特許異議申立
2024-700011
大型ターボ過給式2ストロークユニフロークロスヘッド圧縮着火内燃機関及びその動作方法
- 審判番号
- 2024-700011
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2023-061063
- 登録番号
- 7307293
- 請求日
- 2024年01月09日
- 審決日
- 2025年02月26日
- 公報発行日
- 2025年06月27日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】エムエーエヌ・エナジー・ソリューションズ・フィリアル・アフ・エムエーエヌ・エナジー・ソリューションズ・エスイー・ティスクランド
- 【権利者代理人】川守田 光紀
- 【異議申立人】平本 健二
- 審判長/審判官
- 審判長 河端 賢
- 審判官 山本 信平
- 審判官 倉橋 紀夫
- 分類
- P1651.536-YAA(F02D) / P1651.537-YAA(F02D)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第4項第1号、特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第4項、特許法第126条第5項、特許法第126条第6項、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7307293号発明「大型ターボ過給式2ストロークユニフロークロスヘッド圧縮着火内燃機関及びその動作方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7307293号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~8〕、〔9及び10〕について訂正することを認める。
特許第7307293号の請求項1~3及び8に係る特許を維持する。
特許第7307293号の請求項4~7、9及び10に係る特許についての特許異議申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7307293号(以下「本件特許」という。)の請求項1~10に係る特許についての出願は、令和5年4月5日(パリ条約による優先権主張 2022年4月22日 (DK)デンマーク王国)に出願され、令和5年7月3日にその特許権の設定登録がされ、令和5年7月11日に特許掲載公報が発行された。
そして、令和6年1月9日付けで特許異議申立人平本健二(以下「申立人」という。)より請求項1~10に係る特許に対して特許異議の申立てがされ、令和6年9月12日付けで取消理由通知書が通知され、令和6年12月3日に特許権者より意見書及び訂正請求書が提出され、令和7年1月22日に申立人から意見書が提出された。
第2 訂正の適否
1 訂正の内容
令和6年12月3日に特許権者より提出された訂正請求書(以下「本件訂正請求書」という。)による訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は以下のとおりである。なお、下線は訂正箇所を示すために当審にて付与したものである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1の末尾に、
「・・・機関。」
と記載されているのを、
「・・・機関において、
前記点火液システムは、前記噴射持続時間の間、連続的に点火液を前記燃焼室内に供給するように構成され、
また前記点火液システムは、燃料油などの点火液のみで動作する場合の最大回転数に必要な量の5~50%、好ましくは15~40%、最も好ましくは25~35%の範囲の量で点火液を前記燃焼室内に供給するよう構成される、
機関。」
に訂正する。
請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2、3及び8も同様に訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項4を削除する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項5を削除する。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項6を削除する。
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項7を削除する。
(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項9を削除する。
(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項10を削除する。
2 一群の請求項について
訂正前の請求項1~8について、請求項2~8は、それぞれ請求項1を直接的又は間接的に引用しているものであって、上記訂正事項1によって訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。
したがって、訂正前の請求項1~8に対応する訂正後の請求項1~8は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
また、訂正前の請求項9及び10について、請求項10は、請求項9を直接的に引用しているものであって、上記訂正事項6によって訂正される請求項9に連動して訂正されるものである。
したがって、訂正前の請求項9及び10に対応する訂正後の請求項9及び10は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
3 訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的について
訂正事項1は、請求項1に記載されている「点火液システム」について、「前記噴射持続時間の間、連続的に点火液を前記燃焼室内に供給するように構成され」、「燃料油などの点火液のみで動作する場合の最大回転数に必要な量の5~50%、好ましくは15~40%、最も好ましくは25~35%の範囲の量で点火液を前記燃焼室内に供給するよう構成される」ものと特定することにより、特許請求の範囲を減縮している。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 新規事項の有無について
訂正事項1は、訂正前の請求項4及び7、さらには、願書に添付した明細書の【0018】~【0019】及び【0042】~【0043】の記載に基づくものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、特許法第120条の5第9項において準用する第126条第5項の規定に適合する。
ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないこと
訂正事項1は、上記アのとおり特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかであるから、特許法第120条の5第9項において準用する第126条第6項の規定に適合する。
(2)訂正事項2~7について
ア 訂正の目的について
訂正事項2~7は、それぞれ訂正前の特許請求の範囲の請求項4~7、9及び10を削除するものである。
したがって、訂正事項2~7は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 新規事項の有無について
訂正事項2~7は、それぞれ訂正前の特許請求の範囲の請求項4~7、9及び10を削除するものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項において準用する特許法第126条第5項に適合するものである。
ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないこと
訂正事項2~7は、それぞれ訂正前の特許請求の範囲の請求項4~7、9及び10を削除するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかであるから、特許法第120条の5第9項において準用する特許法第126条第6項に適合するものである。
4 小括
以上のとおり、本件訂正による訂正事項1~7は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項の規定に適合すると共に、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
よって、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~8〕、〔9及び10〕について訂正を認める。
第3 本件発明
上記のとおり、請求項1~10についての訂正は認められるから、本件の請求項1~10に係る発明(以下、「本件発明1」~「本件発明10」という。また、本件発明1~10を、以下まとめて「本件発明」という。)は、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~10に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】
機関内で燃焼させる燃料として、アンモニアと、燃料油等の点火液の両方を用いて動作する少なくとも1つの動作モードを有する大型ターボ過給式2ストロークユニフロークロスヘッド圧縮着火内燃機関であって、前記機関は、
シリンダライナと、前記シリンダライナ内の往復ピストンと、自身をカバーするシリンダカバーとを有する少なくとも1つのシリンダと、
・前記往復ピストンと前記シリンダカバーとの間において前記シリンダ内に形成される燃焼室と、
・前記シリンダカバー又は前記シリンダライナに配される少なくとも1つのアンモニア燃料弁に、加圧されたアンモニアを供給するように構成されるアンモニア燃料システムと;
・前記シリンダカバー又は前記シリンダライナに配される少なくとも1つの点火液弁に、加圧された点火液を供給するように構成される点火液システムと;
を備え、
前記点火液システムが、機関速度に応じて決定されたアンモニア燃料燃焼持続時間の少なくとも20%の噴射持続時間、点火液を前記燃焼室内に供給するように構成されることを特徴とする、機関において、
前記点火液システムは、前記噴射持続時間の間、連続的に点火液を前記燃焼室内に供給するように構成され、
また前記点火液システムは、燃料油などの点火液のみで動作する場合の最大回転数に必要な量の5~50%、好ましくは15~40%、最も好ましくは25~35%の範囲の量で点火液を前記燃焼室内に供給するよう構成される、
機関。
【請求項2】
前記点火液システムは、前記決定されたアンモニア燃料燃焼持続時間の少なくとも50%、好ましくは少なくとも80%、最も好ましくは少なくとも95%の噴射持続時間、点火液を前記燃焼室内に供給するように構成されることを特徴とする、
請求項1に記載の機関。
【請求項3】
前記点火液システムは、2度から20度までのいずれかのクランク角に対応する噴射持続時間で点火液を前記燃焼室内に供給するように構成されることを特徴とする、請求項1に記載の機関。
【請求項4】
(削除)
【請求項5】
(削除)
【請求項6】
(削除)
【請求項7】
(削除)
【請求項8】
前記アンモニア燃料システムが、機関の全速動作に必要な燃料量の少なくとも60%、好ましくは少なくとも70%、最も好ましくは少なくとも95%の量のアンモニアを前記燃焼室に供給するように構成されていることを特徴とする、請求項1から3のいずれかに記載の機関。
【請求項9】
(削除)
【請求項10】
(削除)」
第4 取消理由の概要
当審が令和6年9月12日付けで通知した取消理由通知書に記載した取消理由の概要は、次のとおりである。
1 取消理由1(特許法第36条第6項第2号)
本件特許は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
2 取消理由2(特許法第36条第6項第1号)
本件特許は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
3 取消理由3(特許法第36条第4項第1号)
本件特許は、明細書の記載が不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
4 申立理由との関係について
上記取消理由1~3は、特許異議の申立てにおける申立理由1~3に、それぞれ該当し、上記取消理由通知書において全ての申立理由を採用している。
第5 取消理由1(特許法第36条第6項第2号)について
1 判断
本件訂正によって、本件発明1の点火液システムは、「前記噴射持続時間の間、連続的に点火液を前記燃焼室内に供給するように構成され」たものと訂正された。
ここで、「前記噴射持続時間」とは、請求項1において当該記載以前に記載された「アンモニア燃料燃焼持続時間の少なくとも20%の噴射持続時間」であることが明らかであり、本件発明1の点火液システムは、アンモニア燃料燃焼持続時間の少なくとも20%の噴射持続時間の間、連続的に点火液を前記燃焼室内に供給するように構成されたものであることが明らかとなった。
これにより、本件発明1のアンモニア燃料燃焼持続時間の少なくとも20%の噴射持続時間とは、噴射が途切れる時間が含まれない、連続的に点火液を供給する時間であると明確化された。
よって、本件発明1は、明確である。
また、請求項1を引用する本件発明2、3及び8も、同様に明確である。
2 小括
以上のとおり、本件発明1~3及び8は、明確であり、また、本件訂正によって請求項4~7、9及び10は削除された。
よって、本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしているものであるから、上記取消理由1(特許法第36条第6項第2号)によっては、本件発明1~3及び8に係る特許を取り消すことはできない。
第6 取消理由2(特許法第36条第6項第1号)について
1 判断
(1)訂正前の請求項1~3及び5~10に係る取消理由2について
ア 本件発明の課題
本件発明が解決しようとする課題について、本件特許の発明の詳細な説明の【0010】には、
「アンモニアの層流火炎速度は、多くの炭化水素の火炎速度のほぼ10分の1であるため、低い乱流レベルでも火炎の消火/消滅が起こり得る。このため、公知の重油/ガス二元燃料機関に利用されるフルレート燃料油噴射システムを使用してアンモニアの燃焼を維持することは困難であり、燃焼室に導入されるアンモニア燃料の全部を確実に着火・燃焼させることは難しい。パイロット燃料油噴射システムにおける燃料油の噴射時間は、典型的にはクランク角で約1度であり、これではアンモニアの着火を確保するだけで、全てのアンモニア燃料の完全燃焼を保証することはできない。」(以下、「本件発明の課題」という。)
と記載されている。
イ 本件特許の発明の詳細な説明に記載された課題解決手段
本件課題の解決手段として、本件特許の発明の詳細な説明の【0038】には、
「本発明によれば、点火液は、既知のやり方に比べて長い時間にわたって内燃機関のシリンダの燃焼室に噴射され、それによって、アンモニアのより完全な燃焼が達成される。既知の手法によれば、点火液は、約1度のクランク角にわたって噴射される。これは、アンモニア燃料の燃焼持続時間の5-10%に相当する。これに対して、本発明によれば、点火液システム40は、決定されたアンモニア燃料燃焼持続時間の少なくとも20%の噴射持続時間で点火液を燃焼室内に供給するように構成される。」
と記載されている。
そして、上記【0038】の記載より、本件特許の発明の詳細な説明に記載された本件発明の課題を解決するための手段は、「点火液」を「既知のやり方に比べて長い時間にわたって内燃機関のシリンダの燃焼室に噴射」することであり、具体的には、既知のやり方において点火液をアンモニア燃料の燃焼持続時間の5-10%に相当する時間にわたって噴射していたものを、連続的に(途切れることなく)「少なくとも20%の噴射持続時間で点火液を燃焼室内に供給する」ことにより「既知のやり方に比べて長い時間にわたって内燃機関のシリンダの燃焼室に噴射」することであると認められる。
ウ 本件発明1について
本件訂正によって、本件発明1の点火液システムは、「噴射持続時間の間、連続的に点火液を前記燃焼室内に供給するように構成され」るものと訂正された。
これにより、本件発明1の「アンモニア燃料燃焼持続時間の少なくとも20%の噴射持続時間」が連続的に点火液を供給する時間であり、噴射が途切れる時間を含まないものとなったことから、本件発明1は、「点火液」を「既知のやり方に比べて長い時間にわたって内燃機関のシリンダの燃焼室に噴射」するという本件特許の発明の詳細な説明に記載された本件発明の課題を解決するための手段が反映されたものになった。
よって、この点において、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載されたものである。
また、請求項1を引用する本件発明2、3及び8も、この点において同様に発明の詳細な説明に記載されたものである。
(2)訂正前の請求項1~6及び8~10に係る取消理由2について
本件訂正によって、本件発明1の点火液システムは、「燃料油などの点火液のみで動作する場合の最大回転数に必要な量の5~50%、好ましくは15~40%、最も好ましくは25~35%の範囲の量で点火液を前記燃焼室内に供給するよう構成される」ものと訂正された。
これにより、本件発明1は、本件特許の発明の詳細な説明の【0019】に記載された
「点火液システムは、燃料油などの点火液のみで動作する場合の全速動作に必要な量の5~50%、好ましくは15~40%、最も好ましくは25~35%の範囲の量で点火液を燃焼室内に供給するよう構成されていてもよい。」
という事項が反映されたものになった。
よって、この点において、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載されたものである。
また、請求項1を引用する本件発明2、3及び8も、この点において同様に発明の詳細な説明に記載されたものである。
(3)訂正前の請求項1~10に係る取消理由2について
令和6年12月3日提出の意見書において、特許権者は、
「『噴射持続時間』とは、請求項に特定される通り、点火液が噴射される期間であり、点火液が噴射されればアンモニア燃料の燃焼が直ちに始まることは当然である。従って当業者であれば、噴射持続時間の始期の直後にアンモニア燃料燃焼持続時間が始まることが明らかである。本件特許明細書の0030にも、『燃料の噴射に続いて燃焼が生じ』と記載されている。当業者にとって、それ以外の態様は想定できないので、訂正後の請求項1の記載は、発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えてはいない。」(上記意見書の2頁22行~29行)
と主張している。
さらに本件特許の【0030】には、
「シリンダライナ1内の燃焼室には、シリンダカバー22に配置された燃料弁50を通じて燃料が噴射される。噴射される燃料にはアンモニアと点火液が含まれる。アンモニアはアンモニア燃料供給装置30から、点火液は点火燃料供給装置40から、それぞれ供給される。アンモニアの噴射は、ピストン10がTDCに向かうストローク中に比較的低い圧力で行われる場合と、TDC又はその近傍で高圧で行われる場合とがある。点火液の噴射は常にTDC又はその近傍で高圧で行われる。燃料の噴射に続いて燃焼が生じ、排気が生成される。」
と記載され、さらに、【0033】には、
「アンモニア燃料導入弁は、ピストン10がBDCからTDCに向かう途中であってアンモニア燃料導入弁を通過する前に、シリンダライナ内にアンモニア燃料を比較的低圧で導入する。そしてピストン10は、掃気空気と燃料の混合物を圧縮する。TDC又はその近辺の所定のタイミングで点火が行われる。この点火は点火液の噴射等によって行われる。」
と記載されている。
確かに、本件発明1において、アンモニア燃料燃焼持続時間の始期及び終期と噴射持続時間の始期及び終期との関係は何ら特定されていないものの、両者の関係は、アンモニア燃料が適切に燃焼するように当業者が適宜決定するものであると認められるところ、上記意見書の主張及び【0030】、【0033】の記載より、本件発明1について、アンモニア燃料が点火液よりも先に、又は、遅くとも略同時に供給され、点火液が噴射されればアンモニア燃料の燃焼が直ちに始まるものであると解することは妥当であるといえる。
したがって、本件発明1は、噴射持続時間が終了してからアンモニア燃料燃焼持続時間が始まる場合を包含するものとは認められず、また、上記(1)に説示したとおり、本件課題を解決できるものである。
よって、この点において、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載されたものである。
また、請求項1を引用する本件発明2、3及び8も、この点において同様に発明の詳細な説明に記載されたものである。
2 小括
以上のとおり、本件発明1~3及び8は、発明の詳細な説明に記載されたものであり、また、本件訂正によって請求項4~7、9及び10は削除された。
よって、本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしているものであるから、上記取消理由2(特許法第36条第6項第1号)によっては、本件発明1~3及び8に係る特許を取り消すことはできない。
第7 取消理由3(特許法第36条第4項第1号)について
1 判断
上記第5で説示したとおり、本件発明1~3及び8は、明確である。
また、上記第6で説示したとおり、本件発明1~3及び8は、発明の詳細な説明に記載された本件課題を解決するための手段が反映されたものであり、発明の詳細な説明に記載されたものである。
したがって、本件特許の発明の詳細な説明に関し、当業者が本件発明1~3及び8の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものでないとする理由はない。
2 小括
以上のとおり、本件特許の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1~3及び8の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものであり、また、本件訂正によって請求項4~7、9及び10は削除された。
よって、本件特許の発明の詳細な説明は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしているものであるから、上記取消理由3(特許法第36条第4項第1号)によっては、本件発明1~3及び8に係る特許を取り消すことはできない。
第8 令和7年1月22日提出の意見書における申立人の主張について
1 申立人の主張の概要
申立人は、上記意見書において、概略以下のように主張している。
(1)サポート要件(取消理由2(特許法第36条第6項第1号))について
訂正後の請求項1においても、アンモニア燃料燃焼持続時間の始期および終期と、点火液の噴射持続時間の始期および終期との関係が何ら規定されていない。
このため、訂正後の請求項1は、まず点火液が、アンモニア燃料燃焼持続時間の10%の時間だけ噴射された後に、アンモニア燃料が供給されてアンモニア燃料燃焼持続時間が開始し、その開始後に点火液が、アンモニア燃料燃焼持続時間の10%の時間だけ噴射されることによって、点火液の噴射持続時間がアンモニア燃料燃焼持続時間の20%となる態様を含む。この場合、全てのアンモニアの完全燃焼を保証するという課題を解決できないと思料する。(上記意見書2頁2行~12行)
(2)明確性要件(取消理由1(特許法第36条第6項第2号))について
特許権者は、令和6年12月3日提出の意見書において、訂正後の請求項1に係る発明は、噴射が途切れる時間は含んでいないことが明確になった、と主張している。
しかしながら、当該主張において、「噴射が途切れる時間は含んでいない」という部分は、「噴射は途切れることはあるが、噴射持続時間はその途切れる時間を含んでいない」という意味であるのか、「噴射が途切れるということ自体が無い」という意味であるのか不明確である。(上記意見書3頁13行~23行)
(3)実施可能要件(取消理由3(特許法第36条第4項第1号))について
上述したように、訂正後の請求項1~3、8は、サポート要件及び明確性要件を満たさないので、当該請求項に係る発明は、本件の発明の詳細な説明に照らしても、当業者がその発明を実施しようとした場合に、どのように実施するかが理解できない。(上記意見書4頁8行~11行)
2 申立人の主張についての検討
(1)取消理由2(特許法第36条第6項第1号)について
ア 上記第6の1(3)にて説示したとおり、本件発明1は、アンモニア燃料が点火液よりも先に、又は、遅くとも略同時に供給され、点火液が噴射されればアンモニア燃料の燃焼が直ちに始まるものであると認められる。
イ 仮に、点火液がアンモニア燃料燃焼持続時間の10%の時間だけ噴射された後に、アンモニア燃料が供給されてアンモニア燃料燃焼持続時間が開始することが技術常識であり、本件発明1がそのようなものを含むとして、以下検討する。
点火液がアンモニア燃料燃焼持続時間の5-10%の時間だけ噴射される既知のやり方における同様の(点火液がアンモニア燃料燃焼持続時間の10%の時間だけ噴射された後に、アンモニア燃料が供給されてアンモニア燃料燃焼持続時間が開始する)ものにおいては、アンモニア燃料が供給される前に実質的に点火液の噴射が終わっているものと認められる。
一方本件発明1においては、アンモニア燃料が供給されてアンモニア燃料燃焼持続時間が開始した後も、点火液がアンモニア燃料燃焼持続時間の10%の時間だけ噴射されるものであり、既知のやり方に比べて長い時間アンモニアの燃焼と点火液の燃焼が重複し、このことがアンモニア燃料の完全燃焼に資することは、当業者であれば自明である。
したがって、仮に、本件発明1が、点火液がアンモニア燃料燃焼持続時間の10%の時間だけ噴射された後に、アンモニア燃料が供給されてアンモニア燃料燃焼持続時間が開始するものであるとしても、本件課題を解決するものといえる。
ウ よって、申立人の主張は、根拠を有するものではない。
(2)取消理由1(特許法第36条第6項第2号)について
上記第5の1にて説示したとおり、本件発明1の点火液システムは、アンモニア燃料燃焼持続時間の少なくとも20%の噴射持続時間の間、連続的に点火液を前記燃焼室内に供給するように構成されたものであることが明らかとなっている。
よって、申立人の主張は、根拠を有するものではない。
(3)取消理由3(特許法第36条第4項第1号)について
上記第5及び第6にて説示したように、また、上記(1)及び(2)にて説示したように、本件発明1~3及び8は、明確であり、また、発明の詳細な説明に記載されたものである。
よって、申立人の主張は、根拠を有するものではない。
3 小括
よって、申立人の主張は、いずれも根拠を有するものではなく、採用できない。
第9 むすび
以上のとおり、取消理由通知に記載した取消理由1~3によっては、本件発明1~3及び8に係る特許を取り消すことはできない。また、他に本件発明1~3及び8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、本件の請求項4~7、9及び10に係る特許については、本件訂正により削除された。これにより、申立人による特許異議申立てのうち、請求項4~7、9及び10に係る申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
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2024-700011