特許訂正審判
2024-390010
質量分析キット
- 審判番号
- 2024-390010
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 訂正審判(訂正の審決)
- 出願番号
- 特願2018-544901
- 登録番号
- 7246927
- 請求日
- 2024年01月23日
- 審決日
- 2024年10月23日
- 公報発行日
- 2025年01月31日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【請求人】ザ バインディング サイト グループ リミティド
- 【請求人代理人】青木 篤
- 【請求人代理人】三橋 真二
- 【請求人代理人】渡辺 陽一
- 【請求人】メイヨ・ファウンデーション・フォー・メディカル・エデュケーション・アンド・リサーチ
- 【請求人代理人】青木 篤
- 【請求人代理人】三橋 真二
- 【請求人代理人】渡辺 陽一
- 審判長/審判官
- 審判長 加々美 一恵
- 審判官 樋口 宗彦
- 審判官 ▲高▼見 重雄
- 分類
- P141 .851-Y (G01N) / P141 .852-Y (G01N) / P141 .855-Y (G01N) / P141 .856-Y (G01N)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第126条第1項、特許法第126条第7項、特許法第120条の5第2項、特許法第126条第6項、特許法第36条第6項第1号、特許法第131条の2第1項、特許法第126条第3項、特許法第126条、特許法第126条第5項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7246927号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。
結論
結 論
特許第7246927号の明細書を本件審判請求書に添付された訂正明細書のとおり、訂正後の請求項〔1、3~14、17、19、21、22〕、〔2、15、16、18、20、23〕について訂正することを認める。
理由
理 由
第1.手続の経緯
本件出願は2017年(平成29年)2月24日(パリ条約に基づく優先権主張外国庁受理 2016年(平成28年)2月25日 英国;2016年(平成28年)7月29日 米国)を国際出願日とする特許出願であって、その請求項1~23に係る発明について、令和5年3月17日に特許権の設定登録がなされたものである。
そして、令和6年1月23日に本件訂正審判の請求がなされたものである。本件訂正審判の請求以降の手続の概略を以下に示す。
令和6年1月23日:訂正審判請求書の提出
(訂正特許請求の範囲、訂正明細書 添付)
同年2月16日(発送日):手続補正指令の通知
同年3月15日:手続補正書の提出
(補正後の訂正審判請求書添付)
同年4月26日:手続補正書の提出
(補正後の訂正審判請求書添付)
同年7月 4日(発送日):訂正拒絶理由の通知
(以下「本件訂正拒絶理由」という。)
同年8月22日:意見書の提出
同日:手続補正書の提出
(補正後の訂正審判請求書添付)
同年9月17日:手続補正書の提出
(以下「本件手続補正書」という。)
(補正後の訂正審判請求書添付)
(訂正明細書(請求時提出)のみ添付)
注記:
令和6年9月17日提出の手続補正書は、訂正拒絶理由通知に対し指定期間内である令和6年8月22日に行われた、訂正審判請求書の手続補正について、訂正審判請求書の方式上の不備を補正するためのものである。
また、本件手続補正書において、訂正審判請求書から本件特許の請求項22、23に対する訂正事項1,2が削除され、その結果、特許請求の範囲に対する訂正事項が存在しなくなったことに対応し、訂正審判請求書本文の「7.添付書類の目録」から訂正特許請求の範囲が削除された。
第2.本件訂正審判請求の趣旨及び内容
訂正審判請求書に基づく本件訂正審判請求の趣旨は、本件特許の明細書及び特許請求の範囲を本件審判請求書に添付された訂正明細書、訂正特許請求の範囲のとおり訂正することを認める、との審決を求める、というものであり、その内容は次のとおりである(下線部は請求された訂正箇所を示す。)。
1 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項22に「ホスフェン」とあるのを「ホスフィン」に訂正する。
2 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項23に「ホスフェン」とあるのを「ホスフィン」に訂正する。
3 訂正事項3
明細書段落0002の記載
「抗体分子(また免疫グロブリンとしても知られている)は二回転対称性を持ち、典型的には2つの同じ重鎖と2つの同じ軽鎖からなる。重鎖と軽鎖はそれぞれ、可変領域と定常領域を含む。重鎖と軽鎖の可変領域が結合して抗原結合部位を形成することで重鎖と軽鎖の両方が抗体分子の抗原結合特異性に寄与している。抗体の塩基性四量体構造は、ジスルフィド結合によって共有結合した2つの重鎖を含む。そしてまた、各重鎖はジスルフィド結合によって軽鎖に結合している。これにより実質的に「Y」形状分子になっている。」
とあるのを
「抗体分子(また免疫グロブリンとしても知られている)は二回転対称性を持ち、典型的には2つの同じ重鎖と2つの同じ軽鎖からなる。重鎖と軽鎖はそれぞれ、可変領域と定常領域を含む。重鎖と軽鎖の可変領域が結合して抗原結合部位を形成することで重鎖と軽鎖の両方が抗体分子の抗原結合特異性に寄与している。抗体の基本的な四量体構造は、ジスルフィド結合によって共有結合した2つの重鎖を含む。そしてまた、各重鎖はジスルフィド結合によって軽鎖に結合している。これにより実質的に「Y」形状分子になっている。」
に訂正する。
4 訂正事項4
明細書段落0054の記載
「 ビスマレイミド
ビス(マレイミド)ヘキサン、N-N’-Mエチレンビスマレイミド、ビス(N-マレイミドメチル)エーテル、N,N’-(1,3-フェニレン)-ビスマレイミド、ビス(N-マレイミド)-4,4’-ビベンジル、ナフタレン-1,5-ジマレイミド」
とあるのを
「 ビスマレイミド
ビス(マレイミド)ヘキサン、N-N’-メチレンビスマレイミド、ビス(N-マレイミドメチル)エーテル、N,N’-(1,3-フェニレン)-ビスマレイミド、ビス(N-マレイミド)-4,4’-ビベンジル、ナフタレン-1,5-ジマレイミド」
に訂正する(「ビスマレイミド」に対する下線は、本件訂正前の特許明細書において付されていたもの。)。
5 訂正事項5
明細書段落0067の記載
「典型的には、抗体または断片は支持体に結合させている。これは例えば、抗体または断片の免疫精製など、タンパク質精製の分野で一般に知られている任意の好適なクロマトグラフ用支持体であってもよい。そのような支持体としては、当該分野で一般に知られている磁性ビーズ、アガロース樹脂、および他の支持体が挙げられる。抗体の支持体への共有結合および非共有結合は一般に当該分野で知られている。これは、例えば、抗体表面の遊離アミン基を薬剤(例えば、臭化シアノゲン、N-ヒドロキシコハク酸イミド(スルホ-NHS)、または塩化トレジル)で活性化した支持体と反応させて達成してもよい。スルホ-NHSを用いてカルボン酸塩基と活性エステル官能基を形成するのに水溶性カルボジイミドEDCを用いてもよい。ビオチン化抗体または支持体の一方を用いて、この支持体または抗体の他方の対応するストレプトアビジン部位に結合させるという使用もまた、当該分野で用いられている。」
とあるのを
「典型的には、抗体または断片は支持体に結合させている。これは例えば、抗体または断片の免疫精製など、タンパク質精製の分野で一般に知られている任意の好適なクロマトグラフ用支持体であってもよい。そのような支持体としては、当該分野で一般に知られている磁性ビーズ、アガロース樹脂、および他の支持体が挙げられる。抗体の支持体への共有結合および非共有結合は一般に当該分野で知られている。これは、例えば、抗体表面の遊離アミン基を薬剤(例えば、臭化シアノゲン、N-ヒドロキシコハク酸イミド(スルホ-NHS)、または塩化トレジル)で活性化した支持体と反応させて達成してもよい。スルホ-NHSを用いてカルボキシレート基と活性エステル官能基を形成するのに水溶性カルボジイミドEDCを用いてもよい。ビオチン化抗体または支持体の一方を用いて、この支持体または抗体の他方の対応するストレプトアビジン部位に結合させるという使用もまた、当該分野で用いられている。」
に訂正する。
6 訂正事項6
明細書段落0141の記載
「ヒト血清に既知の量の組み換えカッパ軽鎖と既知の質量(対照カッパ鎖)を補充した。ラクダ科動物の抗カッパ抗体に結合させた市販のセファロースを用いて、内因性の対照カッパ鎖を血清から共精製し、溶出した上澄みをMALDI-TOF MSで分析した(図14)。図14Aに示すように、相対分子質量が異なることから、対照カッパ鎖は内因性カッパ鎖と識別可能である。
対照検体を用いて対象の検体についての定量情報を提供することができる」
とあるのを
「ヒト血清に既知の量及び既知の質量の組み換えカッパ軽鎖(対照カッパ鎖)を補充した。ラクダ科動物の抗カッパ抗体に結合させた市販のセファロースを用いて、内因性及び対照カッパ鎖を血清から共精製し、溶出した上澄みをMALDI-TOF MSで分析した(図14)。図14Aに示すように、相対分子質量が異なることから、対照カッパ鎖は内因性カッパ鎖と識別可能である。
対照検体を用いて対象の検体についての定量情報を提供することができる」
に訂正する(「対照検体を用いて対象の検体についての定量情報を提供することができる」に対する下線は、本件訂正前の特許明細書において付されていたもの。)。
第3.本件訂正拒絶理由の概要
1 訂正事項1・2の訂正の目的について
(1)請求人が主張する訂正の目的
本件審判請求書において請求人は、訂正事項1・2が誤記の訂正を目的とするものであることの理由として、「段落0040には非ジスルフィド架橋を形成する化合物として「ホスフィン」が例示されている」こと(以下「理由1」という。)、及び、「「ホスフェン」なる化学物質は存在しない」こと(以下「理由2」という。)を挙げている。
(2)誤記の訂正に該当するかについて
ア 誤記についての判断規範
特許法120条の5第2項ただし書2号にいう「誤記」に該当するといえるためには、同項本文に基づく訂正の前の記載が誤りで当該訂正の後の記載が正しいことが願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面の記載、当業者の技術常識等から明らかで、当業者であれば、そのことに気付いて当該訂正の前の記載を当該訂正の後の趣旨に理解するのが当然であるという場合でなければならないと解するのが相当である。(令和4年行ケ10115号判決)
イ 理由2について
仮にホスフェンなる物質が存在しなくても、「ホスフィン」、「ホスファン」など類似の名称を持つ物質が種々あるのであるから、上記判断規範に照らし、「ホスフェン」との記載が「ホスフィン」の趣旨に理解するのが当然であると判断すべき根拠を欠いている。
また、このことを措くとしても、「ホスフィン」と共に、「ホスフェン」(類)なる化学物質が種々存在するから、理由2はそもそも事実に反し、成り立たない。
ウ 理由1について
【0040】において「ホスフィン」について、技術常識と異なる定義がなされており、一方で、【0041】においては、技術常識上の「ホスフィン」の定義に沿ったホスフィン類の化合物が例示されている。
そうすると、請求項22・23の「ホスフェン」を「ホスフィン」と訂正した場合に、「ホスフィン」の意味内容に、【0040】の定義に基づくもの、及び【0041】に例示された技術常識上の定義に基づくもの、の≪2種類の異なる意味内容≫が並立することとなり、当該訂正前後の記載が一対一に対応しない。
「ホスフェン」が仮に誤記であるとしても、「ホスフェン」の定義は定まったものであるし、この事実を措くとしても、「ホスフェン」が前記≪2種類の異なる意味内容≫を持つものであることが明らかであるとはいえない以上、それが異なる2つの趣旨(意味内容)に「理解するのが当然」ということはできない。
また、【0040】の「ホスフィン」の定義を技術常識に沿って【0041】の例示と整合するように読み替えた場合、「ホスフェン」(類)もその定義に含まれることとなり、本件特許(明細書)において、「ホスフィン」は「ホスフェン」の上位概念であることとなる。
よって、理由1によっても、上記判断規範に照らし、「ホスフェン」との記載が本件特許明細書の記載に基づく「ホスフィン」の趣旨に理解するのが当然であるとはいえない。
エ 上記イ・ウのとおりであるから、訂正事項1・2は、本件審判請求書に記載された理由1・2によっては、特許法第126条第1項ただし書第2号に規定する誤記の訂正を目的とするものであるとは認められない。
オ また、同条第1項ただし書第4号に規定する「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものでもないことは明らかである。
カ 上記のとおり、訂正前の「ホスフェン」と訂正後の「ホスフィン」とは、いずれも実在し相互に異なる物質であるから、同項第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであるともいえないし、さらに本件特許明細書における「ホスフィン」の定義にも照らせば、同項第3号に規定する「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものであるともいえない。
したがって、訂正事項1・2は、特許法第126条第1項ただし書第1~4号に掲げるいずれの事項を目的とするものとも認められない。
2 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正であるかについて
上記1(2)イで説示したとおり、訂正前の「ホスフェン」、訂正後の「ホスフィン」は共に存在する物質名であり、それらは相互に異なる化学構造・化学式を備える物質であるから、訂正事項1・2によって、非ジスルフィド架橋を担う物質として択一的に列挙される物質群において「ホスフェン」を「ホスフィン」に訂正することは、該物質群を構成する一部物質を変更することである。よって、訂正事項1・2は、実質上特許請求の範囲を請求項22・23に係る発明について変更する訂正であり、特許法第126条第6項の規定に適合しない。
3 独立特許要件について
【0040】における「ホスフィン」の定義と、【0041】にホスフィン類として例示された物質とは整合しない(前記定義に後者の例示物質が含まれない。)。
よって、訂正事項1・2による訂正後の請求項22・23は、その「ホスフィン」について、【0040】の定義と、【0041】の例示物質における「ホスフィン」の名称が準拠する技術常識としての「ホスフィン」の定義とが並立しており、言い換えれば、訂正後の請求項22・23における「ホスフィン」なる用語の定義が、発明の詳細な説明において不統一であるといえるから、特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、よって、本件特許は特許法第126条第7項に規定する要件(独立特許要件)を満たさない。
第4.本件手続補正書による補正について
1 本件手続補正書による補正の適否について
本件手続補正書による訂正審判請求書の補正は、訂正拒絶理由通知において訂正の要件を満たしていないと指摘した訂正事項1及び訂正事項2に係る訂正を訂正審判請求書の「7.請求の理由(2)訂正事項」から削除するとともに、訂正審判請求書に添付された訂正特許請求の範囲の記載における、訂正事項1及び訂正事項2に係る請求項22及び23の記載を、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項22及び23の記載に戻すものである。
いずれの補正も、審判請求書の「7.請求の理由」における単なる訂正事項を削除する補正、及び、本件審判請求書に添付された訂正特許請求の範囲の記載について訂正事項を削除する補正に整合させるための補正であって、請求の要旨を変更するものではなく、特許法第131条の2第1項の規定を満たすものである。
2 本件手続補正書による補正後の訂正の内容について
(1)訂正の内容
本件手続補正書により補正された本件訂正審判請求書に基づく本件訂正審判請求の趣旨は、本件特許の明細書を本件審判請求書に添付された訂正明細書のとおり訂正することを認める、との審決を求める、というものであり、その内容は、上記第2.3~6に記載した訂正事項3~6のとおりである。
(2)本件訂正後の本件特許発明について
上記訂正事項3~6に係る訂正は特許請求の範囲についての訂正を含まない。
よって、本件訂正後の本件特許発明1~23はそれぞれ、本件特許請求の範囲の請求項1~23に記載された事項により特定されるものである(以下、本件特許発明1~23を総称して「本件特許発明」ということがある。)。
(2)一群の請求項について
上記訂正事項3~6に係る訂正は訂正前の請求項1~23全てに関連する明細書の記載について請求項ごとに訂正するものである。
本件訂正前の特許請求の範囲において、請求項1、3~14、17、19、21、22の組と、請求項2、15、16、18、20、23の組は、それぞれ特許法第126条第3項に規定する一群の請求項である。
よって、上記訂正事項3~6に係る訂正は特許法126条3項の規定に適合する。
第5.当審の判断
本件訂正審判請求に対する当審の判断は次のとおり。
以下、本件特許明細書は単に「明細書」といい、該明細書の段落を特定する際は、単にその段落番号を用いて「【0002】」などという。
1 訂正の目的について
(1)訂正事項3について
本件訂正前における明細書【0002】の「抗体の塩基性四量体構造は、ジスルフィド結合によって共有結合した2つの重鎖を含む。そしてまた、各重鎖はジスルフィド結合によって軽鎖に結合している。」なる記載は、本件特許に係る外国語特許出願(特願2018-544901)の国際出願時における国際出願(PCT/GB2017/050489)の明細書(以下「原文明細書」という。記載箇所は原文明細書に対応する国際公開WO2017/144900の記載箇所により示す。)の第1頁第11行目の記載「The basic tetrameric structure of antibodies comprises two heavy chains covalently linked by a disulphide bond.」なる英文に対応する。
同段落には前記記載に先行して「抗体分子(また免疫グロブリンとしても知られている)は二回転対称性を持ち、典型的には2つの同じ重鎖と2つの同じ軽鎖からなる。」との先行記載があり、ここでの「2つの同じ重鎖と2つの同じ軽鎖からなる」抗体分子の構造が「四量体」や「四量体構造」と称されることは技術常識である。
また、前記英文の「basic」なる単語の日本語訳には「基本的な」、「基礎的な」、「塩基性の」などが存在する。
また、抗体分子の四量体が塩基性を呈するという技術常識は存在しない。
そうすると、原文明細書において四量体構造の英文(tetrameric structure)に対して用いられる「basic」なる英単語は、前記抗体の「四量体」に対応する、前記先行記載における抗体の「2つの同じ重鎖と2つの同じ軽鎖からなる」構造に対して用いられた「典型的な」の類義語である「基本的な」や「基礎的な」という日本語訳が適切であり、「塩基性」という訳語が誤訳であることは明らかである。
よって、訂正事項3に係る訂正は特許法第126条第1項ただし書第2号に掲げる誤訳の訂正を目的とするものに該当する。
(2)訂正事項4について
訂正前の本件特許明細書【0054】の「N-N’-Mエチレンビスマレイミド」なる記載は、原文明細書第10頁第11行目の「N-N'-Methylenebismaleimide」なる英文に対応する。
しかし、「N-N’-Mエチレンビスマレイミド」なる物質は存在せず、「N-N’-メチレンビスマレイミド」なる物質は存在すること、原文明細書第11頁第4行目には類似した「N-N'-Ethyleneeiminoil-1,6-diaminohexane」なる物質名が記載され、「N-N'-」に引き続く要素名「Ethyleneeiminoil」の頭文字が大文字で表記され、本件特許明細書【0058】において「N,N’-エチレンイミノイル-1,6-ジアミノヘキサン」と訳されていること、から、前記「N-N’-Mエチレンビスマレイミド」が「N-N’-メチレンビスマレイミド」の誤記であることは明らかである。
よって、訂正事項4に係る訂正は特許法第126条第1項ただし書第2号に掲げる誤訳の訂正を目的とするものに該当する。
(3)訂正事項5について
訂正前の本件特許明細書【0067】における「カルボン酸塩基」なる記載は、原文明細書第12頁第10行目の「carboxylate groups」なる記載に対応する。
しかし、本件特許発明が属する分野において「carboxylate」なる英語名は「カルボキシレート」又は「カルボキシラート」なる日本語訳を充てるのが技術常識であり、「カルボン酸塩」なる日本語訳は正しい訳であるとはいえない。
よって、訂正事項5に係る訂正は特許法第126条第1項ただし書第2号に掲げる誤訳の訂正を目的とするものに該当する。
(4)訂正事項6について
ア 記載6-1について
(ア)訂正前の本件特許明細書【0141】における「ヒト血清に既知の量の組み換えカッパ軽鎖と既知の質量(対照カッパ鎖)を補充した。」なる記載(以下「記載6-1」という。)は、原文明細書第12頁第10行目の「Human serum was supplemented with a recombinant kappa light chain of known quantity and known mass (control kappa chain).」なる記載(以下「原文記載6-1」という。)に対応する。
(イ)しかし、前記記載6-1における「既知の質量(対照カッパ鎖)を補充」なる部分は、「既知の質量」と引き続く括弧内の「(対照カッパ鎖)」との間に、相互に言い換えの関係にあるといった関連性が見出せず、文意が不明となっているし、また、記載6-1は、≪ヒト血清に対し「組み替えカッパ軽鎖」と「既知の質量」とを「補充する」≫ことを文章の骨格部分とするが、「質量」が何の質量であるか不明であるし、分子構造を意味する「組み替えカッパ軽鎖」と、対象不明の「質量」とを並列的に「補充」の対象とすることの意味も不明である。よって、記載6-1は日本語として文意が不明である。
(ウ)これに対し、記載6-1を訂正事項6により訂正した「ヒト血清に既知の量及び既知の質量の組み換えカッパ軽鎖(対照カッパ鎖)を補充した。」なる訂正後の訳文は、「既知の質量」は類義の「既知の量」と並列され、「(対象カッパ鎖)」は、類義の「既知の量及び既知の質量の組み換えカッパ軽鎖」の言い換えと位置づけられることとなって、上記(イ)で指摘した、前記記載6-1についての文意不明な点がいずれも解消しており、日本語として文意が明確である。また、該訳文は、英文和訳の観点において、上記原文記載6-1の和訳文として妥当なものである。
よって、訂正事項6に係る訂正のうち記載6-1に関する訂正は、訂正前の記載が日本語として文意が不明であったものを是正した点で、特許法第126条第1項ただし書第2号に掲げる誤訳の訂正を目的とするものに該当する。
イ 記載6-2について
(ア)【0141】の、上記記載6-1に引き続く「ラクダ科動物の抗カッパ抗体に結合させた市販のセファロースを用いて、内因性の対照カッパ鎖を血清から共精製し、溶出した上澄みをMALDI-TOF MSで分析した(図14)。」なる記載(以下「記載6-2」という。)は、同じく原文明細書の上記原文記載6-1に引き続く「The endogenous and control kappa chains were co-purified from the serum using commercially available sepharose conjugated to Camelid anti-kappa antibody and the eluted supernatants were analysed by MALDI-TOF MS (Figure 14).」(以下「原文記載6-2」という。)なる記載に対応する。
(イ)前記記載6-2の「内因性の対象カッパ鎖」は、原文記載6-2の「The endogenous and control kappa chains」なる部分を訳したものであるが、該「内因性の対象カッパ鎖」では「and」が訳されておらず、「The endogenous control kappa chains」」の訳文になっているといえる。
(ウ)一方、記載6-2を訂正事項6に係る訂正により訂正した記載においては、前記部分は「内因性及び対照カッパ鎖」と訳され、「and」が「及び」と訳され、「and」なる語句と同様にその前後(「内因性」と「対照」と)を並列するよう位置づけられている。そして、原文記載6-2全体の和訳文として、記載6-2が訂正事項6により訂正された結果の「ラクダ科動物の抗カッパ抗体に結合させた市販のセファロースを用いて、内因性及び対照カッパ鎖を血清から共精製し、溶出した上澄みをMALDI-TOFMSで分析した(図14)。」なる文は、英文和訳の観点から妥当な日本語訳文であるといえるし、日本語表現としても不自然なところはない。
(エ)よって、訂正事項6に係る訂正のうち記載6-2に関する訂正は、訂正前の記載が日本語として文意が不明であったものを是正した点で、特許法第126条第1項ただし書第2号に掲げる誤訳の訂正を目的とするものに該当する。
ウ 小括
上記ア、イから、訂正事項6に係る訂正は特許法第126条第1項ただし書第2号に掲げる誤訳の訂正を目的とするものに該当する。
(5)中括
上記(1)~(4)のとおりであるから、訂正事項3~6に係る訂正はいずれも、特許法第126条第1項ただし書第2号に掲げる誤訳の訂正を目的とするものに該当する。
2 新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
上記1のとおり、訂正事項3~6に係る訂正はいずれも誤訳の訂正を目的とするものに該当するから、本件特許出願の願書に最初に添付した特許請求の範囲、明細書、及び図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。よって、訂正事項3~6は、特許法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
3 独立特許要件について
訂正事項3~6に係る訂正は上記1で説示したとおり明細書についての誤訳の訂正を目的とするものであり、該訂正により特許請求の範囲の記載は変更されないし、明細書については誤訳による不明確な記載が是正された。
よって、該訂正により、訂正後の特許請求の範囲や特許明細書の記載が記載要件を満たさなくなったり、特許請求の範囲における請求項1~23に係る各特許発明の技術範囲が先行技術文献との関係において変化したということはなく、前記各特許発明は、本件訂正前の前記各特許発明と同様に、特許出願の際独立して特許を受けることができないとする理由を発見しないから、訂正事項3~6は特許法第126条第7項の規定に適合する。
第6.むすび
以上のとおりであるから、訂正事項3~6は、特許法第126条第1項ただし書第2号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ同条第5項~第7項の規定に適合する。
よって、結論のとおり審決する。
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2024-390010