特許拒絶査定不服審判
2023-020068
杭の圧入及び引き抜き装置
- 審判番号
- 2023-020068
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2019-183053
- 請求日
- 2023年11月28日
- 審決日
- 2026年02月27日
- 公報発行日
- 2026年05月29日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】SKテクノ株式会社
- 【請求人代理人】下山 冨士男
- 【請求人代理人】前田 和男
- 審判長/審判官
- 審判長 有家 秀郎
- 審判官 石川 信也
- 審判官 西田 秀彦
- 分類
- P18 .537-WZ (E02D) / P18 .55 -WZ (E02D) / P18 .561-WZ (E02D) / P18 .57 -WZ (E02D)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法17条の2第3項特許法36条6項2号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第17条の2第5項、特許法第17条の2第3項、特許法第36条第6項第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2019-183053「杭の圧入及び引き抜き装置」拒絶査定不服審判事件〔令和 3年 4月15日出願公開、特開2021- 59850〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、令和元年10月3日の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
令和 5年 2月27日付け:拒絶理由通知書
同年 5月30日 :意見書、手続補正書の提出
同年 8月24日付け:拒絶査定(以下、「原査定」という。)
同月28日 :原査定の送達
同年11月28日 :審判請求書、手続補正書の提出
令和 6年12月13日付け:拒絶理由通知書
令和 7年 2月12日 :意見書、手続補正書の提出
同年 9月25日付け:拒絶理由(最後の拒絶理由)通知書
同年11月25日 :意見書、手続補正書の提出
第2 令和7年11月25日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和7年11月25日にされた手続補正書による補正を却下する。
[理由]
1 補正の内容
令和7年11月25日にされた手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)は、下記(1)に示す本件補正前の、令和7年2月12日にされた手続補正書による補正後の請求項1を、下記(2)に示す本件補正後のとおり補正するものである(補正箇所を示す下線は、当審で付した。)。
(1)本件補正前
「【請求項1】
機体に上下揺動可能に取り付けたパワーアームと、この先端に突設したブームとを具備し、装置の構成要素の重量バランスを良好として杭の圧入や引き抜き動作時に装置の後端側が持ち上がってしまうような不具合を解消するために、当該パワーアームとブームの取り付け位置におけるブームの手前端部の位置、換言すると、装置の操作者側から見て、前記ブームの最も手前の端部に近接した部分位置にウィンチを配置した構成とし、このように配置構成した当該ウィンチにワイヤロープを連結構成し、前記ブームの先端側にウィンチの動力を伝達する滑車群を配置し、この滑車群の下部に前記滑車群により吊持された動滑車及び地盤側に圧入された杭の上端側に、杭頭を係脱可能に係止するチャックからなる係止体を設けたとともに、
前記ブームと地盤側との間に、圧縮方向に作用させて上下方向に伸縮駆動可能なジャッキ又はシリンダ等よりなるアクチュエータで構成した支柱部を設け、当該支柱部の下端部には、チャック27を設けるか、又はチャック27に代替してアタッチメント27′を設けるか構成して、アタッチメント27′とチャック27とを着脱交換可能とし作業現場の情況に応じてアタッチメント27′とチャック27のどちらか一方を選択して取り付け可能な構成とし、
前記滑車群は、滑車群を構成する複数の滑車が、装置の進行方向に沿って縦に並んだ形態で夫々配置構成されているとともに、当該滑車群、動滑車、及び前記杭頭に係脱可能に係止されるチャックにより構成した係止体と、下端部にチャックを設けた前記支柱部とは、夫々前後位置をずらせて別々に並設した構成としたことを特徴とし、
杭の圧入や引き抜きの反力を得るための大型の機体等を必要とすることなく、作業中において振動することなく杭の圧入や引き抜きが単一の装置で実現でき、圧入や引き抜きに伴う装置の場所移動も容易に行うことができ、また前記ウィンチを本装置の操作者側に最も近い位置のブーム上に設置する構成とし、当該ウィンチを支点として機体、パワーアーム、多滑車からなる滑車群との相関関係において本装置全体に絶妙な均衡、バランスを発揮しつつ、打ち込み対象である杭を垂直下に、かつ、精度をもって正確に、安全に打ち込むことができ、更に前記滑車群を構成する複数の滑車が装置の進行方向に沿って縦に並んだ形態で夫々配置構成されているとともに、滑車群、動滑車、及び係止体と、前記支柱部とは夫々前後位置をずらせて別々に並設した構成されていることから、ワイヤロープの繰り出し及び巻き取りを効率よく実施できる杭の圧入及び引き抜き装置を実現でき、更にまたブームの最先端側にウィンチを配置した構成としているので、この装置の構成要素の重量バランスが良好となり、この装置による杭の圧入や引き抜き動作時に、装置の後端側が持ち上がる等の不具合が無くなり、能率的にも作業の安全性の面からも優れていてブームの先端側が軽量化していることから、ブームの操作性の向上、周辺の物体との衝突回避を実現でき、各要素を無理なく駆動できることによるワイヤロープの耐久性の向上等の保守費用の低廉化も実現できるように構成したことを特徴とする杭の圧入及び引き抜き装置。」
(2)本件補正後
「【請求項1】
機体に上下揺動可能に取り付けたパワーアームと、この先端に突設したブームとを具備し、装置の構成要素の重量バランスを良好として杭の圧入や引き抜き動作時に装置の後端側が持ち上がってしまうような不具合を解消するために、前記ブーム上における前記パワーアーム側の端部に近い位置に、前記ウィンチを配置し、前記ブーム上における前記パワーアーム側の端部を、操作者側に最も近い位置として構成し、
このように配置構成した当該ウィンチにワイヤロープを連結構成し、前記ブームの先端側にウィンチの動力を伝達する滑車群を配置し、この滑車群の下部に前記滑車群により吊持された動滑車及び地盤側に圧入された杭の上端側に、杭頭を係脱可能に係止するチャックからなる係止体を設けたとともに、
前記ブームと地盤側との間に、圧縮方向に作用させて上下方向に伸縮駆動可能なジャッキ又はシリンダ等よりなるアクチュエータで構成した支柱部を設け、当該支柱部の下端部には、チャックを設けるように構成するか、又は、当該チャックに代替してアタッチメントを設けるように構成して、当該アタッチメントとチャックとを着脱交換可能とし、作業現場の情況に応じて、当該アタッチメントとチャックのどちらか一方を選択して取り付け可能な構成とし、
前記滑車群は、滑車群を構成する複数の滑車が、装置の進行方向に沿って縦に並んだ形態で夫々配置構成されているとともに、前記ブームの先端にフレームを配置し、このフレームの上部に前記滑車群を配置し、当該フレーム内に軸支される固定滑車の下方に、前記動滑車を軸支する滑車フレームを配置し、この滑車フレームの下端部には前記係止体を設け、前記ブームの先端より一定間隔を隔てた前記ブーム基端部寄りの位置に、前記支柱部が取り付けられ、前記滑車群、前記動滑車、前記係止体の三つの部材は、いずれも前記ブームの先端側に設けられ、同じ前後位置にあり、前記支柱部は、上記三つの部材とは、前後位置をずらせて並設構成し、
杭の圧入や引き抜きの反力を得るための大型の機体等を必要とすることなく、作業中において振動することなく杭の圧入や引き抜きが単一の装置で実現でき、圧入や引き抜きに伴う装置の場所の移動も容易に行うことができ、前記の如くブーム上のパワーアーム側の端部に近い位置にウィンチを配置して、前記ブーム上の操作者側に最も近い位置にはパワーアーム側の端部を設置する構成とし、前記滑車群を構成する複数の滑車が装置の進行方向に沿って縦に並んだ形態で夫々配置構成したとともに、前記滑車群、動滑車、係止体、支柱部という四つの部材の前後位置を、一つずつ全てずらせて、別々に並設構成したことから、ワイヤロープの繰り出し及び巻き取りを効率よく実施できる杭の圧入及び引き抜き装置を実現でき、また前記ブームの途中位置にウィンチを配置した構成としているので、この装置の構成要素の重量バランスが良好となり、この装置による杭の圧入や引き抜き動作時に、装置の後端側が持ち上がる等の不具合が無くなり、能率的にも作業の安全性の面からも優れていてブームの先端側が軽量化していることから、ブームの操作性の向上、周辺の物体との衝突回避を実現でき、各要素を無理なく駆動できることによるワイヤロープの耐久性の向上等の保守費用の低廉化も実現できるように構成したことを特徴とする杭の圧入及び引き抜き装置。」
2 補正目的
本件補正の目的について検討する。
(1)請求項の削除か否かについて
請求項1について一部の記載を変更する本件補正が、請求項の削除を目的とするものではないことは、明らかである。
したがって、本件補正は、特許法17条の2第5項1号に規定する、請求項の削除を目的とするものとは認められない。
(2)特許請求の範囲の減縮か否かについて
ア 「滑車群」、「動滑車」、「係止体」及び「支柱部」の位置関係について
上記四つの部材の位置関係について、本件補正前の請求項1においては、「当該滑車群、動滑車、及び前記杭頭に係脱可能に係止されるチャックにより構成した係止体と、下端部にチャックを設けた前記支柱部とは、夫々前後位置をずらせて別々に並設した」及び「滑車群、動滑車、及び係止体と、前記支柱部とは夫々前後位置をずらせて別々に並設した」と特定されていたところ、本件補正後の請求項1においては、「前記滑車群、前記動滑車、前記係止体の三つの部材は、いずれも前記ブームの先端側に設けられ、同じ前後位置にあり、前記支柱部は、上記三つの部材とは、前後位置をずらせて並設構成し、」及び「前記滑車群、動滑車、係止体、支柱部という四つの部材の前後位置を、一つずつ全てずらせて別々に並設した」と特定された。
これにより、請求項1の「滑車群」、「動滑車」、「係止体」及び「支柱部」の位置関係は、本件補正前においては、「夫々前後位置をずらせ」ていたものを、本件補正後においては、「滑車群」、「動滑車」、「係止体」の「三つの部材」を「同じ前後位置」とし、かつ「支柱部」を「上記三つの部材」とは「前後位置をずらせ」た位置に特定するのと同時に、「滑車群」、「動滑車」、「係止体」及び「支柱部」の「四つの部材」を「一つずつ全てずらせ」た位置にも特定するという、整合性がない位置関係となっている。
そして、本件補正後における上記四つの部材の互いに整合性がない位置関係は、本件補正前における四つの部材の「夫々前後位置をずらせて別々に並設した」位置関係を、より限定したものとはいえない。
したがって、本件補正において、「滑車群」、「動滑車」、「係止体」及び「支柱部」の四つの部材の位置関係を、本件補正前の特定から、本件補正後の特定へと変更した点は、特許請求の範囲の減縮を目的としたものとはいえない。
イ 「ウィンチ」の位置について
本件補正前の請求項1において、「ウィンチ」は、「パワーアームとブームの取り付け位置におけるブームの手前端部の位置」である「装置の操作者側から見て、前記ブームの最も手前の端部に近接した部分位置」に配置され、「本装置の操作者側に最も近い位置のブーム上」に設置され、「ブームの最先端側」に配置されたと特定されていたところ、本件補正後の請求項1において、「ウィンチ」は、「ブーム上における前記パワーアーム側の端部を、操作者側に最も近い位置」と構成したときの「前記ブーム上における前記パワーアーム側の端部に近い位置」に配置され、「ブーム上の操作者側に最も近い位置にはパワーアーム側の端部を設置」したときの「ブーム上のパワーアーム側の端部に近い位置」に設置され、「ブームの途中位置」に配置されたと特定された。
ここで、本件補正前の「ウィンチ」の位置は、「装置の操作者側から見て、前記ブームの最も手前の端部に近接した部分位置」という言い換えはあっても、「ブームの手前端部の位置」、「本装置の操作者側に最も近い位置のブーム上」及び「ブームの最先端側」の記載より、「ブーム」の「端」または「操作者側に最も近い位置」であると特定されていた。
これに対し、本件補正後の「ウィンチ」の位置は、「ブーム上」の「端部」に対して必ず「近い」という形容詞が付された、「端部に近い位置」である「ブームの途中位置」となった。
このように、基本的に「ブーム」の「端」であった本件補正前の「ウィンチ」の位置を、「端部に近い位置」である「ブームの途中位置」へと変更した点で、本件補正は、本件補正前の請求項1に係る発明を限定したものではなく、特許請求の範囲の減縮を目的としたものといえない。
ウ 「ウィンチを支点」とした構成について
本件補正前の請求項1においては、「当該ウィンチを支点として機体、パワーアーム、多滑車からなる滑車群との相関関係において本装置全体に絶妙な均衡、バランスを発揮しつつ、打ち込み対象である杭を垂直下に、かつ、精度をもって正確に、安全に打ち込むことができ、」と特定されていたところ、本件補正後の請求項1においては、その特定が削除された。
本件補正において、上記「ウィンチを支点」とした機能に係る構成を削除した点は、本件補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項を限定したものではないから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものとは認められない。
エ したがって、上記ア~ウより、本件補正は、特許法17条の2第5項2号に規定する、特許請求の範囲の減縮を目的とするものとは認められない。
(3)誤記の訂正か否かについて
誤記の訂正とは、当該記載が誤りであることが明らかである場合において、当該記載を、本来その意であることが明細書、特許請求の範囲又は図面の記載などから明らかな内容の字句、語句に正すことであって、訂正前の記載が当然に訂正後の記載と同一の意味を表示するものと客観的に認められるものをいう。
ここで、上記(2)アに示した「滑車群」、「動滑車」、「係止体」及び「支柱部」の位置関係について、本件補正前の「夫々前後位置をずらせて別々に並設」という記載が、本件補正後に「前記滑車群、前記動滑車、前記係止体の三つの部材は、いずれも前記ブームの先端側に設けられ、同じ前後位置にあり、前記支柱部は、上記三つの部材とは、前後位置をずらせて並設構成し」と記載され、かつ、「前記滑車群、動滑車、係止体、支柱部という四つの部材の前後位置を、一つずつ全てずらせて、別々に並設構成した」と記載されるのと、同一の意味を表示する誤記であったと客観的に認めることはできない。
また、上記(2)イに示した「ウィンチ」について、本件補正前に「パワーアームとブームの取り付け位置におけるブームの手前端部の位置」である「装置の操作者側から見て、前記ブームの最も手前の端部に近接した部分位置」に配置され、「本装置の操作者側に最も近い位置のブーム上」に設置され、「ブームの最先端側」に配置されたという記載が、本件補正後に「ブーム上における前記パワーアーム側の端部を、操作者側に最も近い位置」と構成したときの「前記ブーム上における前記パワーアーム側の端部に近い位置」に配置され、「ブーム上の操作者側に最も近い位置にはパワーアーム側の端部を設置」したときの「ブーム上のパワーアーム側の端部に近い位置」に設置され、「ブームの途中位置」に配置されたと記載されるのと、同一の意味を表示する誤記であったと客観的に認めることはできない。
また、上記(2)ウに示した「ウィンチを支点」とした構成について、本件補正前の「当該ウィンチを支点として機体、パワーアーム、多滑車からなる滑車群との相関関係において本装置全体に絶妙な均衡、バランスを発揮しつつ、打ち込み対象である杭を垂直下に、かつ、精度をもって正確に、安全に打ち込むことができ、」という記載が、本件補正後に上記記載を削除したものと同一の意味を表示する誤記であったと客観的に認めることはできない。
したがって、本件補正は、特許法17条の2第5項3号に規定する、誤記の訂正を目的とするものとは認められない。
(4)明りようでない記載の釈明か否かについて
明りようでない記載の釈明とは、当該記載それ自体意味の不明りような記載、又は、明細書、特許請求の範囲又は図面中の他の記載との関係で不合理を生じているために不明りようとなっている記載等の記載上の不備を訂正し、その本来の意味内容を明らかにすることをいう。
ここで、上記(2)アに示した「滑車群」、「動滑車」、「係止体」及び「支柱部」の位置関係について、本件補正前の「夫々前後位置をずらせて別々に並設」という記載に関し、本来の意味内容が、本件補正後の「前記滑車群、前記動滑車、前記係止体の三つの部材は、いずれも前記ブームの先端側に設けられ、同じ前後位置にあり、前記支柱部は、上記三つの部材とは、前後位置をずらせて並設構成し」という記載、及び、「前記滑車群、動滑車、係止体、支柱部という四つの部材の前後位置を、一つずつ全てずらせて、別々に並設構成した」という記載によって明らかになったとはいえない。なお、本件補正後の2つの記載は四つの部材の位置関係について整合しないから、補正後の記載自体が不明りようである。
また、上記(2)イに示した「ウィンチ」について、本件補正前の「パワーアームとブームの取り付け位置におけるブームの手前端部の位置」である「装置の操作者側から見て、前記ブームの最も手前の端部に近接した部分位置」に配置され、「本装置の操作者側に最も近い位置のブーム上」に設置され、「ブームの最先端側」に配置されたという記載に関し、本来の意味内容が、本件補正後の「ブーム上における前記パワーアーム側の端部を、操作者側に最も近い位置」と構成したときの「前記ブーム上における前記パワーアーム側の端部に近い位置」に配置され、「ブーム上の操作者側に最も近い位置にはパワーアーム側の端部を設置」したときの「ブーム上のパワーアーム側の端部に近い位置」に設置され、「ブームの途中位置」に配置されたという記載によって明らかになったとはいえない。
また、上記(2)ウに示した「ウィンチを支点」とした構成について、本件補正前の「当該ウィンチを支点として機体、パワーアーム、多滑車からなる滑車群との相関関係において本装置全体に絶妙な均衡、バランスを発揮しつつ、打ち込み対象である杭を垂直下に、かつ、精度をもって正確に、安全に打ち込むことができ、」という記載に関し、本件補正後に上記記載を削除したことで、本件補正前の記載の本来の意味内容が明らかになったとはいえない。
したがって、本件補正は、特許法17条の2第5項4号に規定する、明りようでない記載の釈明を目的とするものとは認められない。
(5)請求人の主張について
請求人は、本件補正の目的について、本件補正と同日(令和7年11月25日)に提出された意見書において、不明瞭な記載を修正又は削除した旨を主張している。
しかしながら、上記(1)~(4)のとおり、特許法17条の2第5項1号ないし4号のいずれについて検討しても、本件補正は、同項各号のいずれかを目的としたものとはいえない。
(6)小括
上記(1)~(5)のとおり、本件補正は、特許法17条の2第5項1号ないし4号のいずれを目的とするものでもなく、同項の規定に違反するものである。
3 新規事項追加
(1)令和7年11月25日付け手続補正書で補正した請求項1には、「前記滑車群、動滑車、係止体、支柱という四つの部材の前後位置を、一つずつ全てずらせて、別々に並設構成した」と記載されている。
一方、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「当初明細書等」という。)には、「滑車群」、「動滑車」、「係止体」、「支柱部」の「前後位置」について、以下の記載及び図示がある(下線は、当審合議体で付した。以下同様。)。
ア 「【請求項1】
機体側から上下揺動可能に突設されたブームの途中位置にウィンチを配置し、ブームの先端側にウィンチの動力を伝達する滑車群を配置し、この滑車群の下部に前記滑車群により吊持された動滑車及び地盤側に圧入された杭の上端側に係止される係止体を設けたとともに、
前記ブームと地盤側との間に圧縮方向に作用させる支柱部を設け、
前記滑車群、動滑車、及び係止体と、前記支柱部とを前後位置をずらせて別々に並設したことを特徴とする杭の圧入及び引き抜き装置。」
「【0010】
本発明に係る杭の圧入及び引き抜き装置は、機体側から上下揺動可能に突設されたブームの途中位置にウィンチを配置し、ブームの先端側にウィンチの動力を伝達する滑車群を配置し、この滑車群の下部に前記滑車群により吊持された動滑車及び地盤側に圧入された杭の上端側に係止される係止体を設け、前記ブームと地盤側との間に圧縮方向に作用させる支柱部を設け、前記滑車群、動滑車、及び係止体と、前記支柱部とを前後位置をずらせて別々に並設したことを最も主要な特徴とする。」
「【0018】
本発明は、特許文献2の装置と略同様な効果を発揮し得ることに加え、動作安定性の向上、更には、作業範囲の拡張、保守費用の低減を実現し得る杭の圧入及び引き抜き装置を提供するという目的を、機体側から上下揺動可能に突設されたブームの途中位置にウィンチを配置し、ブームの先端側にウィンチの動力を伝達する滑車群を配置し、この滑車群の下部に前記滑車群により吊持された動滑車及び地盤側に圧入された杭の上端側に係止される係止体を設け、前記ブームと地盤側との間に圧縮方向に作用させる支柱部を設け、前記滑車群、動滑車、及び係止体と、前記支柱部とを前後位置をずらせて別々に並設した構成とし、前記係止体を杭頭に係脱可能に係止されるチャックとし、前記支柱部を上下方向に伸縮駆可能なジャッキ又はシリンダ等からなるアクチュエータとし、前記支柱部の下端部にチャックを設け、圧入された杭の杭頭を係脱可能とし、又は杭頭の上面にチャックの下面を押付け可能とする構成により実現した。」
イ 「【実施例】
【0019】
・・・・
【0023】
前記ブーム3の先端には軸9により支持されたフレーム8を配置し、また、このフレーム8の上部に例えば4連構造で前記ウィンチ7に巻装したワイヤロープ11の繰り出し及び巻き取り誘導用の滑車群(多滑車)12を配置している。
【0024】
前記滑車群(多滑車)12は、この種の装置の従来においては、装置の杭頭にウィンチが設けられていることから、ブーム3やワイヤロープ11に対して横並び形態で多滑車が構成配置されていたが、本実施例では、前記ブーム3の途中位置にウィンチ7を構成配置していることから、ブーム3やワイヤロープ11に沿って縦並び形態で滑車群(多滑車)12を構成配置(図示せず)している。
【0025】
また、前記フレーム8にはブラケット14が突設されて後述する動滑車17に巻掛けるワイヤロープ11用のガイド滑車16を軸支している。
【0026】
更に、前記フレーム8内には、多段式の固定滑車13を軸支している。
【0027】
前記固定滑車13の下方には、この固定滑車13にも巻掛けるワイヤロープ11を多段に巻き掛けた動滑車17を軸支する滑車フレーム18を配置している。
【0028】
そして、前記ウィンチ7によるワイヤロープ11の繰り出し、巻き取り操作による長さの長短により滑車フレーム18がブーム3との関係で相対的に昇降駆動されるように構成している。
【0029】
前記滑車フレーム18の下端部には、地盤19に圧入されている既設の杭(矢板)21の杭頭を係脱可能に係止(把持)する公知のチャックからなる係止体22を設けている。なお、前記チャックは、杭頭を係脱したり、又は杭頭の上面にチャックの下面を押付け可能としたものを用いてもよい。
【0030】
他方、前記ブーム3の先端より一定間隔を隔てたブーム基端部寄りの位置には、油圧シリンダ(又は油圧ジャッキ)等のアクチュエータからなる支柱部23の上端が、ブラケット24を介して回動可能に且つ下向きに取り付けられ、該支柱部23のロッドの下端には、ロッドエンドを兼ねた補助ロッド26を延設している。」
ウ 「【図1】
[図:0001434511000001.jpg]
」
当初明細書等の上記アに示した【請求項1】、【0010】及び【0018】には、「前記滑車群、動滑車、及び係止体と、前記支柱部とを前後位置をずらせて別々に並設した」と記載されているが、四つの部材の前後位置を一つずつ全てずらせること、四つの部材について夫々前後位置をずらせることは、記載されていない。
当初明細書等の上記イに示した実施例には、ブーム3の先端にフレーム8を配置し、このフレーム8の上部に「滑車群12」を配置し、フレーム8内に軸支される固定滑車13の下方に、「動滑車17」を軸支する滑車フレーム18を配置し、滑車フレーム18の下端部に「係止体22」を設けていることが記載されている。また、上記当初明細書等には、ブーム3の先端より一定間隔を隔てたブーム基端部寄りの位置に、「支柱部23」が取り付けられることが記載されている。そして、上記ウに示した図1より、「滑車群12」、「動滑車17」、「係止体22」の三つの部材は、いずれもブーム3の先端側に設けられ、同じ前後位置にあり、「支柱部23」は、上記三つの部材とは、前後位置をずらせて並設されていることが看取される。
以上を踏まえると、当初明細書等には、「滑車群12」、「動滑車17」、「係止体22」の三つの部材は、同じ前後位置にあり、「支柱部23」は、上記三つの部材とは、前後位置をずらせて並設されていることが記載されているといえ、上記三つの部材の前後位置を一つずつ全てずらせて、別々に並設することについては、記載も示唆もない。また、上記三つの部材の前後位置を一つずつ全てずらせて、別々に並設することが、技術常識から明らかであったともいえない。そうすると、上記三つの部材に支柱部13を加えた四つの部材の前後位置を一つずつ全てずらせて、別々に並設することについても、記載も示唆もなく、また、技術常識から明らかであったともいえないことは当然である。
したがって、「前記滑車群、動滑車、係止体、支柱という四つの部材の前後位置を、一つずつ全てずらせて、別々に並設構成した」との記載を含む、請求項1の上記補正は、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものである。
(2)請求人の主張について
請求人は、「前記滑車群、動滑車、係止体、支柱という四つの部材の前後位置を、一つずつ全てずらせて、別々に並設構成した」ことが、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれるかについて、本件補正と同日(令和7年11月25日)に提出された意見書において、特段の説明をしていない。
したがって、請求人の主張を考慮しても、本件補正が特許法17条の2第3項の規定を満たすか否かについて、上記(1)の判断を変更すべき事情はない。
4 補正の適否のまとめ
上記2及び3のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第3項及び同条5項の規定に違反するから、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。
第3 本願について
1 本願発明
上記第2のとおり、本件補正は却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、本件補正前の令和7年2月12日にされた手続補正により補正された、特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるものである。
本願発明を特定する、特許請求の範囲の請求項1の記載は、上記第2の1(1)に記載のとおりである。
2 拒絶の理由の概要
当審において、令和7年9月25日付けの拒絶理由通知書で通知した最後の拒絶理由は、次の理由を含むものである。
(1)新規事項追加
令和7年2月12日付け手続補正書でした補正(以下、「本願補正」という。)は、新規事項が追加されており、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。
(2)明確性要件違反
この出願は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
3 当審の判断
(1)新規事項追加についての判断
当審において、令和7年9月25日付けの拒絶理由通知書で通知した最後の拒絶理由のうち、新規事項追加の理由について、判断する。
ア 「滑車群」、「動滑車」、「係止体」及び「支柱部」の位置関係について
本願補正後の請求項1は、「当該滑車群、動滑車、及び前記杭頭に係脱可能に係止されるチャックにより構成した係止体と、下端部にチャックを設けた前記支柱部とは、夫々前後位置をずらせて別々に並設した」という記載、及び「滑車群、動滑車、及び係止体と、前記支柱部とは夫々前後位置をずらせて別々に並設した」という記載を含む。
本願補正後の請求項1の上記記載は、「夫々前後位置をずらせて」と記載しているから、字義からすると、四つの部材の前後位置は、一つずつ全てずらせることを特定している。
しかしながら、「滑車群」、「動滑車」、「係止体」及び「支柱部」の四つの部材の位置関係について、上記第2の3(1)に示したとおり、当初明細書等には、当該四つの部材の前後位置を、一つずつ全てずらせることは、記載も示唆もされていない。また、上記四つの部材の前後位置を一つずつ全てずらせることが、技術常識から明らかであったともいえない。
上記四つの部材の前後位置を全てずらせる点に係る補正の根拠に関し、本願補正と同日の令和7年2月12日に提出された意見書において、請求人は特段の具体的な説明を行っていない。
したがって、本願補正後の請求項1が、「当該滑車群、動滑車、及び前記杭頭に係脱可能に係止されるチャックにより構成した係止体と、下端部にチャックを設けた前記支柱部とは、夫々前後位置をずらせて別々に並設した」という記載、及び「滑車群、動滑車、及び係止体と、前記支柱部とは夫々前後位置をずらせて別々に並設した」という記載を含むことは、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものである。
イ 「ブームの最先端側にウィンチを配置」した点について
本願補正後の請求項1は、「ブームの最先端側にウィンチを配置した」という記載を含む。
当初明細書等には、「ウィンチ」の「配置」について、以下の記載がある。
「【0010】
本発明に係る杭の圧入及び引き抜き装置は、機体側から上下揺動可能に突設されたブームの途中位置にウィンチを配置し、ブームの先端側にウィンチの動力を伝達する滑車群を配置し、この滑車群の下部に前記滑車群により吊持された動滑車及び地盤側に圧入された杭の上端側に係止される係止体を設け、前記ブームと地盤側との間に圧縮方向に作用させる支柱部を設け、前記滑車群、動滑車、及び係止体と、前記支柱部とを前後位置をずらせて別々に並設したことを最も主要な特徴とする。
・・・(中略)・・・
【0022】
前記ブーム3の途中位置(前記パワーアーム2との取り付け位置に近い位置)にはワイヤロープ11の繰り出し及び巻き取りを行うウィンチ7を配置している。
・・・(中略)・・・
【0043】
更には、ブーム3の途中にウィンチ7を配置した構成としているので、この装置の構成要素の重量バランスが良好となり、この装置による杭21の圧入や引き抜き動作時に、装置の後端側が持ち上がる等の不具合が無くなり、動作安定性に優れ、また、ブーム3の先端側が軽量化しているので、ブーム3の操作性の向上、周辺の物体との衝突回避を実現でき、各要素を無理なく駆動できることによるワイヤロープ11の耐久性の向上等の保守費用の低廉化も実現できる。」
上記記載より、当初明細書等には、パワーアームとの取り付け位置に近い「ブーム」の「途中位置」に「ウィンチ」を配置することが記載されており、「ブームの最先端側にウィンチを配置」することについては、記載も示唆もない。また、「ブームの最先端側にウィンチを配置」することが、技術常識から明らかであったともいえない。
なお、当初明細書等の【0011】には、「ブームの先端側にウィンチを配置した構成としているので」という記載があるものの、当初明細書等の他の記載と明らかに整合しておらず、誤記と思われる。そのため、【0011】の上記記載をもって、「ブームの最先端側にウィンチを配置」することが、実質的に開示されているとはいえない。
また、上記記載に係る補正の根拠として、本願補正と同日に提出された意見書において、請求人が特段の具体的な説明をしているものではない。
したがって、本願補正後の請求項1が、「ブームの最先端側にウィンチを配置した」という記載を含むことは、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものである。
ウ 「ウィンチを本装置の操作者側に最も近い位置のブーム上に設置する」点について
本願補正後の請求項1は、「ウィンチを本装置の操作者側に最も近い位置のブーム上に設置する」という記載を含む。
当初明細書等には、「ウィンチ」の「配置」について、上記イで示した記載、及び、上記ア(上記第2の3(1))で示した【図1】の図示がある。
【図1】より、「ブーム3」上の、パワーアーム2側の端部に近い位置に、「ウィンチ7」が配置されていることが看取される。
また、【図1】より、「ブーム3」上で、操作者側に最も近い位置は、パワーアーム2側の端部であることが看取される。
上記の記載及び図示より、当初明細書等の記載を総合すれば、「ブーム3」上の、パワーアーム2側の端部から近い位置である途中位置、すなわち、操作者側に最も近い位置から近い位置である途中位置に、「ウィンチ7」を配置することは、導出されるといえる。
しかしながら、「ブーム3」上の、パワーアーム2側の端部、すなわち、操作者側に最も近い位置に、「ウィンチ7」を配置することについては、端部から近い位置である途中位置への配置を、端部そのものへの配置へと変更することとなるところ、そのような変更については当初明細書等に記載も示唆もない。また、「ブーム3」上のパワーアーム2側の端部から近い途中位置に「ウィンチ7」を配置することについて、「ブーム3」上のパワーアーム2側の端部(操作者側に最も近い位置)に「ウィンチ7」を配置することと同じであることが、技術常識から明らかであったともいえない。
また、上記の点に係る補正の根拠として、本願補正と同日に提出された意見書において、請求人が特段の具体的な説明をしているものではない。
したがって、本願補正後の請求項1が、「ウィンチを本装置の操作者側に最も近い位置のブーム上に設置する」という記載を含むことは、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものである。
エ 「ウィンチを支点」とした構成について
本願補正後の請求項1は、「ウィンチを支点として機体、パワーアーム、多滑車からなる滑車群との相関関係において本装置全体に絶妙な均衡、バランスを発揮しつつ、打ち込み対象である杭を垂直下に、かつ、精度をもって正確に、安全に打ち込むことができ」る、という記載を含む。
当初明細書等には、「ウィンチを支点とし」た「均衡、バランス」について、記載も示唆もなく、「杭を垂直下に、かつ、精度をもって正確に、安全に打ち込むことができ」ることについても、記載も示唆もない。また、本願補正後の請求項1が含む「ウィンチを支点」とした構成のいずれの事項も、技術常識から明らかであったともいえない。
また、上記の点に係る補正の根拠として、本願補正と同日に提出された意見書において、請求人が特段の具体的な説明をしているものではない。
したがって、本願補正後の請求項1が、「ウィンチを支点として機体、パワーアーム、多滑車からなる滑車群との相関関係において本装置全体に絶妙な均衡、バランスを発揮しつつ、打ち込み対象である杭を垂直下に、かつ、精度をもって正確に、安全に打ち込むことができ」る、という記載を含むことは、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものである。
オ 新規事項追加のまとめ
したがって、本願補正後の請求項1には、上記ア~エの点で新規事項が追加されており、本願補正は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。
(2)明確性要件違反についての判断
当審において、令和7年9月25日付けの拒絶理由通知書で通知した最後の拒絶理由のうち、明確性要件違反の理由について、判断する。
ア 「滑車群」、「動滑車」、「係止体」及び「支柱部」の位置関係について
請求項1には、「当該滑車群、動滑車、及び前記杭頭に係脱可能に係止されるチャックにより構成した係止体と、下端部にチャックを設けた前記支柱部とは、夫々前後位置をずらせて別々に並設した構成とした」と記載され、さらに、「滑車群、動滑車、及び係止体と、前記支柱部とは夫々前後位置をずらせて別々に並設した構成されている」と記載されている。
上記記載は、「滑車群」、「動滑車」、「係止体」、「支柱部」について、「夫々前後位置をずらせて別々に並設した」と記載されているので、字義どおり解釈すれば、「滑車群」、「動滑車」、「係止体」、「支柱部」という四つの部材の「前後位置」を、一つずつ全てずらせて、別々に並設したことを意味するものと認められる。
一方、本願の明細書及び図面は、前記第2の3において示したものを含む当初明細書等の記載及び図示に対して、令和5年5月30日に提出された手続補正書において、【0011】の記載の一部が変更されるとともに、【0012】-【0016】が削除され、さらに、令和5年11月28日に提出された手続補正書において、【0010】、【0018】、【0022】、【0024】及び【0043】の記載の一部が変更されたものである。
そして、本願の明細書及び図面において、四つの部材の位置関係に関する記載は変更されていない。
本願の明細書及び図面の記載からすれば、上記第2の3(1)で指摘したのと同様に、「滑車群12」、「動滑車17」、「係止体22」の三つの部材は、同じ前後位置にあり、「支柱部23」は、上記三つの部材とは、前後位置をずらせて並設されていることとなるから、四つの部材の前後位置を全て異ならせる請求項1の字義どおりの記載とは整合しない。
ここで、請求項1の上記記載について、本願の明細書及び図面の記載を参酌すると、「夫々前後位置をずらせて別々に」という請求項1の記載の字義どおりに、「滑車群」、「動滑車」、「係止体」、「支柱部」という四つの部材の「前後位置」を一つずつ全てずらせる趣旨であるのか、それとも、本願の明細書及び図面に記載されるように、「滑車群」、「動滑車」、「係止体」という三つの部材は同じ「前後位置」にあり、「支柱部」を上記三つの部材とは「前後位置」をずらせる趣旨であるのか、明確であるとはいえず、仮に後者の趣旨とすれば、特許請求の範囲の記載を離れた解釈を加える必要も生じる。
したがって、本願発明は、第三者に不測の不利益を生じさせる程度に、明確ではない。
イ 「ウィンチ」の位置について
「ウィンチ」の位置に関し、請求項1には、「当該パワーアームとブームの取り付け位置におけるブームの手前端部の位置、換言すると、装置の操作者側から見て、前記ブームの最も手前の端部に近接した部分位置にウィンチを配置した」と記載され、「また前記ウィンチを本装置の操作者側に最も近い位置のブーム上に設置する構成とし」と記載され、かつ、「ブームの最先端側にウィンチを配置した」と記載されている。
請求項1の上記3つの記載のうち、前の2つの記載は、「ウィンチ」が「ブーム」の「手前端部」または「操作者側に最も近い」位置にあることを特定する一方、最後の記載は、「ブーム」の「手前」や「操作者側」とは反対の位置である、「最先端側」にあることを特定するから、請求項1中の上記3つの記載は、整合しない。
そして、「ウィンチ」の位置について、「ブーム」の「手前」や「操作者側」にあることを特定する記載と、「ブーム」の「最先端側」にあることを特定する記載とが同時に存在すると、第三者は「ウィンチ」の位置について整合した理解ができず、特許請求の範囲における特定を離れる必要があるから、不測の不利益を被ることが明らかである。
また、請求項1には、「当該パワーアームとブームの取り付け位置におけるブームの手前端部の位置、換言すると、装置の操作者側から見て、前記ブームの最も手前の端部に近接した部分位置にウィンチを配置した」と記載され、「また前記ウィンチを本装置の操作者側に最も近い位置のブーム上に設置する構成とし」と記載されているが、後者は「本装置の操作者側に最も近い位置」と同じ位置を指すと解される一方、前者は当該位置に「近接した部分位置」であると解されるものであり、すなわち両者の位置が「本装置の操作者側に最も近い位置」であるか否かで異なっており、両者が整合する位置として特定されていないから、不明確である。
したがって、本願発明は、第三者に不測の不利益を生じさせる程度に、明確ではない。
ウ 「ウィンチを支点」とした構成について
請求項1には、「当該ウィンチを支点として機体、パワーアーム、多滑車からなる滑車群との相関関係において本装置全体に絶妙な均衡、バランスを発揮しつつ」と記載されているが、「ウィンチを支点とし」た「均衡、バランス」とはいかなることを指すのかが不明であり、明細書及び図面にも記載されておらず、技術常識を考慮しても、その意味するところを理解することができない。
したがって、本願発明は、第三者に不測の不利益を生じさせる程度に、明確ではない。
エ 上記ア~ウより、本願発明を特定する請求項1に記載は、特許を受けようとする発明を明確に特定するものではなく、特許法第36条第6項第2号の規定に違反する。
第4 むすび
上記第3のとおり、本願発明は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たさない補正がされており、また、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
したがって、本願は、当審が通知した拒絶理由により、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2023-020068