特許拒絶査定不服審判
2024-013509
蛍光体粉末、発光装置、画像表示装置および照明装置
- 審判番号
- 2024-013509
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2022-568126
- 請求日
- 2024年08月22日
- 審決日
- 2026年04月09日
- 公報発行日
- 2026年06月26日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】デンカ株式会社
- 【請求人代理人】速水 進治
- 審判長/審判官
- 審判長 波多江 進
- 審判官 吉野 三寛
- 審判官 横井 亜矢子
- 分類
- P18 .121-Z (C09K) / P18 .575-Z (C09K)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条、特許法第17条の2第5項、特許法第17条の2第6項、特許法第49条
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2022-568126「蛍光体粉末、発光装置、画像表示装置および照明装置」拒絶査定不服審判事件〔令和4年6月16日国際公開、WO2022/123997〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、2021年(令和3年)11月11日を国際出願日とする日本語特許出願であって(優先権主張 令和2年12月7日)、その手続の経緯の概略は、次のとおりである。
令和6年3月25日付け:拒絶理由通知書
同年4月19日 :意見書及び手続補正書の提出
同年7月17日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
(同月30日 :原査定の謄本の送達)
同年8月22日 :審判請求書及び手続補正書の提出
以下、令和2年12月7日を「優先日」という。
第2 令和6年8月22日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和6年8月22日にされた手続補正を却下する。
[補正の却下の決定の理由]
1 本件補正の内容
令和6年8月22日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)は、特許請求の範囲の補正をするものであって、本件補正により、次の(1)に示す本件補正前(令和6年4月19日にされた手続補正後のものをいう。以下同じ。)の特許請求の範囲の請求項1の記載は、後記(2)に示す本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載に補正された。下線は補正箇所を示す。
(1) 本件補正前
「一般式Mx(Si,Al)2(N,O)3±y(ただし、MはLi及び一種以上のアルカリ土類金属元素であり、0.52≦x≦0.9、0.06≦y≦0.36)で示され、Mの一部がCe元素で置換されている蛍光体であって、Si/Al原子比が1.5以上6以下であり、かつO/N原子比が0以上0.1以下であり、Mの5~50mol%がLiであり、Mの0.5~10mol%がCeである蛍光体粒子を含む蛍光体粉末であって、
当該蛍光体粉末中の、Cr元素、Fe元素およびNi元素の含有量の合計が、10ppm以下である、蛍光体粉末。」
(2) 本件補正後
「一般式Mx(Si,Al)2(N,O)3±y(ただし、MはLi及び一種以上のアルカリ土類金属元素であり、0.52≦x≦0.9、0.06≦y≦0.36)で示され、Mの一部がCe元素で置換されている蛍光体であって、Si/Al原子比が1.5以上6以下であり、かつO/N原子比が0以上0.1以下であり、Mの5~50mol%がLiであり、Mの0.5~10mol%がCeである蛍光体粒子を含む蛍光体粉末であって、
当該蛍光体粉末中の、Cr元素、Fe元素およびNi元素の含有量の合計が、10ppm以下であり、
当該蛍光体粉末中の、Cr元素の含有量が3ppm以下である、蛍光体粉末。」
2 本件補正の目的
本件補正により請求項1についてする補正は、本件補正前の請求項1に記載された「Cr元素」について、「当該蛍光体粉末中の」「含有量が3ppm以下である」と限定するものである。
そして、本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載される発明は、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一である。
したがって、本件補正により請求項1についてする補正は、特許法17条の2第5項2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする補正に該当する。
3 独立特許要件の判断
本件補正は、前記2のとおり、特許法17条の2第5項2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする補正に該当するから、本件補正後の請求項1に記載されている事項により特定される発明(以下「本件補正発明」という。)が、同法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に適合するか、すなわち、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて、以下検討する。
(1) 本件補正発明
ア 本件補正発明の認定と分説
本件補正発明は、前記1(2)に摘記した本件補正後の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものと認める。
ここで、検討の便宜上、本件補正発明の構成を次のとおり構成Xと構成A~Cに分説する。
<本件補正発明の分説>
A 一般式Mx(Si,Al)2(N,O)3±y(ただし、MはLi及び一種以上のアルカリ土類金属元素であり、0.52≦x≦0.9、0.06≦y≦0.36)で示され、Mの一部がCe元素で置換されている蛍光体であって、Si/Al原子比が1.5以上6以下であり、かつO/N原子比が0以上0.1以下であり、Mの5~50mol%がLiであり、Mの0.5~10mol%がCeである蛍光体粒子を含む蛍光体粉末であって、
B 当該蛍光体粉末中の、Cr元素、Fe元素およびNi元素の含有量の合計が、10ppm以下であり、
C 当該蛍光体粉末中の、Cr元素の含有量が3ppm以下である、
X 蛍光体粉末。
イ 課題及び作用効果等に関連する明細書の発明の詳細な説明の記載
本願明細書の発明の詳細な説明の記載のうち、発明が解決しようとする課題及び作用効果等に関連する記載を抜粋すると、次の記載がある。
「【0006】
本発明者は、蛍光体に青色光を照射したときの蛍光ピーク強度が大きい蛍光体粉末を提供することを目的の1つとして、今回、検討を行った。
課題を解決するための手段
【0007】
本発明者らは、検討の結果、以下に提供される発明を完成させた。
【0008】
本発明によれば、
一般式Mx(Si,Al)2(N,O)3±y(ただし、MはLi及び一種以上のアルカリ土類金属元素であり、0.52≦x≦0.9、0.06≦y≦0.36)で示され、Mの一部がCe元素で置換されている蛍光体であって、Si/Al原子比が1.5以上6以下であり、かつO/N原子比が0以上0.1以下であり、Mの5~50mol%がLiであり、Mの0.5~10mol%がCeである蛍光体粒子を含む蛍光体粉末であって、
当該蛍光体粉末中の、Cr元素、Fe元素およびNi元素の含有量の合計が、20ppm以下である、蛍光体粉末が提供される。」
「発明の効果
【0012】
本発明の蛍光体粉末は、蛍光体に青色光を照射したときの蛍光ピーク強度が大きい蛍光体粉を提供できる。」
「【0017】
本発明者の知見によれば、蛍光体粉末に微量含まれる複数元素の含有量を指標とすることによって、蛍光体の蛍光特性を評価できることが分かった。この知見に基づいて鋭意検討した結果、Cr元素、Fe元素およびNi元素の含有量の合計を指標とすることで、蛍光特性を安定的に評価可能であり、指標である含有量の合計値を上記上限値以下とすることによって、蛍光体に青色光を照射したときの蛍光ピーク強度が大きい蛍光体粉を実現できることが判明した。
【0018】
Cr元素、Fe元素およびNi元素の含有量の合計の上限は、20ppm以下、好ましくは15ppm以下、より好ましくは10ppm以下である。これにより、蛍光体に青色光を照射したときの蛍光ピーク強度が大きい蛍光体粉末を実現できる。
上記合計の下限は、特に限定されないが、0ppm以上、0.01ppm以上でもよい。
【0019】
Cr元素の含有量の上限は、10ppm以下、好ましくは5ppm以下、より好ましくは3ppm以下である。これにより、内部量子効率が高く、青色光の変換効率が改善された蛍光体粉末を実現できる。
上記Cr元素の含有量の下限は、特に限定されないが、0ppm以上、0.01ppm以上でもよい。」
「【0024】
本実施形態において、Cr元素、Fe元素、Ni元素、Tiの含有量が所望の範囲を満たす蛍光体粉末は、適切な素材を用いることに加え、適切な製造方法・製造条件を選択することにより製造することができる。「適切な製造方法・製造条件」としては、例えば、(i)蛍光体粉末に適切な分級処理(好ましくは沈降分級)を施すこと、(ii)酸処理を工夫すること、などのうち1または2以上である。製造方法・製造条件の詳細については追って詳述する。
【0025】
本実施形態の蛍光体粉末に関する説明を続ける。
【0026】
(結晶構造、化学組成など)
蛍光体結晶の骨格構造は、(Si,Al)-(N,O)4正四面体が結合することにより構成されており、その間隙にM元素が位置するものである。上記一般式の組成は、M元素の価数と量、Si/Al比、N/O比のパラメータの全体により電気的中性が保たれる幅広い範囲で成立する。上記一般式で示される代表的な蛍光体として、M元素がCaでx=1、更にSi/Al=1、O/N=0となるCaAlSiN3がある。CaAlSiN3のCaの一部がEuで置換された場合には赤色蛍光体に、Ceで置換された場合には黄~橙色蛍光体になる。
【0027】
本実施形態の蛍光体粉末が含む蛍光体粒子の結晶構造は、通常、CaAlSiN3結晶をベースとしたものである。この蛍光体粒子の特徴の1つは、Ce付活でも非常に高い発光効率が得られるように構成元素、組成を大きく変えた点にある。
上記一般式において、M元素はLi元素とアルカリ土類金属元素の組み合わせであり、その一部が発光中心となるCe元素で置換されている。Li元素を用いることにより、二価のアルカリ土類元素及び三価のCe元素との組み合わせにより、M元素の平均価数を幅広く制御できる。また、Li+のイオン半径は非常に小さく、その量により結晶サイズを大きく変化させることができ、多様な蛍光発光が得られる。
上記一般式におけるM元素の係数xは、0.52以上0.9以下、好ましくは0.6以上0.9以下、より好ましくは0.7以上0.9以下である。係数xが0.9を越える、つまりCaAlSiN3結晶に近づくと蛍光強度が低下する傾向にあり、係数xが0.52よりも小さいと、目的とする結晶相以外の異相が多量に生成するために蛍光強度が著しく低下する傾向がある。
【0028】
本実施形態においては、M元素の平均価数や量、Si/Al比およびO/N比により電気的中性が保たれ、単一結晶で欠陥等がない場合には、y=0となる。しかしながら、蛍光体全体の組成を考えた場合、第二結晶相や非晶質相が存在したり、結晶自体を考えた場合にも結晶欠陥により電荷バランスが崩れたりする。本実施形態においては、蛍光強度を高める観点から、yは0.06以上0.36以下が好ましく、0.1以上0.35以下がより好ましく、0.06以上0.23以下がさらに好ましい。
【0029】
本実施形態において、O/N原子比(モル比)は、0以上0.1以下、好ましくは0.01以上0.08以下、さらに好ましくは0.02以上0.07以下である。O/N原子比があまりに大きいと異相生成量が増大し、発光効率が低下するとともに、結晶の共有結合性が低下し、温度特性の悪化(高温での輝度低下)を引き起こす傾向にある。
【0030】
Si/Al原子比(モル比)に関しては、通常、M元素の平均価数や量、および、O/N原子比を所定の範囲とすると必然的に決められる。Si/Al原子比は1.5以上6以下、好ましくは2以上4以下、より好ましくは2.5以上4以下である。
【0031】
蛍光体粒子中のLi含有量は、M元素の5~50mol%、好ましくは15~45mol%、さらに好ましくは25~45mol%である。Liの効果は5mol%以上で発揮されやすいが、50mol%を越えると目的とする蛍光体の結晶構造が維持できず異相を生成してしまい、発光効率が低下しやすい。
念のため述べておくと、「Li含有量」とは、最終的に得られる蛍光体粉末中のLi含有量であり、原料配合ベースの量ではない。原料に使用するLi化合物は蒸気圧が高く揮発しやすく、高温で窒化物・酸窒化物を合成しようとした場合、相当量が揮発する。つまり、原料配合ベースのLi量は最終生成物中の含有量とは大きく乖離しているので、蛍光体中のLi含有量を意味しない。
【0032】
蛍光体粒子の発光中心であるCeの含有量は、あまりに少ないと発光への寄与が小さくなる傾向にあり、あまりに多いとCe3+間のエネルギー伝達による蛍光体の濃度消光が起こる傾向にある。よって、Ceの含有量は、M元素の0.5~10mol%、好ましくは0.5~5mol%である。」
「【0041】
(製造方法)
本実施形態の蛍光体粉末は、好ましくは、以下の(1)~(4)を含む一連の工程、(1)~(3)および(5)を含む一連の工程、または(1)~(5)を含む一連の工程により製造される。(D90-D10)/D50を適切に調整する観点で、蛍光体粉末の製造工程は、(5)分級工程(好ましくは沈降分級)を含むことが好ましい。
(1)原料混合粉の調製工程
(2)焼成工程
(3)焼成物の粉砕工程
(4)酸処理工程
(5)分級工程(好ましくは沈降分級)
【0042】
以下、(1)~(5)について具体的に説明する。」
「 【0051】
(4)酸処理工程
酸処理工程では、例えば、酸性水溶液中に、上記(3)で得られた粉砕物を浸漬する。詳細は不明であるが、酸処理により、蛍光体の、発光に寄与しないまたは発光効率を下げる「異相」が除去または低減されると考えらえる。」
「【0053】
(5)分級工程
粉末中の微粉(青色光の変換効率を下げる傾向がある、微細すぎる蛍光体粒子)の量を低減するため、適切な分級処理を行うことが好ましい。効果的に微粉を除去するため、分級の方法は、以下に説明するような沈降分級であることが好ましい。」
「【実施例】
【0065】
本発明の実施態様を、実施例および比較例に基づき詳細に説明する。念のため述べておくと、本発明は実施例のみに限定されない。
【0066】
<蛍光体粉末の製造>
(実施例1)
(1)原料混合粉の調製
まず、予備混合を行った。具体的には、表1に記載の原料のうち、Si3N4,AlNおよびCeO2を、小型V型混合機を用いて30分間混合(ドライブレンド)し、その後、目開き150μmのナイロン製の篩で通篩した。これにより予備混合粉を得た。
次に、窒素雰囲気のグローブボックス内で、予備混合粉に、表1に記載の原料の残り(Ca3N2およびLi3N)を加え、十分にドライブレンドし、その後、目開き500μmの篩で通篩した。これにより原料混合粉を得た。
【0067】
(2)焼成
原料混合粉を窒化ホウ素製の容器に充填した。この容器を炉に入れ、原料混合粉を、0.72MPa・GのN2雰囲気下、1800℃で8時間焼成した。
【0068】
(3)焼成物の粉砕
(2)で得られた焼成物を、スタンプミルを用いて粉砕した。スタンプミルによる粉砕は、目開き250μmの振動篩の通過率が90%を超えるまで繰り返した。
スタンプミルによる粉砕を経た焼成物を、さらに、ジェットミル(日本ニューマチック工業製、PJM-80SP)を用いて粉砕した。粉砕条件は、試料供給速度:50g/min、粉砕エア圧:0.3MPaとした。
【0069】
(4)酸処理
粉砕された焼成物を、塩酸中に投入して酸処理した。
具体的には、まず、35~37質量%塩酸と、蒸留水とを、体積比で50mL:300mLで混合し、80℃に熱した塩酸水溶液を準備した。この塩酸水溶液に、(3)で粉砕された焼成物を投入し、0.5時間攪拌して酸処理した。
酸処理された焼成物を、蒸留水で十分に洗浄し、その後、110℃で3h乾燥させた。そして、目開き45μmの篩を通過させて、粗大/凝集粒子を除いた。
【0070】
(5)沈降分級による微粉の除去
まず、0.05質量%ヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液を調製した。そして、この水溶液を内径70mm、高さ120mmの容器に高さ110mmまで入れた。
次に、上記の水溶液を入れた容器内に、酸処理された焼成物を投入し、十分に攪拌し分散させ、その後22分間静置した。静置後、上澄み液を上から90mm分排出した。その後、ヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液を高さ110mmまで入れ、再び粉末を攪拌により分散させて同様の処理を行った。この操作を7回繰り返し、酸処理粉末に含まれる微粉を除いた(ちなみに、ストークスの式に基づけば、分級点は7.5μmである。)
その後、容器底部のスラリーを水洗しながら濾過を行い、固形分を回収し、それを110℃、3時間の条件で乾燥し、目開き45μmの篩を通過させて、凝集粒子を解砕した。
以上により、蛍光体粉末を得た。
【0071】
(実施例2)
沈降分級を行わなかった以外は、実施例1と同様にして、蛍光体粉末を得た。
【0072】
(比較例1)
(a)原料として表1に記載のものを用いたこと、および、(b)酸処理を行わなかったこと、(c)沈降分級を行わなかった以外は、実施例1と同様にして、蛍光体粉末を得た。
【0073】
<化学組成/結晶構造の確認>
一部の蛍光体粉末ついて、以下のように組成を分析した。
Ca、Li、Ce、SiおよびAlの量:アルカリ融解法により蛍光体粉末を溶解させ、その後、ICP発光分光分析装置(株式会社リガク製CIROS-120)により測定した。
OおよびNの量:酸素窒素分析装置(HORIBA社製、EMGA-920)により測定した。
測定結果に基づき、一般式Mx(Si,Al)2(N,O)3±yにおけるx、y、Si/Al原子比、O/N原子比、MのLi比率、および、MのCe比率を求めた。
また、Cr元素、Fe元素、Ni元素、及びTi元素については、フッ化水素酸と硝酸の混酸で加圧酸分解法により蛍光体粉末を溶解させ、その後、ICP発光分光分析装置により測定した。
【0074】
実施例1の蛍光体に対しては、X線回折装置(株式会社リガク社製UltimaIV-N)を用い、Cu-Kα線による粉末X線回折(XRD)測定も行った。得られたXRDパターンを図2に示す。得られたXRDパターンの解析から、斜方晶系で格子定数a=0.9486nm、b=0.5586nm、c=0.4933nmの結晶を主相として、異相として少量のLiAlSi2N4の存在が確認された。
【0075】
<粒径分布の測定>
粒径分布は、LS13 320(ベックマン・コールター株式会社製)を用い、JIS
R 1629:1997に準拠したレーザ回折散乱法により測定した。測定溶媒には水を使用した。
具体的な手順として、まず、分散剤としてヘキサメタリン酸ナトリウムを0.05質量%加えた水溶液に少量の蛍光体粉末を投入した。次に、ホーン式の超音波ホモジナイザー(出力300W、ホーン径26mm)で分散処理を行って分散液を作製した。この分散液を用いて粒径分布を測定した。得られた累積体積頻度分布曲線から、10%体積径(D10)、50%体積径(D50)および90%体積径(D90)を求めた。
【0076】
<評価>
(蛍光ピーク強度)
ローダミンBと副標準光源で補正を行った分光蛍光光度計(日立ハイテクサイエンス社製、F-7000)を用いて、蛍光体粉末の蛍光スペクトルを測定した。具体的には、波長455nmの単色光で蛍光体粉末を励起させることにより発せられる蛍光のスペクトルを測定し、蛍光ピーク強度および蛍光ピーク波長を求めた。
蛍光ピーク強度は測定装置や条件によって変化する。後掲の表に記載の蛍光ピーク強度は、標準試料(YAG、より具体的には三菱ケミカル社製P46Y3)の蛍光ピーク強度を100としたときの値である。
【0077】
(内部量子効率および外部量子効率)
分光光度計(大塚電子株式会社製MCPD-7000)を用い、各蛍光体粉末の内部量子効率および外部量子効率を、以下の手順で求めた。
(1)蛍光体粉末を、凹型セルの窪み部分に、表面が平滑になるように充填した。この凹型セルを、積分球内の所定の位置(試料部)に取り付けた。この積分球に、発光光源(Xeランプ)から455nmの波長に分光した単色光を、光ファイバーを用いて導入した。この単色光(励起光)を、凹型セルの窪み部分に充填された蛍光体粉末に照射し、蛍光スペクトルを測定した。得られたスペクトルデータから、ピーク波長を求め、また、励起反射光フォトン数(Qref)及び蛍光フォトン数(Qem)を算出した。励起反射光フォトン数は450nm以上465nm以下の波長範囲で蛍光フォトン数は、465nm以上800nm以下の範囲で算出した。
(2)また、試料部に、凹型セルの代わりに、反射率が99%の標準反射板(Labsphere社製スペクトラロン)を取り付けて、波長455nmの励起光のスペクトルを測定した。そして、450nm以上465nm以下の波長範囲のスペクトルから励起光フォトン数(Qex)を算出した。
(3)上記(1)および(2)で求めたQref、QemおよびQexから、以下式に基づき内部量子効率および外部量子効率を算出した。
内部量子効率=(Qem/(Qex-Qref))×100
外部量子効率=(Qem/Qex)×100
【0078】
各種情報をまとめて表1に示す。
表1中、「N.D.」はNot Detectedの略である。
【0079】
また、表1中、「使用原料」の欄に記載の各原料は、以下である。
【0080】
Ca3N2-1:太平洋セメント社製のCa3N2
Ca3N2-2:CERAC社(現:Materion社)製のCa3N2
【0081】
Li3N-1:Materion社製のLi3N
Li3N-2:CERAC社(現:Materion社)製のLi3N
【0082】
CeO2-1:信越化学工業社製のCeO2、Cグレード
【0083】
Si3N4-1:宇部興産社製のSi3N4、E10グレード
【0084】
AlN-1:トクヤマ社製のAlN、Eグレード」
「【0085】
【表1】
[図:0001435672000001.jpg]
」
(2) 各引用文献に記載された事項及び引用発明等の認定
ア 引用文献2に記載された事項及び引用発明の認定
(ア) 引用文献2に記載された事項
原査定の拒絶の理由において引用された、本願の優先日前に発行された文献である国際公開第2012/067130号(以下「引用文献2」という。なお、引用文献2等の呼称は、原査定の拒絶の理由における呼称と同じ呼称としている。)には、次の記載がある(なお、当合議体により、後記(イ)の引用発明の認定に直接用いる記載に下線を付した。)。
「[0008]本発明は一般式Mx(Si,Al)2(N,O)3±y(ただし、MはLi及び一種以上のアルカリ土類金属元素であり、0.52≦x≦0.9、0≦y≦0.3)で示され、Mの一部がCe元素で置換されている蛍光体であって、Si/Al原子比(モル比)が1.5以上6以下であり、かつO/N原子比(モル比)が0以上0.1以下であり、Mの5~50mol%がLiであり、Mの0.5~10mol%がCeである蛍光体である。」
「[0031]この様な本発明の蛍光体の製造方法は特に規定されないが、例えば、金属化合物の混合物であって、焼成することにより、前記一般式で表される組成物を構成しうる原料混合物を窒素雰囲気中において所定の温度範囲で焼成する方法をここでは例示する。
[0032]原料粉末としては、構成元素の窒化物、即ち窒化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化リチウム、窒化セリウム及びアルカリ土類元素の窒化物が好適に使用される。一般的に、窒化物粉末は空気中では不安定であり、粒子表面が酸化物層で覆われており、窒化物原料を使用した場合でも、結果的に、ある程度の酸化物が原料に含まれている。蛍光体のO/N比を制御する場合、これらを考慮するとともに、酸素が不足する場合は、窒化物の一部を酸化物(加熱処理により酸化物になる化合物を含む)とする。
…(中略)…
[0037]焼成時間は、未反応物が多く存在したり、リチウムの揮発量が著しかったりという不都合が生じない時間範囲が選択され、2~24時間程度であることが好ましい。
[0038]焼成雰囲気の圧力は、焼成温度に応じて選択される。本発明の蛍光体は、約1800℃までの温度では大気圧で安定して存在することができるが、これ以上の温度では蛍光体の分解を抑制するために加圧雰囲気におく必要がある。雰囲気圧力は、高いほど、蛍光体の分解温度が高くなるが、工業的生産性を考慮すると1MPa未満とすることが好ましい。
[0039]焼成物の状態は、原料配合や焼成条件によって、粉体状、塊状、焼結体と様々である。蛍光体として使用する場合には、解砕、粉砕及び/又は分級操作を組み合わせて、焼成物を所定のサイズの粉末にする。LED用蛍光体として好適に使用する場合には、焼成物の平均粒径を6~30μmとなる様に調整することが好ましい。」
「実施例1
[0041]以下、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明する。
[0042]α型窒化ケイ素粉末(宇部興産株式会社製SN-E10グレード、酸素含有量1.0質量%)76.70質量%、窒化アルミニウム粉末(トクヤマ株式会社製Eグレード、酸素含有量0.8質量%)18.94質量%、酸化アルミニウム(大明化学株式会社製TM-DARグレード)0.72質量%、酸化セリウム粉末(信越化学工業株式会社製Cタイプ)3.64質量%を窒化ケイ素製ポットとボールを使用し、溶媒としてエタノールを使用したボールミル混合を行った。溶媒を乾燥除去後、目開き75μmの篩を通過させ、凝集を取り除いた。
[0043]上記混合粉末を窒素置換したグローブボックス内に搬入し、窒化カルシウム粉末(株式会社高純度化学研究所社製、純度99%)及び窒化リチウム粉末(株式会社高純度化学研究所社製、純度99%)と瑪瑙乳鉢により混合した。混合比は、前記混合粉末:窒化カルシウム粉末:窒化リチウム粉末=77.12:18.15:4.74質量%とした。得られた原料混合粉末を蓋付きの円筒型窒化ホウ素製容器(電気化学工業株式会社製N-1グレード)に充填し、グローブボックスから取り出し、カーボンヒーターの電気炉に速やかにセットし、炉内を0.1Pa以下まで十分に真空排気した。真空排気したまま、加熱を開始し、600℃で窒素ガスを導入し、炉内雰囲気圧力を0.8MPaとした。ガス導入後もそのまま1800℃まで昇温し、1800℃で4時間の焼成を行った。
[0044]冷却後、炉から回収した試料は、橙色の塊状物であった。この塊状物を目開き150μmの篩を全通するまで解砕し、得られた解砕物を最終的に目開き45μmの篩を通過させ、通過した粉末を最終生成物(蛍光体)とした。レーザー回折散乱法によりも求めた蛍光体の平均粒径は18μmであった。
[0045]得られた蛍光体の組成分析は、次の様に行った。Ca、Li、Ce、Si及びAl含有量は、アルカリ融解法により、粉末を溶解させた後、ICP発光分光分析装置(株式会社リガク製CIROS-120)により測定した。また、酸素及び窒素含有量は、酸素窒素分析装置(堀場製作所製、EMGA-920)により測定した。この粉末の組成は、Ca:Li:Ce:Si:Al:O:N=8.08:3.18:0.34:28.1:8.38:2.31:49.6at%であった。これを前記一般式に当てはめると、x=0.64、y=0.15、Si/Al(モル比)=3.37、O/N(モル比)=0.047であった。Li含有量は、原料配合ベースで8.3at%であるのに対して、得られた蛍光体では3.2at%とかなり低い値となっている。」
「[0055][表2]
[図:0001435672000002.jpg]
」
(イ) 引用発明の認定
前記(ア)に摘記した引用文献2の記載によれば、引用文献2には、実施例1に係る蛍光体について、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。なお、認定の根拠となる記載箇所を括弧内に示した。
<引用発明>
「蛍光体であって、([0044])
蛍光体は、一般式Mx(Si,Al)2(N,O)3±y(ただし、MはLi及び一種以上のアルカリ土類金属元素であり、0.52≦x≦0.9、0≦y≦0.3)で示され、Mの一部がCe元素で置換されている蛍光体であり、([0008])
蛍光体として使用する場合には、解砕、粉砕及び/又は分級操作を組み合わせて、焼成物を所定のサイズの粉末にし、([0039])
この粉末の組成は、Ca:Li:Ce:Si:Al:O:N=8.08:3.18:0.34:28.1:8.38:2.31:49.6at%であり、これを前記一般式に当てはめると、x=0.64、y=0.15、Si/Al(モル比)=3.37、O/N(モル比)=0.047であり、([0045])
Li/M(mol%)は27.40、Ce/M(mol%)は2.90である、([表2])
蛍光体」
イ 引用文献1に記載された事項及び引1技術事項の認定
(ア) 引用文献1に記載された事項
原査定の拒絶の理由において引用された、本願の優先日前に発行された文献である国際公開第2010/110457号(以下「引用文献1」という。)には、次の記載がある。
「[0012] 以下に詳細に述べるように、CaAlSiN3結晶およびこの結晶のCaあるいはNを他の元素で置換した結晶を母体とする蛍光体について詳細な研究を行い、特定の組成を持つLiと酸素とが固溶した結晶を母体結晶(後述するCaAlSiN3系結晶)として、これにCeを付活した蛍光体は、高輝度発光することが見いだされた。また、蛍光体の組成を制御することによって、560nm以上620nm以下、すなわち、黄色、橙色および赤色の波長範囲にピークを有するように蛍光体の発光波長を制御することが可能であることが見いだされた。以下に本発明を詳述する。
[0013] 本発明の蛍光体は、少なくとも、Li、Ca、Si、Al、O(酸素)、N(窒素)およびCeの元素を含み、CaAlSiN3結晶、または、CaAlSiN3と同一の結晶構造を有する結晶を母体結晶とする。CaAlSiN3と同一の結晶構造を有する結晶は、例えば、LiSi2N3結晶、Si2N2O結晶、SrAlSiN3、NaSi2N3、これらの固溶体結晶である。本明細書において、これら母体結晶を総称してCaAlSiN3系結晶と呼ぶ。本発明の蛍光体は、必要に応じて、Sr、および/または、Ce、Li、Ca(およびSr)、SiおよびAl以外の金属元素を含有してもよい。或いは、Li、Ca、Sr、Si、Al、O(酸素)、N(窒素)およびCeの元素のみから実質的になるものでもよい。」
「[0050] 本発明の蛍光体は製造方法を規定しないが、下記の方法で輝度が高い蛍光体を製造することができる。
[0051] 金属化合物の原料混合物であって、少なくともCe、Li、Ca、Si、AlおよびNを含み、必要に応じてSrおよび/またはOをさらに含む原料混合物を、窒素雰囲気中において15×102℃以上22×102℃以下の温度範囲で焼成することにより、本発明の高輝度蛍光体が得られる。
…(中略)…
[0067] 本発明の蛍光体を粉末状で使用する場合は、樹脂への分散性や粉末の流動性などの点から平均粒径が0.1μm以上50μm以下が好ましい。なかでも、5μm以上10μm以下の粒径が操作性に優れている。また、粉末を5μm以上10μm以下の範囲粒径の単結晶粒子とすることにより、より発光輝度が向上する。
[0068] 発光輝度が高い蛍光体を得るには、無機化合物に含まれる不純物は極力少ない方が好ましい。特に、Fe、Co、Ni不純物元素が多く含まれると発光が阻害されるので、これらの元素の合計が500ppm以下となるように、原料粉末の選定および合成工程の制御を行うとよい。」
(イ) 引1技術事項の認定
前記(ア)に摘記した引用文献1の摘記事項によれば、引用文献1には、次の技術事項(以下「引1技術事項」という。)が記載されていると認められる。
<引1技術事項>
「CaAlSiN3系結晶を母体結晶とし、これにCeを付活した蛍光体において、発光輝度が高い蛍光体を得るには、無機化合物に含まれる不純物は極力少ない方が好ましく、特に、Fe、Co、Ni不純物元素が多く含まれると発光が阻害されるので、これらの元素の合計が500ppm以下となるように、原料粉末の選定及び合成工程の制御を行うとよいこと。」([0012]及び[0068])
ウ 引用文献3~5に記載された事項及び技術常識の認定
(ア) 引用文献3に記載された事項
本審決において新たに引用する、本願の優先日前に発行された文献である特開2013-121887号公報(以下「引用文献3」という。)には、次の記載がある。
「【0001】
本発明は、金属窒化物の製造方法に関し、より詳しくは、蛍光体原料として使用できる、酸素含有率の少ない金属窒化物を、短時間で大量に生産する方法に関する。また、該金属窒化物を用いた窒化物蛍光体の製造方法に関する。」
「【0020】
一方、蛍光体の原料としては、所望の組成に使用されない元素、すなわち不純物は少ないほうが好ましく、所望の組成にするために必要な元素以外は500ppm(重量割合:以下特に断りのない場合、固体は重量基準の値、気体は体積基準の値である)以下に抑えることが好ましい。特に鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)等は、非可視光での発光または減衰を生じるため、特に混入には配慮することが必要であり、これらの元素は原料に実質的に含まれないことが好ましい。ここでいう実質的とは、蛍光体とした場合に、非可視光での発光または減衰が生じない程度をいう。」
「【0040】
(蛍光体の製造方法)
本発明の製造方法にて製造された金属窒化物は、酸素の含有量が少なく、適度に粉砕され、かつ不純物の混入も少ないため、窒化物蛍光体の製造に特に好適に使用される。
本発明の金属窒化物は、窒化物蛍光体の原料としては、公知の種々の蛍光体の原料として使用できるが、特に好ましくは、下記一般式(I)で表される窒化物蛍光体である。
LnaSibNc:Zd ・・・(I)
【0041】
上記式中、a+d=3、5.4≦b≦6.6、10≦c≦12を満たし、LnはLaを必須として含む、希土類金属又はアルカリ土類金属からなる群より選ばれる元素であり、Zは賦活剤として使用される元素である。
Zとしては、好ましくはCe、Eu、Mn、Yb、Pr及びTbからなる群より選ばれる少なくとも1種類の金属元素であり、特に好ましくはEuとCeである。
また、a+d=3、b=6、c=11が、最も好ましい、この蛍光体の母体の化学量論組成となる。
また一般式(I)の蛍光体は、この一般式以外に、酸素やハロゲン、Li等を、その構造中に構成元素の一部を置換したり、あるいは不純物として含んでいたりしてもよい。
また、上記一般式(I)で表わされる以外の窒化物蛍光体であって、本発明の窒化物が好適に使用される蛍光体としては、CaAlSiN3:Eu、CaAlSiN3:Ce、(Sr,Ca)AlSiN3:Eu、SrAlSi4N7:Eu、SrAlSi4N7:Ce等の基本的に酸素を含まない蛍光体の原料として使用することが好ましい。
「【0050】
得られたLaNを実施例1と同様にLECO社製酸素窒素分析装置TC6000を用いて、N量を求めたところ、9.0wt%であり、98%以上がLaNであることが確認された。
またICPによる微量元素分析を行ったところ、不純物として鉄(Fe)を19ppm(重量:以下同じ)、ニッケル(Ni)が検出限界(1ppm)以下、Mnが2ppm、Crが1ppmであり、蛍光体原料として十分使用できるものであり、かつ局所的な熱暴走反応による炉心管のダメージも無いことがわかった。」
(イ) 引用文献4に記載された事項
本審決において新たに引用する、本願の優先日前に発行された文献である特開2010-84151号公報(以下「引用文献4」という。)には、次の記載がある。
「【0093】
また、蛍光体前駆体中に含まれる不純物のうち、Fe、Co、Cr及びNiに関しては、通常1000ppm以下、好ましくは100ppm以下、より好ましくは50ppm以下、さらに好ましくは10ppm以下、特に好ましくは1ppm以下であるものが用いられる。」
(ウ) 引用文献5に記載された事項
本審決において新たに引用する、本願の優先日前に発行された文献である特開2012-211229号公報(以下「引用文献5」という。)には、次の記載がある。
「【0023】
尚、上述した含有量については、緑色蛍光体1内における不可避的な不純物成分の混入を排除するものではないが、Fe、Crなどの金属不純物の総量は100ppm以下とすることが好ましい。
これによって、発光強度の低下や色むらの発生をより抑制することができ、また、発光ピーク波長の制御がより容易となるため好ましい。」
(エ) 蛍光体技術常識の認定
前記(ア)~(ウ)に摘記した各引用文献における摘記事項に例示されるように、次の技術事項は、当業者にとって技術常識(以下「蛍光体技術常識」という。)であったと認められる。
<蛍光体技術常識>
「蛍光体において、不純物としてのCr元素は、少ないことが望ましい元素であること。」
(3) 本件補正発明と引用発明の対比
ア 対比分析
本件補正発明の分説(前記(1)ア)に従い、本件補正発明と引用発明を、以下に対比する。
(ア) 構成Xの観点(蛍光体粉末)
a 構成Xは、本件補正発明が「蛍光体粉末」の発明であることを特定するものである。
b 他方、引用発明は、「蛍光体」の発明であるところ、当該「蛍光体」は、「蛍光体として使用する場合には、解砕、粉砕及び/又は分級操作を組み合わせて、焼成物を所定のサイズの粉末にし[た]」ものであるから、粉末であると理解できる。
c したがって、本件補正発明と引用発明は、「蛍光体粉末」の発明である点において一致する。
(イ) 構成Aの観点(蛍光体粉末の組成について)
a 構成Aは、「蛍光体粉末」が、「一般式Mx(Si,Al)2(N,O)3±y(ただし、MはLi及び一種以上のアルカリ土類金属元素であり、0.52≦x≦0.9、0.06≦y≦0.36)で示され、Mの一部がCe元素で置換されている蛍光体であって、Si/Al原子比が1.5以上6以下であり、かつO/N原子比が0以上0.1以下であり、Mの5~50mol%がLiであり、Mの0.5~10mol%がCeである蛍光体粒子を含む」ことである。
b(a) 引用発明における「蛍光体」は、「一般式Mx(Si,Al)2(N,O)3±y(ただし、MはLi及び一種以上のアルカリ土類金属元素であり、0.52≦x≦0.9、0≦y≦0.3)で示され、Mの一部がCe元素で置換されている蛍光体」における、「x=0.64」及び「y=0.15」の蛍光体である。そうすると、引用発明における「蛍光体」は、本件補正発明にいうところの「一般式Mx(Si,Al)2(N,O)3±y(ただし、MはLi及び一種以上のアルカリ土類金属元素であり、0.52≦x≦0.9、0.06≦y≦0.36)で示され、Mの一部がCe元素で置換されている蛍光体であ[る]」といえる。
(b) 引用発明における「蛍光体」は、「Si/Al(モル比)=3.37、O/N(モル比)=0.047」であり、「Li/M(mol%)は27.40、Ce/M(mol%)は2.90」であるから、本件補正発明にいうところの「Si/Al原子比が1.5以上6以下であり、かつO/N原子比が0以上0.1以下であり、Mの5~50mol%がLiであり、Mの0.5~10mol%がCeである」蛍光体といえる。
(c) 引用発明における「蛍光体」は、「蛍光体として使用する場合には、解砕、粉砕及び/又は分級操作を組み合わせて、焼成物を所定のサイズの粉末にし[た]」ものであるところ、「所定のサイズの粉末」であるから、蛍光体の粒子を含む粉末と理解できる。したがって、本件補正発明と引用発明は、「蛍光体粒子を含む」点で一致している。
c したがって、本件補正発明と引用発明は、次の点において一致する。
「一般式Mx(Si,Al)2(N,O)3±y(ただし、MはLi及び一種以上のアルカリ土類金属元素であり、0.52≦x≦0.9、0.06≦y≦0.36)で示され、Mの一部がCe元素で置換されている蛍光体であって、Si/Al原子比が1.5以上6以下であり、かつO/N原子比が0以上0.1以下であり、Mの5~50mol%がLiであり、Mの0.5~10mol%がCeである蛍光体粒子を含む」点。
(ウ) 構成Bの観点(Cr元素、Fe元素及びNi元素の含有量の合計について)
a 構成Bは、「当該蛍光体粉末中の、Cr元素、Fe元素およびNi元素の含有量の合計が、10ppm以下であ[る]」ことである。
b 他方、引用発明は、本件補正発明の構成Bに相当する構成を満たしているか不明である。
c したがって、本件補正発明と引用発明は、次の点において相違する。
本件補正発明は、「当該蛍光体粉末中の、Cr元素、Fe元素およびNi元素の含有量の合計が、10ppm以下であ[る]」のに対し、引用発明は、そのようであるか不明な点。
(エ) 構成Cの観点(Cr元素の含有量について)
a 構成Cは、「当該蛍光体粉末中の、Cr元素の含有量が3ppm以下である」ことである。
b 他方、引用発明は、本件補正発明の構成Cに相当する構成を満たしているか不明である。
c したがって、本件補正発明と引用発明は、次の点において相違する。
本件補正発明は、「当該蛍光体粉末中の、Cr元素の含有量が3ppm以下である」のに対し、引用発明は、そのようであるか不明な点。
イ 一致点及び相違点
前記アの対比分析の結果をまとめると、本件補正発明と引用発明の一致点及び相違点は、それぞれ次の(ア)及び(イ)に示すとおりである。
(ア) 一致点
「一般式Mx(Si,Al)2(N,O)3±y(ただし、MはLi及び一種以上のアルカリ土類金属元素であり、0.52≦x≦0.9、0.06≦y≦0.36)で示され、Mの一部がCe元素で置換されている蛍光体であって、Si/Al原子比が1.5以上6以下であり、かつO/N原子比が0以上0.1以下であり、Mの5~50mol%がLiであり、Mの0.5~10mol%がCeである蛍光体粒子を含む蛍光体粉末」の発明である点。
(イ) 相違点
a 相違点1
本件補正発明は、「当該蛍光体粉末中の、Cr元素、Fe元素およびNi元素の含有量の合計が、10ppm以下であ[る]」のに対し、引用発明は、そのようであるか不明な点。
b 相違点2
本件補正発明は、「当該蛍光体粉末中の、Cr元素の含有量が3ppm以下である」のに対し、引用発明は、そのようであるか不明な点。
(4) 判断
ア 相違点1及び2は、どちらも蛍光体粉末中に含まれる不純物に係る特定事項であるから、相違点1及び2を併せて検討する。
イ まず、相違点1及び2に共通する不純物であるCr元素を低減することの技術上の意義について検討すると、以下に示すとおり、本願明細書の記載を参酌しても、Fe元素やNi元素に比べてCr元素の低減が特に相対蛍光ピーク強度や量子効率の向上に寄与していることが裏付けられているとはいえない。
すなわち、本願明細書には、Fe元素やNi元素に比べてCr元素の低減が特に相対蛍光ピーク強度や量子効率の向上に寄与することの理論的な説明はなされていないし、その旨の記載もない。また、実験結果について検討すると、本願明細書の【表1】(【0085】)によれば、実施例1、2におけるCr元素の量は、比較例1におけるCr元素の量より少なく、実施例1、2における相対蛍光ピーク強度及び内部/外部量子効率は、比較例1における相対蛍光ピーク強度及び内部/外部量子効率より高くなっている。しかしながら、実施例1、2は比較例1と使用原料が異なるから、適切な原料を用いることによりCr等の不純物が少なくなることは理解できるとしても(【0024】)、実施例1、2と比較例1は、塩酸処理(実施例1、2)及び沈降分級(実施例1)を行うか否かにおいても異なっており、両者の相対蛍光ピーク強度の相違は、塩酸処理により蛍光体の発光に寄与しない又は発光効率を下げる「異相」が除去されること(【0051】)や、分級処理により青色光の変換効率を下げる傾向がある微細すぎる蛍光体粒子の量を低減すること(【0053】)にも起因していると解するのが相当である。したがって、実施例1、2と比較例の相対蛍光ピーク強度や内部/外部量子効率の相違は、純粋にCr元素等の不純物元素の低減によるものであると評価することはできない。また、実施例1、2は、比較例1に比べてCr元素以外の他の元素の不純物の量も少ないものであるから、表1に示される実験結果から、Cr元素が特に相対蛍光ピーク強度や内部/外部量子効率に影響を与える元素であると評価することはできない。
このように、本願明細書には、Fe元素やNi元素に比べてCr元素の低減が特に相対蛍光ピーク強度や量子効率の向上に影響することの理論的な説明も、これを裏付ける実験結果もない以上、Cr元素は低減すべき不純物の一例にすぎないと解するのが相当である。
ウ そして、引1技術事項のとおり、引用発明である「蛍光体」の製造にあっては、「無機化合物(蛍光体の原料粉末)に含まれる不純物は極力少ない方が好まし[い]」のであり、「特に、Fe、Co、Ni不純物元素が多く含まれると発光が阻害されるので、これらの元素の合計が500ppm以下となるように、原料粉末の選定及び合成工程の制御を行うとよい」ものであるところ、前記(2)ウ(エ)で認定した蛍光体技術常識のとおり、蛍光体において、不純物としてのCr元素は、少ないことが望ましい元素であることは技術常識である。そして、当業者であれば、これら不純物元素の量は、可及的に少ないほどよいことも当然に理解できる。
そうすると、引用発明である「蛍光体」を製造するに際して、少ないことが望ましい不純物を低減するために原料粉末を選定し、相違点1及び2に係る本件補正発明の如く、Fe、Ni及びCr元素の合計含有量を10ppm以下とし、Cr元素の含有量を3ppm以下とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
エ 総合評価
前記ア~ウにおいて検討したとおり、引用発明において、前記相違点1及び2に係る本件補正発明の構成を備えるようにすることは、引用発明、引1技術事項及び蛍光体技術常識に基づいて当業者が容易に想到し得たことである。
そして、相違点1及び2を総合的に勘案しても、本件補正発明が奏する効果としては、当該構成のものとして当業者が予測・発見困難であり、かつ、格別顕著な効果を認めることはできない。
したがって、本件補正発明は、引用発明、引1技術事項及び蛍光体技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
オ 請求人の主張について
(ア) 請求人は、発光輝度に影響を与える元素としてCr元素に着目し、「Cr元素、Fe元素およびNi元素の含有量」及び「Cr元素の含有量」を特定している旨を主張している。
しかしながら、前記(4)イ及びウに説示のとおりであって、本件補正発明におけるCr元素の含有量の特定は、前記(2)イ(イ)で認定した引1技術事項における「無機化合物に含まれる不純物は極力少ない方が好ましい」との技術思想の域を出るものではない。
(イ) 請求人は、Cr元素、Fe元素およびNi元素が所望の範囲を満たす蛍光体粉末は、適切な素材を用いることに加え、適切な製造方法・製造条件を選択することにより製造することができる旨を主張し、当該適切な製造方法・製造条件として、分級処理(好ましくは沈降分級)を施すこと、酸処理を工夫することを挙げている。
しかしながら、分級処理(好ましくは沈降分級)及び酸処理が不純物濃度低減手段であることは、【0024】に単にその旨が記載されているにとどまり、分級処理や酸処理を行うことでなぜ不純物の濃度が低減できるのか具体的な説明はなされていない。すなわち、本願明細書で分級処理について具体的に記載する【0053】~【0055】や、酸処理について具体的に記載する【0051】~【0052】には、これらの処理により不純物濃度が低減されることはなんら記載されていないし、これらの処理を行うことにより不純物の濃度が低減できることが本願の出願時の技術常識であるとも認められない。
なお、仮に分級処理や酸処理により不純物濃度が低減できるとしても、本件補正発明は分級処理や酸処理を行うことを発明特定事項とするものではないし、当業者であれば、Cr元素等の不純物元素の量は、可及的に少ないほどよいことも当然に理解できることは前記ウで説示したとおりであるから、請求人の主張は前記ウ、エの判断を左右するものではない。
(ウ) 前記(ア)及び(イ)のとおりであるから、請求人の前記各主張は採用できない。
(5) 独立特許要件の判断のまとめ
以上検討のとおり、本件補正発明は、引用発明、引1技術事項及び蛍光体技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
したがって、本件補正により請求項1についてする補正は、特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反している。
4 本件補正の却下の決定の理由のむすび
前記3(5)のとおり、本件補正は、特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するから、同法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
よって、前記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。
第3 本願発明について
1 本願発明について
本件補正は、前記第2のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1(前記第2の1(1)参照)に記載された事項により特定されるとおりのものである。
2 原査定における拒絶の理由の概要
原査定の本願発明に対する拒絶の理由(進歩性の欠如)の概要は、次のとおりである。
理由1(進歩性の欠如) 本願発明は、優先日前に発行された下記の引用文献1及び2に記載された発明に基づいて、優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
記
引用文献1.国際公開第2010/110457号
引用文献2.国際公開第2012/067130号
3 引用発明等の認定
引用発明、引1技術事項及び蛍光体技術常識の認定は、前記第2の3(2)ア(イ)、イ(イ)及びウ(エ)において示したとおりである。
4 対比・判断
本願発明は、前記第2の2において検討したとおり、本件補正発明から「当該蛍光体粉末中の、Cr元素の含有量が3ppm以下である」との限定を省いたものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、その発明特定事項の一部を限定したものに相当する本件補正発明が、前記第2の3(4)において説示したとおり、引用発明、引1技術事項及び蛍光体技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により引用発明、引1技術事項及び蛍光体技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
第4 むすび
以上検討のとおり、本願発明は、特許法29条2項の規定により、特許を受けることができない。したがって、本願は、特許法49条2号に該当するから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2024-013509