬液含有薄葉紙。
[2] 前記薬液は、接着成分を含まない、請求項1記載の薬液含有薄葉紙。
[3] 第一のパウダーがタルクであり、第二のパウダーが澱粉である、請求項1または2記載の薬液含有薄葉紙。」
イ 上記アを総合し、特に実施例1の態様に着目すると、甲7には、以下の発明(以下「甲7発明」という。)が記載されていると認められる。
「2プライティシューペーパーであって、
2プライティシューペーパーの薄葉紙が原紙に対して薬液を含有してなる薬液含有薄葉紙であって、
原紙はNBKP配合率が50%、LBKP配合率が50%であり、
薬液原液は、パウダーを除いた有効成分92重量%及び水分8%からなり、有効成分中に、保湿剤83重量%、柔軟剤5重量%、抗酸化剤1重量%、油性成分10重量%、および乳化成分1.0重量%の成分を含み、
薬液は原紙に対して25重量%塗布され、粒子状のコーンスターチ及び板状のタルクをそれぞれ2.5重量%含む、
2プライティシューペーパー。」
(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲7発明とを、その構成や機能、及び技術上の意義を考慮して対比すると、甲7発明の「原紙」、「薬液」、「保湿剤」、「水分」、「油性成分」、「粒子状のコーンスターチ」、「2プライティシューペーパー」は、それぞれ、本件発明1の「繊維ウェブ」、「薬液」、「保湿成分」、「水分」、「油性成分」、「植物性粉体」、「繊維ウェブ製品」に相当する。
また、LBKPが広葉樹パルプを意味することは技術常識であることを踏まえれば、甲7発明の「2プライティシューペーパーの薄葉紙が原紙に対して薬液を含有してなる薬液含有薄葉紙であって、原紙はNBKP配合率が50%、LBKP配合率が50%であ」る態様は、本件発明1の「広葉樹パルプを含む繊維ウェブに薬液が含浸されて」いる態様に相当する。
そうすると、本件発明1と甲7発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
<一致点>
「広葉樹パルプを含む繊維ウェブに薬液が含浸されており、前記薬液が、保湿成分、水分、油性成分、植物性粉体、を含む繊維ウェブ製品。」
<相違点1>
「油性成分」について、本件発明1は、「炭化水素類を含む」のに対して、甲7発明は、具体的な成分が不明である点。
<相違点2>
本件発明1は、「薬液」が「鉱物性粉体を含まない」のに対して、甲7発明は、「薬液」が鉱物性粉体である「板状のタルク」を含む点。
イ 判断
事案に鑑み、相違点2について検討する。
甲7は、「前記薬液は、平均粒径が3~15μmである第一のパウダーと、平均粒径が15~40μmの第二のパウダーとを重量比0.1:1.9~1.9:0.1で配合してなるパウダーを、0.1~30重量%含む」(請求の範囲[1])ことを特徴としており、このように、特定粒子径の2種類のパウダーを特定範囲で含むことを必須とし、この構成により、「さらさら感および滑らか感を両立した、より肌への刺激が少ない薬液含有薄葉紙」([0003])とするものである。
そして、甲7には、「特に好ましい組合せは、第一のパウダーがタルクであり、第二のパウダーが澱粉である。」([0020])と記載され、実施例1~4においては、第一のパウダーとして「タルク」、第二のパウダーとしてトウモロコシを原料とする澱粉である「コーンスターチ」を用いて評価を行っている。
そうすると、甲7発明において、特に好ましい組合せのうちの「タルク」を含まないようにする動機付けはなく、甲7発明において、相違点2に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たものではない。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、当業者が甲7発明に基いて容易に発明をすることができたものではない。
(3)本件発明2~5について
本件発明2~5は、本件発明1の発明特定事項を全て含む発明であるから、上記(2)イと同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
第5 取消理由通知(決定の予告)に採用しなかった特許異議の申立ての理由について
取消理由通知(決定の予告)に採用しなかった、特許異議申立理由の概要、及び当該理由に対する当審の判断は次のとおりである。
甲1:特開2017-176760号公報
甲2:特開2017-176680号公報
甲3:特開2017-63882号公報
甲4:特開2016-193042号公報
甲5:特開2016-194166号公報
甲6:特開2001-11790号公報
甲8:特開2012-170660号公報
甲9:前川卓彌、“ティッシュマシンへの最新技術アプローチ -コーティング膜の可視化-”、紙パ技協誌、2019年(令和元年)5月、第73巻第5号、10~16ページ
甲10:高野行範、“ATMOS-環境に優しいプレミアムティッシュ”、紙パ技協誌、2013年(平成25年)10月、第67巻第10号、39~42ページ
甲11:関義城、“ティシュ・マシンについて”、紙パ技協誌、昭和41年2月、第20巻第2号、75~80ページ
甲13:“紙ができるまでPaper”、[online]、株式会社トーヨ、[令和4年12月14日検索]、インターネット
<URL:https://toyo-paper.co.jp/production-system/paper>
甲14:特開2008-80027号公報
1 甲1~甲5を主引例とする新規性、進歩性
(1)特許異議申立理由の概要
請求項1、3、4に係る発明は、甲1~甲5にそれぞれ記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるため、請求項1、3、4に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
また、請求項2に係る発明は、甲1~甲5にそれぞれ記載された発明及び甲9~甲13に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許を受けることができないものであるため、請求項2に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(2)甲1を主引例とする新規性、進歩性の当審の判断
上記(1)のとおり、申立人は、請求項1、3、4については新規性違反を、請求項2については進歩性違反を主張しているが、ここでは、請求項1~4について、新規性及び進歩性について判断する。他の場合についても同様。
ア 引用発明
甲1(【請求項1】、【0020】、【0045】、【0059】の実施例1)には、次の「甲1発明」が記載されているといえる。
「ロータリー式インターフォルダにおいて、帯状のティシュペーパー原紙を積層した2プライの積層ティシュペーパー原紙に対して、
グリセリンと1,3-プロパンジオールを主成分とし、グリセリンと1,3-プロパンジオールの質量比が1:0.04である保湿薬液を、有効成分量で1.0g/m2塗布する工程を有する、製造方法によるティシュペーパー製品であって、
ティシュペーパーを構成する繊維素材は、パルプ繊維であり、ティシュペーパーに用いられるNBKP(針葉樹クラフトパルプ)及びLBKP(広葉樹クラフトパルプ)の比率が30:70であり、
保湿薬液の保湿剤成分は、保湿成分がグリセリン81.9質量%及び1,3-プロパンジオール3.0質量%、柔軟剤がリン酸エステル1.3質量%、油性成分が流動パラフィン2.3質量%、親水性高分子ゲル化剤がグルコマンナン0.5質量%、乳化剤0.3質量%、防腐剤0.1質量%、消泡剤0.05質量%、水10.5質量%の成分を含む、
ティシュペーパー製品。」
イ 本件発明1について
本件発明1と甲1発明を対比すると、少なくとも次の点で相違する。
<相違点A>
「薬液」に含まれる「植物性」物質について、本件発明1は、「植物性粉体」であるのに対して、甲1発明は、「グルコマンナン」が粉体であるか不明な点。
上記相違点Aについて検討するに、甲1にはグルコマンナンに関して、「親水性高分子ゲル化剤(グルコマンナン)」(【0059】【表1】)と記載されており、グルコマンナンがゲル化剤として使用されており、薬液中では、ゲル化状態である。
そうすると、相違点Aは実質的な相違点である。
また、甲1発明における「グルコマンナン」は「保湿剤成分」であることから、ゲル化状態に替えて粉体とする動機付けはない。
よって、本件発明1は、甲1発明ではなく、また、甲1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
ウ 本件発明2~4について
本件発明2~4は、本件発明1の発明特定事項を全て含む発明であるから、上記イと同様の理由により、甲1発明ではなく、また、甲1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3)甲2~甲5を主引例とする新規性、進歩性の当審の判断
甲2(【請求項1】、及び段落【0057】に記載された実施例1)、甲3(【請求項1】、及び段落【0048】に記載された実施例1)、甲4(【請求項1】、及び段落【0045】に記載された実施例1)、甲5(【請求項1】、及び段落【0044】に記載された実施例1)には、甲1発明と同様の発明が記載され、いずれも、保湿剤成分としてグルコマンナンを含むものである。
そうすると、上記(1)と同様に、本件発明1~4は、甲2~甲5に記載された発明ではなく、また、甲2~甲5に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
2 甲6を主引例とする新規性、進歩性
(1)特許異議申立理由の概要
請求項1、4に係る発明は、甲6に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるため、請求項1、4に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
また、請求項2に係る発明は、甲6に記載された発明及び甲9~甲13に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許を受けることができないものであるため、請求項2に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(2)当審の判断
ア 引用発明
甲6(【請求項1】、【0021】~【0023】、第1実施例のNO.10)には、次の「甲6発明」が記載されているといえる。
「NBKP(針葉樹クラフト法漂白パルプ)80%、LBKP(広葉樹クラフト法漂白パルプ)20%配合のパルプからなる衛生紙用原紙を、グラビア印刷ロールを用いて2枚重ねにして両面に処理液を塗布し含浸させた繊維ウェブ製品であって、
処理液が、原紙に対してタルク2重量%、CMC(第一工業製薬株式会社製「セロゲン」であるカルボキシメチルセルロースナトリウム)0.05重量%、グリセリン10重量%、流動パラフィン0.2重量%、乳化剤0.04重量%、水5重量%の成分を含む、
繊維ウェブ製品。」
イ 本件発明1について
本件発明1と甲6発明を対比すると、少なくとも次の点で相違する。
<相違点B>
本件発明1は、「薬液」が「植物性粉体、を含み、鉱物性粉体を含まない」のに対して、甲6発明は、「処理液」が粉体として「タルク」を含む点。
上記相違点Bについて検討するに、甲6発明における「タルク」は「鉱物性粉体」である。
そうすると、相違点Bは実質的な相違点である。
また、甲6には、粉体として植物性粉体の「コーンスターチ」を用いた実施例NO.4があるものの、当該実施例においては、「保湿成分」に当たる「グリセリン」や、「炭化水素類」に当たる「流動パラフィン」を含んでいないことから、甲6発明における「タルク」を単純に植物性粉体である「コーンスターチ」に置き替える動機付けはない。
よって、本件発明1は、甲6発明ではなく、また、甲6発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
ウ 本件発明2、4について
本件発明2、4は、本件発明1の発明特定事項を全て含む発明であるから、上記イと同様の理由により、甲6発明ではなく、また、甲6発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
3 甲8を主引例とする進歩性
(1)特許異議申立理由の概要
請求項1、3、4に係る発明は、甲8に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許を受けることができないものであるため、請求項1、3、4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(2)当審の判断
ア 本件発明1について
甲8(【0001】、【0081】、【0083】、【0191】、【0197】)に記載された発明と本件発明1とを対比すると、少なくとも次の点で相違する。
<相違点C>
本件発明1は、「薬液」が「植物性粉体、を含」むのに対して、甲8に記載された発明は、「薬液」が植物性粉体を含むか不明である点。
上記相違点Cについて検討するに、甲8には、「前記ポリオールとしては、グリセリン、ジグリセリン、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、ポリエチレングリコール、およびその誘導体等の多価アルコール、ソルビトール、グルコース、キシリトール、マルトース、マルチトール、マンニトール、トレハロース等の糖類が挙げられる。」(【0081】)と記載されているものの、【0080】の記載によると、「ポリオール」は「水系のローション薬液」の成分であって「粉体」ではない。また、甲8には、機能性薬剤として植物性粉体を用いることについて記載も示唆もされていない。
そうすると、甲8に記載された発明において、植物性粉体を含むようにすることは、当業者が容易になし得たことではない。
よって、本件発明1は、甲8に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
イ 本件発明3、4について
本件発明3、4は、本件発明1の発明特定事項を全て含む発明であるから、上記アと同様の理由により、甲8に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
4 サポート要件
(1)特許異議申立理由の概要
本件特許の請求項1~5に係る発明は、次の点で発明の詳細な説明に記載したものでないから、本件特許の特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に適合しないため、請求項1~5に係る特許は、同法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
ア 植物性粉体について
「植物性粉体」について、薬液中で粉体の粒子形状を維持できない植物性粉体まで本件特許の課題を解決することができない。
実施例で特定された原料、粒径以外の植物性粉体が、課題を解決できることは明らかにされていない。
イ 添加量について
植物性粉体、炭化水素類を含む油性成分についての薬剤中の添加量について、実施例では特定の2点を開示しているのみであり、本件発明1が、課題を解決できるか否かを当業者が認識できるように記載されていない。
ウ 界面活性剤について
界面活性剤(紙用柔軟剤)を必須としない本件発明1は、課題を解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超える。
(2)当審の判断
ア 本件課題について
本件発明が解決しようとする課題(以下「本件課題」という。)は、「特定の保湿成分、水分、油性成分、植物性粉体を所定の比率で配合した薬液を繊維ウェブに含浸させるだけで、各種の機械・装置を用いることなく厚み感のある起毛を自然発生的に生成することができ、柔らかさやしっとり感等の肌触り特性に優れた繊維ウェブ製品及びその製造方法を提供すること」(【0005】)である。
イ 発明の詳細な説明の記載
本件課題に関して、発明の詳細な説明には次の記載がある。
「【0002】
背景技術として、例えば特許文献1には、柔軟性や肌触り性を良くするために、繊維ウェブに保湿剤を含浸させてしっとりした触感を持たせた高保湿性の繊維ウェブ製品が開示されている。」
「【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明に係る繊維ウェブ製品は、広葉樹パルプを含む繊維ウェブに対して、保湿成分、水分、炭化水素類を含む油性成分、植物性粉体、を含む薬液を含浸させたことを特徴とする。
【0007】
本発明における繊維ウェブには、抄紙時に抄紙機のドライヤー上でドクターブレードによりクレープが形成されたドライクレープ紙を用いることが好ましい。このドライクレープ紙は、木材繊維としての広葉樹パルプを含み、更に、その他の木材繊維としての針葉樹パルプのほか、非木材植物繊維(麻,靱皮繊維,木綿,ケナフ等)、レーヨン繊維、合成繊維(ナイロン,ポリエチレン,ポリエステル,ポリプロピレン等)の一種類または複数種類を含んでいても良い。
・・・
【0008】
広葉樹パルプは針葉樹パルプに比べて繊維が短く細いため、パルプ繊維間の水素結合点や結合面積が少なく、薬液中の保湿成分、水分、油性成分、及び植物性粉体の存在によりパルプ繊維間の結合が離れやすくなり、パルプ繊維が遊離することで繊維ウェブ表面における起毛が発生しやすい。更に、広葉樹パルプは針葉樹パルプと比べて単位重量当たりの本数が多いため、起毛するパルプ繊維の本数も多くなる。
・・・」
「【0013】
薬液中の粉体は水分に対する親和性の高い植物性粉体が好適であり、滑らか感を生じさせると共にパルプ繊維間に入り込んで(介入して)起毛を促進する作用を果たす。
・・・」
ウ 判断
本件明細書の【0006】には、本件発明1に対応する記載がある。
また、本件明細書の【0008】、【0013】の記載によると、繊維ウェブが広葉樹パルプを含むこと、薬液中に植物性粉体を含むことにより、各種の機械・装置を用いることなく厚み感のある起毛を自然発生的に生成することが認識でき、また、本件明細書の【0002】、【0008】の記載によると、薬液中の保湿成分の存在により、柔らかさやしっとり感等の肌触り特性に優れたものとなることが認識できる。
そうすると、当業者は、広葉樹パルプを含む繊維ウェブに薬液が含浸されており、薬液が、保湿成分、植物性粉体を含む繊維ウェブ製品は、本件課題を解決できると認識できる。
そして、本件発明1は、本件課題を解決できると認識できる手段をさらに限定したものである。
したがって、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が本件課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。
よって、本件発明1及び請求項1の記載を引用する本件発明2~5に関して、特許請求の範囲の記載は、サポート要件に適合する。
(3)申立人の主張について
ア 上記(1)アついて
薬液中で粉体の粒子形状を維持できないものは、「粉体」ではないため、本件発明1の「植物性粉体」には該当しない。
また、実施例で特定された原料、粒径以外の植物性粉体であっても、本件明細書の【0013】の記載から、水分中で粉体形状を維持する植物性粉体が滑らか感を生じさせると共にパルプ繊維間に入り込んで起毛を促進して、本件課題を解決し得ることが認識できる。
よって、申立人の主張は採用できない。
イ 上記(1)イについて
本件明細書の【0008】、【0013】の記載によると、実施例で特定された植物性粉体の添加量であっても、本件課題を解決し得ることが認識できる。
上記(2)ウで示したとおり、炭化水素類を含む油性成分については、本件課題を解決するために必須の成分ではない。
よって、申立人の主張は採用できない。
ウ 上記(1)ウについて
本件明細書の「薬液中の油性成分は、パルプ表面を滑らかにすると共に、肌に転移して滑らかな触感を与える。また、油性成分が有する粘性により、植物性粉体やパルプ繊維等を含む粉塵の脱落を防止することができる。上記油性成分は、界面活性剤により水分や保湿成分中に水中油型に乳化して配合することが望ましい。」(【0011】)の記載によると、「界面活性剤」は、薬液中の油性成分を、水分や保湿成分中に水中油型に乳化して配合するための成分であり、本件課題を解決するために必須の成分ではない。
よって、申立人の主張は採用できない。
第6 むすび
以上のとおり、取消理由通知書(決定の予告)に記載した取消理由、及び特許異議の申立ての理由によっては、請求項1~5に係る特許を取り消すことはできない。また、他に請求項1~5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2022-701280