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特許拒絶査定不服審判

2024-000398

試料における細胞間相互作用を検出するためのキット、方法、およびそれらの使用

審判番号
2024-000398
法域
特許
審判種別
拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
出願番号
特願2022-053100外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
請求日
2024年01月11日
審決日
2025年07月14日
公報発行日
2025年12月26日
結論
請求不成立
当事者
審判長/審判官
分類
P18 .121-WZ (G01N) / P18 .537-WZ (G01N)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法29条2項
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第2項
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特願2022-53100「試料における細胞間相互作用を検出するためのキット、方法、およびそれらの使用」拒絶査定不服審判事件〔令和4年7月20日出願公開、特開2022-106701〕について、次のとおり審決する。

結論

結 論
本件審判の請求は、成り立たない。

理由

目次 ▾ 16項目
理 由

1 手続の経緯

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本願は、2018年(平成30年)5月16日(パリ条約による優先権主張2017年5月16日、英国)を国際出願日とする特願2020-514331号の一部を令和4年3月29日に新たな特許出願としたものであって、令和5年1月24日付けの拒絶理由の通知に対し、同年6月22日に意見書が提出されるとともに手続補正がなされたが、同年9月5日付けで拒絶査定(以下「原査定」という。)がなされ、これに対して令和6年1月11日に審判の請求がなされたものである。

その後、令和7年3月17日付けで拒絶理由を通知し、これに対して同年4月3日に意見書の提出とともに手続補正がなされた。

2 本件発明

本願の請求項1~69に係る発明は、令和7年4月3日になされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1~69に記載された事項により特定されるものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下「本件発明」という。)は、次のとおりのものである。

「 細胞間相互作用を検出するためのインビトロ方法であって、該方法が、
a.少なくとも2つの一次結合剤であって、第1の一次結合剤が第1の細胞上の第1の分子に結合し、第2の一次結合剤が第2の細胞上の第2の分子に結合し、前記第1の一次結合剤および前記第2の一次結合剤が免疫学的にはっきりと異なる、少なくとも2つの一次結合剤と、
b.少なくとも2つの二次結合剤であって、第1の二次結合剤が前記第1の一次結合剤に結合し、第2の二次結合剤が前記第2の一次結合剤に結合し、前記第1の二次結合剤が前記第2の一次結合剤に結合せず、前記第2の二次結合剤が前記第1の一次結合剤を結合せず、
前記第1の二次結合剤がFRETドナーで標識されており、前記第2の二次結合剤が、酵素であって、FRETアクセプターおよび酵素に特異的な基質を含むコンジュゲートと反応して、前記酵素に隣接する分子表面上の電子豊富な部分に結合する活性化コンジュゲートを形成する、酵素に融合している、少なくとも2つの二次結合剤と、を含み、前記方法が、
i.細胞を含む単離された試料を前記少なくとも2つの一次結合剤と接触させることと、
ii.前記試料を前記少なくとも2つの二次結合剤と接触させることと、
iii.洗浄ステップを行うことと、
iv.前記二次結合剤間の相互作用を検出することと、を含む、インビトロ方法。」

3 原査定における拒絶の理由

原査定の拒絶の理由の概要は、この出願の請求項1~69に係る発明は、本願の優先権主張の日(以下「優先日」という。)前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった以下の引用文献に記載された発明に基づいて、その優先日前にその発明の属する次述の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

なお、引用文献1が、主引用発明が記載された文献として引用されたものであり、引用文献2は、副引用文献として引用されたものである。

引用文献1:国際公開第2017/050855号
引用文献2:国際公開第2014/140554号

4 引用文献

(1)引用文献1

ア 引用文献1の記載事項

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原査定の拒絶の理由で引用され、本願の優先日前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、国際公開第2017/050855号(2017年(平成29年)3月30日出願公開。以下「引用文献1」という。)には、図面とともに、以下の記載事項がある。なお、以下に示す行番号は国際公開公報に付されたものに基づく。また、括弧内に当審による翻訳文を記載し、引用発明の認定等に用いた箇所に下線を付した。

(ア)第1頁第4~5行

「The present invention relates to a computer implemented method for assessing the efficiency of a treatment based on anti-PD-1 and/or anti-PD-Ll monoclonal antibodies.」

(本発明は、抗PD-1及び/又は抗PD-L1モノクローナル抗体に基づく治療の効率を評価するための、コンピュータによって実施される方法に関する。)

(イ)第3頁第11~12行

「PD-L2 is another ligand for PD-1 but there is no known standardized and reliable way to perform immuno-staining for PD-L2 expression.」

(PD-L2はPD-1のもう一つのリガンドであるが、PD-L2発現の免疫染色を行う標準化された信頼できる方法は知られていない。)

(ウ)第3頁14行

「The present invention aims to improve this situation.」

(本発明は、この状況を改善することを目的とする。)

(エ)第3頁第16~26行

「To that end, the invention proposes a method implemented by computer means for assessing an efficiency of a cure of a cancer disease based on at least one antibody against protein PD-1 and/or its ligand PD-L1, wherein the method comprises the steps:
- Obtaining data of at least one microscope image of cells of a tumor material treated for performing a test to assess an interaction between protein PD-1 and its ligand PD-Ll in at least some of said cells,
- Counting in said image a number of spots related to said interactions between PD-1 and PD- Ll, and a number of nuclei in said image, and
- Estimating a ratio between said number of spots and said number of nuclei with a view to assess an efficiency of a cure based on at least one antibody against protein PD-1 and/or its ligand PD-Ll on a cancer disease from which said tumor material results.」

(そのために、本発明は、タンパク質PD-1および/またはそのリガンドPD-L1に対する少なくとも1つの抗体に基づいて、癌疾患の治癒の効率を評価するための、コンピュータ手段によって実施される方法を提案するものであり、この方法は、以下のステップを含む:

- 細胞の少なくとも一部におけるタンパク質PD-1とそのリガンドPD-L1との間の相互作用を評価するための試験を実施するために処理された、腫瘍材料の細胞の少なくとも1つの顕微鏡画像のデータを取得し、

- 前記画像において、PD-1とPD-L1との間の相互作用に関連するスポットの数と、画像中の核の数をカウントし、そして、

- 前記スポットの数と前記核の数の比率を推定することにより、タンパク質PD-1及び/又はその離岸土PD-L1に対する少なくとも1つの抗体に基づく、前記腫瘍材料が起因する癌疾患に対する治療効率を評価する。)

(オ)第3頁第28~35行

「As detailed below with reference to figures 1 to 5, it appeared that techniques to detect interactions between PD-1 and PD-Ll, such as Proximity Ligation Assay (PLA) for example, are much more robust than simple PD-1 and PD-Ll co-staining, yielding then a new characterization method for assessing the efficiency of a treatment based on PD-1 and/or PD-Ll antibodies.. The PLA allows the visualization of the subcellular localization of protein-protein interactions at single-molecule resolution (Soderberg et al, Nature Methods, 2006). Another technique which is given here as an example is the Forster or Fluorescence Resonance Energy Transfer assay (FRET), and has provided also satisfactory results. (Weibrecht et al, Expert Rev. Proteomics, 2010)」

(図1~図5を参照して以下に詳述するように、PD-1とPD-L1との間の相互作用を検出するための技術として、例えば、近接ライゲーションアッセイ(PLA)は、単純なPD-1とPD-L1との共染色より確実であり、その結果、PD-1及び/又はPD-L1抗体に基づく処理の効果を評価するための新しい特性評価法を提供する。PLAは、タンパク質-タンパク質間の相互作用の細胞内での局在を、1分子分解能により可視化する(Soderbergら,Nature Methods,2006)。もう一つの技術は、例えば、フェルスター法又は蛍光共鳴エネルギー移動法(FRET)があり、これも満足のいく結果をもたらす。(Weibrechtら、Expert Rev Proteomics,2010))

(カ)第7頁第13~18行

「This detection of the protein interaction may be performed by any conventional means allowing protein interaction detection on tissue section, such as Proximity ligation assay (PLA), Forster or Fluorescence resonance energy transfer (FRET) assays, fluorescence lifetime imaging (FLIM)-FRET, or "dual binders" (DBs), which are bispecific detection agents consisting of two Fab fragment molecules joined by a flexible linker (Van Dieck et al, Chemistry & Biology, 2014). Proximity ligation assay (PLA) is more preferred. However, the technique FRET can provide also good results.」

(このタンパク質相互作用の検出は、組織切片上でのタンパク質相互作用検出を可能にする任意の従来の手段によって行うことができ、近接ライゲーションアッセイ(PLA)、フェルスター又は蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)アッセイ、蛍光寿命イメージング(FLIM)-FRET、又は柔軟なリンカーによって結合された2つのFabフラグメント分子からなる二重特異性検出剤である「デュアルバインダー」(DBs)などである(Van Dieckら, Chemistry & Biology, 2014)。近接ライゲーションアッセイ(PLA)がより好ましい。しかしながら、FRET技術も、良好な結果を提供することができる。)

(キ)第8頁第10~13行

「The integrity of the target complex in tissue samples is a second challenge. PD-1 and PD-L1 are expressed at the membrane of distinct types of cells. Freshly cut tissue sections only have to be used, and the slides must not be exposed to extreme temperature orders to preserve the structure of the cell membranes.」

(組織試料中の標的複合体の完全性は、第2の課題である。PD-1とPD-L1は異なるタイプの細胞の膜に発現している。新鮮な組織切片のみを使用すべきであり、また、細胞膜の構造を維持するため、スライドは極端な温度変化にさらされてはならない。)

イ 引用発明

引用文献1の記載事項(キ)の「PD-1とPD-L1は異なるタイプの細胞の膜に発現している。」との記載に基づけば、記載事項(エ)において相互作用が評価されるタンパク質PD-1とそのリガンドPD-L1とは、異なる細胞の膜上に発現しているタンパク質であるといえる。

引用文献1の記載事項(エ)及び(キ)の記載に基づけば、引用文献1には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「タンパク質PD-1および/またはそのリガンドPD-L1に対する少なくとも1つの抗体に基づいて、癌疾患の治癒の効率を評価する方法であって、細胞の少なくとも一部におけるタンパク質PD-1とそのリガンドPD-L1との間の相互作用を評価するための試験を実施するために処理された、腫瘍材料の細胞の少なくとも1つの顕微鏡画像のデータを取得し、PD-1とPD-L1は異なるタイプの細胞の膜に発現している、方法。」

(2)引用文献2

ア 引用文献2の記載事項

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原査定の拒絶の理由で引用され、本願の優先日前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、国際公開第2014/140554号(2014年(平成26年)9月18日出願公開。以下「引用文献2」という。)には、図面とともに、以下の記載事項がある。なお、以下に示す行番号は国際公開公報に付されたものに基づく。また、括弧内に当審による翻訳文を記載し、技術的事項の認定等に用いた箇所に下線を付した。

(ア)第1頁第7~10行

「 The invention relates to methods for detecting molecules in a sample, in particular, protein sites and states in cells, such as those in tissue sections. The invention further provides for the quantification of molecular interactions, such as protein-protein interactions in a sample.」

(本発明は、試料中の分子、特に組織切片などの細胞中のタンパク質の部位や状態を検出する方法に関する。本発明はさらに、試料中のタンパク質間相互作用のような分子間相互作用の定量化を提供する。)

(イ)第1頁第11~17行

「 The invention relates to methods using Forster or Fluorescence resonance energy transfer (FRET) in combination with an enzyme activation system, such as tyramide signal amplification (TSA) to improve detection of molecules in a sample, such as protein states and a close spatial association of proteins. More specifically, the invention relates to two-site TSA-FRET methods, where the two sites are on the same protein or on different proteins, such as on a pair of proteins in a complex.」

(本発明は、チラミドシグナル増幅(TSA)の様な酵素活性化システムを組み合わせた、フェルスター又は蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)を利用して、タンパク質の状態やタンパク質の密接な空間的関連などの、サンプル中の分子の検出を向上させる方法に関する。より具体的には、本発明は、2部位TSA-FRET法に関し、2部位は、同じタンパク質又は、複合体中のタンパク質対のような異なるタンパク質である。)

(ウ)第7頁第10~12行

「 The object of the present invention is to provide an improved method for detecting molecules, particularly protein states in cells, such as in tissue sections.」

(本発明の目的は、組織切片などの細胞内の分子、特にタンパク質の状態を検出するための改良された方法を提供することである。)

(エ)第7頁第16~第8頁第25行

「 The present invention provides a generic, high throughput method that combines FRET with an enzyme activation system, such as a tyramide signal amplification (TSA) system.
According to the present invention, there is provided a method for detecting molecules, employing:
a. at least two primary antibodies, wherein the first primary antibody binds to a first site on a molecule and the second primary antibody binds to a second site on a molecule, wherein the second site is different from the first site and wherein the first and second primary antibodies are immunologically distinct;
b. at least two secondary antibodies, wherein the first secondary antibody is labeled with a fluorescence resonance energy transfer (FRET) donor and binds to the first primary antibody; and the second secondary antibody is conjugated or fused to an enzyme and binds the second primary antibody, wherein the first secondary antibody does not bind the second primary antibody and the second secondary antibody does not bind the first primary antibody;
続きを表示(全11行)
c. a conjugate comprising a FRET acceptor and a substrate specific for the enzyme, wherein when the substrate reacts with the enzyme, an activated conjugate forms, which activated conjugate binds to electron rich moieties on a molecular surface adjacent to the enzyme;
wherein the method comprises:
d. contacting a sample with the at least two primary antibodies;
e. contacting the sample with the at least two secondary antibodies;
f. performing a wash step;
g. contacting the sample with the conjugate; and
h. detecting any FRET signal generated by the FRET acceptor.」

( 本発明は、FRETとチラミドシグナル増幅(TSA)システムなどの酵素活性化システムとを組み合わせた、一般的な高スループットの方法を提供する。

本発明によれば、分子を検出する方法が提供され、

a.少なくとも2つの一次抗体であって、第1の一次抗体は分子の第1の部位に結合し、第2の一次抗体は分子の第2の部位に結合し、ここで、第2の部位は第1の部位とは異なり第2の一次抗体は免疫学的に異なるものであり、

b.少なくとも2つの二次抗体であって、第1の二次抗体は蛍光共鳴エネルギー転移(FRET)ドナーで標識され第1の一次抗体に結合するものであり、第2の二次抗体は酵素と結合又は融合され第2の一次抗体に結合するものであり、ここで、第1の二次抗体は第2の一次抗体に結合せず、第2の二次抗体は第1の一次抗体に結合せず、

c.FRETアクセプターと酵素に特異的な基質とを含む接合体であって、ここで、基質は酵素によって反応することにより活性化接合体を形成し、活性化接合体は、酵素に隣接する分子表面の電子豊富な部分に結合し、

d.試料と少なくとも2つの一次抗体を接触させ、

e.試料と少なくとも2つの二次抗体を接触させ、

f.洗浄工程を実施し、

g.試料と接合体を接触させ、そして、

h.FERTアクセプターにより発生したFRET信号を検出することを、含む方法。)

(オ)第88頁第1~30行

「Claims
1. A method for detecting molecules, employing:
a. at least two primary antibodies, wherein the first primary antibody binds to a first site on a molecule and the second primary antibody binds to a second site on a molecule, wherein the second site is different from the first site and wherein the first and second primary antibodies are immunologically distinct;
b. at least two secondary antibodies, wherein the first secondary antibody is labelled with a fluorescence resonance energy transfer (FRET) donor and binds to the first primary antibody; and the second secondary antibody is conjugated or fused to an enzyme and binds the second primary antibody, wherein the first secondary antibody does not bind the second primary antibody and the second secondary antibody does not bind the first primary antibody;
続きを表示(全11行)
c. a conjugate comprising a FRET acceptor and a substrate specific for the enzyme, wherein when the substrate reacts with the enzyme, an activated conjugate forms, which activated conjugate binds to electron rich moieties on a molecular surface adjacent to the enzyme;
wherein the method comprises:
d. contacting a sample with the at least two primary antibodies;
e. contacting the sample with the at least two secondary antibodies;
f. performing a wash step;
g. contacting the sample with the conjugate; and
h. detecting any FRET signal generated by the FRET acceptor.」

(請求の範囲

1.分子を検出する方法であって、

a.少なくとも2つの一次抗体であって、第1の一次抗体は分子の第1の部位に結合し、第2の一次抗体は分子の第2の部位に結合し、ここで、第2の部位は第1の部位とは異なり第2の一次抗体は免疫学的に異なるものであり、

b.少なくとも2つの二次抗体であって、第1の二次抗体は蛍光共鳴エネルギー転移(FRET)ドナーで標識され第1の一次抗体に結合するものであり、第2の二次抗体は酵素と結合又は融合され第2の一次抗体に結合するものであり、ここで、第1の二次抗体は第2の一次抗体に結合せず、第2の二次抗体は第1の一次抗体に結合せず、

c.FRETアクセプターと酵素に特異的な基質とを含む接合体であって、ここで、基質は酵素によって反応することにより活性化接合体を形成し、活性化接合体は、酵素に隣接する分子表面の電子豊富な部分に結合し、

d.試料と少なくとも2つの一次抗体を接触させ、

e.試料と少なくとも2つの二次抗体を接触させ、

f.洗浄工程を実施し、

g.試料と接合体を接触させ、そして、

h.FERTアクセプターにより発生したFRET信号を検出することを、含む方法。)

イ 引用文献2に記載された技術的事項

引用文献2の記載事項(オ)に基づけば、引用文献2には、次の技術的事項が記載されていると認められる。

「 a.少なくとも2つの一次抗体であって、第1の一次抗体は分子の第1の部位に結合し、第2の一次抗体は分子の第2の部位に結合し、ここで、第2の部位は第1の部位とは異なり第2の一次抗体は免疫学的に異なるものであり、
b.少なくとも2つの二次抗体であって、第1の二次抗体は蛍光共鳴エネルギー転移(FRET)ドナーで標識され第1の一次抗体に結合するものであり、第2の二次抗体は酵素と結合又は融合され第2の一次抗体に結合するものであり、ここで、第1の二次抗体は第2の一次抗体に結合せず、第2の二次抗体は第1の一次抗体に結合せず、
c.FRETアクセプターと酵素に特異的な基質とを含む接合体であって、ここで、基質は酵素によって反応することにより活性化接合体を形成し、活性化接合体は、酵素に隣接する分子表面の電子豊富な部分に結合し、
d.試料と少なくとも2つの一次抗体を接触させ、
e.試料と少なくとも2つの二次抗体を接触させ、
f.洗浄工程を実施し、
g.試料と接合体を接触させ、そして、
h.FERTアクセプターにより発生したFRET信号を検出することを、含む、分子を検出する方法。」

5 対比(一致点、相違点の認定)

本件発明と引用発明とを対比する。

(1)細胞間相互作用を検出するためのインビトロ方法

引用発明の「癌疾患の治癒の効率を評価する方法」は、「細胞の少なくとも一部におけるタンパク質PD-1とそのリガンドPD-L1との間の相互作用を評価するための試験を実施するために処理された、腫瘍材料の細胞の少なくとも1つの顕微鏡画像のデータを取得」する工程を含んでいる。

ここで、引用発明の「PD-1」及び「PD-L1」は、それぞれ、「細胞の少なくとも一部におけるタンパク質PD-1とそのリガンドPD-L1」であって、「異なるタイプの細胞の膜に発現」するものである。そうすると、引用発明における「タンパク質PD-1とそのリガンドPD-L1との間の相互作用」の評価は、「細胞の少なくとも一部におけるタンパク質PD-1」と、「異なるタイプの細胞の膜に発現」する「リガンドPD-L1」との間の相互作用の評価であるから、「タンパク質PD-1」を膜に発現した「細胞」と、「リガンドPD-L1」を膜に発現した「細胞」との間の相互作用を評価するものといえる。また、引用発明の「細胞の少なくとも一部におけるタンパク質PD-1とそのリガンドPD-L1との間の相互作用を評価するための試験を実施するために処理された、腫瘍材料の細胞の少なくとも1つの顕微鏡画像のデータを取得」する工程は、上記相互作用を顕微鏡を用いて観察するものであるから、インビトロで行われる方法であるといえる。

したがって、引用発明の「癌疾患の治癒の効率を評価する方法」は、本件発明の「細胞間相互作用を検出するためのインビトロ方法」に相当する。

(2)一次結合剤

引用発明は、「タンパク質PD-1および/またはそのリガンドPD-L1に対する少なくとも1つの抗体」を用いるものである。

ここで、引用発明の「タンパク質PD-1」及び「リガンドPD-L1」は、前記(1)に記載したとおり、「異なるタイプの細胞の膜に発現」するものであるから、それぞれ、本件発明の「第1の細胞上の第1の分子」及び「第2の細胞上の第2の分子」に相当する。そして、引用発明の「タンパク質PD-1および/またはそのリガンドPD-L1に対する少なくとも1つの抗体」は、本件発明の「第1の一次結合剤」及び/又は「第2の一次結合剤」に相当する。

(3)一致点及び相違点

以上より、本件発明と引用発明とは、

「 細胞間相互作用を検出するためのインビトロ方法であって、該方法が、
a.一次結合剤であって、第1の一次結合剤が第1の細胞上の第1の分子に結合し、及び/又は、第2の一次結合剤が第2の細胞上の第2の分子に結合する一次結合剤を含む、インビトロ方法。」

である点で一致し、次の点で相違する。

[相違点]

本件発明の一次結合剤が、第1の一次結合剤と第2の一次結合剤の「免疫学的にはっきりと異なる、少なくとも2つ」を含むのに対し、引用発明の抗体は「少なくとも1つ」であり、本件発明は、さらに、「b.少なくとも2つの二次結合剤であって、第1の二次結合剤が前記第1の一次結合剤に結合し、第2の二次結合剤が前記第2の一次結合剤に結合し、前記第1の二次結合剤が前記第2の一次結合剤に結合せず、前記第2の二次結合剤が前記第1の一次結合剤を結合せず、前記第1の二次結合剤がFRETドナーで標識されており、前記第2の二次結合剤が、酵素であって、FRETアクセプターおよび酵素に特異的な基質を含むコンジュゲートと反応して、前記酵素に隣接する分子表面上の電子豊富な部分に結合する活性化コンジュゲートを形成する、酵素に融合している、少なくとも2つの二次結合剤」を含み、「i.細胞を含む単離された試料を前記少なくとも2つの一次結合剤と接触させること」と、「ii.前記試料を前記少なくとも2つの二次結合剤と接触させること」と、「iii.洗浄ステップを行うこと」と、「iv.前記二次結合剤間の相互作用を検出すること」と、を含むのに対し、引用発明は、二次結合剤を含むこと、及び、本件発明のi~ivの工程を含むことが特定されていない点。

6 判断(相違点についての検討)

(1)[相違点]について

引用文献1の記載事項(イ)及び(ウ)に基づけば、引用発明は、「標準化された信頼できる方法」を提供することを課題としているといえる。また、引用文献1の記載事項(オ)には、「PD-1とPD-L1との間の相互作用を検出するための技術として、・・・もう一つの技術は、例えば、フェルスター法又は蛍光共鳴エネルギー移動法(FRET)があり、これも満足のいく結果をもたらす・・・。」と記載されている。当該記載に基づけば、引用文献1には、引用発明における「細胞の少なくとも一部におけるタンパク質PD-1とそのリガンドPD-L1との間の相互作用」の評価を「フェルスター法又は蛍光共鳴エネルギー移動法(FRET)」の技術を用いて行うことが示唆されている。

一方、前記4(2)イに記載したとおり、本願の優先日前において、次の技術的事項が知られていたといえる。

「 a.少なくとも2つの一次抗体であって、第1の一次抗体は分子の第1の部位に結合し、第2の一次抗体は分子の第2の部位に結合し、ここで、第2の部位は第1の部位とは異なり第2の一次抗体は免疫学的に異なるものであり、
b.少なくとも2つの二次抗体であって、第1の二次抗体は蛍光共鳴エネルギー転移(FRET)ドナーで標識され第1の一次抗体に結合するものであり、第2の二次抗体は酵素と結合又は融合され第2の一次抗体に結合するものであり、ここで、第1の二次抗体は第2の一次抗体に結合せず、第2の二次抗体は第1の一次抗体に結合せず、
c.FRETアクセプターと酵素に特異的な基質とを含む接合体であって、ここで、基質は酵素によって反応することにより活性化接合体を形成し、活性化接合体は、酵素に隣接する分子表面の電子豊富な部分に結合し、
d.試料と少なくとも2つの一次抗体を接触させ、
e.試料と少なくとも2つの二次抗体を接触させ、
f.洗浄工程を実施し、
g.試料と接合体を接触させ、そして、
h.FERTアクセプターにより発生したFRET信号を検出することを、含む、分子を検出する方法。」

ここで、引用文献2の記載事項(ア)の「本発明は、試料中の分子、特に組織切片などの細胞中のタンパク質の部位や状態を検出する方法に関する。本発明はさらに、試料中のタンパク質間相互作用のような分子間相互作用の定量化を提供する。」との記載に基づけば、上記技術的事項は、細胞中のタンパク質の状態の検出において、タンパク質間相互作用の評価に用いることができるものである。また、引用文献2の記載事項(ウ)の「本発明の目的は、組織切片などの細胞内の分子、特にタンパク質の状態を検出するための改良された方法を提供することである。」との記載に基づけば、タンパク質の状態の検出を改良することを課題とするものといえる。

そして、上記技術的事項の「少なくとも2つの二次抗体」は、本件発明の「少なくとも2つの二次結合剤」に相当し、「第1の二次結合剤が前記第1の一次結合剤に結合し、第2の二次結合剤が前記第2の一次結合剤に結合し、前記第1の二次結合剤が前記第2の一次結合剤に結合せず、前記第2の二次結合剤が前記第1の一次結合剤を結合せず」、「前記第1の二次結合剤がFRETドナーで標識」され、「前記第2の二次結合剤」が「コンジュゲートと反応」する「酵素に融合している」との要件を満たすものである。また、上記技術的事項の「接合体」は、本件発明の「コンジュゲート」に相当し、「FRETアクセプターおよび酵素に特異的な基質を含む」とする要件、「前記酵素に隣接する分子表面上の電子豊富な部分に結合する活性化コンジュゲートを形成する」との要件を満たすものである。さらに、上記技術的事項のd~f及びhの各工程は、本件発明のi~ivの各工程に相当する。

以上より、引用発明と上記技術的事項とは、タンパク質間の相互作用を評価する点で共通する技術分野に属するものであり、その方法を改良しようとする点で共通している。そうすると、引用文献1の示唆にしたがい、上記技術的事項を採用し、上記[相違点]に係る本件発明の構成を具備する方法とすることは、当業者が容易になし得たことである。

(2)効果について

本件発明の効果は、引用発明の効果と、引用文献2に記載された技術的事項の効果とを、足し合わせたものに留まる。そうすると、本件発明の効果は、引用文献1及び引用文献2の記載に基づいて、当業者が予測し得る範囲のものであるから、格別顕著なものということができない。

(3)請求人の主張について

ア 請求人は、審判請求書の17頁において、「引用文献1及び2のいずれにも、前記(α)の点を有する発明については記載されておらず、また、示唆もされていない。」と主張している。

しかし、請求人の主張する「(α)」とは、審判請求時の請求項1の全ての構成要件を併せたものであり、引用文献1に記載された引用発明に、引用文献2に記載された技術的事項を採用することにより、その全てを満たすことになることは、前記(1)に記載したとおりである。

したがって、請求人の当該主張は採用できない。

イ また、請求人は、審判請求書の18頁において、請求項1に記載された発明が「低発現タンパク質の検出及び定量化が強化されて一次結合剤の希釈化を許容するので、不特定結合相互作用及び特異性を向上させる、という効果を有する。」と主張している。

しかし、引用文献2に記載された技術的事項も、同じ構成を具備しているのであるから、同様の効果を奏するものといえる。

したがって、請求人の当該主張は採用できない。

ウ さらに、請求人は、審判請求書の18~19頁において、「引用文献2は、同じ細胞上の増強されたFRETを使用することを教示するのみであるから、異なる細胞上に位置するPD-1とPD-L1との間の相互作用を検出するために増強されたFRETの技術を使用し得る、ということを当業者に教示するものでない。・・・引用文献1及び2における教示は、互いに相容れないものであり、それ故、当業者が引用文献1及び2に記載の発明を組み合わせる動機付けを見出すことができない。」と主張し、審判請求書の20頁において「請求項1に係る発明が容易になし得たものであるとみえるのは、後知恵(ハインドサイト)に過ぎない。」と主張している。

しかし、タンパク質間の相互作用が、同じ細胞に含まれるタンパク質間に限られるものでないことは、引用文献1の記載に言及するまでもなく、当業者にとって広く知られている。そうすると、引用文献2に、同じ細胞上のタンパク質間相互作用の定量化が開示されていたとしても、タンパク質間相互作用の定量化のための技術的事項が、異なる細胞上のタンパク質間相互作用の評価に用いることができることは、当業者にとって明らかである。

したがって、請求人の当該主張は採用できない。

エ また、請求人は、審判請求書の19頁において、「引用文献1に記載の発明と引用文献2に記載の発明とは、目的が相違する。」、「引用文献1に記載の発明と引用文献2に記載の発明とは、技術分野が相違する。」、「引用文献1に記載の発明と引用文献2に記載の発明とは、課題が相違する。」と主張している。

しかし、前記(1)に記載したとおり、引用発明と上記技術的事項とは、タンパク質間の相互作用を評価する点で共通する技術分野に属するものであり、その方法を改良しようとする点で共通している。

したがって、請求人の当該主張も採用できない。

オ さらに、請求人は、審判請求書の22~24頁において、「本願発明の認定の誤り」について主張しているが、本件発明は、前記2に記載のとおり認定されており、請求人の当該主張を採用することができない。

カ また、請求人は、審判請求書の24~25頁において、「本願発明と引用発明との対比の誤り」について主張しているが、前記5に記載のとおり対比しており、請求人の当該主張を採用することができない。

キ さらに、請求人は、審判請求書の25~26頁において、「引用発明の認定の誤り」について主張しているが、引用発明の認定は、前記4(1)イのとおりであり、請求人の当該主張を採用することができない。また、請求人は、「引用発明の認定の誤り」と称して、本件発明の効果について主張しているようにも読み取れるが、前記(2)及び前記イに記載したとおりであるから、請求人の当該主張を採用することができない。

ク また、請求人は、審判請求書の26~27頁において、「引用文献1に記載の発明と引用文献2に記載の発明とは、技術分野が相違し、目的が相違し、かつ、課題が相違するものであり、しかも、引用文献1に記載の発明と引用文献2に記載の発明とを組み合わせることについて、何らの示唆等も存在しないから、当業者が引用文献1及び2に記載の発明を組み合わせる動機付けを見出すことができない。」と主張しているが、当該主張は、既に述べられた主張を繰り返すものに過ぎず、前記(1)に記載したとおりであるから、請求人の当該主張を採用することができない。

ケ なお、令和7年3月17日付けの拒絶理由通知において、「当合議体は、原査定における進歩性についての判断を保留している。」と記載したが、令和7年4月3日に提出された意見書において、進歩性についての反論はなされていない。

(4)まとめ

以上のとおり、上記[相違点]は当業者が容易に想到し得たものであり、また、その効果も当業者が予測できる範囲のものであるから、本件発明は、引用発明及び引用文献2に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

7 むすび(結論)

上記のとおりであるから、本件発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。

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2024-000398

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