特許拒絶査定不服審判
2024-008984
炭素繊維用導電性サイジング
- 審判番号
- 2024-008984
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2020-552187外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2024年05月30日
- 審決日
- 2025年10月15日
- 公報発行日
- 2026年03月27日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】ゾルテック コーポレイション
- 【請求人代理人】あいわ弁理士法人
- 分類
- P18 .56 -Z (D06M) / P18 .55 -Z (D06M) / P18 .537-Z (D06M)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法17条の2第3項特許法36条6項2号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第2号、特許法第17条の2第3項、特許法第17条の2第5項第2号、特許法第17条の2第6項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2020-552187「炭素繊維用導電性サイジング」拒絶査定不服審判事件〔令和 1年10月 3日国際公開、WO2019/191411、令和 3年 8月12日国内公表、特表2021-519870〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、2019年(平成31年)3月28日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理 2018年3月28日 米国)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
令和5年 2月16日付け:拒絶理由通知書
同年 7月20日 :意見書、手続補正書の提出
同年10月 3日付け:拒絶理由(最後)通知書
同年12月13日 :意見書、手続補正書の提出
令和6年 2月 2日付け:補正の却下の決定
同日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
同年 5月30日 :審判請求書、手続補正書の提出
第2 令和6年5月30日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和6年5月30日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1 本件補正について
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された。(下線部は、補正箇所である。)
「【請求項1】
繊維と
該繊維の表面に付着されたサイジング組成物であって、少なくとも1種の塗膜形成剤と、400nm~500nmの範囲の平均サイズ及び5nm未満の厚さ並びに200nmから1μmの範囲の粒度分布を有する複数の酸化グラフェンナノ粒子と、を含む乾燥されたサイジング組成物と、
を含む、導電性サイジング処理繊維。」
(2)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の、令和5年7月20日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。
「【請求項1】
繊維と
該繊維の表面に付着されたサイジング組成物であって、少なくとも1種の塗膜形成剤と200nmから1μmの範囲の粒度分布を有する複数の酸化グラフェンナノ粒子とを含む乾燥されたサイジング組成物と、
を含む、導電性サイジング処理繊維。」
2 補正の適否
(1) 補正目的
ア 本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「酸化グラフェンナノ粒子」について、「400nm~500nmの範囲の平均サイズ及び5nm未満の厚さ」との限定を付加するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。
イ なお、請求人は、審判請求書の「3.審判請求時の補正について」において、本件補正は、「不明りょうな記載の釈明」を目的とするものであることを主張している。また、審判請求書の「(4-1)拒絶査定に関連した補正の却下について」において、本件補正と同じ内容の補正である、令和5年12月13日に提出した手続補正書でした補正は、「酸化グラフェンナノ粒子」の特定事項に対する「200nmから1μmの範囲の粒度分布」との記載が不明確であるとの拒絶理由に対して、当該記載不備を解消するための「不明りょうな記載の釈明」を目的とするものであり、「特許請求の範囲の限定的限縮」を目的とするものではない旨主張している。
しかしながら、本件補正は、上記アのとおり、少なくとも、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
(2) 明確性について
ア 明確性要件の判断の前提
特許法第36条第6項第2号は、特許請求の範囲の記載に関し、特許を受けようとする発明が明確でなければならない旨規定する。同号がこのように規定した趣旨は、特許請求の範囲に記載された発明が明確でない場合には、特許の付与された発明の技術的範囲が不明確となり、第三者に不測の不利益を及ぼすことがあり得るので、そのような不都合な結果を防止することにあると解される。そして、特許を受けようとする発明が明確であるか否かは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願当時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。
イ 当審の判断
(ア) 本件補正発明は、「酸化グラフェンナノ粒子」が、「400nm~500nmの範囲の平均サイズ」、「5nm未満の厚さ」、「200nmから1μmの範囲の粒度分布」を有することを特定している。このうち、「200nmから1μmの範囲の粒度分布」を有するとは、「200nmから1μmの範囲」の「酸化グラフェンナノ粒子」が存在することを表しているものと解されるが、「酸化グラフェンナノ粒子」をどのように測定した大きさが当該数値範囲となるのか、特許請求の範囲の記載では特定していない。
(イ) また、発明の詳細な説明及び図面には、「酸化グラフェンナノ粒子」の「粒度分布」について、次の記載がある。
「【0021】
・・・別の実施形態において、当該酸化グラフェンナノ粒子は、図8に示されるような、エッジ部分が酸化された酸化グラフェンナノプレートレット(GONP)である。当該酸化グラフェンナノプレートレットは、400nm~500nmの範囲の平均サイズ及び5nm未満の厚さにおいて、200nmから1μm又は200nmから800nmの範囲の粒度分布を有し得る。」
「【図8】
[図:0001432580000001.jpg]
」
上記【図8】には、概ね長方形の形状であって、図の縦方向の大きさと横方向の大きさが異なる「酸化グラフェンナノプレートレット」が見て取れるところ、段落【0021】の記載によれば、「酸化グラフェンナノプレートレット」が、「400nm~500nmの範囲の平均サイズ及び5nm未満の厚さ」において、「200nmから1μmの範囲の粒度分布」を有するという、本件補正発明に係る特許請求の範囲の記載と同様の記載がある程度で、「酸化グラフェンナノプレートレット」をどのように測定した大きさが、「200nmから1μm」の数値範囲となるのかを特定する記載はない。
(ウ) 更に、粒子の大きさを表す数値は、測定の仕方が異なる様々な定義があることが出願当時における技術常識であるところ、「200nmから1μmの範囲の粒度分布」との記載からは、どのように測定した粒子の大きさが、当該数値範囲となるのか特定できないことは明らかである。
(エ) そうすると、本件補正発明の「200nmから1μmの範囲の粒度分布」を有する「酸化グラフェンナノ粒子」とは、特許請求の範囲の記載、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願当時における技術常識を基礎としても、その数値範囲がどのように測定した大きさであるのか理解することはできない。
そして、当該数値範囲に関する規定により、本件補正発明が一義的に特定されることにならないこととなり、また、このように本件補正発明が判然としない事態は、まさに第三者に不測の不利益を及ぼすほどの状況というほかない。
ウ 請求人の主張について
(ア) 請求人は、審判請求書の「(4-2)査定の理由が解消したことについて」において、同様の表記が、例えば特表2011-513167号公報(【0060】欄など)、特開2016-117639号公報(【0018】欄など)、特許第6113148号公報(【0024】欄など)にも存在していること、及び、例えば特表2011-513167号公報や特許第6113148号公報では、請求項に、ナノプレートレットの厚さや幅の範囲が記載されているものの、どのように測定するかという点を特定事項として記載していないことを示すとともに、本件補正発明の「酸化グラフェンナノ粒子」に関して、どのように測定した大きさであるか理解できないとの拒絶理由については、これを特定する必要なく当業者が理解し得るものである旨主張している。
(イ) そこで、請求人が提示した文献を検討する。
特表2011-513167号公報の段落【0060】には「本方法に従って調製された黒鉛ナノプレートレットは、95%超過が、約0.34~約50nmの厚さ、および、約500nm~約50ミクロンの長さと幅を有する。」との記載があるが、「約500nm~約50ミクロン」の記載には、「長さと幅を有する」と記載されていることから、黒鉛ナノプレートレットの面が、長方形のような「長さ」と「幅」を有する形状と考えて、「長さ」と「幅」を測定した大きさが、「約500nm~約50ミクロン」の数値範囲を有することが読み取れる。
また、特開2016-117639号公報の段落【0018】には、「商品名xGnP(グレードにより平均厚さ1~12nm、平均直径0.3~25μm)」との記載があり、特許第6113148号公報の段落【0024】には、「これらプレートレットは、5~10μm平均直径および数ナノメートル(5~20nm)の厚みを有した。」との記載があるが、「0.3~25μm」と「5~10μm」の記載には、「平均直径」と記載されていることから、xGnP又プレートレットの面が、円の形状であると考えて、円の直径を測定した大きさの平均が、「0.3~25μm」又は「5~10μm」の数値範囲を有することが読み取れる。
そうすると、請求人提示文献はいずれも、ナノ粒子のモデルとなる形状として長方形又は円を仮定し、長方形であればその長さ及び/又は幅、円であればその直径の測定値の分布範囲を「粒度分布」としており、このように測定することが仮に技術常識であるとすると、同一のナノ粒子組成物であっても、仮定する形状によって測定値の分布範囲が異なることは明らかである。
(ウ)しかしながら、本件補正発明に係る特許請求の範囲及び本願明細書には、「長さ」、「幅」、「平均直径」といった、請求人提示文献と同様の表記がなく、長方形と円のどちらの形状を仮定して測定した数値範囲であるのか特定されていない。
そうすると、当業者は、所定のナノ粒子組成物が本件補正発明に含まれるか否かを、本願明細書や上記技術常識を参酌しても判別できず、不測の不利益が及ぶ。
エ 小括
したがって、本件補正発明は、明確でなく、特許法第36条第6項第2号の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
3 本件補正についてのむすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。
第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は、上記第2のとおり却下されたので、本願の請求項1~27に係る発明は、令和5年7月20日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1~27に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、上記「第2[理由]1(2)」に記載のとおりのものである。
2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由の概略は、以下の理由1及び理由2を含むものである。
理由1(新規事項) 令和5年7月20日付け手続補正書でした補正は、下記の点で国際出願日における国際特許出願の明細書若しくは図面の翻訳文、国際出願日における国際特許出願の請求の範囲の翻訳文又は国際出願日における国際特許出願の図面(以下、翻訳文等という。)に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。
理由2(明確性) この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
●理由1について
・請求項 1~27
令和5年7月20日付け手続補正書でした補正により、本願請求項1、7、13、14及び24において、酸化グラフェンナノ粒子が「200nmから1μmの範囲の粒度分布を有する」ものに限定された。
上記補正は、酸化グラフェンナノ粒子全般について、その粒度分布を200nmから1μmの範囲とする新たな技術的事項を導入するものである。
●理由2について
・請求項 1~27
本願請求項1、7、13、14及び24には、酸化グラフェンナノ粒子について「200nmから1μmの範囲の粒度分布」と記載されている。
しかし、「200nmから1μm」について、どのように測定した大きさであるのか、本願明細書及び技術常識から当業者が理解することができない。
3 理由1(新規事項)について
請求人は、本件補正により、請求項1、7、13、14及び24について、「400nm~500nmの範囲の平均サイズ及び5nm未満の厚さ並びに200nmから1μmの範囲の粒度分布を有する複数の酸化グラフェンナノ粒子」との記載の下線部を追加し、審判請求書の「(4-2)査定の理由が解消したことについて」において、この下線部を追加する補正により、理由1の拒絶理由は解消された旨主張しているが、本件補正は、上記第2のとおり却下された。
また、本願の翻訳文等の段落【0021】には、「酸化グラフェンナノ粒子」に関して、「酸化グラフェンナノ粒子」は、「酸化グラフェンナノプレートレット」の形態であること、及び、「酸化グラフェンナノプレートレット」は、「400nm~500nmの範囲の平均サイズ及び5nm未満の厚さにおいて、200nmから1μm・・・の範囲の粒度分布を有し得る」ことが記載されているものの、「400nm~500nmの範囲の平均サイズ及び5nm未満の厚さ」との特定がない「酸化グラフェンナノ粒子」において、「200nmから1μmの範囲の粒度分布」を有することは記載されていない。
また、技術常識を考慮して本願の翻訳文等全体をみても、「酸化グラフェンナノ粒子」が、「400nm~500nmの範囲の平均サイズ及び5nm未満の厚さ」以外において、「200nmから1μmの範囲の粒度分布」を有することが記載されているに等しいとはいえない。
そうすると、令和5年7月20日付け手続補正書でした補正は、「400nm~500nmの範囲の平均サイズ及び5nm未満の厚さ」との特定がない「酸化グラフェンナノ粒子」においても、「200nmから1μの範囲の粒度分布」を有するという、新たな技術的事項を導入するものであり、翻訳文等に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。
4 理由2(明確性)について
本願発明は、「酸化グラフェンナノ粒子」が、「200nmから1μmの範囲の粒度分布」を有することを特定している。そうすると、上記「第2[理由]2(2)」で示した当審の判断は、本願発明についても同様に当てはまる。
したがって、本願発明は、明確でなく、特許法第36条第6項第2号の規定を満たしていない。
第4 むすび
以上のとおり、令和5年7月20日付け手続補正書でした補正は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしておらず、また、本願発明は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2024-008984