特許拒絶査定不服審判
2022-007390
機能パンツ
- 審判番号
- 2022-007390
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2018-076197
- 請求日
- 2022年05月17日
- 審決日
- 2023年10月17日
- 公報発行日
- 2023年11月24日
- 結論
- 原査定取消(特許/登録すべき)
- 当事者
- 【請求人】株式会社オンライン
- 【請求人代理人】弁理士法人中川国際特許事務所
- 審判長/審判官
- 審判長 山崎 勝司
- 審判官 井上 茂夫
- 審判官 藤井 眞吾
- 分類
- P18 .575-WY (A41D) / P18 .561-WY (A41D) / P18 .57 -WY (A41D) / P18 .55 -WY (A41D) / P18 .537-WY (A41D) / P18 .121-WY (A41D)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第17条の2第3項、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第6項第1号、特許法第17条の2第5項第2号、特許法第17条の2第6項、特許法第17条の2第5項
- データ出所
- 審決公報(XML)
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特願2018-76197「機能パンツ」拒絶査定不服審判事件〔令和1年10月24日出願公開、特開2019-183325、請求項の数(5)〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
原査定を取り消す。
本願の発明は、特許すべきものとする。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、平成30年4月11日を出願日とする特許出願であって、令和2年8月6日に手続補正書が提出され、令和3年8月3日付けで拒絶理由通知がされ、令和3年8月23日に手続補正書及び意見書が提出され、令和3年10月8日付けで拒絶理由通知(最後)がされ、令和3年12月10日に手続補正書及び意見書が提出され、令和4年2月7日付けで令和3年12月10日の手続補正を却下するとともに拒絶査定(以下「原査定」という。)がされ、これに対し、令和4年5月17日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正書が提出されたものである。
第2 令和4年5月17日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和4年5月17日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。
[補正の却下の決定の理由]
1 本件補正の内容
本件補正前の令和3年8月23日の手続補正書の特許請求の範囲及び本件補正後の特許請求の範囲は、それぞれ以下のとおりである。
(1)本件補正前の令和3年8月23日の手続補正書の特許請求の範囲
「【請求項1】
パンツの股部において、左右の前身頃同士を縫合する前股ぐり縫合線と、左右の後見頃同士を縫合する後股ぐり縫合線と、前記前身頃と前記後身頃とを縫合する左右の内股縫合線との間に縫合され、少なくとも前記前股ぐり縫合線方向に伸縮し、伸張時には装着者の局部を包み込む位置に配置される股部伸縮部を有し、前記股部伸縮部は平面形状において前記股部伸縮部の左右の内股縫合線の端部を結ぶ辺が前記前身頃側に張り出し、V字型形状を有することを特徴とする機能パンツ 。
【請求項2】
パンツの股部において、左右の前身頃同士を縫合する前股ぐり縫合線と、左右の後見頃同士を縫合する後股ぐり縫合線と、前記前身頃と前記後身頃とを縫合する左右の内股縫合線との間に縫合され、少なくとも前記前股ぐり縫合線方向に伸縮し、伸張時には装着者の局部を包み込む位置に配置される股部伸縮部を有し、該股部伸縮部は平面形状において前記前股ぐり縫合線の端部と左右の前記内股縫合線の端部を頂点とする三角形状を有することを特徴とする機能パンツ。
【請求項3】
請求項1または2記載の機能パンツであって、さらに該機能パンツは前記股部とウエスト部との間に、少なくとも前記機能パンツの上下方向に伸縮する腰部伸縮部を有することを特徴とする機能パンツ。
【請求項4】
請求項3記載の機能パンツであって、前記股部伸縮部と前記腰部伸縮部とは、前記機能パンツを装着した場合に装着者の股関節の回転中心を対称として反対側に配置されることを特徴とする機能パンツ。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか記載の機能パンツであって、さらに腰部側面において前記前身頃と前記後身頃の間に、少なくとも前記機能パンツの前後方向に伸縮する側部伸縮部を有することを特徴とする機能パンツ。」
(2)本件補正後の特許請求の範囲(下線部は、補正箇所である。)
「【請求項1】
パンツの股部において、左右の前身頃同士を縫合する前股ぐり縫合線と、左右の後見頃同士を縫合する後股ぐり縫合線と、前記前身頃と前記後身頃とを縫合する左右の内股縫合線との間に縫合され、少なくとも前記前股ぐり縫合線方向に伸縮し、伸張時には装着者の局部を包み込む位置に配置される股部伸縮部を有し、前記股部伸縮部は、平面形状において、左右の前記前身頃と前記後身頃の接合線のそれぞれの端部を結んだ線を幅線とし、該幅線の中央の交差点で直交する線を厚み線とした場合、前記厚み線の前記交差点から前記前股ぐり縫合線の端部までの第一の長さが、前記厚み線の前記交差点から前記後股ぐり縫合線の端部までの第二の長さよりも長く、前記第二の長さがマイナスであり、前記股部伸縮部の左右の前記内股縫合線の端部を結んだ辺が前記前身頃側に張り出し、V字型形状を有することを特徴とする機能パンツ。
【請求項2】
パンツの股部において、左右の前身頃同士を縫合する前股ぐり縫合線と、左右の後見頃同士を縫合する後股ぐり縫合線と、前記前身頃と前記後身頃とを縫合する左右の内股縫合線との間に縫合され、少なくとも前記前股ぐり縫合線方向に伸縮し、伸張時には装着者の局部を包み込む位置に配置される股部伸縮部を有し、前記股部伸縮部は、平面形状において、左右の前記前身頃と前記後身頃の接合線のそれぞれの端部を結んだ線を幅線とし、該幅線の中央の交差点で直交する線を厚み線とした場合、前記厚み線の前記交差点から前記前股ぐり縫合線の端部までの第一の長さが、前記厚み線の前記交差点から前記後股ぐり縫合線の端部までの第二の長さよりも長く、前記第二の長さがゼロであり、左右の前記前身頃との二本の縫合線と前記幅線を辺とする三角形状を有することを特徴とする機能パンツ。
【請求項3】
パンツの股部において、左右の前身頃同士を縫合する前股ぐり縫合線と、左右の後見頃同士を縫合する後股ぐり縫合線と、前記前身頃と前記後身頃とを縫合する左右の内股縫合線との間に縫合され、少なくとも前記前股ぐり縫合線方向に伸縮し、伸張時には装着者の局部を包み込む位置に配置される股部伸縮部を有し、該股部伸縮部は平面形状において前記前股ぐり縫合線の端部と左右の前記内股縫合線の端部を頂点とする三角形状を有することを特徴とする機能パンツ。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか記載の機能パンツであって、さらに該機能パンツは前記後身頃側で前記股部とウエスト部との間に、少なくとも前記機能パンツの上下方向に伸縮する腰部伸縮部を有することを特徴とする機能パンツ。
【請求項5】
請求項4記載の機能パンツであって、前記股部伸縮部と前記腰部伸縮部とは、前記機能パンツを装着した場合に装着者の股関節の回転中心を対称点として反対側に配置されることを特徴とする機能パンツ。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか記載の機能パンツであって、さらに腰部側面において前記前身頃と前記後身頃の間に、少なくとも前記機能パンツの前後方向に伸縮する側部伸縮部を有することを特徴とする機能パンツ。」
2 本件補正の適否の判断
(1)本件補正は本件補正前の特許請求の範囲の請求項1に「前記第二の長さがマイナスであり」という事項を追加する補正を含むものである。当該補正は股部伸縮部の構成を限定することにより減縮する補正であるから、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
しかしながら、2点間の距離を示す用語である「長さ」が「マイナス」であるという意味が不明であり、上記補正事項を含む補正後の請求項1に係る発明は明確でなく、特許法第36条第6項第2号の規定に適合しないため、特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものではないから、上記補正事項は、特許法第17条の2第6項において準用する同法126条第7項に規定する要件を満たしていない。
(2)また、本願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「当初明細書等」という。)には「第二の長さがマイナスであり」との事項は記載も示唆もされておらず、出願時の技術常識を考慮しても、上記補正事項は、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものであり、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものではないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。
(3)さらに、本件補正は本件補正前の特許請求の範囲の請求項2を請求項3に繰り下げるとともに、「パンツの股部において、左右の前身頃同士を縫合する前股ぐり縫合線と、左右の後見頃同士を縫合する後股ぐり縫合線と、前記前身頃と前記後身頃とを縫合する左右の内股縫合線との間に縫合され、少なくとも前記前股ぐり縫合線方向に伸縮し、伸張時には装着者の局部を包み込む位置に配置される股部伸縮部を有し、前記股部伸縮部は、平面形状において、左右の前記前身頃と前記後身頃の接合線のそれぞれの端部を結んだ線を幅線とし、該幅線の中央の交差点で直交する線を厚み線とした場合、前記厚み線の前記交差点から前記前股ぐり縫合線の端部までの第一の長さが、前記厚み線の前記交差点から前記後股ぐり縫合線の端部までの第二の長さよりも長く、前記第二の長さがゼロであり、左右の前記前身頃との二本の縫合線と前記幅線を辺とする三角形状を有することを特徴とする機能パンツ。」という独立請求項を請求項2に追加する補正を含むものである。
しかし、当該補正は、実質的に請求項を増項する補正であり、その目的は、特許請求の範囲の限定的減縮、請求項の削除、誤記の訂正、明瞭でない記載の釈明のいずれにも該当せず、特許法第17条の2第5項に規定する要件を満たしていない。
3 本件補正についてのむすび
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第3項に規定する要件、同条第5項に規定する要件、及び同条第6項において準用する同法126条第7項に規定する要件を満たさない補正を含むものであるので、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。
第3 原査定の概要
原査定の拒絶の理由となった、令和3年10月8日付け拒絶理由の概要は次のとおりである。
1.(新規事項) 令和3年8月23日付け手続補正書でした補正は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。
2.(サポート要件) 請求項1~5に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものではないから、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
3.(明確性) 請求項4及び5に係る発明は、明確でないから、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
第4 本願発明
本件補正は、上記「第2 令和4年5月17日にされた手続補正についての補正の却下の決定」のとおり、却下された。
したがって、本願請求項1~5に係る発明(以下「本願発明1」などという。)は、令和3年8月23日に提出された手続補正書の特許請求の範囲の請求項1~5に記載された事項により特定される発明であり、上記第2[補正の却下の決定の理由]1(1)」に記載したとおりの発明である。
第5 当審の判断
1 「第3の1.(新規事項)」について
(1)拒絶理由の概要
以下の補正は、新規事項を追加するものである。
ア 補正後(令和3年8月23日提出の手続補正書)の請求項1では、補正前(令和2年8月6日提出の手続補正書)の請求項1の「前記股部伸縮部は平面形状において、左右の前記前身頃と前記後身頃の接合線のそれぞれの端部を結んだ線を幅線とし、該幅線の中央の交差点で直行する線を厚み線とした場合、前記厚み線の前記交差点から前記前股ぐり縫合線の端部までの第一の長さが、前記厚み線の前記交差点から前記後股ぐり縫合線の端部までの第二の長さよりも長い」という構成が削除されているが、当該構成を有する機能パンツ以外の機能パンツについては、当初明細書等に記載も示唆もされていない。
イ 補正後の請求項2では、補正前の請求項1の「前記股部伸縮部は平面形状において、左右の前記前身頃と前記後身頃の接合線のそれぞれの端部を結んだ線を幅線とし、該幅線の中央の交差点で直行する線を厚み線とした場合、前記厚み線の前記交差点から前記前股ぐり縫合線の端部までの第一の長さが、前記厚み線の前記交差点から前記後股ぐり縫合線の端部までの第二の長さよりも長い」という構成、及び「前記股部伸縮部は、前記第二の長さがゼロであり、前記股部伸縮部は、前記第二の長さがゼロであり、前記後身頃との縫合線と前記幅線を一辺とする三角形状を有する」という構成が削除されているが、当該構成を有する機能パンツ以外の機能パンツについては、当初明細書等に記載も示唆もされていない。
(2)判断
ア 上記(1)アの拒絶理由について
令和3年8月23日の手続補正書でした請求項1の補正は、請求項1に「伸張時には装着者の局部を包み込む位置に配置される」との事項を加入するとともに、請求項1の「前記股部伸縮部は平面形状において、左右の前記前身頃と前記後身頃の接合線のそれぞれの端部を結んだ線を幅線とし、該幅線の中央の交差点で直行する線を厚み線とした場合、前記厚み線の前記交差点から前記前股ぐり縫合線の端部までの第一の長さが、前記厚み線の前記交差点から前記後股ぐり縫合線の端部までの第二の長さよりも長い」との事項を、「前記股部伸縮部は平面形状において前記股部伸縮部の左右の内股縫合線の端部を結ぶ辺が前記前身頃側に張り出し、V字型形状を有する」との事項に補正するものである。
ここで、当初明細書等には図面とともに次の事項が記載されている。
「【0031】
図6(a)に示す、股部伸縮部20は、内股縫合線の端部に一致する頂点20B、20C間の中央部が前股ぐり縫合線の端部に一致する頂点部20A側に前進して頂点20Dを構成しており、頂点20B、20C間の辺が前身頃側に張り出して全体としてV字形状を有する。」
図6(a)とともに上記段落【0031】の記載を参照すると、股部伸縮部の左右の内股縫合線の端部を結ぶ辺が前身頃側に張り出し、V字型形状を有することが把握できる。
そして、当初明細書等には、「前記股部伸縮部は平面形状において、左右の前記前身頃と前記後身頃の接合線のそれぞれの端部を結んだ線を幅線とし、該幅線の中央の交差点で直行する線を厚み線とした場合、前記厚み線の前記交差点から前記前股ぐり縫合線の端部までの第一の長さが、前記厚み線の前記交差点から前記後股ぐり縫合線の端部までの第二の長さよりも長い」という構成の機能パンツのみが記載されていたものではない。
してみると、本願発明1において、「前記股部伸縮部は平面形状において、左右の前記前身頃と前記後身頃の接合線のそれぞれの端部を結んだ線を幅線とし、該幅線の中央の交差点で直行する線を厚み線とした場合、前記厚み線の前記交差点から前記前股ぐり縫合線の端部までの第一の長さが、前記厚み線の前記交差点から前記後股ぐり縫合線の端部までの第二の長さよりも長い」という事項を、「前記股部伸縮部は平面形状において前記股部伸縮部の左右の内股縫合線の端部を結ぶ辺が前記前身頃側に張り出し、V字型形状を有する」との事項に換えることによって、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではない。
また、「伸張時には装着者の局部を包み込む位置に配置される」との事項についても、当初明細書等の段落【0028】に記載されている。
イ 上記(1)イの拒絶理由について
令和3年8月23日の手続補正書でした請求項2の補正は、「パンツの股部において、左右の前身頃同士を縫合する前股ぐり縫合線と、左右の後見頃同士を縫合する後股ぐり縫合線と、前記前身頃と前記後身頃とを縫合する左右の内股縫合線との間に縫合され、少なくとも前記前股ぐり縫合線方向に伸縮し、伸張時には装着者の局部を包み込む位置に配置される股部伸縮部を有し、該股部伸縮部は平面形状において前記前股ぐり縫合線の端部と左右の前記内股縫合線の端部を頂点とする三角形状を有することを特徴とする機能パンツ。」とするものである。
この請求項2の記載は、令和2年8月6日の手続補正書の請求項8の「パンツの股部において、左右の前身頃同士を縫合する前股ぐり縫合線と、左右の後見頃同士を縫合する後股ぐり縫合線と、前記前身頃と前記後身頃とを縫合する左右の内股縫合線の間に縫合される、少なくとも前記前股ぐり縫合線方向に伸縮する股部伸縮部を有し、該股部伸縮部は平面形状において前記前股ぐり縫合線の端部と左右の前記内股縫合線の端部を頂点とする三角形状を有することを特徴とする機能パンツ。」に、「伸張時には装着者の局部を包み込む位置に配置される」との事項を限定したもので、この限定事項は、上記アで述べたように、当初明細書等の段落【0028】に記載されている事項であるから、請求項2に係る補正は、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではない。
(3)新規事項についてのまとめ
以上のとおり、新規事項に係る拒絶理由には、理由がない。
2 「第3の2.(サポート要件)」について
(1)拒絶理由の概要
請求項1には、「前記股部伸縮部は平面形状において前記股部伸縮部の左右の内股縫合線の端部を結ぶ辺が前記前身頃側に張り出し、V字型形状を有する」と記載されているが、発明の詳細な説明には、「前記股部伸縮部は平面形状において、左右の前記前身頃と前記後身頃の接合線のそれぞれの端部を結んだ線を幅線とし、該幅線の中央の交差点で直行する線を厚み線とした場合、前記厚み線の前記交差点から前記前股ぐり縫合線の端部までの第一の長さが、前記厚み線の前記交差点から前記後股ぐり縫合線の端部までの第二の長さよりも長く、前記股部伸縮部の左右の内股縫合線の端部を結ぶ辺は、前記前身頃側に張り出し、V字型形状を有する」という構成しか記載されておらず、これ以外の構成については記載されていない。
また、請求項2には、「該股部伸縮部は平面形状において前記前股ぐり縫合線の端部と左右の前記内股縫合線の端部を頂点とする三角形状を有する」と記載されているが、発明の詳細な説明には、「前記股部伸縮部は平面形状において、左右の前記前身頃と前記後身頃の接合線のそれぞれの端部を結んだ線を幅線とし、該幅線の中央の交差点で直行する線を厚み線とした場合、前記厚み線の前記交差点から前記前股ぐり縫合線の端部までの第一の長さが、前記厚み線の前記交差点から前記後股ぐり縫合線の端部までの第二の長さよりも長く、前記股部伸縮部は、前記第二の長さがゼロであり、前記後身頃との縫合線と前記幅線を一辺とする三角形状を有する」という構成しか記載されておらず、これ以外の構成については記載されていない。
したがって、出願時の技術常識に照らしても、請求項1、2に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。
よって、請求項1~5に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものではない。
(2)判断
ア 特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定される要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきである。以下、本願の特許請求の範囲の記載について検討する。
イ 本願発明1~5の解決しようとする課題は、本願明細書の記載によれば、「屈伸作業を行っても作業員の局部を圧迫せず、作業を快適に行うことができる機能パンツを提供すること」(段落【0006】)である。
ウ この課題の解決手段について、本願明細書には、次の記載がある。
(ア)股部伸縮部の形状が三角形状の場合
「【0014】
図3(a)は股部伸縮部15の生地の形状を示す。本実施形態の股部伸縮部15は、3つの頂点15A、15B、15Cを有する二等辺三角形の形状を有し、身頃2乃至5と縫い合わせて露出する領域15aと、その周囲所定幅の縫い代15bを有する。・・・・
【0016】
この厚み線Tのうち、中央点Cと機能ズボン1に縫い込んだ際の前股ぐり縫合線6の端部、すなわち頂点15との距離を第一の長さL1とし、中央点Cと後股ぐり縫合線7の端部との距離を第二の長さL2とする。本実施形態では、幅線Wが二等辺三角形の底辺と一致するため、第二の長さL2は実質的にゼロとなるが、厚み線Tにおいて、第一の長さL1は第二の長さL2よりも長く、作業者の局部により確実に当たるように構成している。」
「【0023】
股部伸縮部15は、上述のように前方に張り出す三角形状を有するため、後股ぐり接合線7の延長部分が最も幅を有しているため伸縮代が大きい。このため、機能ズボン1の腰部1fにより引っ張られても、股部伸縮部15は十分に伸びて局部を圧迫することはない。」
(イ)股部伸縮部の形状がV字型形状である場合
「【0030】
図6に本実施形態とは別の、他の股部伸縮部の形状バリエーションを示す。図6(a)は、V字型形状を有する股部屈伸部の生地であり、図6(b)は、四角形状を有する股部屈伸部の生地である。
【0031】
図6(a)に示す、股部伸縮部20は、内股縫合線の端部に一致する頂点20B、20C間の中央部が前股ぐり縫合線の端部に一致する頂点部20A側に前進して頂点20Dを構成しており、頂点20B、20C間の辺が前身頃側に張り出して全体としてV字形状を有する。」
「【0036】
以上、図6に示すバリエーションにおいても、股部伸縮部20、21は、前身頃側に突出しており、この部分が装着者の局部を覆って、腰を屈めた際に前身頃側がより大きく伸張し、局部を圧迫することはない。また、前身頃側に配置されることにより、股関節の回転中心Xに対して腰部伸縮部16と反対側に位置するために、機能パンツ1の伸張を分散させることができる。」
エ 上記ウ(ア)の記載より、股部伸縮部15は、前方に張り出す三角形状を有することにより、作業者の局部により確実に当たり、後股ぐり接合線7の延長部分が最も幅を有しているため伸縮代が大きく、局部を圧迫しないようにするという課題を解決できることが理解される。
また、上記ウ(イ)の記載より、股部伸縮部15は、前身頃側に張り出して全体としてV字型形状を有することにより、前身頃側に突出しており、この部分が装着者の局部を覆って、腰を屈めた際に前身頃側がより大きく伸張し、局部を圧迫しないようにするという課題を解決できることが理解できる。
そうすると、発明の詳細な説明の上記記載から、「伸張時には装着者の局部を包み込む位置に配置される股部伸縮部を有し、前記股部伸縮部は平面形状において前記股部伸縮部の左右の内股縫合線の端部を結ぶ辺が前記前身頃側に張り出し、V字型形状を有する」との事項を備える本願発明1、「伸張時には装着者の局部を包み込む位置に配置される股部伸縮部を有し、該股部伸縮部は平面形状において前記前股ぐり縫合線の端部と左右の前記内股縫合線の端部を頂点とする三角形状を有する」との事項を備える本願発明2は、それぞれ、「屈伸作業を行っても作業員の局部を圧迫せず、作業を快適に行うことができる機能パンツを提供すること」という課題を解決し得ることが認識できるものといえる。
オ 他方、本願発明1において「前記股部伸縮部は平面形状において、左右の前記前身頃と前記後身頃の接合線のそれぞれの端部を結んだ線を幅線とし、該幅線の中央の交差点で直行する線を厚み線とした場合、前記厚み線の前記交差点から前記前股ぐり縫合線の端部までの第一の長さが、前記厚み線の前記交差点から前記後股ぐり縫合線の端部までの第二の長さよりも長く、前記股部伸縮部の左右の内股縫合線の端部を結ぶ辺は、前記前身頃側に張り出し、V字型形状を有する」との事項、本願発明2において「前記股部伸縮部は平面形状において、左右の前記前身頃と前記後身頃の接合線のそれぞれの端部を結んだ線を幅線とし、該幅線の中央の交差点で直行する線を厚み線とした場合、前記厚み線の前記交差点から前記前股ぐり縫合線の端部までの第一の長さが、前記厚み線の前記交差点から前記後股ぐり縫合線の端部までの第二の長さよりも長く、前記股部伸縮部は、前記第二の長さがゼロであり、前記後身頃との縫合線と前記幅線を一辺とする三角形状を有する」との事項は、本願発明1~5の上記課題の解決のために備えることを要するものではない。
(3)サポート要件についてのまとめ
以上のとおり、サポート要件に係る拒絶理由には、理由がない。
3 「第3の3.(明確性)」について
(1)拒絶理由の概要
請求項4には、「股関節の回転中心を対称として反対側に配置される」との記載があるが、当該記載が何を意味しているのか不明である。
よって、請求項4に係る発明と、それを引用する請求項5に係る発明とは明確でない。
(2)判断
本願明細書には図面とともに次の事項が記載されている。
「【0025】
図4(a)に示すように、装着者が直立している状態では、股部伸縮部15、腰部伸縮部16、左右の側部伸縮部17、18には、負荷がかからず、図3に示す生地形状を維持している。この際、機能ズボン1の股部1cの股部伸縮部15と腰部1fの腰部伸縮部16とは、装着者の股関節の回転中心Xを挟んで両側に位置する。」
これらの記載及び図示内容を参酌すると、本願発明4の上記「股関節の回転中心を対称として反対側に配置される」は、股部伸縮部と腰部伸縮部とが股関節の回転中心を挟んで反対側に配置されることを意味するものと理解できる。
したがって、本願発明4、及び、本願発明4の発明特定事項を全て含む本願発明5は明確である。
(3)明確性についてのまとめ
以上のとおり、明確性に係る拒絶理由には、理由がない。
4 進歩性について
原査定の拒絶の理由にて、なお書きで、本願発明2が進歩性を有しない旨指摘されているので、以下、検討する。
(1)引用文献1について
ア 原査定で引用された引用文献1(登録実用新案第3019416号公報)には、図面とともに次の事項が記載されている。以下、下線は、便宜のため当審が付した。
(ア)「【0003】
【考案が解決しようとする課題】
競技中の審判員の姿勢というのは、選手と選手のベース上での接触プレーのアウトやセーフを見極めたり、キャッチャーの後ろに立ってストライクやボールを見極めたりするために中腰、前傾姿勢で立っていることが非常に多く、腰部分への負担が非常に大きく、腰痛の一因にもなっていた。
又、前述のように中腰、前傾姿勢で立っていることが多いため、尻部を突き出した状態が長く続き、普段はくようなズボンではつっぱるように感じられ、ズボン自体の型くずれもおこしやすいと言った欠点を有していた。」
(イ)「【0007】
・・・
図7、8は、ズボン1の股部24に伸縮性を有した菱形形状の生地25を配置したことを示している。伸縮性の菱形形状の生地25としては、丸編ジャージやツーウェイトリコット、スパンデックスづかいの布地などを使用することが可能である。」
(ウ)「【0008】
【考案の効果】
・・・
又、股部に伸縮性のある菱形形状の生地を縫製したことで、かがんだりする時に尻部のつっぱった感触を防止し、審判動作もしやすくなり、且つ尻部の破れも防止できるものである。
・・・」
(エ)「【図7】 【図8】
[図:0001403190000001.jpg]
」
(オ)図7、8の記載及びズボン生地の技術常識からみて、ズボン1が左右の前身頃及び左右の後身頃を有し、かつ、それぞれを縫合する前股ぐり縫合線、後股ぐり縫合線、内股縫合線を有することは明らかである。
(カ)【0003】、【0007】、【0008】、図7、8の記載及び(オ)からみて、着用者が中腰、前傾姿勢、かがんだ姿勢になる際には、股下に存在する菱形形状の生地25は前後左右どちらにも引っ張られるものと認められるため、当該菱形形状の生地25は少なくとも前股繰り縫合線方向に伸縮するものであると認められる。
(キ)上記【0007】、図7、8の記載及び(オ)からみて、菱形形状の生地25は、前後の股ぐり縫合線及び内股縫合線との間に縫合されていると認められる。
イ したがって、上記引用文献1には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「ズボン1の股部において、左右の前身頃同士を縫合する前股ぐり縫合線と、左右の後身頃同士を縫合する後股ぐり縫合線と、前記前身頃と前記後身頃とを縫合する左右の内股縫合線との間に縫合され、少なくとも前記前股ぐり縫合線方向に伸縮する菱形形状の生地25を有し、該生地25は平面形状において前後の前記股ぐり縫合線の端部と左右の前記内股縫合線の端部を頂点とする、ズボン1。」
(2)対比
本願発明2と引用発明とを対比すると、次のとおりである。
引用発明の「ズボン1」は、伸縮性の機能を備えた「伸縮する菱形生地」を有しているから、本願発明2の「機能パンツ」に相当する。
引用発明の「少なくとも前記前股ぐり縫合線方向に伸縮する菱形形状の生地25」と、本願発明2の「少なくとも前記前股ぐり縫合線方向に伸縮し、伸張時には装着者の局部を包み込む位置に配置される股部伸縮部を有し、該股部伸縮部は平面形状において前記前股ぐり縫合線の端部と左右の前記内股縫合線の端部を頂点とする三角形状を有する」こととは、「少なくとも前股ぐり縫合線方向に伸縮する部材」という限りで一致する。
したがって、本願発明2と引用発明の一致点及び相違点は、次のとおりである。
《一致点》
「パンツの股部において、左右の前身頃同士を縫合する前股ぐり縫合線と、左右の後見頃同士を縫合する後股ぐり縫合線と、前記前身頃と前記後身頃とを縫合する左右の内股縫合線との間に縫合され、少なくとも前記前股ぐり縫合線方向に伸縮する部材を有した機能パンツ。」
《相違点》
少なくとも前記前股ぐり縫合線方向に伸縮する部材に関し、
本願発明2が「少なくとも前記前股ぐり縫合線方向に伸縮し、伸張時には装着者の局部を包み込む位置に配置される股部伸縮部を有し、該股部伸縮部は平面形状において前記前股ぐり縫合線の端部と左右の前記内股縫合線の端部を頂点とする三角形状を有する」のに対し、
引用発明は「少なくとも前記前股ぐり縫合線方向に伸縮する菱形形状の生地25」であるものの、伸張時に装着者の局部を包み込む位置に配置されるものであるか不明であり、三角形状でもない点。
(3)判断
引用発明は、「股部に伸縮性のある菱形形状の生地を縫製したことで、かがんだりする時に尻部のつっぱった感触を防止し、・・・且つ尻部の破れも防止できる」ものであり(上記(1)ア(ウ))、伸縮性のある菱形形状の生地をズボン1の尻部に対して有効に作用させることを目的としている。
してみると、仮に引用発明の菱形形状の生地を他の形状に変更するとしても、当該引用発明の菱形形状の生地において、尻部により作用することになる後身頃側部分をなくし前身頃側のみを残して三角形状とすることは、上記目的に反する事項であるといえる。よって、引用発明には、菱形形状の生地を三角形状とすることに阻害要因が存在するといえる。
よって、引用発明において、上記相違点に係る本願発明2の構成を採用することは、当業者が容易に想到し得たことではない。
したがって、本願発明2は、引用発明1に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(4)進歩性についてのまとめ
以上のとおり、進歩性に係る理由には、理由がない。
第6 むすび
以上のとおり、原査定の理由によって、本願を拒絶することはできない。 また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
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2022-007390