特許拒絶査定不服審判
2024-007020
蛍光標識剤、及び蛍光色素
- 審判番号
- 2024-007020
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2022-511162
- 請求日
- 2024年04月24日
- 審決日
- 2026年01月08日
- 公報発行日
- 2026年03月27日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】artience株式会社
- 【請求人代理人】三好 秀和
- 審判長/審判官
- 審判長 岡田 吉美
- 審判官 横井 亜矢子
- 審判官 野村 伸雄
- 分類
- P18 .113-Z (C09K) / P18 .121-Z (C09K) / P18 .575-Z (C09K)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条、特許法第17条の2第5項、特許法第17条の2第6項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2022-511162「蛍光標識剤、及び蛍光色素」拒絶査定不服審判事件〔令和 3年10月 7日国際公開、WO2021/201284〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、2021年(令和3年)4月2日を国際出願日とする日本語特許出願であって(優先権主張 令和2年4月2日)、その手続の経緯の概略は、次のとおりである。
令和5年 8月16日付け:拒絶理由通知書
同年10月23日 :意見書、手続補正書の提出
令和6年 1月23日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
(同月30日 :原査定の謄本の送達)
同年 4月24日 :審判請求書、手続補正書の提出
同年 5月22日付け:前置報告書
同年 6月21日 :上申書の提出
令和7年 3月 4日 :上申書の提出
以下、2020年(令和2年)4月2日を「優先日」という。
第2 令和6年4月24日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和6年4月24日にされた手続補正を却下する。
[補正の却下の決定の理由]
1 本件補正前後の対応する請求項の記載
令和6年4月24日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)は、特許請求の範囲の補正を含むものであり、本件補正により、次のアに示す本件補正前(令和5年10月23日にされた手続補正後のものをいう。以下同じ。)の特許請求の範囲の請求項5の記載は、後記(2)に示す本件補正後の特許請求の範囲の請求項4の記載に補正された。下線は補正前後の対応箇所を示す。
(1) 本件補正前
「【請求項5】
下記一般式(3)で表される化合物。
[図:0001432536000001.jpg]
(式中、X1~X16は、それぞれ独立に、-Z-R1-R2-R3、水素原子、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換のシクロアルキル基、置換もしくは無置換のアルケニル基、置換もしくは無置換の複素環基、-AB、-SO3M5、又は-COOM6を表す。
前記-ABにおいて、Aは、16族元素を表す。Bは、水素原子、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換のシクロアルキル基、又は、置換もしくは無置換の複素環基を表す。
前記M5、M6は、それぞれ独立に、1価のカチオンを表す。
前記X1~X16は、隣接する置換基同士が互いに連結して環を形成してもよい(但し、前記環は縮合多環芳香族環を除く)。
X17は、-Z-R1-R2-R3、水酸基、ハロゲン元素、置換または無置換のアルコキシ基(但し、ポリエチレングリコール構造は除く)、置換または無置換のアリールオキシ基、-OP(=O)X18X19、-OC(=O)X20、-OS(=O)2X21、又は-OSiX22X23X24を表す。
前記X18及びX19は、それぞれ独立に、水素原子、水酸基、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換のアルコキシ基、置換もしくは無置換のアリールオキシ基、又は、置換もしくは無置換の複素環基を表す。
前記X20は、水素原子、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、又は、置換もしくは無置換の複素環基を表す。
前記X21は、水酸基、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、又は、置換もしくは無置換の複素環基を表す。
前記X22~X24は、それぞれ独立に、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、又は、置換もしくは無置換の複素環基を表す。
Yは、2価~5価の金属原子を表し、kは整数である。Yが2価の金属原子である場合のkは0であり、Yが3価の金属原子である場合のkは1であり、Yが4価または5価の金属原子である場合のkは2である。
但し、X1~X17の少なくとも1つは-Z-R1-R2-R3である。
式中、Zは、直接結合、置換もしくは無置換のアルキレン基、又は、置換もしくは無置換のアリーレン基を表す。
R1は、直接結合、-O-、-OP(=O)R4-、-OC(=O)-、-OS(=O)2-、-OSiR5R6-、-C(=O)-、又は-C(=O)NH-を表す。
R2は、置換もしくは無置換のアルキレン基、置換もしくは無置換のアリーレン基、及び、置換もしくは無置換の複素環基からなる群から選択される1種の基、又はこれらの基を組み合わせてなる基を表す。
R3は、COOM1、NR7R8、N+R9R10R11、-OM2、又は-P(=O)(OM3)OM4を表す。
前記R4は、水素原子、水酸基、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換のアルコキシ基、置換もしくは無置換のアリールオキシ基、又は、置換もしくは無置換の複素環基を表す。
前記R5及びR6は、それぞれ独立に、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、又は、置換もしくは無置換の複素環基を表す。
前記R7及びR8は、それぞれ独立に、水素原子、置換もしくは無置換の炭素数1~5のアルキル基、又は、置換もしくは無置換のアリール基を表す。
前記R9~R11は、それぞれ独立に、水素原子、置換もしくは無置換のアルキル基(ただし、前記置換のアルキル基における置換基は、ハロゲン原子、水酸基、アミノ基、ニトロ基、ホルミル基、シアノ基、カルボキシル基、アルキル基、アリール基、シクロアルキル基、又は複素環基である)、置換もしくは無置換のアリール基(ただし、前記置換のアリール基における置換基は、ハロゲン原子、水酸基、アミノ基、ニトロ基、ホルミル基、シアノ基、カルボキシル基、アルキル基、アリール基、シクロアルキル基、又は複素環基である)を表す。
前記M1、M2、M3、及びM4は、それぞれ独立に、水素原子、又は1価のカチオンを表す。)」
(2) 本件補正後
「【請求項4】
下記一般式(3)で表される化合物。
[図:0001432536000002.jpg]
(式中、X1~X16は、それぞれ独立に、-Z-R1-R2-R3、水素原子、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換のシクロアルキル基、置換もしくは無置換のアルケニル基、置換もしくは無置換の複素環基、-AB、-SO3M5、又は-COOM6を表す。
前記-ABにおいて、Aは、16族元素を表す。Bは、水素原子、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換のシクロアルキル基、又は、置換もしくは無置換の複素環基を表す。
前記M5、M6は、それぞれ独立に、1価のカチオンを表す。
前記X1~X16は、隣接する置換基同士が互いに連結してシクロアルキル環又はシクロアルケン環を形成してもよい。
X17は、-Z-R1-R2-R3、水酸基、ハロゲン元素、置換または無置換のアルコキシ基(但し、ポリエチレングリコール構造は除く)、置換または無置換のアリールオキシ基、-OP(=O)X18X19、-OC(=O)X20、-OS(=O)2X21、又は-OSiX22X23X24を表す。
前記X18及びX19は、それぞれ独立に、水素原子、水酸基、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換のアルコキシ基、置換もしくは無置換のアリールオキシ基、又は、置換もしくは無置換の複素環基を表す。
前記X20は、水素原子、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、又は、置換もしくは無置換の複素環基を表す。
前記X21は、水酸基、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、又は、置換もしくは無置換の複素環基を表す。
前記X22~X24は、それぞれ独立に、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、又は、置換もしくは無置換の複素環基を表す。
Yは、2価~5価の金属原子を表し、kは整数である。Yが2価の金属原子である場合のkは0であり、Yが3価の金属原子である場合のkは1であり、Yが4価または5価の金属原子である場合のkは2である。
但し、X1~X17のうち1つが-Z-R1-R2-R3である。
式中、Zは、直接結合、置換もしくは無置換のアルキレン基、又は、置換もしくは無置換のアリーレン基を表す。
R1は、直接結合、-O-、-OP(=O)R4-、-OC(=O)-、-OS(=O)2-、-OSiR5R6-、-C(=O)-、又は-C(=O)NH-を表す。
R2は、置換もしくは無置換のアルキレン基、置換もしくは無置換のアリーレン基、及び、置換もしくは無置換の複素環基からなる群から選択される1種の基、又はこれらの基を組み合わせてなる基を表す。
R3は、COOM1、NR7R8、N+R9R10R11、-OM2、又は-P(=O)(OM3)OM4を表す。
前記R4は、水素原子、水酸基、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換のアルコキシ基、置換もしくは無置換のアリールオキシ基、又は、置換もしくは無置換の複素環基を表す。
前記R5及びR6は、それぞれ独立に、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、又は、置換もしくは無置換の複素環基を表す。
前記R7及びR8は、それぞれ独立に、水素原子、置換もしくは無置換の炭素数1~5のアルキル基、又は、置換もしくは無置換のアリール基を表す。
前記R9~R11は、それぞれ独立に、水素原子、置換もしくは無置換のアルキル基(ただし、前記置換のアルキル基における置換基は、ハロゲン原子、ニトロ基、ホルミル基、シアノ基、アルキル基、アリール基、シクロアルキル基、又は複素環基である)、置換もしくは無置換のアリール基(ただし、前記置換のアリール基における置換基は、ハロゲン原子、ニトロ基、ホルミル基、シアノ基、アルキル基、アリール基、シクロアルキル基、又は複素環基である)を表す。
前記M1、M2、M3、及びM4は、それぞれ独立に、水素原子、又は1価のカチオンを表す。
但し、前記-Z-R1-R2-R3は、-(CH2)nOH(式中、nは1~22の整数)、-(CH2)nNH2(式中、nは1~22の整数)、及び-(CH2)nCOO(M)(式中、nは1~22の整数、Mは水素イオン、リチウムイオン、ナトリウムイオン、又はカリウムイオン)となる場合を除く。)」
2 本件補正の目的
(1) 本件補正後の請求項4に係る補正は、次のア~エに示す補正事項1から補正事項4までの、本件補正前の請求項4に記載された事項を限定する補正により構成される。
ア 補正事項1
次の(ア)に示す本件補正前の記載を後記(イ)に示す本件補正後の記載に補正することにより、「X1~X16」について限定すること。
(ア) 本件補正前の記載
「前記X1~X16は、隣接する置換基同士が互いに連結して環を形成してもよい(但し、前記環は縮合多環芳香族環を除く)。」
(イ) 本件補正後の記載
「前記X1~X16は、隣接する置換基同士が互いに連結してシクロアルキル環又はシクロアルケン環を形成してもよい。」
イ 補正事項2
次の(ア)に示す本件補正前の記載を後記(イ)に示す本件補正後の記載に補正することにより、「X1~X17」のうち「-Z-R1-R2-R3であるもの」の数を「少なくとも1つ」から「1つ」に限定すること。
(ア) 本件補正前の記載
「但し、X1~X17の少なくとも1つは-Z-R1-R2-R3である。」
(イ) 本件補正後の記載
「但し、X1~X17のうち1つが-Z-R1-R2-R3である。」
ウ 補正事項3
次の(ア)に示す本件補正前の記載を後記(イ)に示す本件補正後の記載に補正することにより、「置換のアルキル基における置換基」を限定すること。
(ア) 本件補正前の記載
「ただし、前記置換のアルキル基における置換基は、ハロゲン原子、水酸基、アミノ基、ニトロ基、ホルミル基、シアノ基、カルボキシル基、アルキル基、アリール基、シクロアルキル基、又は複素環基である)、置換もしくは無置換のアリール基(ただし、前記置換のアリール基における置換基は、ハロゲン原子、水酸基、アミノ基、ニトロ基、ホルミル基、シアノ基、カルボキシル基、アルキル基、アリール基、シクロアルキル基、又は複素環基である)を表す。」
(イ) 本件補正後の記載
「ただし、前記置換のアルキル基における置換基は、ハロゲン原子、ニトロ基、ホルミル基、シアノ基、アルキル基、アリール基、シクロアルキル基、又は複素環基である)、置換もしくは無置換のアリール基(ただし、前記置換のアリール基における置換基は、ハロゲン原子、ニトロ基、ホルミル基、シアノ基、アルキル基、アリール基、シクロアルキル基、又は複素環基である)を表す。」
エ 補正事項4
本件補正後の請求項4において、末尾に次の記載を付加することにより、「-Z-R1-R2-R3」を限定すること。
「但し、前記-Z-R1-R2-R3は、-(CH2)nOH(式中、nは1~22の整数)、-(CH2)nNH2(式中、nは1~22の整数)、及び-(CH2)nCOO(M)(式中、nは1~22の整数、Mは水素イオン、リチウムイオン、ナトリウムイオン、又はカリウムイオン)となる場合を除く。」
(2) 本件補正前の請求項5に記載された発明と本件補正後の請求項4に記載される発明は、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一である。
(3) したがって、本件補正により本件補正後の請求項4についてする補正は、特許法17条の2第5項2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする補正に該当する。
3 独立特許要件について
本件補正により本件補正後の請求項4についてする補正は、前記2のとおり、特許法17条の2第5項2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする補正に該当するから、本件補正後の請求項4に記載されている事項により特定される発明(以下「本件補正発明」という。)が、同法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に適合するか、すなわち、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて、以下検討する。
(1) 本件補正発明について
ア 本件補正発明の認定
本件補正発明は、前記第1(2)に摘記した本件補正後の請求項4に記載された事項により特定されるとおりのものと認める。
イ 課題・作用効果等に関連する明細書の発明の詳細な説明の記載
本願明細書の発明の詳細な説明の記載のうち、発明が解決しようとする課題及び作用効果等に関連する記載を抜粋すると、次の記載がある。
「【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、蛍光標識剤、及び蛍光標識剤に用いられる蛍光色素に関する。
【背景技術】
【0002】
バイオイメージングは、生体内のタンパク質、細胞、及び組織等を可視化する技術である。バイオイメージングは、例えば、生体内の分子及び細胞の機能の解明、並びに創薬の研究等といった生物学及び医学の研究領域で幅広く活用されている。
なかでも、蛍光バイオイメージング法は、現象の動的な観察、多色観察、及び高感度観察が可能なイメージング法である。近年、蛍光バイオイメージング法は、非侵襲的に診断可能なイメージング法としても注目されており、患者への負担が少ない画像診断、及び手術中のリアルタイム診断など、臨床現場における応用が期待されている。
【0003】
蛍光バイオイメージング法は、標的物質と特異的に結合する結合型か、あるいは、標的部位に集積する集積型の蛍光色素を用いて標的を可視化する方法である。上記方法では、上記蛍光色素に紫外領域から近赤外領域の光を照射した際に発する蛍光を検出する。
【0004】
標的部位への集積を用いた集積型の蛍光バイオイメージングは、標的物質との特異的な結合を用いた結合型の蛍光バイオイメージングに比べて、標識方法が単純かつ迅速である。また、上記集積型の蛍光バイオイメージングは、標的物質との特異的な結合を必要としないため、蛍光強度が安定するまでの待機時間がない、標的物質に対する影響が最小限であるといった利点がある。
【0005】
特許文献1及び特許文献2では、細胞膜を形成しているリン脂質に集積することを特徴とした集積型の蛍光色素が開示されている。
【0006】
リン脂質は、細胞、リポソーム、及び細胞外小胞等といった様々な生体物質の表面を形成している。近年、ドラッグデリバリーシステム(DDS)のためのリポソームイメージング、及び非特許文献1に記載されたエクソソームイメージング等のように、リン脂質を有する微小物質のイメージングに注目が集まっている。このようなイン・ビトロ(in vitro)及びイン・ビボ(in vivo)でのイメージングを行うために、特許文献1及び特許文献2で開示されている蛍光色素を使用した場合、蛍光強度が低いといった課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009-524580号公報
【特許文献2】特開2008-209361号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Drug Delivery System 第29巻、第2号、
2014年3月25日発行、p.116-124
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述の状況に鑑み、本発明の実施形態は、リン脂質への集積性に優れ、高い蛍光強度を示す蛍光色素であって、特にイン・ビトロ(in vitro)及びイン・ビボ(in vivo)でのイメージングに用いる蛍光標識剤に適した蛍光強度を有する、蛍光色素を提供する。
…(中略)…
【発明の効果】
【0016】
本発明の実施形態によれば、リン脂質への集積性が高い官能基の導入によって、イン・ビトロ(in vitro)及びイン・ビボ(in vivo)でのイメージングに用いる蛍光標識剤に適した蛍光強度を有する蛍光色素を提供することが可能となった。」
「【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。但し、本発明の実施形態は、以下の記載に限定されず様々な実施形態を含む。
本発明の一実施形態である蛍光標識剤は、下記一般式(1)で表される化合物を含む。下記一般式(1)で表される化合物は、蛍光色素である。
一般式(1):
Q-Z-R1-R2-R3
【0019】
式中、Qは、蛍光色素の残基を表す。本明細書において蛍光色素とは、紫外領域から近赤外領域の光(例えば、波長560~900nmの光)を照射した際に蛍光を発する色素であり、公知の化合物であってよい。蛍光色素としては、特に限定されないが、例えば、フルオレセイン類、ローダミン類、クマリン類、シアニン類、フタロシアニン類、ジケトピロロピロール類、ボロンジピロメテン(BODIPY)類、キサンテン類、ピレン類、メロシアニン類、ぺリレン類、アクリジン類、スチルベン類、ピロメテン類、アクリジン類、及びウンべリフェロン類等の色素が挙げられる。
一実施形態において、上記一般式(1)で表される化合物(蛍光色素)は、蛍光色素の残基Qとして、例えば、上記例示の色素の骨格を有してよい。すなわち、上記一般式(1)で表される化合物は、上記例示の色素の骨格に対して、-Z-R1-R2-R3で表される置換基(官能基)が少なくとも1つ導入された構造を有する化合物であってよい。
【0020】
一実施形態において、蛍光色素は、安定性、及び蛍光波長の観点から、フタロシアニン類が好ましい。一実施形態において、下記一般式(2)で表される化合物(フタロシアニン色素)を蛍光色素として好適に使用することができる。但し、式中、X1~X17の少なくとも1つは、-Z-R1-R2-R3で表される置換基であることを前提とする。
上記蛍光標識剤を構成する蛍光色素が、下記一般式(2)で表される化合物を含む場合、フタロシアニン色素の骨格に由来して、優れた耐久性を有する蛍光標識剤を容易に得ることができる。また、フタロシアニン色素の骨格に由来して、イン・ビトロ及びイン・ビボでのバイオイメージングに適した波長(例えば、650~900nm)での発光を容易に得ることができる。
【0021】
【化3】
[図:0001432536000003.jpg]
【0022】
上記実施形態の蛍光色素において、「-Z-R1-R2-R3」は、親水基を有する置換基であり、リン脂質における親水基との静電的な相互作用によって、リン脂質に対する蛍光色素の集積性を高めることができる。上記置換基の具体的な構成は以下のとおりである。
【0023】
Zは、直接結合、置換もしくは無置換のアルキレン基、又は、置換もしくは無置換のアリーレン基を表す。一実施形態において、Zは、直接結合であることが好ましい。
【0024】
R1は、直接結合、-O-、-OP(=O)R4-、-OC(=O)-、-OS(=O)2-、-OSiR5R6-、-C(=O)-、又は-C(=O)NH-を表す。一実施形態において、R1は、-OP(=O)R4-、-OS(=O)2-、又は-OSiR5R6-であることが好ましい。
【0025】
R2は、置換もしくは無置換のアルキレン基、置換もしくは無置換のアリーレン基、及び、置換もしくは無置換の複素環基からなる群から選択される1種の基、又はこれらの基を組み合わせてなる基を表す。一実施形態において、R2は、置換もしくは無置換のアルキレン基、又は、置換もしくは無置換のアリーレン基であることが好ましく、又は、置換もしくは無置換のアルキレン基であることがより好ましい。一実施形態において、R2は、アルキレン基であることが好ましい。アルキレン基の主鎖の炭素数は1~10であることが好ましい。
【0026】
R3は、-COOM1、-NR7R8、又は-N+R9R10R11を表す。また、R3は、-OM2、又は-P(=O)(OM3)OM4を表す。一実施形態において、R3は、-COOM1、-NR7R8、-OM2、又は-P(=O)(OM3)OM4であることが好ましい。
【0027】
上記において、R4は、水素原子、水酸基、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換のアルコキシ基、置換もしくは無置換のアリールオキシ基、又は、置換もしくは無置換の複素環基を表す。一実施形態において、R4は、水素原子、水酸基、置換もしくは無置換のアルキル基、又は無置換のアリール基であることが好ましい。
【0028】
R5及びR6は、それぞれ独立に、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、又は、置換もしくは無置換の複素環基を表す。一実施形態において、R5及びR6は、それぞれ独立に、置換もしくは無置換のアルキル基、又は無置換のアリール基であることが好ましい。上記アルキル基は、炭素数1~5の直鎖又は分岐のアルキル基であることがより好ましい。
【0029】
R7~R11は、それぞれ独立に、水素原子、置換もしくは無置換のアルキル基、又は、置換もしくは無置換のアリール基を表す。一実施形態において、R7~R11は、それぞれ独立に、水素原子、又は置換もしくは無置換のアルキル基であることが好ましい。アルキル基は、炭素数1~5の直鎖又は分岐のアルキル基であることがより好ましい。
【0030】
M1、M2、M3、及びM4は、それぞれ独立に、水素原子、又は1価のカチオンを表す。1価のカチオンとしては、例えば、アルカリ金属、及び4級アミン等が挙げられる。アルカリ金属としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、及びセシウム等が挙げられる。一実施形態において、M1、M2、M3、及びM4は、それぞれ、水素原子であることが好ましい。
【0031】
X1~X16は、それぞれ独立に、水素原子、又は、-Z-R1-R2-R3、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換のシクロアルキル基、置換もしくは無置換のアルケニル基、置換もしくは無置換の複素環基、-AB、-SO3M5、-COOM6からなる群から選択される置換基を表す。
上記において、M5及びM6は、それぞれ独立に、1価のカチオンを表す。1価のカチオンとしては、例えば、アルカリ金属、及び4級アミン等が挙げられる。アルカリ金属としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、及びセシウム等が挙げられる。
【0032】
一実施形態において、X1~X16の少なくとも1つ、好ましくは4つ以上は、上記置換基であることが好ましい。一実施形態において、色素骨格に対する上記置換基は、それぞれ独立して、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、又は-ABであることが好ましい。
【0033】
上記式-ABにおいて、Aは、第16族元素を表す。第16族元素としては、酸素、硫黄、セレン、及びテルル等が挙げられる。一実施形態において、Aは、酸素、硫黄、又はセレンであることが好ましい。合成の容易さ、及び安定性の点から、酸素、又は硫黄がより好ましい。蛍光強度の点から、酸素がさらに好ましい。Bは、水素原子、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換のシクロアルキル基、又は、置換もしくは無置換の複素環基を表し、それぞれ先に説明したとおりである。一実施形態において、Bは、水素原子、置換もしくは無置換のアルキル基、又は置換もしくは無置換のアリール基であることが好ましい。したがって、一実施形態において、-ABは、-OR、-OAr、-SR、又は-SArであることが好ましい。ここで、Rはアルキル基を表し、Arはアリール基を表す。
【0034】
Yは、2価~5価の金属原子を表し、kは整数である。Yが2価の金属原子である場合のkは0であり、Yが3価の金属原子である場合のkは1であり、Yが4価または5価の金属原子である場合のkは2である。2価の金属原子としては、Mg、Cu、Zn等が挙げられる。3価の金属原子としては、Al、Ga、In等が挙げられる。4価の金属原子としては、Si、Mn、Sn、Cr、Zr等が挙げられる。5価の金属原子としては、P等が挙げられる。蛍光強度の観点からは、Yは、Al、Si、又はPであることが好ましく、Alがより好ましい。耐光性の観点からは、Yは、Al、又はSiが好ましい。
【0035】
一実施形態において、X1~X16は、隣接する置換基同士が互いに連結して、環を形成してもよい。上記環の構造は、シクロアルキル、シクロアルケン、アリール、ヘテロアリールのいずれであってもよく、フタロシアニン骨格における芳香環との縮合環を形成する。上記環の構造は、さらに置換基を有してもよく、非置換であってもよい。環の構造を形成する炭素数は、2~30であってよく、4~6の範囲が好ましい。環は、5員環又は6員環であることが好ましい。
一実施形態において、隣接する置換基同士が互いに連結してフェニレン基を形成することが好ましい。この場合、フタロシアニン骨格における芳香環と結合し、ナフタレン構造が形成される。他の実施形態において、隣接する置換基同士が互いに連結して窒素原子を含む環を形成してもよい。この場合、フタロシアニン骨格における芳香環と結合し、例えば、イミダゾール構造が形成される。上記ナフタレン構造又はイミダゾール構造などの環構造は、さらにアルキル基又はアリール基などの置換基を有してもよい。
【0036】
X17は、-Z-R1-R2-R3、水酸基、ハロゲン元素、置換または無置換のアルコキシ基、置換または無置換のアリールオキシ基、-OP(=O)X18X19、-OC(=O)X20、-OS(=O)2X21、-OSiX22X23X24を表す。一実施形態において、X17は、-Z-R1-R2-R3、又は水酸基であることが好ましい。Z、R1、R2、及びR3は、先に説明したとおりである。
【0037】
上記において、X18及びX19は、それぞれ独立に、水素原子、水酸基、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換のアルコキシ基、置換もしくは無置換のアリールオキシ基、又は、置換もしくは無置換の複素環基を表す。
X20は、水素原子、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、又は、置換もしくは無置換の複素環基を表す。
X21は、水酸基、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、又は、置換もしくは無置換の複素環基を表す。
X22~X24は、それぞれ独立に、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、又は、置換もしくは無置換の複素環基を表す。
【0038】
ここで、上記R4~R11、及びX1~X24におけるアルキル基は、それぞれ独立して選択される。アルキル基は、置換基を有しても、非置換であってもよい。
アルキル基としては、直鎖状または分岐鎖状のアルキル基が挙げられる。具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基、オクタデシル基、イソプロピル基、イソブチル基、イソペンチル基、2-エチルヘキシル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、sec-ペンチル基、tert-ペンチル基、tert-オクチル基、及びネオペンチル基等を挙げることができる。アルキル基の炭素数は、1~30の範囲内であることが好ましい。上記炭素数は、1~20の範囲がより好ましく、1~10の範囲がさらに好ましい。
【0039】
上記アルキル基における置換基としては、フッ素、塩素、臭素等のハロゲン原子、水酸基、アミノ基、ニトロ基、ホルミル基、シアノ基、カルボキシル基等の他、上述したアルキル基、後述するアリール基、シクロアルキル基、複素環基が挙げられる。また、構造の一部が、アミド結合(-NHCO-)、エステル結合(-COO-)、エーテル結合(-O-)、ウレア結合(-NHCONH-)、又はウレタン結合(-NHCOO-)で置換されている場合、その置換部分も「置換基」とみなす。
…(中略)…
【0060】
本発明の一実施形態は、上記蛍光色素を含む蛍光標識剤に関する。この蛍光標識剤は、生化学研究から医療診断までの幅広い分野において、バイオイメージングでの蛍光標識のために応用可能である。例えば、遺伝子診断分野、免疫診断分野、医療開発分野、再生医療分野、環境試験分野、バイオテクノロジー分野、及び蛍光検査等の分野において、蛍光標識等の用途で使用することができる。
【0061】
なかでも、上記実施形態の蛍光標識剤は、蛍光色素における、-Z-R1-R2-R3で表される構造(置換基)が、リン脂質に対して相互作用する機能を担っている。そのため、リン脂質集積型の蛍光標識剤として好適に使用できる。リン脂質集積型蛍光標識剤は、細胞膜の染色、エクソソームの追跡、及びドラッグデリバリーシステム(DDS)のためのリポソームイメージングなどにおいて、蛍光標識剤として好適に使用できる。
【0062】
上記実施形態の蛍光標識剤において、蛍光色素の濃度は特に限定されない。例えば、細胞を取り扱う場合、細胞の機能障害、及び増殖阻害等への影響を考慮すると、蛍光色素の濃度は低い方が好ましい。一実施形態において、例えば、96ウェルプレートに播種した10,000cells/wellの細胞に対する上記蛍光色素の濃度は、100μM以下であることが好ましい。上記濃度は、50μM以下であることがより好ましく、10μM以下であることがさらに好ましい。上記実施形態の蛍光標識剤によれば、リン脂質への優れた集積性によって、低濃度の蛍光色素であっても高い蛍光強度でイメージングできる。そのため、例えば2μM以下の低濃度であっても、より高精度な検出を行うことができる。
【0063】
上記実施形態の蛍光標識剤は、上記実施形態の蛍光色素を含有していればよいが、必要に応じて、その他の成分を含有してもよい。その他の成分としては、当技術分野で周知の成分であってよい。例えば、溶剤、及び両親媒性物質等が挙げられる。」
(2) 引用文献4の記載事項及び引用発明の認定
ア 引用文献4に記載された事項
原査定の拒絶の理由において引用された、優先日前に発行された文献である引用文献4(特開2019-218374号公報)には、次の記載がある(なお、当合議体により、後記イの引用発明の認定に直接用いる記載に下線を付した。)。
(ア) 特許請求の範囲
「【請求項1】
(a)標的化分子に連結されたフタロシアニン色素を含むコンジュゲートを生産する条件下で、標的化分子をフタロシアニン色素と接触させる工程;および
(b)該コンジュゲートを薬学的に許容される緩衝液中で製剤化する工程
を含む、フタロシアニン色素-標的化分子コンジュゲートを製造する方法であって、
工程(a)~(b)の各々において、
該色素およびコンジュゲートが曝露される唯一の光が約400nm~約650nmの範囲内の波長を有するか、または
該色素およびコンジュゲートが曝露される唯一の光が500ルクス未満の強度を有する、
方法。
…(中略)…
【請求項29】
フタロシアニン色素が、式:
[図:0001432536000004.jpg]
を含み、式中、
Lは、リンカーであり;
Qは、標的化分子への色素の付着のための反応性基であり;
R2、R3、R7、およびR8は、各々独立して、置換されてもよいアルキルおよび置換されてもよいアリールの中から選択され;
R4、R5、R6、R9、R10、およびR11は、各々独立して、水素、置換されてもよいアルキル、置換されてもよいアルカノイル、置換されてもよいアルコキシカルボニル、置換されてもよいアルキルカルバモイル、およびキレート配位子の中から選択され、ここで、R4、R5、R6、R9、R10、およびR11の少なくとも1つは、水溶性基を含み;
R12、R13、R14、R15、R16、R17、R18、R19、R20、R21、R22およびR23は、各々独立して、水素、ハロゲン、置換されてもよいアルキルチオ、置換されてもよいアルキルアミノおよび置換されてもよいアルコキシの中から選択され;かつ
X2およびX3は、各々独立して、ヘテロ原子が介在していてもよいC1-C10アルキレンである、
請求項1~28のいずれか一項記載の方法。
【請求項30】
反応性基が、アミン反応性化学基、スルフヒドリル反応性化学基、活性化エステル、ハロゲン化アシル、ハロゲン化アルキル、無水物、カルボン酸、カルボジイミド、カルボナート、カルバマート、ハロアセトアミド、イソシアナート、イソチオシアナート、マレイミド、ホスホロアミダイト、白金錯体、スルホン酸エステルおよびチオシアナートの中から選択される、請求項1~29のいずれか一項記載の方法。」
(イ) 段落【0001】~【0407】
「【技術分野】
【0001】
分野
本出願は、2015年8月18日に出願された「フタロシアニン色素-巨大分子コンジュゲートを製造するための方法および安定なコンジュゲート(Methods for Manufacturing Phthalocyanine Dye-Macromolecule Conjugates and Stable Conjugates)」という表題の米国仮特許出願第62/206,774号の優先権を主張するものであり、その内容は、参照によってその全体が組み入れられる。
…(中略)…
【0003】
分野
本開示は、いくつかの局面において、フタロシアニン色素を含有するコンジュゲートを製造するための方法であって、コンジュゲートを調製または生産する工程、コンジュゲートを製剤化する工程および保存用にコンジュゲートをパッケージングする工程の1つまたは複数の工程を含む、方法に関する。いくつかの局面において、該製造方法は、安定なコンジュゲートの生成をもたらす。いくつかの局面において、本開示は、安定なフタロシアニン色素コンジュゲート、安定なコンジュゲートを含有する組成物および製造品、ならびに光免疫療法のための対象へのそれらの投与方法にさらに関する。いくつかの態様において、フタロシアニン色素コンジュゲートは、例えば細胞表面タンパク質への結合によってコンジュゲートに細胞または病原体をターゲティングするように(標的指向)させる標的化分子、例えば抗体に、コンジュゲートされている。
【背景技術】
【0004】
背景
種々の治療法が癌などの疾患を処置するために利用可能である。例えば、光免疫療法(PIT)は、特定の細胞を標的とした殺傷を可能にするために、細胞表面標的分子、例えば細胞表面受容体を標的とする抗体または他の標的化分子にコンジュゲートされた光増感剤を使用する方法である。いくつかの場合では、PITは、腫瘍細胞のような疾患細胞を選択的にターゲティングすることができ、それによって、健常細胞を損傷することなくこのような細胞を選択的に殺傷することができる。このような方法における使用のためにフタロシアニン色素コンジュゲートを改善する、改善された戦略、例えば、PITに使用されたときにコンジュゲートの光分解を最小限に抑えるかまたは回避しかつコンジュゲートの活性を改善する戦略が必要とされている。このような必要性を満たす方法およびコンジュゲートが提供される。
【発明の概要】
【0005】
概要
いくつかの態様において、フタロシアニン色素コンジュゲートを製造する方法が提供される。いくつかの態様において、本方法は、標的化分子、例えば巨大分子と、フタロシアニン色素(いくつかの場合では、反応性化学基を含有する)とを、標的化分子に連結、例えば共有結合されたフタロシアニン色素を含有するコンジュゲートを生産する条件下で、接触させる工程を含む。いくつかの態様において、本方法は、コンジュゲートを薬学的に許容される緩衝液中で製剤化する工程を含む。いくつかの態様において、コンジュゲートの調製の前、間、および/または後に、色素およびコンジュゲートが曝露される唯一の光は、約400nm~約650nmの範囲内の波長を有する。いくつかの態様において、コンジュゲートの調製の前、間、および/または後、例えば接触工程および/または製剤化工程の間、色素およびコンジュゲートが曝露される唯一の光は、500ルクス未満の強度を有する。
…(中略)…
【0135】
本明細書に提供される併用療法における使用のためのフタロシアニン色素コンジュゲートは、リンカー基を介して標的化分子にコンジュゲートされた色素分子を含む。一局面において、本コンジュゲートは、式Iで示されるコンジュゲートである:
A-[(L)n-D]p
(I)
式中、
Aは、細胞または組織に結合することができる標的化分子であり;
Lは、各pについて独立して選択されるリンカーであり;
nは、1または2であり;
Dは、各pについて独立して選択される親水性フタロシアニン色素であり;かつ
pは、独立して、1、2、3、4、5または5超、例えば最大1000である。例えば、pは、1~1000、例えば一般に1~10または2~5であることができる。
【0136】
フタロシアニンは、フタロシアニン環系を有する光増感剤化合物の一群である。フタロシアニンは、炭素原子と窒素原子が交互に並んだ16員環中に窒素の橋によって接続された4つのベンゾインドール基を含有するアザポルフィリン(すなわち、C32H16N8)であり、これは、金属および非金属カチオンと安定なキレートを形成する。これらの化合物において、環中心は、イオンに依存して1または2つのリガンドを保有し得る金属イオン(反磁性または常磁性イオンのいずれか)によって占有されている。加えて、環周囲は、非置換であっても置換されていてもよい。多種多様なフタロシアニンの合成および光線力学療法における使用が国際公開WO 2005/099689号および米国特許第7,005,518号に記載されている。
【0137】
いくつかの態様において、フタロシアニンは、赤色または近赤外線を強く吸収し、吸収ピークは約600~810nmの間にあり、いくつかの場合では、光による組織の深い透過を可能にする。フタロシアニンは、一般に光安定性である。この光安定性は、典型的には、顔料および色素においてならびにフタロシアニンの他の適用の多くにおいて有利である。
【0138】
いくつかの態様において、フタロシアニン色素は、水溶性であり、かつ、少なくとも1つの水系可溶化部分を有する発光性フルオロフォア部分を含有する。いくつかの態様において、水系可溶化部分は、ケイ素を含有する。いくつかの態様において、フタロシアニン色素は、Si、Ge、Sn、またはAlのようなコア原子を有する。いくつかの態様において、フタロシアニン色素は、他の異性体を本質的に含まない単一のコア異性体として存在する。いくつかの態様において、フタロシアニン色素は、リンカーと標的化分子との間に結合を形成することができる反応性基または活性化可能な基を有するリンカーを含有する。いくつかの態様において、フタロシアニン色素を特定の波長で蛍光を発するよう調整することができる。
【0139】
いくつかの態様において、フタロシアニン色素は、リンカーを含有し、すなわち、リンカー-フタロシアニン色素部分(L-D)である。いくつかの態様において、リンカーは、反応性基を含有する。いくつかの態様において、フタロシアニン色素は、式IIで示されるフタロシアニン色素である:
[図:0001432536000005.jpg]
式中、
Lは、直接連結、または共有連結から選択され;
Qは、リンカーLの一部であることができ、かつ、反応することでLと標的化分子Aとの間に結合を形成することができる任意の基である、反応性基または活性化可能な基であり;
R2、R3、R7、およびR8は、各々独立して、置換されてもよいアルキルおよび置換されてもよいアリールから選択され;
R4、R5、R6、R9、R10、およびR11は、存在するならば、各々独立して、水素、置換されてもよいアルキル、置換されてもよいアルカノイル、置換されてもよいアルコキシカルボニル、置換されてもよいアルキルカルバモイル、またはキレート配位子から選択され、ここで、R4、R5、R6、R9、R10、およびR11の少なくとも1つは、水溶性基を含み;
R12、R13、R14、R15、R16、R17、R18、R19、R20、R21、R22およびR23は、各々、水素、ハロゲン、置換されてもよいアルキルチオ、置換されてもよいアルキルアミノまたは置換されてもよいアルコキシから独立して選択することができる官能基であるか;
または、代わりの態様において、i)R13およびR14とこれらが付着している炭素、またはii)R17およびR18とこれらが付着している炭素、またはiii)R21およびR22とこれらが付着している炭素の少なくとも1つが結びついて、縮合環を形成し;かつ
X2およびX3は、各々独立して、ヘテロ原子が介在していてもよいC1-C10アルキレンである。
【0140】
いくつかの態様において、Lは、共有連結である。いくつかの態様において、共有連結は、1~60の原子、例えば1~45の原子または1~25の原子を有する、直鎖または分岐、環式または複素環式、飽和または不飽和である。いくつかの場合では、このような原子は、C、N、P、O、およびSから選択されることができる。いくつかの態様において、Lは、原子価を満たす追加の水素原子(1~60の原子に加えて)を有することができる。一般に、連結は、エーテル、チオエーテル、アミン、エステル、カルバマート、尿素、チオ尿素、オキシもしくはアミド結合;または単結合、二重結合、三重結合もしくは芳香族炭素-炭素結合;またはリン-酸素、リン-硫黄、窒素-窒素、窒素-酸素もしくは窒素-白金結合;または芳香族もしくは複素芳香族結合の任意の組み合わせを含有する。
【0141】
いくつかの態様において、Lは、式-R1-Y-X1-Y1-で示されるLであり、式中、R1は、二価ラジカルまたは直接連結であり;YおよびY1は、各々独立して、直接連結、酸素、置換されてもよい窒素、または硫黄から選択され;かつ、X1は、直接連結、およびある原子が介在していてもよいC1-C10アルキレンから選択される。二価ラジカルは、非限定的に、置換されてもよいアルキレン、置換されてもよいアルキレンオキシカルボニル、置換されてもよいアルキレンカルバモイル、置換されてもよいアルキレンスルホニル、および置換されてもよいアリーレンを含む。
【0142】
例示的なR1置換基は、非限定的に、置換されてもよいアルキレン、置換されてもよいアルキレンオキシカルボニル、置換されてもよいアルキレンカルバモイル、置換されてもよいアルキレンスルホニル、置換されてもよいアルキレンスルホニルカルバモイル、置換されてもよいアリーレン、置換されてもよいアリーレンスルホニル、置換されてもよいアリーレンオキシカルボニル、置換されてもよいアリーレンカルバモイル、置換されてもよいアリーレンスルホニルカルバモイル、置換されてもよいカルボキシアルキル、置換されてもよいカルバモイル、置換されてもよいカルボニル、置換されてもよいヘテロアリーレン、置換されてもよいヘテロアリーレンオキシカルボニル、置換されてもよいヘテロアリーレンカルバモイル、置換されてもよいヘテロアリーレンスルホニルカルバモイル、置換されてもよいスルホニルカルバモイル、置換されてもよいチオカルボニル、置換されてもよいスルホニル、および置換されてもよいスルフィニルを含む。
【0143】
いくつかの態様において、Qは、標的化分子のような材料への任意の付着のための反応性基を含有する。本明細書において使用される場合、用語「反応性基」または「反応性化学基」は、異なる材料(例えば、標的化分子)上の官能基と化学的に反応して共有連結のような連結を形成することが可能な化合物上の部分を意味する。典型的には、反応性基は、それぞれ求核剤または求電子剤である対応する官能基への曝露を通して共有連結を形成することができる求電子剤または求核剤である。あるいは、反応性基は、光活性化可能な基であり、かつ、適切な波長の光で照射した後に初めて化学的に反応性になる。典型的には、コンジュゲートされる反応性色素と標的化分子との間のコンジュゲーション反応によって、色素をコンジュゲートされた標的化分子に付着させる新たな連結に反応性基Qの1つまたは複数の原子が組み込まれる。
【0144】
いくつかの態様において、Qは、標的化分子上のカルボキシル基、アミン、またはチオール基と反応性である反応性基を含有する。好適な反応性基は、非限定的に、標的化分子への任意の付着のための、アミン反応性化学基、スルフヒドリル反応性化学基、活性化エステル、ハロゲン化アシル、ハロゲン化アルキル、無水物、カルボン酸、カルボジイミド、カルボナート、カルバマート、ハロアセトアミド(例えば、ヨードアセトアミド)、イソシアナート、イソチオシアナート、マレイミド、NHSエステル、ホスホロアミダイト、白金錯体、スルホン酸エステルおよびチオシアナートを含む。いくつかの態様において、反応性基は、標的化分子上のカルボキシル基、アミン、またはチオール基と反応性である。いくつかの態様において、反応性基は、スルフヒドリル反応性化学基、例えばマレイミド、ハロアセチル、およびピリジルジスルフィドである。いくつかの態様において、反応性基は、アミン反応性である。いくつかの態様において、反応性基は、NHSエステルである。
【0145】
いくつかの態様において、R2、R3、R7、およびR8は、各々、置換されてもよいアルキル、例えば置換されてもよいメチル、エチル、またはイソプロピル基である。
【0146】
いくつかの態様において、R4、R5、R6、R9、R10、およびR11の少なくとも1つは、水溶性基を含有する。例えば、R4、R5、R6、R9、R10、およびR11のアルキル部分は、水溶性置換基で置換されている。本明細書において使用される場合、「水溶性基」は、水性媒体中の分子全体の溶解度を改善する、1つまたは複数の極性および/またはイオン性置換基を含む基を指す。いくつかの場合では、R4、R5、R6、R9、R10、およびR11の少なくとも2つは、水溶性基を含む。他の態様において、3つ以上が水溶性基を含む。水溶性基は、非限定的に、カルボキシラート(-CO2-)基、スルホナート(-SO3-)基、スルホニル(-SO2-)基、スルファート(-SO4-2)基、ヒドロキシル(-OH)基、ホスファート(-OPO3-2)基、ホスホナート(-PO3-2)基、アミン(-NH2)基および置換されてもよい第四級窒素(各々が任意の対イオンを有する)を含む。
【0147】
好適な対イオンは、非限定的に、ナトリウム、カリウム、カルシウム、アンモニウム、有機アミノ塩、またはマグネシウム塩、または類似の塩を含む。好ましくは、対イオンは、生物学的に許容される対イオンである。
【0148】
いくつかの態様において、R4、R5、R6、R9、R10、およびR11が付着する窒素原子は、三価または四価であることができる。
【0149】
いくつかの態様において、R12、R13、R14、R15、R16、R17、R18、R19、R20、R21、R22およびR23は各々、水素である。
【0150】
いくつかの態様において、X2およびX3は、各々独立して、ある原子が介在していてもよいC1-C10アルキレンから選択される。いくつかの態様において、X2および/またはX3に付加された窒素は、場合により四級化されていることができる。
【0151】
いくつかの態様において、フタロシアニン色素は、式IIIで示されるフタロシアニン色素である:
[図:0001432536000006.jpg]
式中、
X1およびX4は、各々独立して、ヘテロ原子が介在していてもよいC1-C10アルキレンであり;かつ
R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9、R10、R11、R16、R17、R18、R19、X2、およびX3は、本明細書に定義されているとおりである。
【0152】
いくつかの態様において、反応性基は、NHSエステルである。いくつかの態様において、NHSエステルの反応性は、NHSエステルとカルバマート官能基の間のX4のアルキレン基の長さを変更することによって調節することができる。いくつかの態様において、NHSエステルとカルバマート官能基の間のX4のアルキレン基の長さは、NHSエステルの反応性に反比例する。いくつかの態様において、X4は、C5-アルキレンである。他の態様において、X4は、C3-アルキレンである。いくつかの態様において、X1は、C6-アルキレンである。他の態様において、X1は、C3-アルキレンである。
【0153】
いくつかの態様において、フタロシアニン色素は、総電荷がゼロである。この中性の電荷は、特定の場合、1つまたは複数の任意の対イオン、または第四級化窒素と共に得ることができる。
【0154】
いくつかの態様において、フタロシアニン色素は、可溶性標的化分子に付着すると、標的化分子がその溶解度を保持するので、水溶液中で十分な溶解度を有する。いくつかの態様において、色素はまた、有機媒体(例えば、DMSOまたはDMF)中で可溶性である。
【0155】
いくつかの態様において、フタロシアニン色素は、近赤外(NIR域)において最大の光吸収を有する。いくつかの態様において、フタロシアニン色素は、600nm~850nmの間、例えば680nm~850nmの間、例えばおよそ690nm±50nmまたは690±20nmで最大の光吸収波長を有する。いくつかの態様において、フタロシアニン色素は、これらの波長で光を放出する市販のレーザーダイオードによって効率的に励起されうる。
【0156】
いくつかの態様において、反応性基を含有するフタロシアニン色素は、IR700 NHSエステル、例えばIRDye 700DX NHSエステル(LiCor 929-70010、929-70011)である。したがって、いくつかの態様において、色素は、以下の式を有する化合物である。
[図:0001432536000007.jpg]
…(中略)…
【0235】
いくつかの態様において、フタロシアニン色素は、標的化分子に共有連結される、例えば、共有結合される。いくつかの態様において、フタロシアニン色素(例えば、IR700)は、それを標的化分子に連結する反応性基を含有する。いくつかの態様において、標的化分子(例えば、抗体)とフタロシアニン色素(例えば、IR700)、例えば反応性化学基を含有する色素との接触は、標的化分子の付着基に連結された色素を含有するコンジュゲートを生産する。いくつかの態様において、付着は、例えばリンカーを通じた、間接連結を含む。例示的なリンカーは、上に記載される。いくつかの態様において、付着は、直接連結、または共有連結を含み、共有連結は、例えばC、N、P、O、およびSの中から選択される1~60の原子を有する、直鎖または分岐、環式または複素環式、飽和または不飽和である。いくつかの態様において、付着は、エーテル、チオエーテル、アミン、エステル、カルバマート、尿素、チオ尿素、オキシまたはアミド結合の任意の組み合わせを含有し得る。いくつかの態様において、付着は、単結合、二重結合、三重結合もしくは芳香族炭素-炭素結合、リン-酸素、リン-硫黄、窒素-窒素、窒素-酸素、窒素-白金結合、または芳香族もしくは複素芳香族結合を含み得る。
…(後略)」
イ 引用発明の認定
前記アに摘記した引用文献4の記載事項を総合すると、引用文献4には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。なお、括弧内に根拠となる引用文献4の記載箇所を示す。
<引用発明>
「次の式で表されるフタロシアニン色素。
式:
[図:0001432536000008.jpg]
式中、
Lは、リンカーであり;
Qは、標的化分子への色素の付着のための反応性基であり;
R2、R3、R7、およびR8は、各々独立して、置換されてもよいアルキルおよび置換されてもよいアリールの中から選択され;
R4、R5、R6、R9、R10、およびR11は、各々独立して、水素、置換されてもよいアルキル、置換されてもよいアルカノイル、置換されてもよいアルコキシカルボニル、置換されてもよいアルキルカルバモイル、およびキレート配位子の中から選択され、ここで、R4、R5、R6、R9、R10、およびR11の少なくとも1つは、水溶性基を含み;
R12、R13、R14、R15、R16、R17、R18、R19、R20、R21、R22およびR23は、各々独立して、水素、ハロゲン、置換されてもよいアルキルチオ、置換されてもよいアルキルアミノおよび置換されてもよいアルコキシの中から選択され;かつ
X2およびX3は、各々独立して、ヘテロ原子が介在していてもよいC1-C10アルキレンであり、(【請求項29】)
反応性基が、アミン反応性化学基、スルフヒドリル反応性化学基、活性化エステル、ハロゲン化アシル、ハロゲン化アルキル、無水物、カルボン酸、カルボジイミド、カルボナート、カルバマート、ハロアセトアミド、イソシアナート、イソチオシアナート、マレイミド、ホスホロアミダイト、白金錯体、スルホン酸エステルおよびチオシアナートの中から選択され、(【請求項30】)
Lは、共有連結である。(【0140】)」
(3) 本件補正発明と引用発明の対比
ア 本件補正部分発明
(ア) 本件補正発明は多数の選択肢を有する発明であるところ、その一部が新規性又は進歩性を欠如するならば、本件補正発明は新規性又は進歩性が欠如するといえる。
そこで、本件補正発明に包摂されるもののうち、次のaに示す、選択肢の選択をした一部の発明を、引用発明との対比の対象(以下「本件補正部分発明」という。)として選択する。
a 「本件補正部分発明」として、本件補正発明における選択肢の中から次の選択をしたものを考える。
X1~X12:水素原子
X13~X16:三つが水素原子であり、残り一つが置換アルキル基のうちのハロゲン化アルキル基
X17:-Z-R1-R2-R3
Y:4価の金属原子であるSi、k=2
Z:直接結合
二つのR1:独立して-OSiR5R6-
二組のR5及びR6:それぞれ独立に、置換もしくは無置換のアルキル基、又は、置換もしくは無置換のアリール基
二つのR2:独立して炭素数が10以下の無置換のアルキレン基
二つのR3:独立してN+R9R10R11
二組のR9~R11:それぞれ独立に、水素原子、置換もしくは無置換のアルキル基(ただし、前記置換のアルキル基における置換基は、ホルミル基又はシアノ基である。二組のR9~R11における合計6個のR9~R11のうち少なくとも一つは置換アルキル基である。)
b 「本件補正部分発明」は、次の事項に特定されるとおりのものである。
<本件補正部分発明>
「下記一般式(3)で表される化合物。
[図:0001432536000009.jpg]
(式中、X1~X12は、水素原子を表す。
X13~X16:三つが水素原子であり、残り一つがハロゲン化アルキル基である。
X17は、-Z-R1-R2-R3を表す。
Yは、4価の金属原子であるSiを表し、kは2である。
式中、Zは、直接結合を表す。
二つのR1は、独立して-OSiR5R6-、を表す。
二つのR2は、独立して炭素数が10以下の無置換のアルキレン基を表す。
二つのR3は、独立してN+R9R10R11を表す。
前記二組のR5及びR6は、それぞれ独立に、置換もしくは無置換のアルキル基、又は、置換もしくは無置換のアリール基を表す。
前記二組のR9~R11は、それぞれ独立に、水素原子、置換もしくは無置換のアルキル基(ただし、前記置換のアルキル基における置換基は、ホルミル基又はシアノ基である。合計6個のR9~R11のうち少なくとも一つは置換アルキル基である。)を表す。」
イ 本件補正部分発明と引用発明の対比
(ア) 対比分析
a X1からX12
引用発明におけるR12~R23は、それぞれ本件補正発明におけるX1からX12に相当する。
そうすると、本件補正部分発明と引用発明は、X1からX12が「各々独立して、水素、ハロゲン、置換されてもよいアルキルチオ、置換されてもよいアルキルアミノおよび置換されてもよいアルコキシの中から選択される」との条件を満たす限りにおいて一致し、
X1からX12が、
本件補正部分発明においては、水素であるのに対して、
引用発明においては、「各々独立して、水素、ハロゲン、置換されてもよいアルキルチオ、置換されてもよいアルキルアミノおよび置換されてもよいアルコキシの中から選択される」点において相違する。
b X13からX16
引用発明におけるQがリンクしているベンゼン環の水素又はQ-Lは、本件補正発明におけるX13からX16に相当する。
本件補正部分発明と引用発明は、X13からX16のうち三つが「水素」である点において一致し、
X13からX16のうちの残りの一つが、
本件補正部分発明においては、ハロゲン化アルキル基であるのに対して、
引用発明においては、X13からX16のうちの残りが「Q-L」
(ここで、Q-Lについては、Lは共有連結であり、Qは、標的化分子への色素の付着のための反応性基であり、アミン反応性化学基、スルフヒドリル反応性化学基、活性化エステル、ハロゲン化アシル、ハロゲン化アルキル、無水物、カルボン酸、カルボジイミド、カルボナート、カルバマート、ハロアセトアミド、イソシアナート、イソチオシアナート、マレイミド、ホスホロアミダイト、白金錯体、スルホン酸エステルおよびチオシアナートの中から選択される。)である点において相違する。
c X17(-Z-R1-R2-R3)について
(a) Zについて
引用発明の構造式から、引用発明において本件補正部分発明のZに相当するものは、直接結合である。
したがって、本件補正部分発明と引用発明は、次の点において一致する。
「Zが直接結合である」点。
(b) R1について
引用発明の構造式から、引用発明において本件補正部分発明のR1に相当するものは、「-OSiR2R3-」及び「-OSiR7R8-」(R2、R3、R7、およびR8は、各々独立して、置換されてもよいアルキルおよび置換されてもよいアリールの中から選択され[る。])である。
そうすると、本件補正部分発明と引用発明は、次の点において一致する。
「二つのR1は、独立して-OSiR5R6-、を表す」及び「前記二組のR5及びR6は、それぞれ独立に、置換もしくは無置換のアルキル基、又は、置換もしくは無置換のアリール基を表す」点。
(c) R2について
引用発明の構造式から、引用発明において本件補正部分発明のR2に相当するものは、「X2」及び「X3」である。
そうすると、本件補正部分発明と引用発明は、二つのR2が「各々独立して、ヘテロ原子が介在していてもよいC1-C10アルキレンであ[る]」という条件を満たす点において一致し、
二つのR2が、
本件補正部分発明においては、「炭素数が10以下の無置換のアルキレン基」であるのに対して、
引用発明においては、「各々独立して、ヘテロ原子が介在していてもよい炭素数が10以下の無置換のアルキレン基」である点において相違する。
(d) R3について
引用発明の構造式から、引用発明において本件補正部分発明のR3に相当するものは、「-N+R4R5R6」及び「-N+R9R10R11」である。
そうすると、本件補正部分発明と引用発明は、「二つのR3は、互いに独立してN+R9R10R11を表す」点において一致し、
二組のR9~R11が、
本件補正部分発明においては、「それぞれ独立に、水素原子、置換もしくは無置換のアルキル基(ただし、前記置換のアルキル基における置換基は、ホルミル基、シアノ基である。)を表す」のに対して、
引用発明においては、「各々独立して、水素、置換されてもよいアルキル、置換されてもよいアルカノイル、置換されてもよいアルコキシカルボニル、置換されてもよいアルキルカルバモイル、およびキレート配位子の中から選択され、ここで、二組のR9~R11における合計6個のR9~R11(R4、R5、R6、R9、R10及びR11)の少なくとも1つは、水溶性基を含[む]」点において相違する。
(e) X17が「-Z-R1-R2-R3」と表せること
前記(a)~(d)の検討結果を踏まえると、本件補正部分発明と引用発明は次の点で一致する。
X17は、-Z-R1-R2-R3を表す点。
d Y及びkについて
引用発明において、Yに相当するものは、Siである。
そうすると、本件補正部分発明と引用発明は、次の点において一致する。
「Yは、4価の金属原子であるSiを表し、kは2である」点
(イ) 一致点及び相違点
前記(ア)の対比分析の結果をまとめると、本件補正部分発明の引用発明との一致点及び相違点は、それぞれ、次のa及びbに示すとおりである。
a 本件補正部分発明の引用発明との一致点
「下記一般式(3)で表される化合物。
[図:0001432536000010.jpg]
(式中、X1~X12は、各々独立して、水素、ハロゲン、置換されてもよいアルキルチオ、置換されてもよいアルキルアミノおよび置換されてもよいアルコキシの中から選択される。
X13からX16のうち三つが「水素」である。
X17は、-Z-R1-R2-R3を表す。
Yは、4価の金属原子であるSiを表し、kは2である。
式中、Zは、直接結合を表す。
二つのR1は、独立して-OSiR5R6-を表す。
前記二組のR5及びR6は、それぞれ独立に、置換もしくは無置換のアルキル基、又は、置換もしくは無置換のアリール基を表す。
二つのR2は、各々独立して、ヘテロ原子が介在していてもよいC1-C10アルキレンを表す。
二つのR3は、互いに独立してN+R9R10R11を表す。)」の発明である点。
b 相違点
(a) 部分相違点1
X1からX12が、
本件補正部分発明においては、水素であるのに対して、
引用発明においては、「各々独立して、水素、ハロゲン、置換されてもよいアルキルチオ、置換されてもよいアルキルアミノおよび置換されてもよいアルコキシの中から選択される」点。
(b) 部分相違点2
X13からX16のうちの残りの一つが、
本件補正部分発明においては、ハロゲン化アルキル基であるのに対して、
引用発明においては、X13からX16のうちの残りが「Q-L」
(ここで、Q-Lについては、Lは共有連結であり、Qは、標的化分子への色素の付着のための反応性基であり、アミン反応性化学基、スルフヒドリル反応性化学基、活性化エステル、ハロゲン化アシル、ハロゲン化アルキル、無水物、カルボン酸、カルボジイミド、カルボナート、カルバマート、ハロアセトアミド、イソシアナート、イソチオシアナート、マレイミド、ホスホロアミダイト、白金錯体、スルホン酸エステルおよびチオシアナートの中から選択される。)である点。
(c) 部分相違点3
二つのR2が、
本件補正部分発明においては、「独立して炭素数が10以下の無置換のアルキレン基」であるのに対して、
引用発明においては、「各々独立して、ヘテロ原子が介在していてもよい炭素数が10以下の無置換のアルキレン基」である点。
(d) 部分相違点4
二組のR9~R11が、
本件補正部分発明においては、「それぞれ独立に、水素原子、置換もしくは無置換のアルキル基(ただし、前記置換のアルキル基における置換基は、ホルミル基、シアノ基である。合計6個のR9~R11のうち少なくとも一つは置換アルキル基である。)を表す」のに対して、
引用発明においては、「各々独立して、水素、置換されてもよいアルキル、置換されてもよいアルカノイル、置換されてもよいアルコキシカルボニル、置換されてもよいアルキルカルバモイル、およびキレート配位子の中から選択され、ここで、二組のR9~R11における合計6個のR9~R11(R4、R5、R6、R9、R10及びR11)の少なくとも1つは、水溶性基を含む」点。
(4) 判断
ア 本件補正部分発明は、引用発明において、次の(ア)~(エ)の選択を行ったものに相当する。
(ア) 部分相違点1に係る選択
X1からX12として、
「水素、ハロゲン、置換されてもよいアルキルチオ、置換されてもよいアルキルアミノおよび置換されてもよいアルコキシ」の中から「水素」を選択すること。
(イ) 部分相違点2に係る選択
X13からX16のうちの残りの一つとして、
「アミン反応性化学基、スルフヒドリル反応性化学基、活性化エステル、ハロゲン化アシル、ハロゲン化アルキル、無水物、カルボン酸、カルボジイミド、カルボナート、カルバマート、ハロアセトアミド、イソシアナート、イソチオシアナート、マレイミド、ホスホロアミダイト、白金錯体、スルホン酸エステルおよびチオシアナート」の中から「ハロゲン化アルキル基」を選択すること。
(ウ) 部分相違点3に係る選択
二つのR2として、
「ヘテロ原子が介在していてもよい炭素数が10以下の無置換のアルキレン基」の中から「独立して炭素数が10以下の無置換のアルキレン基」を選択すること。
(エ) 部分相違点4に係る選択
R9~R11として、
「水素、置換されてもよいアルキル、置換されてもよいアルカノイル、置換されてもよいアルコキシカルボニル、置換されてもよいアルキルカルバモイル、およびキレート配位子の中から選択され、ここで、二組のR9~R11における合計6個のR9~R11(R4、R5、R6、R9、R10及びR11)の少なくとも1つは、水溶性基を含む」の中から、「水素原子、置換もしくは無置換のアルキル基(ただし、前記置換のアルキル基における置換基は、ホルミル基、シアノ基である。ここで二組のR9~R11における合計6個のR9~R11(R4、R5、R6、R9、R10及びR11)の少なくとも一つは置換アルキル基である。)」を選択すること。
イ そうすると、本件補正部分発明は引用発明に包摂されるものであるから、本件補正部分発明に新規性及び進歩性が認められるためには、選択発明として進歩性が認められることが必要であり、本件補正部分発明は、「引用発明に無い効果であって、当業者が予測発見困難であり、かつ、格別顕著な効果」を奏することが必要である。
しかるに、本件補正部分発明には、このような効果の存在を認めることができないから、引用発明の選択発明として進歩性を認めることはできず、新規性及び進歩性を欠如していると認められる。
ウ 以上のとおり、本件補正発明は、引用発明に対して新規性及び進歩性を有するとは認められない本件補正部分発明を包摂するものであるから、本件補正発明は、引用発明4に対して新規性及び進歩性を欠如するものである。
(5) 請求人の主張について
請求人は、審判請求書において、「置換もしくは無置換のアルキル基」及び「置換もしくは無置換のアリール基」における置換基の選択群から、それぞれ、水酸基、アミノ基、及びカルボキシル基といった水溶性基を削除することで、引用発明との差異をより明確にしたことにより、本件補正発明は、引用発明と相違し、また引用文献4に基づき容易になし得るものではないことは明らかである旨主張する。
しかしながら、本件補正発明には、置換基としてホルミル基及びシアノ基が含まれており、水溶性基を全て削除したものとはいえないから、前記(4)ウの結論を左右するものではない。
(6) 独立特許要件の判断のまとめ
以上検討のとおり、本願補正発明は、引用文献4に記載された発明である、又は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条1項又は2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
したがって、本件補正により請求項4についてする補正は、特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に適合しない。
4 本件補正の却下の決定の理由のむすび
前記3(6)のとおり、本件補正は、特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するから、同法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
よって、前記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。
第3 本願発明について
1 本願発明について
本件補正は、前記第2のとおり却下したので、本願の請求項5に係る発明(以下「本願発明」という。)は、本件補正前の特許請求の範囲の請求項5(前記第2の1(1)参照)に記載された事項により特定されるとおりのものである。
2 原査定における拒絶の理由の概要
原査定の本願発明に対する拒絶の理由のうち引用文献4に基づく理由1(新規性の欠如)及び理由2(進歩性の欠如)の概要は、次のとおりである。
理由1(新規性の欠如) 本願発明は、優先日前に発行された下記の引用文献4に記載された発明であるから、特許法29条1項3号に該当し、特許を受けることができない。
理由2(進歩性の欠如) 本願発明は、優先日前に発行された下記の引用文献4に記載された発明に基づいて、優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
記
引用文献4.特開2019-218374号公報
3 引用文献4の記載事項及び引用発明の認定
引用文献4に記載された事項及び引用発明の認定は、前記第2の3(2)ア及びイにおいて示したとおりである。
4 引用発明を主引用例とした対比・判断
本願発明は、前記第2の2(1)において検討したとおり、本件補正発明から補正事項1から補正事項4に係る限定を省いたものである。
そうすると、本願発明の構成を全て含み、その構成の一部を限定したものに相当する本件補正発明が、前記第2の3(4)において説示したとおり、引用発明に対して新規性が無い又は引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により引用発明に対して新規性が無い又は引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
第4むすび
以上検討のとおり、本願発明は、特許法29条1項3号に該当するため、又は、特許法29条2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
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2024-007020