特許異議申立
2024-700773
移植片の活性を高める方法
- 審判番号
- 2024-700773
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-179087
- 登録番号
- 7471069
- 請求日
- 2024年08月15日
- 審決日
- 2025年01月30日
- 公報発行日
- 2025年03月28日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】国立大学法人大阪大学
- 【権利者代理人】弁理士法人葛和国際特許事務所
- 【権利者】テルモ株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人葛和国際特許事務所
- 【異議申立人】鈴木 敏明
- 【異議申立人】大川 尊司
- 審判長/審判官
- 審判長 長井 啓子
- 審判官 名和 大輔
- 審判官 中村 浩
- 分類
- P1651.113-Y (C12N) / P1651.121-Y (C12N)
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7471069号発明「移植片の活性を高める方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7471069号の請求項1~5に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7471069号の請求項1~5に係る特許についての出願は、令和1年9月30日に出願され、令和6年4年11日に特許の設定登録がされ、同年4月19日に特許掲載公報が発行された。本件は、その特許に対し、令和6年8月15日に特許異議申立人 鈴木 敏明(以下、「申立人A」という。)により特許異議の申立て(以下、「申立てA」という。)がされ、令和6年10月18日に特許異議申立人 大川 尊司(以下、「申立人B」という。)により特許異議の申立て(以下、「申立てB」という。)がされたものである。
第2 本件発明
特許第7471069号の請求項1~5に係る発明は、その特許請求の範囲の請求項1~5に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「【請求項1】
iPS細胞由来の心筋細胞を含有するシート状細胞培養物のサイトカイン産生能および増殖能からなる群から選択される活性を高める方法であって、
iPS細胞由来の心筋細胞を含有するシート状細胞培養物を培養基材上に提供するステップ、
培養基材からシート状細胞培養物を剥離するステップ、および、
培養基材から剥離後に、シート状細胞培養物を25℃~39℃で24時間~72時間インキュベートするステップを含む前記方法。
【請求項2】
シート状細胞培養物がスキャフォールドを有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
スキャフォールドが、フィブリン、ゼラチンまたはコラーゲンを含むゲルである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の方法を含むシート状細胞培養物の製造方法。
【請求項5】
iPS細胞由来の心筋細胞を含有するシート状細胞培養物のサイトカイン産生能および増殖能からなる群から選択される活性を高める方法であって、
iPS細胞由来の心筋細胞を含有するシート状細胞培養物を培養基材上に提供するステップ、
培養基材からシート状細胞培養物を剥離するステップ、および、
培養基材から剥離後に、シート状細胞培養物を25℃~39℃で72時間インキュベートするステップを含む前記方法。」
(以下、上記請求項1~5に係る発明を「本件発明1」~「本件発明5」という。まとめて「本件発明」ということもある。)
第3 特許異議申立理由
各申立人が主張する申立ての理由は、概略、次のとおりのものである。
1 申立人Aが主張する申立てAの理由(甲第1号証に基づく新規性・進歩性欠如)
本件発明1、4は、甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29第1項第3号に該当し特許を受けることができず、本件発明1~5は、甲第1号証に記載された発明に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29第2項の規定により特許を受けることができないから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
[証拠方法]
甲第1号証:国際公開第2016/076368号
(以下、上記「甲第1号証」を「甲A1」と略す。)
2 申立人Bが主張する申立てBの理由(甲第1号証を主引例、甲第2号証~甲第7号証を副引例とした進歩性欠如)
本件発明1~5は、甲第1号証~甲第7号証に記載された発明に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29第2項の規定により特許を受けることができないから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
[証拠方法]
甲第1号証:Stem Cells, 2012, Vol.30, p.1196-1205, Supplemental Experimental Procedures
甲第2号証:European Heart Journal, 2013, Vol.34, p.1147-1156
甲第3号証:国際公開第2016/076368号
甲第4号証:特開2019-047819号公報
甲第5号証:特開2019-129775号公報
甲第6号証:特表2012-512632号公報
甲第7号証:Data in Brief, 2016, Vol.8, p.45-48
(以下、上記「甲第1号証」~「甲第7号証」を「甲B1」~「甲B7」と略す。)
第4 当審の判断
1 申立人Aが提出した甲号証の記載事項
(1)甲A1(国際公開第2016/076368号)の記載事項
甲A1には、次の事項が記載されている。下線は、当審が付したものである(以下同様)。
ア 発明の名称
「心筋細胞シート」
イ 請求の範囲
「【請求項1】多能性幹細胞由来の心筋細胞を含む細胞集団を培養して得られるシート状細胞培養物であって、前記細胞集団の全細胞数に対する多能性幹細胞由来の心筋細胞数の割合が、50%~70%である、前記シート状細胞培養物。
・・・
【請求項4】(1)多能性幹細胞を心筋細胞誘導処理に供し、心筋細胞を含む第1の細胞集団を得るステップ、
(2)ステップ(1)で得た第1の細胞集団に由来する心筋細胞を含む第2の細胞集団を得るステップ、および
(3)ステップ(2)で得た第2の細胞集団を培養してシート状細胞培養物を形成するステップ
を含み、第2の細胞集団の全細胞数に対する心筋細胞数の割合が50%~70%である、請求項1~3のいずれか一項に記載のシート状細胞培養物の製造方法。
・・・
【請求項8】(1)多能性幹細胞を心筋細胞誘導処理に供し、心筋細胞を含む第1の細胞集団を得るステップ、
(2)ステップ(1)で得た第1の細胞集団に由来する心筋細胞を含む第2の細胞集団を得るステップ、および
(3)ステップ(2)で得た第2の細胞集団を培養してシート状細胞培養物を形成するステップ
を含み、第2の細胞集団の全細胞数に対する心筋細胞数の割合が50%~70%である、多能性幹細胞由来の心筋細胞を含むシート状細胞培養物のサイトカイン産生能を高める方法。」
ウ 発明の概要
「[0005] 本発明は、有用な機能的特性を有する、多能性幹細胞由来の心筋細胞を含むシート状細胞培養物、その製造方法、当該シート状細胞培養物を含む移植片、および、当該シート状細胞培養物を用いた疾患の処置方法等の提供を目的とする。」
「[0006] 本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を進める中、シート状細胞培養物の形成に用いる細胞集団の全細胞数に対する多能性幹細胞由来の心筋細胞数の割合を50%~70%の範囲に調節することで、疾患の治療に有用なサイトカインの産生能が高まることを見出し、本発明を完成させた。」
「[0041] シート状細胞培養物から放出されるサイトカインの量は、限定されずに、例えば、シート状細胞培養物を所定の期間培養液中で培養した後、当該培養液(培養上清)に含まれるサイトカインの量(例えば、サイトカインの濃度など)を測定することなどにより得ることができる。シート状細胞培養物に含まれるサイトカインの量は、限定されずに、例えば、シート状細胞培養物を所定の期間培養液中で培養した後、シート状細胞培養物を破砕または溶解し、得られた破砕液または溶解液中に含まれるサイトカインの量(例えば、サイトカインの濃度など)を測定することなどにより得ることができる。シート状細胞培養物を構成する細胞が発現するサイトカイン遺伝子の量は、限定されずに、例えば、シート状細胞培養物から全RNAを抽出し、これに含まれるサイトカイン遺伝子の量を定量することなどにより得ることができる。」
「[0049] 本発明の製造方法は、シート状細胞培養物を形成するステップの後に、形成されたシート状細胞培養物を回収するステップをさらに含んでもよい。シート状細胞培養物の回収は、シート状細胞培養物が少なくとも部分的に、シート構造を保ったまま、足場となっている培養基材から遊離(剥離)できれば特に限定されず、例えば、タンパク質分解酵素(例えばトリプシンなど)による酵素処理および/またはピペッティングなどの機械的処理によって行うことができる。また、細胞を、刺激、例えば、温度や光に応答して物性が変化する材料で表面を被覆した培養基材上で培養してシート状細胞培養物を形成した場合には、所定の刺激を加えることで、非酵素的に遊離することもできる。例えば、細胞を温度応答性培養皿で培養して細胞培養物を形成した場合には、温度を温度応答性材料の水に対する下限臨界溶液温度(LCST)以下または上限臨界溶液温度(UCST)以上とすることにより、シート状細胞培養物を非酵素的に遊離することができる。」
エ 実施例
「[0064] 例1 ヒトiPS細胞からの心筋細胞の誘導
ヒトiPS細胞(253G1株)を理化学研究所バイオリソースセンターから購入し、直径10cmの培養皿内で、5ng/mLのbFGF(basic fibroblast growth factor、リプロセル社製、以下同様)を添加したPrimate ES Cell Medium(リプロセル社製)中、マイトマイシンC処理を施したマウス胎児線維芽細胞(MEF、リプロセル社製)上で維持した。細胞の継代は、3~4日ごとに、コロニーを維持したまま(単細胞懸濁液にせずに)、細胞剥離液(CTK溶液、リプロセル社製、以下同様)を用いて行った。
[0065] 心筋細胞の誘導は、浮遊培養下の胚様体(EB)に所定の添加物を所定の時期に作用させることにより行った。10枚の培養皿から細胞剥離液で剥離したヒトiPS細胞の凝集塊(約2×107細胞)を、10μMのROCK阻害剤(Y-27632、和光純薬社製)を添加した100mLのmTeSRTM1(STEMCELL Technologies社製)に再懸濁し、撹拌機能付培養装置(Bio Jr. 8、エイブル社製)に導入した。培養中、撹拌速度を40rpm、溶解酸素濃度を40%、pHを7.2、温度を37℃にそれぞれ維持した。溶解酸素濃度の調節は空気、酸素または窒素により、pHの調節はCO2の添加によりそれぞれ行った。
[0066] 培養装置内での培養開始(0日目)の1日後(1日目)に、培地を、0.5ng/mLのBMP4(R&D Systems社製、以下同様)を添加した心筋細胞誘導用基本培地(50μg/mLのアスコルビン酸(Sigma-Aldrich社製)、2mMのL-グルタミンおよび400μMの1-チオグリセロール(Sigma-Aldrich社製)を含むStemPro(R)-34 SFM(Life Technologies社製))に置換した。その後、以下の時期に、培地を、以下の添加物を含む心筋細胞誘導用基本培地に置換した。2日目:10ng/mLのBMP4、5ng/mLのbFGFおよび3ng/mLのアクチビンA(R&D Systems社製)、5日目:4μMのWntシグナル阻害剤(IWR-1-endo、和光純薬社製)、7日目:5ng/mLのVEGF(R&D Systems社製)および10ng/mLのbFGF。その後、9、11、13および15日目に、7日目と同じ培地(すなわち、5ng/mLのVEGFおよび10ng/mLのbFGFを添加した心筋細胞誘導用基本培地)で培地交換を行った。こうしてヒトiPS細胞由来の心筋細胞を含む細胞集団(細胞塊)を得た。当該細胞集団は、0.05%トリプシン/EDTAで解離後、残存する細胞凝集物をストレイナー(BD Bioscience社製)で除去し、その後の実験に供した。」
「[0067] 例2 非心筋細胞の構成比の解析
例1で得た解離した細胞集団の一部を用いて、当該細胞集団における非心筋細胞の構成比を調べた。まず、細胞集団を、非心筋細胞マーカー(血管内皮細胞等のマーカーであるCD31、平滑筋細胞等のマーカーであるαSMAまたは線維芽細胞等のマーカーであるTE-7抗原)と心筋細胞マーカーであるc-TNTの両方について二重標識した。
[0068] CD31発現細胞の標識は、細胞集団を、PE結合抗ヒトCD31抗体(clone WM59、マウスIgG1、BD社製)と反応させた後、細胞を固定・透過処理剤(BD Cytofix/CytopermTM Fixation/Permeabilization Solution Kit、BD社製、以下同様)で固定、透過処理し、処理後の細胞を、抗c-TNT抗体(Troponin T-C Antibody (CT3)、マウスIgG2a、Santa Cruz Biotechnology社製、以下同様)、次いで、蛍光標識二次抗体(Alexa Fluor(R) 647結合抗マウスIgG2a抗体、Life Technologies社製)と反応させることにより行った。
[0069] αSMA発現細胞の標識は、細胞を固定・透過処理剤で固定、透過処理し、処理後の細胞を、抗c-TNT抗体と、抗αSMA抗体(clone E184、ウサギIgG、Abcam社製)とに反応させ、次いで、上記一次抗体に結合する蛍光標識二次抗体(Alexa Fluor(R) 647結合抗マウスIgG2a抗体およびAlexa Fluor(R) 488結合抗ウサギ抗体、いずれもLife Technologies社製)と反応させることにより行った。
[0070] TE-7抗原発現細胞の標識は、細胞を固定・透過処理剤で固定、透過処理し、処理後の細胞を、抗c-TNT抗体と、抗ヒト線維芽細胞抗体(clone TE-7、マウスIgG1、Merck Millipore社製)とに反応させ、次いで、上記一次抗体に結合する蛍光標識二次抗体(Alexa Fluor(R) 647結合抗マウスIgG2a抗体およびAlexa Fluor(R) 488結合抗マウスIgG1抗体、いずれもLife Technologies社製)と反応させることにより行った。
[0071] 標識した細胞を、BD FACSCantoTM II フローサイトメーターおよびBD FACSDivaTM ソフトウェア(いずれもBD社製)を用いて解析した。非心筋細胞集団の全細胞数に対する各非心筋細胞マーカー陽性細胞数の割合は、c-TNT陰性画分の細胞集団(非心筋細胞集団)の全細胞数に対する各非心筋細胞マーカー陽性細胞数の割合として算出した。結果を下表1に示す。
[図:0001420339000001.jpg]
」
「[0072] 例3 心筋細胞の分離
例1で得た解離した細胞集団の一部を、心筋細胞マーカーであるCD172に特異的に結合する、PE(フィコエリスリン)結合抗ヒトCD172a/b抗体(clone SE5A5、BioLegend社製)で標識した。標識した細胞に抗PEマイクロビーズ(Miltenyi Biotec社製)を負荷し、細胞とビーズの混合物をMidiMACSTM Separator(Miltenyi Biotec社製)に設置したLS Columns(Miltenyi Biotec社製)に通して、CD172陽性の心筋細胞を含む心筋細胞集団と、CD172陰性の非心筋細胞を含む非心筋細胞集団とに分離した。
[0073] 分離した心筋細胞集団の一部を用いて、別の心筋細胞マーカーであるc-TNTを発現する細胞数の、分離した心筋細胞集団の全細胞数に対する割合をフローサイトメトリーで解析した。すなわち、分離した心筋細胞集団を固定・透過処理剤で固定、透過処理し、処理後の細胞を、抗c-TNT抗体、次いで、蛍光標識二次抗体(Alexa Fluor(R) 647結合抗マウスIgG2a抗体、Life Technologies社製)と反応させた後、標識した細胞を、BD FACSCantoTM II フローサイトメーターおよびBD FACSDivaTM ソフトウェア(いずれもBD社製)を用いて解析した。解析の結果、上記で分離した心筋細胞集団の全細胞数に対するc-TNT陽性細胞数の割合は90%超であった。」
「[0074] 例4 シート状細胞培養物の作製
例3で分離した心筋細胞集団と非心筋細胞集団とを下表2の比率で混合し、シート状細胞培養物形成用の細胞集団A~Dを調製した。
[図:0001420339000002.jpg]
なお、表中の割合(%)は、細胞集団の全細胞数に対する各種細胞集団の細胞数の割合を意味する。また、例2で算出した非心筋細胞集団における各非心筋細胞マーカー陽性細胞の割合は、心筋細胞集団と非心筋細胞集団の分離ステップの前後で実質的に変化しないと考えられるため、分離後の非心筋細胞集団についても適用可能である。
[0075] 細胞集団A~Dを、それぞれ2.1×105個/cm2の密度で、温度応答性培養皿(UpCell(R)、セルシード社製)に播種し、ROCK阻害剤を含まない10%FBS加DMEM中、37℃、5%CO2にて5日間増殖培養してシート状細胞培養物を形成し、温度処理(室温での10~30分程度の静置)により培養皿からシート状細胞培養物を剥離した(図1)。以下では、細胞集団A~Dで形成したシート状細胞培養物を、それぞれシート状細胞培養物A~Dと記す。」
「[0076] 例5 シート状細胞培養物の評価
(1)外観
心筋細胞集団の割合が50%以上の細胞集団で形成したシート状細胞培養物B~Dは、自発的な同期拍動を示した。また、シート状細胞培養物A~Cは、移植に適した白色円形の形状を形成することができたが、シート状細胞培養物Dは安定したシート状の構造を形成することができなかった(図1)。
[0077](2)サイトカインの産生
シート状細胞培養物A~Dを、10%FBS加DMEM中、37℃、5%CO2にて2日間培養して得た培養上清に含まれるVEGFおよびSCFの濃度を、Bio-Plex(R) Suspension Array System(Bio-Rad Laboratories社製)を用い、製品マニュアルに従って測定した(n=4)。VEGFの定量にはBio-Plex ProTM ヒトサイトカイン 28-Plex アッセイを、SCFの定量にはBio-Plex ProTM ヒトサイトカイン 21-Plex アッセイをそれぞれ用いた。各群間の統計学的有意差の評価には、Non-repeated Measures ANOVAを用いた。
図2に示す結果から、シート状細胞培養物を形成する細胞集団における心筋細胞集団の割合を50%~70%とすることで、高いサイトカイン産生量が得られることが分かる。VEGFは血管新生作用を有し、移植片の生存率を高めることなどが知られており(例えば、Suzuki et al., Circulation. 2001 Sep 18;104(12 Suppl 1):I207-12など)、SCFは、心筋細胞に分化し得る骨髄幹細胞を動員し得ることなどが知られている(例えば、Lutz et al., Cardiovasc Res. 2008 Jan;77(1):143-50など)。したがって、これらのサイトカインの産生量が高い本発明のシート状細胞培養物は、高い治療効果を有することが予測される。」
オ 図面
「[0010] ・・・図2は、シート状細胞培養物A~Dが産生したサイトカインの定量結果を示したグラフである。なお、縦軸は培養上清中の各サイトカインの濃度を示し、*はp<0.05、**はp<0.01をそれぞれ表す。
[図:0001420339000003.jpg]
」
2 申立人Bが提出した主な甲号証の記載事項
(1)甲B1(Stem Cells, 2012, Vol.30, p.1196-1205, Supplemental Experimental Procedures)の記載事項
甲B1には、次の事項が記載されている。なお、英語で記載されているので、当審による翻訳文で示す。
ア 表題
「多能性幹細胞から作製され、特定の心血管細胞集団で再構成された細胞シートは、心筋細胞を介した血管新生によって、梗塞心筋の機能軽減を改善する」
イ 要約
「幹細胞療法は心臓の修復に有望な戦略であるが、移植細胞の不均一性が細胞及び分子メカニズムの正確な理解を妨げている。以前、我々はマウス多能性幹細胞から心血管細胞分化システムを確立し、心筋細胞(CM)、内皮細胞(EC)、壁細胞(MC)を系統的に誘導及び精製することができる。これを細胞シート技術と組み合わせて、特定の心血管集団で再構成された心臓組織シートを生成した。ここでは、心筋梗塞(MI)後の心機能における心臓組織シート移植の可能性とメカニズムを示す。」(第1196頁左欄第1~13行)
ウ 材料と方法
「マウスES細胞由来組織シート形成
EStTA-ROSA細胞から誘導されたFlk1+細胞を、VEGF165(50 ng/ml)及び8bromo-cAMP(0.5 mmol/l)を含むDM 1mlとともに、ゼラチンコーティングされた12マルチウェルUpCellに2.5-4.0×104細胞で播種され、UpCell上でEC及びMCを選択的に誘導した。3日間培養した後、精製細胞懸濁液[5.0×105 CM及び5.0×105バルクFlk1-d3(EC及びMC)]がUpCell上の血管細胞に播種された(つまり、精製C+E+M細胞がE+M細胞に対して播種された)(補足情報図S1D、S1E)。4日間培養した後、細胞を室温に戻した。15~30分以内に、細胞は自然に剥離し、単層細胞シート(C+E+Mシート)(C:CM、E:EC、M:MC)として培地中に浮遊した。」(第1197頁右欄「Mouse ESC-Derived Tissue Sheet Formation」)
エ 結果
「心臓組織シートの移植後の血管新生
・・・
次に、血管新生の分子メカニズムを解明するために、心臓組織シートの培養上清中の腫瘍壊死因子α、インスリン様成長因子1、VEGF、インターロイキン6、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)などの血管新生因子のタンパク質分泌を調べた。その中でもVEGFの産生は他の因子よりもはるかに顕著であり、VEGFが重要な役割を果たしていることを示唆している(補足情報図S4C)。VEGF産生を担う細胞集団を同定するために、心臓組織シートの免疫蛍光染色を行った。VEGF染色はcTnT+ CMに非常に限定され(図4E)、シートを構成する細胞タイプの中では CM がVEGF の主な供給源であることを示している。」(第1201頁左欄~第1202頁左欄「Neovascularization Following Cardiac Tissue Sheet Transplantation」)
「細胞タイプ制御シートによるCMの機能的役割の前向き試験
我々のESCシステムは、様々な組合せの心血管細胞を含む細胞タイプ制御シートによって各細胞集団の機能的役割を前向きに評価できるという、これまでの細胞移植研究とは異なる利点を備えている。C+E+Mシートからのin vitro VEGF分泌は、E+Mシート(EC及びMC)よりも13.3倍高く(図5A)、in vitro Vegf164遺伝子発現は、E+Mシート(EC及びMC)よりも21.5倍高かった(図5B)(補足情報図S5A)。これらの結果は、VEGFの免疫染色の結果を裏付けている(図4E)。・・・」(第1202頁左欄~右欄「Prospective Examination of Functional Roles of CMs with Cell type-Controlled Tissue Sheets」)
「図5
[図:0001420339000004.jpg]
細胞タイプ制御シートの分析 (A):C+E+MシートとE+Mシートの培養上清におけるVEGF分泌(104細胞あたりのピゴグラム)に対するELISA。(B):C+E+MシートとE+MシートからのVEGF mRNAに対する定量PCR。・・・」
オ 補足情報
「酵素免疫測定法(ELISA)
細胞培養の上清を2つの条件で収集し、検査した。条件1(共培養中の分泌):・・・条件2(3層シートからの分泌):シートを収集し、上記のように3層にした。60 mm培養皿に移し、αMEMで2回洗浄した後、上清をαMEM(1.8 ml/皿)に置換した。3時間後、上清を収集し、検査した。TNFα、IGF-1、VEGF、IL-6、bFGF、IGFγ、EGF、レプチン及びHGFの相対的増加を、マウス血管新生ELISA strip(Signosis、サニーベール、カリフォルニア)又はマウスHGF EIA kit(特殊免疫研究所、東京、日本)を用いて同時に評価した。・・・」(Supplemental Experimental Procedures、第14~15頁「Enzyme-linked immunosorbent assay (ELISA)」)
(2)甲B3(国際公開第2016/076368号)の記載事項
甲B3は、甲A1と同一の文献であり、その記載事項については、前記1(1)を参照のこと。
3 申立てAの理由(甲A1に基づく新規性・進歩性欠如)についての判断
(1)甲A1に記載された発明の認定
甲A1の請求の範囲の請求項8には、「(1)多能性幹細胞を心筋細胞誘導処理に供し、心筋細胞を含む第1の細胞集団を得るステップ、(2)ステップ(1)で得た第1の細胞集団に由来する心筋細胞を含む第2の細胞集団を得るステップ、および(3)ステップ(2)で得た第2の細胞集団を培養してシート状細胞培養物を形成するステップを含み、第2の細胞集団の全細胞数に対する心筋細胞数の割合が50%~70%である、多能性幹細胞由来の心筋細胞を含むシート状細胞培養物のサイトカイン産生能を高める方法。」(前記1(1)イ)が記載されている。そして、実施例には、ヒトiPS細胞を浮遊培養して得られる胚様体に、所定の添加物を所定の時期に作用させて、心筋細胞を含む細胞集団を誘導したこと(前記1(1)エ、例1)、当該細胞集団から、心筋細胞マーカーであるCD172に特異的に結合する抗体を用いて、CD172陽性の心筋細胞を含む心筋細胞集団と、CD172陰性の非心筋細胞を含む非心筋細胞集団とに分離したこと(前記1(1)エ、例3)、分離した心筋細胞集団と非心筋細胞集団を様々な比率で混合した後、各細胞集団を温度応答性培養皿に播種して培養することでシート状細胞培養物を形成し、温度処理により当該培養物を培養皿から剥離したこと(前記1(1)エ、例4)、形成したシート状細胞培養物を37℃、5%CO2にて2日間培養した後、培養上清に含まれるサイトカインであるVEGF及びSCFの濃度を測定し、シート状細胞培養物を形成する細胞集団における心筋細胞集団の割合を50%~70%とすることで、高いサイトカイン産生量が得られることが明らかとなったこと(前記1(1)エ、例5、前記1(1)オ、図2)が記載されている。
以上より、甲A1には、シート状細胞培養物を形成する細胞集団における心筋細胞集団の割合を50%~70%とすることを主な特徴として、当該シート状細胞培養物のサイトカイン産生量を高めることが記載されており、このことを、シート状細胞培養物を37℃、5%CO2にて2日間培養した後、培養上清に含まれるサイトカインであるVEGF及びSCFの濃度を測定することにより確認したことが記載されていると認められる。
そうすると、甲A1には、次のとおりの発明が記載されていると認定できる。
「ヒトiPS細胞から心筋細胞を含む細胞集団を誘導するステップ、当該細胞集団から、CD172陽性の心筋細胞を含む心筋細胞集団と、CD172陰性の非心筋細胞を含む非心筋細胞集団とに分離するステップ、分離した心筋細胞集団の割合が50%~70%となるように、分離した心筋細胞集団と非心筋細胞集団を混合した細胞集団を得るステップ、当該細胞集団を温度応答性培養皿に播種して培養することでシート状細胞培養物を形成するステップを含む、iPS細胞由来の心筋細胞を含むシート状細胞培養物のサイトカイン産生能を高める方法であって、前記サイトカイン産生能は、シート上細胞培養物を培養皿から剥離し、37℃、5%CO2にて2日間培養して得た培養上清に含まれるサイトカイン産生量を測定することにより確認する、前記方法。」(以下、「甲A1発明」という。)
(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲A1発明とを対比する。
甲A1発明の「培養皿」は、本件発明1の「培養基材」に相当するから、甲A1発明の「ヒトiPS細胞から心筋細胞を含む細胞集団を誘導するステップ、当該細胞集団から・・・分離した心筋細胞集団と非心筋細胞集団を混合した細胞集団を得るステップ、当該細胞集団を温度応答性培養皿に播種して培養することでシート状細胞培養物を形成するステップ」は、本件発明1の「iPS細胞由来の心筋細胞を含有するシート状細胞培養物を培養基材上に提供するステップ」に相当する。
また、甲A1発明の「シート上細胞培養物を培養皿から剥離し、37℃、5%CO2にて2日間培養」する工程は、本件発明1の「培養基材からシート状細胞培養物を剥離するステップ」、及び「培養基材から剥離後に、シート状細胞培養物を25℃~39℃で 24時間~72時間インキュベートするステップ」に相当する工程を含むものである。
そうすると、両者の一致点と相違点は、以下のとおりである。
<一致点>
iPS細胞由来の心筋細胞を含有するシート状細胞培養物を培養基材上に提供するステップ、培養基材からシート状細胞培養物を剥離するステップ、及び、培養基材から剥離後に、シート状細胞培養物を25℃~39℃で24時間~72時間インキュベートするステップを含む方法である点。
<相違点>
「培養基材からシート状細胞培養物を剥離するステップ、及び、培養基材から剥離後に、シート状細胞培養物を25℃~39℃で24時間~72時間インキュベートするステップ」が、本願発明では「iPS細胞由来の心筋細胞を含有するシート状細胞培養物のサイトカイン産生能および増殖能からなる群から選択される活性を高める方法」のステップであるのに対して、甲A1発明では「培養上清のサイトカイン産生量を測定してサイトカイン産生能を確認する」ためのステップである点。
イ 相違点の検討
甲A1は、その請求項8にも記載されたとおり、シート状細胞培養物を形成する細胞集団における心筋細胞集団の割合を50%~70%とすることで、当該割合をこの範囲外とした場合に比較してサイトカイン産生量が高まることを特徴とする発明が記載されており、このことは実施例において実証されている(前記1(1)エ、例5、前記1(1)オ、図2)。
しかし、上記相違点のとおり、甲A1発明の「培養基材からシート状細胞培養物を剥離するステップ、及び、培養基材から剥離後に、シート状細胞培養物を25℃~39℃で24時間~72時間インキュベートするステップ」は、実施例において、シート状細胞培養物のサイトカイン産生能を確認するために行ったステップにすぎない。この認定は、実施例の記載に加え[0041]や[0049]を含めた明細書の他の記載をみても、甲A1には、上記の「サイトカイン産生能を確認するためのステップ」を、「シート状細胞培養物の製造方法」の一貫として実施するとか、「シート状細胞培養物」を製造後、それを対象に適用する前に実施することを示唆する記載がないことからも妥当する。
そして、甲A1には、シート状細胞培養物を培養又はインキュベーションする温度・時間に係る条件で比較するサイトカイン産生量の違いについては記載がない。また、培養基材から剥離したシート状細胞培養物をインキュベートする温度と時間を変更することにより当該シート状細胞培養物のサイトカイン産生能を変更できることが本件出願時の技術常識であったとも認められない。
したがって、当業者といえども、甲A1に基づいて「培養基材からシート状細胞培養物を剥離するステップ、及び、培養基材から剥離後に、シート状細胞培養物を25℃~39℃で24時間~72時間インキュベートするステップ」によりシート状細胞培養物のサイトカイン産生能を高めるという技術思想を導き出すことはできず、上記相違点を当業者が容易に想到し得たものとはいえない。
ウ 小括
以上からすると、本件発明1は、甲A1に記載された発明であるとはいえないし、同発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3)本件発明2~5について
本件発明2~4は、本件発明1を直接又は間接的に引用するものであり、本件発明5は、本件発明1に対して温度条件が「24時間~72時間」から「72時間」に限定されたものであるから、本件発明1と同様の理由により、甲A1に記載された発明であるとはいえないし、同発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(4)申立人Aの主張について
申立人Aは、特許異議申立書において、甲A1の実施例における、シート状細胞培養物を37℃で2日間培養し、培養上清に含まれるVEGF及びSCFの濃度を測定した部分の開示内容(前記1(1)エ、例5、前記1(1)オ、図2)に基づき、37℃で2日間の培養によって、培養前や4℃で保存した場合に比べてサイトカイン産生能が高まっていることは明らかであること等の理由から、甲A1には、本件発明の全ての構成要件を満たす発明が記載されている旨主張する。
しかしながら、前記(1)に示すとおり、甲A1には、シート状細胞培養物を形成する細胞集団における心筋細胞集団の割合を50%~70%とすることを主な特徴として、当該シート状細胞培養物のサイトカイン産生量を高めることが記載されており、このことを、実施例において、シート状細胞培養物を37℃、5%CO2にて2日間培養した後、培養上清に含まれるサイトカインであるVEGF及びSCFの濃度を測定することにより確認したことが記載されていると認められるところ、前記(1)~(2)イに示すとおり、本件発明1に対して相違点を有する甲A1発明が認定されるから、申立人Aの上記主張は採用できない。
(5)小括
以上のとおりであるから、申立てAの理由は、理由がない。
4 申立てBの理由(甲B1~甲B7に基づく進歩性欠如)についての判断
(1)甲B1に記載された発明の認定
甲B1には、心臓の機能を回復させるために用いる心臓組織シートを作製し、その有効性と治療機構を示すために(前記2(1)イ)、マウスES細胞から誘導されたFlk1+細胞をゼラチンコーティングされた培養基材に播種して、内皮細胞、及び壁細胞を選択的に誘導した後、ES細胞から誘導された心筋細胞を含む細胞懸濁液をさらに播種して培養することにより、心筋細胞、内皮細胞、及び壁細胞を含む細胞シートが自然に培養基材から剥離したこと(前記2(1)ウ)、血管新生の分子機構を解明するために、当該心臓組織シートの培養上清から、VEGF等の血管新生因子の分泌量を調べたこと(前記2(1)エ、第1201頁左欄~第1202頁左欄「Neovascularization Following Cardiac Tissue Sheet Transplantation」)、そしてこの際には、細胞シートを培養基材で3時間培養した後の培養上清を用い、相対的な分泌量増加が確認されたこと(前記2(1)オ)が記載されている。
そうすると、甲B1には、次のとおりの発明が記載されていると認定できる。
「マウスES細胞由来の心筋細胞、内皮細胞、及び壁細胞を含む細胞を培養基材で培養することにより、培養基材から剥離した心臓組織シートを得るステップ、及び当該心臓組織シートを3時間培養するステップを含む方法。」(以下、「甲B1発明」という。)
(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲B1発明とを対比する。
甲B1発明の「マウスES細胞由来の心筋細胞、内皮細胞、及び壁細胞を含む細胞を培養基材で培養することにより、培養基材から剥離した心臓組織シートを得るステップ」は、培養基材上で心臓組織シートが形成された後、これが剥離している工程といえるから、本件発明における「心筋細胞を含有するシート状細胞培養物を培養基材上に提供するステップ」及び「培養基材からシート状細胞培養物を剥離するステップ」に相当する工程を含むものである。また、甲B1発明の「培養」は本件発明1の「インキュベート」に該当する。
そして、甲B1発明における「ES細胞」は、本件発明1における「iPS細胞」と多能性幹細胞である点で共通する。
そうすると、両者の一致点と相違点は、以下のとおりである。
<一致点>
多能性幹細胞由来の心筋細胞を含有するシート状細胞培養物を培養基材上に提供するステップ、培養基材からシート状細胞培養物を剥離するステップ、及び、培養基材から剥離後にシート状培養物をインキュベートするステップを含む方法である点。
<相違点1>
本件発明1は、「iPS細胞由来の心筋細胞を含有するシート状細胞培養物のサイトカイン産生能および増殖能からなる群から選択される活性を高める方法」であることが特定されているのに対し、甲B1発明ではその特定がない点。
<相違点2>
シート状細胞培養物を構成する心筋細胞について、本件発明1ではiPS細胞由来であるのに対し、甲B1発明ではES細胞由来である点。
<相違点3>
培養基材から剥離後のインキュベートの条件が、本件発明1では、「25℃~39℃で 24時間~ 72時間」であるのに対し、甲B1発明では、「3時間」と特定されるだけで、温度は不明である点。
イ 相違点1の検討
甲B1には、心臓組織シートを3時間培養した後、培養上清に分泌したVEGF等の相対的な分泌量増加を評価したことが記載されている(前記2(1)オ))ものの、この相対的な分泌量増加は、甲B1の図5において、心筋細胞、内皮細胞、及び壁細胞を含むC+E+MシートからのVEGF分泌量を内皮細胞及び壁細胞を含むE+MシートからのVEGF分泌量と比較して相当に高い結果が示されていること(前記2(1)エ、第1202頁左欄~右欄「Prospective Examination of Functional Roles of CMs with Cell type-Controlled Tissue Sheets」、図5)等を参酌すると、心筋細胞、内皮細胞、及び壁細胞を含むように細胞シートを作製した場合と、構成する細胞を変えて細胞シートを作製した場合で比較した相対的な分泌量増加であると認められるところ、甲B1には、心臓組織シートを培養又はインキュベーションする温度・時間に係る条件を変化させてサイトカイン産生量を高める技術思想は開示されていない。
当該技術思想は、甲A1と同一文献である甲B3においても、前記3(2)イに示すように開示されておらず、その他の甲B2、甲B4~甲B7においても開示されていないから、前記相違点1を甲B1~甲B7の記載事項に基づき当業者が容易に想到し得たものとはいえない。
ウ 小括
以上からすると、本件発明1は、前記アの相違点2、3を検討するまでもなく、甲B1~甲B7に記載された発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3)本件発明2~5について
本件発明2~4は、本件発明1を直接又は間接的に引用するものであり、本件発明5は、本件発明1に対して温度条件が「24時間~72時間」から「72時間」に限定されたものであるから、本件発明1と同様の理由により、甲B1~甲B7に記載された発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(4)申立人Bの主張について
申立人Bは、特許異議申立書において、甲B1における、心臓組織シートを3時間インキュベートした後にVEGF等のサイトカインの産生を測定した部分の記載事項(前記2(1)オ)から、本件発明における「心筋細胞を含有するシート状細胞培養物のサイトカイン産生能」「を高める方法」という構成要件を満たす発明が記載されている旨主張する。
しかしながら、前記イに示すとおり、甲B1には、シート状細胞培養物の温度・時間に係る培養条件で特定される方法によって「心筋細胞を含有するシート状細胞培養物のサイトカイン産生能」「を高める方法」開示されているとは認められないから、申立人Bの上記主張は採用できない。
(5)小括
以上のとおりであるから、申立てBの理由は、理由がない。
第5 むすび
以上のとおり、特許異議申立てAにおいて申立人Aが主張する理由、特許異議申立てBにおいて申立人Bが主張する理由によっては、本件発明1~5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1~5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2024-700773