特許拒絶査定不服審判
2024-020509
マスク
- 審判番号
- 2024-020509
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2019-234526
- 請求日
- 2024年12月23日
- 審決日
- 2025年09月30日
- 公報発行日
- 2025年12月26日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】小林製薬株式会社
- 【請求人代理人】立花 顕治
- 審判長/審判官
- 審判長 丸山 高政
- 審判官 行武 哲太郎
- 審判官 土居 仁士
- 分類
- P18 .121-Z (A41D) / P18 .575-Z (A41D)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条、特許法第17条の2第5項、特許法第17条の2第6項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2019-234526「マスク」拒絶査定不服審判事件〔令和 3年 7月15日出願公開、特開2021-102825〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、令和元年12月25日の出願であって、その手続の経緯の概要は以下のとおりである。
令和 5年 7月24日付け 拒絶理由通知書
11月27日 意見書・手続補正書
令和 6年 3月 6日付け 拒絶理由通知書(最後)
7月10日 意見書・手続補正書
9月17日付け 補正の却下の決定
拒絶査定
12月23日 審判請求書・手続補正書
令和 7年 1月16日 前置報告書
3月 3日 上申書
令和6年9月17日付け補正の却下の決定により、同年7月10日に提出された手続補正書による補正は却下された。
以下では、上記補正の却下の決定と同日付けの拒絶査定を「原査定」といい、同年12月23日に提出された手続補正書による補正を「本件補正」という。
第2 補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
本件補正を却下する。
[理由]
1 本件補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲を補正するものであって、以下(1)に本件補正前の請求項1及び2の記載を、以下(2)に本件補正後の請求項1の記載を示す。
(1)本件補正前の請求項1及び2の記載
本件補正前(令和5年11月27日に提出された手続補正書により補正されたもの)の特許請求の範囲の請求項1及び2の記載は、次のとおりである。
「 【請求項1】
使用者の顔面の少なくとも一部を覆うマスク本体と、
前記マスク本体に接続され、前記使用者の左右の耳に掛けられる耳掛け部と
を備え、
前記マスク本体は、上辺と、前記上辺と平行に延びる下辺と、前記下辺に沿って延びる袋部と、を有し、
前記耳掛け部は、前記袋部内において、前記マスク本体の下辺に少なくとも部分的に沿って延びるように配置される、
マスク。
【請求項2】
前記耳掛け部は、左右の耳にそれぞれ掛けられる左右一対の紐部材を有し、
前記左右一対の紐部材は、前記マスク本体の下部において左右方向の中央近傍の同じ又は異なる固定点に固定され、前記固定点から前記下辺に沿ってそれぞれ前記マスク本体の左右方向の端部まで延びる、
請求項1に記載のマスク。」
(2)本件補正後の請求項1の記載
本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおりである。なお、下線は補正箇所を示す。
「 【請求項1】
使用者の顔面の少なくとも一部を覆うマスク本体と、
前記マスク本体に接続され、前記使用者の左右の耳に掛けられる耳掛け部と
を備え、
前記マスク本体は、上辺と、前記上辺と平行に延びる下辺と、前記下辺に沿って延びる一対の袋部と、を有し、
前記耳掛け部は、前記袋部内において、前記マスク本体の前記下辺に少なくとも部分的に沿って延びるように配置され、
前記一対の袋部は、前記下辺の延びる方向において、間隔をあけて形成され、
前記耳掛け部は、左右の耳にそれぞれ掛けられる左右一対の紐部材を有し、
前記左右一対の紐部材は、前記マスク本体の下部において左右方向の中央近傍の異なる固定点に固定され、前記固定点から前記下辺に沿ってそれぞれ前記マスク本体の左右方向の端部まで延びる、
マスク。」
2 本件補正の目的について
本件補正は、以下(1)及び(2)を含むものである。
(1)補正前の請求項1を削除すること。
(2)補正前の請求項2を、独立項として補正後の請求項1とした上で、その発明の発明特定事項のうち、「固定点」を限定する「同じ又は異なる」との択一的要素について、「同じ又は」を削除することでより限定し、さらに当該発明を特定するために必要な事項である「袋部」について、「一対」有するとの限定を付加した上で、「一対の袋部」について、「前記下辺の延びる方向において、間隔をあけて形成され」るとの限定を付加し、加えて、当該発明を特定するために必要な事項である「前記耳掛け部は、前記袋部内において、前記マスク本体の下辺に少なくとも部分的に沿って延びるように配置され」における「下辺」に「前記」との限定を付加すること。
前記(1)は、特許法17条の2第5項1号の請求項の削除を目的とするものに該当する。また、前記(2)は、本件補正前の請求項2に係る発明と本件補正後の請求項1に係る発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であり、発明特定事項を限定するものであるから、特許法17条の2第5項2号の特許請求の範囲の減縮(いわゆる限定的減縮)を目的とするものに該当する。
3 補正の適否
本件補正のうち、前記2(2)は、特許法17条の2第5項2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであるから、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本件補正発明」という。)が特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。
(1)本件補正発明
本件補正発明は、前記1(2)に記載した事項により特定されるとおりのものであると認める。
なお、後の参照の便宜のため、請求項1を以下の1A~1Iに分説し、「発明特定事項1A」のようにして参照する。
【請求項1】
1A 使用者の顔面の少なくとも一部を覆うマスク本体と、
1B 前記マスク本体に接続され、前記使用者の左右の耳に掛けられる耳掛け部と
1C を備え、
1D 前記マスク本体は、上辺と、前記上辺と平行に延びる下辺と、前記下辺に沿って延びる一対の袋部と、を有し、
1E 前記耳掛け部は、前記袋部内において、前記マスク本体の前記下辺に少なくとも部分的に沿って延びるように配置され、
1F 前記一対の袋部は、前記下辺の延びる方向において、間隔をあけて形成され、
1G 前記耳掛け部は、左右の耳にそれぞれ掛けられる左右一対の紐部材を有し、
1H 前記左右一対の紐部材は、前記マスク本体の下部において左右方向の中央近傍の異なる固定点に固定され、前記固定点から前記下辺に沿ってそれぞれ前記マスク本体の左右方向の端部まで延びる、
1I マスク。
(2)引用文献の記載と引用発明
原査定の拒絶の理由で引用された中国実用新案第208740147号明細書(以下「引用文献」という。)の記載は、以下アのとおりである。また、当該記載に基づいて引用発明を以下イのとおり認定する。
ア 引用文献の記載
引用文献には、以下の記載がある(下線は強調のため当審にて付与、以下同様)。
(ア)「
[図:0001429814000001.jpg]
[図:0001429814000002.jpg]
」
(当審訳:[0058]本実用新案の第1の実施例は、図3~図5を参考にし、本実用新案のマスク3は使用者の顔に着用し、少なくとも1つのシート31および2つの耳掛け32を含み、当該シート31は表層布31aおよび裏層布31bで構成される1つのシート状構造体である。実施する場合、当該表層布31aはその表面に染付作業や模様の印刷等の外観作業を実施できる1つの一般的な布、または染付作業や模様の印刷等の外観作業を行うことができること以外に、さらに防水、撥水、防塵等の機能ウィ提供することができ、さらに裏層布が機能性布であってよく、当該裏層布31bは抗菌、防臭、抗紫外線、吸湿、汗放出の機能を備える1つの機能性布が好ましい。)
(イ)「
[図:0001429814000003.jpg]
」
(当審訳:[0059]同時に、当該表層布31aおよび裏層布31bで構成されるシート31の頂部縁および左右端の縁を結合し、それにより1つのシート状構造体とするため、当該シート31の頂部縁および左右端の縁に1つの第1縫線311を設け、さらに当該表層布31aおよび裏層布31bで構成されるシート31の底部縁を結合し、それにより1つのシート状構造体とし、耳掛け32のひも321が伸びることができるようにするため、当該シート31の底部縁に1つの第2縫線312および第2縫線312の内側に対応し、等距離に縫合する第3縫線313が設けられ、当該第2縫線312と第3縫線313の間に1つの通路314が形成され、一体で接続して連通するひも321は当該通路314内に伸びている。図4は図3のA部分の立体拡大概略図であり、図5は図3のB部分の立体拡大概略図である。)
(ウ)「
[図:0001429814000004.jpg]
」
(当審訳:[0062]さらに、本実用新案のマスク3の第2の実施例は、図6が示すように、前記第1の実施例との差は、通路314に伸びるひも321は接続して連通しておらず、シート31底部縁の中央において、空白距離を備える方式(空白距離の幅は、本実用新案では厳格に制限しない)により実施し、左右各自が独立する2つのひも321は互いに引っ張らず、消費者にさらに多元的な選択肢が提供される。)
(エ)図4
[図:0001429814000005.jpg]
本図より、耳掛け32は、シート31と第1縫線311によって接続されていると認められる。
(オ)図5
[図:0001429814000006.jpg]
(カ)図6
[図:0001429814000007.jpg]
本図より、通路314は、シート31の底部縁に沿って伸びているものと認められる。また、図5も併せて参酌すると、通路314内に伸びる連通していないひも321([0062])は、底部縁に沿ってシート31の中央付近から左右方向の端部まで伸びているものと認められる。
イ 引用発明の認定
前記アの記載によれば、引用文献には、第2の実施例として、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。ここで、第2の実施例について記載する段落[0062]には、「前記第1の実施例との差は、通路314に伸びるひも321は接続して連通しておらず、シート31底部縁の中央において、空白距離を備える方式・・・により実施し、」と記載されているため、これ以外の構成については、第1の実施例の記載に基づいて認定する。なお、後の参照の便宜のため、引用発明を1a~1iに分説し、「構成1a」のようにして参照する。
1a 使用者の顔に着用するマスク3において、([0058])
1b 少なくとも1つのシート31および2つの耳掛け32を含み([0058])
1c 耳掛け32は、シート31と接続されており(図4)
1d シート31は頂部縁と底部縁を有し([0059])
1e 耳掛け32のひも321が伸びることができるようにするため、当該シート31の底部縁に1つの第2縫線312および第2縫線312の内側に対応し、等距離に縫合する第3縫線313が設けられ、当該第2縫線312と第3縫線313の間に1つの通路314が形成され([0059])
1f 通路314は、シート31の底部縁に沿って伸びており(図6)
1g 通路314に伸びるひも321は接続して連通しておらず、シート31底部縁の中央において、空白距離を備える方式であり([0062])
1h 通路314内に伸びるひも321は、底部縁に沿ってシート31の中央付近から左右方向の端部まで伸びている(図6)
1i マスク3。
(3)本件補正発明と引用文献との対比
本件補正発明と引用発明とを対比する。
ア 発明特定事項1Aについて
発明特定事項1Aは、「使用者の顔面の少なくとも一部を覆うマスク本体と、」というものである。
ここで、本件補正発明の「マスク本体」について、本願の明細書には「顔に装着されるマスクには、典型的には、口や鼻等へのウイルスや菌、ほこり等の侵入を防ぐ機能が求められる。この種のマスクは、通常、口や鼻等を覆うシート状のマスク本体と、これに接続される耳掛け部とから構成される。」(【0002】)との記載があることから、「マスク本体」は少なくとも「口や鼻等を覆うシート状」のものであると認められる。
引用発明は「使用者の顔に着用するマスク3」(構成1a)であり、「少なくとも1つのシート31および2つの耳掛け32を含」むもの(構成1b)である。そして、「2つの耳掛け32」は、両耳に掛けるものであることは明らかであるから、「シート31」は使用者の顔面の少なくとの一部を覆うと解される。
よって、引用発明の「シート31」(構成1b)は、本件補正発明の「マスク本体」に相当し、本件補正発明の「マスク本体」と引用発明の「シート31」とは、「使用者の顔面の少なくとも一部を覆う」という点で一致する。
イ 発明特定事項1Bについて
発明特定事項1Bは、「前記マスク本体に接続され、前記使用者の左右の耳に掛けられる耳掛け部と」というものである。
引用発明の「2つの耳掛け32」(構成1b)は、「使用者の顔に着用するマスク3」(構成1a)に「含」まれるもの(構成1b)であり、マスク3を使用者の顔に着用する際には左右の耳に掛けられるものであることは当然であることから、本件補正発明の「使用者の左右の耳に掛けられる耳掛け部」に相当する。また、「耳掛け32」は、「シート31と接続されて」いるもの(構成1c)である。
よって、本件補正発明の「耳掛け部」と引用発明の「耳掛け32」は、「前記マスク本体に接続され、前記使用者の左右の耳に掛けられる」という点で一致する。
ウ 発明特定事項1Cについて
発明特定事項1Cは、「を備え、」というものである。これは、本件補正発明が、発明特定事項1Aと発明特定事項1Bを備えることを特定している。
本件補正発明と引用発明は、上記ア及びイのとおり、発明特定事項1A及び1Bを「備え」る点で一致する。
エ 発明特定事項1Dについて
発明特定事項1Dは、「前記マスク本体は、上辺と、前記上辺と平行に延びる下辺と、前記下辺に沿って延びる一対の袋部と、を有し、」というものである。
引用発明の「シート31」(構成1b)は、前記アのとおり、本件補正発明の「マスク本体」に相当する。
引用発明の「頂部縁」と「底部縁」は「シート31」が「有」するもの(構成1d)である。そして、「頂部縁」は「シート31」の頂部の縁、すなわち最も上側にある辺を意味しており、「底部縁」は「シート31」の底部の縁、すなわち最も下側にある辺を意味している。
一方、本件補正発明における「上辺」と「下辺」は、「マスク本体」が「有」するものである。そして、「上辺」は「マスク本体」の上側にある辺であり、「下辺」は「マスク本体」の下側にある辺を意味している。
以上を踏まえると、引用発明の「頂部縁」と「底部縁」は、それぞれ、本件補正発明の「上辺」と「下辺」に相当する。ただし、引用発明においては「底部縁」の「頂部縁」との平行性は特定されない。
また、引用発明において、「通路314」は、「シート31の底部縁」に「形成され」(構成1e)、「シート31の底部縁に沿って伸びて」いる(構成1f)部材であるが、「一対」有するものではない。
よって、本件補正発明の「マスク本体」と引用発明の「シート31」は、「上辺と、」「下辺と、前記下辺に沿って伸びる」部材「と、を有」する点で一致する。
一方、本件補正発明の「下辺」と引用発明の「底部縁」は、本件補正発明においては「上辺と平行に伸びる」のに対し、引用発明においては「頂部縁」との平行性は特定されない点で相違する。
また、部材について、本件補正発明は、「袋部」であり「一対」有するものであるのに対し、引用発明は、「通路」であり「一対」有するものではない点で相違する。
オ 発明特定事項1Eについて
発明特定事項1Eは、「前記耳掛け部は、前記袋部内において、前記マスク本体の前記下辺に少なくとも部分的に沿って延びるように配置され、」というものである。
引用発明の「通路314内に伸びるひも321は、底部縁に沿ってシート31の中央付近から左右方向の端部まで伸びている」もの(構成1h)である。ここで「ひも321」は、「耳掛け32のひも321」(構成1e)と特定されているため、「耳掛け32」も、「シート31の底部縁」に沿って伸びていると認められる。
よって、本件補正発明の「耳掛け部」と引用発明の「耳掛け32」は、部材「内において、前記マスク本体の前記下辺に少なくとも部分的に沿って延びるように配置され」るという点で一致する。なお、部材の対比については、前記エを参照。
カ 発明特定事項1Fについて
発明特定事項1Fは、「前記一対の袋部は、前記下辺の延びる方向において、間隔をあけて形成され、」というものである。
前記エのとおり、引用発明において、「通路314」は一対有するものではないため、「間隔」も存在しない。
よって、本件補正発明の「袋部」と引用発明の「通路314」は、前記エで認定した相違点に加え、本件補正発明においては、「前記下辺の延びる方向において、間隔をあけて形成され」るのに対し、引用発明において、「間隔」は存在しないという点で相違する。
キ 発明特定事項1Gについて
発明特定事項1Gは、「前記耳掛け部は、左右の耳にそれぞれ掛けられる左右一対の紐部材を有し、」というものである。
引用発明の「ひも321」(構成1e)は、本件補正発明の「紐部材」に相当する。
引用発明の「2つの耳掛け32」が、「左右の耳に掛けられる」ものであることは、前記イのとおりである。
また、「通路314に伸びるひも321は接続して連通しておらず、シート31底部縁の中央において、空白距離を備える方式である」(構成1g)から、「ひも321」は「左右一対」有していることも明らかである。
ゆえに、引用発明において、「耳掛け32のひも321」(構成1e)と特定されていることも踏まえれば、「耳掛け32」は、左右の耳にそれぞれ掛けられる左右一対の「ひも321」を有するものであることも明らかである。
よって、本件補正発明の「耳掛け部」と引用発明の「耳掛け32」は、「左右の耳にそれぞれ掛けられる左右一対の紐部材を有し、」という点で一致する。
ク 発明特定事項1Hについて
発明特定事項1Hは、「前記左右一対の紐部材は、前記マスク本体の下部において左右方向の中央近傍の異なる固定点に固定され、前記固定点から前記下辺に沿ってそれぞれ前記マスク本体の左右方向の端部まで延びる、」というものである。
引用発明において、「ひも321」(構成1g)は、前記キのとおり、左右一対有するものである。また、「ひも321」は、「底部縁に沿ってシート31の中央付近から左右方向の端部まで伸びている」(構成1h)ものである。
よって、本件補正発明の「紐部材」と引用発明の「ひも321」は、「左右一対」存在し、また、「前記下辺に沿ってそれぞれ前記マスク本体の左右方向の端部まで延びる」点で一致する。
一方、本件補正発明の「紐部材」と引用発明の「ひも321」について、本件補正発明においては「前記マスク本体の下部において左右方向の中央近傍の異なる固定点に固定され」ているため、「前記下辺に沿ってそれぞれ前記マスク本体の左右方向の端部まで延びる」のは「固定点から」であるのに対し、引用発明において「ひも321」の「シート31」への固定について明示的には特定されていない点で一応相違する。
ケ 一致点及び相違点について
前記ア~クによれば、本件補正発明と引用発明との一致点及び相違点は以下のとおりである。
(ア)一致点
使用者の顔面の少なくとも一部を覆うマスク本体と、
前記マスク本体に接続され、前記使用者の左右の耳に掛けられる耳掛け部と
を備え、
前記マスク本体は、上辺と、下辺と、前記下辺に沿って延びる部材と、を有し、
前記耳掛け部は、前記部材内において、前記マスク本体の前記下辺に少なくとも部分的に沿って延びるように配置され、
前記耳掛け部は、左右の耳にそれぞれ掛けられる左右一対の紐部材を有し、
前記左右一対の紐部材は、前記下辺に沿ってそれぞれ前記マスク本体の左右方向の端部まで延びる、
マスク。
(イ)相違点1
本件補正発明において「下辺」は「上辺と平行に伸びる」のに対し、引用発明において「底部縁」の「頂部縁」との平行性は特定されない点。(前記エ、発明特定事項1D)
(ウ)相違点2
部材について、本件補正発明は、「袋部」であり「一対」有するとともに「前記下辺の延びる方向において、間隔をあけて形成され」るのに対し、引用発明は、「通路314」であり「一対」有するものではなく、また「間隔」も存在しないという点。(前記エ~カ、発明特定事項1D~1F)
(エ)相違点3
本件補正発明において「紐部材」は「前記マスク本体の下部において左右方向の中央近傍の異なる固定点に固定され」ているため、「前記下辺に沿ってそれぞれ前記マスク本体の左右方向の端部まで延びる」のは「固定点から」であるのに対し、引用発明の「ひも321」の「シート31」への固定については特定されていない点。(前記ク、発明特定事項1H)
(4)相違点についての判断
前記(3)ケに示した相違点についてそれぞれ検討する。
ア 相違点1について
文献を示すまでもなく、上辺と下辺が平行に延びるマスクは周知である(必要であれば、実願昭60-58407号(実開昭61-174953号)のマイクロフィルムの第1図、実願昭51-132340号(実開昭53-50193号)のマイクロフィルムの第1図を参照)。
したがって、引用発明においても、コストや製造性、デザイン性等の必要に応じてマスク本体の外形形状の選択するに際して周知技術を採用し、「底部縁」が「頂部縁と平行に伸びる」構成とすることは、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が適宜なし得たことである。
よって、相違点1は、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に想到し得たものと認められる。
イ 相違点2について
「通路314」に関し、引用文献には、第1の実施例に対応して「耳掛け32のひも321が伸びることができるようにするため、・・・当該第2縫線312と第3縫線313の間に1つの通路314が形成され、一体で接続して連通するひも321は当該通路314内に伸びている。」([0059])と記載されている。すなわち、第1の実施例では、「通路314」は「1つの通路314」であり、「ひも321」は、「一体で接続して連通」し、「当該通路314内に伸び」るように「形成され」ているものと認められる。
一方、引用文献には、第2の実施例(引用発明として認定したもの)に対応して「前記第1の実施例との差は、通路314に伸びるひも321は接続して連通しておらず、シート31底部縁の中央において、空白距離を備える方式(空白距離の幅は、本実用新案では厳格に制限しない)により実施し」([0062])と記載されている。すなわち、第1の実施例との差分として、「ひも321」は「空白距離を備え」るため、「一体で接続して連通して」いないものと認められる。
してみれば、第1の実施例のように「ひも321」が「一体で接続して連通」し、「ひも321は当該通路314内に伸び」るように「形成され」ている場合には、「通路314」は「1つの通路314」でなければならないが、第2の実施例のように「ひも321」が「空白距離を備え」るため一体で「接続して連通して」いない場合においては、「通路314」は1つの通路である必要性は特段存在しない。
そうすると、第2の実施例において、「ひも321」の「空白距離」に対応する部分を「通路314」とすることは不要であるのだから、例えば「第3縫線313」(構成1e)の量を減らすために、「通路314」の「空白距離」に対応する部分の「第3縫線313」を取り除きつつも、「第3縫線313」が取り除かれた箇所からのほつれ等を防止するために「第3縫線313」が取り除かれたことで生じた「通路314」の端部を塞ぐことは、当業者が適宜選択し得たことである。このとき、「第3縫線313」を取り除くことで「通路314」は「空白距離」によって二分されることになり、かつ、二分された「通路314」それぞれにおいて「シート31」中央付近に位置する端部を塞ぐことになることをかんがみれば、二分された「通路314」それぞれは「袋」となりまた「一対」有することとなるとともに、「底部縁」の伸びる方向において間隔をあけて形成されることとなることも明らかある。
よって、相違点2は、引用発明に基づいて、当業者が容易に想到し得たものと認められる。
ウ 相違点3について
引用発明において「通路314に伸びるひも321は接続して連通しておらず、シート31底部縁の中央において、空白距離を備える方式であ」り(構成1g)、また、「通路314内に伸びるひも321は、底部縁に沿ってシート31の中央付近から左右方向の端部まで伸びている」もの(構成1h)である。
ここで、「耳掛け32のひも321」が、「接続して連通しておらず、シート31底部縁の中央において、空白距離を備え」という構成を有しつつも「シート31」自体の「底部縁」と何ら固定されていないとするなら、「耳掛け32」を使用者の左右の耳に掛けた場合、「ひも321」は「底部縁」から抜けてしまい、マスクとして機能し得ないことは明らかである。その際、「シート31」の「底部縁」にテンションを加えることができなくなり、本願発明が解決しようとする「主に2つの耳掛けのひもにプッシュ式調整ボタンを搭載することにより、シートの底部縁に位置する通路に対して無段階でテンションを調整」すること([0065])をも達成し得ない。ゆえに、引用発明においても「ひも321」(構成1g、構成1h)は、「シート31」「底部縁」に何らかの固定点にて固定されていることは自明である。
また、「ひも321」は、「接続して連通しておらず、シート31底部縁の中央において、空白距離を備える」(構成1g)ことによれば、当該固定点は、「空白距離」との境界部分に設けられるのが自然であるから、左右方向の異なる箇所に設けられていることも自明であり、さらには「ひも321」は当該固定点から「底部縁に沿ってシート31の左右方向の端部まで伸び」ることも自明である。
よって、相違点3は、実質的な相違点ではない。
(5)効果についての判断
本件補正発明の効果は、引用発明及び周知技術に比して、格別のものとは認められない。
(6)審判請求人の主張
審判請求書における審判請求人の主張を以下検討する。(なお、審判請求書でいう「引用文献2」とは、この審決における「引用文献」であると認められる。また、「主張1」、「主張2」との項目立ては、当審による便宜的なものである。)
ア 主張1
審判請求人は以下のとおり主張する。
「まず、引用文献2では、2つの耳掛け部32は、本体31に固定される旨の直接的な開示はありません。」
しかしながら、相違点3の検討(前記(4)ウ)のとおり、「耳掛け32」の「ひも321」は、「シート31」に固定されていることは、直接的な開示がないものの、引用文献の記載から自明な事項である。
イ 主張2
審判請求人は以下のとおり主張する。
「 引用文献2の袋部は、本体31を構成する生地が重なり圧着される部分であるため、伸縮性に乏しい部分です。このため、引用文献2のように本体31の下辺に沿って全体的に袋部が形成されていますと、耳掛け32が左右の耳に掛けられたときに、本体31が使用者のフェイスラインに十分に密着しません。
一方、本件発明1は、「一対の袋部は、前記下辺の延びる方向において、間隔をあけて形成され」るため、マスク本体の下辺には、一部、袋部が形成されない部分が存在します。このため、本件発明1は、出願当初の明細書の段落0025に記載されていますように、「紐部材41及び42は、それぞれ、左右の耳に掛けられたときに、マスク本体30をその下辺L2に沿って左右の耳に向かって引っ張り上げることができる。これにより、マスク本体30は、その下辺L2に沿って、使用者のフェイスライン、典型的には、顎のラインにぴったりと接触する。」旨の効果に準じた効果が得られます。特に、本件発明1においては、一対の袋部が独立して変形することができるため、このような効果が一層高められます。」
しかしながら、引用発明においても、「通路314」が、「空白距離」を備えることで本件補正発明の「袋部」と同様の構成とすることは当業者が適宜選択し得たことである(前記(4)イ)ところ、「ひも321」の「シート31」への固定についても本件補正発明と同様(前記(4)ウ)であることも踏まえれば、そのように構成した発明は、「通路314」及び「ひも321」のいずれも本件補正発明の「袋部」及び「紐部材」と同じ構成となることから、当然にして本件補正発明と同様の効果を奏するものというべきである。
また、袋部が独立して変形できることについての効果は、発明の詳細な説明に記載も示唆もされていないため、当該効果に関する主張は、発明の詳細な説明の記載に基づかないものであり、これを参酌することはできない。
なお、念のため付言すると、審判請求人は、引用発明の効果について、「本体31の下辺に沿って全体的に袋部が形成されていますと、耳掛け32が左右の耳に掛けられたときに、本体31が使用者のフェイスラインに十分に密着し」ないと主張し、その前提として、引用発明の「袋部は、本体31を構成する生地が重なり圧着される部分であるため、伸縮性に乏しい部分」であると指摘している。しかしながら、本件補正発明において生地がどのように重なり合っているかは何ら特定されていない。ゆえに、本件補正発明と引用発明の間における、生地の重なり合いの異同及びそれに関する効果を参酌することはできない。
(7)小括
以上のとおり、本件補正発明は、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法29条2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。
したがって、本件補正は、特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するものであるから、同法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下されるべきものである。
よって、前記[補正の却下の決定の結論]のとおり決定する。
第3 本願発明
本件補正は、前記第2のとおり却下されたため、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、前記第2[理由]1(1)に示した請求項1に記載されたとおりのものと認める。
第4 原査定の理由の概要
原査定の理由の概要は、以下のとおりである。
1 (新規性)この出願の請求項1に係る発明は、以下の文献1に記載された発明であるから、特許法29条1項3号に該当し、特許を受けることができない。
2 (進歩性)この出願の請求項1に係る発明は、以下の文献1に記載された発明に基づいて、又は、以下の文献2に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
この出願の請求項2に係る発明は、以下の文献2に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
この出願の請求項3に係る発明は、以下の文献1に記載された発明及び文献3に記載された周知技術に基づいて、又は、以下の文献2に記載された発明及び文献3に記載された周知技術に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
文献1.実願昭51-132340号(実開昭53-50193号)のマイクロフィルム
文献2.中国実用新案第208740147号明細書
文献3.特開2019-77970号公報
第5 文献の記載事項
原査定の拒絶の理由で引用された文献2(この審決における「引用文献」)の記載事項は、前記第2[理由]3(2)に記載したとおりである。
第6 本願発明と引用発明との対比・判断
本願発明は、前記第2[理由]3で独立特許要件を検討した本件補正発明において「一対の袋部」(発明特定事項1D、発明特定事項1F)から「一対の」との発明特定事項を削除し、「前記耳掛け部は、前記袋部内において、前記マスク本体の前記下辺に少なくとも部分的に沿って延びるように配置され、」(発明特定事項1E)における「前記下辺」から「前記」との発明特定事項を削除するとともに、「前記一対の袋部は、前記下辺の延びる方向において、間隔をあけて形成され、前記耳掛け部は、左右の耳にそれぞれ掛けられる左右一対の紐部材を有し、前記左右一対の紐部材は、前記マスク本体の下部において左右方向の中央近傍の異なる固定点に固定され、前記固定点から前記下辺に沿ってそれぞれ前記マスク本体の左右方向の端部まで延びる、」との発明特定事項(発明特定事項1F~1H)を削除したものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が、前記第2[理由]3に示したとおり、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから、本願発明も、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明することができたものである。
第7 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2024-020509