特許拒絶査定不服審判
2024-012512
リチウム二次電池用の非水電解液およびそれを含むリチウム二次電池
- 審判番号
- 2024-012512
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2022-557967
- 請求日
- 2024年07月31日
- 審決日
- 2025年06月25日
- 公報発行日
- 2025年12月26日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】エルジー エナジー ソリューション リミテッド
- 【請求人代理人】飯田 雅人
- 【請求人代理人】実広 信哉
- 審判長/審判官
- 審判長 井上 信一
- 審判官 多田 幸司
- 審判官 須原 宏光
- 分類
- P18 .121-Z (H01M) / P18 .575-Z (H01M)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第17条の2第6項、特許法第17条の2第5項第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2022-557967「リチウム二次電池用の非水電解液およびそれを含むリチウム二次電池」拒絶査定不服審判事件〔令和 4年 4月21日国際公開、WO2022/080669、令和 5年 5月 2日国内公表、特表2023-518592〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、2021年9月6日(パリ条約による優先権主張2020年10月13日、韓国)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
令和 5年10月 5日付け:拒絶理由通知
令和 5年12月27日 :意見書、手続補正書の提出
令和 6年 3月26日付け:拒絶査定(原査定)
令和 6年 7月31日 :審判請求書、手続補正書の提出
第2 令和6年7月31日の手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
令和6年7月31日の手続補正を却下する。
[理由]
1.本件補正について
(1)本件補正後の特許請求の範囲
令和6年7月31日の手続補正(以下、「本件補正」という。)により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された(下線部は、補正箇所である。)。
「【請求項1】
リチウム塩、有機溶媒、第1添加剤および第2添加剤を含み、
前記第1添加剤は、下記化学式1aで表される化合物であり、
前記第1添加剤は、電解液の総重量に対して0.01~5重量%で含まれるものであり、
前記第2添加剤は、ビニレンカーボネート、プロパンスルトンおよびLiBF4を含む、リチウム二次電池用の非水電解液。
【化1】
[図:0001429670000001.jpg]
」
(2)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の特許請求の範囲の請求項1の記載は、令和5年12月27日にされた手続補正によりされた次のとおりである。
「【請求項1】
リチウム塩、有機溶媒、および第1添加剤を含み、
前記第1添加剤は、下記化学式1aおよび化学式1bで表される化合物の1種又は2種であり、
前記第1添加剤は、電解液の総重量に対して0.01~5重量%で含まれるものである、リチウム二次電池用の非水電解液。
【化1】
[図:0001429670000002.jpg]
【化2】
[図:0001429670000003.jpg]
」
2.補正の適否
(1)補正の目的について
本件補正は、補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「リチウム二次電池用の非水電解液」について、「第1添加剤」を「化学式1a」で表される化合物に限定し、「第2添加剤」として、「ビニレンカーボネート、プロパンスルトンおよびLiBF4」を含むとの限定を付加するものである。
そして、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一である。
よって、上記補正を含む本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の上記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項に規定する要件に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)否かについて以下に検討する。
(2)本願補正発明
本願補正発明は、上記「1.(1)」の【請求項1】に記載したとおりのものである。
(3)引用例の記載事項
ア.原査定の拒絶の理由に引用された米国特許出願公開第2011/0207000号明細書(以下、「引用例」という。)には、「NITRILE ADDITIVE FOR NON-AQUEOUS ELECTROLYTE RECHARGEABLE ELECTROCHEMICAL CELLS」について、以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した。)。
(ア)「1. An electrochemical system, comprising: a positive electrode; a negative electrode; an electrolyte comprising a lithium salt dissolved in a non-aqueous solvent; and a nitrile component present in amounts ranging from 0.1-3 weight percent of the electrolyte, inclusive, as an additive to the electrolyte.」(clam1)
(当審仮訳:1.正極と、負極と、非水溶媒に溶解したリチウム塩を含む電解液と、電解液への添加剤として、電解液の 0.1 重量%から 3 重量%までの範囲の量で存在するニトリル成分とを備える、電気化学システム。)
(イ)「[0032] An electrolyte solvent system for activating an electrochemical cell, and particularly a lithium-ion cell, is selected which is compatible with the high potential of the cathode material (up to 4.3V vs. Li/Li+) and the low potential of the anode material (down to 0.01V vs. Li/Li+). According to the present invention, a non-aqueous electrolyte includes an inorganic salt, a non-aqueous solvent and a nitrile component.」
(当審仮訳:正極材料の高電位(最大4.3V対Li/Li+)と負極材料の低電位(最小0.01V対Li/Li+)に適合する、電気化学セル、特に、リチウムイオン電池を作動するための電解質溶媒系が選択される。本発明によれば、非水電解液は、無機塩、非水溶媒及びニトリル成分を含んでいる。)
(ウ)「[0038] A preferred inorganic salt included in a non-aqueous electrolyte is a lithium salt. Illustrative examples of lithium salts include LiPF6, LiBF4, LiAsF6, LiSbF6, LiClO4, LiAlCl4, LiGaCl4, LiC(SO2CF3)3, LiN(SO2CF3)2, LiSCN, CF3CF2SO3Li, C6F5SO3Li, LiO2CCF3, LiB(C6H5)4, LiB(C2O4)2, LiBF2(C2O4), LiCF3SO3, and mixtures thereof. A lithium salt is typically present in concentrations ranging from 0.1 to 2.5 moles/liter of solvent. In some embodiments a lithium salt is included in concentrations ranging from 0.2 to 2.0 moles/liter of solvent. In some preferred embodiments a lithium salt is included in concentrations ranging from 0.3 to 1.5 moles/liter of solvent.」
(当審仮訳:非水電解液に含まれる好ましい無機塩は、リチウム塩である。リチウム塩の具体例としては、LiPF6、 LiBF4、 LiAsF6、 LiSbF6、 LiClO4、 LiAlCl4、 LiGaCl4、 LiC(SO2CF3)3、 LiN(SO2CF3)2、 LiSCN、 CF3CF2SO3Li、 C6F5SO3Li、 LiO2CCF3、 LiB(C6H5)4、 LiB(C2O4)2、 LiBF2(C2O4)、 LiCF3SO3、及びそれらの混合物が挙げられる。リチウム塩は典型的には0.1~2.5mol/lの範囲の濃度で存在する。いくつかの実施形態において、リチウム塩は、溶媒の0.2~2.0mol/lの範囲の濃度で含まれている。いくつかの好ましい実施形態において、リチウム塩は、溶媒の0.3~1.5mol/lの範囲の濃度で含まれている。)
(エ)「[0048] A preferred subset of nitrile compounds includes those wherein a nitrile component has the formula:
[図:0001429670000004.jpg]
[0049] wherein R1, R2, R3, R4 and R5 are each independently: H; a halogen; a nitrile moiety; an isocyanate moiety; an ether moiety; a halogen substituted ether moiety; an ester moiety; a halogen substituted ester moiety; or a C1-C3 linear or branched, substituted or unsubstituted alkyl, alkoxy, alkenyl, heteroalkyl, or heteroalkenyl moiety, wherein the C1-C3 linear or branched, substituted or unsubstituted alkyl, alkoxy, alkenyl, heteroalkyl, or heteroalkenyl moiety optionally has a pendant group selected from: a halogen, a nitrile moiety, an isocyanate moiety, an ether moiety, an ester moiety, a C1-C3 linear or branched, substituted or unsubstituted alkyl, alkoxy, alkenyl, heteroalkyl, or heteroalkenyl moiety; and a combination thereof.」
(当審仮訳:ニトリル化合物の好ましいサブセットは、ニトリル成分は次式を有するものを含む。式中、R1、R2、R3、R4、及びR5は、それぞれ独立して、H、ハロゲン、ニトリル基、イソシアネート基、エーテル基、ハロゲン置換エーテル基、エステル基、ハロゲン置換エステル基、又はC1-C3の直鎖または分枝状の、置換もしくは非置換のアルキル基、アルコキシ基、アルケニル基、ヘテロアルキル基、ヘテロアルケニル基、C1-C3の直鎖または分枝状の、置換もしくは非置換のアルキル基、アルコキシ基、アルケニル基、ヘテロアルキル基、ヘテロアルケニル基は所望により、ハロゲン、ニトリル基、イソシアネート基、エーテル基、エステル基、C1-C3の直鎖または分枝状、置換又は非置換のアルキル基、アルコキシ基、アルケニル基、ヘテロアルキル基またはヘテロアルケニル基から選択される側鎖を有する、及びそれらの組み合わせ。)
(オ)「[0054] In addition, benzonitrile compounds having an isocyanate moiety are included as a nitrile component. Such compounds illustratively include 2-cyanophenyl isocyanate, 3-cyanophenyl isocyanate and 4-cyanophenyl isocyanate.」
(当審仮訳:さらに、ニトリル成分として、イソシアネート基を有するベンゾニトリル化合物が含まれる。このような化合物としては、例えば、2-シアノフェニルイソシアネート、3-シアノフェニルイソシアネート、4-シアノフェニルイソシアネートなどが挙げられる。)
(カ)「[0061] An electrochemical system according to the invention has more ionically conducting surface layer, or solid-electrolyte interphase (SEI). For instance, as shown in FIGS. 1, 2, 5, and 8, cells without a nitrile component additive cannot be cycled, while those with nitrile are able to cycle.
EXAMPLES
Example 1
[0062] Effect of a Nitrile Component, 4-Fluorobenzonitrile (FBN), on Electrolyte Stability in an Electrochemical Cell.」
(当審仮訳:本発明に係る電気化学システムは、よりイオン伝導性の高い表面層、すなわち固体電解質界面(SEI)を有する。例えば、図1、2、5、及び8に示すように、ニトリル成分添加剤を含まないセルはサイクル試験が不可能であるのに対し、ニトリルを含むセルはサイクル試験が可能である。
実験例
実験例1
4-フルオロベンゾニトリル (FBN)のニトリル成分が電気化学セルの電解液安定性に与える影響。)
イ.上記記載から、引用例には、次の技術的事項が記載されているものと認められる。
(ア)上記「ア.(ア)」の請求項1、上記「ア.(イ)」の段落[0032]の記載によれば、リチウムイオン電池用の「非水電解液」は、「リチウム塩」、「非水溶媒」、「ニトリル成分」を含むものである。
(イ)上記「ア.(ア)」の請求項1、上記「ア.(カ)」の段落[0061]、[0062]の記載によれば、「ニトリル成分」は、「電解液の 0.1 重量%から 3 重量%までの範囲の量で存在」し、「4-フルオロベンゾニトリル」である。
(ウ)上記「ア.(エ)」の段落[0048]、[0049]、上記「ア.(オ)」の段落[0054]の記載によれば、「ニトリル成分」は次式を有するものから選択されるものであり、
[図:0001429670000005.jpg]
式中、R1、R2、R3、R4、及びR5は、それぞれ独立して、イソシアネート基などからなり、ニトリル成分として、例えば、4-シアノフェニルイソシアネートなどが挙げられるものである。
(エ)上記「ア.(ウ)」の段落[0038]の記載によれば、「非水電解液」に含まれる好ましい無機塩の具体例としては、LiPF6、 LiBF4など及びそれらの混合物である。
ウ.以上のことから、実験例1に着目し、上記記載及び図面を総合勘案すると、引用例には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。
「リチウム塩、非水溶媒、ニトリル成分を含み、
ニトリル成分は、4-フルオロベンゾニトリルであり、
電解液の 0.1 重量%から 3 重量%までの範囲の量で存在し、
無機塩として、LiPF6、 LiBF4など及びそれらの混合物を含む、
リチウムイオン電池用の非水電解液。」
(4)引用文献2の記載事項
ア.原査定の拒絶の理由に引用された米国特許出願公開第2016/0006076号明細書(以下、「引用文献2」という。)には、以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した。)。
(ア)「[0008] One embodiment provides an electrolyte for a rechargeable lithium battery having excellent cycle-life characteristics at a high voltage and capable of suppressing a thickness change at a high temperature.」
(当審仮訳:一実施形態は、高電圧において優れたサイクル寿命特性および高温での厚さ変化を抑制することができるリチウム二次電池用電解液を提供する。)
(イ)「[0034] In one embodiment, a compound represented by the following Chemical Formula 1 as an additive may be used.
[図:0001429670000006.jpg]
[0035] In the above Chemical Formula 1,
[0036] R is a substituted or unsubstituted C1 to C10 alkylene group, a cyclohexylene group, a phenylene group, or a benzylene group.
[0037] The compound represented by the above Chemical Formula 1 has a structure that a functional group such as an isocyanate group and a nitrile group exists in one molecule. The isocyanate group helps formation of a SEI film on the surface of a negative electrode, while the nitrile group may have a strong bond with a transition metal in a positive active material and thus, suppress a side-reaction of an electrolyte with the positive active material and cut off generation of gas and resultantly, protect the positive electrode. In this way, when a compound having two functional groups in one molecule is used as an additive for an electrolyte, excellent cycle-life characteristics may be obtained at a high voltage, and a thickness change may be suppressed by suppressing a side reaction of the electrolyte with an electrode active material at a high temperature and thus, decreasing a gas generation amount.
(当審仮訳:一実施形態では、下記の化学式1で表される添加化合物を使用することができる。前記化学式1において、Rは、置換又は非置換C1~C10アルキレン基、シクロヘキシレン基、フェニレン基、ベンジレン基である。前記化学式1で表される化合物は、一分子中に存在するイソシアネート基及びニトリル基のような官能基構造を有している。イソシアネート基は、負極の表面にSEI膜の形成を助けるとともに、ニトリル基が正極活物質中の遷移金属との強い結合を有することができ、このようにして、正極活物質と電解液の副反応を抑制してガスの発生を遮断し、その結果、正極を保護している。このようにして、電解液用の添加剤として用いられる1分子中に2個の官能基を有する化合物である場合、高電圧で優れたサイクル寿命特性を得ることができるとともに、高温下において電極活物質と電解液の副反応を抑制し、ガスの発生量を減少させることによって、厚さの変化を抑制することができる。)
イ.以上のことから、引用文献2には、次の技術(以下、「公知技術」という。)が本願優先日前に公知であったものと認められる。
「リチウム二次電池用電解液において、一分子中にイソシアネート基及びニトリル基を有する、Rはフェニル基などの化学式1で表される化合物を電解液用の添加剤として用いることで、
[図:0001429670000007.jpg]
イソシアネート基は、負極の表面にSEI膜の形成を助けるとともに、ニトリル基が正極活物質中の遷移金属との強い結合を有することができ、正極活物質と電解液の副反応を抑制してガスの発生を遮断し、高電圧における優れたサイクル寿命特性を得ることができるとともに、高温下における電極活物質と電解液の副反応を抑制し、ガスの発生量を減少させることによって、厚さの変化を抑制することができること。」
(5)対比
本願補正発明と引用発明とを対比する。
引用発明における「リチウム塩」、「非水溶媒」は、それぞれ本願補正発明でいう「リチウム塩」、「有機溶媒」に相当する。また、引用発明における4-フルオロベンゾニトリルからなる「ニトリル成分」は、ニトリル化合物であるという点で、本願補正発明でいう「第1添加剤」に対応する。そして、引用発明における「ニトリル成分」が、電解液の 0.1 重量%から 3 重量%までの範囲の量で存在する点は、本願補正発明で第1添加剤が含まれる量について特定する「電解液の総重量に対して0.01~5重量%」の範囲に含まれる。
そして、引用発明における「リチウムイオン電池」は、本願補正発明でいう「リチウム二次電池」に相当する。してみれば、引用発明におけるリチウムイオン電池用の「非水電解液」は、リチウム塩、有機溶媒、第1添加剤を含み、リチウム二次電池に用いられるものであるので、本願補正発明でいうリチウム二次電池用の「非水電解液」に相当するものである。
ただし、本願補正発明は、「第1添加剤は、下記化学式1aで表される化合物
[図:0001429670000008.jpg]
」であることを特定するのに対して、引用発明は、4-フルオロベンゾニトリルである点、及び本願補正発明は、「ビニレンカーボネート、プロパンスルトンおよびLiBF4を含む」「第2添加剤」を含むことを特定するのに対して、引用発明は、無機塩として、LiPF6、LiBF4など及びそれらの混合物を含むことができるが、具体的に、LiBF4や、その他の第2添加剤を含むことが特定されていない点で相違する。
よって、上記によれば、本願補正発明と引用発明とは、
「リチウム塩、有機溶媒、第1添加剤を含み、
第1添加剤は、電解液の総重量に対して0.01~5重量%で含まれるものである、リチウム二次電池用非水電解液」である点で一致し、次の点で相違する。
[相違点1]
第1添加剤について、本願補正発明は、「下記化学式1aで表される化合物
[図:0001429670000009.jpg]
」であることを特定するのに対して、引用発明は、4-フルオロベンゾニトリルである点。
[相違点2]
本願補正発明は、「ビニレンカーボネート、プロパンスルトンおよびLiBF4を含む」「第2添加剤」を含むことを特定するのに対して、引用発明は、無機塩として、LiPF6、LiBF4など及びそれらの混合物を含むことができるが、具体的に、LiBF4や、その他の第2添加剤を含むことが特定されていない点。
(6)判断
上記各相違点について検討する。
ア.相違点1について
上記「(3)イ.(ウ)」で述べたように、引用例には、ニトリル成分である「4-フルオロベンゾニトリル」を、例えば「4-シアノフェニルイソシアネート」などの他の化合物に置換可能であることが記載されている。ここで、「4-シアノフェニルイソシアネート」は、本願補正発明における「化学式1a」で表される化合物に相当するものである。
そして、上記「(4)イ.」で述べたように、「リチウム二次電池用電解液において、一分子中にイソシアネート基及びニトリル基を有する、Rはフェニル基などの化学式1で表される化合物を電解液用の添加剤として用いることで、
[図:0001429670000010.jpg]
イソシアネート基は、負極の表面にSEI膜の形成を助けるとともに、ニトリル基が正極活物質中の遷移金属との強い結合を有することができ、正極活物質と電解液の副反応を抑制してガスの発生を遮断し、高電圧における優れたサイクル寿命特性を得ることができるとともに、高温下における電極活物質と電解液の副反応を抑制し、ガスの発生量を減少させることによって、厚さの変化を抑制することができること。」は公知技術である。
そうしてみると、引用発明において、公知技術を参照し、ニトリル成分として、4-フルオロベンゾニトリルに代えて、「4-シアノフェニルイソシアネート」を選択し、上記相違点1に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
イ.相違点2について
例えば原査定の拒絶の理由に引用された特開2016-48624号公報(特に、段落【0012】、【0016】、【0018】~【0020】、【0031】を参照)に記載されているように、リチウム二次電池などの非水電解液二次電池の非水電解液に、高温下での特性やサイクル特性を向上させるために、ビニレンカーボネート、プロパンスルトンおよびLiBF4を添加することは周知の技術事項である。よって、LiBF4などの電解質を含むことができる引用発明の非水電解液において、上記周知の技術事項を採用し、上記相違点2に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
よって、上記「ア.」及び「イ.」に検討したように、本願補正発明は引用発明、引用文献2に記載の公知技術及び周知技術から当業者が容易に発明をすることができたものである。
(7)審判請求人の主張について
審判請求人は審判請求書において、本願補正発明では、非水電解液に化学式1aで表される化合物の添加物を含ませることを特徴としているが、ニトリル基の官能基とイソシアネート基の官能基の位置によって低電圧抑制の効果が異なるように現れ、これらの官能基がフェニル基の1、4の位置に置換された化学式1aのパラ化合物は、フェニル基の1、3の位置に置換された化学式1bのメタ化合物よりも低電圧を抑制する効果がより優れており、化学式1aで示される化合物を用いた本願の実施例1~4、10では、化学式1bで示される化合物を用いた実施例5~8と比較して、金属溶出を抑制する効果に優れており、高温貯蔵後の特性および高温充放電の特性に優れているという有利な効果がある旨主張している。
しかし、本願の発明の詳細な説明の段落【0110】、【表1】には、本願の請求項1に係る発明の構成を満たす、フェニル基の1、4の位置に置換された化学式1aのパラ化合物を用いる実施例9は、本願の請求項1に係る発明の構成を満たさない、フェニル基の1、3の位置に置換された化学式1bのメタ化合物を用いる実施例6に対して、高温貯蔵後の特性および高温充放電の特性の全ての特性が下回っていることが示されていることを踏まえると、化学式1aのパラ化合物であれば、電解液の総重量に対して0.01~5重量%の全ての範囲において、化学式1bのメタ化合物の場合に比べて、必ず上記の有利な効果を奏するものとは認められない。
よって、審判請求人の上記主張を採用することはできない。
3.本件補正についてのむすび
以上のとおり、本願補正発明は、引用発明、引用文献2に記載の公知技術及び周知の技術事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
第3 本願発明について
1.本願発明
令和6年7月31日の手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明は、令和5年12月27日にされた手続補正により補正された、特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるものであるところ、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、上記「第2 [理由]1.(2)」の【請求項1】に記載したとおりのものである。
2.原査定の概要
本願の請求項1に対する原査定(令和6年3年26日付け拒絶査定)の拒絶の理由の概要は、以下のとおりである。
この出願の請求項1に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の引用文献1に記載された発明及び引用文献2~3に記載の技術事項に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
記
1.米国特許出願公開第2011/0207000号明細書
2.特開2016-048624号公報
3.米国特許出願公開第2016/0006076号明細書
3.引用例、引用発明
原査定の拒絶の理由で引用した引用例(引用文献1)の記載事項及び引用発明は、上記「第2 [理由]2.(3)」に記載したとおりであり、原査定の拒絶の理由で引用した引用文献3の記載事項及び技術事項は、上記「第2 [理由]2.(4)」に記載したとおりである。
4.対比
本願発明は、上記「第2 [理由]2.」で検討した本願補正発明の発明特定事項である、「リチウム二次電池用の非水電解液」について、「第1添加剤」は、「化学式1a」で表される化合物であることの限定を省き、「下記化学式1aおよび化学式1bで表される化合物の1種又は2種」であることを特定し、さらに、「ビニレンカーボネート、プロパンスルトンおよびLiBF4を含む」「第2添加剤」を含むことの限定を省いたものに相当する。
したがって、本願発明と引用発明とは、以下の[相違点1]において相違し、その余の点で一致するといえる。
[相違点1]
本願補正発明は、「下記化学式1aおよび化学式1bで表される化合物の1種又は2種
【化1】
[図:0001429670000011.jpg]
【化2】
[図:0001429670000012.jpg]
」
であることを特定するのに対して、引用発明は、4-フルオロベンゾニトリルである点。
5.判断
上記「第2 [理由]2.(6)ア.」で検討したとおり、引用発明において、公知技術を参照し、上記相違点1に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
したがって、本願発明は、引用発明、引用文献3の記載の公知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
第4 むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、本願は、その余の請求項について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2024-012512