特許無効審判
2023-800061
メトホルミン治療に不適切な患者における糖尿病の治療
- 審判番号
- 2023-800061
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 無効審判(無効の審決)
- 出願番号
- 特願2014-000461
- 登録番号
- 6290627
- 請求日
- 2023年09月07日
- 審決日
- 2025年09月24日
- 公報発行日
- 2026年05月29日
- 結論
- 請求成立(無効)
- 当事者
- 【請求人】沢井製薬 株式会社
- 【請求人代理人】森本 純
- 【参加人】日新製薬株式会社
- 【参加人代理人】大串 寿人
- 【参加人代理人】辻 茉莉子
- 【被請求人】ベーリンガー インゲルハイム インターナショナル ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
- 【被請求人代理人】田中 伸一郎
- 【被請求人代理人】須田 洋之
- 【被請求人代理人】山崎 一夫
- 【被請求人代理人】市川 さつき
- 【被請求人代理人】服部 博信
- 【被請求人代理人】松田 七重
- 審判長/審判官
- 審判長 冨永 みどり
- 審判官 松波 由美子
- 審判官 田村 直寛
- 分類
- P1113.121-ZAA(A61K)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項特許法123条1項2号特許法169条2項民事訴訟法61条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第134条の2第9項、特許法第134条の2第1項、特許法第29条第2項、特許法第134条の2第3項、特許法第169条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
上記当事者間の特許第6290627号発明「メトホルミン治療に不適切な患者における糖尿病の治療」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。
結論
結 論
特許第6290627号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔5~17、24〕について訂正することを認める。
特許第6290627号の請求項1~24に係る発明についての特許を無効とする。
審判費用は、被請求人の負担とする。
理由
理 由
第1 請求の趣旨及び答弁の趣旨
1 請求の趣旨
特許第6290627号の特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求める。
2 答弁の趣旨
本件審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求める。
第2 手続の経緯
特許第6290627号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~24に係る発明についての特許出願(特願2014-461号)は、2009年(平成21年)8月5日(パリ条約による優先権主張 2008年8月6日(以下、「本件優先日」という。) 米国(US)、 2008年8月7日 欧州特許庁(EP)、 2008年10月16日 欧州特許庁(EP)、 2008年10月16日 米国(US))を国際出願日とする特許出願(特願2011-521574号)の一部を平成26年1月6日に新たな特許出願としたものであって、平成30年2月16日に特許権の設定登録がなされたものである。
これに対して、令和5年9月7日に特許無効審判請求がなされた。以後の主な手続の経緯は次のとおりである。
令和 5年 9月 7日 審判請求書の差出
同年12月26日 参加申請書の提出(日新製薬株式会社)
令和 6年 2月 6日 答弁書の提出
同年 2月19日 意見書の提出(被請求人)
同年 3月19日付け 参加許否の決定(参加人の請求人側への参加を許可)
同年 7月 8日付け 審理事項通知書
同年 9月18日 口頭審理陳述要領書の提出(参加人)
同年 9月18日 口頭審理陳述要領書の提出(請求人)
同年 9月18日 口頭審理陳述要領書の提出(被請求人)
同年10月 9日 口頭審理
同年10月17日 上申書の提出(請求人)
同年10月30日 上申書の提出(被請求人)
同年11月20日 上申書の提出(請求人)
令和 7年 2月13日付け 審決の予告
同年 6月17日 訂正請求書、訂正特許請求の範囲、上申書の提出(被請求人)
同年 8月 1日 訂正請求書に係る手続補正書(方式)の提出(被請求人)
第3 訂正請求について
1 訂正の内容
令和7年8月1日提出の手続補正書(方式)により補正された訂正請求書における訂正請求の趣旨は、「特許第6290627号の特許請求の範囲を本訂正請求書に添付した特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項5~17、24について訂正することを求める。」というものであり、その訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、次のとおりである(下線は訂正箇所を示す。)。
・訂正事項1
訂正前の請求項5において、
「前記薬剤中のDPP-4阻害剤が、正常な腎機能をもつ患者と同じ投与量で前記患者に用いられる」
とあるのを、
「前記薬剤中のDPP-4阻害剤が、正常な腎機能をもつ患者と同じ投与量で前記患者に用いられ、かつ、前記DPP-4阻害剤の主な代謝産物が、薬理的に不活性である、」
と訂正する(請求項5の記載を直接的又は間接的に引用する請求項6~17及び24も同様に訂正する。)。
2 訂正事項の適否
(1)訂正の目的について
訂正事項1に係る訂正は、訂正前の請求項5に記載されていた「DPP-4阻害剤」について、その「主な代謝産物が、薬理的に不活性である」と限定して特定するものである。したがって、訂正事項1は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
(2)実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないことについて
訂正事項1に係る訂正は、訂正前の請求項5に記載されていた発明における発明特定事項を限定するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものには該当せず、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。
(3)願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内であることについて
訂正事項1に係る訂正後の「前記DPP-4阻害剤の主な代謝産物が、薬理的に不活性である」は、訂正前の請求項5を引用する請求項12中の「前記DPP-4阻害剤の主な代謝産物が、薬理的に不活性である」と一致するものである。また、本件特許明細書中の「DPP-4阻害剤の1つ又は複数の(主要)代謝産物は、薬理的に不活性である」(【0062】段落)、及び「[14C]BI 1356の経口投与後、親化合物は、調べたすべてのマトリックスにおいて最も多量の放射性物質である。・・・プールされた試料中16.9%の試料放射能を有する血漿において不活性の主要代謝産物が確認される。」(【0131】段落)の記載とも整合する事項である。
よって、訂正事項1に係る訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。
(4)独立特許要件について
請求項5は、無効審判の請求がされている請求項であるので、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第7項の規定は適用されない。
3 一群の請求項について
訂正前の請求項6~17、24は、訂正事項1を含む請求項5を直接又は間接的に引用しており、訂正事項1によって連動して訂正されるものである。
よって、訂正前の請求項5~17、24に対応する訂正後の請求項5~17、24は、特許法第134条の2第3項に規定する一群の請求項を構成する。
4 まとめ
以上によれば、本件訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項に規定する要件に適合するから、訂正後の請求項〔5~17、24〕について訂正することを認める。
第4 訂正後の本件発明
前記第3のとおり、本件訂正は認められたので、本件訂正後の請求項1~24に係る発明は、本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1~24に記載された事項により特定される、次のとおりのものである(以下、請求項の番号に従い、「本件発明1」等といい、まとめて「本件発明」という。)。
【請求項1】
メトホルミン治療がメトホルミンに対して禁忌のために不適切であり、中等度又は重度の腎障害又は末期腎疾患をもつ患者において2型糖尿病を治療及び/又は予防するための経口投与用のDPP-4阻害剤を含む薬剤であって、前記DPP-4阻害剤が、1-[(4-メチルキナゾリン-2-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-(3-(R)-アミノピペリジン-1-イル)キサンチンまたはその薬学的に許容される塩であり、前記DPP-4阻害剤が前記患者に一日当たり5mgの経口投与量で投与されることを特徴とする、上記薬剤。
【請求項2】
前記患者が、メトホルミンに対して禁忌のためにメトホルミン治療が不適格な患者である、請求項1に記載の薬剤。
【請求項3】
末期腎疾患、又は中等度又は重度の腎障害をもつ患者において2型糖尿病の治療に用いるための請求項1または2に記載の薬剤。
【請求項4】
前記DPP-4阻害剤が、1-[(4-メチルキナゾリン-2-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-(3-(R)-アミノピペリジン-1-イル)キサンチンである、請求項1~3のいずれか1項に記載の薬剤。
【請求項5】
前記薬剤中のDPP-4阻害剤が、正常な腎機能をもつ患者と同じ投与量で前記患者に用いられ、かつ、前記DPP-4阻害剤の主な代謝産物が、薬理的に不活性である、末期腎疾患、又は中等度又は重度の腎障害をもつ患者において2型糖尿病の治療に用いるための、請求項1~4のいずれか1項に記載の薬剤。
【請求項6】
前記DPP-4阻害剤及び1つ又は複数のその主要活性代謝産物が比較的広い治療濃度域を有し更に/又は主に肝代謝又は胆汁中排泄を経て排出される、請求項1~5のいずれか1項に記載の薬剤。
【請求項7】
前記DPP-4阻害剤が、主に肝臓を介して排泄される、請求項1~6のいずれか1項に記載の薬剤。
【請求項8】
前記DPP-4阻害剤の腎臓を経た排泄が、非主要(マイナー)排出経路である、請求項1~7のいずれか1項に記載の薬剤。
【請求項9】
前記DPP-4阻害剤が、大部分は変化せずに排泄される、請求項1~8のいずれか1項に記載の薬剤。
【請求項10】
前記DPP-4阻害剤の代謝による排出が、非主要(マイナー)排出経路である、請求項1~9のいずれか1項に記載の薬剤。
【請求項11】
前記DPP-4阻害剤が、肝臓を経て親薬剤として主に排出される、請求項1~10のいずれか1項に記載の薬剤。
【請求項12】
前記DPP-4阻害剤の主な代謝産物が、薬理的に不活性であるか又は比較的広い治療濃度域を有する、請求項1~11のいずれか1項に記載の薬剤。
【請求項13】
重度の腎障害をもつ患者に用いられる、請求項1~12のいずれか1項に記載の薬剤。
【請求項14】
抗糖尿病薬より選ばれる活性物質、血糖値を低下させる活性物質、血中の脂質レベルを低下させる活性物質、血中のHDLレベルを上昇させる活性物質、血圧を低下させる活性物質、アテローム性動脈硬化症の治療に必要とされる活性物質、及び肥満症の治療に必要とされる活性物質、の1つ以上と更に組み合わせて用いられる、請求項1~13のいずれか1項に記載の薬剤。
【請求項15】
スルホニル尿素、チアゾリジンジオン、グリニド、アルファ-グルコシダーゼ遮断薬、GLP-1、GLP-1類似体、インスリン、及びインスリン類似体より選ばれる1つ以上の活性物質と更に組み合わせて用いられる、請求項1~14のいずれか1項に記載の薬剤。
【請求項16】
レパグリニド、ピオグリタゾン、インスリン、及びインスリン類似体より選ばれる1つ以上の活性物質と更に組み合わせて用いられる、請求項1~15のいずれか1項に記載の薬剤。
【請求項17】
ピオグリタゾンと組み合わせて用いられる、請求項1~16のいずれか1項に記載の薬剤。
【請求項18】
メトホルミン治療がメトホルミンに対して禁忌のために不適切である、重度の腎障害をもつ患者において2型糖尿病を治療及び/又は予防するための経口投与用の、1-[(4-メチルキナゾリン-2-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-(3-(R)-アミノピペリジン-1-イル)キサンチンであるDPP-4阻害剤を含む医薬組成物であって、スルホニル尿素、チアゾリジンジオン、グリニド、アルファ-グルコシダーゼ遮断薬、GLP-1、GLP-1類似体、インスリン、及びインスリン類似体より選ばれる1つ以上の活性物質と更に組み合わせて使用するための医薬組成物であり、前記DPP-4阻害剤が、前記患者に一日5mgの経口投与量で投与されることを特徴とする上記医薬組成物。
【請求項19】
重度の腎障害をもつ患者において2型糖尿病を治療及び/又は予防するための、1-[(4-メチルキナゾリン-2-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-(3-(R)-アミノピペリジン-1-イル)キサンチンであるDPP-4阻害剤を含む医薬組成物であって、レパグリニド、ピオグリタゾン、インスリン、及びインスリン類似体より選ばれる1つ以上の活性物質と更に組み合わせて使用するための経口投与用の医薬組成物であり、前記DPP-4阻害剤が、前記患者に一日5mgの経口投与量で投与されることを特徴とする上記医薬組成物。
【請求項20】
1-[(4-メチルキナゾリン-2-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-(3-(R)-アミノピペリジン-1-イル)キサンチンであるDPP-4阻害剤を含む、重度の腎障害をもつ患者において2型糖尿病の治療及び/又は予防に用いるための薬剤であって
前記DPP-4阻害剤が、前記患者に一日5mgの経口投与量で投与されることを特徴とする上記薬剤。
【請求項21】
1-[(4-メチルキナゾリン-2-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-(3-(R)-アミノピペリジン-1-イル)キサンチンであるDPP-4阻害剤を含む、中等度又は重度の腎障害又は末期腎疾患をもつ患者において2型糖尿病の治療に用いるための経口投与用薬剤であって、前記薬剤中のDPP-4阻害剤が、正常な腎機能を有する患者に対する投与量と同じ量において使用され、前記DPP-4阻害剤が、前記患者に一日5mgの経口投与量で投与されることを特徴とする上記薬剤。
【請求22】
患者が、重度の腎障害をもつ患者である、請求項21に記載の薬剤。
【請求項23】
1-[(4-メチルキナゾリン-2-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-(3-(R)-アミノピペリジン-1-イル)キサンチンであるDPP-4阻害剤を含む経口投与用薬剤であって、中等度、重度又は末期の慢性腎不全又は腎障害をもつ患者における2型糖尿病の治療及び/又は予防に用いるための薬剤であり、前記DPP-4阻害剤が、前記患者に一日5mgの経口投与量で投与されることを特徴とする上記薬剤。
【請求項24】
薬剤中の前記DPP-4インヒビターが、前記患者に5mgの投与量で一日一回、前記患者に経口投与される、請求項1~17または20~23のいずれか一項に記載の薬剤。
第5 当事者の主張及び証拠方法
1 請求人の主張及び証拠方法
請求人は、証拠方法として甲第1号証、甲第2号証、甲第3号証、甲第6号証、甲第7号証、甲第16号証、甲第19号証、甲第21号証、甲第24号証、甲第34号証~甲第47号証、甲第59号証、甲第60号証の2、及び甲第73号証~甲第84号証(枝番を含む)(以下、「甲1」などという。)を提出するとともに、次の無効理由1を主張する。
[無効理由1]
本件発明1~本件発明24は、いずれも本件優先日前に日本国内又は外国において公開された甲1発明(主引例)、並びに甲第2号証、甲第3号証、甲第6号証、甲第7号証、甲第16号証、甲第19号証、甲第21号証、甲第24号証、甲第34号証~甲第47号証、甲第59号証、甲第60号証の2、甲第73号証~甲第84号証、及び丙第1号証~丙第4号証(枝番を含む)に記載された技術常識に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。
[証拠方法]
なお、以下において(R)は、○の中にRの字を含む上付き文字を示す。
本件特許の出願の優先日後に公開された証拠方法には「(優先日後)」と記載する。(以下同様)
・甲1:特表2006-503013号公報
・甲2:科学的根拠に基づく糖尿病診療ガイドライン、株式会社南江堂、2004年5月25日、p.5~p.19、p.37~p.46
・甲3:新しい診断と治療のABC18/代謝2糖尿病、株式会社最新医学社、2004年1月25日、p.106~113
・甲6:ホルモンと臨床、2005年2月1日、Vol.53、No.2、p.(159)35~(163)39、「ビグアナイドの基礎と臨床」、p.(239)115~(243)119、「GIP,GLP-1等の新しい形の治療薬の開発の現状」
・甲7:糖尿病の最新治療、2011年、Vol.3、No.1、p.51~55
・甲16:医薬品の臨床薬物動態試験について、厚生労働省医薬局審査管理課長、医薬審発第796号、2001年6月1日
・甲19:「トラゼンタ(R)錠5mg」のインタビューフォーム、日本ベーリンガーインゲルハイム株式会社、2022年4月改訂(優先日後)
・甲21:クリニカ、2004年11月30日、Vol.31、No.6、p.40(402)~p.42(404)、「経口血糖降下薬の作用と使い方ビグアナイド薬」、p.60(422)~p.65(426)、「特殊な病態に対する経口血糖降下薬」
・甲24:心臓、2000年、Vol.32、No.12、p.931~936
・甲34:薬局、2006年、Vol.57、No.9、p.9(2735)~p.13(2739)
・甲35:診断と治療、2008年2月、Vol.96、No.2、p.389(199)~p.390(200)
・甲36:Diabetic medicine、2006年,Vol.23、suppl.4、p.300(P821)
・甲37:Diabetes、2007年6月、Vol.56、Suppl.1、p.A156、586-P
・甲38:Diabetologia、2007年、Vol.50、Suppl.1、p.S367(0890)
・甲39:Drugs of the Future、2008年6月、Vol.33、No.6、p.473~p.477
・甲40:Diabetes、2008年6月、Vol.57、Suppl.1、p.A158~p.A159
・甲41:腎機能障害時における循環器用薬の投与方法、株式会社医薬ジャーナル社、2003年9月5日、p.13~p.21
・甲42:臨床医のための薬物動態学、真興交易株式会社、1989年7月1日、p.39~p.53
・甲43:薬剤学、株式会社南江堂、1984年9月15日、p.310~p.316
・甲44:腎不全と薬の使い方Q&A、株式会社じほう、2005年4月10日、p.55~p.78
・甲45:臨床薬理、1999年、Vol.30、No.3、p.625~p.628
・甲46:治療増刊号、2003年、Vol.85、p.(1141)541~p.(1143)543
・甲47-1:国際公開第2007/128761号
・甲47-2:特表2009-535381号公報(優先日後)
<以上、審判請求書に添付>
・甲6-2:ホルモンと臨床、2005年2月1日、Vol.53、No.2、p.(175)51~p.(183)59
・甲59:新医薬品の臨床評価に関する一般指針について、厚生省薬務局新医薬品課長、薬新薬第43号、1992年6月29日
・甲60-2:臨床試験ハンドブック-デザインと統計解析-、株式会社朝倉書店、2006年3月30日、p.45~p.46
・甲73:“Use of Insulin and Oral Hypoglycemic Medications in Patients with Diabetes Mellitus and Advanced Kidney Disease”(乙第3号証:Seminars in Dialysis、2004年9月29日、Vol.17、No.5、p.365~p.370)の抄訳、2024年9月17日(優先日後)、請求人
・甲74:改訂2版腎機能別薬剤使用マニュアル、株式会社じほう、2006年12月10日、p.49、p.54
・甲75:Diabetologia、2007年、Vol.50、Suppl.1、p.S363~p.S364、0881
・甲76:臨床薬物動態学-臨床薬理学・薬物療法の基礎として-(改訂第3版)、株式会社南江堂、2003年9月15日、p.63~p.65
・甲77:Bull. Natl. Inst. Health Sci.、2005年、Vol.123、p.12~p.18
・甲78:甲第39号証:Drugs of the Future、2008年6月、Vol.33、No.6、p.473~p.477の訳文(475頁右欄30行目以下)、2024年9月17日、請求人(優先日後)
・甲79:わかりやすい生物薬剤学〔第4版〕、株式会社廣川書店、2008年1月20日、p.134~p.139
・甲80:Diabetes Care、2015年、Vol.38、p.e15~p.e17(優先日後)
・甲81:Diabetes, Obesity and Metabolism、2012年、Vol.14、p.1145~p.1154(優先日後)
・甲82:BMJ Open Diabetes Research and Care、2016年、Vol.4、p.1~p.7(優先日後)
・甲83:UMIN臨床試験登録システムにおける「UMIN000007635」についての検索結果、大学病院医療情報ネットワーク、2024年9月5日出力、https://center6.umin.ac.jp/cgi-openbin/ctr/ctr_view.cgi?recptno=R000008990(優先日後)
<以上、口頭審理陳述要領書に添付>
・甲84:甲第39号証:Drugs of the Future、2008年6月、Vol.33、No.6、p.473-p.477の訳文(476頁右欄1行以下)、2024年10月10日、請求人(優先日後)
<以上、令和6年10月18日提出の上申書に添付>
2 参加人の証拠方法
・丙1:Therapy、2008年1月7日、Vol.5、No.1、p.79~p.90
・丙2:Expert Review of Endocrinology and Metabolism、2007年7月、Vol.2、No.4、p.469~p.475
・丙3:Cardiology in Review、2007年、Vol.15、No.5、p.264~p.271
・丙4:Clinical and Experimental Pharmacology and Physiology、2015年7月15日、Vol.42、No.10、p.999~p.1024(優先日後)
<以上、口頭審理陳述要領書に添付>
3 被請求人の主張及び証拠方法
被請求人は、証拠方法として乙第1号証~乙第4号証、乙第9号証、乙第11号証~乙第14号証、乙第21号証~乙第28号証(枝番含む)を提出するとともに、請求人が主張する無効理由は存在しない旨を主張する。
[証拠方法]
・乙1:「トラゼンタ(R)錠5mg」の添付文書、2018年8月改訂(第12版)(優先日後)
・乙2:Diabetes & Vascular Disease Research、2014年8月12日、Vol.11、No.5、p.306~p.323(優先日後)
・乙3:Seminars in Dialysis、2004年、Vol.17、No.5、p.365~p.370
・乙4の1:「ジャヌビア(R)錠12.5mg/25mg/50mg/100mg」の添付文書、2016年4月改訂(第22版)(優先日後)
・乙4の2:「オングリザ(R)錠2.5mg/5mg」の添付文書、2016年11月改訂(第7版)(優先日後)
・乙4の3:「ネシーナ(R)錠25mg/12.5mg/6.25mg」の添付文書、2010年4月作成(第1版)(優先日後)
・乙4の4:「エクア(R)錠50mg」の添付文書、2016年4月改訂(第14版)(優先日後)
<以上、答弁書に添付>
・乙9:67th Annu Meet Sci Sess Am Diabetes Assoc (ADA)、2007年、ポスターNo.0594P
・乙11:J. Med. Chem.、2007年12月1日、Vol.50、p.6450~p.6453
・乙12:YAKUGAKU ZASSHI、2017年6月1日、Vol.137、No.6、p.697~p.705(優先日後)
・乙13の1:グリベンクラミド錠1.25mg/2.5mg「サワイ」の添付文書、2023年11月改訂(第1版)(優先日後)
・乙13の2:グリメピリドOD錠0.5mg/1mg/3mg「ケミファ」の添付文書、2023年9月改訂(第1版)(優先日後)
・乙13の3:アカルボース錠50mg/100mg「サワイ」の添付文書、2023年5月改訂(第1版)(優先日後)
<以上、令和6年10月31日提出の上申書に添付>
・乙3の2:乙第3号証:Seminars in Dialysis、2004年、Vol.17、No.5、p.365~p.370)の訳文(368頁左欄22~25行、38~44行)、2025年6月12日、被請求人(優先日後)
・乙14:腎不全と薬の使い方Q&A、株式会社じほう、2005年4月10日、p.65~p.68
・乙21:Clin. Pharmacokinet.、1996年8月、Vol.31、No.2、p.111~p.119
・乙22:Clinical Nephrology、1984年、Vol.21、No.1、p.39~p.46
・乙23:Expert Review of Endocrinology and Metabolism、2007年7月、Vol.2、No.4、p.469~p.475
・乙24:Januvia : EPAR - Scientific Discussion、2007年3月26日、欧州医薬品庁
・乙25:Galvus : EPAR - Scientific Discussion、2007年4月4日、欧州医薬品庁
・乙26:Galvus FDA Approval Status、2025年3月27日、被請求人、
https://www.drugs.com/history/galvus.html(優先日後)
・乙27:甲第85号証の訳文(1頁「II背景」、2頁9行~3頁5行、6頁10行~12行)、2025年6月12日、被請求人(優先日後)
・乙28:Diabetes、1983年6月、Vol.32、Suppl.2、p.64~p.78
<以上、令和7年6月17日提出の上申書に添付>
第6 主な証拠の記載事項
以下に、主な証拠の記載事項を示す。
なお、原文が外国語の場合は、その訳文を示し、参照文献を示す数字は省略した。審決の予告において表記できない、□又は○の中の数字は、適宜他の形式で記載した。また、当審において強調のために下線を付与したところがあり、「・・・」は、記載の省略を意味する。
1 甲1の記載事項
甲1には、以下の事項が記載されている。
(1)甲1-1
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の一般式Iで表される化合物:
【化1】
[図:0001434535000001.jpg]
ここで、R1は、・・・R2は、・・・、かつR3は、・・・、
並びに以下に列挙する化合物:
・・・
;その互変異性体、エナンチオマー、ジアステレオマー、混合物、そのプロドラッグおよびその塩。
・・・
【請求項17】
以下に列挙するものから選択される、請求項1、5および11のいずれか1項に記載の化合物、並びにその互変異性体、エナンチオマー、ジアステレオマー、混合物およびその塩:
(1)1-[(キナゾリン-2-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-((R)-3-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチン;(2)1-(2-{2-[(エチルアミノカルボニル)メトキシ]-フェニル}-2-オキソエチル)-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-((R)-3-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチン;(3)1-(2-{2-[(メチルアミノカルボニル)メトキシ]-フェニル}-2-オキソエチル)-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-((R)-3-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチン;(4)1-(2-フェニル-2-オキソエチル)-3-メチル-7-((E)-2-ブテン-1-イル)-8-((R)-3-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチン;(5)1-[(3-メチル-イソキノリン-1-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-((S)-3-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチン;(6)1-[(3-メチル-イソキノリン-1-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-((R)-3-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチン;(7)1-[(4-メチル-イソキノリン-1-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-((S)-3-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチン;(8)1-[(4-メチル-イソキノリン-1-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-((R)-3-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチン;(9)1-[2-(2,3-ジヒドロベンゾ[1,4]ジオキシン-5-イル)-2-オキソエチル]-3-メチル-(2-ブチン-1-イル)-8-(3-(R)-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチン;(10)1-[(4-メトキシナフタレン-1-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-((S)-3-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチン;(11)1-[(4-メトキシナフタレン-1-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-((R)-3-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチン;(12)1-[2-(ベンゾ[1,3]ジオキソール-4-イル)-2-オキソエチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-((R)-3-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチン;(13)1-[(4-メチル-キナゾリン-2-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-(3-(R)-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチン;(14)1-(2-{2-[(イソプロピルカルボニル)アミノ]-フェニル}-2-オキソエチル)-3-メチル-7-((E)-2-ブテン-1-イル)-8-((S)-3-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチン;(15)1-(2-{2-[(メチルアミノカルボニル)メトキシ]-フェニル}-2-オキソエチル)-3-メチル-7-((E)-2-ブテン-1-イル)-8-((R)-3-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチン;(16)1-(2-{2-[(メチルアミノカルボニル)メトキシ]-フェニル}-2-オキソエチル)-3-メチル-7-((E)-2-ブテン-1-イル)-8-((S)-3-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチン;(17)1-(2-{2-[(イソプロピルカルボニル)アミノ]-フェニル}-2-オキソエチル)-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-((R)-3-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチン;(18)1-(2-{2-[(イソプロピルカルボニル)アミノ]-フェニル}-2-オキソエチル)-3-メチル-7-((E)-2-ブテン-1-イル)-8-((R)-3-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチン;(19)1-[(4-シアノナフタレン-1-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-((R)-3-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチン;(20)1-[(4-フェニルキナゾリン-2-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-((R)-3-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチン;(21)1-[(8-メチルキノキサリン-6-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-((R)-3-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチン;(22)1-[(4-フルオロナフタレン-1-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-((R)-3-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチン;(23)1-((E)-3-ペンタフルオロフェニル-アリル)-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-((R)-3-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチン;(24)1-[(3-トリフルオロメチル-イソキノリン-1-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-((R)-3-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチン;(25)1-[(3-ジフルオロメチル-イソキノリン-1-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-((R)-3-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチン;(26)1-[2-(ビフェニル-2-イル)-2-オキソエチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-((R)-3-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチン;(27)1-[(3-メチル-イソキノリン-1-イル)メチル]-3-シクロプロピル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-((R)-3-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチン;(28)1-[2-(3-メトキシフェニル)-2-オキソエチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-((R)-3-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチン;(29)1-[(3-メチル-イソキノリン-1-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-クロロベンジル)-8-((R)-3-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチン;および(30)1-[(3-メチル-イソキノリン-1-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブロモベンジル)-8-((R)-3-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチン。
・・・
【請求項20】
請求項1~18のいずれか1項に記載の化合物の、真性糖尿病タイプIおよびタイプII、関節炎、肥満、同種移植片による移植およびカルシトニン-誘発性オステオポローシスを治療するのに適した、薬理組成物を製造するための使用。」
(2)甲1-2
「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、以下の一般式Iで表される新規な置換されたキサンチン:
【0002】
【化1】
[図:0001434535000002.jpg]
【0003】
その互変異性体、立体異性体、混合物、プロドラッグおよびその塩、特に無機または有機の酸または塩基との生理的に許容される塩に係り、これらは特に、酵素:ジペプチジルペプチダーゼ-IV(DPP-IV)の活性に及ぼす阻害作用を含む、薬理的に有益な諸特性を持ち、またこれらの製造、高いDPP-IV活性と関連した、またはこのDPP-IV活性を減じることによって、予防もしくは軽減できる疾患または状態、特にタイプIまたはタイプII真性糖尿病を予防もしくは治療するためのその使用、一般式(I)の化合物またはその生理的に許容されるその塩を含む薬理組成物並びにその製法に関するものである。
・・・
【0025】
特に、最も好ましくは、以下に列挙するものから選択される一般式Iで示される化合物、並びにその互変異性体、エナンチオマー、ジアステレオマー、混合物およびその塩である:(1)1-[(キナゾリン-2-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-((R)-3-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチン;(2)1-(2-{2-[(エチルアミノカルボニル)メトキシ]-フェニル}-2-オキソエチル)-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-((R)-3-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチン;(3)1-(2-{2-[(メチルアミノカルボニル)メトキシ]-フェニル}-2-オキソエチル)-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-((R)-3-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチン;(4)1-(2-フェニル-2-オキソエチル)-3-メチル-7-((E)-2-ブテン-1-イル)-8-((R)-3-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチン;(5)1-[(3-メチル-イソキノリン-1-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-((S)-3-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチン;(6)1-[(3-メチル-イソキノリン-1-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-((R)-3-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチン;(7)1-[(4-メチル-イソキノリン-1-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-((S)-3-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチン;(8)1-[(4-メチル-イソキノリン-1-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-((R)-3-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチン;(9)1-[2-(2,3-ジヒドロベンゾ[1,4]ジオキシン-5-イル)-2-オキソエチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-(3-(R)-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチン;(10)1-[(4-メトキシナフタレン-1-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-((S)-3-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチン;
【0026】
(11)1-[(4-メトキシナフタレン-1-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-((R)-3-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチン;(12)1-[2-(ベンゾ[1,3]ジオキソール-4-イル)-2-オキソエチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-((R)-3-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチン;(13)1-[(4-メチル-キナゾリン-2-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-(3-(R)-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチン;(14)1-(2-{2-[(イソプロピルカルボニル)アミノ]-フェニル}-2-オキソエチル)-3-メチル-7-((E)-2-ブテン-1-イル)-8-((S)-3-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチン;(15)1-(2-{2-[(メチルアミノカルボニル)メトキシ]-フェニル}-2-オキソエチル)-3-メチル-7-((E)-2-ブテン-1-イル)-8-((R)-3-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチン;(16)1-(2-{2-[(メチルアミノカルボニル)メトキシ]-フェニル}-2-オキソエチル)-3-メチル-7-((E)-2-ブテン-1-イル)-8-((S)-3-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチン;(17)1-(2-{2-[(イソプロピルカルボニル)アミノ]-フェニル}-2-オキソエチル)-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-((R)-3-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチン;(18)1-(2-{2-[(イソプロピルカルボニル)アミノ]-フェニル}-2-オキソエチル)-3-メチル-7-((E)-2-ブテン-1-イル)-8-((R)-3-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチン;(19)1-[(4-シアノナフタレン-1-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-((R)-3-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチン;(20)1-[(4-フェニルキナゾリン-2-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-((R)-3-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチン;・・・」
(3)甲1-3
「【0037】
・・・
既に上で述べたように、本発明による一般式Iの化合物および生理的に許容されるその塩は、有益な薬理的諸特性、特に酵素DPP-IVに対する阻害作用を持つ。
これら新規化合物の生物学的特性は、以下のようにして検討した:
これら物質およびその対応する塩の、DPP-IV活性を阻害する能力は、ヒト結腸癌細胞系Caco-2の抽出液を、該DPP-IV源として使用する、設定されたテストによって立証できる。DPP-IV発現を誘発するために、該細胞の分化を、「腸管細胞系Caco-2の高められた発現(Increased expression of intestinal cell line Caco-2)」と題する、Reiher等の論文(Proc. Natl. Acad. Sci., 1993, 90:5757-5761)に記載されたように実施した。該細胞抽出液は、バッファー(10mM Tris-HCl、0.15mMのNaCl、0.04t.i.u.のアプロチニン、0.5%のノニデット(Nonidet)-P40、pH 8.0)中に可溶化された細胞から、4℃にて30分間、35,000gにて遠心分離処理することにより得た。
このDPP-IVアッセイは、以下のようにして行った:
【0038】
最終濃度100μMの、50μlの基質溶液(AFC;AFCは、アミド-4-トリフルオロメチルクマリンである)を、黒色のマイクロタイタープレートに入れた。20μlのアッセイバッファー(夫々最終濃度50mMのTris-HCl、pH 7.8、50mMのNaCl、1%のDMSO)を、ピペットで秤取り、これに加えた。この反応は、30μlの可溶化したCaco-2タンパク(最終濃度:ウエル当たり、0.14μgのタンパク)を添加することにより開始させた。検討すべきテスト物質は、典型的には予め希釈して20μlとして添加したが、結果としてアッセイバッファーの体積を、それに応じて減らした。この反応は、周囲温度にて60分間インキュベートすることにより行った。次いで、蛍光を、ビクター1420マルチラベルカウンタ(Victor 1420 Multilabel Counter)を用いて、励起波長405nmおよび発光波長535nmにて測定した。ブランクの読み(活性0%に相当)を、如何なるCaco-2タンパクも含まない、混合物(所定体積をアッセイバッファーで置換)について得、コントロール値(活性100%に相当)は、物質を全く添加してない混合物について得た。IC50値で表した、問題とするテスト物質の能力は、各場合に対して11個の測定点からなる用量/活性曲線から算出した。
【0039】
【表1】
[図:0001434535000003.jpg]
【0040】
本発明によって製造される化合物は、例えば実施例2(80)の化合物10mg/kgを経口経路でラットに投与した場合に、この動物における如何なる挙動変化も検出されなかったことから、十分に許容性をもつものである。
これら化合物のDPP-IV活性を阻害する能力から、本発明による一般式Iの化合物および対応する製薬上許容されるその塩は、該DPP-IV活性の阻害によって影響される可能性のある全てのこれら状態または疾病を治療するのに適したものである。従って、本発明の化合物は、疾患または状態、例えばタイプIおよびタイプII真性糖尿病、糖尿病性合併症(例えば、網膜症、ネフロパシーまたはニューロパシー)、代謝性アシドーシスまたはケトーシス、反応性低血糖、インシュリン耐性、代謝性症候群(metabolic syndrome)、様々な器官の脂肪異常(dyslipidaemias)、関節炎、アテローム性動脈硬化症および関連疾患、肥満、同種移植片移植およびカルシトニン-誘発性オステオポローシスの予防並びに治療のために適したものであると予想される。更に、これら物質は、B-細胞の変質、例えば膵臓B-細胞の断片化または壊死を防止することができる。これらの物質は、また膵臓細胞の機能を改善しもしくは回復させ、また膵臓B-細胞の数およびそのサイズを増大させるためにも適している。更に、またグルカゴン-様ペプチド(Glucagon-Like Peptides)、例えばGLP-1およびGLP-2およびそのDPP-IVとの結合の役割に基いて、本発明の化合物は、特に鎮静または不安-解消作用を達成するために、および手術あるいはホルモンストレス応答後の異化状態に有利に作用し、あるいは心筋梗塞後の、致死性または罹患率を減じるのに適しているものと考えられる。これら化合物は、また上記の作用と関連するおよびGLP-1またはGLP-2によって媒介される、あらゆる状態を治療するためにも適している。本発明による化合物は、また利尿剤または抗-高血圧剤として使用することも可能であり、また急性腎不全を予防し、かつ治療するためにも適している。更に、本発明の化合物は、気道の炎症性疾患を治療するのに使用することも可能である。これらは、更に慢性炎症性腸疾患、例えば過敏性腸症候群(IBS)、クローン病または潰瘍性大腸炎および膵炎でさえも、予防し、かつ治療するために適している。」
(4)甲1-4
「【0042】
本発明の化合物は、また他の活性物質との組合せで使用することもできる。このような組合せとして適した治療薬は、例えば抗-糖尿病薬、例えばメトホルミン、スルホニルウレア(例えば、グリベンクラミド、トルブタミド、グリメピリド)、ナテグリニド(nateglinide)、レパグリニド(repaglinide)、チアゾリジンジオン(例えば、ロシグリタゾン(rosiglitazone)、ピオグリタゾン)、PPAR-γアゴニスト(例えば、GI 262570)およびアンタゴニスト、PPAR-γ/αモジュレータ(例えば、KRP 297)、α-グルコシダーゼ阻害剤(例えば、アカルボース、フォグリボース(voglibose)、他のDPPIV阻害剤、α2アンタゴニスト、インシュリンおよびインシュリン類似体、GLP-1およびGLP-2類似体(例えば、エキセンジン-4)またはアミリン(amylin)を含む。また、SGLT2阻害剤、例えばT-1095、プロテインチロシンホスファターゼ1の阻害剤、調節機能が失われた、肝臓におけるグルコース産生に影響する物質、例えばグルコース-6-ホスファターゼまたはフルクトース-1,6-ビスホスファターゼグリコーゲンホスホリラーゼ、グルカゴンレセプタアンタゴニストおよびホスホエノール-ピルベートカルボキシキナーゼ、グリコーゲンシンターゼキナーゼまたはピルベートデヒドロキナーゼ、脂質低下剤、例えばHMG-CoA-リダクターゼ阻害剤(例えば、シンバスタチン、アトルバスタチン(atorvastatin))、フィブレート(例えば、ベザフィブラート、フェノフィブラート)、ニコチン酸およびその誘導体、PPAR-αアゴニスト、PPAR-δアゴニスト、ACAT阻害剤(例えば、アバシミブ(avasimibe))、またはコレステロール再吸収阻害剤、例えばエゼティミブ(ezetimibe)、胆汁酸-結合物質、例えばコレスティラミン、回腸の胆汁酸輸送の阻害剤、HDL-上昇化合物、例えばCETPの阻害剤またはABC1のレギュレータまたは肥満治療用の活性物質、例えばシブトラミンまたはテトラヒドロリポスタチン(tetrahydrolipostatin)、デキスフェンフルラミン、アキソカイン(axokine)、カンナビノイド1レセプタのアンタゴニスト、MCH-1レセプタアンタゴニスト、MC4レセプタアンタゴニスト、NPY5またはNPY2アンタゴニストまたはβ3-アゴニスト、例えばSB-418790またはAD-9677並びに5HT2cレセプタのアゴニストも使用できる。
【0043】
本発明の化合物を、高血圧を治療する薬物、例えばAIIアンタゴニストまたはACE阻害剤、利尿剤、β-ブロッカー、Ca-アンタゴニスト等、あるいはこれらの組合せと併用することも可能である。
このような効果を達成するのに必要な用量は、静脈内経路による場合、便宜上1~100mgなる範囲、好ましくは1~30mgなる範囲、また経口経路による場合には、1~1000mgなる範囲、好ましくは1~100mgなる範囲であり、何れの場合にも1日当たり1~4回投与する。この目的に対しては、本発明により製造した一般式Iの化合物は、場合により他の活性物質との組合せで、1種またはそれ以上の公知の担体および/または稀釈剤、例えばコーンスターチ、ラクトース、グルコース、ミクロクリスタリンセルロース、ステアリン酸マグネシウム、ポリビニルピロリドン、クエン酸、酒石酸、水、水/エタノール、水/グリセロール、水/ソルビトール、水/ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、セチルステアリルアルコール、カルボキシメチルセルロースまたは脂肪物質、例えば硬質脂肪または適当なその混合物と共に、公知のガレノス製剤、例えば無垢のまたは被覆した錠剤、カプセル、散剤、懸濁液、または座剤に配合することができる。」
(5)甲1-5
「【0152】
実施例2:1-(2-{2-[(エトキシカルボニル)メトキシ]-フェニル}-2-オキソ-エチル)-3-メチル-7-(3-メチル-2-ブテン-1-イル)-8-(3-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチン
1-(2-{2-[(エトキシカルボニル)メトキシ]-フェニル}-2-オキソ-エチル)-3-メチル-7-(3-メチル-2-ブテン-1-イル)-8-[3-(t-ブチルオキシカルボニルアミノ)-ピペリジン-1-イル]-キサンチン(209mg)の塩化メチレン(4ml)溶液を、1mlのトリフルオロ酢酸と併合し、周囲温度にて半時間撹拌する。作業を完結するために、この反応混合物を塩化メチレンで希釈し、飽和炭酸カリウム溶液で洗浄する。得られる有機相を乾燥し、蒸発させ、塩化メチレン/メタノール(1:0~4:1)を溶離液として使用し、シリカゲルカラムを通したクロマトグラフィー処理に掛ける。収量:153mg(理論値の87%);マススペクトル(ESI+):m/z=553[M+H]+
以下の化合物を、実施例2と同様にして得る:
・・・
【0167】
・・・
(80)1-[(キナゾリン-2-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-((R)-3-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチン(塩化メチレン中で、5-6Mのイソプロパノール性塩酸を用いて実施):マススペクトル(ESI+):m/z=459[M+H]+
・・・
【0178】
(142)1-[(4-メチル-キナゾリン-2-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-(3-(R)-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチン(塩化メチレン中で、5-6Mのイソプロパノール性塩酸を使用して実施):融点:198-202℃;マススペクトル(ESI+):m/z=473[M+H]+
・・・」
(6)甲1-6
「【0204】
・・・
実施例4:75mgの活性物質を含む被覆錠剤:
1錠剤コアは、以下の成分を含む:
【0205】
【表2】
[図:0001434535000004.jpg]
【0206】
製造:
該活性物質を、リン酸カルシウム、コーンスターチ、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシプロピルメチルセルロースおよび指定した量の半分のステアリン酸マグネシウムと混合する。直径13mmのブランクを、打錠機で製造し、次いでこれらを適当な機械を用いてメッシュサイズ1.5mmのスクリーンを通して、こすって磨き、該ステアリン酸マグネシウムの残部と混合する。この顆粒を打錠機で圧縮して、所定の形状を持つ錠剤を製造する。コアの重量:230mg;ダイ:9mm、凸型
かくして製造したこれらの錠剤コアを、本質的にヒドロキシプロピルメチルセルロースからなるフィルムで被覆する。これら完成したフィルム被覆錠剤を、蜜蝋を用いて研磨する。被覆錠剤の重量:245mg
実施例5:100mgの活性物質を含む錠剤:
組成:1錠剤は、以下の成分を含む:
【0207】
【表3】
[図:0001434535000005.jpg]
【0208】
製法:
該活性物質、ラクトースおよび澱粉を一緒に混合し、該ポリビニルピロリドンの水性溶液で均一に湿潤させる。この湿った組成物を篩別(メッシュサイズ2.0mm)した後、ラック型の乾燥機で50℃にて乾燥し、再度篩別(メッシュサイズ1.5mm)し、該潤滑剤を添加する。この完成された混合物を、圧縮して錠剤に成型する。錠剤質量:220mg;直径:10mm、バイプレーナ(biplanar)型、両面に切子面を、一方の側に切込み持つ。
実施例6:150mgの活性物質を含む錠剤
組成:1錠剤は、以下の成分を含む:
【0209】
【表4】
[図:0001434535000006.jpg]
【0210】
製造:
ラクトース、コーンスターチおよびシリカと混合した該活性物質を、ポリビニルピロリドンの20%水性溶液で湿らせ、メッシュサイズ1.5mmのスクリーンを通して篩別する。得られる顆粒を45℃で乾燥し、同一のスクリーンに再度通し、指定された量のステアリン酸マグネシウムと混合する。この混合物から、圧縮により錠剤を得る。錠剤の重量:300mg;ダイ:10mm、フラット
実施例7:150mgの活性物質を含む硬質ゼラチンカプセル
1カプセルは、以下の成分を含む:
【0211】
【表5】
[図:0001434535000007.jpg]
【0212】
製造:
該活性物質を、該賦形剤と混合し、メッシュサイズ0.75mmを持つスクリーンを介して篩別し、適当な装置を用いて均一に混合する。完成した混合物を、サイズ1の硬質ゼラチンカプセルに収納する。カプセル充填量:320mg;カプセルシェル:サイズ1の硬質ゼラチンカプセル
・・・」
2 甲2の記載事項
甲2には、以下の事項が記載されている。
(1)甲2-1
「1 糖尿病の診断
糖尿病の診断にはまず糖尿病の概念がはっきりしていなければならない.糖尿病の概念には大きくまとめると3つの柱がある.
(1)高血糖で代表される特徴的な代謝異常.
(2)その原因としてのインスリン作用の不足.
(3)代謝異常が長く続くと特有の合併症が起こること.
である.糖尿病の診断とは個々の患者がこれらの特徴を備えているかどうかを見極めることである.」
(7頁下から6行目~8頁2行)
(2)甲2-2
「2 糖尿病診断の目的
糖尿病診断の目的は,何のために糖尿病を治療するのかに直結する.糖尿病治療の目的は,糖尿病の合併症,特に慢性合併症の予防と治療である.診断の目的は,慢性合併症を起こすおそれのあるものを早いうちから識別して,早期治療を可能とすることである.
・・・
3 血糖基準値
・・・
表1は,1999年の日本糖尿病学会の血糖基準値である.空腹時血糖値,75gOGTT2時間値それぞれに正常域と糖尿病域を設け,空腹時と2時間値のどちらかが糖尿病域に入れば糖尿病型,両者とも正常域にあれば正常型,糖尿病型でも正常型でもないものを境界型と定義した.付帯事項として,随時血糖値が200mg/dl以上の場合を糖尿病型に含めること,正常型であっても1時間値が180mg/dl以上の場合は境界型に準じた取り扱いをすることが記してある.」
(8頁3行~29行)
(3)甲2-3
「
[図:0001434535000008.jpg]
」
(6頁)
(4)甲2-4
「2 糖尿病治療の目標と指針
●ステートメント
1 糖尿病治療の目標 グレードA コンセンサス
糖尿病治療の目標は,糖尿病症状を除くことはもとより,糖尿病に特徴的な合併症,糖尿病に併発しやすい合併症の発症,増悪を防ぎ,健康人と同様な日常生活の質(QOL)を保ち,健康人と変わらない寿命を全うすることにある.
・・・
3 慢性合併症の予防,進展抑制 グレードA コンセンサス
糖尿病の慢性合併症の予防,進展抑制のためには,単に血糖コントロールのみでなく,肥満を解消し,血圧や脂質代謝のコントロールを目指す.また,禁煙を守る.
・・・
●解説
1 糖尿病治療の目標
糖尿病はインスリン作用の不足による慢性の高血糖状態を主徴とする代謝疾患群である.インスリン作用不足による代謝障害の程度が軽度であればほとんど症状が現れず,そのため長期間放置されることがある.しかし,血糖値が著しく高くなる代謝状態では口渇,多飲,多尿,体重減少がみられ,さらには急性合併症として意識障害や昏睡に陥り,効果的な治療が行われなければ死に至ることもある.代謝障害が軽度でも長く続けば特徴的な慢性合併症(すなわち網膜症,腎症,神経障害)を発症するリスクが高い.さらに,糖尿病では全身の動脈硬化症が促進され,これが心筋梗塞,脳梗塞,下肢の閉塞性動脈硬化症の原因となる.また細菌感染に対する抵抗力の低下をもたらす.
糖尿病治療の目標は,これら糖尿病に特徴的な急性合併症と慢性合併症,および糖尿病に併発しやすい合併症の発症,増悪を防ぎ,健康者と同様な日常生活の質(QOL)を保ち,健康者と変わらない寿命を全うすることである.」
(13頁1行~14頁10行)
(5)甲2-5
「3 糖尿病治療の指針
インスリン依存状態(多くの1型糖尿病はこの状態にある.2型糖尿病でも代謝障害の著しいときはこの状態にある)では,ただちにインスリン治療を開始する.また,インスリン非依存状態でも,重篤な感染症,全身管理が必要な外科手術時,肝・腎などの合併症の程度によっては,インスリンで治療する.糖尿病患者の妊娠時や妊娠糖尿病においてはインスリン治療により前項に述べた目標を目指すべきである.その他のインスリン非依存状態においては,代謝障害がより高度であれば(HbA1c8~9%以上,随時血糖値250~300mg/dl程度またはそれ以上)最初から経口血糖降下薬やインスリンによる薬物療法を食事療法,運動療法に加えて開始する.代謝障害が中等度以下の場合(HbA1c8~9%以下,随時血糖値250~300mg/dl程度またはそれ以下),まず,患者の病態を十分に解析して,適切な食事療法と運動療法を行う.この場合,生活習慣改善に向けて患者教育を十分に行うことが大切である.治療を2~3ヵ月程度続けても,なお,目標の血糖値を達成できない場合には,経口血糖降下薬またはインスリン製剤を用いる(図1).
・・・
血糖コントロールのための目標値は症例により異なり,一律にはできないが,一般には低血糖を頻繁に起こすことなく,コントロールの評価(表1)の優ないし良とすべきであり,青壮年者ではできるだけ優を目標とすべきである.高齢の糖尿病患者では,年齢と罹病期間,合併症の状態を勘案し,血糖コントロールの目標値を緩める場合も少なくない.コントロールの評価が不可であるとは,HbA1c8.0%以上が続く場合であり,治療方針の変更を考慮することが必要な場合である.治療変更後は約2~3ヵ月経過を観察し,改善がなければ再度変更を行う.このようにして血糖コントロールの目標を達成する.」
(15頁14行~16頁10行)
(6)甲2-6
「5経口血糖降下薬による治療
●ステートメント
・・・
4 第一選択薬とする経口血糖降下薬 グレードA レベル1
薬物の選択と投与量の調節は,個々の薬物の作用の特性や副作用を考慮に入れながら個々の患者の状態に応じて行う.
現在使用されている経口血糖降下薬はいずれも血糖改善効果が認められる.よい血糖コントロールが得られるならば,どの薬物も第一選択薬になりうる.ただし,長期的予後の改善が確立されている薬物はスルホニル尿素と,著しい肥満糖尿病患者におけるメトホルミン(ビグアナイド薬)だけである.
・・・」
(37頁1行~15行)
(7)甲2-7
「4 各系統の経口血糖降下薬の選択と用量の調節
UKPDS(United Kingdom Prospective Diabetes Study)では,スルホニル尿素薬,メトホルミン(ビグアナイド薬)またはインスリンが治療薬として用いられているが,これらの治療法では血糖コントロールが改善すれば,細小血管障害のリスクは各群とも同等に減少した.したがって,最近になって臨床に用いられるようになったαグルコシダーゼ阻害薬,チアゾリジン誘導体,フェニルアラニン誘導体についても,血糖コントロールが十分に改善すれば,細小血管障害のリスクは減少すると推測される.それぞれの経口血糖降下薬の特徴,evidence,副作用は以下のとおりである.
・・・
(2)ビグアナイト薬
肝臓からのグルコース放出を抑制する作用が強く,筋肉を中心とした未梢組織でのインスリンの感受性を高める作用も有している.体重増加があまり起こらず,中性脂肪やLDLコレステロール(LDL-C)を下げる働きがある.欧米では,肥満のある場合の第一選択薬として用いられており,スルホニル尿素薬と同等の血糖改善があるとされているが,食事摂取状況,体格,健康保険で許可されている用量(~750mg/日)が違う日本では,どの程度の効果があるかどうか不明な点が多い.副作用として胃腸障害がしばしばみられる.また,まれに重篤な乳酸アシドーシスが起こる危険があるため,肝・腎・心機能が低下している症例,ミトコンドリアDNA異常症の患者,ヨード造影剤使用前3日間は用いるべきではない.
」
(38頁19行~39頁7行)
(8)甲2-8
「5 経口血糖降下薬の併用
最初に単独投与でよいコントロールを得られた患者でも次第に血糖値は上昇し,経口血糖降下薬の併用療法やインスリンへの変更あるいは併用が必要となる場合がある.作用機序の異なる経口血糖降下薬の併用は下記のように多くの組み合わせで血糖改善効果が報告されている.3種類以上の経口血糖降下薬の併用,あるいは経口血糖降下薬と睡眠前の中間型インスリンの併用も血糖改善効果が認められる.
○スルホニル尿素薬+ビグアナイド薬
○スルホニル尿素薬+αグルコシダーゼ阻害薬
○ビグアナイド薬+αグルコシダーゼ阻害薬
○スルホニル尿素薬+チアゾリジン誘導体
○ビグアナイド薬+チアゾリジン誘導体(保険適用外)
○αグルコシダーゼ阻害薬+チアゾリジン誘導体
○αグルコシダーゼ阻害薬+フェニルアラニン誘導体
○ビグアナイド薬+フェニルアラニン誘導体(保険適用外)
」
(39頁30行~43行)
3 甲3の記載事項
甲3には、以下の事項が記載されている。
(1)甲3-1
「経口血糖降下薬治療のコツ
要旨
経口血糖降下薬にはスルホニル尿素剤,ビグアナイド剤,αグルコシダーゼ阻害薬,インスリン抵抗性改善薬および速効型インスリン分泌促進薬がある.食事療法,運動療法を一定期間行ってもコントロールが不十分なインスリン非依存状態の2型糖尿病が適応となる.各薬剤の特徴を考慮し,患者の病態に応じて適切な使い分けを行う.単独で不十分な場合は併用投与を行うが,インスリンへの切り替えも躊躇すべきではない.」
(106頁2~8行)
(2)甲3-2
「経口剤の使い方のコツ
・・・
2.ビグアナイド剤
近年,本剤の再評価は目覚ましく,投与症例が増えてきているが,日本で認可されている用量は欧米での投与量に比べて,1/2~1/4の750mg/日までであることに留意しなければならない.副作用として乳酸アシドーシスは有名であるが,極めてまれである.しかし心肺機能が低下している場合,肝障害・腎障害合併例,高齢者などには投与すべきではない.」
(110頁21行~111頁12行)
4 甲6の記載事項
甲6には、以下の事項が記載されている。
(1)甲6-1
「ビグアナイドの基礎と臨床
・・・
従来、日本人あるいはアジア人の2型糖尿病は著しい肥満がなく,インスリン分泌不全を特徴としていた.すなわち,インスリンの追加分泌が不十分な,インスリン分泌不全型の2型糖尿病が大部分を占めていた.そのため治療においてはスルホニル尿素(SU)薬のようなインスリン分泌を促進する薬剤を使うのが基本とされていた.
しかし,食生活を中心としたライフスタイルの変化に伴い,日本人の2型糖尿病の病態は欧米人に近くなり,インスリン抵抗性を主要な病態とする患者が次第に多くなった.また,インスリン分泌不全を基盤にしながら,肥満を合併することによってインスリン抵抗性を併せ持つ患者も増えてきた.ビグアナイド薬が日本人の2型糖尿病の治療薬として見直され,処方量も急速に増加しているのは,こうした病態の変化によると言える.
本稿では,ビグアナイド薬,特にメトホルミンについて最近の知見をまじえて解説する.」
(35(159)頁標題~左欄18行)
(2)甲6-2
「4 ビグアナイド薬の使用方法
通常1日1~3回食前または食後に投与する.血糖降下作用は数日~1週間以内に発現し,2週間程度で最大効果に達する.わが国で承認されている1日極量はブホルミン150mg,メトホルミンで750mgであるが,欧米ではメトホルミンの場合,2000~3000mgまで投与され,容量依存性の効果が認められている.十分量を使用すれば,単剤での血糖降下作用はインスリン分泌刺激作用に匹敵すると報告されている.食前,食後投与による効果の差はない.
5 投与に際しての留意点
日常診療において問題となる主な副作用は消化器症状(食欲不振,悪心・嘔吐,下痢,便秘,腹痛など)が主であり,いずれも休薬や減量で軽快・消失することが多い.
インスリン分泌を促進しない薬剤であり,血糖を下げる効果がゆるやかであることから,単独では低血糖を起こさないといわれているが,栄養不良状態やSU薬との併用,過度のアルコール摂取などは低血糖を起こしやすい状態であり,注意が必要である.
最も重篤な副作用は乳酸アシドーシスである.フェンホルミンでは高頻度で乳酸アシドーシスがみられたが,ブホルミン,メトホルミンによる乳酸アシドーシスの発生頻度は低い.メトホルミンの場合,これによる死亡例は1000人,年あたり0.03程度で,フェンホルミンと比較すると10~20分の1である.わが国では,乳酸アシドーシスが過剰に心配されていた面があるが,先にあげたBIGPRO-1,UKPDS,DPPでは乳酸アシドーシスは1例も報告されていない.最近のCochraneレビューではメトホルミン使用による乳酸アシドーシスの増加は否定されており,ハイリスク患者に投与しなければ安全に使える治療薬であると評価されている.
しかし,BIGPRO-1やDPPでは1700mg/日,UKPDSでは最大量で2500mg/日という投与量が使われていることを理由に,わが国におけるメトホルミンの1日最大投与量750mg/日では問題ないと決めつけるのは早計である.
血中濃度の上昇により副作用の頻度が高まる可能性があるため,腎機能障害,高度の肝機能障害のある患者への投与は禁忌である.他に乳酸アシドーシスに注意しなければならない患者としては,心筋梗塞など低酸素血症が伴いやすい患者,脱水症状や感染症の患者などがあげられ(表1),このような患者にはメトホルミンを処方しないことが大切である.
[図:0001434535000009.jpg]
メトホルミンは代謝されず,腎から排泄されるので,腎機能障害例では薬剤の排泄が減少し,血中濃度が異常に上昇する可能性がある.腎機能の目安として,米国では血清クレアチニン値が女性では1.4mg/dl以上,男性では1.5mg/dl以上の場合,投与は禁忌となっている.わが国では腎機能障害患者は,軽度障害も含めて禁忌である.」
(37(161)頁右欄13行目~38(162)頁左欄7行)
(3)甲6-3
「GIP,GLP-1等の新しい形の治療薬の開発の現状
・・・
はじめに
食物の摂取後に小腸から放出される消化管ホルモンgastric inhibitory polypeptide(GIP)とglucagon-like peptide-1(GLP-1)は,いずれも膵β細胞からのインスリン分泌を惹起するインクレチンであることが知られている.近年,GIPやGLP-1の受容体を欠損するマウスが作製され,GIPやGLP-1がインスリン分泌促進に加えて様々な生理作用を有していることが明らかとなった.これらの作用によってGIPやGLP-1は糖代謝の恒常性維持に重要な役割を担っており,それを応用した薬剤の開発が進んでいる.
1 インクレチンとは
約40年前,ブドウ糖を経口投与した場合には,経静脈的に投与した場合に比べ,より多くのインスリン分泌が惹起されることが明らかにされた(図1).この機構として,小腸にはインスリン分泌を促進する因子(消化管ホルモン)が存在しており,この因子が食物の摂取後に放出されるために,経口投与後のインスリン分泌は経静脈投与後より亢進するものと想定された.インクレチンとは,このような役割を担う消化管ホルモンの総称である.すなわち,食物を摂取したという情報がインクレチンの分泌を介して速やかに膵β細胞へと伝達され,インスリン分泌を刺激して食後の急峻な血糖上昇を抑え,血糖をより一定に保つ役割を有する.
これまでにインクレチンとして,gastric inhibitory polypeptide(GIP)とglucagon-like peptide-1(GLP-1)の2つのホルモンが知られている.これらはいずれもグルカゴン/セクレチンファミリーに属し,互いに類似したアミノ酸配列を有するホルモンで,GIPは上部小腸に存在するK細胞から,GLP-1は下部小腸に存在するL細胞から分泌される(図2).GIPやGLP-1は,ブドウ糖濃度が低い時にはインスリン分泌を促進せず,ブドウ糖濃度が高い時にはインスリン分泌を促進する.すなわち,インスリン分泌のpotentiatorとして作用すると考えられる.」
(115(239)頁、標題、左欄1行~116(240)頁左欄7行)
(4)甲6-4
「5 DPPIVと糖尿病
Dipeptidyl-peptidase IV(DPP IV,CD26とも呼ばれる)は蛋白のN末端の2アミノ酸を分解する酵素で,各種のホルモンやケモカインの分解に関与する.GIPやGLP-1も血中でDPP IVによって速やかに分解され,活性を失うため,生体における半減期が短い.DPP IVの欠損マウスが作製されて解析された結果,やはりOGTTにおいて耐糖能の悪化を認め,DPP IVがGIPやGLP-1などの分解を介して生体内の糖代謝に影響を及ぼしていることが示唆された.」
(117(241)頁左欄下から7行目~右欄4行)
(5)甲6-5
「6 インクレチンと糖尿病治療
以上の3点から,インクレチンのシグナルが低下すると耐糖能が低下していることが示されている.ヒトでの成績も併せて考えると,インクレチンのシグナルを増強させることは,糖尿病の新たな治療として臨床応用が期待できる.
・・・
2型糖尿病患者においてはGIPの作用が減弱していることから,臨床応用は主としてGLP-1について進められ,GLP-1の注射によって血糖コントロールが改善することが報告されている(図3).
実際の臨床応用に当たっては,GLP-1が血中でDPP IVによって速やかに分解され,非活性型になることが大きな問題である.このことを解決するためにはDPP IVによって分解されないGLP-1の誘導体(GLP-1受容体アゴニスト)を用いることが必要であり,種々の誘導体が発見・開発されて海外で臨床応用が進められている.また,もうひとつの手段として,DPP IV活性を阻害する薬物の開発がある.これについても既に開発が進行しており,このような薬物も糖尿病治療薬のひとつとなることが期待される.」
(117(241)頁右欄5行~118(242)頁左欄12行)
(6)甲6-6
「8 DPP IV阻害薬
DPP IV阻害薬は経口投与可能な製剤であり,現在ヒトでの有効性がNVP DPP728(Novartis社)やLAF237などについて,phase 2からphase 3 trialの段階である.NVP DPP728は1日2~3回投与であるが,LAF237は作用持続時間が長いため1日1回投与が可能である.DPP IV阻害薬の長期投与によって血糖およびHbA1cは有意に低下し,食後の活性型GLP-1濃度の上昇が観察されている.」
(118(242)頁右欄16行~25行)
5 甲16の記載事項
甲16には、以下の事項が記載されている。
(1)甲16-1
「1. はじめに
本文書は、新医薬品の開発および医薬品の適正使用に必要なヒトにおける薬物動態情報を得ることを目的に、医薬品の承認申請時に添付する資料または既承認医薬品の再審査に際して提出する資料を作成するために行われる臨床薬物動態試験について、その項目と実施にあたっての基本的考え方を示している。
臨床薬物動態試験は被験薬(治験薬または医薬品)を志願した健康者または患者に投与し、その吸収、分布、代謝および排泄を検討する試験である。得られた結果は新医薬品の開発における臨床試験において、または必要に応じて行われる承認後の臨床試験においても、その計画と実施、得られた有効性あるいは安全性に関する結果の解析および評価に有用である。また、効力を裏付ける試験や毒性試験で得られた成果を非臨床および臨床薬物動態試験で得られた結果と関連づけて評価することは、その後の臨床試験を適切かつ安全に実施する上で有用な情報を与えると共にヒトにおける被験薬の作用機序の推定にも活かされる。
臨床薬物動態試験で得られた結果は薬物代謝酵素の遺伝子型などの患者特性や病態に応じて医薬品を適正に使用するため、また、薬物動態学的な薬物相互作用の影響の評価にも有用である。さらに、治療薬物モニタリング(therapeutic drug monitoring:TDM)にも有用な情報を与える。なお、本目的のためには個々の被験者(志願した健康者または患者)から得られた被験薬の体内動態の結果は、被験者ごとに現れた薬効や副作用と密接に関連づけて検討することが特に重要である。」
(1頁下から5行目~2頁14行)
(2)甲16-2
「5. 臨床薬物動態データ(註1)
被験薬の体内動態を明らかにするために、その吸収、分布、代謝、排泄に関する情報を志願した健康者および患者から得る。これらをもとに「7.1.薬物動態解析法」に示した薬物動態パラメータを計算する。
適切に計画された試験デザインに基づいて、正確な情報を得るように努める。試験に当たっては、個人差を考慮に入れ、適切な例数を設定する。また、頻回採血が被験者に与える影響についても配慮する。
さらに、臨床での使用状況および被験薬の特性を考慮して、必要な場合には被験薬の薬物動態パラメータが標準的な集団と異なる分布を示す可能性のある集団、例えば、高齢者や小児、肝臓や腎臓に障害を有する患者、さらには遺伝多型により代謝酵素活性が低下している被験者などについても検討する。」
(3頁5行~15行)
(3)甲16-3
「5.3. 代謝
血液、尿、および、必要な場合には糞便中の被験薬並びにその代謝物を測定・解析する事により被験薬の代謝経路と代謝の割合を推定する。この結果を非臨床試験結果、特にヒト組織由来試料やヒト代謝酵素発現系を用いた試験結果と併せて検討し、被験薬の代謝に関与する主たる酵素およびその分子種を明らかにする。
臨床的に反復使用されることが予想される被験薬で、全身クリアランスに対して代謝クリアランスの占める割合が大きい場合には、反復投与時の代謝酵素の誘導や阻害も考慮して、代謝の変化を検討する。
臨床での薬効や副作用発現に重要と考えられる活性代謝物を生ずる場合には、その代謝物の血中濃度推移を検討する。
薬物代謝酵素は、遺伝多型により個体における活性が大きく低下していることがある。このような酵素により被験薬の主たる代謝経路が担われており、臨床試験による検討が可能な場合には、体内動態が酵素の遺伝多型によりどの程度影響を受けるかを示す定量的な結果を得ておくことは重要である。なお、小腸にも多く存在するチトクロムP450分子種(CYP3A4など)で代謝される被験薬が経口投与される場合には、小腸における代謝の性質とその程度にも留意する。
5.4. 排泄
被験薬および代謝物について、尿中排泄の速度と程度を求める。また、必要な場合には糞便中排泄も測定する。クリアランスの情報も併せ、被験薬が肝クリアランス依存性であるか、腎クリアランス依存性であるかを明らかにする。
なお、糞便中排泄を検討する際には未吸収分が糞便中に含まれる可能性に留意する。」
(3頁下から20行~4頁1行)
(4)甲16-4
「6.2.1.1. 単回投与試験
単回投与試験においては、志願した健康者あるいは患者に単回投与したときの被験薬および代謝物の血中濃度推移を検討する。さらに、尿および必要に応じて糞便中における被験薬量並びに代謝物組成とその量を測定し、物質収支を検討する。また、血漿蛋白非結合率(必要に応じて結合蛋白質の種類)や生物学的利用性の評価、薬物動態の線形性、食事の影響も通常単回投与試験で検討する。
初回投与量は、毒性試験、トキシコキネティクス、非臨床薬物動態試験等のデータ、ヒト組織等を用いた代謝試験結果、薬理作用の特性、および海外で臨床試験が先行している場合においては、その成績などを参考に決定する。
試験は少数の被験者について、通常、低用量から開始し、毒性兆候の出現に留意しながら段階的に増量する。
用量と薬物動態パラメータとの関係を検討するために、推定臨床用量および臨床で使用が予想される最高用量を越える用量を含む数段階の投与量を用いる。患者を対象とする試験では用量と血中濃度の関係のみならず血中濃度と薬理効果との関係を検討することは有意義である。」
(4頁下から11行目~5頁4行)
6 甲21の記載事項
甲21には、以下の事項が記載されている。
(1)甲21-1
「経口血糖降下薬の作用と使い方
ビグアナイド薬」
(40(402)頁標題)
(2)甲21-2
「1.はじめに
ビグアナイド薬は1950年後半より,phenformin,buformin,metforminが使用可能になったが,phenforminは1970年代に乳酸アシドーシスとの関連から使用中止となった.1990年代に入り,スルホニルウレア薬(SU薬)と異なる作用機序が再評価され,1995年に米国でmetforminが認可され使用されるようになった.Metforminは主に小腸で吸収され,血中半減期は2~6時間で,肝では代謝されず腎より排泄される.Metforminは,日本では250mg錠を1日3錠(750mg)まで増量でき,米国では500mg錠と850mg錠を1日2550mgまで増量できる.
現在日本でも,厚労相が1日使用量に関して増量を治験中である.」
(40(402)頁左欄1行~15行)
(3)甲21-3
「3.ビグアナイド薬の臨床
1)適応と禁忌
肥満のある患者,インスリン抵抗性のある高インスリン血症の患者がよい適応であるが,肥満のない患者にも効果が期待できる.禁忌は,乳酸アシドーシスの危険を増大させる状態であり,(1)腎機能障害(血清クレアチニン1.5mg/dl以上の男性,1.4mg/dl以上の女性),嘔吐下痢など胃腸障害時の脱水,(2)低酸素血症(心疾患,慢性肺疾患,重症感染症によるショック),(3)代謝性アシドーシス,(4)アルコール多飲者,(5)インスリンの絶対適応の患者,(6)小児,妊婦,高齢者(70歳以上),(7)乳酸アシドーシスの既往,(8)MELASなどである.そのほか注意すべき点は,造影剤使用時には休薬することである.」
(41(403)頁左欄1行~15行)
(4)甲21-4
「IV. 腎障害を伴った糖尿病の治療
1)病態生理
糖尿病腎症による腎不全では糖尿病による糖代謝異常と腎不全による糖代謝異常が複雑に関連して病態を形成している.一般に,腎不全ではインスリン抵抗性が認められることはよく知られている.主として筋組織におけるインスリン受容体以降の障害であるとされるが,透析療法によりインスリン抵抗性が改善することから,何らかのuremictoxinやアシドーシスが関与していると考えられる.一方,GFRの低下にともない,腎でのインスリンの分解,排泄が低下しインスリン半減期の延長が認められる.また,腎での糖新生も低下することが,腎不全・透析患者で低血糖を起こす原因とされている.糖尿病患者で腎不全の進行(CFR20/ml/min以下)に伴い,血糖コントロールが改善し,糖尿病治療薬の減量ないし,中止となるのはこのためである.腎不全を伴った糖尿病ではこれらの背景因子に加えて,治療薬の腎不全時における体内動態の変化を考慮して薬物療法の選択を行う必要がある.
2)腎不全での薬物療法
表6に腎不全での経口血糖降下薬の使用可否を示す.経口薬は腎不全患者では禁忌とされているものが多く,低血糖が重篤になりやすいなどの危険があるため十分な注意が必要である.SU薬の一部は腎不全でも使用可能であるが,腎不全の進行に応じて用量を減量していく必要がある.速効型インスリン分泌促進薬も肝代謝であることより,投与可能であるが,やはり腎不全では作用が遷延するとの報告もあり慎重に投与する.αグルコシダーゼ阻害薬は原則的に用量調節の必要はなく,FPG<140mg/dl程度で食後過血糖を抑える目的で試みる価値はある.ビグアナイド薬は腎排泄性で腎不全では乳酸アシドーシスをおこしやすく,禁忌である.チアゾリジン薬は腎不全におけるインスリン抵抗性に有用かどうか十分なデータがない.経口薬で十分なコントロールできない場合にはインスリンへの切り替えを行い,効果の遷延を避けるため速効型インスリンを中心に用法を決めていく.
[図:0001434535000010.jpg]
」
(64頁表6、及び右欄下から3行~65頁左欄下から4行)
7 甲24の記載事項
甲24には、以下の事項が記載されている。
(1)甲24-1
「3.スタチン系薬剤の開発の経緯
1973年,三共製薬研究所の遠藤章氏を中心としたgroupが青カビの一種のPenicillium citrinumからHMG-CoA還元酵素阻害物質としてML-236B(図3A)を単離し,構造決定した.その薬理作用の研究と平行して,ML-236Bの誘導体の開発も進められ,1979年デカリン骨格の6β位置に水酸基を有し,かつラクトン環が開環してNa塩となった物質(プラバスタチン,ナトリウム)プラバスタチン(図3B)がイヌの尿中代謝物より発見された.プラバスタチンは,ML-236Bより活性が強く臓器特異性も優れていたことにより,三共(株)の開発の中心となった.さらに,ML-236Bのデカリン骨格の6α位置にメチル基が入った物質が,遠藤章氏(東京農工大学1979年)とメルク社(1980年)のグループによってそれぞれカビのMonascus ruberとAspergillus terreusから発見された.ロバスタチンであるが,この側鎖にメチル基を化学的に付けたシンバスタチンが1982年開発開始となった.現在では,1989年プラバスタチンがメバロチンとして,1991年シンバスタチンがリポバスとして発売され,その後1998年フルバスタチンがローコールとして,1999年セリバスタチンがセルタ・バイコールとして,さらに2000年アトルバスタチンがリピトールとして発売されるに至り,今後も数社の製品が発売予定である.
4.作用機序
コレステロールは,アセチルCoAから二十数段階を経てコレステロールになるが,最も重要なステップは,HMG-CoAが還元されメバロン酸になる段階を司るHMG-CoA還元酵素であり,これが律速酵素である(図4).スタチン系の薬剤は,この酵素に対してsubstrateであるHMG-CoAよりも親和性高く結合し,拮抗的にこの段階を阻害する.その結果,肝細胞内のコレステロール含量を低下させ,LDL受容体の遺伝子発現を誘導し,結果的に血中LDLの取り込みを増加させる.したがって,血中LDL値は減少し,ひいては酸化LDLの基質となるLDLを減少させるので,Mφの泡沫化が減少し粥状動脈硬化の形成が抑制されることにつながる.」
(933頁右欄7行~934頁右欄8行)
8 甲34の記載事項
甲34には、以下の事項が記載されている。
(1)甲34-1
「病態に応じた経口血糖降下薬のレシピ
ビグアナイド(BG)薬」
(9(2735)頁標題)
(2)甲34-2
「副作用
BG薬の副作用として有名な乳酸アシドーシスは,フェンホルミンでは4,000例に1件という率で発症し,フェンホルミンは使用が中止された.現在用いられているメトホルミンでは80,000例に1件,ブフォルミンでは40,000例に1件という頻度である.ビグアナイドによる嫌気性代謝の亢進が乳酸産生亢進につながると考えられ,高齢者,腎機能低下,肝機能低下,心不全,呼吸不全,大量飲酒などがリスクファクターとされるが,リスクファクターのない患者にも起こりうる.
より日常的に経験する副作用は,悪心,下痢などの消化器・腹部症状である.少量から開始し,徐々に増量することで回避できることが多い.
処方時に患者に確認すること
BG薬は腎臓から尿中に排出される.急性上気道炎にともなう摂食量低下,発熱・下痢による脱水などで一過性に腎糸球体ろ過率が低下した場合,尿中への排泄の低下から血中薬物濃度が上昇し,乳酸アシドーシス発症の契機になりうるので,そのような場合は服薬を中止するよう,患者指導が重要である.医療者側の注意点としては,外科手術や,造影剤使用といった医療行為の前には,投薬を中止することが必要である.」
(12(2738)頁右欄5行~最終行)
9 甲35の記載事項
甲35には、以下の事項が記載されている。
(1)甲35-1
「 メトホルミンの最も重篤な副作用の一つに,乳酸アシドーシスがありますが,その症例のほとんどがメトホルミンを使用すべきではない患者(腎不全,うっ血性心不全,肝疾患など)に使用した場合に起こっており,適応を誤らない限りその発症はまれであるといわれています.しかし,乳酸アシドーシスは,一度発症すると重篤な合併症を伴うことが多く,致死率も高いことから,高齢者,腎・肝障害・心肺疾患,妊婦,過度のアルコール摂取者などへの乳酸アシドーシスを起こしやすい患者には禁忌となります.
また,メトホルミンは腎排泄型ですので,腎機能低下をきたしやすい薬剤(アミノグリコシド系抗生物質,ヨード造影剤等)との相互作用には十分注意し,これらの薬剤を使用する際には休薬・減量を考慮します.このほかにも,重大な副作用として重篤かつ遷延性の低血糖も知られています.」
(390頁5行~15行)
10 甲36の記載事項
甲36には、以下の事項が記載されている。
(1)甲36-1
「広い治療域を有する新規DPP-IV阻害薬BI 1356の安全性,忍容性,薬物動態,薬力学
・・・
背景と目的:ジペプチジルペプチダーゼIV(DPP-IV)阻害薬は、経口糖尿病治療薬の新しいクラスである。BI 1356は新規の経口可能で、選択的かつ強力なDPP-IV阻害薬であり、2型糖尿病治療薬として臨床開発中である。材料と方法:BI1356の安全性、忍容性、薬物動態、薬力学は、二重盲検無作為化プラセボ対照単回漸増試験で評価された。21歳から65歳の健康男性ボランティア63名に、2.5~600mgのBI 1356またはプラセボを単回経口投与した。
結果:BI 1356による治療の忍容性は良好であった。重篤な有害事象はなく、低血糖の症例もなく、有害事象による投与中止もなかった。BI 1356投与群およびプラセボ投与群の両方で報告された最も一般的な有害事象は、頭痛および悪心であった。有害事象の全体的な発生率は、BI 1356とプラセボ間で差はなかった。BI 1356は、低用量域ではクリアランスおよび分布容積が増加する非線形の薬物動態を示し、100~600mgの用量範囲では用量比例性が観察された。腎クリアランスは、マイナーな排泄経路であった。5mgのBI 1356の投与により、薬物投与1.5時間後にDPP IV血漿活性の平均阻害率がベースラインの80%以上となった。
・・・
結論:要約すると、BI 1356は、健康な男性ボランティアにおいて、1日1回2.5~600mgの用量範囲にわたって良好な忍容性を示した。BI 1356は、5mgの治療用量を基準として、100倍を超える広い治療域を有している。薬物動態特性は、1日1回の投与方法と一致する。」
(300頁右欄30行~最終行)
11 甲37の記載事項
甲37には、以下の事項が記載されている。
(1)甲37-1
「新規なキサンチンベースの選択的DPP IV阻害薬であるBI 1356は広い治療域とともに良好な安全性と忍容性を示した
・・・
21~65歳の健康男性ボランティアを対象とした無作為化二重盲検プラセボ対照単回用量増量試験において、BI 1356を1日1回2.5~600mgの範囲の用量で投与し、安全性、忍容性、薬物動態、および薬力学を検討した。BI 1356は良く忍容された。重篤な有害事象はなく低血糖も認められなかった。・・・
BI 1356の曝露量は、2.5から5mgに比例して増加しなかったが、CmaxとAUCは、25から100mgまでは比例的に増加し、100mgから600mgまでの用量ではほぼ比例的に増加した。腎排泄量は少なく、BI 1356の主な排泄経路ではない。2.5mgおよび5mgのBI 1356単回投与後、DPP IV活性は3時間以内にそれぞれ73%および86%低下した。25~600mgのBI 1356投与24時間後、血漿中のDPPIV阻害率は90%以上であった。
要約すると、BI 1356は忍容性が高く、安全であった。単回投与後の薬物動態学的および薬力学的プロファイルの結果は、BI 1356の効力と完全な24時間作用持続時間を示している。推定治療用量5mgに基づくと、BI 1356の治療域は100倍を超えると予想される。」
(A156頁左欄23行~55行)
12 甲38の記載事項
甲38には、以下の事項が記載されている。
(1)甲38-1
「新規なキサンチンベースのDPP IV阻害薬であるBI 1356は広い治療域と高い有効性を示し、oGTT後の食後グルコース変動を有意に減少させた
・・・
背景と目的:BI 1356は、2型糖尿病治療薬として開発中の経口投与可能な新規のDPP-IVの選択的阻害剤である。健康な男性(BI 1356投与群47名、プラセボ投与群16名、平均年齢38.3歳、BMI 24.8kg/m2)を対象とした単回投与漸増試験(SRD、2.5~600mg)、および2型糖尿病男性(BI 1356投与群35名、プラセボ投与群12名、年齢56.0歳、BMI 28.6kg/m2、ベースラインHbA1c 6.7%)を対象とした1日1回、12日間投与する反復投与漸増試験(MRD、1~10mg)において、BI 1356の安全性と忍容性、薬物動態、薬力学を調査した。
・・・
結果:BI 1356の曝露量は、1~10mgの治療用量範囲において比例的に増加することはなかった。定常状態になるまでの時間は、用量の増加とともに6日から2日に短縮した。腎臓からの排泄は少なく、BI1356の主な排泄経路ではない。
・・・
結論:健康な男性におけるBI 1356の単回投与(最大600mg)および2型糖尿病患者における反復投与(最大10mg、12日間)は、忍容性および安全性に優れていた。BI 1356の血漿中濃度はDPP-IV活性とよく相関し、血漿中濃度5.3nmol/Lで80%以上のDPP-IV阻害を達成した。この結果は、BI 1356の高い効力、24時間の作用時間、および非常に広い(100倍以上)治療域を確認するものである。」
(S367頁左欄48行~右欄34行)
13 甲39の記載事項
甲39には、以下の事項が記載されている。
(1)甲39-1
「BI-1356
ジペプチジル-ペプチダーゼIV阻害剤
抗糖尿病薬
BI-1356-BS
OnderoTM
8-[3(R)-アミノピペリジン-1-イル]-7-(2-ブチニル)-3-メチル-1-(4-メチルキナゾリン-2-イルメチル)キサンチン
・・・
[図:0001434535000011.jpg]
・・・」
(473頁標題)
(2)甲39-2
「要旨
・・・BI-1356は、健康なボランティアおよび2型糖尿病患者において非線形の薬物動態を示した。BI-1356の1日1回経口投与は、健康なボランティアおよび2型糖尿病患者において良好な忍容性を有することが証明された。BI-1356の投与は、2型糖尿病患者においてGLP-1濃度を上昇させ、グルコース濃度を低下させ、また糖尿病患者においてHb1Acを有意に低下させた。第III相臨床試験が進行中である」
(473頁左欄1行~20行)
(3)甲39-3
「薬物動態と代謝
BI-1356の経口バイオアベイラビリティ、消失半減期(t1/2)および定常状態分布容積(Vss)を含む薬物動態パラメータをラットおよびカニクイザルで評価した。BI-1356は良好な経口バイオアベイラビリティ(50%)、長いt1/2(ラットおよびサルにおいてそれぞれ35.9および41.4時間)、高いVss(ラットおよびサルにおいてそれぞれ5.4および15.8l/kg)を示した。このことが、in vivoで観察されたDPP IVに対する強力かつ長時間持続する阻害作用の理由であることが示唆された。BI-1356はチトクロームP-450(CYP)酵素との相互作用を示さなかった。」
(475頁右欄21行~31行)
(4)甲39-4
「BI-1356の薬物動態は3-コンパートメントモデルに適合し、曝露量は用量範囲1~10mgで投与量に対して比例より少なく増加し、用量範囲25~100mgで投与量に対して比例より多く増加し、用量範囲100~600mgでほぼ比例的に増加した。BI-1356の腎排泄は低く、排泄の主要な経路ではなかった。」
(475頁右欄36行~42行)
(5)甲39-5
「臨床試験
健康なボランティアを対象とした試験において、DPP IV活性は5mg以上の用量で3時間以内に80%以上阻害され、その効果は25~600mgの用量で24時間持続した。
BI-1356の有効性は、2型糖尿病患者を対象とした反復投与試験でも評価された。47名の男性患者にBI-1356(1、2.5、5または10mg)またはプラセボを1日1回12日間投与した。酵素活性とBI-1356の血漿中濃度が一定間隔で測定された。経口ブドウ糖負荷試験は1日目と13日目に行われた。BI-1356(2.5mg以上)は用量依存的に、血漿中DPP IV活性を阻害し、投与24時間後では約80%阻害していた。最終投薬から24時間後の食後グルコース濃度の変動は、ベースラインおよびプラセボと比較して、2.5mg用量(-106mg.h/dl)、5mg用量(-82mg.h/dl)および10mg用量(-111mg.h/dl)で統計学的に有意な減少(p<0.05)が観察された。GLP-1の濃度は2倍以上増加した。
経口でのBI-1356の有効性は、さらに、BI-1356(2.5、5、10mg;n=16)またはプラセボ(n=26)を1日1回28日間投与した77名の2型糖尿病患者を対象に評価された。4週間後、BI-1356の投与によりGLP-1濃度は最大4倍、グルカゴン濃度は最大24%上昇した。ベースラインからのグルコース濃度の減少は最大105mg.h/dlであった。プラセボ補正後のHbA1cの平均変化率は、2.5mg、5mg、10mgの用量で、それぞれベースライン(7.0%)から-0.31%、-0.37%、-0.28%の有意な変化が観察された。
現在、BI-1356のいくつかの第III相臨床試験で参加者を募集している。」
(476頁右欄1行~31行)
14 甲40の記載事項
甲40には、以下の事項が記載されている。
(1)甲40-1
「日本人2型糖尿病患者を対象としたジペプチジルペプチダーゼ4阻害剤BI 1356(予定販売名ONDERO)の反復投与による安全性、忍容性、薬物動態および薬力学の検討
・・・
この第IIa相無作為化二重盲検プラセボ対照反復投与試験は,72名の日本人2型糖尿病患者(T2DM)を対象に,経口ジペプチジルペプチダーゼ4(DPP-4)阻害剤であるBI 1356(0.5,2.5,または10mg,28日)の安全性,忍容性,薬物動態および薬力学を評価したものである。
・・・
BI 1356の薬物動態学的特徴(低い尿中排泄[最高用量群では定常状態で7%未満],非線形の薬物動態,長い終末相半減期[223~260時間],および短い支配的半減期[約10~40時間])は,健康な日本人および白人の被験者を対象とした過去の研究結果と一致していた。」
(A158頁右欄下から18行~A159頁左欄5行)
(2)甲40-2
「日本人健常被験者を対象としたジペプチジルペプチダーゼ4阻害剤BI 1356(予定販売名ONDERO)の単回及び反復投与による安全性、忍容性、薬物動態および薬力学の検討
・・・
この無作為化用量群内二重盲検プラセボ対照試験は,健康な日本人男性被験者(20~35歳)を対象に,BI 1356の単回経口投与用量漸増試験(1,2.5,5,10mg;n=32),およびBI 1356の反復経口投与用量漸増試験(2.5,5,10mg/日を12日間;n=24)の安全性,忍容性,薬物動態,薬力学を評価したものである。
・・・
BI 1356の尿中排泄量は投与量とともに増加し,すべての投与群で1日目から12日目まで増加した。しかし,腎臓から排泄されるBI1356の量は,投与量に関係なく,定常状態で7%を超えることはなかった。
・・・
結論として,1日1回10mgまでのBI 1356の投与は,健康な日本人ボランティアにおいて12日間まで良好な忍容性を示した。DPP-4阻害作用の24時間に亘る持続やGLP-1のトラフ濃度およびピーク濃度の上昇を伴う薬物動態及び薬力学的特性は,1日1回投与の抗糖尿病薬として期待されるものと合致し,白人の集団で観察されたものと同様であった。」
(A159頁左欄22行~下から12行)
15 甲41の記載事項
甲41には、以下の事項が記載されている。
(1)甲41-1
「腎機能と薬物の排泄
はじめに
生体に投与された薬物は,吸収(absorption),分布(distribution),代謝(metabolism)の各過程を経て,未変化体あるいは代謝物として,主に腎臓から尿中,または肝臓から胆汁中へ排泄(excretion, elimination)される。これらの過程はADMEと呼ばれており,個々の薬物の薬物動態を決定する要因となる。このように,薬物の体内からの消失に関与する臓器は主に肝臓と腎臓であり,薬物の体内から消失,すなわち全身クリアランスは図1のように腎クリアランス,肝クリアランスおよびその他のクリアランスの和として表される。
また,未変化体のまま腎臓から排泄される薬物を腎排泄型薬物,代謝を受けた後に排泄される薬物を肝代謝型薬物という。また,胆汁中に排泄される薬物を胆汁排泄型薬物といい,肝代謝型と胆汁排泄型薬物を含めて肝排泄型薬物という(図2)。一般には,尿中未変化体排泄率が50%以上の薬物を腎排泄型薬物,50%以下を肝排泄型薬物としている。
ADMEの変化は薬物動態の変化に繋がり,効果や副作用の発現に影響を及ぼし,これらの変化による薬物の投与計画の変更が必要となる場合がある。実際に,吸収,分布および代謝といったパラメータの変化を的確に把握し,その変化を実際の臨床において薬物療法に反映させることはなかなか困難である。しかし,薬物の腎臓から排泄は腎機能に依存することから,クレアチニンクリアランス(CLcr)や血清クレアチニン(Scr)などを指標として腎排泄型薬物の腎機能障害患者への適切な投与設計を行うことが可能である。
なお,尿中排出率は,代謝物を含めた尿中への排泄を意味しており,その中に含まれる未変化体の割合が問題となる。したがって,尿中排泄率が高くても,その大部分が薬理活性のない代謝物であれば,腎機能障害時においても特に問題となることは少ない。しかし,逆に,アロプリノールのように吸収後速やかに代謝され活性代謝物となるような場合では,未変化体の尿中排出率が低くとも,その活性代謝物の尿中排出率が問題となる。
[図:0001434535000012.jpg]
[図:0001434535000013.jpg]
」
(13頁1行~15頁1行)
(2)甲41-2
「6.腎機能障害時の薬物療法
腎機能障害患者における薬物療法については,薬物が肝排泄型であるか腎排泄型であるかを考慮して実施することが必要である。腎機能障害患者では,腎臓からの薬物の排泄が遅延するため,薬物を通常の投与方法で投与した場合には,薬物の半減期(t1/2)が延長することにより薬物が体内に蓄積し,中毒症状などの副作用が頻発する。したがって,腎排泄型薬物を腎機能障害患者に投与する場合には,腎機能に応じて,投与量を減量したり,投与間隔を延長するなどの投与方法の工夫が必要となる。」
(20頁下から6行~21頁2行)
16 甲43の記載事項
甲43には、以下の事項が記載されている。
(1)甲43-1
「V-1-7 薬物の排泄
種々の投与経路から体内に移行した薬物はそのまま,あるいは代謝を受けたのち体外に排泄される.排泄経路としては,腎臓を経由する腎排泄renal excretion,および肝臓に移行したのち胆汁中に排泄される胆汁排泄biliary excretionが主で,その他唾液腺,汗腺,乳腺,肺,消化管などを経て排泄される.」
(310頁5行~9行)
17 甲44の記載事項
甲44には、以下の事項が記載されている。
(1)甲44-1
「Q-1腎臓は薬物の排泄臓器として最も重要な役割をもっていますよね?
A 薬物には水溶性のものと脂溶性のものがありますが,水溶性の薬物は体内に取り込まれた後,腎臓から排泄されます。一方,脂溶性薬物は腎で糸球体濾過されても*尿細管で再吸収されるため尿中に排泄されません。そのため肝臓で代謝され水溶性の代謝物に変えられて腎臓で排泄されるか,あるものは胆汁を介して糞便中に排泄されます(図1)。つまり腎臓は水溶性薬物を排泄,肝臓は脂溶性薬物を代謝(極性化反応)という仕事を非常に効率よく分業することによって,生体にとって異物である薬物をできるだけ速やかに体外に排泄するよう共同作業を行っています。
[図:0001434535000014.jpg]
」
(56頁1行~9行)
(2)甲44-2
「Q-8腎排泄型の薬物,肝排泄型の薬物とよく言い表されますが,どのように分類すればよいのでしょうか?
A 一般的に尿中未変化体排泄率が50%以上のものを腎排泄型の薬物,50%以下のものを肝排泄型の薬物といいます。40~60%を肝腎排泄型という場合もあります。ただし肝排泄という言葉は胆汁排泄だけでなく,肝代謝による消失を含みますので,正しくは肝消失型薬物と言うべきでしょうね。」
(61頁13行~18行)
(3)甲44-3
「保存期腎不全患者の薬物投与設計
腎不全で減量すべき薬物
当然のことですが腎不全患者だからといってすべての薬物の投与量を減量する必要はありません。降圧薬のα遮断薬やCa拮抗薬などは肝代謝によって消失する薬物であるため,通常用量を用います。しかし全身クリアランスに対する腎クリアランスの寄与の大きい薬物は減量を考慮する必要があります。そのような腎排泄型の薬物は血中消失半減期が延長してきますので,その延長の程度に応じて,投与間隔を延長させ,そして有効血中濃度内に入るように1回の投与量を設定するのが最も簡単な投与設計法と思われます。」
(65頁1行~8行)
18 甲46の記載事項
甲46には、以下の事項が記載されている。
(1)甲46-1
「腎機能障害が少しでも疑われる場合には,腎排泄性薬剤を最初から常用量投与してはいけない!
・・・
I 腎機能障害時に薬剤投与の注意
・・・
(2)投与量変更の必要性
投与する薬物の代謝経路を確認する.肝で代謝排泄される薬物では投与量の調節は必要ないが,腎排泄が主体である薬物では投与量の減量,投与間隔の延長が必要となる.」
(541(1141)頁左欄1行~下から11行)
19 甲59の記載事項
甲59には、以下の事項が記載されている。
(1)甲59-1
「第二章 総論
第一 段階的進め方
通常、臨床試験は第I相、第II相及び第III相と順に進めて行く。
1 第I相試験は、治験薬を初めてヒトに適用する試験で、原則として少数の健康男性志願者において、治験薬について臨床安全用量の範囲ないし最大安全量を推定することを目的とし、あわせて吸収・排泄などの薬物動態学的検討を行ない、第II相試験に進み得るか否かの判断資料を得るための試験である。
なお第I相試験は、それに先立って行われる非臨床試験の結果から、薬効、危険性、副作用の可能性などを十分に評価したうえで、医薬品としての有用性が期待できると判断された薬物についてのみ、その実施が考慮されるべきである。健康志願者における試験に引き続いて患者で行われるごく早期の試験も、第I相試験の一部と見なす考え方もある。
2 第II相試験は、適切な疾病状態にある限られた数の患者において、治験薬の有効性と安全性とを検討し、適応疾患や、用法・用量の妥当性など、第III相試験に進むための情報を収集することを目的とする試験である。第II相試験は通常、前期と後期に分けられる。
前期第II相試験では、患者を対象に安全性、有効性及び薬物動態などについて瀬踏み的に検討する。後期第II相試験では、前期に引き続き治験薬の薬効プロフィール(適応範囲)を明らかにするための探索的検討を行うとともに、用量反応(設定)試験(必要な場合にはプラセボを含める。)を行い、最小有効量及び最大安全量の範囲を検討し、臨床至適用量幅を決定する。また、第II相試験の期間に剤形と処方を決めておく必要がある。なお、製剤の剤形と処方の変更にあたっては、薬物の生物学的利用性(bioavailability)等を検討して、変更前に得られた臨床試験成績を使用することの妥当性について十分に検討する必要がある。
3 第III相試験は、比較臨床試験及び一般臨床試験により、さらに多くの臨床試験成績を収集し、対象とする適応症に対する治験薬の有効性及び安全性を精密かつ客観的に明らかにし、治験薬の適応症に対する臨床上の有用性の評価と位置づけを行うことを目的とする試験である。」
(1頁35行~2頁11行)
(2)甲59-2
「第五章 臨床試験の進め方
・・・
第二 第I相試験
1 目的
第I相試験は、非臨床試験の成績に基づき医薬品としての開発が意図された場合ヒトへの適用を初めて検討する段階である。試験目的は、総論に述べられたように、健康志願者において、治験薬のヒトへの投与の安全性を確認し、安全用量の範囲ないし最大安全量を推定することを目的とし、また薬物動態研究を行い、第II相試験計画に際し必要とされる検討資料を提供することである。実施にあたり被験者保護に関する倫理的配慮は特に重要であり、従って、実験的、科学的根拠に基づいた詳細な無駄のない試験計画の作成に留意し、また治験審査委員会の審査を受けることが必要である。治験薬の新規性にもよるが、単に画一的、慣習的な治験実施計画を安易に模倣することは避けるべきである。これらの詳細な調査、検討、審査記録は、第I相試験成績の検討、第II相以後の治験計画、及び承認申請時の資料として非常に有用である。
・・・
3) 用法・用量
非臨床試験での全成績を詳細に検討、整理記録し、同効薬、類似構造薬に関する従来の知識、経験をも加味し、ヒトに対して十分に安全と見込まれる用量を推定して、初回投与量とする。次に段階的に用量を増し、推定臨床単回投与量を上回るまで単回投与し、用量増加に関連した薬理作用、薬物動態、副作用を調べ、可能ならば有効性の初期徴候を集める。これらの成績に基づいて反復投与量、投与期間を決定する。反復投与試験は、血中濃度が測定可能な治験薬については、血中濃度が定常状態に達するまで行う。血中濃度が測定し得ない治験薬については、臨床における将来の使用状況を推定し、薬効や副作用の出現に注意しながら適切な期間行われるべきである。いわゆる有害反応発現までの用量の範囲を求めることは行い難い状況にあることが少なくないが、その場合には、それまでに得られている非臨床試験成績との関連において、ヒトでの忍容性についての十分な根拠を綿密に検討しておくべきである。」
(8頁36行~9頁21行)
(3)甲59-3
「第三 第II相試験
第II相試験は、通常の場合、治験薬を初めて患者に使用し、患者に対する治験薬の安全性を確認すると共に、治験薬の患者における薬物動態を検討し、薬効のプロフィールを明らかにし、第III相試験における投与量の設定を行う相である。第II相試験は、通常、前期第II相試験と後期第II相試験の二つの段階に分けて進められる。・・・
〔I〕 前期第II相試験1目的
第I相試験の成績から、前期第II相試験に移行し得ると判断された治験薬を、初めて患者を対象として、瀬踏み的に次の事項について検討を行うことを目的とする。
1) 安全性と有効性
2) 薬物の体内における動態
3) 投与方法と投与期間
・・・
3 実施要領
・・・
3) 実施方法
原則として第I相試験により安全性が確認された用法・用量によって実施する。この場合、できる限り他薬剤の影響を避けるため、必要な場合には十分なウオッシュ・アウト期間をおくことが必要である。
投与期間は、治験薬の特性によって異なるが、あくまでも安全性を第一とし、なるべく短期間内に目的とする成績が得られるよう試験を計画し実施する。
観察、検査及び測定等は、予測される薬効、副作用、薬物動態について詳細に行うが、予測していなかった作用の発現についても十分に注意しなければならない。
試験終了後においても諸種の臨床検査等を行い、治験薬の影響がなくなるまでの期間、十分な観察が必要である。
なお、試験記録、試験終了後の追跡調査、記録の保管は、適切に行われるべきである。
4 前期第II相試験より後期第II相試験への移行
前期第II相試験で、治験薬を患者に使用することの安全性が確認され、基本的薬効及び用法・用量が推定され、治験薬に有用性があると判断された場合は、より多数の患者を対象とする後期第II相試験に移行することができる。
〔II〕 後期第II相試験
1 目的
後期第II相試験は、次の各項目を主な目的として行われる。
1) 有効性:治験薬の薬効プロフィールを明らかにし、適応対象を明らかにする。
2) 用法・用量:第III相試験の用法・用量及び至適用量幅を決定する。この際可能な限り二重盲検比較試験により行うことが望ましい。
3) 患者の諸状況下における薬物動態を明らかにする。
4) より広い層の患者について有効性・安全性を確認する。
5) 効能・効果(適応症)に含まれることが予測され、第III相試験で比較試験の対象とならない適応疾患に対する有効性も確認する。また緩和な効果を期待する薬剤については、この時期に二重盲検比較試験によってプラセボより有効であることを確認することが望ましい。
6) 必要に応じて長期投与試験の計画を立案し、実施する。
7) その他、必要と思われる諸種の臨床的、臨床薬理学的資料はこの時期の間に整える。
・・・
3 実施要領
・・・
3) 実施方法
用法・用量は、第I相試験、前期第II相試験を経て明らかにされた当該治験薬の薬効と安全性が判断された範囲において実施する。用量設定試験においてはプラセボ又は最小有効量及び推定臨床最大用量が含まれることが望ましく、あわせて可能な限り二重盲検比較試験により行うことが望ましい。また、治験薬のみでなく、他剤との併用による医薬品相互作用についても検討しておく必要がある場合もある。
・・・
第四 第III相試験
1 目的
第II相試験で得られた治験薬の有効性と安全性の成績、用量設定試験の用量幅及び投与方法の成績をともに、臨床試験の対象をさらに拡大して、治験薬が実際に臨床使用されたときの効果、副作用を検討するために実施し、有効性と安全性の両面を勘案し承認申請における効能・効果(適応症)、用法・用量、使用上の注意を最終的に設定することを目的とする。
第III相試験では、比較対照試験と一般臨床試験とによって、以下のことを明らかにする。
1) 有効性と安全性及び有用性の確認
2) 適応疾患における用法・用量の確認
3) 副作用の確認と回復の状況
4) 併用される頻度の高い他剤との併用効果、医薬品相互作用
5) 治験薬の種類によっては、長期連用による副作用、特別な器官(例えば感覚器、神経系等)に及ぼす作用、連用による薬効の変化(例えば、耐薬性の出現など)、投与中止に伴い発現する症状など諸種の影響を検討する。」
(8頁32行~11頁32行)
20 甲60の2の記載事項
甲60の2には、以下の事項が記載されている。
(1)甲60の2-1
「b. 肝機能・腎機能低下患者での薬物動態試験
肝機能・腎機能の低下は被験薬の薬物動態特性に対して直接的な影響を与えるため,これらの機能低下をきたしている患者では用量調整が必要となる.通常,これら機能低下を合併する患者は第III相試験から除外されるが,適正使用への情報提供の観点や第III相試験計画のための基礎情報獲得の観点から,第II相段階での臨床薬理試験として実施されることが多い.
国内ではこれら機能低下患者を対象とした試験のガイドラインは通知されていないが,通常,肝機能については肝予備能の指標とされるChild-Paugh分類(A,B,Cの3種類)が用いられ,また腎機能についてはクレアチニン・クリアランス(Ccr)から軽度(50~80ml/min)中等度(30~50ml/min),重度(<30ml/min)に分類されるが,場合によっては透析例も含められる.」
(45頁下から6行~46頁5行)
21 甲75の記載事項
甲75には、以下の事項が記載されている。
(1)甲75-1
「ビルダグリプチンは軽度または中等度の腎機能障害を有する患者において安全であり、忍容性も良好である
・・・
背景と目的:ビルダグリプチンは強力かつ選択的なDPP-4阻害薬であり、グルコースに対するα細胞およびβ細胞の反応性を高めることにより、2型糖尿病(T2DM)患者の血糖コントロールを改善する。臨床データでは、ビルダグリプチンは1日50mgまたは100mgの用量でHbA1cを効果的に低下させ、忍容性プロファイルはプラセボと同等であることが示されている。T2DM患者では腎臓病の有病率は20~40%である。この抄録の目的は、1)ビルダグリプチン国際開発プログラムの安全性データベースにおける軽度または中等度の腎機能障害の有病率について報告すること、2)軽度または中等度の腎機能障害を有する患者におけるビルダグリプチン単剤療法の安全性プロファイルを正常腎機能患者と比較して検討することである。ビルダグリプチンの主な排泄経路は代謝であり、未変化体の一部(23%)は尿中に排泄される。材料と方法:糸球体濾過量(GFR)はMDRD法により算出した:軽度および中等度の腎障害を定義するために、それぞれ60~90mL/分/1.73m2および30~60mL/分/1.73m2のカットオフ値が用いられた。ビルダグリプチンの8つの単剤療法試験と7つのアドオン療法試験のプールされた第3相試験の安全性データを解析した。
結果:ビルダグリプチン(単剤投与または他剤との併用)を投与された患者のうち合計1864例がMDRD推定で軽度(n=1650)または中等度(n=214)の腎機能障害を有していたのに対し、腎機能が正常な患者へのビルダグリプチン投与群は1913例であった。以下に示すように、単剤投与試験における有害事象(AE)の発現率は、ビルダグリプチン1日50mgまたは100mg、ロシグリタゾン、ピオグリタゾンまたはプラセボ投与群で同程度であったが、メトホルミン投与群より低かった。中等度の腎機能障害を有する患者では、すべての有効薬投与群でAE発現率は同等であったが、プラセボ投与群より高かった。・・・
単剤投与試験において、重篤な有害事象および有害事象による投与中止の発生率は、軽度および中等度の腎機能障害群間で概ね同程度であった。腎機能正常群では、これらの事象の発生率がやや低い傾向がみられたが、これは腎機能障害が一般的に合併症を多く伴うことから予想されることである。
結論:国際共同開発プログラム期間中にビルダグリプチン(1日用量50mgおよび100mg)を投与された患者の半数近くが軽度または中等度の腎機能障害を有していた。これらの腎障害を有する患者における安全性を評価した結果、プラセボまたは実薬対照に対する安全性プロファイルは、腎障害のない患者で観察されたものと同等であった。」
(S363頁右欄26行~18行)
22 甲76の記載事項
甲76には、以下の事項が記載されている。
(1)甲76-1
「薬の代謝
・・・
さて,薬が生体内で代謝を受けると化学構造が変化するが,それにともなって,(1)水溶性の増加,(2)薬理活性の減弱または消失という現象が起こる.」
(63頁1行~11行)
(2)甲76-2
「A 薬の代謝の型式とその酵素
薬の代謝は体内の多くの組織で行われるが,ほとんどの薬についての主要な代謝部位は,その活性の強さとその重量から肝臓である.
表IV-1に肝における主な薬の代謝型式とその細胞内局在性をあげておく.
脂溶性の薬の代謝に関して特に重要な役割を演じているものは,ミクロソームに局在する,いわゆる薬物代謝酵素(drugmetabolizingenzymes)といわれているチトクロムP450(cytochromeP450,CYP)であり,その基本の反応機構は,NADPH-チトクロムP450還元酵素により還元されたCYPによる酸素の活性化にともなう薬の酸化反応(モノオキシゲナーゼ反応)と,CYPの低い酸化還元電位による薬の還元反応である(図IV-2).ヒトに存在するCYPには現在30以上の分子種が報告されている.薬の代謝に関与するCYPはCYP1~CYP4までのファミリーに分類されている.さらにCYP3A4のように分類されるが,その命名法は動物種にとらわれず,発見の順に付けられている点に注意.現在,臨床で用いられている薬の80%以上がCYPによる代謝されるといわれている.」
(64頁1行~13行)
23 甲79の記載事項
甲79には、以下の事項が記載されている。
(1)甲79-1
「3) 薬物の胆汁排泄
生体の薬物処理機能を表す全身クリアランスは,腎クリアランスと腎外クリアランスの和で表され,この腎外クリアランスはほとんどの薬物では肝クリアランス,すなわち肝臓での代謝クリアランスと胆汁中への排泄クリアランスの和である.従来から薬物の分子量が大きいほど胆汁排泄しやすく,その分子量閾値には種差があることが知られている.例えば,ラット,モルモットおよびウサギの閾値はそれぞれ325,400,および475程度であり,ヒトでの閾値は500~600程度といわれている.このような分子量閾値のメカニズムや生理的な意義についてはよくわかっていないが,多くの薬物が肝臓においてグルクロン酸や硫酸,アミノ酸などの抱合反応を受け,分子量が大きくなり胆汁排泄を受けやすくなる(・・・).」
(136頁6行~14行)
24 丙1の記載事項
丙1には、以下の事項が記載されている。
(1)丙1-1
「ビルダグリプチンは、経口で活性なジペプチジルペプチダーゼ-4酵素阻害剤です。消化管ホルモンであるグルカゴン様ペプチド-1の不活性化を防ぎ、その結果、ホルモンの内因性レベルが上昇します。これによりインスリン分泌が刺激され、膵臓のα細胞とβ細胞のグルコース感受性が上昇することでグルカゴン分泌が抑制されます。多数の証拠から、ビルダグリプチンが2型糖尿病患者の血糖コントロールを改善することが示されています。したがって、ビルダグリプチンは、2型糖尿病の単独療法として、ヘモグロビン(Hb)-A1cをベースラインレベル7.7-8.5%から0.8-1.1%低下させます。さらに、ビルダグリプチンは、メトホルミン、チアゾリジンジオン、スルホニル尿素、またはインスリンとの併用療法で使用した場合、HbA1cを低下させます。さらに、ビルダグリプチンは忍容性が高く、低血糖のリスクが低く、治療中に体重が増加することもありません。したがって、ビルダグリプチンは2型糖尿病の新しい薬理学的治療法となります。その主な可能性は、血糖コントロールが不十分な患者に対するメトホルミンの追加療法、スルホニル尿素の追加療法、およびメトホルミンに不耐性または禁忌がある患者に対する単独療法としての第一選択治療です。」
(79頁1行~14行)
25 丙2の記載事項
丙2には、以下の事項が記載されている。
(1)丙2-1
「経口抗糖尿病薬:どの程度の腎疾患を許容できるか?
・・・
2型糖尿病と軽度および中等度の慢性腎臓病は、一般的で過小評価されている合併症であり、関連した治療結果をもたらすものである。利用可能な経口糖尿病治療薬は、血糖値をガイドラインの範囲内に保つために効果的に使用されるが、禁忌に関する長いリストがしばしばその使用を制限する。慢性腎臓病は経口抗糖尿病薬を差し控えたり中止したりする非常に一般的な理由であり、メトホルミンのような有用性が証明されている薬剤から多くの患者を遠ざけている。禁忌はしばしばデータに基づくものではなく、理論的根拠や専門家の意見に基づくものである。本総説では、一般的な経口抗糖尿病薬に対する腎機能の閾値とその根拠となるエビデンスを批判的に検討し、臨床における重要な手順として腎機能をモニターする方法についてアドバイスを提供する。」
(469頁標題、要約)
(2)丙2-2
「
[図:0001434535000015.jpg]
」
(471頁表2)
26 乙21の記載事項
乙21には、以下の事項が記載されている。
(1)乙21-1
「本論文は、経口抗糖尿病薬の薬物動態に腎不全が及ぼす影響についての総説である。インスリン非依存性糖尿病(NIDDM)の治療に用いられる3つのグループの薬物のうち、スルホニル尿素とメトホルミンは一般的に忍容性が高く、安全性も高い。しかし、慢性腎不全の患者では、これらの多くの薬物の使用の際に注意が必要である。なぜなら、活性薬物または活性代謝物の蓄積により、低血糖やメトホルミンでは乳酸アシドーシスなどの深刻な副作用が引き起こされる可能性があるからである。スルホニル尿素薬は、多小の差はあるが肝臓で代謝され、様々な活性化合物または不活性化合物となり、一般に腎臓から排泄される。さらに、親化合物の量は腎排泄に依存して変化する。そのため、トルアザミド、アセトヘキサミド、クロルプロパミド、グリベンクラミド(グリブリド)などのスルホニル尿素薬は、他の一般的に処方されるスルホニル尿素薬と比較して、代謝により腎不全の存在下で親薬剤または活性代謝物の蓄積を招く可能性があるため、重度の低血糖を引き起こす可能性が高くなる。」
(111頁要約2行~17行)
27 乙22の記載事項
乙22には、以下の事項が記載されている。
(1)乙22-1
「薬物の排泄
薬物はいくつかの経路でのみ排泄される。肺から排泄されるもの(パラアルデヒドなど)や、皮膚消化管や排液から排泄されるものもあるが、腎臓と肝臓が主要な排泄器官である。透析などの人工的な方法も、薬物の排泄に大きく寄与することが多い。肝排泄は通常、生体内変換過程である。薬物の代謝物は通常、腎排泄に依存する。このような生体内で変化した薬物は、非活性な代謝物である場合もあれば、活性代謝物が尿毒症患者に残留する場合(例:N―アセチルプロカインアミド)や、有毒な代謝物が残留する場合(例:ノルメタベジジン)もある。したがって、急性腎不全患者において、薬物の肝臓での排泄は「残留」毒性がないことを保証するものではない。」
(41頁左欄32行~47行)
28 乙25の記載事項
乙25には、以下の事項が記載されている。
(1)乙25-1
「ビルダグリプチンは、主に代謝とその後の代謝産物の尿中排泄によって排泄される。14C-ビルダグリプチン100mg経口溶液の投与後、用量の85.4± 4.4%は尿中で排泄され、14.8± 3.5%は糞中に排泄された。静脈内投与後、用量の約33%が、未変化のビルダグリプチンとして尿中に排泄された。」
(第9頁の「Elimination」の項の1~4行)
(1)乙25-2
「腎不全:
…しかしながら、中度腎臓障害を有する患者におけるAEの全事象は、ビルダグリプチンをメトホルミン及びピオグリタゾンと組み合わせたときに、プラセボに比べて高い傾向にあつた。この患者群におけるより多くのデータが利用可能になるまで、ビルダグリプチンは、中度及び重度の腎臓障害を有する患者には推奨されるべきでない。」
(第28頁1行~11行)
29 乙28の記載事項
乙28には、以下の事項が記載されている。
(1)乙28-1
「要約
糖尿病の発症初期段階においても、腎機能および構造の異常が認められる。過去10年間に行われた研究により、糖尿病における腎機能変化の発展過程を段階的に分類する体系が確立された。このような分類は、臨床現場における診療や研究活動において有用なツールとなる可能性がある。
ステージ1は、早期の機能克進と肥大が特徴的である。これらの変化は、インスリン治療開始前の診断時に認められる。尿中アルブミン排泄量の増加は、身体活動時に悪化する特徴的な所見である。これらの変化は、インスリン治療により少なくとも一部は可逆的である。
ステージ2は、数年間にわたり無症状で進行し、臨床症状のない形態学的病変が特徴である。しかし、腎機能検査や生検標本の形態測定では変化が認められる。機能はGFRの増加で特徴付けられる。糖尿病コントロールが良好な場合、尿中アルブミン排泄は正常だが、身体活動により安静時では検出できないアルブミン尿の変化が顕在化する。糖尿病コントロールが不良な場合、安静時および身体活動時ともに尿中アルブミン排泄が増加する。多くの患者は生涯にわたってステージ2に留まる。
ステージ3である初期糖尿病性腎症は、顕性糖尿病性腎症の前駆段階である。主な症状は、ラジオイムノアッセイで測定される尿中アルブミン排泄の異常な上昇である。正常値より高く、臨床疾患の値より低いレベルが特徴で、基線状態では15~ 300 μg/分程度とされている。この糖尿病における腎疾患の非常に重要な段階では、血圧が上昇する中で、年々緩やかに増加する傾向が顕著である。アルブミン排泄率の増加率は、血圧上昇患者で高い傾向にある。この段階ではGFRは依然として正常範囲内であり、抗高血圧治療の有効性は、身体運動試験を用いて検討されている。
ステージ4は、持続性タンパク尿(>0.5g/24h)を特徴とする典型的な糖尿病性腎症である。関連する高血圧が治療されない場合、腎機能(GFR)は低下し、平均低下率は約1m1/分/月である。長期的な降圧治療は低下率を約60%減少させ、尿毒症の進行を大幅に遅らせる。
ステージ5は、糖尿病性腎症による尿毒症を伴う末期腎不全である。現在、米国で末期腎不全プログラムに入院する患者の25%が糖尿病患者である。糖尿病性腎症と糖尿病性血管病変は、現代社会における重大な医療問題である。」
(64頁要約)
第7 当審の判断
当審は、本件発明1~24についての特許は無効理由1によって無効とすべきであると判断する。その理由は、以下のとおりである。
1 本件明細書に記載された事項
(1)本件明細書には、次のとおりの記載がある。
「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、標準のメトホルミン治療が適切でない(メトホルミンに対する不耐性又は禁忌のため)患者において代謝性疾患、特に糖尿病(特に2型糖尿病)及びそれに関連した状態を治療及び/又は予防するある種のDPP-4阻害剤、並びに前記治療及び/又は予防におけるこのDPP-4阻害剤の使用に関する。本明細書に定義されるDPP-4阻害剤を含み、必要により1つ以上の他の活性物質と共に含んでもよいこれらの患者における代謝性疾患(特に糖尿病)を治療及び/又は予防する医薬組成物及び組み合わせもまた企図される。
【背景技術】
【0002】
2型糖尿病は、世界中で罹患率が増加している一般疾患であり、心臓血管疾患のような大血管合併症、及び/又は失明、神経障害及び/又は腎機能障害又は腎不全のような微小血管合併症を伴うことがあり得る。
腎機能障害が糖尿病をもつ人々に起こり得る理由は様々である。糖尿病の典型的な長期合併症の1つは、糖尿病性腎症であり、場合によっては腎不全に進行し得る。
高血糖症の集中治療が慢性損傷の発生率を低下させることができるが、従来の高血糖治療の長期有効性の制限、許容性及び投薬の不便さが部分的にあることから、多くの2型糖尿病患者は依然として治療が不充分なままである。」
「【0004】
メトホルミンは、2型糖尿病をもつ患者において耐糖能を改善する高血糖治療薬である。メトホルミンは、単独で用いることができ、メトホルミンに反応する2型糖尿病患者において血糖コントロールを改善する他の高血糖治療薬と組み合わせることもできる。メトホルミンは、また、肥満又は太りすぎの糖尿病患者の治療において又は多嚢胞性卵巣症候群をもつ患者において価値があり得る。しかしながら、メトホルミンによる治療は、副作用の症状、例えば、胃腸の症状又は、時折、重大な副作用として、1つの推定上の危険因子が腎機能の低下である、乳酸アシドーシス(致命的であり得る)を伴い得る。更に、メトホルミンは主に腎糸球体ろ過及び尿細管分泌によって腎臓から変化せずに排泄されるので、腎疾患又は腎機能障害をもつ患者には禁忌である。従って、従来のメトホルミン治療は、例えば、メトホルミンに対する不耐性又は禁忌のために、特定の患者には不適切であり得る。このようにメトホルミンに不適格である患者の数は、非常に多数になり、薬剤から利益を得ることになるかなりの割合の患者が含まれることになる。それ故、メトホルミン治療に不適格なこれらの糖尿病患者に有効で安全で且つ許容できる抗糖尿病治療を提供することが当該技術において依然として求められている。」
「【0007】
本発明の意味の範囲内のメトホルミン治療に不適格な患者には、
-メトホルミン治療が禁忌である患者、例えば、分類表示に従ってメトホルミン治療に対して1つ以上の禁忌をもつ患者、例えば、以下より選ばれる少なくとも1つの禁忌をもつ患者:
腎疾患、腎機能障害又は腎機能不全(例えば、局所的に認可されたメトホルミンの製品情報によって指定されている)、
脱水症、
不安定又は急性の鬱血性心不全、
急性又は慢性代謝性アシドーシス、及び
遺伝性ガラクトース不耐性;及び
-メトホルミンが原因の1つ以上の耐え難い副作用、特にメトホルミンと関連している胃腸の副作用を受けている患者、例えば、以下より選ばれる1つ以上の胃腸の副作用を受けている患者:
吐き気、
嘔吐、
下痢、
腸内ガス、
ひどい腹部の不快感。
【0008】
更に、副作用に対する感受性が高いため、高齢患者(例えば≧60-70歳)の治療には、腎機能の注意深い監視がしばしば随伴されなければならない。クレアチニンクリアランスの測定により腎機能が低下しないことを示さない限り、メトホルミンは、通常、高齢個体、特に≧80歳には推奨されない。従って、メトホルミン治療に不適格な患者には、例えば、≧60-65歳又は特に≧80歳高齢患者が含まれてもよいが、これに限定されない。
【0009】
本発明の意味の範囲内のメトホルミン治療に不適格な患者の特別な実施態様は、例えば、高血清クレアチニンレベル(例えば、年齢について標準の上限を超える血清クレアチニンレベル、例えば、男性において≧130-150μモル/l、又は≧1.5mg/dl(≧136μモル/l)及び女性において≧1.4mg/dl(≧124μmol/l))又は異常なクレアチニンクリアランス(例えば、糸球体ろ過速度(GFR)≦30-60ml/分、例えば、ESRDを含む中等度又は重度の腎障害を含む)によって示されるように、腎疾患、腎障害、又は腎機能不全又は腎機能障害(軽度、中等度及び重度の腎障害を含む)をもつ患者に関するものである。
【0010】
これに関連して、より詳細な例として、軽度腎障害は、例えば、50-80ml/分のクレアチニンクリアランス(男性において≦1.7mg/dL及び女性において≦1.5mg/dLの血清クレアチンレベルにほぼ対応する)によって示されてもよく;中等度腎障害は、例えば、30-50ml/分のクレアチニンクリアランス(男性において>1.7~≦3.0mg/dL、女性において>1.5~≦2.5mg/dLの血清クレアチニンレベルにほぼ対応する)によって示されてもよく;重度腎臓障害は、例えば、<30ml/分のクレアチニンクリアランス(男性において>3.0mg/dL及び女性において>2.5mg/dLの血清クレアチニンレベルにほぼ対応する)によって示されてもよい。末期腎疾患患者には、透析(例えば、血液透析又は腹膜透析)が必要である。
【0011】
他のより詳細な例として、腎疾患、腎機能不全又は腎障害をもつ患者には、糸球体ろ過速度(GFR、ml/分/1.73m2)に従って5病期に層別化され得る、慢性腎不全又は障害をもつ患者が含まれる:1期は正常なGFR≧90と持続的な蛋白尿又は既知の構造的又は遺伝性腎疾患を特徴とし;2期は軽度腎障害を記載するGFRの弱い低下(GFR60-89)を特徴とし;3期は中等度腎障害を記載するGFRの中程度の低下(GFR30-59)を特徴とし;4期は重度腎障害を記載するGFRの激しい低下(GFR15-30)を特徴とし;末期5は透析を必要とすること又は確立された腎不全(末期腎疾患、ESRD)を記載するGFR<15を特徴とする。」
「【0014】
CD26としても知られる酵素DPP-4(ジペプチジルペプチダーゼIV)は、N末端にプロリン又はアラニン残基を有する多くのタンパク質のN末端からジペプチドの切断につながることが知られるセリンプロテアーゼである。この特性のため、DPP-4阻害剤は、ペプチドGLP-1を含む生物活性ペプチドの血漿レベルを妨害し、糖尿病の治療に有望な薬剤であるとみなされている。」
「【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0049】
本発明の範囲内で、驚くべきことに、本明細書に定義されるDPP-4阻害剤が、代謝性疾患、特に糖尿病(特に2型糖尿病)及びそれに関連した状態(例えば糖尿病性合併症)を治療及び/又は予防する(進行を阻止又は遅らせることを含む)のに特に適切にする、驚くべき特性、特に有利な特性を、特にメトホルミン治療がメトホルミンに対して不耐性又は禁忌のために不適切である患者、例えば、メトホルミンに対して不耐性又は禁忌のためにメトホルミン治療法には不適格な患者又はメトホルミン投与量の減少を必要とする患者において有することが見出された。
【課題を解決するための手段】
【0050】
従って、本発明は、メトホルミンに対する不耐性又は禁忌のためにメトホルミン治療が不適切である患者において、代謝性疾患、特に2型糖尿病の治療及び/又は予防に用いられる本明細書に定義されるDPP-4阻害剤を提供する。
本発明は、更に、メトホルミンに対する不耐性又は禁忌のためにメトホルミン治療が不適切である患者において、代謝性疾患、特に2型糖尿病の治療及び/又は予防用の医薬組成物を製造するための本明細書に定義されるDPP-4阻害剤の使用を提供する。
本発明は、更に、メトホルミンに対する不耐性又は禁忌のためにメトホルミン治療が不適切である患者において、代謝性疾患、特に2型糖尿病の治療及び/又は予防に用いられる医薬組成物であって、本明細書に定義されるDPP-4阻害剤を含み、必要により1つ以上の医薬的に許容され得る担体及び/又は希釈剤を含んでもよい、前記医薬組成物を提供する。」
「【0053】
更に、本明細書に定義されるDPP-4阻害剤は、メトホルミンに対する不耐性又は禁忌のためにメトホルミン治療が不適切である患者において、以下の方法の1つ以上に有効であり得る
-代謝性疾患を予防する、進行を遅らせる、遅延させる又は治療する;
-血糖コントロールを改善する及び/又は空腹時血漿グルコース、食後の血漿グルコース及び/又はグリコシル化ヘモグロビンHbA1cを低下させる;
-糖尿病の合併症からなる群より選ばれる状態又は障害を予防する、進行を遅らせる、遅延させる又は治療する;
-体重を減少させる又は体重の増加を防止する又は体重の減少を促進させる;
-膵臓ベータ細胞の変性を予防又は治療する及び/又は膵臓ベータ細胞の機能を回復させる及び/又は改善する及び/又は膵臓インスリン分泌の機能を刺激及び/又は回復させる;及び/又は
-インスリン感受性を維持及び/又は改善する及び/又は高インスリン血症及び/又はインスリン抵抗性を治療又は防止する。」
「【0055】
更に、本発明の実施態様によれば、腎疾患、腎機能不全、又は腎機能の不全又は障害(慢性腎不全をもつ患者を含む)をもつ患者において、代謝性障害又は疾患、特に糖尿病(特に2型糖尿病)を治療し更に/又は予防する(発症又は進行のリスクを低下させることを含む)本明細書に定義されるDPP-4阻害剤が、必要により、例えば、本明細書に挙げられるものより選ばれる、1つ以上の他の活性物質と組み合わせて提供される。
【0056】
本発明の実施態様において、必要により、スルホニル尿素、チアゾリジンジオン、グリニド、アルファ-グルコシダーゼ遮断薬、GLP-1又はGLP-1類似体、及びインスリン又はインスリン類似体より選ばれる1つ又は2つの従来の高血糖治療薬と(追加又は最初に)組み合わせてもよい、本明細書に定義されるDPP-4阻害剤による治療に適している本明細書に記載される患者には、薬剤未投与の糖尿病患者や治療前の糖尿病患者、例えば、従来の抗糖尿病治療にもかかわらず血糖コントロールが不充分な患者(例えば一次又は二次薬剤不全)、例えば、メトホルミン、スルホニル尿素、チアゾリジンジオン、グリニド、アルファ-グルコシダーゼ遮断薬、GLP-1又はGLP-1類似体、及びインスリン又はインスリン類似体より選ばれる1つ、2つ又は3つの従来の高血糖治療薬による薬剤にもかかわらず(適用できる場合には、最大許容された経口投与量による治療にもかかわらず)(例えば、スルホニル尿素、ピオグリタゾン又は(基礎)インスリンによる単独療法にもかかわらず又はスルホニル尿素/ピオグリタゾン、スルホニル尿素/(基礎的)インスリン又はピオグリタゾン/(基礎)インスリンの組み合わせによる二剤併用療法にもかかわらず)血糖コントロールが不充分な患者が含まれてもよいが、これらに限定されない。」
「【0060】
本発明の特別な実施態様は、メトホルミン治療がメトホルミンに対して不耐性又は禁忌のために不適切である、血糖コントロールが不充分な患者における2型糖尿病の治療に用いられるDPP-4阻害剤に関するものである。本発明の他の特別な実施態様は、メトホルミン治療がメトホルミンに対して不耐性又は禁忌のために不適切である患者における(特に腎疾患、腎機能不全又は腎障害をもつ患者における)代謝性疾患(特に2型糖尿病)の治療及び/又は予防に用いられるDPP-4阻害剤であって、前記DPP-4阻害剤が、低投与量レベルで又は、有利には、正常な腎機能をもつ患者と同じ投与量レベルで前記患者に投与されるので、例えば、前記DPP-4阻害剤が、腎機能の低下のための下方投薬調整を必要としないことを特徴とする、前記DPP-4阻害剤に関するものである。
【0061】
本発明の特別な実施態様は、メトホルミンに対する不耐性又は禁忌、例えば、上文又は下文に定義された不耐性又は禁忌のいずれかのためにメトホルミン治療には不適格な患者において2型糖尿病の治療に用いられるDPP-4阻害剤に関するものである。
本発明の意味の範囲内で、本発明の治療が関係する患者の特別なサブグループは、(特に中等度、重度又は末期の)慢性腎不全又は障害をもつ患者に関するものである。
腎疾患、腎機能不全又は腎障害をもつ患者は、特に、個々の薬剤の種類と特性(例えば、薬物速度論、薬力学、代謝、排出経路)に及び腎障害の患者のグレードに基づき、薬剤及び投薬法の適切な選択のための注意深い評価を必要とする。
本発明のために(特に腎機能低下をもつ患者に対して)示すことができるDPP-4阻害剤は、活性代謝産物が、好ましくは比較的広い(例えば約>100倍)治療濃度域を有し更に/又は、特に、肝代謝又は胆汁中排泄によって主に排出されるような経口DPP-4阻害剤であってもよい。
【0062】
更に詳細には、本発明のために(特に腎機能が低下した患者に対して)特に適切なDPP-4阻害剤は、比較的広い(例えば>100倍)治療濃度域を有し且つ/又は以下の薬物速度論的特性(好ましくは治療経口服用レベルで)の1つ以上を満たすような経口投与DPP-4阻害剤であってもよい:
-DPP-4阻害剤は、肝臓を介して実質的に又は大部分が排泄され(例えば、投与された経口量の>80%又は>90%もの)、更に/又は腎排泄は、ほとんどないか、又は非主要の排出経路でしかない(例えば、放射性標識炭素(14C)物質経口投与量の排出を追跡することにより測定された量は、例えば、測定した投与された経口投与量の<10%、好ましくは<7%である);
-DPP-4阻害剤は、親薬剤として大部分は変化せずに排泄され(例えば、放射性標識炭素(14C)物質の経口投薬後の尿及び大便中の排泄された放射能の平均>70%、又は>80%、又は、好ましくは90%による)、更に/又は代謝によってほとんど排出されず又は少量程度のみ除去される(例えば、<30%、又は<20%、又は、好ましくは10%);
-DPP-4阻害剤の1つ又は複数の(主要)代謝産物は、薬理的に不活性である。例えば、主な代謝産物は、標的酵素DPP-4の活性に結合しないか或いはこれを阻止せず、必要により、親化合物と比較して急速に排出される(例えば、消失半減期が15.9時間、≦20時間、又は、好ましくは、≦約16時間)。
【0063】
一実施態様において、3-アミノピペリジン-1-イル置換基を有するDPP-4阻害剤の(薬理的に不活性であり得る)(主要)代謝産物は、3-アミノピペリジン-1-イル部分のアミノ基がヒドロキシル基によって置き換えられて、3-ヒドロキシピペリジン-1-イル部分を形成するような誘導体である。
【0064】
本発明のために魅力的であり得るDPP-4阻害剤の特性は、更に、以下の1つ以上であってもよい:定常状態の急速な達成(例えば、治療経口服用レベルによる治療の2日目と5日目の間に定常状態血漿レベル(定常血漿濃度の>90%)に達する)、少量の蓄積(例えば、治療経口服用レベルによる平均蓄積比RA,AUCが≦1.4)、及び/又は好ましくは1日1回用いた場合に、DPP-4阻止に対して長時間効果を維持すること(例えば、治療経口服用レベルにおいてDPP-4阻止がほぼ完全(>90%)、治療経口薬剤投与量の1日1回の摂取後の24時間の間隔にわたって>80%阻止)、治療服用レベルにおいて食後2時間の血中グルコース可動域の著しい低下が(治療の1日目にすでに)>80%、及び1日目に尿に排泄される変化していない親化合物の累積量が投与量の1%未満であり、定常状態で約3-6%以下まで増加すること。
【0065】
従って、本発明は、また、代謝性疾患(特に、メトホルミン治療がメトホルミンに対して不耐性又は禁忌のために不適切である患者における、特に腎疾患、腎機能不全又は腎障害をもつ患者における2型糖尿病)の治療及び/又は予防に用いられるDPP-4阻害剤であって、前記DPP-4阻害剤がほとんど排泄されないか或いは腎臓を介して少量程度のみ(例えば、投与経口量の<10%、好ましくは<7%)排出される(例えば、放射性標識炭素(14C)物質経口投与量の排出を追跡することにより測定された)ことを特徴とする、前記DPP-4阻害剤に関する。
更に、本発明は、代謝性疾患(特に、メトホルミン治療がメトホルミンに対して不耐性又は禁忌のために不適切である患者における、特に腎疾患、腎機能不全又は腎障害をもつ患者における2型糖尿病)の治療及び/又は予防に用いられるDPP-4阻害剤であって、前記DPP-4阻害剤が実質的に又は大部分は肝臓を介して排泄される(例えば、放射性標識炭素(14C)物質経口投与量の排出を追跡することによって測定された)ことを特徴とする、前記DPP-4阻害剤に関する。
更に、本発明は、代謝性疾患(特に、メトホルミン治療がメトホルミンに対して不耐性又は禁忌のために不適切である患者における、特に腎疾患、腎機能不全又は腎障害をもつ患者における2型糖尿病)の治療及び/又は予防に用いられるDPP-4阻害剤であって、
前記DPP-4阻害剤が親薬剤として大部分は変化せずに排泄され(例えば、放射性標識炭素(14C)物質の経口投薬後の尿及び大便中に排泄された放射能が平均>70%、又は>80%、又は、好ましくは90%)、前記DPP-4阻害剤がほとんど除去されず或いは代謝によって少量程度のみ排出され、更に/又は前記DPP-4阻害剤の主要代謝産物が薬理的に不活性であるか又は比較的広い治療濃度域を有することを特徴とする、前記DPP-4阻害剤に関する。」
「【発明を実施するための形態】
【0066】
第1の実施態様(実施態様A)において、本発明の関連においてDPP-4阻害剤は、下記式のDPP-4阻害剤である
下記式(I)
【0067】
【化10】
[図:0001434535000016.jpg]
【0068】
又は下記式(II)
【0069】
【化11】
[図:0001434535000017.jpg]
【0070】
又は式(III)
【0071】
【化12】
[図:0001434535000018.jpg]
【0072】
又は式(IV)
【0073】
【化13】
[図:0001434535000019.jpg]
【0074】
(式中、R1は、([1,5]ナフチリジン-2-イル)メチル、(キナゾリン-2-イル)メチル、(キノキサリン-6-イル)メチル、(4-メチルキナゾリン-2-イル)メチル、2-シアノベンジル、(3-シアノキノリン-2-イル)メチル、(3-シアノピリジン-2-イル)メチル、(4-メチルピリミジン-2-イル)メチル又は(4,6-ジメチルピリミジン-2-イル)メチルを示し、R2は、3-(R)-アミノピペリジン-1-イル、(2-アミノ-2-メチルプロピル)メチルアミノ又は(2-(S)-アミノプロピル)メチルアミノ)、又は医薬的に許容され得る塩を示す)。
【0075】
第2の実施態様(実施態様B)において、本発明の関連においてDPP-4阻害剤は、以下からなる群より選ばれるDPP-4阻害剤である
シタグリプチン、ビルダグリプチン、サキサグリプチン、アログリプチン、
(2S)-1-{[2-(5-メチル-2-フェニルオキサゾール-4-イル)エチルアミノ]アセチル}ピロリジン-2-カルボニトリル、
(2S)-1-{[1,1,-ジメチル-3-(4-ピリジン-3-イルイミダゾール-1-イル)プロピルアミノ]アセチル}ピロリジン-2-カルボニトリル、
(S)-1-((2S,3S,11bS)-2-アミノ-9,10-ジメトキシ-1,3,4,6,7,11b-ヘキサヒドロ-2H-ピリド[2,1-a]イソキノリン-3-イル)-4-フルオロメチルピロリジン-2-オン、
(3,3-ジフルオロピロリジン-1-イル)-((2S,4S)-4-(4-(ピリミジン-2-イル)ピペラジン-1-イル)ピロリジン-2-イル)メタノン、
(1((3S,4S)-4-アミノ-1-(4-(3,3-ジフルオロピロリジン-1-イル)-1,3,5-トリアジン-2-イル)ピロリジン-3-イル)-5,5-ジフルオロピペリジン-2-オン、
(2S,4S)-1-{2-[(3S,1R)-3-(1H-1,2,4-トリアゾル-1-イルメチル)シクロペンチルアミノ]アセチル}-4-フルオロピロリジン-2-カルボニトリル、
(R)-2-[6-(3-アミノピペリジン-1-イル)-3-メチル-2,4-ジオキソ-3,4-ジヒドロ-2H-ピリミジン-1-イルメチル]-4-フルオロベンゾニトリル、
5-{(S)-2-[2-((S)-2-シアノピロリジン-1-イル)-2-オキソ-エチルアミノ]プロピル}-5-(1H-テトラゾール-5-イル)-10,11-ジヒドロ-5H-ジベンゾ[a,d]シクロヘプテン-2,8-ジカルボン酸ビスジメチルアミド、
3-{(2S,4S)-4-[4-(3-メチル-1-フェニル-1H-ピラゾール-5-イル)ピペラジン-1-イル]ピロリジン-2-イルカルボニル}チアゾリジン、
[(2R)-1-{[(3R)-ピロリジン-3-イルアミノ]アセチル}ピロリジン-2-イル]ボロン酸、
(2S,4S)-1-[2-[(4-エトキシカルボニルビシクロ[2.2.2]オクタ-1-イル)アミノ]アセチル]-4-フルオロピロリジン-2-カルボニトリル、
2-({6-[(3R)-3-アミノ-3-メチルピペリジン-1-イル]-1,3-ジメチル-2,4-ジオキソ-1,2,3,4-テトラヒドロ-5H-ピロロ[3,2-d]ピリミジン-5-イル}メチル)-4-フルオロベンゾニトリル、及び
6-[(3R)-3-アミノピペリジン-1-イル]-5-(2-クロロ-5-フルオロベンジル)-1,3-ジメチル-1,5-ジヒドロ-ピロロ[3,2-d]ピリミジン-2,4-ジオン、又は
その医薬的に許容され得る塩。
【0076】
第1の実施態様(実施態様A)に関して、好ましいDPP-4阻害剤は、以下の化合物及びその医薬的に許容され得る塩の一部又は全部である:
・1-[(4-メチルキナゾリン-2-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-(3-(R)-アミノピペリジン-1-イル)キサンチン(WO 2004/018468、実施例2(142)に匹敵する):
【0077】
【化14】
[図:0001434535000020.jpg]
【0078】
・1-[([1,5]ナフチリジン-2-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-((R)-3-アミノピペリジン-1-イル)キサンチン(WO 2004/018468、実施例2(252)に匹敵する):
【0079】
【化15】
[図:0001434535000021.jpg]
【0080】
・1-[(キナゾリン-2-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-((R)-3-アミノピペリジン-1-イル)キサンチン(WO 2004/018468、実施例2(80)に匹敵する):
【0081】
【化16】
[図:0001434535000022.jpg]
・・・
【0100】
これらのDPP-4阻害剤は、例外的な効力及び長期にわたる作用と有利な薬理学的特性、受容体選択性及び有利な副作用プロファイルとを組み合わせるか又は他の医薬活性物質と組み合わせた場合に予想外の治療上の利点又は改善をもたらすので、構造的に匹敵するDPP-4阻害剤から区別される。これらの調製は、言及した引例に開示されている。
本発明の実施態様Aの上述のDPP-4阻害剤の中でより好ましいDPP-4阻害剤は、1-[(4-メチルキナゾリン-2-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-(3-(R)-アミノピペリジン-1-イル)キサンチン、特にその遊離塩基である(BI 1356としても知られる)。」
「【0108】
第1の実施態様(実施態様A)に関して、実施態様Aにおいて本明細書に挙げられたDPP-4阻害剤に典型的に必要とされる用量は、静脈内投与される場合、0.1mg~10mg、好ましくは0.25mg~5mgであり、経口投与される場合、0.5mg~100mg、好ましくは2.5mg~50mg又は0.5mg~10mg、より好ましくは2.5mg~10mg又は1mg~5mgであり、いずれの場合においても1日1~4回である。従って、例えば、1-[(4-メチルキナゾリン-2-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-(3-(R)-アミノピペリジン-1-イル)キサンチンの用量は、経口投与される場合、0.5mg~10mg/患者/日、好ましくは2.5mg~10mg又は1mg~5mg/患者/日である。
【0109】
実施態様Aにおいて本明細書に挙げられるDPP-4阻害剤を含む医薬組成物で調製される剤形は、有効成分を0.1-100mgの用量範囲で含有する。従って、例えば、1-[(4-メチルキナゾリン-2-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-(3-(R)-アミノピペリジン-1-イル)キサンチンの具体的な用量は、0.5mg、1mg、2.5mg、5mg及び10mgである。」
「【0115】
本発明の意味の範囲内で強調される特に好ましいDPP-4阻害剤は、(BI 1356としても知られる)1-[(4-メチルキナゾリン-2-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-(3-(R)-アミノピペリジン-1-イル)キサンチンである。BI 1356は、効力が高く、作用の持続が24時間であり、また、治療濃度域が広い。1、2.5、5又は10mgのBI 1356を1日1回12日間反復経口投与を受ける2型糖尿病患者において、BI 1356は、定常状態の達成が急速であること(例えば、すべての投与グループにおいて治療の2日~15日目に定常血漿レベル(13日目に投与前血漿濃度の>90%)に達する)、蓄積がほとんどないこと(例えば、1mgを超える用量で平均蓄積比がRA,AUC≦1.4)及びDPP-4阻止に対する長期にわたる作用が維持すること(例えば、5mg及び10mg投与量レベルでほぼ完全な(>90%)DPP-4阻止、即ち、それぞれ、定常状態で92.3及び97.3%阻止し、薬剤摂取後の24時間にわたって>80%阻止する)、並びに用量≧2.5mgで≧80%(すでに1日目に)だけ食後2時間の血中グルコース可動域が著しく低下すること、また、1日目の尿中に排泄される変化していない親化合物の累積量が投薬量の1%未満であり、12日目に約3-6%以下に増加すること(腎クリアランスCLR,ssは経口投薬量について約14~約70mL/分であり、例えば、5mg投与量については腎クリアランスは約70ml/分である)による有利な薬力学的及び薬物動態学的なプロファイル(例えば、以下の表1を参照のこと)を示す。2型糖尿病をもつ人々において、BI 1356は、プラセボのような安全性及び許容性を示す。≧約5mgの低用量において、BI 1356は、24時間の全持続時間のDPP-4阻止で真の1日1回の経口薬剤として作用する。治療経口服用レベルで、BI 1356は、大部分は肝臓を経て、少量程度(投与経口投与量の約<7%)だけ腎臓を経て排泄される。BI 1356は、主に、胆汁を経て変化せずに排泄される。腎臓を経て排出されるBI 1356の画分は、経時及び増加投与量で非常にわずかしか増加しないので、おそらく患者の腎機能に基づいてBI 1356の投与量を変更する必要がない。低蓄積可能性及び広い安全域と組み合わせたBI 1356の非腎排出は、腎不全及び糖尿病性腎障害の高罹患率を有する患者集団において著しく有利になり得る。
【0116】
表1:
定常状態(12日目)におけるBI 1356の薬物動態学的パラメーターの幾何平均(gMean)及び幾何変動係数(gCV)
[図:0001434535000023.jpg]
」
「【実施例】
【0128】
本発明のための本発明のDPP-4阻害剤の有用性は、臨床試験を用いて調べることができる:
例えば、無作為二重盲検平行グループ試験において、本発明のDPP-4阻害剤の安全性と有効性(例えば、5mgのBI1356が1日1回経口投与される)を、メトホルミンに対して不耐性又は禁忌のためにメトホルミン治療に不適格である2型糖尿病及び不充分な血糖コントロール(例えばHbA1c7%~10%)をもつ患者における18週間の治療期間、次に34週間二重盲検延長拡張期間にわたってプラセボと比較する(プラセボはグリメピリドに変える)。
以下のように定義されるメトホルミン治療に不適格な患者:
分類表示によるメトホルミン治療に対する禁忌、例えば:
腎疾患又は腎機能不全(例えば、局所的に認可されたメトホルミンの製品情報によって指定されている)、
研究者の臨床判断による脱水症、
不安定又は急性の鬱血性心不全、急性又は慢性代謝性アシドーシス(患者の履歴における状態を示す)、
遺伝性ガラクトース不耐性;又は
メトホルミンに起因する確認された耐えられない副作用、例えば:
吐き気、
嘔吐、
下痢、
腸内ガス、
ひどい腹部の不快感。
【0129】
この実験においてこの患者集団における本発明のDPP-4阻害剤の有効性を18週間のより短い治療期間にわたって、また、最高52週間のより長い治療期間にわたって安全性/許容性をスルホニル尿素薬剤(グリメピリド)と比較して調べる。
最初の値と及び/又はプラセボグループの値とを比較することにより、HbA1c値を決定することによって治療の成功を試験する。最初の値及び/又はプラセボ値と比較したHbA1c値の著しい変化は、治療のためのDPP-4阻害剤の有効性を示す。また、最初の値及び/又はプラセボグループの値とを比較することにより、空腹時血漿グルコース値を決定することによって治療の成功を試験することができる。空腹時血糖値の著しい低下は、治療の有効性を示す。また、標的応答に対する治療の存在(即ち、治療によるHbA1c<7%又は<6.5%)は、治療の有効性を示す。
【0130】
ベースラインからの患者の状態及び適切な変化、例えば、副作用の発生と強度(例えば、腎有害事象、低血糖エピソード等)又はグリメピリド治療による体重増加をDPP-4阻害剤治療と比較して評価することによって治療の安全性及び許容性を調べる。
他の実施例として、無作為二重盲検平行グループ試験において、本発明のDPP-4阻害剤(例えば、5mgのBI 1356)の安全性、有効性及び許容性をインスリン及び/又はスルホニル尿素バックグラウンド薬剤による患者を含む重度の慢性腎障害(GFR<30ml/分、慢性透析の状態にない)をもつ2型糖尿病性男性と女性患者において52週間の治療期間にわたってプラセボと比較する。
患者の状態を評価することによって治療の安全性と許容性を調べる。有効性は、12週間治療後のHbA1cにおけるベースラインからの変化によって、空腹時血漿グルコースパラメーターの変化によって、又はベースラインと経時比較した52週間におけるインスリン及び/又はスルホニル尿素用量の変化によって調べることができる。
【0131】
本発明のためのDPP-4阻害剤の代謝と排出特性:
経口投与用放射性標識(例えば、[14C]標識)DPP-4阻害剤を用いて、例えば、本発明のために適切であると決定された化合物について以下の通り、ヒト被検者における本発明のDPP-4阻害剤の排泄経路、質量平衡及び代謝を調べることができる:
10mg[14C]BI 1356/被検者(例えば、健康な男性志願者)の経口投与後、合計放射能は、主に、大便によって排出され、投与量の平均83.8%が16日以内に排泄される。腎排泄は、投与9日後に投与量の6.6%とみなされる。合計放射能の回収は、投与量の86.1%-95.1%(平均:90.4%)の範囲にある。
[14C]BI 1356の経口投与後、親化合物は、調べたすべてのマトリックスにおいて最も多量の放射性物質である。血漿中の親化合物[14C]BI 1356は、経口投与後試料放射能の平均74%を占める(試料プール:1.5+3+6時間)。プールされた試料中16.9%の試料放射能を有する血漿において不活性の主要代謝産物が確認される。親化合物[14C]BI 1356は、尿と大便中に変化せずに排泄され、経口投薬後の排泄された放射能は平均90%である。主要代謝産物を含む代謝産物は、個別に排泄物の<10%を占める。」
2 無効理由1(甲1を主引用例とする進歩性欠如)について
(1)本件優先日当時の技術常識
前記第6に摘記した甲乙丙各号証の記載事項によれば、本件優先日当時、以下の事項が技術常識となっていたと認められる。
ア 糖尿病の概念、治療について
(ア) 糖尿病は、インスリン作用の不足による慢性の高血糖状態を主徴とする代謝疾患群であるが、代謝障害が長く続くことにより腎症などの特徴的な慢性合併症を発症し(甲2-1、甲2-3)、2型糖尿病患者では腎臓病の有病率が20~40%にのぼる(甲75-1)。
(イ) 糖尿病治療の目標は、血糖コントロールにより糖尿病症状を除くことはもとより、糖尿病に特徴的な合併症、糖尿病に併発しやすい合併症の発症、増悪を防ぐことも含まれる(甲2-2、甲2-4)。糖尿病の治療にあたっては経口血糖降下薬を用いるが、その選択と投与量の調節は、個々の薬物の作用の特性や副作用を考慮に入れながら個々の患者の状態に応じて行う(甲2-6、甲3-1)。
(ウ) 単独の経口血糖治療薬で不十分な場合は薬物の併用が行われる(甲2-8、甲3-1)。
イ 腎機能障害を有する2型糖尿病患者における経口抗糖尿病薬の選択について
(ア) 腎機能障害には、クレアチニン・クリアランス(Ccr)の数値などにより軽度・中等度・重度腎障害や、透析例、末期腎疾患に分類される(甲60の2-1、丙2-2)。
(イ) 生体に投与された薬物は、未変化体又は代謝物として、主に腎臓から尿中、または肝臓から胆汁を介して糞便中へ排泄され、尿中未変化体50%以上の薬物を腎排泄型薬物、50%以下を肝排泄型薬物と分類される(甲41-1、甲43-1、甲44-1、甲44-2)が、腎機能障害患者では、腎臓から排泄される薬物が体内に蓄積し、副作用が頻発するおそれがあるため、腎機能に応じて投与量や投与間隔の調整が必要となる(甲41-1、甲41-2、甲44-3)。一方、肝臓で代謝排泄される薬物では投与量の調整は必要ではない(甲46-1、甲44-3)。
(ウ) 腎疾患を合併する糖尿病患者において、腎障害の程度や薬物の排泄経路により経口糖尿病薬の使用を制限されるものが存在していた(丙2-1、丙2-2)。ビグアナイド薬のメトホルミンは長期的予後の改善が確立されている経口血糖降下薬であるが(甲2-6)、腎から排泄されるため、腎機能障害患者では副作用の乳酸アシドーシスを発症する可能性があり、当該患者への投与は禁忌である(甲6-2、甲21-3、甲21-4、甲34-2、甲35-1、丙2-2)。一方、グリキドン、レパグリニド、ロシグリタゾン、ピオグリタゾン、ビルダグリプチンは、軽度、中等度、重度の腎機能障害あるいは末期腎疾患患者に対しても投与量の調節を要せずに使用されていた(丙2-2)。ビルダグリプチンは、2型糖尿病患者に対する血糖コントロール改善効果が確認されている経口DPP-IV阻害剤であり、メトホルミンに不耐性又は禁忌がある患者に対する単独療法としての第一選択薬であった(丙1-1)。
(エ) 肝排泄型薬物であっても代謝により腎排泄される活性代謝物が生じる場合があり(乙22-1、甲16-3、甲41-1)、腎不全患者における経口抗糖尿病薬の使用においては、活性薬物又は活性代謝物の蓄積により深刻な副作用が引き起こされる可能性があるため、注意が必要である(乙21-1)。
ウ BI-1356について
(ア) BI-1356は8-[3(R)-アミノピペリジン-1-イル]-7-(2-ブチニル)-3-メチル-1-(4-メチルキナゾリン-2-イルメチル)キサンチンという化学構造を有する経口投与可能なDPP-IV阻害剤である(甲36-1、甲37-1、甲38-1、甲39-2、甲40-2)。
(イ) 2型糖尿病患者に対し、BI-1356を1日1回5mgの用量で経口投与したところ、血糖降下作用、及びHbA1c低下作用が確認されている(甲39-2、甲39-5)。
(ウ) 主な排泄経路は腎臓ではなく(甲36-1、甲37-1、甲38-1、甲39-4)、尿中排泄率は7%未満である(甲40-1、甲40-2)。
(エ) 600mgまでの用量範囲において良好な忍容性を示すことから、5mgの推定治療用量を基準として100倍を超える広い治療域を有している(甲36-1、甲37-1、甲38-1)。
(オ) BI-1356は、肝ミクロソームに局在し薬物の酸化・還元反応に携わる薬物代謝酵素であるチトクロームP-450(CYP)酵素と相互作用しない(甲39-3、甲76-2)。
エ 臨床試験における被験薬の薬物動態及び用量の検討について
(ア) 臨床薬物動態試験の結果は患者特性や病態に応じて医薬品を適正に使用するために有用であるもので、被験薬の体内動態を明らかにするために、その吸収、分布、代謝、排泄に関する情報を健康者及び患者から得るものである(甲16-1、甲16-2)。
(イ) 用量の決定方法について、通常、非臨床試験の結果などを総合的に判断し、ヒトに対して十分に安全と見込まれる用量を推定して初回投与量とし、段階的に用量を増して安全用量の範囲を推定する第I相試験から、第II相試験、第III相試験へと順に進めて行く手順を踏んで最終的に決定される(甲16-1、甲16-4、甲59-1、甲59-2、甲59-3)。
(2)甲1に記載された発明
ア 前記第5の1に示した記載事項によれば、甲1には、一般式Iで表される新規な置換されたキサンチンが開示され(甲1-2の【0001】~【0003】)、一般式Iの化合物は、DPP-IV活性を阻害する能力を有するものであって、一般式Iの化合物に含まれる46個の化合物について、DPP-IV阻害活性のIC50値[nM]が示されている。そのうち、IC50値が最小(当審合議体註:DPP-IV阻害活性が最も強いことを意味する。)の1nMである化合物は、実施例2(80)、実施例2(99)、実施例2(132)、実施例2(142)、実施例2(148)、実施例2(150)の化合物の6個であることが記載されている(甲1-3の【0039】、【表1】)。また、一般式Iの化合物は、DPP-IV活性の阻害によって影響される可能性のある状態又は疾病、「例えば、タイプI及びタイプII真性糖尿病、糖尿病合併症」等「の予防並び治療に適したものであると予想される」ことが記載されている(甲1-3の【0040】)。
そして、一般式Iの化合物の投与経路として、「静脈内経路」及び「経口経路」が記載され(甲1-4の【0043】)、「実施例2(80)の化合物10mg/kgを、ラットに経口経路で投与したところ、如何なる挙動変化も検出されなかったことから、十分に許容性を持つものである」ことが記載されている(甲1-3の【0040】)。甲1-5の【0167】及び【0178】によれば、実施例2(80)の化合物は、キナゾリン環の4位にメチル基を有さない点以外は、実施例2(142)の化合物と同一の化学構造であり、両化合物は経口投与に係る性質も類似すると推察される(実施例2(80)は、本件明細書【0080】において好ましい化合物として化学構造式とともに3番目に記載されている化合物である。)。
さらに、実施例2(142)の化合物(1-[(4-メチル-キナゾリン-2-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-(3-(R)-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチン)はBI-1356(8-[3(R)-アミノピペリジン-1-イル]-7-(2-ブチニル)-3-メチル-1-(4-メチルキナゾリン-2-イルメチル)キサンチン)と同一の化学構造を有するものであるところ、本件優先日当時、BI-1356が2型糖尿病の経口投与可能な治療薬として使用可能であるという技術常識(前記(1)ウ(ア))を踏まえた当業者であれば、特にDPP-IV阻害活性の強い前記6個の化合物のうちのいずれか1つを含有する薬理組成物を経口経路で投与することにより、タイプII真性糖尿病を治療できることが理解できるように、甲1には記載されているといえ、また、前記6個の化合物のうちの1つを含有するところの、6種類の薬理組成物は、いずれも甲1に記載されているといえる。
イ そうすると、その6種類の薬理組成物のうちの1つである、実施例2(142)の化合物(1-[(4-メチル-キナゾリン-2-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-(3-(R)-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチン(甲1-5の【0152】、【0178】。以下「化合物2(142)」という。)を含有する薬理組成物に関する次の発明が、甲1に記載されているといえる。
「DPP-IV阻害活性を有する1-[(4-メチル-キナゾリン-2-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-(3-(R)-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチン(化合物2(142))を含有する、タイプII真性糖尿病を治療するための薬理組成物であって、化合物2(142)が経口経路により投与される、前記薬理組成物。」(以下「甲1発明」という。)
(3)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「DPP-IV阻害活性を有する1-[(4-メチル-キナゾリン-2-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-(3-(R)-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチン(化合物2(142))」は、本件発明1の「DPP-4阻害剤」「であって」「1-[(4-メチルキナゾリン-2-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-(3-(R)-アミノピペリジン-1-イル)キサンチンまたはその薬学的に許容される塩」に相当する。
また、一般に、「真性糖尿病」とは、インスリン依存型糖尿病、インスリン非依存型糖尿病と栄養不良性糖尿病を含めた糖尿病を意味し、インスリン非依存型糖尿病は2型糖尿病を意味するので、甲1における「タイプII真性糖尿病」とは、2型糖尿病を意味すると解される(要すれば、最新医学大辞典第3版、医歯薬出版株式会社、2005年4月1日、p.122、p.928)ことを踏まえると、甲1発明の「タイプII真性糖尿病を治療するための薬理組成物であって、」「経口経路により投与される」「薬理組成物」は、本件発明1の「2型糖尿病を治療及び/又は予防するための経口投与用の」「薬剤」に相当する。
そうすると、本件発明1と甲1発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
<一致点>
「2型糖尿病を治療及び/又は予防するための経口投与用のDPP-4阻害剤を含む薬剤であって、前記DPP-4阻害剤が、1-[(4-メチルキナゾリン-2-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-(3-(R)-アミノピペリジン-1-イル)キサンチンまたはその薬学的に許容される塩である、上記薬剤。」
<相違点1>
本件発明1では、DPP-4阻害剤を、「メトホルミン治療がメトホルミンに対して禁忌のために不適切であり、中等度又は重度の腎障害又は末期腎疾患をもつ患者」に対して「一日当たり5mgの経口投与量で投与される」ことが特定されているのに対し、甲1発明ではそのような特定がなされていない点。
イ 判断
(ア) 相違点1について
上記相違点1について検討する。
甲1-2の【0003】及び甲1-3の【0040】の記載から、甲1発明は、一般式Iの化合物が「ジペプチジルペプチダーゼ-IV(DPP-IV)の活性に及ぼす阻害作用を含む、薬理的に有益な諸特性を持」つことから、「DPP-IV活性の阻害によって影響される可能性のある全てのこれら状態または疾病を治療するのに適し」ていることを見いだしたことに基づく発明であるが、甲1-3の【0040】には、一般式Iの化合物による「予防並びに治療に適した」「疾患または状態」として、「タイプIおよびタイプII真性糖尿病」に続いて「糖尿病性合併症(例えば、網膜症、ネフロパシーまたはニューロパシー)」(当審合議体註:ネフロパシーは「腎症」を意味する。)が2番目に記載されている。また、本件優先日当時、糖尿病では代謝障害により腎症などの慢性合併症を発症することから(前記(1)ア(ア))、糖尿病の治療は、糖尿病症状を治療することだけでなく、合併症の発症・増悪を防ぐことも治療目的に含まれることが技術常識であった(前記(1)ア(イ))ことからすると、この技術常識を知る当業者が甲1の上記記載に接すれば、甲1発明が、糖尿病だけに罹患した患者のみならず、糖尿病合併症を併発する患者も治療の対象としていることは当然に理解するところであって、とりわけ、2型糖尿病における腎臓病の有病率が20~40%にのぼることが技術常識であった(前記(1)ア(ア))ことを踏まえると、当業者は、甲1-3の【0040】で例示された糖尿病合併症のうち、ネフロパシー(腎症)、すなわち腎機能障害を合併する2型糖尿病患者を治療対象とすることを自然に動機付けられるものと認められる。
一方、生体に投与される薬物が、未変化体又は代謝物として、主に腎臓から尿中、または肝臓から胆汁を介して糞便中へ排泄されることは、本件優先日当時、当業者に周知の技術的事項であり(前記(1)イ(イ))、腎機能障害患者への薬物投与について、腎機能障害はその障害の程度により軽度、中等度、重度腎障害、及び末期腎疾患(透析例)に分類されるところ(前記(1)イ(ア))、腎機能障害患者では腎排泄される薬物が体内に蓄積して副作用が頻発するため、腎機能に応じて投与量や投与間隔の調整が必要となるものの、肝臓で代謝・排泄される薬物については投与量の調節は不要であるというのが技術常識であり(前記(1)イ(イ))、これは腎機能障害を有する糖尿病患者においても同様であったと認められる。そして、このことは、障害の程度や薬物の排泄経路により使用が制限される経口糖尿薬が存在し(前記(1)イ(エ))、効果が確立された経口血糖降下薬の一つであるメトホルミンも、その腎排泄性から腎障害患者への投与は禁忌である(前記(1)イ(ウ))一方で、例えば経口糖尿病治療薬のグリキドン、レパグリニド、ロシグリタゾン、ピオグリタゾン、ビルダグリプチンは投与量の調節を要せずに腎障害患者を有する糖尿病患者へ使用されており、このうち、DPP-IV阻害剤であるビルダグリプチンについては、メトホルミンに不耐性又は禁忌がある患者に対する単独療法としての第一選択薬とされていたこととも符合する(前記(1)イ(ウ))。このような本件優先日当時の技術常識を踏まえれば、腎機能障害を合併する2型糖尿病患者の治療という技術分野においては、メトホルミンに不耐性又は禁忌であって用法・用量の調整が必要な腎障害、なかでもその必要性が高い中等度・重度腎障害又は末期腎疾患を合併する2型糖尿病患者ほど、当該患者にも投与可能な腎排泄性ではない治療薬が望ましいことは、当業者にとって明らかであったといえる。
この点、甲1発明の化合物2(142)と同じ化学構造を有するBI-1356は、本件優先日当時、2型糖尿病患者に対して1日1回5mgの用量で血糖降下作用、及びHbA1c低下作用を奏するDPP-IV阻害剤であることが技術常識となっており(前記(1)ウ(イ))、その主な排泄経路が腎臓ではなく、尿中排泄率も7%未満であることも技術常識といえる程度に当業者によく知られた事項であった(前記(1)ウ(ウ))ことから、BI-1356が、中等度・重度腎障害又は末期腎疾患を合併する2型糖尿病患者に望ましい上述の腎排泄性ではない治療薬に該当するものといえる。
ここで、本願優先日当時、肝排泄型薬物であっても代謝により腎排泄される活性代謝物が生じる場合があり、腎不全患者においては、活性薬物又は活性代謝物の蓄積により深刻な副作用が引き起こされる可能性があるため、注意が必要である(前記(1)イ(エ))ことも技術常識であったことから、BI-1356の腎機能障害患者への投与が、BI-1356又はその活性代謝物の蓄積による副作用により阻害されるかについて、さらに検討する。BI-1356は、その腎排泄性の低さ(前記(1)ウ(ウ))から、主に肝代謝又は胆汁中排泄を経て排泄されることは明らかであるところ、一般的に、薬物は生体内で代謝を受けると化学構造が変化し、(1)水溶性の増加、(2)薬理活性の減弱又は消失という現象を起こすものであり(甲76-1)、その薬物の主要な代謝部位は肝臓であって、中でも肝ミクロソームに局在し薬物の酸化・還元反応に携わる薬物代謝酵素のチトクロームP-450(CYP)が、臨床で用いられている薬物の80%以上の代謝に関与していることが技術常識であった(甲76-2)。そして、本件発明1のDPP-4阻害剤であるBI-1356が、このCYPと相互作用しないことも技術常識であった(前記(1)ウ(オ))ことを踏まえると、BI-1356は、大部分において、代謝による化学構造変化を受けずに、未変化体として肝臓を経由して排泄されることが期待されるものである。さらに、仮に多少の代謝産物が生じうるとしても、生体内での代謝反応自体が、そもそも、薬物の化学構造を変化させ、(1)水溶性の増加、(2)薬理活性の減弱又は消失という現象を起こすものであって(甲76-1)、代謝過程で薬物が酸化・還元反応(第1相反応)及び抱合体化(第2相反応)を受けて薬物の分子量が増大すると胆汁排泄しやすくなることが技術常識であった(甲44-1、甲79-1)ことを踏まえると、BI-1356の代謝産物が生じたとしても、代謝反応により薬効の減弱又は消失を受けていることもまた当業者が自然に期待することである。くわえて、BI-1356は、600mgまでの用量範囲において良好な忍容性を示し、5mgの推定治療用量を基準として100倍を超える広い治療域を有していることが技術常識であったところ(前記(1)ウ(エ))、この忍容性及び広い治療域はBI-1356を被験者へ実際に投与して得られた結果に基づくものであるから、BI-1356が、被験者への投与後に代謝産物が産生する場合はその代謝産物を含めて、良好な忍容性と比較的広い治療濃度域を有していたことは当業者にとって明らかであって、これはBI-1356の投与により、その代謝産物を含め、蓄積による副作用発現の可能性が低いことを予期させるものといえる。そうすると、当業者にとり、BI-1356の腎機能障害患者への投与が、BI-1356又はその活性代謝物の蓄積による副作用により阻害されるとまでは認められない。
したがって、肝臓で代謝排泄される薬物は投与量の調整は必要でないという技術常識、及び、BI-1356について、2型糖尿病患者に対する1日1回5mgの経口投与での治療効果がすでに確認され、腎排泄性でないという技術常識を踏まえた当業者が、同じ化合物を用いた甲1発明において、腎障害を合併する患者においても腎機能に応じた投与量調節を要さずに2型糖尿病の治療をできることを期待して、腎排泄でない治療薬が望ましい2型糖尿病患者である、「メトホルミン治療がメトホルミンに対して禁忌のために不適切であり、中等度又は重度の腎障害又は末期腎疾患をもつ患者」を対象にして、「1日当たり5mgの経口投与量で投与される」ようにすることは、容易に想到し得たことである。
また、用量については、段階的に用量を増して安全用量を設定するという用量決定方法を参考にしつつ(前記(1)エ(イ))、甲1-4の【0043】において経口投与量として開示された1~100mgの範囲内であり、実際に臨床試験において2型糖尿病患者における治療効果が確認された1日1回5mg(前記(1)ウ(イ))の用法・用量を、本件発明1で特定する患者に対する経口投与量として採用することもまた、当業者が通常有する創作能力の範囲でなし得るものであるともいえる。
(イ) 効果について
本件特許明細書【0053】、【0115】、【0128】~【0131】の記載から、本件発明1の構成により奏される効果は、メトホルミン治療がメトホルミンに対して禁忌のために不適切であり、中等度又は重度の腎障害又は末期腎疾患をもつ患者に対して、安全性・許容性を有しつつ、HbA1cの低下、及び空腹時血漿グルコース値の低下を含む2型糖尿病症状の治療効果を奏することであると認められるが、前記(3)(ア)及び(1)ウで説示したとおり、そのような効果は甲1の記載や、甲39等から把握される技術常識から当業者が予想し得るものである。
また、本件特許明細書には、メトホルミン治療がメトホルミンに対して禁忌のために不適切であり、中等度又は重度の腎障害又は末期腎疾患をもつ患者に対して本件発明1の薬剤を投与した場合の具体的な薬理試験データは記載されていないから、当該効果が格別顕著なものとは言えない。
ウ 小括
以上のとおりであるから、本件発明1は、甲1に記載された発明及び技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(4)本件発明2について
本件発明2は、本件発明1において、「患者が、メトホルミンに対して禁忌のためにメトホルミン治療が不適格な患者である」ことを特定するものである。
しかし、本件発明1における患者は、「メトホルミン治療がメトホルミンに対して禁忌のために不適切であ」る患者であるから、上記特定は本件発明2と甲1発明を対比した場合の新たな相違点となるものではない。
したがって、前記(3)と同様の理由により、本件発明2は、甲1に記載された発明及び技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(5)本件発明3について
本件発明3は、本件発明1又は2において、「末期腎疾患、又は中等度又は重度の腎障害をもつ患者において2型糖尿病の治療に用いるための」ものであることを特定しているが、本件発明1にも同様の特定があることから、上記特定は本件発明3と甲1発明を対比した場合の新たな相違点となるものではない。
したがって、前記(3)と同様の理由により、本件発明3は、甲1に記載された発明及び技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(6)本件発明4について
本件発明4は、本件発明1~3において、「DPP-4阻害剤が、1-[(4-メチルキナゾリン-2-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-(3-(R)-アミノピペリジン-1-イル)キサンチンである」ことを特定するものである。
しかしながら、DPP-4阻害剤の1-[(4-メチルキナゾリン-2-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-(3-(R)-アミノピペリジン-1-イル)キサンチンが、甲1発明の「DPP-IV阻害活性を有する1-[(4-メチル-キナゾリン-2-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-(3-(R)-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチン(化合物2(142))」と同一の化合物であることは、前記(3)アで説示したとおりであるから、上記特定は本件発明4と甲1発明を対比した場合の新たな相違点となるものではない。
したがって、前記(3)と同様の理由により、本件発明4は、甲1に記載された発明及び技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(7)本件発明5について
本件発明5は、本件発明1~4において、「薬剤中のDPP-4阻害剤が、正常な腎機能をもつ患者と同じ投与量で前記患者に用いられ、かつ、前記DPP-4阻害剤の主な代謝産物が、薬理的に不活性である、末期腎疾患、又は中等度又は重度の腎障害をもつ患者において2型糖尿病の治療に用いるための」ものであることを特定するものである。
甲1発明における「DPP-IV阻害活性を有する1-[(4-メチル-キナゾリン-2-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-(3-(R)-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチン(化合物2(142))」の腎排泄性は少ないものであり、さらに、その代謝物が不活性であることを当業者が自然に期待することは上記(1)イ(ア)で説示したとおりであるから、甲1発明において、「中等度又は重度の腎障害又は末期腎疾患をもつ患者」に対しても投与量調節を要することなく、すなわち、「正常な腎機能を持つ患者と同じ投与量で」適用できることは、当業者が容易に想到し得ることである。
したがって、前記(3)と同様の理由により、本件発明5は、甲1に記載された発明及び技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(8)本件発明6について
本件発明6は、本件発明1~5において、「DPP-4阻害剤及び1つ又は複数のその主要活性代謝産物が比較的広い治療濃度域を有し更に/又は主に肝代謝又は胆汁中排泄を経て排出される」ことを特定するものである。
しかしながら、前記(3)イ(ア)で説示したとおり、本件発明1の「DPP-4阻害剤」である「1-[(4-メチルキナゾリン-2-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-(3-(R)-アミノピペリジン-1-イル)キサンチン」、すなわちBI-1356は腎排泄が少ないことから、主に肝代謝又は胆汁中排泄を経て排泄されることは明らかであるから、上記特定は本件発明6と甲1発明を対比した場合の新たな相違点となるものではない。
したがって、本件発明6は、甲1に記載された発明及び技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(9)本件発明7について
本件発明7は、本件発明1~6において、「DPP-4阻害剤が、主に肝臓を介して排泄される」旨を特定するものである。
しかしながら、本件発明1の「DPP-4阻害剤」である「1-[(4-メチルキナゾリン-2-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-(3-(R)-アミノピペリジン-1-イル)キサンチン」が、主に肝代謝又は胆汁中排泄を経て排泄される、すなわち肝臓を介して排泄されることは、前記(3)イ(ア)で説示したとおりであるから、上記特定は本件発明7と甲1発明を対比した場合の新たな相違点となるものではない。
したがって、本件発明7は、甲1に記載された発明及び技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(10)本件発明8について
本件発明8は、本件発明1~7において、「DPP-4阻害剤の腎臓を経た排泄が、非主要(マイナー)排出経路である」ことを特定するものである。
しかしながら、本件発明1の「DPP-4阻害剤」である「1-[(4-メチルキナゾリン-2-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-(3-(R)-アミノピペリジン-1-イル)キサンチン」の主な排泄経路が腎臓ではないことは技術常識であったから(前記(1)ウ(ウ))、腎臓を経た排泄が、非主要(マイナー)排出経路であるといえる。
そうすると、上記特定は本件発明8と甲1発明を対比した場合の新たな相違点となるものではない。
したがって、本件発明8は、甲1に記載された発明及び技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(11)本件発明9について
本件発明9は、本件発明1~8において、「DPP-4阻害剤が、大部分は変化せずに排泄される」ことを特定するものである。
しかしながら、前記(3)イ(ア)で説示したとおり、BI-1356が大部分において、代謝による化学構造変化を受けずに、未変化体として肝臓を経由して排泄されることは当業者が理解することであるから、「DPP-4阻害剤が、大部分は変化せずに排泄される」と特定することは、DPP-4阻害剤としてBI-1356を選択した態様において、BI-1356が有する性質を単に記述したものにすぎず、これにより、相違点1に加えて新たな相違点を生じるものではない。あるいは、BI-1356であるDPP-4阻害剤の性質について、「大部分は変化せずに排泄される」と特定することは、当業者が容易になし得ることであるともいえる。
したがって、本件発明9は、甲1に記載された発明及び技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(12)本件発明10について
本件発明10は、本件発明1~9において、「DPP-4阻害剤の代謝による排出が、非主要(マイナー)排出経路である」ことを特定するものである。
しかしながら、本件発明1のDPP-4阻害剤であるBI-1356が、大部分において、代謝による化学構造変化をうけずに、未変化体として肝臓を経由して排泄されることは、前記(3)イ(ア)で説示したとおりである。
したがって、本件発明10は、甲1に記載された発明及び技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(13)本件発明11について
本件発明11は、本件発明1~10において、「DPP-4阻害剤が、肝臓を経て親薬剤として主に排出される」ことを特定するものである。
しかしながら、本件発明1のDPP-4阻害剤であるBI-1356が、大部分において、代謝による化学構造変化をうけずに、未変化体(親薬剤)として肝臓を経由して排泄されることは、前記(3)イ(ア)で説示したとおりである。
したがって、本件発明11は、甲1に記載された発明及び技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(14)本件発明12について
本件発明12は、本件発明1~11において、「DPP-4阻害剤の主な代謝産物が、薬理的に不活性であるか又は比較的広い治療濃度域を有する」ことを特定するものである。
しかしながら、前記(3)イ(ア)で説示したとおり、BI-1356の主な代謝産物が、代謝反応により薬効の減弱又は消失を受けていることもまた当業者にとって明らかである。
そうすると、本件発明1~11において、「薬理的に不活性であるか又は比較的広い治療濃度域を有する」と特定することは、DPP-4阻害剤としてBI-1356を選択した態様において、BI-1356が有する性質を単に記述したものにすぎず、これにより、相違点1に加えて新たな相違点を生じるものではない。あるいは、BI-1356であるDPP-4阻害剤の性質について、「薬理的に不活性であるか又は比較的広い治療濃度域を有する」と特定することは、当業者が容易になし得ることであるともいえる。
したがって、本件発明12は、甲1に記載された発明及び技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(15)本件発明13について
本件発明13は、本件発明1~12において、「重度の腎障害をもつ患者に用いられる」ことを特定するものである。
しかしながら、本件発明1のDPP-4阻害剤であるBI-1356が、重度の腎障害をもつ患者を対象としうる点については、前記(3)イ(ア)で説示したとおりである。
したがって、本件発明13は、甲1に記載された発明及び技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(16)本件発明14について
本件発明14は、本件発明1~13において、「抗糖尿病薬より選ばれる活性物質、血糖値を低下させる活性物質、血中の脂質レベルを低下させる活性物質、血中のHDLレベルを上昇させる活性物質、血圧を低下させる活性物質、アテローム性動脈硬化症の治療に必要とされる活性物質、及び肥満症の治療に必要とされる活性物質、の1つ以上と更に組み合わせて用いられる」ことを特定するものである。
しかしながら、甲1-4の【0042】、【0043】には、他の活性物質と組み合わせたり、併用することが可能であることが記載され、当該活性物質として、「抗-糖尿病薬」、「スルホニルウレア」、「脂質低下剤」、「HDL-上昇化合物」、「高血圧を治療する薬物」、「HMG-CoA-リダクターゼ阻害剤」、「肥満治療用の活性物質」が記載されているところ、スルホニルウレア(尿素)は血糖値を低下させる活性を有し(甲3-1)、HMG-CoA-リダクターゼ阻害剤はアテローム性動脈硬化症の治療に用いられる活性物質である(甲24-1)ことが技術常識であるから、甲1-4の記載に従って、甲1発明において、「抗糖尿病薬より選ばれる活性物質、血糖値を低下させる活性物質、血中の脂質レベルを低下させる活性物質、血中のHDLレベルを上昇させる活性物質、血圧を低下させる活性物質、アテローム性動脈硬化症の治療に必要とされる活性物質、及び肥満症の治療に必要とされる活性物質、の1つ以上と」組み合わせてみることは、当業者が容易に想到し得たことである。
したがって、本件発明14は、甲1に記載された発明及び技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(17)本件発明15について
本件発明15は、本件発明1~14において、「スルホニル尿素、チアゾリジンジオン、グリニド、アルファ-グルコシダーゼ遮断薬、GLP-1、GLP-1類似体、インスリン、及びインスリン類似体より選ばれる1つ以上の活性物質と更に組み合わせて用いられる」ことを特定するものである。
しかしながら、甲1-4の【0042】には、「スルホニルウレア」(尿素)、「チアゾリジンジオン」、「ナテグリニド」や「レパグリニド」(グリニドに相当)、「α-グルコシダーゼ阻害剤」(アルファ-グルコシダーゼ遮断薬に相当)、「GLP-1」、「GLP-2類似体」、「インシュリンおよびインシュリン類似体」(インスリン、及びインスリン類似体に相当)と組み合わせて使用できることが記載されているから、甲1発明において、それらを組み合わせることは当業者が容易に想到し得たことである。
したがって、本件発明15は、甲1に記載された発明及び技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(18)本件発明16について
本件発明16は、本件発明1~15において、「レパグリニド、ピオグリタゾン、インスリン、及びインスリン類似体より選ばれる1つ以上の活性物質と更に組み合わせて用いられる」ことを特定するものである。
甲1-4の【0042】には、「ナテグリニド」、「レパグリニド」、「ピオグリタゾン」、「インシュリンおよびインシュリン類似体」(インスリン及びインスリン類似体に相当)と組み合わせて使用できることが記載されているから、甲1発明において、それらを組み合わせることは当業者が容易に想到し得たことである。
したがって、本件発明16は、甲1に記載された発明及び技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(19)本件発明17について
本件発明17は、本件発明1~16において、「ピオグリタゾンと組み合わせて用いられる」ことを特定するものであるが、「ピオグリタゾンと組み合わせ」ることについては、前記(18)で説示したとおりである。
したがって、本件発明17は、甲1に記載された発明及び技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(20)本件発明18について
ア 対比
本件発明18と甲1発明とを対比する。
前記(3)アで説示したように、甲1発明の「DPP-IV阻害活性を有する1-[(4-メチル-キナゾリン-2-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-(3-(R)-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチン(化合物2(142))」は、本件発明18の「1-[(4-メチルキナゾリン-2-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-(3-(R)-アミノピペリジン-1-イル)キサンチンであるDPP-4阻害剤」に相当し、甲1発明の「タイプII真性糖尿病を治療するための薬理組成物であって、」「経口経路により投与される」「薬理組成物」は、本件発明18の「2型糖尿病を治療及び/又は予防するための経口投与用の」「医薬組成物」に相当する。
そうすると、本件発明18と甲1発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
<一致点>
「2型糖尿病を治療及び/又は予防するための経口投与用の、1-[(4-メチルキナゾリン-2-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-(3-(R)-アミノピペリジン-1-イル)キサンチンであるDPP-4阻害剤を含む医薬組成物」
<相違点2>
本件発明18では、DPP-4阻害剤を、「メトホルミン治療がメトホルミンに対して禁忌のために不適切であり、重度の腎障害をもつ患者」に対して「一日5mgの経口投与量で投与される」ことが特定されているのに対し、甲1発明ではそのような特定がなされていない点。
<相違点3>
医薬組成物について、本件発明18では、「スルホニル尿素、チアゾリジンジオン、グリニド、アルファ-グルコシダーゼ遮断薬、GLP-1、GLP-1類似体、インスリン、及びインスリン類似体より選ばれる1つ以上の活性物質と更に組み合わせて使用するため」のものであることが特定されているのに対し、甲1発明ではそのような特定がなされていない点。
イ 判断
(ア)相違点2について
相違点2は、前記相違点1と実質的に同一であることから、前記(3)イ(ア)での説示と同様に、甲1に記載された発明及び技術常識に基づいて、当業者が容易に想到し得るものである。
(イ)相違点3について
相違点3については、前記(17)での説示と同様に、甲1に記載された発明及び技術常識に基づいて、当業者が容易に想到し得るものである。
(ウ)効果について
前記(3)イ(ウ)での説示と同様に、本件発明18の構成により奏される効果は、甲1及び技術常識から当業者が予測し得るものであるし、本件明細書には、本件発明18の構成により奏される効果については何ら具体的に確認されていないから、当該効果が格別顕著なものとも認められない。
ウ 小括
以上のとおりであるから、本件発明18は、甲1に記載された発明及び技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(21)本件発明19について
ア 対比
本件発明19と甲1発明とを対比する。
前記(20)アで説示したように、甲1発明の「DPP-IV阻害活性を有する1-[(4-メチル-キナゾリン-2-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-(3-(R)-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチン(化合物2(142))」は、本件発明19の「1-[(4-メチルキナゾリン-2-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-(3-(R)-アミノピペリジン-1-イル)キサンチンであるDPP-4阻害剤」に相当し、甲1発明の「タイプII真性糖尿病を治療するための薬理組成物であって、」「経口経路により投与される」「薬理組成物」は、本件発明19の「2型糖尿病を治療及び/又は予防するための」「経口投与用の」「医薬組成物」に相当する。
そうすると、本件発明19と甲1発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
<一致点>
「2型糖尿病を治療及び/又は予防するための、1-[(4-メチルキナゾリン-2-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-(3-(R)-アミノピペリジン-1-イル)キサンチンであるDPP-4阻害剤を含む医薬組成物であって、経口投与用の医薬組成物。」
<相違点4>
本件発明19では、DPP-4阻害剤を、「重度の腎障害をもつ患者」に対して「一日5mgの経口投与量で投与される」ことが特定されているのに対し、甲1発明ではそのような特定がなされていない点。
<相違点5>
医薬組成物について、本件発明19では、「レパグリニド、ピオグリタゾン、インスリン、及びインスリン類似体より選ばれる1つ以上の活性物質と更に組み合わせて使用するため」のものであることが特定されているのに対し、甲1発明ではそのような特定がなされていない点。
イ 判断
(ア)相違点4について
相違点4は、前記相違点2と実質的に同一であることから、前記(20)イ(ア)での説示と同様に、甲1に記載された発明及び技術常識に基づいて、当業者が容易に想到し得るものである。
(イ)相違点5について
相違点5については、前記(18)での説示と同様に、甲1に記載された発明及び技術常識に基づいて、当業者が容易に想到し得るものである。
(ウ)効果について
前記(3)イ(ウ)での説示と同様に、本件発明19の構成により奏される効果は、甲1及び技術常識から当業者が予測し得るものであるし、本件明細書には、本件発明19の構成により奏される効果については何ら具体的に確認されていないから、当該効果が格別顕著なものとも認められない。
ウ 小括
以上のとおりであるから、本件発明19は、甲1に記載された発明及び技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(22)本件発明20について
ア 対比
本件発明20と甲1発明とを対比する。
前記(3)アで説示したように、甲1発明の「DPP-IV阻害活性を有する1-[(4-メチル-キナゾリン-2-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-(3-(R)-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチン(化合物2(142))」は、本件発明20の「1-[(4-メチルキナゾリン-2-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-(3-(R)-アミノピペリジン-1-イル)キサンチンであるDPP-4阻害剤」に相当し、甲1発明の「タイプII真性糖尿病を治療するための薬理組成物であって、」「経口経路により投与される」「薬理組成物」は、本件発明20の「2型糖尿病の治療及び/又は予防に用いるための」「経口投与」「で投与される」「薬剤」に相当する。
そうすると、本件発明20と甲1発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
<一致点>
「1-[(4-メチルキナゾリン-2-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-(3-(R)-アミノピペリジン-1-イル)キサンチンであるDPP-4阻害剤を含む、2型糖尿病の治療及び/又は予防に用いるための薬剤であって、前記DPP-4阻害剤が、前記患者に経口投与で投与されることを特徴とする上記薬剤。」
<相違点6>
本件発明20では、DPP-4阻害剤を、「重度の腎障害をもつ患者」に対して「一日5mgの経口投与量で投与される」ことが特定されているのに対し、甲1発明ではそのような特定がなされていない点。
イ 判断
(ア)相違点6について
相違点6は、前記相違点1と実質的に同一であることから、前記(3)イ(ア)での説示と同様に、甲1に記載された発明及び技術常識に基づいて、当業者が容易に想到し得るものである。
(イ)効果について
前記(3)イ(ウ)で説示したと同様に、本件発明20の構成により奏される効果は、甲1及び技術常識から当業者が予測し得るものであるし、本件明細書には、本件発明20の構成により奏される効果については何ら具体的に確認されていないから、当該効果が格別顕著なものとも認められない。
ウ 小括
以上のとおりであるから、本件発明20は、甲1に記載された発明及び技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(23)本件発明21について
ア 対比
本件発明21と甲1発明とを対比する。
前記(3)アで説示したように、甲1発明の「DPP-IV阻害活性を有する1-[(4-メチル-キナゾリン-2-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-(3-(R)-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチン(化合物2(142))」は、本件発明21の「1-[(4-メチルキナゾリン-2-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-(3-(R)-アミノピペリジン-1-イル)キサンチンであるDPP-4阻害剤」に相当し、甲1発明の「タイプII真性糖尿病を治療するための薬理組成物であって、」「経口経路により投与される」「薬理組成物」は、本件発明21の「2型糖尿病の治療に用いるための」「経口投与用薬剤」に相当する。
そうすると、本件発明21と甲1発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
<一致点>
「1-[(4-メチルキナゾリン-2-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-(3-(R)-アミノピペリジン-1-イル)キサンチンであるDPP-4阻害剤を含む、患者において2型糖尿病の治療に用いるための経口投与用薬剤。」
<相違点7>
本件発明21では、DPP-4阻害剤を、「中等度又は重度の腎障害又は末期腎疾患をもつ患者」に対して、「正常な腎機能を有する患者に対する投与量と同じ量において使用され、」「一日5mgの経口投与量で投与される」ことが特定されているのに対し、甲1発明ではそのような特定がなされていない点。
イ 判断
(ア)相違点7について
本件発明21は、本件発明1を引用する本件発明5と実質的に同一の発明であることから、前記(3)イ(ア)及び(7)での説示と同様に、甲1に記載された発明及び技術常識に基づいて、当業者が容易に想到し得るものである。
(イ)効果について
前記(3)イ(ウ)での説示と同様に、本件発明21の構成により奏される効果は、甲1及び技術常識から当業者が予測し得るものであるし、本件明細書には、本件発明21の構成により奏される効果については何ら具体的に確認されていないから、当該効果が格別顕著なものとも認められない。
ウ 小括
以上のとおりであるから、本件発明21は、甲1に記載された発明及び技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(24)本件発明22について
本件発明22は、本件発明21において、「患者が、重度の腎障害をもつ患者である」ことを特定するものである。
しかしながら、当該特定は本件発明5を引用する本件発明14と実質的に同一であることから、前記(16)での説示と同様に、甲1に記載された発明及び技術常識に基づいて、当業者が容易に想到し得るものである。
(25)本件発明23について
ア 対比
本件発明23と甲1発明とを対比する。
前記(3)アで説示したように、甲1発明の「DPP-IV阻害活性を有する1-[(4-メチル-キナゾリン-2-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-(3-(R)-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチン(化合物2(142))」は、本件発明23の「1-[(4-メチルキナゾリン-2-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-(3-(R)-アミノピペリジン-1-イル)キサンチンであるDPP-4阻害剤」に相当し、甲1発明の「タイプII真性糖尿病を治療するための薬理組成物であって、」「経口経路により投与される」「薬理組成物」は、本件発明23の「2型糖尿病の治療及び/又は予防に用いるための」「経口投与用薬剤」に相当する。
そうすると、本件発明23と甲1発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
<一致点>
「1-[(4-メチルキナゾリン-2-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-(3-(R)-アミノピペリジン-1-イル)キサンチンであるDPP-4阻害剤を含む経口投与用薬剤であって、2型糖尿病の治療及び/又は予防に用いるための薬剤。」
<相違点8>
本件発明23では、DPP-4阻害剤を、「中等度、重度又は末期の慢性腎不全又は腎障害をもつ患者」に対して、「正常な腎機能を有する患者に対する投与量と同じ量において使用され、」「一日5mgの経口投与量で投与される」ことが特定されているのに対し、甲1発明ではそのような特定がなされていない点。
イ 判断
(ア)相違点8について
相違点8は、相違点1と実質的に同一であることから、前記(3)イ(ア)での説示と同様に、甲1に記載された発明及び技術常識に基づいて、当業者が容易に想到し得るものである。
(イ)効果について
前記(3)イ(ウ)での説示と同様に、本件発明23の構成により奏される効果は、甲1及び技術常識から当業者が予測し得るものであるし、本件明細書には、本件発明23の構成により奏される効果については何ら具体的に確認されていないから、当該効果が格別顕著なものとも認められない。
ウ 小括
以上のとおりであるから、本件発明23は、甲1に記載された発明及び技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(26)本件発明24について
本件発明24は、本件発明1~17又は本件発明20~23において、「薬剤中の前記DPP-4インヒビターが、前記患者に5mgの投与量で一日一回、前記患者に経口投与される」ことを特定するものであるが、BI-1356を2型糖尿病患者に対して一日一回5mgの経口投与量で投与することは技術常識である(前記(1)ウ(イ))。
したがって、本件発明24は、甲1に記載された発明及び技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
3 被請求人の主張について
(1)甲1発明の認定と本件発明との相違点について
ア 被請求人は、甲1発明の認定について、甲1の記載はそのすべてが「リナグリプチン」(合議体註:1-[(4-メチルキナゾリン-2-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-(3-(R)-アミノピペリジン-1-イル)キサンチン、又はBI-1356の一般名である)のみについて具体的に記載されているわけではなく、甲1に記載された一般式Iの広範囲の化合物に関して広く一般的に記載された事項を単に寄せ集め、具体的な関連性のない一般的な技術常識の手順・外挿を適用して情報の欠落・欠落した特徴を埋めるものであって、本件発明の臨床的貢献を無視するものであり、本件発明1で示されるような一つの纏まった具体的な技術思想として理解することはできない旨を主張している(答弁書28頁15行~29頁4行)。
しかしながら、甲1発明の認定については前記2(2)において説示したとおりであるから、被請求人の主張は採用できない。
イ 被請求人は、甲1には、本件発明による患者群についてどころか、5mgの用量も開示されておらず、逆に、より高い経口用量(例示的な固形組成物、実施例4~7では75~100mg)へ遠ざけ、指し示しているといえる旨を主張している(答弁書29頁5行~10行)。
しかしながら、甲1には、活性物質を75mg~150mg含む錠剤の組成例(実施例4~6)が記載されているものの、この組成例が実際の臨床試験結果に基づいて活性物質の含有量を設定したものであることは記載されていないから、甲1の上記組成例の記載によって、当業者が、臨床試験において2型糖尿病患者において抗糖尿病効果が確認されていた5mg用量を採用することが妨げられるものではない。
したがって、被請求人の上記主張は採用できない。
(2)相違点に係る構成の非容易想到性について
被請求人は、上記相違点に係る構成の非容易想到性について、概要、以下のような主張をしている。
ア 腎機能障害患者、特に進行期(重度及び末期腎疾患(ESRD))に安全かつ有効な投与及び適用を行うためには、薬物代謝及び代謝物を考慮する必要があるところ、アロプリロールのように単回尿中排泄率は少なくても、活性代謝物の尿中排泄率が高く、臨床使用に重大な影響を与える薬剤も存在するため、腎排泄のみを考慮して、本件発明の対象とする患者にリナグリプチンを投与しうるとは言えない(答弁書32頁17行~33頁下から5行、40頁3行~14行、口頭審理陳述要領書16頁11行~17頁6行、令和7年6月17日提出の被請求人の上申書8頁16行~11頁16行、29頁1行~30頁2行)。
イ 甲39においてチトクロムP-450(CYP)について記載した箇所は、ラットやサルにおける試験結果との関係で述べられており、ヒトの生体から得られた影響やデータは一切含まれていないものであり、また、チトクロムP-450(CYP)は薬物間相互作用の観点が重要であって、薬物代謝/代謝物の挙動という点において参照することは適切ではなく、チトクロムP-450(CYP)以外の代謝経路でリナグリプチンの代謝物が生成される可能性を排除できないし、薬物の分子量からも、親化合物が代謝されるのかどうか、又はどのように代謝されるのか、について結論を導くことはできない(10月30日受付の被請求人の上申書4頁20行、令和7年6月17日提出の被請求人の上申書21頁8行~25頁1行)。
ウ リナグリプチンの代謝に関する主張・立証(甲78、甲76、甲77、甲79)は審判請求書の要旨を変更するものである(10月30日受付の被請求人の上申書8頁1行~10行)。
エ 糖尿病性腎症は必ずしも腎機能障害を伴うとは限らず、糖尿病性腎症の後期になるまで、重大な腎機能障害は通常みられない(乙28)ものであるから、本件発明の腎機能障害は、必ずしも糖尿病性腎症(合併症)のことを意味するわけではなく、また糖尿病性腎症も、腎機能障害を同義ではない。さらに、腎機能障害を有する患者への投与は、薬剤が当該患者に安全に投与できることが確認された場合にのみ「動機付けられる」ものである(令和7年6月17日提出の被請求人の上申書7頁17行~8頁15行、25頁2行~27頁19行)。
オ 前記2(1)イ(ウ)において軽度、中等度、重度の腎機能障害あるいは末期腎疾患患者に対しても投与量の調節を要せずに使用されていたとする「グリキドン、レパグリニド、ロシグリタゾン、ピオグリタゾン」はDPP-4阻害剤のクラスには属しておらず、すべて特定の(クラス固有又は薬剤固有の、腎臓関連又は非腎臓関連の)注意事項、懸念事項、副作用又は欠点が関連しているものであり、また、「ビルダグリプチン」は、本件特許の優先日前に腎機能障害患者への使用に関していくつかの懸念があり、中等度から重度の腎機能障害患者には推奨されていなかった(乙25)ものである(令和7年6月17日提出の被請求人の上申書18頁11行~19頁6行)。
事案に鑑み、ウの主張についてまず検討すると、無効審判請求書の提出後に追加的になされた主張・立証が要旨変更にあたるかは、無効審判請求書に記載された「権利を無効にする根拠となる事実」を実質的に変更するか否かによって判断すべきである。これを本件についてみると、請求人は、審判請求書にて、無効理由1として、本件発明1~24が、「甲1発明、ならびに甲第2号証~甲第47号証の2に記載された技術常識に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものである」と主張し(審判請求項4頁)、当該技術常識の一つとして甲36~甲40を根拠として「リナグリプチンは腎排泄性が低いこと」を主張するとともに(審判請求書51頁最終行~54頁17行)、リナグリプチンは「大部分が変化せずに(未変化体として)肝臓を経て胆汁排泄される」こと(審判請求書71頁1行~4行)、及び「代謝産物が生じても、望ましい作用よりも副作用の方が多く発現するものではなく」、「その主な代謝産物は「薬理的に不活性であるか又は比較的広い治療濃度域を有する」のであり、このことは、本件特許の優先日前の技術常識から当然に導かれること」と主張している(審判請求書74頁13行~21行)。
さらに、請求人は口頭審理陳述要領書において、甲78(合議体註:甲78は審判請求書で引用されていた甲39の一部の日本語訳である)及び甲76、甲77を根拠として「リナグリプチンについて、肝臓で代謝物が生成されにくいもの」ものであること(15頁1行~2行)、及び甲79を根拠として、「薬物の分子量が大きいほど胆汁排泄しやすいこと、また、多くの薬物が肝臓において抱合反応を受けて分子量が大きくなり、胆汁排泄を受けやすくなること(・・・)が技術常識となっていた」(15頁3行~5行)ことから、「リナグリプチンについては、肝臓において代謝されず、未変化体の状態で胆汁排泄される、あるいは、仮に、肝臓において、チトクロームP-450(CYP)酵素の関与以外の代謝がなされたとしても、その場合には、抱合反応を受けて胆汁排泄されることが、合理的に予想される」(21頁最終行~22頁18行)と主張している。
そうすると、請求人の口頭審理陳述要領書における主張・立証は、審判請求書における、リナグリプチンは腎排泄性が低い、すなわち胆汁排泄されやすい、との主張を補充するものであって、「権利を無効にする根拠となる事実」を実質的に変更するものとはいえない。
次に、糖尿病性腎症に関するエの主張について検討すると、前記乙28-1によれば、糖尿病における腎機能変化の発展過程を段階的にステージ1~5に分類したところ、ステージ5は「糖尿病性腎症による尿毒症を伴う末期腎不全であ」り、「現在、米国で末期腎不全プログラムに入院する患者の25%が糖尿病患者で」、「糖尿病性腎症と糖尿病性血管病変は、現代社会における重大な医療問題である」のだから、糖尿病性腎症が末期腎不全まで進行する病態であることは明らかであるし、甲1には、化合物2(142)を含むDPP-4阻害剤によって予防並びに治療のために適したものであると予想される状態又は疾患として、そのような糖尿病性腎症が明示的に記載されているのだから、腎機能障害を有する2型糖尿病患者へリナグリプチンを投与することは、むしろ当業者が自然に動機付けられることであって、このことが妨げられるとはいえない。
また、軽度、中等度、重度の腎機能障害あるいは末期腎疾患患者に対しても投与量の調節を要せずに使用されていた薬剤に関するオの主張について、被請求人は「グリキドン、レパグリニド、ロシグリタゾン、ピオグリタゾン」が腎機能障害患者に使用できないとする根拠を示しておらず、また、「ビルダグリプチン」についても、乙25には「ビルダグリプチンをメトホルミン及びピオグリタゾンと組み合わせたときに」有害事象が高い傾向にあったことから、「より多くのデータが利用可能になるまで」「推奨されるべきでない」と記載しているに留まり、腎機能障害患者へのビルダグリプチンの使用を全般的に禁止するものとは認められないから、これらの薬剤が軽度、中等度、重度の腎機能障害あるいは末期腎疾患患者に対しても投与量の調節を要せずに使用されていたことは、技術常識として参酌できるものである。
そして、リナグリプチンの腎排泄性に関するアの主張について検討すると、糖尿病治療において特徴的な腎症を含む糖尿病合併症の治療を行うことが技術常識であったことに加え(前記2(1)ア(ア)、(イ))、甲1には、腎症を含む糖尿病合併症への適用について記載があることから(甲1-3【0040】段落)、当業者がリナグリプチンを腎機能障害を有する2型糖尿病患者へ適用しようとする動機付け自体は存在すると認められる一方、本件優先日当時、肝臓で代謝・排泄される薬物については投与量の調節が必要ではないとされ(前記2(1)イ(イ))、実際、DPP-IV阻害剤であって親化合物(未変化体)の腎排泄率が28%であるビルダグリプチンが、腎不全患者に対して投与量の調節が不要であったこと(丙2-2)を踏まえると、尿中排泄率が7%未満で広い治療濃度域を有するリナグリプチンを腎機能障害患者へ想定臨床用量で適用することに阻害要因があったとまでは認められない。
さらに、イで主張するチトクロムP-450(CYP)について、前記甲39-2から、甲39がBI-1356のヒト患者への投与を前提にした文献であることは明らかであるところ、そのような甲39に記載されたラットやサルがヒトへの適用を前提にした動物モデルであって、ヒトにおいても同様の効果が得られることを当業者は自然に想定するものである。そして、前記2(3)イ(ア)で説示したとおり、リナグリプチンは大部分が未変化体にて肝臓経由で排泄されることが合理的に期待されることから、この点を考慮したとしても、リナグリプチンの腎障害患者への適用が阻害されるものではない。
したがって、被請求人の主張は採用できない。
(3)本件発明の効果について
ア 被請求人は、本件発明は、リナグリプチンの代謝/主要代謝物の情報および特性、ならびに本件特許発明の目的に対するこの代謝/主要代謝物の適合性を初めて提供するものであり、リナグリプチンは、ビルダグリプチンを含む他の多くの抗糖尿病薬や市販されているDPP-4阻害薬とは対照的に、活性代謝物の蓄積による腎障害患者における潜在的な薬物有害反応を回避し、重度腎障害や末期腎疾患を含む腎障害の程度にかかわらず、用量調節を必要とせずに使用できるという効果を有するものであって、「腎障害のある糖尿病患者にリナグリプチンを適用すること」には、かなりの不確実性/予測困難性、及び特別な技術的困難性が存在していた旨を主張している(答弁書40頁下から14行~44頁18行、令和7年6月17日提出の被請求人の上申書30頁3行~33頁5行)。
確かに、甲号証及び丙号証には、リナグリプチンの主要代謝物の特性について明記はされていないものの、リナグリプチン自体が被験者への投与により良好な忍容性と、5mgの推定治療用量を基準として100倍を超える治療濃度域を有していたことから、リナグリプチンは、その代謝産物を含め、蓄積による副作用発現の可能性が低いことを期待できるものである点は前記2(3)イ(ア)で説示したとおりであり、さらに、リナグリプチンが代謝に関与するCYPと相互作用しないことから代謝物の産生そのものが少なく、代謝からの影響が少ないことが十分理解できること、そして、そもそも代謝反応が薬物の水溶性を増加させ、活性を減弱又は消失させつつ、抱合により排泄しやすくするものであることからすれば、当業者がリナグリプチンを腎障害のある糖尿病患者へ適用することに格別の困難性があったとは認められないし、本件発明が、リナグリプチンの主要代謝物が不活性であることを確認したことをもって格別顕著な効果を奏するとも認められない。
したがって、被請求人の主張は採用できない。
イ 被請求人は、本件発明の更なる顕著な効果として、答弁書において以下のi)の試験の結果を示すともに、メトホルミン治療が不適当な2型糖尿病患者において、5mgの経口投与投与量によるリナグリプチンが、スルホニル尿素薬であるグリメピリドと比較して低血糖や体重減少が少なく、血糖コントロールを改善し、忍容性が良好であったこと、また、以下のii)の試験結果を示すとともに、血液透析施行中の2型糖尿病患者において、ボグリボース単剤療法と比較して、5mgの経口投与投与量によるリナグリプチン単独療法は重篤な低血糖を来すことなく、優れた血糖コントロールが得られたことから、本件発明1が、甲号証から予測/予想できない顕著な改善された効果を達成するものである旨主張している。
i)中等度から重度の腎障害を有する2型糖尿病患者を対象としたリナグリプチン対プラセボと次いでグリメピリド:52週間の無作為二重盲検臨床試験ii)「Linagliptin monotherapy compared with voglibose monotherapy in patients with type 2 diabetes undergoing hemodialysis: a 12-week randomized trial」(血液透析を受けている2型糖尿病患者におけるリナグリプチン単剤療法とボグリボース単剤療法の比較:12週間の無作為化試験)(答弁書44頁下から8行~49頁下から6行)
しかしながら、ボグリボースやグリメピリドと比較してリナグリプチンは低血糖や体重減少が少なく忍容性が良好であって、優れた血糖コントロールを達成することができたことは、同じリナグリプチンについて、血糖コントロール効果を開示する甲1に記載された発明と比較した有利な効果を示すものではないから採用できない。また、当該データによりリナグリプチンを5mgという特定の用量としたことによる効果を主張するものと解したとしても、本件特許明細書には、リナグリプチンの5mgの用量が、他の用量に比して有利な効果を奏することについては何ら開示されていないから、そのような主張は本件特許明細書の記載に基づかない主張である。
したがって、被請求人の主張は採用できない。
第8 むすび
以上のとおりであるから、無効理由1は理由があり、本件発明1~24に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきでものある。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人の負担とする。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2023-800061